以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
<インク>
(色材)
本発明のインクは、下記(a)または(b)の少なくとも一方の自己分散顔料を含有する。
(a)下記一般式(1)で表わされるアニオン性官能基が直接あるいは他の原子団を介して表面に結合した自己分散顔料。
一般式(1)
(但し、式中のM1、M2は、独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表わす。)
(b)ラクトン基とカルボキシル基を有する自己分散顔料。
(a)の自己分散顔料においては、式(I)中の親水性基中「M1、M2」は、独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表わす。アルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCsなどが挙げられる。有機アンモニウムの具体例としては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム。モノヒドロキシメチル(エチル)アミン、ジヒドロキシメチル(エチル)アミン、トリヒドロキシメチル(エチル)アミンなどが挙げられる。より好ましくは、M1及びM2はそれぞれアルカリ金属及びアンモニウムであり、その比率は10:1〜1:10であることが好ましい。
また介在させる他の原子団の具体例としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐鎖状の置換もしくは未置換のアルキレン基、置換もしくは未置換のフェニレン基、置換もしくは未置換のナフチレン基が挙げられる。ここでアルキレン基、フェニレン基及びナフチレン基の置換基としては、例えば、水酸基、アミノ基、炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。またインクで使用する色材に、ラクトン基を有する自己分散顔料を併用することも好ましい。
(b)の自己分散顔料においては、カルボキシル基の対イオンとして、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウム等が利用できる。アルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCsなどが挙げられる。有機アンモニウムの具体例としては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、モノヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、ジヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、トリヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、トリエタノールアンモニウムが挙げられる。中でもアンモニウムが特に好ましい。
一般的な水溶性染料を色材として使用した場合、普通紙またはそれと同様の用紙のようなセルロース繊維の露呈した記録媒体では画像の耐水性が劣る。
しかし、一般式(1)で表わされる基を有する自己分散顔料を用いると、画像に良好な耐水性を得ることができる。水分散性顔料のもう一つの分散形態である樹脂分散方式(分散剤としての樹脂を併用する方式)による顔料と比較すると、自己分散顔料では顔料からなる色素成分の紙表層部での定着量が分散剤の無い分、効率的である。また、発色性の点でかなり有利である。
本発明の自己分散顔料は、併用される水溶性化合物との相乗効果によって、インクが紙に着弾した後の固液分離がスムーズに進行し、発色性の点で優れた結果となる。
また、自己分散顔料としては、他の官能基、例えばスルホン酸(またはその塩)やカルボン酸(またはその塩)のみの表面修飾基を有するものが知られている。この従来の一般的な自己分散顔料と、本発明における自己分散顔料とを比較すると、本発明における自己分散顔料は普通紙またはそれと同様の用紙表面に点在するサイズ剤を隠蔽する力が強く、所謂ベタ記録部の白抜け現象を防止するのに抜群の効果が認められる。
以上のとおり、本発明の(a)の自己分散顔料とは、顔料表面に直接あるいは他の原子団を介して、一般式(1)で示される基を導入する処理によって顔料を自己分散化したもので、基本的には分散剤を必須としない顔料である。ここで、顔料粒子への処理量は100〜5000μmol/gであることが好ましく、より好ましくは300〜2500μmol/gである。100μmol/g未満では水溶液中で安定に分散されず、顔料が沈降してしまい、インクとしての信頼性に欠ける場合がある。
ブラックインクに使用される顔料としてはカーボンブラックが好適に使用される。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料である。カーボンブラック顔料の特性としては、次のような特性が好ましい。一次粒子径が15nm以上40nm以下、BET法による比表面積が50m2/g以上400m2/g以下、DBP吸油量が40ml/100g以上200ml/100g以下、揮発分が0.5質量%以上10質量%以下の特性である。
カラーインクに使用される顔料としては、有機顔料が好適に使用される。具体的には、以下の各顔料を挙げることができる。トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料。リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の水溶性アゾ顔料。アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体。フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料。キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料。ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料。イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料。ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料。ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料。チオインジゴ系顔料。縮合アゾ系顔料。チオインジゴ系顔料。ジケトピロロピロール系顔料。フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等の顔料。
また、有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示す。C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、55、74、83、86、93、97、98。C.I.ピグメントイエロー109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185。C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71。C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192。C.I.ピグメントレッド202、209、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272。C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50。C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64。C.I.ピグメントグリーン7、36。C.I.ピグメントブラウン23、25、26。以上のものが例示できる。これらの顔料の中では、以下の顔料が更に好ましい。イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー13、17、55、74、93、97、98、110、128、139、147、150、151、154、155、180、185。マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド122、202、209、C.I.ピグメントバイオレット19。シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4。勿論、上記の顔料以外でも使用することができる。
本発明に用いる自己分散顔料の平均粒子径は、好ましくは60nm以上であり、より好ましくは70nm以上、さらに好ましくは75nm以上である。また、好ましくは145nm以下であり、より好ましくは140nm以下、さらに好ましくは130nm以下である。平均粒子径の測定方法としては、レーザ光の散乱を利用した、FPAR−1000(大塚電子製)、ナノトラックUPA 150EX(日機装製)等を使用して測定できる。(ナノトラックUPAの場合は50%の積算値の値とする)。尚、本発明においては、平均粒子径とは散乱平均粒子径で定義する。
顔料は必要に応じて2種類以上を組み合わせて同一インク中に用いることができる。
以上の自己分散顔料のインク中への添加量は、インク全量に対して好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上である。また、15質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。
(有機カルボン酸のアンモニウム塩)
本発明において用いられるインクには、有機カルボン酸のアンモニウム塩を含有する。前述の自己分散顔料は、従来型の自己分散顔料に比べて、紙への着弾後に、固液分離しやすいものである。インクが有機カルボン酸のアンモニウム塩を含有していると、固液分離は格段に促進される。その結果、顔料が表層に定着し、ブリーディング防止や高発色に寄与できる。さらに、普通紙またはそれと同様の用紙表面に点在するサイズ剤を隠蔽する力が強くなり、所謂ベタ記録部の白抜け現象を防ぐ抜群の効果が認められる。
有機カルボン酸アンモニウム塩は、炭素原子を有する骨格にカルボキシル基が1〜3個結合したもののアンモニウム塩であれば特に限定されるものではない。具体例としては、クエン酸、コハク酸、安息香酸、酢酸、フタル酸、シュウ酸、酒石酸、グルコン酸、タルトロン酸、マレイン酸、マロン酸、アジピン酸及びこれらの誘導体が好適である。中でも酸型として、pK値として2.5以上5.5以下の値を示す有機カルボン酸骨格であるものがより好ましい。
以上の有機カルボン酸アンモニウム塩のインク中への添加量は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上である。また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
(水性媒体)
本発明にかかるインクは、水を必須成分とするが、インク中の水の含有量は、インク全質量に対して、30質量%以上であることが好ましい。また、95質量%以下であることが好ましい。更に、水に加えて水溶性化合物を含有させて、水性媒体とする。この水溶性化合物とは、20質量%濃度の水との混合液で水と相分離せずに混ざり合う、親水性の高いものである。更に固液分離や目詰まり防止への点から蒸発しやすいものは好ましくなく、20℃での蒸気圧が0.04mmHg以下の物質が好ましい。
本発明にかかるインクは、下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上の水溶性化合物を必須成分とする。さらに記録媒体によっては、式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上、0.37以下の水溶性化合物と、0.37以上の水溶性化合物とを含有するインクが小文字の印字特性を向上させるため好ましい。また、記録媒体によっては親疎水度係数が0.26以上、0.37以下の水溶性化合物と、親疎水度係数が0.37以上の水溶性化合物を2種類以上含有することで小文字の印字特性を向上させるためより好ましい態様となる場合がある。これらの親疎水度係数が0.37以上の水溶性化合物は、インクが紙に着弾した後、水や自己分散顔料やセルロース繊維との親和力が比較的小さく、自己分散顔料との固液分離を強力に推進する役割があるため記録媒体によっては上記効果を奏すると考えられる。
式(A)
式中の水分活性値とは、
水分活性値=(水溶液の水蒸気圧)/(純水の水蒸気圧)
で示されるものである。水分活性値の測定方法は、様々な方法があり、いずれの方法にも特定されないが、中でもチルドミラー露点測定法は、本発明で使用する材料測定に好適である。本明細書での値は、この測定法によるアクアラブCX−3TE(DECAGON社製)を用いて、各水溶性化合物の20%水溶液を25℃で測定したものである。
ラウールの法則に従えば、希薄溶液の蒸気圧の降下率は溶質のモル分率に等しく、溶媒及び溶質の種類に無関係であるので、水溶液中の水のモル分率と水分活性値は等しくなる。しかし、各種水溶性化合物の水溶液の水分活性値を測定すると、水分活性値は、水のモル分率と一致しないものも多い。
水溶液の水分活性値が水のモル分率より低い場合は、水溶液の水蒸気圧が理論計算値より小さいこととなり、水の蒸発が溶質の存在によって抑制されている。このことから、溶質は水和力の大きい物質であることがわかる。逆に、水溶液の水分活性値が水のモル分率より高い場合は、溶質が水和力の小さい物質と考えられる。
本発明者らは、インクに含有される水溶性化合物の親水性、あるいは疎水性の程度が、自己分散顔料と水性媒体との固液分離の推進、さらに、各種インク性能に及ぼす影響が大きいものと着眼した。このことから、式(A)に示す親疎水度係数という係数を定義した。水分活性値は、20質量%の一律の濃度で、各種水溶性化合物の水溶液を測定しているが、式(A)に換算することによって、溶質の分子量が異なって水のモル分率が違っても、各種溶質の親水性、あるいは疎水性の程度の相対比較が可能である。また水溶液の水分活性値が1を越えることはないので、親疎水度係数の最大値は1である。
インクジェット用インクに用いられる水溶性化合物の、式(A)によって得られた親疎水度係数を表1に示す。ただし、本発明の水溶性化合物は、これらにのみ限定されるものではない。
水溶性化合物は、インクジェット記録用インクとしての適性を有する各種の水溶性化合物の中から、目的とする親疎水度係数を有する水溶性化合物を選択して用いることができる。
本発明者らは、本発明のインクジェット画像形成方法において、インクが含有する水溶性化合物と、ブリーディングや文字の太りといった小文字の印字特性との関連を検討した。その結果、本発明の自己分散顔料と有機カルボン酸のアンモニウム塩を含有したインクに関して、親疎水度係数が0.26以上の親水的傾向の小さい水溶性化合物を用いると、上記特性が極めて良好となることを見出した。中でも、グリコール構造における親水基に置換された炭素数以上に、親水基に置換されていない炭素数を有するグリコール構造の類は、特に好ましいものであった。これらの水溶性化合物は、インクが紙に着弾した後、水や自己分散顔料やセルロース繊維との親和力が比較的小さく、自己分散顔料との固液分離を強力に推進する役割があるためと考えられる。
インク中の溶剤が単独系である場合にはトリメチロールプロパンが特に好ましい。また、親疎水度係数が0.37以上の水溶性化合物を併有する場合、その水溶性化合物としては、ヘキサンジオール、ペンタンジオール及びブタンジオール等の炭素数が4〜7のジオール類が好ましい。より好ましくは、炭素数6のジオール類であり、特に好ましくは1,2−ヘキサンジオール及び1,6−ヘキサンジオールである。親疎水度係数が0.37以上の水溶性化合物を2種類以上含有させる際の混合比は、特に限定しないが、1,2−ヘキサンジオール及び1,6−ヘキサンジオールを1/10〜10/1の比率で使用することが好ましい。さらに好適には1,2−ヘキサンジオール及び1,6−ヘキサンジオールを1/5〜5/1の比率での使用する。また、親疎水度係数が0.37以上の水溶性化合物を2種類以上用いる際、それぞれの親水度係数が、0.1以上の差があることが好ましい。
前記水溶性化合物のインク中での含有量は、合計で好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上である。また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。また、親疎水度係数が0.37以上の水溶性化合物を併有する場合、その水溶性化合物の含有量は合計で好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上である。
(界面活性剤)
本発明に使用するインクは、よりバランスのよい吐出安定性を得るために、インク中に界面活性剤を含有することが好ましい。中でもノニオン界面活性剤を含有することが好ましい。ノニオン界面活性剤の中でもポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が特に好ましい。これらのノニオン系界面活性剤のHLB値(Hydrophile−Lipophile Balance)は、10以上である。こうして併用される界面活性剤の含有量は、好ましくはインク中に0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上である。また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
(その他の添加剤)
また、本発明にかかるインクは、所望の物性値を有するインクとするために、上記した成分の他に必要に応じて、添加剤として、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、浸透剤等を添加することができる。
(表面張力)
本発明に使用するインクの表面張力は、34mN/m以下である。このインクの表面張力は、33mN/m以下であることがより好ましく、32mN/m以下であることがさらに好ましい。また、27mN/m以上であることが好ましく、29mN/m以上であることがさらに好ましい。インクの表面張力をこの範囲に制御することで、本発明インクの効果が最大限に発揮される。
インクジェット専用紙である光沢紙やマット紙は、普通紙と異なり、多孔質のインク受容層が紙表面に形成されているため、インクの表面張力の影響をほとんど受けずに、速やかにインクの浸透が進行する。
しかし、普通紙またはそれと同様の用紙は、撥水効果のあるサイズ剤が内添及び/または外添されているため、インクの浸透が阻害される場合が多い。即ち、普通紙は、インクにより速やかに表面を濡らすことができるかどうかの指標である臨界表面張力が、インクジェット専用紙よりも低い。
インクの表面張力が34mN/mより高い場合は、普通紙の臨界表面張力より高いこととなるので、インクが紙に着弾しても、すぐには濡れず速やかに浸透を開始することはない。表面張力が高い場合は、紙との濡れ性を多少向上させて、インクと紙との接触角を低減させても、高速には定着しにくい。さらに、定着性が劣化する傾向にある。インクの表面張力34mN/m以下の場合は、ポア吸収が主体となり、34mN/mより高いとファイバー吸収が主体となる。これら2タイプの吸収によるインクの紙への吸収速度は、ポア吸収の方が圧倒的に速い。そこで本発明では、ポア吸収が主体となるインクとすることによって、高速定着を実現している。
ポア吸収が主体となるインクは、異色の2種類のインクを隣接させて記録した場合のブリーディングを抑制する点でも有利である。これは、紙表面で2種類のインクが同時に滞留することが抑制されるためである。また、高い画像濃度を得る点でも有利である。
(粘度)
本発明で使用するインクの粘度は6.0mPa・s以下であることが好ましい。熱エネルギーの利用によりインクジェット記録する装置を使用する場合、これより粘度が高いとノズルへのインク供給が間に合わず、不完全な画像が記録される場合がある。インクの粘度はより好ましくは5.0mPa・s以下であり、さらに好ましくは4.0mPa・s以下である。
<記録方法>
本発明の記録方法においては、1回に付与するインクを、0.5pl以上、6.0pl以下の定量とする。好ましくは1.0pl以上であり、より好ましくは1.5pl以上である。また、好ましくは5.0pl以下であり、より好ましくは4.5pl以下である。0.5pl未満の場合は、画像の定着性、耐水性に劣る場合があるので好ましくない。6.0plを越えると、2ポイント(1ポイント≒0.35mm)から5ポイント程度の小さな文字を印刷した場合に、文字太りによって文字がつぶれる場合がある。
インクの吐出体積は、インクの裏抜けに大きく影響することから、両面印刷への適用の点でも重要である。普通紙には、一般的に、0.5μmから5.0μmを中心として、0.1μmから100μmの大きさの細孔が分布している。普通紙への水性インクの浸透現象としては、普通紙のセルロース繊維自身にインクが直接吸収されて浸透するファイバー吸収と、セルロース繊維間に形成される細孔(ポア)に吸収されて浸透するポア吸収に大きく分けられる。本発明で用いられるインクはポア吸収が主体となるインクである。このため、本発明で用いられるインクが普通紙に付与され、普通紙表面に存在する10μm程度以上の大きめな細孔にインクの一部が接触すると、Lucas−Washburnの式にしたがって、インクは大きめな細孔に集中して吸収され、浸透する。結果、この部分は特に深くインクが浸透することになるので、普通紙での高発色の発現において極めて不利となる。一方、インクが小さくなるほど、一滴のインク当りの大きめな細孔への接触確率は低くなるので、大きめな細孔へ集中して吸収されにくい。さらに、たとえ大きめな細孔への接触しても、インクが小さければ、深く浸透するインクは少量で済むことになる。この結果、普通紙上で得られる画像は高発色となる。
インクの6.0plという上限の臨界値は、本発明者により実験的に得られたものである。6.0plのインクを球と仮定すると、普通紙に着弾すると、直径23μm程度となる。普通紙における10μm程度以上の大きめな細孔の分布状態を考えると、インクがこの直径以下であると、大きめな細孔とインクの着弾時の接触確率が低くなり、深い浸透が生じない好ましい状態になると考えられる。
本発明において定量のインクとは、記録ヘッドを構成するノズルの構造を各ノズル間で異ならせず、付与する駆動エネルギーを変化させる設定をしていない状態で吐出されたインクを意味する。即ち、このような状態であれば、装置の製造誤差等による僅かな吐出のばらつきがあっても、付与されるインクは定量である。付与されるインクを定量とすることにより、インクの浸透深さが安定し、記録画像の画像濃度が高く、画像の均一性が良好となる。逆に、付与されるインクの量を変化させることを前提としたシステム等によると、インクは定量ではなく、異なった体積のインクが混在するため、インクの浸透深さのばらつきが大きくなる。特に記録画像の高デューティー部では、浸透深さのばらつきのため、記録画像の画像濃度が低い箇所が存在するなどし、画像の均一性が良好でなくなる。
インクの定量化に適した付与方式としては、インクジェット記録方式の中でも、インクの付与を熱エネルギーの作用により行なうサーマルインクジェット方式が、吐出のメカニズムの点で好ましい。即ち、サーマルインクジェット方式は、インクの浸透深さのばらつきを抑え、記録画像は高濃度で、均一性が良好となる。さらに、サーマルインクジェット方式は、圧電素子を用いてインクを付与する方式に比べて多ノズル化と高密度化に適しており、高速記録にも好適である。
本発明の課題は、画像を形成するための基本マトリクス中に、1色のインクのデューティーが80%デューティー以上となる画像を形成をする際により要求されるものである。尚、本発明における1色とは、全く同一の1色、1色調であるのが好ましいが、多少の濃度等の相違があっても、1色とする。デューティーを算出する部分は、最小で50μm×50μmである。80%デューティー以上となる画像とは、デューティーを算出する部分のマトリクス中の格子のうち、80%以上の格子にインクが付与されて形成される画像である。格子の大きさは、基本マトリクスの解像度によって決定される。例えば、基本マトリクスの解像度が1200dpi×1200dpiの場合、1つの格子の大きさは、1/1200inch×1/1200inchである。
基本マトリクス中に、1色のインクのデューティーが80%デューティー以上となる画像に関して説明する。即ち、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色のインクを用いる場合では、これらの少なくとも1色により、基本マトリクス中に80%デューティー以上となる部分を有する画像のことである。一方、基本マトリクス中に1色のインクのデューティーが80%デューティー以上とならない画像は、着弾したインク間の重なりが比較的少なく、印字プロセスの工夫をしなくとも、文字のつぶれ等の問題が生じない場合も多い。
本発明の基本マトリクスは、記録装置等により自由に設定できる。基本マトリクスの解像度としては、600dpi以上が好ましく、1200dpi以上がより好ましい。また、4800dpi以下が好ましい。解像度は、この範囲内にあれば、縦と横が同一であっても異なっていてもよい。
また、本発明は、基本マトリクス中へのインクの総付与量が5.0μl/cm2以下となる画像を形成をする際により要求されるものである。即ち、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色のインクを用いる場合では、これら全ての色のインクの総付与量である。総付与量を算出する部分は、前記のデューティーを算出する部分と同じである。全ての色のインクの総付与量が5.0μl/cm2を越える部分を有する画像を形成する場合は、鮮明な画像が得られなかったり、裏抜けが発生して両面印刷に適さない場合がある。
各タイミングで付与する前記1色のインクの付与量は、0.7μl/cm2以下であることが好ましい。好ましくは0.6μl/cm2以下、より好ましくは0.5μl/cm2以下である。各タイミングの、1色のインクの付与量が0.7μl/cm2を越えると、裏抜けや文字のつぶれ、ブリーディングが発生する場合がある。
本発明で、かかる画像を形成する際に、1色のインクの付与を複数回のタイミングで行うことが好ましい理由を説明する。これは、複数回のタイミングで付与する場合と、1回で全て付与する場合では、格段の性能差があることに基づいている。タイミングの回数は少なくとも2回以上であり、好ましくは4回以下、より好ましくは3回以下、さらに好ましくは2回である。
また、本発明において、基本マトリクスへの1色のインクの付与は、1msec以上、200msec以下の範囲内で行うことが好ましい。即ち、この範囲内で複数回のタイミングで付与する。この条件で印字することにより、発色性及び小文字の文字品位の向上が顕著にみられる。1msec以上とすることにより、基本マトリクスへ最初にインクが付与されてから、最後にインクが付与されるまでに、一定の時間が空くため、好ましい。この理由は以下のように考えられる。即ち、最初のインク滴が普通紙に十分に定着する前に最後のインク滴が着弾すると、各インク滴同士が結合し、大きな液滴を形成する(ビーディング)。その大きな液滴が普通紙上の大きめな細孔から深く浸透してしまうので発色性が低下する。また、その大きなインク滴は普通紙の中で繊維の方向に沿って横方向にも広がるため文字のシャープさが失われてしまう。本発明では、基本マトリクスへの1色のインクの付与を1msec以上、200msec以下の範囲内で、かつ前記範囲内の複数回のタイミングで行う。これにより、インク滴が記録媒体に着弾してから固液分離するまでの十分な時間をとることができ、画像濃度及び文字品位が向上すると考えられる。
また、基本マトリクスへの1色のインクの付与を3回以上のタイミングで行う場合、それぞれのタイミング間の時間を1msec以上とすることが好ましい。この条件で記録することで、各インク滴同士が結合して生じる画像濃度の低下及び文字品位の劣化が軽減される。
基本マトリクスへの1色のインクの付与を200msecより長い時間で行ったとしても、200msecに設定した際の効果とはさほど変化がない。そのため、本発明では高速印刷を達成するために、上限を200msecとするのが好ましい。基本マトリクスへの1色のインクの付与は1msec以上で行うが、好ましくは3msec以上、より好ましくは6msec以上、さらに好ましくは10msec以上である。基本マトリクスへの1色のインクの付与時間をこのように設定することにより、本発明で使用するインクの効果を最大に引き出すことができる。即ち、高い画像濃度且つ高品質な画像を得ることが可能で、高速でのインクジェット記録が実現する。尚、かかる付与のタイミングを達成するためには、基本マトリクスへの1色のインクの付与を、全てのタイミングにおいて同一の記録ヘッドにより行うことが好ましい。
インクの付与を複数回の分割回数に分割する手法としては、シリアル型プリンタを例に説明する。ベタ印字画像(100%デューティー)を通常2分割で印字する場合、記録媒体に対して記録ヘッドが2回通過(2パス)することとなる。ここでは、分割回数に対して等量のインクを付与することとするが、本発明はこれに限るものではない。通常2パスで印字する際は、1パス目に記録媒体に対し50%相当のインクを、2パス目に残部の記録媒体部位に残りの50%相当のインクを付与する。このことで、2パスで2分割の100%ベタ印字をすることが好ましい態様である(図4)。
通常の方法に加え、本発明では1パスで2分割印字することも印刷の生産性向上の点から好ましい。1パスでブラックを2分割付与する構成の一態様として、図3に例示した記録ヘッドを用いて説明する。211、212、213、214及び215のインク吐出口からは、夫々、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)のインクを吐出する。同様にしてヘッドの構成を変えることで、1パスでも複数回の分割回数に分割印字する事が可能である。
また図4の1パスで2分割付与するヘッド構成を複数パスで印字することも好ましい様態である。この場合、ベタ印字画像を印字する際には、1パス目の第一のノズル列から被記録記録媒体に対し25%相当のインクを、第ニのノズル列から25%相当のインクを印字した後、2パス目の第一のノズル列から25%相当のインクを、第ニのノズル列から25%相当のインクを印字し、結果として100%ベタ印字をすることが可能となる。
同一ヘッドにおいて最初のインクの付与開始から最後のインク終了までの時間が1msec以上200msec以下であることがより好ましい記録方法である。
<インクジェット記録装置>
次に、本発明に関するインクジェット記録装置について説明する。本発明に好適な装置としては、0.5pl以上6pl以下の定量のインクを付与する記録ヘッドを搭載したものである。本願発明のインクジェット記録装置の記録ヘッドは、インクに熱エネルギーを作用させて付与させる記録ヘッドであることが好ましい。このような記録ヘッドは、圧電素子を用いてインクを吐出させる記録ヘッドに比べてノズルの高密度化に適している。さらに、インクを定量とすることに優れているので、インクの浸透深さのばらつきを抑え、記録画像の均一性を良好とする点で優れている。
インクに熱エネルギーを作用させて付与させる記録ヘッドの代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号明細書、米国特許第4740796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行なうものが好ましい。この方式はいわゆるオンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用可能である。これらの中ではオンデマンド型のものが有利である。すなわち、オンデマンド型の場合には、インクが保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも1つの駆動信号が印加される。この印加によって、電気熱変換体に熱エネルギーが発生させ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に1対1で対応したインク内の気泡を形成することができる。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介してインクを吐出させて、少なくとも1つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるのでインクが定量であり、応答性にも優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。
図1は、本発明に係るインクジェット記録装置の一実施態様の概略を示す正面図である。キャリッジ20には、インクジェット方式の複数のインク吐出口211〜215を有する記録ヘッドが搭載されている。1パスでブラックを2分割付与する構成の一態様では、211、212、213、214及び215は、夫々、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)のインクを吐出する。
インクカートリッジ221〜225は、記録ヘッド及びこれらにインクと供給するためのインクタンクとから構成されている。
40は、濃度センサである。濃度センサ40は反射型の濃度センサであり、キャリッジ20の側面に設置された状態で、記録媒体に記録されたテストパターンの濃度を検出できる構成となっている。
記録ヘッドへの制御信号等は、フレキシブルケーブル23を介して転送される。
記録媒体等のセルロース繊維の露呈した記録媒体24は、不図示の搬送ローラを経て排紙ローラ25に挟持され、搬送モータ26の駆動に伴い矢印方向(副走査方向)に搬送される。
ガイドシャフト27、及びリニアエンコーダ28により、キャリッジ20は案内支持されている。キャリッジ20は、キャリッジモータ30の駆動により、駆動ベルト29を介して、ガイドシャフト27に沿って主走査方向に往復運動される。
記録ヘッド211〜215のインク吐出口の内部(液路)には、インク吐出用の熱エネルギーを発生する発熱素子(電気・熱エネルギ変換体)が設けられている。リニアエンコーダ28の読みとりタイミングに伴い、上記発熱素子を記録信号に基づいて駆動し、記録媒体上にインク滴を吐出し、付着させることで画像を形成する。
記録領域外に配置されたキャリッジ20のホームポジションには、キャップ部311〜315を持つ回復ユニットが設置されている。記録を行なわないときには、キャリッジ20をホームポジションに移動させて、インク吐出口211〜215をそれぞれが対応するキャップ311〜315によって密閉する。これにより、インク溶剤の蒸発に起因するインクの固着あるいは塵埃等の異物の付着等による目詰まりを防止することができる。また、キャップ部のキャッピング機能は、記録頻度の低いインク吐出口の吐出不良や目詰まりを解消するために利用される。具体的には、キャップ部は、インク吐出口から離れた状態にあるキャップ部へインクを吐出させる吐出不良防止のための空吐出に利用される。更に、キャップ部は、キャップした状態で不図示のポンプによりインク吐出口からインクを吸引して吐出不良を起こした吐出口の吐出回復に利用される。
インク受け部33は、記録ヘッドが記録動作直前に上部を通過する時に、予備的に吐出されたインク滴を受容する役割を果たす。また、キャップ部に隣接した位置に不図示のブレード、拭き部材を配置することにより、インク吐出口211〜215の形成面をクリーニングすることが可能でとなっている。
以上説明したように、記録装置の構成に、記録ヘッドに対する回復手段、予備的な手段等を付加することは、記録動作を一層安定にできるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧あるいは吸引手段、電気熱変換体あるいはこれとは別の加熱素子あるいはこれらの組み合わせによる予備加熱手段等がある。また、記録とは別の吐出を行なう予備吐出モードを備えることも安定した記録を行なうために有効である。
加えて、上記の実施形態で説明した記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いてもよい。さらに、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッドを用いてもよい。
図3は、インク吐出口211〜215を有する記録ヘッドの構成図である。図において、記録ヘッドの記録走査方向は、図の矢印で示した方向とする。記録ヘッドには、記録走査方向と略直行する方向に配列した複数のノズルの吐出口211〜215が配備されている。記録ヘッドは、図の記録走査方向へ移動走査しながら、各吐出口より所定のタイミングでインク滴を吐出する。これにより、記録媒体には、ノズルの配列密度に応じた記録解像度で画像が形成される。この際、記録ヘッドは、記録走査方向のどちらの方向で記録動作を行ってもよい。また、往復のどちらで記録動作を行ってもよい。
また、以上の実施形態は記録ヘッドを走査して記録を行なうシリアルタイプの記録装置であるが、記録媒体の幅に対応した長さを有する記録ヘッドを用いたフルラインタイプの記録装置であっても良い。フルラインタイプの記録ヘッドとしては、図3に開示されているようなシリアルタイプの記録ヘッドを千鳥状や並列に配列させて、長尺化し、目的の長さとする構成がある。あるいは、当初より長尺化したノズル列を有するように、一体的に形成された1個の記録ヘッドとした構成でもよい(図2)。
上記のシリアルタイプやラインタイプの記録装置は、独立化あるいは一体的に形成された4色インク(Y,M,C,K)を用いる例である。また、ブラックインクのみを2分割付与するためにブラックインク211ノズルと215ノズルそれぞれに設けた5吐出口列(またはノズル列)構成のヘッドを搭載した例である。また、4吐出口列数(またはノズル列数)を用いて分割回数を2〜12程度にする際の好適な態様として、4色インク(Y,M,C,K)の少なくとも1種については、同色のインクを複数の吐出口列(またはノズル列)に重複して搭載する形式も好ましい。例えば、4吐出口列数(またはノズル列)のヘッドを2個ないし3個重ねてつなげた8吐出口列(またはノズル列)構成や12吐出口列(またはノズル列)構成等も挙げられる。
同一色のインクの付与を複数回のタイミングで付与する具体例として、シリアルタイプの記録装置を使用してインクを2回に分割して一回の走査で印字する形態が挙げられる。1回の走査でブラックインクを2分割付与する構成の一態様として、図3に例示した記録ヘッドを用いてカラーのヘッド構成を例に述べる。211、212、213、214及び215は、夫々、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)のインクを吐出することが特に好ましい態様となる。この記録ヘッドを搭載したキャリッジの速度及び/又は2つのブラックインクのノズルの幅を変化させることで、基本マトリクスへの1色のインクの付与を1msec以上、200msec以下に制御することができる。
本発明のインクジェット記録装置は、画像を形成するための基本マトリクス中に、基本マトリクスに付与するインクの総付与量が5.0μl/cm2以下で、1色のインクのデューティーが80%デューティー以上となる画像を形成をする際に、前記1色のインクの付与を複数回のタイミングで行う。また、各タイミングのインクの付与量を0.7μl/cm2以下に制御している。さらに、基本マトリクスへのインクの付与開始から終了までの時間を1msec以上200msec以下の範囲としている。本発明のインクジェット記録装置は、かかる分割付与を行なうための制御機構を有する。この制御機構により、インクジェット記録ヘッドの動作と、普通紙の紙送り動作のタイミングを制御し、かかる分割付与を行なう。
1色のインクを付与する際の分割回数は、所望とする記録条件に応じて設定できる。図4に、2回に分割する例を示す。本例は、基本マトリクスの解像度は1200dpi(横)×1200dpi(縦)で、画像の100%デューティーの部分を形成する場合の例である。図4では、1回目のインクの着弾位置を第1のインク、2回目のインクの着弾位置を第2のインクとして示している。第1のインク、第2のインクは、それぞれ定量である。
<記録媒体>
次に、本発明に関する記録媒体について説明する。本発明の記録媒体は、二価金属元素を含有した普通紙であり、XRF(蛍光X線分析)法により測定した前記記録媒体の二価金属元素の含有率は、2.0質量%以上である。普通紙とは、パルプ繊維に填料を均一に抄紙したものを主体とするものである。例えば、印刷紙、PPC用紙等が挙げられるが、本発明では、中でもXRF(蛍光X線分析)法により測定した前記記録媒体の二価金属元素の含有率は、2.0質量%以上である普通紙を記録媒体とする。
後述する填料及びその他の添加剤は、普通紙を製造する抄紙工程で後述するパルプ液と十分混合された状態で脱水され、パルプと一体化してシート形状に整形される。抄紙工程の脱水乾燥させる際に、裏側(水分を吸引する側)の最表面で、填料及びその他の添加剤存在比率が多少低下することがあるが、普通紙の最表面から内部までほぼ同じ存在比率である。即ち、パルプ・填料・その他の添加剤の均一性が普通紙の特徴とも言える。
インクジェット専用紙として塗工紙(ベースペーパーに加えられる機能層/機能物質の量により、アート紙、コート紙、微塗工紙などと呼ばれることもある)も存在する。しかし、これらは本発明の記録媒体とは別種である。これら塗工紙は、普通紙に更にインク色材の定着を意図通りにすることで画像性能を向上(発色を良くする、耐マーカー性を向上させる、にじみを軽減する、等)させるための機能層を追加しているからである。或いは、普通紙の製造工程の後段に更に機能物質を塗布する工程を追加しているからである。結果として、塗工紙は最表面にのみ機能層及び/または機能物質が偏在している。更にこの特徴の為、インクジェット用塗工紙はインクジェット画像形成手段を用いた場合には画像が高度化する。しかし、表面が平滑なので鉛筆で筆記しづらい、機能層/機能物質がレーザービームプリンタ内で剥離して紙送り機構を傷つけるといった点で、汎用的な記録媒体とは言えない。
同様の理由で、上述の塗工紙に更に表面をキャストドラムで平滑にする工程を加えたキャスト紙(光沢紙)も、本発明で言う記録媒体とは別種の記録媒体である。
なお、本発明の記録媒体の坪量(紙の単位面積当たりの重量)は、60g/m2以上、120g/m2以下であることが好ましい。60g/m2未満のものは、紙の強度(俗に「こし」と呼ばれる特性)が弱くインクジェット記録装置内で正常に送られない可能性がある。また120g/m2より大きいものは、一般には普通紙とは別種のものである、と考えられることが多い。
また、紙の厚さも紙の特徴を表現する尺度として用いられる。厚みを1連(洋紙の場合1000枚を指すことが多い)あたりの重さで表現する連量(単位はg)という尺度が用いられる。本発明の記録媒体の紙厚は60μm以上120μm以下で一般的な普通紙とほぼ同じである。60μm未満のものは紙に強度が弱くインクジェット記録装置内で正常に送られない可能性がある上、印字画像が裏抜けしてしまう可能性がある。また120μmより大きいものは、100μm前後のベースペーパーの表面に機能層を上乗せした塗工紙やキャスト紙であることが多い。
(パルプ)
パルプ繊維(以下、パルプと表記)には、自然界に存在するものを加工してパルプにするか、一度紙に加工されたものを再度パルプ化するかで大別される。
前者はバージンパルプと呼ばれる。一般に木材及び綿、麻、じん皮等の繊維原料を化学的に処理して作製された化学パルプ、木材やチップを機械的にパルプ化したグランドウッドパルプ、木材やチップに薬液を染み込ませた後に機械的にパルプ化したケミメカニカルパルプ。また、チップをやや軟らかくなるまで蒸解した後にリファイナーでパルプ化したサーモメカニカルパルプ等がある。これらは、すべて記録媒体の原料として用いられる。中でも化学パルプである広葉樹晒クラフトパルプ、広葉樹未晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ、広葉樹晒亜硫酸パルプ、広葉樹未晒亜硫酸パルプ、針葉樹晒亜硫酸パルプ、針葉樹未晒亜硫酸パルプ等が好適に用いられる。これらは塩素・オゾン・過酸化水素水などで有色成分であるリグニン等を分解除去され、より白色にされる。
一方、後者はリサイクルまたは古紙パルプと呼ばれる。リサイクルパルプの原料としては、製本、印刷工場、断裁所等において発生する裁落、損紙、幅落しした未印刷古紙、印刷や印字を施した上質・中質紙、上質・中質コート紙などの印刷古紙、ペン・鉛筆などで筆記された古紙、主に中質紙からなる新聞古紙等がある。未印刷古紙はそのままでも白いが、既印刷古紙や筆記された古紙は、再パルプ化の過程で塩素等で漂白したり、界面活性剤で脱墨処理したりして、より白色のパルプにされる。バージンパルプとリサイクルパルプの混合率は特に規定するものではない。このようにして作られたパルプは、一般的には水に懸濁した状態(パルプ液と呼称)で後述する填料やその他の添加剤と混合された上で抄紙工程に送られ、シート形状にして機械的に脱水される。最後に紙の一方の側から水分を吸引して脱水乾燥されて、記録媒体となる。
(填料)
填料はパルプと並んで記録媒体の中で大きな割合を占める物質である。紙はパルプのみでも画像形成記録媒体として機能するが、この填料を加えることによって、紙に不透明性をもたせて裏抜けを防いだり、白色度、平滑性などをもたせることができる。パルプの隙間を埋めるように存在することからフィラーとも呼ばれる。一般的に無機鉱物が用いられることが多いが、有機系填料も存在する。
無機鉱物填料としては、白色で水への溶解性が低い粉末が好んで用いられる。具体的には、重質炭酸カルシウム・軽質炭酸カルシウム・チョーク・カオリン・焼成クレイ・タルク・硫酸カルシウム・天青石(硫酸ストロンチウム)・硫酸バリウム・二酸化チタン・酸化亜鉛・硫化亜鉛・炭酸亜鉛・珪酸アルミニウム・珪酸カルシウム・珪酸マグネシウム・合成シリカ・水酸化アルミニウム・アルミナ・セリサイト・非晶性シリカ(ホワイトカーボン)・サポナイト・モンモリロナイト・ベントナイトなどが挙げられる。これらを目的やコストに応じて適宜選んで添加すればよい。
(二価金属)
填料の種類は単独でも良いし、複数種類を加えても良い。ただし、本発明の記録媒体は、二価金属元素を含有した普通紙であり、XRF(蛍光X線分析)法により測定した前記記録媒体の二価金属元素の含有率は、2.0質量%以上である。
二価金属元素は、記録媒体内にほぼ均一に分布していることが好ましい。パルプは、実質的にセルロースを主体とする有機物である。また、上述したように、填料は、実質的に記録媒体の中で大きな割合を占める無機鉱物である。これらを考慮すると、填料に二価金属の塩を用いる等して、記録媒体の二価金属元素の含有率を2.0質量%以上とすることが好ましい。
二価金属としては、ベリリウム・マグネシウム・カルシウム・ストロンチウム・バリウム・ラジウムが挙げられる。ベリリウムと放射性物質であるラジウムは記録媒体の構成材として扱いづらい。よって、実質的にマグネシウム・カルシウム・ストロンチウム・バリウムが用いられる。これらは大気中で金属の状態で存在し続けることは困難なので、実際に記録媒体の填料として用いられるのは、上記四元素の塩ということになる。具体的には、タルク・珪酸マグネシウムなどマグネシウム塩を主体とするもの、重質炭酸カルシウム・軽質炭酸カルシウム・チョーク・硫酸カルシウム・珪酸カルシウム・サポナイト・モンモリロナイト・ベントナイトなどカルシウム塩を主体とするもの、天青石(硫酸ストロンチウム)などストロンチウム塩を主体とするもの。また、硫酸バリウムなどのバリウム塩を主体とするものが挙げられる。また、上記四元素の塩を多く含むクレイを原料とした焼成クレイでもよい。これらの各種の塩の中でも、炭酸カルシウムを主体としたものが、入手容易性やコストの面で特に好適である。
上述の二価金属の含有率は、XRF(蛍光X線分析)法で測定した値である。XRFを用いれば、膜厚100μm程度の普通紙なら試料を試料台に固定してX線を照射するだけで、再現性良く各種元素の存在量を測定できる。XRFはその測定原理から、水素・ヘリウム・リチウムとウラン以上の超重元素は検出できない。普通紙にヘリウム・リチウム・ウラン以上の超重元素が無視できない比率で存在することはほぼあり得ない。従って、普通紙をXRFで分析して得られた元素比率は、実質的には紙を構成する全元素から水素を除いたものに占める割合と言って良い。
記録媒体中の水素を除く全元素に対する二価金属元素の含有率は2.0質量%以上であるが、2.3質量%以上がより好ましい。また、6.0質量%以上が好ましく、6.3質量%以上がより好ましい。さらには9.0質量%以上が好ましく、9.8重量%以上がより好ましい。ただ、含有率を極端に上昇させようとして添加量をこれ以上に増加させると、二価金属から成る填料などを固着させるための添加物(後述)の添加量を増やす必要がある。従って、結局は二価金属元素の含有率はそれほど上昇しない。また無理に高いものを製造したとしても、製造された記録媒体は、二価金属塩を押し固めた板のようになり、一般的な紙とはならない。
(その他の添加物)
本発明の普通紙には、サイズ剤が添加することが好ましい。これは、パルプの主成分であるセルロースが親水性素材で吸水性が高いため、サイズ剤を添加して吸水性を抑制する為である。サイズ剤は疎水性基と親水性基を持ち、親水基がセルロース側・疎水性基を外側に向けて付着することで紙に疎水性をもたせる。例えば、ロジンやアルキルケテンダイマーなどが挙げられる。
また同様に、抄紙工程またはその前の工程でパルプ液に、微細繊維や後述する填料粒子の飛散を抑える歩留向上剤、紙に強度を持たせる紙力増強剤、水切れを良くするための濾水剤等を添加してもよい。
<インクと記録媒体の相互作用>
本発明のインクジェット画像形成方法、及びインクと記録媒体のセットが、前述した5つの課題、
1)インクの定着が高速である。
2)記録画像が高濃度で鮮明である。
3)小さな文字を印刷した場合にも、文字がシャープで、文字のつぶれが抑制される。
4)裏抜けが抑制され、両面印刷にも適した画像の形成が可能である。
5)記録画像の耐水性、耐マーカー性が良好である。
を十分満足することが可能な理由を説明する。
一般的に表面にカチオン/アニオン官能基を有する自己分散顔料は水溶性溶媒中、つまりインクの状態ではプラス/マイナスに荷電した状態になり互いに反発し合って、自己分散状態を維持している。この自己分散機能により、インクを長時間放置することによる色材の凝集劣化や、インク吐出機構のノズルの壁面へのインク固着を抑制できる。
しかし、自己分散機能は、顔料粒子をインクジェット印刷装置を用いて画像形成記録媒体上に配した時点で利点ではなくなってしまう可能性がある。具体的には、インクの主成分である水溶性溶媒が記録媒体上で浸透・拡散・蒸発するのに伴って自己分散顔料も移動してしまい、それが結果的に上述の1)〜4)の課題を満足できない原因となることがある。さらに、一度記録媒体に定着しても、その媒体に水分がかかった場合やマーカー等で上書きされた場合に、定着した自己分散顔料が再度水性溶媒にさらされて電離して分散状態に戻る可能性がある。この場合、再度その水性溶媒が記録媒体上で浸透拡散するのに伴って自己分散顔料も拡散してしまい、それが結果的に上述の5)の課題を満足できない原因となりうる。
これに対して、下記(a)または(b)の少なくとも一方の自己分散顔料と、有機カルボン酸のアンモニウム塩と、水と、下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上の水溶性化合物とを含有し、表面張力が34mN/m以下のインクを、二価金属元素を含有した普通紙であり、XRF(蛍光X線分析)法により測定した前記記録媒体の二価金属元素の含有率が2.0質量%以上である普通紙に印字すれば、前述の1)〜5)の課題を満足することができる。
(a)下記一般式(1)で表わされるアニオン性官能基が直接あるいは他の原子団を介して表面に結合した自己分散顔料。
一般式(1)
(但し、式中のM1、M2は、独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表わす。)
(b)ラクトン基とカルボキシル基を有する自己分散顔料。
式(A)
この理由を以下に詳細に説明する。
本発明の自己分散顔料表面の、一般式(1)で表わされるアニオン性官能基や、或いはカルボキシル基が、インク中ではマイナスに荷電して自己分散能を発揮する点は、上述の一般的な自己分散顔料と同様である。
しかし、これらの自己分散顔料を含む水性溶媒から成るインクが本発明の記録媒体表面に着弾した際には、記録媒体が含有する二価金属がインクの主体である水溶性溶媒に溶解して二価のカチオンとなる。次に顔料表面の一般式(1)で表わされるアニオン性官能基或いはカルボキシル基と結合して顔料−二価金属の塩となり、顔料表面のマイナス荷電を中和する。この為、顔料は自己分散能を失い凝集沈殿が促進され、水溶性溶媒が記録媒体上で浸透・拡散・蒸発とは関係なく、その場でほぼ瞬時に定着する。この結果、顔料は記録媒体の着弾位置の表面付近に止まることとなり、前述の1)〜4)を高度に満足することができるのである。
さらに、顔料表面に二価金属が結合した状態になって自己分散能を失い、再溶解が困難になる。この為、定着した自己分散顔料が再度水性溶媒にさらされても分散状態に戻りにくく、記録媒体上に定着した状態を維持できるため、上述の5)の課題を十分に満足できる。
なお、自己分散顔料表面の官能基と二価金属由来のカチオンが結合する際、一般式(1)で表わされるアニオン性官能基或いはカルボキシル基は一価のアニオンであるのに対して、カチオンは二価である。この為、カチオン1個で2個の顔料表面のアニオンを無荷電にすることができるために、一価のカチオンより効率がよい。また、理論的にはカチオン1個で2つの顔料を架橋することも可能なので、一価のカチオンよりはるかに強力に自己分散顔料の凝集沈殿を促進させ、再分散を抑制することも可能である。
本発明の記録媒体では、二価金属の塩が填料としての機能を兼ね備えていることが好ましい。ここで、填料が水への溶解性が低い物質である一方で、二価金属にはインクが記録媒体表面に着弾した瞬間に溶解して二価のカチオンになる必要性がある。このことは一見矛盾しているかのようであるが、代表的な填料でかつ二価金属の塩である炭酸カルシウムを例によると、水への溶解度が低いとは言え、水100gに対して1.3mg溶解する。更に、溶解度平衡やインク液中の顔料濃度を考慮すれば、これは顔料粒子を凝集沈殿させるには十分な値である。
以下、実施例により本発明を詳述するが、これらは本発明をなんら限定するものではない。尚、以下の記載で部、或いは%とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。また、平均粒径の測定は、ナノトラックUPA 150EX(日機装製、50%の積算値の値とする)を使用して測定した。
まず、実施例及び比較例に用いるインクの製造方法を説明する。
<インク1;化学式(1)のアニオン性官能基を有する自己分散顔料を含むインク>
(顔料分散体Aの製造)
化学式(1)
比表面積が320m2/gでDBP吸油量が110ml/100gのカーボンブラック10gと、4−アミノベンゼンホスホン酸3.2gとを水70gによく混合した後、これに硝酸1.62gを滴下して70℃で攪拌した。さらに数分後、5gの水に1gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加え、さらに1時間攪拌した。得られたスラリーを濾紙(商品名:東洋濾紙No.2;アドバンティス社製)で濾過し、濾取した顔料粒子を十分に水洗し、90℃のオーブンで乾燥させた。以上の方法によりカーボンブラックの表面に化学式(II)で示される基を導入したブラック顔料を作製した。
上記で作製したブラック顔料の表面官能基密度を水酸化ナトリウムによる中和滴定を行い、その値から表面官能基密度を換算したところ、600μmol/gであった。また上記で作製したブラック顔料の50%積算粒径をナノトラックUPA 150EX(日機装製)にて測定したところ120nmであった。この顔料を濃度とpHが10%とpH7.5となるようにイオン交換水及び水酸化ナトリウムにて調整した。さらにプレフィルター及び1μmフィルターの併用系で濾過して自己分散顔料分散体Aを得た。
(インク1の調製)
以下の全構成成分を合計100部とし、2時間混合後、2.5μmのフィルターを用いてろ過して実施例のインク1を得た。表面張力は、29mN/m、自己分散顔料の粒径は120nm、粘度は3.0mPa・sであった。
・自己分散顔料分散体A:50部
・フタル酸2アンモニウム:0.5部
・トリメチロールプロパン(親疎水度係数 0.31):15部
・1,2−ヘキサンジオール(親疎水度係数 0.97):5部
・イソプロピルアルコール:1部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物
(商品名:オルフィンE1010、日信化学工業製、HLB値10以上):1部
・水:残部。
<インク2;ラクトン基及びカルボキシル基を有する自己分散顔料を含むインク>
(顔料分散体Bの製造)
比表面積が220m2/gでDBP吸油量が105ml/100gのカーボンブラック100gと、p−アミノ安息香酸34.1gとを水720gによく混合した後、これに硝酸16.2gを滴下して70℃で攪拌した。10分後、50gの水に10.7gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加え、さらに1時間攪拌した。得られたスラリーを濾紙(商品名:東洋濾紙No.2;アドバンティス社製)で濾過し、濾取した顔料粒子を十分に水洗し、90℃のオーブンで乾燥させた。以上の方法によりカーボンブラックの表面にp−安息香酸基を導入した自己分散ブラック顔料を得た。この顔料を濃度が10%となるようにイオン交換水にて調整後、アンモニア水溶液にてpH7.5とした。さらにプレフィルター及び1μmフィルターを併用して濾過し、自己分散顔料分散体Aを得た。
(インク2の調製)
以下の全構成成分を合計100部とし、2時間混合後、2.5μmのフィルターを用いてろ過して実施例のインク2を得た。表面張力は、30mN/m、自己分散顔料の粒径は120nm、粘度は3.5mPa・sであった。
・自己分散顔料分散体B:50部
・フタル酸2アンモニウム:0.5部
・トリメチロールプロパン(親疎水度係数 0.31):15部
・1,2−ヘキサンジオール(親疎水度係数 0.97):5部
・イソプロピルアルコール:1部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物
(商品名:オルフィンE1010、日信化学工業製、HLB値10以上):1部
・水:残部。
次に、記録媒体、印字手段、印字方法等について説明する。
(記録媒体)
実施例及び比較例に用いた記録媒体(普通紙)に関して、以下の表2に示す。
記録媒体の二価金属含有率は蛍光X線分析装置(XRF)、ZSX100e(リガク社製)で分析して得られた値である。
また、記録媒体をクロスセクションポリッシャ(CP)、SM―09010(日本電子製)で断面を研磨し、光学顕微鏡(ニコン社製)及び走査型電子顕微鏡(SEM)、S−5500(日立ハイテク社製)で観察した。この結果、すべての記録媒体共に、局所的にはパルプ繊維の部分、填料が集まった部分が存在するものの全体としては両者が均一に分散していた。b紙に関して、上述のSEMに組み込まれたエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、EMAX(堀場製作所製)で炭素(パルプ及び有機添加物由来、炭酸カルシウム由来の炭素はカルシウムの信号にマスクされて信号が弱まったと推定)に関して元素マッピング分析を行ったものを図5のAに示す。また、カルシウム(填料である炭酸カルシウム由来)に関して元素マッピング分析を行ったものを図5のBに示す。A、Bは同一視野で、最上部がb紙の表側最表面、最下部が裏側最表面である。この画像からも、紙全体としてはパルプ繊維と填料が均一に分散していることが解る。
なお、填料の主成分は、文献及びEDXの結果より特定した。坪量、紙厚の値は実際に測定して求めた。
(インクジェット記録装置)
プリンタAとして、F930(キヤノン製。記録ヘッド;6吐出口列、各512ノズル。インク量4.0pl(定量)、基本マトリクスの解像度;1200dpi(横)×1200dpi(縦)。)を用いた。
(画像形成方法)
通常印刷:一種類毎にインクをプリンタのブラックインクヘッド部に搭載してベタ画像を印刷した。2色以上で印刷する際は、それぞれ対応するブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクヘッド部に搭載してベタ画像を印刷した。通常1パス印刷ではベタ部分(100%デューティー)の形成に際し、1回あたりのインク付与量は、1.0μl/cm2とした。通常2パス印刷ではベタ部分の形成に際し、インクの付与は2回に分割した。1回あたりの付与量は0.5μl/cm2の等量で、合計付与量は、1.0μl/cm2とした。通常4パス印刷では、ベタ部分の形成に際し、インクの付与は1回あたり0.5μl/cm2の等量で、合計付与量は、2.0μl/cm2とした。
分割付与印刷:2分割付与で印字する際は、特に記載の無い限り、一種類毎にインクをプリンタのブラックインクヘッド部とシアンインクヘッド部に搭載してベタ画像を印刷した。このときのブラックインクヘッド部とシアンインクヘッド部から吐出されるインクの時間差は12msecであった。2分割1パス付与印刷では、ベタ部分の形成に際し、一吐出口列当り0.5μl/cm2の等量で、合計付与量は1.0μl/cm2とした。
次に、評価項目および評価基準について説明する。
(画像濃度)
ブラックインクに関して、3cm×3cmのベタ印字画像のO.D.を濃度計(マクベスRD915:マクベス社製)にて測定した。
AA:1.60以上であった。
A:1.50以上、1.60未満であった。
B:1.40以上、1.50未満であった。
C:1.30以上、1.40未満であった。
D:1.30未満であった。
(定着性)
ベタ部を印字後、10秒後にシルボン紙を押し付け、転写する度合いを下記の評価基準にて目視で評価した。
A:転写は認められない。
B:転写が僅かに認められる。
C:転写がはっきりと認められる。
(小文字印字)
4ポイントのJIS第1水準の漢字を印字して、漢字の小文字印字の尖鋭度について下記の評価基準にて目視で評価した。
A:複雑な文字でも表現できる。
B:複雑な文字について、僅かに輪郭が乱れるが許容範囲である。
C:複雑な文字については、十分に表現できない。
D:単純な文字でも乱れる場合がある。
(裏抜け)
ベタ部を印字後、印字面裏側について下記の評価基準にて目視で評価した。
A:裏抜けは見られなかった。
B:印字面の裏側に黒い斑点が多少見られ、わずかに裏抜けが認められた。
C:印字面の裏側に黒い斑点が多数見られ、はっきりと裏抜けが認められた。
(耐マーカー性)
ベタ部を印字した後、10分後にゼブラ社製蛍光マーカー(商品名:OPTEX2)で一回マークし、ベタ印字と紙の境界部からのインクの尾引きの度合いを下記の評価基準にて目視で評価した。
A:尾引きは認められない。
B:尾引きが僅かに認められる。
C:尾引きがはっきりと認められる。
<実施例1〜3、比較例1、2>
インク1を用い、通常1パスの画像形成方法で上記の記録媒体に印字し、得られた印字物を評価した。付与条件を表3に、評価結果を表4に示す。尚、全ての例において、インクの総付与量は1.0μl/cm2である。
これらの結果より、二価金属含有率が2.0質量%以上の紙では、画像濃度が非常に高くなることが分かる。9.8質量%では、更に高い画像濃度が得られることが分かる。小文字印字に関しては6.3質量%以上の紙ではそれ未満の紙に対してより良好であることが分かる。耐マーカー性に関しては、2.0質量%以上の紙ではより良好であることが分かる。
<実施例4〜6、比較例3、4>
インク2を用い、通常2パスの画像形成方法で上記の記録媒体に印字し、得られた印字物を評価した。付与条件を表5に、評価結果を表6に示す。尚、全ての例において、インクの総付与量は1.0μl/cm2である。
これらの結果より、二価金属含有率が2.0質量%以上の紙では、画像濃度が非常に高くなることが分かる。9.8質量%では、更に高い画像濃度が得られることが分かる。小文字印字に関しては6.3質量%以上の紙ではそれ未満の紙に対してより良好であることが分かる。
<実施例7〜9、比較例5、6>
インク2を用い、2分割1パスの画像形成方法で上記の記録媒体に印字し、得られた印字物を評価した。付与条件を表7に、評価結果を表8に示す。尚、全ての例において、インクの総付与量は1.0μl/cm2である。
これらの結果より、二価金属含有率が2.0質量%以上の紙では、画像濃度が非常に高くなることが分かる。9.8質量%では、更に高い画像濃度が得られることが分かる。小文字印字に関しては6.3質量%以上の紙ではそれ未満の紙に対してより良好であることが分かる。
<実施例10、比較例7>
インク2を用い、通常4パスの画像形成方法で2種類の記録媒体に印字し、得られた印字物の裏抜けを評価した。付与条件を表9に、評価結果を表10に示す。尚、全ての例において、インクの総付与量は2.0μl/cm2である。
これらの結果より、インクの総付与量を2.0μl/cm2とすると、二価金属含有率2.0質量%未満のe紙では裏抜けが顕著に発生することが分かる。一方、2.0質量%以上のc紙では裏抜けが抑制されていることが分かる。