<第1実施形態>
以下、本実施形態について、図1から図8を参照して説明する
先ず、図2は、ドラム式洗濯機(以下、洗濯機と称す)の全体構造を示しており、外殻を形成する箱状の外箱1の前面(図示右側)の中央部には、洗濯物出入口2が形成されると共に、該出入口2を開閉する扉3が外箱1に枢支されている。また、外箱1の前面部の上部には、操作パネル4を設けており、その裏側に運転制御用の制御装置5を設けている。
外箱1の内部には、水槽6が配設されている。この水槽6は、軸方向を前後とする横軸円筒状をなし、外箱1の底板1a上に左右一対(図2では一方のみ図示)のサスペンション7a,7b(詳細は後述する)によって前上がりの傾斜状態に弾性支持されている。
水槽6の背面部には、例えば直流のブラシレスモータからなるアウターロータ形のモータ8が取付けられている。モータ8は、そのロータ8aの中心部に取付けられた図示しない回転軸が、軸受ブラケット9を介して水槽6の内部に挿通されている。
水槽6の内部には、ドラム10が配設されている。このドラム10も軸方向が前後の横軸円筒状を成すもので、それが後部の中心部で上記モータ8の回転軸の先端部に取付けられることにより、水槽6と同心の前上がりの傾斜状に支持されている。また、その結果、ドラム10はモータ8により回転されるようになっており、従って、ドラム10は回転槽であり、モータ8はドラム10を回転させるドラム駆動装置として機能するようになっている。
また、ドラム10の周側部たる胴部には、通水、通風可能な小孔11が全域にわたって多数形成されている。ドラム10および水槽6は、共に前面部に開口部12,13を有しており、そのうちの水槽6の開口部13と前記洗濯物出入口2との間に、環状のベローズ14が装着されている。これにより、洗濯物出入口2は、ベローズ14、水槽6の開口部13、及びドラム10の開口部12を介して、ドラム10の内部に連なっている。
貯水可能な水槽6の最低部位には、排水弁15aを介して排水管15が接続されている。この水槽6の背面側から上方および前方にわたって、乾燥ユニット16が配設されている。この乾燥ユニット16は、送風装置18と、加熱装置19と、図示しない除湿手段等を備えた循環ダクト17とから構成され、水槽6内から排出された空気中の水分を除湿し、次いで加熱して、水槽6内に戻す循環を行わせることにより、ドラム10内の洗濯物を乾燥させるようになっている。
水槽6の上部の前部と後部には、それぞれ振動センサ20a,20bが配設されている。この振動センサ20a,20bはともに例えば加速度センサからなり、前記ドラム10が回転するときにアンバランスがあると、そのドラム10の振動に起因する水槽6の振動を検知するようになっている。即ち、振動センサ20a,20bは、ドラム10回転時のアンバランスを水槽6の振動で検知する振動検知手段として機能する。
ここで、前記サスペンション7a,7bの構成について詳述する。サスペンション7a,7bは、ダンパ21を有しており、このダンパ21は、図3に示すように、主部材として、円筒状のシリンダ22と、このシリンダ22内を往復動するシャフト24を備えている。
シリンダ22は、その下端部にシリンダ連結部22aが被着され、この連結部22aを前記底板1aの取付板1bにゴムなどの弾性座板26等を介してナット27で締結することにより、底板1a側の取付板1b(図2参照)に取付けられている。一方、シャフト24は、シリンダ22の内部に挿入される磁性部材からなるシャフト主部24aと、その上端部に一体的に連結された磁性部材からなるシャフト連結部24bとから構成され、この連結部24bを水槽6の取付板6bに弾性座板28等を介してナット29で締結することにより、水槽6の振動に伴い一体的に上下方向等に振動するように取付けられている。
シャフト24とシリンダ22との間にはコイルばね25が設けられている。コイルばね25は、下端部がシリンダ22の上端部に支持され、上端部がシャフト24の上部に配置された円板状のばね受け板30に受け止められ、弾発力が蓄積した状態に装着されている。つまり、コイルばね25は、シャフト24をシリンダ22から上方へ引き出すように付勢する状態に配置されている。
前記シリンダ22内には、シャフト24を支持する上下一対の軸受手段23,23が配設されるとともに、その中間部位に磁気粘性流体36や、磁場発生手段としてのコイルボビンユニット37等が収容されている。
図4に示すように、上部側の軸受手段23は、シリンダ22の開口上端部に固定された中空筒状の上部軸受ケース31と、その内部に圧入状態に嵌合固定された例えば焼結含油メタルからなる軸受32とを備え、シャフト24の上半部側を摺動可能に軸支する。上部軸受ケース31の上部には、後述のばね受け部48が一体に突設されている。図3に示すように、下部側の軸受手段23は、シリンダ22の上下方向の略中間部に固定された中空筒状の下部軸受ケース33と、その内部に圧入状態に嵌合固定された前記焼結含油メタルからなる軸受32とを備えている。この上下の軸受手段23,23により、シリンダ22内に挿通されたシャフト24は直線的に上下方向へ往復動可能に支持される。もっとも、シャフト24は、コイルばね25が組み込まれた状態で上方に付勢されているため、シャフト24の下端部に設けたストップリング34により下部軸受ケース33に衝止されることで抜け止めされている。シリンダ22内において、下部軸受ケース33の下側は、シャフト24の下降ストロークを考慮した大きさの空洞35とされている。
コイルボビンユニット37は、円筒状のボビン38に磁場(磁界)を発生するコイル39を巻装した構成としている。本実施形態のコイル39は、例えば直列接続された上コイル39Uと下コイル39Dとを上下2段に巻装してなる。このコイルボビンユニット37は、コイル39が巻装されたボビン38の上部、下部、及びその中間に位置して各ヨーク40、42、及び41を配置した状態で、樹脂モールドによって(図3中、モールド部47参照)ユニット化されている。そして、コイルボビンユニット37は、そのモールド部47外周面がシリンダ22の内周面に嵌合することで、シリンダ22内に組み込まれている。
組み込まれたコイルボビンユニット37の筒状中空部は、挿入されたシャフト24の外周面との間に狭小な環状の空隙Gを形成する。また、コイルボビンユニット37の上端部において、上部ヨーク40の上面側には、環状の流体シール43が配置されている。流体シール43は、その外周囲の剛性部分の圧入により固定され、リップ状の内周囲がシャフト24の外周面に密着して封止する。また、下部側の下部ヨーク41の下面側には、上記と同様の流体シール43が圧入固定され、シャフト24の外周面に密着して封鎖している。従って、各流体シール43は、前記軸受ケース31、33にて外方側から挟持されるように支持されることで抜け止め状態に装着され、前記空隙Gは、その上下端部が各流体シール43にて封鎖され全体に筒状の空間を形成している。
前記空隙G内には、磁気粘性流体36(図3,4中、白抜き状態で示す)が充填されている。空隙Gは筒状の空間であるが、特に各ヨーク40、41、42と対応する隙間は最も狭小に形成されるとともに、前記流体シール43により磁気粘性流体36が漏洩しないようになっている。
磁気粘性流体36(MR流体)は、例えばオイルの中に鉄、カルボニル鉄などの強磁性粒子を分散させたものであり、磁界が印加されると強磁性粒子が鎖状のクラスタを形成することで見かけ上の粘度が上昇する特性を有し、磁界(磁場)の強度に応じて粘性特性が変化する。このように、磁気粘性流体36は、外部から加える物理量を制御することで粘性等のレオロジー的性質が機能的に変化する機能性流体に属し、電気的エネルギーの印加により粘性が変化する。従って、磁気粘性流体36に代えて、電界(電場)の強度に応じて粘性特性が変化する電気粘性流体(ER流体)を用いてもよい。
図4に示すように、前記ばね受け部48は、上部軸受ケース31を利用してその上面側に一体に形成されたもので、筒状をなす径小な筒状部48aを有し、シリンダ22上端部から突出するように形成されている。
筒状部48aと上部軸受ケース31は、夫々の径(外形)寸法が異なり、両者48a、31の境界部分は段差部49を形成する。筒状部48aは、その上部に行くに伴い径小に形成されており、段差部49側でコイルばね25の下端部が自由動しないように嵌合支持する。ばね受け部48は、その内周部にシャフト24の径方向外側へ窪むように形成された凹所50を有する。凹所50は、筒状部48aと略同じ長さ(上下寸法)にわたって形成され、上方から嵌合される2個の円環状のシール部材51、51を収容する。凹所50は、当該シール部材51、51が上下に配置された状態で、その両者の対向間に環状の間隙からなる溝状部52を形成している。各シール部材51は、ばね入りオイルシールで、例えば2条のリップ51a,51bを有する。溝状部52側のリップ51aはばね51cを介してシャフト24に密着するシールとして機能し、他方のリップ51bは主にダスト用リップとしてダストの侵入を防止する。また、いずれのリップ51a,51bもシャフト24に密着して液密に封鎖する。
前記溝状部52には、例えば半固体状のグリース53が充填される(図4に破線ハッチングで示す)。従って、溝状部52はグリース溜め部として機能し、そのグリース53はシャフト24の外周面と常に所定幅でもって面接触する。グリース53の硬さは、グリース53とシャフト24との接触に基づく摩擦力を考慮し、JIS分類0号〜3号までの稠度を有するウレア系グリースを採用することで、サスペンション7a,7bにおいて静音化を図りつつ良好な減衰作用を得ている。
図3に示すように、直列に接続された上、下コイル39U、39Dから引出されたリード線44は、シリンダ22に被着されたブッシュ45を介して外部に導出されている。このリード線44は、保護のためのチューブ46が被嵌されている。
こうしてダンパ21は、そのシリンダ22の上方にコイルばね25が装着されることで、サスペンション7a,7bが構成されると共に、当該サスペンション7a,7bが水槽6と外箱1の底板1aとの間に組込まれ、外箱1の底板1a上に水槽6を弾性的に支持するようにしている。
図5には、制御系の構成をブロック図で示している。制御装置5は、例えばマイクロコンピュータから成るもので、ドラム式洗濯乾燥機の洗濯運転をはじめとする運転全般の制御を司る制御手段として機能する。制御装置5は、ROM56a、RAM56bを有すると共に、不揮発性記憶手段として例えばEEPROM56cを有する。詳しくは後述するように、ROM56aには、運転全般を制御する制御プログラムや各種データが記憶され、EEPROM56cには、サスペンション7a,7bの故障に係る情報等が記憶されるようになっている。
この制御装置5には、前記操作パネル4が有する各種の操作スイッチから成る操作部58からの各種操作信号、モータ8の回転を検知するように設けた回転センサ57からの回転検知信号、水槽6の振動を検出するように設けた振動センサ20a,20bからの振動検知信号等が入力される。制御装置5は、回転センサ57からの検知信号に基づき、モータ8(ドラム10)の回転数を検知所要時間で除する演算を行い、その演算に基づきドラム10の回転速度を検知する。また、制御装置5は、振動センサ20a,20bの検出値に基づき振幅(振動値)を算出する。前記ROM56aには、当該振幅に対する閾値として後述の通常モードに対応するA1(図1のステップS11参照)と非通常モードに対応するA2が記憶されている。
また、図5に示すように、制御装置5には、サスペンション7a,7bの夫々のコイル39(以下、サスペンション7aのコイル39の符号を39aとし、サスペンション7bのコイル39の符号を39bとする)に対して、例えば36Vの直流電源を供給する電源生成回路60が接続されている。この直流電源とグランドとの間には、ダイオード61とMOSFET62とシャント抵抗63とが直列接続され、MOSFET62のゲートは制御装置5に接続されている。
前記コイル39aはコネクタ65aを介してダイオード61に並列接続され、コイル39bもコネクタ65bを介してダイオード61に並列接続されている。MOSFET62とシャント抵抗63との接続点には、両コイル39a、39bの夫々に流れる電流の合計電流を検出する1つの電流検出回路66が接続されており、制御装置5には、電流検出回路66から電流検出信号が入力される。このように、電流検出回路66は、前記合計電流をシャント抵抗63を用いて検出する1つの電流検出手段に相当する。また、両コイル39a、39bは互いに並列接続されて、1つの駆動回路としてのMOSFET62(スイッチング素子)を共用する。
そして、制御装置5は、上記した入力信号や検出信号、並びに予めROM56aやEEPROM56cに記憶された制御プログラム及びデータに基づいて、設定内容などを表示する表示部67a、使用者に報知や警告するためのブザー67b、前記モータ8、前記排水弁15a等を駆動制御する。
また、制御装置5は、サスペンション7a,7b用の電源生成回路60のオンオフ制御を行うと共に、MOSFET62のオンオフ制御を行う。この場合、電源生成回路60により直流電源を生成し且つMOSFET62をオンすることで、サスペンション7aのコイル39aとサスペンション7bのコイル39bとに同時に通電をする。この場合、両コイル39a、39bの夫々に流れる電流の合計電流が、所定値、例えば0.70Aとなる通電をし、従って、各コイル39a、39bに例えば0.35Aの電流が流れて、サスペンション7a、7bに大きな減衰力を与えようになっている。
さて、図6に例示するように、ROM56aには、コイル39a、39bの断線やショート等を判断するための基準となる電流値範囲が予め記憶されている。具体的には、図6に示す「検出電流」は、電流検出回路66の検出値(前記合計電流)に対応するもので、例えば、0.53A、0.87A、1.07Aの各電流値が記憶されている。このうち、0.53〜1.07Aは第1電流値範囲とされ、その上限値の1.07Aは、例えばコイル絶縁物の劣化等によるショートを判断するための電流値であり、下限値の0.53Aは、少なくとも両コイル39a、39bのうち何れか一方のコイルに係る断線を判断するための電流値である。
ここで、「コイルに係る断線」とは、コイル39a、39bにかかわる全ての断線を称するもので、コイル39a、39bやリード線44がそれら両者の半田付け部分P(図5参照)から外れた場合、前記コネクタ65a、65bからリード線44が抜けた場合等、コイル39a、39bに通電するための回路の断線も包含する。0.53〜0.87Aは第2電流値範囲とされ、電流検出回路66の検出値として、この範囲内の電流が適切なものとされている。0.87〜1.07Aの範囲は、前記ショートに至る前の段階のレアショートとして規定されている。尚、このレアショートの範囲を設けずに、第2電流値範囲と第1電流値範囲とを一致させた0.53〜1.07Aの電流値範囲を適切な電流値の範囲として規定してもよい。
次に、上記構成の作用を説明する。
先ず、使用者が、洗濯機の操作部58の電源スイッチ(図示せず)をオン操作し、洗濯運転の設定操作をすると、制御装置5は、例えば図7(a)に示すように、洗い行程、すすぎ行程、脱水行程、乾燥行程及びソフトキープ行程の順に運転を実行する。ここで、図7(a)は、洗濯運転の通常モードにおける行程の概略と、電源生成回路60による直流電源の生成タイミングを示している。
洗い行程では、最初にドラム10内に収容された乾燥状態の洗濯物の量を検知する乾布重量センシングを行う。乾布重量センシングでは、図8(c)に示すように、ドラム10を目標回転速度(例えば250rpm)まで回転させ、それに要した時間と、その後、ドラム10の駆動を停止してドラム10を惰性回転させ、それによってドラム10の回転速度が所定の回転速度まで下降するのに要した時間とから、洗濯物の量をモータ8の回転負荷でもって検知する。このように、制御装置5は、回転センサ57と共に洗濯物量検知手段として機能し、洗濯物重量に応じた洗濯運転を実行する。また、乾燥行程初期には、洗い工程等を経た含水状態の洗濯物の量を検知する湿布重量センシングを行う。湿布重量シングでは、図8(d)に示すように、ドラム10の目標回転速度を例えば170rpmとし、上記と同様に、洗濯物の量をモータ8の回転負荷でもって検知する。
図7(a)に示すように、制御装置5は、洗い工程における乾布重量センシングの開始から乾燥工程における湿布重量センシングが終了するまでの間、電源生成回路60にて36Vの直流電源を生成させる。
ここで、本実施形態の洗濯運転とは、図7(a)に示す洗濯運転のみならず、前記洗い行程〜ソフトキープ行程のうち何れかの行程を含む運転を総称するものであり、例えば、設定された予約終了時刻までに洗い行程〜ソフトキープ行程を終了する予約運転(図7(b)参照)や、前記予約終了時刻までに乾燥行程とソフトキープ行程を終了する予約運転(図7(c)参照)等、各種の洗濯運転を包含する。
図7(b)に示す予約運転では、予め行われる乾布重量センシングの開始から終了までの間、電源生成回路60により前記と同様の直流電源が生成され、待機中に一旦オフ状態となった後、洗い行程の開始から乾燥行程の湿布重量センシングが終了するまでの間、再度、電源生成回路60により直流電源が生成される。図7(c)に示す予約運転では、予め行われる湿布重量センシングの開始から終了までの間、電源生成回路60により前記と同様の直流電源が生成される。
一方、制御装置5は、前記直流電源の生成を前提として、つまり図7で示したオン期間中に、MOSFET62をオンする。具体的には、図8(c)に示すように、前記乾布重量センシングでは、ドラム10の回転開始からMOSFET62をオンにし、そのオン状態を、当該回転速度が前記250rpmにまで達した後、所定の回転速度(例えば70rpm)に下降するまで継続する。図8(d)に示す前記湿布重量センシングでは、ドラム10の回転開始からMOSFET62をオンにし、そのオン状態を、当該回転速度が前記170rpmにまで達した後、所定の回転速度(例えば70rpm)に下降するまで継続する。
また、図8(a)に示すように、脱水行程やすすぎ行程における加速時であって、例えばドラム10の回転開始から当該回転速度が400rpmに達するまでの間、MOSFET62をオンにする。また、図8(b)に示すように、ドラム10の回転速度を定常回転速度から0まで下げる場合において、例えばその回転速度が400〜70rpmに下降するまでの間、MOSFET62をオンにする。更に、図8(e)に示すように、洗い行程でのドラム10(モータ8)の正逆回転において、同図にアクティブ水流動作として示す期間であって、その回転速度を相対的に高めて比較的強い水流を生じさせる期間、MOSFET62をオンにする。
上記の電源生成回路60により直流電源を生成し且つMOSFET62をオンする期間は、洗濯運転中に水槽6の振動が大きくなる期間に対応して設定されたもので、各コイル39a、39bに例えば0.35Aの電流が流れて、サスペンション7a、7bに大きな減衰力を与え、水槽6の振幅を減衰させるようになっている。ここで、サスペンション7a,7bの作用について、図8(a)の脱水行程の加速時を例に説明する。
脱水行程では、ドラム10の回転速度を段階的に上昇させて、洗濯物に残留する水を遠心力により振り切り排出するものであるが、そのドラム10の回転に伴い水槽6が上下方向を主体に振動する。この水槽6の上下振動に応動して、サスペンション7a,7bでは、水槽6に一体的に連結されたシャフト24を介してコイルばね25を伸縮させつつ、シャフト24はシリンダ22内を上下方向に往復動する。一方、シリンダ22内では、コイルボビンユニット37内周側とシャフト24外周面との間の空隙Gに磁気粘性流体36が充填されているため、その粘性によりシャフト24の往復動に対して摩擦抵抗を与え、水槽6の振動振幅を速やかに減衰する。また、ばね受け部48の筒状部48aでは、その内部に収納された半固体状のグリース53が常時シャフト24に接触した状態にあるため、シャフト24の往復動に伴い所定の摩擦力が得られ、水槽6の振動を減衰する作用をなす摩擦ダンパ手段として機能する。
この脱水行程の初期には、上記の如くドラム10の回転開始から当該回転速度が400rpmに達するまでの間、コイル39に通電され磁場が発生する。これにより、コイル39a、39b(厳密には各コイル39a、39bを構成する上下コイル39U、39D)の周りに磁路が形成されて、磁気粘性流体36の粘度が高まる。この磁気粘性流体36は流体ダンパ手段として、特に磁束密度の高い各ヨーク40、41、42とシャフト24との間の狭小の空隙Gにおいて、粘度が急速に高まり、シャフト24に対する抵抗を増大させる。
こうして、水槽6の共振が現れる脱水行程の起動時の共振領域(図7(a)の400rpmまでの領域)においてダンパ21の減衰力を大きくして水槽6の共振の発生を回避し、ドラム10回転の立ち上がり性能を良くする。ドラム10の回転速度が400rpmに達してからは、ドラム10の回転速度を所定時間だけその400rpmに保つ。このドラム10の回転速度が一定である状況で、コイル39a、39bへの通電を遮断して、ダンパ21の減衰力を小さくする。そして、ダンパ21の減衰力は小さくしたまま、ドラム10(モータ8)を定常回転速度まで上昇させる。
上記の如く、サスペンション7a,7bの減衰力により、脱水行程における振動を極力抑制することができる。仮に、上記した洗濯運転の通常モードにおいて、脱水時にドラム10内で洗濯物の偏りが生じ、水槽6の振幅が前記閾値A1を越えた場合には、制御装置5は、ドラム10(モータ8)を停止させてからほぐし運転を行うことにより、そのアンバランス状態を解消し、再びドラム10の回転速度を上昇させるようになっている。
そして、サスペンション7a,7bは、1つの電流検出回路66により、コイル39a、39bに係る断線やショート等の故障の検知が可能とされている。この電流検出回路66を用いた故障検知処理について図1も参照しながら説明する。
制御装置5は、例えば洗濯運転が開始されると、図1に示す故障検知処理を実行する。この故障検知処理では、先ず、前記直流電源が生成され且つMOSFET62がオンされたか否か、つまりコイル39a、39bへの通電指令の有無を判断する(ステップS1)。ここで、コイル39a、39bへの通電指令が無い場合(ステップS1にてNo)、電流検出回路66の検出結果に基づき、コイル39a、39bの並列回路に例えば0.16A以上の電流が流れているか否かを判断する(ステップS2)。ここで、コイル39a、39bへの通電指令が無いにも関わらず、0.16A以上の電流が流れている場合には(ステップS2にてYes)、コイル39a、39bに通電するための回路に故障が発生していると判断し、直ちに洗濯運転を停止する(ステップS3、S4)。そして、制御装置5は、例えば、報知手段としてのブザー67bの鳴動及び表示部67aの表示により当該回路故障を報知する(ステップS5)。
前記ステップS2の電流値の検出処理は、コイル39a、39bへの通電指令が無い期間において繰り返し実行される(ステップS1にてNo、且つステップS2にてNo)。ここで、例えば洗い工程において前記アクティブ水流動作が開始される等して当該通電指令がなされた場合(ステップS1にてYes)、制御装置5は、電流検出回路66の検出結果に基づき、その検出電流が第1電流値範囲の上限値たる1.07Aを超えていないか判断する(ステップS6)。例えばコイル絶縁物の劣化等により当該検出電流が1.07Aを超えている場合には、ショートが発生していると判断し(ステップS7)、その時点で運転を停止すると共にブザー67bの鳴動及び表示部67aの表示により異常報知を行う(ステップS4、S5)。
また、制御装置5は、前記検出電流が1.07Aを超えていない場合でも(ステップS6にてNo)、第1電流値範囲の下限値たる0.53Aよりも小さくないか、或は0.87〜1.07Aの範囲にあるか否かを判断する(ステップS8)。検出電流が、0.53Aよりも小さい場合には、コイル39a、39bに係る断線が発生していると判断し、電源生成回路60とMOSFET62との双方をオフにする(ステップS9、S10)。これにより、全てのサスペンション7a,7bのコイル39a、39bへの通電指令を停止して、非通常モードに移行する(ステップS11)。また、検出電流が、0.87〜1.07Aの範囲にある場合には、コイル39a、39bに係る前記のレアショートが発生していると判断し、上記と同様にコイル39a、39bを断電状態にして、非通常モードに移行する(ステップS9〜S11)。
この非通常モードは、コイル39a、39bに係る断線やレアショート等の不具合が生じている場合に、そのサスペンション7a,7bの故障(つまり減衰力を不変とした状態)に対応した洗濯運転を行うもので、例えば、前記のコイル39a、39bへの通電指令を停止し、前記閾値をA1からA2に上げて(A1<A2)、洗濯運転を行う。このため、サスペンション7a,7bのうち一方のダンパ21のみが前記断線やレアショートにより減衰力を変化させることができなくなった場合でも、サスペンション7a,7bの一方だけの動作による減衰力のばらつきに起因するアンバランスが発生することを防ぐことができると共に、前記摩擦ダンパ手段により一定の減衰作用(ダンパ作用)を確保できる。また、非通常モードの閾値A2は通常モードに比し相対的に高く設定されるため、前記流体ダンパが機能しない状況下において通常以上の水槽6の振動を許容して、前記のほぐし運転が頻発しないように洗濯運転を継続して行うことができる。更に、ステップS11で、制御装置5は、コイル39a、39bに係る断線或はレアショートの発生、つまり非通常モードへ移行した旨をEEPROM56cに記憶する。
前記ステップS8で、検出電流が0.53Aよりも小さくなく且つ0.87〜1.07Aの範囲に無いと判断した場合(ステップS8にてNo)、或は前記非通常モードでの運転が継続される場合、前記回路故障及びショート(ステップS3及びS7)が検出されない限り、ステップS12で全ての行程が完了したと判断されるまで、ステップS1,S2,S6,S8,S12を繰り返す。
上記故障検知処理は、例えば図7(a)に示す洗い行程〜ソフトキープ行程までの全行にわたって行われ、洗濯運転は、ソフトキープ行程を終えることにより終了する(ステップS12にてYes)。このとき、制御装置5は、EEPROM56cからサスペンション7a,7bの故障に係る情報を読込んで、非通常モードへ移行した旨が記憶されている場合には、ブザー67bの鳴動及び表示部67aの表示によりコイル39a、39bに係る断線或はレアショートの発生を警告報知する(ステップS13にてYes、ステップS14)。
以上説明したように、第1実施形態の洗濯機において、制御装置5は、電流検出回路66の検出結果に基づき、コイル39a、39bに流れる電流が、予め設定された電流値範囲内(例えば前記0.53〜1.07Aの範囲内)にあるか否かを判断し、当該電流がその上限値(例えば1.07A)よりも大きい場合には洗濯運転を停止し、当該電流値が下限値(例えば0.53)よりも小さい場合には洗濯運転を継続して行う。このように、コイル39a、39bに流れる電流を検出することにより、コイル39a、39bに係る断線やショート等の不具合を確実に検出することができる。また、電流値範囲を越えるような過電流が検出された場合には運転を停止するため、安全性を高めることができる。一方、断線等により、検出電流が下限値を下まわり、サスペンション7a,7bの減衰力を大きくすることができなくとも、洗濯運転を継続して行うことができ、総じて洗濯運転における適切な動作を確保することができる。
制御装置5は、コイル39a、39bに流れる電流が電流値範囲の下限値よりも小さく、コイル39a、39bに係る断線が発生したと判断した場合には、洗濯運転における通常モードから、コイル39a、39bの駆動を停止してサスペンション7a,7bの減衰力を不変とした状態に対応した洗濯運転を行う非通常モードに切換える。これによれば、コイル39a、39bに係る断線により、コイル39a、39bへ通電しても減衰力を大きくすることができなくとも、その故障に対応した態様で運転を継続することができると共に、通電し続けるようなことを避けることができ、消費電力を節約することができる。尚、このように運転を継続する場合でも、前記摩擦ダンパ手段により一定の減衰作用を確保できることから、必要最低限の減衰力は得られるため、コイル39a、39bの通電指令を停止しても異常な振動状態となるのを防止することができる。
本実施形態とは異なり、洗濯運転中に前記断線の発生と同時に報知手段により報知してもよいが、前述のように断線が発生しても運転を継続できることから、使用者においては洗濯を途中で中断する必要がない。これに対し、本実施形態の制御装置5は、非通常モードでの洗濯運転を行った場合には、その洗濯運転が終了した後に、ブザー67bや表示部67a等の報知手段によって、断線の発生を警告報知する。このため、洗濯運転の終了に際して、使用者は、非通常モードへの移行を認識することができると共に、サービスマンへ断線の発生を連絡する等、使用者やサービスマンにおいてより適切な処置をとることができる。
また、制御装置5は、コイル39a、39bに流れる電流が前記電流値範囲の上限値を越えた時点で異常報知する。このように、電流値範囲を越えるような過電流が発生した場合には、直ちに報知手段によりユーザにその異常を報知することができ、速やかにサービスマンに連絡する等、安全且つ適切な処置をとることができる。
電流検出回路66は、複数のサスペンション7a,7bの夫々のコイル39a、39bに流れる電流の合計電流を検出する1つの電流検出手段で構成した。このため、電流検出手段の部品点数を削減することができ、電気回路構成の簡単化を図ることができる。また、上記の如く電流値範囲を適宜設定すること全てのコイル39a、39bの電流量を監視することができ、そのうち1つのコイルに係る異常電流でも確実に検出することができる。
複数のサスペンション7a,7bは、夫々のコイル39a、39bが並列接続されて1つのMOSFET62(駆動回路)を共用する。このため、部品点数を削減しつつ、電気回路構成をより簡単なものとすることができる。
<その他の実施形態>
図9、図10は、第2実施形態を示すものであり、既述の部分と同一部分には同一符号を付す等して説明を省略し、以下異なる点につき説明する。
本実施形態の電源生成回路60´は電圧変更手段として、制御装置5により生成電圧の変更が可能に構成され、例えば36V以下の任意の電圧値に設定できるようになっている。この直流電源とコイル39a、39bとの間には、制御装置5からの制御信号に基づき抵抗値が可変する可変抵抗器70(例えばデジタルトリマ)が設けられている。こうして、制御装置5は、電源生成回路60´の生成電圧、或は可変抵抗器70の抵抗値を可変させることにより、コイル39a、39bに流れる電流を調整して、サスペンション7a,7bの減衰力を無段階に可変させる。
即ち、図10は、前記合計電流の半分の値に相当する夫々のコイル39a、39bに流れる電流値と、夫々のサスペンション7a,7bの減衰力Fとの関係を示している。同図に示すように、制御装置5により当該電流値を、断電状態(0A)から0.35Aまで増加させることに伴いサスペンション7a,7bの減衰力Fが増大しており、その電流の調整により所望の減衰力Fが得られることがわかる。尚、電流値が0.35Aを越えると減衰力Fの上昇率が低下し、減衰力Fは横ばいとなる。また、このサスペンション7a,7bは、断電状態にあっても所定の減衰力を確保できることがわかる。
上記構成において、制御装置5は、コイル39a、39bに流れる電流を調整することで、サスペンション7a,7bの減衰力を無段階に可変させることができる。このため、洗濯運転における水槽6の振動等に対応してサスペンション7a,7bの減衰力を適切な値に可変させることができ、振動や騒音を極力抑制することができる。
図11は、第3実施形態を示すものであり、第1実施形態と同一部分には同一符号を付す等して説明を省略し、以下異なる点につき説明する。
前記直流電源とシャント抵抗63との間には、コイル39a用のダイオード61aとMOSFET62aとを直列接続した直列回路と、コイル39b用のダイオード61bとMOSFET62bとを直列接続した直列回路とが並列接続されている。コイル39aは、コネクタ65aを介してダイオード61aに並列接続され、MOSFET62aのゲートに接続された制御装置5により、その通断電が行われる。これと同様に、コイル39bは、コネクタ65bを介してダイオード61bに並列接続され、MOSFET62bのゲートに接続された制御装置5により、その通断電が行われる。
上記の如くドラム10の正逆回転を行う洗濯機にあっては、その回転方向によって、一方のサスペンション7aに作用する力、並びに他方のサスペンション7bに作用する力は互いに相違する。従って、本第3実施形態によれば、左右一対のサスペンション7a,7bについて、制御装置5により、例えば、ドラム10が正面視にて反時計回り方向に回転する場合には左側のサスペンション7aの減衰力のみを高める一方、時計回り方向に回転する場合には右側のサスペンション7bの減衰力のみを高めるように、MOSFET62a、62bを各別にオンオフ制御する。これにより、サスペンション7a,7bの減衰力を、ドラム10の回転方向に応じて左右で異ならせることができ、振動や騒音の抑制効果をより高めることができる。
また、本第3実施形態の構成によれば、例えば、一方のサスペンション7aのコイル39aに断線等が生じても、他方のサスペンション7bのみを上記のようにドラム10の回転方向等に応じて減衰力の可変制御を行うことができ、洗濯機における適切な動作を確保する上で、より有用なものとすることができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
本実施形態ではドラム式洗濯機に適用して述べたが、これに限らず、例えば縦軸周りに回転可能な脱水槽を兼用した洗濯槽を有し、その縦軸状に有底筒状の水槽を備えた、所謂縦型の洗濯機でも適用可能である。また、サスペンション7a,7bはシャフト24側を水槽6に取付け、シリンダ22側を外箱1側に配設したので、リード線44を導出するシリンダ22側に生じる振動を抑制できる点で有利であるが、シリンダ22側を水槽6に取付ける逆配置とすることも可能である。また、これらシリンダ22とシャフト24とは相対的に往復動する関係にあればよい。
サスペンション7a,7bとしては、シャフト24と磁気粘性流体36との間における摩擦抵抗を利用した実施形態につき例示したが、これに限らず、例えばシリンダ内に充填した機能性流体に対し、複数のオリフィス孔を有するピストンバルブを振動に応じて往復動させ、該オリフィス孔を通過する機能性流体の粘性を制御する構成としたものでもよい。
上記の洗濯運転において、電流検出回路66の検出電流が第1電流値範囲の上限値よりも大きい場合、少なくともコイル39a、39bへの通電を中止する一方、その洗濯運転を継続して行うようにしてもよい。具体的には、例えば、制御装置5は、前記ステップS6、S7で電流検出回路66の検出電流が第1電流値範囲の上限値を超えたと判断した場合、その時点で電源生成回路60とMOSFET62との双方をオフにし、ブザー67bの鳴動及び表示部67aの表示により、当該過電流が発生した旨を報知する。そして、例えば、前記断線の場合と同様に、非通常モードで洗濯運転を継続して行うようにしてもよい。