JP5206491B2 - 車両接地面摩擦状態推定装置及びその方法 - Google Patents

車両接地面摩擦状態推定装置及びその方法 Download PDF

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Description

本発明は、車両の車輪の接地面グリップ特性を推定する技術に関する。
走行制御装置として、駆動輪の回転速度を計測し、その回転角加速度の最大値から路面μを推定し、駆動輪にスリップが発生しないよう最適なトルク制御を行う装置がある(例えば特許文献1参照)。
特公平6−78736号公報
しかしながら、この装置では、駆動輪の回転速度から路面μを推定しているために、駆動輪に実際にスリップが発生しないと、路面μを判別することができない。これでは、スリップにより制駆動力のロスが発生し、車両旋回中では、スピンやドリフトアウトしてしまう場合がある。
本発明の課題は、スリップが発生する前に走行路面の路面μを推定することである。
前記課題を解決するために、本発明は、現在のタイヤ力、現在のスリップ度及びタイヤ特性相関関係マップを基に、現在の路面の路面摩擦係数を算出する。
タイヤ特性相関関係マップは、基準路面摩擦係数の基準路面で得られる車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度の相関関係で成立する3次元曲面を表すタイヤ特性をモデル化したものであり、基準路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比と基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比が同一であれば、基準路面での制駆動力と横力との合力と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力との比、又は基準路面でのスリップ度と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面でのスリップ度との比が、基準路面摩擦係数と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数との比を示す特性を有する。
本発明は、このような特性を有するタイヤ特性相関関係マップを用いて、車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度を座標軸とする3次元空間における、該制動力、横力及びスリップ度が零である原点から、検出ステップで検出した現在のタイヤ力の方向でかつ検出ステップで検出した現在のスリップ度まで延びる直線に該現在のタイヤ力の大きさを投影して得た距離と、前記直線を延長してタイヤ特性相関関係マップと交じわる交点と前記原点との間の距離との比を基に、現在の路面の路面摩擦係数を算出する。
ここで、車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度を座標軸とする3次元空間でみると、基準路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比と基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比が同一であるときに、基準路面での制駆動力と横力との合力と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力との比、又は基準路面でのスリップ度と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面でのスリップ度との比と、3次元空間の原点から、検出した現在のタイヤ力の方向でかつ検出した現在のスリップ度まで延びる直線に該現在のタイヤ力の大きさを投影して得た距離と、前記直線を延長してタイヤ特性相関関係マップと交じわる交点と前記原点との間の距離との比とは、幾何学的にみて一致する。
よって、3次元空間の原点から、検出した現在のタイヤ力の方向でかつ検出した現在のスリップ度まで延びる直線に該現在のタイヤ力の大きさを投影して得た距離と、前記直線を延長してタイヤ特性相関関係マップと交じわる交点と前記原点との間の距離との比、及び基準路面摩擦係数から、現在の路面の路面摩擦係数を算出できる。
本発明によれば、車輪のタイヤ力の方向及び大きさ、並びにスリップ度を検出して、現在の路面の路面摩擦係数を算出できる。
これにより、スリップが発生する前に現在の路面の路面摩擦係数を推定できる。
前提となる技術を説明するために使用した図であり、車輪のスリップ率λと車輪の制駆動力Fxとの間に成立するタイヤ特性曲線(Fx−λ特性曲線)を示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤ特性曲線(Fx−λ特性曲線)及び摩擦円を示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤ特性曲線(Fx−λ特性曲線)について、該タイヤ特性曲線の原点を通る直線との交点での接線の傾きを示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤ特性曲線(Fx−λ特性曲線)について、該タイヤ特性曲線の原点を通る直線との交点での接線の傾きを示す他の特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、路面μが異なるタイヤ特性曲線について得られる制駆動力Fx同士の比、スリップ率λ同士の比、又は線長同士の比と、路面μの比とが等しくなることを示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、制駆動力Fx及びスリップ率λから得た線長同士の比を基に路面μを算出する手順を示す図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、路面μが異なる路面で得た制駆動力Fxとスリップ率λとの関係を示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、スタッドレスタイヤについて、路面μが異なる路面で得た制駆動力Fxとスリップ率λとの関係を示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、タイヤ特性曲線(Fx−λ特性曲線)の任意点の制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)と、その任意点でのタイヤ特性曲線の接線の傾き(μ勾配)とのプロット点の集合からなる特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、図9のプロット点から得た特性曲線(グリップ特性曲線)を示す特性図である。 車輪のスリップ角βtと車輪の横力Fyとの間に成立するタイヤ特性曲線(Fy−βt特性曲線)を示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤ特性曲線(Fy−βt特性曲線)及び摩擦円を示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤ特性曲線(Fy−βt特性曲線)について、該タイヤ特性曲線の原点を通る直線との交点での接線の傾きを示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤ特性曲線(Fy−βt特性曲線)について、該タイヤ特性曲線の原点を通る直線との交点での接線の傾きを示す他の特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、路面μが異なるタイヤ特性曲線について得られる横力Fy同士の比、スリップ角βt同士の比、又は線長同士の比と、路面μの比とが等しくなることを示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、横力Fy及びスリップ角βtから得た線長同士の比を基に路面μを算出する手順を示す図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、路面μが異なるタイヤ特性曲線について得られるタイヤ力F同士の比、スリップ度S同士の比、又は線長同士の比と、路面μの比とが等しくなることを示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、タイヤ特性曲線(Fy−βt特性曲線)の任意点の横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)と、その任意点でのタイヤ特性曲線の接線の傾き(μ勾配)との関係(グリップ特性曲線)を示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、制駆動力(前後力)Fxを第1軸、横力Fyを第2軸上で表現する直交座標面上に摩擦円を表現した特性図である。 前提となる技術において制駆動力Fxとスリップ率λとの関係を3次元座標系に表示する手順を説明するために使用した図であり、制駆動力Fxとスリップ率λとの関係を示す特性図である。 前提となる技術において横力Fyとスリップ角βtとの関係を3次元座標系に表示する手順を説明するために使用した図であり、横力Fyとスリップ角βtとの関係を示す特性図である。 前提となる技術において車輪力(制駆動力Fx、横力Fy)とスリップ度(スリップ率λ、スリップ角βt)との関係を3次元座標系に表示する手順を説明するために使用した図であり、3次元曲面で車輪力(制駆動力Fx、横力Fy)とスリップ度(スリップ率λ、スリップ角βt)との関係を示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図である。(a)は、スリップ度と車輪力との関係を表す3次元曲面と制駆動力Fxと横力Fyとの合力FのベクトルとZ軸とを含む平面との交線を示す特性図である。(b)は、合力Fと合力Fに起因して発生するスリップ度Zとの関係を示すタイヤ特性曲線(F−Z特性曲線)を示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図である。(a)は、3次元座標系においてタイヤ摩擦円の大きさの違いを示す特性図である。(b)は、摩擦円の大きさを決める最大摩擦力の大きさの違いによるタイヤ特性曲線(F−Z特性曲線)の変化を示すための特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図である。(a)は、タイヤ特性曲線と原点0(スリップ度と車輪力がともに0である点)を通る直線との交点における傾きが、最大摩擦力の大きさによらず一定の値となることを示す3次元座標系の特性図である。(b)は、タイヤ特性曲線と原点0を通る直線との交点における傾きが、最大摩擦力の大きさによらず一定の値となることを示す2次元座標系の特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、路面μが異なる各タイヤ特性曲線(F−Z特性曲線)について、合力F同士の比又はスリップ度Z同士の比と、その路面μの比とが等しくなることを示す特性図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、合力F及びスリップ度Sから得た線長同士の比を基に路面μを算出する手順を示す図である。 前提となる技術を説明するために使用した図であり、タイヤ特性曲線(F−Z特性曲線)の任意点の合力Fとスリップ度Zとの比(F/Z)と、その任意点でのタイヤ特性曲線の接線の傾き(μ勾配)との関係(グリップ特性曲線)を示す特性図である。 実施形態の車両の概略構成を示す図である。 車両走行状態推定装置の構成を示すブロック図である。 車体スリップ角推定部の構成を示すブロック図である。 旋回中の車体に働く場の力を説明するために使用した図である。 旋回中の車体に働く場の力を説明するために使用した図である。 補償ゲインを設定するための制御マップを説明するために使用した特性図である。 車両の線形2輪モデルを説明するために使用した図である。 3D特性マップを示す図である。 3D特性マップを参照して路面μを算出する手順を説明するために使用した図である。 動作の説明に使用したフローチャートである。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(実施形態の前提となる技術)
先ず、本実施形態の前提となる技術を説明する。
(1)車輪のスリップ率と車輪の制駆動力との関係
図1はタイヤ特性曲線を示す。このタイヤ特性曲線は、駆動輪のスリップ率λと駆動輪の制駆動力(又は前後力)Fxとの間に成立する一般的な相関関係を示す。例えば、マジックフォーミュラ(MagicFormula)といったタイヤモデルからタイヤ特性曲線を得る。ここで、制駆動力Fxは、タイヤから地面に作用する力である。また、制駆動力Fxが接地面において車輪に作用する車輪力に相当する。車輪のスリップ率λが車輪のスリップ度に相当する。
図1に示すように、タイヤ特性曲線では、スリップ率λと制駆動力Fxとの関係が、スリップ率λの絶対値が増加するに従い線形(直線関係)から非線形(曲線関係)に遷移する。すなわち、タイヤ特性曲線では、スリップ率λが零から所定の範囲内にある場合には、スリップ率λと制駆動力Fxとの間に線形関係が成り立つ。そして、タイヤ特性曲線では、スリップ率λ(絶対値)がある程度大きくなると(前記所定の範囲を超えると)、スリップ率λと制駆動力Fxとの関係が非線形関係になる。このように、タイヤ特性曲線は、線形部分と非線形部分とを有する。
このようなスリップ率λと制駆動力Fxとの間にある関係や線形関係から非線形関係への遷移は、タイヤ特性曲線の接線の傾きに着目すれば一目瞭然である。ここでいうタイヤ特性曲線の接線の傾きとは、スリップ率λの変化量と制駆動力Fxの変化量との比、すなわち、制駆動力Fxのスリップ率λに関する偏微分係数で示される値である。
ここで、図1に示すように、タイヤ特性曲線の原点を通る任意の直線a,b,c,d,…を描く。すると、タイヤ特性曲線に対して交わる任意の直線a,b,c,d,…との交点(同図中に○印で示す交点)でタイヤ特性曲線の接線の傾きを得ることができる。そして、タイヤ特性曲線の接線の傾きは各交点で異なるものとなる。このようなタイヤ特性曲線の接線の傾きに着目することで、スリップ率λと制駆動力Fxとの間にある関係や線形関係から非線形関係への遷移の状態を知ることができる。
これにより、タイヤの摩擦状態の推定も可能になる。例えば、図1に示すように、タイヤ特性曲線上で、非線形域でも線形域に近い位置x0にあれば、タイヤの摩擦状態が安定状態にあると推定できる。そして、タイヤの摩擦状態が安定状態にあれば、例えばタイヤがその能力を発揮できるレベルにあると推定できる。又は車両が安定状態にあると推定できる。
図2は、各種路面μのタイヤ特性曲線と摩擦円を示す。図2(a)は、各種路面μのタイヤ特性曲線を示す。図2(b)〜(d)は、各路面μの摩擦円を示す。路面μは例えば0.2、0.5、1.0である。図2(a)に示すように、タイヤ特性曲線は、各路面μで定性的に同様な傾向を示す。また、図2(b)〜(d)に示すように、路面μが小さくなるほど摩擦円が小さくなる。すなわち、路面μが小さくなるほどタイヤが許容できる制駆動力が小さくなる。このように、タイヤ特性は、路面摩擦係数(路面μ)をパラメータとした特性となる。このようなことから、図2に示すように、路面摩擦係数の値に応じて、低摩擦の場合のタイヤ特性曲線、中摩擦の場合のタイヤ特性曲線、及び高摩擦の場合のタイヤ特性曲線等を得ることができる。
図3は、各種路面μのタイヤ特性曲線と該タイヤ特性曲線の原点を通る任意の直線b,c,dとの関係を示す。図3に示すように、前記図1と同様に、各種路面μのタイヤ特性曲線について、任意の直線b,c,dとの交点で接線の傾きを得る。すなわち、各種路面μでのタイヤ特性曲線について、直線bとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。各種路面μでのタイヤ特性曲線について、直線cとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。各種路面μでのタイヤ特性曲線について、直線dとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。その結果、同一直線との交点で得られる各種路面μのタイヤ特性曲線の接線の傾きが同一となる結果を得ることができる。
例えば、図4では、前記図3に示した直線cに着目している。図4に示すように、直線cとの交点での接線の傾きは各種路面μのタイヤ特性曲線で同一となる。すなわち、路面μがμ=0.2のタイヤ特性曲線との交点x1を示す制駆動力Fx1とスリップ率λ1との比(Fx1/λ1)を得る。また、路面μがμ=0.5のタイヤ特性曲線との交点x2を示す制駆動力Fx2とスリップ率λ2との比(Fx2/λ2)を得る。また、路面μがμ=1.0のタイヤ特性曲線との交点x3を示す制駆動力Fx3とスリップ率λ3との比(Fx3/λ3)を得る。そのようにして得た各値は同一値となる。そして、それら各交点x1,x2,x3での接線の傾きが同一値となる。
このように、路面μが異なっても、各タイヤ特性曲線について、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)が同一になる値(λ,Fx)で接線の傾きが同一となる。
そして、各タイヤ特性曲線で制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)が同一となる値(λ,Fx)に関し、異なるタイヤ特性曲線間で得られる制駆動力Fx同士の比又はスリップ率λ同士の比は、路面μの比と等しくなる。
図5を用いて、路面μが異なる各タイヤ特性曲線について、制駆動力Fx同士の比又はスリップ率λ同士の比と、その路面μの比との関係を説明する。図5には、路面μが異なる路面A(路面μ=μ)及び路面B(路面μ=μ)それぞれで得られるタイヤ特性曲線を示す。
図5に示すように、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)が同一となる値(λ,Fx)(同図中に■印、●印でそれぞれ示す値)でそれぞれ得られる制駆動力a2と制駆動力b2との比(a2/b2)と、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)とは同一値になる。
また、同じく、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)が同一となる値(λ,Fx)でそれぞれ得られるスリップ率a3とスリップ率b3との比(a3/b3)と、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)とは同一値になる。
このようなことから、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)が同一となる値(λ,Fx)と原点(0,0)とをそれぞれ結んで得られる線長a1と線長b1との比(a1/b1)と、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)とは同一値になる。このことは、幾何学的に次のように証明できる。
路面Aのタイヤ特性曲線を用いて描ける三角形(a1,a2,a3を辺とする三角形)と路面Bのタイヤ特性曲線を用いて描ける三角形(b1,b2,b3を辺とする三角形)とは相似の三角形となる。このことから、a1とb1との比と、a2とb2との比と、a3とb3との比とは、それぞれ同一値になる(a1:b1=a2:b2=a3:b3)。そして、制駆動力Fxについてのa2とb2との比(a2/b2)及びスリップ率λについてのa3とb3との比(a3/b3)は、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)と同一値になる。よって、前述のように、線長a1と線長b1との比(a1/b1)と、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)とは同一値となる結論を得ることができる。
以上のように制駆動力Fx同士の比、スリップ率λ同士の比又は前記線長同士の比を知ることができれば、路面μの比を知ることができる。
図6は、一例として、前記線長を基に走行路面の路面μを算出する演算手順を示す。ここでは、ある走行路面Bで得た制駆動力Fxb及びスリップ率λbを基に、既知の路面Aの路面μ値μのタイヤ特性曲線を参照して、ある走行路面Bの路面μ値μを算出する例を示す。
図6に示すように、先ずステップS1及びステップS2において、ある走行路面Bでの制駆動力Fxb及びスリップ率λbを検出する。続いてステップS3において、路面μ値μの路面Aのタイヤ特性曲線の原点(0,0)と実測点(λb,Fxb)とを通る直線が、そのタイヤ特性曲線と交わる点の値(λa,Fxa)を特定する。
続いてステップS4において、ある走行路面Bの路面μ値μの算出(推定)する。すなわち、前記実測点(λb,Fxb)と路面Aのタイヤ特性曲線の原点とを結ぶ直線の線長b1(=√(λb+Fxb))を得る。また、前記ステップS3で特定した路面Aのタイヤ特性曲線の交点の値(λa,Fxa)と該タイヤ特性曲線の原点とを結ぶ直線の線長a1(=√(λa+Fxa))を得る。さらに、線長b1と線長a1との比(b1/a1)を算出する。そして、その算出した比(b2/b1)と、路面Aの路面μ値μとを乗算し、その乗算値を走行路面Bの路面μ値μとして得る(μ=μ・b1/a1)。
図7は、路面μが異なる路面で得た制駆動力Fxとスリップ率λとの関係を示す。図7中、振動波形は、Dry路、Wet路及び低μ路で得た実測値を示す。また、点線は、それぞれの路面におけるタイヤ(ノーマルタイヤ)の特性曲線を示す。図7に示すように、路面μが異なる各路面におけるタイヤ特性曲線が、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)を維持しながらも、路面μが小さくなるほど制駆動力Fx及びスリップ率λが小さくなる。
図8は、スタッドレスタイヤについて、路面μが異なる路面で得た制駆動力Fxとスリップ率λとの関係を示す。図8中、振動波形は、Dry路、Wet路及び低μ路で得た実測値を示す。また、点線は、それぞれの路面におけるタイヤ特性曲線を示す。また、太線の点線は、ノーマルタイヤのタイヤ特性曲線を示す。
図8に示すように、路面μが異なる各路面におけるタイヤ特性曲線(細線の点線)が、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)を維持しながらも、路面μが小さくなるほど、制駆動力Fx及びスリップ率λが小さくなる。さらに、ノーマルタイヤのタイヤ特性曲線(太線の点線)の制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)と、スタッドレスタイヤのタイヤ特性曲線(細線の点線)の制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)とが、同一値となっている。すなわち、ノーマルタイヤのタイヤ特性曲線とスタッドレスタイヤのタイヤ特性曲線とは相似形状となる。つまり、スタッドレスタイヤのようにグリップ力やタイヤの表面形状等が異なる場合でも、ノーマルタイヤのタイヤ特性曲線の制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)と同一値となる。
図9は、タイヤ特性曲線の任意点の制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)と、その任意点でのタイヤ特性曲線の接線の傾き(∂制駆動力/∂スリップ率)との関係を示す。図9では、各路面μ(例えばμ=0.2、0.5、1.0)で得た値をプロットしている。図9に示すように、路面μにかかわらず、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)とタイヤ特性曲線の接線の傾きとが一定の関係を示している。
図10は、前記図9のプロット点を基に得た特性曲線を示す。図10に示すように、この特性曲線は、路面μにかかわらず、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)とタイヤ特性曲線の接線の傾きとが常に一定の関係があることを示すものとなる。
すなわち、乾燥アスファルト路面や凍結路面等、路面μが異なる路面であっても、この特性曲線は成立する。或いは、この特性曲線は、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含んでいると言える。このように図10に示す特性曲線は、図1と同様に、タイヤ特性曲線を示している。図1と区別して、図10の特性曲線を例えばグリップ特性曲線と呼ぶこともできる。
この図10に示すように、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)が小さい領域(小レシオ領域)では、タイヤ特性曲線の接線の傾きが負値となる。そして、この領域では、その比(Fx/λ)が大きくなるに従い、タイヤ特性曲線の接線の傾きが一旦減少してから増加に転じる。ここで、タイヤ特性曲線の接線の傾きが負値であることは、制駆動力のスリップ率に関する偏微分係数が負値であることを示す。
また、図10に示すように、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)が大きい領域(大レシオ領域)では、グリップ特性曲線の接線の傾きが正値になる。そして、この領域では、その比(Fx/λ)が大きくなると、タイヤ特性曲線の接線の傾きが増加する。すなわち、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)が大きい領域では、グリップ特性曲線は単調増加関数の形をしている。
ここで、タイヤ特性曲線の接線の傾きが正値であることは、制駆動力のスリップ率に関する偏微分係数が正値であることを示す。また、タイヤ特性曲線の接線の傾きが最大であることは、該接線の傾きがタイヤ特性曲線の線形領域のものあることを示す。なお、線形領域では、タイヤ特性曲線の接線の傾きは、制駆動力Fxとスリップ率λとの比にかかわらず、常に一定の値を示す。
このようにして得ることができるタイヤ特性曲線の接線の傾き(μ勾配、以下、Cp値ともいう。)は、グリップ特性パラメータ、タイヤのグリップ状態を表す変数又はタイヤが横方向に出せる力の飽和状態を表すパラメータとなる。
具体的には、タイヤ特性曲線の接線の傾きが正値の場合、スリップ率λを増やすことでさらに大きい制駆動力Fxを発生させることができることを示す。そして、タイヤ特性曲線の接線の傾きが零又は負値の場合、スリップ率λを増加させても制駆動力Fxが増えることはなく、逆に低下する恐れがあることを示す。
このように、タイヤ特性曲線の接線の傾きからタイヤのグリップ力が限界領域であることを知ることができる。これにより、例えば、車輪のグリップ力が限界領域にあるときにも、タイヤのグリップ力の摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
なお、タイヤ特性曲線(図1)に対して偏微分計算を行い、連続的に描画することでグリップ特性曲線(図10)を得ることができる。
本願発明者は、以上に述べたように、各路面μのタイヤ特性曲線について、そのタイヤ特性曲線の原点を通る任意の一の直線とタイヤ特性曲線との交点で、接線の傾きが同一となる点を発見した。すなわち、各路面μのタイヤ特性曲線について、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)が同一になる値(λ,Fx)で接線の傾きが同一となる点を発見した。
これにより、本願発明者は、路面μにかかわらず、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)とタイヤ特性曲線の接線の傾きとの関係がある特性曲線(グリップ特性曲線)として表せる結果を得た(図10)。この結果を利用することで、制駆動力Fxとスリップ率λとがわかれば、特性曲線(グリップ特性曲線)を基に、路面μの情報を必要とすることなく、タイヤの摩擦状態の情報を得ることができる。
また、本願発明者は、路面μが異なるタイヤ特性曲線で、制駆動力Fxとスリップ率λとの比(Fx/λ)が同一となる値(λ,Fx)での制駆動力Fx同士の比、スリップ率λ同士の比又は前記線長同士の比が、路面μの比と等しくなる点を発見した。
これにより、制駆動力Fx同士の比、スリップ率λ同士の比、又は線長同士の比がわかれば、路面μの比を知ることができる。
(2)車輪のスリップ角と車輪の横力との関係
図11はタイヤ特性曲線を示す。このタイヤ特性曲線は、車輪のスリップ角βtと車輪の横力Fyとの間に成立する一般的な相関関係を示す。例えば、タイヤモデルを実験データを基にチューニングすることで、前後輪それぞれで二輪分の等価特性図(タイヤ特性曲線)を得る。ここで、例えば、マジックフォーミュラ(MagicFormula)を基にタイヤモデルを構築している。横力Fyは、コーナリングフォースやサイドフォースに代表される値である。ここで、横力Fyは、タイヤから地面に作用する力である。また、横力Fyが接地面において車輪に作用する車輪力に相当する。車輪のスリップ角βtが車輪のスリップ度に相当する。
図11に示すように、タイヤ特性曲線では、スリップ角βtと横力Fyとの関係が、スリップ角βtの絶対値が増加するに従い線形から非線形に遷移する。すなわち、タイヤ特性曲線では、スリップ角βtが零から所定の範囲内にある場合には、スリップ角βtと横力Fyとの間に線形関係が成り立つ。そして、タイヤ特性曲線では、スリップ角βt(絶対値)がある程度大きくなると(前記所定の範囲を超えると)、スリップ角βtと横力Fyとの関係が非線形関係になる。このように、タイヤ特性曲線は、線形部分と非線形部分とを有する。
このようなスリップ角βtと横力Fyとの間にある関係や線形関係から非線形関係への遷移は、タイヤ特性曲線の接線の傾き(勾配)に着目すれば一目瞭然である。ここでいうタイヤ特性曲線の接線の傾きとは、スリップ角βtの変化量と横力Fyの変化量との比、すなわち、横力Fyのスリップ角βtに関する偏微分係数で示される値である。
ここで、図11に示すように、タイヤ特性曲線の原点を通る任意の直線a,b,c,…を描く。すると、タイヤ特性曲線に対して交わる任意の直線a,b,c,…との交点(図11中に○印で示す交点)でタイヤ特性曲線の接線の傾きを得ることができる。そして、タイヤ特性曲線の接線の傾きは各交点で異なるものとなる。このようなタイヤ特性曲線の接線の傾きに着目することで、スリップ角βtと横力Fyとの間にある関係や線形関係から非線形関係への遷移の状態を知ることができる。
これにより、タイヤの摩擦状態の推定も可能になる。例えば、図11に示すように、タイヤ特性曲線上で、非線形域でも線形域に近い位置x0にあれば、タイヤの摩擦状態が安定状態にあると推定できる。そして、タイヤの摩擦状態が安定状態であれば、例えばタイヤがその能力を発揮できるレベルにあると推定できる。又は車両が安定状態にあると推定できる。
図12は、各種路面μのタイヤ特性曲線と摩擦円を示す。図12(a)は、各種路面μのタイヤ特性曲線を示す。図12(b)〜(d)は、各路面μの摩擦円を示す。路面μは例えば0.2、0.5、1.0である。図12(a)に示すように、タイヤ特性曲線は、各路面μで定性的に同様な傾向を示す。また、図12(b)〜(d)に示すように、路面μが小さくなるほど摩擦円が小さくなる。すなわち、路面μが小さくなるほどタイヤが許容できる横力が小さくなる。このように、タイヤ特性は、路面摩擦係数(路面μ)をパラメータとした特性となる。よって、図12に示すように、路面摩擦係数の値に応じて、低摩擦の場合のタイヤ特性曲線、中摩擦の場合のタイヤ特性曲線、及び高摩擦の場合のタイヤ特性曲線等を得ることができる。
図13は、各種路面μのタイヤ特性曲線と原点を通る任意の直線a,b,cとの関係を示す。図13に示すように、前記図11と同様に、各種路面μのタイヤ特性曲線について、任意の直線a,b,cとの交点で接線の傾きを得る。すなわち、各種路面μでのタイヤ特性曲線について、直線aとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。各種路面μでのタイヤ特性曲線について、直線bとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。各種路面μでのタイヤ特性曲線について、直線cとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。その結果、同一直線との交点で得られる各種路面μのタイヤ特性曲線の接線の傾きが同一となる結果を得ることができる。
例えば、図14では、前記図13に示した直線cに着目している。図14に示すように、直線cとの交点での接線の傾きは各種路面μのタイヤ特性曲線で同一となる。すなわち、路面μがμ=0.2のタイヤ特性曲線との交点x1を示す横力Fy1とスリップ角βt1との比(Fy1/βt1)を得る。また、路面μがμ=0.5のタイヤ特性曲線との交点x2を示す横力Fy2とスリップ角βt2との比(Fy2/βt2)を得る。また、路面μがμ=1.0のタイヤ特性曲線との交点x3を示す横力Fy3とスリップ角βt3との比(Fy3/βt3)を得る。そのようにして得た各値は同一値となる。そして、各交点x1,x2,x3での接線の傾きが同一値となる。
このように、路面μが異なっても、各タイヤ特性曲線について、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が同一になる値(βt,Fy)において接線の傾きが同一となる。
そして、各タイヤ特性曲線で横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が同一となる値(βt,Fy)に関し、異なるタイヤ特性曲線で得られる横力Fy同士の比又はスリップ角βt同士の比は、路面μの比と等しくなる。
図15を用いて、路面μが異なる各タイヤ特性曲線について、横力Fy同士の比又はスリップ角βt同士の比と、その路面μの比との関係を説明する。図15には、路面μが異なる路面A(路面μ=μ)及び路面B(路面μ=μ)それぞれで得られるタイヤ特性曲線を示す。
図15に示すように、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が同一となる値(βt,Fy)(同図中に■印、●印でそれぞれ示す値)でそれぞれ得られる横力a2と横力b2との比(a2/b2)と、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)とは同一値になる。
また、同じく、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が同一となる値(βt,Fy)でそれぞれ得られるスリップ率a3とスリップ率b3との比(a3/b3)と、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)とは同一値になる。
このようなことから、路面Aで得られるタイヤ特性曲線と路面Bで得られるタイヤ特性曲線とで、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が同一となる値(βt,Fy)と原点(0,0)とをそれぞれ結んで得られる線長a1と線長b1との比(a1/b1)と、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)とは同一値になる。このことは、幾何学的に次のように証明できる。
路面Aのタイヤ特性曲線を用いて得られる三角形(a1,a2,a3を辺とする三角形)と路面Bのタイヤ特性曲線を用いて得られる三角形(b1,b2,b3を辺とする三角形)とは相似の三角形となる。このことから、a1とb1との比と、a2とb2との比と、a3とb3との比とは、それぞれ同一値になる(a1:b1=a2:b2=a3:b3)。そして、横力Fyについてのa2とb2との比及びスリップ角βtについてのa3とb3との比は、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)と同一値になる。よって、前述のように、線長a1と線長b1との比(a1/b1)と、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)とは同一値となる結論を得ることができる。
図16は、一例として、前記線長を基に走行路面の路面μを算出する演算手順を示す。ここでは、ある走行路面Bで得た横力Fyb及びスリップ角βtbを基に、既知の路面Aの路面μ値μのタイヤ特性曲線を参照して、ある走行路面Bの路面μ値μを算出する例を示す。
図16に示すように、先ずステップS11及びステップS12において、ある走行路面Bでの横力Fyb及びスリップ角βtbを検出する。続いてステップS13において、路面μ値μの路面Aのタイヤ特性曲線の原点(0,0)と実測点(βtb,Fyb)とを通る直線が、そのタイヤ特性曲線と交わる点の値(βta,Fya)を特定する。
続いてステップS14において、ある走行路面Bの路面μ値μの算出(推定)する。すなわち、前記実測点(βtb,Fyb)と路面Aのタイヤ特性曲線の原点とを結ぶ直線の線長b1(=√(βtb+Fyb))を得る。また、前記ステップS13で特定した路面Aのタイヤ特性曲線の交点の値(βta,Fya)と該タイヤ特性曲線の原点とを結ぶ直線の線長a1(=√(βta+Fya))を得る。さらに、線長b1と線長a1との比(b1/a1)を算出する。そして、その算出した比(b2/b1)と、路面Aの路面μ値μとを乗算し、その乗算値を走行路面Bの路面μ値μとして得る(μ=μ・b1/a1)。
図17は、横軸にスリップ度Sをとり、縦軸にタイヤ力Fをとっている。
ここで、制駆動力Fx及び横力Fyは、それら値を含む概念のタイヤ力(車輪力)Fとして観念でき、スリップ率λ及びスリップ角βtは、それら値を含む概念のスリップ度Sとして観念できる。また、例えば、制駆動力Fxと横力Fyとの合力も、タイヤ力Fとして観念できる。
このように制駆動力Fx及び横力Fyがタイヤ力Fとして観念でき、スリップ率λ及びスリップ角βtがスリップ度Sとして観念できることから、タイヤ力F及びスリップ度Sについても、前記図5や図15に示したような関係を得ることができる。
よって、図17に示すように、路面μが異なる各タイヤ特性曲線について、タイヤ力F同士の比(a2/b2)、スリップ度S同士の比(a3/b3)又は線長の比(a1/b1)と、その路面μの比(μ/μ)とが等しくなる。
図18は、タイヤ特性曲線の任意点の横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)と、その任意点でのタイヤ特性曲線の接線の傾き(∂Fy/∂βt)との関係を示す。図18に示すように、どの各路面μ(例えばμ=0.2、0.5、1.0)でも、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤ特性曲線の接線の傾きとが一定の関係を示している。
すなわち、乾燥アスファルト路面や凍結路面等、路面μが異なる路面であっても、この特性曲線は成立する。或いは、この特性曲線は、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含んでいると言える。ここで、このように図18に示す特性曲線は、図11と同様に、タイヤ特性曲線を示している。図11と区別して、図18の特性曲線を例えばグリップ特性曲線と呼ぶこともできる。
この図18に示すように、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が小さい領域(小レシオ領域)では、タイヤ特性曲線の接線の傾きが負値となる。そして、この領域では、その比(Fy/βt)が大きくなるに従い、タイヤ特性曲線の接線の傾きが一旦減少してから増加に転じる。ここで、タイヤ特性曲線の接線の傾きが負値であることは、横力のスリップ角に関する偏微分係数が負値であることを示す。
また、図18に示すように、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が大きい領域(大レシオ領域)では、タイヤ特性曲線の接線の傾きが正値になる。そして、この領域では、その比(Fy/βt)が大きくなると、タイヤ特性曲線の接線の傾きが増加する。すなわち、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が大きい領域では、グリップ特性曲線は単調増加関数の形をしている。
ここで、タイヤ特性曲線の接線の傾きが正値であることは、横力のスリップ角に関する偏微分係数が正値であることを示す。また、タイヤ特性曲線の接線の傾きが最大であることは、該接線の傾きがタイヤ特性曲線の線形領域のものであることを示す。なお、線形領域では、タイヤ特性曲線の接線の傾きは、横力Fyとスリップ角βtとの比にかかわらず、常に一定の値を示す。
このようにして得ることができるタイヤ特性曲線の接線の傾き(μ勾配)は、グリップ特性パラメータ、タイヤのグリップ状態を表す変数又はタイヤが横方向に出せる力の飽和状態を表すパラメータとなる。具体的には、タイヤ特性曲線の接線の傾きが正値の場合、スリップ角βtを増やすことでさらに強い横力Fy(コーナリングフォース等)を発生させることができることを示す。そして、タイヤ特性曲線の接線の傾きが零又は負値の場合、スリップ角βtを増加させても横力Fy(コーナリングフォース等)が増えることはなく、逆に低下する恐れがあることを示す。このように、タイヤ特性曲線の接線の傾きからタイヤのグリップ力が限界領域であることを知ることができる。これにより、例えば、車輪のグリップ力が限界領域にあるときにも、タイヤのグリップ力の摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
なお、タイヤ特性曲線(図11)に対して偏微分計算を行い、連続的に描画することでグリップ特性曲線(図18)を得ることができる。
本願発明者は、以上に述べたように、各路面μのタイヤ特性曲線について、そのタイヤ特性曲線の原点を通る任意の一の直線とタイヤ特性曲線との交点で、接線の傾きが同一となる点を発見した。すなわち、各路面μのタイヤ特性曲線について、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が同一になる値(βt,Fy)で接線の傾きが同一となる点を発見した。
これにより、本願発明者は、路面μにかかわらず、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤ特性曲線の接線の傾きとの関係がある特性曲線(グリップ特性曲線)として表せる結果を得た(図18)。この結果を利用することで、横力Fyとスリップ角βtとがわかれば、特性曲線(グリップ特性曲線)を基に、路面μの情報を必要とすることなく、タイヤの摩擦状態の情報を得ることができる。
また、本願発明者は、路面μが異なるタイヤ特性曲線で、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)が同一となる値(βt,Fy)での横力Fy同士の比、スリップ角βt同士の比、又は前記線長同士の比が、路面μの比と等しくなる点を発見した。
これにより、横力Fy同士の比、スリップ角βt同士の比、又は線長同士の比がわかれば、路面μの比を知ることができる。
(3)タイヤ摩擦円と車輪の車輪力(タイヤ力)との関係
図19は、前後方向のグリップ力に基づく制駆動力FxをX軸、横方向のグリップ力に基づく横力FyをY軸上で表現する直交座標面上にタイヤ摩擦円を表現したものである。
ここで、タイヤ摩擦円は、タイヤが接地面において摩擦状態を維持できる摩擦限界を示す。
すなわち、タイヤ摩擦円に対して、制駆動動力Fxや横力Fy、又は制駆動動力Fxと横力Fyとの合力の値が、タイヤ摩擦円の内側にある場合、摩擦限界に達しておらず摩擦状態を保っている状態を示す。
また、その値がタイヤ摩擦円と一致した場合、最大の摩擦力を発揮している状態を示す。すなわち、タイヤと接地面との間の摩擦力の最大値によってタイヤ摩擦円の大きさが決まる。つまり、制駆動動力Fxと横力Fyとの合力の最大値を、そのときの合力の方向に合わせてプロットしていくことで、楕円形状のタイヤ摩擦円を描くことができる。
また、タイヤ接地面においてタイヤに加わる外力が、タイヤ摩擦円よりも大きい場合、タイヤが接地面との間で摩擦状態を保っていない状態、つまり、タイヤと地面との相対変位が大きくなり、いわゆるスリップ状態であることを示す。これは、タイヤ摩擦円と前後方向及び横方向のグリップ力との関係が、前後方向と横方向とにそれぞれ同時に最大グリップ力を発揮することができないことを意味する。
このようなタイヤ摩擦円と車輪力の大きさとの関係を基に、車輪力の大きさがタイヤ摩擦円の半径(外周)に近づくほど、タイヤが発揮できる摩擦力の最大値(摩擦限界)に近づくと判別できる。すなわち、摩擦限界に対するタイヤのグリップ力の余裕度を判別できる。
以下の説明では、制駆動動力Fx、横力Fy、及び制駆動動力Fxと横力Fyとの合力を総称して車輪力又はタイヤ力と称する。
(4)3次元座標を用いた車輪の車輪力、スリップ度、及びタイヤ摩擦円の関係
前述のようなタイヤ摩擦円と車輪力との関係、さらには車輪力と車輪スリップ度(スリップ率λ、スリップ角βt)との関係を基に、3次元座標を用いて車輪の車輪力、スリップ度、及びタイヤ摩擦円の関係を得ることができる。以下に、その関係を示す3次元座標の特性曲線を得る手順を説明する。
(4−1)3次元座標を用いた車輪の車輪力とスリップ度との関係
図20は、制駆動力Fxとスリップ率λとの関係(2次元座標系)を3次元座標系に変換する手順を示す。図20(a)(前記図1のタイヤ特性曲線(Fx−λ特性曲線)に相当)に示すように、制駆動力Fxが最大値を示すスリップ率λをλpeakと定義する。すなわち、制駆動力Fxはスリップ率λの増加に伴い増加していくが、スリップ率λがある程度大きくなると制駆動力Fxは飽和し、それ以降、逆に低下していく。この制駆動力Fxが飽和するスリップ率λの点(飽和点)をλpeakと定義する。
次に、図20(b)に示すように、スリップ率λの軸をλpeakによりλ/λpeakの無次元値にする変換をした後、λ/λpeakが1の値を原点に変更する(制駆動力Fxの軸をλ/λpeakが1の値に移動する)。そして、図20(c)に示すように、図20(b)の2次元座標系を90度回転させる。次いで、図20(d)に示すように、制駆動力Fxとλ/λpeakとの関係線(特性曲線)を3次元座標系の一つの象限上に表す。図20(d)では、λ/λpeakの軸をZ軸としている。Zはスリップ度(スリップ度S)となる。
図21は、横力Fyとスリップ角βtとの関係(2次元座標系)を3次元座標系に変換する手順を示す。この横力Fyとスリップ角βtとの関係でも、制駆動力Fxとスリップ率λとの関係の場合と同様にして3次元座標系に変換している。すなわち、図21(a)(前記図11のタイヤ特性曲線(Fy−βt特性曲線)に相当)に示すように、横力Fyが最大値となるスリップ角βtをβtpeakと定義する。つまり、横力Fyはスリップ角βtの増加に伴い増加していくが、スリップ角βtがある程度大きくなると横力Fyは飽和し、それ以降、逆に低下していく。この横力Fyが飽和するスリップ角βtの点(飽和点)をβtpeakと定義する。
次に、図21(b)に示すように、スリップ角βtの軸をβtpeakによりβt/βtpeakの無次元値にする変換をした後、βt/βtpeakが1の値を原点に変更する(横力Fyの軸をβt/βtpeakが1の値に移動する)。そして、図21(c)に示すように、図21(b)の2次元座標系を90度回転させる。次いで、図21(d)に示すように、横力Fyとβt/βtpeakとの関係線(特性曲線)を3次元座標系の一つの象限上に表す。図21(d)では、βt/βtpeakの軸をZ軸としている。
図22は、前記図20(d)の制駆動力Fxとλ/λpeakとの関係線(特性曲線、Fx−Z面)と、前記図21(d)の横力Fyとβt/βtpeakとの関係線(特性曲線、Fy−Z面)との間を補完して得た3次元曲面を示す。前記図20(d)の制駆動力Fxとλ/λpeakとの関係線(特性曲線)aと前記図21(d)の横力Fyとβt/βtpeakとの関係線(特性曲線)bとの間を、Z軸上の各値で楕円、すなわちタイヤ摩擦円相当で補完して、この図22の3次元曲面を得ている。図22の3次元曲面は、Fx軸及びZ軸を含むFx−Z面とFy軸及びZ軸を含むFy−Z面との間に存在する曲面をなす。
この図22では、単位が異なるスリップ率λとスリップ角βtとをそれぞれλ/λpeak及びβt/βtpeakの無次元値にすることで、スリップ率λとスリップ角βtとを同じ座標軸のZ軸に表現している。そして、前述のように、スリップ率λとスリップ角βtとを総称する概念がスリップ度(Z)となる。このようなことから、図22のZ軸は、スリップ度(λ/λpeak,βt/βtpeak)を示す軸となる。
よって、3次元曲面は、スリップ度と車輪力(タイヤ力)との相関関係を表すものとなる。また、この3次元曲面は、制駆動力Fxと横力Fyとの合力Fと、合力Fに起因して発生するスリップ度Zとの関係線の集合から構成されるものとなる。
ここで、合力Fは、制駆動力Fx及び横力Fyを成分としてタイヤ斜め方向に発生している力に相当する。よって、制駆動力Fxが零であれば、合力Fは横力Fyそのものになり、横力Fyが零であれば、合力Fは制駆動力Fxそのものになる。また、合力Fに起因して発生するスリップ度Zとは、スリップ率λ及びスリップ角βtを合成した値、又はスリップ率λ及びスリップ角βtを成分とする値の概念である。よって、スリップ率λが零であれば、スリップ度Zはスリック角βtそのものになり、スリップ角βtが零であれば、スリップ度Zはスリップ率λそのものになる。
なお、図22では、スリップ度と車輪力との関係を表す3次元曲面を、1/4周分(1/4象限)強しか表示していない。しかし、実際には、スリップ度と車輪力との相関関係を表す3次元曲面は、全周分存在し、ドーム状又は半球状になる。
図23は、前記図22が、制駆動力Fxと横力Fyとの合力Fと、合力Fに起因して発生するスリップ度Zとの関係線(2次元特性曲線)の集合から構成されることを説明する図である。3次元座標系における合力Fの大きさ・向きは、制駆動力Fxのスカラ量・向きと横力Fyのスカラ量・向きとの異なる組み合わせにより、無数に存在する。この実施形態では、車輪力(F)は、Z軸回り360度全周の何れの方向でも良く、図示の実施形態では全方向に対応している。これにより、図23(a)に示す3次元座標系における、合力Fと該合力Fに起因して発生するスリップ度Zとの関係は、Z軸と合力Fとを含む平面に表された2次元特性の集合からなると言える。つまり、図23(b)に示すように、合力Fと該合力Fに起因して発生するスリップ度Zとの関係を2次元特性曲線として得ることができる。すなわち、Z軸と合力Fとを含む平面は、合力の方向に応じて、Z軸のまわりに無数に存在し、それら無数の平面は、Z軸を軸として平面束(asheaf of planes)を成している。そして、その平面の各々に図23(b)のような2次元特性曲線が存在する。
図23を用いて、合力Fについての摩擦限界までの余裕度を3次元座標系上で説明する。図23(a)に示す、スリップ度と車輪力(Fx,Fy,F)との関係を表す3次元曲面と、合力FのベクトルとZ軸とを含む平面との交線として、図23(b)に示すタイヤ特性曲線を得ることができる。このようして得た図23(b)のタイヤ特性曲線の接線の傾きが、タイヤの摩擦限界までの余裕度を示すものとなる。すなわち、図23(b)のタイヤ特性曲線の接線の傾きが正値から零に近づくと、タイヤの摩擦限界に近くなる。よって、このタイヤ特性曲線の接線の傾きを検出できれば、摩擦限界に到る前の状態において、摩擦限界までの余裕度を知ることができる。また、図23(b)のタイヤ特性曲線の接線の傾きが負値となると、摩擦力が飽和した状態、いわゆるスリップ状態になる。この点では、タイヤ特性曲線の接線の傾きを検出できれば、スリップ状態に到る前に摩擦限界(摩擦力が飽和する)までの余裕度を知ることができると言える。
図24は、タイヤ摩擦円の大きさが変化する場合の合力Fと該合力Fに起因して発生するスリップ度Zとの関係を示す。タイヤ摩擦円の大きさは、前述のように、タイヤと接地面との間の摩擦力の最大値(以下、最大摩擦力という。)によって決まる。すなわち、タイヤと接地面との間の摩擦力の最大値が小さくなると、タイヤ摩擦円も小さくなる。このようなことから、実際には路面μが変化すること等により、図24(a)及び(b)に示すように、タイヤ特性曲線(タイヤ摩擦円)が、最大摩擦力の大きさによって変化するようになる。
図25は、最大摩擦力、すなわち路面μが異なるタイヤ特性曲線(F−Z特性曲線)と、原点O(スリップ度と車輪力がともに零である点)を通る直線(一点鎖線で示す直線)との関係を示す。図25(a)及び図25(b)に示すように、路面μが異なるタイヤ特性曲線について、直線との交点での接線の傾き(μ勾配)は同一となる。すなわち、最大摩擦力が異なるタイヤ特性曲線について、合力Fとスリップ度Zとの比(F/Z)が同一であれば、接線の傾きは同一となる。
そして、各タイヤ特性曲線(F−Z特性曲線)で合力Fとスリップ度Zとの比(F/Z)が同一となる値(Z,F)に関し、異なるタイヤ特性曲線で得られる合力F同士の比又はスリップ度Z同士の比は、路面μの比と等しくなる。すなわち、該合力F同士の比又は該スリップ度Z同士の比が知ることができれば、路面μの比を知ることができる。
図26を用いて、路面μが異なる各タイヤ特性曲線について、合力F同士の比又はスリップ度Z同士の比と、その路面μの比との関係を説明する。
図26(a)におけるある合力Fとスリップ度Zとの関係(2次元のタイヤ特性曲線)を取り出した図26(b)に示すように、合力Fとスリップ度Zとの比(F/Z)が同一となる値(Z,F)(同図中に■印、●印でそれぞれ示す値)でそれぞれ得られる横力a2と横力b2との比(a2/b2)と、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)とは同一値になる。
また、同じく、合力Fとスリップ度Zとの比(F/Z)が同一となる値(Z,F)でそれぞれ得られるスリップ度a3とスリップ度b3との比(a3/b3)と、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)とは同一値になる。
このようなことから、路面Aで得られるタイヤ特性曲線と路面Bで得られるタイヤ特性曲線とで、合力Fとスリップ度Zとの比(F/Z)が同一となる値(Z,F)と原点(0,0)とをそれぞれ結んで得られる線長a1と線長b1との比(a1/b1)と、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)とは同一値になる。このことは、幾何学的に次のように証明できる。
路面Aのタイヤ特性曲線を用いて得られる三角形(a1,a2,a3を辺とする三角形)と路面Bのタイヤ特性曲線を用いて得られる三角形(b1,b2,b3を辺とする三角形)とは相似の三角形となる。このことから、a1とb1との比と、a2とb2との比と、a3とb3との比とは、それぞれ同一値になる(a1:b1=a2:b2=a3:b3)。そして、合力Fについてのa2とb2との比及びスリップ度Zについてのa3とb3との比は、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)と同一値になる。よって、前述のように、線長a1と線長b1との比(a1/b1)と、路面Aの路面μ値μと路面Bの路面μ値μとの比(μ/μ)とは同一値となる結論を得ることができる。
図27は、一例として、前記線長を基に走行路面の路面μを算出する演算手順を示す。ここでは、ある走行路面Bで得た合力Fyb及びスリップ度Zbを基に、既知の路面Aの路面μ値μのタイヤ特性曲線を参照して、ある走行路面Bの路面μ値μを算出する例を示す。
図27に示すように、先ずステップS21及びステップS22において、ある走行路面Bでの合力Fb及びスリップ度Zbを検出する。続いてステップS23において、路面μ値μの路面Aのタイヤ特性曲線の原点(0,0)と実測点(Zb,Fb)とを通る直線が、そのタイヤ特性曲線と交わる点の値(Za,Fa)を特定する。
続いてステップS24において、ある走行路面Bの路面μ値μを算出(推定)する。すなわち、前記実測点(Zb,Fb)と路面Aのタイヤ特性曲線の原点とを結ぶ直線の線長b1(=√(Zb+Fb))を得る。また、前記ステップS23で特定した路面Aのタイヤ特性曲線の交点の値(Za,Fa)と該タイヤ特性曲線の原点とを結ぶ直線の線長a1(=√(Za+Fa))を得る。さらに、線長b1と線長a1との比(b1/a1)を算出する。そして、その算出した比(b1/a1)と、路面Aの路面μ値μとを乗算し、その乗算値を走行路面Bの路面μ値μとして得る(μ=μ・b1/a1)。
(4−2)3次元座標を用いた車輪の車輪力とグリップ状態(μ勾配)との関係
合力Fとスリップ度Zとの比(F/Z)とタイヤ特性曲線の接線の傾き(μ勾配)との関係を、最大摩擦力に依存しない形で整理できる。
図28は、合力Fとスリップ度Zとの比(F/Z)と、タイヤ特性曲線の接線の傾きとの関係を示す。図28に示すように、合力Fとスリップ度Zとの比(F/Z)とタイヤ特性曲線の接線の傾きとの関係を整理することで、最大摩擦力に依存しない一つの特性(2次元特性曲線)に集約することができる。よって、図28に示すような特性データを予め準備しておく。例えば特性マップとして準備しておく。そして、合力Fとスリップ度Zとがわかれば、特性データを用いることで、タイヤ特性曲線の接線の傾きの値を知ることができ、摩擦限界に対する余裕度を判定できる。すなわち、最大摩擦力の情報を得ることなく(最大摩擦力を推定することなく)、摩擦限界に対する余裕度を判定できる。
以上のように、車輪の車輪力、スリップ度、及びタイヤ摩擦円の関係を3次元座標系の特性として得ることができる。さらに、合力Fとスリップ度Zとの比(F/Z)とタイヤ特性曲線の接線の傾き(μ勾配)との関係を2次元座標系の特性(μ勾配特性)として得ることができる。
(実施形態)
以上の技術の採用により実現した実施形態を次に説明する。
(構成)
本実施形態は、本発明を適用した車両である。図29は、車両の概略構成を示す。図29に示すように、車両は、操舵角センサ1、ヨーレイトセンサ2、横加速度センサ3、前後加速度センサ4、車輪速センサ5、EPSECU(ElectricPower Steering Electronic Control Unit)6、EPS(Electric Power Steering)モータ7及び車両走行状態推定装置8を備える。さらに、車両は、各車輪11FL〜11RRに直結した制駆動モータ21FL〜21RR、制駆動モータECU(ElectronicControl Unit)22を有する。
操舵角センサ1は、ステアリングホイール9と一体に回転するステアリングシャフト10の回転角を検出する。操舵角センサ1は、その検出結果(操舵角)を車両走行状態推定装置8に出力する。ヨーレイトセンサ2は、車両のヨーレイトを検出する。ヨーレイトセンサ2は、その検出結果を車両走行状態推定装置8に出力する。横加速度センサ3は、車両の横加速度を検出する。横加速度センサ3は、その検出結果を車両走行状態推定装置8に出力する。前後加速度センサ4は、車両の前後加速度を検出する。前後加速度センサ4は、その検出結果を車両走行状態推定装置8に出力する。車輪速センサ5は、車体に設けられた各車輪11FL〜11RRの車輪速を検出する。車輪速センサ5は、その検出結果を車両走行状態推定装置8に出力する。
EPSECU6は、操舵角センサ1が検出した操舵角を基に、操舵アシスト指令をEPSモータ7に出力する。ここでいう操舵アシスト指令は、操舵力アシストを行うための指令信号である。また、EPSECU6は、車両走行状態推定装置8が出力する指令値(不安定挙動抑制アシスト指令)を基に、操舵アシスト指令をEPSモータ7に出力する。ここでいう操舵アシスト指令は、車両の不安定挙動を抑制するための指令信号である。
EPSモータ7は、EPSECU6が出力する操舵アシスト指令を基に、ステアリングシャフト10に回転トルクを付与する。これにより、EPSモータ7は、ステアリングシャフト10に連結されているラック・アンド・ピニオン機構(ピニオン12、ラック13)、タイロッド14及びナックルアームを介して左右の前輪11FL,11FRの転舵を補助する。
制駆動モータECU22は、ブレーキペダル15及びアクセルペダル16からのドライバ入力、並びに車両走行状態推定装置8からの情報を基に、制駆動モータ21FL〜21RRを制御する。
車両走行状態推定装置8は、操舵角センサ1、ヨーレイトセンサ2、横加速度センサ3、前後加速度センサ4及び車輪速センサ5の検出結果等を基に、車両の走行状態を推定する。車両走行状態推定装置8は、その推定結果を基に、指令値(不安定挙動抑制アシスト指令)をEPSECU6及び制駆動モータECU22に出力する。ここでいう指令値は、車両の不安定挙動を抑制するようにEPSモータ7や制駆動力を制御するための指令信号である。
図30は、車両走行状態推定装置8の構成を示す。図30に示すように、車両走行状態推定装置8は、車体速度演算部41、車体スリップ角推定部42、タイヤスリップ角演算部43、スリップ率演算部44及び路面μ推定値演算部45を有する。また、この車両は、タイヤ力センサ46を有する。
車体速度演算部41は、車輪速センサ5が検出した車輪速及び前後加速度センサ4が検出した前後加速度を基に、車体速度を推定する。具体的には、車体速度演算部41は、従動輪11RL,11RRの車輪速の平均値、又は各車輪11FL〜11RRの車輪速の平均値を算出して、その算出値を車体速度の基本値としている。車体速度演算部41は、その基本値を前後加速度により補正する。具体的には、その基本値から急加速時のタイヤ空転や急制動時のタイヤロックによる誤差の影響を除くように補正をする。車体速度演算部41は、その補正した値を車体速度の推定結果とする。車体速度演算部41は、その推定結果を車体スリップ角推定部42に出力する。
車体スリップ角推定部42は、操舵角センサ1が検出した操舵角、ヨーレイトセンサ2が検出したヨーレイト、横加速度センサ3が検出した横加速度、前後加速度センサ4が検出した前後加速度及び車体速度演算部41が算出した車体速度を基に、車両の横滑り角(スリップ角)を推定する。
図31は、車体スリップ角推定部42の構成例を示す。図31に示すように、車体スリップ角推定部42は、車両の状態量(車両の横滑り角β、スリップ角β)を推定する線形2入力オブザーバ51を備える。これにより、車体スリップ角推定部42は、車両の横滑り角(スリップ角)βを推定する。ここで、車両の2輪モデルを基に線形2入力オブザーバ51を構築している。その車両の2輪モデルを、車両の横方向の力とモーメントの釣り合いより、下記(1)式で表すことができる。
Figure 0005206491
ここで、A,B,C,Dは車両の線形2輪モデルによって決まる行列である。また、タイヤ舵角を入力uとし、ヨーレイトと横加速度とを出力yとすると、前記(1)式の状態方程式(出力方程式)は、下記(2)式のようになる。
Figure 0005206491
ここで、mは車両質量である。Iはヨー慣性モーメントである。lは車両重心点と前車軸間の距離である。lは車両重心点と後車軸間の距離である。Cpは前輪コーナリングパワー(左右輪合計値)である。Cpは後輪コーナリングパワー(左右輪合計値)である。Vは車体速度である。βは車両の横滑り角である。γはヨーレイトである。Gは横加速度である。a11,a12,bは行列A、Bの各要素である。
そして、この状態方程式を基に、ヨーレイトと横加速度とを入力とし、オブザーバゲインK1として、線形2入力オブザーバ51を作成する。ここで、オブザーバゲインK1は、モデル化誤差の影響を受けにくく且つ安定した推定を行えるように設定した値である。
また、線形2入力オブザーバ51は、積分器52の入力を補正するβ推定補償器53を備える。これにより、線形2入力オブザーバ51は、限界領域においても推定精度を確保することができる。すなわち、β推定補償器53を備えることで、車両の2輪モデルの設計時に想定した路面状況で且つタイヤの横滑り角が非線形特性とはならない線形域だけでなく、路面μ変化時や限界走行時にあっても横滑り角βを精度よく推定できる。
図32は、車体横滑り角βで走行している旋回中の車両を示す。図32に示すように、車体に働く場の力、つまり旋回中心から外側に向かって働く遠心力も、車幅方向から横滑り角β分ずれた方向に発生する。そのため、β推定補償器53は、下記(3)式に従って場の力のずれ分βを算出する。このずれ分βは、線形2入力オブザーバ51が推定した車両の横滑り角βに補正をかけるときの基準値(目標値)Gとなる。
Figure 0005206491
ここで、Gは前後加速度である。また、図33に示すように、速度変化による力の釣り合いも考慮する。これにより、旋回によるもののみを抽出すると、前記(3)式を、下記(4)式として表すことができる。
Figure 0005206491
そして、β推定補償器53は、その目標値βを線形2入力オブザーバ51が推定した横滑り角βから減算する。さらに、β推定補償器53は、その減算結果に、図34の制御マップによって設定した補償ゲインK2を乗算する。そして、β推定補償器53は、その乗算結果を積分器52の入力としている。
図34の制御マップでは、車両の横方向加速度Gの絶対値(|G|)が第1しきい値以下である場合、補償ゲインK2が零となる。また、車両の横方向加速度Gの絶対値が第1しきい値よりも大きい第2しきい値以上の場合、補償ゲインK2が比較的大きい一定値となる。また、車両の横方向加速度Gの絶対値が第1しきい値と第2しきい値との間にある場合、横方向加速度Gの絶対値が大きくなるほど、補償ゲインK2が大きくなる。
このように、図34の制御マップでは、横方向加速度Gの絶対値が第1しきい値以下で零近傍の値となる場合、補償ゲインK2を零としている。これにより、直進時のように旋回Gが発生しない状況下では補正をする必要がないことから、誤って補正が行われないようにしている。また、図34の制御マップでは、横方向加速度Gの絶対値が増加して第1しきい値より大きくなると(例えば、0.1Gより大きくなると)、横方向加速度Gの絶対値に比例してフィードバックゲイン(補償ゲイン)K2を増大させていき、横方向加速度Gの絶対値が第2しきい値以上になると(例えば0.5G以上になると)、補償ゲインK2を制御の安定する一定値としている。このようにすることで、横滑り角βの推定精度を向上させている。
タイヤスリップ角演算部43は、操舵角センサ1が検出した操舵角(タイヤ舵角δ)、ヨーレイトセンサ2が検出したヨーレイトγ、車体速度演算部41が算出した車体速度V、及び車体スリップ角推定部42が算出した車両の横滑り角(車両のスリップ角)βを基に、下記(5)式に従って前後輪それぞれのスリップ角β,β(車輪のスリップ角βt)を算出する。
Figure 0005206491
タイヤスリップ角演算部43は、算出したスリップ角βt(β),βt(β)を路面μ推定値演算部45に出力する。
スリップ率演算部44は、車輪速センサ5が検出した各車輪11FL〜11RRの車輪速及び車体速度演算部41が算出した車体速度を基に、前後輪(前輪2輪分と後輪2輪分)のスリップ率λ,λを算出する。スリップ率演算部44は、算出した結果をスリップ率λ,λを路面μ推定値演算部45に出力する。
タイヤ力センサ46は、前輪11FL,11FR及び後輪11RL,11RRのタイヤ力を検出する。タイヤ力は、路面からタイヤに作用する力である。すなわちタイヤ力はタイヤから車両に入力される力でもある。具体的には、タイヤ力センサ46は、タイヤ力としてその大きさ及び方向を示すタイヤ力ベクトルを検出する。本実施形態でいうタイヤ力ベクトルは、タイヤと路面間に発生する接地面に平行な力、すなわち制駆動力及び横力を成分とするベクトルである。よって、本実施形態でいうタイヤ力ベクトルには、路面に対して垂直な方向でタイヤに作用する力を含まない。例えば、タイヤ力センサ46は6軸力センサである。また、タイヤ力センサ46を各輪11FL〜11RRに備える。
タイヤ力センサ46は、検出した前後輪のタイヤ力F,Fを路面μ推定値演算部45に出力する。本実施形態のように各輪11FL〜11RRにタイヤ力センサ46を備える場合には、タイヤ力センサ46は、前左右輪の平均値を前輪のタイヤ力Fとして出力し、後左右輪の平均値を後輪のタイヤ力Fとして出力する。
路面μ推定値演算部45は、タイヤスリップ角演算部43が算出した前後輪のスリップ角βt,βt、スリップ率演算部44が算出した前後輪のスリップ率λ,λ、及びタイヤ力センサ46が検出した前後輪のタイヤ力F,Fを基に、路面μを推定する。
そのため、路面μ推定値演算部45は、図36(a)に示すように、前記図22に示した3次元曲面を3D特性マップ45aとして有する。なお、図36(a)では、3D特性マップ45aを表すものとして、スリップ度と車輪力との関係を表す3次元曲面を1/4周分(1/4象限)強しか表示していない。しかし、実際には、3D特性マップ45aでは、スリップ度と車輪力との関係を表す3次元曲面が全周分存在しており、3D特性マップ45aはドーム状又は半球状になる。タイヤグリップ状態演算部48は、このような3D特性マップ45aを前後輪それぞれに対応させて有する。例えば、メモリ等の記憶媒体に3D特性マップ45aを記憶し、保持している。
この3D特性マップ45aは、制駆動力Fx軸とスリップ度Z軸とを含む平面内では、図36(b)に示すように、制駆動力Fxとスリップ度Z(スリップ率λ)との相関関係を示すタイヤ特性曲線を示す。また、3D特性マップ45aは、横力Fy軸とスリップ度Z軸とを含む平面内では、図36(c)に示すように、横力Fyとスリップ度Z(スリップ角βt)との相関関係を示すタイヤ特性曲線を示す。また、3D特性マップ45aは、合力Fとスリップ度Z軸とを含む平面内では、図36(d)に示すように、合力Fとスリップ度Z(スリップ率λとスリップ角βtとの合成値)との相関関係を示すタイヤ特性曲線を示す。
ここで、ある基準路面にて事前に直進走行試験と旋回走行実験とを行い、そのときのデータを基に、このような3D特性マップを作成する。具体的には、基準路面にて実車での直進加加速実験により、制駆動力−スリップ率特性曲線の実計測を行う。さらに、基準路面にて実車での旋回実験(旋回半径一定の加速円旋回が良い)により、横力(コーナリングフォース)−タイヤスリップ角特性曲線の実計測を行う。その実計測結果を基に、3D特性マップを作成する。
また、直接計測ができない場合は、他の物理量を計測しておいて換算することもできる。また、走行実験ではなくシミュレーション等による演算により3D特性マップを得ることもできる。
路面μ推定値演算部45は、以上のような3D特性マップ45aを参照して路面μを推定する。図37は、3D特性マップ45aを参照して路面μを得る関係を、3D特性マップ45aに対する入力と出力との関係として示す。
先ず前輪の場合について説明すると、図37に示すように、路面μ推定値演算部45は、前輪のタイヤ力ベクトルFとスリップ度Z(Z)とを入力とする。
このとき、路面μ推定値演算部45は、前輪のスリップ率λとスリップ角βtとを合成し変換してスリップ度Zを得ている。具体的には、路面μ推定値演算部45は、下記(6)式によりスリップ度Zを算出している。
Z=S/SPeak=√((λ/λPeak+(βt/βtPeak) ・・・(6)
ここで、λPeakは、基準路面で制駆動力Fx(Fx)が飽和するスリップ率λ(λ)である。βtPeakは、基準路面で横力Fy(Fy)が飽和するスリップ角βt(βt)である。基準路面がドライ路面(μ=1)であれば、λPeak、βtPeakは、ドライ路面に対応する値になる。また、S/SPeakは、スリップ率λの正規化値(λ/λPeak)とスリップ角βtの正規化値(βt/βtPeak)との合成値となる。或いは、S/SPeakは、スリップ率λの正規化値(λ/λPeak)及びスリップ角βtの正規化値(βt/βtPeak)を成分とする値である。
このスリップ度Zは、本来次元の異なるスリップ率とスリップ角とを同一次元にしつつ、スリップ率及びスリップ角を同時に評価する値である。
そして、路面μ推定値演算部45は、前輪に対応する3D特性マップ45aを参照して、前輪のタイヤ力ベクトルFとスリップ度Zを基に、路面μを算出する。具体的には、路面μ推定値演算部45は、前記図27に示す演算手順に従い、路面μを算出する。
すなわち、路面μ推定値演算部45は、3D特性マップ45aの原点(0,0)と実測点(Zb,Fb)とを通る直線が、その3D特性マップ45aと交わる点の値(Za,Fa)を特定する(前記ステップS23)。
ここで、実測点(Zb,Fb)は、3D特性マップ45aが示されるFx−Fy−Z空間においてスリップ度Zb(実測のスリップ度Z)とタイヤ力ベクトルFb(F)とで特定される座標(プロット点)である。すなわち、Fx−Fy平面上でタイヤ力ベクトルFbにより特定し、Z軸方向をスリップ度Zbで特定できる座標である。
そして、路面μ推定値演算部45は、実測点を得ている現在の走行路面の路面μの算出する(前記ステップS24)。
すなわち、先ず、路面μ推定値演算部45は、前記実測点(Zb,Fb)と3D特性マップ45aの原点とを結ぶ直線の線長b(=√(Zb+Fb))を得る。つまり、車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度を座標軸とする3次元空間における、該制動力、横力及びスリップ度が零である原点から、現在の検出タイヤ力Fの方向でかつ現在の検出スリップ度Zまで延びる直線に該現在のタイヤ力Fの大きさを投影して得た距離bを得る。
また、先に特定した3D特性マップ45aとの交点の値(Za,Fa)と該3D特性マップ45aの原点とを結ぶ直線の線長a(=√(Za+Fa))を得る。すなわち、前記距離bを得た直線を延長して3D特性マップ45aと交じわる交点と原点との間の距離aを得る。
さらに、線長bと線長aとの比(b/a)を算出する。そして、路面μ推定値演算部45は、その算出した比(b/a)と、3D特性マップ45aを得た路面の路面μ値μとを乗算し、その乗算値を現在の走行路面の路面μ値μとして得る(μ=μ・b/a)。
以上のような手順により、路面μ推定値演算部45は、前輪の制駆動力Fx、横力Fy及びスリップ度Z(Z)を基に、前輪についての現在の走行路面の路面μを得る。そして、路面μ推定値演算部45は、同様な手順により、後輪のタイヤ力ベクトルF及びスリップ度Z(Z)を基に、後輪について現在の走行路面の路面μを得る。
(動作)
図38を用いて説明する。
先ず、車体走行状態推定装置8では、車体速度演算部41が車体速度を算出する(ステップS31)。車体走行状態推定装置8では、スリップ率演算部44がその車体速度を基に、前後輪それぞれのスリップ率λ,λを算出する(ステップS32)。さらに、車体走行状態推定装置8では、タイヤスリップ角演算部43が前後輪それぞれのスリップ角βt,βtを算出する(ステップS33)。一方、タイヤ力センサ46が前後輪のタイヤ力ベクトルF,Fを検出する(ステップS34)。
そして、車体走行状態推定装置8では、路面μ推定値演算部45が、前後輪のスリップ率λ,λ、前後輪のスリップ角βt,βt及び前後輪のタイヤ力ベクトルF,Fを基に路面μを推定する。車体走行状態推定装置8は、算出した路面μ推定値をEPSECU6及び制駆動モータECU22に出力する。
EPSECU6は、路面μ推定値を基に、操舵アシスト指令によりEPSモータ7を制御する。具体的には、EPSECU6は、路面μ推定値が小さくなるほど、EPSモータ7の出力を低減される制御を行う。
また、制駆動モータECU22は、路面μ推定値を基に、駆動トルク指令値により制駆動モータ21FL〜21RRを制御する。具体的には、制駆動モータECU22は、路面μ推定値が小さくなるほど駆動トルク指令値を小さくして駆動力の出力を抑制する制御を行う。又は、制駆動モータECU22は、路面μ推定値が小さくなるほど制動トルク指令値を小さくして制動力の出力を抑制する制御を行う。
(実施形態の変形例)
(1)この実施形態では、タイヤ特性相関関係マップが、車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度を座標軸とする3次元空間に存在するものとして、連続した3次元曲面として表現された3D特性マップである。これに対して、3D特性マップ(タイヤ特性相関関係マップ)を、車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度を変数として数式表現されたものとすることもできる。
(2)この実施形態では、3D特性マップを得る基準路面として乾燥アスファルトといったようなドライ路面を想定して、その路面μ値をμ=1.0にしている。しかし、これに限定されるものではない。例えば、潤湿路面や凍結路面を基準路面として3D特性マップを作成することもできる。なお、基準路面を高路面μとすれば、計器ノイズ等の外乱を相対的に抑えることができるといった利点がある。
(3)この実施形態では、制駆動力Fx及び横力Fyを同時に様々な方向に振って、すなわち、合力の方向を様々に振って、3D特性マップを得ている。これに対して、前後方向(制駆動力Fx)の2Dの特性マップと横方向(横力Fy)の2Dのμ特性マップとを別々に得て、それら2D特性マップ間を補完して3D特性マップを得ることもできる。この場合、2D特性マップ間を楕円近似して補完する。
(4)この実施形態では、操舵制御(操舵反力付加制御)により車両の旋回挙動又は横方向挙動を制御している。これに対して、VDC(Vehicle DynamicsControl)等の左右輪の制駆動力差による旋回制御により車両挙動を制御することもできる。これにより、さらに応答性の速い車両挙動安定化制御(横滑り防止制御)を実現することができる。
(5)この実施形態では、前輪操舵車両を例に挙げている。これに対して、後輪操舵車両とすることもできる。
(6)この実施形態では、前後輪それぞれについて路面μを算出している。これに対して、左右輪それぞれ(4輪別々)について路面μを算出することもできる。また、全輪について、ある一つの路面μを算出することもできる。
(7)この実施形態では、路面μを基に操舵制御するEPSECU6と、路面μを基に制駆動力制御する制駆動モータECU22とを備えている。これに対して、EPSECU6及び制駆動モータECU22の何れか一方だけを備えることもできる。すなわち、路面μを基に、制駆動力制御及び操舵制御の何れか一方だけを実施することもできる。
なお、この実施形態では、車両の車輪の接地面グリップ特性を推定するための車両接地面摩擦状態推定装置を実現する。また、タイヤ力センサ46は、車輪の制駆動力及び横力を成分に含む車輪のタイヤ力の方向及び大きさを検出するタイヤ力検出手段を実現する。また、タイヤスリップ角演算部43及びスリップ率演算部44は、前記車輪のスリップ度を検出するスリップ度検出手段を実現する。また、路面μ推定値演算部47及び3D特性マップ47aは、基準路面摩擦係数の基準路面で得られる車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度の相関関係で成立する3次元曲面を表すタイヤ特性をモデル化したタイヤ特性相関関係マップを実現する。また、路面μ推定値演算部47は、前記タイヤ力検出手段が検出した現在のタイヤ力、前記スリップ度検出手段が検出した現在のスリップ度及びタイヤ特性相関関係マップを基に、現在の路面の路面摩擦係数を算出する路面摩擦係数算出手段を実現する。
また、この実施形態では、前記タイヤ特性相関関係マップは、前記基準路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比と基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比が同一であれば、前記基準路面での制駆動力と横力との合力と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力との比、又は前記基準路面でのスリップ度と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面でのスリップ度との比が、基準路面摩擦係数と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数との比を示す特性を有している。
ここで、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数とは、基準路面摩擦係数以外の任意の路面摩擦係数である。
また、この実施形態では、前記路面摩擦係数算出手段は、前記車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度を座標軸とする3次元空間における、該制動力、横力及びスリップ度が零である原点から前記タイヤ力ベクトル検出手段が検出した現在のタイヤ力の方向でかつ前記スリップ度検出手段が検出した現在のスリップ度まで延びる直線に該現在のタイヤ力の大きさを投影して得た距離と、前記直線を延長して前記タイヤ特性相関関係マップと交じわる交点と前記原点との間の距離との比を基に、現在の路面の路面摩擦係数を算出する。
また、この実施形態では、車両の車輪の接地面グリップ特性を推定するための車両接地面摩擦状態推定方法において、車輪の制駆動力及び横力を成分に含む車輪のタイヤ力のベクトル及び車輪のスリップ度を検出する検出ステップと、前記検出ステップで検出した現在のタイヤ力ベクトル、現在のスリップ度及びタイヤ特性相関関係マップを基に、現在の路面の路面摩擦係数を算出する路面摩擦係数算出ステップと、を有し、前記タイヤ特性相関関係マップは、基準路面摩擦係数の基準路面で得られる車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度の相関関係で成立する3次元曲面を表すタイヤ特性をモデル化したものであり、前記基準路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比と基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比が同一であれば、前記基準路面での制駆動力と横力との合力と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力との比、又は前記基準路面でのスリップ度と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面でのスリップ度との比が、基準路面摩擦係数と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数との比を示す特性を有し、前記路面摩擦係数算出ステップは、前記車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度を座標軸とする3次元空間における、該制動力、横力及びスリップ度が零である原点から前記検出ステップで検出した現在のタイヤ力の方向でかつ前記検出ステップで検出した現在のスリップ度まで延びる直線に該現在のタイヤ力の大きさを投影して得た距離と、前記直線を延長して前記タイヤ特性相関関係マップと交じわる交点と前記原点との間の距離との比を基に、現在の路面の路面摩擦係数を算出する車両接地面摩擦状態推定方法を実現する。
(実施形態の効果)
(1)基準路面摩擦係数の基準路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比と基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比が同一であれば、基準路面での制駆動力と横力との合力と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力との比、又は基準路面でのスリップ度と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面でのスリップ度との比が、基準路面摩擦係数とこの基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数との比を示す特性を有する。
そして、車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度を座標軸とする3次元空間でみると、基準路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比と基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比が同一であるときに、基準路面での制駆動力と横力との合力と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力との比、又は基準路面でのスリップ度と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面でのスリップ度との比と、3次元空間の原点から検出した現在のタイヤ力の方向でかつ検出した現在のスリップ度まで延びる直線に該現在のタイヤ力の大きさを投影して得た距離と、前記直線を延長してタイヤ特性相関関係マップと交じわる交点と前記原点との間の距離との比とは、幾何学的にみて一致する。
よって、3次元空間の原点から検出した現在のタイヤ力の方向でかつ検出した現在のスリップ度まで延びる直線に該現在のタイヤ力の大きさを投影して得た距離と、前記直線を延長してタイヤ特性相関関係マップと交じわる交点と前記原点との間の距離との比、及び基準路面摩擦係数から、現在の路面の路面摩擦係数を算出できる。
これにより、車輪のタイヤ力の方向と大きさ、及びスリップ度を検出して、現在の路面の路面摩擦係数を算出できる。
この結果、スリップが発生する前に現在の路面の路面摩擦係数を推定できる。
(2)タイヤ力検出手段は、タイヤ力のベクトルを検出する。
これにより、タイヤ力の方向と大きさを同時に検出できる。
(3)タイヤ特性相関関係マップは、車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度を座標軸とする3次元空間に存在するものとして、連続した3次元曲面として表現されたものである。
これにより、高い精度でかつ簡単に現在の路面の路面摩擦係数を推定できる。
(4)タイヤ特性相関関係マップは、車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度を変数として数式表現されたものである。
これにより、高い精度でかつ簡単に現在の路面の路面摩擦係数を推定できる。
(5)スリップ度は、車輪のスリップ率と車輪のスリップ角とを成分とした値である。
これにより、車輪のスリップ率と車輪のスリップ角とに対応して現在の路面の路面摩擦係数を推定できる。
(6)スリップ度は、車輪のスリップ率及び車輪のスリップ角それぞれの無次元値を合成した値である。
無次元化したことで一般化したスリップ度を基に、現在の路面の路面摩擦係数を推定できる。
(7)車輪のスリップ率を基準路面で車輪の制駆動力が飽和する車輪のスリップ率で除すことで、車輪のスリップ率の無次元値を得ている。
無次元化したことで一般化したスリップ度を基に、現在の路面の路面摩擦係数を推定できる。
(8)車輪のスリップ角を基準路面で車輪の横力が飽和する車輪のスリップ角で除すことで、車輪のスリップ角の無次元値を得ている。
無次元化したことで一般化したスリップ度を基に、現在の路面の路面摩擦係数を推定できる。
43 タイヤスリップ角演算部、44 スリップ率演算部、45 路面μ推定値演算部、45a 3D特性マップ、46 タイヤ力センサ

Claims (9)

  1. 車両の車輪の接地面グリップ特性を推定するための車両接地面摩擦状態推定装置において、
    車輪の制駆動力及び横力を成分に含む車輪のタイヤ力の方向及び大きさを検出するタイヤ力検出手段と、
    前記車輪のスリップ度を検出するスリップ度検出手段と、
    基準路面摩擦係数の基準路面で得られる車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度の相関関係で成立する3次元曲面を表すタイヤ特性をモデル化したタイヤ特性相関関係マップと、
    前記タイヤ力検出手段が検出した現在のタイヤ力、前記スリップ度検出手段が検出した現在のスリップ度及びタイヤ特性相関関係マップを基に、現在の路面の路面摩擦係数を算出する路面摩擦係数算出手段と、を備え、
    前記タイヤ特性相関関係マップは、前記基準路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比と基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比が同一であれば、前記基準路面での制駆動力と横力との合力と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力との比、又は前記基準路面でのスリップ度と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面でのスリップ度との比が、基準路面摩擦係数と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数との比を示す特性を有し、
    前記路面摩擦係数算出手段は、前記車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度を座標軸とする3次元空間における、該制動力、横力及びスリップ度が零である原点から前記タイヤ力ベクトル検出手段が検出した現在のタイヤ力の方向でかつ前記スリップ度検出手段が検出した現在のスリップ度まで延びる直線に該現在のタイヤ力の大きさを投影して得た距離と、前記直線を延長して前記タイヤ特性相関関係マップと交じわる交点と前記原点との間の距離との比を基に、現在の路面の路面摩擦係数を算出することを特徴とする車両接地面摩擦状態推定装置。
  2. 前記タイヤ力検出手段は、前記タイヤ力のベクトルを検出することを特徴とする請求項1に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
  3. 前記タイヤ特性相関関係マップは、前記車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度を座標軸とする3次元空間に存在するものとして、連続した3次元曲面として表現されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
  4. 前記タイヤ特性相関関係マップは、前記車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度を変数として数式表現されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
  5. 前記スリップ度は、車輪のスリップ率と車輪のスリップ角とを成分とした値であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
  6. 前記スリップ度は、車輪のスリップ率及び車輪のスリップ角それぞれの無次元値を成分とした値であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
  7. 前記車輪のスリップ率を前記基準路面で車輪の制駆動力が飽和する車輪のスリップ率で除すことで、前記車輪のスリップ率の無次元値を得ていることを特徴とする請求項6に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
  8. 前記車輪のスリップ角を前記基準路面で車輪の横力が飽和する車輪のスリップ角で除すことで、前記車輪のスリップ角の無次元値を得ていることを特徴とする請求項6又は7に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
  9. 車両の車輪の接地面グリップ特性を推定するための車両接地面摩擦状態推定方法において、
    車輪の制駆動力及び横力を成分に含む車輪のタイヤ力のベクトル及び車輪のスリップ度を検出する検出ステップと、
    前記検出ステップで検出した現在のタイヤ力ベクトル、現在のスリップ度及びタイヤ特性相関関係マップを基に、現在の路面の路面摩擦係数を算出する路面摩擦係数算出ステップと、を有し、
    前記タイヤ特性相関関係マップは、基準路面摩擦係数の基準路面で得られる車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度の相関関係で成立する3次元曲面を表すタイヤ特性をモデル化したものであり、前記基準路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比と基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力とスリップ度との比が同一であれば、前記基準路面での制駆動力と横力との合力と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面での制駆動力と横力との合力との比、又は前記基準路面でのスリップ度と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数の路面でのスリップ度との比が、基準路面摩擦係数と、基準路面摩擦係数とは異なる路面摩擦係数との比を示す特性を有し、
    前記路面摩擦係数算出ステップは、前記車輪の制駆動力、車輪の横力及び車輪のスリップ度を座標軸とする3次元空間における、該制動力、横力及びスリップ度が零である原点から前記検出ステップで検出した現在のタイヤ力の方向でかつ前記検出ステップで検出した現在のスリップ度まで延びる直線に該現在のタイヤ力の大きさを投影して得た距離と、前記直線を延長して前記タイヤ特性相関関係マップと交じわる交点と前記原点との間の距離との比を基に、現在の路面の路面摩擦係数を算出することを特徴とする車両接地面摩擦状態推定方法。
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