JP5370969B2 - 心筋障害の検査方法 - Google Patents
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そこで、心筋障害の治療法としては、対症的な治療法で乗り切るしかない現状を鑑み、心筋障害の根本的治療を導入する足がかりとなる検査方法を提供する。
1.被験者から得られた試料中の抗心筋型ジヒドロピリジン受容体抗体および/または抗心筋型リアノジン受容体抗体を指標とする心筋障害の検査方法。
2.心筋障害が、不整脈、心不全、心筋症、心肥大、心筋線維化、心筋炎、心房細動、心房粗動、高血圧症から選ばれる少なくとも一を有する疾患である前項1に記載の検査方法。
3.被験者が重症筋無力症または胸腺腫である前項1又2に記載の検査方法。
4.被験者が重症筋無力症または胸腺腫でない場合には、心筋障害の原因を自己抗体であると判定する前項1又2に記載の検査方法。
5.被験者から得られた試料が血清である前項1〜4のいずれか一に記載の検査方法。
6.検査方法が、免疫沈降法、ウェスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、RIA法、凝集法、およびこれらの変法から選ばれるいずれか一の方法である、前項1〜5のいずれか一に記載の検査方法。
7.前項1〜6のいずれか一に記載の検査方法に用いる試薬を含む検査用キット。
8.心筋型ジヒドロピリジン受容体もしくはその断片および/または心筋型リアノジン受容体もしくはその断片を含む前項7に記載の検査用キット。
特に、被験者が重症筋無力症または胸腺腫でない場合には、心筋障害の原因を免疫系の関与(自己抗体の存在)であると判定できる。この判定結果により、心筋障害の治療方法が、対症的治療ではなく、根本的治療につなげることができる。特に、亜急性期から慢性期の心筋障害(不整脈、心不全、心筋症など)での免疫関与を明らかにして、免疫治療を導入する足がかりとなる検査方法である。
心筋ではジヒドロピリジン受容体(DHPR)を介するCa2+流入によってCICR機構が働き、RyRからのCa2+動員がおこって心筋の収縮が開始される。一方、骨格筋の場合はCICR機構を強固に抑制しても収縮が阻害されないとの報告や細胞外にCa2+が存在しない状況下においても脱分極刺激に応じて筋小胞体よりCa2+放出が誘導され、筋収縮が観察されるとの報告があることから、Ca2+放出の制御にはCICR機構が必須ではないとの認識が一般的である 。
DHPRにはさらにサブタイプがあり、主に心筋では α1C (Cav1.2とも呼ばれる) が存在するのに対し、骨格筋ではα1S (Cav1.1とも呼ばれる)が存在する{栗原崇, 田邊勉. 電位依存性Ca2+チャネル: 蛋白質 核酸 酵素. 43, 1579-1588 (1998)}。
本願発明の検査対象である心筋障害とは、心筋の障害であれば特に限定されるものではないが、例えば、不整脈、心不全、心筋症(拡張型心筋症、肥大型心筋症等)、心筋線維化、心筋炎、心房細動、心房粗動、心肥大、高血圧症等などが挙げられる。
さらに、本発明の検査方法により心筋障害と判定された場合には、心筋障害の原因を免疫系の関与(自己抗体の存在)と考えられる。特に、被験者が重症筋無力症または胸腺腫でない場合には、心筋障害の原因は免疫系の関与(自己抗体の存在)の可能性が高い。
これにより、前記被験者の心筋障害の治療に免疫療法を導入することができる。なお、免疫治療は、対症治療とは異なり、心筋障害の根本的治療方法となる。
好適には免疫学的方法を用いて検出することができる。例えば、免疫沈降法、ウェスタンブロット法(イムノブロット法)、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、RIA法、凝集法(例えば、ラテックス凝集法)、およびこれらの変法が挙げられる。
ウエスタンブロット用(電気泳動用)試料は、例えば、血清をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈して、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動用の2−メルカプトエタノールを含むサンプル緩衝液(シグマ社製等)と混合したものを用いる。
ドット/スロットブロット用試料は、例えば、血清そのもの、又は緩衝液で適宜希釈したものを、ブロッティング装置を使用するなどして、直接メンブレンへ吸着させたものを用いる。
1)まず、アッセイプレートにDHPRα1CまたはRyR2に対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体をコートし、
2)ヒトまたは他の哺乳動物由来のDHPRα1C、RyR2またはそれらの断片をプレート上の抗体に結合させ、
3)患者血清、必要に応じて二次抗体、発色基質をプレートに添加し、吸光度を測定する。
サンドイッチELISAは、抗体価を数値化できるため治療前後など経時的変化の観察や患者間の比較がしやすい、という点で優れている。
抗体は、常法により、抗原となるタンパク質、あるいはそのアミノ酸配列から選択される任意のポリペプチドを用いて動物を免疫し、該動物生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。
また、公知の方法(例えば、K hler and Milstein, Nature 256, 495-497, 1975; Kennet, R. ed., Monoclonal Antibody p.365-367, 1980, Prenum Press, N.Y.)にしたがって、特異的抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、これよりモノクローナル抗体を得ることもできる。
なお、検出に用いられる抗原は、哺乳動物の心筋の粗抽出液を用いてもよい。粗抽出液を用いると抗原入手が容易であり、抗原の立体構造を保持できる。
標識三次抗体(又は標識ストレプトアビジン)としては、予め標識された抗体(又はストレプトアビジン)が、各種市販されている。
なお、RIAの場合は125I等の放射性同位元素で標識された抗体を用い、測定は液体シンチレーションカウンター等を用いて行う。
また、デンシトメトリーやモレキュラー・イメージャーFxシステム(バイオラッド社製)等を利用した定量も可能である。
さらに、ELISA法で発光基質を用いる場合は、発光マイクロプレートリーダー(例えば、バイオラッド社製等)を用いて酵素活性を測定する。
また、ヒトDHPRα1CまたはヒトRyR2あるいはそれらのエピトープを含む断片、もしくはこれらと同じアミノ酸配列を有する組換え型ヒトDHPRα1CまたはRyR2あるいはそのエピトープを含む断片であることが好ましい。これらは、上述した方法により作製することができる。
また、前記抗体あるいはその断片は、適当な支持体に固相化されていてもよいし、あるいは固相化可能なように別個に支持体がキットに含まれていてもよい。
そのような支持体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド等のタンパク質を付着可能な合成樹脂、ガラス、ニトロセルロース、セルロース、及びアガロース製の支持体、あるいはゲル型支持体を使用することができる。支持体の形態は特に限定されないが、極小球あるいはビーズ(例えば"ラテックス"ビーズ)などの微粒子、微量遠心チューブなどのチューブ(内壁)、マイクロタイタープレート(ウェル)等の形態で提供される。
血清中の心筋型であるRyR2およびDHPRα1C に対する抗体の存在の確認並びに骨格筋型であるRyR1およびDHPRα1S との反応性の比較のため、心筋由来タンパク質分画及び骨格筋由来タンパク質分画を抗原としたイムノブロットを行い、それぞれのモノクローナル抗体と同じ分子量の位置にバンドが検出されるかを調べた。
試料は、患者より同意を得て採血し、その血清を使用した。
MG患者24名(胸腺腫合併14名、正常胸腺10名)、MG非合併胸腺腫 8名、疾患コントロール群6名{筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ギラン・バレー症候群(GBS)、他}並びに正常コントロール群10名の血清を使用した。
ウサギ(10週齢、2.02 kg、メス、Healthy Kbs : JW 日本白色種)の心臓および後肢骨格筋を取り出し、ホモジナイズし、超遠心分離などにより分画し、RyR2、DHPRα1Cを含む心筋抗原タンパク質分画、RyR1、DHPRα1Sを含む骨格筋抗原タンパク質分画を得た。
モノクローナル抗体は、マウス抗1型リアノジン受容体モノクローナル抗体 (LifeSpan Biosciences, Inc., Seattle, WA)、マウス抗2型リアノジン受容体モノクローナル抗体(Affinity Bio Reagents, Rockford, IL)、マウス抗ジヒドロピリジン受容体α1Sサブユニットモノクローナル抗体(SIGMA-ALDRICH Inc.,Saint Louis, Missouri, USA) 及びウサギ抗ジヒドロピリジン受容体α1Cサブユニットポリクローナル抗体(abcam,東京)を使用した。
前記メンブレンを洗浄した後、HRP標識二次抗体を反応させた。二次抗体は、HRP標識ヤギ抗マウスIgG抗体 (MP Biomedicals -Cappel Products, Costa Mesa, CA, USA) 及びHRP標識抗ウサギ抗体(MP Biomedicals -Cappel Products, Costa Mesa, CA, USA)を使用した。メンブレンを洗浄した後、シグナルの検出を行った。
MGおよび胸腺腫の血清においてバンドが検出された(図1)。
MGおよび胸腺腫の血清の陽性率を下記表1に記載する。
RyR2の陽性検体数は、胸腺腫合併MGで14例中8例(57.1 %)、胸腺腫非合併MGで10例中3例(30.0 %)、であった。RyR2に対するバンドはMGを発症していない胸腺腫からは検出されなかった。
また、DHPRα1Cに対するバンドが検出された検体数は、胸腺腫合併MGで14例中3例(21.4 %)、胸腺腫非合併MGで10例中3例(30.0 %)、胸腺腫で8例中3例(37.5 %)、であった。
以上により、MG患者およびMG非合併胸腺腫の患者において自己抗体(抗RyR2抗体および/または抗DHPRα1C抗体)を持つ患者が存在することが示された。
胸腺腫合併MG群、胸腺腫非合併MG群およびMG非合併胸腺腫群の合計32例中、心筋型のみ陽性の検体がRyRで2例、DHPRで7例存在した。
また、骨格筋のみ陽性の検体がRyRで3例、DHPRで6例存在した。
RyR、DHPRともに骨格筋のみ、もしくは心筋のみに反応する検体が存在した結果を得た。該結果は、RyR1とRyR2に交叉反応する自己抗体だけでなく、RyR1とRyR2にそれぞれ単独で反応する自己抗体が存在することが示された。さらに、DHPRα1CとDHPRα1Sにそれぞれ単独で反応する自己抗体の存在も示された。
以上により、骨格筋型RyR1に対する自己抗体とは異なる、心筋型RyR2に対する自己抗体が存在することを確認した。さらに、骨格筋型DHPRα1Sに対する自己抗体とは異なる、心筋型DHPRα1Cに対する自己抗体が存在することを確認した。
下記表3の結果より、心筋型RyR2、DHPRα1Cに対する自己抗体の存在により、心筋障害を生じる可能性がある。さらに、心筋型RyR2、DHPRα1Cに対する自己抗体を検出することにより現時点では明らかになっていない心筋障害の悪化・進行を予測することもできる。
心筋型DHPRに対する自己抗体陽性の胸腺腫合併MG群の3例中3例で心電図異常を確認した。
心筋型DHPRに対する自己抗体陽性の胸腺腫非合併MG群の3例中1例で心電図異常を確認した。
心筋型DHPRに対する自己抗体陽性のMG非合併胸腺腫群の3例中1例で心電図異常を確認した。
以上により、心筋型DHPRに対する自己抗体は、胸腺腫合併MG、MG及びMG非合併胸腺腫患者の心筋障害の指標(検査マーカー)とすることができる。
Claims (6)
- 心筋障害を検査するために、被験者から得られた試料中の抗心筋型ジヒドロピリジン受容体抗体および/または抗心筋型リアノジン受容体抗体を測定する方法。
- 心筋障害が、心電図異常、高血圧症から選ばれる少なくとも一を有する疾患である請求項1に記載の方法。
- 被験者が重症筋無力症または胸腺腫である請求項1又2に記載の方法。
- 被験者から得られた試料が血清である請求項1〜3のいずれか一に記載の方法。
- 測定方法が、免疫沈降法、ウェスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、RIA法、凝集法、およびこれらの変法から選ばれるいずれか一の方法である、請求項1〜4のいずれか一に記載の方法。
- 心筋型ジヒドロピリジン受容体もしくはその断片および/または心筋型リアノジン受容体もしくはその断片を含む心筋障害検査用キット。
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