JP5428390B2 - 車両接地面摩擦状態推定装置及びその方法 - Google Patents
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Description
本発明の課題は、タイヤのグリップ特性を適切に推定することである。
また、本発明は、検出した現在のタイヤ力と現在のスリップ度との検出値比を基準値比とし、該基準値比に対応する前記接線の傾きを、想定した接線勾配相関関係マップを参照して得て、その得た接線の傾きを車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータとして出力する。
ここで、タイヤ特性が異なる場合に、タイヤ力とスリップ度との比と、該タイヤ力と該スリップ度との相関関係が成立する連続した特性線の該比における接線の傾きとの相関関係が異なることがある。このとき、タイヤ力とスリップ度との相関関係が直線関係となる領域の該タイヤ力と該スリップ度との比も異なるものとなる。
このような場合に、前記比と前記接線の傾きとの相関関係の変化と、タイヤ力とスリップ度との相関関係が直線関係となる領域の該タイヤ力と該スリップ度との比の変化との間には、ある相関がある。
これにより、タイヤのグリップ特性を適切に推定することが可能となる。
(実施形態の前提となる技術)
先ず、本実施形態の前提となる技術を説明する。
(1)車輪のスリップ率と車輪の制駆動力との関係
図1はタイヤ特性曲線を示す。このタイヤ特性曲線は、駆動輪のスリップ率λと駆動輪の制駆動力(又は前後力)Fxとの間に成立する一般的な相関関係を示す。例えば、マジックフォーミュラ(MagicFormula)といったタイヤモデルからタイヤ特性曲線を得る。ここで、制駆動力Fxは、タイヤから地面に作用する力である。また、制駆動力Fxが接地面において車輪に作用する車輪力に相当する。車輪のスリップ率λが車輪のスリップ度に相当する。
ここで、図1に示すように、タイヤ特性曲線の原点を通る任意の直線a,b,c,d,…を描く。すると、タイヤ特性曲線に対して交わる任意の直線a,b,c,d,…との交点(同図中に○印で示す交点)でタイヤ特性曲線の接線の傾きを得ることができる。そして、タイヤ特性曲線の接線の傾きは各交点で異なるものとなる。このようなタイヤ特性曲線の接線の傾きに着目することで、スリップ率λと制駆動力Fxとの間にある関係や線形関係から非線形関係への遷移の状態を知ることができる。
そして、各タイヤ特性曲線で制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)が同一となる値(λ,Fx)に関し、異なるタイヤ特性曲線間で得られる制駆動力Fx同士の比又はスリップ率λ同士の比は、路面μの比と等しくなる。
図5に示すように、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)が同一となる値(λ,Fx)(同図中に■印、●印でそれぞれ示す値)でそれぞれ得られる制駆動力a2と制駆動力b2との比(a2/b2)と、路面Aの路面μ値μAと路面Bの路面μ値μBとの比(μA/μB)とは同一値になる。
このようなことから、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)が同一となる値(λ,Fx)と原点(0,0)とをそれぞれ結んで得られる線長a1と線長b1との比(a1/b1)と、路面Aの路面μ値μAと路面Bの路面μ値μBとの比(μA/μB)とは同一値になる。このことは、幾何学的に次のように証明できる。
図6は、路面μが異なる路面で得た制駆動力Fxとスリップ率λとの関係を示す。図6中、振動波形は、Dry路、Wet路及び低μ路で得た実測値を示す。また、点線は、それぞれの路面におけるタイヤ(ノーマルタイヤ)の特性曲線を示す。図6に示すように、路面μが異なる各路面におけるタイヤ特性曲線が、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)を維持しながらも、路面μが小さくなるほど制駆動力Fx及びスリップ率λが小さくなる。
図7に示すように、路面μが異なる各路面におけるタイヤ特性曲線(細線の点線)が、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)を維持しながらも、路面μが小さくなるほど、制駆動力Fx及びスリップ率λが小さくなる。さらに、ノーマルタイヤのタイヤ特性曲線(太線の点線)の制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)と、スタッドレスタイヤのタイヤ特性曲線(細線の点線)の制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)とが、同一値となっている。すなわち、ノーマルタイヤのタイヤ特性曲線とスタッドレスタイヤのタイヤ特性曲線とは相似形状となる。つまり、スタッドレスタイヤのようにグリップ力やタイヤの表面形状等が異なる場合でも、ノーマルタイヤのタイヤ特性曲線の制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)と同一値となる。
すなわち、乾燥アスファルト路面や凍結路面等、路面μが異なる路面であっても、この特性曲線は成立する。或いは、この特性曲線は、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含んでいると言える。このように図9に示す特性曲線は、図1と同様に、タイヤ特性曲線を示していると言える。しかし、図1と区別して、図9の特性曲線を例えばグリップ特性曲線と呼ぶこともできる。
本願発明者は、以上に述べたように、各路面μのタイヤ特性曲線について、そのタイヤ特性曲線の原点を通る任意の一の直線とタイヤ特性曲線との交点で、接線の傾きが同一となる点を発見した。すなわち、各路面μのタイヤ特性曲線について、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)が同一になる値(λ,Fx)で接線の傾きが同一となる点を発見した。
これにより、制駆動力Fx同士の比、スリップ率λ同士の比、又は線長同士の比がわかれば、路面μの比を知ることができる。
図10はタイヤ特性曲線を示す。このタイヤ特性曲線は、車輪のスリップ角βtと車輪の横力Fyとの間に成立する一般的な相関関係を示す。例えば、タイヤモデルを実験データを基にチューニングすることで、前後輪それぞれで二輪分の等価特性図(タイヤ特性曲線)を得る。ここで、例えば、マジックフォーミュラ(MagicFormula)を基にタイヤモデルを構築している。横力Fyは、コーナリングフォースやサイドフォースに代表される値である。ここで、横力Fyは、タイヤから地面に作用する力である。また、横力Fyが接地面において車輪に作用する車輪力に相当する。車輪のスリップ角βtが車輪のスリップ度に相当する。
ここで、図10に示すように、タイヤ特性曲線の原点を通る任意の直線a,b,c,…を描く。すると、タイヤ特性曲線に対して交わる任意の直線a,b,c,…との交点(図10中に○印で示す交点)でタイヤ特性曲線の接線の傾きを得ることができる。そして、タイヤ特性曲線の接線の傾きは各交点で異なるものとなる。このようなタイヤ特性曲線の接線の傾きに着目することで、スリップ角βtと横力Fyとの間にある関係や線形関係から非線形関係への遷移の状態を知ることができる。
そして、各タイヤ特性曲線で横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が同一となる値(βt,Fy)に関し、異なるタイヤ特性曲線で得られる横力Fy同士の比又はスリップ角βt同士の比は、路面μの比と等しくなる。
図14に示すように、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が同一となる値(βt,Fy)(同図中に■印、●印でそれぞれ示す値)でそれぞれ得られる横力a2と横力b2との比(a2/b2)と、路面Aの路面μ値μAと路面Bの路面μ値μBとの比(μA/μB)とは同一値になる。
このようなことから、路面Aで得られるタイヤ特性曲線と路面Bで得られるタイヤ特性曲線とで、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が同一となる値(βt,Fy)と原点(0,0)とをそれぞれ結んで得られる線長a1と線長b1との比(a1/b1)と、路面Aの路面μ値μAと路面Bの路面μ値μBとの比(μA/μB)とは同一値になる。このことは、幾何学的に次のように証明できる。
ここで、制駆動力Fx及び横力Fyはタイヤ力Fとして観念でき、スリップ率λ及びスリップ角βtはスリップ度Sとして観念できる。また、例えば、制駆動力Fxと横力Fyとの合力も、タイヤ力Fとして観念できる。
このように制駆動力Fx及び横力Fyがタイヤ力Fとして観念でき、スリップ率λ及びスリップ角βtがスリップ度Sとして観念できることから、タイヤ力F及びスリップ度Sについても、前記図5や図14に示したような関係を得ることができる。
図16は、タイヤ特性曲線の任意点の横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)と、その任意点でのタイヤ特性曲線の接線の傾き(∂Fy/∂βt)との関係を示す。図16に示すように、どの各路面μ(例えばμ=0.2、0.5、1.0)でも、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤ特性曲線の接線の傾きとが一定の関係を示している。
本願発明者は、以上に述べたように、各路面μのタイヤ特性曲線について、そのタイヤ特性曲線の原点を通る任意の一の直線とタイヤ特性曲線との交点で、接線の傾きが同一となる点を発見した。すなわち、各路面μのタイヤ特性曲線について、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が同一になる値(βt,Fy)で接線の傾きが同一となる点を発見した。
また、本願発明者は、路面μが異なるタイヤ特性曲線で、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が同一となる値(βt,Fy)での横力Fy同士の比、スリップ角βt同士の比、又は前記線長同士の比が、路面μの比と等しくなる点を発見した。
これにより、横力Fy同士の比、スリップ角βt同士の比、又は線長同士の比がわかれば、路面μの比を知ることができる。
以上の技術の採用により実現した実施形態を次に説明する。
(構成)
本実施形態は、本発明を適用した車両である。図17は、車両の概略構成を示す。図17に示すように、車両は、操舵角センサ21、ヨーレイトセンサ22、横加速度センサ23、前後加速度センサ24、車輪速センサ25、EPSECU(ElectricPower Steering Electronic Control Unit)26、EPS(Electric Power Steering)モータ27及び車両走行状態推定装置28を備える。
車両走行状態推定装置28は、操舵角センサ21、ヨーレイトセンサ22、横加速度センサ23、前後加速度センサ24及び車輪速センサ25の検出結果を基に、走行路面の路面状態(路面μ)を推定する。車両走行状態推定装置28は、その推定結果をEPSECU26に出力する。
車体スリップ角推定部42は、操舵角センサ21が検出した操舵角、ヨーレイトセンサ22が検出したヨーレイト、横加速度センサ23が検出した横加速度、前後加速度センサ24が検出した前後加速度及び車体速度演算部41が算出した車体速度を基に、車両の横滑り角(スリップ角)を推定する。
そして、この状態方程式を基に、ヨーレイトと横加速度とを入力とし、オブザーバゲインK1として、線形2入力オブザーバ51を作成する。ここで、オブザーバゲインK1は、モデル化誤差の影響を受けにくく且つ安定した推定を行えるように設定した値である。
図20は、車体横滑り角βで走行している旋回中の車両を示す。図20に示すように、車体に働く場の力、つまり旋回中心から外側に向かって働く遠心力も、車幅方向から横滑り角β分ずれた方向に発生する。そのため、β推定補償器53は、下記(3)式に従って場の力のずれ分β2を算出する。このずれ分β2は、線形2入力オブザーバ51が推定した車両の横滑り角βに補正をかけるときの基準値(目標値)Gとなる。
図22の制御マップでは、車両の横方向加速度Gyの絶対値(|Gy|)が第1しきい値以下である場合、補償ゲインK2が零となる。また、車両の横方向加速度Gyの絶対値が第1しきい値よりも大きい第2しきい値以上の場合、補償ゲインK2が比較的大きい一定値となる。また、車両の横方向加速度Gyの絶対値が第1しきい値と第2しきい値との間にある場合、横方向加速度Gyの絶対値が大きくなるほど、補償ゲインK2が大きくなる。
タイヤ横力演算部44は、ヨーレイトセンサ22が検出したヨーレイトγ及び横加速度センサ23が検出した横加速度Gyを基に、下記(6)式に従って前後輪それぞれの横力Fyf,Fyrを算出する。
Fy/βt演算部45は、タイヤスリップ角演算部43及びタイヤ横力演算部44が算出した前後輪のスリップ角βf,βr及び横力Fyf,Fyrを基に、横力Fyf,Fyrとスリップ角βtf,βtrとの比(Fyf/βtf,Fyr/βtr)を算出する。Fy/βt演算部45は、その算出結果をタイヤグリップ状態演算部46に出力する。
旋回特性演算部47は、前後輪のμ勾配を基に、旋回状態(車両挙動)を判定する。図24は、その判定処理の処理手順を示す。図24に示すように、先ずステップS11において、旋回特性演算部47は、車両挙動の指標となるスタティックマージンSMを算出する。具体的には、旋回特性演算部47は、前後輪のμ勾配Kf,Krを基に、下記(7)式に従ってスタティックマージンSMを算出する。
ステップS13では、旋回特性演算部47は、車両の旋回特性がニュートラルステア傾向にある(ニュートラルステアである可能性が高い)と判定する。また、ステップS15では、旋回特性演算部47は、車両の旋回特性がアンダーステア傾向にある(アンダーステアになる可能性が高い)と判定する。さらに、ステップS16では、旋回特性演算部47は、車両の旋回特性がオーバステア傾向にある(オーバステアになる可能性が高い)と判定する。旋回特性演算部47は、その判定結果を、旋回アシスト指令値演算部48に出力する。
旋回アシスト指令値演算部48は、旋回特性演算部47の判定結果を基に、旋回アシスト指令値を算出する。図25は、その処理手順を示す。図25に示すように、先ずステップS21において、旋回アシスト指令値演算部48は、旋回特性がニュートラルステア傾向(SM=0)であるか否かを判定する。旋回アシスト指令値演算部48は、旋回特性がニュートラルステア傾向の場合、該図25の示す処理を終了する。また、旋回アシスト指令値演算部48は、そうでない場合(SM≠0、アンダーステア傾向又はオーバステア傾向)、ステップS22に進む。
旋回アシスト指令値演算部48は、前輪のμ勾配が所定のしきい値Ky1未満の場合(μ勾配<Ky1)、ステップS24に進む。また、旋回アシスト指令値演算部48は、前輪のμ勾配が所定のしきい値Ky1以上の場合(μ勾配≧Ky1)、該図25の示す処理を終了する。
ここで、旋回アシスト指令値演算部48は、前輪のμ勾配が所定のしきい値Ky2未満の場合(μ勾配<Ky2)、ステップS26に進む。また、旋回アシスト指令値演算部48は、前輪のμ勾配が所定のしきい値Ky2以上の場合(μ勾配≧Ky2)、該図25の示す処理を終了する。
以上のような処理手順により、旋回アシスト指令値演算部48が旋回特性演算部47の判定結果に基づく処理を行っている。
線形域Cp値推定部49は、線形域のCp値(μ勾配)を推定し、推定したCp値を基に、マップ補正のための補正値(補正比)を算出する。
線形域Cp値推定部49は、スリップ角βtが所定範囲にある場合(|βt|<βtth)、ステップS44に進み、タイヤ特性曲線の線形域で自車両が旋回走行しているとの判定をする。また、線形域Cp値推定部49は、そうでない場合、前記ステップS45に進む。
以上のような処理手順により判定を行う。
続いてステップS36において、線形域Cp値推定部49は、前記ステップS35にて履歴情報として記憶されている、複数の横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)を統計演算する。具体的には、線形域Cp値推定部49は、履歴情報となる複数の横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)の平均値を算出する(((Fy/βt)1+(Fy/βt)2+・・・+(Fy/βt)N)/N)。
続いてステップS38において、線形域Cp値推定部49は、補正値となる補正比を算出する。具体的には、線形域Cp値推定部49は、基準Cp値Cp0と実測Cp値Cp0’との比を補正比R(=Cp0’/Cp0)を算出する。
補正比Rは、基準Cp値Cp0(基準路面での線形域のμ勾配)よりも実測Cp値Cp0’(実際のタイヤで得られる線形域のμ勾配)の方が大きい場合には、1よりも小さくなる。すなわち、補正比Rは、実際のタイヤで得られるタイヤ特性曲線の線形域のμ勾配の方が立っている場合には、1よりも小さくなる。また、補正比Rは、その反対に、基準Cp値Cp0よりも実測Cp値Cp0’の方が小さい場合には、1よりも大きくなる。すなわち、補正比Rは、実際のタイヤで得られるタイヤ特性曲線の線形域のμ勾配の方が寝ている場合には、1よりも大きくなる。
図28(a)は、基準路面のグリップ特性曲線からなるμ勾配特性マップ46a(データ)の一例を示す。このμ勾配特性マップ46aは、x軸をFy/βtとし、y軸をμ勾配とした2次元平面で、基準路面のグリップ特性曲線を描く各座標値(x0,y0),(x1,y1),・・・,(xn,yn)(ここで、nは任意の整数)からなる。
マップ補正部50は、このようなμ勾配特性マップ46aの各座標値(xi,yi)(i=0〜n)に対して補正比Rを掛け算して、図28(b)に示すような補正後のμ勾配特性マップ46a(R・xi,R・yi)を作成する。
(μ勾配に基づく車両制御)
図29を用いて説明する。
自車両の走行中、車体走行状態推定装置28では、車体速度演算部41が車体速度を算出する(ステップS51)。車体走行状態推定装置28では、タイヤスリップ角推定部44が前後輪のスリップ角βtf,βtrを算出する(ステップS52)。また、車体走行状態推定装置28では、タイヤ横力演算部44が前後輪の横力Fyf,Fyrを算出する(ステップS53)。そして、車体走行状態推定装置28では、Fy/βt演算部45が前後輪それぞれについて、横力Fyf,Fyrとスリップ角βtf,βtrとの比(Fyf/βtf,Fyr/βtr)を算出する(ステップS54)。
すなわち、車体走行状態推定装置28は、スタティックマージンSMが正値の場合(SM>0)、旋回特性がアンダーステア傾向であると判定する(前記ステップS15)。このとき、車体走行状態推定装置28は、前輪のμ勾配が所定のしきい値Ky1未満であることを条件に、運転者による操舵の切り増しを抑制する方向に操舵反力を付加する制御を実施する(前記ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS24)。これにより、車両がドリフトアウトしてしまうのを防止している。
以上のように、μ勾配を所定のしきい値Ky1,Ky2と比較するだけで車輪のグリップ状態を判定している。そして、車輪のグリップ力が限界領域(飽和状態又はその近傍の状態)にあるときに、その摩擦限界に対する余裕度を適切に推定して、その余裕度に合致した操舵反力付加制御を実施している。
線形域Cp値推定部49は、車体速度Vが所定のしきい値Vthよりも大きく、かつタイヤ特性曲線の線形域で自車両が旋回していると判断できる場合、その旋回走行中に算出(検出される)される横力Fy及びスリップ角βtの比(Fy/βt)を履歴情報として記憶していく。さらに、線形域Cp値推定部49は、平均値を算出していく(前記ステップS31〜ステップS36)。そして、線形域Cp値推定部49は、その履歴データ数(N)が所定のしきい値Nthよりも大きくなったとき、補正比R(=Cp0’/Cp0)を算出する(前記ステップS37〜ステップS38)。
ここで、一般の生産車にあっては、販売後にユーザがタイヤを出荷時と異なるものに交換することが容易に想定される。この場合、車両のタイヤ特性も変化し、システム内で持っていたμ勾配特性マップ(グリップ特性曲線)が成立しなくなる恐れがある。これは次のような理由からである。
図32は、補正後のμ勾配特性マップの形状を示す。図32に示すように、μ勾配特性マップをなすグリップ特性曲線は、R倍されることで、原点を固定して、Fy/βt軸(x軸)方向及びμ勾配軸(y軸)方向でR倍変化する。これにより、グリップ特性曲線の形状は拡大又は縮小する。この結果、μ勾配特性マップは、基準路面で得たグリップ特性曲線から実装するタイヤのグリップ特性曲線に変更されたものとなる。
マップ補正部50は、このような基準Cp値Cp0と実測Cp値Cp0’との比である補正比R(=Cp0’/Cp0)をμ勾配特性マップ(18インチタイヤのグリップ特性曲線)をなす各値に掛け算する。これにより、μ勾配特性マップは、Fy/βt軸方向及びμ勾配軸方向でR倍変化する。すなわち、図31に示すように、μ勾配特性マップの形状は、原点を固定して、Fy/βt軸方向及びμ勾配軸方向でR倍だけ縮小する。この結果、μ勾配特性マップは、18インチタイヤのグリップ特性曲線から実装する15インチタイヤのグリップ特性曲線に変更されたものとなる。
(1)この実施形態では、タイヤ特性曲線の線形域で自車両が旋回走行していると判断できる場合、その旋回走行中の横力Fy及びスリップ角βtを記憶し、平均値として実測Cp値Cp0’を算出している。しかし、本実施形態はこれに限定されない。すなわち、システムのメモリや処理能力に余裕があれば、旋回中の有無にかかわらず、走行中(旋回の他、直進も含む走行中)に横力Fy及びスリップ角βtを計測して、近似曲線としてタイヤ特性曲線を得る。そして、近似曲線として得たタイヤ特性曲線の原点近傍、すなわちタイヤ特性曲線の線形域から実測Cp値Cp0’を算出することもできる。
(4)この実施形態では、統計演算により平均値を算出している(前記ステップS36)。これに対して、他の統計演算、例えば最頻値等により値を算出することもできる。
(6)各輪それぞれについて基準路面のグリップ特性曲線を備え、各輪についてμ勾配を算出し、算出した各輪のμ勾配を基に走行制御することもできる。また、また、全輪について、ある一つのμ勾配を算出することもできる。
(7)スリップ度は、地面に対するスリップ力の方向で車輪接地面の相対速度ベクトルを表す値でもある。
そして、前記基準値比における接線の傾きとは、タイヤ力とスリップ度との相関関係が成立する連続した特性線で基準値比で特定できる点の接線の傾きとなる。接線勾配相関関係マップは、このような基準値比と接線の傾きとの相関関係を曲線で想定してモデル化したものとなる。
(1)車両走行状態推定装置28は、基準路面で得られる車輪のタイヤ力と車輪のスリップ度との比である基準値比と、該タイヤ力と該スリップ度との相関関係(タイヤ特性曲線)が成立する連続した特性線の前記基準値比における接線の傾きとの相関関係を曲線(グリップ特性曲線)でモデル化した接線勾配相関関係マップを備える。
また、車両走行状態推定装置28は、検出した現在のタイヤ力と現在のスリップ度との検出値比を基準値比とし、該基準値比に対応する前記接線の傾きを接線勾配相関関係マップを参照して得て、前記接線の傾きを車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータとして出力する。
ここで、タイヤ特性が異なる場合に、タイヤ力とスリップ度との比と、該タイヤ力と該スリップ度との相関関係(タイヤ特性曲線)が成立する連続した特性線の該比における接線の傾きとの相関関係(グリップ特性曲線)が異なることがある。このとき、タイヤ力とスリップ度との相関関係(タイヤ特性曲線)が直線関係となる領域の該タイヤ力と該スリップ度との比も異なるものとなる。
以上のような構成において、グリップ特性パラメータとして出力される接線勾配相関関係マップの接線の傾きは、タイヤの摩擦限界又はタイヤ摩擦限界までの余裕度といったようなタイヤのグリップ特性を示すものとなる。
また、相関関係(タイヤ特性曲線)が直線関係となる領域の検出値比と相関関係(タイヤ特性曲線)が直線関係となる領域の基準値比とを基に接線勾配相関関係マップ(グリップ特性曲線)を補正することで、接線勾配相関関係マップを該検出値比が得られるタイヤ特性のものに合致させることができる。
これにより、タイヤを履き替えた場合でも、その実装するタイヤのグリップ特性を適切に推定できる。
この場合、補正手段は、相関関係(タイヤ特性曲線)が直線関係となる領域の検出値比を相関関係(タイヤ特性曲線)が直線関係となる領域の基準値比で除して得た補正係数を、接線勾配相関関係マップの基準値比と接線の傾きとにそれぞれ掛け算して該接線勾配相関関係マップの補正をする。
これにより、タイヤを履き替えた場合に接線勾配相関関係マップに生じる誤差と、検出値比を基準値比で除した値との間の相関関係を利用して、接線勾配相関関係マップを適切に補正できる。
y=f(x)
として関数表現されたものである。
この場合、補正手段は、検出値比を基準値比で除して得た補正係数Rを基に、
y/R=f(x/R)
として接線勾配相関関係マップの補正をする。
これにより、タイヤを履き替えた場合に接線勾配相関関係マップに生じる誤差と、検出値比を基準値比で除した値との間の相関関係を利用して、接線勾配相関関係マップを適切に補正できる。
これにより、適切な検出値比により接線勾配相関関係マップを補正できる。
(5)補正手段は、自車両の走行中に検出したタイヤ力とスリップ度とを基に算出した検出値比が、ドライ路面で得られる車輪のタイヤ力と車輪のスリップ度との相関関係(タイヤ特性曲線)が直線関係となる領域における該タイヤ力と該スリップ度との比以下となるとき、該検出値比を接線勾配相関関係マップの補正に用いる。
これにより、ドライ路面を基準にして検出値比を選定することができ、結果として、適切な検出値比により接線勾配相関関係マップを補正できる。
この場合、補正手段は、判定手段が相関関係(タイヤ特性曲線)が直線関係となると判定した場合、タイヤ特性相関関係マップの補正を行う。
これにより、相関関係(タイヤ特性曲線)が直線関係となるときの検出値比を適切に検出できる。
タイヤ力とスリップ度との相関関係(タイヤ特性曲線)が、車両走行状態に応じて線形域と非線形域とで変化するため、車両走行状態を参照することで、相関関係(タイヤ特性曲線)が直線関係となる領域を適切に検出できる。
タイヤ力とスリップ度との相関関係(タイヤ特性曲線)が、自車両の車両加速度、ヨーレイト及びスリップ度に応じて線形域と非線形域とで変化するため、自車両の車両加速度、ヨーレイト及びスリップ度を参照することで、相関関係(タイヤ特性曲線)が直線関係となる領域を適切に検出できる。
この接線勾配相関関係マップは、基準値比と相関関係(タイヤ特性曲線)の接線の傾きとの相関関係を適切に表現している。
これにより、タイヤのグリップ特性を適切に推定することが可能となる。
これにより、タイヤの横力及びスリップ角に関するグリップ特性を適切に推定することが可能となる。
(11)タイヤ力はタイヤの制駆動力であり、スリップ度はタイヤのスリップ率である。
これにより、タイヤの制駆動力及びスリップ率に関するグリップ特性を適切に推定することが可能となる。
Claims (12)
- 車両の車輪の接地面グリップ特性を推定するための車両接地面摩擦状態推定装置において、
車輪のタイヤ力を検出するタイヤ力検出手段と、
前記車輪のスリップ度を検出するスリップ度検出手段と、
前記タイヤ力検出手段が検出したタイヤ力と前記スリップ度検出手段が検出したスリップ度との比である検出値比を算出する比算出手段と、
基準タイヤにより基準路面で得られる車輪のタイヤ力と車輪のスリップ度との比である基準値比と、該タイヤ力と該スリップ度との相関関係が成立する連続した特性線の前記基準値比における接線の傾きとの相関関係を曲線で想定してモデル化した接線勾配相関関係マップと、
前記タイヤ力検出手段が検出した現在のタイヤ力と前記スリップ度検出手段が検出した現在のスリップ度とを基に前記比算出手段が算出した検出値比を前記基準値比とし、該基準値比に対応する前記接線の傾きを前記想定した接線勾配相関関係マップを参照して得て、その得た接線の傾きを車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータとして出力するグリップ特性出力手段と、
前記タイヤ力検出手段が検出したタイヤ力と前記スリップ度検出手段が検出したスリップ度との相関関係が直線関係となる領域で前記比算出手段が算出した検出値比と、前記想定した接線勾配相関関係マップのタイヤ力とスリップ度との相関関係が直線関係となる領域における該タイヤ力と該スリップ度との基準値比との比を補正係数とし、前記補正係数を基に前記接線勾配相関関係マップを補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする車両接地面摩擦状態推定装置。 - 前記接線勾配相関関係マップは、前記基準値比及び前記接線の傾きを座標軸とする2次元平面に存在するものとして、連続した特性線からなる2次元曲線として表現されたものであり、
前記補正手段は、前記検出値比を前記基準値比で除して得た補正係数を、前記基準値比と前記接線の傾きとにそれぞれ掛け算して前記接線勾配相関関係マップの補正をすることを特徴とする請求項1に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。 - 前記接線勾配相関関係マップは、前記基準値比を変数xとし、前記接線の傾きを変数yとした場合、
y=f(x)
として関数表現されたものであり、
前記補正手段は、前記検出値比を前記基準値比で除して得た補正係数Rを基に、
y/R=f(x/R)
として前記接線勾配相関関係マップの補正をすることを特徴とする請求項2に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。 - 前記補正手段は、自車両の走行中に前記タイヤ力検出手段が検出したタイヤ力と前記スリップ度検出手段が検出したスリップ度とを基に前記比算出手段が算出した複数の検出値比を統計演算し、その統計演算結果を前記接線勾配相関関係マップの補正に用いることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
- 前記補正手段は、自車両の走行中に前記タイヤ力検出手段が検出したタイヤ力と前記スリップ度検出手段が検出したスリップ度とを基に前記比算出手段が算出した検出値比が、ドライ路面で得られる車輪のタイヤ力と車輪のスリップ度との相関関係が直線関係となる領域における該タイヤ力と該スリップ度との比以下となるとき、該検出値比を前記接線勾配相関関係マップの補正に用いることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
- 自車両の走行中に前記タイヤ力検出手段が検出したタイヤ力と前記スリップ度検出手段が検出したスリップ度との相関関係が直線関係となるか否かを判定する判定手段を備え、
前記補正手段は、前記判定手段が前記相関関係が直線関係となると判定した場合、前記タイヤ特性相関関係マップの補正を行うことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。 - 前記判定手段は、車両走行状態を基に、前記相関関係が直線関係となるか否かを判定することを特徴とする請求項6に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
- 前記判定手段は、自車両の車両加速度、ヨーレイト及びスリップ度の少なくとも何れかの大きさが、零の含む所定値範囲内にある場合、前記相関関係が直線関係となると判定することを特徴とする請求項6又は7に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
- 前記接線勾配相関関係マップは、前記タイヤ力を前記スリップ度で除して得た基準値比が増加すると、前記接線の傾きが零から最大値まで増加するものであり、
前記最大値は、前記接線勾配相関関係マップのタイヤ力とスリップ度との相関関係が直線関係となる領域における該タイヤ力と該スリップ度との基準値比であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。 - 前記タイヤ力はタイヤの横力であり、前記スリップ度はタイヤのスリップ角であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
- 前記タイヤ力はタイヤの制駆動力であり、前記スリップ度はタイヤのスリップ率であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
- 車両の車輪の接地面グリップ特性を推定するための車両接地面摩擦状態推定方法において、
基準タイヤにより基準路面で得られる車輪のタイヤ力と車輪のスリップ度との比である基準値比と、該タイヤ力と該スリップ度との相関関係が成立する連続した特性線の基準値比における接線の傾きとの相関関係を曲線で想定してモデル化した接線勾配相関関係マップを用い、
検出タイヤ力と検出スリップ度との相関関係が直線関係となる領域における該検出タイヤ力と検出スリップ度との比である検出値比と、前記想定した接線勾配相関関係マップのタイヤ力とスリップ度との相関関係が直線関係となる領域における該タイヤ力と該スリップ度との基準値比との比を補正係数とし、前記補正係数を基に前記接線勾配相関関係マップを補正する補正ステップと、
現在の検出タイヤ力と現在の検出スリップ度との比である検出値比を前記基準値比とし、該基準値比に対応する前記接線の傾きを前記想定した接線勾配相関関係マップを参照して得て、その得た接線の傾きを車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータとして出力する出力ステップと、
を有することを特徴とする車両接地面摩擦状態推定方法。
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