[実施の形態1]
図1および図2に示すように、実施の形態1による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部1は、非磁性材料で形成されたハウジング2を備える。ハウジング2は、円柱状の本体部3と、本体部3の一方の端面の中央に立設された円筒状の血液流入ポート4と、本体部3の外周面に設けられた円筒状の血液流出ポート5とを含む。血液流出ポート5は、本体部3の外周面の接線方向に延在している。
ハウジング2内には、図3に示すように、隔壁6によって仕切られた血液室7およびモータ室8が設けられている。血液室7内には、図3および図5に示すように、中央に貫通孔10aを有する円板状のインペラ10が回転可能に設けられている。インペラ10は、ドーナツ板状の2枚のシュラウド11,12と、2枚のシュラウド11,12間に形成された複数(たとえば6つ)のベーン13とを含む。シュラウド11は血液流入ポート4側に配置され、シュラウド12は隔壁6側に配置される。シュラウド11,12およびベーン13は、非磁性材料で形成されている。
2枚のシュラウド11,12の間には、複数のベーン13で仕切られた複数(この場合は6つ)の血液通路14が形成されている。血液通路14は、図4に示すように、インペラ10の中央の貫通孔10aと連通しており、インペラ10の貫通孔10aを始端とし、外周縁まで徐々に幅が広がるように延びている。換言すれば、隣接する2つの血液通路14間にベーン13が形成されている。なお、この実施の形態では、複数のベーン13は等角度間隔で設けられ、かつ同じ形状に形成されている。したがって、複数の血液通路14は等角度間隔で設けられ、かつ同じ形状に形成されている。
インペラ10が回転駆動されると、血液流入ポート4から流入した血液は、遠心力によって貫通孔10aから血液通路14を介してインペラ10の外周部に送られ、血液流出ポート5から流出する。
また、シュラウド11には永久磁石15a,15bが埋設されており、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には、それぞれ永久磁石15a,15bを吸引する永久磁石16a,16bが埋設されている。永久磁石15a,15b,16a,16bは、インペラ10をモータ室8と反対側、換言すれば血液流入ポート4側に吸引(換言すれば、付勢)するために設けられている。
図5(a)(b)は永久磁石15a,15b,16a,16bの構成を示す図であり、図5(a)は図5(b)のVA−VA線断面図である。図5(a)(b)に示すように、永久磁石15a,15bの各々は円環状に形成されており、永久磁石15aの外径は永久磁石15bの内径よりも小さい。永久磁石15a,15bは同軸状に設けられており、永久磁石15a,15bの中心点は、ともにインペラ10の回転中心線に配置されている。永久磁石15a,15bのN極は同じ方向に向けられている。
一方、永久磁石16a,16bの各々は円弧状に形成されており、インペラ10の回転方向に2つ配列されている。円環状に配置された2つの永久磁石16aの外径および内径は、永久磁石15aの外径および内径と同じである。円環状に配置された2つの永久磁石16bの外径および内径は、永久磁石15bの外径および内径と同じである。永久磁石16a,16bのN極は同じ方向に向けられている。永久磁石15a,15bのS極と永久磁石16a,16bのN極とは、互いに対向している。
また、図3に示すように、永久磁石15a,15bの間隔(すなわち永久磁石16a,16bの間隔)D1は、インペラ10のラジアル方向の可動距離(すなわち血液室7の内径とインペラ10の外径との差の距離)の2分の1の距離D2よりも大きく設定されている(D1>D2)。これは、D1<D2とした場合、インペラ10がラジアル方向に最大限まで移動したとき、永久磁石15aと16b、永久磁石15bと16aがそれぞれ干渉し、インペラ10をポンプ中心位置に復元させる復元力が不安定になるからである。
このように、インペラ10の径方向に2対の永久磁石15a,16aおよび永久磁石15b,16bを設けたので、インペラ10の径方向に1対の永久磁石のみを設けた場合に比べ、インペラ10のラジアル方向の支持剛性を大きくすることができる。
なお、シュラウド11および血液室7の内壁にそれぞれ永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16bを設ける代わりに、シュラウド11および血液室7の内壁の一方に永久磁石を設け、他方に磁性体を設けてもよい。また、磁性体としては軟質磁性体と硬質磁性体のいずれを使用してもよい。
また、図3では、永久磁石15aと16aの対向面のサイズが同じであり、かつ永久磁石15bと16bの対向面のサイズが同じである場合が示されているが、永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力に起因するインペラ10の剛性の低下を防ぐため、永久磁石15aと16aの対向面のサイズを異ならせ、かつ永久磁石15bと16bの対向面のサイズを異ならせることが好ましい。永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの対向面のサイズを異ならせることにより、両者間の距離によって変化する吸引力の変化量、すなわち負の剛性を小さく抑えることができ、インペラ10の支持剛性の低下を防ぐことができる。
また、図5(a)(b)では、永久磁石15a,15bの各々を円環状に形成し、永久磁石16a,16bの各々を円弧状に形成してインペラ10の回転方向に等角度間隔で2つ配列したが、逆に、永久磁石16a,16bの各々を円環状に形成し、永久磁石15a,15bの各々を円弧状に形成してインペラ10の回転方向に等角度間隔で2つ配列してもよい。また、永久磁石15a,15bの各々、あるいは永久磁石16a,16bの各々をさらに短い円弧状に形成してインペラ10の回転方向に等角度間隔で複数配列してもよい。
また、図3および図5に示すように、シュラウド12には複数(たとえば8個)の永久磁石17が埋設されている。複数の永久磁石17は、隣接する磁極が互いに異なるようにして、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。換言すれば、モータ室8側にN極を向けた永久磁石17と、モータ室8側にS極を向けた永久磁石17とが等角度間隔で同一の円に沿って交互に配置されている。
また、図3および図8に示すように、モータ室8内には、複数(たとえば9個)の磁性体18が設けられている。複数の磁性体18は、インペラ10の複数の永久磁石17に対向して、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。複数の磁性体18の基端は、円板状の1つの継鉄19に接合されている。各磁性体18には、コイル20が巻回されている。
9個のコイル20には、たとえば120度通電方式で電圧が印加される。すなわち、9個のコイル20は、3個ずつグループ化される。各グループの第1〜第3のコイル20には、図9に示すような電圧VU,VV,VWが印加される。第1のコイル20には、0〜120度の期間に正電圧が印加され、120〜180度の期間に0Vが印加され、180〜300度の期間に負電圧が印加され、300〜360度の期間に0Vが印加される。したがって、第1のコイル20が巻回された磁性体18の先端面(インペラ10側の端面)は、0〜120度の期間にN極になり、180〜300度の期間にS極になる。電圧VVの位相は電圧VUよりも120度遅れており、電圧VWの位相は電圧VVよりも120度遅れている。したがって、第1〜第3のコイル20にそれぞれ電圧VU,VV,VWを印加することにより、回転磁界を形成することができ、複数の磁性体18とインペラ10の複数の永久磁石17との吸引力および反発力により、インペラ10を回転させることができる。
ここで、インペラ10が定格回転数で回転している場合は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力と複数の永久磁石17および複数の磁性体18間の吸引力とは、血液室7内におけるインペラ10の可動範囲の略中央付近で釣り合うようにされている。このため、インペラ10のいかなる可動範囲においてもインペラ10への吸引力による作用力は非常に小さい。その結果、インペラ10の回転起動時に発生するインペラ10とハウジング2との相対すべり時の摩擦抵抗を小さくすることができる。また、相対すべり時におけるインペラ10とハウジング2の内壁の表面の損傷(表面の凹凸)はなく、さらに低速回転時の動圧力が小さい場合にもインペラ10はハウジング2から浮上し易くなり、非接触の状態となる。したがって、インペラ10とハウジング2との相対すべりによって溶血が発生したり、相対すべり時に発生したわずかな表面損傷(凹凸)によって血栓が発生することもない。
また、インペラ10のシュラウド12に対向する隔壁6の表面には複数の動圧溝21が形成され、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には複数の動圧溝22が形成されている。インペラ10の回転数が所定の回転数を超えると、動圧溝21,22の各々とインペラ10との間に動圧軸受効果が発生する。これにより、動圧溝21,22の各々からインペラ10に対して抗力が発生し、インペラ10は血液室7内で非接触状態で回転する。
詳しく説明すると、複数の動圧溝21は、図6に示すように、インペラ10のシュラウド12に対応する大きさに形成されている。各動圧溝21は、隔壁6の中心から若干離間した円形部分の周縁(円周)上に一端を有し、渦状に(換言すれば、湾曲して)隔壁6の外縁付近まで、幅が徐々に広がるように延びている。また、複数の動圧溝21は略同じ形状であり、かつ略同じ間隔に配置されている。動圧溝21は凹部であり、動圧溝21の深さは0.005〜0.4mm程度であることが好ましい。動圧溝21の数は、6〜36個程度であることが好ましい。
図6では、10個の動圧溝21がインペラ10の中心軸に対して等角度で配置されている。動圧溝21は、いわゆる内向スパイラル溝形状となっているので、インペラ10が時計方向に回転すると、動圧溝21の外径部から内径部に向けて液体の圧力が高くなる。このため、インペラ10と隔壁6の間に反発力が発生し、これが動圧力となる。
このように、インペラ10と複数の動圧溝21の間に形成される動圧軸受効果により、インペラ10は隔壁6から離れ、非接触状態で回転する。このため、インペラ10と隔壁6の間に血液流路が確保され、両者間での血液滞留およびそれに起因する血栓の発生が防止される。さらに、通常状態において、動圧溝21が、インペラ10と隔壁6の間において撹拌作用を発揮するので、両者間における部分的な血液滞留の発生を防止することができる。
なお、動圧溝21を隔壁6に設ける代わりに、動圧溝21をインペラ10のシュラウド12の表面に設けてもよい。
また、動圧溝21の角の部分は、少なくとも0.05mm以上のRを持つように丸められていることが好ましい。これにより、溶血の発生をより少なくすることができる。
また、複数の動圧溝22は、図7に示すように、複数の動圧溝21と同様、インペラ10のシュラウド11に対応する大きさに形成されている。各動圧溝22は、血液室7の内壁の中心から若干離間した円形部分の周縁(円周)上に一端を有し、渦状に(換言すれば、湾曲して)血液室7の内壁の外縁付近まで、幅が徐々に広がるように延びている。また、複数の動圧溝22は、略同じ形状であり、かつ略同じ間隔で配置されている。動圧溝22は凹部であり、動圧溝22の深さは0.005〜0.4mm程度があることが好ましい。動圧溝22の数は、6〜36個程度であることが好ましい。図7では、10個の動圧溝22がインペラ10の中心軸に対して等角度に配置されている。
インペラ10と複数の動圧溝22の間に形成される動圧軸受効果により、インペラ10は血液室7の内壁から離れ、非接触状態で回転する。また、ポンプ部1が外的衝撃を受けたときや、動圧溝21による動圧力が過剰となったときに、インペラ10の血液室7の内壁への密着を防止することができる。動圧溝21によって発生する動圧力と動圧溝22によって発生する動圧力は異なるものとなっていてもよい。
なお、動圧溝22は、血液室7の内壁側ではなく、インペラ10のシュラウド11の表面に設けてもよい。また、動圧溝22の角となる部分は、少なくとも0.05mm以上のRを持つように丸められていることが好ましい。これにより、溶血の発生をより少なくすることができる。
また、インペラ10のシュラウド12と隔壁6との隙間と、インペラ10のシュラウド11と血液室7の内壁との隙間とが略同じ状態でインペラ10が回転することが好ましい。インペラ10に作用する流体力などの外乱が大きく、一方の隙間が狭くなる場合には、その狭くなる側の動圧溝による動圧力を他方の動圧溝による動圧力よりも大きくし、両隙間を略同じにするため、動圧溝21と22の形状を異ならせることが好ましい。
また、図6および図7では、動圧溝21,22の各々を内向スパイラル溝形状としたが、他の形状の動圧溝21,22を使用することも可能である。ただし、血液を循環させる場合は、血液をスムーズに流すことが可能な内向スパイラル溝形状の動圧溝21,22を採用することが好ましい。
図10は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間(図10では永久磁石15,16間と略記する)の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置以外の位置P1でゼロとなるように調整した場合にインペラ10に作用する力を示す図である。ただし、インペラ10の回転数は定格値に保たれている。
すなわち、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1が永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2よりも小さく設定され、それらの合力がゼロとなるインペラ10の浮上位置はインペラ可動範囲の中間よりも隔壁6側にあるものとする。動圧溝21,22の形状は同じである。
図10の横軸はインペラ10の位置(図中の左側が隔壁6側)を示し、縦軸はインペラ10に対する作用力を示している。インペラ10への作用力が隔壁6側に働くとき、その作用力をマイナスとしている。インペラ10に対する作用力としては、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2と、動圧溝21の動圧力F3と、動圧溝22の動圧力F4と、それらの合力である「インペラに作用する正味の力F5」を示した。
図10から分かるように、インペラ10に作用する正味の力F5がゼロとなる位置で、インペラ10の浮上位置はインペラ10の可動範囲の中央位置から大きくずれている。その結果、回転中のインペラ10と隔壁6の間の距離は狭まり、インペラ10に対して小さな外乱力が作用してもインペラ10は隔壁6に接触してしまう。
これに対して図11は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置P0でゼロとなるように調整した場合にインペラ10に作用する力を示す図である。この場合も、インペラ10の回転数は定格値に保たれている。
すなわち、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とは略同じに設定されている。また、動圧溝21,22の形状は同じにされている。この場合は、図10の場合と比較して、インペラ10の浮上位置に対する支持剛性が高くなる。また、インペラ10に作用する正味の力F5は可動範囲の中央でゼロとなっているので、インペラ10に対し外乱力が作用しない場合にはインペラ10は中央位置で浮上する。
このように、インペラ10の浮上位置は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2と、インペラ10の回転時に動圧溝21,22で発生する動圧力F3,F4との釣り合いで決まる。F1とF2を略同じにし、動圧溝21,22の形状を同じにすることにより、インペラ10の回転時にインペラ10を血液室7の略中央部で浮上させることが可能となる。図3および図5に示すように、インペラ10は2つのディスク間に羽根を形成した形状を有するので、ハウジング2の内壁に対向する2つの面を同一形状および同一寸法にすることができる。したがって、略同一の動圧性能を有する動圧溝21,22をインペラ10の両側に設けることは可能である。
この場合、インペラ10は血液室7の中央位置で浮上するので、インペラ10はハウジング2の内壁から最も離れた位置に保持される。その結果、インペラ10の浮上時にインペラ10に外乱力が印加されて、インペラ10の浮上位置が変化しても、インペラ10とハウジング2の内壁とが接触する可能性が小さくなり、それらの接触によって血栓や溶血が発生する可能性も低くなる。
なお、図10および図11の例では、2つの動圧溝21,22の形状は同じであるとしたが、動圧溝21,22の形状を異なるものとし、動圧溝21,22の動圧性能を異なるものとしてもよい。たとえば、ポンピングの際に流体力などによってインペラ10に対して常に一方方向の外乱が作用する場合には、その外乱の方向にある動圧溝の性能を他方の動圧溝の性能より高めておくことにより、インペラ10をハウジング2の中央位置で浮上回転させることが可能となる。この結果、インペラ10とハウジング2との接触確率を低く抑えることができ、インペラ10の安定した浮上性能を得ることができる。
また、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とによって構成されるインペラ10のアキシアル方向への負の支持剛性値の絶対値をKaとし、ラジアル方向の正の剛性値の絶対値をKrとし、インペラ10が回転する常用回転数領域において2つの動圧溝21,22で得られる正の剛性値の絶対値をKgとすると、Kg>Ka+Krの関係を満たすことが好ましい。
具体的には、アキシアル方向の負の剛性値の絶対値Kaを20000N/mとし、ラジアル方向の正の剛性値の絶対値Krを10000N/mとした場合、インペラ10が通常回転する回転数領域で2つの動圧溝21,22によって得られる正の剛性値の絶対値Kgは30000N/mを超える値に設定される。
インペラ10のアキシアル支持剛性は動圧溝21,22で発生する動圧力に起因する剛性から磁性体間の吸引力などによる負の剛性を引いた値であるから、Kg>Ka+Krの関係を持つことで、インペラ10のラジアル方向の支持剛性よりもアキシアル方向の支持剛性を高めることができる。このように設定することにより、インペラ10に対して外乱力が作用した場合に、インペラ10のラジアル方向への動きよりもアキシアル方向への動きを抑制することができ、動圧溝21の形成部でのインペラ10とハウジング2との機械的な接触を避けることができる。
特に、動圧溝21,22は、図3、図6および図7で示したように平面に凹設されているので、インペラ10の回転中にこの部分でハウジング2とインペラ10との機械的接触があると、インペラ10およびハウジング2の内壁のいずれか一方または両方の表面に傷(表面の凹凸)が生じてしまい、この部位を血液が通過すると、血栓発生および溶血の原因となる可能性もあった。この動圧溝21,22での機械的接触を防ぎ、血栓および溶血を抑制するために、ラジアル方向の剛性よりもアキシアル方向の剛性を高める効果は高い。
また、インペラ10にアンバランスがあると回転時にインペラ10に振れ回りが生ずるが、この振れ回りはインペラ10の質量とインペラ10の支持剛性値で決定される固有振動数とインペラ10の回転数が一致した場合に最大となる。
このポンプ部1では、インペラ10のアキシアル方向の支持剛性よりもラジアル方向の支持剛性を小さくしているので、インペラ10の最高回転数をラジアル方向の固有振動数以下に設定することが好ましい。そこで、インペラ10とハウジング2との機械的接触を防ぐため、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2によって構成されるインペラ10のラジアル剛性値をKr(N/m)とし、インペラ10の質量をm(kg)とし、インペラの回転数をω(rad/s)とした場合、ω<(Kr/m)0.5の関係を満たすことが好ましい。
具体的には、インペラ10の質量が0.03kgであり、ラジアル剛性値が2000N/mである場合、インペラ10の最高回転数は258rad/s(2465rpm)以下に設定される。逆に、インペラ10の最高回転数を366rad/s(3500rpm)と設定した場合には、ラジアル剛性は4018N/m以上に設定される。
さらに、このωの80%以下にインペラ10の最高回転数を設定することが好ましい。具体的には、インペラ10の質量が0.03kgであり、ラジアル剛性値が2000N/mである場合には、その最高回転数は206.4rad/s(1971rpm)以下に設定される。逆に、インペラ10の最高回転数を366rad/s(3500rpm)としたい場合には、ラジアル剛性値が6279N/m以上に設定される。このようにインペラ10の最高回転数を設定することで、インペラ10の回転中におけるインペラ10とハウジング2の接触を抑えることができる。
また、インペラ10の回転起動前に、インペラ10が隔壁6に接触していることを確認してから、インペラ10を回転起動させることが好ましい。
すなわち、インペラ10の非回転時では、動圧溝21,22による非接触支持はされず、さらに、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2によってインペラ10とハウジング2とは高い面圧で接触している。また、このポンプ部1のように、インペラ10をモータ室8内のコイル20および磁性体18とインペラ10の永久磁石17との磁気的相互作用で回転させる場合は、特許文献2の図3に示すようなインペラを永久磁石間の磁気カップリングで回転駆動させる場合に比べて、起動トルクが小さい。したがって、インペラ10をスムーズに回転起動させることは難しい。
しかし、インペラ10のシュラウド12が隔壁6と接触している場合は、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触している場合に比べ、インペラ10の永久磁石17とモータ室8内の磁性体18とが近接しているので、インペラ10の起動時の回転トルクを高めることができ、インペラ10をスムーズに回転起動させることができる。
ところが、上述の通り、インペラ10の回転時には、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とは、インペラ10の位置がインペラ10の可動範囲の中央付近にて釣り合うように設定されているので、インペラ10の停止時にインペラ10が必ずしも隔壁6に接触しているとは限らない。
そこで、この遠心式血液ポンプ装置では、インペラ10を回転起動させる前にインペラ10を隔壁6側に移動させる手段が設けられる。具体的には、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2が大きくなるように複数のコイル20に電流を流し、インペラ10を隔壁6側に移動させる。
図12は、ポンプ部1を制御するコントローラ25の構成を示すブロック図である。図12において、コントローラ25は、モータ制御回路26およびパワーアンプ27を含む。モータ制御回路26は、たとえば120度通電方式の3相の制御信号を出力する。パワーアンプ27は、モータ制御回路26からの3相の制御信号を増幅して、図9で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、図8で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。通常の運転時は、これにより、インペラ10が可動範囲の中央位置で所定の回転数で回転する。
図13(a)〜(c)は、インペラ10の回転起動時におけるコイル電流I、インペラ10の位置、およびインペラ10の回転数の時間変化を示すタイムチャートである。図13(a)〜(c)において、初期状態では、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力によってインペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触しており、インペラ10は位置PAにあるものとする。この状態では、インペラ10が回転し難いので、インペラ10のシュラウド12が隔壁6に接触した位置PBにインペラ10を移動させる。
時刻t0において、図9で示される6パターン(0〜60度,60〜120度,…,300〜360度)の電圧VU,VV,VWのうちのいずれかのパターンの電圧を第1〜第3のコイル20に印加し、予め定められた電流I0をコイル20に流す。コイル20に電流I0を流すと、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2が永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1よりも大きくなり、インペラ10はほとんど回転することなく隔壁6側の位置PBに移動し、インペラ10のシュラウド12は隔壁6に接触する。インペラ10が位置PBに移動したら、電流I0を遮断する(時刻t1)。
なお、インペラ10を回転させずに移動させるのは、インペラ10を回転させながら隔壁6側の位置PBに移動させようとしても、動圧溝21の動圧軸受効果によってインペラ10の移動が妨げられるからである。また、インペラ10の血液室7内の位置を検出するセンサを設け、インペラ10が隔壁6に接触したことを確認した後に、電流I0を遮断することが好ましい。
次に、図8および図9で説明した第1〜第3のコイル20に3相電圧VU,VV,VWを印加し、コイル電流Iを予め定められた定格値まで徐々に上昇させる。このとき、インペラ10は隔壁6に接触しているので、インペラ10はスムーズに回転する。コイル電流Iの上昇に伴って、インペラ10は隔壁6側の位置PBから可動範囲の中央位置に移動する。
なお、起動時に6パターン(0〜60度,60〜120度,…,300〜360度)の電圧VU,VV,VWを第1〜第3のコイル20に印加した場合、永久磁石17と磁性体18の吸引力が最大になるパターンは永久磁石17と磁性体18の位置関係によって異なる。したがって、起動時に一定パターンの電圧VU,VV,VWのみを第1〜第3のコイル20に印加する代わりに、6パターンの電圧VU,VV,VWを第1〜第3のコイル20に一定時間ずつ順次印加してもよい。この場合、インペラ10は僅かに回転して(厳密には1/4回転以下、すなわち電気角で360度以下回転して)、隔壁6側の位置PBに移動する。
また、6パターンの電圧VU,VV,VWを印加すると、第1〜第3のコイル20のうちのいずれかのコイル20には電流は流れず、9個の磁性体18のうちの6個の磁性体がN極またはS極になり、残りの3個の磁性体18には磁極は発生しない。したがって、第1〜第3のコイル20の全てに電流が流れ、9個の磁性体18の各々がN極またはS極になるような電圧を第1〜第3のコイル20に印加して、永久磁石17と磁性体18の吸引力を強めてもよい。
この実施の形態1では、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と複数の永久磁石17および複数の磁性体18間の吸引力F2とを釣り合わせ、動圧溝21,22を設けたので、インペラ10のアキシアル方向の支持剛性を大きくすることができる。また、インペラ10の径方向に2対の永久磁石15a,16aおよび永久磁石15b,16bを設けたので、インペラ10の径方向に1対の永久磁石のみを設けた場合に比べ、インペラ10のラジアル方向の支持剛性を大きくすることができる。したがって、インペラ10とハウジング2との機械的な接触を少なくすることができ、溶血や血栓の発生を防止することができる。
また、図14は、この実施の形態1の変更例を示すブロック図である。この変更例では、インペラ10の回転起動時とそれ以降で電源が切り換えられる。すなわち図14において、この変更例では、図12のパワーアンプ27がパワーアンプ30,31および切換スイッチ32で置換される。図13の時刻t0〜t1では、モータ制御回路26の出力信号がパワーアンプ30に与えられ、パワーアンプ30の出力電圧が切換スイッチ32を介してコイル20に印加され、コイル20に電流I0が流される。時刻t2以降は、モータ制御回路26の出力信号がパワーアンプ31に与えられ、パワーアンプ31の出力電圧が切換スイッチ32を介してコイル20に印加され、コイル20に電流が流される。
また、図15(a)〜(c)は、この実施の形態1の他の変更例を示すタイムチャートである。図15(a)〜(c)において、初期状態では、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触しており、インペラ10は位置PAにあるものとする。時刻t0において、予め定められた電流I1がコイル20に流される。すなわち、モータ制御回路26により、たとえば120度通電方式の3相の制御信号を生成する。パワーアンプ27は、モータ制御回路26からの3相の制御信号を増幅して、図9で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、図8で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。
したがって、この電流I1によってインペラ10に回転磁界が印加される。この電流I1は、図13の電流I0よりも大きい電流であり、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触している場合でもインペラ10を回転起動させることが可能な電流である。回転起動が確認された後、コイル電流Iを低下させ、予め定められた定格値まで徐々に上昇させる。このようにインペラ10が位置PA側にあった場合でも、インペラ10の回転起動時のみにコイル20に過大電流を流すように構成してもよい。
また、血液室7の内壁の表面および隔壁6の表面と、インペラ10の表面との少なくとも一方にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を形成してもよい。これにより、インペラ10と血液室7の内壁および隔壁6との摩擦力を軽減し、インペラをスムーズに回転起動することが可能になる。なお、ダイヤモンドライクカーボン膜の代わりに、フッ素系樹脂膜、パラキシリレン系樹脂膜などを形成してもよい。
また、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とによって構成されるインペラ10のアキシアル方向の負の剛性値よりも動圧溝21,22の動圧力による剛性が大きくなった場合にインペラ10とハウジング2は非接触の状態となる。したがって、この負の剛性値を極力小さくすることが好ましい。そこで、この負の剛性値を小さく抑えるため、永久磁石15aと16aの対向面のサイズを異ならせ、かつ永久磁石15bと16bの対向面のサイズを異ならせることが好ましい。たとえば、図16に示すように、永久磁石15a,15bのサイズをそれぞれ永久磁石16a,16bよりも小さくすることにより、両者間の距離によって変化する吸引力の変化割合、すなわち負の剛性を小さく抑えることができ、インペラ支持剛性の低下を防ぐことができる。
また、図17は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図3と対比される図である。図17において、この変更例では、各磁性体18の永久磁石17に対向する先端面に磁性体35が設けられる。この磁性体35の永久磁石17に対向する表面の面積は磁性体18の先端面の面積よりも大きい。この変更例では、永久磁石17に対する磁性体18,35の吸引力を大きくすることができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
また、図18は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図3と対比される図である。図18において、この変更例では、継鉄19が継鉄36で置換され、磁性体18が磁性体37で置換される。継鉄36および磁性体37の各々は、インペラ10の回転軸の長さ方向に積層された複数の鋼板を含む。この変更例では、継鉄36および磁性体37で発生する渦電流損失を軽減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
また、図19に示すように、インペラ10の回転方向に積層された複数の鋼板を含む磁性体38で磁性体37を置換してもよい。また、図20に示すように、インペラ10の径方向に積層された複数の鋼板を含む磁性体39で磁性体37を置換してもよい。これらの場合でも、図18の変更例と同じ効果が得られる。
また、図3の継鉄19および磁性体18の各々を、純鉄、軟鉄、または珪素鉄の粉末によって形成してもよい。この場合は、継鉄19および磁性体18の鉄損を軽減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
また、図21は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図3と対比される図である。図21において、この変更例では、磁性体18が除去されている。この変更例では、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および継鉄19間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置P0でゼロとなるように調整される。この変更例でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
また、図22(a)(b)は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図5(a)(b)と対比される図である。図22(a)は図22(b)のXXIIA−XXIIA線断面図である。この変更例では、永久磁石15aのN極と永久磁石15bのN極とは逆向きに設けられ、永久磁石16aのN極と永久磁石16bのN極とは逆向きに設けられる。永久磁石15aのS極と永久磁石16aのN極とは対向し、永久磁石15bのN極と永久磁石16bのS極とは対向している。この変更例でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
[実施の形態2]
図23は、この発明の実施の形態2による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の構成を示す断面図であって、図3と対比される図である。図23において、このポンプ部では、インペラ10のシュラウド12に複数の永久磁石17の代わりに複数(たとえば8個)の永久磁石40が埋設されている。複数の永久磁石40は、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。モータ室8内には、複数の永久磁石40を吸引するための複数(たとえば8個)の永久磁石41が設けられている。複数の永久磁石41は、インペラ10の複数の永久磁石40に対向して、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。
複数の永久磁石41は、椀状のロータ42の表面に設けられている。ロータ42の縁の内側には、複数(たとえば8個)の永久磁石43が等角度間隔で設けられている。複数の永久磁石43は、隣接する磁極が互いに異なるようにして、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。換言すれば、ロータ42の内側にN極を向けた永久磁石43と、ロータ42の内側にS極を向けた永久磁石43とが等角度間隔で同一の円に沿って交互に配置されている。
ロータ42の中央部はベアリング44を介して中心軸45に回転可能に支持されており、ロータ42は隔壁6に沿って回転可能に設けられている。中心軸45は、円板状の継鉄46の中央に立設されている。継鉄46の表面において中心軸45の周りには、複数(たとえば9個)の磁性体47が等角度間隔で設けられている。複数の磁性体47の先端は、ロータ42の複数の永久磁石43に対向して、同一の円に沿って配置される。各磁性体47には、コイル48が巻回されている。複数の永久磁石43、複数の磁性体47、および複数のコイル48は、ロータ42を回転させるためのモータを構成する。
9個のコイル48には、たとえば120度通電方式で電圧が印加される。すなわち、9個のコイル48は、3個ずつグループ化される。各グループの第1〜第3のコイル48には、図9で示した電圧VU,VV,VWが印加される。したがって、第1〜第3のコイル48にそれぞれ電圧VU,VV,VWを印加することにより、回転磁界を形成することができ、複数の磁性体47とロータ42の複数の永久磁石43との吸引力および反発力により、ロータ42を回転させることができる。ロータ42が回転すると、ロータ42の複数の永久磁石43とインペラ10の複数の永久磁石40との吸引力により、インペラ10が回転する。
ここで、インペラ10が定格回転数で回転している場合は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力と複数の永久磁石40および複数の永久磁石41間の吸引力とは、血液室7内におけるインペラ10の可動範囲の略中央付近で釣り合うようにされている。このため、インペラ10のいかなる可動範囲においてもインペラ10への吸引力による作用力は非常に小さい。その結果、インペラ10の回転起動時に発生するインペラ10とハウジング2との相対すべり時の摩擦抵抗を小さくすることができる。また、相対すべり時におけるインペラ10とハウジング2の内壁の表面の損傷(表面の凹凸)はなく、さらに低速回転時の動圧力が小さい場合にもインペラ10はハウジング2から浮上し易くなり、非接触の状態となる。
また、実施の形態1と同様、インペラ10のシュラウド12に対向する隔壁6の表面には動圧溝21が形成され、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には動圧溝22が形成されている。インペラ10の回転数が所定の回転数を超えると、動圧溝21,22の各々とインペラ10との間に動圧軸受効果が発生する。これにより、動圧溝21,22の各々からインペラ10に対して抗力が発生し、インペラ10は血液室7内で非接触状態で回転する。
この実施の形態2では、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力と複数の永久磁石40および複数の永久磁石41間の吸引力とを釣り合わせ、動圧溝21,22を設けたので、インペラ10のアキシアル方向の支持剛性を大きくすることができる。また、インペラ10の径方向に2対の永久磁石15a,16aおよび永久磁石15b,16bを設けたので、インペラ10の径方向に1対の永久磁石のみを設けた場合に比べ、インペラ10のラジアル方向の支持剛性を大きくすることができる。したがって、インペラ10とハウジング2との機械的な接触を少なくすることができ、溶血や血栓の発生を防止することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。