JP5407477B2 - 大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents

大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、建築構造用として好適な大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比型厚鋼板及びその製造方法に係り、特に表層付近の延性に優れ、耐震性に優れるものに関する。
近年、建築構造物の大型化に伴い、使用鋼材の厚肉化、高強度化が進展し、柱部材に使用される最大板厚100mm程度の鋼材や、TS590MPa級の鋼材が開発されている。
これらの鋼材には建築構造物の安全性の観点から、低降伏比であることや、溶接部靭性に優れることが要求され、特に、建築構造物等の溶接構造物では、地震時のような大きな負荷荷重を受けると、十分な塑性変形が生じる前に、溶接部から脆性破壊が発生する場合があるため、良好な溶接部靭性を有することが求められている。
一方、溶接構造物を高能率に作製するという観点から、入熱400kJ/cm以上の超大入熱溶接が適用される場合があり、例えば、ボックス柱作製時に施工される、角継手部のサブマージアーク溶接やダイヤフラム接合部のエレクトロスラグアーク溶接などが、入熱400kJ/cm程度で実施されている。
一般に、大入熱溶接部では、溶接熱影響部の靭性劣化が問題となる。大入熱溶接により、溶融点付近にまで加熱された領域が、冷却速度が遅いため、高温域で長く滞留することになり、その結果、ミクロ組織が粗大粒化したり、MAと呼ばれる硬質な脆化相が生成することに起因する。
このような溶接熱影響部の脆化は、鋼材強度が上昇するほど顕著になり、特にTS590MPa級鋼の場合に問題となることが多く、建築用低降伏比鋼の大入熱溶接熱影響部の靭性改善については、多数の技術が報告されている。
特許文献1、2は超大入熱溶接熱影響部靭性に優れる建築用厚鋼板に関し、成分設計において、Ca、O、Sからなる関係式を規制して、溶接熱影響部に微細な粒子を生成させ、フェライト変態核として活用することにより、溶接熱影響部の組織を微細化し靭性を改善する技術が報告されている。
また、特許文献3は大入熱溶接熱影響部靭性に優れた建築用低降伏比600N/mm級鋼板の製造方法に関し、成分組成を低C−高Cu−B無添加系とし、Ti酸化物を活用することで、大入熱溶接部の熱影響部靭性を改善し、強度をCuによる析出強化で確保する技術が報告されている。
特許文献1〜3記載のいずれの製造方法も、二相域熱処理を行うことが必要で、製造工期の短縮が課題とされ、二相域熱処理を省略しつつ、大入熱溶接部靭性を改善した技術が特許文献4〜7に報告されている。
特許文献4は焼入れ、焼戻しにより製造される、大入熱溶接熱影響部の靭性に優れた高張力鋼板に関し、極低C化と焼入性向上元素であるMn、Ni、Crなどを適宜含有させた成分組成とすることにより、MAの抑制と形態制御を行うとともに、変態組織のブロックサイズの微細化によって溶接熱影響部の靭性改善を達成している。しかし、得られた高張力鋼板の降伏比については明らかにされていない。
特許文献5は大入熱溶接靭性に優れた低降伏比高張力鋼板に関し、成分組成を低炭素当量化するとともに、Tiの炭窒化物を活用して、熱影響部の組織を微細化し靭性を改善するとともに、高強度化のためNbを活用することが記載されている。
しかし、C添加量が0.12%以上と高く、二相域熱処理を施さない場合は、一般的に表面の硬度が著しく高くなって表層部付近の延性劣化が著しくなることにより、特許文献5記載の低降伏比高張力鋼板も地震等による応力負荷時に表層付近に亀裂が発生し、ノッチ効果で破断が生じる場合が懸念される。
また、特許文献6は圧延終了後の加速冷却条件を制御することにより、高強度と低降伏比を備えた超大入熱溶接HAZ靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板を製造する方法に関し、Ca、O、Sからなる関係式を規制することにより、溶接時に微細な粒子を生成させてフェライト変態核として活用し、熱影響部の組織を微細化して靭性を改善する技術が報告されている。
しかし、鋼板表面の延性に関しては検討されておらず、表面硬度も記載されていない。なお、特許文献7,8には、圧延終了後の加速冷却条件を制御して、板厚方向の材質を均一にするTS560級低降伏比高張力鋼の製造方法が記載されているが、大入熱溶接部の靭性に関して記載されていない。
特開2005−68519号公報 特開2005−68478号公報 特開平6−128635号公報 特開2007−126725号公報 特開2001−172736号公報 特開2003−183767号公報 特開平11−279637号公報 特開平11−279636号公報
上述したように、建築構造物に用いられる大入熱溶接用低降伏比型厚鋼板は種々提案されているものの、更に、地震時に負荷される応力によって鋼板の表層近傍で発生する亀裂を抑制して耐震性を向上させたものは提案されていない。
そこで、本発明は、大入熱溶接部靭性に優れたTS590MPa以上の低降伏比型鋼板であって、表層付近の延性に優れ、耐震性を向上させた建築用低降伏比型鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。1.大入熱溶接熱影響部の靭性向上には、成分組成において(1)式によるACR値を0.2〜0.8、(2)式によるCeqを0.40〜0.45とし、かつ、Ti、Nを適量添加し、Cを0.07%以下、Nbを0.005%以下、Moを0.01%以下とすることが有効で、特にCの低減は、大入熱溶接部の靭性向上と表層硬度の低減にも効果が大きい。
ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S)・・・(1)
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(2)
本発明者らが実施した実験の一例について説明する。質量%で0.04〜0.12%Cを含み、Si、Mn、Cu、Ni、Crの調整で(2)式のCeqを0.42〜0.43とほぼ一定とし、また、(1)式のACRを0.4〜0.5とした組成を有する鋼素材を、1120℃に加熱後、880℃で圧延を終了し、50mmの鋼板とした後に、840℃から300℃まで加速冷却を平均冷却速度12℃/sで施した。なお、平均冷却速度とは、板厚1/4t部での冷却速度である。
得られた鋼板について、表層下0.5mm位置の硬度測定、引張試験、大入熱溶接部熱影響部靭性の調査を実施した。表層下の硬度は、ビッカ−ス硬度で、表層下0.5mm位置を20点測定し、その最大値とした。
引張試験は、JISZ2201に準拠して、JIS4号試験片を、1/4t位置、1/2t位置の2箇所からから採取し、引張特性(降伏応力、引張強さ、降伏比)を調査した。
表層部の延性評価として、表層直下位置(0.5〜6.5mm位置)から、6mm×24mmの評点距離を有する小型の丸棒引張試験片を採取し、引張試験後の伸び値を測定した。
また、大入熱溶接部靭性は、入熱100kJ/cmのエレクトロスラグ溶接継手を作成し、BOND部から1mm離れた熱影響部をノッチ位置とするシャルピ−衝撃試験(試験温度0℃)を実施し、シャルピー衝撃値(3本の平均値)で評価した。
図1にこれらの試験結果をC量で整理した結果を示す。いずれのC量でも、大入熱溶接部靭性(シャルピー衝撃値(3本の平均値))は、70J以上を示し、1/4t、1/2t部の強度、降伏比は、590MPa以上、80%以下で高強度−低降伏比化が達成されている。
表層付近の硬度は、C:0.07%を超えると350HV超で顕著に増加するようになり、表層付近の延性はC:0.07%を超えると大きく劣化し始める。また、1/4t部と1/2t部の強度(TS、YS)差もC量が0.07%以下となると、60MPa未満となり、板厚方向の材質差も低減している。
したがって、表層付近の延性を改善するためには、表層付近の硬度を低減することが有効で、鋼組成においてC量を0.07%以下とすることが必要である。
2.1記載の、C量を0.07%以下とした組成の鋼片を圧延後、冷却条件を制御した加速冷却を施すことにより、表層付近表面硬度を350HV10kgf以下とした、TS590MPa以上の鋼板を二相域熱処理を施すことなく製造することが可能である。
本発明は、得られた知見を基に、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)質量%で、C:0.03〜0.07%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.6〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.0005〜0.003%、Mo≦0.01%,Nb≦0.005%、Ti:0.005〜0.03%、Al:0〜0.1%、N:0.0025〜0.0070、O:0.001〜0.003%、Ca:0.0005〜0.005%を含み、更に、Cu≦0.5%、Ni≦1.0%、Cr≦0.5%、V≦0.08%の1種または2種以上含み、下記(1)式で定義されるCeqが0.40〜0.45%、かつ下記(2)式で示されるACRが0.2〜0.8を満足する、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ、ミクロ組織中のフェライト分率が3〜40%であることを特徴とする表面硬度350HV10kgf以下、降伏比80%以下、引張強度590MPa以上の大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 −−−(1)
ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S)−−−−−(2)
但し、各元素は含有量(質量%)で、含有しないものは0とする。
(2)前記組成にさらに、Mg≦0.005%、REM≦0.02%の1種または2種を含有することを特徴とする(1)に記載の低降伏比建築構造用厚鋼板。
(3)(1)または(2)に記載の組成を有する鋼素材を1000〜1200℃に加熱後、圧延終了温度をAr変態点以上とする圧延を施し、ついで、平均冷却速度:3〜20℃/s以上で冷却停止温度:400〜200℃とする加速冷却を行った後、空冷することを特徴とする大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。
(4)(1)または(2)に記載の組成を有する鋼素材を1000〜1200℃に加熱後、圧延終了温度をAr変態点以上とする圧延を施し、ついで、平均冷却速度:3〜20℃/sで冷却停止温度:400〜50℃とする加速冷却を行った後、450℃以下の温度で焼戻すことを特徴とする大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。
(5)(1)または(2)に記載の組成を有する鋼素材を1000〜1200℃に加熱後、圧延終了温度をAr変態点以上とする圧延を施し、ついで、平均冷却速度:25℃/s以上で冷却停止温度:650〜500℃とする加速冷却を行った後、空冷することを特徴とする大入熱溶接部靭性に優れた板厚19〜40mmの低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。
本発明によれば、大入熱溶接部靭性に優れた、TSが590MPa以上、かつ、表面硬度が350HV10kgf以下で、表面の延性に優れた低降伏比型厚鋼板を、製造工期で不利となる二相域熱処理を施すことなく、経済的に製造することが可能で産業上極めて有用である。
機械的特性(表層近傍の(硬度、延性)、採取位置1/2t,1/4tの引張り特性)と大入熱溶接部靭性に及ぼすC量の影響を示す図。
本発明では成分組成、ミクロ組織を規定する。
[成分組成]説明において%は質量%とする。
C:0.03〜0.07%
Cは、強度および表面硬度に影響を与える重要な元素である。強度を確保するためには、0.03%以上必要である。一方、前述の図1に示したように、表面硬度の低減および表面付近の延性改善のためには0.07%以下とする必要があるため、0.03〜0.07%に規定する。望ましくは、0.04〜0.07%である。
Si:0.05〜0.5%
Siは、脱酸元素として有効な元素であり、その効果を発揮するためには、0.05%以上必要である。一方、0.5%以上添加すると大入熱溶接部のMAが増大し、熱影響部靭性が劣化する。そのため、0.05〜0.5%に規定する。望ましくは、0.05〜0.4%である。
Mn:0.6〜2.0%
Mnは、固溶強化により強度を向上させるため、強度確保のために有効な元素であり、その効果を発揮するため、0.6%以上必要である。一方、2.0%を超えて添加すると溶接性が劣化する。そのため、0.6〜2.0%に規定する。望ましくは0.6〜1.6%である。
P:0.020%以下
Pは、不可避的不純物元素として混入するもので、その混入量が増加すると母材靭性が劣化するため、0.020%以下に規定する。望ましくは、0〜0.015%である。
S:0.0005〜0.003%
Sは、ACR値を求める上記(2)式を構成する元素の一つで、MnSの生成核となるCaSを形成する。CaSを核として生成したMnSは、大入熱溶接部の粒内フェライト生成および組織微細化に有効な作用を及ぼす。その効果を得るためには、0.0005%以上必要である。一方、0.003%を超えて含有すると、MnSの生成による板厚方向の材質劣化が顕著となる。そのため、0.0005〜0.003%に規制する。望ましくは、0.0010〜0.003%である。
Mo≦0.01%
Moは微量の添加により、溶接熱影響部の焼入性を増大させ、その結果、フェライト生成を抑制し、上部ベイナイト化させ、靭性を劣化させる。0.01%を超えると、このような作用を生じ、溶接熱影響部靭性を劣化させるため、0.01%以下とする。本発明では実質、無添加とすることが望ましい。、
Nb≦0.005%
Nbは微量の添加により、溶接熱影響部の焼入性を増大させ、その結果、フェライト生成を抑制し、上部ベイナイト化させ、靭性を劣化させる。0.005%を超えると、このような作用を生じ、溶接熱影響部靭性を劣化させるため、0.005%以下とする。本発明では実質、無添加とすることが望ましい。
Ti:0.005〜0.03%
Tiは、TiNを生成することにより、溶接熱影響部の組織微細化に有効である。この効果を発揮するためには、0.005%以上必要である。一方、0.03%以上添加すると、TiCの析出により、母材靭性および熱影響部靭性を劣化させるため、0.005〜0.03%とする。望ましくは、0.008〜0.015%である。
Al≦0.1%
Alは、脱酸元素であるが、0.1%を超えると、Alを生成し、鋼の清状度を劣化させる。そのため、0.1%以下とする。なお、望ましくは、0.020〜0.060%である。
N:0.0025〜0.0070%
Nは、TiNを生成することにより、溶接熱影響部の組織微細化に有効である。この効果を発揮するためには、0.0025%以上必要である。一方、0.0070%を超えて含有すると、溶接熱影響部において固溶Nが増大し、靭性を劣化させるようになるため、0.0025〜0.0070%とする。望ましくは、0.0030〜0.0060%である。
O:0.001〜0.003%
Oは、不可避的不純物元素として混入する元素であり、含有量は低いほうが望ましい。しかし、過度に酸素を低減させることは、溶製工程での製造コスト上昇につながる。一方、0.003%を超えて含有すると酸化物系介在物が増加し、鋼の清状度を劣化させるため、0.001〜0.003%とする。望ましくは、0.001〜0.0025%である。
Ca:0.0005〜0.005%
Caは、ACR値を求める上記(2)式を構成する元素の一つで、MnSの生成核となるCaSを形成する。CaSを核として生成したMnSは、大入熱溶接部の粒内フェライト生成および組織微細化に有効な作用を及ぼす。その効果を得るためには、0.0005%以上必要である。
一方、0.005%を超えて添加すると、Ca系酸化物が増大し、鋼の清状度を劣化させる。そのため、0.0005〜0.005%とする。望ましくは、0.0010〜0.0030%である。
Cu≦0.5%、Ni≦1.0%、Cr≦0.5%、V≦0.08%の1種または2種以上
Cuは、固溶強化として有効な元素であるが、0.5%を超える添加は、熱間延性の劣化させて、表面疵を増加させるため、添加する場合は、0.5%以下とする。
Niは、固溶強化として有効な元素であるが、1.0%を超える添加は、合金コストが上昇して、製造コストを上昇させるため、添加する場合は、1.0%以下とする。
Crは、固溶強化として有効な元素であるが、0.5%を超える添加は、溶接性を劣化させるため、添加する場合は、0.5%以下とする。
Vは、固溶強化あるいは析出強化として有効な元素であるが、0.08%を超える添加は、合金コストが上昇して、製造コストを上昇させるため、添加する場合は、0.08%以下とする。
Ceq:0.40〜0.45%
Ceq(=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5、但し、各元素は含有量(質量%)で、含有しない場合は0とする)は、強度および大入熱溶接部靭性を規制する。0.40%未満では強度が確保できず、一方、0.45%を超えると、大入熱溶接部の靭性が劣化するため、0.40〜0.45%とする。
ACR:0.2〜0.8
ACR(=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S))は、大入熱溶接部靭性を規制する。0.2%未満の場合には、フェライト生成に必要なCa系硫化物の生成量が減少し、大入熱溶接部靭性改善効果を得られない。一方、0.8%を超えると、Ca系硫化物を生成させるが、それを核としてMnSを生成することができず、フェライト生成による熱影響部微細化効果を得ることが出来ないため、0.2〜0.8%に規制する。
以上が、本発明の基本成分組成であるが、更に溶接熱影響部の靭性を向上させる場合、
Mg≦0.005%、REM≦0.02%の1種または2種を添加する。
Mg、REMは、酸硫化物を生成し、熱影響部でフェライト生成および組織微細化に有効な元素であるが、過剰に添加すると鋼の清状度を劣化させる。そのため、Mgを添加する場合は0.005%以下、REMを添加する場合は、0.02%以下とする。
更に、本発明では、ミクロ組織において、フェライト分率を〜40%とし、鋼板表面の硬度を350HV10kgf以下とする。フェライト分率は、降伏比を制御するため規制し、フェライト分率が%未満の場合には、降伏比80%以下が得られず、一方、40%を超えると、強度確保が困難となるため、〜40%とする。望ましくは10〜30%である。
表面硬度は、表面の延性を改善するため規制する。前掲した図1に示すごとく、表面硬度が350HV10kgf超えとなると、表層付近の延性が低下するため、350HV10kgf以下とする。
本発明に係る鋼板は上述した組成の鋼片を、常法で溶製後、スラブ加熱温度1000〜1200℃で加熱し、その後、圧延終了温度をAr変態点以上とする熱間圧延を行う。
加熱温度;1000〜1200℃
加熱温度が1000℃未満では、その後の圧延における変形抵抗が高くなりすぎる。また、1200℃を超えると、加熱時の初期の組織が粗大化し、それを引き継いで、母材の靭性が劣化する。そのため、1000〜1200℃とする。
圧延終了温度をAr変態点以上
圧延終了温度がAr変態点未満となると、圧延中にフェライトが生成し、フェライトが微細化してしまい、降伏比が上昇する。そのため、Ar変態点以上とする。熱間圧延終了後、板厚や焼戻しの有無に応じて、以下に示す冷却条件1〜3のいずれかで加速冷却を行う。
冷却条件1(対象板厚40〜100mm)
加速冷却速度:3〜20℃/s
加速冷却速度が3℃/s未満では、フェライト分率が40%を超え、目標とする引張強度590MPa以上の強度が確保できない。一方、20℃/s超えでは、フェライト分率が3%未満となり、目標とする降伏比80%以下の低降伏比とすることができない。そのため、3〜20℃/sとする。
冷却停止温度:400〜200℃
冷却停止温度:400〜200℃は、焼戻しを実施しない場合の条件で、400℃超えでは、強度確保が困難となり、200℃未満では、冷却歪などにより形状を確保することが困難となるため、400〜200℃とする。
冷却条件2(対象板厚40〜100mm)
冷却条件2は焼戻し有りの場合に適用するもので、加速冷却速度:3〜20℃/sで冷却後の冷却停止温度を400〜50℃とする。焼戻し熱処理を実施する場合には、焼戻しの加熱時に鋼板形状を矯正することが可能となるため、より低温まで停止温度を拡大することができるため、400〜50℃とする
焼戻し温度:450℃以下
焼戻し温度が450℃を超えると、強度が低下し、降伏比が上昇するため、450℃以下とする。
冷却条件3(対象板厚19〜40mm)
また、40mm以下の薄物材の場合には、高冷却速度、かつ、冷却停止温度を高温としても、冷却条件1,2による組織形態が得られる。
加速冷却速度:25℃/s以上
加速冷却速度が25℃/s未満では、目標とする引張強度590MPa以上の強度が確保できないため、25℃/s以上とする。
冷却停止温度:650〜500℃
冷却停止温度が650℃を超えると、フェライト分率が40%を超えるため目標とする引張強度590MPa以上の強度が確保が出来ず、一方、500℃未満では、フェライトが生成せず、目標とする降伏比80%以下の低降伏比とすることができないため、650〜500℃とする。望ましくは600〜500℃である。なお、450℃以下の焼戻しを施しても良い。尚、板厚40mmの鋼板を製造する場合は、冷却条件1〜3のいずれの条件を適用しても良い。
表1に示す組成の溶鋼を真空溶解炉にて溶製後、種々の条件で圧延ー冷却を行い、得られた鋼板について表面硬度測定、引張試験、エレクトロスラグ溶接部の熱影響部のシャルピ−衝撃試験を実施した。表1において、鋼記号A,B、C,Dは本発明範囲、鋼記号E,F、Gは本発明範囲外の成分組成である。
表面硬度測定は、ビッカ−ス硬度で、表層下0.5mm位置を20点測定し、その最大値とした。引張試験は、板厚40〜70mmtの鋼板に関しては、JIS Z2201に準拠して、JIS4号試験片を、1/4t位置、1/2t位置の2箇所からから採取し、引張特性(降伏応力、引張強さ、降伏比)を調査した。
板厚19〜40mmtの鋼板に関しては、JIS Z2201に準拠して、JIS5号試験片を、全厚位置から採取し、引張特性(降伏応力、引張強さ、降伏比)を調査した。
また、大入熱溶接部靭性は、板厚40〜100mmの鋼板に関しては、入熱960kJ/cmのエレクトロスラグ溶接を実施し、BOND部から1mm離れた熱影響部のシャルピ−衝撃試験(試験温度0℃)を実施し、シャルピ−試験片3本の平均値で評価した。
板厚19〜40mmの鋼板については、入熱400kJ/cmのエレクトロスラグ溶接を実施し、BOND部から1mm離れた熱影響部のシャルピ−衝撃試験(試験温度0℃)を実施し、シャルピ−試験片3本の平均値で評価した。
表2に板厚40〜100mmの鋼板、表3に板厚19〜40mmの鋼板のスラブ加熱ー圧延ー冷却条件、ミクロ組織および上記試験の結果を示す。本発明の目標性能は、全ての板厚において、表面硬度350HV10kgf以下、降伏比80%以下、引張強度590MPa以上である。
表2、3より明らかなように本発明例(表2中、No.1〜4、表3中、No.15)は降伏比、強度、表面硬度の何れもが目標性能を満足し、大入熱溶接部靭性も100J以上である。
一方、比較例(表2中、No.4,6,7,9〜14、表3中、No.16〜18)は、降伏比、強度、表面硬度の何れかが本発明の目標性能を満足せず、更に大入熱溶接部靭性も本発明例と比較して劣る場合がある(表2中、No.11〜14)。
Figure 0005407477
Figure 0005407477
Figure 0005407477

Claims (5)

  1. 質量%で、C:0.03〜0.07%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.6〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.0005〜0.003%、Mo≦0.01%,Nb≦0.005%、Ti:0.005〜0.03%、Al:0〜0.1%、N:0.0025〜0.0070、O:0.001〜0.003%、Ca:0.0005〜0.005%であり、更に、Cu≦0.5%、Ni≦1.0%、Cr≦0.5%、V≦0.08%の1種または2種以上含み、下記(1)式で定義されるCeqが0.40〜0.45%、かつ下記(2)式で示されるACRが0.2〜0.8を満足する、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ、ミクロ組織中のフェライト分率が3〜40%であることを特徴とする表面硬度350HV10kgf以下、降伏比80%以下、引張強度590MPa以上の大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板。
    Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 −−−(1)
    ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S)−−−−−(2)
    但し、各元素は含有量(質量%)で、含有しないものは0とする。
  2. 前記組成にさらに、Mg≦0.005%、REM≦0.02%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の低降伏比建築構造用厚鋼板。
  3. 請求項1または2に記載の組成を有する鋼素材を1000〜1200℃に加熱後、圧延終了温度をAr変態点以上とする圧延を施し、ついで、平均冷却速度:3〜20℃/s以上で冷却停止温度:400〜200℃とする加速冷却を行った後、空冷することを特徴とするミクロ組織中のフェライト分率が3〜40%であることを特徴とする表面硬度350HV10kgf以下、降伏比80%以下、引張強度590MPa以上の大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。
  4. 請求項1または2に記載の組成を有する鋼素材を1000〜1200℃に加熱後、圧延終了温度をAr変態点以上とする圧延を施し、ついで、平均冷却速度:3〜20℃/sで冷却停止温度:400〜50℃とする加速冷却を行った後、450℃以下の温度で焼戻すことを特徴とするミクロ組織中のフェライト分率が3〜40%であることを特徴とする表面硬度350HV10kgf以下、降伏比80%以下、引張強度590MPa以上の大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。
  5. 請求項1または2に記載の組成を有する鋼素材を1000〜1200℃に加熱後、圧延終了温度をAr変態点以上とする圧延を施し、ついで、平均冷却速度:25℃/s以上で冷却停止温度:650〜500℃とする加速冷却を行った後、空冷することを特徴とするミクロ組織中のフェライト分率が3〜40%であることを特徴とする表面硬度350HV10kgf以下、降伏比80%以下、引張強度590MPa以上の大入熱溶接部靭性に優れた板厚19〜40mmの低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。
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