周知のように、プラズマディスプレイ(PDP)や液晶ディスプレイ(LCD)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板に代表される各種のガラス板は、その一例として、フロート法と称される方法を用いて製造される。このフロート法を用いてガラス板を製造する際には、溶融錫が貯留されたフロートバスの下流側に、複数のローラを有する搬送経路を配備し、この複数のローラによって、フロートバスで成形されたガラスリボンを連続的に搬送しつつ徐々に冷却することが行われる。
このフロート法によるガラス板の製造過程においては、図3に示すような手法によりガラスリボンの成形および冷却が行われる。すなわち、フロートバス12の溶融錫上には、上流側から溶融ガラスが連続的に供給され、この溶融ガラスの下流側に向かう流延時に、トップロール等を用いて幅方向両側への引っ張り力が付与されることにより、必要な厚みと幅を有するガラスリボン15が成形される。そして、この成形された軟質のガラスリボン15は、フロートバス12の下流側にその出口部分として配備されたドロスボックス13内を通過した後、その下流側に配備された徐冷炉14内に連続的に搬送される。
このドロスボックス13内および徐冷炉14内は、下流側に移行するに連れて温度が低下するように構成されており、この両者13、14の内部空間には、搬送経路16を構成する複数のローラ(搬送ローラ)17が配設されている。したがって、フロートバス12で成形されたガラスリボン15は、搬送経路16を構成する複数のローラ17によって連続的に搬送されつつ徐々に冷却されて固化されていき、徐冷炉14の下流端から搬出された後、所定長さに切断されることにより、FPD用のガラス基板に代表されるガラス板が得られる。
この場合、搬送経路16においては、上流側に比して下流側の温度が低いことから、熱膨脹係数差の影響を受けて、上流側に存するローラ17よりも下流側に存するローラ17の方が、径の収縮度合いが大きくなって周速度の低下度合いも大きくなる。さらに、同様にして生じる熱膨張係数差の影響を受けて、搬送経路16にて搬送されるガラスリボン15も、上流側部分よりも下流側部分の方が、収縮度合いが大きくなって移動速度が低速になる。
これらの二つの要因により、搬送経路16を構成する全てのローラ17について、径を同一にし且つ回転速度を同一に設定していても、ローラ17の周速度と、そのローラ17が接触しているガラスリボン15の当該接触部分の移動速度とが一致しなくなるという事態を招く。この場合、ローラ17の周速度が、ガラスリボン15におけるそのローラ17との接触部位の移動を阻害するような速度であると、その接触部位の直上流側に存するガラスリボン15を搬送方向において圧縮する応力が発生することから、ガラスリボン15の当該直上流側部位に波状の変形が生じ得る。これとは逆に、ローラ17の周速度が、ガラスリボン15におけるそのローラ17との接触部位の移動を助長するような速度であると、そのローラ7とガラスリボン5との間にスリップが生じ、ガラスリボン15におけるローラ17との接触面に微小傷が発生し易くなる。
このような問題に対処すべく、特許文献1によれば、多数のローラを複数のセクションに分割すると共に、各セクションごとにローラ径の伸縮量とガラスリボンの収縮量とを演算し、ローラの周速度とガラスリボンの移動速度とが一致するようにローラの回転速度を制御することが開示されている。
しかしながら、上記の特許文献1に開示された徐冷装置は、ローラの周速度とガラスリボンの移動速度とを一致させるためのローラの回転速度の制御が、各セクションごとに行われる関係上、局所的にガラスリボンの移動速度とローラの周速度とが一致しなくなるという事態を招く。特に、セクションの分割数が少ない場合には、各セクション間で局所的に両者の速度差が不当に大きくなり、上流側で隣接するセクション間におけるその速度差が、ガラスリボンの移動をそのセクション間で阻害する原因となる場合には、ガラスリボンに不当な波状の変形が発生する。なお、この上流側で隣接するセクション間における速度差が、ガラスリボンの移動をそのセクション間で助長する原因となる場合には、ガラスリボンとローラとの間にスリップが発生する。そして、このスリップに起因してガラスリボンに発生する微小傷は、製造されるガラス基板がPDP用である場合などの多くの場合には問題とはならず、また片面のみの簡易な研磨加工によって容易に微小傷を除去することができる。
以上の事項を勘案すれば、ガラスリボンの移動速度とローラの周速度とが一致しなくなった場合に致命的な問題となるのは、上流側においてガラスリボンの移動が阻害されるようような速度差となることに起因してガラスリボンに波状の変形が発生する場合であって、両者の速度関係がこれとは逆の場合には、致命的な問題にならないばかりでなく周知の手法により問題を容易に回避できることになる。
なお、上記両者の速度差を消失させる一方策として、多数のローラに対するセクションの分割数を増加させてローラの回転速度制御の細分化を図ることが考えられるが、そのようにしたならば、設備が複雑となって設備費の高騰を招くと共に制御も煩雑となるため、却って問題が大きくなる。しかも、近年におけるFPD用ガラス基板の大型化を考慮すれば、上記の設備費高騰や制御の煩雑化の問題は、より一層深刻なものとなる。それにも拘わらず、このような手法は、万全の対応策にはなり得ないため、ガラスリボンに波状の変形が発生する問題を確実に消失できるものではない。
本発明は、上記事情に鑑み、フロートバスの下流側に配備された搬送経路にてローラの周速度とガラスリボンの移動速度とが一致しないことに起因して生じるガラスリボンの波状の変形を、設備の複雑化や制御の煩雑化を招くことなく確実に回避することを技術的課題とする。
上記技術的課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、フロートバスで成形されたガラスリボンを、該フロートバスの下流側に配備された搬送経路の複数のローラによって連続的に搬送しつつ徐々に冷却するガラス板の製造方法において、前記搬送経路を、前記ガラスリボンの徐冷点±20°を境界として、その上流側の上流ゾーンと、その下流側の下流ゾーンとに区分すると共に、前記ガラスリボンが前記上流ゾーンにて搬送方向に対する引張応力を受けるように、前記上流ゾーンのローラの周速度と前記下流ゾーンのローラの周速度とを異ならせたことを特徴とするものである。ここで、「前記搬送経路を、前記ガラスリボンの徐冷点±20℃を境界として」とは、ガラスリボン自体の温度がローラの周辺の雰囲気温度と同一とみなした場合におけるローラの周辺の雰囲気温度について、徐冷点±20℃を境界とすることを意味している。但し、ガラスリボン自体の温度と、ローラの周辺の雰囲気温度とが相違する場合には、ローラの周辺の雰囲気温度が優先する。
このような構成によれば、フロートバスの下流側に配備される搬送経路においては、相対的に上流側の方が下流側よりも高温であるため、搬送経路における徐冷点±20℃を境界として、上流ゾーンと下流ゾーンとに区分することにより、上流ゾーンの温度は、徐冷点−20℃よりも高温になると共に、下流側の下流ゾーンの温度は、徐冷点+20℃よりも低温になる。この場合、ガラスリボンの上流側所定部分が、徐冷点−20℃よりも高温の上流ゾーンに存在している場合に、その上流側所定部分に、ガラスリボンの移動が阻害されることに起因して搬送方向に対する圧縮応力が作用したならば、当該上流側所定部分に波状の変形が生じ得る。一方、ガラスリボンの下流側所定部分が、徐冷点+20℃よりも低温の下流ゾーンに存在している場合に、その下流側所定部分に、ガラスリボンの移動が阻害されることに起因して搬送方向に対する圧縮応力が作用しても、当該下流側所定部分には波状の変形が生じ得ない。したがって、ガラスリボンが上流ゾーンにて搬送方向に対する引張応力を受けるように、上流ゾーンのローラの周速度と下流ゾーンのローラの周速度とを異ならせておけば、上流ゾーンにてガラスリボンに波状の変形が生じなくなると共に、下流ゾーンにおいても本質的にガラスリボンに波状の変形が生じ得なくなる。この場合、上流ゾーンにてガラスリボンが引張応力を受けるようにするための具体的手法としては、例えば上流ゾーンのローラの周速度よりも下流ゾーンの大半もしくは一部のローラの周速度を高速にすることが挙げられる。また、このように、上流ゾーンにてガラスリボンに引張応力を生じさせる必要性から、上流ゾーンのローラと下流ゾーンのローラとの間で周速度を異ならせたことに起因して、上流ゾーンにてガラスリボンとローラとの間にスリップが生じても、このスリップに由来する微小傷の発生は既述の理由により問題とはならない。しかも、搬送経路を少なくとも上流ゾーンと下流ゾーンに区分すればよいため、ゾーンを不当に細分化する必要がなくなり、これにより設備が簡素化されると共に、ローラの速度制御も容易化される。なお、上記の如く上流ゾーンと下流ゾーンとを区分する境界は、(徐冷点−20℃)〜(徐冷点+10℃)の範囲とすることが好ましく、徐冷点±10℃とすれば更に好ましい。
このような構成においては、前記上流ゾーンのローラの周速度よりも前記下流ゾーンのローラの周速度を相対的に高速にすることが好ましい。
このようにすれば、上流ゾーンに存するガラスリボンに対して下流ゾーンのローラから十分な引張力が適正に作用するため、上流ゾーンにてガラスリボンが引張応力を受けることが確実化され、上述の利点をより一層的確に享受することが可能となる。
この場合、前記搬送経路は、前記フロートバスの下流側に配備されたドロスボックスの上流端から、該ドロスボックスの下流側に配備された徐冷炉の下流端に至る経路であることが好ましい。
このようにすれば、徐冷炉のみならずフロートバスの出口部分としてのドロスボックスをも含めた状態で搬送経路が形成され且つその両者をトータルして上流ゾーンと下流ゾーンとに区分されるので、フロート法を用いたガラス成形設備に適切に対応したガラスリボンの搬送が行われる。
また、前記上流ゾーンおよび下流ゾーンにおいては、個々のゾーンにおける各ローラの回転速度が同一になるように制御されていることが好ましい。
このようにすれば、全てのローラの回転速度を、上流ゾーンと下流ゾーンとにおける少数の速度値に制御すれば済むため、速度制御が極めて簡素化されると共に、制御設備の低コスト化にも寄与することが可能となる。
更に、前記上流ゾーンでは、前記ガラスリボンの移動速度よりもローラの周速度を相対的に低速にすることが好ましい。
このようにすれば、下流ゾーンのローラの周速度をガラスリボンの移動速度と同一もしくは略同一とした上で、上流ゾーンにてガラスリボンに引張応力を付与することができるため、下流ゾーンでのローラとガラスリボンとの間のスリップを防止しつつ、上流ゾーンでのガラスリボンの波状の変形を効率よく阻止することが可能となる。
そして、前記上流ゾーンのローラの周速度をV1とし、前記下流ゾーンのローラの周速度をV2とした場合に、1.001V1≦V2≦1.01V1の関係を満たすことが好ましい。
このようにすれば、上流ゾーンでのガラスリボンとローラとの間のスリップを適切に抑制し、且つ、上流ゾーンにてガラスリボンに好適な引張応力を付与することができる。すなわち、下流ゾーンのローラの周速度V2が、上流ゾーンのローラの周速度V1の1.001倍未満であれば、上流ゾーンにてガラスリボンに適切な大きさの引張応力を付与することが困難になるため、ガラスリボンに波状の変形が生じるおそれがあり、その一方、下流ゾーンのローラの周速度V2が、上流ゾーンのローラの周速度V1の1.01倍超であれば、上流ゾーンにてガラスリボンとローラとの間のスリップが不当に大きくなるおそれがある。したがって、両者の周速度V1、V2の速度比が上記の関係にあれば、このような不具合が生じ難くなる。
以上の構成において、前記上流ゾーンおよび/または前記下流ゾーンを、さらに複数のゾーンに区分し、それらの全てのゾーンにおける上流からn番目のゾーンのローラの周速度をVnとし、n+1番目のゾーンのローラの周速度をVn+1とした場合に、1.001Vn≦Vn+1≦1.01Vnの関係を満たすようにしてもよい。
このようにすれば、全ての隣接する二つのゾーンにおいて、相対的に下流側のゾーンにおけるローラの周速度Vn+1が、相対的に上流側のゾーンにおける周速度Vnの1.001〜1.01倍の範囲内に存することになるため、上述の場合と同様にして、上流ゾーンでのスリップを適切に抑制しつつ上流ゾーンにてガラスリボンに好適な引張応力を付与できるのみならず、ゾーンが細分化されることにより、ローラの周速度が局部で急激に変化することが阻止される。これにより、搬送経路上でガラスリボンに局部的に大きな応力が作用しなくなり、ガラスリボンが搬送経路の全長に亘って円滑に搬送されることになる。しかも、下流側に移行するに連れてローラの周速度が高速になるため、温度変化によりローラの径およびガラスリボンが収縮しても、上流側では常にガラスリボンの移動速度よりもローラの周速度の方が低速になる状態を維持することができ、これによりガラスリボンに生じ得る波状の変形を確実に阻止することが可能となる。
この場合にも、前記全てのゾーンにおいては、個々のゾーンにおける各ローラの回転速度が同一になるように制御されていることが好ましい。
このようにすれば、全てのローラの回転速度を、ゾーンの数に応じた複数値に制御すれば済むため、速度制御の簡素化および制御設備の低コスト化が図られ得ることになる。
以上の構成を備えた製造方法は、板厚が1.0〜4.0mmのガラス基板を製造する場合に有利となる。
板厚がこのような数値範囲内のガラス基板であれば、上流ゾーンでガラスリボンとローラとの間にスリップが生じても、両者間の摩擦が小さくなるため、品位面で致命的な問題となるような傷の発生が適正に阻止される。すなわち、板厚が4.0mmを超えると、ガラスリボンの重量が大きいことから、ローラとの接触圧が不当に大きくなり、スリップによる傷の発生を無視できなくなるおそれがある。一方、板厚が1.0mm未満であると、ガラスリボンが薄くなり過ぎることから、搬送経路の温度条件によってはガラスリボンに波状の変形が生じるおそれがある。したがって、板厚が上記の数値範囲内にあれば、このような不具合は生じない。
更に、以上の構成を備えた製造方法は、プラズマディスプレイ用のガラス基板を製造する場合に有利となる。
すなわち、プラズマディスプレイ用のガラス基板においては、上述のスリップによる微小傷が発生しても、機能的に問題となるものではないので、何ら手を加えることなくそのまま使用できる点で有利となる。
一方、上記技術的課題を解決するために創案された本発明に係る装置は、フロートバスで成形されたガラスリボンを、該フロートバスの下流側に配備された搬送経路の複数のローラによって連続的に搬送しつつ徐々に冷却するように構成したガラス板の製造装置において、前記搬送経路を、前記帯状ガラスの徐冷点±20°を境界として、その上流側の上流ゾーンと、その下流側の下流ゾーンとに区分すると共に、前記ガラスリボンが前記上流ゾーンにて搬送方向に対する引張応力を受けるように、前記上流ゾーンのローラの周速度と前記下流ゾーンのローラの周速度とが異なるように設定したことを特徴とするものである。
このような構成によれば、上記の製造方法の基本構成について述べた事項と同様の作用効果が得られる。
以上のように本発明によれば、フロートバスの下流側に配備される搬送経路を、ガラスリボンの徐冷点±20℃を境界として上流ゾーンと下流ゾーンとに区分し、ガラスリボンが上流ゾーンにて搬送方向に対する引張応力を受けるように、上流ゾーンのローラと下流ゾーンのローラとの周速度を異ならせたから、本来ならばガラスリボンに波状の変形が生じ得る上流ゾーンであっても、ガラスリボンに当該変形が生じなくなり、且つ下流ゾーンにおいてもガラスリボンに波状の変形が生じることが阻止される。したがって、この種の搬送経路でガラスリボンに生じ得る致命的な欠陥が除去され、高品位のガラス板が得られる。しかも、搬送経路を少なくとも上流ゾーンと下流ゾーンとに区分すればよいため、ゾーンを不当に細分化する必要がなくなり、設備が簡素化されると共に、ローラの速度制御も容易化される。
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態においては、プラズマディスプレイ用のガラス基板(板厚が1.0〜4.0mm)の成形に使用されるガラス板製造装置を例示する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るガラス板製造装置の要部を示す概略側面図である。同図に示すように、本実施形態に係るガラス板製造装置1は、底部に溶融錫が貯留されたフロートバス2と、該フロートバス2の出口部分を構成するドロスボックス3と、該ドロスボックス3の下流側に配備された徐冷炉4とを有する。ドロスボックス3および徐冷炉4の内部空間には、フロートバス2の浴面上で形成されたガラスリボン5を搬送しつつ徐々に冷却する搬送経路6が形成されている。
この搬送経路6は、ドロスボックス3の上流端から徐冷炉4の下流端に至る経路であって、例えば100〜300本のローラ(搬送ローラ)7を備え、上流側から下流側に移行するに連れて温度が低くなるように構成されている。そして、この搬送経路6は、ガラスリボン5の徐冷点±20℃(例えば640±20℃)を境界として、その上流側の第1ゾーンV1と、その下流側の第2ゾーンV2とに区分されている。なお、図例では、搬送経路6におけるローラ7の配列個数が実際よりも少数に記載されている。
そして、第2ゾーンV2のローラ7の周速度は、第1ゾーンV1のローラ7の周速度よりも高速とされて、ガラスリボン5が第1ゾーンV1にて引張応力を受けるように構成されている。詳しくは、第1ゾーンV1のローラ7の周速度をV1とし、第2ゾーンV2のローラ7の周速度をV2とした場合に、1.001V1≦V2≦1.01V1の関係を満たすように、両ゾーンV1、V2のローラ7の周速度が設定されている。また、第1ゾーンV1においては、ガラスリボン5の移動速度(搬送方向に対する移動速度)よりもローラ7の周速度の方が相対的に低速とされている。なお、第1ゾーンV1および第2ゾーンV2においては、ゾーン毎に各ローラの回転速度が同一になるように制御されている。
以上のような構成によれば、フロートバス2で成形された軟質のガラスリボン5が、ドロスボックス3を経由して徐冷炉4に搬入され且つ徐冷炉4を通過する過程においては、必然的に、第1ゾーンV1でのガラスリボン5の温度が、徐冷点−20℃よりも高温になり、また第2ゾーンV2での温度が、徐冷点+20℃よりも低温になる。そして、第1ゾーンV1においては、両ゾーンのローラ7の相対的な周速度及びガラスリボン5の移動速度の関係から、ガラスリボン5に搬送方向に対する圧縮応力が作用しなくなるため、波状の変形が生じなくなると共に、第2ゾーンV2においては、搬送方向に対する圧縮応力が作用しても、ガラスリボン5の温度による特性に起因して、波状の変形は生じないことになる。更に、第1ゾーンV1では、ガラスリボン5の搬送方向に対する移動速度よりもローラ7の周速度を相対的に低速にしているため、第2ゾーンV2のローラ7の周速度をガラスリボン5の移動速度と同一もしくは略同一とした状態の下で、第1ゾーンV1にてガラスリボン5に引張応力を付与することが可能となる。これにより、第2ゾーンV2でのローラ7とガラスリボン5との間のスリップを防止した上で、第1ゾーンV1でのガラスリボン5の波状の変形を阻止することが可能となる。また、第1ゾーンV1のローラ7の周速度V1と第2ゾーンV2のローラ7の周速度V2とが、1.001V1≦V2≦1.01V1の関係を満たしているので、第1ゾーンV1でのガラスリボン5とローラ7との間のスリップを適切に抑制しつつ、第1ゾーンV1にてガラスリボン5に好適な引張応力を付与することが可能となる。
尚、上記第1実施形態では、第1ゾーンV1の全てのローラ7よりも第2ゾーンV2の全てのローラ7の方が、周速度が高速になるように設定されているが、第2ゾーンV2の一部のローラ7であっても、そのローラ7がガラスリボン5の引っ張りに対して支配的となる場合には、その一部のローラ7の周速度のみが第1ゾーンV1のローラ7の周速度よりも高速となるように設定されていればよい。尚、このような事項は、徐冷点に基づく温度を境界として上流側のゾーンと下流側のゾーンとに区分されていれば、例えば下記の第2実施形態についても同様に言える事項である。
図2は、本発明の第2実施形態に係るガラス板製造装置の要部を示す概略側面図である。この第2実施形態は、同図に示すように、基本的には上述の第1実施形態と同一の構造を備えたガラス板製造装置1において、搬送経路6を、徐冷点±20℃を境界として、その上流側を第1ゾーンV1とし、その下流側を第2ゾーンV2と第3ゾーンV3と第4ゾーンV4とに区分したものである。
これらのゾーンV1、V2、V3、V4も、個々のゾーンに存する各ローラ7の回転速度が同一になるように、速度制御が行われている。そして、上流からn番目のゾーンに存するローラ7の周速度をVnとし、n+1番目のゾーンに存するローラ7の周速度をVn+1とした場合に、1.001×Vn≦Vn+1≦1.01×Vnの関係を満たすように、それぞれのローラの周速度が設定されている。したがって、全ての隣接する二つのゾーンにおいては、相対的に下流側のゾーンにおけるローラの周速度Vn+1が、相対的に上流側のゾーンにおけるローラの周速度Vnの1.001〜1.01倍の範囲内にあることになる。
この第2実施形態では、上流端の第1ゾーンV1にてガラスリボン5が搬送方向に対する引張応力を受けると共に、第2、第3、第4ゾーンV2、V3、V4においてもガラスリボン5が搬送方向に対する引張応力を受けるように、各ローラ7の周速度が設定されている。すなわち、ガラスリボン5は、上流側から下流側に移行するに連れて収縮量が大きくなり、且つ、各ローラ7の周速度は、上流側から下流側に向かって徐々に高速となるため、第1ゾーンV1にて、ガラスリボン5の移動速度よりもローラ7の周速度を低速にした上で、第2、第3、第4ゾーンV2、V3、V4にて、ガラスリボン5の移動速度よりもローラ7の周速度を高速にすることができる。これにより、全てのゾーンV1、V2、V3、V4にて、各ローラ7からガラスリボン5に対して引張応力を作用させることが可能となる。なお、第1ゾーンV1においても、ローラ7の周速度がガラスリボン5の移動速度よりも高速になるようにしてもよい。このように全てのゾーンV1、V2、V3、V4においてローラ7の周速度がガラスリボン5の移動速度よりも高速になるようにするためには、徐冷炉4の搬出口のさらに下流側に存する搬送ローラ(図示略)の周速度を、ガラスリボン5の移動速度と同等にし、この事によってガラスリボン5の移動を支配させるようにすることが一例として挙げられる。また、第2、第3、第4ゾーンV2、V3、V4において、何れかのゾーンにおける一部または全部のローラ7の周速度を、ガラスリボン5の移動速度と同等にし、この事によってガラスリボン5の移動を支配させるようにすることもできる。
したがって、フロートバス2で成形された軟質のガラスリボン5が、ドロスボックス3を経由して徐冷炉4に搬入され且つ徐冷炉4を通過する過程においては、搬送経路6の第1ゾーンV1にて引張応力を受ける。そして、この第1ゾーンV1が、徐冷点−20℃よりも高温であることに起因して、ガラスリボン5に圧縮応力が仮に作用したならば、波状の変形を来たすおそれがあるが、上記のように第1ゾーンV1ではガラスリボン5に引張応力が作用するため、そのような波状の変形は生じず且つ自重による撓み変形も生じなくなる。しかも、徐冷点+20℃よりも低温の第2、第3、第4ゾーンV2、V3、V4においても、ガラスリボン5に圧縮応力を作用せずに引張応力を作用させることができるため、これらのゾーンにて波状の変形や撓み変形が生じることを確実に阻止することが可能となる。
一方、フロートバス2で成形された軟質のガラスリボン5が、搬送経路6の第1ゾーンV1を通過する際にはローラ7との間でスリップを生じるが、ガラスリボン5が軽量であること等により両者間の摩擦が小さいため、このスリップが、プラズマディスプレイ用のガラス基板に用いられる際に問題となるような傷の発生原因となることはない。また、このガラスリボン5が、第2、第3、第4ゾーンV2、V3、V4を通過する際にも各ローラ7との間でスリップを生じることが有り得るが、この場合も同様に、問題となることはない。
そして、ガラスリボン5の徐冷点±20℃を境界として、その上流側を第1ゾーンV1とし、且つ、第1ゾーンV1ではガラスリボン5に引張応力が付与されるので、その下流側のゾーンを不当に細分化する必要がなくなる。これにより、徐冷設備の簡素化が図られると共に、ローラ7の速度制御の簡略化にも寄与することが可能となる。
なお、上記実施形態(第1、第2実施形態)では、ドロスボックス3と徐冷炉4との間に、徐冷点±20℃の境界があるとみなして、上流ゾーン(第1ゾーンV1)と、下流ゾーン(第2、第3、第4ゾーンV2、V3、V4)とに区分したが、徐冷点±20℃の境界は、ドロスボックス3内または徐冷炉4内に存在していてもよい。
また、上記実施形態(第1、第2実施形態)では、第1ゾーンV1と第2ゾーンV2とを区分する境界を、徐冷点±20℃としたが、この境界は、(徐冷点−20℃)〜(徐冷点+10℃)の範囲とすることが好ましく、徐冷点±10℃とすれば更に好ましい。
さらに、上記実施形態(第1、第2実施形態)では、搬送経路6を2つまたは4つのゾーンに区分したが、本発明は、これに限定されるものではなく、2〜10のゾーン好ましくは2〜5のゾーンに区分されていればよい。また、徐冷炉4のみを複数のゾーンに区分することに限定されるものでもなく、ドロスボックス3が複数のゾーンに区分されていてもよい。
また、上記実施形態(第2実施形態)では、全ての隣接する二つのゾーンについて、相対的に下流側のゾーンにおけるローラの周速度の方が、相対的に上流側のゾーンにおけるローラの周速度よりも高速になるように設定したが、下流ゾーン(第2、第3、第4ゾーンV2、V3、V4)については、隣接する二つのゾーンにおけるそれぞれのローラの周速度が同一となる箇所を有していてもよい。
本発明者等は、上述の図1及び図2に一例を示したガラス板製造装置についての効果を確認すべく、本発明の実施例1〜6と比較例1、2との対比を、以下に示すようにして行った。これらの実施例および比較例は何れについても、板厚が1.8mmのガラス板を製造するためのガラスリボンの搬送経路に関する。
下記の表1に示す本発明の実施例1〜4は何れも、ローラ区分数が2つ、すなわち搬送経路が上流ゾーンと下流ゾーンとの2つに区分されている。また、本発明の実施例5、6は、搬送経路が上流ゾーンと下流ゾーンとに区分された上で、更に下流ゾーンが2つに区分されている。一方、比較例1は、搬送経路が区分されておらず、比較例2は、搬送経路が上流ゾーンと下流ゾーンとの2つに区分されている。尚、搬送経路には、200本程度のローラが配列され、ローラの本数は各ゾーン毎に略均等に分配されている。
更に、下記の表1に示すように、上流ゾーンと下流ゾーンとの区分位置(境界)におけるガラスリボンの温度は、本発明の実施例1が徐冷点Pa±0℃、実施例2が徐冷点Pa+10℃、実施例3が徐冷点Pa−20℃、実施例4が徐冷点Pa−20℃、実施例5が徐冷点Pa±0℃、実施例6が徐冷点Pa+10℃とされ、全ての実施例において上流ゾーンよりも下流ゾーンの温度が低くなっている。なお、上記の温度に関しては、ドロスボックス内及び徐冷炉内にそれぞれ設置した熱電対により内部雰囲気温度を測定し、この内部雰囲気温度をガラスリボンの温度とみなした。尚、徐冷点Paは、JISR3103に基づいて測定した。
また、ローラ周速度の関係は、実施例1〜4については、上流ゾーンのローラ周速度V1よりも下流ゾーンのローラ周速度V2が高速であり、実施例5、6については、上流ゾーンのローラ周速度V1、下流ゾーンの中における上流側のローラ周速度V2、下流ゾーンの中における下流側のローラ周速度V3の順に、高速となっている。一方、比較例1では、ゾーンの区分が存在しないために上流及び下流のローラ周速度V1、V2は同一であり、比較例2では、上流ゾーンのローラ周速度V1よりも下流ゾーンのローラ周速度V2が低速となっている。従って、上記のローラ周速度の比率(V2/V1)は、本発明の実施例1〜6が全て、1.000を超えており、実施例5、6におけるローラ周速度の比率(V3/V2)も1.000を超えているのに対して、比較例1、2におけるローラ周速度の比率(V2/V1)は1.000以下である。
以上のような条件の下で成形された実施例1〜6及び比較例1、2に係るガラスリボンをそれぞれ、1m×1mのサイズに切断し、これにより得られた各ガラス板をそれぞれ定盤上に載置した状態で、レーザ変位計によって定盤からの当該ガラス板の表面までの変位量を多数箇所で測定し、その変位量の最大値と最小値とに基づいて、当該ガラス板の波状の変形(μm)を算出した。その結果を、下記の表1に示す。
上記の表1によれば、波状の変形(μm)は、実施例1〜6では、30〜60の範囲内に収まっており、許容し得る程度の小さい値となっているのに対して、比較例1、2では、それぞれ80、100という許容し難い大きい値となっている。このような結果が得られたことにより、本発明は、ガラスリボンの波状の変形を防止する上で、大きな意義があることを確認することができた。