JP5355441B2 - 橙色蛍光体とその製造方法 - Google Patents
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このような可視光で励起可能な蛍光体を用いた白色LEDはエネルギー変換効率が高く、省エネルギーに有利である。また赤外線や紫外線を発しないことから冷凍食品の展示用照明などに幅広く使用され始めている。
さらには、Ba2SiS4:Eu2+蛍光体は青緑色の蛍光(非特許文献3参照)を示し、Ca2SiS4:Eu2+蛍光体は黄色と赤色、Eu2SiS4は赤色の蛍光を示すことが知られている(非特許文献4参照)。
そこで、本発明は波長300〜500nmの近紫外線から可視領域の光で励起され、高輝度に発光する新規な橙色蛍光体およびその製造方法の提供を目的とする。
さらにCa、Ba、Srの組成を検討した結果、前記(Ca0.5Ba0.5)2SiS4の結晶相を主成分として含み、組成式(Ca1−y−zSryBaz)2−xEuxSiS4で表され、0<x≦0.2、0<y≦0.3、0<z≦0.6であれば高輝度な蛍光体が得られることを見出して本発明に至ったものである。
すなわち、Eu2SiS4と同じ単斜晶系の結晶構造を有する(Ca0.5Ba0.5)2−xEuxSiS4結晶にSrあるいはCaが固溶した相からなり、組成式(Ca1−y−zSryBaz)2−xEuxSiS4で表される橙色蛍光体で、この場合においてEu濃度xは、0<x≦0.2の範囲で、Sr濃度yは0<y≦0.3の範囲であり、Baの濃度zは、0<z≦0.6の範囲であることを特徴とする。
本発明に係る橙色蛍光体は、紫外光で励起するランプや近紫外や可視光を放射する発光ダイオードと組み合わせて、高輝度な橙色発光・表示素子、または他の蛍光体などと組み合わせて白色や色々な色の発光・表示素子の形成を容易にするものである。
また、この組成式中の変数yはSr濃度を示すものであるが、本発明においては、0<y≦0.3の範囲であることが必要であり、より好ましくは0.05≦y≦0.2の範囲である。
この組成式中の変数zはBa濃度を示すものであるが、本発明においては、0<z≦0.6の範囲であることが必要であり、より好ましくは0.1≦z≦0.6の範囲である。
すなわち、この橙色蛍光体が(Ca0.5Ba0.5)2SiS4結晶構造を有し、Ca、Sr、Baの一部を、賦活剤であるEuで置換したものであることがわかる。より詳細な解析によれば、本発明の橙色蛍光体である(Ca0.5Ba0.5)2−xEuxSiS4は空間群P21/mに属し、Ca2SiS4及びBa2SiS4の空間群Pnmaとは異なっていた。その格子定数は、a=0.837nm、b=0.667nm、c=0.651nm、β=108.2°であり、Eu2SiS4と同じ単斜晶系の結晶構造を有していた。
一方、図3のf(y=0.333、z=0.333):比較例3は、20度付近の3つのピーク強度比が(Ca0.5Ba0.5)2SiS4と大きく異なることおよび30−31度のピークが2つに分かれていないことから、Sr2SiS4と(Ca0.5Ba0.5)2SiS4が混ざった結晶相からなっている。図3のh(y=0.167、z=0.667):比較例4は、Ba2SiS4のピークと同様のパターンであり、Ba2SiS4の結晶構造にCaやSrが固溶した結晶相である。
そこで、図2のa〜hの試料の蛍光測定を行い、その時の発光の様子を図4〜11に示す。
本発明の蛍光体の蛍光を図5(参考例1)、6(参考例2)、8(実施例1)、10(実施例2)に示す。いずれも発光ピークが600nm程度であり、300から450nm程度の近紫外から可視の広い波長で励起可能であることが分かる。一方比較例の図4、7、9、11は主相に応じて発光ピークが異なり、紫外での励起での発光も低いことが分かる。
本発明の組成式(Ca1−y−zSryBaz)2−xEuxSiS4(0<x≦0.2、0<y≦0.3、0<z≦0.6)で表される橙色蛍光体の製造は、Euが均一に分散するEu添加(Ca1−y−zSryBaz)2S2粉末、Si粉末およびS粉末を、所定のEu濃度(x0)を持つ(Ca1−y−zSryBaz)2−x0Eux0SiS4となるように所定量を混合した後、石英アンプルに真空封入し、900℃以上1000℃以下の温度で焼成して合成する製造方法で行なわれる。なお、S粉末は高温で蒸気になるため所定量よりも過剰に添加しても良い。
また、この真空封入して焼成する以外の方法としては、例えば真空引き後にArガス置換しホットプレスして合成する方法を用いることも可能であるが、Arガス置換時には、乾燥Arガスや高純度Arガスなどを使用して酸素や水の混入を防止すると良い。
しかしながら、前段落の方法で合成した場合には、(Ca0.5Ba0.5)2−xEuxSiS4ができ難い。また固相反応法ではEuが均一にならないという問題もあるため、本発明の高輝度な橙色発光を示す橙色蛍光体を得ることが難しい。
第一の工程として、最初に原料の酸化Eu(Eu203)を酸で溶解して溶解液を得るには、濃度40〜60質量%の硝酸、または酢酸に溶解するのが好ましい。なお、硫酸や塩酸は酸化Euの溶解には使用できるが、硫酸痕や塩素が残留するとBa、SrやCaの完全溶解が困難なため好ましくない。この原料の酸化Eu(Eu203)を完全に溶解させるには1時間程度の攪拌を行うと良い。
加えるオキシカルボン酸としてはクエン酸、リンゴ酸、酒石酸などが使用でき、クエン酸は特に好ましい。グリコールとしてはプロピレングリコールやエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどが使用できる。特にはプロピレングリコールが好ましい。
次に、オキシカルボン酸としてクエン酸、グリコールとしてプロピレングリコールを加えた場合では、クエン酸が完全に溶解してから、液温を35〜45℃まで上昇させ炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムと炭酸カルシウムを加えて40〜85℃に保持して完全に溶解するまで攪拌する。その際には、難溶性の炭酸塩を完全に溶解するため8時間以上攪拌するのが好ましい。クエン酸は金属元素のモル数の4〜6倍、プロピレングリコールは8〜12倍加えることが望ましい。
また、難溶性の炭酸塩や酸化物ではなく酢酸塩などのストロンチウム、バリウムやカルシウムの金属元素が溶解した水溶液を混合し、クエン酸溶液などの錯形成材を含む溶液に混合して錯化してもよい。
続いて、得られたゲルを400〜550℃、より好ましくは440〜460℃に加熱し、ゲルを熱分解させて前駆体粉末を作製する。前駆体粉末の熱分解が不十分な場合は更に500℃〜550℃で2〜4時間の熱処理を加えても良い。その後、得られた前駆体粉末を軽く粉砕し炭酸塩化するためアニールを行なう。アニール処理条件としては、アニール温度は650〜1000℃、より好ましくは750〜900℃であり、アニール時間は1〜24時間、より好ましくは2〜10時間である。このようにして第一の工程によるEuが均一に分散するEu添加Ca0.666Sr0.167Ba0.167CO3が得られる。なお炭酸カルシウムは比較的低温で分解し、酸化カルシウムになる。酸化カルシウムは大気中の水分と反応して水酸化カルシウムを形成することがある。従って焼成条件によっては酸化カルシウムや水酸化カルシウムが混ざった炭酸塩になるがEuは均一に分散しており、酸化カルシウムや水酸カルシウムでも問題なく硫化できる。
なお、本発明ではCa、BaとSrの濃度比を変化させる、すなわち(Ca1−y−zSryBaz)Sとする場合のSr濃度yを0<y≦0.3、0<z≦0.6の範囲で変化させることもでき、所定量の炭酸Ca、炭酸Ba、炭酸Srを使用することで、所望のCa、BaとSrの濃度比の(Ca1−y−zSryBaz)2S2粉末を得ることができる。
また、硫酸塩を含む場合は粉末が黄色を示す場合がある。そのような場合は、真空中でアニール処理を行うことで硫化物に還元することができる。その条件としては真空度を0.1〜5Pa程度で、アニール温度920〜1000℃で7〜12時間行うと硫酸塩を硫化物へ還元することができる。
1.Eu添加(Ca1−zBaz)2S2粉末の製造:z=0.5
[第一の工程]
まず、第一の工程で作製する炭酸塩のEu濃度xが0.02になるように、酸化ユーロピウム(フルウチ化学株式会社製 3N)0.2348gを濃度15%の硝酸(関東化学株式会社製 60%)1mlに溶解し、次いで5分後に純水5mlを加え、更に完全に溶解させるため1時間攪拌した。攪拌後、この液に純水50ml、プロピレングリコール(関東化学株式会社製99%)25.5mlとクエン酸(和光純薬株式会社製 98%)25.7354gを加え、クエン酸が完全に溶解した後、液温を40℃にしてさらに炭酸バリウム(BaCO3)2.9472gと炭酸カルシウム(CaCO3)1.4914gを加え、8時間攪拌して炭酸塩を完全に溶解させた。続いて、炭酸塩が完全に溶解した混合液の液温を200℃に高めて、粘性を有するゲル状になるまで攪拌した。攪拌後、得られたゲルをマントルヒーターで450℃に加熱し、ゲルを熱分解させて前駆体粉末を作製し、この前駆体粉末をメノウ乳鉢で軽く粉砕した後アルミナの坩堝に入れて管状炉により800℃、2時間のアニールを行って炭酸塩を作製した。
第二の工程は、第一の工程で作製したEuが均一に分散したEu添加Ca0.5Ba0.5CO3粉末1.0gを、硫化水素濃度が10%のアルゴン−硫化水素混合ガス中で加熱して、950℃、10時間のアニールを行い、Eu添加CaBaS2粉末又はEu添加CaSとEu添加BaSの混合粉末を得た。その粉末のX線回折を行ったところCaSとBaSに一致するX線回折パターンのみが観察された。
次に、組成式(Ca0.5Ba0.5)1.98Eu0.02SiS4となるように、このEu添加(CaBaS2粉末又はEu添加CaSとEu添加BaSの混合粉末0.362g、Si粉末(Wako製 98%)0.0426gおよびS粉末(関東化学製99.5%)0.0971gを秤量し、これらをメノウ乳鉢で20分混合し、この混合物をハンドプレスで2MPaまで加圧して作製した成型体(ペレット)を石英アンプルに真空封入し、この石英アンプルを950℃まで加熱し24時間保持した熱処理を行った。
図2のcから明らかなように、得られたEu添加CaBaSiS4粉末は、CaSの弱いピークがあるが(Ca0.5Ba0.5)2SiS4のほぼ単相であることがわかる。
組成式(Ca0.75Ba0.25)1.98Eu0.02SiS4(x=0.02、z=0.25)になるように炭酸バリウム、炭酸カルシウムと酸化ユーロピウムを秤量して加えた以外は参考例1と同様の方法で蛍光体を合成した。
得られた試料のX線回折パターンを図2のbに示す。
図2のbから明らかなように、得られた組成式(Ca0.75Ba0.25)1.98Eu0.02SiS4(x=0.02、z=0.25で示される粉末は、(Ca0.5Ba0.5)2SiS4の結晶相であることがわかる。
酢酸塩を純水に溶解して原料溶液を作成した。酢酸ユーロピウム4水和物(和光純薬製 3N)2.006gを純水10mlに溶解し1時間攪拌して1モル/lの酢酸ユーロピウム溶液を作成した。次に酢酸カルシウム1水和物(和光純薬 99.0%)17.617gを純水100mlに溶解し1時間攪拌して1モル/lの酢酸カルシウム溶液を作成した。同様に酢酸ストロンチウム0.5水和物(関東化学製 99.0%)21.4721gと酢酸バリウム(和光純薬製 99.0%)をそれぞれ純水100mlに溶解し1時間攪拌して1モル/lの酢酸ストロンチウム溶液と酢酸バリウム溶液を作成した。
またクエン酸(和光純薬株式会社製 98%)76.852gを純水200mlに溶解し1時間攪拌して2モル/lのクエン酸水溶液を作成した。
[第一の工程]
まず、第一の工程で作製する炭酸塩のEu濃度xが0.02になるように、前記1モル/l酢酸ユーロピウム溶液0.204mlを容量可変式ピペットでビーカーに入れ、前記2モル/lのクエン酸水溶液20mlを加える。次に前記酢酸カルシウム水溶液6.66ml、前記酢酸ストロンチウム水溶液1.67mlと前記酢酸バリウム水溶液1.67mlを入れる。
この混合液を80℃に加温し2時間攪拌して錯形成を行う。更にプロピレングリコール2.86ml加えて、120℃とし、粘性を有するゲル状となるまで12時間撹拌した。
その後、得られたゲルをマントルヒーターで450℃に加熱し、ゲルを熱分解させた。更に熱分解後の粉末を電気炉で550℃3時間の熱処理を行って前駆体粉末を作製し、この前駆体粉末をメノウ乳鉢で軽く粉砕した後アルミナの坩堝に入れて管状炉により800℃、2時間のアニールを行って炭酸塩を作製した。
得られた試料のX線回折パターンを図3のeに示す。
得られた試料のX線回折パターンを図3のgに示す。
比較例1として、Euの含有量xが0.02である化学式(Ca1−zBaz)1.98Eu0.02SiS4で示される化合物において、z=0となるように炭酸カルシウム、酸化ユーロピウムを秤量して加えた以外は参考例1と同様の方法で蛍光体を合成した。
その得られた試料のX線回折パターンを図2のaに示す。
比較例2として、Euの含有量xが0.02である化学式(Ca1−zBaz)1.98Eu0.02SiS4で示される化合物において、z=0.75となるように炭酸カルシウム、酸化ユーロピウムを秤量して加えた以外は参考例1と同様の方法で蛍光体を合成した。
その得られた試料のX線回折パターンを図2のdに示す。
比較例3として、Euの含有量xが0.02である化学式(Ca1−y−zSryBaz)1.98Eu0.02SiS4で示される化合物において、y=0.333、z=0.333となるように酢酸バリウム水溶液、酢酸ストロンチウム水溶液、酢酸カルシウム水溶液と酢酸ユーロピウム水溶液をピペットで容量測定をして加えた以外は実施例1と同様の方法で蛍光体を合成した。
その得られた試料のX線回折パターンを図3のfに示す。
比較例4として、Euの含有量xが0.02である化学式(Ca1−y−zSryBaz)1.98Eu0.02SiS4で示される化合物において、y=0.167、z=0.667となるように酢酸バリウム水溶液、酢酸ストロンチウム水溶液、酢酸カルシウム水溶液と酢酸ユーロピウム水溶液をピペットで容量測定をして加えた以外は実施例1と同様の方法で蛍光体を合成した。
その得られた試料のX線回折パターンを図3のhに示す。
以上の実施例1、2、参考例1、2および比較例1、2、3、4の試料から得られたX線回折パターンから結晶相を評価した結果をまとめて表1に示す。
次に、実施例1、2、参考例1、2および比較例1、2、3、4で作製した蛍光体の蛍光測定を行い、その輝度を比較した。
蛍光測定の結果は、従来の黄色蛍光体であるY3Al5O12:Ce3+(YAG:Ce、化成オプトニクス株式会社製)と比較している。図5に参考例1で作製した組成式(Ca0.75Ba0.25)1.98Eu0.02SiS4で示される粉末の蛍光特性と励起特性を示す。
なお、図4から図11において、実線は本発明の実施例、参考例および比較例を示し、破線は比較に用いたYAG:Ceの結果である。また、太実線および太破線は発光スペクトルを表し、細実線および細破線は励起スペクトルを示している。
Claims (4)
- 近紫外線から可視領域の光で励起される橙色蛍光体であって、
Eu2SiS4と同じ単斜晶系の結晶構造を有し、組成式(Ca1−y−zSryBaz)2−xEuxSiS4で表され、
Eu濃度xは、0<x≦0.2の範囲、
Sr濃度yは、0<y≦0.3の範囲、
Ba濃度zは、0<z≦0.6の範囲、
であることを特徴とする橙色蛍光体。 - 近紫外線から可視領域の光で励起される橙色蛍光体であって、
Eu2SiS4と同じ単斜晶系の結晶構造を有する(Ca0.5Ba0.5)2−xEuxSiS4結晶にSrあるいはBaが固溶した相からなり、かつ組成式(Ca1−y−zSryBaz)2−xEuxSiS4で表され、Eu濃度xは0<x≦0.2、Sr濃度yは0<y≦0.3、Ba濃度zは、0<z≦0.6の範囲であることを特徴とする橙色蛍光体。 - Euが均一に分散するEu添加(Ca1−y−zSryBaz)2S2粉末、Si粉末およびS粉末を、Eu濃度をxとする場合の組成式(Ca1−y−zSryBaz)2−xEuxSiS4となるように混合した混合物を、石英アンプルに真空封入し、前記石英アンプルを900℃以上1000℃以下の温度で焼成することで組成式(Ca1−y−zSryBaz)2−xEuxSiS4(Eu濃度xは0<x≦0.2、Sr濃度yは0<y≦0.3、Ba濃度zは、0<z≦0.6)で表される橙色蛍光体を作製することを特徴とする橙色蛍光体の製造方法。
- 前記Euが均一に分散するEu添加(Ca1−y−zSryBaz)2S2粉末が、第一の工程である酸化Euを酸で溶解した溶解液を乾燥して得られた乾燥物を水に溶解し、次いでグリコール、オキシカルボン酸、炭酸Sr、炭酸Ca、炭酸Baを順次加えた溶解液を作製し、前記作製した溶解液を加熱してゲル化させ、前記ゲルを熱分解、大気焼成することによりEuが均一に分散するEu添加Ca1−y−zSryBazCO3を作製する工程、ついで、第二の工程である前記Euが均一に分散するEu添加Ca1−y−zSryBazCO3を、硫化水素雰囲気下で硫化してEuが均一に分散するEu添加(Ca1−y−zSryBaz)2S2粉末を作製する工程によって作製されることを特徴とする請求項3記載の橙色蛍光体の製造方法。
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