本発明は、肝炎の治療剤又は予防剤に関する。
肝炎とは、ウイルス、アルコール、薬物、毒素及び自己免疫性などの原因で誘発された肝臓の炎症を含む症患を指す。
肝炎ウイルスによる肝炎が大多数を占め、特にA,B,C型が多いが、他にもD,E,F,G型、及び特発性肝炎ウイルスの存在が知られている。また、上記の肝炎ウイルスはRNA型,DNA型など多数の異なるウイルス・ファミリーの間に広がっている。
B型ウイルス(Hepatitis B virus、HBV)及びC型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus、HCV)はそれぞれ急性及び慢性感染を引き起こす。急性肝炎は初期感染や慢性的な感染者における再発に伴って症状が現れる。他方、慢性のC型肝炎においては、6ヵ月以上にわたって肝臓の炎症が続き、細胞が破壊され、肝機能の低下を伴う。HCV感染では、急性肝炎から慢性肝炎への進行の危険性が高いことも問題である。このような状況から、肝炎ウイルス感染症に対する治療の早期介入と効果の高い治療法の開発が望まれている。
インターフェロン類(IFNs)は天然に存在するタンパク質であり、抗ウイルス活性、増殖抑制活性、免疫制御活性を有する。4つのクラスのインターフェロン(以下、単に「IFN」と表記する場合がある)がヒトに存在していることが知られている(例えば、Pestkaら,「Interferons and their actions.」,Annual Review of Biochemistry,1987年,第56巻,p.727−777(非特許文献1)参照。)。I型インターフェロン(以下、「I型IFN」と表記する場合がある)の抗ウイルス効果は、ウイルス自身に対する直接的な作用ではなく、ウイルス感染に対する防御という意味での標的細胞への作用により成し遂げられる。
このインターフェロンの抗ウイルス作用に着目し、インターフェロンは様々なウイルス性疾患に応用されている。C型肝炎においては種々のIFN製剤の単独治療やインターフェロン−α製剤(以下、「インターフェロン−α」を「IFN−α」と表記する場合がある)とリバビリンとの併用療法が治療手段の第一選択となっている。併用治療は、単剤治療より持続的反応が期待出来る反面、より高価で、より多くの副作用を伴う。しかも、これらの治療を行っても、全治療者の約60%に治療効果が認められるだけであり、効果が出た後に治療を中止すると半分以上の患者が再燃する。このような状況から、さらなる治療薬の開発が望まれている。
一方、インターフェロン自体の効果を増強する目的で、インターフェロンにポリエチレングリコールを付加したペグ化インターフェロンが開発されている。ペグ化インターフェロン−αについては既に臨床応用され、その有用性が証明されている。更に、ペグ化コンセンサスインターフェロンやペグ化インターフェロン−β(以下、「インターフェロン−β」のことを「IFN−β」と表記する場合がある)についても、基礎検討段階に入っている。
しかし、ペグ化インターフェロンによっても、C型肝炎の治療は十分では無く、C型肝炎に対する治療成績も、長期的には、インターフェロン単独療法成績と比較して若干の有効性の向上は期待できるが、満足できる状況には無い。
このような背景から、世界的に、C型肝炎治療に対し、インターフェロンと併用する新たな薬物を見出す検討がなされている。
徳永らによって特定のタイプの細菌性DNAは免疫応答を刺激することが報告されている(Yamamotoら Jpn.J.Cancer Res.1988 79:866−873(非特許文献2))。免疫刺激活性に必須な細菌性DNAの主成分は、メチル化修飾を受けていないCpGジヌクレオチドモチーフを含む特徴的な短い配列構造である。なお、本明細書においては、「CpGジヌクレオチドモチーフ」のことを「CpGモチーフ」と表記する場合がある。特段断らない限り、「CpGモチーフ」はメチル化修飾を受けていないものを意味する。また、「CpGモチーフ」を含むオリゴオリゴヌクレオチドを「CpGオリゴヌクレオチド」と表記する場合がある。合成したCpGオリゴヌクレオチドについても、マクロファージ及びナチュラルキラー(NK)細胞のI型IFN(IFN−αとIFN−β)及びIFN−γの産生を誘導し、NK細胞の細胞障害活性を有することが報告されている(特許文献1)。また、CpGオリゴヌクレオチドはマクロファージのみならず、樹状細胞やB細胞等にも作用し、細胞増殖活性、炎症性サイトカインのインターロイキン−12(以下、IL−12)、腫瘍壊死因子−α(以下、TNF−α)の産生、インターロイキン−6(以下、IL−6)の産生を誘導することが報告されている(非特許文献3)。
このことから、CpGオリゴヌクレオチドは細胞性免疫を誘導し、かつTh1応答を誘導するため、ワクチンのアジュバントあるいはアレルギー性疾患の治療に有用であると考えられる一方、TNF−αやIL−6の産生誘導により敗血症、発熱、関節痛、筋肉痛や発赤等の副作用を誘発する可能性も否定できない。
徳永らはマウスNK細胞の細胞障害活性において、6塩基パリンドロームモチーフからなるCpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドが強い活性を有することを見出し、5'−AACGTT−3'(配列番号92)、5'−AGCGCT−3'(配列番号93)、5'−GACGTC−3'(配列番号61)の配列が最も強いことを報告している(Yamamotoら J.Immunol.1992 148:4072−4076(非特許文献4))。また、他のタイプの免疫調節オリゴヌクレオチド配列も報告されている(国際公開第1998/018810号パンフレット(特許文献2)、国際公開第2003/015711号パンフレット(特許文献3)、国際公開第2004/058179号パンフレット(特許文献4)。
オリゴヌクレオチドの活性増強を目的とした研究も行われている。徳永らはCpGを含む6塩基パリンドロームモチーフの外側にデオキシグアニル酸の繰り返し構造(以下、デオキシグアニル酸の繰り返し構造を有する配列のことを「ポリG配列」という)を挿入するとNK細胞活性とIFN誘導活性が増強することを見出している(特許文献1)。また、CpGを含む6塩基配列の外側の配列が少なからず活性に影響を及ぼすことが明らかになっている。
その他の公知のCpG含有配列としては、D−タイプ(あるいはA−タイプ)及びK−タイプ(あるいはB−タイプ)の免疫刺激オリゴヌクレオチドがある(国際公開第2000/61151号パンフレット(特許文献5))。K−タイプはB細胞を活性化することが知られている。D−タイプはCpGを含むパリンドローム配列の外側にポリG配列が付加されており、樹状細胞のI型IFNの産生を誘導し、ヒトNK細胞を活性化させる。D−タイプのIFN誘導活性については3'末端側が重要とされており、3'末端側のポリG配列の長さは4塩基以上必要である(特許文献5)。さらに、炎症性サイトカインIL−12やTNF−αの産生誘導活性においても3'末端側のポリG配列が重要であり、その効果の発現には少なくとも4塩基以上のポリG配列が必要とされている(大韓民国KR2001−063153号公報(特許文献6)。このように、従来技術によって、免疫刺激活性を向上させるオリゴヌクレオチドの塩基配列、又はポリG配列の構造は、IFN誘導活性の増強と炎症性サイトカイン誘導活性の増強が連関することが開示されている。しかしながら、従来の知見では、IFN誘導活性および炎症性サイトカイン誘導活性のいずれか一方の活性だけを向上させる塩基配列や、それぞれの誘導活性を分離する可能性については明らかにされていない。
パリンドロームモチーフが5'−GACGATCGTC−3'(配列番号76)である免疫刺激ヌクレオチドは、10個までの最適な長さのポリG配列を5'末端及び3'末端に付加することにより、従来の非修飾型(修飾型の効果は後述している)のCpG含有免疫刺激ヌクレオチドよりも強力なIFN−α誘導活性を有することが見出されている(特開2005−237328号公報(特許文献7)。5'−GACGATCGTC−3'(配列番号76)を有する免疫刺激ヌクレオチドに高いIFN−α誘導活性をもたらすには、グアニン(G)を3'末端側又は5'末端側に8〜10個置くほうがよいが、免疫制御性サイトカインであるインターロイキン−10(以下、IL−10)の産生を抑えるには5'末端側に偏在させるとよいことが開示されている(特許文献7)。また、炎症性サイトカインであるTNF−αやIL−12の誘導活性は、IFN−α誘導活性と緩やかに相関することが報告されている。これらの報告は、5'−GACGATCGTC−3'(配列番号76)以外のパリンドロームモチーフにおいて5'末端側へのポリG配列付加の効果を明らかにしていない。また、これらの報告は、CpG含有オリゴヌクレオチドの炎症性サイトカイン誘導活性が減弱し、かつIFN−γとIFN−αの両方のIFN誘導活性が増強する最適なポリG配列の塩基数は開示していない。
従来のD−タイプのCpGよりも高い免疫刺激活性を有するオリゴヌクレオチドとして5'−GGTGCCGATCGGCAGGGGGG−3'(配列番号1)が見出されている(特願2004−287102号公報(特許文献8)。この塩基配列の1個ないし数個の塩基が置換された誘導体についても開示されている。3個以上変換した具体的配列は開示されていないが、唯一7塩基を置換した5'−GGGGGGTGCCGATCGGCAGGG−3'(配列番号5)は、3'末端のポリG配列が3塩基でもIFN誘導活性を有することが見出されている(国際公開第2006/035939号パンフレット(特許文献9)。
活性増強を目的としたその他の研究としては、オリゴヌクレオチドの化学修飾による安定化が知られている。天然に存在するホスホジエステルヌクレオチドは細胞内及び細胞培地中において様々な核酸分解活性によって分解されやすい。そのため、核酸分解活性の攻撃標的であるヌクレオチド間のホスホジエステル結合を置換することによる安定化、さらにその結果としての活性増加の検討が行われている。頻繁に用いられている置換方法としては、ホスホロチオエートへの置換である。Klinmanらの研究では、免疫刺激オリゴヌクレオチドのパリンドロームモチーフの外側のポリG配列をホスホロチオエート修飾することにより、免疫応答の誘導が増強されることを示している(国際公開第2000/61151号パンフレット(特許文献5)。
CpGオリゴヌクレオチドの肝炎治療における効果としては、インターフェロン誘導による抗ウイルス効果の増強と、ウイルス感染細胞に対する細胞性免疫や抗ウイルス抗体をはじめとする液性免疫の誘導などが挙げられる。CpGオリゴヌクレオチドのHBVあるいはHCV感染による肝炎治療用途に関しては、特表2003−526662号公報(特許文献10)及び特表2006−515277号公報(特許文献11)における技術情報がある。前者はCpGオリゴヌクレオチド(免疫活性化配列:ISS)を肝炎ウイルス抗原と一緒には投与せずに治療する方法について開示している。後者はインターフェロン療法などの抗ウイルス剤が無効であった慢性C型肝炎の個体を処置する方法について開示しており、患者での有用性に関して、開発コード番号CpG10101による臨床試験成績が2006年欧州肝臓学会他において開示されている。しかしながら、その臨床試験成績は、CpG10101の単剤治療の効果は従来の治療法と比べると極めて不十分であることを示している。また、該臨床試験成績は、ペグ化IFN−α製剤とリバビリンとCpG10101の3剤の併用治療は、標準的な治療法であるペグ化IFN−α製剤とリバビリンの併用療法の成績と比較して若干の有効性の向上は期待できるが、他の抗ウイルス剤との併用(例えばポリメラーゼやプロテアーゼなどウイルス酵素の阻害剤との併用治療)と比べて十分な治療効果が得られないことも明らかにしている。
上述の通り、既存のCpGオリゴヌクレオチドとIFN−αとの併用によるC型肝炎ウイルス感染の治療については特許文献11において開示されている。また、特表2003−510290号公報(特許文献12)では、IFN−α処置の効力を増強し、IFN−α処置に関連する副作用を減少するためにCpGオリゴヌクレオチドを併用する技術についても開示されており、その好ましいCpGオリゴヌクレオチドはI型インターフェロン誘導活性を有するタイプであるとされている。したがって、IFN−αとある種のCpGオリゴヌクレオチドの併用により慢性C型肝炎の治療効果が高まることが技術的に開示されている。さらには、特表2005−532067号公報(特許文献13)において、特定の配列のCpGオリゴヌクレオチドとIFN−βとの併用に関する記載がある。しかしながら、IFN−βとの併用に好ましいCpGオリゴヌクレオチド配列は開示されていない。
また、既存のCpGオリゴヌクレオチドは、炎症性のサイトカインであるTNF−α、IL−12やIL−6の産生誘導により敗血症、発熱、関節痛、筋肉痛や発赤などの望ましくない副作用を誘発する可能性も否定できず、実際にマウスの肝炎モデルを用いた試験例から肝炎の症状を悪化させることが示されている(非特許文献5)。したがって、肝炎治療に適したインターフェロン誘導活性が向上し、かつ炎症性サイトカイン誘導能が低減されたCpGオリゴヌクレオチドの創出が望まれている。
Pestkaら,「Interferons and their actions.」,Annual Review of Biochemistry,1987年,第56巻,p.727−777
Yamamotoら,Jpn.J.Cancer Res.,1988年,79:866−873
Klinmanら,Proc.Natl.Acad.Sci.,1996年,93:2879−2883
Yamamotoら,J.Immunol.,1992年,148:4072−4076
Abeら,Fukushima J.Med.Sci.,2005年,51:41−49
特開平4−352724号公報
国際公開第1998/018810号パンフレット
国際公開第2003/015711号パンフレット
国際公開第2004/058179号パンフレット
国際公開第2000/61151号パンフレット
大韓民国KR2001−063153号公報
特開2005−237328号公報
特願2004−287102号公報
国際公開第2006/035939号パンフレット
特表2003−526662号公報
特表2006−515277号公報
特表2003−510290号公報
特表2005−532067号公報
本発明は、従来のインターフェロン製剤と比べて安全で効果の高い肝炎の治療剤又は予防剤を提供することを課題とする。本発明のより具体的目的は、インターフェロン(IFN)誘導活性が増強され、かつ炎症性サイトカイン誘導活性が低減された新規な免疫刺激オリゴヌクレオチドと、IFN−βとの併用による、新規な肝炎の治療剤又は予防剤を提供することである。
本発明者らはこの課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、IFN誘導活性においてCpGモチーフを含む配列の外側の5'末端側の配列構造が重要であることを見出すと共に、当該配列構造がIFN−βとの併用において顕著な肝炎治療効果に寄与し得ることを見出した。具体的には、6塩基以上の連続したグアニン配列の5’末端側への付加により、IFN誘導活性がそれ以外のものよりも優れたオリゴヌクレオチドが得られることを確認した。更に検討を進めた結果、5'末端側に塩基数が6乃至10の長さのポリG配列を有し、3’末端側に塩基数が0乃至3の長さのポリG配列を有し、かつ所定の構造的特徴を有するCpGオリゴヌクレオチドは、従来知られているD−タイプのCpG配列からなるオリゴヌクレオチドよりもIFN誘導活性が増強される一方、炎症性サイトカイン誘導活性が低減し、IFN−βとの併用に有用であることを見出した。これらに加えて、マウスの肝炎モデルを用いた試験の結果、この新規なCpGオリゴヌクレオチドと単独治療では無効な用量のIFN−βとの併用治療が、in vivoにおける肝炎治療効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の肝炎の治療剤又は予防剤、およびその利用方法を提供するものである。
[1] 式(1):5’−(G)MPXCGYQ(G)N−3’
[式(1)中、Cは、シトシン、Gは、グアニン、X及びYは、それぞれ独立に、4塩基以上連続したグアニンを含まない0〜10ヌクレオチド長の塩基配列(但し、X+Yの長さは、6〜20ヌクレオチド長である。)、XCGYは、少なくとも8ヌクレオチド長のパリンドローム配列を含む8〜22ヌクレオチド長の塩基配列、P及びQは、それぞれ独立に、グアニン以外の1ヌクレオチド、Mは、6〜10の整数、Nは、0〜3の整数を表す。]
で示され、全長が16〜37ヌクレオチド長であるオリゴヌクレオチド(但し、配列表の配列番号5記載の塩基配列からなるものは除く。)と、
IFN−βと、
を有効成分とする、肝炎の治療剤又は予防剤。
[2] 上記IFN−βは、天然型IFN−β、遺伝子組換え型IFN−β又は修飾されたIFN−βである、[1]記載の治療剤又は予防剤。
[3] 上記肝炎は、B型肝炎又はC型肝炎である、[1]又は[2]記載の治療剤又は予防剤。
[4] 上記オリゴヌクレオチドは、16〜35ヌクレオチド長であり、Mは、6〜8の整数を表す、[1]〜[3]のいずれか記載の治療剤又は予防剤。
[5] 上記オリゴヌクレオチドは、17〜23ヌクレオチド長であり、前記式(1)中のXCGYは、9又は10ヌクレオチド長の塩基配列を表す、[1]〜[4]のいずれか記載の治療剤又は予防剤。
[6] 上記式(1)中のXCGYは、配列表の配列番号59、60又は61に記載の塩基配列を含む、[1]〜[5]のいずれか記載の治療剤又は予防剤。
[7] 上記オリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号6、7、9〜11、15〜18、22、24、26、28、48、50〜52、54、95及び97からなる群から選択される塩基配列からなる、[6]記載の治療剤又は予防剤。
[8] 上記オリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号30に示される塩基配列からなる、[6]記載の治療剤又は予防剤。
[9] 上記オリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号40又は42に示される塩基配列からなる、[6]記載の治療剤又は予防剤。
[10] 上記式(1)中の(G)M又は(G)Nで示される領域に含まれるホスホジエステル結合のうち少なくともその一部がホスホロチオエート修飾されている、[1]〜[9]のいずれか記載の治療剤又は予防剤。
本発明によれば、従来のインターフェロン製剤と比べて安全で効果の高い肝炎の治療剤又は予防剤が提供される。本発明の肝炎の治療剤又は予防剤を用いることにより、より安全で効果的なC型肝炎の治療、及び予防が可能となる。
本発明の治療剤又は予防剤の有効成分の一つである免疫刺激オリゴヌクレオチドは、IFN誘導活性が増強され、炎症性サイトカイン誘導活性が低減され、また、優れた免疫刺激活性を有するため、高い治療効果を有する。また、本発明において用いられる免疫刺激オリゴヌクレオチドは、炎症性サイトカイン誘導活性が低減されているため、生体に投与された場合、炎症による副作用誘発の危険性が少ない。本発明の治療剤又は予防剤は、マウスの肝炎モデルを用いた試験の結果、in vivoにおいて肝炎治療効果を有することも証明されている。更に、副作用の危険性が低減されているため、高用量の使用も可能である。すなわち、上記のような優れた効果を発揮する免疫刺激オリゴヌクレオチドをIFN−βと併用することにより、治療または予防効果のみならず安全面でも優れた肝炎の治療剤又は予防剤とすることができる。
図1−1は、実施例1において、ヒトPBMCを本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激し、培養上清中のIFN−α産生量を測定した結果を示す図である。
図1−2は、実施例1において、ヒトPBMCを本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激し、培養上清中のIFN−γ産生量を測定した結果を示す図である。
図1−3は、実施例1において、ヒトPBMCを本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激し、培養上清中のIFN−α産生量を測定した結果を示す図である。
図1−4は、実施例1において、ヒトPBMCを本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激し、培養上清中のIFN−γ産生量を測定した結果を示す図である。
図1−5は、実施例1において、ヒトPBMCを本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激し、培養上清中のIFN−α産生量を測定した結果を示す図である。
図1−6は、実施例1において、ヒトPBMCを本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激し、培養上清中のIFN−γ産生量を測定した結果を示す図である。
図2は、実施例2において、マウスJ774細胞株を本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激し、培養上清中のIL−12p40産生量を測定した結果を示す図である。
図3−1は、実施例3において、ヒトPBMCを本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチド(G6−PXCGYQ−G3)及びパリンドロームモチーフが同一であるD−タイプのCpG(G2−PXCGYQ−G6)で刺激し、培養上清中のIFN−α産生量を測定した結果を示す図である。
図3−2は、実施例3において、ヒトPBMCを本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチド(G6−PXCGYQ−G3)及びパリンドロームモチーフが同一であるD−タイプのCpG(G2−PXCGYQ−G6)で刺激し、培養上清中のIFN−γ産生量を測定した結果を示す図である。
図3−3は、実施例3において、ヒトPBMCを本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチド(G6/7−PXCGYQ−G2)及びパリンドロームモチーフが同一であるD−タイプのCpG(G2/3−PXCGYQ−G6)で刺激し、培養上清中のIFN−α産生量を測定した結果を示す図である。
図4は、実施例4において、ヒトPBMCを本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激し、培養上清中のIFN−α産生量を測定した結果を示す図である。
図5−1は、実施例7において、ヒトPBMCを本発明及び公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激し、培養上清中のIFN−α産生量を測定した結果を示す図である。
図5−2は、実施例7において、ヒトPBMCを本発明及び公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激し、培養上清中のIFN−α産生量を測定した結果を示す図である。
図5−3は、実施例7において、ヒトPBMCを本発明及び公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激し、培養上清中のIFN−α産生量を測定した結果を示す図である。
図5−4は、実施例7において、ヒトPBMCを本発明及び公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激し、培養上清中のIFN−α産生量を測定した結果を示す図である。
図6は、実施例8において、ヒトPBMCを本発明及び公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激し、培養上清中のIFN−α産生量を測定した結果を示す図である。
図7−1は、実施例9において、マウス脾細胞を本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチド及びパリンドロームモチーフが同一であるD−タイプのCpGで刺激し、培養上清中のIFN−γ産生量を測定した結果を示す図である。
図7−2は、実施例9において、マウス脾細胞を本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチド及びパリンドロームモチーフが同一であるD−タイプのCpGで刺激し、培養上清中のIL−10産生量を測定した結果を示す図である。
図8−1は、実施例10において、マウスJ774細胞株を本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチド(G6−PXCGYQ−G3)及びパリンドロームモチーフが同一であるD−タイプのCpG(G2−PXCGYQ−G6)で刺激し、培養上清中のIL−12産生量を測定した結果を示す図である。
図8−2は、実施例10において、マウスJ774細胞株を本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチド(G6−PXCGYQ−G3)及びパリンドロームモチーフが同一であるD−タイプのCpG(G2−PXCGYQ−G6)で刺激し、培養上清中のTNF−α産生量を測定した結果を示す図である。
図9は、実施例11において、マウスJ774細胞株を本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチド及びパリンドロームモチーフが同一であるD−タイプのCpGと公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激し、培養上清中のTNF−α産生量を測定した結果を示す図である。
図10は、実施例12において、本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドとIFN−βを含有する治療剤又は予防剤のConcanavalin Aで誘発したマウスの肝炎モデルにおける血清中ALT値の上昇に及ぼす影響について、IFN−βをIFN−αに換えた場合の影響及び各インターフェロン単独の影響とを比較評価した結果を示す図である。
図11は、実施例13において、本発明の有効成分の一つであるペグ化インターフェロン−βのConcanavalin Aで誘発したマウスの肝炎モデルで観察される肝臓の血流量低下に及ぼす影響について、各IFN単独の影響を比較評価した結果を示す図である。
本発明は一つの実施形態として肝炎の治療剤または予防剤を提供する。本発明の肝炎の治療剤又は予防剤は、下記に説明する所定の配列を備えるオリゴヌクレオチドと、IFN−βとを有効成分として含むことを特徴とする。本発明の肝炎の治療剤又は予防剤の一有効成分となるオリゴヌクレオチドは、
式(1):5’−(G)MPXCGYQ(G)N−3’
[式(1)中、Cは、シトシンを表す。Gは、グアニンを表す。X及びYは、それぞれ独立に、4塩基以上連続したグアニンを含まない0〜10ヌクレオチド長の塩基配列を表す。但し、X+Yの長さは、6〜20ヌクレオチド長である。XCGYは、少なくとも8ヌクレオチド長のパリンドローム配列を含む8〜22ヌクレオチド長の塩基配列を表す。P及びQは、それぞれ独立に、グアニン以外の1ヌクレオチドを表す。Mは、6〜10の整数を表す。Nは、0〜3の整数を表す。]で示される配列を備え、その全長が16〜37ヌクレオチド長であるオリゴヌクレオチドである(以下、これらの要件を満たすオリゴヌクレオチドを「式(1)のオリゴヌクレオチド」と表記する場合がある)。
なお、配列表の配列番号5記載の塩基配列からなるものは、本発明の肝炎の治療剤又は予防剤の有効成分からは除外される。
本発明の治療剤又は予防剤は、式(1)のオリゴヌクレオチドを有効成分の一つとして含む。本発明の治療剤又は予防剤の一有効成分としてのオリゴヌクレオチドは、その免疫刺激性に加え、IFN−α単独又はIFN−β単独による治療効果よりも肝炎に対する治療効果を相乗的に高め得るものがより好適に用いられる。また、本発明の治療剤又は予防剤には、上記式(1)のオリゴヌクレオチドに加え、さらにポリG配列を付加されたCpG−A(D−タイプのCpG)、CpG−B(K−タイプのCpG)又はCpG−Cといった公知の配列を備える免疫刺激オリゴヌクレオチドを併用してもよい。
式(1):5’−(G)MPXCGYQ(G)N−3’において、「5’−」は5’末端を、「3’−」は3’末端を示す。また、上述の通り、Cはシトシンであり、Gはグアニンであり、XとYは相互に独立した任意の配列及び長さからなる部分であり、PとQは相互に独立した任意のヌクレオチドである。(G)Mと(G)Nは、それぞれグアニン(G)のみからなる連続する配列部分を示し、それぞれのMとNはグアニンの数を表す。すなわち、上記式(1)は、本発明の有効成分の一つである免疫刺激オリゴヌクレオチドの5’末端から3’末端の塩基配列を一般化して示したものある。なお、本明細書において、「オリゴヌクレオチド」とは、連続したデオキシリボヌクレオチドから構成されたポリヌクレオチドであり、「XCGY」で示される配列は、上記式(1)中のX、C、G、及びYで構成される配列部分全体を意味し、「PXCGYQ」で示される配列は、上記式(1)中のP、X、C、G、Y、及びQで構成される配列部分全体を意味する。また、上記式(1)に関し「長さ」とは、各配列部分を構成するヌクレオチドの数(ヌクレオチド長)を意味する。さらに、「X+Yの長さ」とは、Xの長さとYの長さの合計を意味するものとする。
上記式(1)中、XとYの長さはそれぞれ0〜10ヌクレオチド長の範囲である。特に、2〜6ヌクレオチド長であることが好ましい。X及びYの配列はそれぞれ独立した任意のヌクレオチドからなるものであればよいが、4塩基以上の連続したグアニンが含まれないことが必要である。更に、X+Yの長さは6〜20ヌクレオチド長であることが必要である。6〜12ヌクレオチド長が好ましく、7又は8ヌクレオチド長がより好ましく、8ヌクレオチド長が最も好ましい。なお、XとYのヌクレオチド長は必ずしも同じでなくともよい。
上記式(1)中、XCGY配列には、パリンドローム配列が含まれることが必要であり、該パリンドローム配列の長さは、8ヌクレオチド長以上であることが必要である。XCGY配列は、8塩基以上のパリンドローム配列のみで構成されていてもよいし、XCGY配列の一部として8塩基以上のパリンドローム配列を含むものであってもよい。XCGY配列は、一部に8塩基以上のパリンドローム配列を含む限り、必ずしも完全に相補的でなくてもよい。すなわち、XCGY配列中に8塩基以上のパリンドローム配列を含む限り、XCGY配列中における該パリンドローム配列の位置は限定されず、また、該パリンドローム配列以外の部分にパリンドローム配列を構成しないヌクレオチドが付加されていてもよい。なお、パリンドローム配列とは、任意の2塩基の間の軸に対して左右対称に相補的な塩基から構成される塩基配列部分を意味し、回文配列とも別称されることがある。
上記式(1)中のXCGY配列は、CGATCG(配列番号59)、ATCGAT(配列番号60)及びGACGTC(配列番号61)から選ばれるいずれか一つの塩基配列を含むことが好ましい。特に、CGATCG(配列番号59)を含むことが最も好ましい。これらの配列自体はパリンドローム配列であり、XCGY配列に含まれるパリンドローム配列はこれらの配列を一部として含むことが好ましい。
上記式(1)中のXCGY配列に含まれるパリンドローム配列の例を以下に示す。XCGY配列が、8塩基配列のパリンドローム配列としては、CCGATCGG(配列番号62),GCGATCGC(配列番号63),ACGATCGT(配列番号64),CATCGATG(配列番号65),GATCGATC(配列番号66),ATCGCGAT(配列番号67),GAACGTTC(配列番号68),CAACGTTG(配列番号69),AGCGCGCT(配列番号70),ACGTACGT(配列番号71),TAGCGCTA(配列番号72),ACGGCCGT(配列番号73),CGACGTCG(配列番号74),CGTCGACG(配列番号75)が挙げられる。このうち、CCGATCGG,GCGATCGC,ACGATCGT,CATCGATG,CGACGTCGが好ましい。XCGY配列が、10塩基配列のパリンドローム配列としては、GACGATCGTC(配列番号76),GGCGATCGCC(配列番号77),CGATCGATCG(配列番号78),GATCGCGATC(配列番号79),GCAACGTTGC(配列番号80),GCATCGATGC(配列番号81),CAGCGCGCTG(配列番号82),GACGTACGTC(配列番号83),CTAGCGCTAG(配列番号84),CCCGATCGGG(配列番号85),GACGGCCGTC(配列番号86),GCCGATCGGC(配列番号87),TCCGATCGGA(配列番号88),ACGTCGACGT(配列番号89),ACAACGTTGT(配列番号90)及びACGACGTCGT(配列番号91)が挙げられる。このうち、GCCGATCGGC,CCCGATCGGG,TCCGATCGGA,GGCGATCGCC,GACGATCGTC,GCATCGATGC,ACGACGTCGTが好ましい。なお、パリンドローム配列は、その長さが少なくとも8ヌクレオチド長ある配列であれば必ずしもこれらの具体例に限定されない。XCGY配列の長さは8〜22ヌクレオチド長であり、この範囲でXとYのそれぞれの長さやパリンドローム配列の種類に応じて調製することができる。好ましくは、8〜14ヌクレオチド長が好ましく、9又は10ヌクレオチド長がより好ましく、10ヌクレオチド長が最も好ましい。
上記式(1)中のP及びQはグアニン以外の1ヌクレオチドである。具体的には、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)のいずれかである。上記式(1)中のMは、6〜10の整数であり、6〜8であることが好ましい。上記範囲を逸脱すると、IFN誘導活性が不十分となるため好ましくない。また、Nは0〜3の整数である。上記範囲を逸脱すると、炎症性サイトカイン誘導活性を充分に低減させることができないので好ましくない。
上記式(1)で示されるオリゴヌクレオチドの全長は、16〜37ヌクレオチド長であり、上記式(1)中のMやN、XやYの長さ等により異なる。上記の通りMが6〜8の範囲であるときは6〜35ヌクレオチド長である。また、上記式(1)中のXCGY配列の長さが9又は10ヌクレオチド長の場合には17〜23ヌクレオチド長である。
上記治療剤又は予防剤の有効成分の一つであるオリゴヌクレオチドの塩基配列の例として、好ましくは、GGGGGGTGACGATCGTCGGG(配列番号97:Mod92),GGGGGGTGACGATCGTCAGGG(配列番号28:Mod46),GGGGGGTCCCGATCGGGAGGG(配列番号22:Mod43),GGGGGGTTCCGATCGGAAGGG(配列番号24:Mod44),GGGGGGTGGCGATCGCCAGGG(配列番号26:Mod45),GGGGGGTGCATCGATGCAGGG(配列番号30:Mod47),GGGGGGGTGCCGATCGGCAGGG(配列番号6:Mod53),GGGGGGGGTGCCGATCGGCAGGG(配列番号7:Mod54),GGGGGGTGCCGATCGGCAGG(配列番号9:Mod40),GGGGGGGTGCCGATCGGCAGG(配列番号10:Mod55),GGGGGGTGCCGATCGGCAG(配列番号11:Mod41),GGGGGGTGCCGATCGGCA(配列番号15:Mod61),GGGGGGGTGCCGATCGGCA(配列番号16:Mod62),GGGGGGGGTGCCGATCGGCA(配列番号17:Mod63),GGGGGGGGGGTGCCGATCGGCA(配列番号18:Mod64),GGGGGGGACGACGTCGTCGG(配列番号40:Mod71)及びGGGGGGAACGACGTCGTTGG(配列番号42:Mod73)を挙げることができるが、必ずしもこれに限定されない。また、例えば、上記式(1):5’−(G)MPXCGYQ(G)N−3’のMが7でNが2である場合、GGGGGGGAGCCGATCGGCTGG(配列番号43),GGGGGGGAGCCGATCGGCAGG(配列番号44),GGGGGGGTGCCGATCGGCTGG(配列番号45),GGGGGGGAGCCGATCGGCCGG(配列番号46),GGGGGGGCGCCGATCGGCCGG(配列番号47),GGGGGGGTGACGATCGTCAGG(配列番号48:Mod84),GGGGGGGTGACGATCGTCTGG(配列番号49),GGGGGGGAGACGATCGTCAGG(配列番号50:Mod85),GGGGGGGAGACGATCGTCTGG(配列番号51:Mod83),GGGGGGGCGACGATCGTCAGG(配列番号52:Mod87),GGGGGGGTGACGATCGTTAGG(配列番号53),GGGGGGGTCGACGTCGTGG(配列番号100),GGGGGGGACGACGTCGTGG(配列番号101)及びGGGGGGGTCGACGTCGAGG(配列番号102),GGGGGGGACGACGTCGTCGG(配列番号105)であってもよく、さらに、上記式(1)のMが7でNが3である場合、GGGGGGGCGACGATCGTCGGG(配列番号54),GGGGGGGTGACGATCGTCGGG(配列番号94),GGGGGGGTCGACGTCGTGGG(配列番号99)及びGGGGGGGTCGACGTCGAGGG(配列番号107)、Mが8でNが1である場合、GGGGGGGGCGACGATCGTCG(配列番号95:Mod93),GGGGGGGGTGACGATCGTCG(配列番号96),GGGGGGGGACGACGTCGTG(配列番号103)及びGGGGGGGGTCGACGTCGAG(配列番号104)であってもよい。また、上記式(1)のMが8でNが0である場合、GGGGGGGGACGACGTCGTC(配列番号106)であってもよい。
配列表の配列番号6、7、9〜11及び15〜18、22、24、26、28、30、40、42、48、50〜52、54、95及び97で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、上記式(1)において、PXCGYQ配列の条件を満たすが、その他の条件を満たさないD−タイプのCpG配列よりもIFN誘導活性が増強され、炎症性サイトカイン誘導活性が低減することが確認されている。すなわち、IFN誘導活性においては、オリゴヌクレオチドのCpGモチーフを含むパリンドローム配列が必須であるが、IFN誘導活性の増強と炎症性サイトカイン誘導活性の低減においては、その外側に付加するポリG配列の塩基数が重要である。したがって、上記式(1)のオリゴヌクレオチドの最も重要な部分は、ポリG配列と特定のパリンドローム配列との組み合わせではなく、最適なポリG配列の付加様式である。また、列挙したオリゴヌクレオチドのうち、配列番号6、7、10及び15〜17、24、26、28、48及び50〜52に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、中でも、配列番号6、7、10、28、48及び50〜52のオリゴヌクレオチドは、強いインターフェロン(IFN)誘導活性を有しており、特に好ましい。
上記式(1)のオリゴヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド残基間のホスホジエステル結合、各ヌクレオチドのリボース糖部、塩基部のうちの全て又は一部が化学修飾されていてもよい。但し、XCGY配列のシトシン(C)のメチル化は免疫刺激活性が消失するので好ましくない。このような修飾された免疫刺激オリゴヌクレオチドの好適な実施形態としては、ヌクレオチド残基間のホスホジエステル結合におけるリン酸基の酸素原子の置換及び/又は修飾であり、例えばホスホロチオエート(Phosphorothioate)、メチルフォスフォネート(Methylphosphonate)及びフォスフォラミデート(Phosphoramidate)を挙げることができる。好ましい実施形態としては、上記式(1)中の(G)Mおよび(G)Nで示される領域に含まれるホスホジエステル結合のうち、少なくともその一部がホスホロチオエート修飾されている形態が挙げられる。ホスホロチオエート修飾は、5'−末端のポリG配列(上記式(1)中の(G)M)の一部又は全てのヌクレオチド残基間のホスホジエステル結合においてなされていることが好ましい。5'−末端のポリG配列については、該配列を構成するすべての塩基間又は最末端のホスホジエステル結合においてホスホロチエート修飾がなされていることが好ましい。3'−末端のポリG配列(上記式(1)中の(G)N)については、最末端の塩基を除く一部又は全ての塩基間のホスホジエステル結合においてホスホロチオエート修飾がなされていることが好ましい。また、上記式(1)におけるN=0又は1のオリゴヌクレオチドはグアニン以外の3’−末端側のホスホジエステル結合がホスホロチオエート修飾されていてもよい。さらには、5’−末端のポリG配列と3’−末端側の最末端のホスホジエステル結合がホスホロチオエート修飾されていることが好ましい。例えば、上記式(1):5’−(G)MPXCGYQ(G)N−3’のMが7でNが2であるGGGGGGGCGACGATCGTCAGG(配列番号52:Mod87)の場合、5’−末端が全てホスホロチオエート修飾されたポリG配列(以下、ホスホロチオエート修飾されたGをgと表記する)を有するgggggggCGACGATCGTCAGG、5’−末端のみホスホロチオエート修飾されたポリG配列を有するgGGGGGGCGACGATCGTCAGG、5’−末端の2塩基のみホスホロチオエート修飾されたポリG配列を有するggGGGGGCGACGATCGTCAGG、5’−末端が全てホスホロチオエート修飾されたポリG配列と3’−末端がホスホロチオエート修飾されたgggggggCGACGATCGTCAgG、両末端のみホスホロチオエート修飾されたgGGGGGGCGACGATCGTCAgG、5’−末端の2塩基と3’−末端がホスホロチオエート修飾されたggGGGGGCGACGATCGTCAgGが好ましい。さらに、免疫刺激活性を有する限りにおいては、CpGジヌクレオチドのシトシン(上記式(1)中の中央部のC)においてメチル化以外の化学修飾がされていてもよい。
ホスホジエステル骨格を有するオリゴヌクレオチドの分解は、エキソヌクレアーゼ及びエンドヌクレアーゼにより媒介される。ヌクレオチド間結合がホスホロチオエート修飾されることによりこれらのヌクレアーゼに対して抵抗性を獲得することが知られている。一部のヌクレオチド残基間が修飾されているオリゴヌクレオチドとしては、例えば、5'及び3'末端のヌクレオチド間がホスホロチオエート修飾結合を有するオリゴヌクレオチドやポリG配列のヌクレオチド間がホスホロチオエート修飾結合を有するオリゴヌクレオチドがあり、エキソヌクレアーゼに耐性を有する。また、全てのヌクレオチド残基間がホスホロチオエート修飾されているオリゴヌクレオチドは、エキソヌクレアーゼ及びエンドヌクレアーゼに抵抗性を有する。ヌクレアーゼ耐性のCpGオリゴヌクレオチドは安定であり、例えば、標的受容体に作用する時間の延長や一定の濃度を維持する結果、増強された免疫刺激活性を示す。
なお、上記式(1)のオリゴヌクレオチドは、上述した配列に関する要件を満たしていれば、免疫刺激活性、具体的には増強されたIFN誘導活性と低減された炎症性サイトカイン誘導活性を有する限り、核酸以外の分子が結合されていてもよい。
本発明において、オリゴヌクレオチドが免疫刺激活性を有するとは、インターフェロン(IFN)誘導活性が増強され、かつ炎症性サイトカイン誘導活性が低減されることを意味する。ここで、炎症性サイトカインとはインターロイキン−12(以下、IL−12という)、腫瘍壊死因子−α(以下、TNF−αという)、インターロイキン−6(以下、IL−6)及びインターロイキン−1β(以下、IL−1βという)を意味する。炎症性とは、組織における発熱の誘導や細胞の浸潤及び活性化を引き起こす性質を言う。一方、免疫抑制性とは上記の炎症反応を抑制するような機能あるいは性質を有することを表す。インターロイキン−10(以下、IL−10という)は、免疫抑制性サイトカインの一つであり、機能的に炎症性サイトカインとは異なる。IFN誘導活性或いは炎症性サイトカイン誘導活性とは、例えば、ヒトにおいては平均的な反応性を有するヒト検体の末梢血単核球(以下、PBMCと表記する場合がある)、マウスにおいては骨髄由来樹状細胞あるいは脾細胞あるいはCpG配列を有する免疫刺激オリゴヌクレオチドに感受性の単球系細胞株J774やRAW264.7からの各サイトカイン産生を誘導する作用のことを示す。本発明においては、ヒト末梢血単核球(以下、ヒトPBMC)における免疫刺激オリゴヌクレオチド処置によるIFN−α及びIFN−γの産生誘導を指標とした活性として示すことができる。また、マウス脾細胞における免疫刺激オリゴヌクレオチド処置によるIFN−γ及びIL−10の産生誘導を指標とした活性として示すことができる。更に、マウス樹状細胞及びJ774細胞株において免疫刺激オリゴヌクレオチド処置によりインターロイキン−12p40(以下、IL−12p40という)及びTNF−αの産生誘導を指標とした活性として示すこともできる。また、本発明において、いくつかの免疫刺激オリゴヌクレオチド配列の活性を比較する際に用いる、増強されたIFN誘導活性とは、上記細胞を免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激した場合に他よりも低濃度において多量のIFN−α及びIFN−γを誘導することを表わす。一方、低減された炎症性サイトカイン誘導活性とは、上記細胞を免疫刺激オリゴヌクレオチドで刺激した場合に他よりも少量のIL−12p40及びTNF−αを誘導することをいう。
上記式(1)のオリゴヌクレオチドによるPBMCからのIFN−γ及びIFN−αのin vitroでの誘導活性を評価する試験の具体的方法を以下に示す。被検体のオリゴヌクレオチドは、PBS(−)で溶解した後、10%ウシ胎児血清(以下、FCSという)入りのRPMI1640培地で希釈して使用する。ヒト血液からHistopaque 1077を用いた密度勾配遠心を2000rpm,室温で25分間行い、PBMCを単離する。単離したPBMCを10%FCS入りRPMI1640培地で1mLあたり4.0×106個の細胞が含まれるように調製後、丸底の96穴マイクロプレートに1ウェルあたり4.0×105個の細胞を播き、免疫刺激オリゴヌクレオチドの存在下で24時間、又は7日間刺激し、それぞれ培養上清を回収する。IFNαとIFNγの産生量は、24時間と7日間刺激後それぞれの培養上清を用いてELISA法にて定量する。
上記式(1)のオリゴヌクレオチドによるPBMCからのIL−12及びTNF−αのin vitroでの誘導活性を評価する試験の具体的方法を以下に示す。被検体のオリゴヌクレオチドは、PBS(−)で溶解した後、10%FCS入りのRPMI1640培地で希釈して使用する。ヒト血液からHistopaque 1077を用いた密度勾配遠心を2000rpm,室温で25分間行い、PBMCを単離する。単離したPBMCを10%FCS入りRPMI1640培地で1mLあたり2.0×106個の細胞が含まれるように調製後、平底の96穴マイクロプレートに1ウェルあたり2.0×105個の細胞を播き、免疫刺激オリゴヌクレオチドの存在下で8時間、又は24時間刺激し、それぞれ培養上清を回収する。IL−12及びTNF−αの産生量は、8時間と24時間刺激後それぞれの培養上清を用いてELISA法にて定量する。
上記式(1)のオリゴヌクレオチドによるマウス脾細胞からのIFN−γ及びIL−10産生誘導の有無を確認する手段として、in vitroでの誘導評価試験が挙げられる。具体的方法を以下に示す。被検体となるオリゴヌクレオチドは、PBS(−)で溶解した後、10%FCS入りのRPMI1640培地で希釈して使用する。10〜25週齢のCL57BL/6Nマウス(雄)の脾臓を摘出し、RPMI1640/FCS 10%の入ったシャーレに移す。擦り付きスライドガラス2枚を用いて脾臓をすり潰し、セルストレイナーで漉しながら丸底遠沈管に移す。1000rpmで10分間4℃にて遠心し、上清を捨てて、5mLの溶血バッファー(0.83% NH4Clと170mM Tris−HCl,pH7.65を9対1で混合して調製する)を加え、ピペッティング操作で細胞塊をほぐして懸濁する。5分間室温でインキュベーションしたのち、5mLの培養液を加えて転倒混和し、1000rpmで10分間4℃にて遠心する。上清を捨てて、10mLの培養液を加え、ピペッティング操作で細胞塊をほぐして懸濁した。洗浄操作を2回繰り返したのちに、培養液で再懸濁して、トリパンブルーを用いて細胞数をカウントして、1mLあたりの生細胞数が4×106となるように調製する。丸底の96穴プレートに1ウェルあたり4.0×105個の細胞となるように播き、被検体のオリゴヌクレオチドを添加して3日間刺激する。刺激終了後、培養上清中のIFN−γ及びIL−10の濃度をELISA法にて定量する。
上記式(1)のオリゴヌクレオチドによるマウスJ774細胞からのIL−12p40及びTNF−α産生誘導の有無を確認する手段として、in vitroでの誘導評価試験が挙げられる。被検体のオリゴヌクレオチドは、PBS(−)で溶解した後、10%FCS入りのRPMI1640培地で希釈して使用する。J774細胞株は培養液(RPMI1640,FCS 10%,50μM 2−ME)で1mLあたりに1×106個となるように調製する。平底96穴マルチプレートに1ウェルあたり1.0×105個の細胞となるように播き、被検体のオリゴヌクレオチドを添加して4時間あるいは8時間あるいは48時間刺激する。刺激終了後、培養上清中のIL−12p40及びTNF−αの濃度をELISA法にて定量する。
上記式(1)のオリゴヌクレオチドは、従来技術又は核酸合成装置で合成できる。これらの合成方法は、酵素的方法や化学的方法等を含むが、必ずしもこれに限定されるものではない。また、修飾されたオリゴヌクレオチドも従来の技術において合成される。例えば、オリゴヌクレオチドホスホルアミデートを硫黄で処理することにより、ホスホロチオエート修飾されたオリゴヌクレオチドが得られるが、必ずしもこれに限定されるものではない。これらのオリゴヌクレオチドの合成技術、修飾技術は本明細中に引用されている特許文献、非特許文献においても用いられており、その他にも多数の報告が確認される公知の技術である。
上記の治療剤又は予防剤に含まれるIFN−βとしては、特に限定されないが、天然型であっても遺伝子組換え型であってもよい。更に、インターフェロンにポリエチレングリコール(ペグ)などの高分子体を結合させたペグ化IFN−βであってもよい。これらのIFN−βは、細胞表面上にある共通の受容体に結合し作用することが知られている。IFN−β自体は、周知であり、市販もされているので、ヒトの治療に対し市販のIFN−βを好ましく用いることができる。ペグ化IFN−βについても現在基礎検討段階だが、同様に用いることができる。
本発明の一実施形態としては、免疫刺激オリゴヌクレオチドを投与することを特徴とする、IFN−βの肝炎治療効果を高める方法も提供される。IFN−βと上記式(I)のオリゴヌクレオドの患者への投与は同時であることが好ましいが、IFN−βの単独処置、又は上記式(1)のオリゴヌクレオチド以外の抗ウイルス剤とIFN−βとの併用処置と比べて高い治療効果を有する限り必ずしも同時である必要はなく、効果的なタイミングで連続的に投与してもよい。具体的には、免疫刺激オリゴヌクレオドをIFN−β処置の前後に投与してもよい。
さらに、本発明の肝炎の治療剤又は予防剤を好適に用い得る症例としては、例えば、免疫系の活性化を伴う肝炎、非ウイルス性の肝炎及び/又はウイルス性肝炎などが挙げられ、さらに好ましくはHBV及び/又はHCV感染によるB型肝炎及び/又はC型肝炎などが挙げられる。
本明細書において、HBV及び/又はHCV感染の症状には、急性及び慢性の肝炎を成因とする症状が含まれる。ウイルス性肝炎の臨床症状は、黄疸、腹痛、倦怠感、吐き気、及び嘔吐、並びに肝炎に関係する臨床的/検査所見、肝酵素レベルの上昇(例えば、アラニン・アミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、及び/又は乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH))、ビリルビンの上昇、HCVウイルス血症又は抗原レベル、門脈圧亢進症及び食欲不振等の上昇、肝血流量の低下を含むが必ずしもこれに限定されない。
上記本発明の治療剤又は予防剤のB型肝炎及び/又はC型肝炎の治療効果は、上記した臨床症状(例として黄疸、倦怠感、腹痛)、肝炎関連の検査所見(例として血中肝酵素レベル)、ウイルス増幅及び複製、あるいはウイルスの量(力価)を指標として評価しうる。すなわち、本発明の治療剤又は予防剤による治療を行わなかった個体と比較し、本発明の治療剤又は予防剤を用いて治療をした個体は、B型肝炎及び/C型肝炎の臨床症状の消失、寛解、改善あるいは症状の程度の軽減、さらには罹患期間の短縮が期待できる。肝炎関連の検査所見やウイルス複製及びウイルス量についても治療効果として反映されうる。ウイルス力価の減少は、感染部位又は個体からのウイルスの排除を含む。
評価の方法としては、症状の検出、臨床検査による肝機能の計測、肝生検、肝門脈圧の直接的又は間接的計測や肝血流量測定、及びウイルス粒子、ウイルス核酸又はウイルス抗原力価の計測、そして抗ウイルス抗体の検出及び計測を含む本技術分野で知られるいずれかの手段が選択されうる。腹痛及び倦怠感等の自覚的な身体的症状は症状の有無により判定し、黄疸は定性ベース、ビリルビンの血中又は血清中レベルの計測により定量化する。肝炎に関する検査所見、例えば、血液あるいは血清中の肝酵素AST及びALT量は、血液学的、血液生化学的及び組織学的試験により計測する。血液又は血清サンプル中のウイルス力価は当該技術領域における周知の方法、例えばウイルス粒子の定量化(例えば分離及び可視化によるか又はDNase抵抗性粒子のアッセイ)、血液又は血清サンプル中のウイルス抗原の検出(ELISA法による抗原量の定量化)、血液又は血清サンプル中の抗ウイルス抗体の検出、又はウイルス核酸(RNA及びDNA)の検出(HCV遺伝子特異的プライマーを用いたPCR増幅あるいはウイルス特異的プローブを用いたin situハイブリダイゼーション)により計測する。肝組織生検においても上記方法で評価可能である。
上記本発明の治療剤又は予防剤は、肝炎の治療又は予防の少なくとも一方の用途に用い得る。また、上記の治療剤又は予防剤は、当初、肝炎発症に対する予防目的で使用を開始し、患者が発症してしまった場合に引き続き肝炎の治療目的で使用してもよい。すなわち、上記の治療剤又は予防剤を治療と予防の双方の目的で使用してもよい。さらに、予防剤としての使用は、再発予防であってもよい。また、治療目的は、その根治に限らず、症状の改善を目的とする使用も含む。
より具体的には、本発明の治療剤又は予防剤は、HBV及び/又はHCV感染の可能性のある個体(例としては身体的症状のない場合やHCVキャリアーである母体内の胎児)、HBV及び/又はHCV感染の認められた個体、上記したB型肝炎及び/又はC型肝炎の臨床症状を伴う個体(例えば、慢性肝炎や初期感染あるいは慢性感染後の再発等による急性肝炎を含む)に投与されうる。HBV及び/又はHCV感染あるいはその症状の程度により、治療剤又は予防剤の投与はさまざまな回数でなされる。また、上記の治療剤又は予防剤を用いた治療は、インターフェロン単独療法やその他の抗ウイルス剤等の治療(及びその効果)が不十分であった個体あるいは不成功に終わった個体にも用いられうる。さらに、上記の治療剤又は予防剤は単回又は複数回投与されうる。
本発明の治療剤又は予防剤の投与量は、B型肝炎ウイルス及びC型肝炎ウイルスによる疾患の治療又は予防に有効な量であればよく、疾患の種類や程度、投与経路等により適宜選択されるが、例えば、C型肝炎ウイルスの感染による疾患であるC型肝炎に対しては、通常、成人1日当たり、インターフェロンが10万〜1,000万国際単位(以下、国際単位をIUという)、好ましくは100〜600万IU程度である。さらに、本発明によりIFNの効果が増強されること及びIFNの投与量を低減できる可能性があることから、1,000〜10万IUであってもよい。免疫刺激オリゴヌクレオチドは、患者の症状、治療目的、投与経路等により適宜選択されるが、通常、成人1日当り、オリゴヌクレオチド量として、0.1pmol〜10μmol、好ましくは1pmol〜1μmol程度である。
IFN−βの投与経路は、特に限定されないが、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与等の非経口投与が好ましい。免疫刺激オリゴヌクレオチドの投与経路は、特に限定されないが、皮下注射、皮内注射、静脈内注射、筋肉内注射、患部組織への注入、経口投与、経鼻投与、経眼投与等、経咽頭投与、経肺投与、経皮投与、舌下投与などが好ましい。
本発明の治療剤又は予防剤は、上記した2種の有効成分を1つの組成物中に含む1剤系の薬剤であってもよいし、2種の有効成分を別々の組成物中に含む2剤系の薬剤であってもよい。
本発明の治療剤又は予防剤は、上記の有効成分のみを含むものであってもよいが、一般に製剤分野において許容される各種の賦形剤や添加剤と共に製剤することが好ましい。例えば生理緩衝液中に上記の有効成分を含むものを例示することができる。また、他の薬剤、例えば他の抗ウイルス剤や、炎症に対する対症療法剤等を添加してもよい。
以下に実施例を詳細に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明文中で使用されている免疫刺激オリゴヌクレオチドの配列の略号及び特性は、配列表に記載されている。また、実施例中に記載されている公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドの配列、略号及び特性は表1に示した。
(実施例1):ヒトPBMCにおける免疫刺激オリゴヌクレオチドのIFN誘導活性に必須な5'末端側ポリG配列の塩基数の比較
種々の塩基数からなるポリG配列を付加したCpGオリゴヌクレオチドを合成し、IFN誘導活性に必須な長さについて検討した。徳永らが示しているパリンドローム配列CGATCG(特開平4−352724号公報の配列49及び配列15)を含むパリンドローム配列TGCCGATCGGCAの外側の両末端又は5’末端側のみにホスホロチオエート修飾されたポリG配列を含むオリゴヌクレオチドを付加した免疫誘導オリゴヌクレオチド20種を構築した(配列番号1〜20)。なお、Mod2(配列番号1)及びMod33(配列番号5)については国際公開2006/035939パンフレットにおいて、IFN誘導活性を有することが示されている。そしてこれらの配列からなるオリゴヌクレオチドのうち、ヒトPBMCにおけるIFN−α及びIFN−γ産生の誘導活性を有するものをスクリーニングした(図1−1〜図1−6、表2)。IFN−α及びIFN−γ誘導活性の評価は、ヒトPBMCからのIFN−α及びIFN−γのin vitroでの誘導活性を評価する試験の具体的方法として示した手順及び条件に従い、それぞれ24時間刺激及び7日間刺激した培養上清中の産生量をもとに評価した。
表2に表示されたIFN産生量は免疫刺激オリゴヌクレオチドの濃度が100nM(終濃度)における値である。図及び表中の配列中の小文字はホスホロチオエート修飾塩基を表わす。図中「mock」と記載された処置は、本発明の有効成分の一つであるCpGオリゴヌクレオチドを溶かす溶媒として用いたPBS(−)による処置のことである。
図1−1及び図1−2は、Mod2(配列番号1:レーン2)、Mod52(配列番号2:レーン3)、Mod51(配列番号3:レーン4)、Mod42(配列番号4:レーン5)、Mod53(配列番号6:レーン6)、Mod54(配列番号7:レーン7)、Mod56(配列番号8:レーン8)、Mod40(配列番号9:レーン9)、及びMod55(配列番号10:レーン10)の、各オリゴヌクレオチドの濃度が100nM(終濃度)の際のIFN−α産生量、及び同濃度が300nM(終濃度)の際のIFN−γ産生量の結果をそれぞれ示す。IFN−α誘導活性(表2及び図1−1)に関し、3’末端にポリG配列が3塩基(N=3)ある群(図1−1、レーン3〜7)では、5’末端にポリG配列が6塩基以上(Mは7以上)持つものの活性が高かった(レーン6及び7)。また3’末端にポリG配列が2塩基(N=2)ある群(レーン8〜10)では、5’末端にポリG配列を6塩基以上持つものの活性が高かった(レーン9、10)。さらに、典型的なD−タイプのCpG配列の構造(M=2/N=6、レーン2)を有するMod2と比較して、Mod52(M=3/N=3、レーン3)、Mod51(M=4/N=3、レーン4)及びMod42(M=5/N=3、レーン5)の活性は減弱あるいは完全に消失することから、Mod2のポリG配列中4乃至6の数塩基を変換した配列を設計するだけでは必ずしも増強されたIFN−α誘導活性を有するオリゴヌクレオチドが得られるわけではないことが判明した。IFN−γ誘導活性(図1−2)についても、Mod56(配列番号8、M=5/N=2、レーン8)を除き、同様の傾向であった。特に、Mod53(M=7/N=3、レーン6)、Mod54(M=8/N=3、レーン7)とMod55(M=7/N=2、レーン10)のIFN−γ誘導活性は、3’末端のポリG配列の長さが6塩基であるMod2よりも有意に向上した(t検定:P<0.01)。この結果は、オリゴヌクレオチドのIFN誘導活性は5’末端側に依存し、少なくとも6塩基以上の長さのポリG配列が必要であることを示している。
次に、5’末端のポリG配列の長さとIFN誘導活性との関連について明らかにするため、20塩基までのポリG配列を5’末端に付加したオリゴヌクレオチドについてIFN誘導活性を評価した(図1−3及び図1−4)。図1−3及び図1−4には、Mod2(レーン1)、Mod61(配列番号15:レーン2)、Mod62(配列番号16:レーン3)、Mod63(配列番号17:レーン4)、Mod64(配列番号18:レーン5)、Mod65(配列番号19:レーン6)、及びMod66(配列番号20:レーン7)の、各オリゴヌクレオチドの濃度が300nM(終濃度)の際のIFN−α産生量とIFN−γ産生量をそれぞれ示す。その結果、濃度300nMにおいて、8塩基までのポリG配列を持つもののIFN−α誘導活性は有意に向上し(図1−3、M=6〜8/N=0、レーン2〜4)、塩基数10のポリG配列を有するオリゴヌクレオチド(M=10/N=0)はMod2を若干上回る活性を示した(図1−3、レーン5)。一方、12塩基以上(M=12 or 20/N=0)では殆ど活性が消失した(レーン6、7)。また、IFN−γ誘導活性は、IFN−α誘導活性と同様の傾向であったが、ポリG配列が12塩基以上でも従来のD−タイプのCpG配列のMod2と同程度の活性であった(図1−4、レーン1、6、7)。
さらに、3’末端のポリG配列の塩基数とIFN誘導活性との関連について評価した。図1−5及び図1−6には、Mod2(レーン2)、Mod50(配列番号14:レーン3)、Mod49(配列番号13:レーン4)、Mod40(レーン5)、Mod41(配列番号11:レーン6)の、各オリゴヌクレオチドの濃度が100nM(終濃度)の際のIFN−α産生量と、同濃度が300nM(終濃度)の際のIFN−γ産生量とを、それぞれ示す。5’末端のポリG配列の長さを2塩基(Mod2:M=2/N=6、レーン2)から6塩基(Mod50:M=6/N=6、レーン3)にするとMod55(M=7/N=2、図1−1及び図1−2のレーン10参照)と同程度にIFN−α及びIFN−γの産生量は増加した(表2、図1−5及び1−6)。5’末端側に6塩基のポリG配列を有するオリゴヌクレオチド(M=6/N=0〜6)のIFN−α誘導活性は、3’末端側のポリG配列の長さにも依存する傾向を示したが、完全に消失することなく、Mod2を超えていた(図1−5、レーン3〜6)。また、各オリゴヌクレオチドの濃度300nMにおけるIFN−γ誘導活性は、いずれもMod2を超えていた(図1−6、レーン2〜6)。
以上の結果から、5'末端側のポリG配列の塩基数(M)が6〜10、好ましくは6〜8である場合、3'末端側にポリG配列が全くないオリゴヌクレオチド(M=6〜8/N=0)であっても、上記式(1)中のPXCGYQ部分が同一である従来のD−タイプのCpG配列よりも増強されたIFN誘導活性を有することを確認した。
(実施例2):マウスJ774細胞における免疫刺激オリゴヌクレオチドの炎症性サイトカイン誘導活性に必須な3'末端側ポリG配列の塩基数の比較
5'末端側に長さが6塩基のポリG配列を付加した免疫刺激オリゴヌクレオチドについて、前述したマウスJ774細胞のIL−12p40産生誘導の有無を確認する手段としてのin vitroでの誘導評価試験を行った。すなわち、J774細胞株を各オリゴヌクレオチドで48時間刺激し、培養上清中の炎症性サイトカインIL−12(IL−12p40)の産生量を評価した。その結果、(Mod50(レーン2)、Mod49(配列番号13:レーン3)、Mod48(配列番号12:レーン4)、Mod33(配列番号5:レーン5)、Mod40(レーン6)、Mod41(レーン7))の、それぞれの終濃度300nMにおけるIL−12p40の産生は、3'末端側のポリG配列の塩基数が4以上(M=6/N=4〜6:レーン2〜4)で誘導されたが、3塩基以下(M=6/N=0〜3:レーン5〜7)では全く活性が認められなかった(図2)。
以上の結果から、3'末端側のポリG配列が3塩基以下のオリゴヌクレオチドは、5'末端側に6塩基のポリG配列が付加されていても炎症性サイトカイン誘導活性が低減あるいは消失することを確認した。
(実施例3):パリンドロームモチーフとしてCGATCG、ATCGAT及びGACGTCを有する配列を含む新規な免疫刺激オリゴヌクレオチド及びD−タイプのCpGオリゴヌクレオチドのヒトPBMCにおけるIFN産生誘導効果の比較
式(1):5’−(G)MPXCGYQ(G)N−3’におけるPがT(チミン)、QがA(アデニン)であり、XCGYが10塩基である6種のパリンドロームモチーフに、それぞれポリG配列が5'末端側に6塩基と3'末端側に3塩基を付加したオリゴヌクレオチド(G6−PXCGYQ−G3、M=6/N=3)及びポリG配列が5'末端側に2塩基で3'末端側に6塩基付加したD−タイプのCpG配列(D−type CpG: G2−PXCGYQ−G6、M=2/N=6)からなるオリゴヌクレオチドを合成し、ヒトPBMCにおけるIFN誘導活性を評価した。それぞれのオリゴヌクレオチドのパリンドロームモチーフは、配列表、図3−1、及び3−2、及び3−3中で示されており、Mod29(配列番号21)及びMod43(配列番号22)はレーン1のCCCGATCGGG、Mod37(配列番号23)及びMod44(配列番号24)はレーン2のTCCGATCGGA、Mod38(配列番号25)及びMod45(配列番号26)はレーン3のGGCGATCGCC、Mod39(配列番号27)及びMod46(配列番号28)はレーン4のGACGATCGTC、D19(配列番号29)及びMod47(配列番号30)はレーン5のGCATCGATGCである。なお、ヒトPBMCにおけるIFN誘導活性の評価は、上述のオリゴヌクレオチドを用いた他は実施例1と同様の手順及び条件にて行った。
濃度100nMにおける各オリゴヌクレオチドの活性を測定した結果、G6−PXCGYQ−G3のオリゴヌクレオチドは、評価した全てのパリンドロームモチーフにおいて、G2−PXCGYQ−G6(D−タイプのCpG)よりもIFN−αの誘導活性が亢進し(図3−1)、D−タイプのCpGの1.4〜74.5倍の範囲で増強された。また、上記オリゴヌクレオチドの濃度100nMにおけるIFN−γ産生誘導活性についても、IFN−αと同様な傾向を示した(図3−2)。
さらに、上記式(1)中のPがA(アデニン)、QがC(シトシン)あるいはT(チミン)であり、8塩基のパリンドロームモチーフCGACGTCGを含む、2種の免疫刺激オリゴヌクレオチドとD−タイプのCpGのヒトPBMCにおけるIFN−α誘導活性を評価した。その結果、Mod71(配列番号40、M=7/N=2)とMod73(配列番号42、M=6/N=2)は、濃度300nMにおいて、それぞれのD−タイプのCpG配列であるMod70(配列番号39、M=3/N=6)とMod72(配列番号41、M=2/N=6)よりも活性が顕著に増強された(図3−3)。
これらの結果は、本発明で用いられる新規な免疫刺激オリゴヌクレオチドの有するポリG配列の付加様式が、特定のパリンドローム構造に非依存的にIFN誘導活性を増強することを示している。
(実施例4):パリンドロームモチーフとしてCGATCGを有する免疫刺激オリゴヌクレオチドのヒトPBMCにおけるIFN−α産生誘導効果
本発明において有効成分の一つとして用いられる上記式(1)のオリゴヌクレオチドの好ましい配列についてさらに詳細に検討した。本実施例4においては、M=7且つN=2であり、XCGY配列がGACGATCGTCであるオリゴヌクレオチドのPとQについて、さらに検討した。PがA(アデニン)かつQがT(チミン)のオリゴヌクレオチド(Mod83,配列番号51)、PがTかつQがAのオリゴヌクレオチド(Mod84,配列番号48)、PとQがともにAのオリゴヌクレオチド(Mod85,配列番号50)、PがCかつQがAのオリゴヌクレオチド(Mod87,配列番号52)を合成した。実施例3において見出した、特に強いIFN誘導活性を有するMod46とこれらのオリゴヌクレオチドのヒトPBMCにおけるIFN−α誘導活性について比較評価した。なお、ヒトPBMCにおけるIFN誘導活性の評価は、上述のオリゴヌクレオチドを用いたこと、及びIFN−αのみを測定した他は実施例1と同様の手順及び条件にて行った。
その結果、オリゴヌクレオチドの濃度100nMにおいて、Mod83、Mod84、Mod85及びMod87はMod46と同程度のIFN−α誘導活性を示した(図4)。この結果は、本発明において有効成分の一つとして用いられる式(1)のオリゴヌクレオチドのPとQが、G以外の塩基、すなわちA、T及びCのいずれでも良く、互いに相補的なヌクレオチドでなくても強いIFN−α誘導活性を有することを示している。
(実施例5):本発明の有効成分の一つである免疫刺激オリゴヌクレオチドとG9−GACGATCGTC−G1及びG7−GACGATCGTC−G3のヒトPBMCにおけるIFN誘導活性の比較
本発明において有効成分の一つとして用いられる上記式(1)のオリゴヌクレオチドと、特開2005−237328号公報において強いIFN−α誘導活性を有する配列として示されているオリゴヌクレオチド配列G9−GACGATCGTC−G1(配列番号36)及びG7−GACGATCGTC−G3(配列番号98)のヒトPBMCにおけるIFN誘導活性を比較した。
G9−GACGATCGTC−G1及びG7−GACGATCGTC−G3と最近似の配列を有し、ホスホロチオエート修飾していない免疫刺激オリゴオリゴヌクレオチドであるMod92(配列番号97)及びMod93(配列番号95)を合成し、ヒトPBMCにおけるIFN−α誘導活性を比較した(表3及び表4)。なお、ヒトPBMCにおけるIFN誘導活性の評価は、上述のオリゴヌクレオチドを用いた他は実施例1と同様の手順及び条件にて行った。
その結果、Mod92及びMod93はG7−GACGATCGTC−G3及びG9−GACGATCGTC−G1に比べて高いIFN−α誘導活性を示した。
表3に表示されたIFN産生量は免疫刺激オリゴヌクレオチドの濃度が100nM(最終濃度)における値である。いずれのオリゴヌクレオチドもホスホロチオエート修飾塩基を使用していない。
表4に表示されたIFN産生量は免疫刺激オリゴヌクレオチドの濃度が100nM(最終濃度)における値である。いずれのオリゴヌクレオチドもホスホロチオエート修飾塩基を使用していない。
以上の結果から、本発明において有効成分の一つとして用いられる上記式(1)のオリゴヌクレオチドはホスホロチオエート修飾されていなくても強いIFN−α誘導活性を有していることが確認された。また、上記式(1)におけるPとQが、G以外の塩基であることの重要性が示された。したがって、GACGATCGなどの優れたIFN−α誘導活性を示すパリンドローム配列とポリG配列の間に少なくとも1塩基のヌクレオチドを付加することによってさらにIFN−α誘導活性が向上することが示された。
(実施例6):本発明の有効成分の一つである免疫刺激オリゴヌクレオチドとG9−GACGATCGTC−G1及びG7−GACGATCGTC−G3のヒトPBMCにおけるIL−12誘導活性の比較
実施例5において用いた免疫刺激オリゴヌクレオチドMod93と特開2005−237328号公報で示されているオリゴヌクレオチド配列G9−GACGATCGTC−G1のヒトPBMCにおけるIL−12誘導活性を比較した。なお、測定は前述したPBMCからのIL−12のin vitroでの誘導活性を評価する試験の具体的方法に沿って行った。
その結果、Mod93はIL−12の産生を全く誘導せず、むしろ刺激しなかった対照と比べて抑制する傾向を示した(表5)。一方、G9−GACGATCGTC−G1は弱いながらIL−12産生の増加を認めた。したがって、本発明において有効成分の一つとして用いられる上記式(1)オリゴヌクレオチドはヒトにおいても炎症性サイトカインの誘導活性が低いことが示された。
表5に表示されたIL−12産生量は無刺激(no CpG−ODN)或いは免疫刺激オリゴヌクレオチドの濃度が300nM(最終濃度)における値である。いずれのオリゴヌクレオチドもホスホロチオエート修飾塩基を使用していない。
免疫刺激オリゴヌクレオチドの単独刺激ではヒト末梢血細胞からの顕著なIL−12産生が認められなかったので、強力な炎症反応の誘導因子であるエンドトキシンのリポポリサッカライド(LPS)とともに刺激してIL−12産生に及ぼす影響を評価した。すなわち、上記の方法に従って単離したPBMCを10%FCS入りRPMI1640培地で1mLあたり2.0×106個の細胞が含まれるように調製後、丸底の96穴マイクロプレートに1ウェルあたり2.0×105個の細胞を播き、LPSと免疫刺激オリゴヌクレオチドの共存下で24時間処置して培養上清を回収し、ELISA法にてIL−12の産生量を定量した。免疫刺激オリゴヌクレオチドはMod92、Mod93、G9−GACGATCGTC−G1及びG7−GACGATCGTC−G3を用いた。その結果、いずれの免疫刺激オリゴヌクレオチドにおいてもLPS(50ng/mL)刺激で誘導されるIL−12産生を増強しなかった。むしろ、その産生を抑制する効果が認められ、Mod93が最も強い阻害活性を示した(表6)。
表6に表示されたIL−12産生量はLPS存在下の無刺激(no CpG−ODN)あるいは免疫刺激オリゴヌクレオチドの濃度が100nM(最終濃度)における値である。いずれのヌクレオチドもホスホロチオエート修飾塩基を使用していない。
以上の結果、本発明において有効成分の一つとして用いられる上記式(1)のオリゴヌクレオチドは、ヒトにおいて炎症性サイトカイン誘導活性が公知の配列よりも少なく、かつ抗炎症作用を有することを確認した。
(実施例7):本発明の有効成分の一つである免疫刺激オリゴヌクレオチドとM26、M27、M26−GS、M27−GS、I1、2006、2395、1018、C274、G9−GACGATCGTC−G1及びD19のヒトPBMCにおけるIFN誘導活性の比較
KR2001−0063153(大韓民国公開特許)において示されているオリゴヌクレオチド配列M26(配列番号37)及びM27(配列番号38)とそれぞれのポリG配列のヌクレオチド間をホスホロチオエート修飾したM26−GS及びM27−GSと、実施例1及び3において見出した免疫刺激オリゴヌクレオチドMod55及びMod46のIFN−α誘導活性を比較評価した。なお、本実施例5に記載したヒトPBMCにおけるIFN誘導活性の評価は、上述のオリゴヌクレオチドを用いたこと、及びIFN−αのみを測定した他は実施例1と同様の手順及び条件にて行った。その結果、オリゴヌクレオチド濃度100nMにおいて、本発明において有効成分の一つとして用いられる免疫刺激オリゴヌクレオチドは、他のオリゴヌクレオチドに比べて著しく高いIFN−α誘導活性を示した(図5−1)。
次に、特開2005−237328号公報において強いIFN−α誘導活性を有する代表的な配列として示されているオリゴヌクレオチド配列G9−GACGATCGTC−G1(配列番号36)と実施例1及び3において見出した免疫刺激オリゴヌクレオチドMod53、Mod54、Mod55、Mod61、Mod62、Mod45、Mod46、Mod71及びMod73のIFN−α誘導活性を比較評価した結果、本発明において有効成分の一つとして用いられる式(1)の免疫刺激オリゴヌクレオチドの方が濃度1μMにおいて高いIFN−α誘導活性を示した(図5−2)。
また、特表平10−506265号公報において示されているオリゴヌクレオチド配列I1と、実施例3において見出した免疫刺激オリゴヌクレオチドMod46、Mod46と同一のパリンドローム配列を有するD−タイプのCpGであるMod39及びMod33のIFN−α誘導活性を比較評価した結果、本発明において有効成分の一つとして用いられる上記式(1)のオリゴヌクレオチドは濃度30nMにおいて著しく高いIFN−α誘導活性を示したのに対し、他のオリゴヌクレオチドはほとんど活性を示さなかった(図5−3)。
さらに、国際公開第00/61151号パンフレットにおいて示されているオリゴヌクレオチド配列(D19)、特表2001−503267号公報及び国際公開第1998/018810号パンフレットにおいて示されているオリゴヌクレオチド配列(2006)、国際公開第03/015711号パンフレットにおいて示されているオリゴヌクレオチド配列(2395)、特表2002−517156号公報及び特表2002−500159号公報において示されているオリゴヌクレオチド配列(1018)及び国際公開第04/058179号パンフレットにおいて示されているオリゴヌクレオチド配列(C274)とMod46(配列番号28)のヒトPBMCのIFN−α誘導活性を比較した。その結果、オリゴヌクレオチド濃度100nMにおいて、本発明において有効成分の一つとして用いられる式(1)のオリゴヌクレオチドが最も強いIFN−α誘導活性を有することを確認した(図5−4)。
以上の結果、公知のCpG配列を有する免疫刺激オリゴヌクレオチドよりも、上記式(1)のオリゴヌクレオチドの方が高いIFN−α誘導活性を示すことが明らかとなった。
(実施例8):ポリG配列とパリンドローム配列GACGATCGTCを有する免疫刺激オリゴヌクレオチドMod46、Mod83、Mod85、Mod87と公知CpGオリゴヌクレオチドG10、G3−6、G9−GACGATCGTC−G1、G1−GACGATCGTC−G9及び2332のヒトPBMCにおけるIFN−α誘導活性の比較
パリンドローム配列GACGATCGTCの外側にポリG配列が付加された公知のCpGオリゴヌクレオチドとしては、特開2005−237328号公報において示されているオリゴヌクレオチド配列G9−GACGATCGTC−G1(配列番号36)及びG1−GACGATCGTC−G9(配列番号55)、国際公開第2005/014110号パンフレットにおいて開示されているオリゴヌクレオチド配列G10(配列番号56)及びG3−6(配列番号57)と、特表2003−510290号公報において示されているオリゴヌクレオチド2332(配列番号58)がある。そこで、免疫刺激オリゴヌクレオチドMod46、Mod83、Mod85及びMod87と上記公知CpGオリゴヌクレオチドのIFN−α誘導活性を比較評価した。なお、ヒトPBMCにおけるIFN誘導活性の評価は、上述のオリゴヌクレオチドを用いたこと、及びIFN−αのみを測定した他は実施例1と同様の手順及び条件にて行った。その結果、本発明において有効成分の一つとして用いられる式(1)のオリゴヌクレオチドの方が、オリゴヌクレオチド濃度30nMにおいて高いIFN−α誘導活性を示した(図6)。
(実施例9):免疫刺激オリゴヌクレオチドMod2、Mod33、Mod39及びMod46のマウス脾細胞におけるサイトカイン産生誘導活性の比較
C57BL/6系統由来のマウス脾細胞を用いて実施例1及び3で見出した免疫刺激オリゴヌクレオチドであるMod46と、Mod33、D−タイプのCpGであるMod39及びMod2との間で、サイトカイン誘導活性を比較評価した。
濃度100nMにおけるD−タイプのCpGと本発明で用いられる免疫刺激オリゴヌクレオチドのIFN−γ及びIL−10誘導活性を測定した。測定は、前述したマウスの脾細胞におけるIFN−γ及びIL−10産生誘導の有無を確認する具体的手段として挙げた手順及び条件に従って行った。その結果、Mod46のIFN−γ誘導活性はパリンドロームモチーフが同一のD−タイプのCpGであるMod39より増強し、Mod33よりも大きく上回っていた(図7−1)。一方、Mod33とMod46のIL−10誘導活性は、それぞれ、Mod2やMod39の誘導活性とほぼ同等であった(図7−2)。免疫刺激オリゴヌクレオチドによる免疫制御性サイトカインIL−10の誘導については炎症性サイトカインの誘導メカニズムと異なる可能性が示唆された。
以上の結果は、本発明において有効成分として用いられる式(1)のオリゴヌクレオチドが、IL−10誘導活性を維持した状態でパリンドロームモチーフ非依存的なIFN誘導活性を増強することを示している。また、免疫刺激活性はCpG配列によって種特異性があるが、本発明が提供する免疫刺激オリゴヌクレオチドは種差に影響されず、IFN誘導活性を増強させる普遍的な構造であることを確認した。
(実施例10):本発明の有効成分の一つである新規な免疫刺激オリゴヌクレオチドの、J774細胞株における炎症性サイトカイン産生誘導活性の低減
実施例3で見出した免疫刺激オリゴヌクレオチドなどによる炎症性サイトカイン産生の誘導活性についてパリンドロームモチーフが同一のD−タイプのCpGと比較評価した。それぞれのオリゴヌクレオチドのパリンドロームモチーフは、配列表及び図8−1及び8−2中で示されており、Mod37及びMod44はレーン1のTCCGATCGGA、Mod38及びMod45はレーン2のGGCGATCGCC、Mod39及びMod46はレーン3のGACGATCGTCである。なお、評価は、前述したマウスのJ774細胞におけるIL−12とTNF−αの誘導活性を確認する具体的手段として挙げた手順及び条件に従って行った。その結果、Mod44、Mod45及びMod46は、それぞれの同一のパリンドローム配列を有するD−タイプのCpGのMod37、Mod38及びMod39と比べて、濃度300nMにおいて、IL−12(図8−1)とTNF−α(図8−2)の誘導活性がどちらも顕著に抑制された。
以上の結果、本発明で見出したポリG配列の付加様式を有する新規な免疫刺激オリゴヌクレオチドは同一のパリンドロームモチーフからなる従来のD−タイプのCpGよりも低減された炎症性サイトカイン誘導活性を示した。
(実施例11):本発明の有効成分の一つである免疫刺激オリゴヌクレオチドと2006、2395、1018及びC274のJ774細胞株におけるTNF−α誘導活性の比較
実施例8で見出した免疫刺激オリゴヌクレオチドMod46と公知のCpGオリゴヌクレオチドのTNF−α誘導活性を評価した。J774細胞株にそれぞれの免疫刺激オリゴヌクレオチドを(最終濃度300nM)あるいは陽性対照のリポポリサッカライド(LPS:最終濃度100ng/mL)で8時間刺激処置して培養上清中のTNF−α産生量を測定した。その他の手順及び条件は実施例10と同様とした。その結果、実施例4において示されているオリゴヌクレオチド配列2006(配列番号31)、2395(配列番号32)、1018(配列番号33)、C274(配列番号34)及びMod39とLPSと比べて、Mod46は減弱されたTNF−α誘導活性を示した(図9)。このことから、実施例2及び6で示される結果も考慮すると、3'末端のポリG配列の塩基数が3塩基以下である免疫刺激オリゴヌクレオチドは炎症性サイトカインの誘導活性が減弱することが示された。
(実施例12):本発明において提供される免疫刺激オリゴヌクレオチド及びIFN−βのマウスにおける肝炎治療効果
マウスの肝炎モデルとして一般的に利用されているConcanavalin A(以下、ConAという)誘発肝炎モデルを用いて、本発明において用いられる上記式(1)のオリゴヌクレオチド及びIFN−βのin vivoにおける抗炎症効果について評価した。ConA誘発肝炎モデルは、急激な炎症反応の惹起による肝炎を発症し、免疫反応の活性化を伴う肝炎モデルとして用いられている。ConA誘発肝炎モデルにおいて、CpGオリゴヌクレオチドを評価した試験(Abe et al,Fukushima J.Med.Sci.(2005)51,41−49)においてK−タイプCpGである1668(配列番号108)が逆に肝炎の症状を悪化させた結果を示した公知例がある。また、CpGを含有する免疫刺激オリゴヌクレオチドがConA誘発肝炎モデルにおいて肝炎のマーカーとなるALT値の上昇を抑制したという報告例は開示されていない。
ConA誘発マウス肝炎モデルの作製、インターフェロンや免疫刺激オリゴヌクレオチドによる処置、血清中ALT値の測定は、以下のようにして行った。
5週齢の雌のBALB/cマウス(日本チャールズリバー)を用いた。ConAを投与するマウスは、投与前日の夕方からConA投与完了まで絶食とし、ConA投与終了後に給餌を再開した。ConAを投与しない群をNaive群とした。インターフェロンと免疫刺激オリゴヌクレオチドの処置、或いはインターフェロンのみの処置は、ConAを投与する6時間前に尾静脈内投与により1回とした。すなわち、PBS(−)で濃度20μg/mLに調製した免疫刺激オリゴヌクレオチド(Mod87)あるいはPBS(−)は、20000U/mLのIFN−αあるいはIFN−βと等量混合して100μLずつマウスの尾静脈内に注射した。この処置により一匹あたりの被験物質投与量として免疫刺激オリゴヌクレオチドは1μg、インターフェロンは1000単位(以下、単位(ユニット)のことをUと表記する)が投与された。ConAは溶媒に生理食塩水を用いて濃度4mg/mlに調製した後、100μLずつマウスの尾静脈内へ投与した。一匹あたり0.4mgを投与した。ConA投与から24時間後に採血し、得られた血液を10000rpm、5分間4℃にて遠心分離し、血清を得た。血清中のALT値はフジドライケム(DRI−CHEM 5500V、富士フィルム)で測定した。
ConA誘発肝炎マウスモデルの炎症惹起から24時間後の血清中ALT値の上昇を評価した(図10)。まず、1000UのIFN−β(レーン3)あるいはIFN−α(レーン4)の肝炎惹起6時間前の単独処置では血清中ALT値の上昇を抑制できないことを確認した。IFN−βと免疫刺激オリゴヌクレオチドMod87(配列番号52)の併用処置群(レーン5)は対照群(vehicle、レーン2)と比べて統計学的に有意(t検定:p<0.001)な血清中ALT値低下作用が認められた。また、この抑制効果はIFN−β単独処置群(レーン3)と比較しても有意な低下(t検定:p<0.05)であった。一方、IFN−αとMod87の併用処置群(レーン6)では全く効果が認められなかった。
したがって、本発明において有効成分の一つとして用いられる式(1)のオリゴヌクレオチドは、in vivoにおいてインターフェロン単剤の効果が十分でない処置用量において、IFN−βと併用することにより優れた肝炎治療作用を有することが示された。
(実施例13):本発明の有効成分の一つであるペグ化IFN−βのConA誘発肝炎マウスモデルで観察される肝臓の血流量低下に及ぼす影響
ConA誘発マウス肝炎モデルの作製、インターフェロン(IFN−β、IFN−α又はペグ化IFN−β)の投与、肝臓の血流量測定は、以下のようにして行った。
ConA誘発マウス肝炎モデルの作製については、実施例12と同じマウスを用いて、次のとおり作成した。IFN−β、IFN−α及びペグ化IFN−βを、それぞれ10000U/匹の用量でConA投与3時間前にマウスの尾静脈内より投与した。ConAを、実施例12と同様に生理食塩水に同じ濃度で調製し、IFN−β、IFN−α又はペグ化IFN−βの投与後(3時間後)に、100μLずつそれぞれのマウスの尾静脈内より投与(一匹あたり0.4mgの投与)した。
肝臓の血流量は、ConA投与3時間後に測定した。具体的には、マウスをエーテル麻酔下で肝臓を露出させた後、非接触型肝血流計プローブ(ALE21N、アドバンス社製)を用いて、肝臓の外側左葉の平らな面から1cmの距離に垂直になるようにプローブをセットし、肝血流量を測定した(図11)。ConAを投与しない群をNaive群、陰性対照群をcontrol群(IFN−β、IFN−α又はペグ化IFN−βを投与しない群)とし生理食塩水を投与した。Naive群の血流量の平均値を100%として、各個体の血流量を計算した。
ConA誘発肝炎マウスモデルの炎症惹起から3時間後の肝血流量を評価した(図11)。control群ではNaive群との比較で有意な血流量の低下が認められた。10000UのIFN−αでは血流量の低下を有意には改善しなかったが、同用量のIFN−β及びペグ化IFN−βはcontrol群との比較で有意に血流量を増加させ、ConA誘発肝炎マウスモデルにおける肝血流量の低下に対し、優れた改善効果を示すことが明らかとなった。その上、ペグ化IFN−βはIFN−βよりも改善効果が強いことが示された。なお,統計学的な検定はt検定で行い,p<0.05を有意とした。
したがって、本発明において有効成分の一つとして用いられるIFN−βは、ペグ化修飾することによって、より優れた肝炎の治療作用を有することが示され、このことは本発明において有効成分の一つとして用いられる式(1)のオリゴヌクレオチドとの併用でペグ化IFN−βは、ペグ化していないIFN−β同様の、又はそれ以上の肝炎の治療作用を有すると考えられた。
以上の結果、本発明の治療剤又は予防剤は、C型肝炎の患者に投与された場合、C型肝炎の治療剤又は予防剤として有用であることが確認された。