JP5400007B2 - ロール製造方法、被膜形成ロール、被膜形成装置 - Google Patents

ロール製造方法、被膜形成ロール、被膜形成装置 Download PDF

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Description

本発明は、金属ロール、ゴムロール、樹脂ロール、カーボンロール、又はこれらと同様素材の感光ドラム(以下、これらをまとめて「ロール」という)の製造技術に関し、特に、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon、以下、DLCという)の被膜を利用した技術に関する。
シート材料等に対する印刷、給紙等を含むシート材料の搬送、母材に対する材料塗布などの分野において、ロールは数多く利用されている。ロールは、外部部材と接触してそれぞれの目的を達成する部品であることから、耐摩耗性、摩擦係数の安定性、表面の平滑性など、様々な条件が課されることが多い。
例えば、グラビア印刷を行うためのグラビアロールでは、表面に、微細凹凸(セル)を形成して、そこにインキを溜めた状態で、被印刷物に転写する。この微細凹凸は、一般的に、アルミ・鉄等を素材とした金属ロールの表面に銅メッキ層を形成し、この銅メッキ層をエッチング加工を施すことで形成する。銅メッキ層に形成される微細凹凸は、それ自体の強度が低いため、更にその上にクロムメッキを施して硬質クロム層を形成し、印刷作業に対する耐久性を高めるようにしている。しかし、このクロムメッキ工程では、毒性の高い六価クロムを用いる必要があるため、近年、このクロムメッキに代えて、DLC被膜を形成する技術も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また例えば、レジストフィルムや、フレキシブル配線(FPC)等の電子部品材料を搬送する為の回転ロールでは、表面が粗いと、被搬送物に傷を付けてしまったり、変形させてしまったりする。そこで、回転ロールの表面を研磨して鏡面状態にすることで、搬送品質を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
WO2006/132085号公報 特開2008−24467号公報
しかしながら、特許文献1の技術では、グラビアロールに対してDLC被膜を形成する際、真空チャンバ内を150度C〜350度Cの温度に維持する必要があるため、その熱によってグラビアロールが変形してしまう。この結果、表面の微細凹凸の配置が変位するので、印刷精度を悪化させるという問題があった。また、硬質クロム層、DLC被膜のいずれにおいても、微細凹凸表面に数μm〜数十μmの被膜を形成することから、この微細凹凸が被膜素材によって埋められてしまうので、印刷の精細性を悪化させるという問題があった。
また、特許文献2の技術では、搬送工程中の外的要因で、回転ロールの表面に傷が発生すると、再研磨しなければならないという問題があった。そこで、本出願時では未公知の発想として、回転ロール表面にDLC被膜を形成することも考えられるが、特許文献1と同様に、被膜形成中に回転ロール自体が熱変形したり、このDCL被膜によって表面粗度が悪化したりする可能性があった。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ロールの表面加工状態を活かしつつ、DLC被膜を利用して表面の物理特性を向上させる技術を提供しようとするものである。
上記目的を達成する本発明は、金属、ゴム、樹脂、及びカーボンの少なくとも何れかを表面素材としたロールの製造方法であって、前記ロールの表面に対して、エッチング、電子彫刻、押圧、切削及び研磨の少なくとも何れかによって形状加工を施す表面加工工程と、120度C以下の環境において、前記ロールの周囲に高周波電圧によるプラズマを発生させた状態で、前記ロールにイオン注入用の負の高電圧パルスを印加して、加工後の前記表面に対してカーボンイオンを注入してミキシング層を形成し、更に前記ロールに供給する電圧を制御して前記表面にダイヤモンドライクカーボン膜を形成する被膜工程と、を備えることを特徴とするロール製造方法である。
上記目的を達成するロール製造方法は、上記発明において、前記表面加工工程における前記形状加工として、前記表面を研磨して鏡面状態とすることを特徴とする。
上記目的を達成するロール製造方法は、上記発明において、前記表面加工工程において、前記表面の鏡面状態がRa0.4μm以下となることを特徴とする。
上記目的を達成するロール製造方法は、上記発明において、前記表面加工工程における前記表面の粗度となる最大高さRmaxと比較して、前記被膜工程における前記ダイヤモンドライクカーボン膜の膜厚が小さいことを特徴とする。
上記目的を達成するロール製造方法は、上記発明において、前記ロールの前記表面は非メッキ処理状態となるロール母材で構成されており、前記表面加工工程において、前記ロール母材となる前記表面を研磨して鏡面状態とし、前記被膜工程において、鏡面状態となる前記表面に対して、直接、前記ダイヤモンドライクカーボン膜を形成することを特徴とする。
上記目的を達成するロール製造方法は、上記発明において、前記ロール母材がカーボンであることを特徴とする。
上記目的を達成するロール製造方法は、上記発明において、前記表面加工工程において、前記表面に凹凸を形成することを特徴とする。
上記目的を達成するロール製造方法は、上記発明において、前記凹凸の深さに対して、前記ダイヤモンドライクカーボン膜の膜厚が小さいことを特徴とする。
上記目的を達成するロール製造方法は、上記発明において、前記凹凸の深さをHとした場合に、前記ダイヤモンドライクカーボン膜の膜厚が、0.01×H 以下に設定されることを特徴とする。
上記目的を達成するロール製造方法は、上記発明において、前記被膜工程において、前記ダイヤモンドライクカーボン膜の膜厚を1000nm未満とすることを特徴とする。
上記目的を達成するロール製造方法は、上記発明において、前記被膜工程において、前記ダイヤモンドライクカーボン膜の膜厚を100nm未満とすることを特徴とする。
上記目的を達成するロール製造方法は、上記発明において、前記被膜工程において、前記ダイヤモンドライクカーボン膜の膜厚を50nm未満とすることを特徴とする。
上記目的を達成するロール製造方法は、上記発明において、前記ロールの主軸及びロール母材を導電性材料で構成し、前記イオン注入用の負の高電圧パルスを、前記主軸及び前記ロール母材を経由して前記表面に印加することで、前記表面に前記ダイヤモンドライクカーボン膜を形成することを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載のロール製造方法。
上記目的を達成する本発明は、上記発明のロール製造方法によって製造されることを特徴とする被膜形成ロールである。
上記目的を達成する本発明は、ロールの表面にダイヤモンドライクカーボン膜を形成する被膜形成装置であって、複数本のロールを内部に同時に収容可能な真空チャンバと、前記真空チャンバ内に設けられ、複数の前記ロールを同時に保持可能なロール用ホルダと、前記ロール用ホルダに保持される複数の前記ロールを自転又は公転させる駆動機構と、前記ロールに対して、イオン注入用の負の高電圧パルス及びダイヤライクカーボン膜形成用の制御電圧を印加する高電圧パルス電源と、前記ロールの周囲にプラズマを生成する高周波電源と、を備えることを特徴とするロール用被膜形成装置である。
上記目的を達成するロール用被膜形成装置は、上記発明において、前記高周波電源に接続され、複数の前記ロールの全体を覆うように配置される筒状のプラズマ生成アンテナを更に備えることを特徴とする。
上記目的を達成するロール用被膜形成装置は、上記発明において、前記駆動機構は、回転動力を発生する駆動源と、前記駆動源に連結される第1伝達軸と、複数の前記ロールの各主軸に同軸状態で接続され、前記第1動力伝達軸の動力が伝達される複数の第2伝達軸と、を備えることを特徴とする。
上記目的を達成するロール用被膜形成装置は、上記発明において、前記高電圧パルス電源は、前記駆動機構を経由して、前記ロールに電圧を印加することを特徴とする。
本発明によれば、ロールの形状加工後の形状精度を維持しながら、DLC膜によって表面の特性を向上させることができるという優れた効果を奏し得る。
本発明の実施形態に係るロール製造方法の手順を示す図である。 同ロール製造方法で用いられる被膜形成装置の正面構成を示す断面図である。 図2の同被膜形成装置におけるIII−III矢視断面図である。 同被膜形成装置によって印加される電圧の状態を示すタイムチャートである。 同ロール製造方法で用いられる被膜形成装置の他の構成を示す図である。
以下、本発明の実施の形態に係るロール製造方法、及び同製造方法によって製造される被膜形成ロールについて、添付図面を参照して説明する。
図1には、被膜形成ロール1の製造手順が示されている。この被膜形成ロール1は、電子部品用のフィルム等を搬送する回転ロールとして用いられる。まず、図1(a)に示されるように、アルミ素材となる円筒状の胴部10内に、同軸状に主軸12を装着し、更に円筒状の胴部10の表面10Aを、特に図示しない研磨装置によって研磨加工して、粗度としての最大高さRmaxを0.4μm〜1.6μm(平均粗度Raに換算すると0.10〜0.40μm)の範囲内に形状加工する。この表面加工工程により、ロール母材となる円筒状の胴部10の表面10Aが、直接的に鏡面状態又は準鏡面状態となる。
その後、被膜形成装置(図2参照)を用いて、表面10Aに対してDLC膜を形成する。なお、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)とは、炭素の三次元的結合であるsp混成軌道と、二次元的結合であるsp混成軌道、あるいは水素との結合とが不規則に混じり合っており、特定の結晶構造を持たないアモルファス構造からなる硬質の炭素系皮膜をいう。このDLC膜は、高い耐摩耗性、耐腐食性などを有する。
この成膜時では、120度C以下の環境となる真空チャンバ内において、円筒状の胴部10の周囲に高周波電圧によるプラズマを発生させる。図1(b)に示されるように、プラズマ発生状態で、円筒状の胴部10の表面10Aににイオン注入用の負の高電圧パルスを印加して、鏡面加工後の表面10Aに対してカーボンイオンを注入してミキシング層13を形成する。その後、図1(c)に示されるように、更に電圧を制御して表面10Aにダイヤモンドライクカーボン膜14を形成する。これらの工程を経て被膜形成ロール1が完成する。
なお、このDLC膜14の膜厚は、表面10Aの鏡面加工の最大高さRmaxよりも小さくする。従って、本実施形態では、1.6μm未満、望ましくは0.4μm未満とする。好ましくは0.05μm(50nm)未満とする。これにより、表面加工によって得られる鏡面状態を、DLC膜14の表面にそのまま反映させることができる。
また、真空チャンバ内の温度条件は、120度C以下とする。このようにすると、アルミ素材となる円筒状の胴部10や主軸12の変形が殆ど生じないで済む。なお、より好ましくは、100度C以下、更に好ましくは50度C以下の常温環境で成膜する。このようにすると、一層、素材の熱変形量を低減させることが可能となる。
次に、図2、図3及び図4を参照して、被膜形成プロセスについて具体的に説明する。
被膜形成装置50は、装置構成として、内部に複数本(ここでは4本)のロールLが同時に配置される真空チャンバ52と、真空チャンバ52に設けられて内部の空気を真空吸引する排気管54と、真空チャンバ52に設けられて原料ガス(例えば、低圧炭化水素ガス)を導入する給気管56と、プラズマ生成用の高周波パルス電圧を生成する2個の高周波パルス電源58と、イオン注入用の負の高電圧パルス電圧及びプラズマ誘引用の正の高電圧パルス電圧を生成する高電圧パルス電源60を備える。更に、被膜形成装置50は、この真空チャンバ52の内部に設けられ、複数本のロールLの主軸の両端を同時に保持可能なロール用ホルダ66と、複数本のロールLを自転又は公転させる駆動機構68を備える。ロール用ホルダ66は、スライドテーブル70によって支持されている。このスライドテーブル70をスライドさせることで、ロール用ホルダ66及びこれに保持されているロールL全体を、真空チャンバ52から取り出したり、真空チャンバ52に搬入したりすることができる。
さらにこの被膜形成装置50は、4本のロールLを纏めて覆うようにして、筒状のプラズマ生成アンテナ72が配置されている。2個の高周波パルス電源58は、このプラズマ先生アンテナ72に対して高周波電圧を供給することで、4本のロールLの周囲を覆うようなプラズマを生成することができる。
駆動機構68は、回転動力を発生する駆動源となるモータ74と、モータ74に対して変速機74Aを介して連結される第1伝達軸76と、複数のロールLの各主軸に対して、それぞれ連動回転可能となるように配置される複数の第2伝達軸78を備えている。なお、各第2伝達軸78とロールLの主軸は、カップリングや他の連動機構によって直接又は間接的に接続される。一方、第1伝達軸76と複数の第2伝達軸78はギアセットによって接続されており、第1伝達軸76が回転すると全ての第2伝達軸78が回転する。この結果、モータ74によって全ロールLを同時に自転させることができる。なお、ここでは特に図示しないが、ロールLの主軸には回転動力を伝達しないで、このロール用ホルダ66を回転させるようにすれば、複数のロールLを公転させることが可能となる。また更に、ここでは図示しないが、第1伝達軸76と第2伝達軸78の間を遊星伝達機構によって接続することで、複数のロールLを自転且つ公転させることもできる。
更に本実施形態では、第1伝達軸76及び第2伝達軸78を導電性材料で構成しており、更にこの第1伝達軸76は、絶縁構造となる軸受76Aによって真空チャンバ52に保持されている。真空チャンバ52の外部に配置される高電圧パルス電源60は、第1伝達軸76及び第2伝達軸78を経由して、真空チャンバ52内の全ロールLの主軸に電圧を印加する構造となっている。この結果、ロールLの表面に電圧が印加される。
この被膜形成装置50によれば、120度C以下の温度環境下で、プラズマイオン注入法によってロールLの表面にDLC膜を形成できる。具体的には、プラズマ生成アンテナ72によってプラズマに浸したロールLの胴部10に対して、高電圧パルス電源60によって主軸側から負の高電圧パルスを印加して、表面10Aにシース電場を形成する。このシース電場によって、カーボンイオンなどを加速して、表面10Aに注入する。このようにすると、表面10Aに沿ってイオンシースができる。例えば、グラビアロール等のように、微細凹凸が形成された三次元的な表面10Aであっても、凹凸に沿って均等にイオン注入できる。また、周囲のプラズマから直接にイオンを引き出すので、ビーム電流を大きくとることもできる。この結果、短時間で高密度のイオン注入が実現される。
また、この被膜形成装置50では、プラズマ制御によって、120度C以下、好ましくは100度C以下の低温プロセスが可能となる。また、この被膜形成装置50によれば、ロールLを自転又は公転させながら成膜するので、ロールLの表面10Aに対して均一に成膜することが可能となり、ロールLにとって重要となる成膜品質を高めることができる。特に本実施形態では、駆動機構68を設けることによって、複数本のロールLを纏めて自転又は公転させながら、更に、各主軸を介して同時に高電圧パルス電圧を印加できる。この結果、複数のロールLに対する同時成膜が可能となり、作業効率を飛躍的に高めることが可能となる。
次に、この被膜形成装置50による成膜プロセスを更に詳しく説明する。
まず、真空チャンバ52の外側でロール用ホルダ66に4本のロールLをセットしてから、スライドテーブル70をスライドさせて、真空チャンバ52内にロールLをセットする。このセットと同時に駆動機構68と電気的に接続されることで、高電圧パルス電源60にロールLが接続される。次に、駆動機構68によってロールLの自転を開始し、更にロールLの表面をスパッタリングする。スパッタリングでは、プラズマ生成アンテナ72を利用して、高周波パルス電源58によって真空チャンバ52内に高周波パルス電圧を印加してロールL近辺にプラズマを発生させ、ロールLの表面10Aを洗浄(クリーニング)する。この際、スパッタリングのためのArガスやメタンガスを真空チャンバ52内に注入しても良い。
次に、例えば、C、Siイオンを含む原料ガスを真空チャンバ52内に供給し、高周波パルス電源58により、プラズマ生成アンテナ72を利用して、ロール表面を覆うようなプラズマを発生させる。これと同時に、高電圧パルス電源60によって、負の高電圧パルス電圧をロールLに印加する。このタイミングは、例えば図4に示されるように、高周波パルス電圧側を一定の周期で断続的にON・OFFさせるようにし、この高周波パルス電圧がOFFの間に、負の高電圧パルス電圧を印加することが好ましい。勿論、高電圧パルス電圧がONの間にも、負の高電圧パルス電圧を印加しても良い。この負の高電圧パルス電圧により、プラズマ中の電子はロールLの表面から遠くに追いやられ、一方で、Cイオン、Siイオンは質量が大きいのでほとんど動かずに周囲に残り、プラズマシースが形成される。シース電圧(電界)が強くなると、ロールLの表面近傍に残存しているCイオン、Siイオンは、このシース電圧によって加速されて、ロールLの表面に注入される。この結果、ロールLの表面にはCイオン、Siイオンが注入されたミキシング層が形成され、このCイオンの存在により、DLC膜の密着性を高めることが可能となる。また、Siイオンも同時に注入されるので、このSiイオンがプライマーの役割を担うことが可能となる。
その後、DLC膜用の原料ガスである、N、Ar、CH、C、CF、C、H、B等の炭化水素系の混合ガスを真空チャンバ52内に供給し、同様に高周波パルス電源58によってプラズマを発生させながら、高電圧パルス電源60により、イオン注入時の負の高電圧パルス電圧と周波数や電圧の異なせて、堆積用の負パルス電圧をロールLに印加する。具体的には、堆積用の負のパルス電圧は、イオン注入時よりも低エネルギーとする。これにより、周囲のプラズマに含まれるCイオンやHイオンが、ロールLの表面のミキシング層の上にデポジションされ、DLC膜が常温形成される。
なお、ここではイオン注入用原料ガスと、DLC膜形成用の原料ガスを別々に導入し、イオン注入とDLC膜の形成を別々のプロセスにしているが、本発明はこれに限定されない。例えば、イオン注入時の原料ガスとDLC膜用の原料ガスを同時に供給しておき、ミキシング層の形成とDLC膜の形成を同時進行的に行うことも可能である。
また、ここでは特に図示しないが、グラビアロールのように、表面に微細凹凸加工が施されたロールの場合は、負の高電圧パルス電圧の印加の間に、正の高電圧パルス電圧を印加することも好ましい。この正の高電圧パルス電圧によって、プラズマ内の電子が微細凹凸内に誘引されるので、プラズマ内のCイオン、Siイオン等を微細凹凸内に導入することができる。その後、負の高電圧パルス電圧によって、プラズマシースを形成して、Cイオン注入やDLC膜のデポジションを実現できる。
なお、この被膜形成装置50は、原料ガスの種類、導入流量、真空度、高周波パルス電圧の周波数・電圧・パルス幅、イオン注入用の正・負の高電圧パルスの電圧・パルス幅、高周波パルス電圧に対する負の高電圧パルス電圧の遅延時間、各電圧の繰り返し印加回数等を変更することができる。これにより、DLC膜の厚みや硬さ等を調整する。特に本実施形態では、表面を鏡面加工したロールに対してDLC膜を形成するため、その鏡面状態を活かすためにも、DLC膜を極めて薄く形成する。具体的には、DLC膜の膜厚を1000nm未満、好ましくは100nm未満、更に望ましくは50nm未満とする。例えば、50nm未満であれば、最良の鏡面加工の粗度(最大高さRmax)が100nmであることから、その鏡面状態をDLC膜の表面に反映させることができる。即ち、ロール表面の実際の粗度である最大高さRmaxと比較して、DLC膜の膜厚を小さくすることが好ましい。
また、DLC成膜用の原料ガスにフッ素Fを混合させることも好ましく、DLC膜の表面の撥水性を高めることが可能になる。一方、原料ガスにホウ素Bを混合させることも好ましく、DLC膜の表面の導電性を高めることができる。
以上、本実施形態のロール製造方法等によれば、ロール表面をエッチング、電気彫刻、切削、研磨等によって、表面を鏡面状態にしたり、凹凸を形成したりすることで所望の形状とし、更に表面形状に対して熱変形を生じさせない120度C以下の低温環境において、DLC膜を形成するようにしている。従って、表面加工の精度を維持しながらも、DLC膜によってその硬度を高めたり、表面の物理的特性(撥水性(接触角)、耐摩耗性、導電性(絶縁性)、耐腐食性、ガスバリア性等)を付与したりできる。
特に本実施形態では、ロール表面を研磨によってRa0.4μm以下の鏡面状態としているが、この鏡面状態を維持しながら、低温プロセスによりその表面にDLC膜を形成することが可能となっている。表面の最大高さ粗度(Rmax)よりも、DLC膜の膜厚が小さく設定されるので、表面の形状状態を、そのままDLC膜の表面に反映させることができる。
更に、本実施形態のロール製造方法では、アルミ等のロール基材の表面を直接研磨して形状加工し、その表面にDLC膜を形成しているので、製造時間、製造コストを大幅に低減することが可能となる。例えば、表面をメッキ処理してから、メッキ層を研磨して鏡面にする場合と比較して、ロール基材に対する直接加工によって、ロール表面の形状を確定させつつ、ロール表面の物理的特性はDLC膜を活用して付与することで、極めて合理的なロール製造が実現される。ロールにおける表面の鏡面加工は、その半径精度(同心度)も含めた高度な形状精度が要求されることから、製造の最終工程で実行されるのが常識である。しかし、本実施形態では、120度C以下の低温環境によるDLC膜の形成プロセスを採用することで、先に鏡面仕上げをしてから、DLC膜を薄く被膜する事で、形状精度と表面特性を合理的に両立させることができる。
また、このロール製造方法では、プラズマイオン注入法によってDLC膜を形成するので、ミキシング層によって密着性が高められている分だけ、DLC膜の膜厚を薄くしても、その密着状態を保持することが可能となる。また、100度C以下、とりわけ50度C以下の常温プロセスでイオン注入及びDLC膜の形成ができるので、ロール表面の熱変形や、ロール軸の反り等に起因する形状精度悪化を防止することができる。また、ロールを自転させながら成膜するので、自重による変形量を一層低減させることができる。
更に微細凹凸等が表面に加工されたロールの場合、このプラズマイオン注入法を採用することで、その微細凹凸内に薄いDLC膜を形成することが可能となる。従って、微細凹凸のセル形状に殆ど影響を与えることなく、微細凹凸の耐久性を高めることができる。この場合、凹凸の深さHに対して、DLC膜の膜厚を小さくすることが望ましいが、特に、100分の1(0.01×H)程度にまで薄くすることで、DLC膜による転写精度の悪化を殆ど無視することができる。
なお、上記実施形態では、プラズマを生成する高周波パルス電源と、イオン注入用の高電圧パルス電源が独立している場合を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば図5に示される被膜形成装置50のように、プラズマ生成用の高周波パルス電圧を生成する高周波パルス電源58、イオン注入用の負の高電圧パルス電圧及びプラズマ誘引用の正の高電圧パルス電圧を生成する高電圧パルス電源60、高周波パルス電源58の電圧と高電圧パルス電源60の電圧を重畳させる重畳整合回路62、重畳された電力をロールLに導入する導体64を備えるようにしてもよい。この被膜形成装置50では、高周波電源と高電圧パルス電源を重ね合わせてロールに直接印加してDLC膜を形成できる。この重畳方式では、ロール自体をプラズマ生成用のアンテナとして機能させるので、より一層、ロール表面に沿ってイオンシースを形成することができる。例えば、グラビアロール等のように、微細凹凸が形成される三次元的な表面の場合は、凹凸に沿って均等にイオン注入できることから好ましい手法である。また、図2と比較して、ロールを覆うようなプラズマ生成用のアンテナが不要となるので、真空チャンバ内の作業環境を良好にすることもできる。
また、上記実施形態では、ロールの表面加工として、研磨による鏡面加工の場合を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、グラビアロール等の場合は、表面に対してエッチング加工や、レーザー等の電子彫刻によって微細凹凸を加工することも可能である。また、切削によって表面に溝等を形成することも可能である。更に、押圧によって表面を塑性変形させて形状加工を施すことも可能である。
また、本実施形態では、ロール母材が、アルミの場合を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、軽量化等を目的としたカーボン母材を用いることも好ましく、カーボン母材のロール表面を、研磨によって鏡面加工し、加工表面にに対して直接DLC膜を形成することも好ましい。高精度で、軽量且つ耐久性の高いロールを製造することができる。他にも、ロールの基材として、鉄やステンレス等の金属、アルミ、タングステン等の非鉄金属、樹脂、ゴム等、目的に応じて適宜選択することができる。
更に本実施形態では、ロール母材の表面を直接的に形状加工し、更にこの表面にDLC膜を形成する場合に限って示したが、本発明はこれに限定されず、母材表面に対してメッキ処理を施したり、スリーブで覆ったりすることで、母材とは異なる材料で表面を構成し、この表面に対して形状加工を施すようにしても良い。また、本実施形態では、ロール母材が一種類で構成される場合に限って示したが、ロール母材の内部に他の基材を同軸状に配置するような、いわゆる複合材料ロール(コンポジットロール)であっても構わない。
本発明は、ロールを利用する様々な分野において利用することが可能である。
1 被膜形成ロール
10 胴部
10A 表面
12 主軸
13 ミキシング層
14 DLC膜
50 被膜形成装置
52 真空チャンバ
58 高周波パルス電源
60 高電圧パルス電源
62 重畳整合回路
64 導体

Claims (4)

  1. カーボンを表面素材としたロールの製造方法であって、
    前記表面を、研磨によってRa0.4μm以下の鏡面状態に形状加工を施す表面加工工程と、
    真空環境において、カーボンロールの周囲に高周波電圧による環状のプラズマを発生させて、該カーボンロールの前記表面をスパッタリングにより洗浄する洗浄工程と、
    50度C以下の真空環境において、前記カーボンロールの周囲に高周波電圧による環状のプラズマを発生させた状態で、前記カーボンロールにイオン注入用の負の高電圧パルスを印加して、加工後の非メッキ処理状態となる前記カーボンロール母材の前記表面の内部にカーボンイオン及びシリコンイオンを注入してSiC結合の分子を含有するミキシング層を形成し、更に前記カーボンロールに供給する電圧を制御して前記表面にカーボンイオンを引き付けて、前記SiC分子と結合させて積層して、膜厚が4nm以下の、非ダイヤモンド膜となるダイヤモンドライクカーボン膜を形成する被膜工程と、
    を備えることを特徴とするロール製造方法。
  2. 前記被膜工程において、DLC成膜用の原料ガスにフッ素又はホウ素を混合させることを特徴とする請求項1に記載のロール製造方法。
  3. 前記表面加工工程において、前記表面に凹凸を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載のロール製造方法。
  4. 請求項1乃至3のいずれかに記載のロール製造方法によって製造されることを特徴とする被膜形成ロール。
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