JP5401669B2 - 心筋細胞分化誘導促進方法及び分化誘導方法 - Google Patents
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Description
市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
ピオグリタゾン(pioglitazone)存在下において骨髄由来の間葉系幹細胞を培養し、この培養後の間葉系幹細胞をフィーダー細胞である哺乳類胎仔由来の心筋細胞と共培養すると、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化を促進することができる。このことから、ピオグリタゾンは、分化誘導前の間葉系幹細胞に作用することによって、その間葉系幹細胞の分化状態を心筋細胞の方向へ進めると考えられる。
ここで、間葉系幹細胞としては、心筋細胞へ分化する能力を有する間葉系幹細胞であればよく、例えば、骨髄、末梢血、G−CSF投与後の末梢血、臍帯血、又は胎盤付属臓器由来の間葉系幹細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。
前述の通り、ピオグリタゾンは、分化誘導前の間葉系幹細胞に作用することによって、その間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進することができる。従って、ピオグリタゾン(pioglitazone)を有効成分として含有する薬剤は、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進するのに有用である。
間葉系幹細胞は、それ自身、自己複製能、自己増殖能、及び多分化能を有するため、この薬剤を用いることによって、間葉系幹細胞から多量の心筋細胞を産生することが可能になる。
現在、新薬の開発において、薬物スクリーニング試験、毒性試験、安全性薬理試験等に用いることが可能な心筋細胞の供給が求められているので、本発明の心筋細胞分化誘導方法を用いれば、このような試験の実施に合わせて、十分な量の心筋細胞を確保することが可能になる。
本発明のピオグリタゾンを有効成分として含有する薬剤としては、例えば、ピオグリタゾン塩酸塩((±)-5-[4-[2(5-ethyl-2-pyridyl) ethoxy]-benzyl] thiazolidine-2, 4-dione monohydrochloride)等が挙げられる。本発明の薬剤は、当業者に公知の技術を用いて合成してもよいし、市販のものを用いてもよい。
間葉系幹細胞を心筋細胞へ分化誘導する方法としては、フィーダー細胞(例えば、心筋細胞)との共培養、5-アザシチジン、DMSO、又はオキシトシンの投与等が挙げられる。
間葉系幹細胞は、骨髄、末梢血、G−CSF投与後の末梢血、臍帯血、又は胎盤付属臓器等から採取することができる。なお、骨髄の採取部位は特に限定されないが、例えば、脊椎、胸骨、腸骨等の骨髄を用いることができる。
これらの材料から間葉系幹細胞を調製する際、例えば骨髄、胎盤付属臓器のように、この材料が間葉系幹細胞を巻き込んだ細胞塊になっている場合には、含まれている細胞を解離するために、材料に対してピペッティング等による物理的処理や、酵素等による化学的処理を行えばよい。酵素としては、トリプシン、コラゲナーゼ等、常法で用いられている酵素が挙げられる。また、例えば、末梢血、臍帯血等の血液から間葉系幹細胞を調製する際は、低張溶液(例えば、水等)で処理することにより、赤血球を溶血しておくことが好ましい。このように、用いる材料に対して適切な処理を行って、間葉系幹細胞を調製する。
フィーダー細胞は、間葉系幹細胞の分化誘導を起こさせることができる細胞であれば特に限定されないが、心筋細胞の初代培養細胞等が挙げられる。なお、フィーダー細胞として培養細胞を用いる場合、細胞の増殖を防ぐために、用いる培養細胞に対して、γ線照射やマイトマイシン等による処理を予め施しておいてもよい。ここでは、哺乳類胎仔由来の心筋細胞を用いたフィーダー細胞の調製方法の一例について述べる(The Journal of Gene Medicine, 6, 833-845 (2004)を参照のこと)。
「(ii)フィーダー細胞の調製」に従って調製したフィーダー細胞上に、「(i)間葉系幹細胞の調製及び前処理」に従って調製した間葉系幹細胞を、1×101〜1×102/cm2の濃度になるように添加し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養する。
なお、フィーダー細胞と間葉系幹細胞とを区別するために、間葉系幹細胞を予め標識しておいてもよい。標識方法としては、例えば、GFP遺伝子を間葉系幹細胞に遺伝子導入して標識したり、細胞に無害な色素を微細注入することにより標識したりする方法等が挙げられる(The Journal of Gene Medicine, 6, 833-845 (2004)を参照のこと)。
分化誘導された心筋細胞は、一つ一つの細胞の辺縁が細胞の中心方向に集合するように拍動し、収縮時に細胞質が厚くなるため、間葉系幹細胞を予めGFP等で蛍光標識しておけば、心筋細胞を細胞レベルで同定することができ、容易に心筋細胞を観察できるようになる。また、複数の細胞の拍動が同期化して、一群の細胞で拍動を打つようになることもある。分化誘導された心筋細胞はこのような特徴を有するので、顕微鏡下において、容易に同定することができる。
本発明に従いピオグリタゾンで処理すると、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化を促進することができる。従って、予めピオグリタゾンで処理した間葉系細胞を、心筋細胞の変性や壊死を起こしている部位に移植することにより、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化を促進して心筋細胞を効率的に再生することができる。特に、患者から単離した間葉系細胞をピオグリタゾンで処理し、自家移植することにより、移植による拒絶反応の問題が無くなるとともに、再生医療におけるドナー不足等の問題を解消することができる。具体例としては、ピオグリタゾンで処理した間葉系細胞を含有した医薬組成物は、心筋梗塞、心筋炎、心筋症等の心筋細胞の変性や壊死を有する疾患の治療薬を製造するのに有用である。
本実施例では、ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞を用い、ピオグリタゾン存在下における心筋細胞への分化能について検討した。
当施設倫理委員会で承認されたプロトコールに従って、インフォームドコンセントを行ったボランティアに対して、骨髄液の採取を行った。
まず、骨髄提供者を臥位にし、腸骨周囲を消毒した後、無菌操作下で局所麻酔を行った。麻酔にて無痛となった事を確認した後、局所麻酔下にて骨髄穿刺針を骨髄腔まで刺入し、10ccシリンジにて骨髄液を15ccから30cc採取した。
このようにして採取した骨髄液を10%FCS(牛胎仔血清)含有α−MEM培地に懸濁した。この骨髄液を、50〜100μl/cm2の濃度になるように培養皿に播種し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。培養開始2日後に、赤血球を除去するために、培地交換を行った。細胞がコンフルエントに達した後、今度は5×104cells/cm2の濃度になるように10%FCS含有DMEM培地で調製し、6cm培養皿にトランスファーした。翌日、GFP遺伝子が発現するように組み込まれたアデノウイルスをこれらの細胞に感染させ(J. Gene Med., 6, 833-845 (2004))、数日間培養した後、蛍光共焦点顕微鏡を用いて、GFPの発現を確認した。
ピオグリタゾンを用いて、以下の処置を行なった。なお、予め、DMSO又はメタノールを用いて、1mMのピオグリタゾンストック溶液を作製し、DMSO及びメタノールが間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導に影響がないことを確認した。
まず、GFP発現間葉系幹細胞を、0.1μMピオグリタゾン及び10%FCS含有DMEM培地を用いて、37℃、5%CO2インキュベーターで2週間培養した。なお、コントロールとして、0.1μMピオグリタゾンを含有しない10%FCS含有DMEM培地を培地に用いて、同様の実験を行った。
フィーダー細胞としては、マウス胎仔由来の心筋細胞を用いた。その調製は以下のようにして行った。
まず、胎生14〜16日目の心臓を切除し、10%ウシ胎仔血清含有DMEM培地中で、眼科用ハサミを用いて、細かく切った。心筋組織から心筋細胞を解離させるために、組織の間質を消化するタンパク質分解酵素(0.05%トリプシン及び0.25mmol/L EDTA含有PBS)を培地に添加し、37℃5分間インキュベートした。
酵素処理後、遠心分離(1500rpm、3分)し、沈殿した細胞を10%ウシ胎仔血清含有DMEM培地に懸濁して細胞浮遊液を調製し、培養皿に播種して37℃でインキュベートした。30分〜3時間後、培養上清を吸引によって除去し、培養皿に付着した細胞を、以下の実験に用いた。
ピオグリタゾンで前処置した間葉系幹細胞を、5×104cells/cm2の濃度になるように0.1μMピオグリタゾン及び10%FCS含有DMEM培地で調製した。この間葉系幹細胞を、予め5×103cells/cm2の濃度になるように培養皿に播種したマウス胎仔由来の心筋細胞の上に重層し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した(J. Gene Med., 6, 833-845 (2004))。
本実施例では、Troponin I発現を心筋細胞の分化マーカーとして用い、分化誘導率として、免疫染色によってTroponin Iを発現している細胞の頻度を算出し(Exp Cell Res., 15, 313 (12), 2550-62 (2007 Jul))(図において「誘導率」ともいう)、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を評価した。
間葉系幹細胞とフィーダー細胞である心筋細胞を共培養してから1週間後、培養皿に存在する細胞に対して、ヒト心筋細胞に特異的なタンパク質であるTroponin Iに対する抗体(Monoclonal mouse anti-cardiac Troponin I for human Catalogue#4T21, Hytest社)を用いて、免疫染色を行った。
図1に示す通り、ピオグリタゾン存在下において間葉系幹細胞を培養した群(ピオグリタゾン(PPAR)+DMSO)では、23.61%のヒト骨髄由来の間葉系幹細胞にTroponin-Iが発現していた。一方、ピオグリタゾン非存在下で培養したコントロールでは0.57%であった。
このように、ピオグリタゾン処理によって、ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞の、心筋細胞への分化誘導率は41.42倍増加した。
本実施例では、ヒト臍帯由来の間葉系幹細胞を用い、ピオグリタゾン存在下における心筋細胞への分化能について検討した。
出産時に子宮から脱落した臍帯を採取し、20mlのDMEM培地(1% FCS、100U/mlペニシリン・100ng/mlストレプトマイシン、及び500U/L heparin含有)を入れた50mlポリプロピレンチューブに移した。チューブ内で臍帯を軽く洗浄した後、10cm培養皿に移した。眼科用鋏を用いて、臍帯を約1〜5mm3大に細かく切り、数分間静置した後、血液細胞が含まれる上清を除去し、再び、DMEMで洗浄した。この操作を3〜4回繰り返し、最終的に、切断された臍帯組織を10%FCS含有α−MEM培地に入れ、この組織が3〜5個/cm2の濃度になるように培養皿に静置し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。その後、組織から自然に遊走してきた間葉系幹細胞を用い、実施例1と同様にGFPで標識し、ピオグリタゾン存在下で培養することによって、心筋細胞へ分化誘導させた。
本実施例では、実施例1に記載のTroponin I発現を分化マーカーとして用い、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を評価した。
実施例1に記載の方法と同様に、GFP陽性細胞中のTroponin I発現細胞の割合を分化誘導率として算出した。
図2に示す通り、ピオグリタゾン存在下において間葉系幹細胞を培養した群では、ピオグリタゾン+DMSOの場合は9.58%のヒト臍帯由来間葉系幹細胞にTroponin-Iが発現しており、ピオグリタゾン+メタノールの場合は5.03%のヒト臍帯由来間葉系幹細胞にTroponin-Iが発現していた。一方、ピオグリタゾン非存在下で培養したコントロールでは1.37%であった。このように、ヒト臍帯由来の間葉系幹細胞の、心筋細胞への分化誘導率は3.67〜6.99倍増加した。
また、図3に示す通り、ピオグリタゾン存在下において間葉系幹細胞を培養した群では、ピオグリタゾン+DMSOの場合は18.69%のヒト臍帯由来間葉系幹細胞にTroponin-Iが発現しており、ピオグリタゾン+メタノールの場合は22.69%のヒト臍帯由来間葉系幹細胞にTroponin-Iが発現していた。一方、ピオグリタゾン非存在下で培養したコントロールでは4.60%であった。このように、ヒト臍帯由来の間葉系幹細胞の、心筋細胞への分化誘導率は4.06〜4.93倍増加した。
本実施例では、ヒト胎盤由来の間葉系幹細胞を用い、ピオグリタゾン存在下における心筋細胞への分化能について検討した。
出産時に子宮から脱落した胎盤を採取し、20mlのDMEM培地(1% FCS、100ng/mlストレプトマイシン、100U/mlペニシリン、及び500U/l heparin含有)を入れた50mlポリプロピレンチューブに入れた。チューブ内で胎盤を軽く洗浄した後、10cm培養皿に移した。眼科用鋏を用いて、胎盤を約1〜5mm3大に細かく切り、数分間静置した後、血液細胞が含まれる上清を除去し、再び、DMEMで洗浄した。この操作を3〜4回繰り返し、最終的に、細かく切断された胎盤組織を10%FCS含有α−MEM (α-modified MEM)培地に浸した状態で、3〜5個/cm2の密度になるように培養皿に静置し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。その後、組織から自然に遊走してきた間葉系幹細胞を用い、実施例1と同様にGFPで標識し、ピオグリタゾン存在下で培養することによって、心筋細胞へ分化誘導させた。
本実施例では、自己拍動性を心筋細胞の分化マーカーとして用い、分化誘導率として、顕微鏡下で分化した細胞の頻度をスコア化し(図において、「簡易誘導効率」ともいう)、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を評価した。また、実施例1に記載のTroponin I発現を分化マーカーとして用い、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導も評価した。
間葉系幹細胞とフィーダー細胞である心筋細胞を共培養してから1週間後、培養皿に存在する細胞を蛍光顕微鏡下において観察した。そして、自己拍動している細胞を同定して以下のスコアを計算し、間葉系幹細胞の心筋細胞への誘導率とした。ここで、「自己拍動している細胞」とは、分化誘導された細胞の周囲辺縁が中心方向へ集合していること、GFPの発光が収縮期に強くなること、明視野において、収縮の中心部はGFPを発光しない細胞を含まないこと(フィーダー細胞を含まないこと)の全ての条件を満たす細胞のことをいう。
スコア1:顕微鏡下(倍率: 10×4)において、拍動性を有する細胞が培養皿全体で数個認められるが、同期化していない場合
スコア2:顕微鏡下(倍率: 10×4)において、拍動性を有する細胞が培養皿全体で数個認められ、これらの細胞が同期化している場合(なお、全部の細胞が同期化していなくても、島状に配列した数個の細胞が同期化していれば同期化していると判断する)
スコア3:顕微鏡下(倍率:10×20)において、ランダムにある視野を観察した場合、その視野の中に必ず一つ以上の拍動性を有する細胞が認められる場合
スコア4:顕微鏡下(倍率:10×20)において、ほとんどすべての細胞に拍動性が認められる場合
図4に示す通り、ピオグリタゾン存在下において間葉系幹細胞を培養した群(ピオグリタゾン+DMSO)では、5サンプルの平均スコアが3.80になり、コントロール(平均スコア:0.2)と比べて、心筋細胞への分化誘導率が19倍増加していた。
実施例1に記載の方法と同様に、GFP陽性細胞中のTroponin I発現細胞の割合を分化誘導率として算出した。
図5に示す通り、ピオグリタゾン存在下において間葉系幹細胞を培養した群では、ピオグリタゾン+DMSOの場合49.90%のヒト胎盤由来の間葉系幹細胞にTroponin-Iが発現しており、ピオグリタゾン+メタノールの場合41.83%のヒト胎盤由来の間葉系幹細胞にTroponin-Iが発現していた。一方、ピオグリタゾン非存在下で培養したコントロールでは20.39%であった。このように、ヒト胎盤由来の間葉系幹細胞の、心筋細胞への分化誘導率は2.05〜2.45倍増加した。
本実施例では、ピオグリタゾンで前処置したヒト骨髄由来の間葉系幹細胞を心筋梗塞モデルラットへ移植し、そのラットの心筋梗塞が改善することを組織学的に確認した。
実施例1に記載の方法を用いて、間葉系幹細胞を調製した。
実施例1に記載の方法を用いて、ピオグリタゾンによる前処置を行った。
まず、ピオグリタゾンで2週間前処置した間葉系幹細胞を、5×104cells/cm2の濃度になるように0.1μMピオグリタゾン及び10%FCS含有DMEM培地で調製した。
次に、心筋梗塞モデルラット(Crl:NIH-Foxn1nu (Nude Rat)、日本チャールズリバー株式会社)の胸部を切開し、心臓の心筋梗塞部に上述の方法によって調製した間葉系幹細胞を1〜2×106cells移植した(BM+PPAR群、n=30)。
なお、コントロールとして、正常ラットにおいて開胸のみを行った群(Sham群、n=14)と、心筋梗塞モデルラットにおいて開胸のみを行い間葉系幹細胞を移植しない群(Control MI群、n=15)と、心筋梗塞モデルラットに対しピオグリタゾンで前処置していない間葉系幹細胞を移植した群(BM群、n=17)とを同様に作製した。
一般に、心筋梗塞を発症すると、心筋組織において、筋線維から膠原線維に置き換わることが知られている。そこで、本実施例では、マッソントリクローム染色によって、心筋組織における膠原線維の割合を算出し(以下、「左心室線維化率」という)、左心室線維化率の減少を心筋梗塞の改善として評価した。
間葉系幹細胞を心筋梗塞部位へ移植してから2週間後、摘出した心臓組織に対して、マッソントリクローム染色を行った。なお、マッソントリクローム染色は当業者に周知の方法を用いて行った。
図6に示す通り、ピオグリタゾンで前処置した間葉系幹細胞を移植した群(BM+PPAR)の左心室線維化率は9.4%であるのに対し、ピオグリタゾンで前処置していない間葉系幹細胞を移植した群(BM)の左心室線維化率は15.7%であった。
このように、ピオグリタゾンで前処置したヒト骨髄由来の間葉系幹細胞を心筋梗塞モデルラットに移植すると、左心室線維化率が減少した。これより、ピオグリタゾンで前処置したヒト骨髄由来の間葉系幹細胞を心筋梗塞モデルラットに移植すると、心筋梗塞が改善することが示された。
本実施例では、ピオグリタゾンで前処置したヒト骨髄由来の間葉系幹細胞を心筋梗塞モデルラットへ移植し、そのラットの心機能が改善することを機能的に確認した。
実施例1に記載の方法を用いて、間葉系幹細胞を調製した。
実施例1に記載の方法を用いて、ピオグリタゾンによる前処置を行った。
まず、ピオグリタゾンで2週間前処置した間葉系幹細胞を、5×104cells/cm2の濃度になるように0.1μMピオグリタゾン及び10%FCS含有DMEM培地で調製した。
次に、心筋梗塞モデルラット(Crl:NIH-Foxn1nu (Nude Rat)、日本チャールズリバー株式会社)の胸部を切開し、心臓の心筋梗塞部位部に上述の方法によって調製した間葉系幹細胞を1〜2×106cells移植した(BM+PPAR群、n=30)。
なお、コントロールとして、正常ラットにおいて開胸のみを行った群(Sham群、n=14)と、心筋梗塞モデルラットにおいて、開胸のみを行い間葉系幹細胞を移植しない群(Control MI群、n=15)と、心筋梗塞モデルラットに対し、ピオグリタゾンで前処置していない間葉系幹細胞を移植した群(BM群、n=17)とを同様に作製した。
(i)評価方法
本実施例では、左室収縮期内圧、左室内圧最大時間微分値、及び左室駆出率を測定又は算出し、左室収縮期内圧、左室内圧最大時間微分値、及び左室駆出率の増加を心機能の改善として評価した。なお、左室収縮期内圧は、左心室内に刺入した22Gサーフロー針に接続した圧トランスデューサーを用いて測定し、左室内圧最大時間微分値は左心室内圧の変化の時間微分を用いて算出し、左室駆出率は、心臓超音波検査から求めた左室内径からシンプソン法を用いて算出した。
図7に示す通り、ピオグリタゾンで前処置した間葉系幹細胞を移植した群(BM+PPAR)の左室収縮期内圧は124.8mmHgであるのに対し、ピオグリタゾンで前処置していない間葉系幹細胞を移植した群(BM)の左室収縮期内圧は107.6mmHgであった。また、図8に示す通り、ピオグリタゾンで前処置した間葉系幹細胞を移植した群(BM+PPAR)の左室内圧最大時間微分値は5260 Hg/sであるのに対し、ピオグリタゾンで前処置していない間葉系幹細胞を移植した群(BM)の左室内圧最大時間微分値は4379 Hg/sであった。さらに、図9に示す通り、ピオグリタゾンで前処置した間葉系幹細胞を移植した群(BM+PPAR)の左室駆出率は83.3%であるのに対し、ピオグリタゾンで前処置していない間葉系幹細胞を移植した群(BM)の左室駆出率は72.6%であった。
このように、ピオグリタゾンで前処置したヒト骨髄由来の間葉系幹細胞を心筋梗塞モデルラットに移植すると、左室収縮期内圧、左室内圧最大時間微分値、及び左室駆出率は増加した。これより、ピオグリタゾンで前処置したヒト骨髄由来の間葉系幹細胞を心筋梗塞モデルラットに移植すると、ラットの心機能が改善することが示された。
Claims (6)
- 間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進する方法であって、
ピオグリタゾン存在下において間葉系幹細胞を処理し、哺乳類胎仔由来の心筋細胞であるフィーダー細胞上で前記間葉系幹細胞を培養すること、
を特徴とする心筋細胞分化誘導促進方法。 - 前記間葉系幹細胞が、骨髄、臍帯血、又は胎盤由来であることを特徴とする請求項1に記載の心筋細胞分化誘導促進方法。
- 前記間葉系幹細胞が、前記ピオグリタゾン存在下において、2週間以上培養されることを特徴とする請求項1又は2に記載の心筋細胞分化誘導促進方法。
- 間葉系幹細胞を心筋細胞へ分化させる分化誘導方法であって、
前記間葉系細胞をピオグリタゾンで処理する工程と、
ピオグリタゾンで処理した前記間葉系細胞を、哺乳類胎仔由来の心筋細胞であるフィーダー細胞上で培養する工程と、
を包含する分化誘導方法。 - 前記間葉系幹細胞が、骨髄、臍帯血、又は胎盤由来であることを特徴とする請求項4に記載の分化誘導方法。
- 前記間葉系幹細胞が、前記ピオグリタゾン存在下において、2週間以上培養されることを特徴とする請求項4又は5に記載の分化誘導方法。
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