JP5372547B2 - 免疫グロブリンa産生促進剤 - Google Patents

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本発明は、免疫グロブリンA産生促進剤に関し、さらに詳しくは、髪菜の抽出物を主成分として含有することを特徴とする免疫グロブリンA産生促進剤に関するものである。
一般に、免疫グロブリンA(Immunogloblin A:IgA)は、哺乳類及び鳥類に存在する免疫グロブリンの一種であり、気道や腸管等の外分泌液中に存在する分泌型と血清中に存在する血清型とが存在する。例えば、分泌型IgAは、二量体IgAに分泌成分が結合した複合体をなし、粘膜免疫機構(粘膜表面の局所免疫反応)の主要な構成要素として粘膜表面における防御を行なう物質である。例えば、インフルエンザウイルス等の呼吸器感染症病原ウイルスは、鼻粘膜や気道粘膜の細胞に吸着・侵入して感染するが、こうした粘膜面を介して侵入してきたウイルス(抗原)に対して、粘膜免疫機構は以下のように機能すると考えられている。まず、抗原であるウイルスが粘膜関連リンパ組織(MALT)等のIgA誘導組織に取り込まれて認識されるとともに、マクロファージや樹状細胞等の抗原提示細胞によって処理・提示される。次いで、抗原刺激で活性化された各種粘膜免疫担当細胞が実行組織へ送り出され、そこで同細胞から抗原特異的な分泌型IgAが分泌される。そして、実行組織にて分泌された分泌型IgAが、抗原であるウイルスと相互作用することにより、ウイルスの排除や毒素の中和といった生体防御が行なわれる。
このように、IgAは粘膜面へのウイルス等の侵入を防ぐ粘膜免疫機構において重要な役割を果たしている。したがって、IgAの産生を増大させることはウイルス等に対する感染防御に大きく寄与するものと考えられる。これまでに、免疫グロブリンA産生促進剤は、生体に対する安全性の高い天然成分由来のものとして、例えば、特許文献1〜特許文献3に記載されるものが知られている。特許文献1に記載の免疫グロブリンA産生促進剤は、シイタケ菌糸体抽出物を有効成分として含有している。特許文献2に記載の免疫グロブリンA促進剤は、藍藻類等から抽出して得られるフィコシアニンを有効成分として含有している。また、特許文献3に記載の免疫グロブリンA促進剤は、ハナビラタケ子実体を有効成分として含有している。
特開2003−155249号公報 特開2004−256478号公報 特開2005−097133号公報
ところで、髪菜(Nostoc flagelliforme)は、藍色細菌門、ネンジュモ目、ネンジュモ科、ネンジュモ属に属する藍藻の一種であり、古来より食用としても重用されている。中華人民共和国の青海省や内モンゴル自治区等の乾燥地の草原において地表に生育しており、数珠繋ぎの細胞からなる糸状の藻体が寒天質の基質を介して毛髪状にまとまった群体を形成している。なお、髪菜は特許文献2に記載の免疫グロブリンA促進剤において有効成分とされるフィコシアニンをほとんど含有していない。
この発明は、本研究者らによる鋭意研究の結果、髪菜の抽出物が免疫グロブリンAの分泌を促進する作用を発揮することを見出したことに基づいてなされたものである。その目的とすることは、免疫グロブリンA産生促進作用に優れた免疫グロブリンA産生促進剤を提供することにある。
上記の目的を達成するために請求項1に記載の免疫グロブリンA産生促進剤は、分泌型の抗鳥インフルエンザウイルス免疫グロブリンAの産生を促進する免疫グロブリンA産生促進剤であって、髪菜の抽出物を主成分として含有することを特徴とする
請求項に記載の免疫グロブリンA産生促進剤は、請求項に記載の発明において、免疫賦活剤として適用されることを特徴とする。
本発明によれば、免疫グロブリンA産生促進作用に優れた免疫グロブリンA産生促進剤を提供することができる。
試験(1)における免疫グロブリンA産生促進剤の投与量と免疫グロブリンAの産生量との関係を示すグラフ。 試験(2)における免疫グロブリンA産生促進剤の投与量と免疫グロブリンAの産生量との関係を示すグラフ。
以下、本発明を具体化した一実施形態を詳細に説明する。
本発明の免疫グロブリンA産生促進剤は、髪菜の抽出物を主成分として含有する。以下では、免疫グロブリン及び免疫グロブリン産生促進剤をそれぞれIgA及びIgA促進剤と記載する。
本実施形態のIgA産生促進剤に含有される髪菜の抽出物(以下、髪菜抽出物と記載する。)の原料としては、髪菜の基質を含めた群体全体を用いてもよいし、髪菜の藻体のみ、又は藻体に含まれる髪菜細胞のみを用いてもよい。なお、上記髪菜細胞は天然に自生する髪菜由来の細胞であってもよいし、人工的に培養した培養細胞であってもよい。この培養細胞を得る方法としては、公知の方法、例えば、特開2007−259738号公報に開示される方法が挙げられる。上記原料は、採取したままの状態、又は採取後に破砕処理或いは乾燥処理の少なくとも一方の処理を行なった状態として抽出操作を行なうことができる。なお、抽出操作の効率化の観点から、髪菜細胞を破砕したものを原料として用いることが好ましい。
抽出操作に用いる抽出溶媒としては、水及び親水性有機溶媒のうちの少なくとも一種を用いることができる。水を用いる場合、温水抽出、熱水抽出、蒸気抽出のいずれの方法を用いても良い。なお、抽出溶媒として水を用いる場合の抽出温度は、80〜100℃であることが好ましく、90〜100℃であることがより好ましい。
親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等の低級アルコール類、アセトン、酢酸エチルが挙げられる。また、抽出溶媒は、水及び各種親水性有機溶媒のうちの単独種を用いてもよいし、複数種を混合した混合溶媒を用いてもよい。なお、抽出溶媒中に、水及び親水性有機溶媒以外の溶媒が少量含有されていてもよいし、その他の添加剤、例えば、有機塩、無機塩、緩衝剤、及び乳化剤等が溶解されていてもよい。
抽出操作としては、抽出溶媒中に上記原料を所定時間浸漬させる。その際、上記原料10重量部に対して100〜1000重量部、より好ましくは200〜500重量部の抽出溶媒を用いて処理することが望ましい。こうした抽出操作においては、抽出効率を高めるべく、必要に応じて攪拌操作、加圧等の処理を行ってもよい。また、こうした抽出操作は、同一の原料に対して一回のみ行なってもよいし、複数回繰り返して行なってもよい。
そして、抽出操作の後に固液分離操作が行われることで、髪菜抽出物と上記原料の残渣とを分離する。こうした固液分離処理の方法としては、例えば、ろ過や遠心分離等の公知の分離法を利用することができる。なお、固液分離処理して得られた抽出液を、そのままの状態で髪菜抽出物として用いてもよいし、さらに濃縮・乾固処理して得られる処理物を髪菜抽出物として用いてもよい。
以上のようにして得られた髪菜抽出物を含有するIgA産生促進剤は、生体に投与することにより、IgAの産生、とくに分泌型IgAの産生を促進する。また、加齢、種々の疾患、薬物投与等によって免疫機能が低下している場合であっても、IgAの産生を促進させる作用を有する。これにより生体の免疫賦活が期待できる。具体的には、分泌型IgAの産生が促進されることにより、粘膜免疫機構の作用やIgAによる自然抗体作用が増強され、病原性ウイルスに対する抗ウイルス作用や病原菌に対する抗菌作用等を期待することができる。上記病原性ウイルスとしては、例えば、鳥インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、エイズウイルス、コロナウイルス等が挙げられる。また、上記病原菌としては、例えば、コレラ菌、骨膜炎菌、肺炎球菌等が挙げられる。そして、本実施形態のIgA産生促進剤は、これら病原性ウイルス及び病原菌に対する抗ウイルス剤及び抗菌剤として適用することができる。具体的には、病原性ウイルス及び病原菌に起因する疾患に対する感染症予防剤及び感染症治療剤として適用することができる。
本実施形態のIgA産生促進剤は、IgA産生促進作用の発揮を目的とする製品に適用して使用することができる。IgAは、粘膜免疫機構の一部を構成する物質であることから、本実施形態のIgA産生促進剤は免疫賦活剤として適用することが有用である。また、IgAは病原性ウイルスや病原菌に対する感染防御に寄与する物質であることから、本実施形態のIgA産生促進剤は感染症予防剤又は感染症治療剤として適用することが有用である。
IgA産生促進剤含有製品としては、例えば、のど飴、のどスプレー等の医薬用部外品及び医薬品等の医療用剤や、健康飲料、健康食品、等の飲食品や、加齢、種々の疾患、薬物投与等によって免疫機能が低下している患者用の飲食品が挙げられる。
本実施形態のIgA産生促進剤を医薬品や医薬部外品に適用して使用する場合には、服用(経口摂取)により投与する場合の他、血管内投与、経皮投与、粘膜投与等のあらゆる投与方法、皮膚や物品等へ塗布する方法を採用することが可能である。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤、塗布剤等が挙げられる。また、本発明の目的を損なわない範囲において、添加剤としての賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
本実施形態のIgA産生促進剤を飲食品に適用して使用する場合には、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって、例えば、粉末状、錠剤状、顆粒状、液状(ドリンク剤等)、カプセル状、シロップ、キャンディー等の形状に加工して健康食品製剤、栄養補助食品等として使用することができる。また、本発明の目的を損なわない範囲において、基材、賦形剤、添加剤、副素材、増量剤等を適宜添加してもよい。
次に本実施形態における作用効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態のIgA産生促進剤は、髪菜の抽出物を主成分として含有している。これにより、IgAの産生、とくに分泌型IgAの産生を好適に促進することができる。
(2)本実施形態のIgA産生促進剤に含有される髪菜抽出物は、従来から食用に用いられている髪菜由来の天然成分であるため、副作用がなく安全性が高い。そのため、医薬品、飲食品に容易に適用することができる。
(3)本実施形態のIgA産生促進剤によれば、優れた免疫賦活作用を発揮する。とくに、粘膜免疫機構の作用やIgAによる自然抗体作用を増強することができる。
(4)本実施形態のIgA産生促進剤によれば、加齢、種々の疾患、薬物投与等によって免疫機能が低下した患者に対しても優れた免疫賦活作用を発揮する。
(5)本実施形態のIgA産生促進剤は、抗ウイルス剤及び抗菌剤として適用することができる。とくに、抗鳥インフルエンザウイルス剤として適用することができる。
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 本実施形態のIgA産生促進剤を、例えば馬、牛、鳥等のヒト以外の動物に使用してもよい。
次に、各試験例を挙げて上記実施形態をさらに具体的に説明する。
[IgA産生促進剤の調製]
髪菜の乾燥藻体(100g)を原料とし、抽出溶媒として95〜100℃の熱水(3l)を用いて1時間、抽出処理を行なった。そして、ろ過による固液分離処理を行った。残渣である藻体を用いて再度、同様の抽出処理を行い、これを2回繰り返した(合計3回の抽出処理を行なった。)。次いで、得られた抽出液を約600mlになるまで減圧濃縮した後、凍結乾燥により乾燥させて髪菜抽出物(20g)を得た。この髪菜抽出物を、2.5mg/ml及び12.5mg/mlとなるように精製水に溶解し、IgA産生促進剤を調製した。
[IgA産生促進剤のIgA産生促進作用に関する試験(1)]
(投与)
免疫機能が正常なマウスに対するIgA産生促進剤のIgA産生促進作用について評価した。このIgA産生促進作用の評価は、鳥インフルエンザウイルス接種後に産生される分泌型の抗鳥インフルエンザウイルスIgA量を測定することにより行なった。
6−7週齢の雌BALB/cマウスを1群3匹で、IgA産生促進剤非投与群(コントロール1)、IgA産生促進剤投与群1(試験例1)、IgA産生促進剤投与群2(試験例2)の3群に分けた。試験例1及び試験例2は、鳥インフルエンザウイルス接種の前後7日間、1日2回、IgA産生促進剤0.2mlを経口投与した。なお、試験例1では2.5mg/mlに調製したIgA産生促進剤を投与するとともに、試験例2では12.5mg/mlに調製したIgA産生促進剤を投与した。また、コントロール1についてはIgA産生促進剤の投与を行なっていない。
(測定)
各群のマウスについて、鳥インフルエンザウイルス接種後、7、14、21、28日後にそれぞれ糞便を採取し、ELISA(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)法にて糞中に含まれるIgA量を測定した。ELISA法は以下のとおりである。まず、各群のマウスから採取した糞便(100mg)に10倍量のPBS(リン酸緩衝液)を加えて懸濁した後、遠心分離により得た上清をIgA測定試料とした。一方、96穴マイクロタイタープレートに対して、10μg/mlに調製した鳥インフルエンザウイルス液(H5N3亜型)を1ウェルあたり50μlで添加し、37℃にて1時間処理することにより同プレートに鳥インフルエンザウイルスを吸着させた。続いて、各ウェルをPBS(リン酸緩衝液)で2回洗浄した後、各ウェルに10%スキムミルクを100μlずつ加え、4℃にて一晩放置した。その後、各ウェルをPBSで2回洗浄した後、各IgA測定試料を1ウェルあたり50μl加え、37℃にて1時間処理した。各ウェルをPBSで2回洗浄した後、HRP−anti−mouse IgA(西洋わさび由来ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgA)(Santa Cruz社製)を50μlずつ各ウェルに加え、37℃にて1時間処理した。次いで、各ウェルをPBSで3回洗浄した後、各ウェルにDAB(3,3’−Diaminobenzidinetetrahydrochloride)発色試薬(ナカライテスク社製)50μlを加え、420nmにおける吸光度を測定した。そして、マウスIgAを標準試料として検量線を作成し、糞(100mg)中の分泌型IgA量を定量した。その結果を図1に示す。
(結果)
IgA産生促進剤を投与した試験例1及び試験例2はともに、IgA産生促進剤を投与していないコントロール1と比較して顕著な分泌型IgA量の増加が認められた。また、コントロール1ではウイルス接種28日後に分泌型IgA量が増加したが、試験例1ではウイルス接種7日後から分泌型IgA量の増加が始まり、ウイルス接種28日後にはコントロール1の3〜4倍にまで分泌型IgA量が増加した。これらの結果から、本発明のIgA産生促進剤が粘膜免疫(腸管免疫)を賦活する作用を有することが示された。
[IgA産生促進剤のIgA産生促進作用に関する試験(2)]
免疫機能を低下させた状態のマウスに対してIgA産生促進剤を投与した場合のIgA産生促進作用について評価した。本試験で用いたマウスは、鳥インフルエンザウイルス接種の7日前から13日後までの間、1日おきに5mg/mlに調整した5−fluorouracil(ナカライテスク社製)0.1mlが皮下投与されており、その免疫機能を低下させた状態となっている。マウスの免疫機能を人為的に低下させている点を除いては、上記試験と同様にIgA産生促進剤のIgA産生促進作用の評価を行なった。
上記試験と同様に、6−7週齢の雌BALB/cマウスを1群3匹で、IgA産生促進剤非投与群(コントロール2)、IgA産生促進剤投与群1(試験例3)、IgA産生促進剤投与群2(試験例4)の3群に分けた。試験例3及び試験例4は、鳥インフルエンザウイルス接種の前後7日間、1日2回、IgA産生促進剤0.2mlを経口投与した。なお、試験例3では2.5mg/mlに調製したIgA産生促進剤を投与するとともに、試験例4では12.5mg/mlに調製したIgA産生促進剤を投与した。また、コントロール2についてはIgA産生促進剤の投与を行なっていない。そして、各群のマウスについて、鳥インフルエンザウイルス接種後、0、7、14、21、28日後にそれぞれ糞便を採取し、上記試験と同様の方法により糞(100mg)中に含まれる分泌型IgA量を測定した。その結果を図2に示す。
まず、IgA産生促進剤を投与していないコントロール2では、図1のコントロール1と比較してその分泌型IgA量が半分以下に低下しており、免疫機能が低下した状態にあることが確認できる。そして、2.5mg/mlに調製したIgA産生促進剤を投与した試験例3では、コントロール2と比較して分泌型IgA量が増加傾向を示した。また、12.5mg/mlに調製したIgA産生促進剤を投与した試験例4では、コントロール2と比較して顕著な分泌型IgA量の増加が認められ、とくに21日後及び28日後における分泌型IgA量は、免疫機能が正常な状態にあるコントロール1と同程度であった。この結果から、本発明のIgA産生促進剤は対象の免疫機能が低下している状態にあっても有効であり、また、低下状態にある免疫機能を正常域まで賦活することが確認された。したがって、本発明のIgA産生促進剤は、加齢や種々の疾患、薬物投与によって免疫機能が低下した患者に対しても副作用を生じさせることなく有効に免疫賦活作用を発揮することが示唆される。
次に、上記実施形態、別例及び実施例から把握できる技術的思想について記載する。
○ 抗インフルエンザウイルス剤として適用されることを特徴とする免疫グロブリンA産生促進剤。
○ 免疫機能が低下した患者用に用いられることを特徴とする免疫グロブリンA産生促進剤。
○ 前記髪菜の抽出物は、熱水を用いて抽出されたものであることを特徴とする免疫グロブリンA産生促進剤。

Claims (2)

  1. 分泌型の抗鳥インフルエンザウイルス免疫グロブリンAの産生を促進する免疫グロブリンA産生促進剤であって、
    髪菜の抽出物を主成分として含有することを特徴とする免疫グロブリンA産生促進剤。
  2. 免疫賦活剤として適用されることを特徴とする請求項に記載の免疫グロブリンA産生促進剤。
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