JP5408591B2 - 高密度金属ホウ化物の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高密度金属ホウ化物、特にホウ化チタン焼結体の製造方法に関する。
金属ホウ化物は、高硬度、高融点で、電気伝導性や熱伝導性が高いなど優れた特性を示すものが多い。その中でホウ化チタンTiBは、特に高硬度で放電加工が可能であるため、地下埋没ケーブルの保護板などに用いられており、その物性に関して、例えば下記の非特許文献1には、三点曲げ強度(σ)400MPa、ビッカース硬度(H)22GPa、破壊靭性値(KIC)5.2MPa・m1/2であることが報告されている。
Ronald G. Munro, J. Res. Inst. Stand. Technol. 105, 709-720 (2000).
しかしながら、このホウ化チタンは、共有結合性の物質であるため非常に脆く、かつ、難焼結性という弱点があり、緻密な素材の作製が困難であるために、その応用展開が阻害され、改善すべき課題が残されているのが現状である。
本発明は、上記の改善すべき課題を解決し、緻密で高密度の金属ホウ化物、特に高密度ホウ化チタンを製造可能な方法を提供することを課題とする。
本発明者等は、種々検討を行なった結果、難焼結性のホウ化チタンTiB粉末に、焼結助剤として酸化チタンTiO粉末(ルチル)を所定量添加し、省エネルギーのパルス通電加圧焼結(Pulsed Electric-Current Pressure Sintering: PECPS)により、従来法よりも比較的低温で緻密化可能となり、優れた機械的強度を有する高密度のTiB焼結体が製造できることを見い出して、本発明を完成した。そして、酸化チタン粉末の他に、さらに所定量の酸化マグネシウムMgO粉末を添加してパルス通電加圧焼結した場合には、機械的特性がより一層改善されることも見い出した。
前記課題を解決可能な本発明の高密度金属ホウ化物の製造方法は、
工程A:3〜7体積%の酸化チタン粉末及び1〜4体積%の酸化マグネシウム粉末が均一に混合されたホウ化チタン粉末を調製し、当該混合粉末を成形して成形体を製造する工程、及び
工程B:前記工程Aで得られた成形体をパルス通電加圧焼結することにより、相対密度94%以上のホウ化チタン焼結体を製造する工程
とを含むことを特徴とする
又、本発明は、上記の特徴を有した製造方法において、上記工程Bにおけるパルス通電加圧焼結が、10Pa以下の真空下で、焼結温度1600〜1700℃、保持時間5〜20分、加圧力30〜50MPa、昇温速度50〜100℃/分の条件にて行われることを特徴とするものでもある
本発明の製造方法を用いることによって、従来法よりも比較的低温(約200〜300℃低い温度)で高密度のホウ化チタン焼結体を製造することができ、このホウ化チタン焼結体は、従来法で得られる焼結体よりも機械的特性(三点曲げ強度、ビッカース硬度、破壊靭性値)が優れており、高融点、高硬度、化学的安定性、熱伝導性、電気伝導性が良好な材料として、地下埋設ケーブルの保護膜以外の新規な用途に利用可能である。
本発明の製造方法の一例を示すフローチャートである。 本発明の製法におけるパルス通電加圧焼結を実施するのに適した装置の内部構成を示す概略図である。 ジェット粉砕を行う前(a)と後(b)のTiB粉末のX線回折(XRD)パターン及びSEM写真である。 (a)は1650℃、(b)は1800℃、(c)は1900℃で10分間、30MPaにて焼結したTiBセラミックの破砕表面のSEM写真である。 焼結温度とTiBセラミックのかさ密度の関係を示すグラフである。 ソーキング時間の関数としての、種々の組成物を用いた粉末成形体の収縮プロファイルであり、(a)は加熱温度、(b)はTiBモノリスの収縮曲線、(c)は7体積%TiOが添加されたTiBセラミックの収縮曲線である。 x体積%TiOが添加されたTiBセラミックのXRDパターンである。 x体積%TiOが添加されたTiBセラミック(1650℃/10分/30MPa)の破砕表面のSEM写真である。 左側の図は、x体積%TiOが添加されたTiBセラミック(1650℃/10分/30MPa)における、TiO含有量と相対密度(a)、かさ密度(b)の関係を示すグラフであり、右側の図は、x体積%TiOが添加されたTiBセラミック(1650℃/10分/30MPa)における、TiO含有量と粒子径の関係を示すグラフである。 x体積%TiOが添加されたTiBセラミック(1650℃/10分/30MPa)における、TiO含有量と、(a)曲げ強度(σ)、(b)ビッカース硬度(H)、(c)破砕強度(KIC)の関係を示すグラフである。 ソーキング時間の関数としての、種々の組成物を用いた粉末成形体の収縮プロファイルであり、(a)は加熱温度、(b)は5体積%TiOが添加されたTiBの収縮曲線、(c)は10体積MgO/4.75体積%TiOドープされたTiBセラミックの収縮曲線である。 10MgO‐4.5TiO‐85.5TiB(体積%)セラミック(30MPa)のXRDパターンである。 10MgO‐4.5TiO‐85.5TiB(体積%)セラミック(30MPa)の破砕表面のSEM写真である。 x・MgO‐(100−x)・(5TiO‐95TiB)(体積%)セラミック(1650℃/10分/30MPa)のXRDパターンである。 左側の図は、MgO含有量(体積%)の関数としての、MgO添加された(5TiO‐95TiB)セラミック(1650℃/10分/30MPa)における、MgO含有量と相対密度(a)、かさ密度(b)の関係を示すグラフであり、右側の図は、MgO添加された(5TiO‐95TiB)セラミック(1650℃/10分/30MPa)における、MgO含有量と粒子径の関係を示すグラフである。 MgO添加された(5TiO‐95TiB)セラミック(1650℃/10分/30MPa)の破砕表面のSEM写真である。 MgO添加された(5TiO‐95TiB)セラミック(1650℃/10分/30MPa)における、MgO含有量と、(a)曲げ強度(σ)、(b)ビッカース硬度(H)、(c)破砕強度(KIC)の関係を示すグラフである。
本発明の高密度金属ホウ化物の製造方法における各工程について以下に説明する。図1は、本発明の製造方法における好ましい一例の手順を示すフローチャートである。尚、図1には、ホウ化チタン粉末と酸化チタン粉末の他に、さらに機械的特性を改善するために焼結助剤として酸化マグネシウムが添加される場合が示されている。
まず、本発明の製法における工程Aでは、出発原料としてのホウ化チタン粉末に酸化チタン粉末を添加して、3〜10体積%、好ましくは3〜7体積%の酸化チタン粉末が均一に混合された混合粉末を調製し、この混合粉末を成形して成形体を製造する。この際、酸化チタン粉末の含有量が3体積%未満では焼結体の相対密度が90%以下となり、しかも、充分な機械的特性(曲げ強度、ビッカース硬度、破壊靭性値)が得られず、逆に、酸化チタン粉末の含有量が10体積%を超えると、焼結によって粒子が異常成長して粒子径が大きくなり、三点曲げ強度は低下しないが、ビッカース硬度と破壊靭性値が低下する。
本発明では、焼結助剤として酸化マグネシウムを更に添加して機械的特性を改善する場合、3〜7体積%(好ましくは4〜6体積%)の酸化チタン粉末と、1〜4体積%(好ましくは2〜3.5体積%)の酸化マグネシウム粉末とが均一に混合されたホウ化チタン粉末を調製すれば良く、酸化マグネシウム粉末の含有量が1体積%未満の場合には、酸化チタンを5体積%含有しても94%を越える相対密度が得られず、逆に、酸化マグネシウム粉末の含有量が4体積%を超えると、曲げ強度が低下するので好ましくない。
尚、本発明では、焼結性を改善するために、出発原料のホウ化チタン粉末を予め粉砕して、粒子径を1μm以下とすることが好ましく、この際の粉砕方法としては、他の物質による汚染(コンタミネーション)をできるだけ少なくするために、不活性ガス(例えばアルゴンガス)中でホウ化チタン粉末同士を互いに衝突させて粉砕を行う乾式ジェットミルが好ましい。酸化チタンと酸化マグネシウムについては、市販品をそのまま使用することができる。
又、本発明において、ホウ化チタン粉末と酸化チタン粉末とを混合(機械的特性を更に改善する場合には酸化マグネシウム粉末も同時に混合)する場合の混合方法は、均質な混合が達成できる方法であれば特に限定されるものではないが、遊星ボールミルにより酸化ジルコニウム製のポットとボールを用いてアルコール(例えばメタノール中)中で一定時間湿式混合を行うのが好ましい。上記混合により得られた混合物は乾燥を行った後、整粒し、金型成形等により所望の形状の成形体とする。この成形体は、ついで冷間静水圧プレス(CIP)処理することが好ましい。
そして、次工程の工程Bにおいては、前記工程Aで得られた成形体を、図2に示されるような内部構造を有するパルス通電加圧焼結装置を用いてパルス通電加圧焼結する。
このパルス通電加圧焼結(PECPS)では、低電圧でパルス状直流大電流を投入して粒子間隔に火花放電現象を生じさせ、これにより瞬時に高エネルギーを発生させることができ、急激なジュール加熱により高速拡散が起きることで、短時間かつ、比較的低温で粒成長を抑制した緻密な焼結体(相対密度90%以上)が得られ、高強度、高靭性なセラミックスを作製することが可能となる。
本発明では、使用する原料粉末の粒子径や配合割合等に応じて、工程Bにおけるパルス通電加圧焼結の条件を適宜選択することができるが、ホウ化チタン粉末と酸化チタン粉末との混合粉末を使用する場合には、10Pa以下の真空下で、焼結温度1600〜1900℃、保持時間3〜30分、加圧力10〜70MPa、昇温速度50〜150℃/分の条件にて行うことが好ましく、特に好ましいパルス通電加圧焼結の条件は、10Pa以下の真空下、焼結温度1650℃、保持時間10分、加圧力30MPa、昇温速度100℃/分の条件である。この際、焼結温度が1600℃未満になると、低相対密度(約85%以下)となり、逆に1900℃を超えると焼結体中のTiB粒子が異常粒成長し、機械的特性が低下するので好ましくない。また、保持時間については、3〜30分で充分緻密化するが、加圧力が10MPa未満では焼結密度が低くなり、逆に70MPaを超えると通電加圧焼結に使用する金型の強度に上限があり使用出来なくなる。一方、昇温速度が50℃/分未満になると長時間の熱処理となり製造コストが高くなる。
又、ホウ化チタン粉末と酸化チタン粉末と酸化マグネシウム粉末との混合粉末を使用する場合には、10Pa以下の真空下で、焼結温度1600〜1700℃、保持時間5〜20分、加圧力30〜50MPa、昇温速度50〜100℃/分の条件にて行うことが好ましく、この際、焼結温度が1700℃を超えると焼結体中のTiB粒子が異常粒成長し、機械的特性が低下するので好ましくない。また、保持時間については、5〜20分で充分緻密化するが、加圧力が30MPa未満では焼結密度が低くなり、逆に50MPaを超えると通電加圧焼結に使用する金型の強度に上限があり使用出来なくなる。一方、昇温速度が50℃/分未満になると長時間の熱処理となり製造コストが高くなり、逆に100℃/分を超えると、焼結体内部の微細構造にムラが生じ、均質で大型の試料の作製が困難となるので好ましくない。
実施例1:本製法による高密度ホウ化チタンの製造例(酸化チタン添加の場合)
この焼結実験においては、原料粉末として、西山勝廣、粉体および粉末冶金、37 [4] 500-507 (1990)に記載されるメタロサーミックリダクション法で調製したホウ化チタン粉末(平均粒径P〜1.92μmφ)を、焼結性を改善するために乾式ジェットミルにて微粒化(P〜0.57μmφ)したものを使用した。平均結晶粒径は、インターセプト法(M.I. Mendelson; “Average Grain Size in Polycrystalline Ceramics”, J. Am. Ceram.Soc., 52 (1969) 443-446)により求めた。図3に、ジェットミルによる粉砕前と粉砕後のホウ化チタン粉末のXRDパターンとSEM写真を示す。この際、XRD測定には、リガク社製のRINT-2500を用い、焼結体破砕表面の微細構造は、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM、日本電子社製:JEOL7000)により観察した。
図3のXRDパターンから、このホウ化チタン粉末には微量の酸化チタンが不純物として存在していることがわかる。
そして、酸化チタンを添加した場合の焼結実験を行う前に、予備実験として、酸化チタンが添加される前のホウ化チタンを用いた場合の、焼結体の破砕表面状態、及び、焼結温度とかさ密度の関係を調べた。かさ密度については、アルキメデス法により測定した。
図4には、30MPaの下で10分間、(a)1650℃、(b)1800℃、(c)1900℃で焼結を行った際に得られる焼結体の破砕表面のSEM写真が示されており、図5には、酸化チタンを添加しない場合の焼結温度とかさ密度の関係が示されている。図5のグラフから、酸化チタンを添加しない場合には、1900℃の高温で焼結しても91Mg・m−3程度のかさ密度にしかならないことがわかった。
そして、次に、上記の微粒化ホウ化チタン粉末に、焼結助材として0〜15体積%の酸化チタン(ルチル)粉末(P〜15nmφ)を添加し、遊星ボールミルにより酸化ジルコニウム製のポットとボール(1mmφ)を用いてメタノール中にて60分間湿式混合・解砕を行なった。大気中で乾燥して得られた混合粉末を整粒した後、金型成形(30MPa)し、ついで冷間静水圧(245MPa)プレス処理し、その後、市販のパルス通電加圧焼結装置を用いて、10Pa以下の真空下、焼結温度1650℃、保持時間10分、加圧力30MPa、昇温速度100℃/分の条件でパルス通電加圧焼結(SPSシンテックス(株)/SPS-510Aを使用)を行い、焼結体を得た。
図6には、ソーキング時間と加熱温度の関係を示す曲線(a)、酸化チタン無添加のホウ化チタンモノリスの収縮曲線(b)、7体積%酸化チタン含有ホウ化チタン粉末を使用したセラミックの収縮曲線(c)が示されており、1000秒を超えた付近から曲線(c)の方が曲線(b)よりも下側に位置し、収縮性が良くなることがわかった。
図7には、上記焼結実験により得られた各焼結体((a)は酸化チタン添加なし、(b)は酸化チタン3体積%含有、(c)は酸化チタン5体積%含有、(d)は酸化チタン7体積%含有、(e)は酸化チタン10体積%含有、(f)は酸化チタン15体積%含有)のXRDパターンが示されており、このXRD解析では、ホウ化チタン相の回折ピークのみが確認され、添加された酸化チタンはいずれの場合にも焼結後には消失しており、これは恐らく、酸化チタンが還元され、チタンが溶けて流れ出たためであると考えられる。このような実験結果から、酸化チタンを添加しても不純物として残存せずに、ホウ化チタン焼結体が製造できることがわかった。
図8(a)〜(f)には、x体積%(x=0,3,5,7,10,15)TiOを含有したTiBセラミック(1650℃/10分/30MPa)の破砕表面のSEM写真が示されており、このSEM写真から、(a)〜(d)はほぼ同じ粒子径であると考えられるが、(e)と(f)は、異常成長により粒子径が大きくなっていることがわかる。
図9の左側の図は、x体積%酸化チタンを含有したホウ化チタンセラミック(1650℃/10分/30MPa)における、酸化チタン含有量と相対密度(a)、かさ密度(b)の関係を示すグラフであり、このグラフから、酸化チタンの添加量が10体積%までは、かさ密度と相対密度の増加が見られ、3体積%以上の酸化チタン含有によって相対密度90%以上となることがわかった。一方、図9の右側の図は、x体積%酸化チタンを含有したホウ化チタンセラミック(1650℃/10分/30MPa)における、酸化チタン含有量と粒子径の関係を示すグラフであり、このグラフから、酸化チタンの含有量が7体積%を超えると急激に粒子径が大きくなることがわかった。
図10には、x体積%酸化チタンを含有したホウ化チタンセラミック(1650℃/10分/30MPa)における、酸化チタン含有量と、(a)曲げ強度(σ)、(b)ビッカース硬度(H)、(c)破砕強度(KIC)の関係を示すグラフが示されており、各焼結体から機械的特性測定用試験片(〜3×4×15 mm)をダイヤモンドカッターで切り出し、4側面を鏡面研磨(ダイヤモンド砥粒:1〜3μmφ)した。機械的特性としてスパン8mm、クロスヘッドスピード0.5 mm/minで3点曲げ強度(σ)を測定し、荷重19.6 N、保持時間15 sでビッカース硬度(H)及びIF法(K. Niihara, R. Morena, D.P. H. Hasselman,“Evaluation of KIC of Brittle Solids by the Indentation Method with Low Crack-to-Indent Ratios”, J. Mater. Sci. Lett., 1 (1982) 13-16)により破壊靱性値(KIC)を評価した。
図10の結果から、曲げ強度と破壊靱性値については酸化チタンの含有量が5体積%の場合に最大値となり、ビッカース硬度については酸化チタンの含有量が7体積%の場合に最大値となり、総合して、酸化チタンの含有量が3〜10体積%、特に3〜7体積%の場合において高い機械的特性が示されることがわかった。
実施例2:本製法による高密度ホウ化チタンの製造例(酸化チタン+酸化マグネシウム添加の場合)
原料粉末として、前述の微粒化ホウ化チタン粉末(P〜0.57μmφ)を用い、これに、焼結助材として、市販の酸化マグネシウム粉末(P〜50nmφ)と、前述の酸化チタン(ルチル)粉末(P〜15nmφ)を添加し、それぞれの含有量が10体積%、4.75体積%となるようにし、実施例1と同様にして、メタノール中にて60分間湿式混合・解砕を行なった。乾燥して得られた混合粉末を整粒した後、金型成形し、ついで冷間静水圧(245MPa)プレス処理し、その後、パルス通電加圧焼結を行い、焼結体を得た。
このようにして得られた10体積%酸化マグネシウム/4.75体積%酸化チタン含有ホウ化チタン焼結体と、前記実施例1で得られた5体積%酸化チタン含有ホウ化チタン焼結体についての、ソーキング時間と加熱温度の関係を示す曲線(a)、5体積%酸化チタン含有ホウ化チタン焼結体の収縮曲線(b)、10体積%酸化マグネシウム/4.75体積%酸化チタン含有ホウ化チタン焼結体の収縮曲線(c)が図11に示されており、この図から、酸化チタンだけが添加されたホウ化チタン焼結体の収縮曲線(b)よりも、酸化マグネシウムと酸化チタンが添加されたホウ化チタン焼結体の収縮曲線(c)の方が下側に位置し、酸化マグネシウムの併含によって収縮性が良くなることがわかった。
図12には、10体積%MgO/90体積%(5TiO‐95TiB)、即ち、100%換算して10MgO‐4.5TiO‐85.5TiB(体積%)の組成において、焼結温度を800〜1650℃の間で変えた時、及び、1650℃にて保持時間を変化させた時のXRDパターンが示されており、1400℃以上の温度ではホウ化チタン相の回折ピークのみが確認され、酸化マグネシウムの回折ピークも、酸化チタンの回折ピークも観察されなかった。また、酸化チタンだけを添加した試料では確認されなかったが、酸化チタンと酸化マグネシウムとを添加した試料においては、酸化マグネシウムの添加量が増加するにつれて回折ピークが高角度側にシフトしていることが観察された。これは、酸化マグネシウムがホウ化チタンに固溶したことが原因と考えられる。
図13には、10MgO‐4.5TiO‐85.5TiB(体積%)の組成を有した混合粉末からの圧粉体(a)及び、各種焼結温度条件にて得られた焼結体(b)〜(h)の破砕表面のSEM写真が示されており、特に(f)〜(h)のSEM写真より、1650℃の温度での焼結時間が長くなるに従って、徐々に粒子径が大きくなることがわかる。
次に、酸化チタンの含有量を5体積%に固定して一定とし(ホウ化チタン95体積%)、さらに追加して0〜20体積%の含有量になるようにして酸化マグネシウム粉末(P〜50nmφ)を添加し、60分間湿式混合を行なった後、乾燥して得られた混合粉体を一軸金型成形(50MPa)し、冷間静水圧プレス処理(245MPa)後、真空中、パルス通電加圧焼結(1650℃/10分/30MPa)を行なった。
図14には、上記実験により得られた各焼結体((a)は酸化マグネシウム添加なし、(b)は酸化マグネシウム1体積%含有、(c)は酸化マグネシウム3体積%含有、(d)は酸化マグネシウム5体積%含有、(e)は酸化マグネシウム10体積%含有、(f)は酸化マグネシウム15体積%含有、(g)は酸化マグネシウム20体積%含有)のXRDパターンが示されており、このXRD解析では、ホウ化チタン相の回折ピークのみが確認され、添加された酸化チタンと酸化マグネシウムはいずれの場合にも焼結後には消失していることが確認された。このような実験結果から、酸化チタンと酸化マグネシウムの両方を添加してもこれらが不純物として残存せず、ホウ化チタン焼結体が製造可能であることがわかった。
図15の左右のグラフは、酸化マグネシウムの含有量を変化させた際の微細構造の変化に関するグラフであり、左側のグラフは、x体積%(x=0,1,3,5,10,15,20)酸化マグネシウムを含有した酸化チタン‐ホウ化チタンセラミック(1650℃/10分/30MPa)における、酸化マグネシウム含有量と相対密度(a)、かさ密度(b)の関係を示すグラフで、このグラフから、酸化マグネシウムの添加によって相対密度とかさ密度が高くなり、1体積%以上の酸化マグネシウム含有によって相対密度が94%以上になり、5体積%以上の酸化マグネシウム含有によって相対密度98%程度となることがわかった。一方、右側のグラフは、x体積%酸化マグネシウムを含有した酸化チタン‐ホウ化チタンセラミックにおける、酸化マグネシウム添加量と粒子径の関係を示すグラフであり、このグラフから、少量(1体積%)の酸化マグネシウムの含有量で粒子径が大きくなることがわかり、このことは、図16(a)〜(g)の、x体積%酸化マグネシウムが添加されたホウ化チタンセラミック(1650℃/10分/30MPa)の破砕表面のSEM写真にも示されている。又、酸化チタンだけを添加して得られた焼結体のSEM写真とを比較してみると、酸化チタンだけを添加して得られた焼結体よりも酸化マグネシウムをさらに添加して得られた焼結体の方が緻密化が進行していることが見いだされた。
図17には、x体積%酸化マグネシウムを含有した酸化チタン‐ホウ化チタンセラミック(1650℃/10分/30MPa)における、酸化マグネシウム含有量と、(a)曲げ強度(σ)、(b)ビッカース硬度(H)、(c)破砕強度(KIC)の関係を示すグラフが示されており、各物性は、実施例1記載の方法と同様にして測定した。
図17の結果から、ビッカース硬度と破壊靱性値については酸化マグネシウムを添加しても大きく変化しないが、曲げ強度については、酸化マグネシウムの含有量を多くしすぎると(含有量が5体積%以上になると)低下するので、酸化マグネシウムの最適含有量は1〜4体積%、好ましくは2〜3.5体積%であると考えられる。
尚、酸化チタンと酸化マグネシウムの併用による効果を確認するために、3体積%酸化マグネシウムだけを含有したホウ化チタン粉末を用いて、ホウ化チタンセラミック(1650℃/10分/30MPa)を製造したところ、嵩密度4.15g/cm、相対密度92.3%ビッカース硬度25.4GPa、破壊靭性値6.33MPa・m1/2、三点曲げ強度σb 620MPaとなり、緻密で機械的特性に格別に優れた焼結体は得られなかった。
まとめ
前記実施例1の実験結果より、本発明の製造方法を実施した場合、従来法よりも比較的低温である1650℃で緻密化されたホウ化チタン焼結体を製造することができ(無添加の場合の相対密度〜86%が、酸化チタン添加によって〜96%にまで高くなる)、かつ、機械的特性(曲げ強度、ビッカース硬度、破壊靭性値)が改善されることが確認された。
又、上記実施例2の実験結果より、酸化チタン3〜7体積%と1〜4体積%の酸化マグネシウムとを含有したホウ化チタン粉末を用いて得られた成形体をパルス通電加圧焼結すると、さらに緻密で優れた機械的特性を有する焼結体が作製できることが確認された。
以下の表1に、真空中で1650℃/10分/30MPaの条件にて焼結されたホウ化チタンモノリス、5体積%酸化チタンホウ化チタンセラミックス、3体積%酸化マグネシウム‐4.85体積%酸化チタン‐92.2体積%ホウ化チタンセラミックスについての代表的な特性を示す。
上記表1の物性値から、酸化チタンを添加して得られたホウ化チタンセラミックス、及び、酸化チタンと酸化マグネシウムを添加して得られたホウ化チタンセラミックスでは、相対密度、ビッカース硬度および破壊靭性値ともに向上していることがわかる。
ホウ化チタンに、酸化チタンを所定量添加、又は、酸化チタンと酸化マグネシウムを所定量添加してパルス通電加圧焼結により焼結を行う本発明の製法により、ホウ化チタンを比較的低温で焼結させることができ、しかも、得られるホウ化チタン焼結体の機械的強度を向上させることができ、緻密な素材が作製できることで優れた特性をもつ金属ホウ化物材料の応用展開が可能となる。

Claims (2)

  1. 相対密度94%以上の高密度金属ホウ化物を製造するための方法であって、
    工程A:3〜7体積%の酸化チタン粉末及び1〜4体積%の酸化マグネシウム粉末が均一に混合されたホウ化チタン粉末を調製し、当該混合粉末を成形して成形体を製造する工程、及び
    工程B:前記工程Aで得られた成形体をパルス通電加圧焼結することにより、相対密度94%以上のホウ化チタン焼結体を製造する工程
    とを含むことを特徴とする高密度金属ホウ化物の製造方法。
  2. 上記工程Bにおけるパルス通電加圧焼結が、10Pa以下の真空下で、焼結温度1600〜1700℃、保持時間5〜20分、加圧力30〜50MPa、昇温速度50〜100℃/分の条件にて行われることを特徴とする請求項1に記載の高密度金属ホウ化物の製造方法。
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