上述した特開2008−66413号公報(特許文献1)に開示されている処理装置においては、成膜を行なうためのガスを供給するガス噴射板を構成するポーラス材として、アルミナや窒化アルミ等よりなるセラミックポーラス材、アルミニウムやステンレススチール等よりなる金属ポーラス材、セラミックと金属との複合材料よりなるセラミック−金属複合ポーラス材などが挙げられている。しかしこれらの材質をガス噴射板に用いることによる、ガスの噴出の均一性については記載がなされていない。
このため、たとえば上記ポーラス材をミクロに観察した場合に確認される多数の孔の径や孔の分布が不均一であれば、成膜を行なうためのガスが当該ガス噴射板から均一に噴射されない可能性がある。当該成膜用のガスが均一に噴射されない場合、たとえ当該ガスの流れを均一にするための不活性ガスの流れが存在したとしても、当該ガスは均一に基板の主表面上に供給されない。この場合、基板の主表面上に形成される薄膜が均一に形成されず、たとえば筋状や縞状、同心円状などの模様が存在する薄膜が形成される可能性がある。このため、形成される当該薄膜の品質が低下する可能性がある。また、上記のように成膜を行なうためのガスが均一に噴射されない場合、ガス噴射板や噴射面の近傍におけるガスの供給による流れが不安定になり、ガス噴射板や噴射面などの表面に成膜しようとする材質の付着膜が堆積する可能性がある。
以上に述べた状況は、たとえばガス噴射板を構成するポーラス材の代わりに、当該ガス噴射板として、たとえば金属材料に無数の小さい孔を機械加工により施したものを用いた場合においても同様である。すなわち、機械加工により形成した孔は、加工精度の限界が存在するため、孔の径や孔の分布が不均一になる。さらに、たとえば孔の径が比較的小さい方が当該孔から噴射するガスを均一に供給することが可能となるが、機械加工により孔の径を小さくしようとすれば、当該孔が目詰まりを起こす可能性がある。このため、上述したように当該機械加工を施した金属材料をガス噴射板として用いた場合においても、上述したポーラス材を用いた場合と同様の状況となる可能性がある。
本発明は、以上の問題に鑑みなされたものである。その目的は、成膜用の所定のガスを均一に所望の処理対象物に供給することにより、装置の内部に不要に堆積物が蓄積されることが抑制される半導体製造装置を供給することである。
本発明に係る半導体製造装置は、処理対象物を保持するサセプタと、処理対象物の一方の主表面上に第1のガスを供給する供給部材と、処理対象物の一方の主表面と対向する領域から第2のガスを供給するバッファ室と、バッファ室から、サセプタが配置されるリアクタ室へ第2のガスを供給する境界部とを、処理容器の内部に備えている。上記境界部は多孔質材料で形成される。上記境界部を構成する多孔質材料は、処理対象物に第2のガスを均一に供給することにより第1のガスの均一な流れを供給することが可能な程度に径および分布が均一である多数の孔を有するように構成されている。上記多孔質材料はニッケルからなる金属多孔質体である。上記金属多孔質体の表面上に銀の薄膜が配置されている。
本発明に係る半導体製造装置は、処理対象物を保持するサセプタと、処理対象物の一方の主表面上に第1のガスを供給する供給部材と、処理対象物の一方の主表面と対向する領域から第2のガスを供給するバッファ室と、バッファ室から、サセプタが配置されるリアクタ室へ第2のガスを供給する境界部とを、処理容器の内部に備えている。上記境界部は均一な多孔質材料で形成される。
上述した第1のガスとは、たとえば基板(半導体基板)などの処理対象物の一方の主表面上に成膜を行なうために供給するガスである。また第2のガスとは、第1のガスを処理対象物の一方の主表面上に均一に供給するための流れを供給するガスである。第2のガスを、半導体製造装置のバッファ室からリアクタ室へ向けて噴射する境界部に、均一な多孔質材料で形成されたガス噴射板を配置する。なお、ここで均一な多孔質材料とは、第2のガスを処理対象物の一方の主表面上に均一に供給し、第1のガスの均一な流れを供給することが可能な程度に、多孔質を構成する多数の孔の径や分布が均一であることを意味する。
上記半導体製造装置においては、第1のガスを均一に処理対象物の主表面上に供給し、処理対象物に対して均一な薄膜を成膜するための流れを供給する第2のガスを均一に噴射するため、第2のガスの噴射する領域(境界部)として均一な多孔質材料で形成されたものを用いる。第2のガスは境界部から、リアクタ室の内部の、処理対象物の成膜しようとする主表面に向かう方向へ均一に噴射される。このため当該境界部は、供給部材から供給される第1のガスを均一に処理対象物の主表面上に供給するための流れを供給することができる。したがって処理対象物の成膜しようとする主表面上に、筋状の模様などが存在しない均一で高品質な薄膜を形成することができる。
また第2のガスの流れが第1のガスを処理対象物の成膜しようとする主表面に向かう方向へ導入される。このため、供給部材から供給された第1のガスがたとえば逆流して境界部の方へ向かおうとしても、第2のガスの流れに導かれて境界部と反対側に配置された処理対象物に向かう方向へと転向する。このため、境界部を構成する多孔質材料の表面上に第1のガスが廻り込むことにより、付着膜を堆積させるなどの不具合が発生することを抑制することができる。このように多孔質材料の表面上への付着膜の堆積が抑制されるため、多孔質材料の表面を始めとする当該半導体製造装置の処理容器の内部に存在する部材のクリーニングを行なう頻度を減少させることができる。
上述した半導体製造装置においては、上記多孔質材料はニッケルからなる金属多孔質体であることが好ましい。
本発明の発明者は鋭意研究の結果、特にニッケルからなる金属多孔質体の内部に存在する多数の孔の径や分布が、均一にガスを噴射させるために有効な条件を満足することを見出した。このため、上述した境界部を構成する多孔質材料としてニッケルからなる金属多孔質体を用いれば、バッファ室からリアクタ室へ供給される第2のガスを均一に噴射させることができる。したがって、より確実に均一な薄膜を処理対象物の主表面上に形成できるとともに、たとえば境界部の表面上や処理容器の内部の表面上に堆積物が蓄積されるなどの不具合をより確実に抑制することができる。
上述した金属多孔質体は、その表面上に銀の薄膜が配置されていることが好ましい。
ニッケルは有機金属ガスに接触すると腐食する。このため、ニッケルからなる金属多孔質体を用いて上述した第2のガスとして有機金属ガスを噴射する場合は、ニッケルからなる金属多孔質体の表面を銀で覆うことが好ましい。このようにすれば、銀で覆われた表面は有機金属ガスにより酸化されないため、上記の腐食を抑制することができる。なおここで、金属多孔質体の表面を銀で覆う処理は、たとえば蒸着やめっき処理を用いることにより行なうことが好ましい。
上述した半導体製造装置において供給部材は、リアクタ室の内部のうち、第1のガスを、処理対象物の一方の主表面に沿った方向に流通可能とする位置に配置され、境界部の主表面は、一方の主表面に対向するように配置されることが好ましい。
第1のガスを供給する供給部材を上述した位置に配置すれば、第2のガスの供給がない場合において、第1のガスは処理対象物の主表面に沿った方向に流れる。この状態で、処理対象物の主表面に交差する(略垂直な)方向から第2のガスを供給する。この場合、たとえば第1のガスと第2のガスとの流れの方向が異なり、両者は互いに交差することになる。すなわち、第1のガスと第2のガスとがそれぞれの流路の途中で干渉することになる。したがって、第2のガスは第1のガスの流路をより確実に制御することができるため、第1のガスと第2のガスとの流れる方向が略同一である場合に比べて、第1のガスが第2のガスの流れに逆らう方向に流れることをより確実に抑制することができる。したがって、より確実に均一な薄膜を処理対象物の主表面上に形成できるとともに、たとえば境界部の表面上や処理容器の内部の表面上に堆積物が蓄積されるなどの不具合をより確実に抑制することができる。
以上に述べた半導体製造装置においては、バッファ室の圧力が、リアクタ室の圧力よりも大きいことが好ましい。
バッファ室の圧力をリアクタ室の圧力よりも大きくすれば、バッファ室に供給された第2のガスを、多孔質材料で形成された境界部を介して、リアクタ室へ噴射させることができる。
以上に述べた半導体製造装置においては、バッファ室が複数の領域に分割されていてもよい。たとえばバッファ室が複数の領域に分割されていれば、複数のバッファ室のそれぞれから異なる種類の第2のガスをリアクタ室に供給することができる。また、複数のバッファ室のそれぞれからリアクタ室に供給される第2のガスのそれぞれの噴射される圧力を異なるものにしたり、自在に調節したりすることができる。このようにすれば、より確実に均一な薄膜を処理対象物の主表面上に形成できるとともに、たとえば境界部の表面上や処理容器の内部の表面上に堆積物が蓄積されるなどの不具合をより確実に抑制することができる。
本発明によれば、装置の内部に不要に堆積物が蓄積されることが抑制され、均一な薄膜を形成することができる半導体製造装置を供給することができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態において、同一の機能を果たす要素には同一の参照符号を付し、その説明は、特に必要がなければ繰り返さない。
(実施の形態1)
図1に示す、本実施の形態1に係る処理装置1は、処理対象物である基板(半導体基板)の一方の主表面上に、所望の材質からなる薄膜を形成するための装置である。処理装置1を形成する処理容器は、第2のガスを受け入れ、拡散させるためのバッファ室100と、基板が配置され、基板の主表面上に成膜を行なうリアクタ室200とから構成される。バッファ室100とリアクタ室200との境界部50は、バッファ室100に供給された上記第2のガスを、リアクタ室200の内部に供給するために配置された領域である。
処理装置1のリアクタ室200の内部には、基板を保持するサセプタ3と、サセプタ3の一方の主表面上(図1に示す上側の主表面上)に、成膜を行なうための第1のガスを供給する供給部材9と、供給部材9から供給される第1のガスを処理装置1の外部に排出する排気部材11とを備える。さらに、処理装置1は、サセプタ3のたとえば円形をなす主表面上に形成された搭載用凹部13に搭載される処理対象物である基板15を加熱するためのヒータ7と、サセプタ3を回転させるための駆動部材であるモータ20とを備える。
サセプタ3の裏面側の中央部には回転軸17が接続されている。回転軸17の下端は、モータ20とジョイント19を介して接続されている。このモータ20によって発生した駆動力は、ジョイント19および回転軸17を介してサセプタ3に伝達される。サセプタ3と回転軸17との接続部の構造は、任意の構造とすることができる。
サセプタ3の外周部の下面には、サセプタ3とともに回転可能なフレーム23が設置されている。サセプタ支持部21の下側には、サセプタ支持部21を固定する架台22が設置されている。架台22は図示しない処理装置1のベース部材もしくは他の固定された部材に接続固定されている。架台22のサセプタ支持部21と対向する表面上に配置された凸部22aおよび凸部22b、そしてサセプタ支持部21の架台22と対向する表面上に配置された凹部21aおよび凹部21bにより、図1に示すように両者は互いに嵌合されている。凹部21bおよび凸部22bは、凹部21aおよび凸部22aに比べて、図1における上下方向の寸法が大きい。そして凹部21bおよび凸部22bの延在する方向が、凹部21aおよび凸部22aと延在する方向と交差するように形成されている。このためサセプタ3やフレーム23の回転力が加われば、凸部22bが凹部21aの壁面と干渉する。したがって、凹部21bおよび凸部22bは架台22やサセプタ支持部21がともに回転することを抑制する。
第2のガスは、図1におけるガス導入口10からバッファ室100の内部に導入される。ここで第2のガスとは、薄膜を形成するために用いられる第1のガスの流れの方向を制御するために用いるガスである。したがって第2のガスとしては、成膜に用いる第1のガスと反応せず、第1のガスが基板15の主表面上において反応することによる成膜処理に直接影響を与えないガスを用いることが好ましい。このようなガスとして、たとえばアルゴンガスなどの不活性ガスや、窒素ガスなどを用いることが好ましい。このようにすれば、第1のガスが基板15の主表面上に均一に供給されるための流れを提供する効果を奏することができる。
ガス導入口10からバッファ室100の内部に導入された第2のガスは、バッファ室100のほぼ全領域に拡散する。そして当該第2のガスはリアクタ室200との境界部50を貫通することにより、図1の境界部50の下部に下向きの矢印で示す方向に流れる。このようにして当該第2のガスが、リアクタ室200の内部に導入される。上述したように第2のガスは、第1のガスの流れる方向を制御するために第1のガスが流れるリアクタ室200の内部に供給されるガスである。より具体的には、第2のガスは、供給部材9からリアクタ室200の内部に供給された第1のガスを、均一に基板15の主表面上に供給するための流れを提供するために噴射される。したがって第2のガスは、リアクタ室200の内部において均一に流れることが好ましい。第2のガスを均一にリアクタ室200の内部に導入するためには、第2のガスがリアクタ室200の内部に侵入する入口である境界部50の各領域において、当該第2のガスがリアクタ室200に向けて均一に流通することが好ましい。このため、境界部50の内部に存在する、第2のガスをバッファ室100からリアクタ室200へ向けて流通させる多数の孔の径や分布が均一であることが好ましい。より具体的には、境界部50は、均一な多孔質材料で形成されることが好ましい。
たとえば境界部50を構成する材質の内部に存在する、第2のガスを流通させるための孔の径や分布が不均一であれば、境界部50が延在する図1の左右方向の各領域間において、バッファ室100からリアクタ室200へ流通される第2のガスの圧力や流通量に偏りが生じる。たとえばバッファ室100の内部における第2のガスの圧力が全領域において一定である場合においても、境界部50に存在する多数の孔のうち、径が大きい孔からは多量の第2のガスが噴射される。しかし径が小さい孔からは第2のガスは少量しか噴射されない。またすべての孔の径が略同一であったとしても、当該孔の分布される密度が大きい領域、すなわち孔が多数密集している領域においては多量の第2のガスが噴射される。これに対して孔の分布される密度が小さい領域、すなわち孔が少数しか存在しない領域においては第2のガスは少量しか噴射されない。
バッファ室100から境界部50を通ってリアクタ室200に流通される第2のガスの流通量に偏りが生じると、第2のガスが第1のガスの流れる方向を制御する機能が阻害される。具体的には、たとえば境界部50のうち第2のガスの流通量が多い領域において第1のガスを強い圧力で基板15の主表面上に導入したとしても、他の領域において第2のガスの流通量が少なければ、当該ガスの流通量が少ない領域に向かって第1のガスが逆流する可能性がある。このようになれば、当該ガスの流通量が少ない領域において図1に示す境界部50の噴射面51の面上に第1のガスが廻り込む可能性がある。このため当該噴射面51の近傍に廻り込んだ第1のガスが加熱により反応して発生する、基板15の主表面上に形成させたい薄膜と同様の材質からなる付着膜が堆積することがある。上述したように付着膜が噴射面51などの表面上に堆積すると、これがパーティクルなどリアクタ室200の内部を汚染させる原因となる。
このため、当該境界部50に形成される、ガスを流通させる孔はその径や分布が各領域においてほぼ一定であることが好ましい。より具体的には、当該孔はその径が比較的小さく、その密度が比較的高いことが好ましい。すなわち境界部50には第2のガスを流通させる、径の小さい孔が多数存在することが好ましい。このようにすれば、バッファ室100から境界部50を介してリアクタ室200に供給される第2のガスの流れが、供給部材9から供給される第1のガスの流れを、基板15の主表面近傍の領域に均一に導入させることができる。また、たとえば基板15の主表面に沿った方向に供給される第1のガスが図1の下側から上側に逆流して境界部50の噴射面51の方に廻り込むことによる、噴射面51上に第1のガスによる付着膜の発生を抑制することができる。
なお、上述したように第2のガスは第1のガスと反応しない。このため、第1のガスにより基板15の主表面上に均一に成膜を行なうことができる。すなわち、たとえば基板15の主表面上の特定の領域における第1のガスの供給量が他の領域における当該ガスの供給量よりも少ないことにより、縞状や線状の模様などを伴う薄膜が形成されることを抑制することができる。
ところで、上述したように境界部50を貫通させることにより第2のガスを均一にリアクタ室200に導入するためには、境界部50の、図1における上下方向における厚みは1mm以上10mm以下とすることが好ましい。当該厚みを1mm以下にすれば、境界部50が第2のガスを均一にリアクタ室200に導入する効果が小さい。また当該厚みを10mm以上にすれば、境界部50を流れるガスの流速による圧力損失が高くなり、境界部50にガスが流れにくくなることがある。このため境界部50は上記厚みの範囲とすることが好ましい。
以上に述べたように、比較的径の小さい孔が多数(高密度に)均一に存在する多孔質材料として、たとえばニッケルからなる金属多孔質体を境界部50の材料として用いることが好ましい。ニッケルからなる金属多孔質体は、たとえば発泡状ウレタン樹脂に導電処理を施し、その上にニッケルめっきを行なったものに対して加熱を行ない、ウレタン樹脂を除去することにより形成される多孔質材料である。当該金属多孔質体の内部に含まれる孔の径はたとえば平均50μm程度であり、均一に孔が高密度に存在する。このためニッケルからなる金属多孔質体を上記の境界部50の材料として用いることにより、境界部50を貫通する第2のガスの機能をより高めることができる。
上述したニッケルからなる金属多孔質体のほかに、境界部50を構成する材料として、金属多孔質材料の金属膜(メタルシート)を用いてもよい。具体的にはたとえばクロム、鉄、ニッケル、ステンレス、マンガン、モリブデン、タングステン、アルミニウムを用いることが好ましい。ただし、第2のガスとして腐食性ガスを用いる場合には、上述した各材料のうちアルミニウム以外の材料を用いることが好ましい。
なお、たとえば境界部50を構成する材料としてニッケルからなる金属多孔質体を用いる場合には、当該金属多孔質体の表面上に銀の薄膜が配置されていることが好ましい。ニッケルは有機金属ガスに接触すると腐食することがある。このため、ニッケルからなる金属多孔質体を用いて上述した第2のガスとして有機金属ガスを噴射する場合は、当該金属多孔質体の表面を銀で覆うことが好ましい。具体的には、図2に示すようにニッケルからなる金属多孔質体で形成された境界部50の、特にリアクタ室200側の主表面上に銀薄膜60を形成したものを用いる。なおここで、ニッケルからなる金属多孔質体の主表面上に銀薄膜60を形成する処理は、たとえば蒸着やめっき処理を用いることにより行なうことが好ましい。
このようにすれば、リアクタ室200に導入された第2のガス(有機金属ガス)に当該金属多孔質体からなる境界部50が酸化され、腐食を起こす可能性を低減することができる。このため、境界部50の品質の低下を抑制することができる。
供給部材9は、リアクタ室200の内部に配置されており、リアクタ室200の内部に配置されたサセプタ3に保持された基板15の主表面上に成膜を行なうための第1のガスを供給する。ここで供給部材9は、図1に示すように、リアクタ室200の内部のうち第1のガスを基板15の主表面に沿った方向(図1における左右方向)に流通可能とする位置に配置されることが好ましい。このとき第2のガスを流通させる境界部50が、基板15の主表面に対向する方向(図1における基板15の上側)に配置されることが好ましい。すなわち、処理装置1において、第1のガスの流通する方向と、第2のガスの流通する方向とが互いに交差するように、境界部50や供給部材9が配置されることが好ましい。
たとえば処理装置1において、第1のガスが第2のガスと同様に基板15の主表面に交差する方向(図1における上下方向)に流通する場合を考える。この場合、第1のガスと第2のガスとは互いに沿った方向に(略平行に)流通する。このため、基板15の主表面に沿った方向に関して独立に流通し、両者が互いに干渉しなくなる可能性がある。この場合、第2のガスをリアクタ室200の内部に供給しても、第2のガスが第1のガスと干渉しないため、第2のガスが第1のガスの流通方向を基板15の主表面上に供給する方向に制御することが困難となる可能性がある。すると第1のガスが第2のガスによる流通方向の制御を受けないため、たとえば第1のガスが基板15の主表面に向かう方向に対して逆流して境界部50の噴射面51の配置された方向に向かい、当該噴射面51上に付着膜を形成する可能性がある。
しかしながら、たとえば図1の処理装置1のように、供給部材9から供給される第1のガスを図1に矢印で示す左右方向(右側から左側へ向かう方向)に流通させ、境界部50からリアクタ室200に供給される第2のガスを図1に矢印で示すように上下方向に流通させる。このようにすれば、図1における上側から下側に向かう方向に流通する第2のガスは、図1の右側から左側に向かう方向に流通する第1のガスと、境界部50に対して第2のガスの流路の下流側において干渉する。すると第2のガスは第2のガスが流通する方向、すなわち基板15の主表面の近傍に向かう方向に第1のガスが流通するように制御する。したがって上記の配置とすることにより、第2のガスは、第1のガスをより確実に、基板15の主表面上に導入することにより、基板15の主表面上に均質な薄膜を形成させることができる。さらに、第2のガスは、たとえば境界部50の表面(噴射面51)上や処理容器の内部の表面上に第1のガスが到達することにより、当該表面上に堆積物が蓄積されるなどの不具合をより確実に抑制することができる。
なお、上述した処理装置1において、バッファ室100の内部の圧力は、リアクタ室200の内部の圧力よりも大きいことが好ましい。すなわち、ガス導入口10からバッファ室100の内部に第2のガスが供給されることによるバッファ室100の内部の圧力は、リアクタ室200の内部の圧力よりも大きくすることが好ましい。このような状態とするためには、たとえば図示しないガス導入口10のガス源を調整し、ガス導入口10からバッファ室100の内部に導入される第2のガスの流量を制御することによりバッファ室100の内部の圧力を調整する。また、たとえば図示しない圧力制御弁を用いて排気部材11が排気するガスの量を調整し、リアクタ室200の内部におけるガスの量を制御することにより、リアクタ室200の内部の圧力を調整する。
バッファ室100の内部の圧力をリアクタ室200の内部の圧力よりも大きくすることにより、バッファ室100の内部に導入された第2のガスを、スムーズに境界部50を介してリアクタ室200の方に流通させることができる。バッファ室100とリアクタ室200との圧力の差により、バッファ室100の内部のガス(第2のガス)が、境界部50を介して、リアクタ室200の内部に流通される。
ここで、上記処理装置1の動作を簡単に説明する。処理装置1においては、基板15をサセプタ3の搭載用凹部13に配置する。そしてバッファ室100およびリアクタ室200の内部を所定の圧力に設定する。当該圧力の設定は、たとえば排気部材11によりリアクタ室200の内部の雰囲気ガスを排気することにより行なってもよい。上記の所定の圧力に設定がなされた後、ヒータ7を動作させることによりサセプタ3を介して基板15を所定の温度(処理温度)に加熱する。このとき、同時にモータ20を駆動させることにより、ジョイント19および回転軸17を介してサセプタ3を回転させる。基板15の温度が処理温度となった状態で、供給部材9から図1の矢印に示す方向(右側から左側へ向かう方向)に、第1のガスを所定量供給する。また同時に、ガス導入口10からバッファ室100に、所定の圧力により第2のガスを所定量供給し、境界部50を介してリアクタ室200の方に流通させることが可能な状態とする。この状態で、基板15と対向する領域において反応ガスが分解し、基板15の表面に反応ガスの成分を原料とする膜(たとえば窒化ガリウム(GaN)からなる膜)が形成される。なお、成膜反応に用いられた後のガスは排気部材11によってリアクタ室200の内部から排気される。このようにして、基板15の表面に所定の膜を形成することができる。
このとき、第2のガスを用いて所定の制御を行なうことにより、基板15の表面には第1のガスによる所定の膜を均質に形成することができる。より具体的には当該膜は、たとえば筋状や線状の模様や、同心円状の模様などの不均質な領域を含まない、均質な薄膜とすることができる。また、第2のガスの流れが第1のガスを基板15の主表面近傍の領域に流れ込むよう導入する。このため第1のガスが逆流してたとえば境界部50の噴射面51の表面上に付着膜が堆積したり、第1のガスがリアクタ室200の内部の壁面の近傍に到達することにより当該壁面の表面上に付着膜が堆積することを抑制することができる。したがってリアクタ室200の内部における不要な付着膜の発生を抑制することができ、当該付着膜に起因するリアクタ室200の内部の汚染や、クリーニングによる処理装置1の操業停止などの作業の発生を抑制することができる。
(実施の形態2)
図3に示す、本実施の形態2に係る処理装置2は、上述した処理装置1と基本的に同様の態様を備えている。しかし処理装置2は、バッファ室がバッファ室100A、100B、100Cの3つの領域に分かれている。これに伴い、ガス導入口もガス導入口10A、10B、10Cの3つの領域に分かれており、境界部50も境界部50A、50B、50Cの3つの領域に分かれている。以上の点についてのみ、処理装置2は処理装置1と異なる。
処理装置2のように、バッファ室を複数の領域に分割してもよい。このようにすれば、供給部材9からリアクタ室200の内部に供給される、成膜を行なうための第1のガスを制御するための第2のガスを、複数種類用いることができる。たとえばガス導入口10Aからバッファ室100Aに導入する第2のガスとして窒素ガスを、ガス導入口10Bからバッファ室100Bに導入する第2のガスとして不活性ガスであるアルゴンガスを導入することもできる。あるいは、たとえば図3の処理装置2において基板15に対向する、すなわち基板15に最も近いバッファ室100Bから境界部50Bを介してリアクタ室200に導入する第2のガスを、他のバッファ室からリアクタ室200に導入する第2のガスよりも圧力を大きくして、流通量を多くすることができる。このように、リアクタ室200の領域に応じて供給される第2のガスの圧力や供給量を調整することができる。さらに、たとえば境界部50Bを構成する多孔質材料として、もっとも径の小さい孔が高密度に(多数)備わったニッケルからなる金属多孔質体を用い、境界部50Aや境界部50Cにおいてはやや径の大きい孔が低密度に、ただし均一に分布された金属多孔質材料を用いることができる。
以上のようにすれば、たとえば処理装置1のように単一種類の第2のガスを、リアクタ室200の全領域に対して同じ圧力で供給する場合に比べて、さらに精密に、第1のガスの供給される領域や量を制御することができる。したがって処理装置2を用いることにより、第2のガスは、第1のガスをより確実に、基板15の主表面上に導入することにより、基板15の主表面上に均質な薄膜を形成させることができる。さらに、第2のガスは、たとえば境界部50の表面(噴射面51)上や処理容器の内部の表面上に第1のガスが到達することにより、当該表面上に堆積物が蓄積されるなどの不具合をより確実に抑制することができる。
本発明の実施の形態2は、以上に述べた各点についてのみ、本発明の実施の形態1と異なる。すなわち、本発明の実施の形態2について、上述しなかった構成や条件、手順や効果などは、全て本発明の実施の形態1に順ずる。
以上のように本発明の各実施の形態について説明を行なったが、今回開示した各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。