JP5405829B2 - トロンボモジュリン変異体を用いた急性障害の治療方法 - Google Patents

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Description

本発明は医学分野に関し、具体的には可溶性トロンボモジュリンを用いた急性腎不全の予防及び治療方法に関する。
院内感染性急性腎不全(ARF)は、その患者の治療技術の進歩、及び疾患プロセスの病態生理学に関する知見の蓄積にもかかわらず、相変わらず高い死亡率の疾患として知られている。その死亡率は過去40年にわたって一定しており、40%余り〜70%となっている。この数字は特にICU設備において顕著であり、そこではARFが50〜90%の死亡率となることが知られている(文献Conger JD.AmJKidDis 1995、26:565−76;Liano F,Pascual J.Semin Nephrol 1998、18:541−50;McCarthy JT,Mayo Clin.Proc.1996、71(2):117−26;Anderson RJら、N.Engl.J.Med.1977、296(20):1134−8)。言い換えると、ARFの防止により、死亡率の減少、病的症状、入院期間及び全体的な経費の減少がもたらされる。
多数のモデル実験が行われたが、ドーパミン、浸透圧剤、心房性ナトリウム利尿ペプチド、インシュリン様成長因子及び内皮受容体アンタゴニストなどの様々な薬剤は、動物には効果的であるものの、ARFの臨床研究においては効果がないことが示されている(文献Solomonら、N.Engl.J.Med.1994、151:208−60;Allegrenら、N.Engl.J.Med.1997、336:828−34;Hirschbergら、Kidney Int.999、55(6):2423−32;Brinkmannら、J.Biol.Chem.2002 14、277(24):21453−7)。すなわち、ヒトのARFを治療するための治療法に対するニーズが依然として存在する。
トロンボモジュリン(TM)は多くの器官(肺、肝臓及び腎臓など)の内皮細胞の膜表面に存在する糖タンパク質である。活性化タンパク質C(APC)は、トロンビンにより媒介されるPCの裂開(トロンビン共同因子としてTMを必要とする現象)によって生じる(文献Esmon,ら、J.Biol.Chem.257:7944−7947,1982;Esmon及びOwen,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:2249−2252,1981)。トロンビンがin vivoでTMと複合体を形成するとき、タンパク質C(PC)の活性化が1000倍に強化され(文献Huang,ら、J.Biol.Chem.278:46750−46759,2003)、更にPCが内皮細胞PCレセプタ(ECPCR)と結合しているときには20倍強化されることが報告されている(文献Esmon,Crit.Care Med.32:S298−301,2004)。このように形成されるAPCは因子Va及びVIIIaを不活性化することによって抗凝固効果を発揮し、それにより凝固カスケードが制御される。最近、APCが腎臓虚血性傷害に対する保護効果を有することが解明されている(文献Mizutani,ら、Blood 95:3781−3787,2000)。虚血性傷害により多数のサイトカインが放出され、TMの発現が下方制御され、それにより相対的なTM欠乏の状態を引き起こし、微小血管系を凝血前の状態に維持することが報告されている(文献Ikeguchi,ら、Kidney Int 61:490−501,2002)。低酸素、ストレス、TNF−α及び他の様々な因子のため虚血性傷害の間と後に発生するTMのこの相対的な不足により、微小血管における損傷の悪化が進行することが考えられる(文献Van de Wouwer及びConway,Crit.Care Med.32:254−261,2004)。TMは、PCシステムにおけるその役割とは別個に、現在までに炎症、線維素溶解、アポトーシス、細胞接着及び細胞増殖での役割を果たすことが解明されている(文献Conway,ら、J.Exp.Med.196:565−577,2002;Huangら、J.Biol.Chem.278:46750−46759,2003)。
以上より、可溶性トロンボモジュリンを使用することにより、虚血性ARFの有効な予防及び治療方法が提供される。
本発明は急性腎不全に罹患する対象の治療方法の提供に関し、当該方法は、当該対象に医薬的有効量の可溶性トロンボモジュリン若しくはその誘導体を投与することを含んでなる。
他の実施形態では、本発明は対象の急性腎不全の予防方法の提供に関し、当該方法は、当該対象に医薬的有効量の可溶性トロンボモジュリン若しくはその誘導体を投与することを含んでなる。
本発明の技術思想に鑑み、明細書及び特許請求の範囲に記載される用語は、下記の通り定義する。
ARFとは、急性の尿細管壊死又は急性の間質性腎炎に起因する急性腎不全を指す。窒素老廃物の滞留と関連する糸球濾過速度の急激な減少のときにARFが発症する。あるいは急性腎不全は急性腎臓機能不全と称されることもある。
APCは活性化タンパク質Cを指し、またaPCは組換えaPCを指す。APCには組換えヒトaPCが包含され、またそれが好ましいが、aPCにはタンパク質C分解、アミド溶解、エステル分解及び生物学的活性(抗凝固活性、抗炎症活性又は線維素溶解促進活性)を有する他の種類のものも包含される。
sTMとは可溶性トロンボモジュリンのことを指し、それはトロンボモジュリンの可溶性の分泌型誘導体であり、トロンボモジュリン膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインの全長を欠いている。欧州特許出願公開第0412841号公報に記載のとおり、トロンボモジュリンのアミノ酸一次構造は公知である。ヒトTMは、シグナルペプチド部分(16、18又は21の残基長であると報告されている)を含んでなる575のアミノ酸タンパク質として合成される。ヒトTMは、シグナルペプチド部分に続いて、アミノ末端から順に以下のドメイン又は領域を含んでなる:
1)〜222−226アミノ酸のアミノ末端領域、
2)〜236−240アミノ酸の6つのEGF(上皮細胞成長因子)様の構造、
3)〜34−37アミノ酸のセリン/スレオニンリッチ領域(ST領域)(幾つかのO−グリコシル化可能部位を有する)、
4)〜23−24アミノ酸の膜貫通領域、及び
5)〜36−38アミノ酸の細胞質ドメイン。
本発明では、sTMには更にST領域を欠損するトロンボモジュリン変異体も包含される。後述するように、sTMのいずれのタイプもトロンボモジュリン活性を有している。本発明では、sTMは好ましくは組換えsTMであり、より好ましくはヒト組換えsTMである。
医薬的有効量とは、医薬化合物の量が治療的に有効な量であることを指す。この発明により投与される化合物の具体的な投与量は当然ながら、個々のケースに関連する具体的な状況(投与する化合物、治療対象の具体的な症状、患者の体質及びその他の考慮すべき諸事項)を考慮しながら、主治医により決定される。
持続点滴とは、所定の期間、静脈内への溶液又は懸濁液の注入を実質的に継続させることを指す。
ボーラス投与とは、約120分以内の時間で所定量の薬剤(ボーラスと呼ばれる)を注入することを指す。
IRI(ischemia reperfusion injury)とは、虚血再灌流障害のことを指す。
「治療する」とは、疾患、症状又は障害の克服のために患者を管理及び処置することを指し、当該用語には、疾患、症状若しくは障害を排除すること、あるいは疾患、症状若しくは障害の発症若しくは合併症を予防することが包含される。
トロンボモジュリン活性とは、タンパク質C相互作用、トロンビンとの結合、EPCRとの相互作用、HMGB1への結合を有すること、並びにAPC補因子活性、トロンビン阻害活性及び抗炎症活性を示すなどの生物学的特性に関連する、可溶性トロンボモジュリン又はその誘導体が有するあらゆる特性のことを指す。TMの結合及び機能の試験方法は公知技術である(Parkinsonら、1990 J.Biol.Chem.265:1202−12610;Grinnell及びBerg.1996.Am.J.Physiol.270:H603−609;Gerlitzら、1993 Biochem.J.295:131−140;Abeyamaら、2005,J.Clin.Invest.115:1267−1274を参照)。
PACとは、部分的な大動脈クランプのことを指す。
本発明は、可溶性トロンボモジュリンによる急性腎不全の治療及び/又は予防方法の提供に関する。急性腎不全による死亡率は従来、元々存在した疾患のみによるものであると考えられたが、最近の知見から、腎不全はそれ自体死亡率の高い危険要素であることが示されている(Levy EMら、JAMA 1996、275(19):1489−94;Chertow GMら、Am.J.Med.1998、104(4):343−8)。しかしながら、他の疾患に従属して発生するARFは死亡率が高いものの、de novoで生じたARF(原発性ARF)と比較し、長期にわたり予後が不良である。
モデル実験において、様々な薬品が動物に対しては効果的であるが、臨床研究においては効果がないことが示されている(Solomonら、N.Engl.J.Med.1994、151:208−60;Allegrenら、N.Engl.J.Med.1997、336:828−34;Hirschbergら、Kidney Int.999、55(6):2423−32;Brinkmannら、J.Biol.Chem.2002 14、277(24):21453−7)。これらの好ましくは臨床結果の原因として、幾つかの要因が存在する。第一に、ヒトARFが、異質な病原性因子から生じる複雑な障害だということである。したがって、選択的な薬品を使用して一つの病態生理学的経路を選択的に標的としても有効ではないと考えられる。また過去の失敗はみな、急性腎臓損傷の病態生理学(特に炎症の役割)についての我々の知識に基づく治療を適用しなかったことが原因である。更に、治療の空白期間が小さいことも考えられ、ゆえに早期の治療の開始が不可避となる。残念なことに、我々の現在のARF、血清クレアチニン及びBUN(血中尿素態窒素)のバイオマーカーは、糸球濾過速度(GFR)を含む腎臓損傷及び機能不全の代替的なマーカーとしては十分に機能しない。このシナリオは、不安定な状態の症状においては、正確なGFRの測定、解析が極めて困難であるという事実によって裏付けられる。更に、BUN及びクレアチニンの変化が検出可能となるときには既に顕著なARFが発症していることを意味し、既に治療の空白期間ではなくなっていることもありうる。
現在のストラテジーは急性腎不全のリスクの高い患者における発症及び損傷範囲を最小限に抑制することに基づくものであり、それによりある特定のARFについては良好な結果を収めている。最も顕著な結果としては、造影剤による腎障害の発症率が顕著に低下したことが挙げられる。しかしながら、ARFが事前に処置を受けた高危険率患者で発症した場合、対応する患者集団と比較し、死亡率が5倍に増加することが報告されている(Levy EMら、JAMA 1996、275(19):1489−94)。更に、ARFの予測用の、危険因子を組み込んだ臨床スコアは、前処置として投与される治療薬により潜在的に利益を得うる患者を同定する際の補助となる(Tharkar CVら、J.Am.Soc.Nephrol 16:162−168,2005)。ARFの病態生理学に関する我々の現在の見解は、急性腎不全の細胞生理学的及び分子生物学的な知見に基づく詳細な検討結果から得たものである(Bonventre JV及びWeinberg JM、J.Am.Soc.Neph 14:2199−2210,2003)。内皮及び上皮細胞の損傷及び機能不全がARFの特徴として挙げられる。最近のデータから、炎症反応(特に内皮−WBCの相互作用)が、ARFの発症及び進行の間における腎臓傷害の中心的な事象であることが示されている(Molitoris及びSutton,Kidney Inter.66:496−499,2004)。内皮細胞機能不全と、内皮−炎症細胞(好中球、単球、大食細胞及びT細胞など)による相互作用が、虚血性急性腎不全の主要な誘因として注目を浴びている。初期の炎症性の細胞浸潤は更に、微小血管の損傷、炎症、微小血管透過性の増加、凝固、アポトーシス及び壊死につながる。炎症を抑制するための早期の介入は、急性腎不全を予防する際の保護ストラテジーとして最近非常に注目を浴びている。幾つかの新規化合物が、白血球への直接作用を経た虚血再灌流障害の緩和にとり効果的であると考えられる(Ortiz,ら、Transplant Proc 2003、35(4):1571−4;Dayら、J.Clin.Invest 2003、112(6):883−91;Okusaら、Kidney Int.2001、59:2114−25;Cremerら、Ann.Thorac.Surg.1996、61(6):1714−20)。治療的介入の更なる目的としては血管拡張が挙げられ、それにより細胞の修復及び細胞分化が促進される。更なる新規化合物が前臨床研究において効果的であることを証明されたにもかかわらず、これらの薬剤の多くは下流側の標的を阻害するのみであり、複雑な障害(例えば急性腎不全)の場合には効果的ではない。
急性の腎臓損傷の複雑さは、一部には、多くの経路が重複して活性化されることや、あるいはある特定の経路が一時的に活性化されることなどに起因する。内皮の機能不全及び炎症(細胞性及び体液性)はARFの主要な調節因子である。ARFのプロセス後半に生じる現象を標的とすることが、急性腎臓損傷の効果的が緩和につながるとは考えにくい。したがって、急性の腎臓損傷を治療又は予防する新規なストラテジーにとっては、更に上流側の経路を標的とする化合物が必要となる。かかるストラテジーでは、多くの経路に影響を及ぼす化合物の使用との併用や、又は単一の病態生理学的標的ではなく複数の領域を目標とする併用療法を行ってもよい。
特に例示的なARFとしては、心臓手術後のものが挙げられる。以下の2つの介入が、心臓手術後のARFの主要な原因となる:
1)心肺バイパス(CPB)、及び
2)虚血再灌流障害(IRI)。
心肺バイパス(CPB)は全身性炎症反応症候群(SIRS)を発症させる(Faymonvilleら、J.Thorac.Cardiovasc Surg 1991、102(2):309−17;Freringら、J.Thorac.Cardiovasc Surg.1994、108(4):636−41)。バイパス回路の人工表面と血液成分との接触、虚血再灌流障害、内毒血症、手術による外傷、パルス状でない血流及び既存の左心室機能不全は全て、この装置におけるSIRSの考えられる原因である(Paparellaら、Eur.J.Cardiothorac Surg.2002、21(2):232−44;Musialら、J.Lab.Clin.Med.1985、105(4):514−22;Kirklinら、J.Thorac.Cardiovasc.Surg.1983、86(6):845−57;Tennenbergら、Ann.Thorac.Surg.1990、50(4):597−601)。その最も重症度の高い形態では様々な種類の損傷が観察されることがあり、以下の臨床症状の1つ以上を含んでなる:肺、腎臓、腸、中心神経系及び心筋機能不全、凝固障害、血管拡張及び毛管透過性の増加、溶血、発熱及び感染症に対する感受性増加(Paparellaら、Eur.J.Cardiothorac Surg.2002、21(2):232−44.)。CPBの間、好中球及び血管内皮が活性化する(Asimakopoulosら、Ann.Thorac.Surg.1998、66(6):2135−44、Galinanesら、Circulation 1996、94(9 Suppl):11364−9)。小板状体においても活性化、脱顆粒及び血管内皮への付着が観察される(Zillaら、J.Thorac.Cardiovasc.Surg.1989、97(3):379−88)。これらの現象は細胞障害性の酸素由来のフリーラジカル(Hagaら、Artif.Organs 1993、17(10):837−42)、プロテアーゼ(Faymonvilleら、J.Thorac.Cardiovasc.Surg.1991、102(2):309−17)、サイトカイン(Freringら、J.Thorac.Cardiovasc.Surg.1994、108(4):636−41)、及びケモカイン(Paparellaら、Eur.J.Cardiothorac.Surg.2002、21(2):232−44)の発生につながる。これらの炎症反応調節物質(例えばインターロイキン(IL)−6、IL−8及び腫瘍壊死因子(TNF)−α)はCPBの間にその血清中濃度が顕著に上昇し、通常CPBによる炎症の終了時から2〜4時間においてピークに達する。虚血再灌流障害(IRI)が虚血によって発症した後、炎症細胞、内皮細胞及び上皮細胞の顕著な活性化が続く。その結果、これらの標的組織(内皮細胞、循環性の単球及び組織に固定された大食細胞)はサイトカイン及び酸素由来のフリーラジカルを放出し、更に炎症反応を亢進させる(Jansenら、Ann.Thorac.Surg.1992、54(4):744−7、考察7−8)。接触による血液成分の活性化が生じないCPBシステムの開発が行われたが、この目的は結局実現せず、CPBは依然としてARFをもたらす強力な炎症誘発刺激であり続けている。
本発明は、急性腎不全の高い危険性を有する患者の予防、並びに、炎症性若しくは虚血性損傷から生じる急性腎不全の治療の両方を目的とする、sTM又はその誘導体の使用の提供に関する。高い危険性を有する患者には、慢性腎臓病患者、慢性的な心臓又は肝疾患を有する患者、及び糖尿病の後に急性尿細管壊死又は急性間質性腎炎を経験した患者が包含される。
可溶性TM及びその誘導体は、大きな外傷又は出血、心停止、心臓バイパス、感染性ショック、火傷又は手術の間の腎臓血流の中断の後に生じる腎臓虚血が原因となる急性尿細管壊死の予防及び治療に有用である。更に、可溶性TM及びその誘導体は、腎毒性剤の使用による化学損傷、血栓塞栓症、悪性高血圧、血栓症における血小板減少による紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、脈管炎、輸血反応、化学療法剤、毒素及び毒物、イメージングに使用する造影剤、悪性高血圧及び出産により生じる障害に対して有用である。可溶性TM及びその誘導体はまた、感染、又は狼瘡、白血病、リンパ腫及び類肉腫症のような免疫性関連の疾患に続く間隙腎臓組織の炎症、並びに抗生物質及びNSAID(非ステロイド性抗炎症剤)に応答する腎臓損傷に続く間隙腎臓組織の炎症、に続いて生じる急性の間質性腎炎の治療に有用である。
組換えヒト可溶性トロンボモジュリンの調製方法に関しては先行文献が存在する(Parkinsonら、1990 J.Biol.Chem.265:12602−12610、欧州特許出願公開第0412841号公報)。
sTMは、静脈内及び/又は皮下注射などの好適な投与経路により、標準的な非経口投与、末梢投与方法を使用してそれを必要とする患者に投与する。より好ましくは、sTMは、1〜24時間若しくはそれ以上(48、72、96又は120時間)の期間、適当な投与量を使用してi.v.ボーラス投与及び/又は皮下注射により投与する。本発明で使用するsTMの医薬的に許容できる医薬品の調製方法は、その強度、賦形剤、pH、等張性、外見、剤形などを含めて、当業者にとり周知である。
本発明に用いられる医薬品組成物は選択された投与様式にとり適切なものでなければならず、医薬的に許容できる添加剤(例えばバッファー、界面活性剤、防腐剤、可溶化剤、等張剤、安定化など)が適宜用いられる。Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton PAの最新版(本発明に援用する)において製剤技術の解説がなされており、当業者に公知である。本発明に用いられる医薬品は無菌若しくはほとんど無菌状態でなければならず、必要に応じて保存するか若しくは静菌剤を添加する。
sTMは標準的な治療手段と組み合わせて使用してもよく、例えば感染症を治療若しくは予防する適切な抗生治療法、流体管理のための利尿剤、フロセミド又はマンニトール、ドーパミン、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、アンギオテンシン受容体ブロッカー、透析、エリトロポイエチン、並びに高カリウム血症、アシドーシス及びKayexalate(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)、カルシウム、グルコース/インシュリン及び/又は利尿剤によるカリウムアンバランスの治療などが挙げられるが、これらに限定されない。
以下の実施例では本発明の例示的態様を示すが、本発明を限定することを目的とするものではない。当該実施例ではラットで行った実験を記載しており、すなわちマウスのsTMの使用でも十分なことが開示されている。しかしながら、ヒトへの使用を目的とする本発明の治療方法では、組換え型ヒトsTMが好適である。
実施例1
ラットsTMの調製及び分析
可溶性のヒト組換えトロンボモジュリンの調製方法はParkinsonら、1990 J.Biol.Chem.265:12602−12610に記載されている。ラットによる試験を行うため、可溶性トロンボモジュリンのラットのアナログを以下に従い調製した。ラットの全長トロンボモジュリン遺伝子を、Clontech 5’−stretch plus cDNAラット肺ライブラリーを用い、PCR増幅し、Invitrogen TOPOクローニングキットを使用してpCRII−TOPOにTAクローニングした。当該クローニングにおいては以下のプライマーを使用した:
ラット全長TMの5’プライマー
5’−CGGTCTAGACCTGACCACCATGCTTGGGGTTTTCCTTCTGG−3’;
ラット全長TMの3’プライマー
5’−GATGAGGTCGACGATATCTCAGAACTTCTGCAGCGTCCG−3’。
ラット全長TMのcDNAのシーケンス確認に続き、以下のプライマーを用いてラット可溶性TM(sTM)遺伝子のPCR増幅及び哺乳類のトランジェント発現ベクターXenoFLIS−PP−Fc(CMVプロモータ、プレプロトリプシンシグナルペプチド、Xenopusリーダー配列及びBGHポリA配列を含んでなる)にクローニングした。
ラットsTMの5’プライマー
5’−CCCAGGCTTCGACTAGCCAAGCTGCAGCCC−3’;
ラットsTMの3’プライマー
5’−CCGCTCGAGTCAAGAGTGCACTGGCCTGGC−3’。
ラットsTMコンストラクトは、EGF6の後の4アミノ酸で切断されるため、STドメインを含まない。したがって得られる精製タンパク質はコンドロイチン硫酸部分を有しない(CS−)。
シーケンス確認に続き、ラットsTM発現ベクターを精製し、それを用いてHEK293E細胞において大規模にトランジェント発現させた。調整培地を濃縮し、濾過により浄化した。上記で濃縮・浄化した調整培地の伝導率を、HOの添加により10mSに調整した後、Fast−flow Q−セファロースカラム(Amersham Biosciences社製、バッファー(20mMのトリス(pH7.4)、50mMのNaCl、5mMのEDTA及び5mMのベンズアミジン−HClを含有)で平衡化済)にロードした。ロードの後、カラムを3×ベッド体積の同じバッファーで洗浄し、その後50mM〜1MのNaCl直線勾配により溶出した。トロンボモジュリンを含有するフラクション(SDS−PAGEで確認)をプールし、pHを4.5に調整し、20mMのリン酸ナトリウム(pH4.5)、5mMのEDTA及び5mMのベンズアミジン−HClを含有する溶液で透析した。プールされたタンパク質を更に遠心分離で浄化し、20mMのリン酸ナトリウム(pH4.55)で平衡化したSP−セファロースカラム(Amersham Biosciences社製)上へロードした。ラットトロンボモジュリン(カラムのフロースルーに存在する)を回収し、濃縮し、PBS(150mMのNaCl、10mMのリン酸ナトリウム(pH7.4)を含有)中に、Superdex S200 50/60カラム(AmershamBiosciences)を用いたゲル除外クロマトグラフィによって更に精製した。精製されたラットトロンボモジュリン含有フラクションをプールし、0.2μMフィルター(Millipore社製)を使用して濾過滅菌した。タンパク質濃度は、A280における減衰係数1.1(mg/mL)−1cm−1を使用して測定した。MALDI質量分析及びN末端配列決定により、ラットトロンボモジュリンの性質及び純度を測定した。上記のように調製したラットsTMのエンドトキシン濃度は、5EU/mg精製タンパク質以下であった。
実施例2
齧歯目の部分的な大動脈クランプモデル
雄のスピローグ−ドーリーラット(200〜250g)をHarlan Laboratories(インディアナポリス、IN)から購入した。ラットを標準的な実験条件下にて収容し、標準的な10%コーン油ベースのラット餌料及び水道水を自由に摂取させた。実験プロトコルの開始前に最低3日間ラットを順化させた。手術の前夜からラットを絶食させた、一方水は摂取させた。5%のハロタンで麻酔させ、更に1−1.5%のハロタンを含む酸素リッチな空気を、フェースマスクを介して供給した。ラットの腹部を剃毛した後、皮膚及び筋肉組織に正中線切開を施し、腹腔を露出させた。次に腎動脈の直下の腹大動脈を下大静脈から鈍的切開により摘出し、大動脈血流速度の測定のために超音波プローブ(2.0mm直径、Transit Time Perivascular Flowmeter TS420(Transonic Systems社製、Ithica,NY)を配置・固定した。次に上部の腹大動脈を鈍的解剖により摘出し、腹腔動脈及び上腸間膜動脈(SMA)との間に大動脈を露出させるために、周囲の組織から解放させた。
大動脈クランプ自体は、2つの4mm長のポリエチレンチューブ(PE−100、0.86mmの直径、Clay Adams社製、Parsippany,NJ)及び10インチの標準的なシルク製の3.0縫合糸で構成した。絹製の縫合糸を、上記部位に含まれる大動脈の下部から通過させた。次に第1のチューブをスレッドの両端部にわたるように通過させ、腹腔及びSMAの間の大動脈に配置させた。次にシルク縫合糸をループ状にし、ゆるく結んだ。次に第2のチューブ部分をループ内に、第1のチューブの上に垂直に配置した。次にシルク縫合糸を結さつし、縫合糸の両末端のテンションを、最初の大動脈血流速度(超音波プローブリーダーで測定)が90%減少する程度まで増加させた。この最初の大動脈血流速を、チューブの配置前に記録した。この時、10%のベースライン血流量が60分間維持されていた。試験期間中、ラットを加温毛布に包み、体温を37℃に維持した。
手術の完了後、全ての試験区の全てのラットに加温した生理食塩水2mlを腹膜内に投与し、無感覚から復帰させ、手術により損失した血液量を補填した。ラットは急速に麻酔状態から復帰し、手術後4〜6時間において、加温毛布付のケージ中でモニターした。その後、元のケージに戻し、食事及び水を自由に摂取させ、Institutional Animal Care and Use Committee Review Boardのガイドラインに従って取り扱った。なお、上記の手順もその承認を受けている。
PACの24時間後に、一連のラットに組織病理学的分析を実施した。腎臓摘出前に加温したリン酸緩衝食塩水(PBS)で腹大動脈を短時間処理し、その後4%のパラホルムアルデヒド(PFA)溶液でインビボ潅流して保存した。各ラットから両方の腎臓を摘出し、矢状にスライスし、4℃で一晩PFAに浸漬させた。次に切片をパラフィンに封埋し、ヘマトキシリン−エオシン(H&E)又は過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色で組織染色した。管状細胞の分離、近位側の尿細管刷子縁の損失、円柱の形成、尿細管の膨張及び障害の評価に基づく組織傷害の重症度の組織学的ランク付け(盲検試験)を、腎臓病理学者(C.L.P.)に行わせた。同様に、Jablonskiら、Transplantation35:198−204,1983(腎皮質の近位側尿細管の損傷)、及びKellyら、J.Clin.Invest.97:1056−1063,1996(腎髄質外側の腎集合管の損傷)の評価に基づく尿細管壊死のスコア付けも行った。
インビボでの2光子顕微鏡検査を、Dunnら、Am.J.Physiol.Cell Physiol.283:C905−916,2002及びSuttonら、Kidney Int.62:1539−1549,2002に記載の通りに実施した。合計6匹のスピローグ−ドーリーラットにPACモデル処置を受けさせ、生体における腎臓イメージングを24時間にわたり、60X NA 1.4レンズを装着したNicon Diaphot倒立顕微鏡と組み合わせた、800nmの励起波長によるBio−Rad MRC−1024MP Laser Scanning Confocal/Multiphotonスキャナ(ヘラクレス、CA)を用いて実施した。大腿骨静脈にカテーテルを挿入し、イメージング前に染料を注入するための脈管アクセスを形成した。脈管透過性の低下、並びに尿及び血液流の混乱として顕れる腎臓機能損傷の評価を、核染色(ヘキスト−33342、400μL、0.9%の生理食塩水1.5mg/mL中、Molecular Probes社(ユージン、OR)製)、高分子量デキストラン(HMWD)(通常の条件下で糸球体により濾過されない。500,000Da、0.9%の生理食塩水中で7.5mg/mL、Molecular Probes社(ユージン、OR)製)、及び低分子量デキストラン(LMWD)(ろ過可能。3,000Da、0.9%の生理食塩水中で20mg/mL、Molecular Probes社(ユージン、OR)製)を用いて行った。2つのデキストランを識別するため、LMWDをテキサスレッド(Molecular Probe社(ユージン、オレゴン)製)で標識し、一方HMWDデキストランをフルオレセイン(Molecular Probe社(ユージン、オレゴン)製)で標識した。麻酔されたラットを側面切開し、後腹膜を開腹し、左の腎臓を撮像した。Metamorph(Universal Imaging社製、ウェストチェスター、PA)ソフトウェアを用いて画像解析した。検査した動物毎に、3分毎に約10〜12の画像を取得した。微小血管系の白血球の解析の場合、得られた画像を4×4のグリッドにおいて解析した。ヘキスト核染色物質の取り込みを指標として、白血球の存在を確認した。これは微小血管系と相関しており、微小血管系に存在する白血球のみを計数した。微小血管系内の白血球は以下の3つのサブタイプに分類される。
(i)遊離型:2フレーム以下のグリッド内におけるリアルタイムイメージングの間に急速に出現し、消失する。
(ii)安定又は担持型:移動せずに微小血管内皮に結合する。
(iii)ローリング型:グリッド内の3フレーム以上において内皮面上に出現する。
血漿サンプル及び毎日の体重測定に関する全ての統計分析は、2サンプル、2裾の非対スチューデントt−検定、及び必要に応じて線形回帰を用いて行った。本文及び図における全てのデータを、平均+/−平均に対する2つの標準偏差として表す。p値が全ての比較において0.05未満の場合、有意であるとする。Microsoft OfficeのExcel8.0、並びに統計処理用ソフトウェアのEPIINFO v6.0(CDC、アトランタ、GA)を使用して解析した。
実施例3
腎臓虚血に続いているsTMの効果
ラットsTMの血清中濃度と、その抗血栓への有効性に関する用量反応曲線を作成するための試験を行った。組換えラットsTMを塩化鉄(FeCl)モデルラットに投与し、閉塞時間を様々な時点において試験した。最大限の抗血栓効果を得るために必要となる投与量は、皮下投与(s.c.)で5mg/kgであった。この反応は処置後24時間において最大であり、48時間まで持続したが、72時間以上は持続しなかった。同時にELISAを使用してラット血清中のsTMを測定した結果、5mg/kgで皮下投与した後、24時間において、血清中の濃度が最大になることが示された。別の試験を行い、静脈における薬物動態データを得た。静脈注射(i.v.)でsTM(1mg/kg)を投与した場合、半減期が約4時間であった。すべての試験において生理食塩水をTMの担体とし、投与量を0.76ml/ラット(i.v.)及び1.64ml/ラット(s.c.)とした。
腎機能及び酸性−塩基性状態の評価を以下に従い実施した。全てのケースにおいて、ハロタン麻酔状態におけるPAC後の所定の時点において尾部静脈又は大動脈の穴から血液サンプルを得た。クレアチンアナライザー2(Beckman−Coulter社製、Brea、CA)を使用して血清中クレアチニン(SCr)を測定し、腎機能の評価に用いた。動脈の血液ガス(ABGs)及び静脈の血液ガス(VBGs)を、術前の所定の時点で大腿骨のカテーテルから得、血液ガス測定装置ABL77(Radiometer Medicals、コペンハーゲン、デンマーク)を使用して分析した。
最初の試験において、部分的な副腎大動脈クランプ(PAC)(60分にわたる90%強度)により、顕著であるが可逆的な腎不全を生じさせることができ、それは24時間後において血清クレアチニンの3〜8倍の増加(SCr:0.75〜2.5mg/dL)を示し、更に5日間後にはベースラインレベルへの復帰を示すことが確認された。またこの強度及び時間において20%の死亡率が観察された。ラットを2群に分割し、上記のPACモデルを使用して虚血性ARFに対するsTMによる前処理効果を評価した。1群(処理群)にはsTMを5mg/kgで手術の24時間前にs.c.で投与し、他の群(未処理群)には手術の24時間前に同体積の生理食塩水を投与した。全てのラットに関し、虚血性傷害の後4日間にわたり毎日観察し、また血清クレアチニンを指標として腎機能を評価した。
表1に示すように、PAC I−Rを受けた未処理ラットでは、血清クレアチニンの顕著な増加が示された。未処理の虚血ラットと比較すると、PAC虚血性傷害の24時間前にsTM(5mg/kg)をs.c.で単回投与されたラットでは、3つの独立した試験においてクレアチニンの血清中濃度の顕著な減少が示された。この効果は、24及び48時間後において顕著であった。未処理の虚血性ラットでは25%の死亡率を示し、それは従来のPAC試験において観察された数値と同様であった。しかしながら、sTM処理されたラットはいずれも死ななかった。全ての試験期間中、手術の際に予想される以上の出血は起こらず、またその後のいかなる処置においても出血が起こらなかった。
表1:虚血性傷害後の腎機能に対するsTMの効果
Figure 0005405829
組織学的な評価、及び24時間後における2光子イメージングによる生体における機能評価を、ラットの他の群(60分間の虚血性傷害の24時間前に、s.c.で、5mg/kgのsTMで前処理を受ける)に関して行い、同じ虚血性損傷を有する無処理のラットPACモデルと比較した。
PAC I−Rに罹患する無処理ラットでは、24時間後に摘出した腎臓全体において、顕著な髄脈管渋滞が観察された。組織学的検査を行った結果、広範囲な尿細管膨張、円柱を有するルーメン側の鬱血、管状構造の分解、壊死、刷子縁の損失及び好中球増多など、顕著な腎臓損傷が観察された。24時間後にsTM処理ラットの外観を観察した結果、髄脈管における鬱血が減少していた。無処理の虚血性ラットとは対照的に、損傷の24時間前にsTM(5mg/kg)を投与したラットから得た腎臓切片を用いてこれらの組織学的特徴を観察した結果、重症度の顕著な減少が示された。皮質の近位側の尿細管損傷は、無処理群と比較して、sTM前処理群において顕著に少なかった。同様に髄質の外層における尿細管の傷害も、sTM前処理群(表2)で重症度が顕著に減少した。
表2:sTMによる腎臓壊死の減少効果
Figure 0005405829
実施例4
腎臓微小血管系
可溶性トロンボモジュリンは、腎臓虚血に続く微小血管系の透過性の増大を抑制する。生存中の2光子顕微鏡検査を用いて腎臓微小血管系の透過性の変化を解析し、微小血管系の健全性に対するsTMの効果を評価した。虚血後24時間において損傷が最も顕著に示されたため、この時点をイメージングのタイミングとして選択した。生理食塩水で処理された対照ラットにおいて、腎臓微小血管系からのLMWD及びHMWDの漏出が観察された。HMWDの漏出程度は、LMWDよりも少なかった。虚血の24時間前に5mg/kgでsTMを皮下投与したラットでは、LMWDの漏出程度は、生理食塩水で処理した対照動物で観察されたそれよりも顕著に少なかった。sTMで前処理した動物では、HMWDの漏出が全く観察されなかった。
実施例5
腎虚血
可溶性トロンボモジュリンは、腎臓虚血に続く白血球接着を抑制する。生存中の2光子顕微鏡検査を用いて白血球接着の動的な性質及び微小血管内皮との相互作用に対する虚血の効果を解析した。生理的状況下では、全ての白血球は腎臓微小血管系において遊離状態にある。しかしながらPAC I−R損傷の24時間後に、微小血管系に完全に付着若しくは結合した白血球(12.9%)、並びに内皮との断続的な粘着力(ローリング型)(18.2%)の両方が示され、白血球の内皮への粘着性の増加を裏付ける証拠となる。したがって、遊離型の白血球のパーセンテージは、対照の虚血性動物(69.5%)では低下する。対照的に、sTM処理された動物では高いパーセンテージで遊離型の白血球(88.3%)が存在し、一方ローリング型(8.3%)又は接着型の白血球(3.3%)ではパーセンテージが顕著に低かった。無処理及びsTM処理ラットにおけるこれらの全ての相違は統計学的に有意であった(P<0.05)。
sTM処理ラットでは、乱れた緩慢な血流を示す無処理ラットと比較し、より速い血流を示した。無処置ラットでは、管状ルーメン内部の円柱(膜気泡、細胞断片)による血流妨害、尿細管損傷及び尿細管壊死が顕著に観察されたが、sTM処理群では、ルーメン内の円柱の顕著な減少、大部分の領域における良好な血流速度及び尿細管の損傷の減少が観察された。
実施例6
腎臓機能
虚血性傷害後の腎機能に対するsTMの効果を評価するために、再灌流後にsTMを2時間にわたり投与した。sTMの投与量は、1mg/kg(i.v.)及びそれと同時の5mg/kg(s.c.)とした。無処理の虚血性ラットでは、同じ投与経路で同量の生理食塩水を投与した。この投与量の選択、及びi.v.とs.c.の同時投与の妥当性は、上記の独立の実験において測定したsTMの半減期に基づいており、少なくとも損傷後24時間は充分な血清濃度を維持していた。損傷後の2時間の治療時間を選択したが、それは治療的に現実的な空白期間を有するヒト臨床シナリオ(公知の虚血性傷害の発症後、実際にその期間中に薬剤を投与する)を模倣するためである。ラットを48時間ケアし、腎機能、酸性−塩基性条件、ヘマトクリット、筋肉及び肝臓酵素に関する評価を行った。
PAC I−Rを受けた無処理ラットでは血清クレアチニンの顕著な増加を示した。対照群と比較し、再灌流の2時間後にsTMを1mg/kg(i.v.)及び5mg/kg(s.c.で同時投与した群では、PAC I−Rによって生じる腎臓機能不全が、24時間後において顕著に減少した(表3)。sTM処理群における血清中クレアチニン濃度の平均は48時間後において無処理群よりも低く、統計的有意に近かった(P=0.08)。損傷後の2時間の治療プロトコルでは、無処理の虚血性ラットでは24時間に45%の死亡率を示したが、一方sTM処理ラットでは、損傷後の2時間の治療プロトコルでもいずれも死亡しなかった。
表3:虚血性傷害後にsTM処理した場合の、腎機能に対する効果
Figure 0005405829
PAC I−Rを受けた無処理の虚血性ラットでは、LDH、CK、AST及びALTレベルが顕著に上昇しており、下肢の筋肉、腸及び肝臓に対する顕著な虚血再灌流障害を示唆している。sTMの1mg/kg(i.v.)及びそれと同時の5mg/kg(s.c.)の投与により、これらの酵素レベルの上昇の顕著な抑制が示された(表4)。これらの酵素マーカーは器官特異的ではなく、虚血再灌流障害を有する様々な部位から遊離されるため、部分的な大動脈クランプによる虚血再灌流障害に起因する傷害が全身的にsTMにより緩和されるといえよう。
全てのラットにおいて、他の血清中の物質及びヘマトクリットを測定した。両方の群では、I−R ARFの24及び48時間後において予想通りヘマトクリットの同様の低下を示した。この発見は、sTM処理群においては出血の発生の増加が見られないという事実をサポートするため、重要である。
表4:組織損傷マーカーにおいて表れるsTMの効果
Figure 0005405829
*LDH(乳酸脱水素酵素);CK(クレアチンキナーゼ);AST(アスパラギン酸トランスアミナーゼ);ALT(アラニントランスアミナーゼ)。

Claims (5)

  1. トロンボモジュリン膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインの全長を欠いた可溶性の分泌型変異体トロンボモジュリンの尿細管損傷または間質損傷と関連する急性腎不全に罹患したヒト対象の治療用薬剤の製造における使用。
  2. 急性腎不全が炎症性または虚血性の損傷から生じる、請求項記載の使用。
  3. 急性腎不全が腎臓虚血による急性尿細管壊死に起因する、請求項記載の使用。
  4. 急性腎不全が急性間質性腎炎に起因する、請求項記載の使用。
  5. トロンボモジュリン膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインの全長を欠いた可溶性の分泌型変異体トロンボモジュリンであって、さらにST領域を欠損した可溶性トロンボモジュリンの、尿細管損傷または間質損傷と関連する急性腎不全に罹患したヒト対象の治療用薬剤の製造における使用。
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