ところで、従来のロータリーピストンエンジンは燃焼効率が比較的悪いという問題があった。本願出願人は、この問題が、従来のロータリーピストンエンジンの燃焼パターンが、主燃焼と後期燃焼とを含む2段燃焼特性になる点に起因することを見出した。
つまり、ロータリーピストンエンジンは、圧縮乃至膨張行程にある作動室(以下、この状態にある作動室を圧縮・膨張作動室ともいう)が、ローターの回転方向に延びる扁平な形状となる特徴を有しているが、前述したように、吸気ポート等において燃料噴射されることによって比較的均質に混合気が形成されたとしても、ローターの回転に伴い吸気行程から圧縮行程へと移動されるときに、そのローターの回転に対して混合気(燃料)の流動が相対的に遅れ、その結果、ローターの回転方向に扁平形状となる圧縮・膨張作動室内において、相対的にローター回転方向の進み側の領域がリーンになり、相対的にローター回転方向の遅れ側の領域がリッチになるような、不均質性を生じることになる。
一方で、その圧縮・膨張作動室に臨んで配置された点火プラグの点火により発生する火炎は、作動室内の流動によってローター回転方向の進み側、つまり、相対的にリーンな側には伝播し易い一方、相対的にリッチであるローター回転方向の遅れ側には伝播し難い特性となる。
この圧縮・膨張作動室内における混合気の不均質化と、ロータリーピストンエンジン特有の火炎伝播特性とが組み合わされることによって、ロータリーピストンエンジンの燃焼パターンは、ローター回転方向の進み側であって相対的にリーンな側における主燃焼が生じた後に、それに遅れてローター回転方向の遅れ側であって相対的にリッチな側における後期燃焼が生じる2段燃焼特性となるのである。
ここに開示するロータリーピストンエンジンの燃料噴射装置は、ロータリーピストンエンジンの燃焼特性を改善することを目的とする。
本願出願人は、ロータリーピストンエンジンの燃焼特性の改善に際し、圧縮・膨張作動室内の混合気の不均質化を解消する点に着目して、圧縮行程にある作動室内に燃料を直接噴射する構成を採用した。
すなわち、圧縮・膨張作動室内の混合気の不均質性は、前述したように、ローターの回転に伴い次第に顕著になることから、吸気行程にある作動室内に燃料を直接噴射する一方で、その作動室が圧縮行程に移行したタイミングで、当該作動室内に再度、燃料を噴射することにより、圧縮・膨張作動室内の混合気が効果的に均質化し得る。
ロータリーピストンエンジンの燃料噴射装置は、互いに直交する長軸及び短軸によって規定される概略楕円形状のトロコイド内周面を有するローターハウジングと、前記ローターハウジングを挟んで、前記長軸及び短軸それぞれに直交する出力軸方向の両側それぞれに配置されることによって、当該ローターハウジングと共にローター収容室を形成するサイドハウジングと、前記ローター収容室内に収容されて前記ローターハウジングとの間で3つの作動室を区画すると共に、前記出力軸回りに遊星回転運動することによって、前記各作動室を周方向に移動させながら、順に吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程を行わせる概略三角形状のローターと、前記吸気行程にある作動室に臨むように前記ローターハウジングに取り付けられかつ、当該吸気行程にある作動室内に燃料を直接噴射する第1燃料噴射弁と、前記圧縮行程にある作動室に臨むように前記ローターハウジングに取り付けられかつ、当該圧縮行程にある作動室内に燃料を直接噴射する第2燃料噴射弁と、を備えている。
第1燃料噴射弁が吸気行程にある作動室内に燃料を直接噴射することにより、燃料の壁面付着が抑制され得る。また、点火タイミングに対して大幅に早いタイミングで、燃料が噴射されることから、気化霧化時間を長時間確保することができる。このことは、気化霧化が良好な混合気を形成する上で有利である。さらに、吸気冷却による充填効率の向上も期待し得る。
第1燃料噴射弁を通じて燃料が供給された混合気は、ロータの回転に伴い、吸気行程から圧縮行程へと移行するが、それに伴い、作動室内における相対的に回転方向の遅れ側がリッチになり、回転方向の進み側がリーンとなるように不均質化が生じる。第2燃料噴射弁は、圧縮行程において作動室内に燃料を噴射する。この燃料噴射により、相対的にリーンの領域をリッチ化する。その結果、混合気の不均質化が解消され得る。
この混合気の不均質化の解消は、ロータリーピストンエンジンの燃焼特性を改善させ得る。燃焼特性の改善は、燃費を向上させ得る。
前記ロータリーピストンエンジンは、前記吸気行程にある前記作動室に連通して当該作動室に空気を吸入させることが可能となるように、前記サイドハウジングの少なくとも一つに開口する吸気ポートと、前記圧縮乃至膨張行程にある作動室に臨むように前記ローターハウジングに取り付けられる少なくとも1の点火プラグと、を備え、前記第1及び第2燃料噴射弁はそれぞれ、前記ローターハウジングにおける長軸付近に配置されており、前記第1燃料噴射弁は、前記出力軸方向に見たときに、前記吸気ポートの方向に指向して燃料を噴射し、前記第2燃料噴射弁は、前記出力軸方向に見たときに、前記点火プラグの方向に指向して燃料を噴射する、としてもよい。
第1燃料噴射弁は、ローターハウジングにおける長軸付近から吸気ポートの方向に指向して燃料を噴射するため、噴霧飛翔距離が比較的長くなり、燃料の壁面付着を抑制する上で有利である。
第2燃料噴射弁は、ローターハウジングにおける長軸付近から、点火プラグの方向に指向して燃料を噴射するため、圧縮行程にある作動室内において、ローターの回転方向の進み側の領域に燃料を供給する上で有利である。つまり、相対的にリーンな領域に燃料を供給することにより、その領域をリッチ化し得るため、作動室内の混合気の不均質性を解消する上で効果的である。
前記第1及び第2燃料噴射弁は、前記作動室に供給する燃料を分割して噴射するように構成され、前記第2燃料噴射弁の燃料噴射量は、前記第1燃料噴射弁の燃料噴射量よりも少ない、としてもよい。
第2燃料噴射弁によって作動室内に供給される燃料は、圧縮行程のタイミングで供給されるため、気化霧化時間は相対的に短くなる。そこで、第1及び第2燃料噴射弁が燃料を分割噴射する前提において、第2燃料噴射弁の燃料噴射量を相対的に少量とし、第1燃料噴射弁の燃料噴射量を相対的に多量とすることによって、燃費の悪化を抑制しつつ、気化霧化時間が確保できないという不利益が極小化される。すなわち、未燃焼混合気が増大せず、HCの増大が抑制され得る点で有利になる。
このことを言い換えると、作動室内に供給する燃料の大部分は、第1燃料噴射部によって、吸気行程時において供給されるため、長い気化霧化時間を確保して、混合気の均質化を図る上で有利になる。
前記第1及び第2燃料噴射弁は、前記第1燃料噴射弁が前記ローターの回転方向の遅れ側に、前記第2燃料噴射弁が前記ローターの回転方向の進み側になるよう、前記ローターの回転方向に並んで配置されている、としてもよい。
吸気行程にある作動室内に燃料を噴射する第1燃料噴射弁をローターの回転方向の遅れ側に、換言すれば、吸気行程にある作動室に相対的に近い側に配置する一方、圧縮行程にある作動室内に燃料を噴射する第2燃料噴射弁をローターの回転方向の進み側に、換言すれば、圧縮行程にある作動室に相対的に近い側に配置することによって、ローター回転の幾何学的関係から、第1燃料噴射弁が吸気行程にある作動室に臨む期間、及び、第2燃料噴射弁が圧縮行程にある作動室に臨む期間がそれぞれ長くなる。このことは、第1及び第2燃料噴射弁による燃料噴射のタイミングの自由度を拡大させる。従って、第1燃料噴射弁は、例えば比較的早いタイミングで燃料を噴射することで気化霧化時間を長く確保する一方、第2燃料噴射弁は、例えば比較的遅いタイミングで燃料を噴射することで、点火直前における混合気の均質化を確実に確保することを実現し得る。
これとは異なり、前記第1及び第2燃料噴射弁は、前記第1燃料噴射弁が前記ローターの回転方向の進み側に、前記第2燃料噴射弁が前記ローターの回転方向の遅れ側になるよう、前記ローターの回転方向に並んで配置されている、としてもよい。
吸気行程にある作動室内に燃料を噴射する第1燃料噴射弁をローターの回転方向の進み側に、換言すれば、圧縮行程にある作動室に相対的に近い側に配置する一方、圧縮行程にある作動室内に燃料を噴射する第2燃料噴射弁をローターの回転方向の遅れ側に、換言すれば、吸気行程にある作動室に相対的に近い側に配置することによって、第1及び第2燃料噴射部の噴霧飛翔距離をそれぞれ長くし得る。このことは、燃料の壁面付着を抑制する上で有利であり、ひいては、燃費及びエミッション性を改善し得る。
前記第1及び第2燃料噴射弁は、前記ローターハウジングにおける長軸を挟んだ前記ローター回転方向の両側にそれぞれ配置されている、としてもよい。この配置は、第1及び第2燃料噴射弁をローターの回転方向に並べて配置する上で、最も望ましい配置である。
前記ローターハウジング及びローターは、前記サイドハウジングを間に挟んで、前記出力軸方向に複数配置され、当該複数のローターハウジングそれぞれに対して、前記第1及び第2燃料噴射弁が取り付けられており、前記複数のローターハウジングに亘って前記第1又は第2燃料噴射弁を連結するようにそれぞれ延びて配設されかつ、前記各ローターハウジングの第1又は第2燃料噴射弁に燃料を供給する第1燃料供給管及び第2燃料供給管を含む蓄圧器をさらに備え、前記第1燃料供給管と第2燃料供給管とは、その長さ方向の略中央位置において互いに連通している、としてもよい。
つまり、複数のローター収容室を出力軸方向に並べて配置したロータリーピストンエンジンに、第1及び第2燃料供給管を含む蓄圧器を取り付けることだけで、各ローター収容室に設けられた第1及び第2燃料噴射弁のそれぞれに対する燃料供給が実現し得る。つまり、燃料供給構造を簡略化及びコンパクト化する上で有利である。
以上説明したように、ロータリーピストンエンジンの燃料噴射装置は、第1燃料噴射弁が吸気行程にある作動室内に燃料を直接噴射することにより、燃料の壁面付着を抑制しつつ、気化霧化時間を長時間確保することができる一方で、第2燃料噴射弁が圧縮行程にある作動室内に燃料を噴射することにより、当該作動室内における相対的にリーンの領域がリッチ化し、混合気の不均質化を解消することができる。その結果、ロータリーピストンエンジンの燃焼特性が改善して、燃費を向上させることができる。
以下、図面に基づいてロータリーピストンエンジンの燃料噴射装置を説明する。尚、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、適用物或いは用途を制限することを意図するものではない。
図1及び図2は、ロータリーピストンエンジン1(以下、単にエンジン1ともいう)の例を示している。このエンジン1は、2つのローター2,2を備えた2ロータータイプであり、フロント側及びリヤ側の2つのローターハウジング3,3が、インターミディエイトハウジング(サイドハウジング)4をその間に挟んだ状態で、これらの両側からさらに2つのサイドハウジング5,5で挟み込むようにして一体化されることによって構成されている。尚、図1では、その右側(フロント側)の一部は切り欠いて内部を示すとともに、左側(リヤ側)のサイドハウジング5も内部を示すために分離してある。また、図中の符号Xはエキセントリックシャフト6の軸心となる回転軸(出力軸)である。
そして、各ローターハウジング3,3の、平行トロコイド曲線で描かれるトロコイド内周面3a,3aと、これらローターハウジング3,3を両側から挟むサイドハウジング5,5の内側面5a,5aと、インターミディエイトハウジング4の両側の内側面4a,4aとによって、図2に示すように回転軸Xの方向から見て繭のような略楕円形状をした、ローター収容室31が、フロント側及びリヤ側の2つ横並びに区画されており、これらローター収容室31にそれぞれローター2が1つずつ収容されている。各ローター収容室31は、インターミディエイトハウジング4に対して対称に配置されており、ローター2の位置及び位相が異なっている点を除けば構成は同じであるため、以下、1つのローター収容室31について説明する。
ローター2は、回転軸Xの方向から見て各辺の中央部が膨出する略三角形状をしたブロック体からなり、その外周に、各頂部間に3つの略長方形をしたフランク面2a,2a,2aを備えている。各フランク面2aの中央部分には、長軸方向に延びるリセス2bが形成されている。
ローター2は、各頂部に図示しないアペックスシールを有し、これらアペックスシールがローターハウジング3のトロコイド内周面3aに摺接しており、このローターハウジング3のトロコイド内周面3aと、インターミディエイトハウジング4の内側面4aと、サイドハウジング5の内側面5aと、ローター2のフランク面2aとで、ローター収容室31の内部に、3つの作動室8,8,8がそれぞれ区画形成されている。従ってこのエンジン1は、フロント側に第1〜第3の3つの作動室8と、リヤ側に第4〜第6の3つの作動室8の、合計6個の作動室を有している(図7参照)。
ローター2の内側には位相ギアが設けられている(図示せず)。すなわち、ローター2の内側の内歯車(ローターギア)とサイドハウジング5側の外歯車(固定ギア)とが噛合するとともに、ローター2は、インターミディエイトハウジング4及びサイドハウジング5を貫通するエキセントリックシャフト6に対して、遊星回転運動をするように支持されている。
すなわち、ローター2の回転運動は内歯車と外歯車との噛み合いによって規定され、ローター2は、3つのシール部が各々ローターハウジング3のトロコイド内周面3aに摺接しつつ、エキセントリックシャフト6の偏心輪(偏心軸)6aの周りを自転しながら、回転軸Xの周りに自転と同方向に公転する(この自転、公転を含め、広い意味で単にローターの回転という)。そして、ローター2が1回転する間に3つの作動室8,8,8が周方向に移動し、それぞれで吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程が行われて、これにより発生する回転力がローター2を介してエキセントリックシャフト6から出力される。
より具体的に、図2において、ローター2は矢印で示すように、時計回りに回転しており、回転軸Xを通るローター収容室31の長軸Yを境に分けられるローター収容室31の左側が概ね吸気及び排気行程の領域となり、右側が概ね圧縮及び膨張行程の領域となっている。
そして、図2における左上の作動室8に着目すると、これは吸気と噴射された燃料とによって混合気を形成する吸気行程を示しており(以下、この状態にある作動室を吸気作動室8ともいう)、この作動室8がローター2の回転につれて圧縮行程に移行すると、その内部にて混合気が圧縮される(図示は省略するが、以下、この状態にある作動室を圧縮作動室8ともいう)。その後、図2の右側に示す作動室8のように圧縮行程の終盤から膨張行程にかけて所定のタイミングにて点火プラグ91,92により点火されて、燃焼・膨張行程が行われる(以下、この状態にある作動室を圧縮・膨張作動室8ともいう)。そして、最後に図2の左下の作動室8のような排気行程に至ると(以下、この状態にある作動室を排気作動室8ともいう)、燃焼ガスが排気ポート10から排気された後、再び吸気行程に戻って各行程が繰り返されるようになっている。
吸気作動室8には、複数の吸気ポート11,12,13が連通している。すなわち、吸気作動室8に面するインターミディエイトハウジング4の内側面4aには、ローター収容室31の外周側の短軸Z寄りに第1吸気ポート11が開口している。また、図1に示すように、吸気作動室8に面するサイドハウジング5の内側面5aには、第1吸気ポート11に対向するように、そのローター収容室31の外周側の短軸Z寄りに第2吸気ポート12及び第3吸気ポート13が開口している。例えば、エンジン1の低回転域では、第1吸気ポート11のみから吸気され、吸気量が不足するようになると第2吸気ポート12からも吸気され(中回転域)、さらに吸気量が不足するようになると第3吸気ポート13からも吸気されて(高回転域)、吸気量が変化しても最適な吸気流速を維持して、エンジン1の低負荷低回転から高負荷高回転までの全運転領域に渡って効率よく吸気できるようになっている。
排気作動室8には、複数の排気ポート10,10が連通している。すなわち、排気作動室8に面するインターミディエイトハウジング4の内側面4aには、ローター収容室31の外周側の短軸Z寄りに排気ポート10が開口している。また、図1に示すように、排気作動室8に面するサイドハウジング5の内側面5aにも、前記排気ポート10に対向して排気ポート10が開口している。このようにこのエンジン1では、いわゆるサイド排気方式が採用されており、この排気ポート10の開口位置及び開口形状は、吸気のオープンタイミングと排気のオープンタイミングとがオーバーラップしないように設定されている。これによって、次行程に持ち込まれる残留排ガスを低減するようにしており、その結果、混合気がリーンであっても燃焼安定性が向上するようになる。そのため、このエンジン1では、混合気の空燃比を理論空燃比となるようにしている。
ローターハウジング3の長軸Y上に相当する、該ローターハウジング3の頂部付近には、第1インジェクタ(燃料噴射弁)15及び第2インジェクタ16がそれぞれ取り付けられている。第1インジェクタ15は、吸気作動室8に臨んで配設され、第2インジェクタ16は、圧縮作動室8に臨んで配設されている。
第1インジェクタ15は、図2,3に示すように、長軸Yに対してローター回転方向の遅れ側、つまり、図3における左側に配設されている。第1インジェクタ15は、吸気作動室8内に燃料を直接噴射するように構成されており、第1インジェクタ15は特に、図3に示す回転軸X方向に見たときに、前記ローターハウジング3の頂部付近から、吸気ポート11,12,13の方向に指向して、燃料を噴射する。第1インジェクタ15は、その先端部に燃料を噴射する複数の噴孔を有するマルチホール型である。ここでは、第1インジェクタ15は、図4に示すように、ローター回転方向に4方向と、ローター幅方向に2方向との、合計8方向(D1−1,D1−2,D2−1,D2−2,D3−1,D3−2,D4−1,D4−2)に燃料を噴射するように、8個の噴孔が形成されている。第1インジェクタ15の噴孔の数は、これに限るものではない。尚、図4は、第1及び第2インジェクタ15,16の先端位置から所定距離だけ離れた仮想平面上において、各インジェクタ15,16から噴射された燃料の噴霧位置を示しており、同図における二重丸はそれぞれ、当該仮想平面に投影した第1及び第2インジェクタ15,16の軸心位置を示している。尚、図3,4に示す第1インジェクタ15の噴射方向は例示であり、これに限定されない。
第2インジェクタ16は、図2,3に示すように、長軸Yに対して、ローター回転方向の進み側、つまり、図3における右側に配設されている。第2インジェクタ16は、圧縮作動室8内に燃料を直接噴射するように構成されており、第2インジェクタ16は特に、図3に示す回転軸X方向に見たときに、前記ローターハウジング3の頂部付近から、後述する点火プラグ91の方向に指向して、燃料を噴射する。第2インジェクタ16はまた、第1インジェクタ15と同様に、その先端部に燃料を噴射する複数の噴孔を有するマルチホール型であり、ここにおいて第2インジェクタ16は、図4に示すように、ローター回転方向に対しては1方向でかつ、ローターの幅方向に対して2方向に燃料を噴射するように、2個の噴孔が形成されている。ローターの幅方向に対し2方向に燃料を噴射することによって、点火プラグ91のプラグホールに噴霧が直接当たることを避けることが可能となる。尚、図3,4に示す第2インジェクタ16の噴射方向は例示であり、これに限定されない。ここで、第1及び第2インジェクタ15,16は、その本体部は互いに同じインジェクタを採用する一方、その先端に取り付けられる噴孔が形成されたプレートのみを互いに異ならせるようにしてもよい。
第1及び第2インジェクタ15,16は、図3に示すように、その軸心方向が互いに平行となるように、ローターハウジング3に対してそれぞれ取り付けられている。ここで、図3においては、第1及び第2インジェクタ15,16の軸心を、長軸Yに対して所定の角度を有するように傾斜して配置しているが、第1及び第2インジェクタ15,16を配設する角度は、特に限定されるものではない。第1及び第2インジェクタ15,16の配設角度は、その先端から噴射する燃料の方向と軸心との成す角度が最適となるように、適宜設定すればよい。また、図示は省略するが、フロント側及びリヤ側の2つのローター収容室31それぞれに対して、第1及び第2インジェクタ15,16が配設されており、その各ローター収容室31において、第1及び第2インジェクタ15,16は、互いに平行となるように配設されている。従ってこのエンジン1では、図5に示すように、合計4個のインジェクタ15,16が互いに平行となるように配設されている。尚、図5では、エンジン1において両サイドハウジング5,5の図示を省略している。
図3,5に示すように、前記各インジェクタ15,16は、蓄圧器7に対して接続されており、蓄圧器7は、図示は省略する高圧燃料ポンプに接続されている。蓄圧器7は、高圧燃料ポンプから供給された燃料を、各インジェクタ15,16に任意のタイミングで供給することができるように高圧の状態で蓄える。蓄圧器7は、第1燃料供給管71と第2燃料供給管72とを含んで構成されている。第1燃料供給管71は、フロント側のローターハウジング3(図5における右側のローターハウジング3)に取り付けられた第1インジェクタ15と、リヤ側のローターハウジング3(図5における左側のローターハウジング3)に取り付けられた第2インジェクタ16とを互いに連通するようにフロント側及びリヤ側のローターハウジング3に亘って、回転軸X方向(正確には、回転軸Xに対して所定角度だけ傾斜した方向)に延びるように配設されている。第2燃料供給管72は、フロント側のローターハウジング3に取り付けられた第2インジェクタ16と、リヤ側のローターハウジング3に取り付けられた第1インジェクタ15とを互いに連通するように、フロント側及びリヤ側のローターハウジング3に亘って、回転軸X方向(正確には、回転軸Xに対して、第1燃料供給管71とは逆側に所定角度だけ傾斜した方向)に延びるように配設されている。第1及び第2燃料供給管71,72は、その長さ方向の略中央位置において交差しており、その交差位置で互いに連通している。こうして、蓄圧器7は、平面視で見たときに、X字状を有するように構成されている。
この構成では、燃料供給管71,72を経路とした4つのインジェクタ15,16相互間の距離を、互いにほぼ等しくすることができる。このことは、各インジェクタ15,16における燃料噴射量の誤差のばらつきを抑制する上で有効である。つまり、あるインジェクタ15,16から燃料を噴射したときには、その燃料噴射に伴う脈動が燃料供給管71,72内を伝播して他のインジェクタ15,16まで到達することになる。脈動の伝達は、インジェクタ15,16の燃料噴射に影響を及ぼす場合がある。例えばインジェクタ15,16相互間の距離が異なる場合には、距離が相対的に短いインジェクタ15,16間では、脈動の影響が相対的に大きくなり、距離が相対的に長いインジェクタ15,16間では、脈動の影響が相対的に小さくなってしまう。このような脈動の影響の大小は、各インジェクタ15,16における燃料噴射量の誤差の大小を招く。これに対し、インジェクタ15,16相互間の距離を等しくした場合には、脈動の影響が互いに等しくなるため、各インジェクタ15,16における燃料噴射量の誤差も等しくなる。つまり、各インジェクタ15,16における燃料噴射量の誤差のばらつきが抑制される。
図3に示すように、第1及び第2燃料供給管71,72はそれぞれ、その両端部それぞれにおいて下向きに突出して、第1又は第2インジェクタ15,16の上端部に外嵌される接続部73を有している。前述したように、4つのインジェクタ15,16は、互いに平行に配置されているため、各接続部73と各インジェクタ15,16との位置合わせをして、各接続部73が各インジェクタ15,16の上端部に外嵌するようにこの蓄圧器7を押し込めば、全てのインジェクタ15,16を、一度に蓄圧器7に接続させることができる。尚、蓄圧器7は、ローターハウジング3に対して別途固定される。このように第1及び第2燃料供給管71,72を一体化した構成は、蓄圧器7の構成を簡略化してコンパクトにすると共に、その組み付けを容易化する上で有効である。
第1燃料供給管71の一端(図5における右端)は閉塞している一方、他端(図5における左端)は、蓄圧器7の製造に際し穴開け加工を施すために開口している。この開口には盲栓74が取り付けられて気密・液密性を確保している。第2燃料供給管72の一端(図5における右端)もまた閉塞している一方、他端(図5における左端)は穴開け加工のために開口しており、この開口には、高圧燃料ポンプに接続される接続管の端部75が取り付けられている。
蓄圧器7において、第1及び第2燃料供給管72の交差する位置には、燃圧センサ76が取り付けられている。燃圧センサ76は、蓄圧器7内の燃料圧力を計測し、その計測信号を後述するコントロールユニット100(以下、ECUと略称する)に出力する(図6参照)。ECU100は、燃圧信号を、各インジェクタ15,16に供給するパルス幅(燃料噴射信号)を設定する際に利用する。この構成においては、燃圧センサ76と各インジェクタ15,16との距離は、互いにほぼ等しくなる。このことは、燃圧センサ76の計測値に対する各インジェクタ15,16のばらつきを抑制する。
尚、図示は省略するが、前記構成の蓄圧器7において、第1及び第2燃料供給管71、72の交差部分に燃圧センサ76を取り付けるのではなく、第1燃料供給管71の他端に燃圧センサ76を取り付けてもよい。この構成は、蓄圧器7におけるシール部分を最小化するという利点を有する。
図2に示すように、ローターハウジング3の側部における、短軸Zを挟んだローター回転方向のトレーリング側(遅れ側)位置と、リーディング側(進み側)位置とにはそれぞれ、T側点火プラグ91とL側点火プラグ92とが取り付けられている。これら2つの点火プラグ91,92は、前記圧縮・膨張作動室8に臨んでおり、この圧縮・膨張作動室8内の混合気に、同時に又は位相差を持って順に点火をする。このように2つの点火プラグ91,92を備えることによって、扁平形状となる圧縮・膨張作動室8において、その燃焼速度を高めるようにしている。
図6は、このロータリーピストンエンジン1の制御に係る構成を示している。第1及び第2インジェクタ15,16、T側及びL側点火プラグ91,92の点火回路、スロットル弁107のモータ等は、ECU100により作動制御される。このECU100に対しては、少なくとも、吸気通路内に吸入される吸気流量を検出するエアフローセンサ105、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサ106、エキセントリックシャフト6の回転角度を検出するエキセン角センサ103、冷却水の温度状態(エンジン水温)を検出する水温センサ104、アクセル開度センサ101、エンジン回転数センサ102、及び、燃圧センサ76がそれぞれ信号を出力する。ECU100は、エンジン1の運転状態を判定するとともに、その運転状態に応じて、上記スロットル弁107の開度、各作動室8における、T側及びL側点火プラグ91,92による点火時期、第1及び第2インジェクタ15,16による燃料噴射量及び燃料噴射タイミングの制御を行う。
第1及び第2インジェクタ15,16から噴射する燃料量について説明すると、第1及び第2インジェクタ15,16は、作動室8内に供給する燃料を分割して噴射するように構成されている。つまり、第1インジェクタ15が噴射する燃料量と、第2インジェクタ16が噴射する燃料量の総量が、当該作動室8内に供給すべき燃料量に等しい。このように第1及び第2インジェクタ15,16によって燃料を分割噴射する前提において、第1インジェクタ15の燃料噴射量は相対的に多く、第2インジェクタ16の燃料噴射量は相対的に少なく設定される。
次に、前記の構成のロータリーピストンエンジン1における燃料噴射制御について、図7のタイミングチャートを参照しながら説明する。図3に示すように、第1インジェクタ15は、ローターハウジング3の頂部付近から、吸気作動室8内の吸気ポート11,12,13の方向に指向して燃料を噴射する。このため、第1インジェクタ15による燃料噴射を、吸気対向噴射と呼ぶ場合がある。また、第1インジェクタ15の燃料噴射タイミングは、ローター2が図1に示す状態となって圧縮・膨張作動室8の容積が最小となる状態(圧縮上死点:TDC)を基準(0°)としたときに、エキセントリックシャフト6の回転方向側の回転角(エキセン角)が−450°〜−330°ATDCの範囲内で設定される。このときのローター2の回転角度は、図3における二点鎖線で示される。この燃料噴射タイミングは、吸気作動室8内での吸気の運動エネルギが大きくかつ、吸気流速も大きいタイミングであって、吸気作動室8内に激しい吸気流の流動が形成されている。このため、このタイミングで吸気ポート11,12,13に指向して燃料を噴射することによって、燃料を効率よく拡散させ得ることになる。また、このタイミングは、TDCに対して大幅に早いタイミングであるため、長い気化霧化時間を確保することが可能である。こうして、第1インジェクタ15による吸気対向噴射によって、相対的に多量の燃料を効率よく拡散させると共に、長い気化霧化時間を確保することによって気化霧化が良好な混合気を形成する。その後、その作動室8は圧縮行程へと移行する。
尚、吸気作動室8内への燃料の直接噴射は、吸気冷却による充填効率向上効果を得ることができる上に、吸気ポートに燃料噴射するポート噴射等の場合と比較して、噴射した燃料の壁面付着が抑制されるから、燃費の向上及びエミッション性の向上の点で有利になる。
一方、第2インジェクタ16は、ローターハウジング3の頂部位置から、圧縮作動室8内の点火プラグ91の方向に指向して燃料を噴射する。このため、第2インジェクタ16による燃料噴射を、圧縮噴射と呼ぶ場合がある。第2インジェクタ16の燃料噴射タイミングは、−180°〜−150°ATDCの範囲内に設定される。このときのローター2の回転角度は、図3における実線で示され、これは圧縮行程の中盤に相当する。前述したように、作動室8が吸気行程から圧縮行程へと移行するに伴い、ローター2の回転に対して混合気(燃料)の流動が相対的に遅れる結果、圧縮・膨張作動室8内においては、ローター回転方向の進み側の領域がリーンになり、ローター回転方向の遅れ側の領域がリッチになるような不均質性を生じる。これに対し、図3に太実線で示すように、第2インジェクタ16によって点火プラグ91の方向に指向して燃料を噴射することによって、ローター2の回転角度との関係上、圧縮作動室8内における相対的にリーンの領域に燃料を供給し得る。このことにより、圧縮作動室8、及びその後の圧縮・膨張作動室8内におけるリーンの領域がリッチ化し、ローター回転方向に対する混合気の不均質性が解消され得る。そうして、混合気が均質化された状態で、T側及びL側の2つの点火プラグ91,92が、所定のタイミングで、同時又はリーディング側及びトレーリング側の順番で点火を行う。
尚、第2インジェクタ16の燃料噴射タイミングは、相対的に遅いタイミングであるため、気化霧化時間を十分に確保することが難しい。しかしながら、第2インジェクタ16が噴射する燃料量は相対的に少ないため、気化霧化時間が短いという不利益を極小化して、エミッション性の低下を抑制することが可能である。
ここで、図8を参照しながら、前記第1及び第2インジェクタ15,16を備えた構成のロータリーピストンエンジン1の熱発生パターン(実施例、実線参照)と、吸気ポート噴射を行う従来構成のロータリーピストンエンジンの熱発生パターン(比較例、破線参照)とを比較する。従来構成のエンジンの熱発生パターンは、最初の山である主燃焼の後に後期燃焼が生じるような、2つの山が並ぶパターンとなっており、主燃焼による熱発生率(山の高さ)も比較的低くなる。これは、前述したように、圧縮・膨張作動室内における混合気の不均質性に起因している。これに対し第1及び第2インジェクタ15,16を備えた構成のエンジン1においては、圧縮・膨張作動室8内における混合気の均質化が図られているため、後期燃焼が抑制され、その分、主燃焼による熱発生率が高くなっている。また、圧縮・膨張作動室8内において、ローター回転方向の進み側領域がリッチ化されていることにより燃焼速度も速まり、主燃焼による熱発生のピークが、従来構成のエンジンと比較して早いタイミングで発生している。こうした熱発生パターン(燃焼パターン)の改善は、燃費の向上及びトルクの向上に寄与する。
図9は、第1及び第2インジェクタ15,16の配置に係る変形例を示している。このエンジン1では、第1インジェクタ15を長軸Yを挟んだ圧縮行程側に(ローター2の回転方向の進み側に)、第2インジェクタ16を長軸Yを挟んだ吸気行程側に(ローター2の回転方向の遅れ側に)それぞれ配置している。
第1インジェクタ15は、吸気ポート11,12,13の方向に指向して、吸気作動室8内に燃料を直接噴射し、第2インジェクタ16は、点火プラグ91の方向に指向して、圧縮作動室8内に燃料を直接噴射する。この配置は、第1インジェクタ15及び第2インジェクタ16それぞれの噴霧飛翔距離を長くすることになるため、燃料の壁面付着を抑制する上で有利な配置である。尚、図9においては、第1及び第2インジェクタ15,16をそれぞれ、その軸心が長軸Yに対して平行となるように配置しているが、前述したように、第1及び第2インジェクタ15,16を配設する角度は、特に限定されるものではない。但し、蓄圧器7の取り付けを簡易にする観点からは、第1及び第2インジェクタ15,16を互いに平行に配置することが望ましい。
図10は、蓄圧器7に係る変形例を示している。この蓄圧器7は、第1燃料供給管71が、フロント側及びリヤ側のローターハウジング3における第1インジェクタ15同士を互いに連結する一方、第2燃料供給管72が、フロント側及びリヤ側のローターハウジング3における第2インジェクタ16同士を互いに連結する。このため、第1及び第2燃料供給管71,72はそれぞれ回転軸X方向に、互いに平行に延びて配設されている。第1及び第2燃料供給管71,72の長さ方向の中央位置には、これら第1及び第2燃料供給管71,72を互いに連通させる連通管77が配設されており、これによって、この蓄圧器7は、全体として、横向きに倒伏させたH字状を有するように構成されている。この蓄圧器7においても、第1及び第2燃料供給管71,72並びに連通管77を経路とした、インジェクタ15,16相互間の距離が等しくなるため、各インジェクタ15,16における燃料噴射量の誤差が等しくなる。
この蓄圧器7においては、第1燃料供給管71の他端(図10における左端)に、高圧燃料ポンプに接続される接続管の端部75が取り付けられ、第2燃料供給管72の他端(図10における左端)に、燃圧センサ76が取り付けられている。この蓄圧器7はまた、前記連通管77の穴開け加工を施すために、第1燃料供給管71の長さ方向の中央に第3の開口を有しており、この開口には盲栓74が取り付けられている。尚、燃圧センサ76と盲栓74とを入れ替えて、燃圧センサ76を前記盲栓74の位置に取り付け、前記燃圧センサ76の位置に盲栓を74取り付けるようにしてもよい。
尚、ここではローター2を2個有する2ロータータイプのエンジンを例示したが、ローター2の個数はこれに限定されるものではない。