JP5403609B2 - 表層密着強度測定方法および装置 - Google Patents
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Description
また、基材にコーティングされている表層を切刃により切削・剥離し、切刃に加わる水平力Fhおよび垂直力Fvを測定する装置が知られている(特許文献2参照)。
他方、基材にコーティングされている表層を引っ張り剥がしたときの単位長さ当たりの界面剥離に要するエネルギーG a などを解析した理論が知られている(非特許文献1参照)。
また、特許文献2に記載された切刃に加わる水平力Fhおよび垂直力Fvを測定する装置では、水平力Fhおよび垂直力Fvの測定精度を向上できる。しかし、当該装置を用いてどのように表層の密着強度を評価するかについては特許文献2に開示されていない。
他方、非特許文献3に記載された理論では、表層を引っ張り剥がすことを前提としており、表層を切刃により切削・剥離する場合については考慮されていない。
そこで、本発明の目的は、基材にコーティングされている表層を切刃により剥離し、切刃に加わる水平力Fhおよび垂直力Fvを測定し、それら水平力Fhおよび垂直力Fvを基に表層の密着強度を定量的に評価し、表層の厚さによる影響を抑制することが出来る表層密着強度測定方法および装置を提供することにある。
上記構成において、「コーティング」とは、「覆うように形成すること」を意味し、形成の方法は例えば塗装,めっき,蒸着,スパッタリングがあるが、これらに限定されるものではない。
上記第1の観点による表層密着強度測定方法では、まず、基材と該基材にコーティングされた表層の界面に沿って切刃を水平移動して表層の剥離を行い、切刃に加わる水平力Fhおよび垂直力Fvの両方または水平力Fhのみを測定する。次に、水平力Fhおよび垂直力Fvの両方または水平力Fhのみを基に、外力がした仕事量Gext と、散逸エネルギーたとえば摩擦散逸エネルギーGdf や塑性散逸エネルギーGdb を算出する。この算出の具体例は、後で詳述する。そして、外力がした仕事量Gext から散逸エネルギーを除去して、界面剥離エネルギーG a を得る。これにより、表層の厚さによる影響を抑制して、密着強度を定量的に正しく評価できるようになる。
上記構成において、「表層材料の弾性係数Eおよび降伏ひずみεyおよび弾性係数減少率χ」は、例えば表層材料の応力−ひずみ関係から得られる。
上記第2の観点による表層密着強度測定方法では、表層材料の弾性係数E、降伏ひずみεy、弾性係数減少率χを用いて、散逸エネルギーの一つである塑性散逸エネルギーGdb を算出する。この算出の具体例は後で詳述する。
上記第3の観点による表層密着強度測定装置では、まず、基材と該基材にコーティングされた表層の界面に沿って切刃を水平移動して表層の剥離を行い、切刃に加わる水平力Fhおよび垂直力Fvの両方または水平力Fhのみを測定する。次に、水平力Fhおよび垂直力Fvの両方または水平力Fhのみを基に、外力がした仕事量Gext と、散逸エネルギーたとえば摩擦散逸エネルギーGdf や塑性散逸エネルギーGdb を算出する。この算出の具体例は、後で詳述する。そして、外力がした仕事量Gext から散逸エネルギーを除去して、界面剥離エネルギーG a を得る。これにより、表層の厚さによる影響を抑制して、密着強度を定量的に正しく評価できるようになる。
上記構成において、「表層材料の弾性係数Eおよび降伏ひずみεyおよび弾性係数減少率χ」は、例えば表層材料の応力−ひずみ関係から得られる。
上記第4の観点による表層密着強度測定方法では、表層材料の弾性係数E、降伏ひずみεy、弾性係数減少率χを用いて、散逸エネルギーの一つである塑性散逸エネルギーGdb を算出する。この算出の具体例は後で詳述する。
図1は、実施例1にかかる表層密着強度測定装置100を示す構成説明図である。
この表層密着強度測定装置100は、基台1と、第1辺21を水平(x方向)に保って基台1に支持され且つ第2辺22を第1辺21と平行を保って弾性変形しうる水平用弾性平行リング2と、第1辺31を垂直(y方向)に保って水平用弾性平行リング2の第2辺22にスペーサ12を介して支持され且つ第2辺32を第1辺31と平行を保って弾性変形しうる垂直用弾性平行リング3と、水平用弾性平行リング2の第2辺22の一端に水平ロッド6aを介し水平力Fhを加えて水平用弾性平行リング2を弾性変形させるための水平用フォースコイル6と、垂直用弾性平行リング3の第2辺32の一端に垂直ロッド7aを介して垂直力Fvを加えて垂直用弾性平行リング3を弾性変形させるための垂直用フォースコイル7と、水平変位量を測定するための水平位置センサ9と、垂直変位量を測定するための垂直位置センサ11と、垂直用弾性平行リング3の第2辺32に取り付けられた移動ヘッド4と、その移動ヘッド4の下端に取り付けられた切刃5と、水平面(xz面)内および垂直方向に移動可能なxyzステージ14と、試料Qを固定するためにxyzステージ14に設置された試料ホルダ15と、垂直力Fv=0のときに移動ヘッド4や切刃5の重量で垂直用弾性平行リング3が弾性変形しないように移動ヘッド4や切刃5の重量を支えるための支点41,天秤42および重り43と、出力インタフェース40a,入力インタフェース40bおよび制御部(パソコン)40とを具備している。
xyzステージ14は、切刃5に対する試料Qの大体の位置決めを行う。
ステップS1では、極小さな下方への垂直力Fv(例えば10mN)を加えて、切刃5の先端を試料の表層に接触させる。そして、垂直位置を「0」とする。
例えば、水平力Fhが増加から減少へ転じたことを検知した時に試料の表層の剥離が始まったと判定することが出来る。あるいは、垂直位置の単調増加が見られなくなったことを検知した時に試料の表層の剥離が始まったと判定することが出来る。
例えば、水平力Fhの現在より過去短期間(例えば30秒間)の変動幅が所定幅以内になったなら定常剥離状態が始まったと判定することが出来る。あるいは、垂直力Fvの現在より過去短期間(例えば30秒間)の値がほぼ「0」付近になったなら定常剥離状態が始まったと判定することが出来る。
切刃5が表層を切り進んでゆく切削段階では、水平力Fh、垂直力Fvおよび垂直位置(深さ)dは単調増加する。
切刃5が基材と表層の界面近傍に達し切刃5の水平移動により表層が剥離してゆく剥離段階では、水平力Fhは一旦減少し、定常剥離状態ではほぼ一定になる。垂直力Fvも、一旦減少し、定常剥離状態ではほぼ0付近の値になる。垂直位置(深さ)dは、界面の深さで一定になる。
データ収集期間は、定常剥離状態中の所定期間になる。
水平力FH は、収集した水平力Fhの例えば平均値である。
垂直力FV は、収集した垂直力Fvの例えば平均値である。
試料Qの表層Qaは、切刃5の刃先から少し離れた位置より基材Qbから剥離し始め、切刃5のすべり面に乗るように上方へ曲がってゆく。
記号を次のように定める。
1.表層Qaが剥離し始める位置P(0,0)をxy座標の原点とする。
2.位置P(0,0)で剥離した表層Qaの曲がりの角度を水平軸からθ0とする。
3.剥離した表層Qaが切刃5のすべり面に接触した位置P(x0,y0)のxy座標を(x0,y0)とする。
4.位置P(x0,y0)から後は、剥離した表層Qaが切刃5のすべり面に沿って上がってゆく。
5.剥離した表層Qaの位置P(0,0)と位置P(x0,y0)の間の位置P(x,y)のxy座標を(x,y)とする。
6.位置P(x,y)で剥離した表層Qaの曲がりの角度を水平軸からψとする。
7.切刃5のすべり面の角度を水平軸からθとし、垂直軸からβとする。
8.表層Qaが切刃5のすべり面から受ける反力Fの方向と垂直軸がなす角度をγとする。
ステップS11では、外力がした仕事Gext を求める。定常剥離過程では、切刃5が水平方向にのみ移動している。切刃5が水平力FH で単位距離だけ水平移動したときに外力がした仕事量はFH であり、剥離した表層Qaの幅をwとすると、剥離した表層Qaの単位幅当たりに外力がした仕事量Gext は、
Gext =FH /w
により得られる。
Gdf =|FV・cos(β)−FH・sin(β)|/w
により得られる。
図6に、表層材料の応力−ひずみ曲線を例示する。
弾性係数Eは、降伏点までの傾きである。
降伏ひずみεy は、降伏点での歪みεの大きさである。
弾性係数減少率χは、降伏点までの傾きを基準とした降伏点以後の傾きの減少率である。
Ge max =E・εy2・h/2
図7に、表層材料の無次元化曲率−無次元化モーメント曲線を例示する(非特許文献1参照)。
点Dは、降伏開始点である。
点Aは、剥離開始点である。
点Bは、弾性除荷終了点である。
無次元化曲率−無次元化モーメント曲線については後で詳述する。
G a =Gext −Gdf −Gdb
そして、処理を終了する。
定常剥離状態では、水平力FH に比べて垂直力FV は小さいから、測定および計算簡略化のため、垂直力FV を無視してもよい。この場合、実施例1において、FV =0とすればよい。
試料Qは、銅の表層Qaをエポキシ樹脂製の基材Qbにメッキしたものである。
表層Qaの厚さh=15μmである。
切刃5のすくい角β=20゜、刃幅w=0.8mmである。
剥離した表層Qaの幅w=0.8mmである。
水平力FH =1.2N、垂直力FV =0.19Nが得られた。
Gext =FH /w=1.2N/0.8mm=1500J/m2
を算出した。
ステップS12で、
Gdf =|FV・cos(β)−FH・sin(β)|/w
=|0.19N・・cos(20゜)−1.2N・sin(20゜)|/0.8mm
=289J/m2
を算出した。
ステップS13で、「I.S.Park,Jin Yu,Acta Materialia,Vol,46,No.8,(1998),pp2947-2953」に記載された銅の応力−ひずみ曲線から、
弾性係数E=36.5GPa、
降伏ひずみεy=0.01013、
弾性係数減少率χ=0.0001を求めた。
を求めた。
ステップS14で、
Ge max =E・εy2・h/2
=36.5GPa・(0.01013)2・15μm/2
=28.1J/m2
を算出した。
ステップS15で、
k 0 =0.45
を数値計算により求めた。
ステップS16で、
Gdb =888J/m2
を算出した。
ステップS17で、
G a =Gext −Gdf −Gdb
=1500J/m2 −289J/m2 −888J/m2
=323J/m2
を算出した。
表層Qaの厚さh=35μmである以外は測定例1と同じ条件で測定した。
水平力FH =2.1N、垂直力FV =0.289Nが得られた。
Gext =2625J/m2
Gdf =558J/m2
Gdb =1614J/m2
G a =453J/m2
を算出した。
測定例1と測定例2の界面剥離エネルギーG a の差は、100×{453−323}/323=40%である。
これに対して、塑性散逸エネルギーGdb を考慮しなければ、100×{(453+1614)−(323+888)/(323+888)=70%になる。
従って、表層Qaの厚さhによる影響を抑制できることが判る。
試料Qは、ウレタン樹脂の表層Qaを鋼製の基材Qbに塗装したものである。
表層Qaの厚さh=25μmである。
切刃5のすくい角β=20゜、刃幅w=0.8mmである。
剥離した表層Qaの幅w=0.8mmである。
水平力FH =1.6N、垂直力FV =−0.25Nが得られた。
Gext =2000J/m2
を算出した。
ステップS12で、
Gdf =978J/m2
を算出した。
ステップS13で、予め剥離した表層Qaから引張試験法により応力−ひずみ曲線を求め、その応力−ひずみ曲線から、
弾性係数E=1.1GPa、
降伏ひずみεy=0.0496、
弾性係数減少率χ=0.0001を求めた。
を求めた。
ステップS14で、
Ge max =33.8J/m2
を算出した。
ステップS15で、
k 0 =0.913
を数値計算により求めた。
ステップS16で、
Gdb =409J/m2
を算出した。
ステップS17で、
G a =613J/m2
を算出した。
表層Qaの厚さh=26μm(測定例4),29μm(測定例5),54μm(測定例6),55μm(測定例7),84μm(測定例8),91μm(測定例9)である以外は測定例3と同じ条件で測定した。以下の数値は厚さhの順に示している。
水平力FH =1.8N,1.9N,2.3N,2.5N,2.8N,3.1N、垂直力FV =−0.25N,−0.25N,−0.3N,−0.3N,−0.4N,−0.4Nが得られた。
また、予め剥離した表層Qaから引張試験法により応力−ひずみ曲線を求め、その応力−ひずみ曲線から、
弾性係数E=1.1GPa(測定例4,5)、0.82GPa(測定例6,7)、0.52GPa(測定例8,9)、
降伏ひずみεy=0.0496(測定例4,5)、0.0611(測定例6,7)、0.0769(測定例8,9)、
弾性係数減少率χ=0.0001(測定例4,5)、0.0001(測定例6,7)、0.0001(測定例8,9)、
を求めた。そして、
Gext =2250J/m2,2375J/m2,2875J/m2,3125J/m2,3500J/m2,3875J/m2
Gdf =1063J/m2,1106J/m2,1336J/m2,1421J/m2,1667J/m2,1795J/m2
Gdb =437J/m2,480J/m2,694J/m2,729J/m2,800J/m2,880J/m2
G a =750J/m2,789J/m2,845J/m2,975J/m2,1033J/m2,1200J/m2
を得た。
塑性散逸エネルギーGdb を考慮しない場合に比べて、表層Qaの厚さhによる影響を抑制できることが判る。
以下、図5の各ステップで用いた数式の根拠を説明する。
図4において、点P(0,0) で曲げモーメントが最大値M0 となり、点P(x0,y0) で曲げモーメントは「0」となる。
点P(x, y) における曲げモーメントMは、次式(6)で表せる。
この過程では、はりの断面は弾性変形のみである。ε/εy<1より、0<k<1.また、σ/(E・εy)=k・ηから、
この過程では、はりの断面内の一部は降伏を生じ、一部は弾性変形のままである。すなわち,
[数18]
σ/(E・εy)=k・η (0<η<1/k)
[数19]
σ/(E・εy)=f(ε/εy)=f(k・η) (1/k<η<1)
よって、
この過程では、k=k 0 でm=m 0 とすると、はりの断面におけるひずみεは、
ε=εy(k 0 −k)η
となる。したがって,
一方、表層Qaと剥離していない部分(図4の点P(0,0)よりも左側)を弾性床上のはりと仮定すると、点P(0,0)における曲率k 0 とベースアングルθ 0 との関係は、
Claims (2)
- 基材と該基材にコーティングされた表層の界面に沿って切刃を水平移動して前記表層の剥離を行い、前記切刃に加わる水平力および垂直力の両方または水平力のみを測定し、これら水平力および垂直力の両方または水平力のみを基に摩擦散逸エネルギーGdfを算出し、表層材料の弾性係数Eおよび降伏ひずみεyおよび弾性係数減少率χを用いて塑性散逸エネルギーG db を算出し、水平力のみを基に外力がした仕事量G ext を算出し、前記外力がした仕事量Gext から前記摩擦散逸エネルギーGdfおよび塑性散逸エネルギーG db を除去して、界面剥離エネルギーG a を得ることを特徴とする表層密着強度測定方法。
- 基材と該基材にコーティングされた表層の界面に沿って切刃を水平移動して前記表層の剥離を行い且つ前記切刃に加わる水平力および垂直力の両方または水平力のみを測定する切削・剥離手段と、前記水平力および垂直力の両方または水平力のみを基に摩擦散逸エネルギーGdfを算出し、表層材料の弾性係数Eおよび降伏ひずみεyおよび弾性係数減少率χを用いて塑性散逸エネルギーG db を算出し、水平力のみを基に外力がした仕事量G ext を算出し、前記外力がした仕事量G ext から前記摩擦散逸エネルギーGdfおよび塑性散逸エネルギーG db を除去して、界面剥離エネルギーG a を得る演算手段とを具備したことを特徴とする表層密着強度測定装置。
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