以下、本発明を実施するための最良の形態として、スチレン−ブタジエン系組成物について、詳細に説明する。
本発明者は、上述した問題点を解決し、所望の安定性と強度を発現できるように、アスファルトに添加可能なスチレン−ブタジエン系組成物を製造するために鋭意実験研究を行った。その結果、本発明者は、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)に対して、カルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペン(樹脂酸)を付加反応させることにより、スチレンブロックの近傍に嵩高い分子を付加させることができることを見出した。具体的には、SBSとカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペンとを混合することにより、ブタジエンブロックを構成する二重結合にカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペンを結合させることができ、その結果、スチレンブロック同士が凝集してしまうのを解くことができ、ひいては、この本発明を適用したスチレン−ブタジエン系組成物をアスファルトに添加することにより、最終的に得られるアスファルト組成物自体の安定性をより向上させることができることを見出した。
即ち、本発明を適用したスチレン−ブタジエン系組成物は、例えば下記の一般式で表される。
本発明を適用したスチレン−ブタジエン系組成物は、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)におけるブタジエンブロックにR1が付加されている。このR1は、カルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペン(以下、樹脂酸ともいう。)が付加されている。
スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)は、アスファルト中に添加される、いわゆる熱可塑性エラストマーである。このSBSは、アスファルト組成物の製造温度及び使用温度、加工温度(150〜210℃程度)において分解による弾性率、および動粘度をはじめとした物理的強度の低下が少なく、後述する水添熱可塑性エラストマーに比べて安価なエラストマーである。通常のSBSは、例えば下記の化学式2に示すようにスチレンブロックの間にブタジエンブロックが挟まれた化学構造からなる。このブタジエンブロックを構成する二重結合に樹脂酸を付加させることにより、アスファルト組成物中でのSBSの安定性、すなわち分離し浮上しない傾向、性能を向上させることが可能となる。
なお一般に、同じ温度において、アスファルトの密度はSBSよりも高く、アスファルトとSBSを混合、分散した後に分離を生じた場合は、SBSがアスファルトの上面に浮上する事になる。
樹脂酸は、例えば、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、パラストリン酸等の樹脂酸であるが、これに限定されるものではなく、カルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペンという定義の下でのいかなる樹脂酸も含まれる。これらカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペンは、一般にロジンに含まれている。
ここでロジンとしては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどが使用される。これらロジンは、原産地、原材料、採取方法の違いにより上述したガムロジン、ウッドロジン等の如き分類が可能となるが、少なくとも松脂の水蒸気蒸留時の残渣成分として得られるものである。このロジンでは、成分としてアビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ピマール酸、サンダラコピマール酸、イソピマール酸等を含む混合物である。このロジンは、通常約80℃で軟化し、90〜100℃で溶融する。なお、ロジン中にはアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、レボピマル酸などの各種樹脂酸が含まれているが、これら樹脂酸をそれぞれ精製して単独で使用するようにしてもよい。
これら樹脂酸は、化学式2に示すブタジエンブロックの何れの二重結合に対しても付加反応することにより、付加することが可能となる。しかしながら、本発明を適用したスチレン−ブタジエン系組成物では、化学式1に示すように、ブタジエンブロックにおいて、スチレンブロックに最も近接するブロックA1、ブロックA2における二重結合において、樹脂酸が付加される場合を一例として説明をする。
ここでブタジエンブロックにおけるブロックA1、A2において、スチレンブロックに近接する炭素からC1、C2、C3、C4としたとき、樹脂酸R1は、この炭素C2、に付加されることになる。但し、この樹脂酸R1は、この炭素C2のみならず、炭素C3に付加されるものであってもよい。
また、下記の化学式3は、樹脂酸R1がブタジエンブロックにおけるブロックA1、A2以外の炭素において付加された例を示している。
即ち、この樹脂酸R1は、ブタジエンブロックにおけるブロックA1、A2以外のいかなる炭素において付加されていてもよい。
また、下記の化学式4は、樹脂酸R1がブタジエンブロックにおけるブロックA1において付加されることなく、それ以外のブロックにおいて付加された例を示している。
このように、樹脂酸R1が、ブタジエンブロックにおけるブロックA1、A2を構成する炭素に付加されることは必須とならず、ブロックA1、A2以外のいかなる炭素において付加されていてもよい。
また本発明は、上述した構造からなる組成物を含有し、残部がアスファルトからなるアスファルト組成物であってもよい。
このとき、これらの成分の比率としては、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)が2〜8重量%未満、カルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペン(樹脂酸)0.3〜3重量%が含有され、残部がアスファルトからなるようにしてもよい。ここでいうアスファルトは、あくまで最終生成物であるアスファルト組成物を構成する一要素であり、これにSBS、樹脂酸を添加することによって初めてアスファルト組成物が生成されるものである。
アスファルトは、原油を減圧蒸留した残油として得られるストレートアスファルト、原油の減圧蒸留残油をプロパン等により脱れきして得られたプロパン脱れきアスファルト、或いは原油の減圧蒸留残油をプロパン等により脱れきして得られた溶剤脱れき油を溶剤抽出して得られたエキストラクト等で構成される。このエキストラクトの代わりに、アロマ系オイルで構成するようにしてもよい。このアロマ系オイルは、JISK6200に規定されているものであり、芳香族炭化水素を、少なくとも35質量%含む炭化水素系プロセスオイルである。
アスファルトは、上述した減圧蒸留法、ブローイング(空気吹き込み法)、調合法(ブレンド法)の何れかの方法により製造される。即ち、このアスファルトは、プロパン脱れきアスファルト、ストレートアスファルト、エキストラクトのうち何れか1種以上が含まれるものである。
プロパン脱れきアスファルトは、減圧蒸留残油に対して、プロパン、又はプロパンとブタンの混合物を溶剤として使用し、脱れき処理して得られた、いわゆる溶剤脱れきアスファルトである。またこのプロパン脱れきアスファルト以外には、例えばストレートアスファルトや、ブローンアスファルト等のいかなるアスファルトを使用するようにしてもよい。
このプロパン脱れきアスファルトは、例えばJISK2207の下で25℃における針入度が8(1/10mm)、軟化点が66.5℃、15℃における密度が1028kg/m3であるようなものを使用するようにしてもよい。
また、ストレートアスファルトとしては、例えば、25℃における針入度が65(1/10mm)、軟化点が48.5℃、15℃における密度が1034kg/m3であるようなものを使用するようにしてもよい。
エキストラクトは、原油の減圧蒸留残油をプロパン等により脱れきして得られた溶剤脱れき油を更に極性溶剤を用いて溶剤抽出することにより、重質潤滑油を精製油として得る際の抽出油である。エキストラクトは、100℃における動粘度が61.2mm2/s、40℃における動粘度が3970mm2/s、15℃における密度が976.4kg/m3であるようなものを使用するようにしてもよい。ちなみに、このエキストラクトの含有量は、アスファルト組成物全体の重量に対して、5重量%以下含まれていることが望ましい。その理由として、このエキストラクトの含有量が5重量%を超えてしまうと、得られるアスファルト組成物の強度を、アスファルトとしての適用を考える上で十分な程度まで向上させることができないためである。
また、上述したアスファルト組成物を構成する上で、アスファルト組成物全重量あたりのSBS含有量が2重量%未満の場合、SBS添加による感温性の改善や物理強度向上の程度が実用上十分でなく、アスファルトの物性及び性状の温度依存性を改善する事ができず、広い温度範囲で適切な物性及び性状を得ることが困難になるという問題点が生じる。これに対して、SBS含有量が8重量%以上の場合、最終的に得られるアスファルト組成物の粘度が大きくなり過ぎてしまい、実際にこれを道路に敷設する際の施工性を著しく悪化させることにもなる。また、このSBS含有量が8重量%以上では、最終的に得られるアスファルト組成物の熱安定性及び貯蔵安定性が悪化し、均一な組成物を得られなくなる。このため、SBSの含有量は2〜8重量%未満とする。
また、アスファルト組成物を構成する上で、上述したカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペン(樹脂酸)は、アスファルト組成物の全重量に対して、0.3〜3重量%を含有する。
仮にこの樹脂酸の含有量が0.3重量%未満では、SBSにおけるブタジエンブロックに対する、カルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペン(アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、パラストリン酸等)の付加が十分ではなく、最終生成物としてのアスファルト組成物の安定性の向上を図ることができない。これに対して、この樹脂酸の含有量が3重量%を超えてしまうと、この安定性向上という効果が飽和してしまうばかりでなく、高価な樹脂酸の添加量が増加することによる原料コストの上昇が著しくなるという問題が生じる。即ち、樹脂酸の含有量について3重量%を超えて添加しても、安定性はこれ以上大幅に向上するものではなく、却って原料コストの面において不利となる。
またこのカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペン(樹脂酸)は、アスファルト組成物の全重量に対して、0.3〜1重量%の範囲で含有されていることが望ましい。
この樹脂酸の含有量の上限を1重量%とすることにより、原料コストの上昇を極力低めに抑えつつ、アスファルト組成物の安定性向上を図ることが可能となり、費用対効果を向上させることができる。
なお、上述した構成からなるアスファルト組成物を実際に製造する際には、上述したアスファルトを最初に準備する。このアスファルトは、ストレートアスファルト、プロパン脱れきアスファルト、及びエキストラクトのうち1種以上の混合物である。このアスファルトを195℃程度の温度で維持した状態で、SBSを2〜8重量未満%添加し、更に、上述した樹脂酸を0.3〜3重量%添加し、ホモミキサーにより、温度を190〜210℃、回転数を1500〜6000回転/分として2〜3時間程度、混合並びに攪拌する。
ちなみに、この混合時間については、特に2〜3時間の範囲から逸脱してもよいが、混合温度は上述した190〜210℃の範囲で行う必要がある。
混合温度が190℃未満であると、SBS中のブタジエンブロックを構成する二重結合にカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペン(樹脂酸)が付加しにくくなり、アスファルト組成物中でのSBSの安定性、すなわち分離し浮上しない傾向、性能を向上させることができず、アスファルトとSBSが結果として分離してしまうことになる。
また、混合温度が210℃以上であると、SBSそのものが分解し変質してしまい、SBSをアスファルトに添加、混合することで発現しようとする強度の向上、および感温性の低下(すなわち感温性の改善)が達成できなくなる。このため、混合温度は、上述した範囲に限定することとした。
その結果、ブタジエンブロックを構成する二重結合に樹脂酸を付加反応させることが可能となる。
また、下記の化学式5は、樹脂酸R1としてイソピマール酸がブタジエンブロックにおけるブロックA1の炭素C2において付加反応する例を示している。
実際にイソピマール酸を構成するカルボン酸中の酸素原子が負を帯びている関係上、当該カルボン酸中の水素原子は、正を帯びている。また、スチレンブロックは、電子供与性があるため、スチレンブロック近傍の二重結合は、電子密度が高くなっており、スチレンブロック自体が全体的に負に帯電している。その結果、イソピマール酸が実際にブタジエンブロックを攻撃する際には、正に帯電したカルボン酸中の水素原子が、スチレンブロックに引き寄せられる結果、スチレンブロックに最も近接するブロックA1の二重結合を攻撃しようとする。そして、負に帯びた水素原子と当該二重結合との間で求電子付加反応が生じることになる。
この求電子付加反応の結果、下記の化学式6に示すように、イソピマール酸は、ブロックA1の炭素C2に付加されることになる。
なおイソピマール酸は、ブロックA1の炭素C2ではなく、炭素C3に付加される場合もある。またブロックA2についても同様のメカニズムでイソピマール酸が付加する。
また、イソピマール酸は、ブロックA1、A2のみならず、ブタジエンブロックの他の二重結合に付加される場合があることは勿論である。また、このブタジエンブロックに対して付加されるイソピマール酸の数は、いかなる数であってもよい。またイソピマール酸のみならず、上記樹脂酸は、何れもカルボキシル基を有し、炭素数20の多環式ジテルペンで構成されていることから、上述したようにブタジエンブロックの二重結合に対して同様の付加反応が生じ、その結果、炭素原子に樹脂酸を付加させることが可能となる。
特にこの樹脂酸のうち、アビエチン酸とイソピマール酸は、分子内の原子の結合並びに電子状態から、特にカルボキシル基中の酸素原子の電子密度が高くなり、結果としてブタジエンブロック中の二重結合と反応しやすくなる。このため、上述した樹脂酸としては、特にアビエチン酸又はイソピマール酸を使用することが望ましい。
その結果、最終的には化学式1に示すようなスチレン−ブタジエン系組成物を得ることが可能となる。
このように、本発明を適用したスチレン−ブタジエン系組成物は、上述したように、少なくともスチレンブロックに最も近接するブタジエンブロックA1、A2の二重結合において樹脂酸R1が付加する。その樹脂酸R1は、スチレンブロックを構成するスチレンのサイズと比較して、2〜3倍のサイズを有する。その結果、この樹脂酸R1がSBSの自由な動き(分離)を阻害する機能を担うことになる。この嵩高い樹脂酸R1がスチレンブロック近傍にあることにより、アスファルト中に添加したSBSにおけるスチレンブロック同士が凝集してしまうのを防止することが可能となる。スチレンブロック同士の凝集することなく分散することにより、アスファルトとの間でSBSを均一に混合させることができ、得られるアスファルト組成物自体の安定性を向上させることが可能となる。
以下、本発明を適用したスチレン−ブタジエン系組成物の実施例について、詳細に説明をする。
先ず、SBSに樹脂酸を添加し、その反応性について確認を行った。
本発明例としては、ストレートアスファルト、プロパン脱れきアスファルト(PDA)、エキストラクトのうち何れか1種以上が含まれるアスファルトに対して、195℃程度の温度で維持した状態で、SBSを4.5重量%添加し、さらにこれに樹脂酸としてガムロジン0.75重量%を添加したアスファルト組成物とした。
比較例としては、本発明例と同じアスファルトに、195℃程度の温度で維持した状態で、SBSを4.5重量%添加し、本発明例の如き樹脂酸をあえて添加しないアスファルト組成物とした。
ちなみに、SBSとしては、臭素価が220(g/100g:JIS K0070)、分子量が約150000、スチレン含有量が32重量%であり、エラストマー分子の両端部に存在するスチレンのブロック共重合体の量がそれぞれ16重量%であるスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を使用した。
またガムロジンとしては、酸価160mgKOH/gのものを使用した。
実験では、本発明例、比較例について、動的粘弾性試験機を用いて載荷時間に対する弾性率の関係を調査した。具体的には、図1に示すようにアスファルトバインダー1を2枚の平行円盤2a,2b間に挟み、一方の円盤2aに所定の周波数の正弦波歪みを加え、アスファルトバインダー1を介して他方の円盤2bに伝わる正弦的応力σを測定する。その際の測定条件は、円盤2a,2bの直径が25mm、アスファルトバインダー1の厚さが1mm、歪みが10%である。そして、その測定結果に基づき、下記数式(1)から複素弾性率G*を求める。ここで、下記数式(1)におけるγは円盤に加えた最大歪みである。
損失正接(tanδ)は、正弦波歪みγをアスファルト組成物に加えた際に、アスファルト組成物中で失われるエネルギーの大きさを示す指標である。
損失正接(tanδ)が大きいということは、ひずみを加えた際にエネルギー損失が大きい、すなわち変形しやすく、与えたひずみを取り除くと、元の形状にもどらないことを意味する。また損失正接(tanδ)が小さいということは、ひずみを加えた際にエネルギー損失が小さい、すなわち変形しにくく、与えたひずみを取り除くと、元の形状に戻りたがる物性を意味する。
損失正接(tanδ)は、上述の複素弾性率G*を測定する際に、一方の円盤に加えた所定の角周波数の正弦波歪みγと、アスファルト組成物を介して他方の円盤に伝わった正弦的応力σとの、位相差δから算出する。
なお上述の複素弾性率G*および損失正接(tanδ)は、舗装調査・試験法便覧(社団法人 日本道路協会編)に示される方法「A062 ダイナミックシアレオメータ試験方法」に基づいて測定しても良い。
図2は、本発明例と比較例の、60℃における複素弾性率G*および損失正接(tanδ)を示している。これから、本発明例は、比較例と比較して、載荷時間が長い場合に、換言すれば図2の横軸に示す角周波数が小さい場合に、複素弾性率G*が低いことが分かった。また載荷時間が長い時の損失正接(tanδ)は、大きく、変形しやすい、すなわち与えたひずみを取り除くと、変形したままで元の形状にもどりにくい事が分かった。
また比較例は、載荷時間が長い時の複素弾性率G*が、本発明に比べ高いことが分かった。また載荷時間が長い時の損失正接(tanδ)が小さく、変形しにくい、すなわち与えたひずみを取り除くと、元の形状にもどりやすい事が分かった。
さらに本発明を適用したアスファルト組成物の載荷時間に対する弾性率の関係を、JIS K2207に示す方法に基づいて測定する軟化点を測定することで調査した。
このJIS K2207に示す軟化点の試験法では、規定重量の球を載せた規定のアスファルト板を水浴中に設置し、水浴の温度を5℃/1分間の速度で昇温し、アスファルト板が球の重量と浴温により、一定のたわみを生じる時の温度を求めるものである。すなわち、この軟化点の試験は、載荷時間が長いときの、アスファルトのたわみやすさ、変形しやすさを測る試験である。その結果、本発明例の軟化点は60.0℃であるのに対し、比較例は79.0℃であった。
これらの本発明例における複素弾性率G*の低下、損失正接(tanδ)の上昇、軟化点の低下の意味するところは、スチレンブロック同士が凝集することなく分散することを示していることに他ならない。
これに対して、樹脂酸を添加しない比較例は、スチレンブロック同士が凝集しているものと考えられ、アスファルト組成物中に図6のようなスチレンブロックの凝集構造が形成され、特に載荷時間が長い時に、スチレンブロックによる弾性およびブタジエン鎖によるゴム弾性が顕著に発現し、複素弾性率G*の上昇と、小さな損失正接(tanδ)が観測される。
またアスファルト組成物中でスチレンブロック同士が図6の如く凝集した場合、軟化点は高くなる。これはポリスチレンのガラス転移点(Tg)、すなわちポリスチレンが自由に運動できるようになる温度が、90〜100℃であり、スチレンブロックが凝集することで、ガラス転移点Tgが高くなるのと同様の効果が生じるためである。
以上の複素弾性率G*、損失正接(tanδ)、軟化点の測定結果から、本発明を適用したアスファルト組成物では、SBSに対して樹脂酸が付加反応し、スチレンブロックの近傍に嵩高い樹脂酸の分子が付加することで、スチレンブロック同士が凝集することを妨げ、SBSをアスファルト組成物中に良好に分散することが分かる。
次に、SBSと樹脂酸との反応を確認するために、実際に赤外吸光分析(IR)を行った。サンプルとしては、樹脂酸としてのアビエチン酸と、SBSにアビエチン酸を添加したスチレン−ブタジエン系組成物の2種類を作製した。そして、それらについて、それぞれ赤外吸光分析を行った。
具体的には、アビエチン酸とSBSを、フィッシャー・トロプシュ法を用いて製造した油状物質に混合し、混合温度は195℃とし、ホモミキサーにより回転数を3500回転/分として3時間程度、混合並びに攪拌した。また製造量は300gとした。
また比較のために、SBSの代わりにSIS、SEBSとアビエチン酸を、同様に油状物質と共に混合しIRを測定した。
ちなみにSBSとしては、臭素価が220(g/100g:JIS K0070)、分子量が約150000、スチレン含有量が32重量%であり、エラストマー分子の両端部に存在するスチレンのブロック共重合体の量がそれぞれ16重量%であるスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を使用した。
SISとしては、臭素価が220、分子量が220000、スチレン含有量が15質量%であり、エラストマー分子の両端部に存在するスチレンのブロック共重合体の量がそれぞれ7.5質量%であるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)を使用した。
SEBSとしては、臭素価が5(g/100g:JIS K0070)、分子量が150000、スチレン含有量が30質量%であり、エラストマー分子の両端部に存在するスチレンのブロック共重合体の量が15質量%であるスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)を使用した。
また油状物質としては、100℃における動粘度が5.2mm2/sのものを使用した。
図3は、アビエチン酸のみのIRスペクトルを、また図4は、スチレン−ブタジエン系組成物のIRスペクトルを示している。
図3の結果から、1690cm−1付近において、ピークが現れているのが分かる。これは、アビエチン酸におけるカルボキシル基のC=O結合に応じたものである。
また図4の結果から、1740cm−1付近において、ピークが現れており、また1690cm−1付近においてもピークが現れているのが分かる。この1690cm−1付近のピークは、アビエチン酸におけるカルボキシル基のC=O結合に基づくものであり、1740cm−1付近のピークは、エステルに基づくものである。ちなみに、COOR(Rは、水素以外の任意の炭化水素分子)であるエステルが生成された場合には、同じC=O結合であっても、1740cm−1付近に特徴的なピークが生じる。
このため、SBSとアビエチン酸を混合することにより、COOR(Rは、水素以外の任意の炭化水素分子)というエステルが生成されていることが分かる。ここでいうRが、SBSに相当するものであることが考えられる。このためアビエチン酸は、SBSに反応してエステルを生成することが、このIRの結果からも裏付けられている。そして、このアビエチン酸がSBSに反応する箇所としては、ブタジエンブロックにおける二重結合が、上述した電子密度の観点から最も可能性が高い。このため、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)におけるブタジエンブロックの二重結合に樹脂酸が付加されたことが裏付けられていることが分かる。
なお、アビエチン酸と油状物質のみを、同様に撹拌混合し、IRを測定したところ、エステルに起因する1740cm−1付近のピークは確認できなかった。
また比較のために、SBSの代わりにSIS、SEBSとアビエチン酸とを混合してIRを測定したところ、上述したエステルに相当する1740cm−1付近のピークは特段観察されなかった。
以上の結果よりSBSにしか存在しないブタジエンブロックの二重結合に樹脂酸が付加されていることが分かる。
以上の結果から、SIS,SEBSでは、樹脂酸(ここではアビエチン酸を例として実験した)との間で、エステルを生成する反応を確認することができなかったのに対し、SBSは、樹脂酸との間でエステルを生成することを確認することができた。
SEBSと樹脂酸とが反応しなかった理由としては、SEBSは、スチレンブロックを有するものの、ブタジエンが存在せず、二重結合が存在しないためであると考えられる。樹脂酸は、二重結合を持たないSEBSとの間で、求電子付加反応を起こさせることができない。これに対して、本発明を適用したスチレン−ブタジエン系組成物では、SBSに樹脂酸を付加させることを前提としており、このブタジエンブロックには二重結合が存在するため、当然このブタジエンブロックに樹脂酸が付加されることが考えられる。
またSISは、SBSと同様に、二重結合を有するものの、樹脂酸との反応を確認することができなかった。SISは、SBSと異なり、二重結合の周辺にメチル基が存在する。樹脂酸がイソプレンブロックにおける二重結合に対して攻撃しようとするとき、当該メチル基の存在が立体障害となり、樹脂酸の如き嵩高い分子がイソプレンブロックの二重結合に付加しにくくなるためであると考えられる。
上述した実験結果からも、樹脂酸に反応させるスチレン・ブタジエン共重合体としては、SISでなく、またSBSのブタジエン部分に水素付加させたSEBSでもなく、あえてSBSを選択する必要があることが分かる。また、樹脂酸は、SBSにおけるブタジエンブロックの二重結合に付加反応されて結合することが推定できる。
図5は、本発明によって得られたアスファルト組成物における角周波数ωに対する複素弾性率G*並びに損失正接(tanδ)の関係を示している。アスファルト組成物に正弦波振動を一定ひずみで加え、その角周波数ωを徐々に増加させてゆき、その角周波数ωに対して複素弾性率G*並びに損失正接(tanδ)をそれぞれ測定した。
本発明において規定している複素弾性率G*は、動的粘弾性試験機により測定することができる。具体的には、図1に示すようにアスファルトバインダー1を2枚の平行円盤2a,2b間に挟み、一方の円盤2aに所定の周波数の正弦波歪みを加え、アスファルトバインダー1を介して他方の円盤2bに伝わる正弦的応力σを測定する。その際の測定条件は、円盤2a,2bの直径が25mm、アスファルトバインダー1の厚さが1mm、歪みが10%である。そして、その測定結果に基づき、下記数式(1)から複素弾性率G*を求める。ここで、下記数式(1)におけるγは円盤に加えた最大歪みである。
損失正接(tanδ)は、正弦波歪みγをアスファルト組成物に加えた際に、アスファルト組成物中で失われるエネルギーの大きさを示す指標である。
損失正接(tanδ)が大きいということは、ひずみを加えた際にエネルギー損失が大きい、すなわち変形しやすく、与えたひずみを取り除くと、元の形状にもどらないことを意味する。また損失正接(tanδ)が小さいということは、ひずみを加えた際にエネルギー損失が小さい、すなわち変形しにくく、与えたひずみを取り除くと、元の形状に戻りたがる物性を意味する。
損失正接(tanδ)は、上述の複素弾性率G*を測定する際に、一方の円盤に加えた所定の角周波数の正弦波歪みγと、アスファルト組成物を介して他方の円盤に伝わった正弦的応力σとの、位相差δから算出する。
なお上述の複素弾性率G*および損失正接(tanδ)は、舗装調査・試験法便覧(社団法人 日本道路協会編)に示される方法「A062 ダイナミックシアレオメータ試験方法」に基づいて測定しても良い。
ちなみに、この図5の例では、SBS4.5重量%、ガムロジン0.75重量%を含有し、残部がアスファルトからなるアスファルト組成物に、60℃において10%の正弦波歪みを加えた際の、複素弾性率G*および損失正接(tanδ)を示している。また、アスファルト組成物を調製する際の混合温度は、それぞれ180℃、185℃、190℃に異ならせたものをサンプルとして用いている。
特に道路舗装の現場において、アスファルト組成物を骨材(砕石、砂など)と共に道路上に敷設する際には、舗装面を重機(ローラーなど)および人力によって、平坦にし、交通走行時の乗り心地の向上、歩行時のつまづきの防止、水溜まり生成の防止をはかる必要がある。舗装面を平坦にするには、大きな力ゆっくりと舗装面に与え、いわゆるアイロン掛けをするようにして作業を行う。
この際アスファルト組成物には低い角周波数ωで振動を受けるため、かかる低い角周波数ωの下でのtanδが高いほど、アスファルト組成物が変形しやすく、復元力が小さくなり、現場での施工性、即ち、平坦な道を形成しやすくする上で適したものとなる。
混合温度が190℃のサンプルは、それ以外と比較して、低角周波数ωにおけるtanδが高くなる傾向が示されていた。これに対して、混合温度が185℃以下では低角周波数ωにおけるtanδが低下してしまう傾向が表れていた。このため、施工性の点からも、混合温度を190℃以上とすることが望ましいことが分かる。
また、複素弾性率G*も、低い角周波数ω帯域において小さいほうが望ましい。特にアスファルト組成物を締め固め、平坦にする際には、低い角周波数ω帯域でアスファルト組成物へ負荷がかかることになるが、このときは極力軟らかいほど、換言すれば弾性率が低いほど施工性が向上することになる。かかる複素弾性率の観点でみた場合においても、混合温度が190℃のサンプルは、それ以外と比較して、低い角周波数ωにおける複素弾性率G*が低くなる傾向が示されていた。これに対して、混合温度が185℃以下では低角周波数ωにおける複素弾性率G*が高くなり、施工性が悪化してしまう傾向が表れていた。このため、施工性の点から、混合温度を190℃以上とすることが望ましいことが分かる。
上述の如き製造方法を経ることにより生成されたアスファルト組成物は、アスファルトとSBSとが分離することなく共に安定させた状態で仕上ることができる。その理由として、SBSを構成するスチレンブロックは互いに他のSBSのスチレンブロックと互いに凝集しようとする性質を持つが、本発明では、ブタジエンブロックを構成する二重結合にカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペン(樹脂酸)を付加させることができる。特にスチレンブロック近傍に樹脂酸が付加することにより、嵩高い樹脂酸がスチレンブロックに作用し、ひいてはスチレンブロックの凝集を解くことが可能となるためである。このスチレンブロックの凝集を解くことにより、SBSがアスファルトとの間で分離することなく、十分な安定性を確保することが可能となる。
ちなみに、このアスファルト組成物が安定しているか否かは、貯蔵安定性を介して識別することが可能となる。この貯蔵安定性は、内径が5.2cm、高さが13cmのアルミニウム製円筒缶に、深さ12cmの位置までアスファルト組成物(約250g)を注入して密封し、170℃で48時間加熱する。その後、アルミニウム製円筒缶に注入されているアスファルト組成物の上部4cm、下部4cmにおける軟化点を測定することにより確認することができる。軟化点の測定は、JISK2207に示す方法に基づくものとしてもよい。そして、上部の軟化点と下部の軟化点の差の差分絶対値を介して安定性の判断を行う。この軟化点差としての差分絶対値が3.0℃以下のときに貯蔵安定性が良好であるものとした場合に、アスファルト組成物は、いずれも軟化点差が3.0℃以下まで抑えることが可能となる。
また、上述の如き製造方法を経ることにより生成されたアスファルト組成物は、強度も向上させることが可能となる。このアスファルト組成物の強度は、舗装評価・試験法便覧(社団法人 日本道路協会編)に記載されているホイールトラッキング試験に基づいて、DS値から判断する。このDS値は、下記の式(2)から求めることができ、45分〜60分までの間におけるアスファルト組成物の変形量(mm)に対する、45分〜60分までの間におけるタイヤ走行回数で求めることが可能となる。このDS値が高いほど、アスファルト組成物自体の変形量が少なく、轍掘れに強い材料となり、強度が高いことを意味している。
アスファルト組成物では、特にエキストラクトを5重量%以下に抑えていることから、一般の道路舗装に使用される密粒混合物(骨材最大粒径13mm)において、上述したDS値をほぼ6000(回/mm)以上に調整することが可能となる。ちなみにDS値が6000(回/mm)以上であれば、アスファルト組成物としての強度面において殆ど問題が生じなくなる点については、舗装評価・試験法便覧(社団法人 日本道路協会編)において言及されている。
このため、本発明によれば、軟化点差を3.0℃以下とすることによる貯蔵安定性の向上と、DS値を6000(回/mm)以上とすることによる強度の向上の双方を同時に実現することが可能となる。
なお、アスファルト組成物は、道路舗装に適用される場合を前提としているが、これに限定されるものではなく、防水材、粘着剤等に適用することも可能であることは勿論である。
以下、本発明の実施例について詳細に説明をする。表1に示すように、ストレートアスファルト、プロパン脱れきアスファルト(PDA)、エキストラクトのうち何れか1種以上が含まれるアスファルトに対して、195℃程度の温度で維持した状態で、SBSを4.5重量%添加した。
SBSとしては、臭素価が220(g/100g:JIS K0070)、分子量が約150000、スチレン含有量が32質量%であり、エラストマー分子の両端部に存在するスチレンのブロック共重合体の量が16質量%であるスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を使用した。
そして、これらに対して酸A(直鎖)を混合した比較例1〜6で示されるアスファルト組成物と、ロジンBを混合した実施例1〜5と、ロジンCを混合した実施例6と、アビエチン酸を混合した実施例7と、デヒドロアビエチン酸を混合した実施例8とからなるアスファルト組成物を製造した。なお、これら実施例及び比較例の各アスファルト組成物においては、針入度が40〜50になるように、ストレートアスファルト、プロパン脱れきアスファルト(PDA)、エキストラクトの配合割合を調製している。
ここでいう酸Aは、酸価190(mgKOH/g:JIS K0070)、ヨウ素価110(g/100g:JIS K0070)で、直鎖の炭素数18のモノマー酸7重量%、炭素数36のダイマー酸76重量%、炭素数54のトリマー酸7重量%よりなる混合物で、平均分子量は約590である。またロジンBは、酸価156(mgKOH/g:JIS K0070)、軟化点77.0℃(JIS K2207)の不均化ガムロジンである。またロジンCは、酸価170(mgKOH/g:JIS K0070)、ケン化価178(mgKOH/g:JIS K0070)で、軟化点77.0℃(JIS K2207)のトール油ロジンである。
この表1における成分の段において、表中の数値は何れも重量%を示す。
比較例1は、アスファルト中のエキストラクトを12重量%としたものであり、比較例2は、アスファルト中のエキストラクトを8重量%としたものであり、比較例3は、アスファルト中のエキストラクトを6重量%としたものであり、比較例4〜6は、アスファルト中のエキストラクトを4重量%としたものである。なお比較例1〜4は何れも酸A(直鎖)を0.3重量%とし、比較例5は、酸A(直鎖)を0重量%、比較例6は、酸A(直鎖)を0.5重量%混合させたものである。また、実施例1〜5は、比較例1〜6において混合すべき酸A(直鎖)の代わりに、ロジンBを添加したものである。この実施例1〜5においてロジンBの含有率は互いに異ならせている。実施例6は、ロジンCを0.75重量%、実施例7は、アビエチン酸を0.75重量%、実施例8は、デヒドロアビエチン酸を0.75重量%混合したものである。
製造条件として、何れの組成においても、混合温度は195℃とし、ホモミキサーにより回転数を3500回転/分として2時間程度、混合並びに攪拌した。また、製造量は何れも1.8kgとした。
また製造した各比較例並びに各実施例について、物性を測定した結果も表1に示す。この物性は、針入度(1/10mm)、軟化点(℃)、180℃における粘度(mPa.s)、貯蔵安定性、DS値について測定したものである。針入度については、JISK2207の下で測定した25℃のデータとしている。また、軟化点についても、JISK2207の条件の下で測定を行った。粘度はJPI−5S−54−99「アスファルト−回転粘度計による粘度試験方法」の条件の下、測定温度180℃、使用スピンドルSC4−21、スピンドル回転数20回転/分で測定を行った。
また貯蔵安定性は、内径が5.2cm、高さが13cmのアルミニウム製円筒缶に、深さ12cmの位置までアスファルト組成物(約250g)を注入して密封し、170℃で48時間加熱した。その後、アルミニウム製円筒缶に注入されているアスファルト組成物の上部4cm、下部4cmにおける軟化点をJISK2207に基づいて測定した。表1では、この上部の軟化点と、上部の軟化点と下部の軟化点との差分値の絶対値をとった、即ち軟化点の差分絶対値を示している。
DS値は、ホイールトラッキング試験に基づいて測定をした。このDS値は、各アスファルト組成物と密粒度アスファルト混合物(13)の配合となる骨材とを使用し、アスファルト組成物を5.6重量%として作製した縦30cm、横30cm、厚さ5cmのシート状の供試体を使用し、舗装評価・試験法便覧(社団法人 日本道路協会編)に定義されている方法に基づいて行った。日本の道路は、夏場には60℃程度の温度になることが実験的に確認されている。この状態で、その上を車が通過すると、流動変形して轍掘れ等が発生する。ホイールトラッキング試験は、この轍掘れの発生の程度を実験的に確認するために考案された試験であり、舗装材における耐流動性の指標である動的安定度を評価するために実施される試験である。具体的には、60℃に保持された恒温槽の中で、試験体(供試体)上に所定の荷重をかけたタイヤを1時間往復走行させ、その変形量を測定した。そして、上述した数式(2)に基づき、試験開始から45分の時点から60分の時点までの間の変形量から、DS値を算出した。
上述した表1において、先ず比較例1〜4の傾向からは、エキストラクトを減らすにつれて、DS値が向上することが示されている。しかしながら、エキストラクトを減少させるにつれて、上部の軟化点と下部の軟化点との差分絶対値が大きくなる傾向が示されていた。特に比較例4では、エキストラクトを4重量%まで低減させているが、その結果、DS値を7875(回/mm)まで向上させることができる一方で、軟化点の差分絶対値が19.9℃まで悪化してしまうのが示されている。
また、比較例5、6に示すように、エキストラクトを4重量%まで低減させた場合には、酸A、即ちカルボン酸の含有率を増減させても、貯蔵安定性を向上させることができないことを意味している。
また、実施例1では、エキストラクトの含有率を4重量%とした上で、ロジンBを0.3重量%含有させているが、DS値を7000(回/mm)以上まで向上させることができるとともに、軟化点の差分絶対値を極力小さくすることができ、強度と貯蔵安定性の双方を向上させることができることが分かる。同様に、実施例2〜5においても、ロジンBをそれぞれ0.6重量%、0.75重量%、1重量%、1.5重量%とすることにより、DS値を7000(回/mm)以上に維持しつつ、軟化点の差分絶対値を1.3℃以下に抑えることが可能となり、強度と貯蔵安定性の双方を向上させることができることが分かる。但し、この貯蔵安定性については、ロジンBの添加量を増加させても、軟化点の差分絶対値についてあまり変化が出ないことが分かった。仮に、このロジンAを3重量%超に亘って添加した場合においても、この軟化点の差分絶対値は殆ど変化が無いものと考えられる。
また実施例6では、エキストラクトを4重量%まで低減させた上で、ロジンCを0.75重量%添加した例であるが、これについても同様にDS値並びに軟化点の差分絶対値がともに良好であった。また樹脂酸としてアビエチン酸を単独で添加した実施例7、並びに樹脂酸としてデヒドロアビエチン酸を単独で添加した実施例8についても同様にDS値並びに軟化点の差分絶対値がともに良好であった。この実施例6〜8の結果からは、樹脂酸の種類を変更した場合においても、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸単体の添加により、DS値を高い水準に確保しつつ、貯蔵安定性を向上させることが可能となる。
このように、表1の結果から、DS値並びに軟化点の差分絶対値の双方を共に向上させるためには、エキストラクトを5重量%以下にするとともに、樹脂酸を0.3〜3重量%の範囲で添加することにより、実現できることが示されている。
また表1の結果から、同じSBS配合量であれば、アスファルト組成物の調製終了後(製造後)の軟化点が低くなると、貯蔵安定性が高くなることが分かる。これは、同じ熱可塑性エラストマーを同量配合した系においては、アスファルト組成物の調製終了後の軟化点が低いほど、SBS中のブタジエンブロックを構成する二重結合にカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペン(樹脂酸)が付加しており、安定性が向上していると考えられるためである。
また、表2は、SBSの代替として、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)について、本発明所期の作用効果を発揮するかについての検証実験結果を示している。この検証実験において、アスファルト組成物の製造条件は、上述した表1の例と同様である。また、SBS、SEBS、SISの添加量は何れも4.3重量%とし、針入度、軟化点、150℃または180℃における粘度(mPa.s)を測定した。
この表2においてサンプルR1、R2は、何れもSBSを用いた例を示している。サンプルR1は、ガムロジンを添加しない場合であり、本発明とは構成が異なる比較例である。これに対して、サンプルR2は、ガムロジンを0.75重量%に亘り添加した例であり、本発明例に相当する。このサンプルR1、R2の物性を比較すると、サンプルR2における軟化点がサンプルR1よりも大きく低下しており、ガムロジン添加による安定性が向上することから、本発明の期待している効果を奏していることがわかる。
なお、この表2において、ガムロジンは実施例4の表1でいうロジンBに相当し、トールロジンは、実施例4の表1でいう同ロジンCに相当する。
これに対して、サンプルS1、S2は何れもSBSの代替として、SEBSを適用した例である。
SEBSは、SBSのブタジエンブロックにある二重結合に水素を付加し、単結合にしたもので、臭素価が5(g/100g:JIS K0070)、分子量が約150000、スチレン含有量が30質量%であり、エラストマー分子の両端部に存在するスチレンのブロック共重合体の量が15質量%であるスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)を使用した。
サンプルS1は、ガムロジンを添加しない場合であり、サンプルS2は、ガムロジンを1重量%に亘り添加した例である。このサンプルS1、S2の物性を比較すると、両者で軟化点が殆ど変化無く、ガムロジン添加による安定性向上の効果が発現していないことが示されている。
またサンプルP1〜P6は何れもSBSの代替として、SISを添加した例を示している。
SISとしては、臭素価が220(g/100g:JIS K0070)、分子量が約220000、スチレン含有量が15質量%であり、エラストマー分子の両端部に存在するスチレンのブロック共重合体の量が7.5質量%であるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)を使用した。
P1〜P3は何れもガムロジンを添加した例であるが、ガムロジンの添加量、添加の有無に関わらず、軟化点は殆ど変化しなかった。また、P4〜P6は何れもトールロジンを添加した例であるが、トールロジンの添加量、添加の有無に関わらず、軟化点は殆ど変化しなかった。従って、このSISでは、ロジン添加による安定性向上の効果が発現していないことが示されている。
即ち、本発明は、SBSを添加することにより安定性向上の効果が発揮されるものであり、SBSの代替としてSEBSやSISを適用しても、所期の効果を発揮させることができないことが分かる。スチレンブロックの間にブタジエンブロックが挟まれSBSのみは、このブタジエンブロックを構成する二重結合に樹脂酸を付加させることにより自身の安定性を向上させることが可能となるが、SEBSやSISは、樹脂酸を付加させることができず、その結果、安定性の向上を図ることができないためである。