<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態である信号同期装置1の構成を示すブロック図である。本実施の形態の信号同期装置1は、既知信号系列が1回または2回以上連続して繰返し挿入されている信号を含む受信信号から既知信号系列を検出し、受信信号の同期位置を検出する。信号同期装置1は、入力端子10、信号判定部11、合致検出部12、所定信号発生部13、信号保持部14、信号選択部18および出力端子19を備えて構成される。信号保持部14は、時間更新部15、計数値更新部16および保持値更新部17を備える。
信号判定部11は、入力端子10から入力される原信号A(t)を硬判定し、その硬判定した信号を受信信号I(t)として出力して、合致検出部12に与える。また信号判定部11は、原信号A(t)の振幅と受信信号I(t)の振幅との差分の絶対値を所定の閾値で正規化した値を所定の回数で平均化した値を求め、これを判定誤差信号J(t)として出力して、信号保持部14の保持値更新部17に与える。このようにして信号判定部11によって受信信号I(t)および判定誤差信号J(t)を出力する動作は、信号判定ステップに相当する。
図2は、信号判定部11の構成を示すブロック図である。信号判定部11は、閾値発生部21、閾値判定部22、正規化部23、平均化部24および出力調整部25を備えて構成される。閾値判定部22および出力調整部25は、受信信号出力手段に相当し、正規化部23および平均化部24は、誤差信号出力手段に相当する。入力端子10から信号判定部11に入力される原信号A(t)は、閾値判定部22へ与えられる。閾値発生部21は、所定の閾値(以下「信号閾値」という場合がある)を発生させ、出力する。閾値発生部21から出力された信号閾値は、閾値判定部22および正規化部23に与えられる。
閾値判定部22は、原信号A(t)が信号閾値を超える場合、予め定める第1状態値を原受信信号I’(t)として出力し、原信号A(t)が信号閾値以下である場合、予め定める第2状態値を原受信信号I’(t)として出力する。閾値判定部22から出力された原受信信号I’(t)は、出力調整部25に与えられる。また閾値判定部22は、原信号A(t)が信号閾値を超える場合、原信号A(t)と第1状態値との差分の絶対値を原判定誤差信号J’(t)として出力し、原信号A(t)が信号閾値以下である場合、原信号A(t)と第2状態値との差分の絶対値を原判定誤差信号J’(t)として出力する。閾値判定部22から出力された原判定誤差信号J’(t)は、正規化部23に与えられる。
正規化部23は、閾値判定部22から与えられる原判定誤差信号J’(t)を、閾値発生部21から与えられる信号閾値で除算した値を正規化誤差信号として出力し、平均化部24に与える。平均化部24は、正規化部23から与えられる正規化誤差信号の値を所定の回数だけ加算した値を判定誤差信号J(t)として出力する。正規化部23から与えられる正規化誤差信号の値を所定の回数だけ加算することは、正規化誤差信号の値を平均化することに相当する。平均化部24は、正規化誤差信号が前記所定の回数出力される時間に相当する時間区間において、正規化部23から出力された正規化誤差信号の値を平均した値を、判定誤差信号J(t)として出力してもよい。
出力調整部25は、閾値判定部22から出力された原受信信号I’(t)を所定時間だけ遅延させた信号を受信信号I(t)として出力する。ここでの所定時間は、平均化部24で平均化を行うときに要する時間と等しい時間であることが望ましい。
以上のように構成されることによって、信号判定部11は、原信号A(t)を2値に変換して受信信号I(t)として出力するとともに、変換のときの信頼度を表す指標として判定誤差信号J(t)を出力することが可能となる。
たとえば、第1状態値が1であり、第2状態値が0であり、信号閾値が0.5であり、平均化部24における平均化の回数が1回である場合に、時刻t=1における原信号A(t)の値が0.9(A(1)=0.9)であれば、受信信号I(t)の値は1となり、判定誤差信号J(t)の値は、0.1/0.5=0.2となる。
また、たとえば第1状態値が1であり、第2状態値が0であり、信号閾値が0.5であり、平均化部24における平均化の回数が1回である場合に、時刻t=1における原信号A(t)の値が0.4(A(1)=0.4)であれば、受信信号I(t)の値は0となり、判定誤差信号J(t)の値は、0.4/0.5=0.8となる。
前述のように時刻t=1における原信号A(t)の値が0.9(A(1)=0.9)であるときに、この原信号A(t)の値を1とみなして、受信信号I(t)として出力する場合と、時刻t=1における原信号A(t)の値が0.4(A(1)=0.4)であるときに、この原信号A(t)の値を0とみなして、受信信号I(t)として出力する場合とでは、前者の方が後者よりも信頼性が高いことは明らかである。また前者の場合の判定誤差信号J(t)の値は0.2であり、後者の場合の判定誤差信号J(t)の値は0.8である。したがって、判定誤差信号J(t)の値は、受信信号I(t)の信頼性の大小の尺度として利用することができ、判定誤差信号J(t)の値が小さければ小さいほど、受信信号I(t)の信頼度が高いこととなる。
図1に戻って、合致検出部12は、信号判定部11から与えられ、既知信号系列の時間長と等しい時間区間内に得られる受信信号I(t)で構成される受信信号系列と所定の既知信号系列とを比較し、その比較結果を判定して、前記受信信号系列と既知信号系列との一致度合を表す合致信号E(t)を出力する。合致検出部12から出力される合致信号E(t)は、信号保持部14、具体的には信号保持部14の計数値更新部16および保持値更新部17に与えられる。このようにして合致検出部12によって合致信号E(t)を出力する動作は、合致検出ステップに相当する。
図3は、合致検出部12の構成を示すブロック図である。合致検出部12は、変換部31、系列発生部32、比較部33および判定器34を備えて構成される。合致検出部12では、信号判定部11から与えられる受信信号I(t)は、変換部31に与えられる。
変換部31は、前述の既知信号系列の時間長と等しい時間区間内に得られた受信信号I(t)の系列(以下「受信信号系列」という)を同時に処理するための信号変換を行う。具体的には、変換部31は、前述の既知信号系列の時間長と等しい時間区間内に得られたX(Xは正の整数)ビットの受信信号系列R1(t)〜RX(t)を同時に出力する。すなわち変換部31は、前述の既知信号系列の時間長と等しい時間区間内で得られた受信信号を同時に処理可能に変換し、得られた変換信号で構成される変換信号系列として、受信信号系列R1(t)〜RX(t)を出力する。以下、Xビットの受信信号系列R1(t)〜RX(t)を総称して「F1(t)」と記載する場合がある。変換部31から出力される受信信号系列F1(t)は、比較部33に与えられる。
系列発生部32は、原信号A(t)に含まれる既知信号系列を予め保持し、出力する。このようにして系列発生部32によって既知信号系列を予め保持する動作は、既知信号保持ステップに相当する。
系列発生部32は、具体的には、変換部31で変換された受信信号系列F1(t)の各受信信号R1(t)〜RX(t)に対応する所定の既知信号系列を同時に発生し、出力する。たとえば、前述のように変換部31からXビットの受信信号系列R1(t)〜RX(t)が出力される場合、系列発生部32は、Xビットの既知信号系列B1(t)〜BX(t)を同時に出力する。以下、Xビットの既知信号系列B1(t)〜BX(t)を総称して「F2(t)」と記載する場合がある。系列発生部32から出力される既知信号系列F2(t)は、比較部33に与えられる。
比較部33は、変換部31から与えられる受信信号系列F1(t)と、系列発生部32から与えられる既知信号系列F2(t)とを1ビット単位で比較し、比較結果に基づいて、信号の値が異なっているビットの数(以下「異ビット数」という場合がある)を出力する。比較部33から出力される異ビット数は、判定器34に与えられる。
図4は、比較部33の構成を示すブロック図である。比較部33は、複数の演算部41と、加工部42とを備えて構成される。比較部33では、変換部31から与えられる受信信号系列RW(t)(1≦W≦X)である信号F1(t)と、系列発生部32から与えられる既知信号系列BW(t)(1≦W≦X)である信号F2(t)との排他的論理和(XOR)を演算部41において演算する。演算部41は、変換部31から与えられる受信信号系列F1(t)のビット数X以上の個数が備えられる。そして、各演算部41における演算結果、すなわち複数の演算部41によって得られたX種類の演算結果が加工部42に与えられる。加工部42は、演算部41から与えられる演算結果を加算した値を異ビット数として出力する。加工部42から出力される異ビット数は、比較部33から出力され、判定器34に与えられる。
図5は、判定器34の構成を示すブロック図である。判定器34は、減算器51および所定値記憶部52を備えて構成される。比較部33から判定器34に与えられる異ビット数は、減算器51に与えられる。所定値記憶部52は、判定に用いる基準値として、所定値(以下「判定基準値」という場合がある)を記憶する。減算器51は、所定値記憶部52に記憶されている判定基準値から、比較部33からの出力値である異ビット数を減算した値を合致信号E(t)として出力する。このとき、所定値である判定基準値は、変換部31から出力される受信信号系列F1(t)のビット数X以上の値に設定されることが望ましい。判定器34から出力される合致信号E(t)は、合致検出部12から出力され、信号保持部14に与えられる。
次に、所定期間内に得られた受信信号系列F1(t)のビット数Xを7とし、判定器34の所定値記憶部52に記憶される所定値である判定基準値を8としたときの合致検出部12の具体的な動作について説明する。図6は、受信信号系列F1(t)のビット数Xを7とし、判定器34における所定値を8としたときの合致検出部12の具体的な構成を示すブロック図である。
たとえば、変換部31から出力される受信信号系列F1(t)の信号がF1(t)={1、0、1、1、0、1、0}であり、系列発生部32から出力される既知信号系列F2(t)の信号がF2(t)={1、1、1、0、0、1、0}である場合を考える。この場合、比較部33では、変換部31から出力される受信信号系列F1(t)の各信号値と系列発生部32から出力される既知信号系列F2(t)の各信号値とを比較し、先頭から2ビット目および4ビット目で、受信信号系列F1(t)の新信号値と既知信号系列F2(t)の信号値とが異なっていると判断し、異なっているビットの数、すなわち「2」を異ビット数として出力する。判定器34では、所定値記憶部52に記憶されている所定値である判定基準値「8」から、比較部33の出力結果である異ビット数の値「2」を減算して、減算結果である「6」を合致信号E(t)として出力する。
同様に考えると、たとえば比較部33の出力結果が「3」であれば、所定値記憶部52に記憶されている所定値「8」から、比較部33の出力結果である「3」が減算されて、E(t)=5となる。また、比較部33の出力結果が「6」であれば、所定値記憶部52に記憶されている所定値「8」から、比較部33の出力結果である「6」が減算されて、E(t)=2となる。
このように、合致信号E(t)の値は、変換部31の出力結果である受信信号系列F1(t)と、系列発生部32の出力結果である既知信号系列F2(t)との一致度合が高いほど大きくなり、前記一致度合が低いほど小さくなる。したがって、合致信号E(t)は、変換部31の出力結果である受信信号系列F1(t)と、系列発生部32の出力結果である既知信号系列F2(t)との一致度合を表す指標として用いることができる。
図1に戻って、所定信号発生部13は、信号保持部14および信号選択部18の動作を制御するために必要となる有効状態および無効状態の状態管理を行うための所定の信号(以下「状態信号」という場合がある)を発生し、出力する。具体的には、所定信号発生部13は、有効状態であることを示す有効信号と、無効状態であることを示す無効信号とを交互に発生し、発生した信号すなわち有効信号または無効信号を状態信号C(t)として出力する。さらに述べると、所定信号発生部13は、有効信号または無効信号を、前述の既知信号系列が挿入される周期である所定の時間区間を規定する状態信号C(t)として出力する。所定信号発生部13から出力される状態信号C(t)は、信号保持部14および信号選択部18に与えられる。このようにして所定信号発生部13によって状態信号C(t)を出力する動作は、所定信号発生ステップに相当する。
信号保持部14は、信号判定部11から与えられる判定誤差信号J(t)と、合致検出部12から与えられる合致信号E(t)と、所定信号発生部13から与えられる状態信号C(t)とに基づいて、前述の既知信号系列が挿入される周期である所定の時間区間内で合致信号が最大となるときの時刻を表す保持信号P(t)を出力する。このようにして信号保持部14によって保持信号P(t)を出力する動作は、信号保持ステップに相当する。
信号保持部14は、前述のように時間更新部15、計数値更新部16および保持値更新部17を備える。所定信号発生部13から信号保持部14に与えられる状態信号C(t)は、時間更新部15、計数値更新部16および保持値更新部17にそれぞれ与えられる。また合致検出部12から信号保持部14に与えられる合致信号E(t)は、計数値更新部16および保持値更新部17にそれぞれ与えられる。
時間更新部15は、所定信号発生部13から与えられる状態信号C(t)に応じて、有効状態になった時点からの経過時間である有効経過時間を表す信号を出力する。時間更新部15は、出力した有効経過時間を表す信号を保持値更新部17に与える。具体的に述べると、時間更新部15は、無効状態から有効状態に変化したとき、すなわち所定信号発生部13から与えられる状態信号C(t)が無効信号から有効信号に変化したときに有効経過時間を初期化し、状態信号C(t)が有効信号から無効信号に変化する時点を基点として、その時点からの経過時間を計測し、当該計測値を有効経過時間として、有効経過時間を表す信号を出力する。このとき、有効経過時間の初期化値は「1」であることが望ましい。
計数値更新部16は、前述の既知信号系列が挿入される周期である所定の時間区間内に出力された合致信号E(t)の最大値を計数値として保持する。計数値更新部16は、合致検出部12から与えられる合致信号E(t)と、所定信号発生部13から与えられる状態信号C(t)と、先に出力されてフィードバックされた計数値とに基づいて、前記計数値を維持または更新して出力する。計数値更新部16は、出力した計数値を自身にフィードバックするとともに、保持値更新部17に与える。
具体的に述べると、計数値更新部16は、無効状態から有効状態に変化したとき、すなわち所定信号発生部13から与えられる状態信号C(t)が無効信号から有効信号に変化したとき、次時刻の計数値を合致信号E(t)の値とし、無効状態であるとき、すなわち状態信号C(t)が無効信号であるとき、以下の(A1)および(A2)に示す動作を行う。
(A1)現時刻において入力された合致信号E(t)が現時刻における計数値よりも大きい場合、次時刻における計数値を合致信号E(t)の値とする。
(A2)現時刻において入力された合致信号E(t)が現時刻における計数値以下の場合、次時刻における計数値を現時刻の計数値とする。
現時刻と次時刻との間隔は、信号保持部14が動作する動作周波数の逆数を整数倍した間隔であることが望ましい。
保持値更新部17は、前述の既知信号系列が挿入される周期である所定の時間区間内で合致信号E(t)が最大となるときの時刻を保持値として保持する。保持値更新部17は、所定信号発生部13から与えられる状態信号C(t)が有効信号である場合、保持値を出力してから保持値を更新し、前記状態信号C(t)が無効信号である場合、信号判定部11から与えられる判定誤差信号J(t)と、合致検出部12から与えられる合致信号E(t)と、計数値更新部16から与えられる計数値とに基づいて、保持値を維持または更新する。
具体的に述べると、保持値更新部17は、無効状態から有効状態に変化したとき、すなわち状態信号C(t)が無効信号から有効信号に変化したとき、保持値を保持信号P(t)として出力してから、次時刻における保持値を次時刻における有効経過時間の値とし、次時刻における誤差保持値を次時刻における判定誤差信号J(t)の値とする。また保持値更新部17は、状態信号C(t)が無効信号であるとき、以下の(B1)〜(B3)に示す動作を行う。
(B1)現時刻において入力された合致信号E(t)が現時刻における計数値よりも大きい場合、次時刻における保持値を次時刻における有効経過時間の値とし、次時刻における誤差保持値を次時刻における判定誤差信号J(t)の値とする。
(B2)現時刻において入力された合致信号E(t)が現時刻における計数値と等しい場合、
(B21)現時刻における誤差保持値が現時刻における判定誤差信号J(t)の値より大きければ、次時刻における保持値を次時刻における有効経過時間の値とし、次時刻における誤差保持値を次時刻における判定誤差信号J(t)の値とし、
(B22)現時刻における誤差保持値が現時刻における判定誤差信号J(t)以下であれば、次時刻における保持値を現時刻の保持値とする。
(B3)現時刻において入力された合致信号E(t)が現時刻における計数値よりも小さい場合、次時刻における保持値を現時刻の保持値とする。
現時刻と次時刻との間隔は、信号保持部14が動作する動作周波数の逆数を整数倍した間隔であることが望ましい。
図7は、計数値更新部16の動作手順を示すフローチャートである。図8は、時間更新部15の動作手順を示すフローチャートである。図9は、保持値更新部17の動作手順を示すフローチャートである。図10は、合致信号E(t)、状態信号C(t)、判定誤差信号J(t)および信号保持部14の内部信号、ならびにこれらの各信号の時間関係の一例を示す図である。本実施の形態では、現時刻をt、次時刻をt+1、現時刻における有効経過時間をINT(t)、現時刻における保持値をKEP(t)、現時刻における計数値をCNT(t)、および現時刻における誤差保持値をEAV(t)という。
図7に示すフローチャートにおける各ステップの処理は、計数値更新部16によって処理される。図7に示すフローチャートの処理は、合致検出部12から合致信号E(t)が与えられ、かつ所定信号発生部13から状態信号C(t)が与えられると開始され、ステップa1に移行する。
ステップa1では、計数値更新部16は、現時刻における状態信号C(t)が無効信号であるか否かを判断し、無効信号であると判断するとステップa2に移行し、無効信号ではない、換言すれば有効信号であると判断するとステップa3に移行する。
ステップa2では、計数値更新部16は、現時刻における合致信号E(t)が現時刻における計数値CNT(t)未満(E(t)<CNT(t))であるか否かを判断し、合致信号E(t)が計数値CNT(t)未満であると判断すると全ての処理手順を終了し、E合致信号(t)が計数値CNT(t)以上(E(t)≧CNT(t))であると判断するとステップa3に移行する。
ステップa3では、計数値更新部16は、現時刻における合致信号E(t)を次時刻における計数値CNT(t+1)とし、その後、全ての処理手順を終了する。
図8に示すフローチャートにおける各ステップの処理は、時間更新部15によって処理される。図8に示すフローチャートの処理は、所定信号発生部13から状態信号C(t)が与えられると開始され、ステップb1に移行する。
ステップb1では、時間更新部15は、現時刻における状態信号C(t)が無効信号であるか否かを判断し、無効信号であると判断するとステップb2に移行し、無効信号ではない、換言すれば有効信号であると判断するとステップb3に移行する。
ステップb2では、時間更新部15は、次時刻における有効経過時間INT(t+1)を更新し、すなわち状態信号C(t)が有効信号から無効信号に変化した時点からの経過時間を継続して計測し、その計測値を次時刻における有効経過時間INT(t+1)とし、その後、全ての処理手順を終了する。ステップb3では、時間更新部15は、次時刻における有効経過時間INT(t+1)を「1」とし、全ての処理手順を終了する。
図9に示すフローチャートにおける各ステップの処理は、保持値更新部17によって処理される。図9に示すフローチャートの処理は、信号判定部11から判定誤差信号J(t)が与えられ、合致検出部12から合致信号E(t)が与えられ、所定信号発生部13から状態信号C(t)が与えられ、時間更新部15から有効経過時間INT(t)が与えられ、かつ計数値更新部16から計数値CNT(t)が与えられると開始され、ステップc1に移行する。
ステップc1では、保持値更新部17は、状態信号C(t)が無効信号であるか否かを判断し、無効信号であると判断するとステップc2に移行し、無効信号ではない、換言すれば有効信号であると判断するとステップc4に移行する。
ステップc2では、保持値更新部17は、現時刻における合致信号E(t)と現時刻における計数値CNT(t)とが一致(E(t)=CNT(t))するか否かを判断し、合致信号E(t)と計数値CNT(t)とが一致すると判断するとステップc3に移行し、合致信号E(t)と計数値CNT(t)とが一致しないと判断するとステップc5に移行する。
ステップc3では、保持値更新部17は、現時刻における判定誤差信号J(t)が現時刻における誤差保持値EAV(t)未満(J(t)<EAV(t))であるか否かを判断し、判定誤差信号J(t)が誤差保持値EAV(t)未満であると判断するとステップc6に移行し、判定誤差信号J(t)が誤差保持値EAV(t)以上(J(t)≧EAV(t))であると判断するとステップc8に移行する。
ステップc4では、保持値更新部17は、現時刻における保持値KEP(t)を出力し、ステップc6に移行する。ステップc5では、保持値更新部17は、現時刻における合致信号E(t)が現時刻における計数値CNT(t)よりも大きい(E(t)>CNT(t))か否かを判断し、合致信号E(t)が計数値CNT(t)よりも大きいと判断するとステップc6に移行し、合致信号E(t)が計数値CNT(t)よりも大きくない、換言すれば合致信号E(t)が計数値CNT(t)以下(E(t)≦CNT(t))であると判断するとステップc7に移行する。
ステップc6では、保持値更新部17は、現時刻における有効経過時間INT(t)を、次時刻における保持値KEP(t+1)とし、ステップc7に移行する。ステップc7では、現時刻における判定誤差信号J(t)を、次時刻における誤差保持値EAV(t+1)とし、ステップc8に移行する。ステップc8では、保持値更新部17は、時刻tを次時刻t+1に更新し、その後、全ての処理手順を終了する。
たとえば図10に示すような時間関係で合致信号E(t)、状態信号C(t)および判定誤差信号J(t)が信号保持部14に与えられる場合、信号保持部14では、以下のように信号が変化する。
まず時刻t=3では、信号保持部14の信号は、以下の(a)〜(f)のように変化する。ここでは、時刻t=3における信号保持部14の動作とともに説明する。
(a)状態信号C(t)は無効信号であり、無効状態であるので、時間更新部15は、図8のステップb1からステップb2に移行し、次時刻であるt=4での有効経過時間INT(t+1)を「4」に更新して、処理手順を終了する。また計数値更新部16は、図7のステップa1からステップa2に移行し、保持値更新部17は、図9のステップc1からステップc2に移行する。
(b)合致信号E(t)=2、計数値CNT(t)=1であるので、E(3)>CNT(3)となり、計数値更新部16は、図7のステップa2からステップa3に移行し、保持値更新部17は、図9のステップc2からステップc5、ステップc6に移行する。
(c)図9のステップc6において、保持値更新部17は、次時刻であるt=4での保持値KEP(t+1)を、現時刻であるt=3での有効経過時間INT(t)の値「3」とし、ステップc7に移行する。
(d)図7のステップa3において、計数値更新部16は、次時刻であるt=4での計数値CNT(t+1)を、現時刻であるt=3での合致信号E(t)の値「2」とし、処理手順を終了する。
(e)図9のステップc7において、保持値更新部17は、次時刻であるt=4での誤差保持値EAV(t+1)を、現時刻であるt=3での判定誤差信号J(t)の値「0.5」とし、ステップc8に移行する。
(f)図9のステップc8において、保持値更新部17は、時刻をt=3からt=4に更新して、処理手順を終了する。
次に、時刻t=4における信号保持部14の信号の変化について説明する。
(a)状態信号C(t)は無効信号であり、無効状態であるので、図8のステップb2において、時間更新部15によって、t=5での有効経過時間INT(t)が「5」となる。
(b)合致信号E(t)=3、計数値CNT(t)=2であるので、E(4)>CNT(4)となり、計数値更新部16は、図7のステップa2からステップa3に移行し、保持値更新部17は、図9のステップc2からステップc5、ステップc6に移行する。
(c)図9のステップc6において、保持値更新部17によって、t=5での保持値KEP(t)が、t=4での有効経過時間INT(t)である「4」となる。
(d)図9のステップc7において、保持値更新部17によって、t=5での誤差保持値EAV(t)が、t=4での判定誤差信号J(t)の値である「1.2」となる。
(e)図7のステップa3において、計数値更新部16によって、t=5での計数値CNT(t)が、t=4での合致信号E(t)の値である「3」となる。
(f)図9のステップc8において、保持値更新部17が、時刻をt=4からt=5に更新する。
次に、時刻t=5における信号保持部14の信号の変化について説明する。
(a)状態信号C(t)は無効信号であり、無効状態であるので、t=6での有効経過時間INT(t)が「6」となる。
(b)合致信号E(t)=3、計数値CNT(t)=3であるので、E(5)=CNT(5)となる。したがって計数値更新部16は、図7のステップa2からステップa3に移行し、保持値更新部17は、図9のステップc2からステップc3に移行する。
(c)判定誤差信号J(t)=1.5、誤差保持値EAV(t)=1.2であるので、J(5)>EAV(5)となる。したがって保持値更新部17は、図9のステップc3からステップc8に移行する。
(d)図9のステップc6には移行しないので、t=6での保持値KEP(t+1)は「4」に維持される。
(e)図7のステップa3において、t=6での計数値CNT(t)は、t=5での合致信号E(t)の値である「3」となる。
(f)図9のステップc7には移行しないので、t=6での誤差保持値EAV(t+1)は「1.2」に維持される。
(g)図9のステップc8において、時刻をt=5からt=6に更新する。
次に、時刻t=6における信号保持部14の信号の変化について説明する。
(a)状態信号C(t)は無効信号であり、無効状態であるので、図8のステップb2において、t=7での有効経過時間INT(t)が「7」となる。
(b)E(t)=5、計数値CNT(t)=3であるので、E(6)>CNT(6)となり、計数値更新部16は、図7のステップa2からステップa3に移行し、保持値更新部17は、図9のステップc2からステップc6に移行する。
(c)図9のステップc6において、t=7での保持値KEP(t)が、t=6での有効経過時間INT(t)である「6」となる。
(d)図7のステップa3において、t=7での計数値CNT(t)が、t=6での合致信号E(t)の値である「5」となる。
(e)図9のステップc7において、t=7での誤差保持値EAV(t)が、t=6での判定誤差信号J(t)の値である「1.7」となる。
(f)図9のステップc8において、時刻をt=6からt=7に更新する。
次に、時刻t=7における信号保持部14の信号の変化について説明する。
(a)状態信号C(t)は無効状態であるので、図7のステップb2において、t=8での有効経過時間INT(t)が「8」となる。
(b)合致信号E(t)=1、計数値CNT(t)=5であるので、E(7)<CNT(7)となり、計数値更新部16は、図7のステップa2の後、処理手順を終了し、保持値更新部17は、図9のステップc2からステップc5、ステップc8に移行する。
(c)図9のステップc6には移行しないので、t=8での保持値KEP(t+1)は「6」に維持される。
(d)図7のステップa3には移行しないので、t=8での計数値CNT(t+1)は「5」に維持される。
(e)図9のステップc7には移行しないので、t=8での誤差保持値EAV(t+1)は「1.7」に維持される。
(f)図9のステップc8において、時刻をt=7からt=8に更新する。
次に、時刻t=8における信号保持部14の信号の変化について説明する。
(a)状態信号C(t)は無効状態であるので、t=9での有効経過時間INT(t)が「9」となる。
(b)合致信号E(t)=5、計数値CNT(t)=5であるので、E(8)=CNT(8)となり、図7のステップa2からステップa3に移行し、図9のステップc2からステップc3に移行する。
(c)判定誤差信号J(t)=0.3、誤差保持値EAV(t)=1.7であるので、J(8)<EAV(8)となり、図9のステップc3からステップc6に移行する。
(d)図9のステップc6において、t=9での保持値KEP(t)が、t=8での有効経過時間INT(t)である「8」となる。
(e)図7のステップa3において、t=9での計数値CNT(t)が、t=8での合致信号E(t)の値である「5」となる。
(f)図9のステップc7において、t=9での誤差保持値EAV(t)が、t=8での判定誤差信号J(t)の値である「0.3」となる。
(g)図9のステップc8において、時刻をt=8からt=9に更新する。
次に、時刻t=9における信号保持部14の信号の変化について説明する。
(a)状態信号C(t)は無効状態であるので、t=10での有効経過時間INT(t)が「10」となる。
(b)合致信号E(t)=4、計数値CNT(t)=5であるので、E(9)<CNT(9)となり、計数値更新部16は、図7のステップa2の後、処理手順を終了し、保持値更新部17は、図9のステップc2からステップc5、ステップc8に移行する。
(c)図9のステップc6には移行しないので、t=10での保持値KEP(t+1)は「8」に維持される。
(d)図7のステップa3には移行しないので、t=10での計数値CNT(t+1)は「5」に維持される。
(e)図9のステップc7には移行しないので、t=10での誤差保持値EAV(t+1)は「0.3」に維持される。
(f)図9のステップc8において、時刻をt=9からt=10に更新する。
次に、t=10における信号保持部14の信号の変化について説明する。
(a)状態信号C(t)は有効信号であり、有効状態であるので、図8のステップb3において、t=11での有効経過時間INT(t)が「1」となる。
(b)図9のステップc4において、保持値更新部17は、t=10での保持値KEP(t)である「8」を保持信号P(t)として出力する。
(c)図9のステップc6において、t=11での保持値KEP(t)が、t=10での有効経過時間INT(t)である「1」となる。
(d)図7のステップa3において、t=11での計数値CNT(t)が、t=10での合致信号E(t)の値である「2」となる。
(e)図9のステップc7において、t=11での誤差保持値EAV(t)が、t=10での判定誤差信号J(t)の値である「0.9」となる。
(f)図9のステップc8において、時刻をt=10からt=11に更新する。
以下同様にして、信号保持部14は、状態信号C(t)、合致信号E(t)および計数値CNT(t)の変化に応じて適応的に動作する。以上のような判定処理を行うことによって、信号保持部14は、ある有効状態から次の有効状態となるまでの間に入力される合致信号E(t)が最大の値となる場合を検出することができる。信号保持部14は、当該最大値が得られた時刻を保持信号P(t)として出力する。
たとえば、図10に示すように信号が変化した場合、有効信号が発生するまでに入力された合致信号E(t)の最大値は「5」であるが、その値は時刻t=6およびt=8において2度発生している。t=6およびt=8の両時刻における判定誤差信号J(t)の値は、t=6のときに「1.7」、t=8のときに「0.3」となっているので、t=8の判定誤差信号J(t)の値の方が、信頼性が高い。したがって、保持信号P(t)は「8」となる。このようにして信号保持部14は、合致信号E(t)が最大となる時刻のうち、信頼性の高いものを正しく出力することができる。
図1に戻って、信号選択部18は、信号保持部14から与えられる保持信号P(t)と、所定信号発生部13から与えられる状態信号C(t)とに基づいて、受信信号I(t)の同期位置を決定し、受信信号I(t)の同期位置を表す同期検出信号S(t)を出力する。このようにして信号選択部18によって受信信号I(t)の同期位置を決定し、同期検出信号S(t)を出力する動作は、信号選択ステップに相当する。
図11は、信号選択部18の構成を示すブロック図である。信号選択部18は、同期信号発生部61、遅延加算部62および遅延調整部63を備えて構成される。同期信号発生部61は、所定信号発生部13から与えられる状態信号C(t)に基づいて、同期状態を示す検出信号を出力する。同期信号発生部61から出力された検出信号は、遅延調整部63に与えられる。
遅延加算部62は、信号保持部14から与えられる保持信号P(t)に、所定の時間(以下「加算時間」という場合がある)を加算してその加算結果を出力する。遅延加算部62は、出力された加算結果を遅延調整部63に与える。遅延調整部63は、遅延加算部62から与えられる加算結果に基づいて、同期信号発生部61から与えられる同期信号を遅延させ、同期検出信号S(t)として出力する。
信号選択部18によれば、まず同期信号発生部61において、状態信号C(t)が有効信号である場合は、同期したことを示す検出信号が出力され、状態信号C(t)が無効信号である場合は同期していないことを示す検出信号が出力される。また遅延加算部62によって、保持信号P(t)に所定時間である加算時間が加算され、その加算結果が出力される。そして、同期信号発生部61の出力が、遅延調整部63において遅延加算部62の出力に相当する時間だけ時間遅延され、その結果が同期検出信号S(t)として出力される。遅延加算部62で加算される加算時間は、既知信号系列の終了時点から、実際に検出したい同期位置までの間の時間であることが望ましい。
図12は、信号選択部18の動作タイミングを示すタイミングチャートである。図12では、同期位置として、情報信号部分の先頭の位置を検出する場合を示す。また図12では、同期したことを示す検出信号をマーク(|)で表し、同期していないことを示す検出信号をスペース( )で表し、同期検出信号S(t)は、これら2値で構成されるものとしている。
図12に示す例では、受信信号I(t)に、既知信号系列を含む識別信号が周期的に挿入されていることを想定している。また、状態信号C(t)における有効信号をマーク(|)で表し、無効信号をスペース( )で表し、状態信号C(t)は、これら2値で構成されるものとしている。また有効信号は周期信号とし、その周期は識別信号の時間長と情報信号の時間長との和で表される時間長に等しいものとする。さらに、遅延加算部62で加算される加算時間は、既知信号系列の終了時点から、実際に検出したい同期位置までの間の時間であるとし、その時間長は「1」としている。
図12によれば、隣り合う識別信号の信号開始位置の時間間隔は「10」であり、状態信号C(t)は時刻t=10、t=20、t=30において有効信号となる。このとき、信号選択部18は、以下の(a)〜(g)に示す手順を経て同期検出信号S(t)を出力する。
(a)先の手順で時刻t=14において合致信号E(t)が最大となった場合、その合致信号E(t)の値は「4」であり、時刻t=14の位置に同期位置が確定される。
(b)時刻t=20において保持信号P(t)=4が信号選択部18の遅延加算部62に入力される。
(c)時刻t=20において、同期信号発生部61の出力が「1」となる。すなわち、同期したことを示す検出信号が、同期信号発生部61から出力される。
(d)遅延加算部62では、保持信号P(t)=4に、所定の加算時間「1」が加算され、「5」が出力される。
(e)遅延調整部63では、同期信号発生部61から出力される検出信号が、遅延加算部62の出力結果である時間「5」だけ遅延される。
(f)同期検出信号S(t)は、t=25において「1」となり、出力される。
以上のことから、(g)時刻t=25が情報信号部分の先頭、すなわち検出したい同期位置であることを検出することができる。
図12では、情報信号部分の先頭における時刻がt=25となっており、信号選択部18を上記のような構成にすることによって、希望する同期位置を正しく検出することが可能となる。このように本実施の形態によれば、受信信号の同期位置を正確に検出することができる。
本実施の形態とは異なり、パターンマッチング方式を用いて受信信号の同期を行う場合に、受信信号の電力および振幅に基づいて許容ビット誤り数を定める従来の技術を適用すると、電力の大きな遅延波が存在するマルチパス環境下では、受信した信号の電力が比較的大きいので、誤りが多く発生するにも拘わらず、許容ビット誤り数が少なく設定される。したがって、信号同期の確立までに時間がかかるという問題がある。
また、移動に伴うドップラー周波数シフトに起因して受信信号の位相が時々刻々と変化する移動受信環境下においても、誤りが多く発生するにも拘わらず、許容ビット誤り数が少なく設定されるので、信号同期の確立までに時間がかかるという問題がある。
これに対し、本実施の形態の信号同期装置1では、上記のような劣悪なマルチパス環境下において、受信信号に含まれる既知信号系列に誤りが多く発生していても、合致信号E(t)の値が小さくなるだけである。同様に、劣悪な移動受信環境下において、受信信号に含まれる既知信号系列に誤りが多く発生していても、合致信号E(t)の値が小さくなるだけである。したがって、信号保持部14および信号選択部18を用いることによって、合致信号E(t)の最大値を検出し続け、同期を検出できる可能性を高めることができる。
また本実施の形態の信号同期装置1によれば、受信した信号の希望波の信号電力が雑音電力と同程度あるいはそれよりも小さいような弱電界環境においてパターンマッチング方式を用いる場合であっても、合致信号E(t)の値が小さくなるだけである。したがって、信号保持部14および信号選択部18を用いることによって、合致信号E(t)の最大値を検出し続け、同期を検出できる可能性を高めることができる。
また本実施の形態の信号同期装置1を用いると、受信信号系列と既知信号系列との照合を行った結果、受信電力の変動による信号誤りの影響に起因して複数の位置で照合がとれてしまった場合であっても、当該照合位置における判定誤差信号J(t)の値を参照して比較することによって、信頼度の大小を判定することができる。したがって、最も信頼度の大きい照合位置を、正確な照合位置であると類推される照合結果として決定することによって、受信信号の同期位置を効率的に検出することができる。
図13は、受信信号電力の雑音電力に対する比であるSN比(Signal to Noise ratio)と同期成功率との関係の一例を示すグラフである。図13の横軸はSN比[dB]を表し、縦軸は同期成功率[%]を表している。図13に示すグラフは、一例として既知信号系列の系列長を「13」として簡易な数値計算を行った結果であり、パターンマッチング方式を用いて受信信号系列と既知信号系列との照合を行ったときに、ビット誤り数が許容ビット誤り数p(pは0以上の整数)以下であった場合を同期成功としている。図13では、許容ビット誤り数pを固定した従来の技術による結果を参照符号「A」で示し、本実施の形態の信号同期装置1を適用した結果を参照符号「B」で示している。
図13に示すように、従来の技術において、許容ビット誤り数pを「0」に設定すると、SN比が4dBの時点で同期成功率が100%でなくなり、SN比が低くなるに従って同期成功率は次第に低下する。許容ビット誤り数pを「1」または「2」に設定すると、同じSN比における同期成功率は、許容ビット誤り数pを「0」に設定した場合よりも高くなり、同期成功率は向上する。
許容ビット誤り数pを「3」に設定した場合には、SN比が−3dB未満の領域では、許容ビット誤り数pを他の値「0」、「1」または「2」に設定した場合に比べて同期成功率が向上しているが、SN比が−3dB以上の領域では、同期成功率は、他の値に設定した場合に比べて、あまり向上していない。これは、許容ビット誤り数pを大きく設定したことで、より弱電界、具体的には約−3dB未満での同期確立がとれるようになったものの、通常の電界強度、具体的には約−3dB以上になると、誤った位置で同期を確立してしまう場合が増え始めるためである。
これに対し、本実施の形態の信号同期装置1を適用した場合には、図13に示すように、許容ビット誤り数pを固定する従来の技術を適用した場合に比べて、同期成功率を向上できていることが判る。しかも、本実施の形態では、この同期成功率の向上効果を得るために受信信号の振幅および電力に関する情報は一切用いる必要がない。つまり、本実施の形態の信号同期装置1によれば、受信信号の振幅および電力に関する情報を一切参照することなく、許容ビット誤り数pを受信信号の振幅および電力に応じた適切な値に設定していることになる。したがって、受信信号の性質に依存することなく、効率的に受信信号の同期位置を検出することができる。
以上のように本実施の形態によれば、信号判定部11と合致検出部12と所定信号発生部13と信号保持部14と信号選択部18とを備えて信号同期装置1が構成される。信号判定部11によって、既知信号系列が挿入された原信号A(t)が硬判定されて受信信号I(t)が出力されるとともに、判定誤差信号J(t)が出力される。また合致検出部12によって、既知信号系列の時間長と等しい時間区間内に得られる受信信号で構成される受信信号系列F1(t)と既知信号系列F2(t)との一致度合を表す合致信号E(t)が出力される。また所定信号発生部13によって、既知信号系列が挿入される周期である所定の時間区間内で、有効信号または無効信号が状態信号C(t)として出力される。
この状態信号C(t)と判定誤差信号J(t)と合致信号E(t)とに基づいて、信号保持部14によって、前記所定の時間区間内で合致信号E(t)が最大となるときの時刻を表す保持信号P(t)が出力される。この保持信号P(t)と状態信号C(t)とに基づいて、信号選択部18によって、受信信号I(t)の同期位置が決定され、その同期位置を表す同期検出信号S(t)が出力される。
前述のように、判定誤差信号J(t)は、原信号A(t)の振幅と受信信号I(t)の振幅との差分の絶対値に基づいて算出される値であるので、受信信号I(t)の信頼性の尺度として用いることができる。この判定誤差信号J(t)と合致信号E(t)と状態信号C(t)とに基づいて保持信号P(t)が出力されるので、たとえば合致信号E(t)が最大となる時刻が複数検出された場合、それらの時刻のうち、最も信頼性の高い受信信号I(t)に基づいて検出された時刻を保持信号P(t)として出力することができる。
この保持信号P(t)と状態信号C(t)とに基づいて、受信信号I(t)の同期位置が決定され、同期検出信号S(t)が出力されるので、受信信号系列F1(t)と既知信号系列F2(t)との照合位置のうち、最も信頼性の高い照合位置を、受信信号I(t)の同期位置として決定することができる。
これによって、受信信号I(t)の性質、たとえば振幅および電力などに依存すること無く、効率的に受信信号I(t)の同期位置を検出することができる。したがって、遅延波もしくは妨害波の電力、または雑音電力の大きい劣悪な送受信環境下でも受信信号I(t)の同期位置を効率良く検出することができる。
具体的に述べると、本実施の形態によれば、受信信号の振幅および電力に関する情報を一切参照することなく、許容ビット誤り数を受信信号の振幅および電力に応じた適切な値に設定していることになる。したがって、受信信号の性質に依存することなく、効率的に受信信号の同期位置を検出することができる。
また本実施の形態によれば、受信信号における希望波、すなわち情報信号の信号電力が雑音電力と同程度またはそれよりも小さいような弱電界環境下では、パターンマッチング方式における受信信号系列と既知信号系列との照合を行うときの許容ビット誤り数が、自動的に大きく設定されることになるので、受信信号の同期位置を効率的に検出することができる。
また本実施の形態によれば、受信信号の電力が比較的大きい場合であっても、伝送路環境に関する情報を一切用いずに受信信号系列と既知信号系列との照合を行うときの許容ビット誤り数が自動的に適切な値に調整されることになる。したがって、遅延波が存在するマルチパス環境下であっても、また移動に伴うドップラー周波数シフトに起因して受信信号の位相が時々刻々と変化する移動受信環境下であっても、受信信号の同期位置を効率的に検出することができる。
また本実施の形態によれば、受信信号系列と既知信号系列との照合を行った結果、複数の位置で照合がとれた場合であっても、複数の照合結果の信頼性に関する情報、たとえば判定誤差信号J(t)を参照することで、正確な照合位置であると類推される照合結果を唯1つに決定することができる。したがって、受信信号の同期位置を効率的に検出することができる。
このような信号同期装置1を備えて受信装置を構成することによって、受信信号を正確に復調して、再生することができる。
また本実施の形態では、信号判定部11は、受信信号出力手段として閾値判定部22および出力調整部25を備え、誤差信号出力手段として正規化部23および平均化部24を備える。これによって、前述のような受信信号の同期位置を効率的に検出することのできる信号同期装置1を実現することができる。
また本実施の形態では、信号保持部14は、時間更新部15と計数値更新部16と保持値更新部17とを備える。これによって、前述のような受信信号の同期位置を効率的に検出することのできる信号同期装置1を実現することができる。
また本実施の形態では、時間更新部15は、状態信号が有効信号である場合、有効経過時間を初期化し、状態信号が無効信号である場合、前記初期化された時刻からの経過時間を表す信号を、有効経過時間を表す信号として出力する機能を有する。また保持値更新部17は、状態信号が有効信号である場合、保持値を保持信号として出力した後、保持値を有効経過時間とし、前記判定誤差信号の値を誤差保持値として出力し、状態信号が無効信号であって合致信号が計数値と等しい場合であって判定誤差信号が誤差保持値よりも小さい場合、保持値を有効経過時間として誤差保持値を判定誤差信号の値とし、状態信号が無効信号であって合致信号が計数値よりも大きい場合、保持値を有効経過時間とし、誤差保持値を判定誤差信号の値とする機能を有する。
また計数値更新部16は、状態信号が有効信号である場合、計数値を合致信号の値とし、状態信号が無効信号であって合致信号が計数値よりも大きい場合、計数値を合致信号とする機能を有する。これによって、前述のような受信信号の同期位置を効率的に検出することのできる信号同期装置1を簡単な構成で実現することができる。
また本実施の形態では、合致検出部12は、変換部31と系列発生部32と比較部33と判定器34とを備える。これによって、前述のような受信信号の同期位置を効率的に検出することのできる信号同期装置1を実現することができる。
また本実施の形態では、比較部33は、図4に示すように、変換された受信信号系列F1(t)と既知信号系列F2(t)との排他的論理和を演算し、その演算結果に基づいて算出される値を比較結果信号として判定部34に出力する。これによって比較部33を簡単な構成で実現することができる。
また本実施の形態では、判定器34は、減算器51を備え、減算器51において、比較結果信号である比較部33からの出力信号の値を判定基準値から減算し、その値を合致信号E(t)として出力する。これによって判定器34を簡単な構成で実現することができる。
また本実施の形態では、信号選択部18は、状態信号が無効信号から有効信号に変化した場合、または有効信号から無効信号に変化した場合のいずれかの場合を基点として経過時間を計測し始め、当該経過時間が保持信号の値に所定の時間を加算した値と等しい場合に同期検出信号を出力する。これによって信号選択部18を簡単な構成で実現することができる。
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態である信号同期装置について説明する。本実施の形態の信号同期装置は、信号保持部14および信号選択部18を除くその他の構成が、前述の第1の実施の形態の信号同期装置1と同一であるので、対応する部分には同一の参照符を付して、図示および共通する説明を省略する。本実施の形態における信号保持部の構成は、前述の第1の実施の形態における信号保持部14の構成と同一であるので、図示および共通する説明を省略する。本実施の形態における信号保持部14は、その動作が、第1の実施の形態における信号保持部14と異なる。信号保持部14における計数値更新部16および保持値更新部17の各動作手順は、前述の第1の実施の形態の図7および図9に示すフローチャートの動作手順と同一であるので、図示および共通する説明を省略する。
本実施の形態における信号保持部14は、時間更新部15において、状態信号C(t)が有効信号である場合に、次時刻の有効経過時間を初期化するときの初期値が「−1」となっている点が、第1の実施の形態における信号保持部14と異なる。
図14は、本発明の第2の実施の形態における信号保持部14の時間更新部15の動作手順を示すフローチャートである。図14に示すフローチャートにおける各ステップの処理は、時間更新部15によって処理される。図14に示すフローチャートの処理は、所定信号発生部13から状態信号C(t)が与えられると開始され、ステップd1に移行する。
ステップd1では、時間更新部15は、図8に示すステップb1と同様に、状態信号C(t)が無効信号であるか否かを判断し、無効信号であると判断するとステップd2に移行し、無効信号ではない、換言すれば有効信号であると判断するとステップd3に移行する。
ステップd2では、時間更新部15は、図8に示すステップb2と同様に、次時刻における有効経過時間INT(t+1)を更新し、その後、全ての処理手順を終了する。ステップd3では、時間更新部15は、次時刻における有効経過時間INT(t+1)を「−1」とし、全ての処理手順を終了する。
図15は、本発明の第2の実施の形態の信号選択部18Aの構成を示すブロック図である。本実施の形態の信号選択部18Aは、前述の第1の実施の形態の信号選択部18と構成が類似しているので、対応する部分には同一の参照符を付して共通する説明を省略し、異なる部分について説明する。
信号選択部18Aは、前述の第1の実施の形態の信号選択部18を構成する同期信号発生部61、遅延加算部62および遅延調整部63に加えて、非負判定部64を備える。非負判定部64は、遅延調整部63からの出力を、信号保持部14から与えられる保持信号P(t)の符号に応じて一時的に停止することができる。さらに具体的に述べると、非負判定部64は、保持信号P(t)が「−1」である場合、遅延調整部63からの出力を停止し、保持信号P(t)が「−1」以外の値である場合、遅延調整部63からの出力を同期検出信号S(t)として出力する。
たとえば、前述の第1の実施の形態において、信号保持部14が図7〜図9に示すフローチャートの動作手順に従って動作し、信号選択部18が図11に示すように構成される場合、保持信号P(t)が「0」であるとき、状態信号C(t)が有効信号となる位置が同期位置と等しいのか、または非同期状態であるのかを判断することができなくなる。
これに対して、本実施の形態のような構成にすることによって、保持信号P(t)が「−1」であれば、状態信号C(t)が有効信号となる位置を同期検出位置と判断し、保持信号P(t)が「0」であれば、非同期状態であると判断することができる。したがって、状態信号C(t)が有効信号となる位置が同期位置と等しい場合と、非同期状態である場合とを区別することができる。本実施の形態では、保持信号P(t)の初期値「−1」は負数の一例として示したものであって、この値に限られるものではない。
以上のように本実施の形態によれば、信号選択部18Aは、状態信号C(t)が無効信号から有効信号に変化した場合、または有効信号から無効信号に変化した場合のいずれかの場合を基点として経過時間を計測し始め、当該経過時間が保持信号の値に所定の時間を加算した値と等しく、かつ前記保持信号が所定の値である場合に同期検出信号S(t)を出力する。これによって、状態信号C(t)が有効信号となる位置が同期位置と等しい場合と、非同期状態である場合とを区別することができる。したがって、受信信号I(t)の同期位置を正確に検出することができる。
<第3の実施の形態>
次に、本発明の第3の実施の形態である信号同期装置について説明する。本実施の形態の信号同期装置は、合致検出部12の判定器34を除くその他の構成が、前述の第1の実施の形態の信号同期装置1と同一であるので、対応する部分には同一の参照符を付して、図示および共通する説明を省略する。図16は、本発明の第3の実施の形態における合致検出部12を構成する判定器34Aの構成を示すブロック図である。本実施の形態の判定器34Aは、前述の第1の実施の形態の判定器34と構成が類似しているので、対応する部分には同一の参照符を付して共通する説明を省略し、異なる部分について説明する。
判定器34Aは、前述の第1の実施の形態の判定器34を構成する減算器51および所定値記憶部52に加えて、遅延部53および比較判定部54を備える。遅延部53は、減算器51から出力される出力信号Q(t)を1種類以上の所定遅延時間を用いて遅延した遅延信号D(t)を出力する。比較判定部54は、減算器51からの出力信号Q(t)と、遅延部53からの出力信号である遅延信号D(t)の一部または全てとを用いて、これらの値の中から最小値を判定し、その判定結果の値を合致信号E(t)として出力する。減算器51から出力される出力信号Q(t)の値は、図3に示す比較部33の出力値を、所定値記憶部52に記憶される所定値である判定基準値から減算した値である。
さらに述べると、比較判定部54は、減算器51からの出力信号Q(t)の値と、減算器51からの出力信号Q(t)の値を遅延部53において所定時間だけ遅延させた遅延信号D(t)の値との論理積演算を行い、その演算結果の値を合致信号E(t)として出力する。
図17は、本発明の第1の実施の形態の判定器34における合致信号E(t)の出力タイミングを示すタイミングチャートである。図18は、本発明の第3の実施の形態の判定器34Aにおける合致信号E(t)の出力タイミングを示すタイミングチャートである。図18には、既知信号系列が連続して2回挿入されている場合を示しており、当該既知信号系列の時間長は「3」としている。また図18では、図16に示す遅延部53の出力信号である遅延信号D(t)を1種類とし、所定遅延時間を既知信号系列の時間長に等しく、「3」としている。
図17に示すように、第1の実施の形態では、既知信号系列の終了時点である時刻t=5において、合致信号E(t)が最大値「6」をとっているものの、情報信号を受信中の状態であっても雑音の影響によって合致信号E(t)の値が大きくなり、時刻t=24において偶然、合致信号E(t)が「6」となっている。しかも、これらが状態信号C(t)の隣接する有効信号区間内で同時に発生しているので、当該有効信号区間内で合致信号E(t)の最大値が2回検出されることになる。このとき、信号保持部14が図7〜図9に示すフローチャートに従った動作をすると、合致信号E(t)の最大値が検出された2回のうち、判定誤差信号J(t)の値の小さい方を同期位置として検出することになる。
これに対し、本実施の形態では、図18に示すように、既知信号系列が連続して2回挿入されているので、図16に示す判定器34Aにおける減算器51の出力である出力信号Q(t)は、既知信号系列の終了時点である時刻t=5および時刻t=8において極大値をとる。ただし、時刻が異なれば雑音の影響も異なるので、ここでは一般性を失わないように、時刻t=5ではQ(t)=6、時刻t=8ではQ(t)=7としている。
また図18に示す場合においても、図17に示す場合と同様に、情報信号を受信中の状態であっても雑音の影響により、時刻t=27において偶然、減算器51の出力信号Q(t)が「6」となっている。このとき判定器34Aは、減算器51の出力信号Q(t)と、この出力信号Q(t)を時刻「3」だけ遅延させた信号Q(t−3)とを比較し、それらの小さい方を合致信号E(t)として出力するので、合致信号E(t)の信号系列は、図18に示すようになる。
その結果、合致信号E(t)は、既知信号系列が2回検出された時点である時刻t=8において最大値「6」をとる。時刻t=30では、時刻t=27における減算器51からの出力信号Q(t)と、時刻t=30における減算器51からの出力信号Q(t)とを比較するので、合致信号E(t)は「3」となる。したがって、状態信号C(t)の隣接する有効信号区間内で検出される合致信号E(t)の最大値は唯一、時刻t=8における値「6」となる。
以上のように本実施の形態によれば、図16に示すように判定器34Aを構成し、既知信号系列が2回以上連続して繰返し挿入されている信号を用いて通信を行うことによって、同期の確立の精度をさらに高くすることが可能となる。
本実施の形態では、図16における遅延部53の出力信号である遅延信号D(t)を1種類としたが、本発明の他の実施の形態では、既知信号系列を挿入する繰返し回数をさらに増加させて、当該遅延信号D(t)を2種類以上にしてもよい。遅延信号D(t)を2種類以上にすることによって、同期位置を検出できる場合をさらに増加させることができる。さらに述べると、既知信号系列を無限に繰返し、遅延信号D(t)の種類を当該繰返し回数と同数にすれば、正しい同期位置のみを検出することができる。これによって、正確な同期位置と誤った同期位置とが同時に検出される場合を低減することが可能となり、正確な同期位置の検出精度を向上することができる。