(第1の実施の形態)
図1および図2を参照して、本発明の実施形態の一例について説明する。図1は、本発明に係る放電ランプの一実施形態を説明するための全体図であり、図2は、図1に示した放電ランプの要部断面を拡大した部分断面図であり、図1とは約90度異なる角度からみたものである。
本形態の放電ランプは、自動車の前照灯用光源として用いることができるもので、細長い形状の内管1を備えている。内管1の中央付近には略楕円形の中空の発光部11が形成されている。発光部11の両端には、ピンチシールにより形成された板状のシール部12、その両端には境界部13を介して円筒部14が連続形成されている。なお、内管1としては、例えば石英ガラスなどの耐熱性と透光性を具備した材料で構成されるのが望ましい。また、シール部12はシュリンクシールにより形成された円柱状であってもよい。
発光部11の内部には、中央が略円柱状で、両端に向かってテーパ状となっている放電空間111が形成されている。この放電空間111の容積は、自動車前照灯用の場合には、10〜30mm3、特に15〜25mm3であるのが一般的である。
放電空間111には、放電媒体が封入されている。放電媒体は、少なくとも金属ハロゲン化物2および不活性ガスを含有したものである。
金属ハロゲン化物2は、ナトリウム、スカンジウム、亜鉛、インジウム等のハロゲン化物で構成されている。金属ハロゲン化物を構成するハロゲンとしては例えばヨウ素が用いられるが、これに限らず臭素または塩素などを組み合わせてもよい。また、金属ハロゲン化物の組合せもこれに限らず、スズ、セシウムのハロゲン化物等を任意に追加してもよい。単位体積当りの金属ハロゲン化物の封入量は、例えば0.008〜0.016mg/μlとすることができる。
放電空間111に封入される不活性ガスは、例えばキセノンである。不活性ガスは、目的に応じて封入圧力を調整することができる。例えば、全光束等の特性を高めるためには、封入圧力を常温(25℃)で10〜20atmにするのが望ましい。また、キセノンの他に、ネオン、アルゴン、クリプトンなどを使用したり、これらを組み合わせた混合ガスを使用することもできる。
ここで、放電媒体としては、水銀を実質的に含んでいないものが望ましい。本明細書における「水銀を実質的に使用しない」とは、水銀の封入量が0mgである場合に限られず、従来の水銀入りの放電ランプと比較してほとんど封入されていないに等しい程度の量、例えば1mlあたり2mg未満、好ましくは1mg以下の水銀量を封入している場合を含む意味に解釈すべきである。
発光部11の両側に形成された封止部12には、それぞれ電極マウント3が封着されている。電極マウント3は、金属箔31、電極32、コイル33およびリード線34により構成されている。
金属箔31は、例えば、モリブデンからなる薄板状の部材である。
電極32は、例えば、タングステンに酸化トリウムをドープした、いわゆるトリエーテッドタングステンから構成された棒状の部材である。その一端は金属箔31の発光部11側の端部に載置される形態で溶接されており、他端は放電空間111内に突出し、所定の距離を保って互いの先端同士が対向するように配置されている。例えば自動車前照灯の用途の場合には、外管5を通して観察したときに電極32同士の先端間の距離が3.7〜4.4mmの範囲に各電極32を位置決めすることができる。なお、電極32の形状は、径が管軸方向に略一定の直棒状に限らず、先端部の径を基端部の径よりも大きくした非直棒状のもの、先端が球体であるもの、直流点灯タイプのように一方の電極径と他方の電極径が異なる形状であってもよい。また、電極材料は、純タングステン、ドープタングステン、レニウムタングステンなどであってもよい。
コイル33は、例えば、ドープタングステンからなる金属線であって、封止部12に封着される電極32の軸部の軸周りに螺旋状に巻装されている。コイル33は、例えばコイル線径は30〜100μm、コイルピッチは600%以下となるように設計することができる。
リード線34は、例えば、モリブデンからなる金属線である。リード線34の一端は、発光部11から遠位側の金属箔31の端部に載置される形態で接続されており、他端は内管1の外部まで管軸に略平行に延出されている。ランプの前端側、すなわちソケット6から遠位側に延出されたリード線34には、例えば、ニッケルからなるL字状のサポートワイヤ35の一端がレーザ溶接により接続されている。このサポートワイヤ35には、内管1と平行に延在する部位に、例えば、セラミックからなるスリーブ4が装着されている。
上記で構成された内管1の外側には、発光部11を覆うように筒状の外管5が内管1と同心状に設けられている。これら内外管の接続は、内管1の円筒部14付近に外管5の両端を溶着することにより行なわれている。内管1と外管5との間に形成された閉空間51には、ガスが封入されている。このガスには、誘電体バリア放電可能なガス、例えばネオン、アルゴン、キセノン、窒素から選択された一種のガスまたは混合ガスを使用することができる。ガスの圧力は0.3atm以下、特に0.1atm以下であるのが望ましい。なお、外管5としては、内管1に熱膨張係数が近く、かつ紫外線遮断性を有する材料で構成するのが望ましく、例えば、チタン、セリウム、アルミニウム等の酸化物を添加した石英ガラスを使用することができる。
外管5が接続された内管1の一端には、ソケット6が接続されている。これらの接続は、外管5の外周面に金属バンド71を装着し、その金属バンド71をソケット6から突出形成させた金属製の舌片72で把持することで行なっている。また、ソケット6の底部には底部端子81、側部には側部端子82が形成されており、底部端子81と側部端子82には、それぞれリード線34とサポートワイヤ35が接続されている。
これらで構成された放電ランプは、底部端子81が高圧側、側部端子82が低圧側になるように点灯回路(図13を参照)と接続される。自動車前照灯として使用する場合は、ランプの管軸が略水平の状態で、かつサポートワイヤ35が下方に位置するように取り付けられて点灯される。
従来の水銀フリー放電ランプでは、定常時において35Wの電力で点灯し、3200lmの全光束が得られていた。これより算出される発光効率は約91lm/Wであるが、上述したようにランプに与える電力を単に低減すると、それに伴って発光効率が低下する(図3)。
本発明者は、研究を重ねた結果、ランプの発光効率が発光部温度に関連することを発見した。図4は、点灯時にランプに投入される電力を横軸とし、発光部温度を縦軸として試験結果をプロットしたグラフである。これからランプ電力を低減していくと、発光部の温度も低下していくことがわかる。なお、ここでいう発光部温度(発光管温度)とは、図1の紙面上で発光部11の上側の部位の温度を測定して得られる。図1のようにスリーブ4を下側にしてランプを点灯させると、電極間にアークが上側に反るようにして発生するので、発光部上部の温度上昇は下部と比較しても顕著である。
さらに図5を参照して、発光部温度の変化と発光効率の関係について説明する。図5は、ランプを35Wで点灯させた場合において、発光部温度を920℃を基準として変化させたときの発光効率[lm/W]を算出した結果を示す。このグラフからわかるように、発光部の温度が低下すれば発光効率が低下するという相関関係が認められる。これは、発光部の温度が低下することによって、発光部内に封入された金属ハロゲン化物の分圧が低下してしまうことが原因であると考えられる。
以上から発光部の温度とランプの発光効率との間には相関関係が成り立つことがわかった。換言すると、この知見は、発光部の温度を適切に調整することによって、発光効率を所望の範囲に制御することが可能になることを示唆する。
以下、本発明にしたがって、発光部温度を制御する点に着目して、低電力条件においても十分な発光効率を呈するランプを設計するための種々のパラメータについてより詳しく説明する。
(1)封入キセノン圧
図6は、室温でのキセノン封入圧を13.5atm基準として増減させた場合における発光部温度の変化量(920℃を基準)を表したグラフである。これより明らかなように、キセノン封入圧と温度変化量の関係は、略比例の関係にあり、キセノン圧の上昇に伴って発光部の温度も上昇する。キセノン圧は、発光部を水中で破壊してキセノンガスを収集し、その量を測定することで求めることができる。
なお、図6で基準として用いたキセノン圧13.5atmおよび発光部温度920℃は、単に説明の便宜上基準として例示したにすぎず、たとえばこの特定の物理量が本発明との関係で好適であることを必ずしも意味しない。つまり、以下に述べる他のパラメータについての基準値も含め、これらは説明の便宜上任意に定められた基準値であって、これをもって本発明の範囲を限定解釈すべきでないことに留意されたい。
(2)発光部内径
図7は、発光部内径2.5mmを基準とした相対値を横軸とし、発光部温度920℃を基準とした相対値を縦軸として表したグラフである。本明細書における「発光部内径」は、特に別様に定義されない限り、図2において符号「d」で示した発光部11の肉厚が最大となる部位の直径を意味する。図7に示したグラフより、発光部内径が小さくなると発光部温度が高くなることがわかる。これは、発光部内径が小さくなると電極間に発生するアークとの距離が小さくなり、温度上昇がより顕著になるためである。
(3)発光部肉厚
図8は、発光部肉厚1.85mmを基準とした相対値を横軸とし、発光部温度920℃を基準とした相対値を縦軸として表したグラフである。本明細書における「発光部肉厚」とは、特に別様に定義されない限り、図2において符号「t」で示した発光部11の肉厚が最大となる部位の厚みを意味する。図8に示したグラフより、発光部肉厚が小さくなると発光部温度が高くなることがわかる。これは、発光部肉厚が小さくなると熱が拡散されにくくなり局所的な温度上昇が生じるためである。
発光部の肉厚および内径は、例えばX線分析装置等公知の測定手段を用いて測定することができる。
上記(1)〜(3)のパラメータを変更して発光部温度を調整したランプの特性を調べるため、次の仕様の車両用放電ランプを基本設計として特性試験をおこなった。
発光部は、内径dが2.2mm、外径が5.2mm、肉厚tが1.5mm、球体長bが7.8mmであって、肉量Vが89.5mm3、放電空間は容積が20mm3のものである。放電空間に封入する金属ハロゲン化物は、ヨウ化スカンジウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、臭化インジウムの混合物で構成し、総封入量は0.2mgとした。各金属ハロゲン化物の封入量比は、重量比でScI3:NaI:ZnI2:InBr=1.00:1.50:0.40:0.01である。希ガスには、キセノンを13.5atm封入した。
電極は酸化トリウムを0.5重量%含むトリエーテッドタングステン製の軸長7.5mm、電極径0.33mmのもので、電極間距離は3.9mmとした。また、電極の一端には厚み20μm、幅1.5mm、管軸方向長6.5mmのモリブデン製の金属箔をレーザ溶接し、厚み2.8mm、幅4.1mmの薄板状の封止部に封着し、その封止部内に位置する電極軸の約半分の領域にはピッチ200%のコイルを巻装した。内管を包囲する外管は、紫外線を遮蔽する材料がドープされた石英ガラスからなる円筒形状で、内径7.0mm、肉厚1.0mmのものである。外管と内管で包囲された閉空間には0.05atmのアルゴンを封入した。また、発光部の最大肉厚となる部分と外管内面との距離は、水平方向に配置したときに上側となる部分を0.95mm、下側となる部分を0.85mmに設定した。
この仕様では25Wの入力で約2000lmが得られた。
また、(1)〜(3)のパラメータについては、それぞれ次のようなことがわかっているため、試験評価する数値範囲を限定した。
まず、(1)の封入キセノン圧に関し、室温で10atmを下回るとランプ始動時の光束が得られなくなり、自動車用前照灯には適さない。また、キセノン圧が17atmを超えると、封止部に過度の負荷がかかり、電流のリークに起因するランプ不灯など不具合の虞がある。そこで、本試験ではキセノン圧を10〜17atmの範囲で段階的に調整した。
(2)の発光部内径に関し、2.0mmよりも小さくすると、封入された金属ハロゲン化物の遮光作用が顕著になり、発光効率が低下する。また、内径を2.5mmより大きくすると、35Wで点灯する従来のランプと同様の仕様のものでは、発光部の肉厚も関係するが、製造上のバラツキしだいで外管と接触する虞がでてくるため歩留りが悪くなることが懸念される。したがって、発光部内径を2.0〜2.5mmの範囲で調整して試験を行った。
(3)の発光部肉厚については、1.30mmよりも小さくすると、発光部の膨張が顕著になる虞がある。また、肉厚が1.85mmより大きくなると、発光部内径も関係するが、外管と発光部が接触する虞がでてくるため好ましくないと考えられる。したがって、本試験においては、発光部肉厚について、1.30〜1.85mmの範囲で調整することとした。
上記のような条件で行った試験および特性評価の結果を図9に示す。「判定」の項目の「○」が良好な特性を示したランプを意味し、「×」が不良のランプである。また、ランプの発光効率が得られているにもかかわらず、投入電力が少ないために全光束が低くなってしまう組合せに関しては、「△」で表記している。
現状の35Wで点灯するランプと比較して、発光部温度を±40℃以内に制御することにより、初期特性および寿命特性のそれぞれについて良好な結果が得られることがわかった。つまり、35W点灯ランプと比較した発光部の相対温度が相対値で−40℃より低くなると十分な発光効率が得られなくなり、実用的な範囲から外れてしまう。また、相対温度が40℃を超えると、発光部に白濁が発生し、利用できる全光束が低下してしまい、ランプ寿命が短くなるという問題がみられた。この結果から、放電ランプが、次の数式5を満足すると良好な特性を示すことがわかった。
[数式5]
−40≦(a−35)×5.5+(x−13.5)×10+(1.85−t)×100+(2.5−d)×100≦40
ただし、a:安定点灯時に供給される電力[W]であり、18≦a≦30
x:放電空間内に封入されたキセノンの圧力[atm]
t:発光部の肉厚が最大となる部位の厚さ[mm]
d:発光部の肉厚が最大となる部位の内径[mm]。
この数式5は、発光部温度が従来品のそれと比較して±40℃の範囲であれば良好な結果を示すことを数式化したものである。つまり、左辺の数値は、許容される温度の下限値である−40℃に相当し、右辺の数値は、同上限値の40℃に相当する。そして中辺の[(a−35)×5.5]の項がランプ電力に起因する発光部温度の変化量に相当し、[(x−13.5)×10]の項が封入キセノン圧に起因する発光部温度の変化量に相当し、[(1.85−t)×100]の項が発光部の肉厚に起因する発光部温度の変化量に相当し、[(2.5−d)×100]の項が発光部内径に起因する発光部温度の変化量に相当する。
本発明にしたがってこの不等式を採用することによって、18〜30Wの低電力でも十分な始動特性および寿命特性をもつ放電ランプを設計することができる。
次に、さらに細かい条件を設定した場合の本発明の適用について説明する。上記数式5は、低電力と評価できる18〜30Wの範囲のランプに適用可能であると説明したが、たとえ発光効率を同等以上に改善できたとしてもランプ電力が低いということは全光束がその分だけ低下するということである((全光束)=(ランプ電力)×(発光効率)である。)。したがって、ランプ電力18Wと30Wでは、実用的な全光束1800〜2200lmを達成するために必要な発光効率が異なる。例えば20Wの投入電力で2000lmを得るためには100lm/Wの効率が必要である。これは、現行の35Wのランプ(91lm/W)よりも高い効率が必要で、換言すると高い発光部温度に導く必要がある。
したがって、ランプ電力が18〜22Wの場合、各パラメータの最適な関係は、次の数式6で表現することができる。
[数式6]
20≦(a−35)×5.5+(x−13.5)×10+(1.85−t)×100+(2.5−d)×100≦40
ただし、a:安定点灯時に供給される電力であり、18≦a≦22[W]
x:放電空間内に封入された希ガスの圧力[atm]
t:発光部の肉厚が最大となる部位の厚さ[mm]
d:発光部の肉厚が最大となる部位の内径[mm]。
ランプ電力が22〜26Wの場合は、発光効率を従来の35Wのランプと同程度に制御する必要がある。そこで、各パラメータの関係を次の数式7で表現することができる。
[数式7]
−20≦(a−35)×5.5+(x−13.5)×10+(1.85−t)×100+(2.5−d)×100≦20
ただし、a:安定点灯時に供給される電力であり、22<a≦26[W]
x:放電空間内に封入された希ガスの圧力[atm]
t:発光部の肉厚が最大となる部位の厚さ[mm]
d:発光部の肉厚が最大となる部位の内径[mm]。
ランプ電力が26〜30Wの場合は、発光効率を70lm/W程度に制御する必要があるため、各パラメータの関係式は数式8で表すことができる。
[数式8]
−40≦(a−35)×5.5+(x−13.5)×10+(1.85−t)×100+(2.5−d)×100≦−20
ただし、a:安定点灯時に供給される電力であり、26<a≦30[W]
x:放電空間内に封入された希ガスの圧力[atm]
t:発光部の肉厚が最大となる部位の厚さ[mm]
d:発光部の肉厚が最大となる部位の内径[mm]。
本発明は、18〜30Wの投入電力で2000±200lmの全光束を得ることを主な目的の1つとして実施形態を例示して説明したが、投入電力および全光束のかかる数値範囲は、製造上のバラツキ、使用状態に起因する範囲が均等物として含まれるよう理解されるべきである。
上記に加えて、従来よりも低電力で点灯する放電ランプでは、発光部温度を好適に維持するために、発光部11の肉量Vも好適な範囲とするのが望ましい。発光管温度は、肉厚が最大となる部位の内径d、肉厚tに最も影響するが、球体長b、発光部11および放電空間111の形状などにも影響するためであり、これらとともに発光部11の肉量Vを好適な範囲にするとよいことがわかった。例えば、従来の発光部11の肉量Vである124.5mm3と上記ランプの肉量Vである89.5mm3とでは大きく異なった特性となる。発明者の試験の結果、肉厚tが1.30〜1.85mm、内径dが2.0〜2.5mm、球体長bが7.5mm〜8.5mm、かつ発光部11の肉量Vを50mm3〜100mm3、望ましくは60mm3〜90mm3に設定すると良いことがわかった。なお、発光部11の肉量Vは、発光部11と封止部12の境界を切断して、残った発光部11の重量を測量したのち、発光部11材料の比重(例えば、石英ガラスの比重は2.65g/cm3)で割ることにより算出できる。
また、電極32はトリエーテッドタングステンであるのが望ましい。酸化トリウムを含有しない電極は、仕事関数が高く、効率を上昇させるのが困難になるためである。含有量は、ちらつきの抑制効果および効率などを考慮すると、0.1重量%以上、0.5重量%以下であるのが望ましい。
また、閉空間51に封入するガスも考慮するのが望ましい。すなわち、閉空間51のガスの熱伝導率によっては、図9における発光効率および光束維持率に影響する。発明者が試験したところ、低電力の放電ランプでは、単体のガスでは従来の35Wのランプの場合に一般に封入されていた窒素よりも、アルゴン(λ=0.0177W/m・K)の方が発光部温度を好適に保ちやすいことがわかった。アルゴン、ネオン(λ=0.0493W/m・K)、キセノン(λ=0.0057W/m・K)、窒素(λ=0.0260W/m・K)などを混ぜた混合ガスの場合には、熱伝導率λが0.010〜0.030W/m・K、特に0.015〜0.021W/m・Kであるのが望ましい。なお、混合ガスの熱伝導率λは、それぞれのガスについてガス固有の熱伝導率と封入比率を乗じた値を求め、それらの和をとった値とする。
また、ガスの熱伝導率λとともに、発光部11の外径が最大となる部位と外管5の内表面との距離Dも発光部温度に影響を与える。発明者の試験によれば、距離Dは従来の一般的な距離である約0.3mmよりも長い、0.5〜1.0mm、特に0.65〜0.85mmであるのが望ましいことが判明した。なお、図2のように、水平状態において、発光部11を外管5の管軸に対して下方にオフセットさせ、発光部の上部における距離を下部における距離よりも1mm程度大きくしてもよい。
(第2の実施の形態)
図10は、本発明の第2の実施の形態の車両用放電ランプについて説明するための図である。以降の実施の形態の各部は、第1の実施の形態の車両用放電ランプの各部と同一部分は同一符号で示し、その説明を省略する。
本実施の形態では、金属バンド71を装着する位置を第1の実施の形態よりも発光部11側としている。これにより、放電ランプの全長を短くすることができるため、コンパクトなランプを実現することができる。なお、本実施の形態では、金属バンド71の位置の変更に合わせて、内管1と外管5のソケット5側の溶着部の位置を従来のランプよりも発光部11側に変更(溶着部の長さは不変)したため、ソケット5の構造を変更することなく保持させることが可能である。
また、このランプでは、金属箔31と金属バンド71の距離c、すなわち金属バンド71のランプ先端側の端部から金属箔31のソケット5側の端部までの管軸方向の長さが短くなるため、始動時にランプの始動を補助する誘電体バリア放電の発生率が向上し、始動性が良好となる効果も得ることができる。
図11は、金属箔と金属バンドの距離cを変えたランプ各50本について誘電体バリア放電の発生率を試験した結果を示す図である。この図から明らかなように、距離cが短くなるほど誘電体バリア放電の発生率が高くなり、例えば、本例の距離c=0.5mmでは、従来の5.5mmの場合と比べて格段に誘電体バリア放電が発生しやすくなっている。これは、距離cが短くなると、誘電体バリア放電の発生距離が短くなるためと考えられる。この試験の結果によれば、距離cを2mm以下、特に距離cを0mm以下、すなわち金属箔31と金属バンド71の少なくとも一部同士が重なるような状態にすると、高い効果を期待することができる。
このような始動時の誘電体バリア放電の発生率を上げる効果は、金属板、金属膜など導電性のある金属製の部材でも同様に得ることができる。が、図10のように発光管部分とソケット部分の接続等を行う金属バンド71に、誘電体バリア放電の発生を補助する金属部材の機能も兼ねさせるのが最も効率的である。
(第3の実施の形態)
図12は、本発明の第3の実施の形態の車両用放電ランプ装置について説明するための図、図13は、回路図である。
車両用放電ランプ装置は、車両用放電ランプ101、リフレクタ102、遮光制御板103、レンズ104、点灯回路105で構成されており、管軸が略水平の状態に配置されて使用される。
車両用放電ランプ101は、第1の実施の形態などで説明したようなランプである。
リフレクタ102は、車両用放電ランプ101で生じた光を前方側に反射させるために設けられた放物線形状の金属部材である。その中央付近には、開口が形成されており、その開口端には、発光部11がリフレクタ102の内部に位置するように、車両用放電ランプ101のソケット6の前端部分が固定されている。
遮光制御板103は、カットラインと呼ばれる配光を形成するために設けられた金属部材である。この遮光制御板103は可動式であり、底部側前方に倒すことでロービームからハイビームへの切り替えが可能となっている。
レンズ104は、リフレクタ102によって反射された光を集光させて所望の配光を形成するために設けられた凸レンズであり、リフレクタ102の先端側の開口に配置されている。
点灯回路105は、車両用放電ランプ101を始動および点灯させるための回路であり、図13のように、イグナイタ回路1051とバラスト回路1052とを備えていて、入力側にはバッテリーなどの直流電源DSとスイッチSW、出力側に車両用放電ランプ101が接続されている。
イグナイタ回路1051は、30kV程度の高圧パルスを生成、ランプに印加することで、一対の電極32間で絶縁破壊させて車両用放電ランプ101を始動させる回路であり、トランス、コンデンサ、ギャップ、抵抗などで構成されている。
バラスト回路1052は、イグナイタ回路1051により、始動した車両用放電ランプ101の点灯を維持するための回路であり、DC/DC変換回路、DC/AC変換回路、電流・電圧検出回路および制御回路などで構成されている。
低電力の放電ランプでは、特許文献1でも触れているように、電流値が低下したことによってちらついたり、ちらついた結果、立ち消えが発生しやすくなるという懸念がある。特許文献1には、従来よりも電極を細く設計することで、ちらつきの問題を抑制しようとする発明が記載されており、この発明を採用すれば安定時のちらつき抑制の効果を期待できる。が、発明者の検討の結果、光束の立ち上がりを早めるべく、始動時に安定時よりも3倍以上高い、例えば2.0Aの電流を5s以上投入するようなランプにおいては、細い電極では始動時に高温になりすぎて短寿命になってしまうことがわかった。つまり、特許文献1の手段では、長寿命で光束立ち上がりが早く、かつちらつきが発生しにくい低電力な車両用放電ランプの実現は困難である。
そこで、他の手段により、ちらつきを抑制する手段を検討したところ、大電流を投入しても耐えることが可能な、電流断面積が6〜15A/mm2(電極の直径はおよそ0.25〜0.35mmに相当。なお、大きさが部分的に異なる電極の場合の直径は、その電極の大部分を占める部分の直径とする)であるような条件の場合でも、バラスト回路1052による安定時におけるゼロクロス電流の電流傾きを好適に設定することにより、ちらつきが発生しにくい低電力放電ランプを実現可能であることがわかった。
図14は、ゼロクロス電流の電流傾きを変化させたときのちらつき発生の有無について説明するための図である。ここで、「ゼロクロス電流の電流傾き」とは図15のように、安定時電流の極性が変わる、つまり電流値が0Aである横軸とクロスしたあとの電流傾きのことであり、電流傾きは、ちらつきの抑制に影響のある極性反転してから電流が0.2Aに至るまでの期間の値とする。例えば、図15のゼロクロス付近の拡大図である図16では、ゼロクロス電流の電流傾きは、0.062A/μsである。また、この試験での電力は25Wであり、ちらつきの判定は、点灯後60〜720秒の明るさを照度計で測定し、0.5秒前の明るさに対して3%以上の明るさの変化があった場合に×と判断した。
結果から、ゼロクロス電流の電流傾きとちらつきは関係があり、0.05A/μs以上ではちらつきが発生しないが、ゼロクロス電流の電流傾きが0.03A/μsではちらつきが発生してしまうことがわかる。これは、ゼロクロス電流の電流傾きが0.03A/μs以下であると、極性反転直後に電極にあまり電流が流れず、電極温度が低下し、アークの起点が不安定になってしまうためと考えられる。一方、ゼロクロス電流の電流傾きが0.05A/μs以上であると、極性が反転しても電極の温度が低下せず高温を維持できるため、ちらつきにくくなったと考えられる。したがって、ゼロクロス電流の電流傾きは0.05A/μs以上であるのが望ましい。なお、ゼロクロス電流の電流傾きは大きければ大きいほどちらつきに対して効果がある。が、ゼロクロス電流の電流傾きは、主にトランスの二次巻線の巻き数を少なくするなどにより調整するものであるため、実用的には0.60A/μs以下であることが好ましい。
また、点灯周波数も好適な範囲であるとさらに効果的である。具体的には、図17のように、周波数が500Hz以下であると、電極温度が高く維持されるため、ちらつきが抑制される。ただし、100Hz以下になると電極温度が必要以上に高くなりすぎて短寿命となってしまうため、周波数は200〜500Hzであるのが望ましい。
(第4の実施の形態)
図18は、本発明の第4の実施の形態の点灯回路一体型の車両用放電ランプ装置について説明するための図、図19は、図18の断面図である。
上記実施の形態は、ランプ部分と回路部分とが別体で取り扱われるタイプであるが、本実施の形態は、ランプ部分と回路部分とが一体で構成されるタイプである。すなわち発光する部分を構成するバーナーBNとイグナイタ回路とバラスト回路を含む回路部CRとが一体化されてなるものである。
回路部CRは、バーナーBNを始動・安定点灯させるための装置であり、外囲器として例えばPPS樹脂からなるケース91を備えている。ケース91は、互いに嵌め合わせ可能な本体部911と蓋部912とで構成されている。
本体部911は、その前端側にソケット部9111を有しており、このソケット部9111にバーナーBNが保持される。その保持は、第1の実施の形態と同様に、外管5の外周面に金属バンド71を装着し、その金属バンド71をソケット部9111から突出形成させた金属製の舌片72で挟持することにより行っている。
また、本体部911には、内部に空間が形成されている。この空間は、管軸方向に沿って本体部911の内部に形成された空間分割壁9112により、上部空間921と下部空間922とにさらに分割されている。なお、空間分割壁9112は本実施の形態ではケース91の本体部911に一体形されたものであるが、別体形成された壁を本体部911に後から嵌め込むことで形成するような形態であってもよいし、後述するトランス931を収容する容器自体を壁として構成させるようにしてもよい。
ケース91の上部空間921の前端側には、トランス931が配置されている。このトランス931は、細長い棒状の鉄心に一次巻線と二次巻線が巻回されてなるものであり、絶縁性の確保のため、エポキシなどの絶縁材で満たされた容器に収容された状態で使用している。ただし、トランス931は、棒状に限らず、箱状またはドーナツ状であっても当然問題ない。このトランス931には、高圧端子913が構成されており、この高圧端子913は本体部911の内部空間に導出されたリード34と接続されている。この接続部分は始動時に高圧パルスが投入される部分となるため、絶縁性を確保すべく、図19のように空間に絶縁材をポッティングしたり、新たに樹脂の壁などを設けるのが望ましい。
また、上部空間921の後端側には、トランス931とにより高圧パルスを生成し、バーナーBNを始動する第1の回路素子群932が配置されている。この第1の回路素子群932は、コンデンサ、ギャップ、抵抗などで構成されており、それらは内部または表面に配線を施した実装基板941上に植設されている。なお、「ケース91の前端側(後端側)に配置」とは、ケースの管軸方向長さをLとしたとき、L/2よりも前端側(後端側)にその部材の大部分、例えば8割以上が配置されている状態を意味するものである。
ケース91の下部空間922の前端側には、一部がケース91から突出するようにコネクタ95配置されている。コネクタ95は、本体部911の内部空間に導出されたサポートワイヤ35と電気的に接続されている。なお、このコネクタ95は、別部材で構成される必要はなく、ケース91に一体的に構成してもよい。また、コネクタ95を実装基板上またはその一部として形成してもよい。
さらに、下部空間922の後端側には、バーナーBNに定格電力を供給する第2の回路素子群933が配置されている。この第2の回路素子群933は、コンデンサ、抵抗、スイッチング素子、ダイオード、マイコンなどで構成されており、それらは内部に配線を内蔵した実装基板942上に植設されている。なお、この第2の回路素子群933のうち、コンデンサは特に下部空間922の後端側に配置するようにしている。
これら回路素子等を備えたケース91の周囲には、電磁ノイズを遮断するためのシールドケース96が設けられている。シールドケース96は、ケース961とケース962とで構成され、互いに嵌め合わせて一体化している。このシールドケース96としては、例えばアルミニウムを用いることができる。
本実施の形態の放電ランプ装置の回路構成は、図20のとおりである。放電ランプ装置は、コネクタ95、第2の回路素子群933、第1の回路素子群932を備える回路部CRと、バーナーBNとで構成され、そのコネクタ95部分がスイッチSWを介して、バッテリーなどの直流電源DSと接続されてなる。
第2の回路素子群933は、DC/DCコンバータ回路9331、電圧検出回路9332、電流検出回路9333、DC/ACインバータ回路9334および制御回路9335とで構成されている。DC/DCコンバータ回路9331は、直流電源DSの直流電圧を昇圧して出力する昇圧チョッパ回路である。このDC/DCコンバータ回路9331には、昇圧トランスが配置されているが、この昇圧トランスは第1の回路素子群932とともに、バーナーBNを始動させるための高圧パルスを生成するトランス931も兼ねる構成としている。電圧検出回路9332、電流検出回路9333は、それぞれDC/DCコンバータ回路9331の出力電圧、出力電流を検出する回路である。DC/ACインバータ回路9334は、直流を交流に変換して出力するブリッジ回路である。制御回路9335は、電圧検出回路9332、電流検出回路9333での電圧値、電流値の検出結果を元に、バーナーBNに所定の定格電力が投入されるようにDC/DCコンバータ回路9331およびDC/ACインバータ回路9334を制御する回路である。
第1の回路素子群932は、前述した昇圧トランスの一部として構成されたトランス931とにより、ランプの始動に必要な高圧パルスを生成し、バーナーBNを始動させる回路である。
このような回路構成により、回路部CRでは、バーナーBNの始動のために30kV前後の高圧パルスを生成するとともに、その始動直後には安定時電力の2倍以上の65W〜75W、安定時には25〜35Wの電力を生成し、バーナーBNに供給する。
本実施の形態の点灯回路一体型の車両用放電ランプ装置を図12のようにリフレクタに取り付け、装置全体を振動させながら点灯する試験を行った。その結果、装置全体を振動させても、点灯中に一対の電極32の間に形成される放電アークの位置変動が少なく、配光不良とはならないことが確認された。これは、車両用放電ランプ装置の状態で支点となるソケット部9111に、重量が重いトランス931をケース91の前端側かつ上部空間921側に配置したことで、放電ランプ装置の管軸方向の重量バランスが改善されたためである。このように、振動しても放電アークの位置変動が少なくなるという効果は、アークが細くなるために、少しの放電アークの変動でも配光が変わりやすい水銀を封入しない放電ランプにおいてはとても意味が大きい。
また、重量バランスのさらなる改善と放電ランプ装置の上下の重量偏りの低減するために、ハーネスが取り付けられるコネクタ95を前端側かつ下部空間922側に配置したことも、配光不良の抑制につながったと考えられる。総括すれば、イグナイタ回路とバラスト回路を含むような点灯回路一体型の放電ランプ装置では、回路側の重量が重くなったことで、放電ランプ装置の重量バランスが悪くなり、振動などにより点灯中に電極間に形成されるアークの位置が変化しやすいという課題があったが、本実施の形態によりその課題が解決される。
また、本実施の形態の放電ランプ装置では、第1の回路素子群932および第2の回路素子群933を管軸方向に長いケース91の後端側に配置したため、回路素子の寿命が長くなるという効果が得られる。これは、それらの回路素子と点灯時に温度が高くなる発光部11およびトランス931との距離が保たれることで、回路素子の温度上昇を抑制できるためである。なお、本実施の形態のように、実装基板942を管軸方向に沿って配置した場合には、サイズが大きく、熱に弱い第1の回路素子群932のコンデンサは、特にケース91の後端側(例えば、L/4よりも後端側)に配置するのが最適である。ちなみに、第1の回路素子群932および第2の回路素子群933は、比較的重量は軽いため、ケース91の後端側に配置しても重量バランスにほとんど影響しない。
したがって、本実施の形態では、回路部CRを、ケース91と、トランス931と、トランス931とにより高圧パルスを生成し、バーナーBNを始動する第1の回路素子群932と、バーナーBNに定格電力を供給する第2の回路素子群933と、ケース91から突出するように配置されたコネクタ95とで構成し、トランス931をケース91内の前端側に配置したことにより、管軸方向の重量バランスが改善されるため、放電ランプ装置に振動が加わっても、点灯中に一対の電極22の間に形成される放電アークの位置変動を抑制でき、配光不良を抑制することができる。なお、ケース91は管軸方向に長い形態であるに限定されない。また、トランス931は一個に限らず、複数あってもよい。その場合には、バーナーBNを始動させるための高圧パルスを生成するトランスが、少なくともケース91の前端側に配置されていればよい。
また、ケース91に、内部空間を上部空間921と下部空間922とに分割する空間分割壁9112を形成し、トランス931をケース91内の前端側かつ上部空間921側に、コネクタ95をケース91内の前端側かつ下部空間922側に配置したことにより、管軸方向の重量バランスが改善されるとともに、上下の重量偏りの低減することができるため、さらに配光不良を抑制することができる。
また、第1の回路素子群932および第2の回路素子群933をケース91内の後端側に配置したことで、熱源とそれらの回路素子との距離を保つことができるため、寿命を長くすることができる。
また、第2の回路素子群933に含まれるコンデンサをケース91内の後端側かつ下部空間922側に配置したことにより、発光部11およびトランス931との距離が離れるため、熱的に弱いコンデンサの故障を防止することができる。
(第5の実施の形態)
図21は、本発明の第5の実施の形態の点灯回路一体型の車両用放電ランプ装置の断面図である。
この形態では、空間分割壁9112をケース91の長手方向の略半分までとし、ケース91の後端側に第1の回路素子群および第2の回路素子群で構成された回路素子群934を実装した実装基板943を管軸に対して略垂直に配置している。この構造により、第1の実施の形態よりも配線の取り回しが簡略化されるため、回路素子群934をケース91に容易に組み込むことが可能となる。なお、本実施の形態のように、実装基板943を管軸に対して垂直に配置する場合には、熱の影響を少なくするために、コンデンサをケース91の後端側かつ下部空間922側に配置するのが最適である。また、本実施の形態では、互いの回路素子の一部をイグナイタとバラストで共通化して回路素子数の低減を行ってもよい。
(第6の実施の形態)
図22は、本発明の第6の実施の形態の車両用放電ランプの全体図である。
本実施の形態では、第1、第2の実施の形態のような車両用放電ランプの高圧側に設定された封止部12の表面に導電性被膜10を形成している。この構成により、後で詳しく説明するように、始動性を改善することができる。
導電性被膜10は、導電性を有し、酸素などと反応しにくい材料で構成することが好ましく、例えば金および、インジウムの酸化物、スズの酸化物、亜鉛の酸化物、インジウムとスズの酸化物であるITO、酸化亜鉛に酸化アルミニウムをドープしたAZO、酸化亜鉛に酸化ガリウムをドープしたGZO等、およびこれらにフッ素、ガリウム、アンチモン等をドープしたものを用いることができる。また、被膜部分の抵抗が約106Ω/cm以下、望ましくは50〜100kΩ(抵抗値は、厚みが150nmである膜の表面を、端子間を1.5mmに設定したテスターで測定したときの値とする。)となるように材料を選定するのが好ましい。かかる部位の抵抗値は、形成された被膜の厚さにも依存し、材料の選定のみによって決定されるわけではないが、バリア放電を起こしやすくするために上記抵抗値の範囲に制御するというのは有効な指標である。要するに、本発明の思想に基づいて使用する材料およびその組合せは少なくとも本明細書に示唆された各要素に応じて適宜決定することができる。
また、従来技術(国際公開第2007/093525号)では発光部11およびその近傍に導電性被膜10を形成していたため、被膜10を構成する材料として透明な材料を選定しないと全光束など発光特性に悪影響を与える恐れがあったが、本形態に係る放電ランプでは安定時において発光しない金属箔31の周囲のみに導電性被膜10を形成するので透明な材料である必要はない。また、発光部11から十分に離れた距離に導電性被膜10を形成しているため、熱などによる劣化の影響も少ない。つまり、始動特性を改善することができる条件に基づいて材料の選択を比較的自由に行うことができる点でも優れている。
次に、本発明の放電ランプの作用について説明する。
ランプに高電圧が印加されると、封止部12に形成された導電性被膜10から閉空間51に多数の電子が放出され帯電される。このとき、導電性被膜10および閉空間内51に電位差が生じ、低電圧で放電が生じる。この放電に起因して内管1の内外面でも分極および光電効果が起こり、電極32同士の絶縁破壊を導くようになっている。
以上が始動に必要な電圧を低減するための作用であるが、単に閉空間での放電を利用して電極間の絶縁破壊を促すという意味では、従来技術のように発光部に導電性被膜を塗布した従来技術であっても相応の効果を奏することができる。しかしながら、本発明者らは、発光部の周囲に導電性被膜を形成する従来の手法では始動特性が製品寿命中に悪化していくことを発見した。これは、発光部周囲は点灯時に非常に高温になる部位であり、そのすぐ外側に形成された導電性被膜が気化して、放電補助の機能が損なわれることのほかに、導電性被膜の成分が不純物として閉空間の雰囲気を変えてしまい、放電を起こりにくくするためと考えられる。
したがって、図示した形態のように、発光部11およびその近傍(たとえば封止部との境界のネック部)に導電性被膜10を形成しないようにその範囲を制限することが望ましい。
より具体的には、例えば金属箔31の中央付近は発光部11に比べて低温であるため、この部位を基準として導電性被膜10を形成することで上述した問題を防ぐことができる。さらにスペースが許す限り、発光部11からより離れた位置に導電性被膜を形成してもよいことはいうまでもない。
なお、導電性被膜10は、金属バンド71との距離を近づけるほど始動性を向上させることができる。図23に示すとおり、金属バンド71のランプ先端側の端部から導電性被膜10のソケット5側の端部までの管軸方向の長さ、すなわち導電性被膜10と金属バンド71の距離c’が短いほど始動電圧が低下する。図23によれば、導電性被膜10と金属バンド71の距離c’を3.5mm以下、望ましくは2.0mm以下にすることで、始動性を良好にすることができる。
また、金属箔31と金属バンド71の距離cと、導電性被膜10と金属バンド71の距離c’の両方を好適な位置にするとさらに高い効果を望める。図24に示すとおり、距離c’を短くするだけでも始動性は低下するが、第2の実施の形態のように距離cも短くするとさらに始動性が低下している。このようなことから、金属箔31と金属バンド71の距離cは2.0mm以下、かつ導電性被膜10と金属バンド71の距離c’は3.5mm以下とするのが望ましい。
ここで、本形態の導電性被膜10は、より具体的には図25に示すような、4つの円状のドットが部分的に重なるように形成されたものである。材料は酸化スズ、膜厚は100nm、面積は10mm2、縁の長さは14mmである。このように複数の幾何学的形状を組み合わせて導電性被膜10を形成することで、限られたスペースの中で導電性被膜10の全周長を十分に大きくすることができるため、始動特性を改善することができる。当然ながら、同じ幾何学形状を複数個組み合わせたもののみならず、異なる幾何学形状を複数種組み合わせてもよく、例えば、円形と四角系を組合せた導電性被膜を採用できる。
導電性被膜10の形成方法は、本発明との関係で特に限定されるべきものではないが、例えば液状の材料を内管の封止部12に滴下する行程を、位置を変えて複数回繰り返し行うことで、図25に示したような複数のドットパターンとして形成することができる。この方法によれば、公知のディスペンサを使って被膜材料を滴下することで、その材料自身の粘度や滴下高さを適宜調整することで所望の膜厚および面積の導電性被膜を形成することができる。このように、材料自体の拡散を利用するほかにもマスキングをしてエッチングまたは蒸着などの科学的手法により所望の形状とする方法を採用することができることはいうまでもない。
図26は、封止部に形成する導電性被膜の面積を変えて始動電圧低下率との関係を調べた実測値をプロットしたグラフである。これから明らかなように、導電性被膜を形成していない場合(=0mm2)の場合と比較して、3mm2以上の面積の導電性被膜を形成することによって、20%以上の始動電圧の低減を達成することができた。
また、条件を変えて繰り返し試験を行ったところ、導電性被膜の形状は、その面積だけでなく他の要素も始動電圧低減の効果に影響を与えることがわかった。例えば、同じ面積の被膜であっても、真円と、外縁が不規則に形成された星形の被膜とを比較すると、後者の方がより容易にランプを始動させることができることが確かめられた。これは、被膜の外周縁部付近で電界集中が起こり放電補助の起点となるためで、外周を長くすることで起点となり得る箇所が増えるためと考えられる。したがって、必要最低限の量の導電性被膜で十分な放電補助を達成するには、単純な矩形または真円よりもむしろ複数の幾何学形状を組み合わせたような複雑な形状であることが望ましいといえる。
このような知見に基づいて、本発明は、封止部に形成する導電性被膜の形態として実に様々な変形例を包含し得るといえる。図27に示したのは、そのいくつかの例である。
例えば(a)に示した形態の導電性被膜10aは、2つの円状のドットを部分的に、かつジグザグに重なり合う形態で形成されている。ここで、本明細書でいう「ドット」は、図示したような円形のものに限らず、例えば楕円、長方形を含む四角形および六角形を含む多角形、星形または略星形などの不規則形状を包含した概念として解釈すべきである。つまり、「ドット」の通常の意味から理解されるように、封止部12の幅などと比べて十分に小さく、例えば封止部12全体を覆って発光部11との境界のネック部までの全体に延在するような被膜は、本明細書でいう「ドット」の概念から排除されると考えることができる。
(b)は、導電性被膜10bとして、円状のドットを2つ、それぞれが金属箔31と対向する位置に形成したものである。この場合、所定の始動電圧を印加したときに、2つの被膜のいずれかが起点となって絶縁破壊を補助することになる。
(c)の導電性被膜10cは、細長い3つの短冊状の膜を金属箔31の幅方向に沿って平行になるように形成したものである。このような幅が小さい導電性被膜10cの場合、始動時に電界集中が発生しやすくなるため、低い電圧での始動が可能となる。なお、幅は小さいほど有利であり、例えば、幅が2mm以下であると、単なる長方形の導電性被膜の場合と比較して、約1.5kVも始動電圧を改善することができる。
(d)の導電性被膜10dは、端部に複数の鋭角の三角形を組み合わせたような形状にすることで、縁をギザギザ状にしたものである。このような形状とすることで、長方形状の同じ面積の導電性被膜よりも、周の長さを格段に長くすることができる。また、端部の鋭利な箇所に電界が集中して、低い電圧で始動が可能となる。
なお、以上説明した種々の形態において、導電性被膜は、電極と金属箔の接合面と対向するように配置したものを例に説明したが、かかる形態に限定されるものではない。つまり、一般に金属箔と導電性被膜の距離が小さい方が始動補助の効果が比較的高いと考えられるが、図27(c)〜(d)に示した形態のように、封止部の反対側の面に形成しても、さらに両面に形成しても始動補助の効果が得られる。よって、本発明において、導電性被膜は金属箔との関係で封止部のどの側面に形成されるかは限定されない。また、かかる位置関係に限定されず、例えば導電性被膜10の金属箔31の長手方向に位置をずらして形成してもよいし、一方の導電性被膜10を他方のそれと異なる形状にしてもよい。
また、本発明は、放電媒体として水銀を実質的に含まない水銀フリーの放電ランプに適用可能な発明として説明したが、水銀入りの放電ランプに同様に本発明を利用することを何ら妨げるものではない。つまり、水銀フリーのランプでは放電空間内の圧力が高く、電極間距離も大きいため、より高い始動電圧が必要となることが一般的であり、始動電圧を低減することが可能な本発明の有用性が高いといえる。しかし、始動特性を改善するなど同様の目的で水銀入りの放電ランプに適用することに何ら問題はない。
(第7の実施の形態)
図28は、本発明の第7の実施の形態の車両用放電ランプの図であり、(a)は封止部付近の拡大図、(b)は一点鎖線X−X’の断面を矢印方向から見た図である。
本実施の形態では、縁部に隆起部10e1、隆起部10e1に囲われるように平面部10e2を備えた導電性被膜10eを形成している。より具体的には、隆起部10e1の膜厚T1=0.00035mm、平面部10e2の膜厚T2=0.00015mmであるような導電性被膜10eが高圧側に設定された封止部12の金属箔31が位置している表裏面にそれぞれ7mm2づつ形成されている。このように導電性被膜10eにその形成面に対して略垂直な方向に延出した平面部分よりも高さの高い隆起部分を形成することで、始動電圧印加時に、その隆起部10e1に電界が集中して、誘電体バリア放電が発生しやすくなるため、導電性被膜10eが単なる平面状に構成されている場合よりもさらに始動性を向上させることができる。
このような隆起部10e1を備えた導電性被膜10eは、表面張力が低くなるように調整された酸化スズと酢酸ブチルを混合してなる導電性溶液をディスペンサで滴下して、その液が封止部12上で十分に広がったのち、水素バーナーなどで焼成することで形成することができる。焼成後は、酢酸ブチルの成分がほとんど飛んで、透明性が高く、抵抗値が100kΩ程度の導電性の被膜になる。
なお、本実施の形態では、金属箔31の表面のうち、電極32側の半分の面には、クラックリークの発生を抑制するためにパターン311を形成している。このパターン311は、例えばYVO4レーザを照射することにより形成した非貫通の半円状の凹みが複数配列されてなるものであり、つまりWO2008/129745A1およびWO2007/086527A1などに記載のように箔表面には微小な凹凸が形成されている。このように、パターン311上を含むように封止部12に導電性被膜10eを形成することで、パターン311の凹凸形状により、始動直後の分極が促されるため、さらに始動性の向上を期待できる。
本実施の形態のランプ(以下、実施例1)と均一な膜厚の導電性被膜を形成した従来のランプ(以下、従来例1)について、始動パルス電圧=23kV、ライズタイム=250nsecである電圧波形を連続出力する点灯回路を使用し、始動するかどうかの試験を行った。その結果、実施例1のランプでは従来例1のランプよりも始動電圧が低下する傾向があった。また、個数を200本に増やして試験を行った結果、従来例1のランプはその試験したランプの中で始動性が悪いものは約18kVであったのに対し、実施例1のランプは始動性が悪いものでも約16kVであった。このことから、実施例1のランプの方では、始動ばらつきが小さく、点灯不良が少ないといえる。
次に、隆起部10e1の膜厚T1と平面部10e2の膜厚T2の関係T1/T2を変化させたときの始動電圧の変化について試験をした。その結果を図29に示す。なお、試験数は各200本である。なお、膜厚T1、T2ともに、膜厚が一定でない場合は、平均的な部分の厚みとする。
図29からわかるように、T1/T2が大きくなるほど始動電圧の平均値および最悪値(ばらつきの最大値)が低くなる傾向があり、特にT1/T2が2以上であればよいことがわかる。つまり、T1/T2≧2を満たすように導電性被膜9を形成するのが望ましい。ただし、T1/T2が2以上の範囲では始動性にそれほどの変化が見られないため、製造上の容易性を考慮すると、T1/T2は5以下、さらには3以下であるのが望ましい。
なお、隆起部10e1は、上記に限定されず、大きさ、場所を変更することができる。例えば、図30(a)、その一点鎖線Y−Y’の断面を矢印方向から見た図である(b)のように、封止部12に突起121を形成し、その突起121を含むように封止部12の表面に導電性被膜10eを塗布するなどにより、導電性被膜10eの縁部以外の部分に隆起部10e1を形成するようにしてもよい。
(第8の実施の形態)
図31は、本発明の第8の実施の形態の車両用放電ランプについて説明するための図であり、(a)は封止部付近の拡大図、(b)は一点鎖線Zの拡大図である。
本実施の形態では、導電性被膜10eの縁部にノコギリの歯のように複数のギザギザを備えた膜の幅方向外側に突出する複数の突起を含む鋸歯状部10e3を形成している。このように、導電性被膜10eの縁部に鋸歯状部10e3を形成することで、その先端部に電界が集中しやすくなるため、始動時に誘電体バリア放電を発生させやすくすることができる。また、導電性被膜10eの縁の長さが長くなるため、導電性被膜10eの縁部に鋸歯状部10e3を形成することにより始動性を改善することができる。このような縁部に鋸歯状部10e3を備えた導電性被膜10eは、導電性溶液の滴下高さを高くするなどにより形成することができる。
なお、導電性被膜10eは、図32のように隆起部10e1と鋸歯状部10e3の両方を備えた王冠形状であるのが最適である。この場合、平面状で縁が滑らかな同じ面積の被膜の場合と比較して、始動電圧を約4kVも下げることができる。なお、隆起部10e1、鋸歯状部10e3は、先端部はともに弧状よりも尖った形状で、かつ鈍角よりも鋭角あるのが望ましい。また、形成数は多いほど望ましい。これらを採用することにより、電界がより集中しやすくなるため、始動性をさらに改善することができる。
(第9の実施の形態)
図33は、本発明の第9の実施の形態の車両用放電ランプについて説明するための図である。
本実施の形態では、高圧側の封止部12付近の外管5の内表面に膜厚=100nmのITOからなる導電性被膜10fを形成している。外管5に導電性被膜を形成すると、シール部12のガラス部分と外管5部分の電位差を増大させるため、始動性を改善することができる。なお、導電性被膜10fは、例えば、導電性溶液を外管5内に吸い上げて乾燥させたのち、不要部分を除去するという方法で形成することができる。
(第10の実施の形態)
図34は、本発明の第10の実施の形態の車両用放電ランプについて説明するための図である。
本実施の形態では、低圧側の封止部12付近の外管5の内表面に導電性被膜10f、高圧側の封止部12上に導電性被膜10gを形成している。なお、導電性被膜10gは、封止部11に凹部122を形成し、その凹部122に被膜を形成した構造である。これにより、導電性被膜10gと金属箔31との距離が近くなるため、さらに高い効果を期待できるとともに、膜の範囲、厚み等の制御をしやすくなるため、特性ばらつきを小さくすることができる。また、被膜形成工程が容易になるというメリットもある。
このような構成のランプの放電開始電圧は13.3kVであり、他の実施の形態の放電ランプと比較しても始動性改善の効果は顕著である。これは、高圧側の封止部12上に導電性被膜10g、低圧側の封止部12付近の外管5の内表面に導電性被膜10eを形成することで、誘電体バリア放電が発光部11付近で発生するようになることが影響していると考えられる。したがって、内外管にそれぞれ導電性被膜を形成する場合は、発光部11付近で誘電体バリア放電を発生させるべく、発光部11を挟むように形成すると良い。
(第11の実施の形態)
図35は、本発明の第11の実施の形態の車両用放電ランプ装置について説明するための図である。
本実施の形態では、導電性被膜を形成した高圧側の封止部側に、負極性の高圧パルスを印加するように構成している。このような構成とすることで、後述のように誘電体バリア放電の発生を補助することができるため、ランプの始動ばらつきを小さくすることができる。この「負極性の高圧パルス」とは、図35に示すような、印加直後のパルスが負側に発生するパルスのことであり、ランプの高圧側につながる回路部分にオシロスコープOSを接続することで得られる波形を観測することで負極性か正極性かを判定できる。なお、この例では、パルス波高値=24kV、フォールタイム、すなわちパルス波形が波高値に対して10%〜90%に変化するまでの高圧パルスの時間=110nsである。このようなパルスはトランスの巻き方向を逆にするなどによって生成することができる。
本実施の形態の放電ランプ装置(以下、実施例2)と、正極性の高圧パルスを印加する放電ランプ装置(以下、従来例2)各複数個について、始動電圧とそのばらつきを測定する試験を行った。その結果をそれぞれ図36(a)と(b)に示す。
結果からわかるように、始動電圧の平均値は、実施例2も従来例2も同等か従来例2の方が若干低い。が、標準偏差の値から明らかなように始動電圧のばらつきは、実施例2の方が低い。これは、高圧パルスを負極性とすることで、導電性被膜の表面から二次電子が放出されるγ効果をさらに得られたためと考えられる。つまり、実施例2では、誘電体バリア放電の発生が補助されるため、始動の確率が上がり、ばらつきが低下したと考えられる。このように始動ばらつきが小さくなると、パルス出力に余裕をもたせたトランス設計をする必要がなくなるので、トランスの小型化およびコストダウンが可能となる。なお、導電性被膜は、封止部の両面に形成した方がさらに高い効果を期待することができる。
ちなみに、図37(a)は、導電性被膜を形成していないランプに正極性の高圧パルスを、(b)は負極性の高圧パルスを投入したときの始動電圧分布を示したものであるが、この結果からわかるように、導電性被膜のないランプに負極性の高圧パルスを投入しても、始動電圧、ばらつき共に正極性の場合よりも悪い。そのため、導電性被膜のない放電ランプにおいては、正極性の高圧パルスを供給するのが一般的であった。このことからすると、空間にガスを封入するとともに、高圧側の封止部の表面に導電性被膜を形成したランプにおいては、負極性の高圧パルスを投入するという構成および図36(a)のような結果は意外なものといえる。
次に、ランプに印加する負極性の高圧パルスのフォールタイムを変えたときの始動電圧の変化について試験した。その結果、フォールタイムにより平均始動電圧とばらつきは変化することがわかった。例えば、図38のようにフォールタイムが約300nsの高圧パルスを印加した場合には、約110nsの場合と比較して、始動電圧の平均値は多少低くなるが、標準偏差は1.5倍になってしまう。つまり、始動ばらつきを小さくしたい場合には、フォールタイムは短い方が好適であり、種々の試験の結果から負極性の高圧パルスのフォールタイムは180ns以下、さらには110ns以下であるのが望ましい。
なお、本実施の形態は、次のような構成と組み合わせるとさらに有効である。
(A)空間51にアルゴンを封入する。
アルゴンは窒素と比較すると、イオン化しやすく、すなわちイオン化エネルギーの低いガスであるので、始動時に負極性の高圧パルスを印加した場合、二次電子の放出量が増し、誘電体バリア放電が発生しやすくなる。なお、ネオンおよびキセノンなどの希ガスも、イオン化エネルギーが低いガスに該当するが、ネオンは発光部11の温度が低下しすぎるとともに、寿命中に空間51から抜けやすく、キセノンおよびクリプトンは発光部11の温度が上昇しすぎるので実用には適さない。一方、アルゴンであれば発光部11の温度を程度に維持しつつ、γ効果により、始動性をさらに改善できるので最適である。なお、アルゴンは単体に限らず、その大部分、例えば全体の90%以上がアルゴンであるような場合にはこの範囲に含まれるものとする。また、ガスの圧力は0.3atm以下、さらには0.1atm以下であるのが望ましい。
(B)第7、第8の実施の形態のような導電性被膜と組み合わせる。
図32のような隆起部および/または鋸波状部を備えた導電性被膜と組み合わせると、γ効果による電子の濃度の上昇と導電性被膜の先端部分の電界集中により、さらに誘電体バリア放電を誘発させやすくなり、始動性が良くなる。
(C)一方の電極マウント3に正極性の高圧パルス、他方の電極マウント3に負極性の高圧パルスを始動時に印加(以下、両高圧始動)する。
図39のように、両高圧始動の構成とすることで、良好な始動性を維持しながら、回路の小型化および絶縁性の容易確保などが可能となる。例えば、片側のみに印加する場合、始動に20kVの高圧パルスが必要であるランプでは、片側にその半分程度の10kVづつの高圧パルスを印加するだけで始動するので、出力の小さい2個のトランスなどで代用できる。このようなトランスは小型であるので、回路部材の配置設計の自由度が増すとともに、絶縁性の確保を容易に行うことができるので、コスト削減などにもつながる。このメリットは、図19のような点灯回路一体型の車両用放電ランプ装置など、サイズに限りがある場合に特に大きい。なお、両高圧始動の構成とする場合、位相は同じで、極性だけ反転している波形であるのが最適である。
ここで、正・負極性の高圧パルスの波高値は同じである必要はなく、所望により変えてもよい。例えば、1st側(ソケット側)の高圧パルスの波高値>2nd側(サポートワイヤ側)の高圧パルスの波高値としてもよい。車両前照用の場合、ランプの先端部付近に配光制御のためのシェードと呼ばれる金属製の部材が配置されるため、サポートワイヤ34側に高圧パルスを印加するとそのシェードに電圧が漏れてしまうおそれがあるが、2nd側(サポートワイヤ側)の高圧パルスの波高値の比率を下げるとその漏れ発生を抑制することができる。