JP5360273B2 - 電動パワーステアリング装置の制御装置 - Google Patents

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Description

この発明は、車両用の電動パワーステアリング装置の制御装置に関する。
車両用の電動パワーステアリング装置は、運転者がステアリングホイールを操作したとき、ステアリングシャフトの発生する操舵トルクをトルクセンサで検出し、検出された操舵トルクに基づいて操舵補助力を発生するモータへ供給するモータ電流の制御目標値である電流指令値を演算し、一方、実際にモータに流れるモータ電流を検出して電流指令値にフィードバックし、電流指令値とモータ電流検出値との偏差が零になるように制御された電流制御値でモータを駆動し、操舵トルクに対応した操舵補助力をステアリング系に供給するように構成されたものがある。
このような構成の電動パワーステアリング装置では、操舵トルクが発生しておらず、本来はモータ電流が零の状態にあるのに、モータ電流検出器を構成する差動増幅器等のオフセットが原因でモータ電流が検出され、検出されたモータ電流値をモータ電流のオフセット誤差又は単にオフセットと呼ぶ。
オフセット誤差を含むモータ電流が電流指令値にフィードバックされると、フィードバックされたオフセット誤差を含む電流制御値でモータが駆動されるから、例えば3相ブラシレスモータの各相に流れる電流は、オフセット誤差に対応した量だけアンバランスとなり、補助力に脈動が生じる。このため、運転者がステアリングホイールを操作するとき、操舵トルクの変動が感じられるという不都合がある。
この対策として、操舵トルクが発生しておらず、本来はモータ電流が流れない状態にあるときのモータ電流検出値をオフセット補正値として電流指令値を補正するものが提案されている(特許文献1、2参照)。
図8は、上記した構成の電動パワーステアリング装置の電子制御回路100のブロック図の一例であって、電流指令値演算器103は、トルクセンサ101で検出された操舵トルクT、車速センサ102で検出された車速Vを入力として、モータ電流の制御目標値である電流指令値Iを演算する。104は減算器であって、後述するオフセット補正演算器109で補正されたモータ電流検出値ie を電流指令値Iから減算して電流制御値Eとして出力する。
モータ電流検出器108は、モータに実際に流れる電流(モータ実電流)iを検出するもので、モータ電流検出値iは後述するオフセット補正演算器109に記憶されているオフセット補正値ΔIで補正される。駆動制御器105は、入力された電流制御値Eに基づいてモータを駆動するPWM信号のデューテイ比Dを決定する。モータ駆動回路106は決定されたデューテイ比Dによりモータ107を駆動する。
オフセット補正演算器109は、電流指令値Iが零(0)、即ち本来モータ電流が流れない状態においてモータ電流検出器108から出力されたモータ電流検出値iをオフセット値ΔIとして記憶し、以降、検出されたモータ電流検出値iをオフセット値ΔIで補正し、補正したモータ電流検出値ieを減算器104に出力する。
以上の構成により、運転者がステアリングホイールを操作するとき、モータ電流検出値iはオフセット補正値ΔIで補正されてフィードバックされるから電流制御値Eもオフセット補正され、ステアリングホイールの操舵感覚にトルク変動が感じられるという不都合を解消することができる。なお、上記の処理は所定のサンプリング期間毎に繰り返し処理され、オフセット補正演算器109には、通常はオフセット補正値ΔIが繰り返し更新されて記憶されるが、後述するオフセット補正値ΔIの更新をするか否かの判定に基づいて更新されない場合もある(特許文献1参照)。
一方、ステアリングホイールが中立位置にあるときに、僅かなステアリングホイールの操作によって操舵トルクが発生した場合には操舵感覚の改善のためモータ電流が流れないようにするため、操舵トルクと電流指令値との間には不感帯が設けられている。
図9は、操舵トルクTの変動に対して電流指令値Iが変動しない不感帯を説明する図であって、1つのサンプリング期間において、操舵トルクTが所定値Aの範囲(不感帯の範囲)内にあるときは、モータ電流の制御目標値である電流指令値Iが零になるように設定されている。
さらに、前記したモータ電流検出値iのオフセット補正値ΔIの更新を行うか否かを判定するため、所定値Aの範囲(不感帯の範囲)内にゼロ領域Bを設定し、操舵トルクTがこのゼロ領域B内にあるときはオフセット補正値ΔIの更新を行ない、操舵トルクTがこのゼロ領域B内にないときは、オフセット補正値ΔIの更新をしないように処理して、操舵トルクTの変動によっても電流指令値Iが変動しないようにしている。
電動パワーステアリング装置の動力源として3相ブラシレスモータが使用されるときは、3相の各相に対してオフセット補正を行う必要がある。このため、まず、操舵トルクが発生していない状態で、各相のデューテイ比が50%になるようにPWM信号を設定する。モータ電流検出器で検出された各相のモータ電流検出値にオフセットがなければ、各相電流は流れないはずであるが、実際にはオフセットがあるために各相電流が流れる。したがって、3相ブラシレスモータによる駆動手段には、各相電流が流れなくなるまで各相のモータ電流検出値のそれぞれについてオフセット補正を行うようにオフセット補正部が設けられている(特許文献2参照)。
特開2006−131059号公報 特開平08−119132号公報
上記したステアリングホイールの中立位置付近において、操舵トルクの僅かな変動によっては電流指令値を変動させない不感帯の設定は操舵感覚の改善のために有効な方法であるが、運転者がステアリングホイールを切り始めたときの摩擦感を低減するために十分な幅の不感帯を設定できない場合があり、オフセット補正が行えない不都合のあることが判った。この発明は、上記不都合を解決することを目的とするものである。
この発明は上記課題を解決するもので、請求項1の発明は、操舵トルクと車速とに基づいて演算された電流指令値に基づいてステアリング装置に操舵補助力を付与するモータに供給するモータ電流を規定し、ステアリング装置に操舵補助力を付与する電動パワーステアリング装置の制御装置であって、ステアリングシャフトに発生する操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵トルクと車速とに基づいて電流指令値を演算する電流指令値演算手段と、モータに流れる電流を検出するモータ電流検出手段と、モータ電流が流れないモータ電流零と見なせる状態を検出する電流状態検出手段と、前記モータ電流検出手段から出力されるモータ電流検出値の零点を補正するオフセット補正手段とを備え、前記電流状態検出手段は、前記電流指令値演算手段で演算された電流指令値又はモータ電流検出手段で検出されたモータ電流検出値と、前記トルクセンサで検出された操舵トルクとに基づいてモータ電流零と見なせる状態を検出し、前記オフセット補正手段は、前記電流状態検出手段によりモータ電流零と見なせる状態が検出された時点におけるモータ電流検出値をオフセット補正値としてモータ電流検出値の零点を補正することを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置である。
そして、前記電流状態検出手段は、前記電流指令値又はモータ電流検出値のコラム軸換算トルク値と操舵トルク検出値との和が、ステアリング機構の摩擦力のコラム軸換算トルク値未満のとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとする。
また、前記電流状態検出手段は、前記電流指令値又はモータ電流検出値と操舵トルク検出値の電流換算値との和が、ステアリング機構の摩擦力のコラム軸換算トルクの電流換算値未満のとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとしてもよい。
また、前記電動パワーステアリング装置は、さらに操舵速度検出手段を備え、前記電流状態検出手段は、前記電流指令値又はモータ電流検出値のコラム軸換算トルク値と操舵トルク検出値との和が、ステアリング機構の摩擦力のコラム軸換算トルク値未満で、且つ、前記操舵速度検出手段で検出された操舵速度が予め設定された第1の所定値未満のとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとしてもよい。
また、前記電動パワーステアリング装置は、さらに操舵速度検出手段を備え、前記電流状態検出手段は、前記電流指令値又はモータ電流検出値と操舵トルク検出値の電流換算値との和が、ステアリング機構の摩擦力のコラム軸換算トルクの電流換算値未満で、且つ、前記操舵速度検出手段で検出された操舵速度が予め設定された第1の所定値未満のとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとしてもよい。
そして、前記予め設定された第1の所定値は、略零と見なせる操舵速度である。
そして、前記電動パワーステアリング装置は、さらにモータ角速度検出手段を備え、前記電流状態検出手段は、前記電流指令値又はモータ電流検出値のコラム軸換算トルク値と操舵トルク検出値との和が、ステアリング機構の摩擦力のコラム軸換算トルク値未満で、且つ、前記モータ角速度検出手段で検出されたモータ角速度が予め設定された第2の所定値未満のとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとしてもよい。
また、前記電動パワーステアリング装置は、さらにモータ角速度検出手段を備え、前記電流状態検出手段は、前記電流指令値又はモータ電流検出値と操舵トルク検出値の電流換算値との和が、ステアリング機構の摩擦力のコラム軸換算トルクの電流換算値未満で、且つ、前記モータ角速度検出手段で検出されたモータ角速度が予め設定された第2の所定値未満のとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとしてもよい。
そして、前記予め設定された第2の所定値は、略零と見なせるモータ角速度とする。
また、前記電流状態検出手段は、前記電流指令値又はモータ電流検出値が予め設定された第3の所定値未満で、操舵トルク検出値が予め設定された第4の所定値未満のとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとする。
また、前記電動パワーステアリング装置は、さらに操舵速度検出手段を備え、前記電流状態検出手段は、前記電流指令値又はモータ電流検出値が予め設定された第3の所定値未満で、操舵トルク検出値が予め設定された第4の所定値未満であり、且つ、前記操舵速度検出手段で検出された操舵速度が略零と見なせる操舵速度であるとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとしてもよい。
また、前記電動パワーステアリング装置は、さらにモータ角速度検出手段を備え、前記電流状態検出手段は、前記電流指令値又はモータ電流検出値が予め設定された第3の所定値未満で、操舵トルク検出値が予め設定された第4の所定値未満であり、且つ、前記モータ角速度検出手段で検出されたモータ角速度が略零と見なせるモータ角速度であるとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとしてもよい。
そして、前記予め設定された第3の所定値及び第4の所定値は、第3の所定値のコラム軸換算トルク値と第4の所定値の和がステアリング機構の摩擦力のコラム軸換算トルク値未満である。
この発明の電動パワーステアリング装置のモータ電流検出手段のオフセット補正手段によれば、操舵トルクの変動によっても電流指令値を変動させない不感帯が適正に設定できない場合でも、電流指令値又はモータ電流検出値と操舵トルク検出値とに基づいてモータ電流零の状態を検出し、モータ電流零の状態が検出された時点のモータ電流検出値をオフセット補正値としてモータ電流検出値の零点を補正する。
そして、オフセット補正処理を行う間は、電流指令値又はモータ電流検出値のコラム軸換算トルク値と操舵トルク検出値の和がステアリング機構の摩擦力を越えることがないから、オフセット補正演算が実行される状態から逸脱した場合でも違和感のない操舵フィーリングを保ちつつ、補正演算を行う領域を十分に確保することができる。
まず、この発明の実施の形態について説明する前に、この発明の特徴部分であるモータ電流検出器のオフセット補正の手法について説明する。
先に、背景技術において説明したとおり、モータ実電流が流れていない状態においてもモータ電流検出器の回路構成のばらつき等によりモータ電流が検出され、このとき検出されたモータ電流検出値をオフセット誤差又はオフセットと呼ぶが、オフセット誤差を含むモータ電流検出値を電流指令値にフィードバックすると、ステアリング操作時にトルク変動を感じるという不都合があるので、電流指令値にモータ電流検出値をフィードバックするときは、モータ電流検出値のオフセット誤差を補正することが必要となる。
この発明では、まず、ステアリングホイールが操作されていない状態、即ち操舵していない状態を、操舵トルクT、モータ角速度又は操舵速度、電流指令値などに基づいて判断する。そして操舵していないと見なせる状態が検出されたときは、モータ電流が流れていない(以下、モータ電流零)と見なせる状態を作り出し、モータ電流零と見なせる状態において、検出されたモータ電流検出値をオフセット誤差とする。
ここで、モータ電流零と見なせる状態の設定とオフセット誤差の検出・補正には、例えば、前記特許文献1では、サンプリングしたモータ電流検出値に最小補正量Δmを加算/減算し、この補正演算をサンプリングした制御器出力の平均値が零又は所定範囲内に収斂するまで繰り返し、所定範囲内に収斂した時点でモータ電流検出値のオフセット誤差の補正が完了したものとする手法(特許文献1参照)によるもの、或いは電流指令値に基づくPWM信号でモータを駆動する構成において、PWM信号のデューテイを強制的に50%で駆動した時のモータ電流検出値をモータ電流検出器のオフセット誤差とする手法(特許
文献2参照)などを応用することができる。
以下、この発明の実施の形態について説明する。図1は、この発明の実施の形態の電動パワーステアリング装置の電子制御回路10及びその周辺の回路要素とその動作の概略を説明するブロック図である。
図1において、トルクセンサ11で検出された操舵トルクT、及び車速センサ12で検出された車速Sは、電流指令値演算手段を構成する電流指令値演算器13に入力され、モータ電流の制御目標値である電流指令値Iが演算され、減算器15に出力される。
減算器15においては、入力された電流指令値Iから、後述するオフセット補正手段を構成するオフセット補正演算器20でモータ電流値iに含まれるオフセット誤差が補正されたオフセット補正電流値ieが減算され、電流指令値Iとオフセット補正電流値ieの偏差である電流偏差Ieが出力される。
PID演算器16は、具体的には比例演算器16a、積分演算器16b、微分補償器16c、及び加算器16dから構成される。比例演算器16aでは、電流偏差Ie に比例した比例値が出力される。電流偏差Ie はフィードバック系の特性を改善するため積分演算器16bにおいて積分され、電流偏差Ie の積分値が出力される。微分補償器16cは電流偏差Ie に対するモータ電流の応答速度を高めるため、電流偏差Ie の微分値が出力される。加算器16dでは、これら比例演算器16a、積分演算器16b、微分補償器16cの出力を加算して電流制御値Eを出力する。
モータ駆動回路17は、PID演算器16から出力された電流制御値Eに基づいてモータMを制御する。
モータ電流検出手段を構成するモータ電流検出器19は、モータMに流れる電流を検出し、検出されたモータ電流値iをオフセット補正演算器20に出力するほか、後述する電流状態検出手段を構成する電流状態検出器25にも出力する。
電流状態検出器25は、ステアリングホイールが操作されていない状態(操舵していない状態)を検知し、操舵していない状態が検出されたときは、前記した特許文献1或いは特許文献2に記載された手法に基づいて、モータ電流零と見なせる状態を作り出す。そして、モータ電流零と見なせる状態において、モータ電流検出器19で検出されたモータ電流値iをオフセット補正値ieとして減算器15に出力する。
電流状態検出器25において、操舵していない状態を検出するための情報としては、トルクセンサで検出された操舵トルクT、電流指令値演算器13で演算された電流指令値I、モータ電流検出器19で検出されたモータ電流検出値iのほか、ステアリングホイールの操舵速度(回転速度)を検出する操舵速度検出手段である操舵速度検出器21で検出された操舵速度V、又はモータMの回転角速度を検出するモータ角速度検出手段であるモータ角速度検出器22で検出されたモータ回転角速度Wなどが使用される。
ここで、電流状態検出器25に入力される電流指令値Iとモータ電流検出値iは、いずれか一方を使用する。また、図1では操舵速度検出器21で検出された操舵速度Vとモータ角速度検出器22で検出されたモータ回転角速度Wとが電流状態検出器25に入力されるように図示されているが、これは説明の都合上両者を図示したのであり、電流状態検出器25に入力される情報としては、操舵速度V、モータ回転角速度Wのいずれか一方でよい。
また、電流状態検出器25には、記憶装置26が接続され、電動パワーステアリング装置のステアリング機構の摩擦力に相当するトルク(以下、摩擦トルクTf という)が格納されている。摩擦トルクTf は、この制御装置が装着される電動パワーステアリング装置のステアリング機構に対応して定まる定数であって、予め設定されているものとする。
簡単に電子制御回路10及びその周辺の回路要素とその動作の概略を説明する。電流指令値演算器13では、操舵トルクT、及び車速Sに基づいてモータ電流の制御目標値である電流指令値Iが演算される。減算器15では前記した電流指令値Iに後述するオフセット補正演算器20から出力されたオフセット補正値ie がフィードバックされ、電流指令値Iからオフセット補正値ie を減算した偏差である電流偏差Ie が出力される。
電流偏差Ie はPID演算器16に入力され、PID演算器16を構成する比例演算器16a、積分演算器16b、微分補償器16cにより特性補償演算がなされた後、加算器16dで加算され、モータを駆動制御する電流制御値Eが出力される。
モータ駆動回路17は、PID演算器16から出力された電流制御値Eに基づいてPWM信号のデューテイが決定され、決定されたデューテイに基づいてモータMが駆動制御される。モータMに流れる電流はモータ電流検出器19で検出され、検出されたモータ電流値iは、オフセット補正演算器20に入力される。また、後述するように、モータ駆動回路17は、操舵していないと見なせる状態が検出されたときは、電流制御値Eに基づいてPWM信号のデューテイを決定せず、例えば、前記特許文献2のように、デューテイを強制的に50%に設定してモータを駆動する。
電流状態検出器25は、操舵トルクT、電流指令値I又はモータ電流検出値iのほか、操舵速度検出器21で検出された操舵速度V又はモータ角速度検出器22で検出されたモータ回転角速度Wなどに基づいて、操舵していないと見なせる状態を検出する。
操舵していないと見なせる状態が検出されたときは、その信号をモータ駆動回路17に出力する。モータ駆動回路17は、例えばPWM信号のデューテイを強制的に50%に設定してモータを駆動し、モータ電流零と見なせる状態を作り出す。オフセット補正演算器20は、その時点で検出されたモータ電流検出値iをオフセット補正値ieとして減算器15に出力し、モータ電流検出値iに含まれるオフセット誤差の補正演算を行う。
電流状態検出器25において、操舵していないと見なせる状態が検出されないときは、オフセット補正演算器20によるオフセット誤差の補正演算を中止させると共に、モータ駆動回路17において電流制御値Eに基づく通常のモータ制御を実行させる。
以下、本発明の特徴部分であるオフセット補正演算の詳細を説明する。図2は、従来の電動パワーステアリング装置の電子制御回路における不感帯の設定とオフセット補正演算領域を説明する図で、横軸は操舵トルクT、縦軸は電流指令値Iを示す。線(a)は広い幅の不感帯aが設定された場合で、この場合は広い幅の不感帯aに対してオフセット補正演算領域a1が設定される。線(b)は狭い幅の不感帯bが設定された場合で、この場合は狭い幅の不感帯bに対してオフセット補正演算領域b1が設定される。このように、不感帯の幅が狭い場合は十分な幅のオフセット補正演算領域が設定されず、場合によってはオフセット補正演算が実行されない場合もある。
図3は、本発明の電動パワーステアリング装置の電子制御回路における不感帯とオフセット補正演算領域を説明する図で、横軸は操舵トルクT、縦軸は電流指令値Iを示す。線(a)は広い幅の不感帯aの場合、線(b)は狭い幅の不感帯bの場合を示している。
本発明では、不感帯の幅に関係なく、電動パワーステアリング装置のステアリング機構の摩擦力に相当するトルクである摩擦トルクTf に応じてオフセット補正演算領域c、dが設定される。なお、本発明では、ステアリング機構の摩擦トルクTf をコラム軸上の摩擦トルクに換算した「コラム軸換算摩擦トルクTfc」を使用して説明する。
図4は、操舵トルクTと、電流指令値I又は電流検出値iのコラム軸換算トルクTecとの和P(P=T+Tec)と、電動パワーステアリング装置のステアリング機構のコラム軸換算摩擦トルクTfcと、オフセット誤差の補正演算を行う期間tを説明する図で、横軸は時間t、縦軸は操舵トルクTと電流指令値I又は電流検出値iのコラム軸換算トルクTecとの和P、コラム軸換算摩擦トルクTfc、及びオフセット誤差の補正演算を行う限界値である予め設定された所定値Rを示す。なお、所定値Rとコラム軸換算摩擦トルクTfcとの差はオフセット誤差の補正演算を行う限界値との間に設けた余裕であって、所定値Rとコラム軸換算摩擦トルクTfcとが一致していてもよい。以下の説明では、所定値Rとコラム軸換算摩擦トルクTfcとが一致しているものとする。
また、コラム軸換算トルクTecは、電流指令値Iによりモータが駆動されたとき、又はモータに電流検出値iが流れたとき生じるトルクを、コラム軸上のトルクに換算した値を指すものである。
図4において、操舵トルクTと、電流指令値I又は電流検出値iのコラム軸換算トルクTecとの和P(P=T+Tec)が、時刻t0 からt1 までの間、ステアリング機構のコラム軸換算摩擦トルクTfc未満である所定値R未満の範囲でモータ電流零の状態と見なして、オフセット誤差の補正演算を行うことが示されているが、前記したとおり、所定値Rとコラム軸換算摩擦トルクTfcとが一致していてもよい。以下の説明では、所定値Rとコラム軸換算摩擦トルクTfcとが一致し、和P(P=T+Tec)がコラム軸換算摩擦トルクTfc未満(P<Tfc)であるとき、モータ電流零と見なせる状態が検出され、オフセット誤
差の補正演算を行うものとして説明する。
図5は、図1に示す電子制御回路10の電流状態検出器25で実行されるモータ電流零と見なせる状態の検出と、オフセット補正演算器20によるオフセット誤差の補正演算を行うか否かを判定する処理の第1実施例を説明するフローチャートである。
まず、電流指令値I、操舵トルクT、及びステアリングホイールの操作状態を判定する操舵速度Vを読み込む(ステップP11)。操舵トルクTと、電流指令値のコラム軸換算トルクTec(Tec=I×Kt ×G)との和P(P=T+Tec)を、以下の式(1)で演算する(ステップP12)。
P=T+(I×Kt ×G)・・・・・・・・・・・(1)
但し、I:電流指令値
Kt :トルク定数
G:ギア比
T:操舵トルク
なお、ここでは、電流指令値Iに基づいてコラム軸換算トルクTecを演算しているが、モータ電流検出値iに基づいてコラム軸換算トルクTecを演算することもできる。
式(1)で演算された値Pが、コラム軸換算摩擦トルクTfc未満(P<Tfc)か否かを判定し(ステップP13)、(P<Tfc)の場合はモータ電流零と見なせる状態が検出されたものと判定する。さらに、操舵速度Vが予め設定した第1の所定値である所定の限界値V0 未満(例えば略零)か否かを判定し(ステップP14)、操舵速度Vが予め設定された所定の限界値V0 未満(V<V0 )の場合は操舵していないと見なせる状態が検出されたものする。
そして、例えばモータ駆動回路17のPWM信号のデューテイを強制的に50%に設定し、モータを駆動してモータ電流零と見なせる状態を作り出し、オフセット補正演算器20において、その時点で検出されたモータ電流検出値iに含まれるオフセット誤差の補正演算を行い(ステップP15)、オフセット補正されたモータ電流検出値ie を減算器15に出力して主ルーチンに戻る。
ステップP13の判定で、演算された値Pがコラム軸換算摩擦トルクTfc未満でない場合(P≧Tfc)は、モータ電流が零と見なせる状態ではないと判定し、オフセット補正演算器20によるオフセット誤差の補正演算を中止して(ステップP16)、通常制御に復帰するため主ルーチンに戻る。
また、ステップP14の判定で操舵速度Vが予め設定された第1の所定値である所定の限界値V0 未満でない(V≧V0 )場合は、操舵しているものと判断されるからオフセット誤差の補正演算を中止し(ステップP16)、通常制御に復帰するため主ルーチンに戻る。
上記処理において、コラム軸換算摩擦トルクTfcにマージンを加えたり、操舵速度の限界値V0 を例えば略零と見なせる操舵速度とするなど、適宜決定することにより、オフセット誤差の補正演算を行う領域の範囲を調整することができる。
また、上記処理において、ステアリングホイールの操作状態を判定する操舵速度Vに関する処理を省略することもできる。また、操舵速度Vに代えてモータ回転角速度Wによりステアリングホイールの操作状態を判定するように変更することもできる。
図6は、図1に示す電子制御回路10の電流状態検出器25で実行されるモータ電流零と見なせる状態の検出と、オフセット補正演算器20によるオフセット誤差の補正を行うか否かを判定する処理の第2実施例を説明するフローチャートである。
まず、電流指令値I、操舵トルク検出値T、ステアリングホイールの操作状態を判定するモータ回転角速度Wを読み込む(ステップP21)。操舵トルク検出値Tに相当する電
流換算値iteを計算し、電流指令値Iと操舵トルク検出値Tの電流換算値iteの和Q(Q=I+ite)を演算する(ステップP22)。
演算された和Q(Q=I+ite)が、予め設定したステアリング機構の摩擦トルクの電流換算値Imt未満(Q<Imt)か否かを判定し(ステップP23)、(Q<Imt)の場合はモータ電流零と見なせる状態が検出されたものと判定する。さらに、モータ回転角速度Wが予め設定した第2の所定値である所定の限界値W0 未満か否かを判定し(ステップP24)、モータ回転角速度Wが所定の限界値W0 未満(W<W0 )の場合は操舵していないと見なせる状態が検出されたものする。
そして、例えばモータ駆動回路17のPWM信号のデューテイを強制的に50%に設定し、モータを駆動してモータ電流零と見なせる状態を作り出し、オフセット補正演算器20において、その時点で検出されたモータ電流検出値iに含まれるオフセット誤差の補正演算を行い(ステップP25)、オフセット補正されたモータ電流検出値ie を減算器15に出力して主ルーチンに戻る。
ステップP23の判定で、演算された値Qがステアリング機構の摩擦トルクの電流換算値Imt未満でない場合(Q≧Imt)は、モータ電流が零と見なせる状態ではないと判定し、オフセット補正演算器20によるオフセット誤差の補正演算を中止して(ステップP26)、通常制御に復帰するため主ルーチンに戻る。
また、ステップP24の判定でモータ回転角速度Wが所定の限界値W0 未満でない(W≧W0 )場合は、操舵しているものと判断されるからオフセット誤差の補正演算を中止し(ステップP26)、通常制御に復帰するため主ルーチンに戻る。
なお、上記処理において、ステップP25においてオフセット誤差の補正演算を行っていない場合は、電流指令値Iに代えてモータ電流検出値iを使用することもできる。また、ステアリングホイールの操作状態を判定するモータ回転角速度Wに関する処理を省略することもできる。また、モータ回転角速度Wに代えて操舵速度Vによりステアリングホイールの操作状態を判定するように変更することもできる。
上記処理において、コラム軸換算摩擦トルクTfcにマージンを加えたり、モータ回転角速度の限界値W0 を例えば略零と見なせるモータ回転角速度とするなど、適宜決定することにより、オフセット誤差の補正演算を行う領域の範囲を調整することができる。
図7は、図1に示す電子制御回路10の電流状態検出器25で実行されるモータ電流零と見なせる状態の検出と、オフセット補正演算器20によるオフセット誤差の補正を行うか否かを判定する処理の第3実施例を説明するフローチャートである。
まず、電流指令値I、操舵トルク検出値T、ステアリングホイールの操作状態を判定するモータ回転角速度Wを読み込む(ステップP31)。電流指令値Iが予め設定された第3の所定値である所定の閾値Ia未満(I<Ia )か否かを判定し(ステップP32)、(I<Ia )の場合は、さらに操舵トルクTが予め設定された第4の所定値である所定の閾値Tb 未満(T<Tb )か否かを判定し(ステップP33)、(T<Tb )の場合は、さらに、モータ回転角速度Wが予め設定した所定の限界値W0 未満(W<W0 )か否かを判定する(ステップP34)。
ステップP34の判定の結果、モータ回転角速度Wが所定の限界値W0 未満(W<W0)の場合、即ち、ステップP31からP34までの判定で、(I<Ia )、(T<Tb )、且つ(W<W0 )の関係が成立する場合は、操舵していないと見なせる状態が検出されたものする。
そして、例えばモータ駆動回路17のPWM信号のデューテイを強制的に50%に設定し、モータを駆動してモータ電流零と見なせる状態を作り出し、オフセット補正演算器20において、その時点で検出されたモータ電流検出値iに含まれるオフセット誤差の補正演算を行い(ステップP35)、オフセット補正されたモータ電流検出値ie を減算器15に出力して主ルーチンに戻る。
ステップP32の判定で(I<Ia )の関係が成立しない場合、ステップP33の判定で(T<Tb )の関係が成立しない場合、ステップP34の判定で(W<W0 )の関係が成立しない場合は、モータ電流零と見なせる状態ではないと判定し、オフセット誤差の補正演算を中止し(ステップP36)、通常制御に復帰するため主ルーチンに戻る。
なお、上記処理において、ステアリングホイールの操作状態を判定するモータ回転角速度Wに関する処理を省略することもできる。また、モータ回転角速度Wに代えて操舵速度Vによりステアリングホイールの操作状態を判定するように変更することもできる。
上記処理において、電流指令値Iの判定に関する第3の所定値である所定の閾値Ia と、操舵トルクTの判定に関する第4の所定値である所定の閾値Tb とは、次の関係にあるものとする。即ち、閾値Ia のコラム軸換算トルクTTaと閾値Tb との和(TTa+Tb )が、コラム軸換算摩擦トルクTfc未満{(TTa+Tb )<Tfc}にあるものとする。
上記処理において、ステップP35においてオフセット誤差の補正演算を行なっていない場合は、電流指令値Iに代えてモータ電流検出値iを使用することもできる。また、ステアリングホイールの操作状態を判定するモータ回転角速度Wに関する処理を省略することもできる。また、モータ回転角速度Wに代えて操舵速度Vによりステアリングホイールの操作状態を判定するように変更することもできる。
また、コラム軸換算摩擦トルクTfcにマージンを加えたり、モータ回転角速度の限界値W0 を例えば略零と見なせるモータ回転角速度とするなど、適宜決定することにより、オフセット誤差の補正演算を行う領域の範囲を調整することができる。
電動パワーステアリング装置のモータ電流検出値のオフセット補正手段であって、ステアリングホイールの中立位置付近において、操舵トルクの僅かな変動によっても電流指令値を変動させない不感帯が適正に設定できない場合でも、電流指令値又はモータ電流検出値と操舵トルク値とに基づいてモータ電流零の状態を検出し、この時点でモータ電流検出器から出力されるモータ電流検出値をオフセット誤差とする電動パワーステアリング装置の制御装置である。
この発明の実施の形態の電動パワーステアリング装置の電子制御回路及びその周辺の回路要素とその動作の概略を説明するブロック図。 従来の電動パワーステアリング装置の電子制御回路における不感帯の設定と、電流指令値のオフセット補正演算領域を説明する図。 本発明の電動パワーステアリング装置の電子制御回路における不感帯の設定と、電流指令値のオフセット補正演算領域を説明する図。 操舵トルクと電流指令値又は電流検出値のコラム軸換算トルクとの和と電動パワーステアリング装置のシステム摩擦トルクとオフセット誤差の補正演算を行う期間の関係を説明する図。 モータ電流零と見なせる状態の検出と、オフセット誤差の補正演算を行うか否かの判定処理の第1実施例を説明するフローチャート。 モータ電流零と見なせる状態の検出と、オフセット誤差の補正演算を行うか否かの判定処理の第2実施例を説明するフローチャート。 モータ電流零と見なせる状態の検出と、オフセット誤差の補正演算を行うか否かの判定処理の第3実施例を説明するフローチャート。 従来の電動パワーステアリング装置の電子制御回路を説明するブロック図。 操舵トルクの変動に対して電流指令値が変動しない不感帯を説明する図。
10 電子制御回路
11 トルクセンサ
12 車速センサ
13 電流指令値演算器
15 減算器
16 PID演算器
16a 比例演算器
16b 積分演算器
16c 微分補償器
16d 加算器
17 モータ駆動回路
19 モータ電流検出器
20 オフセット補正演算器
21 操舵速度検出器
22 モータ角速度検出器
25 電流状態検出器
26 記憶装置
M モータ

Claims (6)

  1. 操舵トルクと車速とに基づいて演算された電流指令値に基づいてステアリング装置に操舵補助力を付与するモータに供給するモータ電流を規定し、ステアリング装置に操舵補助力を付与する電動パワーステアリング装置の制御装置であって、
    ステアリングシャフトに発生する操舵トルクを検出するトルクセンサと、
    操舵トルクと車速とに基づいて電流指令値を演算する電流指令値演算手段と、
    モータに流れる電流を検出するモータ電流検出手段と、
    モータ電流が流れないモータ電流零と見なせる状態を検出する電流状態検出手段と、
    前記モータ電流検出手段から出力されるモータ電流検出値の零点を補正するオフセット補正手段とを備え、
    前記電流状態検出手段は、前記電流指令値演算手段で演算された電流指令値又はモータ電流検出手段で検出されたモータ電流検出値と、前記トルクセンサで検出された操舵トルクとに基づいてモータ電流零と見なせる状態を検出するものであり、
    前記電流状態検出手段は、さらに前記電流指令値又はモータ電流検出値と操舵トルク検出値の電流換算値との和が、ステアリング機構の摩擦力のコラム軸換算トルクの電流換算値未満のとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとし、
    前記オフセット補正手段は、前記電流状態検出手段によりモータ電流零と見なせる状態が検出された時点におけるモータ電流検出値をオフセット補正値としてモータ電流検出値の零点を補正すること
    を特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。
  2. 前記電動パワーステアリング装置は、さらに操舵速度検出手段を備え、
    前記電流状態検出手段は、前記電流指令値又はモータ電流検出値と操舵トルク検出値の電流換算値との和が、ステアリング機構の摩擦力のコラム軸換算トルクの電流換算値未満で、且つ、前記操舵速度検出手段で検出された操舵速度が予め設定された第1の所定値未満のとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとすること
    を特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置。
  3. 前記電動パワーステアリング装置は、さらにモータ角速度検出手段を備え、
    前記電流状態検出手段は、前記電流指令値又はモータ電流検出値と操舵トルク検出値の電流換算値との和が、ステアリング機構の摩擦力のコラム軸換算トルクの電流換算値未満で、且つ、前記モータ角速度検出手段で検出されたモータ角速度が予め設定された第2の所定値未満のとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとすること
    を特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置。
  4. 前記電流状態検出手段は、前記電流指令値又はモータ電流検出値が予め設定された第3の所定値未満で、操舵トルク検出値が予め設定された第4の所定値未満のとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとすること
    を特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置。
  5. 前記電動パワーステアリング装置は、さらに操舵速度検出手段を備え、
    前記電流状態検出手段は、前記電流指令値又はモータ電流検出値が予め設定された第3の所定値未満で、操舵トルク検出値が予め設定された第4の所定値未満であり、且つ、前記操舵速度検出手段で検出された操舵速度が略零と見なせる操舵速度であるとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとすること
    を特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置。
  6. 前記電動パワーステアリング装置は、さらにモータ角速度検出手段を備え、
    前記電流状態検出手段は、前記電流指令値又はモータ電流検出値が予め設定された第3の所定値未満で、操舵トルク検出値が予め設定された第4の所定値未満であり、且つ、前記モータ角速度検出手段で検出されたモータ角速度が略零と見なせるモータ角速度であるとき、モータ電流零と見なせる状態が検出されたものとすること
    を特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置。
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