垂直軸型風車とは、垂直回転軸を中心としてブレードが回転する風車をいい、ダリウス風車、ジャイロミル風車(直線ダリウス型風車)、サボニウス型風車、クロスフロー型風車などがある(非特許文献1,図1参照)。垂直軸型風車は、構造が簡単で高効率であるため、特に簡易型の風力発電用の風車として広く使用されている。しかしながら、垂直軸型風車は、ブレードの回転中に周期的に失速現象が現れ、特に低周速比での回転時にそれは顕著となる。そのため、ブレードに加わるトルクや出力の変動などを生じ、垂直軸型風車の効率低下の原因となることが知られている(非特許文献2,3)。そこで、かかる失速現象を抑え垂直軸型風車の効率を如何に向上させるかが重要な技術課題である。
垂直軸型風車の効率を向上させるために、ブレード形状、ブレード取付角、可変翼などについての数多くの研究が発表されているが、それとは別に、ブレードの周辺にフローガイドを設置することにより効率を向上させる技術についても提案がされている(非特許文献4−6,特許文献1−20)。
非特許文献4では、図25(a)のように、直線ダリウス型風車の上流側の回転角θ=330〜360degの位置に平板状のフローガイドを設置し、この位置付近のブレードに衝突する風の流れを遮り衝突による正圧を低減させることにより、ブレードのトルク係数を増加させる技術について報告がされている。また、非特許文献5,6では、図25(b)のように、直線ダリウス型風車のブレードの内側に、回転中心軸と同軸で風車と共に回転する円筒型フローガイドを設置することにより、回転角θ=180〜300degでのブレードのトルク係数を増加させ、風車全体のパワー係数を増加させる技術について報告がされている。
垂直軸型風車のフローガイドの配置及び形状に関しては、上記非特許文献4−6以外にも多くの提案(特許文献1−20)がされており、これらを分類すると以下の通りである。
(1)一方向フローガイド
特許文献1に、垂直な回転軸の周りに風を受けて回転可能なブレード(回転翼)を有する回転ロータと、ブレードが風の流れの向きに対して逆行する逆行領域においてカルマン渦を発生させるように、このブレードの逆行領域の上流側に設けられたフローガイド(整流板)とを備え、フローガイドと回転ロータのブレードとは、フローガイドが発生させたカルマン渦の流体の向きに対して逆行する部分にブレードの回転軌道が沿うように配置した垂直軸型風車が開示されている(図26参照)。これにより、ブレードの回転方向が風の流れ方向に逆行する領域であってもカルマン渦が流れ方向と逆方向の流れを局所的に作り、ブレードの回転方向にトルクを及ぼし、ブレードの回転を促進する結果、自己起動性が著しく向上し、僅かな流れでも回転ロータを起動できるようになると記載されている。
また、特許文献2及び特許文献3の図6には、フローガイドの形状をブレードの回転軌道と同軸の円周に沿った円弧板状とした垂直軸型風車が開示されている。
(2)左右フローガイド
特許文献4には、回転ロータを内包し回転ロータの回転軸を中心に回転自在な風向回転装置を備えた垂直軸型風車が開示されている(図27参照)。この風向回転装置は、回転ロータの左右に垂直矩形板状の整流板を相互に平行に配し、左右の整流板の前縁に垂直矩形板状の前側フローガイド(集風板)を30〜45°に拡開状に延設し、左右の整流板の後縁に垂直矩形板状の後側フローガイド(集風板)を30〜45°に拡開状に延設し、上部に尾翼付方向蛇が配設されている。風向回転装置は、方向蛇により、整流板が風の流れと平行となるように回転する。風は、左右の前側フローガイド(集風板)により集風し増速した後、整流板によって整流されて回転ロータの回転翼に衝突し、ブレード(回転翼)にトルクを与える。これにより、風車効率の向上させることを狙ったものである。
また、特許文献3の図1,図3及び特許文献5には、垂直な回転軸の周りに風を受けて回転可能なブレード(回転翼)を有する回転ロータと、ブレードが風の流れの向きに対して逆行する逆行領域の上流側にブレードの回転軌道に近接して設けられ、回転軌道と同軸の円周に沿った円弧板状に形成された左側フローガイドと、回転ロータの回転軸を挟んで左側フローガイドの反対側に設けられた右側フローガイドとを備えた垂直軸型風車が開示されている。
(3)多方向フローガイド
特許文献6−8には、垂直な回転軸の周りに風を受けて回転可能なブレードを有する回転ロータの周囲のN回対称位置に、翼面が回転ロータの回転軸から放射状に広がるようにN個のフローガイドを配置し、これらのフローガイドにより回転ロータの周囲を通過する風を回転ロータへ案内する流路を形成した垂直軸型風車が開示されている(図28(a)参照)。
特許文献9−15には、上記のN個のフローガイドを放射状ではなく、放射方向から回転ロータの回転方向と逆向きに傾斜させた状態で設けた垂直軸型風車が開示されている(図28(b)参照)。
特許文献16には、垂直な回転軸の周りに風を受けて回転可能なブレードを有する回転ロータの周囲のN回対称位置(N≧3)に、N個の側面の一部を切り欠いた円筒形状のフローガイド(円筒形構造物)を配置し、各フローガイド(円筒形構造物)は同型で、かつ各フローガイド(円筒形構造物)の切り欠きの平面視断面形状はブレードの回転軌道に沿った円弧状である垂直軸型風車が開示されている(図28(c)参照)。
(4)上下フローガイド
特許文献17には、回転ロータの上下面に近接して、回転ロータの径よりも大きな径を有する円板状の整流板を相互に平行に配し、上下の整流板の外縁から外方に放射状に延設されたドーナツ状のフローガイド(導風板)を備え、上側のフローガイド(導風板)は、上側の整流板から上向きの傾斜状態に、下側のフローガイド(導風板)は、下側の整流板から下向きの傾斜状態にそれぞれ延設されている垂直軸型風車が開示されている(図29参照)。この垂直軸型風車では、風車に吹き込む風をフローガイド(導風板)により集風し増速した後、整流板によって整流して回転ロータの回転翼に効率よく衝突させることにより、弱風でも大きな動力を得ることを狙ったものである。
(5)軌道内側フローガイド
回転ロータのブロードの回転軌道内にフローガイドを設けたもので、上記非特許文献5,6や特許文献18に記載のもの(図25(b)参照)。
(6)風洞型フローガイド
特許文献19,20のように、フローガイドを筒状に形成し、フローガイドの筒内に回転ロータを配置したもの。
上述の通り、垂直軸型風車において、フローガイドは、風車に流入する風の流れを回転ロータに集め、各ブレードに働くトルクを大きくする作用がある。また、垂直軸型風車では風の流れに対して回転ロータの回転軸が垂直であることから、必然的に、ブレードが風の流れの向きに対して順行する順行領域と、逆行する逆行領域ができ、逆行領域にあるブレードにおいて回転ロータを減速させる方向にトルクが働く。しかし、フローガイドをうまく配置することにより、逆行領域における減速方向トルクを抑えることができる。
一方で、フローガイドは、風の流れに対する障害物であり流路抵抗となる。従って、回転ロータ周囲にフローガイドを設置することにより、回転ロータの周辺の圧力が上昇し、回転ロータに流入する風の流量が減少するという作用もある。従って、多方向フローガイドのように、回転ロータの周辺に余り沢山のフローガイドを設置すると、風速の条件によっては却って垂直軸型風車の効率を低下させることにもなる。
そこで、本発明の目的は、上記従来の垂直軸型風車におけるフローガイドを改良し、垂直軸型風車の効率を低下させることなく、微風でもより起動しやすくした従来とは異なる垂直軸型風車を提供することにある。
本発明に係る垂直軸型風車は、風車回転軸を中心とする円周上の回転対称な位置に、ブレードが該風車回転軸とアームで連結して回転自在に配設された回転ロータを具備する垂直軸型風車であって、
前記風車回転軸を通り前記風車回転軸に垂直な直線を気流中心線、前記風車回転軸に対する前記気流中心線の一方を風上側,他方を風下側、前記風上側から前記風下側へ向かう方向を気流方向、回転ロータを前記気流中心線により二分割したときに、前記回転ロータが順方向に回転する場合に前記気流方向に対し前記ブレードが逆行する側を左側,順行する側を右側とすると、前記回転ロータの前記気流中心線に対する左側に前記ブレードの回転軌道に近接して配設された左側フローガイド、及び右側に前記ブレードの回転軌道に近接して配設された右側フローガイドの何れか一方又は双方を備え、
前記左側フローガイドは、前記風車回転軸に平行な柱状に形成され、その断面の周線形状は、前記気流中心線に対向する側である内側が、円弧状に形成され、その逆側である外側が、風上側において内側の円弧状の周線と滑らかに接続し風下側において内側の円弧状の周線と鋭角を為して接続する逆S字状に形成され、
前記右側フローガイドは、前記風車回転軸に平行な柱状に形成され、その断面の周線形状は、前記気流中心線に対向する側である内側が、円弧状に形成され、その逆側である外側が、風下側において内側の円弧状の周線と滑らかに接続し風上側において内側の円弧状の周線と鋭角を為して接続する逆S字状に形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、風上側から流入する風は、左側フローガイド及び右側フローガイドの一方又は双方により、回転ロータに向かって集風される。左右のフローガイドは、気流中心線に面する側(内側)が円弧状に形成されているため、フローガイドの内側の風はフローガイドの表面に沿って滑らかに流れ、回転ロータの方向に導かれる。これにより、回転ロータの風上側直近では風速が速くなり、回転ロータの風上側のブレードには大きな回転トルクが働く。一方、回転ロータの風下側に向かうにつれて、左側又は右側のフローガイドの内側面は円弧状に拡開しているため、圧力が低下する。そのため、回転ロータの風下側の風速は相対的に遅くなり、回転ロータの風下側のブレードに働く回転トルクはより小さくなる。垂直軸型風車では、回転ロータの風上側と風下左側では、ブレードに働く回転トルクは逆向きになるため、風下左側のブレードに働く回転トルクがより低下することで、全体の回転トルクが向上する。
また、左側フローガイドの外側の形状を逆S字状としたことで、左側フローガイドの外側に高速の気流(高速気流)が生じ、左側フローガイドの下流側に当該高速気流に引き込まれる気流(引込流)が生じる。左側フローガイドの内側の気流はこの引込流に向かって引き寄せられるため、左側フローガイドの内側面の風下側では、左側フローガイドの内側面に沿った気流が生じる。これにより、回転ロータの風下側の左側フローガイド付近のブレードに当たる風が弱まり、逆方向トルクが低減される。
また、右側フローガイドの外側の形状を逆S字状としたことで、右側フローガイドの外側には渦列が生じる。この渦列の影響により、右側フローガイドの内側面の風下側では、右側フローガイドの内側面に沿った気流が生じにくくなり、回転ロータの右側のブレードに当たる風の流速は速くなる。これにより、順方向トルクがより大きくなり、全体の回転トルクが向上する。
また、本発明において、フローガイドは回転ロータの左側又は右側に配置されており回転ロータに吹き込む風の流路を妨げないため、フローガイドによる流路抵抗の上昇は極力抑えられる。従って、風の捕獲効率が高くなり、弱い風でも効率的に捕らえて回転ロータに大きな回転トルクを与えることができる。
ここで、「回転ロータが順方向に回転する」とは、回転ロータに風を吹き込んだ時に回転ロータが通常回転する方向に、回転ロータが回転することをいう。「滑らかに接続」とは、接続点の左右の曲線の曲率が連続であることをいう。また、「逆S字状」とは、両端点の中間に1つの変曲点を有するような曲線をいう。周線が「鋭角を為して接続」とは、接続点の両側で周線の曲率が不連続に(但し、実際の製作上の多少の丸みは許容する)変化し、かつ接続点の一方の側の周線の接続点の接線と他方の側の周線の接続点の接線との為す角(接続点近傍の周線で囲まれる閉曲線図形が含まれる側の角)が90deg未満であるように、周線が接続していることをいう。
また、本発明において、前記回転ロータの上下に、前記回転ロータに向かって風を集風する上側フローガイド及び下側フローガイドの何れか一方又は双方を備え、
前記上側フローガイドは、前記回転ロータに対向する下側面が、前記回転ロータの前記風上側から前記風下側に向かって上方に傾斜した平面状又は下に凸の曲面状に形成されており、
前記下側フローガイドは、前記回転ロータに対向する上側面が、前記回転ロータの前記風上側から前記風下側に向かって下方に傾斜した平面状又は上に凸の曲面状に形成された構成とすることもできる。
この構成によれば、上側フローガイド及び下側フローガイドによって回転ロータに吹き込む風が集風されるため、さらに風車効率を向上させることができる。
また、本発明において、前記左側フローガイドは、その断面の周線形状において、内側が円弧状に形成されるとともに、該円弧の下流側端部が、内側に向けて滑らかに反り返った形状に形成することができる。
このような左側フローガイドの形状とすることで、さらに風車効率を向上させることができる。
以上のように、本発明によれば、回転ロータの左側又は右側に、断面の周線形状が円弧状形状と逆S字状形状を合わせた柱状に形成された左側フローガイド及び/又は右側フローガイドを、上記所定の向きで配置したことにより、後述の実験により、風車効率を最大で8倍以上向上させることが確認された。
また、上側フローガイド及び下側フローガイドを更に追加することによって、風車効率を更に向上させることが可能となる。
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施例1に係る垂直軸型風車の基本構成を表す斜視図である。図2は、図1の垂直軸型風車の平面視断面図である。尚、図1,図2では、理解を容易にするため、垂直軸型風車1の回転ロータとフローガイドの部分のみを示し、それ以外の部分(回転ロータの軸受けや架台等)は省略している。
本実施例の垂直軸型風車1は、回転ロータ2、左側フローガイド3及び右側フローガイド4を備えている。回転ロータ2は、垂直に立設された円柱状の回転軸2aと、回転軸2aの周囲に回転軸2aを対称軸として回転対称に設けられた複数のブレード2bとを備えている。図1,図2の例では、ブレード2bの枚数NがN=5の例を示しているが、本発明においてはNは任意である。各ブレード2bは、回転軸2aに平行な柱状に形成されており、その断面形状は一般に使用されている翼形(例えば、ジューコフスキー翼型やNACA翼型など。)である。回転ロータ2は回転軸2aを軸に回転自在とされており、回転軸2aの下端側は発電機(図示せず)の回転軸に接続される。
図2に示すように、回転軸2aに垂直な回転軸2aの中心Oを通る直線を気流中心線Aとする。風は、気流中心線Aに平行に、図2の矢印Fの方向(以下、気流方向Fという。)に向けて一様に流入するものとする。回転軸2aの中心を通り回転軸2a及び気流中心線Aに垂直な直線を気流法線Bとする。また、回転ロータ2が回転したときの各ブレード2bの軌道を回転軌道Rとする。
左側フローガイド3は回転軸2aに平行な柱状に形成されている。左側フローガイド3の断面形状は、気流中心線Aに面する側(内側)3aが円弧状に形成され、その逆側(外側)3bが、風上側において内側3aの円弧と滑らかに接続し風下側において内側3aの円弧と鋭角を為して接続する逆S字状に形成されている。内側3aの円弧の中心点をPとし、回転軸2aの中心Oと左側フローガイド3の中心点Pを通る直線をCとする。気流法線Bと直線Cとの為す角をθlとする。本実施例においては、角θlは25°〜0°とするのが好適である。
右側フローガイド4もまた、回転軸2aに平行な柱状に形成されている。右側フローガイド4の断面形状は、左側フローガイド3を中心点Pを回転中心として180°回転させた形状である。すなわち、気流中心線Aに面する側(内側)4aが円弧状に形成され、その逆側(外側)4bが、風下側において内側4aの円弧と滑らかに接続し風上側において内側4aの円弧と鋭角を為して接続する逆S字状に形成されている。内側4aの円弧の中心点をQとし、回転軸2aの中心Oと右側フローガイド4の中心点Qを通る直線をDとする。気流法線Bと直線Dとの為す角をθrとする。本実施例においては、角θrは15°〜−10°とするのが好適である。
また、左側フローガイド3及び右側フローガイド4の内側の円弧の半径rは、回転軌道Rの半径の0.4〜2倍とするのが好適である。
図3は、左側フローガイド3の断面を表す拡大図である。内側3aの円弧の中心点Pを通り気流中心線A(図2参照)に平行な直線をX,中心点Pを通り直線Xに垂直な直線をYとする。外側3bの逆S字曲線の凹部頂点は直線Xに接しておりこの接点(頂点)をS1とする。外側3bの逆S字曲線の凸部頂点をS2とする。また、直線Xと内側3aの円弧との交点をS3,S4とし、S3を下流側交点、S4を上流側交点とする。また、S6は外側3bの逆S字曲線の変曲点である。外側3bの逆S字曲線と内側3aの円弧とは、上流側の点S4において滑らかに接続している。一方、下流側の点S5において鋭角を為して接続している。外側3bの逆S字曲線のうち凹部(曲線S5-S1-S6)は略円弧とし、凸部(曲線S6-S2-S4)は略楕円弧とされている。
図3に示した通り、点S1と点S3の距離をa、点S1と点S4の距離をb、直線Xから点S5までの距離をc、直線Xから点S2までの距離をdとする。左側フローガイド3の半径rに対し、a,b,c,dはそれぞれ次式の通りである。
尚、本実施例においては左側フローガイド3及び右側フローガイド4は、同一の形状、同一のサイズとした例を示したが、本発明においては、左側フローガイド3及び右側フローガイド4の形状及びサイズは必ずしも同一とする必要はない。また、本発明においては、フローガイドの寸法については特に限定せず、上記式(1)は一例であり、必ずしも上記式(1)の通りでなくてもよい。
以上のように構成された本実施例に係る垂直軸型風車において、以下その作用について説明する。
図4は、静止状態において図1の垂直軸型風車1に風が吹き込んだ時の風の流れの様子を示す図である。図4において色の薄い領域が風速の速い領域を示している。風速の計算には、各ブレードの翼型としてNACA翼型(N:NACA 64)を使用し、二次元有限要素法によって風の流れの計算を行った。図4において、風は矢印Fの方向から一様な流速(1m/s)で吹き込んでいる。フローガイド3,4の位置は、θl=20deg,θr=10degとしている。フローガイド3,4は同型とし、フローガイド3,4のサイズは、内側の円弧部分の半径が回転ロータ2のブレードの軌道半径の1.0倍としている。
垂直軸型風車1に吹き込む風は、回転ロータ2の上流側左右において、まず左側フローガイド3及び右側フローガイド4に衝突する。
左側フローガイド3の上流側端P1は滑らかな曲線であるため、左側フローガイド3に衝突する風は上流側端P1で左側フローガイド3の表面に沿ってスムーズに左右に分離する。左側フローガイド3の外側3bの側面は断面が平面視で逆S字状に形成されているため、上流側端P1で外側3bの側面に沿って分離した風の流れの本流は、すぐに外側3bの側面から分離し、左側フローガイド3の外側に、左側フローガイド3から離れた速い流れF1が形成される。速い流れF1は左側フローガイド3から離れているため、左側フローガイド3の下流側の円弧と逆S字曲線との接続点P2付近の外側凹曲側面に衝突する風の量は少なく、この外側凹曲側面により生じる渦流は小さい。従って、速い流れF1はこの渦流の影響をあまり受けず、安定した流れとなる。一方、上流側端P1から左側フローガイド3の内側側面に沿って形成される流れは、回転ロータ2に集められる。これにより、回転ロータ2に流入する風の流速が加速される。
回転ロータ2に正面から流入する流れF3は、回転ロータ2の回転軸2aによって本流が左右に分離され、回転ロータ2の下流側に左側の本流F4と右側の本流F5が形成される。一方、安定した速い流れF1の影響によって、左側フローガイド3の下流側の背後領域R1の気圧が安定する。そのため、回転ロータ2の下流側において、左側フローガイド3の内側円弧面に沿った比較的速い流れ(引込流)F6が発達形成される。この引込流F6はブレード2bの影響により小さい渦流の生成・消滅を伴う。従って、回転ロータ2の下流側の左側領域R2においては風が分散されて流速が弱められる。
一方、右側フローガイド4に衝突した風の流れは、右側フローガイド4の上流側先端P2において左右に分離する。右側フローガイド4の内側円弧面内に沿って形成される流れは、回転ロータ2に集められる。これにより、回転ロータ2に流入する風の流速が加速される。一方、右側フローガイド4の外側の流れの本流は、内側の円弧面と外側の逆S字状曲面との接続点P3において右側フローガイド4の側面から剥離し、右側フローガイド4から外側に離れた速い分離流F9が形成される。しかし、接続点P3が鋭角であり、その直背に右側フローガイド4の外側凹曲面が形成されているため、分離流F9と右側フローガイド4の外側凹曲面との間に大きな渦流F7aが形成される。この渦流F7aは、図4の点線矢印D1に沿って下流側に移動し、移動した後には新たな渦流が発生するという現象が繰り返される。これにより、右側フローガイド4の外側には、図4の渦流F7a,F7b,F7cのような大きな渦の渦列が生じる。この連続的に発生・移動する渦列の影響により、右側フローガイド4の下流側の背後領域R3に停滞した高気圧領域が生じ、回転ロータ2の下流側の右側フローガイド4の内側円弧面に沿った流れF8はあまり発達することができず弱い流れとなる。従って、回転ロータ2の下流側の右側領域R4においては風があまり分散されないため、左側領域R2に比べて流速が速くなる。
図5は、図2のブレードb0の気流中心線Aに対する回転角θbのそれぞれの値ついてのブレードb0に働くトルクの時間変化を計算した結果である。計算条件及びブレード形状,フローガイド形状は図4の場合と同様であり、ブレード数はN=5とし入力風速は一定(1m/s)として、回転ロータ2は静止状態として2次元有限要素法によって計算を行った。b0に働くトルクは周期的な変動を示すが、これはブレードに当たる風によって生じる渦の影響である。図5より、フローガイド3,4を設置することによって、トルク変動の振幅が増幅されており、これはフローガイド3,4による回転ロータ2への集風作用の影響であると考えられる。
図6は、ブレードb0の回転角θbと平均トルクとの関係を示す図である。図6において、「no flowguide」がフローガイド3,4がない場合、「with LR flowguide」がフローガイド3,4を設置した場合を表している。フローガイド3,4がない場合、ブレード回転角θb=160〜350degの範囲において、ブレードには回転方向と逆方向のトルク(減速方向トルク)が働いており、これが回転ロータ2の起動,回転を妨げる作用を生じる。一方、フローガイド3,4を設置した場合、ブレードには減速方向トルクが働く範囲はおよそθb=185〜275degの範囲に狭まっている。これは、図4の引込流F6によって図4の領域R2の流れF4が弱まる影響と、領域R3に停滞する高気圧帯により領域R4の流れF5が強まる影響によるものと考えられる。
図7は、ブレード数N=5の場合の回転ロータ2全体に働くトルクの計算結果である。計算条件は図5の場合と同じである。ブレード数はN=5(回転ロータ2は回転軸2aに対して5回対称)なので、回転ロータ2全体に働く平均トルクの回転角依存性は72deg周期である。図7(a)はθb=0,36degにおける回転ロータ2全体に働く平均トルクのフローガイド3,4の有無による比較を示している。図7(b),(c)はθb=0,36degにおける回転ロータ2全体に働くトルクの時間変化を表している。また、図7において、「no flowguide」がフローガイド3,4がない場合、「with LR flowguide」がフローガイド3,4を設置した場合を表している。この結果から、θbがいずれの角度の場合においても、フローガイド3,4を設置することによって回転ロータ2全体に働く平均トルクも上昇することが予測される。また、フローガイド3,4の設置により、回転ロータ2全体に働くトルクの順方向の瞬時値(瞬時トルク)が、フローガイド3,4のない場合に比べて極めて大きく(2〜5倍程度)なっていることがわかる。これにより、回転ロータ2に発電機を付加した際の回転ロータ2の起動特性が改善され、従来よりも弱い入力風速で回転ロータ2を起動させることが可能となる。
(実験結果)
次に、実際の垂直軸型風車1における左側フローガイド3及び右側フローガイド4の効果について実験による検証を行った結果について説明する。まず、左側フローガイド3及び右側フローガイド4の好適な形状と配置を調べるため、図3のパラメータrg,a,b,c,dを次表の通り設定したフローガイドを製作し、これらのフローガイドを用いて垂直軸型風車1を構成した。
回転ロータ2のブレード2bの数NはN=5とした。ブレード2bの高さは300mmとし、フローガイドの高さは480mmとした。回転ロータ2の回転軌道の半径rwは150mmとした(図2参照)。左右のフローガイド3,4の形状は同じとした。フローガイドの配置は、回転軸2aの中心点Oから左側フローガイド3の中心点P又は右側フローガイド4の中心点Qまでの距離Lgを、Flowguide A,B,C,D,E,Fでそれぞれ250.5mm,233.5mm,238mm,259.5mm,285mm,215.5mmとし、気流法線Bと線分OPの為す角θl及び気流法線Bと線分OQの為す角θrの組合わせ(θl,θr)を、それぞれ(θl,θr)=(20°,10°),(20°,0°)とした(図2参照)。そして、垂直軸型風車1の回転軸2aの下端に発電機を接続し、風上側から風速6m/sで垂直軸型風車1に送風し、フローガイドを設置しない場合と、上記各フローガイドA〜Fを設置した場合とにおける発電量の計測を行った。
図8に測定結果を示す。発電量は電力で測定し、左右のフローガイド3,4がない場合の発電量を1として規格化して示している。図8より、フローガイドのない場合に比べて、左右のフローガイド3,4を設置することによって発電量は約4.6〜8.3倍に増加することが分かる。また、最も発電量が大きかったのは、Flowguide Eで(θl,θr)=(20°,10°)とした場合で、発電量は約8.3倍であった。
表2は、上記フローガイドにおいて(θl,θr)を変化させた場合の発電量の変化を測定した結果である。発電量は、図8の場合と同様、左右のフローガイド3,4がない場合の発電量を1として規格化している。図9に、Flowguide Eにおける(θl,θr)と発電量との関係を示す。
以上の実験により、回転ロータ2が回転している状態においても、フローガイド3,4を設置することにより、フローガイド3,4がない場合に比べて発電量が約2〜8.3倍上昇することが確認された。フローガイド3,4の設置位置としては、上記実験結果から、6deg<θl<18.5deg,−6deg<θr<12.5degの範囲が好適であることが確認された。
尚、本発明の垂直軸型風車1は、風向きに対して気流方向Fと気流中心線Aとが一致するようにフローガイド3,4の配置向きの調整が必要であるが、この向き調整については、フローガイド3,4を回転軸2aと同軸の回転台上に設置し、方位風向板などによって回転台の向きを調節することができる。これについては周知の事項であるため、詳細な説明については省略する。
図10は、本発明の実施例2に係る垂直軸型風車の基本構成を表す斜視図である。本実施例では、実施例1と比べ右側フローガイド4が省略され、左側フローガイド3のみとした点が異なり、それ以外は実施例1と同様である。
図11は、静止状態において図10の垂直軸型風車1に風が吹き込んだ時の風の流れの様子を示す図である。図11において色の薄い領域が風速の速い領域を示している。風速の計算は、実施例1と同様、各ブレードの翼型としてNACA翼型(N:NACA 64)を使用し、二次元有限要素法によって風の流れの計算を行った。また、風は矢印Fの方向から一様な流速(1m/s)で吹き込んでいる。
垂直軸型風車1に吹き込む風は、回転ロータ2の上流左側において、まず左側フローガイド3に衝突する。左側フローガイド3の上流側端P1は滑らかな曲線であるため、左側フローガイド3に衝突する風は上流側端P1で左側フローガイド3の表面に沿ってスムーズに左右に分離する。左側フローガイド3の外側3bの側面は断面が平面視で逆S字状に形成されているため、上流側端P1で外側3bの側面に沿って分離した風の流れの本流は、すぐに外側3bの側面から分離し、左側フローガイド3の外側に、左側フローガイド3から離れた速い流れF1が形成される。これは、実施例1の場合と同様である。
一方、上流側端P1から左側フローガイド3の内側側面に沿って形成される流れは、回転ロータ2の方へ押し出され、左側フローガイド3の内側側面に沿って斜め右方向に向かう流れF2が形成される。これにより、回転ロータ2に流入する風の流速が加速される。また、本実施例では右側フローガイド4がないため、回転ロータ2に流入する風の本流は、流れF2の影響により斜め右方向に傾斜した強い流れF3,F4となる。従って、回転ロータ2のフレードのうち、右側の領域R1にあるブレードには強い流れが当たることになり、加速方向トルクの大きさが大きくなる。
左側フローガイド3の内側側面に沿った流れF2は、回転ロータ2前側のブレードにより、左側フローガイド3の内側側面に沿った流れF2aと、本流F3に合流する流れF2bとに分離する。左側フローガイド3の内側側面に沿った流れF2aは、流れF1,F3の間にあるが、流れF3に近くまた流れF3は流速・流量が大きいため、流れF2aは流れF3に引き寄せられて、引き込み流F5が形成される。そのため、左側フローガイド3の内側側面の後側に沿った流れは形成されない。また、回転ロータ2の下流側の左側領域R2においては、風の流れは、主にブレードの内側に沿って回転方向と逆方向でかつ斜め方向(流れF3に寄る方向)に向かう流れとなる。そのため、領域R2のブレードには、主に回転軸2a方向に向かう揚力が生じ、減速方向トルクの大きさは小さくなる。
尚、本実施例のケースでは、左側フローガイド3の背後(下流側)に回り込む流れ(図4の引き込み流F6のような流れ)が生じないため、速い流れF1の影響で左側フローガイド3の背後に渦流F6aが生じる。この渦流F6aは速い流れF1によって後流側に移動するため、左側フローガイド3の背後には矢印D6方向に移動する渦列F6a,F6b,F6c,…が生じる。また、右側の領域R1のブレードの背後(下流側)にも渦流F7aが生じる。この渦流F7aは速い流れF3,F4によって後流側に移動するため、右側の領域R1のブレードの背後には矢印D7方向に移動する渦列F7a,F7b,F7c,…が生じる。
図12は、ブレードb0の気流中心線Aに対する回転角θbのそれぞれの値ついてのブレードb0に働くトルクの時間変化を計算した結果である。回転角θbは図2と同様、1つのブレードb0に注目したときに、ブレードb0が気流中心線Aとなす角で定義されている。計算条件及びブレード形状,フローガイド形状は図11の場合と同様であり、ブレード数はN=5とし入力風速は一定(1m/s)として、回転ロータ2は静止状態として2次元有限要素法によって計算を行った。b0に働くトルクは周期的な変動を示すが、これはブレードに当たる風によって生じる渦の影響である。図12より、フローガイド3を設置することによって、トルク変動の振幅が増幅されており、これはフローガイド3による回転ロータ2への集風作用の影響であると考えられる。但し、右側フローガイド4がないため、集風効果は実施例1の場合よりも小さく、トルク変動振幅の増幅度は実施例1の場合よりも小さい。
ブレードb0の回転角θbと平均トルクとの関係を図6に示す。図6において、「with L flowguide」がフローガイド3のみを設置した場合を表している。フローガイド3を設置した場合、ブレードには回転方向と逆方向のトルクが働く範囲はおよそθb=185〜270degの範囲に狭まっている。これは、図11の引込流F5によって、逆行領域にあるブレードに当たる風向きが偏向されるとともに減少し、逆行領域のブレードに働く減速方向トルクが減少した効果と、フローガイド3により順行領域にあるブレードに当たる風量が増加する効果によるものと考えられる。
図7に、図10の垂直軸型風車1における回転ロータ2全体に働くトルクの計算結果を示す。ブレード数はN=5であり、計算条件は図12の場合と同じである。図7において、「with L flowguide」がフローガイド3のみを設置した場合を表している。この結果から、θbが36deg付近において、フローガイド3を設置することによって回転ロータ2全体に働く平均トルクが大きく上昇することが予測される。θbが0deg付近では、平均トルクの上昇は見られず、フローガイドがない場合と殆ど同じである。
尚、回転ロータ2全体に働く瞬時トルクについては、フローガイドがない場合からあまり大きくは増加していない。これは、右側フローガイド4がないため、実施例1に比べて集風効果が小さいためである。
(実験結果)
次に、実際の垂直軸型風車1における左側フローガイド3のみの効果について実験による検証を行った結果について説明する。使用した6種類の左側フローガイド3の形状は、表1に示した通りである。回転ロータ2の形状も、実施例1の場合と同様である。
図13及び表3に測定結果を示す。発電量は電力で測定し、左側フローガイド3がない場合の発電量を1として規格化して示している。図13より、フローガイドのない場合に比べて、左側フローガイド3を設置することによって発電量は最大で約5倍に増加することが分かる。また、最も発電量が大きかったのは、Flowguide EとFlowguide Cでθl=12.5°とした場合で、発電量は約5.1倍であった。
以上の実験から、左側フローガイド3のみの場合においても、垂直軸型風車の効率を大きく(4〜5倍程度)向上できることが確認された。
図14は、本発明の実施例3に係る垂直軸型風車の基本構成を表す斜視図である。本実施例では、実施例1と比べ左側フローガイド3が省略され、右側フローガイド4のみとした点が異なり、それ以外は実施例1と同様である。
図15は、静止状態において図14の垂直軸型風車1に風が吹き込んだ時の風の流れの様子を示す図である。図15において色の薄い領域が風速の速い領域を示している。風速の計算は、実施例1と同様、各ブレードの翼型としてNACA翼型(N:NACA 64)を使用し、二次元有限要素法によって風の流れの計算を行った。また、風は矢印Fの方向から一様な流速(1m/s)で吹き込んでいる。
垂直軸型風車1に吹き込む風は、回転ロータ2の上流右側において、まず右側フローガイド4に衝突する。右側フローガイド4の上流側端P2は滑らかな曲線であるため、右側フローガイド4に衝突する風は上流側端P2で右側フローガイド4の表面に沿ってスムーズに左右に分離し、2つの流れF1,F2となる。右側フローガイド4の左側に分流した流れF2は、右側フローガイド4により回転ロータ2内に押し込まれるため、回転ロータ2の右側の領域R1では風速が強まる。また、その影響で、回転ロータ2のブレードの逆行領域R2においても風速が多少増加する。一方、右側フローガイド4の右側に分流した流れF1は、右側フローガイド4の円弧面と逆S字状曲面との接続点P3において、右側フローガイド4の側面から剥離し、右側に膨らむ流れF1となる。このとき、流れF1の影響で右側フローガイド4の逆S字状曲面の凹面部で渦F3aが生じる。渦F3aは発生した後に矢印D3の方向に押し流されて移動し、移動した後に新たな渦が発生するという現象が繰り返し生じる。従って、右側フローガイド4の右側方から下流にかけて、矢印D3に沿った渦列F3a,F3b,F3c,…が形成される。これらの渦列F3a,F3b,F3c,…はすべて反時計回りであるため、渦中心に対し回転ロータ2の側では流れF2の方向と逆行する流れとなる。従って、右側フローガイド4の下流側領域R3には引き込み流は形成されず、流れF2は殆ど分流することなく回転ロータ2内を流れる。これにより、回転ロータ2に作用する順方向トルクが増加する。しかしながら、上述の通りブレードの逆行領域R2においても風速が多少増加するため、逆行領域R2において回転ロータ2に作用する逆方向トルクも多少増加し、順方向トルクの増加が打ち消される。故に、本実施例の垂直軸型風車1では、実施例1,2の場合ほど風車効率の向上は見込まれないことが予測できる。
図16は、ブレードb0の気流中心線Aに対する回転角θbのそれぞれの値ついてのブレードb0に働くトルクの時間変化を計算した結果である。回転角θbは図2と同様、1つのブレードb0に注目したときに、ブレードb0が気流中心線Aとなす角で定義されている。計算条件及びブレード形状,フローガイド形状は図15の場合と同様であり、ブレード数はN=5とし入力風速は一定(1m/s)として、回転ロータ2は静止状態として2次元有限要素法によって計算を行った。b0に働くトルクは周期的な変動を示すが、これはブレードに当たる風によって生じる渦の影響である。図16より、フローガイド4を設置することによって、θb=36,252,288degにおけるトルク変動の振幅が大きく増幅されており、これはフローガイド4による回転ロータ2への偏向集風作用の影響であると考えられる。
ブレードb0の回転角θbと平均トルクとの関係を図6に示す。図6において、「with R flowguide」がフローガイド4のみを設置した場合を表している。フローガイド4を設置した場合、ブレードには回転方向と逆方向のトルク(逆方向トルク)が働く範囲はおよそθb=175〜345degの範囲であり、これはフローガイドがない場合(no flowguide)と殆ど同じである。しかしながら、順方向トルクが作用する角度領域(θb=0〜170deg付近)では、順方向トルクの大きさはフローガイドがない場合よりも増幅されている。これは、図15の流れF2によって、順行領域にあるブレードに当たる風量・風速が増加したためと考えられる。一方、逆方向トルクが作用する角度領域(θb=175〜345deg付近)では、逆方向トルクの大きさはフローガイドがない場合とおおよそ大差はないが、θb=215degでは逆方向トルクの大きさは半減し、逆にθb=250degでは逆方向トルクの大きさは大きく増加しているのが特徴的である。
図7に、図14の垂直軸型風車1における回転ロータ2全体に働くトルクの計算結果を示す。ブレード数はN=5であり、計算条件は図15の場合と同じである。図7において、「with R flowguide」がフローガイド4のみを設置した場合を表している。この結果から、θbが0deg付近において、フローガイド3を設置することによって回転ロータ2全体に働く平均トルクが大きく上昇するが、逆にθbが36deg付近においては回転方向とは逆向きのトルクが回転ロータ2に作用することが予測される。即ち、回転角72deg周期で周期的な失速現象が生じることを示唆している。しかしながら、θb=0deg付近の順方向トルクの大きさが、θb=36deg付近の逆方向トルクの大きさの3.3倍程度であるため、時間平均では回転ロータ2には順方向トルクが作用し、その大きさはフローガイドがない場合の2〜3倍程度であることが予測される。
(実験結果)
次に、実際の垂直軸型風車1における左側フローガイド4のみの効果について実験による検証を行った結果について説明する。使用した6種類の左側フローガイド3の形状は、表1に示した通りである。回転ロータ2の形状も、実施例1の場合と同様である。
図17及び表4に測定結果を示す。発電量は電力で測定し、右側フローガイド4がない場合の発電量を1として規格化して示している。図17より、フローガイドのない場合に比べて、右側フローガイド4を設置することによって発電量は最大で約2.4倍に増加することが分かる。また、最も発電量が大きかったのは、Flowguide E,Flowguide Cでθl=6.0°,0.0°とした場合で、発電量はそれぞれ約2.3倍,約2.4倍であった。
以上の実験から、右側フローガイド2のみの場合においても、垂直軸型風車の効率を2倍程度向上できることが確認された。
図18は本発明の実施例4に係る垂直軸型風車の基本構成を表す斜視図である。図19は図18の垂直軸型風車の左側フローガイド3を除き左側から見た側面図、図20は図18の垂直軸型風車の正面図である。図18乃至図20において、回転ロータ2、回転軸2a、ブレード2b、左側フローガイド3、及び右側フローガイド4は、実施例1の図1と同様であり、同符号を付して説明は省略する。尚、図18乃至図20において、理解を容易にするため、垂直軸型風車1の回転ロータとフローガイドの部分のみを示し、それ以外の部分(回転ロータの軸受け、架台、フローガイドの支持構造等)は省略している。
本実施例における垂直軸型風車1は、新たに、上側フローガイド5及び下側フローガイド6を備えている。上側フローガイド5及び下側フローガイド6は、ともに円弧板状体により構成されている。上側フローガイド5は下に凸の円弧板状であり、下側フローガイド6は上に凸の円弧板状である。上側フローガイド5は回転ロータ2の風上側の回転ロータ2の斜め上方に近接して配置され、下側フローガイド6は回転ロータ2の風上側の回転ロータ2の斜め下方に近接して配置されている。
このように上側フローガイド5及び下側フローガイド6を設けることによって、回転ロータ2に吹き込む風は上下方向に集風されて回転ロータ2に流入するため、更に風車効率を向上させることができる。
尚、本実施例では上側フローガイド5及び下側フローガイド6を円弧板状体としているが、上側フローガイド5及び下側フローガイド6の回転ロータ2に対向する面が円弧面であればよく、例えば、上側フローガイド5及び下側フローガイド6を闕円柱(平面上の弓形(闕円)を該平面に垂直な方向に引き延ばしてできる立体図形)状体としてもよい。
(実験例)
上側フローガイド5及び下側フローガイド6の幅をそれぞれWt,Wbとする(図20参照)。また、図19に示した様に、上側フローガイド5の円弧の中心点をOt、下側フローガイド6の円弧の中心点をObとし、上側フローガイド5及び下側フローガイド6の円弧の半径をそれぞれrt,rb、上側フローガイド5の円弧中心点をOtに対し上側フローガイド5が張る角をφt、下側フローガイド6の円弧中心点をObに対し下側フローガイド6が張る角をφbとする。中心点Otから上側フローガイド5の円弧の中央点Ptに下ろした線を直線OtPtとし、中央点Ptにおける弧の接線が水平線(回転軸2aの法線)となす角を上側フローガイド5の傾角θtとする。中心点をObから下側フローガイド6の円弧の中央点Pbに下ろした線を直線ObPbとし、中央点Pbにおける弧の接線が水平線(回転軸2aの法線)となす角を下側フローガイド6の傾角θbとする。回転ロータ2の各ブレード2bの回転軌道の半径をrw、ブレード2bの回転軌道上端と上側フローガイド5との間の隙間距離をDt、ブレード2bの回転軌道下端と下側フローガイド6との間の隙間距離をDbとする。上側フローガイド5の前端がブレード2bの回転軌道の前側にはみ出した距離をζt、下側フローガイド6の前端がブレード2bの回転軌道の前側にはみ出した距離をζbとする。
実験は、回転ロータ2の回転軸2aの下端に発電機を取り付け、上下のフローガイド5,6の前方から一様な風速の風を入力し、上下のフローガイド5,6の傾角θt,θbを変えながら発電量の測定を行った。尚、本実験では、上下のフローガイド5,6の影響のみを調べるため、左右のフローガイド3,4は除いた状態で測定を行った。回転ロータ2の半径はrw=150mmとした。上下のフローガイド5,6は同型のものを使用し、形状パラメータは、φt=φb=106deg,rt=rb=87.5mm,Wt=Wb=310mmとした。また、ブレード2bと上下のフローガイド5,6との間の隙間距離はDt=Db=5mm、はみ出し距離はζt=ζb=20mmとした。
表5及び図21に測定結果を示す。発電量は電力で測定し、上下のフローガイド5,6がない場合の発電量(ガイドなし発電量)を1として規格化した値を相対発電量として示している。風速3m/sではガイドなし発電量は0W(風車が起動しない)であった。また、風速4m/sでは相対発電量が40〜50と非常に大きな値を示しているが、これはフローガイド5,6がない場合に回転ロータ2の回転が非常に遅く、ガイドなし発電量が非常に小さい値(0.0008W)となったためである。従って、上下のフローガイド5,6の効果を評価するのは、風速6m/sのデータを参照するのが適当と考えられる。
以上の実験から、上下のフローガイド5,6を付けることにより、垂直軸型風車の効率を大きく(5.4〜6.8倍程度)向上できることが確認された。
尚、本実施例では、上側フローガイド5及び下側フローガイド6の両方を備えた垂直軸型風車1の例を示したが、本発明は上側フローガイド5及び下側フローガイド6の何れか一方を備えたものであってもよい。上側フローガイド5と下側フローガイド6はそれぞれ独立に、回転ロータ2の上側又は下側において回転ロータ2に吹き込む風を集風する作用があるため、上側フローガイド5又は下側フローガイド6の何れか一方であっても垂直軸型風車の効率を向上させる効果があるからである。
図22は本発明の実施例5に係る垂直軸型風車の基本構成を表す斜視図である。本実施例では、上側フローガイド5及び下側フローガイド6の形状を、円弧板状ではなく平板状とした点で実施例4と異なり、それ以外は実施例4と同様である。このようにしても、上側フローガイド5及び下側フローガイド6の集風効果により垂直軸型風車の効率を向上させることができる。
尚、本実施例では、上側フローガイド5及び下側フローガイド6の両方を備えた垂直軸型風車1の例を示しているが、本発明は上側フローガイド5及び下側フローガイド6の何れか一方を備えたものであってもよい。
本実施例では、左側フローガイド3と右側フローガイド4との形状が異なる例について説明する。
図23は、本発明の実施例6に係る垂直軸型風車の平面視断面図である。本実施例の垂直軸型風車1’は、実施例1の垂直軸型風車1と比べ、左側フローガイド3の下流側端部の形状が相違し、それ以外は実施例1の垂直軸型風車1と同様である。尚、図23において、参考のため実施例1の左側フローガイド3を点線により示している。
本実施例の垂直軸型風車1’の左側フローガイド3は、内側側面の円弧状面の点S7より下流側の曲率が、点S7より上流側の円弧の曲率と逆符号であり、点S7より下流側の側面が内側(回転ロータ2側)に向けて滑らかに撓んで反り返っている。また、外側側面の逆S字曲線の点S7より下流側の曲率が小さく略直線状(平面状)となっている。内側側面と外側側面の接続点S5’において、両側面は鋭角を為して接続している。図23に示した様に、接続点S5’は、実施例1の場合の接続点S5よりも下流側に移動しており、接続点S5における内側側面と外側側面の中線E(接続点S5における内側側面の接線と外側側面の接線との中央線)の向きは、気流中心線Aの向きに近くなっている。
図24は、実施例6に係る垂直軸型風車の(a)ブレードb0の回転角θbと平均トルクとの関係を示す図、及び(b)回転ロータ2全体に働くトルクの計算結果である。本実施例の垂直軸型風車1’では、全体的にみて、ブレードb0の回転角がθb=180〜270deg付近において作用する減速方向トルクの大きさが、実施例1の場合に比べて減少する傾向が見られる。また、θb=50〜150deg付近において作用する加速方向トルクの大きさが増加する傾向が見られる。逆に、θb=0〜50付近において作用する加速方向トルクの大きさが若干減少している。その結果、回転ロータ2全体に働くトルクは、実施例1の場合に比べて若干増加している。