JP5366195B2 - 注射針組立体および薬剤注射装置 - Google Patents

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Description

本発明は、針先を皮膚の表面より穿刺し、皮膚上層部に薬剤を注入するために用いる注射針組立体および薬剤注射装置に関する。
近年、鳥インフルエンザのヒトへの感染が報告されており、ヒトからヒトへの感染の大流行(パンデミック)による多くの被害が懸念されている。そこで、鳥インフルエンザに有効である可能性が高いプレパンデミックワクチンの備蓄が世界中で行なわれている。また、プレパンデミックワクチンを多くのヒトに投与するために、ワクチンの製造量を拡大させる検討が行なわれている。
皮膚は、表皮と、真皮と、皮下組織の一部の3部分から構成される。表皮は、皮膚表面から50〜200μm程度の層であり、真皮は、表皮から続く1.5〜3.5mm程度の層である。インフルエンザワクチンは、一般的に皮下投与もしくは筋肉内投与であるため、皮膚の下層部もしくはそれよりも深部に投与されている。
一方、免疫担当細胞が多く存在する皮膚上層部を標的部位として、インフルエンザワクチンを投与することにより、投与量を少なくしても、皮下投与や筋肉投与と同等の免疫獲得能が得られることが報告されている(非特許文献1)。したがって、プレパンデミックワクチンを皮膚上層部に投与することによって、投与量を減らすことができるので、プレパンデミックワクチンをより多くのヒトに投与できる可能性がある。なお、皮膚上層部とは、皮膚のうちの表皮と真皮を指す。
皮膚上層部への薬剤の投与方法としては、単針、多針、パッチ、ガス等を用いた方法が報告されている。そして、投与の安定性、信頼性、製造コストを考慮すると、皮膚上層部への投与方法としては、単針を用いた方法が最も適している。この単針を用いて皮膚上層部にワクチンを投与する方法として、古くからマントー法が知られている。マントー法は、一般的に26〜27Gのサイズで短ベベルの針先を有する針を皮膚に対して10〜15°程度の斜め方向から2〜5mm程度挿入して、100μl程度の薬剤を投与する方法である。
ところが、マントー法は、手技が難しく、注射を行う医者の技量に委ねられる。特に小児は投与時に動く可能性があるため、マントー法によってインフルエンザワクチンを投与することは難しい。したがって、簡便に皮膚上層部にワクチンを投与することのできるデバイスの開発が求められている。
特許文献1には、針ハブに皮膚接触面を有するリミッタを接続した皮膚上層部への注射装置が記載されている。この特許文献1に記載されたリミッタは、針管の周囲に設けられており、針管との間に間隙を有するものである。このリミッタの皮膚に接触する面から突出する針管の長さ(突出長)を0.5〜3.0mmに規定することにより、薬剤を皮膚内に投与するようになっている。
また、特許文献2には、目標とする深さより深く穿刺することを防ぐ注射針用穿刺調整具に関するものが記載されている。この特許文献2に開示された注射針用穿刺調整具の中には、針管の周囲に密着するものもある。
特開2001−137343号公報 特開2000−037456号公報
R.T.Kenney et al. New England Journal of Medicine, 351, 2295−2301 (2004).
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された注射装置では、針管の周囲に設けられたリミッタや針管の周囲に密着させた注射針用穿刺調整具によって、針管の針先が見え難くなっている。そのため、特許文献1及び特許文献2に記載された技術では、使用者は、どの程度の押圧力で針管が生体を穿刺しているのかを認識することが難しい、という問題があった。さらに、注射装置の生体に対する適正な押圧力を認識できないことにより、針管の針先及び刃面が確実に皮膚上層部に位置しているのかという不安感を使用者に与えていた。
本発明の目的は、上記の問題点を考慮し、適正な押圧力で針管を皮膚に穿刺ことができると共に針管の針先及び刃面を皮膚上層部に確実に位置させることができる注射針組立体及び薬剤注射装置を提供することにある。
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の注射針組立体は、生体に穿刺可能な針先を有する26〜33Gの針管と、この針管を保持するハブと、針管の周囲に設けられ、針管の針先が突出する針突出面を有する調整部と、を備えている。さらに、注射針組立体は、針管の周囲を覆うように配置されて針管を生体に穿刺する場合に皮膚と接触する筒形状の安定部と、安定部の外周面に設けられ、皮膚と接触する接触面を有し、針管を生体に穿刺する場合に接触面が皮膚と接触するまで安定部を皮膚に押し付けることで針管及び安定部の生体への押圧力を案内するガイド部と、を備えている。また、ガイド部の接触面は、安定部における皮膚と接触する端面から所定の距離を保って設けられている。
また、本発明の薬剤注射装置は、生体に穿刺可能な針先を有する26〜33Gの針管と、針管を保持するハブと、ハブに接続されるシリンジと、針管の周囲に設けられ、針管の針先が突出する針突出面を有する調整部と、を備えている。さらに、薬剤注射装置は、針管の周囲を覆うように配置されて針管を生体に穿刺する場合に皮膚と接触する筒形状の安定部と、安定部の外周面に設けられ、皮膚と接触する接触面を有し、針管を生体に穿刺する場合に接触面が皮膚と接触するまで前記安定部を皮膚に押し付けることで針管及び安定部の生体への押圧力を案内するガイド部と、を備えている。また、ガイド部の接触面は、安定部における皮膚と接触する端面から所定の距離を保って設けられている。
本発明の注射針組立体及び薬剤注射装置によれば、ガイド部によって針管及び安定部による生体への押圧力を使用者に案内することができ、使用者は、適正な所定の押圧力を確保して針管を皮膚に穿刺することができる。さらに、針管及び安定部による生体への適正な押圧力を認識することができることにより、使用者が不安感を抱かずに使用することができ、針管の針先及び刃面を皮膚上層部に確実に位置させることができる。
本発明の注射針組立体の第1の実施の形態例を示す構成図である。 本発明の注射針組立体の第1の実施の形態例を示す斜視図である。 本発明の薬剤注射装置にかかる針管を皮膚に穿刺した状態を示す説明図である。 ガイド部高さを測定するための測定装置を示す説明図であり、図4(a)は測定装置を皮膚に載置した状態を示す説明図、図4(b)は測定装置に係る押圧部材を押圧した状態を示す説明図である。 接触部の内径を変化させた場合のガイド部高さの測定値を示すグラフである。 ガイド部長さを変化させた場合のガイド部高さの測定値を示すグラフである。 本発明の注射針組立体の第2の実施の形態例を示す構成図である。
以下、本発明の薬剤注射装置の実施形態例について、図1〜図7を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。また、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
1.第1の実施の形態
[注射針組立体および薬剤注射装置の構成例]
まず、図1〜図3を参照して本発明の第1の実施の形態例(以下、「本例」という。)にかかる注射針組立体及び薬剤注射装置について説明する。
図1は本例の注射針組立体を示す模式図、図2は本例の注射針組立体を示す斜視図である。図3は本例の薬剤注射装置の使用状態を示す説明図である。
図1及び図2に示すように、注射針組立体1は、中空の針管2と、針管2を保持するハブ3と、針管2に固定された調整部4と、安定部6を備えている。さらに、ハブ3にシリンジ9を接続することによって、本発明の薬剤注射装置をなすものである(図3参照)。
針管2は、ISOの医療用針管の基準(ISO9626:1991/Amd.1:2001(E))で26〜33Gのサイズ(外径0.2〜0.45mm)のものを使用し、好ましくは30〜33Gのものを使用する。針管2の先端部には、針先を鋭角にするための刃面2aが形成されている。この刃面2aの針管2が延びる方向の長さ(以下、「ベベル長B」という)は、後述する皮膚上層部の最薄の厚さである1.4mm(成人)以下であればよく、また、33Gの針管に短ベベルを形成したときのベベル長である約0.5mm以上であればよい。すなわち、ベベル長Bは、0.5〜1.4mmの範囲に設定されるのが好ましい。
さらに、ベベル長Bは、皮膚上層部の最薄の厚さが0.9mm(小児)以下、すなわち、ベベル長Bが0.5〜0.9mmの範囲であればなおよい。なお、短ベベルとは、注射用針に一般的に用いられる、針の長手方向に対して18〜25°をなす刃面を指す。
針管2の材料としては、例えば、ステンレス鋼を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができる。また、針管2は、ストレート針や、少なくとも一部がテーパー構造となっているテーパー針を適用することができる。
テーパー針としては、針先を含む先端部分に比べ、ハブに固定される基端部分をより太い外径とし、その中間部分をテーパー構造とすればよい。さらに、調整部をテーパー部分に設けることによって、テーパー部分の傾斜の存在により、調整部が基端方向へ移動することが規制される。これにより、針突出面を強く皮膚に押し付けても、針先が針突出面から突出する長さが変化することがなく、皮膚の所定の深さに確実に穿刺することができる。
針管2の筒孔は、ハブ3に連通している。ハブ3は、針管2を保持するハブ本体3aと、このハブ本体3aに連続するフランジ3bを有している。ハブ本体3aは、先端に達するに連れて小さくなるようなテーパー構造となっている。このハブ本体3aの先端部には、針管2の基端部が固定されている。フランジ3bは、ハブ本体3aの基端部に設けられている。このフランジ3bには、安定部6が固定される。なお、このハブ3は、シリンジに接続することができればどのような形態でもよい。
シリンジ9は、薬剤注射装置を使用するときに薬剤を充填させるものでもよく、予め薬剤が充填されたプレフィルドシリンジであってもよい。また、シリンジ9に充填される薬剤としては、ワクチンを挙げることができるが、サイトカインなどの高分子物質を用いたものや、ホルモンであってもよい。
調整部4は、円柱状に形成されている。針管2は、調整部4を貫通しており、針管2の軸心と調整部4の軸心が一致している。調整部4は、針管2の周面に密着して固定されている。調整部4の一方の端面は、ハブ3に対向するハブ対向面4aとなっており、他方の端面は、針管2の針先が突出する平らな針突出面4bとなっている。
調整部4のハブ対向面4aには、針管2の周囲を囲うような接着剤用凹部4cが設けられている。調整部4は、針管2が貫通した状態で接着剤用凹部4cに接着剤5を塗布することにより、針管2の周面に密着して固定されている。接着剤5としては、シアノアクリレートやエポキシ樹脂、光硬化性樹脂等を挙げることができるが、その他の樹脂によって生成されたものであってもよい。
調整部4の針突出面4bは、針管2を皮膚上層部に穿刺するときに、皮膚の表面に接触して針管2を穿刺する深さを規定する。つまり、針管2が皮膚内に穿刺される深さは、針管2の針突出面4bから突出する長さ(以下、「突出長L」という。)によって決定される。
皮膚上層部の厚みは、皮膚の表面から真皮層までの深さに相当し、概ね、0.5〜3.0mmの範囲内にある。そのため、針管2の突出長Lは、0.5〜3.0mmの範囲に設定することができる。
また、インフルエンザワクチンの投与部位である三角筋の皮膚上層部の厚みを小児19人と大人31人で測定した。測定は、超音波測定装置(NP60R−UBM 小動物用高解像度用エコー、ネッパジーン(株))を用いて、超音波反射率の高い皮膚上層部を造影し、その厚みを測定した。ここで、測定値が対数正規分布となっていたので、幾何平均によってMEAN±2SDの範囲を求めた。その結果、小児で0.9〜1.6mm、成人では、遠位部で1.4〜2.6mm、中央部で1.4〜2.5mm、近位部で1.5〜2.5mmであった。以上のことから、三角筋における皮膚上層部の厚みは、小児の場合で0.9mm以上、成人の場合で1.4mm以上であることが確認された。そのため、三角筋の皮膚上層部における注射において、好ましい針管2の突出長Lは、0.9〜1.4mmの範囲に設定することができる。
また、この様に針管2を設定することで、刃面2aを皮膚上層部内に確実に位置させることが可能となる。その結果、刃面2aに開口する薬液排出口は、刃面2a内のいかなる位置にあっても、皮膚上層部内に位置することが可能である。なお、薬液排出口が皮膚上層部内に位置しても、針先が皮膚上層部より深く刺されば、針先端部の側面と切開された皮膚との間から薬液が皮膚上層部の外に逃げてしまう。そのため、針管2の針先及び刃面が確実に皮膚上層部内に位置することが重要である。
なお、26Gよりも太い針管では、ベベル長Bを1.0mm以下にすることは難しい。したがって、針管2の突出長Lを好ましい範囲(0.9〜1.4mm)に設定するには、26Gよりも細い針管を使用することが好ましい。
調整部4の針突出面4bは、周縁から針管2の周面までの距離Sが1.4mm以下となるように形成し、好ましくは0.3〜1.4mmの範囲で形成する。この針突出面4bの周縁から針管2の周面までの距離Sは、針突出面4bが針管2の周囲の皮膚を押圧して、皮膚上層部に形成される水疱に圧力を加えることを考慮して設定している。これにより、針突出面が、針管の周囲の皮膚を押圧して、投与された薬剤が漏れることを防止することができる。
調整部4の材質としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂(プラスチック)を用いてもよく、また、ステンレス、アルミニウム等の金属を用いてもよい。
本実施形態では、接着剤5を用いて調整部4を針管2に固定したが、本発明の注射針組立体としては、その他の方法で針管2に調整部を固定するようにしてもよい。
例えば、調整部4を金属によって形成して針管2に固定する場合のその他の方法としては、かしめや溶接等を挙げることができる。また、調整部4を合成樹脂で形成して針管2に固定する場合のその他の方法としては、溶着や一体成形(特に、インサート成形)を挙げることができる。
安定部6は、直径の異なる2つの円筒が軸方向に連なった形状を有している。この安定部6の筒孔には、針管2,ハブ3及び調整部4が配置されている。また、安定部6は、ハブ3に固定される固定部6aと、針管2及び調整部4の周囲を覆う接触部6bとを有している。固定部6aの端部は、ハブ3のフランジ3bに接着剤などの固定方法によって固定されている。そして、固定部6aの筒孔には、ハブ3のハブ本体3aが収納されている。また、この固定部6aの軸方向の一側には、接触部6bが連続して設けられている。
接触部6bは、固定部6aをハブ3に固定することで、針管2及び調整部4の周囲を覆うように配置される。この接触部6bの内径は、固定部6aの内径よりも大きくなるように設定されている。なお、本例では、接触部6bの軸方向の一端側の端面6cは、調整部4の針突出面4bと略同一平面上に位置している。そして、安定部6の端面6cと調整部4の針突出面4bで形成される平面に対して針管2が直交している。
よって、図3に示すように、針管2を生体に穿刺した場合に、調整部4の針突出面4bが皮膚の表面に接触すると共に安定部6の端面6cも皮膚の表面に接触する。これにより、安定部6によって針管2を皮膚に対して略垂直に支持することができる。その結果、針管2がブレることを防止することができ、皮膚に対して針管2を真っ直ぐ穿刺することを可能としている。
なお、調整部4の針突出面4bは、安定部6の端面6cと同一平面上に位置しなくてもよい。すなわち、調整部4の針突出面4bが、端面6cから安定部6の軸方向の他側(固定部6a側)に位置していても、本発明の目的は達成できるものである。そして、安定部6を皮膚に押し付けた際の皮膚の盛り上がりを考慮すると、調整部4の針突出面4bと端面6cにおける軸方向の距離は、1.3mm以下に設定することが好ましい。
また、安定部6における接触部6bの内径dは、皮膚に形成される水疱の直径と同等であるか、それよりも大きい値に設定されている。具体的には、接触部6bの内壁面から調整部4の外周面までの距離Tが4mm〜15mmの範囲となるように設定されている。これにより、安定部6の内壁から水疱に圧力が印加されて、安定部6によって水疱形成が阻害されることを防止することができる。
なお、安定部6の内壁面から調整部4の外周面までの距離Tは、4mm以上であれば、特に上限はない。しかしながら、距離Tを大きくすると、安定部6の外径および接触部6bの外径が大きくなる。この接触部6bの外径が大きくなると、小児のように細い腕に針管2を穿刺する場合に、接触部6bの端面6cを皮膚に接触させることが難しくなる。そのため、小児の腕の細さを考慮した際に、安定部6(接触部6b)の内壁面から調整部4の外周面までの距離Tは、15mmを最大と規定することが好ましい。
また、調整部4の針突出面4bの周縁から針管2の周面までの距離Sは0.3mm以上であれば、針管2が皮膚を突き通すことがない。従って、接触部6bの内壁面から調整部4の外周面までの距離T(4mm以上)及び針管2の直径(約0.3mm)を考慮すると、接触部6bの内径dは9mm以上に設定することができる。
更に、安定部6における接触部6bの外周面には、ガイド部7が一体成形されている。ガイド部7は、安定部6の外周面の周方向に沿って連続して設けられている。そして、ガイド部7は、安定部6の外周面から半径方向の外側に向けて略垂直をなして突出するリング状のフランジとして形成されている。このガイド部7は、皮膚と接触する接触面7aを有している。接触面7aは、安定部6の端面6cと略平行をなす平面である。
ガイド部7の接触面7aが皮膚に接触するまで安定部6を押し付けることにより、安定部6及び針管2が皮膚を押圧する力を常に所定値以上に確保することができる。これにより、針管2の針突出面4bから突出している部分(突出長Lに相当)が確実に皮膚内に穿刺される。そして、ガイド部7の接触面7aから安定部6の端面6cまでの距離(以下、「ガイド部高さ」という。)yは、針管2及び安定部6が適正な押圧力で皮膚に穿刺することができるようにその長さが設定されている。なお、針管2及び安定部6の適正な押圧力は、例えば、0.5〜20Nである。その結果、使用者に対して針管2及び安定部6による皮膚への押圧力をガイド部7で案内することができると共に針管の針先及び刃面2aを皮膚上層部に確実に位置させることができ、使用者に安心感を与えることができるという効果が得られる。
具体的には、安定部6の内径dが12〜14mmの範囲の場合、ガイド部高さyは、ガイド部7の突出端面から安定部6の外周面までの長さ(以下、「ガイド部長さ」という。)xに基づいて、下記式1から算出される。
[式1]
1.0Ln(x)+1.2<y<3.1Ln(x)+3.2
この式1は、後述する実験例の結果に基づいて決定した。
なお、安定部6の内径dが11mmの場合、ガイド部高さyは、例えば、ガイド部長さxが0.5mmのとき、0.75〜2.6mmの範囲に設定されている。この数値は、上述した式1と同様に、後述する実験例の結果に基づいて決定した。
安定部6及びガイド部7の材質としては、調整部4と同様に、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂(プラスチック)を用いてもよく、また、ステンレス、アルミニウム等の金属を用いてもよい。
なお、安定部6の形状は、円筒形に限定されるものではなく、例えば、中心に筒孔を有する四角柱や六角柱等の角筒状に形成してもよい。また、固定部6aと接触部6bの直径が同一になるように安定部を形成してもよい。
更に、安定部6をハブ3に固定した例を説明したが、安定部6は薬剤注射装置を構成するシリンジ9に固定してもよい。また、本例では、接着剤を用いて安定部6をハブ3に固定したが、本発明の注射針組立体としては、その他の方法でハブ3に安定部6を固定するようにしてもよい。例えば、安定部6を金属によって形成してハブ3に固定する場合のその他の方法としては、かしめや溶接等を挙げることができる。また、安定部6を合成樹脂で形成してハブ3に固定する場合のその他の方法としては、溶着や一体成形(特に、インサート成形)を挙げることができる。
[薬剤注射装置の使用方法]
次に、注射針組立体1を適用した薬剤注射装置の使用方法について、図3を参照して説明する。
まず、安定部6の端面6cを皮膚に対向させる。これにより、針管2の針先が、穿刺する皮膚に対向される。次に、注射針組立体1を皮膚に対しほぼ垂直に移動させ、針管2を皮膚に穿刺すると共に安定部6の端面6cを皮膚に押し付ける。ここで、調整部4の針突出面4bと安定部6の端面6cは、同一平面上に位置している。これにより、調整部4の針突出面4bが皮膚に接触して皮膚を平らに変形させることができ、針管2を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
次に、ガイド部7の接触面7aが皮膚に接触するまで安定部6を押し付ける。ここで、ガイド部高さyは、針管2及び安定部6が適正な押圧力で皮膚に穿刺することができるようにその長さが設定されている。そのため、安定部6によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。したがって、使用者に対して安定部6の押圧力を案内することができると共に適正な押圧力で安定部6を皮膚に押し付けることができ、針管2の針先及び刃面2aを確実に皮膚上層部内に位置させることができる。このように、ガイド部7が安定部6の押圧力を案内する目印となることで、針管の針先を皮膚上層部に確実に位置させることができ、皮膚上層部内に確実に薬剤を投与することができると共に、使用者の安心感を向上させることが可能である。
また、安定部6が皮膚と当接することで、針管2を安定させて、針管2を皮膚に対して真っ直ぐに穿刺することができる。よって、針管2に生じるブレを防止することができ、薬剤の安定した投与を行うことができる。また、例えば0.5mm程度のごく短い突出長の針では、針先を皮膚に当接させても皮膚に刺さらない場合がある。しかし、安定部6が皮膚に押し付けられて垂直方向に皮膚が押し下げられると、安定部6の内側の皮膚が引っ張られて皮膚に張力が加わった状態となる。そのため、針管2の針先に対して皮膚が逃げ難くなるので、安定部6は、皮膚に針先がより刺さり易くなるという効果も有している。
更に、突出長Lが0.5〜3.0mmの範囲に設定されているため、針管2の針先及び刃面2aは、確実に皮膚上層部内に位置する。その後、ハブ3に接続されたシリンジ9により皮膚上層部内に薬剤を注入する。
注射針組立体1の調整部4は、針管2の周囲に密着して固定されており、針管2の調整部4を貫通する部分と調整部4との間には間隙が生じないようになっている。そのため、調整部4の針突出面4bを皮膚に当接させると、針管2の周囲の皮膚を平らに変形させることができる。その結果、針管2を突出長Lだけ皮膚に穿刺させることができ、針管2の針先を皮膚上層部内に確実に位置させることができる。
また、調整部4の針突出面4bと安定部6の内径dを適正な大きさに設定したため、注入した薬剤が体外へ漏れないようにすることができ、薬剤を皮膚上層部内に確実に投与することができる。
[実験例]
次に、図4〜図6を参照して、所定の押圧力で安定部6を皮膚に押し付けた場合における安定部6が皮膚に押し込まれる距離(ガイド部高さyに相当する)を測定した実験例について説明する。
図4は、ガイド部高さyを測定するための測定装置を示す説明図である。図5は、接触部6bの内径dを変化させた場合のガイド部高さyの測定値を示すグラフである。図6は、ガイド部長さxを変化させた場合のガイド部高さyの測定値を示すグラフである。
まず、この実験に用いた測定装置100について説明する。測定装置100は、合成樹脂(プラスチック)を切削加工することによって形成した。この測定装置100は、円形の筒状に形成された外筒101と、この外筒101の筒孔101aに摺動可能に嵌合された押圧部材102を備えている。
外筒101の一方の端部(下端部)には、外筒101の半径方向に突出したフランジ103が設けられている。このフランジ103の底面103aは、外筒101の端面と同一の平面を形成している。フランジ103は、注射針組立体1(図1を参照)のガイド部7に相当する。そして、フランジ103を含む外筒101の径方向の厚さは、注射針組立体1におけるガイド部長さxに相当する。
押圧部材102は、外筒101の筒孔101aの直径と略等しい直径の円柱体からなり、上面102aと、底面102bを有している。この押圧部材102の底面102bには、円形の凹部104が設けられている。この凹部104の直径は、注射針組立体1における安定部6の接触部6bの内径dに相当する。
一方、押圧部材102の底面102bは、凹部104が設けられることにより、円形のリング状に形成されている。この押圧部材102の底面102bは、注射針組立体1における安定部6の端面6cに相当する。なお、今回の実験で用いる測定装置100では、押圧部材102の底面102bの幅が0.5mmに設定されている。
このような構成を有する測定装置100を用いてガイド部高さyを測定するには、まず、図4(a)に示すように、測定装置100を皮膚に載置する。このとき、外筒101に設けたフランジ103の底面103aと、押圧部材102の底面102bとが皮膚に接触している。
次に、図4(b)に示すように、押圧部材102の上面102aを所定の力で押圧する。これにより、押圧部材102が外筒101の筒孔101a内を移動し、底面102bが皮膚に押し付けられる。その結果、外筒101および押圧部材102は、接触部6bが皮膚に押し付けられた状態の安定部6と同じ形態になる。
押圧部材102の底面102bが皮膚に押し付けられると、凹部104内に皮膚の盛り上がりが形成される。また、押圧部材102の底面102bからフランジ103の底面103aまでの距離は、注射針組立体1におけるガイド部高さyに相当する。したがって、押圧部材102の底面102bからフランジ103の底面103aまでの距離を測定することにより、ガイド部高さyを設定することができる。
本実験は、大人10人におけるワクチンの投与部位である三角筋の皮膚におけるガイド部高さyを測定した。本実験では、まず、凹部104の直径(接触部6bの内径d)がそれぞれ11mm、12mm、13mm、14mmである4つの測定装置100を用いてガイド部高さyを測定した。なお、ガイド部長さxは、0.5mmにした。そして、押圧部材102を押圧する力は、0.5及び20Nとした。この0.5N及び20Nの押圧力は、実際の使用における押圧力の最小値と最大値と考えられる。0.5Nの押圧力は、皮膚に穿刺できる最小押圧力であり、0.5N未満では皮膚に穿刺することが不可能であった。20Nの押圧力は、皮膚上層部に薬剤を投与できる最大押圧力である。押圧力が20Nを超えると調整部4にかかる押圧力が大きく、皮膚が押し潰されて変形し、針先が皮下に達してしまうので、皮膚上層部への投与が難しくなる。この測定により、接触部6bの内径dの大きさの違いによってガイド部高さyが変化するか否かを確認することができる。この実験結果を図5に示す。
この図5に示すように、接触部6bの内径dが11mmでは、押圧力が0.5Nのとき、ガイド部高さyは、約0.75mmになった。また、押圧力が20Nのとき、ガイド部高さyは、約2.6mmになった。そのため、接触部6bの内径dが11mmに設定した場合において、ガイド部長さxを0.5mmで且つガイド部高さyを0.75mm〜2.6mmに設定すると、ガイド部7が注射針組立体1を0.5〜20Nで皮膚に押し付ける際の案内になると判明した。
また、接触部6bの内径dが12〜14mmでは、押圧力が0.5Nのとき、ガイド部高さyは、0.6〜0.8mmになった。また、押圧力が20Nのとき、ガイド部高さyは、1.4〜1.5mmになった。そのため、接触部6bの内径dが12〜14mmに設定した場合において、ガイド部長さxを0.5mmで且つガイド部高さyを0.6〜1.5mmに設定すると、ガイド部7が注射針組立体1を0.5〜20Nで皮膚に押し付ける際の案内になると判明した。
ここで、接触部6bの内径dが12〜14mmの範囲では、ガイド部高さyに大きな変化がないことが分かる。次に、接触部6bの内径dを12mmに設定し、ガイド部長さxを0.5〜5mmに変化させたときのガイド部高さyを測定した。この実験結果を図6に示す。なお、押圧部材102を押圧する力は、上述した実験と同様に0.5〜20Nとしている。
図6に示すように、ガイド部長さxが大きくなると、ガイド部高さyが規則的に増大した。これにより、ガイド部高さyとガイド部長さxが相関関係にあることが判った。つまり、ガイド部高さyは、ガイド部長さxに比例することが判った。そして、この実験結果から、ガイド部高さyとガイド部長さxに関して、次の式1の関係が得られた。
[式1]
1.0Ln(x)+1.2<y<3.1Ln(x)+3.2
以上の実験結果から、ガイド部長さxを変化させることにより、ガイド部高さy(図3を参照)を規定できることが判った。なお、上述したように、接触部6bの内径dが12〜14mmの範囲では、ガイド部高さyに大きな変化がない。従って、接触部6bの内径dが12〜14mmの範囲では、式1を満たす値にガイド部高さyを設定すればよい。これにより、ガイド部7が注射針組立体1を0.5〜20Nで皮膚に押し付ける際の案内になり、針管の針先及び刃面を皮膚上層部に確実に位置させることができ、使用者の安心感を向上させることが可能である。
なお、注射針組立体1を皮膚に押し付けるときの力は、0.5〜20Nの範囲に設定することができる。この押圧力の範囲は、注射針組立体1のガイド部7のないデバイスを用いて、0.5〜20Nの範囲の押圧力でブタの皮膚に薬液を投与する実験を行い、真皮に漏れなく薬液を投与できるという結果によって確認している。
2.第2の実施の形態例
[注射針組立体及び薬剤注射装置の構成例]
次に、図7を参照して本発明の注射針組立体の第2の実施の形態例について説明する。
図7は、第2の実施の形態にかかる注射針組立体を断面して示す説明図である。
この第2の実施の形態例にかかる注射針組立体1Aは、第1の実施の形態の注射針組立体1と同様な構成を有しており、異なるところは、安定部6Aおよびガイド部7Aである。そのため、ここでは、安定部6Aおよびガイド部7Aについて説明し、注射針組立体1と共通する部分には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
なお、本発明の薬剤注射装置は、上述した第1の実施の形態例と同様に、注射針組立体1Aのハブ3にシリンジを接続することによって構成される。
安定部6Aは、直径の異なる2つの円筒が軸方向に連なった形状を有している。この安定部6Aの筒孔には、針管2,ハブ3及び調整部4が配置されている。また、安定部6Aは、ハブ3に固定される固定部6aAと、針管2及び調整部4の周囲を覆う接触部6bAとを有している。固定部6aAの端部は、ハブ3のフランジ3bに接着剤などの固定方法によって固定されている。そして、固定部6aAの筒孔には、ハブ3のハブ本体3aが収納されている。また、この固定部6aAの軸方向の一側には、接触部6bAが連続して設けられている。
接触部6bAは、固定部6aAをハブ3に固定することで、針管2及び調整部4の周囲を覆うように配置される。この接触部6bAの内径は、固定部6aAの内径よりも大きくなるように設定されている。そして、接触部6bAの軸方向の一側には、ガイド部7Aが設けられている。
ガイド部7Aは、安定部6Aの外周面の周方向に沿って連続し、且つ安定部6Aの外周面から半径方向の内側に向けて略垂直に凹んだ段差部として形成されている。このガイド部7Aは、安定部6Aの接触部6bAを周方向に連続して切り欠いて段差部を設けることで形成されており、接触面7aAと、壁面7bAを有している。接触面7aAは、安定部6Aの端面6cと略平行をなす平面であり、安定部6Aを皮膚に押し付けた際に皮膚に接触する。接触面7aAから端面6cAまでの距離は、第1の実施の形態例に係る「ガイド部高さy」に相当する。そして、このガイド部高さyは、針管2及び安定部6が適正な押圧力で皮膚に穿刺することができる長さに設定されている。
また、壁面7bAは、接触面7aAと略垂直に連続する曲面であり、接触部6bAの外周面と同一方向を向いている。この壁面7bAから接触部6bAの外周面までの距離は、第1の実施の形態に係る「ガイド部長さx」に相当する。
そして、第1の実施の形態例に係る注射針組立体1と同様に、ガイド部7Aの接触面7aAが皮膚に接触するまで安定部6Aを押し付けることにより、安定部6Aが皮膚を押圧する力を常に所定値以上にすることができる。その結果、針管の針先及び刃面を皮膚上層部に確実に位置させることができる。
その他の構成は、上述した第1の実施の形態例にかかる注射針組立体と同様であるため、それらの説明は省略する。このような構成を有する注射針組立体1Aによっても、上述した第1の実施の形態例にかかる注射針組立体1と同様の作用及び効果を得ることができる。
なお、本発明は上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
1,1A…注射針組立体
2…針管
2a…刃面
3…ハブ
4…調整部
4b…針突出面
5…接着剤
6,6A…安定部
6a,6aA…固定部
6b,6bA…接触部
6c,6cA…端面
7,7A…ガイド部
7a,7aA…接触面
9…シリンジ
B…ベベル長
L…突出長
S…針突出面の周縁から針管の周面までの距離
T…安定部の内壁面から調整部の外周面までの距離
x…ガイド部長さ
y…ガイド部高さ
d…内径

Claims (10)

  1. 生体に穿刺可能な針先を有する26〜33Gの針管と、
    前記針管を保持するハブと、
    前記針管の周囲に設けられ、前記針管の針先が突出する針突出面を有する調整部と、
    前記針管の周囲を覆うように配置されて前記針管を生体に穿刺する場合に皮膚と接触する筒形状の安定部と、
    前記安定部の外周面に設けられ、皮膚と接触する接触面を有し、前記針管を生体に穿刺する場合に前記接触面が皮膚と接触するまで前記安定部を皮膚に押し付けることで前記針管及び前記安定部の生体への押圧力を案内するガイド部と、
    を備え
    前記ガイド部の前記接触面は、前記安定部における皮膚と接触する端面から所定の距離を保って設けられている
    ことを特徴とする注射針組立体。
  2. 前記押圧力は、0.5〜20Nである
    ことを特徴とする請求項1に記載の注射針組立体。
  3. 前記ガイド部は、前記安定部の外周面に設けられ、該外周面と略垂直になるように形成された段差を有する
    ことを特徴とする請求項1に記載の注射針組立体。
  4. 前記ガイド部は、前記安定部の外周面から略垂直に突出するフランジである
    ことを特徴とする請求項1に記載の注射針組立体。
  5. 前記安定部は、円筒状に形成されている
    ことを特徴とする請求項3又は4に記載の注射針組立体。
  6. 前記安定部の内径を12〜14mmに設定した場合において、前記ガイド部の前記接触面と前記安定部の前記皮膚と接触する端面との距離をyとし、前記ガイド部における前記安定部からの略垂直方向の長さであるガイド部長さをxとすると、y及びxは、
    1.0Ln(x)+1.2<y<3.1Ln(x)+3.2
    の関係を満たす
    ことを特徴とする請求項5に記載の注射針組立体。
  7. 前記安定部の内径を11mmに設定した場合において、前記ガイド部の前記接触面と前記安定部の前記皮膚と接触する端面との距離は、前記ガイド部における前記安定部からの略垂直方向の長さであるガイド部長さが0.5mmのとき、0.75〜2.6mmの範囲に設定される
    ことを特徴とする請求項5に記載の注射針組立体。
  8. 前記調整部の前記針突出面は、該針突出面の周縁から前記針管の周面までの距離が0.3〜1.4mmの範囲となるように形成される
    ことを特徴とする請求項1に記載の注射針組立体。
  9. 前記安定部の内壁面から前記調整部の外周面までの距離は、4mm〜15mmの範囲となるように設定されている
    ことを特徴とする請求項1に記載の注射針組立体。
  10. 生体に穿刺可能な針先を有する26〜33Gの針管と、
    前記針管を保持するハブと、
    前記ハブに接続されるシリンジと、
    前記針管の周囲に設けられ、前記針管の針先が突出する針突出面を有する調整部と、
    前記針管の周囲を覆うように配置されて前記針管を生体に穿刺する場合に皮膚と接触する筒形状の安定部と、
    前記安定部の外周面に設けられ、皮膚と接触する接触面を有し、前記針管を生体に穿刺する場合に前記接触面が皮膚と接触するまで前記安定部を皮膚に押し付けることで前記針管及び前記安定部の生体への押圧力を案内するガイド部と、
    を備え、
    前記ガイド部の前記接触面は、前記安定部における皮膚と接触する端面から所定の距離を保って設けられている
    ことを特徴とする薬剤注射装置。
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