意外にも、ポリカーボネート、特定の種類の芳香族スルホネート化合物、および任意選択の対電離放射線安定化剤を含む熱可塑性組成物は、ガンマ放射に被曝したときの黄変に対して顕著に向上した耐性を有することを発見した。この芳香族スルホネート化合物は、好都合にも、他の既知の安定剤が同等のポリカーボネートを含有する組成物中でガンマ線放射に被曝した後に同等の黄変耐性をもたらすのに必要とされる量よりも少ない量で存在する。芳香族スルホネート化合物の使用は、力学的性質を、ポリカーボネートを含む安定化されていない熱可塑性組成物と同じまたは同等のレベルに維持するのに役立つ。
本明細書で使用する「アルキル」という用語は、直鎖または分岐鎖の一価炭化水素基のことであり; 「アルキレン」は直鎖または分岐鎖の二価炭化水素基のことであり;「アルキリデン」は直鎖または分岐鎖の二価炭化水素基で両方の原子価を単一で共通の炭素原子に有するもののことであり;「アルケニル」は直鎖または分岐鎖の一価炭化水素基で炭素-炭素二重結合によって結合された少なくとも2つの炭素を有するもののことであり;「シクロアルキル」は非芳香族の一価単環式または複環式炭化水素基で少なくとも3つの炭素原子を有するもののことであり;「シクロアルキレン」は非芳香族の脂環式二価炭化水素基で少なくとも3つの炭素原子を有するもので、少なくとも不飽和度1を有するもののことであり; 「アリール」は芳香族一価の基で1つまたは複数の芳香環中には炭素だけを含有するもののことであり;「アリーレン」は芳香族二価の基で1つまたは複数の芳香環中には炭素だけを含有するもののことであり;「アルキルアリール」は上で定義したアルキル基で置換されているアリール基のことであり、4-メチルフェニルが例となるアルキルアリール基であり;「アリールアルキル」は1つの上で定義したアリール基で置換されているアルキル基のことであり、ベンジルが例となるアリールアルキル基であり;「アシル」はカルボニル炭素ブリッジ-(C(=O)-)を通じて結合されている、表示された数の炭素原子を有する、上で定義したアルキル基のことであり;「アルコキシ」は酸素ブリッジ(-O-)を介して結合されている、表示された数の炭素原子を有する、上で定義したアルキル基のことであり; 「アリールオキシ」は酸素ブリッジ(-O-)を介して結合されている、表示された数の炭素原子を有する、上で定義したアリール基のことである。
別途に記述のない限り、前述の基のそれぞれは、非置換でも、置換が化合物の合成、安定性または使用に顕著な悪影響を与えなければ、置換されていてもよい。本明細書で使用する「置換された」という用語は、指示された原子または基の任意の1つまたは複数の水素が他の基で置換されていることを意味するが、指示された原子の正常な原子価を超えないという条件が付く。置換基がオキソ(すなわち=O)である場合は、この原子上の2つの水素が置換されている。置換基および/または変数の組合せは、その置換が化合物の合成または使用に顕著な悪影響を与えなければ許容される。
「置換された」位置に存在し得る例となる基には、これらだけには限定されないが、ハロゲン;シアノ;ヒドロキシル;ニトロ;アジド;アルカノイル(C2〜C6アルカノイル基など、例えばアシルなど);カルボキサミド;アルキル基(通常1〜約8個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子を有する);シクロアルキル基、アルケニルおよびアルキニル基(1つまたは複数の不飽和結合および2〜約8個または2〜約6個の炭素原子を有する基を含む);1つまたは複数の酸素結合および1〜約8個または1〜約6個の炭素原子を有するアルコキシ基;フェノキシなどのアリールオキシ;1つまたは複数のチオエーテル結合および1〜約8個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子を有するものを含むアルキルチオ基;1つまたは複数のスルフィニル結合および1〜約8個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子を有するものを含むアルキルスルフィニル基;1つまたは複数のスルホニル結合および1〜約8個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子を有するものを含むアルキルスルホニル基;1つまたは複数のN原子および1〜約8個または1〜約6個の炭素原子を有する基を含むアミノアルキル基;6個以上の炭素原子および1つまたは複数の環を有するアリール(例えば、それぞれの環が置換または非置換の芳香環である、フェニル、ビフェニル、ナフチルなど);1〜3個の分離または縮合した環および6〜約18個の環炭素原子を有するアリールアルキルであって、ベンジルが例となるアリールアルキル基であり;または1〜3個の分離または縮合した環および6〜約18個の環炭素原子を有するアリールアルコキシであって、ベンジルオキシが例となるアリールアルコキシ基が含まれる。
本熱可塑性組成物はポリカーボネートを含む。本明細書で使用する「ポリカーボネート」および「ポリカーボネート樹脂」という用語は、下記式(1) の反復するカーボネート構造単位を有する組成物を意味する:
上記式中、R1基の全数の少なくとも60パーセントは芳香族有機基であり、その残りは脂肪族、脂環族、または芳香族の基である。一実施形態では、それぞれのR1は芳香族有機基、例えば下記式(2)の基であり、
上記式中、A1およびA2のそれぞれは単環式の二価アリール基であり、Y1はA1をA2から隔てる1つまたは2つの原子を有する架橋基である。例となる一実施形態では、1つの原子がA1をA2から隔てる。この種の基の例示的で非限定的な例は、-O-、-S-、-S(O)-、-S(O2)-、-C(O)-、メチレン、シクロヘキシルメチレン、2-[2.2.1]-ビシクロヘプチリデン、エチリデン、イソプロピリデン、ネオペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロペンタデシリデン、シクロドデシリデン、およびアダマンチリデンである。架橋基Y1は、メチレン、シクロヘキシリデン、またはイソプロピリデンなどの、炭化水素基または飽和炭化水素基であってよい。
ポリカーボネートは、下記式(3) のジヒドロキシ化合物:
[上記式中、Y1、A1、A2は上記の通り]
を含む式HO-R1-OHを有するジヒドロキシ化合物の界面反応によって製造され得る。下記一般式(4)のビスフェノール化合物も含まれる:
[上記式中、RaおよびRbは、それぞれハロゲン原子または一価炭化水素基を表し、同じでも異なってもよく; pおよびqは、それぞれ独立に、0〜4の整数であり; Xaは下記式群(5) の1つを表す:
[上記式中、RcおよびRdは、それぞれ独立に、水素原子または一価直鎖または環状炭化水素基を表し、Reは二価炭化水素基である]]。
適当なジヒドロキシ化合物の一部の例示的、非限定的な例には以下のものが含まれる:レゾルシノール、4-ブロモレゾルシノール、ヒドロキノン、4,4'-ジヒドロキシビフェニル、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルメタン、1,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、1,1-ビス(ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)イソブテン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、トランス-2,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブテン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)アダマンチン、α,α'-ビス(4-ヒドロキシフェニル)トルエン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アセトニトリル、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-エチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-n-プロピル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-イソプロピル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-sec-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アリル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1-ジクロロ-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチレン、1,1-ジブロモ-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチレン、1,1-ジクロロ-2,2-ビス(5-フェノキシ-4-ヒドロキシフェニル)エチレン、4,4'-ジ
ヒドロキシベンゾフェノン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノン、1,6-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,6-ヘキサンジオン、エチレングリコールビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオリン、2,7-ジヒドロキシピレン、6,6'-ジヒドロキシ-3,3,3',3'-テトラメチルスピロ(ビス)インダン(「スピロビインダンビスフェノール」)、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタリド、2,6-ジヒドロキシジベンゾ-p-ジオキシン、2,6-ジヒドロキシチアンスレン、2,7-ジヒドロキシフェノキサチン、2,7-ジヒドロキシ-9,10-ジメチルフェナジン、3,6-ジヒドロキシジベンゾフラン、3,6-ジヒドロキシジベンゾチオフェン、および2,7-ジヒドロキシカルバゾールなど、並びに、少なくとも1つのこれらのジヒドロキシ化合物を含む組合せ。
式(3)によって表されるビスフェノール化合物の種類の具体的な例には、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(本明細書では以後「ビスフェノールA」または「BPA」)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-1-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-t-ブチルフェニル)プロパン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタルイミジン、2-フェニル-3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタルイミジン(PPPBP)、および1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン(DMBPC)が含まれる。これらのジヒドロキシ化合物の少なくとも1つを含む組合せも使用することができる。
分岐ポリカーボネートも、直鎖ポリカーボネートと分岐ポリカーボネートのブレンドと同様に有用である。分岐ポリカーボネートは、重合時に分岐剤を添加することによって調製することができる。これらの分岐剤には、ヒドロキシル、カルボキシル、カルボン酸無水物、ハロホルミル、およびこれらの官能基の混合基、から選択された少なくとも3つの官能基を有する多官能性有機化合物が含まれる。具体的な例には、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、トリメリット酸トリクロリド、トリス-p-ヒドロキシフェニルエタン、イサチン-ビスフェノール、トリス-フェノールTC(1,3,5-トリス((p-ヒドロキシフェニル)イソプロピル)ベンゼン)、トリス-フェノールPA(4(4(1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-エチル)α,α-ジメチルベンジル)フェノール)、4-クロロホルミルフタル酸無水物、トリメシル酸、およびベンゾフェノンテトラカルボン酸が含まれる。分岐剤は、ポリカーボネートの0.05〜2.0重量%のレベルで添加すればよい。あらゆる種類のポリカーボネート末端基は、かかる末端基が熱可塑性組成物の所望の性質に顕著な影響を及ぼさなければ、ポリカーボネート中で有用であるものと考えられる。
特定の一実施形態では、ポリカーボネートは、ビスフェノールAから得られる直鎖ホモポリマーであり、ここでは、A1およびA2のそれぞれがp-フェニレンであり、Y1がイソプロピリデンである。このポリカーボネートは、クロロホルム中25℃で測定して、0.3〜1.5デシリットル/グラム(dl/g)、特に0.45〜1.0dl/gの極限粘度を有しうる。このポリカーボネートは、架橋スチレン-ジビニルベンゼンカラムを使用してサンプル濃度1ミリグラム/ミリリットルでゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定し、かつポリカーボネート標準物質で較正して、平均重量分子量(Mw)10,000〜100,000を有してよい。
一実施形態では、本ポリカーボネートは、薄い物品を製造するのに適した流動特性を有している。溶融物の容積流量(メルトボリュームフローレート、しばしばMVRと略す)は、所定の温度および荷重で、オリフィスを通過する熱可塑性プラスチックの押出速度を測定するものである。薄い物品の形成に適したポリカーボネートは、300℃/1.2kgでASTM D1238-04に準拠して測定して0.5〜80立方センチメートル/10分間(cc/10min)のMVRを有していてよい。特定の一実施形態では、適当なポリカーボネート組成物は、300℃/1.2kgでASTM D1238-04に準拠して測定して0.5〜50cc/10min、特に0.5〜25cc/10min、より特には1〜15cc/10minのMVRを有する。異なる流動特性のポリカーボネートの混合物を、全体としての所望の流動特性を達成するために使用することができる。
このポリカーボネートは、3.2±0.12ミリメートルの厚さでASTM D1003-00に準拠して測定して55%以上、特に60%以上、より特に70%以上の光透過率を有することができる。このポリカーボネートはまた、3.2±0.12ミリメートルの厚さでASTM D1003-00に準拠して測定して50%以下、特に40%以下、最も特に30%以下のヘイズを有してもよい。
使用する「ポリカーボネート」および「ポリカーボネート樹脂」は、カーボネート鎖単位を含むコポリマーのことをも言う。具体的な適当なコポリマーは、ポリエステル-ポリカーボネートであり、コポリエステル-ポリカーボネートおよびポリエステル-カーボネートとしても知られている。ポリカーボネートおよびポリエステル-ポリカーボネートの組合せも使用することができる。本明細書で使用する「組合せ」は、すべての混合物、ブレンド、アロイ、反応生成物などを含めたものである。ポリエステル-ポリカーボネートは、式(1)のカーボネート鎖反復単位に加えて下記式(6)の反復単位を含有する:
[上記式中、Dはジヒドロキシ化合物から誘導される二価の基であり、例えばC2〜10アルキレン基、C6〜20脂環族基、C6〜20芳香族基、またはアルキレン基が2〜6個の炭素原子、特に2、3または4個の炭素原子を含むポリオキシアルキレン基でよく; Tはジカルボン酸から誘導される二価の基であり、例えばC2〜10アルキレン基、C6〜20脂環族基、C6〜20アルキル芳香族基、またはC6〜20芳香族基でよい]。
一実施形態では、DはC2〜6アルキレン基である。他の一実施形態では、Dは下記式(7)の芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導される:
[上記式中、それぞれのRfは独立に、ハロゲン原子、C1〜10炭化水素基またはC1〜10ハロゲン置換炭化水素基であり、nは0〜4である]。ハロゲンは通常臭素である。式(7)によって表すことができる化合物の例には、レゾルシノール、置換レゾルシノール化合物、例えば5-メチルレゾルシノール、5-エチルレゾルシノール、5-プロピルレゾルシノール、5-ブチルレゾルシノール、5-t-ブチルレゾルシノール、5-フェニルレゾルシノール、5-クミルレゾルシノール、2,4,5,6-テトラフルオロレゾルシノール、2,4,5,6,-テトラブロモレゾルシノールなど;カテコール;ヒドロキノン;置換ヒドロキノン、例えば2-メチルヒドロキノン、2-エチルヒドロキノン、2-プロピルヒドロキノン、2-ブチルヒドロキノン、2-t-ブチルヒドロキノン、2-フェニルヒドロキノン、2-クミルヒドロキノン、2,3,5,6-テトラメチルヒドロキノン、2,3,5,6-テトラ-t-ブチルヒドロキノン、2,3,5,6-テトラフルオロヒドロキノン、2,3,5,6-テトラブロモヒドロキノンなど; またはこれらの化合物の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
ポリエステルを調製するために使用することができる芳香族ジカルボン酸の例には、イソフタル酸またはテレフタル酸、1,2-ジ(p-カルボキシフェニル)エタン、4,4'-ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4'-ビス安息香酸、およびこれらの酸の少なくとも1つを含む混合物が含まれる。1,4-、1,5-、または2,6-ナフタレンジカルボン酸などの縮合環を含有する酸も存在することができる。具体的なジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、またはこれらの混合物である。具体的なジカルボン酸は、イソフタル酸とテレフタル酸の重量比が91:1〜2:98であるイソフタル酸およびテレフタル酸の混合物を含む。他の特定の一実施形態では、DはC2〜6アルキレン基であり、Tはp-フェニレン、m-フェニレン、ナフタレン、二価の脂環式基、またはこれらの混合である。この種のポリエステルには、ポリ(アルキレンテレフタレート)が含まれる。
エステル単位に加えて、ポリエステル-ポリカーボネートは本明細書で上述したカーボネート単位を含む。式(1)のカーボネート単位は式(7)の芳香族ジヒドロキシ化合物からも得ることができ、ここでは具体的なカーボネート単位はレゾルシノールカーボネート単位である。
特に、ポリエステル-ポリカーボネートのポリエステル単位は、イソフタル二塩基酸およびテレフタル二塩基酸(またはこれらの誘導体)の組合せと、レゾルシノール、ビスフェノールまたは少なくともこれらの1つを含む組合せとの反応から得ることができ、このときのイソフタレート単位とテレフタレート単位のモル比は、91:9〜2:98、特に85:15〜3:97、より特には80:20〜5:95、さらにより特には70:30〜10:90である。ポリカーボネート単位は、レゾルシノールおよび/またはビスフェノールAから、レゾルシノールカーボネート単位とビスフェノールAカーボネート単位とのモル比0:100〜99:1で得ることができ、ポリエステル-ポリカーボネート中の混合イソフタレート-テレフタレートポリエステル単位とポリカーボネート単位のモル比は1:99〜99:1、特に5:95〜90:10、より特には10:90〜80:20であることができる。ポリエステル-ポリカーボネートとポリカーボネートとのブレンドを使用する場合は、ブレンド中のポリエステル-ポリカーボネートとポリカーボネートとの比は、それぞれ1:99〜99:1、特に10:90〜90:10であることができる。
ポリエステル-ポリカーボネートは、1,500〜100,000、特に1,700〜50,000、より特に2,000〜40,000の平均分子量(Mw)を有していてよい。分子量の決定は、架橋スチレン-ジビニルベンゼンカラムを使用し、ポリカーボネート標準物質に対して較正されるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用して実施する。サンプルは約1mg/mlの濃度で調製し、約1.0ml/minの流量で溶出させる。
好適なポリカーボネートは界面重合および溶融重合などの方法によって製造することができる。界面重合の反応条件はさまざまであり得るが、例となる方法は一般的に二価フェノール反応剤を苛性ソーダまたは苛性カリ水溶液中に溶解または分散させ、反応混合物を水と非混和性の適当な溶媒中に加え、かつ反応剤をカーボネート前駆体と適当な触媒、例えばトリエチルアミンまたは相間移動触媒の存在下で、例えば8〜10に制御されたpH条件下で接触させる。最も一般的に使用される水と非混和性の溶媒には、メチレンクロリド、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエンなどが含まれる。適当なカーボネート前駆体には、例えばカルボニルブロマイドまたはカルボニルクロリドなどのカルボニルハライド、または二価フェノールのビスハロホルメート(例えば、ビスフェノールAまたはヒドロキノンなどのビスクロロホルメート)またはグリコールのハロホルメート(例えば、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコールなどのビスハロホルメート)などのハロホルメートが含まれる。これらの種類のカーボネート前駆体の少なくとも1つを含む組合せも使用することができる。連鎖停止剤(キャッピング剤とも呼ばれる)を重合時に含めることもできる。連鎖停止剤は分子量の成長を制限し、ポリカーボネートの分子量を制御する。連鎖停止剤は、モノフェノール化合物、モノカルボン酸クロリド、および/またはモノクロロホルメートの少なくとも1つでよい。
例えば、連鎖停止剤として適当なモノフェノール化合物には、単環式フェノール、例えば、フェノール、C1〜C22アルキル置換フェノール、p-クミルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、ヒドロキシジフェニル;ジフェノールのモノエーテル、例えばp-メトキシフェノールなどが含まれる。アルキル置換フェノールには、8〜9個の炭素原子を有する分岐鎖アルキル置換基を有するものが含まれる。モノフェノール性UV吸収剤もキャッピング剤として使用することができる。こうした化合物には、4-置換-2-ヒドロキシベンゾフェノンおよびこれらの誘導体、アリールサリシレート、ジフェノールのモノエステル、例えばレゾルシノールモノベンゾエート、2-(2-ヒドロキシアリール)-ベンゾトリアゾールおよびこれらの誘導体、2-(2-ヒドロキシアリール)-1,3,5-トリアジンおよびこれらの誘導体などが含まれる。特に、モノフェノール連鎖停止剤には、フェノール、p-クミルフェノール、および/またはレゾルシノールモノベンゾエートが含まれる。
モノカルボン酸クロリドも連鎖停止剤として好適であり得る。これらには、単環式、モノカルボン酸クロリド、例えばベンゾイルクロリド、C1〜C22アルキル置換ベンゾイルクロリド、トルオイルクロリド、ハロゲン置換ベンゾイルクロリド、ブロモベンゾイルクロリド、シンナモイルクロリド、4-ナジミドベンゾイルクロリド、およびこれらの混合物、多環式モノカルボン酸クロリド、例えばトリメリット酸無水物クロリド、およびナフトイルクロリド; および単環式および多環式モノカルボン酸クロリドの混合物が含まれる。22個までの炭素原子を有する脂肪族モノカルボン酸のクロリドが適当である。脂肪族モノカルボン酸の官能化されたクロリド、例えばアクリロイルクロリドおよびメタクリロイルクロリドも適当である。単環式、モノクロロホルメート、例えばフェニルクロロホルメート、アルキル置換フェニルクロロホルメート、p-クミルフェニルクロロホルメート、トルエンクロロホルメート、およびこれらの混合物を含むモノクロロホルメートも適当である。
ポリエステル-ポリカーボネートは、界面重合によって調製することができる。ジカルボン酸自体を使用するのではなく、対応するハライド、特に酸ジクロリドおよび酸ジブロマイドなどの酸の誘導体を使用することが可能であり、時には好ましくさえある。したがって、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、またはこれらの混合物を使用する代わりにイソフタロイルジクロリド、テレフタロイドジクロリド、およびこれらの混合物を使用することが可能である。
使用することができる相間移動触媒の中には式(R3)4Q+Xの触媒があり、式中、それぞれのR3は、同じまたは異なって、C1〜10アルキル基であり;Qは窒素またはリン原子であり;Xはハロゲン原子またはC1〜8アルコキシ基またはC6〜18アリールオキシ基である。適当な相間移動触媒には、例えば、[CH3(CH2)3]4NX、[CH3(CH2)3]4PX、[CH3(CH2)5]4NX、[CH3(CH2)6]4NX、[CH3(CH2)4]4NX、CH3[CH3(CH2)3]3NX、及びCH3[CH3(CH2)2]3NXが含まれ、式中、XはCl-、Br-、C1〜8アルコキシ基、またはC6〜18アリールオキシ基である。相間移動触媒の有効量は、ホスゲン化反応混合物中のビスフェノールの重量に対して0.1〜10重量%でよい。他の一実施形態では、相間移動触媒の有効量は、ホスゲン化反応混合物中のビスフェノールの重量に対して0.5〜2重量%でよい。
あるいは、溶融法を使用してポリカーボネートを製造してもよい。一般的に、溶融重合法においては、ポリカーボネートは溶融状態でジヒドロキシ反応物質およびジアリールカーボネートエステル、例えばジフェニルカーボネートなどを、エステル交換触媒の存在下でBanbury(登録商標)ミキサー、二軸スクリュー押出機などの中で共反応させて均一な分散体を形成させることによって調製することができる。揮発性の一価フェノールを蒸留によって溶融反応物質から除去して、ポリマーを溶融残留物として単離する。ポリカーボネートの製造に特に有用な溶融法は、電子吸引性の置換基をアリール上に有するジアリールカーボネートエステルを使用する。特に有用な電子吸引性の置換基を有するジアリールカーボネートエステルには、ビス(4-ニトロフェニル)カーボネート、ビス(2-クロロフェニル)カーボネート、ビス(4-クロロフェニル)カーボネート、ビス(メチルサリチル)カーボネート、ビス(4-メチルカルボキシルフェニル)カーボネート、ビス(2-アセチルフェニル)カルボキシレート、ビス(4-アセチルフェニル)カルボキシレート、またはこれらの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。加えて、使用に適するエステル交換触媒には、上記式(R3)4Q+Xの相間移動触媒が含まれることがあり、式中のR3、Q、およびXのそれぞれは上で規定した通りである。適当なエステル交換触媒の例には、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムフェノレート、またはこれらの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
ホモポリカーボネート、ポリエステル-ポリカーボネート、および上に記載のこれらの組合せに加えて、ホモポリカーボネートおよびポリエステル-ポリカーボネートの他の熱可塑性ポリマーとの組合せ、例えばホモポリカーボネートおよび/またはポリカーボネートとポリエステルのコポリマーの組合せを使用することも可能である。適当なポリエステルは、式(6)の反復単位を含み、例えばポリ(アルキレンジカルボキシレート)、液晶ポリエステル、およびポリエステルコポリマーであってよい。分岐剤、例えば3つ以上のヒドロキシル基を有するグリコールまたは三官能性もしくは多官能性カルボン酸が導入された分岐ポリエステルを使用することも可能である。さらに、組成物の最終用途に応じてポリエステル上にさまざまな濃度の酸およびヒドロキシル末端基を有することが望ましいことがある。
ポリエステルの有用な種類の1例は、ポリ(アルキレンテレフタレート)である。ポリ(アルキレンテレフタレート)の具体的な例には、これらだけには限定されないが、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(1,4-ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリ(エチレンナフタノエート)(PEN)、ポリ(ブチレンナフタノエート)(PBN)、ポリ(プロピレンテレフタレート)(PPT)、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート(PCT)およびこれらのポリエステルの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。ポリ(シクロヘキサンジメタノールテレフタレート)-co-ポリ(エチレンテレフタレート)も有用であり、ポリ(エチレンテレフタレート)を50モル%以上含むポリマーはPETGと略され、ポリ(シクロヘキサンジメタノールテレフタレート)を50モル%より多く含むポリマーはPCTGと略される。上記のポリエステルは、類似の脂肪族ポリエステル、例えばポリ(アルキレンシクロヘキサンジカルボキシレート)をも含むことができ、その一例はポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレン-1,4-シクロヘキサンジカルボキシレート)(PCCD)である。同様に、考えられるのは、コポリエステルを製造するための、脂肪族二塩基酸および/または脂肪族ポリオールから誘導される単位の少量、例えば0.5〜10重量%、を有する上記のポリエステルである。
ポリカーボネートは、ポリシロキサン-ポリカーボネートとも呼ばれるポリシロキサン-ポリカーボネートコポリマーも含んでもよい。このコポリマーのポリシロキサン(本明細書では「ポリジオルガノシロキサン」とも呼ぶ)ブロックは、下記式(8)のシロキサン反復単位(本明細書では「ジオルガノシロキサン単位」とも呼ぶ)を含む:
上記式中、Rは出現の都度同じまたは異なって、C1〜13の一価の有機基である。例えば、Rは独立に、C1〜C13アルキル基、C1〜C13アルコキシ基、C2〜C13アルケニル基、C2〜C13アルケニルオキシ基、C3〜C6シクロアルキル基、C3〜C6シクロアルコキシ基、C6〜C14アリール基、C6〜C10アリールオキシ基、C7〜C13アリールアルキル基、C7〜C13アリールアルコキシ基、C7〜C13アルキルアリール基、またはC7〜C13アルキルアリールオキシ基でよい。これらの基は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素、またはそれらの組合せで完全にまたは部分的にハロゲン化されていてもよい。同じコポリマー中で、これらのR基の組合せを用いることができる。
式(8)中のDの値は、熱可塑性組成物中のそれぞれの構成要素の種類および相対的な量、組成物の所望の性質などの意図に応じて幅広く変わり得る。一般的には、Dは2〜1,000、特に2〜500、より特に5〜100の平均値を有してよい。一実施形態では、Dは10〜75の平均値を有し、さらに他の一実施形態では、Dは40〜60の平均値を有する。Dがより低い値、例えば40未満の値を有する場合は、相対的に多い量のポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーを使用するのが望ましいことがありうる。反対に、Dがより高い値、例えば40を超える場合は、相対的に少ない量のポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーを使用することが必要なことがある。
第1および第2(またはそれ以上)のポリシロキサン-ポリカーボネートコポリマーの組合せで、第1のコポリマーのDの平均値が第2のコポリマーのDの平均値よりも小さいものを使用してもよい。
一実施形態では、ポリジオルガノシロキサンブロックは下記式(9)の反復構造単位によって提供される:
上記式中、Dは上で定義した通りであり;各Rは独立に、同じまたは異なってよく、上で定義した通りであり、それぞれのArは独立に、同じまたは異なってよく、置換または非置換のC6〜C30アリーレン基であり、その結合は直接芳香族部分に連結されている。式(9)中の適当なAr基は、C6〜C30ジヒドロキシアリーレン化合物、例えば上の式(3)、(4)、または(7)のジヒドロキシアリーレン化合物から得ることができる。先のジヒドロキシアリーレン化合物の少なくとも1つを含む組合せも使用することができる。適当なジヒドロキシアリーレン化合物の具体的な例は、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-1-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニルスルフィド)、および1,1-ビス(4-ヒドロキシ-t-ブチルフェニル)プロパンである。これらのジヒドロキシ化合物の少なくとも1つを含む組合せも使用することができる。
式(9)の単位は下記式(10)の対応するジヒドロキシ化合物から得ることができる:
上記式中、R、ArおよびDは上記の通りである。式(10)の化合物はジヒドロキシアリーレン化合物と、例えば、α,ω-ビスアセトキシポリジオルガノシロキサンとの、相間移動条件下での反応によって得ることができる。
他の一実施形態では、ポリジオルガノシロキサンブロックは下記式(11)の単位を含む:
上記式中、RおよびDは上記の通りであり、R1は出現の都度独立に、二価のC1〜C30アルキレンであり、重合したポリシロキサン単位はそれの対応するジヒドロキシ化合物の反応残基である。特定の一実施形態では、ポリジオルガノシロキサンブロックは下記式(12)の反復構造単位を備える:
上記式中、RおよびDは上で定義した通りである。式(12)中のそれぞれのR2は独立に、二価のC2〜C8脂肪族基である。式(12)中のそれぞれのMは同じまたは異なってよく、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1〜C8アルキルチオ、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、C2〜C8アルケニル、C2〜C8アルケニルオキシ基、C3〜C8シクロアルキル、C3〜C8シクロアルコキシ、C6〜C10アリール、C6〜C10アリールオキシ、C7〜C12アリールアルキル、C7〜C12アリールアルコキシ、C7〜C12アルキルアリール、またはC7〜C12アルキルアリールオキシであってよく、それぞれのnは独立に、0、1、2、3または4である。
一実施形態では、Mは、ブロモまたはクロロ、アルキル基、例えばメチル、エチル、もしくはプロピルなど、アルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシ、もしくはプロポキシなど、またはアリール基、例えばフェニル、クロロフェニル、もしくはトリルなどであり; R2は、ジメチレン、トリメチレン、またはテトラメチレン基であり; Rは、C1〜8アルキル、ハロアルキル、例えばトリフルオロプロピルなど、シアノアルキルまたはアリール、例えばフェニル、クロロフェニル、もしくはトリル、などである。他の一実施形態では、Rは、メチル、またはメチルとトリフルオロプロピルの混合、またはメチルとフェニルの混合である。さらに他の一実施形態では、Mはメトキシであり、nは1であり、R2は二価のC1〜C3脂肪族基であり、Rはメチルである。
式(12)の単位は対応するジヒドロキシポリジオルガノシロキサン(13)から誘導される:
上記式中、R、D、M、R2、およびnは上記の通りである。かかるジヒドロキシポリシロキサンは、下記式(14)のシロキサンヒドリドと、脂肪族不飽和一価フェノールとの間の白金を触媒とする付加を起こさせることによって製造することができる:
上記式中、RおよびDは先に規定した通りである。
適当な脂肪族不飽和の一価フェノールには、例えば、オイゲノール、2-アリルフェノール、4-アリル-2-メチルフェノール、4-アリル-2-フェニルフェノール、4-アリル-2-ブロモフェノール、4-アリル-2-t-ブトキシフェノール、4-フェニル-2-フェニルフェノール、2-メチル-4-プロピルフェノール、2-アリル-4,6-ジメチルフェノール、2-アリル-4-ブロモ-6-メチルフェノール、2-アリル-6-メトキシ-4-メチルフェノール、および2-アリル-4,6-ジメチルフェノールが含まれる。これらの少なくとも1つを含む混合物も使用することができる。
ポリシロキサン-ポリカーボネートは、50〜99重量%のカーボネート単位と、1〜50重量%のシロキサン単位とを含むことができる。この範囲内で、ポリシロキサン-ポリカーボネートコポリマーは、70〜98重量%、特に75〜97重量%のカーボネート単位と、2〜30重量%、特に3〜25重量%のシロキサン単位とを含むことができる。
一実施形態では、ポリシロキサン-ポリカーボネートは、ポリシロキサン単位と、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート単位、例えば式(3)のジヒドロキシ化合物(式3において、A1およびA2はそれぞれp-フェニレンであり、Y1はイソプロピリデンである)から得られるカーボネート単位を含むことができる。ポリシロキサン-ポリカーボネートは、架橋スチレン-ジビニルベンゼンカラムを使用してサンプル濃度1ミリグラム/ミリリットルでゲル浸透クロマトグラフィーによって測定し、ポリカーボネート標準物質で較正して2,000〜100,000、特に5,000〜50,000の重量平均分子量を有してもよい。
ポリシロキサン-ポリカーボネートは、1〜50立方センチメートル/10分間(cc/10min)、特に2〜30cc/10minの、300℃/1.2kgで測定した溶融物の容積流量(メルトボリュームフローレート)を有することができる。異なる流動特性のポリシロキサン-ポリカーボネートの混合物を使用して全体としての所望の流動特性を達成することができる。
熱可塑性組成物はさらに芳香族スルホネート化合物を含む。適当な芳香族スルホネート化合物には下記式(15)のものが含まれる:
(Y)m-Ar-(Z-S(O)2-X)n (15)
[上記式中、それぞれのXは独立に、置換もしくは非置換のC1〜C20アルキル、置換もしくは非置換のC1〜C20アリールアルキル、置換もしくは非置換のC6〜C20アリール、または置換もしくは非置換のC7〜C40アルキルアリールである]。
存在する場合のX基上の置換基は、例えば、ニトロ、ヒドロキシ、チオ、ハロゲン、またはC1〜C8アルコキシでよい。適当なX基の例には、これらだけには限定されないが、メチル、エチル、n-プロピル、2-メチルプロピル、n-ブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、n-ペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ドデシル、n-オクタデシル、n-エイコシル、カンホリル、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、パーフルオロエチル、パーフルオロ-n-ブチル、パーフルオロ-n-ヘキシル、パーフルオロ-n-オクチル、パーフルオロシクロヘキシル、パーフルオロ-(4-エチルシクロヘキシル)-2-エチル、ベンジル、2-メチルベンジル、3-メチルベンジル、4-メチルベンジル、フェニル、2-メチルフェニル、3-メチルフェニル、4-メチルフェニル、3,5-ジメチルフェニル、2,3-ジメチルフェニル、2,4-ジメチルフェニル、2,5-ジメチルフェニル、2,6-ジメチルフェニル、2,3,4-トリメチルフェニル、2,3,5-トリメチルフェニル、3,4,5-トリメチルフェニル、2,4,6-トリメチルフェニル、4-エチルフェニル、4-n-ブチルフェニル、4-tert-ブチルフェニル、2-トリフルオロメチルフェニル、4-トリフルオロメチルフェニル、4-メトキシフェニル、4-tert-ブトキシフェニル、4-フルオロフェニル、4-クロロフェニル、4-ブロモフェニル、ナフチル、C1〜C8アルキル置換ナフチル、C1〜C8アルキルエーテル置換ナフチル、ハロゲン置換ナフチルなどが含まれる。
また式(15)で、それぞれのZは、-O-、または置換もしくは非置換の-(O-C1〜20)w-O-から選択される酸素含有連結基であり、wは1〜20である。存在する場合は、-(-O-C1〜20)w-O-基上の置換基は、例えば、ニトロ、ヒドロキシ、チオ、ハロゲン、C1〜C8アルコキシ、C6〜C20アリール、またはC6〜C20アリールオキシでよい。適当なZ基には、酸素ジラジカル、エタンジオキシ、1,2-プロパンジオキシ、1,3-プロパンジオキシ、1,2-ブタンジオキシ、1,3-ブタンジオキシ、1,4-ブタンジオキシ、2,3-ブタンジオキシ、1,2-ペンタンジオキシ、1,3-ペンタンジオキシ、1,4-ペンタンジオキシ、1,5-ペンタンジオキシ、2,3-ペンタンジオキシ、2,4-ペンタンジオキシ、2-メチル-1,2-ブタンジオキシ、2-メチル-1,3-ブタンジオキシ、2-メチル-1,4-ブタンジオキシ、2-メチル-2,3-ブタンジオキシ、2,2-ジメチル-1,2-プロパンジオキシ、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオキシ、3,3-ジメチル-1,2-プロパンジオキシ、1,1-ジメチル-2,3-プロパンジオキシ、1,2-ヘキサンジオキシ、1,3-ヘキサンジオキシ、1,4-ヘキサンジオキシ、1,5-ヘキサンジオキシ、1,6-ヘキサンジオキシ、2,3-ヘキサンジオキシ、2,4-ヘキサンジオキシ、2,5-ヘキサンジオキシ、2-メチル-1,2-ペンタンジオキシ、2-メチル-1,3-ペンタンジオキシ、2-メチル-1,4-ペンタンジオキシ、2-メチル-2,3-ペンタンジオキシ、2-メチル-2,4-ペンタンジオキシ、2,2-ジメチル-1,2-ブタンジオキシ、2,2-ジメチル-1,3-ブタンジオキシ、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオキシ、1,1-ジメチル-2,3-ブタンジオキシなど;オクタンジオキシ、デカンジオキシ、ウンデカンジオキシ、ドデカンジオキシ、ヘキサデカンジオキシ、オクタデカンジオキシ、イコサナンジオキシ(icosananedioxy)、およびドコサナンジオキシ(docosananedioxy)の異性体;ならびに、置換または非置換のシクロプロパンジオキシ、シクロブタンジオキシ、シクロペンタンジオキシ、シクロヘキサンジオキシ、1,4-ジオキシメチルシクロヘキサン、ポリアルキレンジオ
キシ単位、例えば、エチレンジオキシ、1,2-プロピレンジオキシ、1,3-プロピレンジオキシ、1,2-ブチレンジオキシ、1,4-ブチレンジオキシ、1,6-へキシレンジオキシなどが含まれる。
また式(15)で、ArはC6〜C62芳香族基である。適当なAr基にはC6芳香族;C10縮合芳香族;C14縮合芳香族;C20縮合芳香族;およびイプチセンを含めたC20以上の縮合多環芳香族が含まれうる。適当なAr基の例には、これらだけには限定されないが、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、トリプチセン、テトライプチセン(tetraiptycene)、ペンタイプチセン(pentaiptycene)などが含まれる。また式(15)で、mは0〜3であり、nは3〜6である。一実施形態では、ArはC6芳香族基であり、原子価m+nを有し、m+nは6である。m+nが、利用できる原子価の数よりも小さい場合は、特定されていない原子価は水素によって占められる。-(Z-S(O)2-X)基は、Ar基上で互いにオルト、メタまたはパラに位置にあってよい。特定の一実施形態では、-(Z-S(O)2-X)基の少なくとも2つは、C6芳香族基上で互いにオルトに位置している。より特定の一実施形態では、それぞれの-(Z-S(O)2-X)基は、少なくとも1つの他の-(Z-S(O)2-X)基に対してオルトの位置にある。
また式(15)で、それぞれのYは独立に、C1〜C20アルキル、置換C1〜C20アルキル、C6〜C20アリール、C1〜C8アルキル置換C6〜C20アリール、ハロゲン、ニトロ、C1〜C20アルコキシカルボニル、C1〜C20アルコキシ、またはC1〜C20アシルである。適当なY基の例には、これらだけには限定されないが、ハロゲン(フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード); アルコキシカルボニル、例えば、メトキシカルボニル、エチルカルボニル、t-ブチルカルボニル、シクロヘキシルカルボニル、フェニルカルボニルなど;アルコキシ基、例えば、-OCH3、-OCH2CH3、-O-t-ブチル、-O-n-ブチル、-O-n-オクチルなど;アセチル、ピバロイル、n-オクチロイル、n-ドデコイル、n-ステアロイル、ベンゾイルなどを含む芳香環のフリーデルクラフツ型アシル化により得られたアシル基;メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、2-ペンチル、3-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、オクタデシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘキシル、アダマンチル、ノルボルニルなどを含むアルキル基; およびフェニル、C1〜C8アルキルフェニル、C1〜C8アルコキシフェニル、ハロフェニルなどを含むアリール基が含まれる。
式(15)の化合物は、スルホン酸またはその誘導体と、少なくとも3つのヒドロキシル基を有するポリヒドロキシ置換芳香族化合物との反応から得られる。スルホン酸の誘導体、例えばスルホン酸のハライド(例えば、フルオリドまたはクロリド)、無水物、および混合無水物が、ポリヒドロキシ置換芳香族化合物のスルホン化を行うのに有用である。芳香族スルホネート化合物を調製するための有用な形態に誘導体化することができるスルホン酸の例には、これらだけには限定されないが、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、n-プロパンスルホン酸、2-メチルプロパンスルホン酸、n-ブタンスルホン酸、2-メチルブタンスルホン酸、3-メチルブタンスルホン酸、n-ペンタンスルホン酸、2-メチルペンタンスルホン酸、3-メチルペンタンスルホン酸、4-メチルペンタンスルホン酸、n-ヘキサンスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸、n-オクタンスルホン酸、2-エチルヘキサンスルホン酸、n-ドデカンスルホン酸、n-オクタデカンスルホン酸、n-エイコサンスルホン酸、カンファースルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸(トリフリック酸(triflic acid)とも呼ばれる)、2,2,2-トリフルオロエタンスルホン酸、パーフルオロエタンスルホン酸、パーフルオロ-n-ブタンスルホン酸、パーフルオロ-n-ヘキサンスルホン酸、パーフルオロ-n-オクタンスルホン酸、パーフルオロシクロヘキサンスルホン酸、パーフルオロ-(4-エチルシクロヘキシル)-2-エチルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、2-メチルベンゼンスルホン酸、3-メチルベンゼンスルホン酸、4-メチルベンゼンスルホン酸(p-トルエンスルホン酸)、3,5-ジメチルベンゼンスルホン酸、2,3-ジメチルベンゼンスルホン酸、2,4-ジメチルベンゼンスルホン酸、2,5-ジメチルベンゼンスルホン酸、2,6-ジメチルベンゼンスルホン酸、2,3,4-トリメチルベンゼンスルホン酸、2,3,5-トリメチルベンゼンスルホン酸、3,4,5-トリメチルベンゼンスルホン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、tert-ブチルベンゼンスルホン酸、4-メトキシベンゼンスルホン酸、4-tert-ブトキシベンゼンスルホン酸、2-フルオロベンゼンスルホン酸、4-フルオロベンゼンスルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、4-ブロモベンゼンスルホン酸、2-トリフルオロメチルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルオキシナフタレンスルホン酸、ハロ置換ナフタレンスルホン酸などが含まれる。これらのものの誘導体のうちでは、p-トルエンスルホニルクロリド(トシルクロリドとも呼ばれる)、n-オクタンスルホニルクロリド、カンファースルホニルクロリド、パーフルオロ-n-ブタンスルホニルフロリド、パーフルオロブタンスルホニルクロリド、メタンスルホニルクロリド(メシルクロリドとも呼ばれる)、およびトリフルオロメタンスルホニルクロリドが特に有用である。
上で論じた通り、3つ以上のヒドロキシ基を有するポリヒドロキシ置換芳香族化合物を、上記スルホン酸誘導体と縮合させて式(15)の芳香族スルホネート化合物をもたらすことができる。適当なポリヒドロキシ置換芳香族化合物には、これらだけには限定されないが、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン(ピロガロール)、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、1,3,5-トリヒドロキシベンゼン(フロログルシノール)、1-メチル-3,4,5-トリヒドロキシベンゼンなどが含まれる。特に好適なポリ芳香族化合物の例は、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン(ピロガロール)である。ポリヒドロキシ芳香族化合物をスルホン酸誘導体と縮合させて式(15)の芳香族スルホネート化合物を形成させる場合は、スルホン酸誘導体のX基は脂肪族または芳香族のいずれでもよい。有用な芳香族スルホネート化合物の具体的な例には、これらだけには限定されないが、ピロガロールトリストシレート、ピロガロールトリスベンゼンスルホネート、ピロガロールトリスオクチルスルホネート、およびフロログルシノールトリストシレート、またはこれらの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
スルホン酸の誘導体と、ポリヒドロキシ芳香族化合物またはポリオールとの間の縮合反応は、一般的には有機溶媒を使用して塩基の存在下に単一相で行うことができ; あるいは、この縮合反応は、有機溶媒および水を使用して塩基の存在下に二相反応で行うこともできる。
上記芳香族スルホネート化合物は、放射、特にガンマ線への暴露の際のポリカーボネートの黄変を防ぐのに有効な量で、熱可塑性組成物中に用いられる。有効な量は当業者によって容易に決定され、組成物中で使用する樹脂の種類、他の添加物の種類および量、ならびに組成物の意図される用途に応じて変化する。一般的に、芳香族スルホネート化合物は、熱可塑性組成物中に、ポリカーボネート樹脂および芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.001〜500ミリモル/キログラム(mmol/kg)、より特に0.01〜50mmol/kg、さらにより特に0.1〜5mmol/kgの量で存在する。0.001mmol/kg未満の量は有効ではない可能性があり、約500mmol/kgを超える量は向上した安定性には導かず、および/または熱可塑性組成物の力学的性質に悪影響を及ぼすことがある。一実施形態では、ポリカーボネートと5〜500mmol/kgの高レベルの芳香族スルホネート組成物とを含むマスターバッチ組成物を調製することができ、このマスターバッチはさらにポリカーボネート樹脂および/または他のポリマーと組み合わせて熱可塑性組成物を形成させる。
あるいは、芳香族スルホネート化合物は、ポリカーボネート樹脂および芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.001〜20重量%、より特に0.01〜約10重量%、さらにより特に0.1〜1重量%の量で存在する。0.001重量%未満の量は有効ではない可能性があり、約20重量%を超える量は向上した安定性には導かず、および/または熱可塑性組成物の力学的性質に悪影響を及ぼしうる。一実施形態では、ポリカーボネートと1.0〜20重量%の高レベルの芳香族スルホネート化合物とを含むマスターバッチ組成物を調製することができ、このマスターバッチはさらにポリカーボネート樹脂および/または他のポリマーと組み合わせて熱可塑性組成物を形成する。
しかし、思いがけずかつ好都合な特性において、予想外に少量の芳香族スルホネート化合物が、ガンマ放射を含めた放射への暴露の際の黄変を防ぐのに有効であることを発見した。一実施形態では、芳香族スルホネート化合物の有効量は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.05〜25mmol/kg、特に0.1〜5mmol/kg、より特に0.2〜3mmol/kg、より特に0.25〜2.5mmol/kg、さらにより特に0.5~2mmol/kg、さらにより特に0.75〜1.7mmol/kgである。これらの量は、芳香族スルホネート化合物の全量が、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量の0.5重量%、より特にポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量の0.25重量%、さらにより特に0.2重量%、なおさらにより特に0.1重量%を超えないという条件によって制限されうる。
あるいは、芳香族スルホネート化合物は、熱可塑性組成物中で、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.001〜0.25重量%、より特に0.002〜0.2重量%、より特に0.003〜0.15重量%、さらにより特に0.004〜0.1重量%、さらにより特に0.005〜0.095重量%の量で使用される。
本熱可塑性組成物は、さらに対電離放射線安定化剤を含んでもよい。例となる対電離放射線安定化剤には、ある種の脂肪族アルコール、芳香族アルコール、脂肪族ジオール、脂肪族エーテル、エステル、ジケトン、アルケン、チオール、チオエーテルおよび環状チオエーテル、スルホン、ジヒドロ芳香族、ジエーテル、窒素化合物、またはこれらの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。アルコール系の安定化添加剤は、一置換、二置換または多置換アルコールから選択することができ、直鎖、分岐、環状および/または芳香族であり得る。適当な脂肪族アルコールには、不飽和部位を有するアルケノール(その例には、4-メチル-4-ペンテン-2-オール、3-メチル-ペンテン-3-オール、2-メチル-4-ペンテン-2-オール、2,4-ジメチル-4-ペンテン-2-オール、2-フェニル-4-ペンテン-2-オール、および9-デセン-1-オールが含まれる);3-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブタノン、2-フェニル-2-ブタノールなどを含めた第三級アルコール;ヒドロキシ置換第三級環状脂肪族、例えば、1-ヒドロキシ-1-メチル-シクロヘキサン;およびカルビノール置換基、例えばメチロール基(-CH2OH)またはより複雑な炭化水素基、例えば(-CRHOH)もしくは(-CR2OH)(Rは、直鎖C1〜C20アルキルまたは分岐C1〜C20アルキルである)をもつ芳香族環を有するヒドロキシメチル芳香族、が含まれうる。例となるヒドロキシカルビノール芳香族には、ベンズヒドロール、2-フェニル-2-ブタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、ベンジルアルコール、4-ベンジルオキシ-ベンジルアルコール、およびベンジル-ベンジルアルコールが含まれる。
対電離放射線安定化剤の有用な種類は、二および多官能性脂肪族アルコールであり、脂肪族ジオールおよび脂肪族ポリオールとも呼ばれる。特に有用なものは下記式(16)の脂肪族ジオールである:
HO-(C(A')(A"))d-S-(C(B')(B"))e-OH (16)
上記式中、A'、A"、B'、およびB"は、それぞれ独立に、HまたはC1〜C6アルキルであり; SはC1〜C20アルキル、C2〜C20アルキレンオキシ、C3〜C6シクロアルキル、またはC3〜C6置換シクロアルキルであり、dおよびeは、それぞれ0または1であるが、dおよびeがそれぞれ0である場合は、Sは両方の-OH基が単一の共通の炭素原子に直接結合されないように選択されるという条件が付く。
式(16)で、A'、A"、B'、およびB"は、それぞれ独立に、H、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、2-ペンチル、3-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、2-ヘキシル、3-ヘキシル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2,2-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチルなど、およびこれらのアルキル基の少なくとも1つを含む組合せ、から選択できる。
スペーサー基Sは、メタンジイル、エタンジイル、1,1-エタンジイル、1,1-プロパンジイル、1,2-プロパンジイル、1,3-プロパンジイル、2,2-プロパンジイル、1,1-ブタンジイル、1,2-ブタンジイル、1,3-ブタンジイル、1,4-ブタンジイル、2,2-ブタンジイル、2,3-ブタンジイル、1,1-ペンタンジイル、1,2-ペンタンジイル、1,3-ペンタンジイル、1,4-ペンタンジイル、1,5-ペンタンジイル、2,2-ペンタンジイル、2,3-ペンタンジイル、2,4-ペンタンジイル、3,3-ペンタンジイル、2-メチル-1,1-ブタンジイル、3-メチル-1,1-ブタンジイル、2-メチル-1,2-ブタンジイル、2-メチル-1,3-ブタンジイル、2-メチル-1,4-ブタンジイル、2-メチル-2,2-ブタンジイル、2-メチル-2,3-ブタンジイル、2,2-ジメチル-1,1-プロパンジイル、2,2-ジメチル-1,2-プロパンジイル、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジイル、3,3-ジメチル-1,1-プロパンジイル、3,3-ジメチル-1,2-プロパンジイル、3,3-ジメチル-2,2-プロパンジイル、1,1-ジメチル-2,3-プロパンジイル、3,3-ジメチル-2,2-プロパンジイル、1,1-ヘキサンジイル、1,2-ヘキサンジイル、1,3-ヘキサンジイル、1,4-ヘキサンジイル、1,5-ヘキサンジイル、1,6-ヘキサンジイル、2,2-ヘキサンジイル、2,3-ヘキサンジイル、2,4-ヘキサンジイル、2,5-ヘキサンジイル、3,3-ヘキサンジイル、2-メチル-1,1-ペンタンジイル、3-メチル-1,1-ペンタンジイル、2-メチル-1,2-ペンタンジイル、2-メチル-1,3-ペンタンジイル、2-メチル-1,4-ペンタンジイル、2-メチル-2,2-ペンタンジイル、2-メチル-2,3-ペンタンジイル、2-メチル-2,4-ペンタンジイル、2,2-ジメチル-1,1-ブタンジイル、2,2-ジメチル-1,2-ブタンジイル、2,2-ジメチル-1,3-ブタンジイル、3,3-ジメチル-1,1-ブタンジイル、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジイル、3,3-ジメチル-2,2-ブタンジイル、1,1-ジメチル-2,3-ブタンジイル、3,3-ジメチル-2,2-ブタンジイルなど;オクタンジイル、デカンジイル、ウンデカンジイル、ドデカンジイル、ヘキサデカンジイル、オクタデカンジイル、イコサナンジイル(icosananediyl)、およびドコサナンジイル(docosananediyl)の異性体;置換または非置換の、シクロプロパンジイル、シクロブタンジイル、シクロペンタンジイル、シクロヘキサンジイル(置換基は、例えば、1,4-ジメチレンシクロヘキサンにおけるように、基の結合点であり得るか、あるいは分岐鎖および直鎖のアルキル、シクロアルキルなどを含み得る)から選択することができる。加えて、スペーサー基Sは、ポリアルキレンオキシ単位を含む1つまたは複数のジラジカル、例えば、エチレンオキシ、1,2-プロピレンオキシ、1,3-プロピレンオキシ、1,2-ブチレンオキシ、1,4-ブチレンオキシ、1,6-ヘキシレンオキシなど、およびこれらの少なくとも1つを含む組合せから選択することができる。
適当な脂肪族ジオールの具体的な例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、メソ-2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,4-ヘキサンジオールなど;脂環式アルコール、例えば、1,3-シクロブタンジオール、2,2,4,4-テトラメチルシクロブタンジオール、1,2-シクロペンタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-ジメチロールシクロヘキサンなど;分岐非環式ジオール、例えば、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール(ピナコール)、および2-メチル-2,4-ペンタンジオール(ヘキシレングリコール); およびポリアルキレンオキシ含有アルコール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブロックまたはランダムのポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)、およびポリアルキレンオキシ基を含有するコポリマーのジオールが含まれる。有用なポリオールには、ポリアリーレンオキシ化合物、例えば、ポリヒドロキシスチレン;アルキルポリオール、例えば、ポリビニルアルコール、ポリサッカリド、およびエステル化ポリサッカリドが含まれ得る。これらの少なくとも1つを含む組合せも有用であり得る。特に好適なジオールには、2-メチル-2,4-ペンタンジオール(ヘキシレングリコール)、ポリエチレングリコール、およびポリプロピレングリコール、が含まれる。
適当な脂肪族エーテルには、アルコキシ置換環状または非環状アルカン、例えば、1,2-ジアルコキシエタン、1,2-ジアルコキシプロパン、1,3-ジアルコキシプロパン、アルコキシシクロペンタン、アルコキシシクロヘキサンなどが含まれてよい。エステル化合物(-COOR)は安定剤として有用なことがあり、このRは、置換もしくは非置換の芳香族または脂肪族炭化水素でよく、元となるカルボキシ化合物は、同様に置換もしくは非置換の芳香族または脂肪族、および/または単官能性もしくは多官能性でよい。存在する場合には、置換基には、例えば、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルキルエーテル、C6〜C20アリールなどが含まれ得る。有用と判明しているエステルには、テトラキス(メチレン[3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナメート])メタン、2,2'-オキサミドビス(エチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、および3官能性ヒンダードフェノールエステル化合物、例えばB.F.Goodrich、Cleveland OHから入手可能なGOOD-RITE(登録商標)3125が含まれる。
ジケトン化合物、特に単一の介在している炭素原子によって隔てられた2つのカルボニル官能基を有するもの、例えば2,4-ペンタジオンなども使用することができる。
安定化添加剤としての使用に適当なイオウ含有化合物には、チオール、チオエーテル、および環状チオエーテルが含まれ得る。チオールには、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾールが含まれ;チオエーテルには、ジラウリルチオプロピオネートが含まれ;環状チオエーテルには、1,4-ジチアン、1,4,8,11-テトラチオシクロテトラデカンが含まれる。1つより多いチオエーテル基を含有する環状チオエーテル、特に、2つのチオエーテル基の間に単一の介在炭素を有しているもの、例えば、1,3-ジチアンなどは有用である。この環は酸素または窒素の環原子を含んでもよい。
一般構造R-S(O)2-R'のアリールまたはアルキルスルホン安定化添加剤も使用することができ、RおよびR'は、C1〜C20アルキル、C6〜C20アリール、C1〜C20アルコキシ、C6〜C20アリールオキシ、これらの置換誘導体などを含み、RまたはR'の少なくとも1つは、置換または非置換のベンジルである。存在する場合は、置換基には、例えば、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルキルエーテル、C6〜C20アリールなどが含まれうる。特に有用なスルホンの一例はベンジルスルホンである。
アルケンを安定化添加剤として使用することができる。適当なアルケンには一般構造RR'C=CR"R'''のオレフィンが含まれてよく、R、R'、R"、およびR'''は、それぞれ個別に同じまたは異なってよく、水素、C1〜C20アルキル、C1〜C20シクロアルキル、C1〜C20アルケニル、C1〜C20シクロアルケニル、C6〜C20アリール、C6〜C20アリールアルキル、C6〜C20アルキルアリール、C1〜C20アルコキシ、C6〜C20アリールオキシ、およびこれらの置換誘導体、から選択し得る。存在する場合は、置換基は、例えば、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルキルエーテル、C6〜C20アリールなどを含んでよい。オレフィンは、非環式、環外または環内であってよい。特に有用なアルケンには、1,2-ジフェニルエタン、アリルフェノール、2,4-ジメチル-1-ペンテン、リモネン、2-フェニル-2-ペンテン、2,4-ジメチル-1-ペンテン、1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1-ウンデセン、1-ドデセンなど、またはこれらの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
部分的に水素化された芳香族、および不飽和環との組合せになった芳香族を含めたヒドロ芳香族化合物も安定化添加剤として有用でありうる。具体的な芳香族には、ベンゼンおよび/またはナフタレンに基づく系が含まれる。適当なヒドロ芳香族化合物の例には、インダン、5,6,7,8-テトラヒドロ-1-ナフトール、5,6,7,8-テトラヒドロ-2-ナフトール、9,10-ジヒドロアントラセン、9,10-ジヒドロフェナントレン、1-フェニル-1-シクロヘキサン、1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフトールなど、またはこれらの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
水素化されたおよび水素化されていない、置換および非置換のピランを含むジエーテルも安定化添加剤として使用することができる。存在する場合は、置換基にはC1〜C8アルキル、C1〜C8アルキルエーテル、またはC6〜C20アリールが含まれ得る。ピランはC1〜C20アルキル、C6〜C20アリール、C1〜C20アルコキシ、またはC6〜C20アリールオキシを含めた置換基を有することができ、それらはピラン環のどの炭素に位置してもよい。特に有用な置換基には、環上の6位に位置するC1〜C20アルコキシまたはC6〜C20アリールオキシが含まれる。水素化されたピランは特に有用である。好適なジエーテルの例には、ジヒドロピラニルエーテル類およびテトラヒドロピラニルエーテル類が含まれる。
安定剤として機能することができる窒素化合物には、高分子量オキサミドフェノール化合物、例えば、2,2-オキサミドビス[エチル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、高分子量シュウ酸アニリドおよびそれらの誘導体、ならびにチオ尿素などのアミン化合物が含まれる。
対電離放射線安定化剤は、通常、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.001〜1重量%、特に0.005〜0.75重量%、より特に0.01〜0.5重量%、さらにより特に0.05〜0.25重量%の量で使用される。一実施形態では、特に好適な対電離放射線安定化剤は脂肪族ジオールである。
本熱可塑性組成物は、さらに加水分解安定化剤を含んでもよい。代表的な加水分解安定化剤には、カルボジイミド系の添加剤、例えば、芳香族および/または2および2'位で置換された環状脂肪族モノカルボジイミド、例えば、2,2',6,6'-テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドが含まれ得る。500グラム/モルを超える分子量を有するポリカルボジイミドも好適である。加水分解安定化剤として有用な他の化合物には、エポキシ変性アクリル系オリゴマーまたはポリマー、および脂環式エポキシドのオリゴマーが含まれる。適切なエポキシ官能化された安定剤の具体的な例には、Union Carbide Corporation(Dow Chemicalの子会社)、Danbury、CTから供給されている脂環式エポキシ樹脂(Cycloaliphatic Epoxide Resin)ERL-4221;およびJohnson Polymer Inc、Sturtevant、WIから入手可能なJONCRYL(登録商標)ADR-4300およびJONCRYL(登録商標)ADR-4368が含まれる。加水分解安定化剤は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.001〜1重量%、特に0.01〜0.5重量%、より特に0.1〜0.3重量%の量で使用することができる。
上で論じた通り、ガンマ放射に暴露したときに、ポリカーボネートは色が黄色になり、ガンマ放射の暴露線量の増加と共に黄色の程度が増す。十分に高い放射線量では、黄色はポリカーボネートから調製された物品の有用性が低下するほど濃くなることがある。同様に、ガンマ放射線量の増加と共に透明度も低下する。
発明がどのように機能するかの説明を提供することは要求されていないが、かかる理論は読者が本発明を理解するためによりよく役立つという目的には有用であり得る。したがって、本特許請求の範囲は、以下の作用理論によって限定されるものではないことを理解されたい。ガンマ放射への暴露は、ポリカーボネートのフリーラジカル分解生成物を発生させ、これが反応して拡大されたπ結合共役を有する化学種を形成することができ、したがって黄色を有すると考えられている。ポリカーボネートに安定剤を含ませてこれらのラジカル種を安定化、またはこれらと反応させ、そうしてポリカーボネートの分解を遅くすることができるが、黄変を完全に防止するほど活性なものはないように思われる。従来技術の対電離放射線安定化剤だけを有するポリカーボネートの、83kGyのガンマ放射線量への暴露後の黄色度指数は、暴露前の組成物についての1未満の黄色度指数と比較して、通常約50を超える。同様に、この方法で安定化させ、かつ同じガンマ放射線量で処理したポリカーボネートの透明度の喪失は約15%以上であり得る。
他の種類の安定剤、例えば、スルホン酸を生成する光酸発生剤、特に(光酸発生剤1分子当たり1または2当量の)スルホン酸を生成する直鎖(すなわち分岐していない)アルキルまたはポリエーテル基を有する単官能性光酸発生剤または二官能性光酸発生剤を使用するには、組成物の0.5重量%を超える安定剤の添加を必要とすることが見出された。生成される酸の量が増加すると、ポリカーボネート中での他の分解生成物の形成をもたらし、したがってポリカーボネートのさらなる分解および安定剤の有効性の低下を引き起こすおそれがある。芳香族オキシまたはベンジルオキシおよび/またはカルボニル基を有する添加剤で、アルコール官能基が存在するまたは存在しないものが、こうした従来技術のモノ官能性およびジ官能性光酸発生剤と共に、それらの性能を向上させるために含有させられてきた。しかし、そのような添加剤の使用は、費用、揮発性、および取り扱いに関する懸念、具体的には臭気閾値および作業場の暴露というさまざまな理由のために望ましくない。臭素化化合物、例えば臭素化ビスフェノールAなども、ポリカーボネート化合物の黄変を軽減するために有用であることが見出されている。しかし、臭素などのハライドの環境影響についての懸念が、この種の化合物を使用するのにあまり望ましくないものにしている。青および/または紫の着色剤も、滅菌からもたらされる黄変を補正するためにポリカーボネート組成物に添加されてきた。着色剤を含む組成物およびそれらから成形された物品は、青または紫の色あいに見える可能性がある。しかし、色の補正は、特に電離放射線の照射量を増すにつれて、無色の部品を得るための有効な戦略にはなり得ない。加えて、樹脂に加えられる着色剤の量は、しばしば所定の放射線量に対して選択され、したがって工程の変動性または再滅菌に起因する暴露線量の変動が、滅菌された物品間での目に見える色のばらつきを引き起こしうる。
意外にも、本明細書に記載されているポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物が、ガンマ放射への被曝に際して、顕著に向上した黄変に対する耐性を有する熱可塑性組成物を製造するために使用することができることが見出された。
芳香族スルホネート化合物の存在は、ポリカーボネートを含む熱可塑性組成物のガンマ放射への暴露の際に、使用される芳香族スルホネート化合物の単位当たり、上述の従来技術の安定剤で観察されたよりも高度な安定性をもたらす。ポリカーボネート組成物中への置換芳香族組成物0.5重量%未満の低い添加量でこれを達成することができる。そのような低い置換芳香族組成物添加量が、薄い色(すなわち顔料または染料を添加されていない)を有し、物品が3.2±0.12ミリメートルの厚さと、ASTM D1003-00に準拠して95%よりも高い透過性を有し、かつこれらの性質が最大83kGyの全照射線量でのガンマ線照射後にも維持される物品を製造するのに有用な熱可塑性組成物の調製を可能にする。
ここでも理論に拘束されたくはないが、本明細書で開示されている芳香族スルホネート化合物は、従来技術のモノまたはジ置換芳香族化合物よりも効率的に活性ラジカル種を発生し、かつそれによって、吸収されたガンマ放射エネルギーの単位当たりのより高い濃度の活性ラジカルをもたらすと考えられる。この理論の下では、これらの活性ラジカルは、ポリカーボネートから発生する反応性種を中和すると考えられ、これらの反応性種は中和されなければポリカーボネートの分解生成物をもたらし、それはポリカーボネート中での増加した黄色度に導き得る。ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物と共に、対電離放射線安定化剤、具体的には脂肪族ジオール、を含めることは、黄色度の増加に対する耐性におけるさらなる相乗的向上をもたらすことができる。さらに、エポキシ官能基を有する加水分解安定化剤を、ポリカーボネート、芳香族スルホネート化合物、および脂肪族ジオールと共に含めることは、黄色度の増加に対する耐性におけるさらなる相乗的向上をもたらすことができる。さらに、加水分解安定化剤の存在は、さらなる反応性種を中和し、それによってさらなる安定化効果をもたらすと考えられる。ポリカーボネート、芳香族スルホネート化合物、および含まれる場合の、対電離放射線安定化剤および/または加水分解安定化剤の量および種類は、これらを用いて調製された熱可塑性組成物から成形された物品の黄色度の増加が、ガンマ放射線への暴露後に最小限に抑えられるように選択される。
熱可塑性組成物のガンマ放射暴露後の黄色度の増加は、熱可塑性組成物から調製された成形物品の黄色度指数(YI)を測定し、暴露前の物品のYIと比較することによって決定することができる。熱可塑性組成物のYIは、熱可塑性組成物から成形された物品の透明度、色、および表面仕上げ外観の組合せに応じて、透過および/または反射の分光法を使用して測定することができる。熱可塑性組成物から成形された物品が透明または半透明であり; 無色、白色またはオフホワイトであり;かつ、光沢、半光沢または非光沢である場合は、成形物品のYIはASTM D1925-70に準拠して決定することができる。成形物品が不透明であり; オフホワイトかまたは白ではなく;かつ、光沢のある表面仕上げである場合は、YIはASTM E313-73に準拠して、反射率測定を使用して決定することができる。一般的には、電離放射線のより高い照射量は、測定された黄色度指数のより大きい増加を与え、電離放射線のより低い照射量は、黄色度指数のより少ない増加を与える。測定された熱可塑性組成物中の黄色度指数の増加は、必ずしも増加する照射量に対して直線的には増加しないことが観察された。熱可塑性組成物(それから試験用の物品が成形される)は、対電離放射線安定化剤と、一般的にポリカーボネートとともに含まれる他の添加剤(例えば、離型剤及び酸化防止剤)とを含むことができ、ここで意図された機能を果たすのに有効な量でのこれらの添加剤の存在は、熱可塑性組成物の所望の性質に顕著な悪影響を与えない。通常、これらの添加剤の合計量は熱可塑性組成物中に存在する成分の合計重量の1.0重量%未満である。例となる一実施形態では、黄色度試験用の成形物品を調製するのに使用される熱可塑性組成物中に存在する添加剤は、脂肪族ジオールとしての2-メチル-2,4-ペンタンジオール0.15重量%、離型剤としてのペンタエリスリトールテトラステアレート0.27重量%、および酸化防止剤としての2,6-ジ-tert-ブチルフェニルホスファイト0.027重量%を含むことができる。
したがって、一実施形態では、3.2±0.12ミリメートルの厚さを有し、かつポリカーボネート、芳香族スルホネート化合物、ならびにそれぞれ有効量の離型剤および酸化防止剤(この試験の目的のために、本明細書では物品の全重量の1.0重量%未満として規定した量)から成る成形物品は、83kGyの全ガンマ放射線量への暴露後にASTM D1925-70に準拠して測定したときに、未暴露の成形物品と比較して45以下、特に40以下、より特に30以下、さらにより特に20以下、さらにより特に19以下の黄色度指数の増加(dYI)しか有しない。一実施形態では、上記ポリカーボネートおよび上記芳香族スルホネート化合物(マスターバッチとして配合されたもの)、ポリカーボネート樹脂、および上記離型剤および酸化防止剤から成る物品は、マスターバッチを使用せずに調製された物品のdYI値と同じdYI値を有する。
他の一実施形態では、3.2±0.12ミリメートルの厚さを有し、かつポリカーボネート、芳香族スルホネート化合物、脂肪族ジオール、ならびにそれぞれ有効量の離型剤および酸化防止剤から成る成形物品は、83kGyの全ガンマ放射線量への暴露後にASTM D1925-70に準拠して測定したときに、未暴露の成形物品と比較して29以下、特に25以下、より特に23以下、さらにより特に20以下の黄色度指数の増加(dYI)しか有しない。他の一実施形態では、3.2±0.12ミリメートルの厚さを有し、かつポリカーボネート、芳香族スルホネート化合物、脂肪族ジオール、ならびにそれぞれ有効量の離型剤および酸化防止剤から成る成形物品は、59kGyの全ガンマ放射線量への暴露後にASTM D1925-70に準拠して測定したときに、未暴露の成形物品と比較して9以下、特に8.5以下、より特に8以下、さらにより特に7.5以下の黄色度指数の増加(dYI)しか有しない。他の一実施形態では、3.2±0.12ミリメートルの厚さを有し、かつポリカーボネート、芳香族スルホネート化合物、脂肪族ジオール、ならびにそれぞれ有効量の離型剤および酸化防止剤から成る成形物品は、32kGyの全ガンマ放射線量へ暴露後にASTM D1925-70に準拠して測定したときに、未暴露の成形物品と比較して5以下、特に4.8以下、より特に4.5以下、さらにより特に4.3以下の黄色度指数の増加(dYI)しか有しない。
他の一実施形態では、3.2±0.12ミリメートルの厚さを有し、かつポリカーボネート、芳香族スルホネート化合物、脂肪族ジオール、加水分解安定化剤、ならびにそれぞれ有効量の離型剤および酸化防止剤から成る成形物品は、83kGyの全ガンマ放射線量への暴露後にASTM D1925-70に準拠して測定したときに、未暴露の成形物品と比較して35以下、特に30以下、より特に20以下、さらにより特に15以下の黄色度指数の増加(dYI)しか有しない。他の一実施形態では、3.2±0.12ミリメートルの厚さを有し、かつポリカーボネート、芳香族スルホネート化合物、脂肪族ジオール、加水分解安定化剤、ならびにそれぞれ有効量の離型剤および酸化防止剤から成る成形物品は、51kGyの全ガンマ放射線量へ暴露後にASTM D1925-70に準拠して測定したときに、未暴露の成形物品と比較して13以下、特に10以下、より特に9以下、さらにより特に8以下の黄色度指数の増加(dYI)しか有しない。
熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート、他の樹脂、芳香族スルホネート化合物、ならびに所望であれば、対電離放射線安定化剤および/または加水分解安定化剤に加えて、この種の熱可塑性組成物と通常組み合わせられるさまざまな他の添加剤を含むことができるが、その添加剤は熱可塑性組成物の所望の性質に悪影響を与えないように選択するという条件が付く。添加剤の混合物も使用することができる。そのような添加剤は、熱可塑性組成物を形成する成分を混合する間の適当なタイミングで混合することができる。
本熱可塑性組成物は、着色剤、例えば、顔料および/または染料添加剤を含むことができる。適当な顔料には、例えば、無機顔料、例えば金属酸化物および混合金属酸化物、例えば酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化鉄など;スルフィド類、例えば亜鉛スルフィドなど;アルミン酸塩;ナトリウムスルホシリケート、サルフェート、クロメートなど;カーボンブラック;亜鉛フェライト;ウルトラマリンブルー;Pigment Brown 24;Pigment Red 101;Pigment Yellow 119;有機顔料、例えば、アゾ、ジアゾ、キナクリドン、ペリレン、ナフタレンテトラカルボン酸類、フラバンスロン、イソインドリノン、テトラクロロイソインドリノン類、アントラキノン類、アンサンスロン類、ジオキサジン類、フタロシアニン類、およびアゾレーキ;Pigment Blue 60、Pigment Red 122、Pigment Red 149、Pigment Red 177、Pigment Red 179、Pigment Red 202、Pigment Violet 29、Pigment Blue 15、Pigment Blue 15:4、Pigment Blue 28、Pigment Green 7、Pigment Yellow 147およびPigment Yellow 150、またはこれらの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。顔料はポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して、0.01〜10重量パーセントの量で使用することができる。
適当な染料は有機物質でよく、例えば、クマリン染料、例えばクマリン460(青)、クマリン6(緑)、ナイルレッドなど;ランタニド錯体;炭化水素および置換炭化水素染料;多環式芳香族炭化水素染料;シンチレーション染料、例えば、オキサゾールまたはオキサジアゾール染料;アリールまたはヘテロアリール置換ポリ(C2〜8)オレフィン染料;カルボシアニン染料;インダンスロン染料;フタロシアニン染料;オキサジン染料;カルボスチリル染料;ナフタレンテトラカルボン酸染料;ポルフィリン染料;ビス(スチリル)ビフェニル染料;アクリジン染料;アントラキノン染料;シアニン染料;メチン染料;アリールメタン染料;アゾ染料;インジゴイド染料、チオインジゴイド染料、ジアゾニウム染料;ニトロ染料;キノンイミン染料;アミノケトン染料;テトラゾリウム染料;チアゾール染料;ペリレン染料、ペリノン染料;ビスベンゾオキサゾリルチオフェン(BBOT);トリアリールメタン染料;キサンテン染料;チオキサンテン染料;ナフタルイミド染料;ラクトン染料;フルオロフォア、例えば近赤外波長で吸収し可視波長で放出するアンチストークスシフト染料など;発光染料、例えば7-アミノ-4-メチルクマリン;3-(2'-ベンゾチアゾリル)-7-ジエチルアミノクマリン;2-(4-ビフェニリル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール;2,5-ビス(4-ビフェニリル)-オキサゾール;2,2'-ジメチル-p-クオーターフェニル;2,2-ジメチル-p-ターフェニル;3,5,3'''',5''''-テトラ-t-ブチル-p-キンクエフェニル;2,5-ジフェニルフラン;2,5-ジフェニルオキサゾール;4,4'-ジフェニルスチルベン;4-ジシアノメチレン-2-メチル-6-(p-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン;1,1'-ジエチル-2,2'-カルボシアニンアイオダイド;3,3'-ジエチル-4,4',5,5'-ジベンゾチアトリカルボシアニンアイオダイド;7-ジメチルアミノ-1-メチル-4-メトキシ-8-アザキノロン-2;7-ジメチルアミノ-4-メチルキノロン-2;2-(4-(4-ジメチルアミノフェニル)-1,3-ブタジエニル)-3-エチルベンゾチアゾリウムパークロレート;3-ジエチルアミノ-7-ジエチルイミノフェノキサゾニウムパークロレート;2-(1-ナフチル)-5-フェニルオキサゾール;2,2'-p-フェニレン-ビス(5-フェニルオキサゾール); ローダミン700; ローダミン800;ピレン;クリセン;ルブレン;コロネンなど、またはこれらの染料の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。有機染料および顔料を使用することが望ましい場合は、染料は、スクリーニングして、所定の暴露線量または暴露線量の範囲でのガンマ線放射への感受性を決定することができる。染料は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.01〜10重量%の量で使用することができる。
本熱可塑性組成物は、耐衝撃性を高めるために耐衝撃性改良剤を含むことができ、耐衝撃性改良剤は熱可塑性組成物の所望の性質に悪影響を与えない量で存在する。これらの耐衝撃性改良剤は、(i)10℃未満、より特には-10℃未満、より特に-40℃〜-80℃のTgを有するエラストマー性(すなわちゴム状の)ポリマー基材、および(ii)前記のエラストマーポリマー基材にグラフトされた剛性ポリマー上層を含む、エラストマー変性グラフトコポリマーを含む。知られている通り、エラストマー変性グラフトコポリマーは、まずエラストマーポリマーを準備し、次いで剛性相の構成モノマーをエラストマーの存在下で重合させてグラフトコポリマーを得ることによって調製することができる。グラフトはグラフト分岐としてまたはエラストマーコアに対するシェルとして結合できる。シェルは単に物理的にコアをカプセル化してもよく、またはシェルは部分的にまたは本質的に完全にコアにグラフトしてもよい。
エラストマー相としての使用に適当な材料には、例えば、共役ジエンゴム;共役ジエンと50重量%未満の共重合可能なモノマーとのコポリマー、オレフィンゴム、例えばエチレンプロピレンコポリマー(EPR)またはエチレン-プロピレン-ジエンモノマーゴム(EPDM);エチレン-酢酸ビニルゴム;シリコーンゴム;エラストマー性C1〜8アルキル(メタ)アクリレート;C1〜8アルキル(メタ)アクリレートとブタジエンおよび/またはスチレンとのエラストマー性コポリマー;またはこれらのエラストマーの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
上記エラストマー相を調製するための適当な共役ジエンモノマーは下記式(17)のものである:
上記式中、それぞれのXbは独立に、水素、C1〜C5アルキルなどである。使用することができる共役ジエンモノマーの例は、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン; 2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ペンタジエン、1,3-および2,4-ヘキサジエンなど、およびこれらの共役ジエンモノマーの少なくとも1つを含む混合物である。具体的な共役ジエンホモポリマーにはポリブタジエンおよびポリイソプレンが含まれる。
共役ジエンゴムのコポリマー、例えば、共役ジエンおよびこれと共重合可能な1つまたは複数のモノマーの水性乳化ラジカル重合によって製造されるものも使用することができる。ビニル芳香族化合物は、エチレン性不飽和ニトリルモノマーと共重合させてコポリマーを形成させることができ、このビニル芳香族化合物は下記式(18)のモノマーを含むことができる:
上記式中、それぞれのXcは独立に、水素、C1〜C12アルキル、C3〜C12シクロアルキル、C6〜C12アリール、C7〜C12アリールアルキル、C7〜C12アルキルアリール、C1〜C12アルコキシ、C3〜C12シクロアルコキシ、C6〜C12アリールオキシ、クロロ、ブロモ、またはヒドロキシであり、Rは、水素、C1〜C5アルキル、ブロモまたはクロロである。使用することができる適当なモノビニル芳香族モノマーの例には、スチレン、3-メチルスチレン、3,5-ジエチルスチレン、4-n-プロピルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチルビニルトルエン、α-クロロスチレン、α-ブロモスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、テトラクロロスチレンなど、およびこれらの化合物の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。スチレンおよび/またはα-メチルスチレンは、共役ジエンモノマーと共重合可能なモノマーとして使用することができる。
共役ジエンと共重合させることができる他のモノマーは、モノビニルモノマー、例えば、イタコン酸、アクリルアミド、N-置換アクリルアミド、またはメタクリルアミド、無水マレイン酸、マレイミド、N-アルキル-、アリール-またはハロアリール-置換マレイミド、グリシジル(メタ)アクリレート、および下記一般式(19)のモノマーである:
上記式中、Rは水素、C1〜C5アルキル、ブロモ、またはクロロであり、XcはC1〜C12アルコキシカルボニル、C1〜C12アリールオキシカルボニル、ヒドロキシカルボニルなどである。式(17)のモノマーの例には、アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなど、およびこれらのモノマーの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。n-ブチルアクリレート、エチルアクリレート、および2-エチルヘキシルアクリレートなどのモノマーが、共役ジエンモノマーと共重合可能なモノマーとして広く使用されている。前述のモノビニルモノマーおよびモノビニル芳香族モノマーの混合物も使用することができる。
エラストマー相として使用するのに適当な(メタ)アクリレートモノマーは、C1〜8アルキル(メタ)アクリレート、特にC4〜6アルキルアクリレート、例えば、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートなど、およびこれらのモノマーの少なくとも1つを含む組合せの架橋粒子状乳化ホモポリマーまたはコポリマーでよい。C1〜8アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、任意選択で15重量%までの一般式(17)、(18)、または(19)のコモノマーと混合して重合させてもよい。例となるコモノマーには、これらだけには限定されないが、ブタジエン、イソプレン、スチレン、メチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、フェネチルメタクリレート、N-シクロヘキシルアクリルアミド、ビニルメチルエーテル、およびこれらのコモノマーの少なくとも1つを含む混合物が含まれる。任意選択で、5重量%までの、多官能性架橋性コモノマー、例えば、ジビニルベンゼン、アルキレンジオールジ(メタ)アクリレート、例えば、グリコールビスアクリレート、アルキレントリオールトリ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ビスアクリルアミド、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、アリル(メタ)アクリレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルアジペート、クエン酸トリアリルエステル、リン酸トリアリルエステルなど、およびこれらの架橋剤の少なくとも1つを含む組合せが存在してもよい。
エラストマー相は、連続、半回分、もしくは回分法を使用する、塊状、乳化、懸濁、溶液または組合せ方法、例えば塊状-懸濁、乳化-塊状、塊状-溶液などまたはその他の手法によって重合させることができる。エラストマー基材の粒子サイズはそれほど厳格ではない。例えば、0.001〜25マイクロメートル、特に0.01〜15マイクロメートル、なおより特に0.1〜8マイクロメートルの平均粒子サイズが乳化重合によるゴムラテックスに対して使用することができる。0.5〜10マイクロメートル、特に0.6〜1.5マイクロメートルの粒子サイズが、塊状重合したゴム基材に対して使用することができる。粒子サイズは簡単な光透過率法または毛細管流体力学クロマトグラフィー(CHDF)によって測定することができる。エラストマー相は、粒子状の、中程度に架橋された共役ブタジエンまたはC4〜6アルキルアクリレートゴムでよく、かつ好ましくは70重量%を超えるゲル含有量を有する。ブタジエンとスチレンおよび/またはC4〜6アルキルアクリレートゴムとの混合物も適当である。
エラストマー相は全グラフトコポリマーの5〜95重量%、より特にエラストマー変性グラフトコポリマーの20〜90重量%、なおより特にエラストマー変性グラフトコポリマーの40〜85重量%を構成することができ、残りは剛性グラフト相である。
エラストマー変性グラフトコポリマーの剛性相は、モノビニル芳香族モノマーおよび任意選択で1つまたは複数のコモノマーを含む混合物の、1つまたは複数のエラストマーポリマー基材の存在下でのグラフト重合によって形成させてもよい。上記の式(18)のモノビニル芳香族モノマーは、剛性グラフト相中で使用することができ、スチレン、α-メチルスチレン、ハロスチレン、例えば、ジブロモスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ブチルスチレン、パラ-ヒドロキシスチレン、メトキシスチレンなど、またはこれらのモノビニル芳香族モノマーの少なくとも1つを含む組合せを含む。適当なコモノマーには、例えば、上記のモノビニルモノマーおよび/または一般式(19)のモノマーが含まれる。一実施形態では、Rは水素またはC1〜C2アルキルであり、XcはシアノまたはC1〜C12アルコキシカルボニルである。剛性相中での使用に好適なコモノマーの具体的な例には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレートなど、およびこれらのコモノマーの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
剛性グラフト相中のモノビニル芳香族モノマーおよびコモノマーの相対的な比率は、エラストマー基材の種類、モノビニル芳香族モノマーの種類、コモノマーの種類、および耐衝撃性改良剤の所望の性質に依存して幅広く変わり得る。剛性相は、一般的に100重量%までのモノビニル芳香族モノマー、特に30〜100重量%、より特に50〜90重量%のモノビニル芳香族モノマーを含むことができ、残りはコモノマーである。
存在するエラストマー変性ポリマーの量に応じて、グラフトされていない剛性のポリマーまたはコポリマーの分離マトリックスあるいは連続相が、エラストマー変性グラフトコポリマーと一緒に同時に得られることがある。通常、そのような耐衝撃性改良剤は、耐衝撃性改良剤の全重量に対して40〜95重量%のエラストマー変性グラフトコポリマーおよび5〜65重量%のグラフト(コ)ポリマーを含む。他の一実施形態では、そのような耐衝撃性改良剤は、耐衝撃性改良剤の全重量に対して50〜85重量%、より特に75〜85重量%のゴム変性グラフトコポリマーを、15〜50重量%、より特に15〜25重量%のグラフト(コ)ポリマーと共に含む。
エラストマー変性耐衝撃性改良剤の他の具体的な種類は、少なくとも1つのシリコーンゴムモノマー、式H2C=C(Rd)C(O)OCH2CH2Re(式中、Rdは水素またはC1〜C8直鎖または分岐アルキル基であり、Reは分岐C3〜C16アルキル基である)を有する分岐アクリレートゴムモノマー;第1のグラフト連結モノマー 重合性アルケニル含有有機物質;および第2のグラフト連結モノマー、から誘導される構造単位を含む。シリコーンゴムモノマーは、例えば、環状シロキサン、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、(アクリルオキシ)アルコキシシラン、(メルカプトアルキル)アルコキシラン、ビニルアルコキシシラン、またはアリルアルコキシシランの単独または組合せ、例えば、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンおよび/またはテトラエトキシシランを含むことができる。
例となる分岐アクリレートゴムモノマーには、イソオクチルアクリレート、6-メチルオクチルアクリレート、7-メチルオクチルアクリレート、6-メチルヘプチルアクリレートなどの単独または組合せが含まれる。重合性のアルケニル含有有機物質は、例えば、式(18)または式(19)のモノマー、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、または無分岐(メタ)アクリレート、例えば、メチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレートなどの単独または組合せでよい。
少なくとも1つの第1グラフト連結モノマーは、(アクリルオキシ)アルコキシシラン、(メルカプトアルキル)アルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、またはアリルアルコキシシランの単独または組合せ、例えば、(γ-メタクリルオキシプロピル)(ジメトキシ)メチルシランおよび/または(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシランでよい。少なくとも1つの第2のグラフト連結モノマーは、少なくとも1つのアリル基を有するポリ-エチレン性不飽和化合物、例えば、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、またはトリアリルイソシアヌレートの単独または組合せである。
シリコーン-アクリレート耐衝撃性改良剤組成物は、例えば、少なくとも1つのシリコーンゴムモノマーを少なくとも1つの第1グラフト連結モノマーと、ドデシルベンゼンスルホン酸などの界面活性剤の存在下で30℃〜110℃の温度で反応させてシリコーンゴムラテックスを得る乳化重合によって調製することができる。あるいは、シクロオクタメチルテトラシロキサンなどの環状シロキサンおよびテトラエトキシオルトシリケートを、(γ-メタクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシランなどの第1のグラフト連結モノマーと反応させて、100ナノメートル〜2マイクロメートルの平均粒子サイズを有するシリコーンゴムを得ることができる。次いで少なくとも1つの分岐アクリレートゴムモノマーをシリコーンゴム粒子と、任意選択でアリルメタクリレートなどの架橋モノマーの存在下で、過酸化ベンゾイルなどのフリーラジカル発生重合触媒の存在下で重合させる。次いでこのラテックスを重合性アルケニル含有有機物質および第2のグラフト連結モノマーと反応させる。グラフトシリコーン-アクリレートゴムハイブリッドのラテックス粒子は、(凝固剤での処理による)凝固によって水性相から分離し、微粉末に乾燥してシリコーン-アクリレートゴム耐衝撃性改良剤組成物を製造することができる。この方法は、100ナノメートル〜2マイクロメートルの粒子サイズを有するシリコーン-アクリレート耐衝撃性改良剤を製造するために一般的に使用することができる。
上述のエラストマー変性グラフトコポリマーの形成のための知られている方法には、連続、半回分、もしくは回分方法を使用する、塊状、乳化、懸濁および溶液または組合せ方法、例えば、塊状-懸濁、乳化-塊状、塊状-溶液または他の方法が含まれる。
SANコポリマーを含む上述の種類の耐衝撃性改良剤は、C6〜30脂肪酸のアルカリ金属塩、例えば、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウムなど;アルカリ金属炭酸塩、ドデシルジメチルアミン、ドデシルアミンなどのアミン;およびアミンのアンモニウム塩などの塩基性物質を含まない乳化重合法によって調製することができる。そのような物質は、乳化重合において界面活性剤として広く使用され、ポリカーボネートのエステル交換および/または分解の触媒となることがある。その代わりに、イオン性のサルフェート、スルホネート、またはホスフェート系の界面活性剤を、耐衝撃性改良剤、特に、耐衝撃性改良剤のエラストマー基材部分の調製において使用することができる。適当な界面活性剤には、例えば、C1〜22アルキルスルホネートまたはC7〜25アルキルアリールスルホネート、C1〜22アルキルサルフェート、またはC7〜25アルキルアリールサルフェート、C1〜22アルキルホスフェート、またはC7〜25アルキルアリールホスフェート、置換シリケート、およびこれらの混合物が含まれる。具体的な界面活性剤は、C6〜16、特にC8〜12アルキルスルホネートである。実用上は、上記の耐衝撃性改良剤のどれも脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ金属炭酸塩および他の塩基性物質を含まなければ使用することができる。
具体的なこの種の耐衝撃性改良剤は、ブタジエン基材が界面活性剤として上記のスルホネート、サルフェート、またはホスフェートを使用して調製されるメチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン(MBS)耐衝撃性改良剤である。ABSおよびMBS以外のエラストマー変性グラフトコポリマーの例には、これらだけには限定されないが、アクリロニトリル-スチレン-ブチルアクリレート(ASA)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(MABS)、およびアクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン(AES)が含まれる。存在する場合は、耐衝撃性改良剤は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して、0.1〜30重量%の量で熱可塑性組成物中に存在できる。
本熱可塑性組成物は、充填剤または補強材を含むことができる。充填剤および補強材は望ましくはナノ粒子の形態、すなわち光散乱法で決定して100nm未満の中央粒子サイズ(D50)を有する粒子であってよい。使用する場合は、適当な充填剤または補強材には、例えば、ケイ酸塩およびシリカ粉末、例えば、ケイ酸アルミニウム(ムライト)、合成ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、溶融シリカ、結晶性シリカグラファイト、天然珪砂など;ホウ素粉末、例えば、窒化ホウ素粉末、ボロンシリケート粉末など;酸化物、例えば、TiO2、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなど;硫酸カルシウム(無水物、二水和物または三水和物として);炭酸カルシウム、例えば、チョーク、石灰石、大理石、合成沈降炭酸カルシウムなど;繊維状、モジュラー、針状、層状などを含むタルク;ウォラストナイト;表面処理ウォラストナイト;ガラス球、例えば中空および中実ガラス球、ケイ酸塩球、セノスフェア、アルミノケイ酸塩(アルモスフェア)など;カオリン、硬質カオリンを含む、軟質カオリン、仮焼カオリン、ポリマーマトリックス樹脂との適合性を高めるための当技術分野において知られているさまざまな被覆を含むカオリンなど;単結晶繊維または「ウィスカー」、例えば、シリコンカーバイド、アルミナ、ボロンカーバイド、鉄、ニッケル、銅など;繊維(連続繊維および短繊維を含む)、例えば、アスベスト、炭素繊維、ガラス繊維、例えば、E、A、C、ECR、R、S、DまたはNEガラスなど;スルフィド、例えば、モリブデンスルフィド、亜鉛スルフィドなど;バリウム化合物、例えば、チタン酸バリウム、バリウムフェライト、硫酸バリウム、重晶石など;金属および金属酸化物、例えば、粒状または繊維状アルミニウム、黄銅、亜鉛、銅およびニッケルなど;フレーク状充填剤、例えば、ガラスフレーク、フレーク状シリコンカーバイド、二ホウ化アルミニウム、アルミニウムフレーク、鋼フレークなど;繊維状充填剤、例えば、無機短繊維、例えば、ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、および硫酸カルシウム半水和物などの少なくとも1つを含むブレンドから得られるものなど;天然充填物および補強材、例えば、木材を粉砕することによって得られる木粉、繊維状製品、例えば、セルロース、綿、サイザル、ジュート、デンプン、コルク粉、リグニン、粉砕ナッツ殻、コーン、米籾殻など;有機充填剤、例えば、ポリテトラフルオロエチレン;繊維形成能力のある有機ポリマー、例えば、ポリ(エーテルケトン)、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリ(フェニレンスルフィド)、ポリエステル、ポリエチレン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル系樹脂、ポリ(ビニルアルコール)などから形成された補強用有機繊維状充填剤;およびその他の充填剤および補強材、例えば、マイカ、粘土、長石、煙塵、フィライト、石英、珪岩、パーライト、トリポリ、珪藻土、カーボンブラックなど、またはこれらの充填剤または補強材の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
上記充填剤および補強材は、導電性を高めるための金属材料層で被覆され、またはポリマーマトリックス樹脂との接着および分散を向上させるためにシランで表面処理されてもよい。加えて、補強充填剤は、単繊維または多繊維の繊維の形態で提供されることができ、単独または他の種類の繊維との、例えば、交織もしくは芯/鞘、並列、オレンジ型もしくはマトリックスおよび小繊維構造もしくは繊維製造技術分野に精通している者には知られている他の方法による組合せのいずれでも使用することができる。適当な交織構造には、例えば、ガラス繊維-炭素繊維、炭素繊維-芳香族ポリイミド(アラミド)繊維、および芳香族ポリイミド繊維-ガラス繊維などが含まれる。繊維状充填剤は、例えば、ロービング、0〜90度織物などの織物繊維補強材;連続ストランドマット、チョップドストランドマット、ティッシュ、紙、フェルトなどの不織繊維補強材;または網組などの三次元補強材の形態で供給され得る。充填剤は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0〜90重量パーセントの量で使用することができる。
適当な酸化防止添加剤には、例えば、オルガノホスファイト、例えば、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトなど;アルキル化モノフェノールまたはポリフェノール;ポリフェノールとジエンのアルキル化反応生成物、例えば、テトラキス[メチレン(3,5-ジ-tert-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)]メタンなど;パラ-クレゾールまたはジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物;アルキル化ヒドロキノン;ヒドロキシ化チオジフェニルエーテル; アルキリデンビスフェノール;ベンジル化合物;β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸と一価または多価アルコールのエステル;β-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-プロピオン酸と一価または多価アルコールのエステル;チオアルキルまたはチオアリール化合物のエステル、例えばジステアリルチオプロピオネート、ジラウリルチオプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートなど;β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸などのアミド;またはこれらの酸化防止剤の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。酸化防止剤は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.0001〜1重量パーセントの量で使用することができる。
適当な熱安定化添加剤には、例えば、オルガノホスファイト、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス-(2,6-ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス-(混合モノ-およびジ-ノニルフェニル)ホスファイトなど;ホスホネート、例えば、ジメチルベンゼンホスホネートなど、ホスフェート、例えば、トリメチルホスフェートなど、またはこれらの熱安定剤の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。熱安定剤は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.0001〜1重量パーセントの量で使用することができる。
光安定剤および/または紫外線(UV)吸収添加剤も使用することができる。適切な光安定剤には、例えば、ベンゾトリアゾール、例えば、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、および2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノンなど、またはこれらの光安定剤の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。光安定剤は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.0001〜1重量パーセントの量で使用することができる。
適当なUV吸収添加剤には、例えば、ヒドロキシベンゾフェノン;ヒドロキシベンゾトリアゾール;ヒドロキシベンゾトリアジン;シアノアクリレート;オキサニリド;ベンゾオキサジノン;2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)-フェノール(CYASORB(登録商標)5411);2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン(CYASORB(登録商標)531);2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチルオキシ)-フェノール(CYASORB(登録商標)1164);2,2'-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)(CYASORB(登録商標)UV-3638);1,3-ビス[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]-2,2-ビス[[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル]プロパン(UVINUL(登録商標)3030);2,2'-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン);1,3-ビス[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]-2,2-ビス[[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル]プロパン;ナノサイズの無機物質、例えば、すべて100ナノメートル未満の粒子サイズを有する酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛など;またはこれらのUV吸収剤の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。UV吸収剤は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.0001〜1重量パーセントの量で使用することができる。
可塑剤、潤滑剤、および/または離型剤添加剤も使用することができる。これらの種類の物質の間にはかなりの重なり合いがあり、例えば、ジオクチル-4,5-エポキシ-ヘキサヒドロフタレートなどのフタル酸エステル;トリス(オクトキシカルボニルエチル)イソシアヌレート;トリステアリン;二または多官能性芳香族ホスフェート、例えば、レゾルシノールテトラフェニルジホスフェート(RDP)、ヒドロキノンのビス(ジフェニル)ホスフェートおよびビスフェノール-Aのビス(ジフェニル)ホスフェート;ポリα-オレフィン;エポキシ化大豆油;シリコーンオイルを含むシリコーン;エステル、アルキルステアリルエステルなどの脂肪酸エステル、例えば、ステアリン酸メチル;ステアリルステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレートなど;ステアリン酸メチルとポリエチレングリコールポリマー、ポリプロピレングリコールポリマー、およびこれらのコポリマーを含む親水性および疎水性の非イオン性界面活性剤との混合物、例えば、適当な溶媒中のステアリン酸メチルおよびポリエチレン-ポリプロピレングリコールコポリマー;ビーズワックス、モンタンワックス、パラフィンワックスなどのワックスが含まれる。このような物質は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.001〜1重量パーセント、特に0.01〜0.75重量パーセント、より特に0.1〜0.5重量パーセントの量で使用することができる。
「静電防止剤」という用語は、導電性および全体的な物理的性能を向上させるためにポリマー樹脂中に入れる、および/または材料または物品上にスプレーすることができるモノマー、オリゴマーまたはポリマー物質を言う。モノマー静電防止剤の例には、グリセリンモノステアリン酸エステル、グリセリンジステアリン酸エステル、グリセリントリステアリン酸エステル、エトキシ化アミン、第一級、第二級および第三級アミン、エトキシル化アルコール、アルキルサルフェート、アルキルアリールサルフェート、アルキルホスフェート、アルキルアミンサルフェート、アルキルスルホン酸塩、例えば、ステアリルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなど、第四級アンモニウム塩、第四級アンモニウム樹脂、イミダゾリン誘導体、ソルビタンエステル、エタノールアミン、ベタインなど、またはこれらのモノマー静電防止剤の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
例となるポリマー静電防止剤には、ある種のポリエステルアミドポリエーテルポリアミド(ポリエーテルアミド)ブロックコポリマー、ポリエーテルエステルアミドブロックコポリマー、ポリエーテルエステル、またはポリウレタンが含まれ、それぞれポリアルキレングリコール部分ポリアルキレンオキシド単位、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを含有している。かかるポリマー静電防止剤は、例えば、Pelestat(登録商標)6321(Sanyo)またはPebax(登録商標)MH1657(Atofina)、Irgastat(登録商標)P18およびP22(Ciba-Geigy)が市販されている。静電防止剤として使用することができる他のポリマー物質は本質的に導電性ポリマーであり、例えば、ポリアニリン(PanipolからPANIPOL(登録商標)EBとして市販されている)、ポリピロール、およびポリチオフェン、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(H.C. Starkから市販されている)、これらは高い温度で溶融加工された後もその本来の導電性の一部を保持している。一実施形態では、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、またはこれらの任意の組合せを、化学静電防止剤を含有しているポリマー樹脂中で使用して組成物を静電気消散性にすることができる。静電防止剤は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.0001〜5重量パーセントの量で使用することができる。
添加することができる適切な難燃剤は、リン、臭素、および/または塩素を含む有機化合物であってよい。非臭素化および非塩素化リン含有難燃剤、例えば、有機ホスフェートおよびリン-窒素結合を含有する有機化合物が、ある種の用途には規制上の理由で好ましいことがある。
例となる有機ホスフェートの一種は、式(GO)3P=Oの芳香族ホスフェートであり、式中のそれぞれのGは独立に、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリールまたはアリールアルキル基であるが、少なくとも1つのGは芳香族基であることが条件である。G基のうち2つが一緒になって環状基、例えば、ジフェニルペンタエリスリトールジホスフェートを与えてもよい。他の適切な芳香族ホスフェートは、例えば、フェニルビス(ドデシル)ホスフェート、フェニルビス(ネオペンチル)ホスフェート、フェニルビス(3,5,5'-トリメチルヘキシル)ホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジ(p-トルイル)ホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)p-トルイルホスフェート、トリトルイルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)フェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスフェート、ビス(ドデシル)p-トルイルホスフェート、ジブチルフェニルホスフェート、2-クロロエチルジフェニルホスフェート、p-トルイルビス(2,5,5'-トリメチルヘキシル)ホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェートなどでよい。具体的な芳香族ホスフェートは、それぞれのGが芳香族であるもの、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレシルホスフェート、イソプロピル化トリフェニルホスフェートなどである。
二官能性または多官能性芳香族リン含有化合物、例えば、次式の化合物も有用である:
上記式中、それぞれのG1は独立に、1〜30個の炭素原子を有する炭化水素であり;それぞれのG2は独立に、1〜30個の炭素原子を有する炭化水素または炭化水素オキシであり;それぞれのXaは独立に1〜30個の炭素原子を有する炭化水素であり;それぞれのXは独立に、臭素または塩素であり; mは0〜4であり、nは1〜30である。適当な二官能または多官能性芳香族リン含有化合物には、レゾルシノール、テトラフェニルジホスフェート(RDP)、ヒドロキノンのビス(ジフェニル)ホスフェート、およびビスフェノール-Aのビス(ジフェニル)ホスフェート、これらそれぞれのオリゴマーおよびポリマー性対応物などが含まれる。
例となるリン-窒素結合を含有する適当な難燃化合物には、ホスホニトリルクロリド、リンエステルアミド、リン酸アミド、ホスホン酸アミド、ホスフィン酸アミド、トリス(アジリジニル)ホスフィンオキシドが含まれる。存在する場合は、リン含有難燃剤は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.1〜10重量パーセントの量で存在することができる。
ハロゲン化物質、例えばハロゲン化化合物および式(20)の樹脂も難燃剤として使用することができる:
上記式中、Rは、アルキレン、アルキリデン、または脂環族連結基、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、イソプロピリデン、ブチレン、イソブチレン、アミレン、シクロヘキシレン、シクロペンチリデンなど;または酸素エーテル、カルボニル、アミン、またはイオウ含有連結基、例えば、スルフィド、スルホキシド、スルホンなどである。Rはまた芳香族、アミノ、エーテル、カルボニル、スルフィド、スルホキシド、スルホンなどの基で結合された2つ以上のアルキレンまたはアルキリデン連結基から成っていてもよい。
式(20)中のArおよびAr'は、それぞれ独立に、フェニレン、ビフェニレン、ターフェニレン、ナフチレンなどの単炭素環または多炭素環芳香族基である。
Yは、有機、無機、またはオルガノ金属基、例えば、ハロゲン、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素;一般式OEにおいて、EがXと類似の一価の炭化水素基であるエーテル基;Rによって表される種類の一価炭化水素基;または他の置換基、例えば、ニトロ、シアノなどであり、前記置換基はアリール核1つ当たりに少なくとも1個、好ましくは2個のハロゲン原子があれば本質的に不活性である。
存在する場合は、それぞれのXは独立に、一価の炭化水素基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、デシルなどのアルキル基;フェニル、ナフチル、ビフェニル、キシリル、トルイルなどのアリール基;ベンジル、エチルフェニルなどのアリールアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシルなどの脂環式基である。一価の炭化水素基はそれ自体が不活性な置換基を含有してもよい。
それぞれのdは独立に、1から、ArまたはAr'を含む芳香族環上の置換される置換可能な水素の数と等価な最大数まで、である。それぞれのeは独立に、0から、R上の置換可能な水素の数と等価な最大数まで、である。それぞれのa、b、およびcは独立に、0を含む整数である。bが0でない場合は、aもcも0にはなれない。あるいはaまたはbのいずれかが0であってもよいが両方が0ではない。bが0である場合は、芳香族基どうしは直接炭素-炭素結合によって結合される。
芳香族基ArおよびAr'上のヒドロキシルおよびY置換基は、芳香環上のオルト、メタまたはパラ位で異なっていることができ、かつ複数の基はお互いに対して任意の可能な幾何学的関係にあることができる。
上式の範囲内に含まれるのは、ビスフェノールであり、その中でも以下のものが代表的である: 2,2-ビス(3,5-ジクロロフェニル)-プロパン; ビス(2-クロロフェニル)-メタン; ビス(2,6-ジブロモフェニル)-メタン; 1,1-ビス(4-ヨードフェニル)-エタン; 1,2-ビス(2,6-ジクロロフェニル)-エタン; 1,1-ビス(2-クロロ-4-ヨードフェニル)エタン; 1,1-ビス(2-クロロ-4-メチルフェニル)-エタン; 1,1-ビス(3,5-ジクロロフェニル)-エタン; 2,2-ビス(3-フェニル-4-ブロモフェニル)-エタン; 2,6-ビス(4,6-ジクロロナフチル)-プロパン; 2,2-ビス(2,6-ジクロロフェニル)-ペンタン; 2,2-ビス(3,5-ジブロモフェニル)-ヘキサン; ビス(4-クロロフェニル)-フェニル-メタン; ビス(3,5-ジクロロフェニル)-シクロヘキシルメタン; ビス(3-ニトロ-4-ブロモフェニル)-メタン; ビス(4-ヒドロキシ-2,6-ジクロロ-3-メトキシフェニル)-メタン; および2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、2,2-ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン。同じく上の構造式の範囲内に含まれるのは、1,3-ジクロロベンゼン、1,4-ジブロモベンゼン、1,3-ジクロロ-4-ヒドロキシベンゼン、およびビフェニル類、例えば2,2'-ジクロロビフェニル、ポリブロム化1,4-ジフェノキシベンゼン、2,4'-ジブロモビフェニル、および2,4'-ジクロロビフェニル、並びにデカブロモジフェニルオキシドなどである。
同様に有用なものはオリゴマーおよびポリマー状のハロゲン化芳香族化合物、例えばビスフェノールAおよびテトラブロモビスフェノールAおよびカーボネート前駆体、例えば、ホスゲン、のコポリカーボネートなどである。金属相乗剤、例えば、酸化アンチモンも難燃剤と共に使用することができる。存在する場合は、ハロゲン含有難燃剤は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.1〜10重量パーセントの量で存在することができる。
無機難燃剤、例えば、C2〜16アルキルスルホン酸塩の塩、例えばパーフルオロブタンスルホン酸カリウム(Rimar塩)、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸テトラエチルアンモニウム、およびジフェニルスルホンスルホン酸カリウムなども使用することができ;塩は、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、およびバリウム塩)と、無機酸錯塩、例えば、Na2CO3、K2CO3、MgCO3、CaCO3、およびBaCO3などの炭酸のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩などのオキソアニオン、またはLi3AlF6、BaSiF6、KBF4、K3AlF6、KA1F4、K2SiF6、および/またはNa3AlF6などのフルオロアニオン錯体とを反応させることによって形成される。存在する場合は、無機難燃剤塩は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.1〜5重量パーセントの量で存在することができる。
滴下防止剤(アンチドリップ剤)、例えば、繊維形成性(フィブリル形成性)または非繊維形成性フルオロポリマー、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)も使用することができる。滴下防止剤は、上記したような剛性コポリマー、例えば、スチレン-アクリロニトリルコポリマー(SAN)によってカプセル化することができる。SAN中にカプセル化されたPTFEは、TSANとして知られている。カプセル化されたフルオロポリマーは、カプセル化ポリマーをフルオロポリマーの存在下、例えば水性懸濁液中で重合させることによって作ることができる。TSANは、それが組成物中により容易に分散させることができるという点で、PTFEを超える顕著な利点をもたらすことができる。適当なTSANは、例えば、カプセル化されたフルオロポリマーの全重量に対してPTFE 50重量%およびSAN 50重量%を含むことができる。SANは、例えば、コポリマーの全重量に対してスチレン75重量%およびアクリロニトリル25重量%を含むことができる。あるいは、フルオロポリマーは、例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂またはSANなどの第2のポリマーと何らかの方法で予備ブレンドして、滴下防止剤としての使用のための凝集した材料を形成させることができる。いずれの方法も、カプセル化されたフルオロポリマーを製造するために使用することができる。滴下防止剤は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の合計重量に対して0.1〜5重量パーセントの量で使用することができる。
他の樹脂を、本明細書に記載する熱可塑性組成物中で使用しうることも意図されるが、芳香族スルホネート化合物が、本明細書に記載するポリカーボネート型樹脂(ホモポリカーボネート、コポリエステルカーボネート、およびこれらの組合せ)のみを含有する熱可塑性組成物中での使用のために特に適している。したがって、一実施形態では、本熱可塑性組成物は、ポリカーボネート樹脂と、芳香族スルホネート化合物0.1〜5mmol/kg、芳香族スルホネート化合物0.2〜4mmol/kg、芳香族スルホネート化合物0.3〜3mmol/kg、または芳香族スルホネート化合物0.4〜2.5mmol/kgとから本質的に成り、各含有量はポリカーボネート樹脂と芳香族スルホネート化合物を合わせ、他の添加物および/または充填剤は除外した重量に対するものである。あるいは、一実施形態では、本熱可塑性組成物は、ポリカーボネート99.75〜99.999重量%および芳香族スルホネート化合物0.001〜0.25重量%、ポリカーボネート99.8〜99.998重量%および芳香族スルホネート化合物0.002〜0.2重量%、ポリカーボネート99.85〜99.997重量%および芳香族スルホネート化合物0.003〜0.15重量%、ポリカーボネート99.9〜99.996重量%および芳香族スルホネート化合物0.004〜0.1重量%、またはポリカーボネート99.905〜99.995重量%および芳香族スルホネート化合物0.005〜0.095重量%から本質的に成り、これらそれぞれの重量パーセントはポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物を合わせ、他の添加物および/または充填剤は除外した重量に対するものである。
他の一実施形態では、本熱可塑性組成物は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物を合わせた重量に対して0.001〜1重量%の脂肪族ジオールをさらに含む。他の特定の一実施形態では、本熱可塑性組成物は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物を合わせた重量に対して0.001〜1重量%の加水分解安定化剤を含む。
他の一実施形態では、本熱可塑性組成物は、耐衝撃性改良剤、充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、離型剤、潤滑剤、静電防止剤、顔料、染料(色素)、難燃剤、滴下防止剤、またはこれらの少なくとも1つを含む組合せから選択された添加剤を含むことができる。
本熱可塑性組成物は、当技術分野で一般的に利用可能な方法によって製造することができ、例えば、一実施形態において、1つの手順では、粉末化されたポリカーボネート、芳香族スルホネート化合物、および対電離放射線安定化剤および/または加水分解安定化剤を含めた他の任意選択成分をまずHENSCHEL-Mixer(登録商標)高速ミキサー中でブレンドする。、手作業(これだけには限定されない)の混合を含めた、他の低せん断法もこのブレンドを達成することができる。次いで、ブレンド物をホッパー経由で押出機の投入口に供給する。あるいは、1つまたは複数の成分を、直接押出機の投入口に、および/または下流で追加挿入機を通して供給することによって組成物中に組み込むことができる。粉末化されたポリカーボネート、芳香族スルホネート化合物、および対電離放射線安定化剤および/または加水分解安定化剤を含む他の任意選択成分もマスターバッチ中に配合し、押出機中に供給して追加のポリカーボネートおよび/または他のポリマーと組み合わせることができる。押出機は、一般的に組成物を流動させるのに必要な温度よりも高い温度で運転される。押出物は直ちに水浴中で急冷し、ペレット化する。押出物を、所望に応じて長さ4分の1インチまたはそれ未満に切断してペレットが調製される。このペレットは続く成形のために使用することができる。
特定の一実施形態では、熱可塑性組成物を調製する方法は、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物を溶融混合することを含む。溶融混合は、押出しによって行うことができる。一実施形態では、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物の比率は、熱可塑性組成物の力学的性能は所望のレベルである一方で、光学的性質が最大化されるように選択する。さらなる特定の一実施形態では、対電離放射線安定化剤を、ポリカーボネートおよび芳香族スルホネート化合物に組み込んで本熱可塑性組成物を作る。さらなる特定の一実施形態では、加水分解安定化剤も含められる。一実施形態では、本熱可塑性組成物は、上記マスターバッチ組成物およびポリカーボネート樹脂を溶融ブレンドすることによって調製される。一実施形態では、ポリカーボネート、芳香族スルホネート化合物、任意の添加されたポリカーボネート樹脂、および所望する場合には対電離放射線安定化剤および/または加水分解安定化剤の比率は、熱可塑性組成物の力学的性質は所望のレベルでありながら光学的性質が最適化されるように選択する。
特定の一実施形態では、押出機は二軸スクリュー押出機である。この押出機は、通常180〜385℃、特に200〜330℃、より特に220〜300℃の温度で運転され、ダイの温度は異なり得る。押出成形された熱可塑性組成物は、水中で急冷され、ペレット化される。
形状付与、成形、または成型された、熱可塑性組成物を含む物品も提供される。本熱可塑性組成物は、射出成形、押出成形、回転成形、ブロー成形、熱成形、またはその他の方法、例えば、溶融キャスティング又は溶媒キャスティングなどのさまざまな方法によって有用な形状の物品に成形することができる。特定の一実施形態では、成形は射出成形によって行われる。望ましくは、本熱可塑性組成物は優れた金型充填能力を有し、かつ、例えば、ボトル、注射器、透析継手、配管、試料バイアル、血液バッグ、ペトリ皿、ビーカー、遠心分離管、スパチュラ、コネクター、トロカール、栓、ルアーロック、Yサイト、カテーテル、人工肺ハウジング、トレー、歯科器具、ピペット、血糖測定器、吸入器などの物品を成形するのに有用である。
本熱可塑性組成物を、以下の非限定的実施例によってさらに例証する。
(実施例)
すべての熱可塑性組成物は、Werner&Pfleidererの同方向回転二軸スクリュー押出機(長さ/直径(L/D)比=30/1、真空口はダイの近傍に配置)で配合した。この二軸スクリュー押出機は、ポリマー組成物の良好な混合を実現するための十分な分配および分散混合エレメントを有していた。組成物は、続いてISO 294に準拠してHusky or BOY射出成形機で成形した。組成物を配合し、250〜330℃の温度で成形したが、当業者にはこの方法はこれらの温度には限定されないことが認識されるであろう。
本熱可塑性組成物を以下の性質について試験した。実験規模のサンプルついての黄色度指数(YI)は、Gretag MacBeth Color System を使用して、C/2゜の光源観測器で、ASTM D1925-70に準拠して厚さ3.2±0.12ミリメートルの成形板について測定した。YIの増加(dYI)は、照射されていないサンプルの黄色度指数値を、同じ組成の照射サンプルの値から差し引くことによって計算する。分子量の変化は、80℃での乾燥、窒素パージオーブン中での加熱、または80℃および相対湿度80%(80/80)の加熱および水分いずれかの条件で、次の手順に従って試験した:
ポリカーボネート100グラムのサンプルを、80℃プラスまたはマイナス3℃のオーブン中に入れ、相対湿度80%は水蒸気の導入によって確立し、あるいはオーブンを80℃に予熱し、乾燥空気の流れをチャンバに通してパージした。サンプルを所望の温度で2週間(wk)保持した。サンプルをオーブンから取り出し、塩化メチレン中に溶解し、1mg/mlの濃度に希釈し、架橋スチレン-ジビニルベンゼンカラムを使用してゲル浸透クロマトグラフィーによって分析し、ポリカーボネート標準物質に対して較正した。サンプルおよび対照の重量平均分子量の比較から重量平均分子量の差を決定した。
実施例(以下の表中ではEx.と略記)および比較例(以下の表ではCEx.と略記)のためのポリカーボネート組成物は、表1に示す成分を使用して調製した。ポリカーボネート組成物のそれぞれは、離型剤(PETS、0.27重量%)、酸化防止剤(Irgafos(登録商標)I-168、0.027重量%)を含有するように配合し、かつ別途注記しない限りは、アルキレンジオール(MPD、0.15重量%)を含有していた。ポリカーボネート樹脂および添加剤は、粉末ミキサー中でブレンドし、二軸スクリュー押出機で押出し、上述した装置を使用して厚さ3.2±0.12mmの平らな長方形の板に射出成形した。黄変に対する耐性を試験するためには、板を密封して高エネルギー(ガンマ)放射を当て、板を大気に露出させたらすぐにYIを測定し、dYIを上記の手順に従って計算した。
芳香族スルホネート化合物である、4-ビス(フェニル-p-トルエンスルホネート)-2,2-プロパン(PTP)、1,4-フェニル-ジトシレート(PDT)、フロログルシニル-トリス-(トシレート)(1,3,5-PTT)、ピロガロール-トリス-(トシレート)(1,2,3-PTT)、ピロガロール-トリス(4-アセチル-ベンゼンスルホネート)(PTAB)、ピロガロール-トリス(4-メトキシ-ベンゼンスルホネート)(PTMB)、およびピロガロール-トリス(オクタンスルホネート)(PTOS)を以下の手順に従って調製した。
4,4-ビス(フェニル-p-トルエンスルホネート)-2,2-プロパン(PTP)。マグネチックスターラーを備えた500ml三口丸底フラスコ中にTsCl(10.0g、0.052mol)、BPA(5.38g、0.024mol)、およびテトラヒドロフラン(THF)(300ml)を仕込んだ。この溶液に、TEA(5.61g、0.055mol)を滴下ロートによって5分間かけて添加した。TEAの添加後、この溶液をさらに15分間撹拌した。トリエチルアミン塩酸塩をろ過し、THFを真空で除去した。粗生成物をCH2Cl2 200ml中に希釈し、続いて500mlの分液ロートへ移した。この溶液を0.1M NaOH 100ml(2回)、1.0M HCl 100ml(2回)、および脱イオン水100ml(2回)で洗浄した。塩化メチレン層を抜き出し、MgSO4で1時間乾燥し、ろ過した。塩化メチレンを真空下で除去し、粘稠なオイルを得た。この粘稠なオイルを最小限の量の塩化メチレンで希釈し、ヘキサンから結晶化させ、PTPを白色結晶として得た。結晶を集めて一晩真空乾燥(30mmHg)した。
1,4-フェニル-ジトシレート(PDT)。マグネチックスターラーを備えた500ml三口丸底フラスコ中にTsCl(20.0g、0.105mol)、ヒドロキノン(5.0g、0.045mol)、塩化メチレン(400ml)、およびTHF(50ml)を仕込んだ。この溶液に、TEA(10.8g、0.106mol)を滴下ロートによって10分間かけて添加した。TEAの添加後、この溶液をさらに2時間撹拌し、続いて1000mlの分液ロートに移した。この溶液を1.0M HCl 150ml(1回)、0.1M NaOH 100ml(2回)、1.0M HCl 100ml(1回)、および脱イオン水100ml(2回)で洗浄した。塩化メチレン層を抜き出し、MgSO4で1時間乾燥し、ろ過した。塩化メチレンを真空下で除去し、粘稠なオイルを得た。この粘稠なオイルを最小限の量の塩化メチレンで希釈し、ヘキサンから結晶化させ、PDTを白色結晶として得た。結晶を集めて一晩真空乾燥(30mmHg)した。
フロログルシニル-トリス-(トシレート)(1,3,5-PTT)。マグネチックスターラーを備えた500ml三口丸底フラスコ中にTsCl(20.0g、0.105mol)、フロログルシノール(4.26g、0.033mol)、塩化メチレン(400ml)、およびTHF(50ml)を仕込んだ。この溶液に、TEA(13.2g、0.13mol)を滴下ロートによって10分間かけて添加した。TEAの添加後この溶液をさらに15分間撹拌し、続いて1000mlの分液ロートに移した。溶液を1.0M HCl 150ml(1回)、0.1M NaOH 100ml(2回)、1.0M HCl 100ml(1回)、および脱イオン水100ml(3回)で洗浄した。塩化メチレン層を抜き出し、MgSO4で1時間乾燥し、ろ過した。塩化メチレンを真空下で除去し、粘稠なオイルを得た。この粘稠なオイルを最小限の量の塩化メチレンで希釈し、メタノールから結晶化させ、1,3,5-PTTを白色結晶として得た。結晶を集めて一晩真空乾燥(30mmHg)した。
ピロガロール-トリス-(トシレート)(1,2,3-PTT)。マグネチックスターラーを備えた500ml三口丸底フラスコ中にTsCl(10.0g、0.052mol)、ピロガロール(2.1g、0.017mol)、塩化メチレン(300ml)、およびTHF(50ml)を仕込んだ。この溶液に、TEA(5.26g、0.052mol)をシリンジによって5分間かけて滴下した。TEAの添加後、この溶液をさらに2時間撹拌し、続いて1000mlの分液ロートに移した。溶液を1.0M HCl 150ml(1回)、0.1M NaOH 100ml(2回)、1.0M HCl 100ml(1回)、および脱イオン水100ml(2回)で洗浄した。塩化メチレン層を抜き出し、MgSO4で1時間乾燥し、ろ過した。塩化メチレンを真空下で除去し、粘稠なオイルを得た。この粘稠なオイルを最小限の量の塩化メチレンで希釈し、ヘキサンから結晶化させ、1,2,3-PTTを白色結晶として得た。結晶を集めて一晩真空乾燥(30mmHg)した。
ピロガロール-トリス-(4-アセチル-ベンゼンスルホネート)(PTAB)。マグチネックスターラーを備えた500ml三口丸底フラスコ中に、4-アセチル-ベンゼンスルホニルクロリド(10.0g、0.045mol)、ピロガロール(1.9g、0.015mol)、塩化メチレン(300ml)、およびTHF(50ml)を仕込んだ。この溶液に、TEA(4.7g、0.046mol)をシリンジによって5分間かけて滴下した。TEAの添加後、この溶液をさらに2時間撹拌し、続いて1000mlの分液ロートに移した。溶液を1.0M HCl 150ml(1回)、0.1M NaOH 100ml(2回)、1.0M HCl 100ml(1回)、および脱イオン水100ml(2回)で洗浄した。塩化メチレン層を抜き出し、MgSO4で1時間乾燥し、ろ過した。塩化メチレンを真空下で除去し、粘稠なオイルを得た。この粘稠なオイルを最小限の量の塩化メチレンで希釈し、ヘキサンから結晶化させ、PTABを白色結晶として得た。結晶を集めて一晩真空乾燥(30mmHg)した。
ピロガロール-トリス-(4-メトキシ-ベンゼンスルホネート)(PTMB)。マグネチックスターラーを備えた500ml三口丸底フラスコ中に4-メトキシ-ベンゼンスルホニルクロリド(10.0g、0.048mol)、ピロガロール(1.97g、0.016mol)、塩化メチレン(300ml)、およびTHF(50ml)を仕込んだ。この溶液に、TEA(4.9g、0.048mol)をシリンジによって5分間かけて滴下した。TEAの添加後、この溶液をさらに2時間撹拌し、続いて1000mlの分液ロートに移した。溶液を1.0M HCl 150ml(1回)、0.1M NaOH 100ml(2回)、1.0M HCl 100ml(1回)、および脱イオン水100ml(2回)で洗浄した。塩化メチレン層を抜き出し、MgSO4で1時間乾燥し、ろ過した。塩化メチレンを真空下で除去し、粘稠なオイルを得た。この粘稠なオイルを最小限の量の塩化メチレンで希釈し、ヘキサンから結晶化させ、PTABを白色結晶として得た。結晶を集めて一晩真空乾燥(30mmHg)した。
ピロガロール-トリス-(オクタンスルホネート)(PTOS)。マグネチックスターラーを備えた500ml三口丸底フラスコ中にオクタンスルホニルクロリド(10.0g、0.047mol)、ピロガロール(1.9g、0.015mol)、塩化メチレン(300ml)、およびTHF(50ml)を仕込んだ。この溶液に、TEA(5.0g、0.049mol)をシリンジによって5分間かけて滴下した。TEAの添加後、この溶液をさらに2時間撹拌し、続いて1000mlの分液ロートに移した。溶液を1.0M HCl 150ml(1回)、0.1M NaOH 100ml(2回)、1.0M HCl 100ml(1回)、および脱イオン水100ml(2回)で洗浄した。塩化メチレン層を抜き出し、MgSO4で1時間乾燥し、ろ過した。塩化メチレンを真空下で除去し、粘稠なオイルを得た。この粘稠なオイルを最小限の量の塩化メチレンで希釈し、ヘキサンから結晶化させ、PTOSを白色結晶として得た。結晶を集めて一晩真空乾燥(30mmHg)した。
実施例1〜7および比較例1〜7。スルホネート類および0.15重量%のMPDを、BPA-PCポリカーボネート樹脂と、以下の表2に記載の比率に従ってブレンドした。すべての実施例および比較例は、0.27重量%のPETS(可塑剤/離型剤)および0.027重量%のIrgafos(登録商標)I-168(酸化防止剤)を含有している。ペレットはBOYの射出成形機で厚さ3.2±0.12ミリメートルの長方形の板に射出成形し、これは光および水分との接触を防ぐために密封パッケージに入れた。次いでこの板を、25、50、または75キログレイ(kGy)の公称線量(滅菌に関しては一般的であり、実際の線量は表に報告している) で高エネルギー放射に当て、続いてASTM D1925-70に準拠したYI測定を用いるする上記の方法によって黄色度指数の変化(dYI)を測定した。表3は、高エネルギーガンマ線放射に暴露させた後のサンプルに対するdYIデータを示す。
表2に記載の組成物を板に成形してさまざまな力学的、熱的、および物理的性質を評価した。得られたデータの比較を表2に提供する。(データと共に記載されている線量は、実際に測定された線量であり、表2の注記で示した通り公称線量に対応する)。
実施例1〜7すべてが、スルホネート添加剤を含有していない比較例1と比較して、高エネルギー線量への暴露後のdYIの増加に対して向上した耐性を示す。一官能性(PT; 比較例2および3)、および二官能性芳香族トシレート(PTPおよびPDT; 比較例4〜7)は、対照と比較して、dYIの増加に対する耐性の有意な向上を示さなかった。三官能性トシレートについては、ピロガロール系のトシレート(1,2,3-PTT; 実施例2および3)は、フロログルシノールのトリ-トシレート(実施例1)よりもdYIの増加に対する大きい耐性を示す。1,2,3-三官能性芳香族アルキルスルホネート(PTOS)を用いて調製された実施例6および7は、dYIの増加に対して最大の耐性を示すように見える;しかし、PTOSを含有するポリカーボネート組成物の当初のYIは、(熱重量分析(TGA)を使用して見られるように)押出しおよび射出成形の間のアルキル部分の熱分解がおそらく原因で、スルホネート添加剤を含有するポリカーボネート組成物のいずれのYIに対しても約2倍だった。大部分の例においては、スルホネート濃度を2倍にすることはdYIをわずかに向上させるが、顕著にではない。こうして、実施例9および10(PTOS)は、PTOSの濃度を1mmol/kgから2mmol/kgへ倍増することによる最も顕著なdYIの向上を示した。
実施例8〜15および比較例8〜11は、BPA-PCまたはITR-PC、および1,2,3-PTTを含むポリカーボネート組成物中の脂肪族ジオール(MPD)の存在または不存在の影響を調べるために表3中の比率に従って調製された。これらの材料は、上記した通りに、ブレンドし、二軸スクリュー押出機で押出し、厚さ3.2±0.12mmの平らな長方形の板に射出成形した。dYIは、ガンマ線照射後のサンプルについて(公称25、50、および75kGyの照射線量; 実際の線量は表3中に注記する)ASTM D1925-70を用いて決定した。データは表3に示す。
データは、MPDおよび三官能性トシレート(1,2,3-PTT)の組合せを含有するポリカーボネート樹脂は、三官能性トシレートだけを含有する類似のポリカーボネート材料(実施例8〜10、13、および14)と比較して、dYIの相乗的低下が起こる(実施例11、12、および15)ことを示す。トシレートの濃度を1mmol/kgから2mmol/kgに増加させることは、(照射後の)dYIを顕著には変えなかった。注目すべきことに、ITR-PCの例(実施例13〜15、および比較例11)は、相当する添加剤添加量を有するBPA-PC例よりも、すべての暴露線量で低いベースラインdYIを有する。ITR-PCを用い、MPDおよび1,2,3-PTTの両方を添加して調製された実施例15は、表3の実施例のうちで最も小さいdYI(それ故に最も高い安定性)を示す。
実施例16〜22および比較例12および13。これらの例は、BPA-PC、多官能性トシレート、MPD 0.15重量%、および加水分解安定化剤を用いて調製した。通常、加水分解安定化剤は、ポリカーボネート組成物の高温および高湿分の環境への露出からもたらされる分子量の低下を防止または軽減するために加えられる。使用した加水分解安定化剤は、ERL-4221またはADR-4368のどちらかであった。熱可塑性組成物は、上記の手順に従って、ブレンド、押出、試験用板への成形、および照射した。同一の板を、上記の通り、80℃、または80℃および湿度80%の組合せのどちらかで環境曝露させるためにオーブンに入れた。組成およびデータを、表4に示す。
実施例16〜19(1,3,5-PTTを有する)は、ガンマ線による照射後に、比較例12および13を超えるわずかな向上を示し、エポキシ安定剤の添加で、dYIのさらにわずかな向上を示す(実施例17〜19)。実施例20〜22(1,2,3-PTTを有する)は、比較例12および13と比較して低いdYIを有するが、エポキシ安定剤の添加(実施例21および22)は、はっきりわかるほどにはdYIに影響を与えなかった。すべての場合において、エポキシ添加剤は、ポリカーボネート樹脂の加水分解安定性を顕著には改善しなかった。エポキシド部分は、ポリカーボネートのガンマ線照射時に形成される他の高エネルギー化学種と反応して、照射後に熱および水分に曝露したときに、加水分解安定化剤としてのその有用性が低減される可能性があると考えられる。
一般的に、上のデータは、低い黄色度などの良好な光学的性質および望まれる高い透明性を有する薄い色または無色の物品(すなわち添加着色剤が少ないかまたは添加がない)を、本明細書で記載した熱可塑性組成物を用いて調製することができることを示している。そのような物品は、 (83kGyまでの) 高線量のガンマ線での照射後も、これらの望ましい性質を維持することができる。
本明細書において化合物は、標準的な命名法を使用して記載した。2つの文字または記号の間にはないダッシュ「-」は、置換基の結合点を表示するために使用されている。例えば、-CHOはカルボニル(C=O)基の炭素を通じて結合している。単数形は、文脈がそうではないことを明瞭に指示しない限りは、示されたものの複数をも含む。同じ特徴または成分のことを繰り返し述べるすべての範囲の終点は、独立して、結合可能であり、かつ記載された終点を包含する。すべての参考文献は、参照により本明細書に援用する。本明細書における「第1の」、「第2の」などは、いかなる順序、量または重要性をも表示するものではなく、むしろある要素を他の要素と区別するために使用されている。
代表的な実施形態を例示の目的のために提示してきたが、前述の記載は本明細書の範囲に対する限定とみなしてはならない。したがって、当業者は本明細書の趣旨および範囲を逸脱することなく、さまざまな変更形態、適合形態および代替形態を思いつくことができる。