JP5365181B2 - 鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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Description
さらに近年、材料費の高騰により部品の素材である鋼板に対して薄ゲージ化への要求が強くなっている。このような、薄ゲージ化によって部品剛性が低下し、スプリングバックに起因するゆがみに加えて、図1に示すように、稜線反りと呼ばれる曲げ加工時の幅縁の不均一塑性歪み(図1の矢印Aの部分)が発生するという問題も顕在化している。稜線反りの抑制には、非特許文献1に開示されているように、幅方向の変形を小さくすることが有効であり、材料特性としてはr値を低くすることが重要である。
質量%で、C:0.0007〜0.003%、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.02〜0.10%、N:0.005%以下、及びNb:0.010〜0.030%を含有し、かつ、Nb及びCが(Nb/93)/(C/12)≧0.9(ただし、式中のNb、Cは各元素の含有量(質量%))の関係を満足し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼板である。
本発明の冷延鋼板はCを含有する。Cはr値の制御などのために必要な成分である。ここで、Cは後述するNbと微細な炭化物を形成し、冷延後の焼鈍過程でのフェライトの粒成長を抑制するとともに、フェライトの集合組織を制御し、本発明の鋼板のr値を制御することができる。
なお、Cの含有量を0.0007〜0.0030%の範囲としたのは、冷延・焼鈍後にr値を低下させるためには、熱延板段階で歪時効指数AIが10MPa以上となるようにCを固溶させる必要があり、0.0007%未満の場合、10MPa以上のAIを得ることができないからである。一方、含有量が0.0030%を超えると、冷延・焼鈍後に固溶Cが残留しやすくなり、それに伴って、ストレッチャーストレインが発生したり、降伏強度が上昇して、鋼板のスプリングバックを引き起こす恐れがあるためである。
Siは固溶強化元素であり、降伏強度を上昇させるため、含有量は0.05%以下とする必要がある。Si含有量が0.05%を超えると、降伏強度が上昇しすぎてスプリングバックの問題が発生することに加えて、焼鈍時にSi酸化物が生成し、メッキ性が低下する恐れがある。さらに、Siの含有量が高いと、熱間圧延時に、鋼がオーステナイトからフェライトへの変態温度が上昇するため、オーステナイト域で圧延を終了させるのが困難になる。そのため、Si含有量は0.05%以下とする必要があり、極力低減することが好ましい。
Mnは前記鋼板中のSと反応してMnSを形成し、後述するSによる熱間割れ等の問題を防止するために有効である。なお、この効果を得るためには、Mnは0.1以上含有することが好ましい。
また、Mnの含有量を0.3%以下としたのは、Mnは固溶強化元素であり、0.3%超えると、Mnが多すぎるため、鋼板の降伏強度が上昇するため、スプリングバック等を引き起こす恐れがあるからである。
Pの含有量は0.05%以下とする。Pは固溶強化元素であり、含有量が0.05%を超えると、鋼板の降伏強度が上昇するため、スプリングバック等を引き起こす恐れがあるからである。また、同様の理由から0.03%以下とすることがより好適であり、極力低減することが好ましい。
Sの含有量は0.02%以下とする。Sは熱延板段階でMnS等の硫化物を形成し、冷延焼鈍後の結晶組織の異方性を増し、伸展度を大きくする。また、Sを多量に含有すると、延性が著しく低下し、熱間圧延及び冷間圧延時に割れが発生し、表面形状を著しく悪化させる恐れがある。Sの含有量が0.02%を超えると、上記問題が顕著になる傾向にあるため、0.02%以下とする。なお、Sの含有量は、極力低減することが好ましい。
Alは、脱酸元素であるとともに、後述するNと反応し、窒化物としてNを固定化させることで、固溶Nによるストレッチャーストレインの発生を抑制するために必要な成分であり、0.02%以上含有する。0.02%未満では十分に前記Nと反応してストレッチャーストレインを抑制することができないからである。一方、0.10%超えでは、焼純時に微細に析出して、結晶組織の異方性(展伸度)を増加させる原因となるため、Al含有量は0.10%以下とする。
Nの含有量は、0.005%以下とする必要があり、極力低減することが好ましい。0.005%を超えると、鋼中に固溶する場合は、ストレッチャーストレインの原因となる恐れがあり、また、微細に析出する場合は、結晶組織の異方性(展伸度)を増加させる恐れがあるためである。
また、本発明の冷延鋼板はNbを含有する。ここで、Nbは前記Cと同様、r値を制御するために必要な成分であり、前記Cと微細な炭化物を形成し、冷延後の焼鈍過程でのフェライトの粒成長を抑制するとともに、フェライトの集合組織を制御し、本発明の鋼板のr値を低く制御することができる。含有量は0.010〜0.030%とする必要があるが、0.010%未満では前記フェライトの粒成長が進むため、r値を低く制御することが難しく、所望の形状凍結性を得ることができないからであり、一方、0.030%を超えると、Nbの炭素窒化物や固溶Nbの増大によって、焼鈍時の再結晶温度を上昇させる結果、鋼板が展伸粒となりやすく、また、降伏強度が大きくなりやすく、前記鋼板が硬質化されて降伏強度が大きくなる結果、伸びが低下するとともに、スプリングバックの問題を招くためである。
また、Nbは、焼鈍時に固溶Cを析出物として固定し、ストレッチャーストレインの発生を抑制するため、((Nb/93)/(C/12))≧0.9の関係を満足させる必要がある。なお、上式中のNb及びCは各元素の含有量(質量%)を示す。
Tiは、Nとの親和力が強く、高温で粗大な析出物を形成して、上記のNの悪影響を緩和する効果を有するため、0.005%以上添加することが好ましい。一方、過度に添加してもその効果が飽和し、製造コストの上昇を招くだけであるため、その上限を0.02%とする。
BはNとの親和力が強く、高温で粗大な析出物を形成して上記のNの悪影響を緩和する効果を有するため、0.0003%以上添加することが好ましい。一方、過度に添加してもその効果が飽和し、製造コストの上昇を招くだけであるため、その上限を0.0015%とする。
本発明者らは、含有成分及びr値の適性化を図ることによって、曲げ加工を施した場合であっても、良好なスプリングバック及び稜線反りの抑制の両立を可能とし、さらに、平板部のストレッチャーストレイン及び曲げ部の肌荒れについても抑制できる鋼板の検討を行った。その結果、上記含有成分(C、Mn、S、Al、N、及びNb)の含有量の適正化を図り、平均結晶粒径が20μm以下であり、展伸度が2.0以下であり、歪時効指数AIが5MPa以下であり、圧延方向及び圧延直角方向のr値がともに1.0〜1.6の範囲であり、圧延方向及び圧延直角方向の降伏強度が共に210MPa以下とすることで、曲げ加工を施した場合であっても、良好なスプリングバック及び稜線反りの抑制の両立を可能とし、さらに、平板部のストレッチャーストレイン及び曲げ部の肌荒れについても抑制できる鋼板が得られることを見出した。
本発明による鋼板の結晶粒径が、20μm以下となる必要がある。過度に粗大な場合には、曲げ加工部に肌荒れを起こして外観不良となるからである。一方、結晶粒径は大きいほど降伏強度が低下してストレッチャーストレインが発生しにくいことから、5μm以上であることが好ましい。なお、結晶粒径とは、平均結晶粒径のことであり、本発明では、圧延方向に平行な板厚断面を観察し、JIS G 0552(1998)に記載の切断法によって算出することができる。
また、本発明による鋼板の展伸度は、2.0以下である。電機・建材用の鋼板は、長方形形状の4辺が曲げられることが多いが、結晶粒の展伸度が2.0を超える場合、曲げ稜線が圧延直角方向の曲げ部(L曲げ)と、稜線が圧延方向の曲げ部(C曲げ)とで、肌荒れ度合いが異なり、消費者の目には肌荒れが強調される結果となり意匠性が劣化するためである。なお、前記展伸度とは、結晶粒の展伸具合を評価する指標のことであり、JIS G 0552(1998)に規定される。なお、本発明の場合、圧延方向に平行な板厚断面を観察し、JIS G 0552(1998)の切断法によって算出される。
歪時効指数AI値が5MPa超えであると、ストレッチャーストレインが発生しやすくなる。そのため、AI値は5MPa以下とし、より好適には3MPa以下とする。
なお、歪時効指数(AI)とは、固溶元素の存在が原因で生じる強度変化を評価する指標のことであり、本発明では、7.5%の歪みを付与した後に、100℃で30分の熱処理を施した前後の強度差によって得ることができる。
圧延方向及び圧延直角方向のr値がともに1.0〜1.6である必要がある。なお、r値とは、鋼板の材料特性値であり、r値=(幅方向歪み/板厚歪み)で算出され、r値が高いほど幅方向の収縮量が大きくなる。前述のように、電機・建材用の鋼板は、長方形形状の4辺が曲げられることが多く、鋼板の圧延方向および圧延直角方向に曲げ加工が施される。ここで、圧延直角方向および圧延方向のr値が1.6以下であれば、鋼板に加工を施す際に、曲げ加工部の表裏面での幅方向歪み差をある程度抑制するため、圧延方向及び圧延直角方向に曲げられたときの稜線反りの抑制が可能となる。このため、圧延直角方向及び圧延方向のr値は1.6以下とする。一方、r値の下限は1.0とする必要がある。r値を1.0以上とするのは、軽度な絞り加工に対応できるようにするとともに、板幅方向の歪みに比べて板厚方向の歪みが大きくなることを抑制し、加工部の板厚減少に伴う剛性低下を抑制できるからである。
本発明による鋼板の圧延方向及び圧延直角方向の降伏強度が、共に210MPa以下である必要がある。本発明による鋼板は、r値の適正化等によって制御される稜線反りの抑制だけでなく、スプリングバックについても抑制する必要がある。スプリングバックの要因となる曲げ加工は、圧延方向および圧延直角方向に施される。ここで、本発明者らが検討した結果、圧延方向および圧延直角方向の降伏強度が210MPa以下であれば、スプリングバックを抑制できることを見出した。このため、圧延方向及び圧延直角方向の降伏強度を、ともに210MPa以下とする。
ここで、図2(a)は、製造条件を変えた7つの鋼板のサンプルについて、熱延板のAI(MPa)に対する冷延焼鈍後の圧延方向のr値を示したものであり、図2(b)は、図2(a)で用いた7つの鋼板のサンプルについて、熱延板のAI(MPa)に対する冷延焼鈍後の圧延方向の降伏強度(MPa)を示したものである。なお、これら鋼板サンプルは、後述する実施例の供試材No.1〜7に対応している。図2(a)及び(b)の結果から、熱延板のAI(MPa)が10MPa以上である場合には、降伏強度に影響を与えることなく(図2(b))、r値を低減することができる(図2(a))ことがわかる。
なお、焼鈍後には、板形状の矯正などを目的として調質圧延やレベリングを行ってもよ。例えば、調質圧延の場合、伸び率(伸長率という)2%以下程度とすることが好ましい。また、鋼板の表面に亜鉛、クロム、ニッケルといった耐食性を向上させる元素を鍍金したり、耐食性や摺動性などを向上させる化成処理を行ってもよい。
表1に示す成分を有する鋼を、1250℃で1時間加熱後、仕上げ温度930℃で熱間圧延を行い、表2に示す冷却条件(熱間圧延後からの冷却開始時間、冷却速度、巻取り温度)で冷却して3mm厚の熱延板を作製した。930℃がオーステナイト単相域であることは、加工フォーマスタによる熱膨張曲線測定により確認した。熱延板の圧延直角方向にJIS5号試験片を採取し、予歪み:7.5%、時効熱処理条件:100℃、30分にて、時効熱処理前後の強度差で、歪時効指数AI(MPa)を評価した。AIを測定する際、JIS Z 2241に準拠して引張りを行い、時効後の強度は下降伏点を用いた。熱延板を酸洗した後に表2に示す条件(圧下率70%)の冷間圧延率で圧延し、表2に示す条件(800℃)で焼鈍を行った後に、伸長率1%の調質圧延を行うことにより、供試材1〜7を作製した。また、供試材の圧延方向から採取したJIS5号試験片を用いて、熱延板と同様に歪時効指数AI(MPa)を測定した。
(1)r値
各供試材について、圧延方向、圧延直角方向からJIS5号引張試験片を切り出して、標点間距離(L0)及び板幅(W0)を測定し、圧延方向、引張速度10mm/分、予歪み(伸び)15%で引張試験を行った後、再度、標点間距離(L)及び板幅(W)を測定し、JIS Z 2254に準じて、
r=ln(W0/W)/ln(WL/W0L0)
の式からr値を算出した。算出結果を表3に示す。
各供試材について、圧延方向、圧延直角方向からJIS 5号試験片を切り出し、JIS Z 2241に準じて、下降伏点又は0.2%耐力量によって、降伏強度(MPa)を測定した。結果を表3に示す。
各供試材について、圧延方向断面組織をピクラール腐食により観察し、JIS G 0552(1998)に準拠した切断法によって、線分に切断されるフェライト粒数の総計が200個以上になるよう測定することで、平均結晶粒径(μm)を算出した。さらに、同様の観察によって、展伸度を測定した。それぞれの結果を表3に示す。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.0007〜0.003%、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.02〜0.10%、N:0.005%以下、及びNb:0.010〜0.030%を含有し、かつ、Nb及びCが(Nb/93)/(C/12)≧0.9(ただし、式中のNb、Cは各元素の含有量(質量%))の関係を満足し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、
平均結晶粒径が20μm以下であり、展伸度が2.0以下であり、歪時効指数AIが5MPa以下であり、圧延方向及び圧延直角方向のr値がともに1.0〜1.6の範囲であり、圧延方向及び圧延直角方向の降伏強度が共に210MPa以下であることを特徴とする鋼板。 - 前記鋼板が、質量%で、Ti:0.005〜0.02%、B:0.0003〜0.0015%のうちの1種又は2種をさらに含有する請求項1記載の鋼板。
- 質量%で、C:0.0007〜0.003%、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.02〜0.10%、N:0.005%以下、及びNb:0.010〜0.030%を含有し、かつ、Nb及びCが(Nb/93)/(C/12)≧0.9(ただし、式中のNb、Cは各元素の含有量(質量%))の関係を満足し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼スラブを、1200℃以上で加熱し、Ar3変態点以上の温度で仕上げ圧延を終了する熱間圧延を施した後、前記仕上げ圧延から2秒以内に40℃/秒以上の冷却速度で600℃以下となるまで冷却し、巻き取ることで、歪時効指数AIが10MPa以上の熱延板とし、その後、該熱延板に対して酸洗を施してから、50%以上65%未満の圧下率で冷間圧延を施すことで冷延板とした後、該冷延板を、700〜820℃で連続焼鈍することを特徴とする、平均結晶粒径が20μm以下であり、展伸度が2.0以下であり、歪時効指数AIが5MPa以下であり、圧延方向及び圧延直角方向のr値がともに1.0〜1.6の範囲であり、圧延方向及び圧延直角方向の降伏強度が共に210MPa以下である鋼板の製造方法。
- 前記鋼スラブが、質量%で、Ti:0.005〜0.02%、B:0.0003〜0.0015%のうちの1種又は2種をさらに含有し、前記冷間圧延での圧下率が50〜85%の範囲である請求項3記載の鋼板の製造方法。
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