本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例1ないし4に記載した通りである。
(実施例1)
図1ないし図16を用いて、本発明の実施例1に係わる撮像装置について説明する。図1は撮像装置を示す構成図である。図1において、1は撮像装置、2は撮像レンズ、3は後述の補正レンズ12を駆動するレンズ駆動装置である。4は撮像レンズ2の光軸、5はレンズ鏡筒、6は撮像素子、7はメモリ、8は手振れ等の振れを検出する振れセンサ、9は撮像レンズ2に含まれる不図示のフォーカスレンズ等を駆動するフォーカスレンズ駆動回路である。また、10は電源、11はレリーズ釦、12は補正レンズ、13はいわゆるクイックリターンミラー、14はファインダ光学系である。なお、レンズ駆動装置3や振れセンサ8などにより像振れ補正装置が構成される。
撮像装置1は、撮像レンズ2と不図示のピント調整手段を用いて、像を撮像素子6の近傍に結像させる。さらにユーザーによるレリーズ釦11の操作と同期させて撮像素子6より被写体の情報を得て、メモリ7へ記録を行う。
レンズ駆動装置3により駆動される補正レンズ12を用いた像振れの補正について説明する。レンズ駆動装置3は補正レンズ12を適切に駆動できる。露光中などに手振れが生じたときは、振れセンサ8からの信号に基づいて生成される像振れ補正のための駆動信号によりレンズ駆動装置3が補正レンズ12を動作させる。この結果、撮像素子6上での像の振れが軽減されて、手振れによる画像の劣化を補正できる。
図2は、撮像装置1の電気的構成を示すブロック図である。撮像装置1は、撮像系、画像処理系、記録再生系、制御系を有する。撮像系は、撮像レンズ2、撮像素子6を含み、画像処理系は、A/D変換器20、画像処理回路21を含む。記録再生系は、記録処理回路23、メモリ24を含む。制御系は、カメラシステム制御回路25、AFセンサ26、AEセンサ27、振れセンサ8、操作検出回路29、および、レンズシステム制御回路30を含む。
撮像系は、物体からの光を、撮像レンズ2を介して撮像素子6の撮像面に結像する光学処理系であり、AEセンサ27からの信号をもとに図示しない絞りなどを用いて適切な光量の物体光を撮像素子6に露光する。画像処理系に含まれる画像処理回路21は、A/D変換器20を介して撮像素子6から受けた画素数の画像信号を処理する信号処理回路であり、ホワイトバランス回路、ガンマ補正回路、補間演算による高解像度化を行う補間演算回路等を有する。記録再生系に含まれる記録処理回路23は、メモリ24への画像信号の出力を行うとともに、表示部22に出力する像を生成、保存する。また、記録処理回路23は、予め定められた方法により画像や動画の圧縮を行う。
制御系は、レリーズ釦11等の操作を検出する操作検出回路29からの検出信号に応動して各部を制御する。制御系に含まれるカメラシステム制御回路25は撮像の際のタイミング信号などを生成して出力する。AFセンサ26は撮像装置1のピント状態を検出する。AEセンサ27は被写体の輝度を検出する。振れセンサ8は手振れ等の振れを検出する。レンズシステム制御回路30はカメラシステム制御回路25からの信号に応じてフォーカスレンズ駆動回路9やレンズ駆動装置3などを制御する。
制御系は、外部操作に応動して撮像系、画像処理系、記録再生系をそれぞれ制御する。例えば、レリーズ釦11の押下を検出して、撮像素子6の駆動、画像処理回路21の動作、記録処理回路23の圧縮処理などを制御する。さらに、表示部22によって光学ファインダ、液晶モニター等に情報表示を行う情報表示装置の各セグメントの状態を制御する。
カメラシステム制御回路25にはAFセンサ26とAEセンサ27が接続されており、これらの信号を基にレンズシステム制御回路30を介してフォーカスレンズ、絞り等を適切に制御する。また、カメラシステム制御回路25には振れセンサ8が接続されており、像振れ補正を行うモードにおいては、振れセンサ8の信号をもとにレンズ駆動装置3を駆動する。
画像走査範囲の変更による像振れ補正について説明する。カメラシステム制御回路25からの信号に伴って、A/D変換器20の走査範囲を変更可能な構成となっている。露光中などに手振れが生じたときは、振れセンサ8からの信号に基づいて適切に走査範囲を変更する。このことで、撮像素子6上で被写体像が変位していても見かけ上静止したように像を得ることができる。この結果、画像処理回路21に提供される像の振れが軽減されて、手振れ等による画像の劣化を補正できる。
上記の画像走査範囲の変更による像振れ補正と補正レンズ12の駆動による像振れ補正の両方の振れ補正機能を有する場合、それぞれの振れ補正機能を同時に駆動した場合、補正動作が過剰になり、入力された振れとは反対方向の振れが発生した像になってしまう。特許文献4によると、入力信号の特性によって駆動する振れ補正手段を切り換えて適切に動作をさせている。本実施例1では、補正レンズ12による振れ補正機能を十分に発揮しながら、簡単な構成で画像走査範囲の変更に伴う像振れ補正も適切に行う。
次に、図3ないし図16を用いて、本実施例1の要部であるレンズ駆動装置3について説明する。
図3はレンズ駆動装置3の分解斜視図である。図3において、31はベース板、36は可動鏡筒、32a,32b,32cはベース板31と可動鏡筒36に狭持される球である。33a,33bはコイル、34a,34bは磁石、35a,35b,35cは弾性体、37は磁石吸着板、38a,38bは吸着板固定螺旋、39は可動鏡筒保持板、40はFPC(フレキシブルプリント基板)、41a,41bはFPC固定螺旋である。
図3から明らかなように、本実施例1のレンズ駆動装置3は、ベース板31に対して片側に展開可能であり、組み付けが容易である。したがって、生産性が向上し、コストの低減を見込める。
図4はレンズ駆動装置3の詳細を示す図である。詳しくは、図4(a)は光軸方向から見た正面図、図4(b)は図4(a)のB−B断面図、図4(c)は図4(a)のC−C断面図である。
図4(a)に示したように、可動鏡筒36はベース板31に対して複数の弾性体35a,35b,35cで弾性支持されている。本実施例1では、弾性体35a,35b,35cが光軸中心から放射状に120度の間隔で3本配置されている。このように対称な配置とすることで、モーメントの発生による不要共振の励起を抑制することが可能となる。また、弾性体35a,35b,35cは光軸方向に適宜傾けて取り付けられており(図4(c)参照)、ベース板31と可動鏡筒36の間に設けられた球32a,32b,32cを把持している。弾性体35a,35b,35cの弾性係数の決定方法については後述する。
図3と図4(b)を用いてベース板31と可動鏡筒36の相対運動について説明する。ベース板31と可動鏡筒36は球32a,32b,32cを狭持しており、球32a〜32cを介して相対運動を行う。このため、転がり摩擦という非常に小さな摩擦の影響しか受けずに相対運動を行える。摩擦が小さいために非常に小さな入力に対しても適切に応答することができる。また、球32a〜32cによる案内面を適切な精度で製作することにより、ベース板31と可動鏡筒36が相対運動を行った場合でも、可動鏡筒36の傾きや光軸方向への不要な移動が発生することが無い。
図4(c)および図5を用いてレンズ駆動装置3に具備されるアクチュエータについて説明する。図4(c)に示したように、ベース板31にはコイル33a,33bが固定され、可動鏡筒36には磁石34a,34bが固定されており、これらによりいわゆるムービングマグネット型のアクチュエータを構成している。図5はアクチュエータの模式図であり、図5(a)は磁石34aとコイル33aのみを光軸方向から見た図、図5(b)は磁石34aを中心付近で切断した時の断面図を示している。なお、磁石34bとコイル34bの相対的位置関係も同じである。
図5において、43は着磁境界を示している。また、図5(b)に示す42a,42b,42cは、磁石34a、コイル33a近傍の代表的な磁力線を模式的に表している。図5に示したように、着磁境界43を挟んで磁石34aは二つの領域34a1,34a2に分けて着磁されている。着磁境界43はアクチュエータで発生する力の方向と直交する方向であり、図5(a)の上下方向に着磁境界が存在し、磁石34aおよび可動鏡筒36が左右方向に駆動される。コイル33aは光軸方向から見たときに小判型をしており、二つの長手部分33a1,33a2が磁石34aの二つの領域34a1,34a2と対向するように配置されている。
磁石34aのコイル33aとは反対側の面には、図5(b)に示したように、磁石吸着板37が配置される。磁石吸着板37は望ましくは軟磁性体であり、多くの磁束を透過させ、磁気回路のパーミアンス(漏れ易さ)を下げている。その結果、磁石34aからコイル33aに向かって直線的に磁力線42a,42bが生じている。磁石吸着板37は本実施例1では可動鏡筒36に固定されるので、厚みを増すと可動部の重量も増加してしまう。そこで、磁石吸着板37の外形、飽和磁束密度および磁石の形状、表面磁束密度などを考慮して、磁石吸着板37が飽和磁束近傍となるように決めるのが好ましい。この状態でコイル33aに通電すると、図5(b)の紙面垂直方向へ長手部分33a1と33a2にそれぞれ反対方向に電流が流れ、フレミング左手の法則によって駆動力が発生する。図4(a)で説明したように可動鏡筒36は弾性支持されているので、弾性体35a,35b,35cの合力と前記駆動力がつりあう位置までベース板31と可動鏡筒36の間に相対運動が生じる。
次に、図6を用いて、像振れ補正に適した周波数特性を得ることができるように摩擦が小さく、適切な粘性抵抗を得ることを可能にする減衰手段の取り付けについて説明する。図6(a)はレンズ駆動装置3を光軸方向から見た正面図、図6(b)は図6(a)のD−D断面図、図6(c)は図6(b)丸で囲った減衰手段取り付け部の詳細図である。
図6において、44a,44bは減衰手段取り付け部、45は減衰手段、46は紫外線照射方向を示す矢印である。図6(b)に示すように、吸着板固定螺旋38a,38bは可動鏡筒36と螺旋締結された後、ベース板31に設けられた穴に向けて、少なくともベース板31と光軸方向にオーバーラップするように延在している。減衰手段取り付け部44a,44bは光軸対象に複数設けられることが望ましい。本実施例1では、図6(b)に示すように、光軸4に対して対称な位置に二つ設けられている。光軸4に対称に設けることで、ベース板31と可動鏡筒36が相対運動を行ったときに、減衰手段45から受ける力によって可動鏡筒36にモーメントが発生することが無い。
図6(c)は減衰手段取り付け部44aの詳細図である。ベース板31に設けられた円筒形の穴に対して、可動鏡筒36に固定された円柱状の軸となる吸着板固定螺旋38aがほぼ同心円状になるように配置され、その隙間にドーナツ状に減衰手段45が設けられている。減衰手段45は様々な粘弾性体を用いることが可能であるが、本実施例1では、組付け性や耐環境性に優れた紫外線硬化シリコーンゲルを用いている。ユニットの片側に開放部分があるので、硬化前のゲルを塗布した後、矢印46の方向から紫外線を照射することで硬化させる。減衰手段45として用いる粘弾性体の望ましい特性については後述する。
図6に示すように、ベース板31上に設けられた突起と可動鏡筒36上に設けられた突起によって構成される機械的オーバーラン防止手段の間隔をaとし、減衰手段45の図6(c)に示す該減衰手段45が設けられた個所の可動鏡筒36と固定鏡筒となるベース板31の間隔をbとする。減衰手段45は大変形を起こさず、永久変形が起きない範囲(=弾性係数がリニアに変化する範囲)で使用されるのが好ましい。そのため、
a<b ・・・(1)
を満たすように設けることが望ましい。永久変形を残さないためにはさらに
a<0.5b ・・・(2)
の範囲であればより好適である。
次に、図7を用いて本実施例1に好適な、減衰手段45としての粘弾性体の特性について説明する。粘弾性体は一般的に図7に示したように、入力周波数によってその特性が変化する。よく知られているように、粘弾性体においては、周波数の増加は温度の低下と同様の物性を示す。つまり、図7に示したように、転移領域51bを挟んで、低い周波数の領域51aでゴム物性を示し(以下、ゴム領域)、高い周波数の領域51cでガラス物性を示す(以下、ガラス領域)。ゴム領域では柔らかく、ガラス領域ではゴム領域に比べて100〜1000倍程度のヤング率になる。
ここで、転移領域51bについて説明する。図7においてf1、f2は手ぶれ補正の制御周波数よりも十分に低い周波数と十分に高い周波数を示している。撮像装置を手で構えて撮影する際の実用的なシャッタ速度を1s〜1/4000s程度、実用的な焦点距離を10mm〜400mm(35mm換算)と考えると、対象とする制御周波数帯域は0.3Hz〜100Hz程度に設定されることが多い。ここでは制御周波数に対して十分に低い周波数としてf1=0.001Hz、制御周波数に対して十分に高い周波数としてf2=100000Hzとする。G1はf1における複素弾性率を、G2はf2における複素弾性率をそれぞれ示している。G3、G4はG1、G2を用いて以下の式の様に定義する。
G3=G1+0.1(G2−G1) ・・・(3)
G4=G1+0.9(G2−G1) ・・・(4)
つまり、G3およびG4は、複素弾性率が実質的に変化する変化の幅の端から、それぞれ10%変化した点を表す。このG3およびG4の間にある領域を、本実施例においては転移領域(51b)とする。
一般的に、ゴム領域とガラス領域の中間にある転移領域51bで複素弾性係数における実数部と虚数部の比であるtanδが大きくなる。tanδは粘弾性体の応力歪み線図のヒステリシスを示しており、大きな値の方が効率よく、運動エネルギーを熱エネルギーに変換できる。従って、上述のように制御周波数帯域である0.3Hz〜100Hzが転移領域に含まれ、tanδが大きい材料が好ましい。近年、上述のような材料も多く開発されており、一般的なブチルゴムに加え、様々な商品が提供されている。一例としては、内外ゴム製ハネナイト、宮坂ゴム製ミヤフリーク、スリーボンド製TB3168等が好適な粘弾性材料と言える。
次に、駆動系の設計について、図8を用いて説明する。図8は本実施例1における駆動系の1軸方向の運動をモデル化したモデル図である。図8(a)は減衰手段が無い場合のモデルを示しており、図8(b)は減衰手段を介在させた場合のモデルを示している。
本実施例1のレンズ駆動装置3は、三つの弾性体35a,35b,35cを有しているが、特定の移動方向を考えた場合、複数の弾性体の合力を仮想的な一つのバネ、ダッシュポッドとして考えることができる。図8(a)に示したように、1自由度のバネ質点系として表現できる。このときの力Fに対する変位xは、以下の式で表される。
F=m(d2x/dt2)+c(dx/dt)+kx ・・・(5)
このとき、図4で説明した様に、小さい摩擦しか受けない構成となっているため、一般的に粘性抵抗は小さく、cの値は小さな値になる。その結果、共振が強く見られる機構になる。つまり、小さな振幅の入力に対して適切に応答できるものの、外乱などの影響を受けやすい機構といえる。ここで、減衰比ζを次の式で定義する。
ζ=c/(2√(mk)) ・・・(6)
減衰比ζを用いてバネ質点系の共振峰の状態や過渡応答を把握することができる。共振周波数付近で減衰比ζが0.3程度となると制御性が良いが、一般的に用いられるコイルバネのみによる、減衰手段を介在させない機構では減衰比ζは0.1程度しか得られない。そのため、減衰手段を介在させない機構では共振の影響を受けやすく、制御性が必ずしも良くない。
図8(b)は、減衰手段を介在させた系であり、上記の弾性体35a,35b,35cと同様に減衰手段45の合力を仮想的な一つのバネ、ダッシュポッドとみなしたモデル図である。k1,c1は弾性体によるバネ、ダッシュポッドを、k2,c2は減衰手段によるバネ、ダッシュポッドを示している。図8(b)の力Fに対する変位xは
F=m(d2x/dt2)+(c1+c2)(dx/dt)+(k1+k2)x ・・・(7)
の式で表される。
図7で説明したような好適な粘弾性体を減衰手段45として用いている場合、tanδは制御帯域で比較的大きな値を示している。好適の材料の中では1.0程度得られるものもある。このように大きなtanδが得られるので、k2が小さな値であっても十分な減衰を得ることができる。つまり、アクチュエータの感度を低下させずに減衰を適切に付与できる。このときの減衰比ζは次の式で表される。
ζ=(c1+c2)/(2√(m(k1+k2))) ・・・(8)
図9に示される条件で、減衰手段45を介在させたときと、介在させないときの計算結果による周波数応答線図を図10に示した。
図9は、制御周波数の上限が30Hz程度に適した機構を例にしている。このモデルでは可動部質量を3gとしている。また、制御周波数を考慮して制御周波数よりも高い周波数に共振周波数を設定すると良いが、ここでは60Hzに設定している。なお、いわゆるオープン制御で制御周波数をあげるには、共振周波数をさらに高くすることが望ましい。弾性体の弾性係数は、図9に示すように、可動部の質量と制御周波数およびシステム全体の減衰比を考慮して、弾性体による弾性係数k1と減衰手段による弾性係数k2が決定される。図9ではシステムの減衰比として0.3が得られるように設計している。一般的に減衰手段による弾性係数k2を増せば、システムの減衰比は大きくなるが、弾性体による弾性係数が小さくなると、自重や外乱による変動が大きくなるので、これらを考慮して適切に設定される。
図10から分かるように、減衰手段が無い状態では共振峰が顕著に現れ、外乱の影響を受けやすい。一方、減衰手段を設けた状態では、共振が十分に抑制されており、外乱の影響を受けにくい。また、減衰手段を設けた状態の減衰比は0.3程度であり、適切な値を得ている。図9の値の様に減衰比が0.3程度の時、共振によるゲインの持ち上がりが小さく、位相の遅れも比較的小さい。制御性も考慮して減衰比が0.3程度となるように、減衰手段と弾性体の弾性係数の比を適切に決定することが望ましい。減衰手段の複素弾性係数や形状を変更することで、減衰手段の弾性係数を所望の値にすることが可能である。
次に、図11ないし図13を用いて、実験データと本実施例1の効果について説明する。図11は、実験装置の概要を示した図である。FFTアナライザ404の信号をモータドライバ403を介してコイルに印加し、レンズ駆動装置3を駆動する。レンズ駆動装置3の応答をレーザ変位計401で測定し、レーザ変位計アンプ402を介して、FFTアナライザ404に入力して周波数応答を求めた。
図12は、減衰手段を介在させた場合とさせない場合の周波数応答の実験データである。図12の実験では、可動部の質量が5g程度、共振周波数40Hz程度となるような可動部と弾性体を用意した。減衰手段として、スリーボンド製TB3168を紫外線で適宜硬化させて用いた。磁石はネオジウム磁石を二つの領域に分けて着磁し、磁石吸着板は軟磁性体を用いた。コイルは融着性ポリウレタン銅線を用いた。コイルに通電することで、電流に比例した駆動力が発生し、弾性体の合力とつりあう位置まで移動する。このとき、弾性体の合力と駆動力がモーメントを発生しない位置関係が望ましいが、組立誤差などの影響で、モーメントが発生し、光軸周りの回転運動(以下、ローリング)が励起される。図12の減衰手段が無い場合の40Hz付近の共振峰52は駆動力方向の共振であり、80Hz付近の共振峰53はローリングによって発生する不要共振である。図12から分かるように、摩擦が小さく、粘性抵抗が小さい機構のため、共振峰52,53が高いことが分かる。一方、減衰手段がある場合には、位相が90度遅れる60Hz付近でも共振峰が見られない。このため、安定して制御することが可能である。周波数が10Hzを超える付近からゲイン、位相の変動が見られるが、この影響は後述する位相補償器によって緩和することが可能である。
図13は、1軸方向に駆動したときの他の軸方向への運動の漏れ(以下、クロストーク)を実験的に取得したものである。クロストークはフィードバック制御の場合、センサ出力を基に補正されるのである程度許容可能であるが、いわゆるオープン制御では小さく抑える必要がある。クロストークの原因は、弾性体や駆動手段の組付け誤差などに起因しており、完全に無くすことは容易ではない。また、ローリングが励起された場合にはクロストークが大きく観察される。図13に示すように、減衰手段を適切な位置に設けることで、ローリングを抑制して、クロストークも小さく抑えることができる。例えばローリングしたときに大きな速度の発生する箇所に減衰手段を設けることが好ましい。本実施例1では、光軸から比較的離れた位置に減衰手段を配置している。クロストークを低減できることから、オープン制御を行う装置では、本実施例1は特に有用である。
次に、図14ないし図17を用いて、本実施例1に示すレンズ駆動装置3の好適な制御について説明する。
図14は、レンズ駆動装置3の制御信号を生成する信号処理系のブロック図である。図14において、61は角速度センサ、62は低域通過フィルタ(以下、LPF)、63はCPUである。64はA/D変換器、65は積分器、66は高域通過フィルタ(以下、HPF)、67は撮像装置の情報を記録したメモリである。68はレンズの位置を計算するレンズ位置変換器、69はレンズ位置制御器である。70はモータドライバ、3はレンズ駆動装置を示している。
図14に示すように、手振れ等の像振れを検出する振れセンサ8としては、角速度センサが多くの場合用いられている。本実施例1も角速度センサ61を用いた場合を例として以下の説明を行う。角速度センサ61は例えば手振れによる角速度を検出し、角速度に比例した信号を出力する。LPF62はノイズカットのために設けられており、角速度センサ61の高域ノイズをカットする。CPU63は像振れ補正に必要な制御のための演算を行うものであり、内部に、A/D変換器64、積分器65、HPF66、メモリ67、レンズ位置変換器68、レンズ位置制御器69を備えている。各部の働きについて以下に述べる。
A/D変換器64はLPF62を通過した信号を適切なサンプリング周期でデジタル変換する。サンプリング周期は制御帯域の100倍程度あることが望ましい。例えば50Hzまでの制御を行うレンズ駆動装置3においては、5000Hz程度のサンプリング周期であればサンプリングの影響を無視できて好適である。積分器65は角速度信号を積分し、手振れによる角度を求める。HPF66は角速度センサ61の低周波ゆらぎを除去するフィルタである。フィルタ時定数は前記低周波ゆらぎと制御帯域を考慮して適切に設定される。また、HPF66はメモリ67からズーム情報などの撮影条件の情報を取得し、適切にフィルタの時定数を変更することもできる。レンズ位置変換器68は、メモリ67から得たズーム、フォーカスなどの情報から、入力された振れに対するレンズ駆動装置3(詳しくは、補正レンズ12)の移動量を計算する。レンズ位置制御器69はレンズ駆動装置3の周波数特性などを考慮して適切な位相補償などを行う。また、レンズ位置制御器69はその結果をモータドライバ70に出力し、レンズ駆動装置3が駆動される。
図15は、レンズ位置制御器69が備える位相補償器の一例を示している。図15は1次の位相進みフィルタであり、CPU63の計算負荷が小さい。そのため、比較的低コストである計算能力の低いCPUであっても適用可能である。CPU能力に余裕が無い場合は、レンズ位置制御器69をCPU外で抵抗とコンデンサによって簡単に構成することも可能である。CPU能力に余裕が有る場合は、さらに高次の位相フィルタを構成することで、本実施例1に示した以上の制御性を得ることも可能となる。
図16は、図15に示した位相補償器を適用する前と、適用した後のレンズ駆動装置3の周波数応答線図である。位相補償器を適用することで、ゲイン、位相がフラットな部分が高い周波数帯まで続いていることが分かる。これは、いわゆるオープン制御を行った場合であっても、高周波の手振れに対しても機構が追従可能であることを示している。
図17は、代表的な手振れ振幅を周波数領域で示した。縦軸はパワースペクトルであり、手振れ振幅に対応しており、対数で記載されている。縦軸1目盛りで10倍を意味している。図17から明らかなように、手振れ振幅は高い周波数に行くにつれて減少していることがわかる。高い周波数の影響は低い周波数の手振れに対して相対的に小さいことが分かる。一方、静止画を撮影する場合はシャッタ速度で、動画を撮影するときはフレームレートで区切られた時間の間で手振れを抑制できればよいことを考えると、低周波の振動の影響も相対的に小さくなる。例として、1/30秒で打ち切った場合の手振れ振幅を図17に同様に示した。このときに振幅が大きくなる範囲を制御帯域として設定すればよい。シャッタ速度やフレームレートは撮像装置の仕様にしたがって適した値とすればよい。図17では、0.3Hz〜20Hz程度を制御帯域として定義した場合を示した。
図17のように、本実施例1の機構は100Hz以下の周波数に制御帯域を設定している。光ディスクの対物レンズアクチュエータなどでは制御帯域が数kHzに達する。このように非常に高周波での応答が求められるアクチュエータでは、図7に示した粘弾性体のガラス領域51cに近い領域を使用せざるを得ないために、粘弾性体が負荷となってしまう。このため、可動部と固定部の間に直接介在させる方法は取りにくい。一方、本実施例1では、制御帯域が100Hz以下という低い周波数帯で且つ帯域も狭いために、図7で示した粘弾性体の転移領域を活用できる。
次に、制御状態における可動鏡筒の移動量と減衰手段の関係について述べる。上述してきたオープン制御では、電流制限などの関係から駆動範囲を電気的に制限している場合がある。制御状態における可動鏡筒の移動量をcとする。減衰手段45は大変形を起こさず永久変形が起きない範囲(=弾性係数がリニアに変化する範囲)で使用されるのが好ましい。そのため
b>c ・・・(9)
を満たすように設けることが望ましい。なお、bは図6に示される間隔である。永久変形を残さないためにはさらに
0.5b>c ・・・(10)
の範囲であればより好適である。
以上に説明したように、本発明の実施例1によれば、
1)小さな摩擦の機構に適切な減衰を付加できる
2)組み付けが容易であり、低コストである
3)オープン駆動でも適切な制御性能を得ることができる
という効果を持たせたレンズ駆動装置3を得ることができる。
(実施例2)
図18ないし図28を用いて、本発明に係る実施例2について説明する。図1および図2に示した撮像装置の各部の機能などについては、上記実施例1で詳述したので、ここでは割愛する。
図18ないし図28を用いて、本発明の実施例2に係る要部であるレンズ駆動装置3について説明する。図18はレンズ駆動装置3の分解斜視図である。図18において、実施例1のレンズ駆動装置3と同じ機能を持つものに関しては同じ番号を付した。101は磁石吸着板であり、実施例1の磁石吸着板37と異なり、適切な穴が設けられている。図18から明らかなように、本実施例2の機構はベース板31に対して片側に展開可能であり、組み付けが容易である。したがって、生産性が向上し、コストの低減が見込める。
図19は、レンズ駆動装置3の構成図である。詳しくは、図19(a)は光軸方向からみた正面図、図19(b)は図19(a)のB−B断面図、図19(c)は図19(a)のC−C断面図、図19(d)は図19(c)の部分詳細図である。
図19に示したように、可動部の支持方法は実施例1と同じ方法を取っている。つまり、可動鏡筒36はベース板31に対して複数の弾性体35a,35b,35cで弾性支持されている。本実施例2では、弾性体35a〜35cが光軸から放射状に120度の間隔で3本配置されている。このような対称な配置とすることで、モーメントの発生による不要共振の励起を抑制することが可能となる。また、弾性体35a〜35cは光軸方向に適宜傾けて取り付けられており、ベース板31と可動鏡筒36の間に設けられた球32a,32b,32cを把持している。弾性体35a〜35cの弾性係数の決定方法については後述する。
レンズ駆動装置3における可動鏡筒36の案内面構成は、実施例1の図4(b)に示したものと同じ構造である。
図19(b)および図20、図21を用いて、レンズ駆動装置3の駆動部であるアクチュエータについて説明する。アクチュエータは、実施例1の図4(c)に示した構造とほぼ同一構造である。つまり、アクチュエータの構成要素の一つであるコイル33a,33bに通電することによってベース板31と可動鏡筒36の間に相対運動が生じる。違いは、コイル33a,33bに対する磁石34a,34bの非対向面側にセンサ102が設けられている。本実施例2は、いわゆるムービングマグネット型のアクチュエータのため、センサ102としてホール素子を用いている。センサ102はベース板31にFPC40を介して固定されており、可動鏡筒36の位置を磁束密度の変化によって検出する。また、センサ102を前述の配置とすることで、駆動用の磁石34aを位置検出用の磁石として兼用している。
図20はアクチュエータの模式図であり、図20(a)は磁石34a、コイル33aおよびセンサ102を光軸方向から見た図、図20(b)は磁石34aを中心付近で切断した時の断面図を示している。
図20において、110はセンサの感磁部である。図20に示した磁気回路では、磁力線42a,42b,42cは図20に示した矢印のような流れをしている。図20(b)の状態では、感磁部110は着磁境界43の真上に位置しているので、この点の磁界はほぼ0に等しくなる。ベース板31と可動鏡筒36の間に相対運動が生じた場合、ベース板31に固定されたセンサ102から見みて、着磁境界43は可動鏡筒36と一緒に動くので、感磁部110の磁界は0ではない値を示す。
この様子を実験的に取得したものを図21に示す。図21において、移動量0とは、図20(b)に示した、感磁部110は着磁境界43の真上に位置した状態をいう。図21から分かるように、一定の範囲では、移動量と磁界の強さは線形関係が保たれており、この範囲では線形に位置を検出可能である。
図19(c),(d)を用いて、減衰手段の取り付けについて説明する。図19(c),(d)において、103a,103bは減衰手段取り付け部、104は減衰手段、105aは紫外線透過板、106は紫外線照射方向を示す矢印である。図19(c)に示すように、減衰手段取り付け部103a,103bは、実施例1と同じく光軸4に対称に二つ設けられている。吸着板固定螺旋38a,38bは可動鏡筒36と螺旋締結された後、ベース板31に設けられた穴に向けて、少なくともベース板31と光軸方向にオーバーラップし、且つ貫通しないように延在している。紫外線透過板105aをベース板31に取り付けた後に、減衰手段104を注入した後、可動鏡筒36を組み込む。最後に、矢印106の方向から紫外線を照射することで、減衰手段104を硬化させる。減衰手段104として用いる粘弾性体は、実施例1に示したものとする。
図22ないし図25を用いて、本実施例2に示すレンズ駆動装置3の好適な制御について説明する。
図22は、レンズ駆動装置3の制御信号を生成する信号処理系のブロック図である。図22において、実施例1の図14と同じ働きをするものに関しては、同じ番号を付した。111はレンズ位置検出センサ、112はA/D変換器である。
図22に示したように、実施例1と同じく角速度センサ61の信号を適切にCPU63で処理することによって、レンズ位置制御器69の入力を得る。本実施例2では、レンズ位置制御器69はいわゆるフィードバック制御を行っており、レンズ位置変換器68からの信号に加え、レンズ位置センサ111とA/D変換器112を介して得たレンズ位置情報を用いて補正レンズの制御を行う。
フィードバック制御のブロック図を、図23に示した。図23において、目標レンズ位置とは、レンズ位置変換器68から与えられる目標位置を示している。また、A/D変換器112のサンプリングレートは制御帯域よりも十分に高い周波数でサンプリングをしていることを想定している。つまり、サンプリングによる位相の遅れなどは無く、図23では、連続量として扱っても問題ないとしている。実際に、像振れ補正に用いられるレンズ駆動装置は高い周波数での応答を求められるわけではないので、上記のように仮定できる。
図23のように、レンズ位置制御器69の伝達関数をG2(s)、モータドライバ70のドライバゲインをGd、レンズ駆動装置3のアクチュエータ113の伝達関数をG1(s)、レンズ位置センサ111のゲインをGsとする。すると、開ループ特性Gopen(s)は、
Gopen(s)=GdG1(s)G2(s) ・・・(11)
で表される。
さらに、閉ループ特性Gclose(s)は、
Gclose(s)=(GdGsG1(s)G2(s))/(1+GdGsG1(s)G2(s)) ・・・(12)
と表される。このときの周波数応答線図を、図24から図27に示した。
図24は、減衰手段を介在させない状態での開ループ特性(Openと図示)と閉ループ特性(Closeと図示)を示した。本実施例2では、制御系を簡単にするために、レンズ位置制御器69は1次の位相進み補償器で構成されている。
図25は、図24に適用した位相進み補償器の周波数応答線図である。図25に示したような位相進み補償器を適用した場合でも、位相余有を考えると交叉周波数を十分に高くすることが困難である。図24の例では、交叉周波数は60Hz付近に有り、位相余有は30deg程度である。位相進み補償器が位相を進めてくれる帯域をもう少し低くしたいが、不要共振が80Hz付近にあるので困難である。そのため、低域感度をあげられず、交叉周波数も高くすることが困難である。交叉周波数高くしていくと位相余有が十分でなくなり、制御系が発振現象を起こしてしまう。交叉周波数を十分にあげることができないので、閉ループ特性においても位相の周りが低周波から大きく生じてしまう。その結果、撮像装置の像振れ補正装置として、レンズ駆動装置を設けた場合に十分な性能が得られない可能性がある。
図26は、減衰手段を介在させた状態での開ループ特性(Openと図示)と閉ループ特性(Closeと図示)を示した。図27は、図26に適用した位相進み補償器の周波数応答線図である。図27に示したような位相進み補償器を適用した場合、100Hz付近に交叉周波数を設定することができる。また、位相余有も45deg程度取れており、非常に安定した制御系を構成できている。また、交叉周波数を高く設定できたことで、比較的高い周波数まで位相の遅れを抑制できている。本実施例2においては、この閉ループ特性を考慮しながら適当な開ループ特性の設計を行う。つまり、可動鏡筒36を支持する弾性体の弾性係数は、所望の開ループ特性の共振周波数が得られるように適切に設定すればよい。
図24と図26の比較から明らかなように、減衰手段104を適切に設けることでフィードバック制御を行う装置においても、上述したような望ましい特性が得られる。
さらに外乱が作用した場合の効果について、図23と図28を用いて説明する。図23のブロック図の外乱から実際のレンズ位置までの伝達関数Gnoise(s)を求めると以下のように表すことができる。
Gnoise(s)=(GdG1(s))/(1+GdGsG1(s)G2(s))…(13)
この周波数応答線図を図28に示した。図28から明らかなように、減衰手段104がある方が外乱に対する実際のレンズ位置のゲインが小さく、影響を受けにくいことが分かる。
以上に説明したように、本発明の実施例2によれば、
1)小さな摩擦の機構に適切な減衰を付加できる
2)組みつけが容易であり低コストである
3)フィードバック駆動でも安定した制御性および位相遅れを抑制することができる
という効果を持たせたレンズ駆動装置3を得ることができる。
(実施例3)
図29ないし図32を用いて、本発明に係る実施例3について説明する。図1および図2に示した撮像装置の各部の機能などについては、実施例1で詳述したのでここでは割愛する。
図29ないし図32を用いて、本発明の実施例3に係る要部であるレンズ駆動装置3について説明する。図29はレンズ駆動装置3の分解斜視図である。
図29において、実施例1のレンズ駆動装置3と同じ機能を持つものに関しては同じ番号を付した。201a,201b,201cは摺動軸、202はロックリング、203はロックリング駆動モータ、204は回転防止バー、205は固定ヨーク、206は位置決めピンである。207a,207b,208,212a,212b,214はビス、209a,209bはLED、210は対向ヨーク、211は遮光板、213は中継FPC、215はフォトインタラプタである。
コイル33a,33bおよびLED209a,209bは可動鏡筒36に固定されており、可動鏡筒36と一体に移動する。中継FPC213はビス214によってベース板31に固定されており、中継FPC213上の弾性部分を介してLED209a,209b、フォトインタラプタ215およびコイル33a,33bに給電している。
図30はレンズ駆動装置3の平面図である。図30(a)は光軸方向からみた正面図、図30(b)は図30(a)のB−B断面図、図30(c)は図30(a)のC−C断面図である。
図29および図30(b)に示したように、摺動軸201a,201b,201cはベース板31上に設けられた嵌合穴および可動鏡筒36上に設けられた長穴に嵌合しており、ベース板31に固定される。三つの摺動軸と長穴を用いることで、光軸に垂直な平面内を案内する。ロックリング202はロックリング駆動モータ203に取り付けられたギア216を介して駆動される。ロックリング202が回転することで、ロックリング202と可動鏡筒36の接触、非接触を変化させることができる。可動鏡筒36を駆動するときはロックリング202と可動鏡筒36を非接触状態にして後述するアクチュエータで可動鏡筒36を駆動可能な状態にする。一方、電源が切られるときなどは、ロックリング202と可動鏡筒36を接触状態にしてベース板31に対して可動鏡筒36の運動を拘束する。ロックリング202の動きはフォトインタラプタ215で検出可能な構成となっている。さらに、回転防止バー204はL字型をしており、適切な接触点を設けることで、光軸に垂直な平面内での並進運動は自由な状態で、回転運動を拘束するように配置されている。
図30(c)および図31を用いて、レンズ駆動装置3のアクチュエータについて説明する。図29(c)に示したように、ベース板31にはコイル固定ヨーク205,対向ヨーク210および磁石34a1,34a2が固定されており、可動鏡筒36にはコイル33aが固定されている。そして、いわゆるムービングコイル型のアクチュエータを構成している。
図31はアクチュエータの模式図であり、図31(a)は磁石34a1,34a2とコイル33aのみを光軸方向から見た図、図31(b)は磁石34a1,34a2を中心付近で切断した時の断面図を示している。図31(a)に示すように、二つの磁石34a1,34a2は反対方向に着磁されている。図31(b)において、42a,42b,42c,42dは、磁石34a1,34a1、コイル33a近傍の代表的な磁力線を模式的に表している。コイル33aは光軸方向から見たときに小判型をしており、二つの長手部分33a1,33a2が二つの磁石34a1,34a2と対向するように配置されている。
磁石34a1,34a2のコイル33aと反対側の面には、図31(b)に示したように、固定ヨーク205がある。固定ヨーク205は望ましくは軟磁性体であり、図31(b)のように、多くの磁束を透過させ磁気回路のパーミアンスを下げている。さらに、磁石34a1,34aに対するコイル33aの非対向面側には対向ヨーク210が存在しており、いわゆる閉磁路を形成している。その結果、磁石34aからコイル33aに向かって直線的に磁力線42a,42bが生じている。固定ヨーク205および対向ヨーク210はベース板31に固定されるので、重量を気にすることなく磁束が飽和しないように適切な厚みとすることができる。この状態でコイル33aに通電すると、図31(b)の紙面垂直方向で長手部分33a1と33a2に反対方向に電流が流れる。フレミング左手の法則によって駆動力が発生する。図30(b)で説明したように可動鏡筒36は光軸に垂直な平面を案内されているので、この平面内を移動する。後述のレンズ位置センサによって位置検出を行い、いわゆるフィードバック制御を行うことで任意の位置に移動可能となる。
図32はレンズ駆動装置3の平面図である。図32(a)は光軸方向から見た正面図、図32(b)は図32(a)のB−B断面図、図32(c)は図32(a)のC−C断面図、図32(d)は図32(c)の部分詳細図である。
図32(b)を用いて、レンズ位置センサについて説明する。レンズ位置センサは、図32(b)に示すように、可動鏡筒36に固定されたLED(赤外発光ダイオード)209aとFPC40を介してベース板31に固定された1次元PSD(半導体位置検出器)217aによって構成されている。ここでは説明を簡単にするために、1軸方向の検出を説明するが、もう1組LEDと1次元PSDを用いるか、2次元PSDを用いることで2軸方向の位置検出が可能となる。LED209aは中継FPC213を介して給電されており、像振れ補正を行うときに発光が開始される。1次元PSD217aはFPC40に実装されており、LED209aと同じく像振れ補正を行うときに給電される。ベース板31に対して可動鏡筒36が相対運動を行うと、1次元PSD217a上の光量分布が変化するので、可動鏡筒36の位置を検出することが可能である。この信号を基に実施例2と同様のフィードバック制御を行うことで、レンズの位置を目標の位置に制御し、像振れ補正を行うことができる。
図32(c)および図32(d)を用いて、減衰手段の取り付けについて説明する。図32(c),図32(d)において、218は減衰手段取り付け部、219は減衰手段である。図32(d)は図32(c)の減衰手段取り付け部を拡大した部分詳細図である。
図30(b)を用いて説明したように、摺動軸201aは可動鏡筒36上の長穴に嵌合している。本実施例3では、長穴の空隙部分に減衰手段219を充填する。図32(c)および図32(d)では、摺動軸201aの箇所のみを図示したが、図示しない摺動軸201b,201cについても同様に長穴の空隙部分に減衰手段219を充填する。実施例1,2と同様に適切な減衰を得ることができる。また、本実施例3では、減衰手段と駆動手段が略同一平面に存在している。つまり、減衰手段219の中心である摺動軸201aの中心と、駆動部の推力中心であるコイル33a,33bの中心が光軸に対して垂直な略同一平面上に存在している。このような配置とすることで、減衰手段219から受ける力によって、可動鏡筒36が不要なヨーイングやピッチング動作を行うことが無い。
以上に説明したように、本発明の実施例3によれば、
1)適切な減衰を付加できる
2)不要なヨーイングやピッチング動作を抑制できる
3)フィードバック駆動でも安定した制御性および位相遅れを抑制することができる
という効果を持たせたレンズ駆動装置3を得ることができる。
(実施例4)
図33ないし図37を用いて、本発明に係る実施例4について説明する。図1および図2に示した撮像装置の各部の機能などについては、実施例1で詳述したのでここでは割愛する。
図33ないし図37を用いて、本発明の実施例4に係る要部であるレンズ駆動装置3について説明する。
図33はレンズ駆動装置3の分解斜視図である。図33において、実施例1の像振れ補正装置と同じ機能を持つものに関しては同じ番号を付した。301a,301b,301c,301dは弾性ワイヤ、302a,302bは固定ヨーク、303a,303b,303c,303d,307a,307b,308a,308bはビスである。304は固定PCB、305は可動PCB、306a,306bは固定ピンである。
固定ヨーク302a,302bはビス303a,303b,303c,303dによってベース板31に固定されている。固定PCB304はビス307a,307bによってベース板31に、可動PCB305はビス308a,308によって可動鏡筒36にそれぞれ固定されている。磁石334a,334bは固定ヨーク302aに吸着し、磁石334c,334dは固定ヨーク302bに吸着することでベース板31に対して固定されている。
図34は、レンズ駆動装置3の平面図である。図34(a)は光軸方向から見た正面図、図34(b)は図34(a)のB−B断面図、図34(c)は図34(a)のC−C断面図である。
図33、図34(b)および図35を用いて、本実施例4に係るレンズ駆動装置3の主要な構成部分について説明する。可動鏡筒36は4本の弾性ワイヤ301a,301b,301c,301dを介してベース板31に弾性支持されている。弾性ワイヤ301a,301b,301c,301dは、固定PCB304と可動PCB305に半田付けによって固定されている。そして、弾性体として可動鏡筒36を支持すると共に、コイル33a,33bへの給電線も兼ねている。このような用途に適した材料として、リン青銅製のワイヤやベリリウム銅製のワイヤ等が知られている。4本のワイヤを光軸と略平行に同じ長さで設けることで、近似的に可動鏡筒36は平行リンク機構と同じ動きをする。
図35に、平行リンク機構の動きを模式的に示した。図35において、309a,309bは弾性ワイヤ301a,301b,301c,301dをモデル化したリンクである。弾性ワイヤ301a,301b,301c,301dは曲げによって変位を発生させるが、図35においては、曲げ変形による変位をリンクの回転で表現し、その他の変形は無いとしてリンク309は剛体として考えている。図35に示したように、平行リンク機構を形成することで、可動鏡筒36に傾きを発生させること無く光軸に垂直に案内できる。また、平行リンク機構においては光軸方向の移動が発生するが、例えば、可動範囲をxとしてワイヤの長さをlとすると、光軸方向の変動は以下の式となる。
l(1−cos(tan−1(x/l))) ・・・(14)
例えば、可動範囲を±0.3mmとして、ワイヤの長さを10mm程度に設定すると、光軸方向の変動は5μm以下となり、許容できる範囲である。つまり、ほぼ光軸に垂直な平面内を傾き無く案内できる。
図34(c)および図36を用いて、レンズ駆動装置3のアクチュエータについて説明する。図34(c)に示したように、ベース板31にはコイル固定ヨーク302および磁石334c,334dが固定されており、可動鏡筒36にはコイル33bが固定されている。そして、いわゆるムービングコイル型のアクチュエータを構成している。
図36はアクチュエータの模式図であり、図36(a)は磁石334c,334dとコイル33aのみを光軸方向から見た図、図36(b)は磁石334c,334dを中心付近で切断した時の断面図を示している。図36(a)において、43は着磁境界を示している。図36(b)において、42a,42b,42c,42dは、磁石334c,334d、コイル33a近傍の代表的な磁力線を模式的に表している。図36(a)に示したように、着磁境界43を挟んで磁石334dは二つの領域334d1,334d2に分けて着磁されている。磁石334cも同様である。コイル33aは光軸方向から見たときに小判型をしており、二つの長手部分33a1,33a2が例えば磁石334dの二つの領域334d1,334d2と対向するように配置されている。
磁石334cのコイル33aとの反対側の面には、図36(b)に示したように、固定ヨーク302bがある。固定ヨーク302bは望ましくは軟磁性体であり、多くの磁束を透過させ磁気回路のパーミアンスを下げている。さらに、磁石334dのコイル33aとの反対側の面にも、固定ヨーク302bがある。磁石334cと磁石334dは互いに吸着するように配置されている。その結果、磁石334aからコイル33aに向かって直線的に磁力線42a,42bが生じている。固定ヨーク302bは本実施例4では、ベース板31に固定されるので、厚みを増しても可動部の重量は変化しない。そこで、固定ヨーク302bの厚みは、飽和磁束密度および磁石の形状、表面磁束密度などを考慮して、固定ヨーク302bが飽和しないように適切に定めることができる。この状態でコイル33aに通電すると、図36(b)の紙面垂直方向で長手部分33a1と33a2に反対方向に電流が流れ、フレミング左手の法則によって駆動力が発生する。図34で説明したように可動鏡筒36は弾性支持されているので、弾性ワイヤ301a,301b,301c,301dの合力と前記駆動力がつりあう位置までベース板31と可動鏡筒36の間に相対運動が生じる。上記の弾性ワイヤ301a,301b,301c,301dの合力と駆動力を発生させるための電流の関係は比例関係となるので、本実施例4に示した機構はいわゆるオープン制御で制御可能である。
図37を用いて、減衰手段の取り付けについて説明する。図37(a)は光軸方向から見た正面図、図37(b)は図37(a)のB−B断面図、図37(c)は図37(b)の詳細図である。図37において、310a,310bは減衰手段取り付け部、311は減衰手段である。
図37(b)に示すように、固定ピン306a,306bはベース板31と螺旋締結された後、可動鏡筒36に設けられた穴に向けて、少なくとも可動鏡筒36と光軸方向にオーバーラップするように延在している。
図37(c)は、減衰手段取り付け部310aの詳細図である。可動鏡筒36に設けられた円筒形の穴に対して、ベース板31に固定されたと円柱状の固定ピン306aがほぼ同心円状になるように配置され、その隙間にドーナツ状に減衰手段311が設けられている。減衰手段311としては、実施例1に例示した粘弾性体などが好適である。このように減衰手段311を介在させることで、実施例1と同様の効果を得ることができる。なお本実施例4では、組み付けを容易にするために、固定ピン306a,306bを用いたが、形状を変更することで、固定ピン306a,306bをベース板31上の構造物として製作することも可能である。
また、本実施例4では、減衰手段311と駆動部が略同一平面に存在している。つまり、減衰手段311の中心と、駆動部の推力中心であるコイル33a,33bの中心が光軸に対して垂直な略同一平面上に存在している。このような配置とすることで、減衰手段311から受ける力によって、可動鏡筒36が不要なヨーイングやピッチング動作を行うことが無い。
図38は、代表的な手振れ速度を周波数領域で示した。縦軸は手振れ補正のために機構に求められる速度であり、手振れの角速度に対応している。縦軸は対数で記載されている。縦軸1目盛りで10倍を意味している。図17で示したように、手振れ振幅は高い周波数に行くにつれて減少していることがわかる。そのため、手振れによる速度は、図38のように、周波数が変化しても同程度の速度が入力されている。撮像装置をユーザーが操作して構図を決めているときには、手振れの速度としては余り大きな速度が入力されることは無い。
そこで、図38のように、本実施例4の機構は、制御速度を0.02m/sに規制している。本実施例4のようなムービングコイル型のアクチュエータでは制御速度を制限できることによるメリットは小さいが、例えば駆動源としてステッピングモータを用いる場合などは、脱調の可能性が低くなるというメリットが有る。
以上に説明したように、本発明の実施例4によれば、
1)適切な減衰を付加できる
2)不要なヨーイングやピッチング動作を抑制できる
3)オープン駆動でも適切な制御性能を得ることができる
という効果を持たせたレンズ駆動装置3を得ることができる。
以下に、上記の各実施例における効果についてまとめて列挙する。
1)レンズ駆動装置3を、被写体像を形成する撮像レンズ2を保持する地板31等の固定鏡筒と、撮像レンズ2に含まれる補正レンズ12を光軸に略垂直な平面内で移動可能に保持する可動鏡筒36と、可動鏡筒36の固定鏡筒に対する相対的な位置を周波数領域で見たときに100Hz以下の帯域で変化させるアクチュエータ(実施例1〜3)、もしくは、可動鏡筒36の固定鏡筒に対する相対的な位置を0.02m/s以下の速度で変化させるアクチュエータ(実施例4)と、可動鏡筒36と固定鏡筒の間に減衰手段45,104,219,311を介在させた構成にしている。
上記の構成によれば、簡易な構造で、摩擦が小さく、適切な粘性抵抗を持った、手振れ等による像振れ補正に適した周波数特性を持ったレンズ駆動装置3とすることができる。
2)上記レンズ駆動装置3は、さらに、可動鏡筒36と固定鏡筒によって狭持された複数の球32a〜32cと、可動鏡筒36を固定鏡筒の方向に付勢する弾性体35a〜35cを備えている。あるいは/さらに、撮像レンズ2の光軸に対して略平行に延在し、可動鏡筒36と固定鏡筒に固定された複数の弾性ワイヤ301を備えている。
上記の構成によれば、さらに、摩擦が小さく、小さな振れにも対応可能なレンズ駆動装置3とすることができる。
3)上記レンズ駆動装置3は、上記減衰手段とアクチュエータを光軸に略垂直な略同一平面に配置している。そして、減衰手段を光軸に対して線対称または点対称に複数設けている。また、減衰手段を光軸に垂直な平面に投影したとき、略円形にしている。また、減衰手段を、可動鏡筒36上に設けられた円筒状の穴と固定鏡筒上に設けられた円筒状の穴または円筒状の軸との間に具備している。なお、可動鏡筒36上に設けられた円筒状の穴を貫通しない穴としている。
上記の構成によれば、不要共振の影響を低減したレンズ駆動装置3とすることができる。
4)図6に示すように、可動鏡筒36のオーバーランを防止するための該可動鏡筒36と固定鏡筒の当接部の間隔をaとし、減衰手段が設けられた個所の可動鏡筒36と固定鏡筒の間隔をbとするとき、a<bを満たすようにしている。詳しくは、可動鏡筒36のオーバーランを防止するための該可動鏡筒36と固定鏡筒の当接部の間隔をaとし、上記減衰手段が設けられた個所の可動鏡筒と固定鏡筒の間隔をbとするとき、a<0.5bを満たすようにしている。あるいは、上記減衰手段が設けられた個所の可動鏡筒36と固定鏡筒の間隔をbとし、制御状態における可動鏡筒36の移動量をcとするとき、b>cを満たすようにしている。詳しくは、上記減衰手段が設けられた個所の可動鏡筒36と固定鏡筒の間隔をbとし、制御状態における可動鏡筒の移動量をcとするとき、0.5b>cを満たすようにしている。
上記の構成によれば、粘性抵抗を得る減衰手段の塑性変形を防ぐことが可能なレンズ駆動装置3とすることができる。
5)上記減衰手段の一部または全部が紫外線透過可能な部材を介して可動鏡筒36または固定鏡筒と当接するようにしている。
上記の構成によれば、作業性の向上を図ることが可能なレンズ駆動装置3とすることができる。
6)上記減衰手段は、シリコーンを主成分とするゲル、あるいは、エラストマー、あるいは、ブチルゴムから構成している。
上記の構成によれば、適切な材質より成る減衰手段を具備するレンズ駆動装置3とすることができる。
7)レンズ駆動装置3が具備するアクチュエータをオープン制御の構成にしている。
上記の構成によれば、簡易な構成で像振れ補正に適した周波数特性を持ったレンズ駆動装置3とすることができる。
以上から明らかなように、上記何れかの構成のレンズ駆動装置3とした場合、良好な像振れ補正性能、および、良好な耐外乱性能を具備した像振れ補正装置および撮像装置1とすることが可能となる。