JP5349294B6 - 核初期化方法 - Google Patents

核初期化方法 Download PDF

Info

Publication number
JP5349294B6
JP5349294B6 JP2009508036A JP2009508036A JP5349294B6 JP 5349294 B6 JP5349294 B6 JP 5349294B6 JP 2009508036 A JP2009508036 A JP 2009508036A JP 2009508036 A JP2009508036 A JP 2009508036A JP 5349294 B6 JP5349294 B6 JP 5349294B6
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
cells
myc
cell
genes
gene
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2009508036A
Other languages
English (en)
Other versions
JPWO2009057831A1 (ja
JP5349294B2 (ja
Inventor
伸弥 山中
和利 高橋
誠人 中川
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kyoto University
Original Assignee
Kyoto University
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Priority claimed from US12/213,035 external-priority patent/US8278104B2/en
Application filed by Kyoto University filed Critical Kyoto University
Priority claimed from PCT/JP2008/070365 external-priority patent/WO2009057831A1/ja
Publication of JPWO2009057831A1 publication Critical patent/JPWO2009057831A1/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5349294B2 publication Critical patent/JP5349294B2/ja
Publication of JP5349294B6 publication Critical patent/JP5349294B6/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Description

本発明は分化した体細胞を初期化して人工多能性幹細胞を製造する方法に関するものである。
胚性幹細胞(ES細胞)はヒトやマウスの初期胚から樹立された幹細胞であり、生体に存在する全ての細胞へと分化できる多能性を維持したまま長期にわたって培養することができるという特徴を有している。この性質を利用してヒトES細胞はパーキンソン病、若年性糖尿病、白血病など多くの疾患に対する細胞移植療法の資源として期待されている。しかしながら、ES細胞の移植は臓器移植と同様に拒絶反応を惹起してしまうという問題がある。また、ヒト胚を破壊して樹立されるES細胞の利用に対しては倫理的見地から反対意見も多い。
患者自身の分化体細胞を利用して脱分化を誘導し、ES細胞に近い多能性や増殖能を有する細胞(この細胞を本明細書において「人工多能性幹細胞」又は「iPS細胞」と呼ぶが、この細胞は「誘導多能性幹細胞」、「胚性幹細胞様細胞」、又は「ES様細胞」と呼ばれる場合もある)を樹立することができれば、拒絶反応や倫理的問題のない理想的な多能性細胞として利用できるものと期待される。最近、このiPS細胞をマウス及びヒトの体細胞から製造できることが報告され、極めて大きな反響を呼んでいる(国際公開WO2007/69666;Cell,126,pp.663−676,2006;Cell,131,pp.861−872,2007)。
上記の方法は複数の特定因子(Cell,126,pp.663−676,2006ではOct3/4、Sox2、Klf4、及びc−Mycの4因子が用いられている)を体細胞に導入して初期化を行う工程を含んでおり、因子の導入にはレトロウイルスベクターが用いられている。しかしながら、c−Mycはがん関連転写因子であり、c−Mycを含む上記の4因子を体細胞に導入して初期化を行った場合には、得られた人工多能性幹細胞から分化誘導した細胞や組織が腫瘍化する可能性も否定できない。レトロウイルスベクターを用いてES細胞に遺伝子を導入すると遺伝子がサイレンシングを受けることが知られており、レトロウイルスベクターを用いて作製された上記のiPS細胞においても導入した遺伝子がサイレンシングを受けていることが確認されているが(国際公開WO2007/69666の実施例7)、導入した外因性のc−Mycが子孫の個体においても発現しない保障はない。c−Mycを用いずにOct3/4、Sox2、Lin28、及びNanogの4因子で核初期化を行う方法がトムソンらにより提案されている(Science,318,pp.1917−1920,2007;国際公開WO2008/118820)。しかしながらiPS細胞の研究開発は、世界的に見ても、依然としてOct3/4、Sox2、Klf4、及びc−Mycの4因子主体で進められているのが現状である。
なお、上記国際公開WO2007/69666にはMycファミリー遺伝子を用いずにサイトカインで置き換えることができることが教示されており、上記公報の実施例5には、c−Mycに換えて塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を用いることにより核初期化が可能になることが具体的に示されている。また、上記の国際公開には初期化因子の候補として選択された24種類の遺伝子のなかにSall4が含まれることが示されているものの(表4のNo.13)、Sall4が核初期化活性を有することは示されていない。また、Mycファミリー遺伝子の一つであるL−Myc又はN−MycをOct3/4、Sox2、及びKlf4と組合わせることによりc−Mycと同程度の効率でiPS細胞を樹立できることが示されている(実施例の例6)。
国際公開WO2007/69666 国際公開WO2008/118820 Cell,126,pp.663−676,2006 Cell,131,pp.861−872,2007 Science,318,pp.1917−1920,2007
本発明の課題は、安全な人工多能性幹細胞を製造する方法を提供することにある。より具体的には、人工多能性幹細胞を分化誘導して得られる細胞や組織において腫瘍化の懸念のない安全な人工多能性幹細胞を提供することが本発明の課題である。
また、本発明の別の課題は、人工多能性幹細胞を効率的に製造する方法を提供することにある。
本発明の特に好ましい課題は、上記の安全な人工多能性幹細胞を効率的に製造する方法を提供することにある。
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、c−Mycを用いることなく安全な人工多能性幹細胞を製造できることを見出した。
また、本発明者らは、c−Mycを用いることなく、L−Myc、Sall1、又はSall4を用いて核初期化を行うことにより、分化誘導して得られる細胞や組織において腫瘍化の懸念のない安全な人工多能性幹細胞を提供できること、及びこの方法により極めて効率的に安全な人工多能性幹細胞を製造できることを見出した。
本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
すなわち、本発明により、体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法であって、下記の3種の遺伝子:Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、及びSoxファミリー遺伝子を体細胞に導入する工程を含む方法が提供される。
この方法の好ましい態様によれば、下記の3種の遺伝子:Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、及びSoxファミリー遺伝子を体細胞に導入した後、該細胞が多能性を獲得して増殖するのに十分な時間にわたり該細胞を培養する工程を含む方法が提供される。
この方法の別の好ましい態様によれば、下記の3種の遺伝子:Oct3/4、Klf4、及びSox2を体細胞に導入する工程を含む方法;及び下記の3種の遺伝子:Oct3/4、Klf4、及びSox2を体細胞に導入した後、該細胞が多能性を獲得して増殖するのに十分な時間にわたり該細胞を培養する工程を含む方法が提供される。
また、この方法のさらに別の好ましい態様によれば、Octファミリー遺伝子を含むウイルスイベクター、Klfファミリー遺伝子を含むウイルスベクター、及びSoxファミリー遺伝子を含むウイルスベクターをそれぞれ別のパッケージング細胞にトランスフェクトして該細胞を培養することにより3種類の培養上清を得る工程、及び上記工程により得られた3種類の培養上清の混合物を調製し、該混合物を用いて体細胞の初期化を行う工程を含む上記の方法が提供される。
さらに、この方法の別の好ましい態様により、薬剤選択を行わずに体細胞の初期化を行う工程を含む上記の方法が提供される。
上記の方法において、上記の遺伝子導入を必要に応じてサイトカインの非存在下又は存在下に行うことができ、好ましくはサイトカインの非存在下に行うことができる。また、上記の培養を必要に応じてサイトカインの非存在下又は存在下に行うことができ、好ましくはサイトカインの非存在下に行うことができる。
この発明により提供される人工多能性幹細胞は、分化誘導後に得られる細胞や組織において腫瘍の発生が実質的に低減ないし排除されている。従って、さらに本発明により、分化誘導後に得られる細胞や組織において腫瘍の発生が実質的に低減ないし排除された人工多能性幹細胞を製造する方法であって、下記の3種の遺伝子:Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、及びSoxファミリー遺伝子、好ましくはOct3/4遺伝子、Klf4遺伝子およびSox2遺伝子を体細胞に導入する工程を含む方法が提供される。
別の観点からは、本発明により、体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法であって、下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びSoxファミリー遺伝子の組み合わせ又は下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びKlfファミリー遺伝子の組み合わせと、下記の3種の遺伝子から選ばれる少なくとも1種の遺伝子:L−Myc、Sall1、及びSall4とを体細胞に導入する工程を含む方法が提供される。
上記の発明の好ましい態様によれば、下記の2種の遺伝子:Oct3/4及びSox2の組み合わせ又は下記の2種の遺伝子:Oct3/4及びKlf4の組み合わせと、下記の3種の遺伝子から選ばれる少なくとも1種の遺伝子:L−Myc、Sall1、及びSall4とを体細胞に導入する工程を含む上記の方法が提供される。上記の遺伝子に加えて下記の遺伝子:Lin28及び/又はNanogを体細胞に導入する工程を含む方法も好ましい態様であり、Lin28を体細胞に導入する工程を含む方法がより好ましい態様である。上記の方法において、所望によりc−Mycを適宜組合わせて用いることも可能である。
上記の発明のさらに好ましい態様によれば、下記の3種の遺伝子:Octファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子、及びKlfファミリー遺伝子の組み合わせ、好ましくはOct3/4、Sox2、及びKlf4の組み合わせと、下記の3種の遺伝子から選ばれる少なくとも1種の遺伝子:L−Myc、Sall1、及びSall4とを体細胞に導入する工程を含む上記の方法が提供される。
より具体的には、下記の4種の遺伝子:Oct3/4、Sox2、Klf4、及びSall1を体細胞に導入する工程を含む上記の方法;下記の4種の遺伝子:Oct3/4、Sox2、Klf4、及びSall4を体細胞に導入する工程を含む上記の方法;下記の4種の遺伝子:Oct3/4、Sox2、Klf4、及びL−Mycを体細胞に導入する工程を含む上記の方法;下記の5種の遺伝子:Oct3/4、Sox2、Klf4、Sall1、及びL−Mycを体細胞に導入する工程を含む上記の方法;下記の5種の遺伝子:Oct3/4、Sox2、Klf4、Sall4、及びL−Mycを体細胞に導入する工程を含む上記の方法;下記の5種の遺伝子:Oct3/4、Sox2、Klf4、Sall1、及びSall4を体細胞に導入する工程を含む上記の方法;及び下記の6種の遺伝子:Oct3/4、Sox2、Klf4、Sall1、Sall4、及びL−Mycを体細胞に導入する工程を含む上記の方法が提供される。
L−Mycを用いる場合には、体細胞がヒト体細胞であることが好ましい。
上記のいずれかの方法において、さらにLin28を体細胞に導入する工程を含む方法も本発明により提供され、好ましい態様としてOct3/4、Sox2、Klf4、L−Myc、及びLin28を体細胞に導入する工程を含む上記の方法が提供される。
この発明により提供される人工多能性幹細胞は、分化誘導後に得られる細胞や組織において腫瘍の発生が実質的に低減ないし排除されている。従って、さらに本発明により、分化誘導後に得られる細胞や組織において腫瘍の発生が実質的に低減ないし排除された人工多能性幹細胞を製造する方法であって、下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びSoxファミリー遺伝子、好ましくはOct3/4及びSox2と、下記の3種の遺伝子から選ばれる少なくとも1種の遺伝子:L−Myc、Sall1、及びSall4とを体細胞に導入する工程を含む方法が提供される。この方法において、さらにKlfファミリー遺伝子、例えばKlf4を体細胞に導入する工程を含む方法も好ましい態様であり、さらにKlfファミリー遺伝子とともに又はKlfファミリー遺伝子に換えてLin28を体細胞に導入する工程を含む方法も好ましい態様である。
さらに別の観点からは、本発明により、体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法であって、下記の6種の遺伝子:Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子、Mycファミリー遺伝子、Lin28、及びNanog、好ましくは下記の6種の遺伝子:Oct3/4、Klf4、Sox2、c−Myc、Lin28、及びNanogを体細胞に導入する工程を含む方法が提供される。この方法において、c−Mycに換えて下記の3種の遺伝子から選ばれる少なくとも1種の遺伝子:L−Myc、Sall1、及びSall4を用いることができ、この方法も好ましい態様である。
上記の各方法において、体細胞への上記遺伝子の導入を組換えベクターにより行うことができ、上記の各方法において定義される遺伝子の組み合わせから選ばれる少なくとも1種以上を含む組換えベクターを用いて体細胞に該遺伝子を導入することが好ましい。ベクターとしてはウイルスベクター又は非ウイルスベクターのいずれを用いてもよい。
さらに、上記の各発明において定義される遺伝子の組み合わせを含む核初期化因子が本発明により提供される。上記の組み合わせにさらにTERT遺伝子及び/又はSV40 Large T antigen遺伝子を組合わせることも好ましい。
また、上記の各発明において定義される遺伝子の遺伝子産物の組み合わせを含む核初期化因子も本発明により提供され、上記の各発明において定義される遺伝子の遺伝子産物の組み合わせを含む核初期化因子を体細胞に接触させる工程を含む方法も本発明により提供される。好ましい態様として、体細胞の培養物中に上記の核初期化因子を添加する工程を含む上記の方法も提供される。
上記の各発明において、体細胞がヒトを含む哺乳類動物、好ましくは霊長類の体細胞、より好ましくはヒトの体細胞である上記の方法;体細胞がヒト胎児細胞又は成人ヒト由来の体細胞である上記の方法;体細胞が患者から採取した体細胞である上記の方法が提供される。
別の観点からは、上記の方法により得ることができる人工多能性幹細胞が本発明により提供される。また、上記の方法により得ることができる人工多能性幹細胞から分化誘導された体細胞も本発明により提供される。分化誘導された体細胞の集団である組織、臓器、体液、及び個体も本発明により提供される。
さらに本発明により、幹細胞療法であって、患者から分離採取した体細胞を用いて上記の方法により得られた人工多能性幹細胞を分化誘導し、得られた体細胞又はその集団である組織、臓器、若しくは体液を該患者に移植する工程を含む療法が提供される。
さらに本発明により、上記の方法により得られた人工多能性幹細胞を分化誘導して得られる各種細胞を用いて、化合物、薬剤、毒物などの生理作用や毒性を評価する方法が提供される。
図1はヒト成人皮膚線維芽細胞(adult HDF)から誘導されたiPS細胞のアルカリフォスファターゼ染色結果を示した図である。マウスレトロウイルス受容体(Slc7a1)をレンチウイルス感染により発現させたadult HDF(HDFa−Slc7a1)に、左段に示した遺伝子をレトロウイルスベクターで導入した。「−」は、「Oct3/4、Sox2、Klf4、c−Myc」の4遺伝子を導入したHDFa−Slc7a1細胞での染色結果を示す。写真の最右段及び右から第二段目は、遺伝子導入から10日後に位相差で観察されたアルカリフォスファターゼ染色結果を示す。 図2は新生児包皮由来線維芽細胞(BJ)から誘導されたiPS細胞のアルカリフォスファターゼ染色結果を示した図である。マウスレトロウイルス受容体(Slc7a1)をレンチウイルス感染により発現させたBJ(BJ−Slc7a1)に対して左段に示した遺伝子をレトロウイルスベクターで導入した。写真の右から第二段目は、遺伝子導入から10日後に位相差で観察されたアルカリフォスファターゼ染色結果を示す。 図3はadult HDF由来のiPS細胞(クローンiPS−HDFaSlc−87E6)のABCG−2、SSEA−3、及びSSEA−4の発現に関する免疫染色解析の結果、及び陰性対照としての2次抗体のみ(マウスIgG又はラットIgM)の染色結果を示した図である。写真は位相差像及びローダミン・フィルターを介した位相差像(それぞれ対物×10)を示す。 図4はadult HDF由来のiPS細胞(クローンiPS−HDFaSlc−87E3、4、及び12)及びマウスSlc7a1遺伝子を発現するadult HDF(HDFa)のABCG−2、E−cadherin、SSEA−3、及びSSEA−4の発現についての免疫染色の結果を示した図である。写真は位相差像及びローダミン・フィルターを介した位相差像(それぞれ対物×10)を示す。 図5はadult HDF由来のiPS細胞(クローンiPS−HDFaSlc−87E1〜8、11及び12)、NTERA2クローンD1ヒト胚癌細胞(NTERA2)、及びマウスSlc7a1遺伝子を発現するadult HDF(HDF)から単離されたRNAを基に得られたcDNAにおける、OCT4、Sox2、Nanog、REX1、FGF4、GDF3、DPPA4、DPPA2、ESG1、hTERT、及びG3PDHの各領域のPCR増幅結果を示した図である。 図6はBJ由来のiPS細胞(クローンiPS−BJSlc−97G3、G5、H3、H5、E1〜10、E11、及びE12)、NTERA2クローンD1ヒト胚癌細胞(NTERA2)、及びマウスSlc7a1遺伝子を発現するBJ(BJ−Slc7a1)から単離されたRNAを基に得られたcDNAにおけるOCT4、Sox2、Nanog、REX1、FGF4、GDF3、ECAT15−1、ECAT15−2、ESG1、hTERT、及びG3PDHの各領域のPCR増幅結果を示した図である。 図7はクローンiPS−HDFaSlc−87E12を皮下注射し、5週間後のマウス及び該マウスから摘出された腫瘍を示した図(A)、並びにクローンiPS−HDFaSlc−87E3(B)、クローンiPS−HDFaSlc−87E6(C)、及びクローンiPS−HDFaSlc−87E12(D)のそれぞれを皮下注射したマウスから摘出された奇形腫由来組織のヘマトキシリン・エオジン染色結果を示した図である。 図8はヒトiPS細胞のin vitroでの分化を示した免疫染色の図である。ヒトiPS様細胞をHEMAコートプレート上で7日間培養し、さらにゼラチンでコートしたディッシュ上で7日間培養した後に、細胞を集めて固定液(10%フォルマリン含PBS)で固定した。細胞に抗−α−平滑筋アクチン抗体(a−smooth muscle actin)、抗−βIII−チューブリン抗体(bIII−tubulin)、及び抗−α−フェトプロテイン抗体(a−fetoprotein)を1次抗体として反応させ、さらに2次抗体を用いて免疫染色した。 図9はヒトHDFへのレトロウイルスの遺伝子導入効率の改善結果を示した図である。HDF又はマウスSlc7a1遺伝子を発現しているHDF(HDF−Slc7a1)にGFP cDNAを含むecotropic(Eco)又はamphotropic(Ampho)レトロウイルスを導入した。図の上部の写真は蛍光顕微鏡観察結果を示し(バーは100μmである)、図の下部のグラフはフローサイトメトリー結果を示す。 図10はadult HDFからのiPS細胞の誘導結果を示した図である。AはiPS細胞樹立のタイムチャートを示す。BはHDFの細胞形態画像、Cは非ES細胞様コロニーの典型的画像、DはヒトES細胞様コロニーの典型的画像、Eは樹立されたiPS細胞株の継代数6(クローン201B7)の細胞形態、Fは高い拡大率でのiPS細胞の画像、GはヒトiPS細胞コロニーの中心部の自発的に分化した細胞画像をそれぞれ示す。H〜Nは、それぞれSSEA−1(H)、SSEA−3(I)、SSEA−4(J)、TRA−1−60(K)、TRA−1−81(L)、TRA−2−49/6E(M)、及びNanog(N)の免疫組織染色による分析結果を示す。核はHoechst33342(青)により染色された。各画像におけるバーは、200μm(B〜E、G)、20μm(F)、及び100μm(H〜N)を示す。 図11はヒトiPS細胞のフィーダー細胞依存性を示した図である。Aはゼラチンコートされたプレート上に撒いたiPS細胞の画像を示す。Bはマトリゲルコートされたプレート上のMEF用の調整培地(MEF−CCM)中で培養したiPS細胞の画像を示す。Cはマトリゲルコートされたプレート上のヒトES用の非調整培地で培養したiPS細胞の画像を示す。 図12はヒトiPS細胞におけるヒトES細胞マーカー遺伝子の発現について、ES細胞マーカー遺伝子のRT−PCR解析結果を示した図である。RNAを単離した細胞は、iPS細胞クローン201B、ES細胞、NTERA2クローンD1ヒト胚癌細胞(NTERA2)、及びマウスSlc7a1遺伝子を発現するadult HDF(HDF)である。 図13はヒトiPS細胞におけるヒトES細胞マーカー遺伝子の発現について、ES細胞マーカー遺伝子のウェスタンブロット分析(A)及びレトロウイルス導入遺伝子の発現の定量的PCR結果(B)を示した図である。Bは3回の試験の平均値を示し、バーは標準偏差を示す。 図14はヒトiPS細胞におけるヒトES細胞マーカー遺伝子の発現について、Oct3/4,REX1及びNanogのプロモーター領域のバイサルファイトゲノミックシークエンスの結果(A)及びルシフェラーゼアッセイの結果(B)を示した図である。Aにおいて、白丸及び黒丸は、非メチル化及びメチル化CpGsを示す。Bは4回の試験の平均値を示し、バーは標準偏差を示す。 図15は高レベルのテロメラーゼ活性及びヒトiPS細胞の指数関数的増殖を示した図である。Aは熱処理により非活性化された(+)サンプルを陰性対照として使用したTRAP法によるテロメラーゼ活性の検出結果を示す(ICは内部対照)。BはiPS細胞の増殖曲線を示し、4回の試験の平均値及び標準偏差を示した。 図16はヒトiPS細胞の遺伝子分析結果を示した図である。Aは全てのクローンの染色体中に4種全てのレトロウイルスが組み込まれている結果を示すゲノムPCRの結果である。Bはc−Myc cDNAプローブを用いたサザンブロット分析の結果を示す。図中の星印は内因性c−Myc対立遺伝子(2.7kb)を示し、矢印はSNLフィーダー細胞に由来するマウスc−Myc対立遺伝子(9.8kb)を示す。 図17はヒトiPS細胞の胚様体を介した分化を示した図である。Aは8日目におけるiPS細胞の浮遊培養画像を示す。B〜Eは16日目の分化した細胞(B)、ニューロン様細胞(C)、上皮細胞(D)、及び敷石様細胞(E)の画像をそれぞれ示す。F〜Kは、α−フェトプロテイン(F)、ビメンチン(G)、α−平滑筋アクチン(H)、デスミン(I)、βIIIチューブリン(J)、及びGFAP(K)の免疫組織化学分析の結果をそれぞれ示す。図中のバーは、200μm(A、B)及び100μm(C〜K)を示す。F〜Kにおいて、核はHoechst33342(青)により染色した。Lは、3種の胚葉の様々な分化マーカーのRT−PCR分析結果を示す。 図18はヒトiPS細胞の方向付けされた分化を示した図である。Aは、PA6細胞上で18日間培養した後の分化したiPS細胞の位相差画像である。Bは、βIIIチューブリン(赤)及びチロシンヒドロキシダーゼ(緑)抗体によるAに示した細胞の免疫組織化学分析の結果を示す。核はHoechst33342(青)により染色した。Cは、ドーパミン作用性ニューロンマーカーのRT−PCR分析結果を示す。Dは心筋細胞へ分化したiPS細胞の位相差画像である。Eは心筋細胞マーカーのRT−PCR分析結果を示す。A、B、及びDの画像におけるバーは200μm(A、D)及び100μm(B)である。 図19はヒトiPS細胞から誘導された奇形腫を示した図である。iPS細胞から誘導された奇形腫由来組織のヘマトキシリン・エオジン染色画像を示す(クローン201B7を使用)。 図20は成人線維芽細胞様滑膜細胞(HFLS、クローン243H1)及び新生児包皮由来線維芽細胞(BJ、クローン246G1)から樹立されたヒトiPS細胞の位相差画像である。各画像において、バーは200μmを示す。 図21はHFLS及びBJに由来するiPS細胞中のES細胞マーカー遺伝子の発現を示した図である。 図22はHFLS及びBJから樹立されたiPS細胞から胚様体を介して分化した細胞を示す図である。α−平滑筋アクチン、βIIIチューブリン、α−フェトプロテインの発現を免疫染色により確認した。 図23はNanogレポーターマウス由来MEFからのiPS細胞の誘導におけるファミリー遺伝子及びc−Mycを除外した場合の効果を示す図である。Aは、ファミリー遺伝子を用いたNanog選択によるMEFからのiPS細胞の誘導結果を示す。グラフはGFP陽性コロニー数を示す。3回の独立した実験結果を異なる色(白、灰、及び黒)で示した。「4factors」は、Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc−Mycの組み合わせを示す。BはiPS細胞誘導におけるピューロマイシン選択のタイミングの影響を示しており、4遺伝子又はc−Mycを除いた3遺伝子の導入の28日後に観察されたGFP陽性コロニーを示す。Cは全コロニーに対するGFP陽性コロニーの百分率に対するピューロマイシン選択のタイミングの影響を示す。 図24はMyc、Klf、Soxのファミリータンパク質を用いてFbx15−レポーターマウス由来MEFから誘導されたiPS細胞に由来する奇形腫の組織像を示す図である。 図25はc−Myc以外の3つの遺伝子(Oct3/4,Sox2,Klf4)をレトロウイルスによりNanog−レポーターマウス由来MEFに導入し樹立したiPS細胞の特徴を示す図である。ES細胞マーカー遺伝子及び4遺伝子の発現レベルを示すRT−PCRの結果を示す。特異的なプライマーセットを用いることにより、全転写産物、内在性遺伝子からの転写産物(endo)、及びレトロウイルスからの転写産物(Tg)を4遺伝子について区別した。 図26はc−Myc以外の3つの遺伝子(Oct3/4,Sox2,Klf4)をレトロウイルスによりFbx15レポーターマウス由来MEFに導入し樹立したiPS細胞を誘導した結果、並びに導入したGFPの発現結果を示す図である。Aは、c−Myc以外の3つの遺伝子(Oct3/4,Sox2,Klf4)導入により樹立したiPS細胞の形態を示す。写真下のバーは500μmを示す。BはES、MEF、及びc−Myc以外の3つの遺伝子(Oct3/4,Sox2,Klf4)導入により樹立したiPS細胞におけるESマーカー遺伝子のRT−PCRによる分析結果を示す。 図27はc−Myc以外の3つの遺伝子(Oct3/4,Sox2,Klf4)導入により樹立したiPS細胞(クローン142B−6及び142B−12)に由来するキメラマウスを示す図である。 図28は薬剤選択なしでiPS細胞を効率的に単離した結果を示す図である。AはNanog−GFP−IRES−Puroレポーターを有するアダルトマウス由来のTTFから誘導したiPS細胞の形態画像である。細胞にDsRedとともに4遺伝子又はc−Mycを除いた3遺伝子のいずれかを導入し、薬剤選択なしで30日間培養した。Nanogレポーター(Nanog−GFP)及びDsRedレトロウイルス(Tg−DsRed)の発現は、蛍光顕微鏡によって確認した。バーは500μmを示す。Bは実際に活性なプロモーター(ACTB、β−アクチン遺伝子)により調節されるDsRed導入遺伝子を含むが、Nanog又はFbx15選択カセットを欠いているアダルトマウス由来TTFから誘導したiPS細胞の形態画像を示す。細胞はGFPとともに4遺伝子又はc−Mycを除いた3遺伝子のいずれかを導入し、薬剤選択なしで30日間培養した。GFPレトロウイルス(Tg−GFP)の発現は、蛍光顕微鏡によって確認した。バーは500μmを示す。Cは薬剤選択なしでTTFから誘導したiPS細胞及びES細胞におけるESマーカー遺伝子のRT−PCRによる分析結果を示す。Dは薬剤選択又はc−Mycレトロウイルスを用いずにアダルトのTTFから誘導したiPS細胞に由来するキメラマウス画像である。 図29はc−Myc以外の3つの遺伝子(Oct3/4,Sox2,Klf4)導入によりヒトiPS細胞を誘導した結果を示す図である。Aは樹立されたヒトiPS細胞(クローン253G及び246H)がヒトES細胞様形態を呈することを示す画像である。Bはc−Myc以外の3つの遺伝子(Oct3/4,Sox2,Klf4)導入により樹立したiPS細胞(253G)、又はc−Mycを含む4つの遺伝子(Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc)導入により樹立したiPS細胞(253F)を用いて樹立されたHDFに由来するヒトiPS細胞におけるES細胞マーカー遺伝子の発現結果を示す。 図30はc−Myc以外の3つの遺伝子(Oct3/4,Sox2,Klf4)を成人線維芽細胞(HDL;253G)及び新生児包皮由来繊維芽細胞(BJ;246G)導入により樹立されたヒトiPS細胞から胚様体を介して分化を誘導させた図である。α−平滑筋アクチン、βIIIチューブリン、α−フェトプロテインの発現を免疫染色により確認した。 図31は293FT細胞に6遺伝子(Klf4、c−Myc、Oct3/4、Sox2、Nanog、及びLin28)、又は4遺伝子の2つの異なる組み合わせ(Y4Fで表されるKlf4、c−Myc、Oct3/4、及びSox2;並びにT4Fで表されるOct3/4、Sox2、Nanog、及びLin28)を導入した後確認されるコロニーの数をグラフで示した図である。“ES−like”はES細胞のコロニーと形態的に類似したコロニーの数を示し、“total”はES様コロニーと非ES様コロニーの数の総数を示す。Exp#1、Exp#2、Exp#3、及びExp#4は、それぞれ個別に実験を行った結果を示す。縦軸はコロニー数を示す。 図32はマウス胚性線維芽細胞(MEF)を用いて行った実験結果を示す。Aは実験のタイムチャートを示す。Nanog GFPtg/−Fbx15−/−マウスから得られた1.0x10個のMEF細胞を、ゼラチンコートした6ウェルプレートに撒いた。翌日、4遺伝子(Oct3/4、Klf4、Sox2、及びSall4;OSKA)又は3遺伝子(Oct3/4、Klf4、及びSox2;OSK)をMEFにレトロウイルスを用いて導入した。感染から4日後に細胞をマイトマイシンC処理STO細胞で被覆した6ウェルプレート上に1:2又は1:6の割合で再び撒いた。薬剤選択は14日目又は21日目に開始した。28日目にGFP陽性細胞をカウントし、細胞をアルカリフォスファターゼ(AP)及びクリスタルバイオレット(CV)で染色した。Bは3つの独立した実験(#1、2、及び3)におけるGFP陽性コロニー数の総数を示す。Cは3つの独立した実験(#1、2、及び3)におけるGFP陽性コロニーの百分率を示す。 図33はヒト成人皮膚由来線維芽細胞(adult HDF)を用いて行った実験結果を示す。マウスレトロウイルス受容体slc7aを発現する1.0x10個のadult HDF細胞を6ウェルプレートに撒いた。翌日、図に示す各種遺伝子の組み合わせをレトロウイルスベクターにより細胞に導入した。感染の6日後に細胞を5.0x10個に調整し、この細胞を1.5x10個のマイトマイシンC処理STO細胞で被覆した100mmプレート上に再び播いた。7日後に培地を4ng/ml bFGFを補充した霊長類用ES細胞培地に交換した。図は感染から30日後のコロニー数を示す。 図34はマウスレトロウイルス受容体Slc7aを発現したヒト成人皮膚由来線維芽細胞(HDF)にヒト由来の4遺伝子(Y4F:Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc−Myc)又は3遺伝子(Y3F:Oct3/4、Sox2、及びKlf4)と、マウスSall4(mSall4)若しくはマウスSall1(mSall1)又はその両方についてレトロウイルスベクターを用いて導入し、感染後32日目(左側のバー)及び40日目(右側のバー)に確認されたコロニーの数を示した図である。「+Mock」は、Y3F又はY4Fに換えて空ベクターであるレトロウイルスを感染させた群、「+mSall4」はY3F又はY4Fと同時にSall4を導入した群、「+mSall1」はY3F又はY4Fと同時にmSall1を導入した群、「+mSall4+mSall1」はY3F又はY4Fと同時にmSall4及びmSall1の両方を同時に導入した群を示す。縦軸は10cmシャーレ上に確認されたヒトiPS細胞のコロニー数を示す。同じ実験を3回繰り返してグラフのバー上に各実験のコロニー数の総数を示した。 図35はマウスレトロウイルス受容体Slc7aを発現したヒト成人皮膚由来線維芽細胞(HDF)にヒト由来の4遺伝子(T4F:Oct3/4、Sox2、Nanog、及びLin28)又は3遺伝子(T3F:Oct3/4、Sox2、及びNanog)と、マウスSall4(mSall4)若しくはマウスSall1(mSall1)又はその両方をレトロウイルスベクターを用いて導入し、感染後32日目(左側のバー)及び40日目(右側のバー)に確認されたコロニーの数を示した図である。「+Mock」はT3F又はT4Fに換えて空ベクターであるレトロウイルスを感染させた群、「+mSall4」はT3F又はT4Fと同時にmSall4を導入した群、「+mSall1」はT3F又はT4Fと同時にmSall1を導入した群、「+mSall4+mSall1」はT3F又はT4Fと同時にmSall4及びmSall1の両方を同時に導入した群を示す。縦軸は10cmシャーレ上に確認されたヒトiPS細胞のコロニー数を示す。同じ実験を2回繰り返してグラフのバー上に各実験のコロニー数の総数を示した。 図36はマウスレトロウイルス受容体Slc7aを発現したヒト成人皮膚由来線維芽細胞(HDF)にヒト由来の4遺伝子(Y4F)又は3遺伝子(Y3F)とヒトSall4(hSall4)とをレトロウイルスベクターを用いて導入し、感染性32日目(左側のバー)及び40日目(右側のバー)に確認されたコロニーの数を示した図である。「+Mock」は、Y3F又はY4Fに換えて空ベクターであるレトロウイルスを感染させた群、「+hSall4」はY3F又はY4Fと同時にhSall4を導入した群を示す。縦軸は10cmシャーレ上に確認されたヒトiPS細胞のコロニー数を示す。同じ実験を2回又は3回繰り返してグラフのバー上に各実験のコロニー数の総数を示した。 図37はOct3/4、Klf4、及びSox2の3遺伝子に、c−Myc、L−Myc、又はN−Myc遺伝子を加えた計4遺伝子をレンチウイルスベクターを用いてマウスレトロウイルス受容体Slc7aを発現したヒト成人皮膚由来線維芽細胞(HDFa−Slc7a1)に導入し、樹立したヒトiPS細胞のコロニー数をカウントした結果を示したグラフである。各グラフ上の数値はコロニーの総数に対するiPS細胞のコロニー数の割合を示す。 図38は4遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4,L−Myc)をレンチウイルスベクターを用いてマウスレトロウイルス受容体Slc7aを発現したヒト成人皮膚由来線維芽細胞(HDFa−Slc7a1)に導入して樹立したヒトiPS細胞(32R2,32R6)が、三胚葉系への分化能を有することをα−平滑筋アクチン、αフェトプロテイン、及びβIII−チューブリン抗体を用いた免疫染色により確認した結果を示す写真である。 図39は4遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、及びL−Myc)を導入して樹立したヒトiPS細胞(32R6)をSCIDマウスの精巣内に注射して得られた奇形腫の組織染色像(ヘマトキシリン・エオジン染色)である。上段は左から神経組織、腸管様組織、及び軟骨組織の組織像を示す。下段は左から毛髪組織、脂肪組織、及び色素組織の組織像を示す。 図40は3遺伝子(Oct3/4、Klf4、及びL−Myc)をレトロウイルスベクターを用いてNanogレポーターマウス由来MEF(MEF−Ng)に導入して得られたGFP陽性コロニー(iPS−MEF−Ng−443−3)の形態を示す写真である。上段はGFP陽性コロニー像、下段は位相差像である。 図41は図40で示したGFP陽性コロニー(iPS−MEF−Ng−443−3)由来のクローンについてRT−PCR及びGenomic PCRを行った結果を示した写真である。図中、「Total」は内在性及びレトロウイルス由来の遺伝子発現を示し、「Tg」はレトロウイルス由来の遺伝子発現を示し、「Genome」はゲノムDNA中に挿入されたレトロウイルス由来の遺伝子の存在を各遺伝子に特異的なプライマーで検出した結果を示す。写真右側の数字はPCRのサイクル数を示す。図中、「RF8」はコントロールであるES細胞、「20D17」はMEF−Ngに4遺伝子(Oct3/4、Klf4、L−Myc、及びSox2)を導入して得られたiPS細胞(Nanog−iPS細胞;Nature,448,pp.313−317,2007)、「142E−9」はMEF−Fbxに4遺伝子(Oct3/4、Klf4、L−Myc、及びSox2)を導入して得られたiPS細胞(Fbx−iPS)を示し、これらの細胞について同様の実験を行った結果を示す。図中、「Plasmid」は各遺伝子を含むプラスミド(pMXs−Sox2、pMXs−Oct3/4、pMXs−Klf4、pMXs−c−Myc、及びpMXs−L−Myc)を用いた結果を示す。 図42は3遺伝子(Oct3/4、Klf4、及びL−Myc)を導入して樹立したマウスiPS細胞(443−3−3、443−3−6、443−3−12、及び443−3−13)が三胚葉系への分化能を有することを抗α−平滑筋アクチン抗体、抗α−フェトプロテイン抗体、及び抗βIII−チューブリン抗体抗体を用いた染色により確認した結果を示した写真である。RF8はコントロールのマウスES細胞である。 図43は3遺伝子(Oct3/4、Klf4、及びL−Myc)を導入して樹立したマウスiPS細胞(443−3−3、443−3−6、443−3−12、及び443−3−13)をヌードマウスの皮下に注射して得られた奇形腫の組織染色像(ヘマトキシリン・エオジン染色)である。上から神経組織、腸管様組織、筋肉組織、表皮組織、及び軟骨組織の組織像を示す。 図44はOct3/4、Klf4、及びSox2の3遺伝子にc−Myc、L−Myc、及び/又はLin28遺伝子をレンチウイルスベクターーを用いてマウスレトロウイルス受容体Slc7aを発現したヒト成人皮膚由来線維芽細胞(HDFa−Slc7a1)に導入して樹立したヒトiPS細胞のコロニー数をカウントした結果を示したグラフである。黒棒は全コロニー数を示し、白棒はiPS細胞コロニー数を示す。 図45は各種Mycキメラ遺伝子及び変異遺伝子の構造を模式的に示した図である。Ms−c−Mycの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号153及び154に示し、Ms−L−Mycの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号155及び156に示し、Ms−cL−Mycの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号157及び158に示し、Ms−Lc−Mycの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号159及び160に示し、Ms−cLc−Mycの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号161及び162に示し、Ms−LcL−Mycの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号163及び164に示し、Ms−ccL−Mycの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号165及び166に示し、Ms−cLL−Mycの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号167及び168に示し、Ms−LLc−Mycの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号169及び170に示し、Ms−Lcc−Mycの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号171及び172に示し、c−MycW135Eの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号173及び174に示し、c−MycV394Dの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号175及び176に示し、c−MycL420Pの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号177及び178に示し、L−MycW96Eの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号179及び180に示し、L−MycV325Dの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号181及び182に示し、L−MycL351Pの塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号183及び184に示す。 図46は各種Mycキメラ遺伝子及び変異遺伝子をレンチウイルスベクターを用いてマウスレトロウイルス受容体Slc7aを発現したヒト成人皮膚由来線維芽細胞(HDFa−Slc7a1)に導入して樹立したヒトiPS細胞のコロニー数をカウントした結果を示したグラフである。上から、iPS細胞コロニー数、全コロニー数、及びiPS細胞コロニー数の全コロニー数に対する割合(%)をそれぞれ示す。
第一の観点から提供される本発明の方法は、体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法であって、下記の3種の遺伝子:Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、及びSoxファミリー遺伝子を体細胞に導入する工程を含むことを特徴としており、上記方法の好ましい態様では、下記の3種の遺伝子:Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、及びSoxファミリー遺伝子を体細胞に導入した後、該細胞が多能性を獲得して増殖するのに十分な時間にわたり該細胞を培養する工程を含んでいる。
Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、及びSoxファミリー遺伝子については国際公開WO2007/69666にファミリー遺伝子の具体例が示されている。Octファミリー遺伝子としてはOct3/4が好ましく、Klfファミリー遺伝子としてはKlf4が好ましく、Soxファミリー遺伝子としてはSox2が好ましい。これらの遺伝子としては、野生型の遺伝子のほか、数個(例えば1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1又は2個)の塩基が置換、挿入、及び/又は欠失した変異遺伝子や、ファミリー遺伝子の適宜の組み合わせにより得られるキメラ遺伝子であって、野生型の遺伝子と同様の機能、又は改善された機能を有する遺伝子なども利用可能である。
第二の観点から提供される本発明の方法は、体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法であって、下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びSoxファミリー遺伝子の組み合わせ又は下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びKlfファミリー遺伝子の組み合わせと、下記の3種の遺伝子から選ばれる少なくとも1種の遺伝子:L−Myc、Sall1、及びSall4とを体細胞に導入する工程を含むことを特徴としている。いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、L−Myc、Sall1、及びSall4からなる群から選ばれる遺伝子は核初期化の効率を高める作用を有する核初期化因子であり、核初期化のために不可欠な核初期化因子(例えばOctファミリー遺伝子及びSoxファミリー遺伝子の組み合わせ、又はOctファミリー遺伝子及びKlfファミリー遺伝子の組み合わせなど)と組合わせて用いることにより、核初期化の効率を顕著に改善することができる。
より具体的には、上記の方法は、
(a)下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びSoxファミリー遺伝子の組み合わせ、並びにL−Mycを体細胞に導入する工程;
(b)下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びSoxファミリー遺伝子の組み合わせ、並びにSall1を体細胞に導入する工程;
(c)下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びSoxファミリー遺伝子の組み合わせ、並びにSall4を体細胞に導入する工程;
(d)下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びSoxファミリー遺伝子の組み合わせ、並びにL−Myc及びSall1を体細胞に導入する工程;
(e)下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びSoxファミリー遺伝子の組み合わせ、並びにL−Myc及びSall4を体細胞に導入する工程;
(f)下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びSoxファミリー遺伝子の組み合わせ、並びにSall1及びSall4を体細胞に導入する工程;
(g)下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びSoxファミリー遺伝子の組み合わせ、並びにL−Myc、Sall1、及びSall4を体細胞に導入する工程;
(h)下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びKlfファミリー遺伝子の組み合わせ、並びにL−Mycを体細胞に導入する工程;
(i)下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びKlfファミリー遺伝子の組み合わせ、並びにSall1を体細胞に導入する工程;
(j)下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びKlfファミリー遺伝子の組み合わせ、並びにSall4を体細胞に導入する工程;
(k)下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びKlfファミリー遺伝子の組み合わせ、並びにL−Myc及びSall1を体細胞に導入する工程;
(l)下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びKlfファミリー遺伝子の組み合わせ、並びにL−Myc及びSall4を体細胞に導入する工程;
(m)下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びKlfファミリー遺伝子の組み合わせ、並びにSall1及びSall4を体細胞に導入する工程;又は
(o)下記の2種の遺伝子:Octファミリー遺伝子及びKlfファミリー遺伝子の組み合わせ、並びにL−Myc、Sall1、及びSall4を体細胞に導入する工程;
を含んでいる。
また、上記の(a)ないし(g)のいずれかの態様において、さらにKlfファミリー遺伝子を体細胞に導入する工程を含んでいてもよい。さらに上記の(a)ないし(o)のいずれかの態様、または上記の(a)ないし(g)のいずれかの態様にKlfファミリー遺伝子を加えた態様において、Linファミリー遺伝子及び/又はNanog、好ましくはLin28及び/又はNanog、より好ましくはLin28を体細胞に導入する工程を含んでいてもよい。さらに、所望によりc−Mycを体細胞に導入する工程を含んでいてもよい。
Octファミリー遺伝子としてはOct3/4が好ましく、Soxファミリー遺伝子としてはSox2が好ましく、Klfファミリー遺伝子としてはKlf4が好ましい。またLinファミリー遺伝子としてはLin28およびLin28bが知られているが、Lin28が好ましい。L−Mycについては国際公開WO2007/69666の表1に記載されており、Sall4については同国際公開の表4及び表5に記載されている。Sall1はES細胞特異的発現遺伝子であり、かつzincフィンガー蛋白の一つとして知られており、腎臓の発生に関与していると考えられている。Sall1のNCBIアクセッション番号はNM_021390(マウス)及びNM_002968(ヒト)である。またLin28のNCBIアクセッション番号はNM_145833(マウス)及びNM_024674(ヒト)である。
これらの遺伝子としては、野生型の遺伝子のほか、数個(例えば1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1又は2個)の塩基が置換、挿入、及び/又は欠失した変異遺伝子や、ファミリー遺伝子の適宜の組み合わせにより得られるキメラ遺伝子であって、野生型の遺伝子と同様の機能、又は改善された機能を有する遺伝子なども利用可能である。
例えば、L−Myc又はc−Mycとしては野生型の遺伝子のほか、数個(例えば1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1又は2個)の塩基が置換、挿入、及び/又は欠失した変異遺伝子、又はキメラMyc遺伝子であって、野生型の遺伝子と同様か、又は改善された機能を有する遺伝子も利用可能である。Myc遺伝子について各種のMycキメラ遺伝子及びMyc点変異遺伝子の機能を具体的に解析する手法及び結果が明細書の実施例に具体的に示されているので、この解析手法を用いることにより、所望の改善された機能を有する変異c−Myc遺伝子、変異L−Myc遺伝子、又はキメラMyc遺伝子などを容易に選択して使用することができる。当該キメラMyc遺伝子の好ましい例としては、Ms−cL−Myc(配列番号:157及び158)及びMs−cLc−Myc(配列番号:161及び162)が挙げられ、より好ましくはMs−cL−Mycが挙げられる。
この方法の好ましい態様としては、上記の方法において
(a−1)Oct3/4、Sox2、及びL−Mycを体細胞に導入する工程;
(a−2)Oct3/4、Sox2、Klf4、及びL−Mycを体細胞に導入する工程;
(b−1)Oct3/4、Sox2、及びSall1を体細胞に導入する工程;
(b−2)Oct3/4、Sox2、Klf4、及びSall1を体細胞に導入する工程;
(c−1)Oct3/4、Sox2、及びSall4を体細胞に導入する工程;
(c−2)Oct3/4、Sox2、Klf4、及びSall4を体細胞に導入する工程;
(d−1)Oct3/4、Sox2、L−Myc、及びSall1を体細胞に導入する工程;
(d−2)Oct3/4、Sox2、Klf4、L−Myc、及びSall1を体細胞に導入する工程;
(e−1)Oct3/4、Sox2、L−Myc、及びSall4を体細胞に導入する工程;
(e−2)Oct3/4、Sox2、Klf4、L−Myc、及びSall4を体細胞に導入する工程;
(f−1)Oct3/4、Sox2、Sall1、及びSall4を体細胞に導入する工程;
(f−2)Oct3/4、Sox2、Klf4、Sall1、及びSall4を体細胞に導入する工程;
(g−1)Oct3/4、Sox2、L−Myc、Sall1、及びSall4を体細胞に導入する工程;
(g−2)Oct3/4、Sox2、Klf4、L−Myc、Sall1、及びSall4を体細胞に導入する工程;
(h−1)Oct3/4、Klf4、及びL−Mycを体細胞に導入する工程;
(i−1)Oct3/4、Klf4、及びSall1を体細胞に導入する工程;
(j−1)Oct3/4、Klf4、及びSall4を体細胞に導入する工程;
(k−1)Oct3/4、Klf4、L−Myc、及びSall1を体細胞に導入する工程;
(l−1)Oct3/4、Klf4、L−Myc、及びSall4を体細胞に導入する工程;
(m−1)Oct3/4、Klf4、Sall1、及びSall4を体細胞に導入する工程;又は
(o−1)Oct3/4、Klf4、L−Myc、Sall1、及びSall4を体細胞に導入する工程
を含む方法を挙げることができる。
さらに、上記の方法において
(a−3)Oct3/4、Sox2、L−Myc、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(a−4)Oct3/4、Sox2、Klf4、L−Myc、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(b−3)Oct3/4、Sox2、Sall1、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(b−4)Oct3/4、Sox2、Klf4、Sall1、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(c−3)Oct3/4、Sox2、Sall4、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(c−4)Oct3/4、Sox2、Klf4、Sall4、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(d−3)Oct3/4、Sox2、L−Myc、Sall1、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(d−4)Oct3/4、Sox2、Klf4、L−Myc、Sall1、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(e−3)Oct3/4、Sox2、L−Myc、Sall4、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(e−4)Oct3/4、Sox2、Klf4、L−Myc、Sall4、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(f−3)Oct3/4、Sox2、Sall1、Sall4、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(f−4)Oct3/4、Sox2、Klf4、Sall1、Sall4、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(g−3)Oct3/4、Sox2、L−Myc、Sall1、Sall4、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(g−4)Oct3/4、Sox2、Klf4、L−Myc、Sall1、Sall4、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(h−2)Oct3/4、Klf4、L−Myc、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(i−2)Oct3/4、Klf4、Sall1、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(j−2)Oct3/4、Klf4、Sall4、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(k−2)Oct3/4、Klf4、L−Myc、Sall1、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(l−2)Oct3/4、Klf4、L−Myc、Sall4、及びLin28を体細胞に導入する工程;
(m−2)Oct3/4、Klf4、Sall1、Sall4、及びLin28を体細胞に導入する工程;又は
(o−2)Oct3/4、Klf4、L−Myc、Sall1、Sall4、及びLin28を体細胞に導入する工程
を含む方法も好ましい。
上記の各方法において、Lin28とともに、又はLin28に換えてNanogを体細胞に導入する工程を含む方法も好ましい。例えば、上記(a−4)の態様において、Lin28とともにNanogを用いる態様、すなわちOct3/4、Sox2、Klf4、L−Myc、Lin28、及びNanogを体細胞に導入する工程を含む方法などが例示される。
また、上記の各方法において、L−Mycとともに、又はL−Mycに換えてN−Mycを体細胞に導入する工程を含んでいてもよい。
さらに、上記の各方法において、必要に応じてc−Mycを体細胞に導入する工程を含んでいてもよいが、分化誘導後に得られる細胞や組織において腫瘍の発生を実質的に低減ないし排除するためにはc−Mycを体細胞に導入する工程を含まないほうが好ましい場合がある。
L−Mycを含む態様については、核初期化すべき体細胞としてヒト体細胞を用いることが好ましい。また、Oct3/4、Sox2、及びKlf4の組み合わせ、又はOct3/4、Sox2、Klf4、及びL−Myc(又はL−Mycに換えてc−Myc)の組み合わせを含む場合には、Sall4をさらに組合わせる場合、又はSall1及びSall4の両方をさらに組合わせる場合が好ましい。さらに、Oct3/4、Sox2、Nanog、及びLin28の組み合わせを含む場合には、Sall1をさらに組合わせる場合、又はSall1及びSall4の両方をさらに組合わせる場合が好ましい。これらの場合についても核初期化すべき体細胞としてヒト体細胞を用いることが好ましい。
第三の観点から提供される本発明の方法は、体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法であって、下記の6種の遺伝子:Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子、Mycファミリー遺伝子、Lin28、及びNanogを体細胞に導入する工程を含むことを特徴としており、好ましくは下記の6種の遺伝子:Oct3/4、Klf4、Sox2、c−Myc、Lin28、及びNanogを体細胞に導入する工程を含んでいる。
上記の第一ないし第三の観点から提供される本発明の各方法において、「人工多能性幹細胞」とはES細胞に近い性質を有する細胞のことであり、より具体的には、未分化細胞であって多能性及び増殖能を有する細胞を包含するが、この用語をいかなる意味においても限定的に解釈してはならず、最も広義に解釈する必要がある。核初期化因子を用いて人工多能性幹細胞を調製する方法については国際公開WO2007/69666、Cell,126,pp.663−676,2006及びCell,131,pp.861−872,2007に具体的に説明されており、人工多能性幹細胞の分離手段についても上記公報に具体的に説明されている。
本発明の方法により初期化すべき「体細胞」とは、ES細胞等の分化全能性細胞を除く全ての細胞を意味し、その種類は特に限定されない。例えば、胎児期の体細胞のほか、成熟した体細胞を用いてもよい。好ましくはヒトを含む哺乳類動物由来の体細胞が用いられ、より好ましくはマウス由来の体細胞や霊長類由来の体細胞が用いられる。特に好ましくはヒト由来の体細胞を用いることができる。体細胞としては、具体的には(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、又は(3)リンパ球、上皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝臓細胞、胃粘膜細胞等の分化した細胞が挙げられる。人工多能性幹細胞を疾病の治療に用いる場合には、患者自身から分離した体細胞や、HLA抗原の型が同一である他人から分離した体細胞を用いることが望ましく、例えば、疾病に関与する体細胞や疾病治療に関与する体細胞などを用いることができる。
上記遺伝子を体細胞に導入する方法は特に限定されないが、例えば、上記遺伝子を発現可能なベクターを用いることが一般的である。ベクターとしてレトロウイルスベクターを用いる具体的手段が国際公開WO2007/69666、Cell,126,pp.663−676,2006及びCell,131,pp.861−872,2007に開示されており、ベクターとしてレンチウイルスベクターを用いる場合についてはScience,318,pp.1917−1920,2007に開示がある。また、非ウイルスベクターであるプラスミドを用いる場合については沖田らの論文(Science,Published online:October 9,2008;10.1126/science.1164270)に記載されているので、当業者はこれらのなかから適宜の手段を選択して採用することができる。ベクターを用いる場合には、ベクターに上記の遺伝子から選ばれる2種以上の遺伝子を組み込んでもよいが、1種類の遺伝子を組み込んだベクターを数種類用いてもよい。初期化すべき体細胞において上記の遺伝子のうちの1種又は2種がすでに発現している場合には、導入すべき上記の遺伝子の組み合わせから発現している1種又は2種の遺伝子を除くこともできるが、このような態様が本発明の範囲に包含されることは言うまでもない。
上記遺伝子を体細胞に導入する手段としてウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクターを用いる場合には、導入すべきそれぞれの遺伝子を含むウイルスベクターを調製した後、各ウイルスベクターを別々のパッケージング細胞にトランスフェクトして該細胞を培養することにより各ウイルスを含む培養上清をそれぞれ独立に調製し、それらの培養上清の混合物を調製して遺伝子を含むウイルスを感染させることによる遺伝子導入に用いることが好ましい。この手段を採用することにより、遺伝子導入効率を顕著に高めることができる場合があり、特にc−Mycを用いずに核初期化を行う場合に好ましい場合がある。もっとも、複数のウイルスベクターを単一のパッケージング細胞にトランスフェクトし、複数のウイルスベクターを含む培養上清を調製して遺伝子導入に用いることも可能である。
遺伝子を体細胞に導入する場合には、フィーダー細胞上に培養された体細胞に対して発現ベクターの導入を行ってもよいが、フィーダー細胞を使用することなく体細胞に発現ベクター導入を行ってもよい。発現ベクターの導入効率を高めるために後者の方法が適している場合がある。フィーダー細胞としては胚性幹細胞の培養に用いられるフィーダー細胞を適宜使用することができるが、例えば、マウス14〜15日胚の線維芽細胞初代培養細胞や線維芽細胞由来細胞株であるSTO細胞等をマイトマイシンCなどの薬剤で処理した細胞や放射線処理した細胞などを用いることができる。遺伝子導入後の体細胞の培養はフィーダー細胞上で行うことが好ましい。また、遺伝子導入後、数日ないし30日程度の間にピューロマイシンなどを用いて薬剤選択を付加することもできる。もっとも、薬剤選択を行わずにiPS細胞を誘導できる手法も知られており(国際公開WO2007/69666の例9など)、薬剤選択を行わずにiPS細胞を誘導することも好ましい。
核初期化因子を導入した体細胞を適宜の条件下で培養することにより自律的に核初期化が進行し、体細胞から人工多能性幹細胞を製造することができる。遺伝子を体細胞に導入した後、該細胞が多能性を獲得して増殖するのに十分な時間にわたり細胞を培養することが好ましい。ヒト人工多能性幹細胞を製造する場合には、発現ベクター導入後の細胞の培養密度を通常の動物細胞培養の場合よりも低く設定することが望ましい。例えば、細胞培養用ディッシュあたり1〜10万個、好ましくは5万個程度の細胞密度で培養を継続することが好ましい。
通常は体細胞の動物種に適した培地、例えば胚性幹細胞(ES細胞)用の培地(例えばヒト体細胞に遺伝子導入する場合には霊長類ES細胞用、好ましくはヒトES細胞用の培地)を用いて、例えば25日以上培養することにより人工多能性幹細胞を得ることができる。第一の観点から提供される方法では、c−Myc、L−Myc、N−Myc、Sall1、又はSall4の1種又は2種以上を含む組み合わせを用いて核初期化を行う場合に比べて、核初期化の効率が低下する場合があり、一般的には長期間の培養が必要になることが多い。例えば、この方法においては、好ましくは28日以上、より好ましくは30日以上、さらに好ましくは33日以上、特に好ましくは35日以上培養を継続する必要がある。特にヒト体細胞に遺伝子導入する場合には40日以上、さらには45日以上の培養日数が至適な培養日数になる場合もある。もっとも、第一の観点から提供される方法によれば、バックグラウンドとなる夾雑細胞の混入を排除して、より純粋な細胞集団としての人工多能性幹細胞コロニーを取得することができ、遺伝子発現や分化能などの点で極めて高品質な人工多能性幹細胞を得ることが可能になる。一方、第二の観点及び第三の観点から提供される本発明の方法では、一般的には人工多能性幹細胞の生成効率が十分に高いことから、より短い培養日数、例えば15日ないし30日間、好ましくは20日程度の培養期間で所望の個数の人工多能性幹細胞を取得できる場合がある。
遺伝子導入した細胞が多能性を獲得したことは、例えば未分化細胞に特有の各種マーカー、例えばアルカリフォスファターゼ(ALP)、SSEA−3、SSEA−4、ABCG−2、及びE−cadherinなどを検出することにより容易に判定することができる。マーカーの種類や判定手段については上記刊行物(例えばCell,126,pp.663−676,2006、Cell,131,pp.861−872,2007など)に具体的かつ詳細に説明されている。ES細胞特異的発現遺伝子のプロモーター下流にGFPなどのマーカー遺伝子を組み込んだ遺伝子を有する体細胞を用いて核初期化を行った場合は、マーカー(GFP)陽性を指標として人工多能性幹細胞を特定することが可能である。
また、増殖については一般的にはコロニー形成により判定することができるが、コロニー(通常は約500個〜1,000個程度の人工多能性幹細胞からなる細胞集団である)の形状は動物種により特徴的な外観を呈することが知られているので、人工多能性幹細胞が増殖して形成したコロニーを容易に特定することができる。
例えば、マウス人工多能性幹細胞は盛り上がったコロニーを形成するのに対して、ヒト人工多能性幹細胞は扁平なコロニーを形成することが知られており、これらのコロニー形状はそれぞれマウスES細胞及びヒトES細胞のコロニーと極めて類似しているので、当業者は生成した人工多能性幹細胞のコロニーを検出することにより人工多能性幹細胞の増殖程度を確認することができる。ES細胞の未分化性及び多能性を維持可能な培地又はその性質を維持することができない培地は当業界で種々知られており、適宜の培地を組み合わせて用いることにより、人工多能性幹細胞を効率よく分離することができる。分離された人工多能性幹細胞の分化能及び増殖能はES細胞について汎用されている確認手段を利用することにより当業者が容易に確認可能である。
上記の方法において、必要に応じて遺伝子導入をサイトカインの非存在下又は存在下に行うことができ、好ましくはサイトカインの非存在下に行うことができる。また、上記の方法において、必要に応じて遺伝子導入後の体細胞の培養をサイトカインの非存在下又は存在下に行うことができる。サイトカインとしては典型的にはbasic fibroblast growth factor(bFGF)、Stem Cell Factor(SCF)、Leukemia Inhibitory Factor(LIF)などが挙げられるが、これらに限定されることはなく、当業界でサイトカインとして分類されている生理活性物質の存在下又は非存在下で遺伝子導入及び/又は培養を行うことができる。サイトカインを発現するように改変したフィーダー細胞上で遺伝子導入後の体細胞を培養することもできる。
上記の方法において、上記遺伝子に換えて上記遺伝子がコードする遺伝子産物を用いて核初期化を行うこともできる。遺伝子産物である核初期化因子を用いて上記の方法を行う場合には、体細胞及び人工多能性幹細胞が増殖可能な環境において核初期化因子と体細胞とを接触させればよい。より具体的には、例えば、上記の遺伝子産物を培地中に添加するなどの手段を採用することができる。これらの遺伝子の遺伝子産物のうちの1種又は2種を融合タンパク質や核内へのマイクロインジェクションなどの手法により核内に導入し、残りの1種又は2種の遺伝子を適宜の遺伝子導入方法、例えば組換えベクターを用いる方法などによって導入することもできる。
該遺伝子産物としては、例えば上記遺伝子から産生されるタンパク質自体のほか、該タンパク質とその他のタンパク質又はペプチドなどとの融合遺伝子産物の形態であってもよい。例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質やヒスチジンタグなどのペプチドとの融合遺伝子産物を用いることもできる。また、HIVウイルスに由来するTATペプチドとの融合タンパク質を調製して用いることにより、細胞膜からの核初期化因子の細胞内取り込みを促進させることができ、遺伝子導入などの煩雑な操作を回避して、融合タンパク質を培地に添加するだけで初期化を誘導することが可能になる。このような融合遺伝子産物の調製方法は当業者によく知られているので、当業者は目的に応じて適宜の融合遺伝子産物を容易に設計して調製することが可能である。
上記の各方法において、1種又は2種以上の遺伝子の体細胞への導入を体細胞への低分子化合物の接触で置き換えることができる場合もある。このような低分子化合物としては、例えばOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子、Mycファミリー遺伝子、Linファミリー遺伝子、Sall1、Sall4、及びNanog遺伝子からなる群から選ばれる1種以上の遺伝子の発現を促進する作用を有する低分子化合物を用いることができるが、このような低分子化合物は各遺伝子の発現量を指標として当業者が容易にスクリーニングすることができる。
上記の方法において、定義された各遺伝子に加えて、細胞の不死化を誘導する因子をコードする遺伝子をさらに組み合わせてもよい。国際公開WO2007/69666に開示されているように、例えば、TERT遺伝子、及び下記の遺伝子:SV40 Large T antigen、HPV16 E6、HPV16 E7、及びBmilからなる群から選ばれる1種以上の遺伝子を単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。さらに、上記の遺伝子に加えて、Fbx15、ERas、ECAT15−2、Tcl1、及びβ−cateninからなる群から選ばれる1種以上の遺伝子を組み合わせてもよく、及び/又はECAT1、Esg1、Dnmt3L、ECAT8、Gdf3、Sox15、ECAT15−1、Fthl17、Rex1、UTF1、Stella、Stat3、及びGrb2からなる群から選ばれる1種以上の遺伝子を組み合わせることもできる。これらの組み合わせについては国際公開WO2007/69666に具体的に説明されている。もっとも、本発明の方法において使用可能な遺伝子は上記に具体的に説明した遺伝子に限定されることはない。
本発明の方法においては、核初期化因子として機能することができる他の遺伝子のほか、分化、発生、又は増殖などに関係する因子あるいはその他の生理活性を有する因子をコードする遺伝子の1種又は2種以上含むことができ、そのような態様も本発明の範囲に包含されることは言うまでもない。例えば、核初期化因子を確認する手段としては国際公開WO2005/80598に記載された核初期化因子のスクリーニング方法や国際公開WO2007/69666に記載された具体的な核初期化因子の特定方法を利用することができる。国際公開WO2005/80598及び国際公開WO2007/69666の全ての開示を参照により本明細書の開示に含める。当業者はこれらの刊行物を参照することにより核初期化因子をスクリーニングし、本発明の方法のために利用することができる。また、上記のスクリーニング方法に適宜の修飾ないし改変を加えた方法を用いて核初期化因子を確認することもできる。上記の方法に用いられる遺伝子の組み合わせが核初期化因子として作用することも上記の刊行物に記載された方法により当業者が容易に確認することができる。
本発明の方法において、人工多能性幹細胞の樹立効率を向上させるために、種々の樹立効率改善剤の導入及び/又は添加を行うこともできる。iPS細胞の樹立効率改善物質としては、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸(VPA)(Nat.Biotechnol.,26(7),pp.795−797,2008)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC1293やM344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNA及びshRNA(例えば、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標、Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1(OriGene))などの核酸性発現阻害剤など]、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX−01294(Cell Stem Cell,2,pp.525−528,2008)等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNA及びshRNA(例えば、G9a siRNA(human)(Santa Cruz Biotechnology))などの核酸系発現阻害剤など]などが挙げられるが、これらに限定されることはない。核酸系発現阻害剤はsiRNA又はshRNAをコードするDNAを含む発現ベクターの形態であってもよい。
本発明の方法により製造される人工多能性幹細胞の用途は特に限定されず、ES細胞を利用して行われているあらゆる試験・研究やES細胞を用いた疾病の治療などに使用することができる。例えば、本発明の方法により得られた人工多能性幹細胞をレチノイン酸、EGFなどの増殖因子、又はグルココルチコイドなどで処理することにより、所望の分化細胞(例えば神経細胞、心筋細胞、血球細胞など)を誘導することができ、適宜の組織を形成させることができる。分化誘導方法については国際公開WO2007/69666などに具体的に説明されている。このようにして得られた分化細胞や組織を患者に戻すことにより自家細胞移植による幹細胞療法を達成することができる。例えば、患者自身の体細胞から安全性の高い人工多能性幹細胞を効率的に作製することができ、この細胞を分化させることにより得られる細胞(例えば心筋細胞、インスリン産生細胞、又は神経細胞など)を心不全、インスリン依存性糖尿病、パーキンソン病や脊髄損傷など多様な疾患に対する幹細胞移植療法において安全に利用することができる。
また、例えば、ヒト体細胞から本発明の方法により人工多能性幹細胞を調製した後、この人工多能性幹細胞を分化誘導して体細胞、組織、又は臓器などを調製し、この体細胞、組織、又は臓器などに対しての化合物、医薬、毒物などの生理作用や毒性を評価することもできる。あるいは、特定の疾患の患者の体細胞から本発明の方法により人工多能性幹細胞を調製した後、この人工多能性幹細胞を分化誘導して体細胞、組織、又は臓器などを調製し、この体細胞、組織、又は臓器などに対して医薬候補化合物を作用させて治療及び/又は予防効果を判定することにより、医薬候補化合物のスクリーニングを行うこともできる。もっとも、本発明の人工多能性幹細胞の用途は上記の特定の態様に限定されることはない。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1:マウスES細胞培地におけるadult HDFからのiPS細胞の樹立
ヒト成人皮膚由来線維芽細胞(adult HDF)又はヒト新生児包皮由来線維芽細胞(BJ)にレンチウイルスでSlc7a1(マウスレトロウイルス受容体)遺伝子を導入し(それぞれ、「HDFa−Slc7a1」、「BJ−Slc7a1」とする)、HDFa−Slc7a1又はBJ−Slc7a1は800,000個に調製した後、フィーダー細胞(マイトマイシン処理STO細胞)上にまき、以下の組み合わせでレトロウイルスベクターにより遺伝子を導入した。
1.Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc,hTERT,Bmil
2.Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc,hTERT,HPV16 E6,HPV16 E7
3.Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc,hTERT,HPV16 E7
4.Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc,hTERT,SV40 Large T antigen
5.Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc,hTERT,HPV16 E6
6.Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc
図中で示す「−」は、上記の組み合わせの「6.Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc」を示す。
(Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc,TERTはヒト由来、Bmi1はマウス由来)
マウスES細胞の培養条件下で薬剤選択無しで培養を続けたところ、4の組み合わせで遺伝子を導入したディッシュにおいて、ウイルス感染8日後においてiPS細胞と思われるコロニーが出現した。他の組み合わせ(1から3および5)においても、1の組み合わせの場合ほどは明瞭ではないが、iPS細胞様のコロニーが出現した。4遺伝子(6)のみを導入しても、全くコロニーは出現しなかったが、上記条件下で4遺伝子のみが導入された細胞はアルカリフォスファターゼ染色に対して明らかに陽性を呈していた(図1)。
同様に、マウスSlc7a1遺伝子を発現するヒト新生児包皮由来線維芽細胞(BJ)を80,000個に調製後、フィーダー細胞(マイトマイシン処理STO細胞)上にまき、以下の組み合わせでレトロウイルスベクターにより遺伝子を導入した。
1.4s(Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc),hTERT,SV40 Large T antigen
2.4s(Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc),hTERT,Bmil
3.hTERT,SV40 Large T antigen
4.4s(Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc),hTERT,HPV16 E6
5.4s(Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc),hTERT,HPV16 E7
6.4s(Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc),hTERT,HPV16 E6,HPV16 E7
7.4s(Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc),hTERT
8.4s(Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc)
9.DsRed
(Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc,TERTはヒト由来、Bmi1はマウス由来)
マウスES細胞の培養条件下で2週間培養を続けたところ、4遺伝子(8)のみが導入された細胞はアルカリフォスファターゼ染色に対して陽性を呈した(図2)。
例2:iPS細胞によるECAT発現(1)
ヒト成人皮膚由来線維芽細胞(adult HDF)から樹立されたヒトiPS細胞が、ES細胞で特異的に発現する遺伝子群であるECAT(ES cell associated transcript)を発現するか否かを調べた。
adult HDFに由来するiPS細胞(クローンiPS−HDFaSlc−87E6)を6ウェルプレートにあらかじめ培養していたフィーダー細胞(マイトマイシンC処理STO細胞)上に、各ウェルあたり5×10個の割合で撒き、4日間培養した。細胞を10%ホルマリンを含PBSで固定し、固定液を除去後、PBSで洗浄し、さらに室温で45分間3%BSA含PBSを加え静置した。一次抗体(抗ヒトABCG−2抗体(マウスIgG)、抗SSEA−3抗体(ラットIgM)、及び抗SSEA−4抗体(マウスIgG))を3%BSA含PBSで1:100に希釈し、4℃で一晩反応させた後、細胞を1%BSAを含むPBSで3回洗浄し、1%BSAを含むPBSで1:300に希釈した二次抗体を用いて室温で1時間、遮光下で反応させた。二次抗体としてCy−3で標識した抗マウスIgG抗体(ABCG−2及びSSEA−4に対する抗体;ケミコン)及び抗ラットIgM抗体(SSEA−3に対する抗体;ジャクソン・イムノリサーチ)を使用した。細胞をPBSで洗浄し、次いで顕微鏡下で観察及び撮影した(図3)。この結果、adult HDFに由来するiPS細胞がABCG−2、SSEA−3、及びSSEA−4を発現していることが観察された。
例3:iPS細胞によるECAT発現(2)
ヒト成人皮膚由来線維芽細胞(adult HDF)に由来するiPS細胞(クローンiPS−HDFaSlc−87E3、87E4、及び87E12)をあらかじめ6ウェルプレートに播いておいたフィーダー細胞(マイトマイシンC処理STO細胞)上に各ウェルあたり5×10個の割合で撒き、5日間培養した。コントロールとして上記iPS細胞の由来細胞であるHDFを上記6ウェルプレート上に撒き、2日間維持した。細胞を10%ホルマリンを含むPBSで固定した。固定液を除去し、細胞をPBSで洗浄した後、細胞を室温で45分間ブロッキングバッファー(3%BSA含PBS)を加え静置した。一次抗体(抗ABCG−2抗体(マウスIgG;ブロッキングバッファーで1:80に希釈)、抗E−cadherin(マウスIgG;;ブロッキングバッファーで1:80に希釈)、抗SSEA−3抗体(ラットIgM;ブロッキングバッファーで1:250に希釈)、抗SSEA−4抗体(マウスIgG;ブロッキングバッファーで1:250に希釈))と4℃で一晩反応させた後、細胞をブロッキングバッファーで洗浄した。洗浄後、さらに細胞を二次抗体を用いて室温で1時間反応させた。二次抗体は、ブロッキングバッファーで1:300に希釈したCy−3で標識した抗マウスIgG抗体(ABCG−2、E−cadherin、及びSSEA−4に対する抗体)及び抗ラットIgM抗体(SSEA−3に対する抗体)を用いた。2次抗体反応後抗体溶液を除去し、PBSで洗浄した後、細胞に50%グリセロールを含むPBSを加えて観察した(図4)。
ヒト成人皮膚由来線維芽細胞(adult HDF)に由来するiPS細胞はES細胞の表面マーカーであるSSEA−3、SSEA−4、ABCG−2、及びE−cadherinを発現していた。これに対して、iPS細胞の由来細胞であるHDFaはSSEA−3、SSEA−4、ABCG−2、及びE−cadherinのいずれも発現していなかった。
例4:iPS細胞によるECAT発現(3)
全RNAを、ヒトiPS細胞クローン(iPS−HDFaSlc87E−1〜8、11及び12)、NTERA2クローンD1ヒト胚癌細胞(継代数35)、及びマウスSlc7a1遺伝子を発現するadult HDF(継代数6)から単離した。第1鎖cDNAはoligo−dT20プライマー及びRever Tra Ace−α−kit(東洋紡)を製造業者のプロトコルに従って使用して合成した。PCRはプライマーを用いて以下の通りに行った。内在性OCT3/4に対してhOct3/4−S1165及びhOct3/4−AS1283;内在性Sox2に対してhSox2−S1430及びhSox2−AS1555;Nanogに対してECAT4−macaca−968S及びECAT4−macaca−1334AS;REX1に対してhRex1−RT−U及びhRex1−RT−L;FGF4に対してhFGF4−RT−U及びhFGF4−RT−L;GDF3に対してhGDF3−S243及びhGDF3−AS850:ECAT15−1に対してhECAT15−S532及びhECAT15−AS916;ECAT15−2に対してhECAT15−2−S85及びhECAT15−2−AS667;ESG1に対してhpH34−S40及びhpH34−AS259;hTERTに対してhTERT−S3556及びhTERT−AS3713;並びにG3PDHに対してG3PDH−F及びG3PDH−Rを使用した(表1:配列表の配列番号1から22)。
この結果、多数のヒトiPS細胞クローン(iPS−HDFaSlc87E−1〜8、11及び12)がECATを発現しており、特に87E6クローンは種々のECATを発現していた(図5)。
例5:iPS細胞によるECAT発現(4)
ヒト新生児包皮由来繊維芽細胞(BJ線維芽細胞)に由来するヒトiPS細胞がECATを発現するか否かを確認した。
全RNAをヒトiPS細胞(iPS−BJSlc−97E−1、2、4、5、6、7、8、10、11、12、−97G−3、5、−97H−3、及び5)、NTERA2クローンD1ヒト胚性癌細胞(継代数35)、及びマウスSlc7a1遺伝子を発現する新生児包皮由来線維芽細胞(BJ)(継代数6)から単離した。第1鎖cDNAはoligo−dT20プライマー及びRever Tra Ace−α−kit(東洋紡)を用いて製造業者のプロトコルに従って合成した。PCRはプライマーを用いて以下の通りに行った。内在性OCT3/4に対してhOct3/4−S1165及びhOct3/4−AS1283;内在性Sox2に対してhSox2−S1430及びhSox2−AS1555;Nanogに対してECAT4−macaca−968S及びECAT4−macaca−1334AS;REX1に対してhRex1−RT−U及びhRex1−RT−L;FGF4に対してhFGF4−RT−U及びhFGF4−RT−L;GDF3に対してhGDF3−S243及びhGDF3−AS850;ECAT15−1に対してhECAT15−S532及びhECAT15−AS916;ECAT15−2に対してhECAT15−2−885及びhECAT15−2−AS667;ESG1に対してhpH34−S40及びhpH34−AS259;hTERTに対してhTERT−S3556及びhTERT−AS3713;並びにG3PDHに対してG3PDH−F及びG3PDH−Rを使用した(表2:配列表の配列番号23から44)。
この結果、多数のヒトiPS細胞クローン(iPS−BJSlc−97E−1、2、4、5、6、7、8、10、11、12、−97G−3、5、−97H−3、及び5)がECATを発現していた(図6)。
例6:ヒトiPS細胞による奇形腫形成
例6:ヒトiPS細胞による奇形腫形成
5.0×10個のヒトiPS細胞を、SCIDマウス(雌、5週齢)の背側面に皮下注射した。注射の5週間後に大きな腫瘍が観察された。腫瘍を切除して重量を計測し、外観を撮影した。この腫瘍を10%ホルマリンを含むPBSで固定した。パラフィン包理した腫瘍を4.5μm切片にスライスした薄切片をスライドガラス上に載せ風乾した後、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った。図7のAは、iPS−HDFaSlc−87E12クローンを皮下注射したマウス及びその奇形腫を示す。図7のBはクローンiPS−HDFaSlc−87E3、同CはクローンiPS−HDFaSlc−87E6、同DはクローンiPS−HDFaSlc−87E12を皮下注射したマウスから切除された奇形腫由来の組織像をそれぞれ示す。
例7:ヒトiPS細胞のin vitro分化
浮遊培養を行うことにより胚様体(Embryoid body:EBs)を形成させて、in vitroでのヒトiPS細胞の分化能を評価した。ヒトiPS細胞(iPS−HDFaSlc−127F2、E3)を7日間浮遊培養し、胚様体を形成させた。その後、胚様体をゼラチンコートしたプレートに移し、さらに8日間培養を継続し、その後免疫組織化学分析を行った。使用した一次抗体は以下の通りである。抗α−平滑筋アクチン抗体(ダコ)、抗βIII−チューブリン抗体(ケミコン)、抗−α−フェトプロテイン抗体(ダコ)、正常マウスIgG(2mg/ml、ケミコン)、及び正常ウサギIgG(2mg/ml、ケミコン)は、それぞれ3%BSA含PBSで1:100で希釈し、一次抗体として使用した。一次抗体を室温で1時間反応させた後に細胞をPBSで洗浄し、二次抗体(3%BSA含PBSで1:300に希釈)を反応させた。なお、核はDAPIにより染色した。その結果、α−平滑筋アクチン(α−SMA、中胚葉マーカー)、βIIIチューブリン(外胚葉マーカー)、α−フェトプロテイン(内胚葉マーカー)が陽性を示したことにより、ヒトiPS細胞は胚様体形成を介してin vitroで分化することを確認した(図8)。
例8:ヒトiPS細胞の作製のためのレトロウイルスによる遺伝子導入の最適化
マウス線維芽細胞からのiPS細胞の誘導には高い遺伝子導入効率を有するレトロウイルスが有効であると考えられている(Takahashi et al.,Cell,126,pp.663−676,2006)。そこで、ヒト成人皮膚由来線維芽細胞(adult HDF)における遺伝子導入方法を最適化した。最初にPLAT−Aパッケージング細胞において作製した両種性(amphotropic)レトロウイルスを用いてadult HDFに緑色蛍光タンパク質(GFP)を導入した。対照として、PLAT−Eパッケージング細胞(Morita et al.,Gene Ther.,7,pp.1063−66,2000)において作製した同種指向性(ecotropic)レトロウイルスを用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)にGFPを導入した。MEFにおいては、80%以上の細胞がGFPを発現した(図9)。一方、20%未満のadult HDFはMEFの場合より明らかにGFPの発現強度が低く、GFP発現率は20%未満であった。
遺伝子導入効率を改善するために、マウスレトロウイルスのレセプターSlc7a1(Verrey et al.,Pflugers Arch.,447,pp.532−542,2004)(mCAT1としても知られている)をレンチウイルスを用いてadult HDFに導入した。次に同種指向性レトロウイルスを用いてHDFa−Slc7a1にGFPを導入した。この方法により60%の遺伝子導入効率が達成された(図9)。
例9:霊長類ES細胞培地を用いたadult HDFからのiPS細胞の作製
ヒトiPS細胞を誘導するためのプロトコルを図10Aに概略を示した。ヒトOct3/4、Sox2、Klf4、及びc−MycをレトロウイルスベクターにてをHDF−Slc7a1に導入した(図10B、8x10細胞/100mmディッシュ)。
遺伝子導入の6日後、細胞をトリプシン処理により回収し、5x10又は5x10細胞/100mmディッシュに調整した後、マイトマイシンC処理SNLフィーダー細胞(McMahon et al.,Cell,62,pp.1073−85,1990)上に撒いた。翌日、培地(10%FBSを含むDMEM)を4ng/mlの塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を補充した霊長類ES細胞用培地(リプロセル)に交換した。約2週間後、細胞形態がヒトES細胞とは類似しない幾つかの粒状コロニーが現れた(図10C)。25日目頃、平らでヒトES細胞コロニーに類似した別のタイプのコロニーが観察された(図10D)。5x10個の線維芽細胞から、約10個のヒトES細胞様コロニー及び約100個の粒状コロニーが観察された(6回の独立した実験において、7/122、8/84、8/171、5/73、6/122、及び11/213個を観察した。結果を表3にまとめた)。
30日目に、ヒトES細胞様コロニーを取り、酵素消化を行うことなく小さな塊に機械的にばらばらにした。5x10個の線維芽細胞から始めた場合、ディッシュは300個を超える粒状コロニーによりほぼ覆われた。幾つかのヒトES細胞様コロニーが粒状コロニーの間に観察される場合もあったが、粒状コロニーが高密度であったため、ヒトES細胞様コロニーを単離することは困難であった。
ヒトiPS細胞をbFGFを含む霊長類ES細胞様培地を用いてSNLフィーダー細胞上で増殖させたところ、細胞は固く密集した平らなコロニーを形成した(図10E)。それぞれの細胞は、大きな核小体とわずかな細胞質を特徴とするヒトES細胞と同様の細胞形態を示した(図10F)。ヒトES細胞の場合と同様に、コロニーの中心に自発性分化が観察される場合があった(図10G)。また、これらの細胞はヒトES細胞と類似してフィーダー細胞依存性を示し、ゼラチンコートした組織培養プレートには接着しなかった。一方、これらの細胞はマトリゲルコートされたプレート上のMEF調整霊長類ES細胞用培地(MEF−CM)中では未分化状態を維持したが、非調整霊長類ES細胞用培地中では未分化状態を維持しなかった(図11)。樹立されたヒトiPS細胞のクローンを表4にまとめた。
例10:ヒトiPS細胞によるヒトES細胞マーカーの発現
免疫染色解析により、ヒトiPS細胞はSSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60,TRA−1−81、及びTRA−2−49/6E(アルカリフォスファターゼ)を含むヒトES細胞特異的表面抗原(Adewumi et al.,Nat.Biotechnol.,25,pp.803−816,2007)、並びにNanog蛋白の発現を示した(図10のI〜N)。
RT−PCRにより、ヒトiPS細胞は、未分化ES細胞の多数の遺伝子マーカー(例えば、Oct3/4、Sox2、Nanog、GDF3、REX1、FGF4、ESG1、DPPA2、DPPA4、及び(hTERT)など)をヒト胚性癌細胞株NTERA−2の場合と同等以上のレベルで発現していることが示された(図12)。ウェスタンブロットの結果からは、Oct3/4、Sox2、Nanog、Sall4、E−CADHERIN、及びhTERTの蛋白質レベルは、ヒトiPS細胞及びヒトES細胞において同等であった(図13A)。ヒトiPS細胞においては、染色体に組み込まれたレトロウイルスからの導入遺伝子の発現は効率的にサイレンシングされていたことから、これらの遺伝子の内因性発現に依存していることが示唆された(図13B)。
例11:ヒトiPS細胞内におけるES細胞特異的遺伝子プロモーターの活性
バイサルファイトゲノミックシークエンス法により、Oct3/4、REX1及びNanogなどの多能性に関連する遺伝子のプロモーター領域におけるシトシングアニンジヌクレオチド(CpG)のメチル化の状態を評価した結果、その領域のCpGジヌクレオチドは由来源の親HDF(HDF)においては高度にメチル化されているのに対して、ヒトiPS細胞(201B2,201B6,201B7)では高度に脱メチル化されていることが判明した(図14A)。これらの知見から、これらのプロモーターがヒトiPS細胞において活性化されていることが示唆された。
ルシフェラーゼレポーターアッセイにおいても、ヒトOct3/4及びREX1プロモーターは、ヒトiPS細胞においては高レベルの転写活性を有したが、HDFでは有さないことが示された。ヒトRNAポリメラーゼII(PolII)などの普遍的に発現する遺伝子のプロモーター活性はヒトiPS細胞及びHDFの両方において同等の活性を示した(図14B)。
例12:ヒトiPS細胞の高テロメラーゼ活性及び指数関数的増殖
hTERTの高い発現レベルから推測される通り、ヒトiPS細胞は高いテロメラーゼ活性を示した(図15A)。ヒトiPS細胞は、少なくとも4ヶ月間は指数関数的に増殖した(図15B)。ヒトiPS細胞の計算上の倍増時間は、46.9±12.4(クローン201B2)、47.8±6.6(201B6)、及び43.2±11.5(201B7)時間であった(図15B)。これらの時間は、既報のヒトES細胞の倍増時間と同等であった(Cowan et al.,N.Engl.J.Med.,350,pp.1353−56,2004)。
例13:HDF由来ヒトiPS細胞の交差汚染(cross−contamination)評価
ヒトiPS細胞のゲノムDNAのPCRにより、全クローンが4種全てのレトロウイルスの組み込みを有することが示された(図16A)。c−Myc cDNAプローブを用いたサザンブロット分析により、それぞれのクローンがレトロウイルス組み込み部位の特有のパターンを有することが判明した(図16B)。また、16のショートタンデムリピートのパターンは、ヒトiPSクローンと親のHDFとの間で完全に一致した。HDF由来iPS細胞のSTR解析の結果を表5に示す。
これらのパターンは、ナショナル・インスティチュート・オブ・ヘルスのウェブサイト(http://stemcells.nih.gov/research/nihresearch/scunit/genotyping.htm)で報告されている樹立されたヒトES細胞株の何れとも異なっていた。また、染色体のG横縞分析により、ヒトiPS細胞が正常な46XX核型を有することが示された。従って、ヒトiPSクローンはHDFに由来するものであり、ES細胞のコンタミネーションによるものではないと結論された。
例14:ヒトiPS細胞の胚様体を介した分化
in vitroでのヒトiPS細胞の分化能を決定するために、浮遊培養を使用して胚様体(Embryoid body:EBs)を形成させた。浮遊培養の8日目後、iPS細胞はボール状の構造を形成した(図17A)。これらのEmbryoid body様構造をゼラチンコートしたプレートに移し、さらに8日間培養を継続した。付着した細胞は、神経様細胞、敷石様細胞、及び上皮細胞などの様々な細胞形態を示した(図17B−E)。免疫組織化学分析により、βIIIチューブリン(外胚葉マーカー)、グリア原線維酸性蛋白(GFAP、外胚葉)、α−平滑筋アクチン(α−SMA、中胚葉)、デスミン(中胚葉)、α−フェトプロテイン(内胚葉)、及びビメンチン(中胚葉及び体壁の内胚葉)に対して陽性の細胞が検出された(図17F−K)。RT−PCRの結果から、これらの分化した細胞においてFOXA2(内胚葉マーカー)、AFP(内胚葉)、サイトケラチン8及び18(内胚葉)、SOX17(内胚葉)、BRACHYURY(中胚葉)、MSX1(中胚葉)、MAP2(外胚葉)、及びPAX6(外胚葉)が発現していることが確認された(図17L)。一方、Oct3/4、Sox2、及びNanogの発現は明らかに低減していた。これらの結果より、iPS細胞が3胚葉系にインビトロで分化できることが示された。
例15:ヒトiPS細胞の神経細胞への分化
ヒトiPS細胞からの分化をヒトES細胞についての既報の方法により誘導できるか否かを検討した。PA6フィーダー細胞層の上にヒトiPS細胞を撒き、分化条件下で2週維持・培養間した(Kawasaki et al.,Neuron,28,pp.31−40,2000)。細胞は大きく広がり、いくつかの神経構造が観察された(図18A)。免疫組織化学分析により、培養物中にチロシンヒドロキシナーゼ及びβIIIチューブリン陽性細胞が検出された(図18B)。PCR分析の結果から、AADC、ChAT、、DAT、及びLMX1Bなどのドーパミン作用性神経マーカー、並びに他の神経マーカーであるMAP2の発現が確認された(図18C)。また、Oct3/4、Sox2、及びNanogの発現は低減した(図18C)。これらの結果から、iPS細胞がPA6細胞との共培養によりドーパミン作用性ニューロンを含む神経細胞に分化できることが示された。
例16:ヒトiPS細胞の心臓細胞への方向付けした分化
アクチビンA及び骨形成因子(BMP)4を利用した心臓細胞への分化に関する文献(Laflamme et al.,Nat.Biotechnol.,25,pp.1015−24,2007)を用いてヒトiPS細胞の心臓への分化を検討した。分化誘導から12日後、細胞塊は鼓動を始めた(図18D)。RT−PCRの結果から、これらの細胞がTnTc、MEF2C、NKX2.5、MYL2A、及びMYHCBなどの心筋細胞マーカーを発現していることが示された(図18E)。一方、Oct3/4、Sox2、及びNanogの発現は著しく低減していた。これらの結果から、ヒトiPS細胞がインビトロで心筋細胞へと分化できることが示された。
例17:ヒトiPS細胞からの奇形腫形成
インビボでの多能性を試験するため、ヒトiPS細胞(クローン201B7)を免疫不全(SCID)マウスの背側の側腹部へ皮下移植した。9週間後に腫瘍形成が観察された。組織学的観察により、原腸管様上皮組織(外胚葉)、横紋筋(中胚葉)、軟骨(筋肉)、神経組織(内胚葉)、及びケラチン含有扁平組織(内胚葉)を含む様々な組織(図19)が腫瘍に含まれていることが示された。
例18:他のヒト体細胞からのiPS細胞の作製
HDFに加えて、成人男性の滑膜組織の初代ヒト由来線維芽細胞様滑膜細胞(HFLS)及び新生児の包皮由来の線維芽細胞から樹立された細胞株(BJ細胞)新生児の包皮由来の線維芽細胞から樹立された細胞株を使用した(表3)。HFLS(5x10細胞/100mmディッシュ)からiPS細胞の作成を試みた結果、600個以上の粒状コロニー及び17個のヒトES細胞様コロニーを得た。これらの17個のコロニーのうち6コロニーを試験に供したところ、それらのうちの2コロニーのみが増殖可能であった(図20)。5x10のHFLSを撒いたディッシュは粒状コロニーで覆われており、ヒトES細胞様コロニーは確認できなかった。一方、BJ細胞からiPS細胞の作成を試みた結果、5x10/100mmディッシュからの場合、僅かな粒状コロニーも認められたものの7〜13個のヒトES細胞様コロニー及び5x105/100mmディッシュからの場合は100個のヒトES細胞様コロニーを得た(表3)。そのうち6個のヒトES細胞様コロニーを取り、5個のコロニーからiPS細胞を確認した(図20)。HFLS及びBJに由来するヒトiPS細胞は、ヒトES細胞の場合と同等以上のレベルでヒトES細胞マーカー遺伝子を発現していた(図21)。これらのヒトiPS細胞は、EBsを介して3胚葉系に分化した(図22)。STR分析により、iPS−HFLS細胞及びiPS−BJ細胞はそれぞれHFLS及びBJ細胞に由来することが確認された。表6はHFLS由来iPS細胞のSTR解析の結果を示し、表7はBJ由来iPS細胞のSTR解析の結果を示す。
以上の結果から、4種の遺伝子:Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc−Mycのレトロウイルスによる遺伝子導入により、adult HDF及び他の体細胞からiPS細胞を作製できることが示された。樹立されたヒトiPS細胞は、細胞形態、増殖、フィーダー細胞依存性、表面マーカーの発現パターン、遺伝子発現、プロモーター活性、テロメラーゼ活性、インビトロでの分化能、及び奇形腫形成能を含む多くの点でヒトES細胞と類似していた。また、4種のレトロウイルスはヒトiPS細胞内でほぼ完全にサイレンシングされていた。このことから、これらの細胞は完全に初期化されており、自己再生については導入遺伝子の継続的な発現に依存しないことが示された。
例8〜18における実験材料及び方法は以下の通りである。
1.細胞培養
36歳のカフカス人女性の顔の皮膚から得たHDFs及び69歳のカフカス人男性の滑膜組織から得たHFLsはセルアプリケーション社から購入した。新生児の包皮から得たBJ線維芽細胞及びNTERA−2クローンD1ヒト胚性癌細胞は、アメリカンタイプカルチャーコレクションから入手した。ヒト線維芽細胞NTERA−2、PLAT−E、及びPLAT−A細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)、並びに0.5%ペニシリン及びストレプトマイシン(インビトロジェン)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、ナカライテスク)で維持した。293FT細胞は10%FBS、2mMLグルタミン(インビトロジェン)、1x10−4M非必須アミノ酸(インビトロジェン)、及び1mMピルビン酸ナトリウム(シグマ)、並びに0.5%ペニシリン及びストレプトマイシンを含有するDMEMで維持した。PA6間質細胞(理研バイオリソースセンター)は、10%FBS及び0.5%ペニシリン及びストレプトマイシンを含有するα−MEMで維持した。iPS細胞は4ng/ml組換えヒト塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF、和光純薬)を補充した霊長類ES細胞用培地(リプロセル)で樹立及び維持した。継代においては、ヒトiPS細胞は、PBSで一回洗浄し、その後37℃で1mg/mlコラゲナーゼIV(インビトロジェン)を含むDMEM/F12でインキュベートした。ディッシュの縁にあるコロニーが底面から分離し始めた時に、DMEM/F12/コラゲナーゼを除去し、ヒトES細胞培地で洗浄した。細胞をかきとり、15mlの円錐形チューブに回収した。適量の培地を添加し、SNLフィーダー細胞上に新しいディッシュに移した。分割比は常に1:3とした。iPS細胞をフィーダー細胞を含まない状態で培養するためには、プレートは4℃で一晩0.3mg/mlマトリゲル(、BDバイオサイエンシス)でコートした。プレートは使用前に室温に加温した。未結合のマトリゲルは吸引除去し、DMEM/F12で洗浄した。iPS細胞は、マトリゲルコートされたプレート上に、4ng/mlのbFGFを補充したMEF−調整霊長類ES細胞用培地(MEF−CM)又はMEF−非調整霊長類ES細胞用培地(リプロセル)を用いて撒いた。培地は毎日交換した。MEF−CMの調製のために、ICRマウスの受精後13.5日目の胚を回収し得たMEFsを1x10cells/100mmでプレートにまき一晩培養した。翌日、細胞をPBSで一回洗浄し、10mlの霊長類ES細胞用培地で培養した。24時間培養後、MEF培養の培養上清液を回収し、孔径0.22μmのフィルターで濾過し、使用するまで−20℃で保存した。
2.プラスミド構築
ヒトOct3/4のオープンリーディングフレームをRT−PCRにより増幅し、pCR2.1−TOPOにクローニングした。pCR2.1−hOct3/4のEcoRIフラグメントを、pMXsレトロウイルスベクターのEcoRI部位に導入した。それぞれの実験を区別するために、N20バーコードと命名した20−bpのランダム配列をOct3/4発現ベクターのNotI/SalI部位へ導入した。実験間でのコンタミネーションを防ぐため、各実験において特有のバーコードを使用した。ヒトSox2,Klf4及びc−MycのオープンリーディングフレームもRT−PCRにより増幅し、pENTR−D−TOPO(インビトロジェン)へサブクローニングした。pENTR−D−TOPOへサブクローニングした全遺伝子を、ゲイトウェイクローニングシステム(インビトロジェン)を取扱説明書に従って用いてpMXsレトロウイルスベクターに導入した。マウスSlc7a1オープンリーディングフレームも増幅し、pENTR−D−TOPOにサブクローニングし、ゲイトウェイシステムによりpLenti6/UbC/V5−DEST(インビトロジェン)に導入した。ヒトOct3/4遺伝子及びREX1遺伝子の調節領域を、PCRにより増幅し、pCRXL−TOPO(インビトロジェン)にサブクローニングした。PhOCT4−Luc及びphREX1−Lucのために、pCRXLベクターからKpnI/BglII消化により除去したフラグメントをpGV−BM2のKpnI/BglII部位にサブクローニングした。pPolII−Lucのために、pQBI−polIIのAatII(平滑末端)/NheIフラグメントをpGV−BM2のKpnI(平滑末端)/NheI部位に挿入した。全てのフラグメントをシークエンスにより確認した。プライマー配列を表8(配列表の配列番号45から126)に示す。
3.レンチウイルス作製及び感染
6x10細胞の293FT細胞(インビトロジェン)を100mmディッシュに播き、一晩培養した。リポフェクトアミン2000(インビトロジェン)を取扱説明書に従って用いて293FT細胞に9μgのビラパワーパッケージングミックス(Virapower packaging mix)と一緒に3μgのpLenti6/UbC−Slc7aをトランスフェクションした。トランスフェクションの翌日培地交換をおこなった。さらに24時間後、上清を回収し、孔径0.45μmのセルロースアセテートフィルター(ワットマン)により濾過した。遺伝子導入の1日前にヒト線維芽細胞を8x10細胞/100mmディッシュで撒いた。培地を4μg/mlポリブレン(ナカライテスク)を補充したウイルス含有上清液を用いて置換して24時間培養した。
4.レトロウイルス感染及びiPS細胞の作出
PLAT−Eパッケージング細胞を8x10細胞/100mmディッシュでプレートに撒き、一晩培養した。翌日、PLAT−E細胞にFugene6トランスフェクション試薬(ロッシュ)を用いてpMXsベクターをトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、新しい培地と交換し、、さらに24時間後に培養上清をウイルス含有液として回収した。遺伝子導入の一日前にマウスSlc7a1遺伝子を発現しているヒト線維芽細胞(HDFa−Slc7a1)を8x10細胞/100mmディッシュに調整し播いておいた。ウイルス含有液を孔径0.45μmフィルターにより濾過し、4μg/mlポリブレンを補充した。4種のレトロウイルスをそれぞれ含有する等量の上清液を混合し、HDFa−Slc7a1のディッシュに移して、一晩感染させた。24時間後、ウイルスを含む上清を除去し、新しい培地と交換した。6日後、HDFa−Slc7a1細胞をトリプシン処理により採取し、SNLフィーダー細胞層の上に5x10細胞/100mmディッシュに調整し再度播いた。その翌日、培地を4ng/ml bFGFを補填した霊長類ES細胞用培地に交換した。培地は一日おきに交換した。遺伝子導入の30日後、コロニーを採取し、0.2mlの霊長類ES細胞培地に移した。コロニーを弱いピペッティングにより小さな塊に機械的に分離した。この細胞懸濁液をSNLフィーダー細胞をあらかじめ播いておいた24ウェルプレート上に移した。この段階を継代数1とした。
5.RNA単離及び逆転写
全RNAをトライゾール試薬(インビトロジェン)により抽出し、ゲノムDNAの混在を除去するためにターボDNAフリーキット(アンビオン)により処理した。1μgの全RNAを用いて、Rever Tra Ace−α(東洋紡)及びdT20プライマーを取扱説明書に従って用いて逆転写反応を行った。PCRはExTaq(タカラ)で行った。定量的PCRはプラチナSYBRグリーンqPCRスーパーミックスUDG(インビトロジェン)を用いて行い、7300リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステム)により分析した。プライマー配列を表8に示す。
6.アルカリフォスファターゼ染色及び免疫組織化学分析
アルカリフォスファターゼ染色は、白血球アルカリフォスファターゼキット(シグマ)を用いて行った。免疫組織化学分析のために、細胞を室温で10分間4%のパラホルムアルデヒドを含有するPBSにより固定した。PBSで洗浄後、細胞を室温で45分間、5%正常ヤギ又はロバ血清(ケミコン)、1%ウシ血清アルブミン(BSA、ナカライテスク)、及び0.1%トリトンX−100を含むPBSにより処理した。一次抗体としてSSEA1(1:100に希釈、デベロップメンタルスタディーズハイブリドーマバンク)、SSEA3(1:10に希釈、Dr.Peter W.Andrewsから寄贈)、SSEA4(1:100に希釈、デベロップスタディーハイブリドーマバンク)、TRA−2−49/6E(1:20に希釈、デベロップメンタルスタディーズハイブリドーマバンク),TRA−1−60(1:50に希釈、Dr.Peter W.Andrewsから寄贈)、TRA−1−81(1:50に希釈、Dr.Peter W.Andrewsから寄贈)、Nanog(1:20に希釈、AF1997、R&Dシステム)、βIIIチューブリン(1:100に希釈、CB412、ケミコン)、グリア原繊維酸性蛋白(1:500に希釈、Z0334、ダコ)、α平滑筋アクチン(希釈済み、N1584、ダコ)、デスミン(1:100に希釈ラブビジョン)、ビメンチン(1:100に希釈、SC−6260、サンタクルズ)、α−フェトプロテイン(1:100に希釈、MAB1368、R&Dシステム)、チロシンヒドロキシラーゼ(1:100に希釈、AB152、ケミコン)を使用した。二次抗体は、cyanine3(Cy3)結合ヤギ抗ラットIgM(1:500期尺、ジャクソン・イムノリサーチ)、Alexa546結合ヤギ抗マウスIgM(1:500に希釈、インビトロジェン)、Alexa488結合ヤギ抗ウサギIgG(1:500に希釈、インビトロジェン)、Alexa488結合ロバ抗ヤギIgG(1:500に希釈、インビトロジェン)、Cy3結合ヤギ抗マウスIgG(1:500に希釈、ケミコン)、及びAlexa488結合ヤギ抗マウスIgG(1:500に希釈、インビトロジェン)を使用した。核は1μg/mlのHoechst33342(インビトロジェン)により染色した。
7.インビトロでの分化
ヒトiPS細胞をコラゲナーゼIVにより処理した後、hydroxyrthyl methacrylateでコートしたディッシュ上に移し20%KSR(インビトロジェン)、2mM L−グルタミン、1x10−4M非必須アミノ酸、1x10−4M 2−メルカプトエタノール(インビトロジェン)及び0.5%のペニシリン及びストレプトマイシンを含むDMEM/F12培地を使用し、浮遊培養を行い胚様体(EBs)を形成した。培地は一日おきに交換した。浮遊培養の8日後、EBsをゼラチンコートしたプレートに移し、同じ培地中でさらに8日間培養した。
ドーパミン作用性ニューロンへの分化のために、まず、PA6フィーダー細胞をゼラチンコートされた6ウェルプレート上に撒き、コンフルエントになるまで4日間インキュベートした。EBsを介して培養したiPS細胞の小さな塊をPA6フィーダー細胞層上に加え、10%KSR(インビトロジェン)、1x10−4M非必須アミノ酸、及び1x10−4M 2−メルカプトエタノール(インビトロジェン)、並びに0.5%ペニシリン及びストレプトマイシンを含むグラスゴー最小必須培地(インビトロジェン)を用いて培養した。
心筋細胞への分化のためには、iPS細胞をマトリゲルコートされたプレート上で4ng/ml bFGFを補充したMEF−CM中に6日間維持した。その後、RPMI1640にB27サプリメント(インビトロジェン)を補充した培地(RPMI/B27)に100ng/mlヒト組換えアクチビンA(R&Dシステム)を添加した培地を用いて24時間培養し、続いて10ng/mlヒト組換え骨形成因子4(BMP4、R&Dシステム)を補充してさらに4日間置いた。サイトカインによる刺激後、細胞はサイトカイン無しでRPMI/B27中に維持した。培地は一日おきに交換した。
8.バイサルファイトシークエンス法
ゲノムDNA(1μg)を、CpゲノムDNA修飾キット(ケミコン)を用いて製造業者が推奨する方法に従って処理した。処理したDNAをQIAクイックカラム(QIAGEN)により精製した。ヒトOct3/4、Nanog、及びRex1遺伝子のプロモーター領域をPCRによって増幅した。PCR産物をpCR2.1−TOPOにサブクローニングした。それぞれのサンプルの10クローンをM13ユニバーサルプライマーを用いてシークエンシングした。PCR増幅に使用したプライマー配列を表8に示した。
9.ルシフェラーゼアッセイ
ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むそれぞれのレポータープラズミド(1μg)を50ngのpRL−TK(プロメガ)を用いてヒトiPS細胞又はHDFに導入した。遺伝子導入の48時間後、細胞を1xPassive lysis buffer(プロメガ)により溶解し、室温で15分間インキュベートした。ルシフェラーゼ活性をDualルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(プロメガ)及びCentro LB 960検出システム(バーソルド)を用いて製造業者のプロトコルに従って測定した。
10.奇形腫形成
細胞をコラゲナーゼIV処理により採取し、チューブに回収して遠心し、ペレットをDMEM/F12に懸濁した。コンフルエントな100mmディッシュから取った細胞の4分の1をSCIDマウス(日本クレア)の背側の側腹部へ皮下注入した。9週間後に腫瘍を切除して重量を測定し、4%パラホルムアルデヒドを含有するPBSにより固定した。パラフィン包理した組織をスライスし、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った。
11.ウェスタンブロット
セミコンフルエント状態にある細胞をプロテアーゼ阻害剤カクテル(ロッシュ)を補充したRIPA緩衝液(50mM Tris−HCl、pH8.0、150mMNaCl、1%Nonidet P−40(NP−40)、1%デオキシコール酸ナトリウム及び0.1%SDS)により溶解した。MEL−1ヒトES細胞株の細胞溶解物をアブカムから購入した。細胞溶解物(20μg)を8%又は12%SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離し、ポリビニリデンジフルオリド膜(ミリポア)に移した。膜は1%スキムミルクを含むTBST(20mM Tris−HCl、pH7.6、136mM NaCl、及び0.1%Tween−20)でブロッキングし、その後、一晩4℃で一次抗体を反応させた。TBSTによる洗浄後、膜を西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体とともに室温で一時間反応させた。シグナルをイモビロンウェスタン化学発光HRP基質(ミリポア)及びLAS3000画像化システム(富士フィルム)により検出した。1次抗体としては、抗Oct3/4(1:600に希釈、SC−5279、サンタクルズ)、抗Sox2(1:2000に希釈、AB5603、ケミコン)、抗Nanog(1:200に希釈、R&Dシステム)、抗Klf4(1:200に希釈、SC−20691、サンタクルズ)、抗c−Myc(1:200に希釈、SC−764、サンタクルズ)、抗E−cadherin(1:1000に希釈、610182、BDバイオサイエンス)、抗Dppa4(1:500に希釈、ab31648、アブカム)、抗FoxD3(1:200に希釈、AB5687、ケミコン)、抗テロメラーゼ(1:1000に希釈、ab23699、アブカム)、抗Sall4(1:400に希釈、ab29112、アブカム)、抗Lin28(1:500に希釈、AF3757、R&Dシステム)、抗βアクチン(1:5000に希釈、A5441、シグマ)、2次抗体としては抗マウスIgG−HRP(1:3000に希釈、#7076、セルシグナリング)、抗ウサギIgG−HRP(1:2000に希釈、#7074、セルシグナリング)、及び抗ヤギIgG−HRP(1:3000に希釈、SC−2056、サンタクルズ)を使用した。
12.サザンブロット
ゲノムDNA(5μg)を、BglII,EcoRI、及びNcoIにより一晩消化した。消化したDNAフラグメントを0.8%アガロースゲルで分離し、ナイロン膜(アマシャム)に移した。膜をジゴキシゲニン(DIG)で標識したDNAプローブと共にDIG Easy Hyb緩衝液(ロッシュ)中で一定の振盪下に42℃で一晩反応させた。洗浄後、アルカリフォスファターゼ結合抗DIG抗体(1:10000に希釈、ロッシュ)を膜に添加した。シグナルはCDPスター(ロッシュ)により増強させ、LAS3000画像化システムにより検出した。
13.ショートタンデムリピート分析及び核型分析(karyotyping)
ゲノムDNAを用いて、パワープレックス16システム(プロメガ)によりPCRを行い、ABI PRISM 3100 Genetic analyzer及びGene Mapper v3.5(アプライドバイオシステム)により分析した。染色体Gバンド分析は日本遺伝子研究所(日本)で行った。
14.テロメラーゼ活性の検出
テロメラーゼ活性はTRAPEZEテロメラーゼ検出キット(ケミコン)により取扱説明書に従って検出した。サンプルはTBEをベースにした10%アクリルアミド非変性ゲル電気泳動により分離した。ゲルはSYBRゴールド(1:10000に希釈、インビトロジェン)により染色した。
15.クロマチン免疫沈降アッセイ
約1x10個の細胞を室温下で1%ホルムアルデヒドで5分間架橋し、グリシン添加により反応を停止した。細胞ライセートを超音波処理することにより、クロマチン−DNA複合体を切断した。Dynabeads Protein G(インビトロジェン)結合抗トリメチルLys4ヒストンH3(07−473,Upstate)、抗トリメチルLys27ヒストンH3(07−449,Upstate)、又は正常ウサギIgG抗体を用いて免疫沈降を行った。溶出液を定量的PCRの鋳型として用いた。
16.DNAマイクロアレイ
HDF及びhiPS細胞(クローン201B)からの全RNAをCy3により標識した。サンプルを全ヒトゲノムマイクロアレイ4x44K(G4112F、アジレント)とハイブリダイズさせた。各サンプルは1つのカラープロトコールと1回ハイブリダイズさせた。アレイをG2565BAマイクロアレイスキャナーシステム(アジレント)を用いてスキャンし、データをGeneSpringGX7.3.1ソフトウェアを用いて分析した。2種の標準化手法を適用した。先ず、0.01未満のシグナル強度を0.01と設定した。次いで、各チップを、そのチップから取得した測定の50番目の百分位数に標準化した。hES H9細胞のマイクロアレイデータ(Tesar et al.,Nature,448,pp.196−199,2007)をGEO DataSets(GSM194390,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=gds&cmd=search&term=GSE7902)から回収した。3つの全てのサンプルにおいて″present″フラグ値を有する遺伝子を分析に用いた(32,266遺伝子)。HDF及びhiPS細胞のマイクロアレイデータをGEO DataSetsにアクセッション番号GSE9561として登録した。
例19:c−Mycを用いないiPS細胞の樹立
Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc−Mycをマウス線維芽細胞にレトロウイルスを用いて導入することにより得られるマウスiPS細胞(Takahashi et al.,Cell,126,pp.663−76,2006)のiPSクローンは各遺伝子について数個のレトロウイルスの組み込みを含んでいる。各クローンは全部で20を超えるレトロウイルスの組み込み部位を有しており、腫瘍形成の危険を増大させる可能性がある。マウスiPS細胞の場合、iPS細胞に由来するキメラマウス及びその子孫の〜20%において腫瘍が発生することが分かっており(Okita et al.,Nature,448,pp.313−17,2007)、c−Mycレトロウイルスの再活性化は、iPS細胞を用いて作製したキメラマウス及びその子孫マウスにおいて腫瘍形成発生率を増加させる可能性がある。そこでc−Mycを用いずにiPS細胞を樹立する方法を検討した。
また、Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc−Mycの4種の遺伝子のファミリー遺伝子を用いてiPS細胞を樹立できるか否かを検討した。この目的のためにNanog遺伝子調節エレメントよって調節される緑色蛍光タンパク質(GFP)−IRES−Puro導入遺伝子を含むマウス胚性線維芽細胞(MEF)を使用した(Okita et al.,Nature,448,pp.313−317,2007)。NanogはマウスES細胞及び着床前胚細胞において特異的に発現しているため(Chambers et al.,Cell,113,pp.643−655,2003;Mitsui et al.,Cell,113,pp.631−642,2003)、iPS細胞誘導における選択マーカーとして有用である。初期化誘導されればGFPが発現し、これがiPS細胞であるとの指標になる。Nanogで選択したiPS細胞はES細胞と区別ができず、生殖系列に寄与する(germline−competent)キメラマウスを作製することが示されている(Wernig et al.,Nature,448,pp.318−324,2007;Okita et al.,Nature,448,pp.313−317,2007;Maherali et al.,Cell Stem Cell,1,pp.55−70,2007)。
Oct3/4はPOUドメインを含むOctファミリー転写因子に属する(Ryan et al.,Genes Dev 11:1207−25,1997)。Oct3/4に最も近いホモログはOct1及びOct6である。Oct3/4、Oct1又はOct6を残りの3遺伝子とともにレトロウイルスによりNanogレポーターMEFに導入した。Oct3/4を用いた場合、多くのGFP陽性コロニーが観察された(図23a)。
Sox2は高移動度群(high−mobility group;HMG)ドメインの存在によって特徴づけられるSox(SRY関連HMGボックス)転写因子に属する(Schepers et al.,Dev.Cell,3,pp.167−170,2002)。Sox1、Sox3、Sox7、Sox15、Sox17、及びSox18について試験を行い、Sox1を用いた場合にGFP陽性コロニーが得られた。また、Sox3、Sox15、及びSox18を用いた場合も少数のGFP陽性コロニーが得られた(図23a)。
Klf4はショウジョウバエ胚パターンレギュレーターKruppelのアミノ酸配列と類似するアミノ酸配列を含む亜鉛フィンガータンパク質であるKruppel様因子(Klfs)に属する(Dang et al.,Int.J.Biochem.Cell Biol.,32,pp.1103−1121,2000)。Klf1、Klf2、及びKlf5について試験を行い、Klf2を用いた場合にGFP発現コロニーが得られた(図23a)。Klf1及びKlf5を用いた場合もiPS細胞を誘導することができた。
c−Mycには2種の関連する遺伝子(N−Myc及びL−Myc)が存在する(Adhikary et al.,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.,6,pp.635−645,2005)。N−Myc又はL−Mycを用いることによりGFP陽性コロニーが出現した(図23a)。従って、4遺伝子のファミリー遺伝子を用いることによってiPS細胞を誘導することができることが示された。
ファミリー遺伝子についてβgeoがFbx15遺伝子座にノックインされたMEF(Tokuzawa et al.,Mol.Cell Biol.,23,pp.2699−2708,2003)からiPS細胞を誘導することができるかどうかを検討したところ、Nanogに基づいた選択で得られた結果と類似した結果が得られた。すなわち、Sox2はSox1又はSox3で置き換えることができ、Klf4はKlf2で置き換えることができ、またc−MycはN−Myc又はL−Mycで置き換えることができた。ファミリー遺伝子を用いて作製された細胞は増殖可能であり、ES細胞と区別ができない形態を呈し、かつヌードマウスにおいて奇形腫を形成した(図24)。従って、これらのファミリー遺伝子がNanogレポーターMEF及びFbx15レポーターMEFの両方からiPS細胞を誘導できることが示された。
NanogレポーターMEFから数個のES細胞様GFP陽性コロニーがc−Mycを用いることなく得られた(図23a)。先に沖田らはGFP陽性コロニーがc−Mycなしでは得られないことを報告しているが(Okita et al.,Nature,448,pp.313−17,2007)、この刊行物で報告されている方法と上記の方法との相違点の一つは薬剤選択のタイミングにある。上記刊行物に記載された方法ではピューロマイシン選択を遺伝子導入の7日後に開始しているが、今回の方法では薬剤選択を14日目に開始した。NanogレポーターMEFに4遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc−Myc)又はc−Mycを除いた3遺伝子のいずれかを導入し、遺伝子導入の7日後、14日後、又は21日後にピューロマイシン選択を開始した(図23b)。4遺伝子を用いた場合にはGFP陽性コロニーがすべての条件において観察され、ピューロマイシン選択を遅らせた場合にコロニー数は顕著に増加した。c−Mycを用いない場合は、選択を遺伝子導入の7日後に開始した場合にはGFP陽性コロニーは観察されなかったが、選択を遺伝子導入の14日後又は21日後に開始した場合にGFP陽性コロニーが出現した。コロニー数は各条件において4遺伝子を用いる場合よりも3遺伝子を用いる場合の方が少なかった。c−Mycレトロウイルス以外の3遺伝子(Oct3/4、Sox2、klf4)を導入することで得られたNanogで選択したiPS細胞は、ES細胞マーカー遺伝子をES細胞の場合のレベルに匹敵するレベルで発現しており(図25)、胚盤胞に移植した場合にアダルトのキメラマウスを作出することができた(表9)。
もう一つの相違点は、c−Mycを除いた3遺伝子を用いてiPS細胞を誘導した場合には、GFP陰性コロニー及びバックグラウンド細胞の数が4遺伝子を導入した場合よりも少ないということである(図23c)。従って、c−Mycを用いずにiPS細胞を誘導する方法はc−Mycを用いるiPS細胞誘導に比べて遅く、かつ効率は低下するものの、iPS細胞誘導の特異性は向上するという利点がある。
βgeoがFbx15遺伝子座にノックインされたMEF(Tokuzawa et al.,Mol.Cell Biol.,23,pp.2699−2708,2003)からc−Mycを用いずに数個のiPS細胞を生成することができた(図26A)。先に高橋らはiPS細胞はc−Mycなしでは得られなかったことを報告しているが(Takahashi et al.,Cell,126,pp.663−676,2006)、この刊行物で報告されている方法と上記の方法において、G418選択は同じタイミング、すなわち遺伝子導入の3日後に開始している。しかしながら、上記刊行物で報告されている方法ではコロニーを遺伝子導入の14〜21日後に選択しているのに対して、今回の実験では約30日後にコロニー選択を行っている。また、今回の実験においては4遺伝子(又は3遺伝子)を含むレトロウイルスをそれぞれ独立したPLAT−E細胞(Morita et al.,Gene Ther.,7,pp.1063−1066,2000)を用いて別々に調製している。この操作によりレトロウイルスのトランスフェクション効率が改善しており、4遺伝子の全てを単一のPlat−E細胞で調製した既報の方法に比べてiPS細胞コロニー数の顕著な増加が観察された。
4遺伝子を用いて作製したFbx15選択によるiPS細胞ではES細胞マーカー遺伝子の発現レベルはES細胞に比べて低レベルである(Takahashi et al.,Cell,126,pp.663−676,2006)。このiPS細胞は胚盤胞へマイクロインジェクションした場合にアダルトのキメラマウスを作出することができないが、c−Mycを用いずに作製したiPS細胞は、Fbx15選択を用いた場合においてもES細胞に匹敵するレベルでES細胞マーカー遺伝子を発現していた(図26B)。また、c−Mycを用いずに作製したiPS細胞からはアダルトのキメラマウスが高いiPS細胞寄与率で得られた(図27、表9)。腫瘍形成の発生率の増加はこれらのキメラマウスにおいては観察されなかった。すなわち、4遺伝子により樹立したiPS細胞由来のキメラマウスは、生後100日以内に37匹中6匹のキメラマウスが腫瘍が原因で死亡したが、c−Mycの無い3遺伝子により樹立したiPS細胞由来のキメラマウスは、26匹のキメラ全てが観察期間内(4か月弱)生存していたことから、c−Mycを用いないことにより、腫瘍形成性のリスクが減少することが明らかとなった。
c−Mycを用いずに、かつ薬剤選択なしでiPS細胞を効率的に単離できるか否かを調べた。4遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc−Myc)又はc−Mycを除く3遺伝子をNanogレポーターを含むアダルトの尻尾線維芽細胞(tail tip fibroblasts;TTF)に導入し、ピューロマイシン選択を適用せずに培養を継続した。遺伝子導入された細胞を視覚化するために、DsRedレトロウイルスを4遺伝子又は3遺伝子とともに導入した。。レトロウイルス導入の30日後には、4遺伝子を用いて遺伝子導入したディッシュは多数のGFP陰性コロニー及びバックグラウンド細胞で覆われた(図28A、表10:Nanog−GFPレポーターTTF+薬剤選択なし)。表中の括弧内の数値は、GFP陽性コロニー又はクローンの数を示す。レトロウイルス(Oct3/4,Sox2,Klf4,(c−Myc),及びDsRed)の割合は、No.256において1:1:1:(1):4、No.272及び309において1:1:1:(1):1であった。No.220においてはDsRedを導入しなかった。
蛍光顕微鏡下でこれらのコロニーのなかにGFP陽性コロニーが観察された(3回の独立した実験において4個、132個、及び424個のコロニー)。GFP陽性コロニーはDsRed陰性であり、この結果はNanogで選択したiPS細胞において観察されたレトロウイルスのサイレンシングの結果と一致していた(Okita et al.,Nature,448,pp.313−17,2007)。c−Mycを除いた3遺伝子を用いた場合には、コロニーのなかでバックグラウンド細胞をほとんど持たないコロニーとして観察された(3回の独立した実験において7個、21個、及び43個)。これらのコロニーの約半分はパッチ状態(patchy manner)でGFPを発現していた。DsRedは少数のコロニーにおいてのみ検出され、DsRedは大部分がサイレンシングされていることが示された。GFP及びDsRedの間でオーバーラップは観察されなかった。これらのコロニーのほとんどは増殖可能であり、継代数2においてもGFP陽性であり、かつDsRed陰性であった。従って、薬剤選択を行わない場合においてもc−Mycを用いることなくiPS細胞を作製でき、iPS細胞作製の特異性が向上することが示された。このiPS細胞においてはNanog−GFPは活性化され、かつレトロウイルスはサイレンシングされていた。
選択マーカーを有さないが、構成的に活性なプロモーターによって調節されるDsRed組換え遺伝子(Vintersten et al.,Genesis,40,pp.241−246,2004)を有するアダルトTTFから、iPS細胞の作製を試みた。4遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc−Myc)又はc−Mycを除く3遺伝子を細胞に導入した。さらにGFPレトロウイルスを導入してサイレンシングをモニターした。4遺伝子を導入した0.5×10個の細胞から薬剤選択なしで30日後に約1,000個のコロニーが出現した。これらの大部分はGFP陽性であり、これらの細胞ではレトロウイルスのサイレンシングが生じていないことが示された。一方、c−Mycを除いた3遺伝子を導入した3.5×10個の細胞から16個のコロニーが出現した(図28B)。これらのコロニーの大部分はGFPを発現しておらず、残りのコロニーはわずかにGFPを発現していた。これらのコロニーは全て増殖可能であり、継代数2においてもiPS細胞の形態(ES細胞様形態)を示した。また、これらの細胞は全てGFP陰性であり、レトロウイルスのサイレンシングが生じていることが示された。RT−PCRにより、これらの細胞ではES細胞に匹敵するレベルでES細胞マーカー遺伝子が発現していることが示された(図28C)。さらに、RT−PCRにより3遺伝子を用いて作製されたiPS細胞においてKlf4のレトロウイルスのサイレンシング及びc−Myc導入遺伝子の不存在が確認され、これらのiPS細胞を胚盤胞に移植した場合にはキメラマウスが得られた(図28D及び表9)。以上の結果から、c−Mycを用いることなく優れた特性を有するiPS細胞を得ることができ、薬剤選択を用いることなくアダルトTTFからiPS細胞を効率的に作製できることが示された。
次に、Oct3/4,Sox2及びKlf4に対するレトロウイルスをヒト新生児包皮由来線維芽細胞(BJ)(クローン246H)又はヒト成人皮膚由来繊維芽細胞HDF(253G)に導入した。30日後、数個のヒトiPS細胞コロニーが出現した。これらの細胞はヒトES細胞様のコロニー形態を示し、かつ増殖することができた(図29A)。c−Myc以外の3遺伝子を導入した場合(253G)、又はc−Mycに3遺伝子を加えて同時に導入した場合(253F)に、HDFに由来するヒトiPS細胞がES細胞マーカー遺伝子を発現することが確認された(図29B)。また、c−Mycレトロウイルスを用いずに誘導されたヒトiPS細胞の胚様体を介した分化が確認された(図30)。
例19における実験材料及び方法は以下の通りである。
1.プラスミドの構築
ファミリー遺伝子のコード領域を表11(配列表の配列番号127から152)にリストしたプライマーを用いたRT−PCRにより増幅し、pDONR201又はpENTR−D−TOPO(インビトロジェン)にサブクローニングし、LR反応(インビトロジェン)によりpMXs−gwに連結した。
2.レトロウイルスの形質導入
Fugene6試薬(ロッシュ)を製造業者の指示に従って用いてpMXsに基づいたレトロウイルスベクターをPLAT−E細胞(Morita et al.,Gene Ther.,7,pp.1063−1066,2000)へトランスフェクションした。24時間後に培地を交換し、さらに24時間後にウイルス含有上清を採取し、レトロウイルス感染による遺伝子導入を行った。「混合」プロトコルでは4遺伝子をそれぞれ含むベクターの混合物を用いてPLAT−E細胞の単一ディッシュに遺伝子導入した。「個別」方法では、各ベクターをPLAT−E細胞を含む個別のディッシュに遺伝子導入した。ウイルス含有上清は遺伝子導入の前に混合した。「個別」方法において有意に高い遺伝子導入効率が観察された。
3.薬剤選択を用いたiPS細胞の誘導
iPS細胞の誘導は既報の方法(Takahashi et al.,Cell,126,pp.663−676,2006;Okita et al.,Nature,448,pp.313−17,2007)を修正して行った。Nanog−GFP−IRES−Purorレポーター又はFbx15−βgeoレポーターのいずれか又は両方を含むMEFをSNLフィーダー細胞(McMahon et al.,Cell,62,pp.1073−1085,1990)をあらかじめ播いておいた6ウェルプレート及び100mmディッシュに1.3×10細胞/ウェル(6ウェルプレート)及び8.0×10細胞/ウェル(100mmディッシュ)の割合で撒いた。遺伝子を導入した細胞をLIF(Meiner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,93,pp.14041−14046,1996)を含むES細胞用培地で培養した。G418(300μg/ml)又はピューロマイシン(1.5μg/ml)による選択は既報の方法の通り開始した。遺伝子導入の25日から3日後にコロニー数を測定した。コロニーの一部を選択して継代させた。
4.薬剤選択を用いないiPS細胞誘導
TTFをアダルトNanogレポーターマウス又はアダルトDsRedトランスジェニックマウスから単離した(Vintersten et al.,Genesis,40,pp.241−246,2004)。レトロウイルス含有上清は「個別」方法で調製した。4遺伝子の導入のためにKlf4、c−Myc、Oct3/4、Sox2、及びDsRedのレトロウイルス含有上清を1:1:1:1:4の比率で混合した。3遺伝子を導入する場合は、Klf4、Oct3/4、Sox2、Mock(空ベクター)、及びDsRedのレトロウイルス含有上清を、1:1:1:1:4の比率で混合した。DsRedトランスジェニックマウスについては、GFPレトロウイルスをDsRedの代わりに使用した。トランスフェクションのためにTTFをフィーダー細胞層を有しない100mmディッシュに1ディッシュあたり8.0×10細胞の割合で撒いた。TTFにウイルス/ポリブレン含有上清を添加し、24時間感染させた。遺伝子導入の4日後に3遺伝子を導入したTTFをSNLフィーダー細胞層を有する100mmディッシュに1ディッシュあたり3.5×10細胞の割合で再び撒き、ES細胞用培地で培養した。4遺伝子を導入したTTFはSNLフィーダー細胞層を有する100mmディッシュに1ディッシュあたり0.5×10細胞の割合で再度撒いた。遺伝子導入の30日から40日後にコロニー数を測定した。コロニーの一部を選択して継代した。
5.iPS細胞の評価
RT−PCR及び奇形腫形成を既報の方法の通り行った。キメラ実験については15から20個のiPS細胞をBDF1由来胚盤胞に注入し、これを偽妊娠マウスの子宮に移植した。
例20:6遺伝子を用いた上皮細胞からのヒトiPS細胞の樹立
下記遺伝子:Klf4、c−Myc、Oct3/4、Sox2、Nanog、及びLin28(NCBI accession number NM_145833(マウス)又はNM_024674(ヒト))の組み合わせ、又はその組み合わせから1又は2以上の遺伝子を除いた組み合わせを用いてiPS細胞の誘導を行った。
6x10個の293FT細胞を10cmシャーレに播いて一晩培養し、このシャーレに3μgのpLenti6/UbC−Slc7a1レンチウイルスベクターを9μgのVirapower packaging mixと一緒にリポフェクトアミン2000(インビトロジェン)を用いてトランスフェクションした。24時間後、培地を新しい培地に交換した。さらに20時間後、培養上清を採取し、孔径0.45−μmのセルロースアセテートフィルター(ワットマン)で濾過した。5x10個の上皮細胞を前日に用意した。培養上清を取り除いた上皮細胞のシャーレに上記の濾過した培養上清に4μg/mlのポリブレン(ナカライタスク)を添加したものを加え、細胞を24時間培養した。
6cmのシャーレに1.0×10個のPLAT−E細胞を播いて培養した。その翌日、細胞にKlf4、c−Myc、Oct3/4、Sox2、Nanog、及びLin28を含むpMXを基礎としたレトロウイルスベクター9.0μgを27μlのFugene6トランスフェクション試薬(ロシュ)を用いてトランスフェクションした。24時間後、培地を新しい培地に交換した。さらに次の日、PLAT−E細胞の上清を回収し、孔径0.45−μmのセルロースアセテート・フィルター(ワットマン)で濾過した。レンチウイルス感染の7日後に、上皮細胞を3.0×10/6cmディッシュに播き直し、レトロウイルスとポリブレンを含む上記の培養上清を添加した。
結果を表12に示す。表中の“6F”は6遺伝子(Klf4、c−Myc、Oct3/4、Sox2、Nanog、及びLin28)を示し、“L”はLin28、“N”はNanog、“M”はc−Myc、“O”はOct3/4、“S”はSox2、“K”はKlf4をそれぞれ示す。文字の前の“−”は“−”に続く文字が示す遺伝子を上記6遺伝子から除いた場合を意味しており、例えば“−L”は6遺伝子からln−28を除いた残りの5遺伝子を意味し、“−KS”は6遺伝子からKlf4及びSox2を除いた4遺伝子を意味する。表中の数値はコロニー数を示し、“non−ES like”は非ES様形態を有するコロニーを示し、“ES like”はES様細胞形態を有するコロニーを示す。
表12には2回の実験結果を示した。1回目の実験結果は、遺伝子導入後23日又は29日目に各遺伝子の組み合わせを導入して誘導した細胞のコロニー数を示し、2回目の実験結果(右欄のDay23)は“6F”、“−KM”、及び“−NL”の場合のコロニー数を示す。″−L″のようにLin−28を導入しない細胞のコロニー数の方がLin−28を導入した場合のコロニー数よりも少なかったことから、Lin28がiPS細胞の樹立効率を向上させるのに重要な役割を担っていることが示された。
さらに、6遺伝子(Klf4、c−Myc、Oct3/4、Sox2、Nanog、及びLin28)、及び4遺伝子の2つの異なる組み合わせ(図31においてY4Fで示されるKlf4、c−Myc、Oct3/4、及びSox2、並びに図31においてT4Fで示されるOct3/4、Sox2、Nanog、及びLin28)を用いてiPS細胞誘導を行った。T4FはYu et al.,Science,318,pp.1917−1920,2007に開示されているものと同じ組み合わせである。図31において“ES−like”はES細胞のコロニーと形態的に類似したコロニーの数を示し、“total”はES様コロニーと非ES様コロニーの数の総数を示す。Exp#1、Exp#2、Exp#3、及びExp#4はそれぞれ個別に実験を行った結果を示す。これらの実験において、6遺伝子及びY4Fの4遺伝子の組み合わせを用いることによってES様細胞コロニーと類似した形態を有するiPS細胞コロニーが得られた。しかしながら、T4Fの組み合わせでは、ES様細胞コロニーと類似した形態を有するコロニーの生成は認められなかった。
例21:Sall4を用いた効率的なiPS細胞の生成
マウス胚性線維芽細胞(MEF)及びヒト成人皮膚由来繊維芽細胞(adult HDF)を用いて実験を行った結果、3遺伝子(Klf4、Oct3/4、及びSox2)を用いたiPS細胞誘導は、Sall4をこの組み合わせに加えた場合、即ちKlf4,Oct3/4,Sox2,及びSall4を用いた場合にiPS細胞の作製効率を上昇させることが判明した(図32及び33)。Sall4を4遺伝子(Klf4、Oct3/4、Sox2、及びc−Myc)に加えた場合、より多数のiPS細胞コロニーが観察された。これらの実験から、核初期化因子にSall4を追加することによってiPS細胞の誘導効率を改善できることが示された。
例22:マウスSall4及び/又はマウスSall1のiPS細胞誘導促進効果
既報の方法(Cell,131,pp.861−872,2007)に従い、レンチウイルスを用いてマウスエコトロピックレセプターSlc7a遺伝子を発現させた成人皮膚由来線維芽細胞(adult HDF)に、ヒト由来の4遺伝子(Y4F:Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc−Myc)又は3遺伝子(Y3F:Oct3/4、Sox2、及びKlf4)と、マウスSall4(mSall4)遺伝子又はマウスSall1(mSall1)遺伝子とをレトロウイルスを用いて導入した。
導入後6日目に一旦HDFを回収し、その後5x10個に調整したHDFを1.5x10個のマイトマイシンCで処理したSTO細胞上に播種した。翌日以降は、4ng/mlのリコンビナントヒトbFGF(WAKO)を含んだ霊長類ES細胞培養用培地(リプロセル)で培養した。感染後32日目及び40日目にES細胞様コロニー数をカウントした結果を図34に示す。感染後32日目においては、Y3F+Mock(空ベクター)を導入した場合のコロニー数は1個、Y4F+Mockを導入した場合のコロニー数は37個であったのに対して、Y3F又はY4Fと同時にSall4を導入した場合にはY3F+mSall4導入群で22個、Y4F+mSall4導入群で73個のコロニーが認められた。Y3F又はY4FにmSall1を導入した場合には、Y3F+mSall1導入群で2個、Y4F+mSall1導入群で43個のコロニーが認められ、Y3F又はY4Fのみを導入した場合と比べてコロニー数の差は大きくなかった。さらにY3F又はY4FにmSall4とmSall1とを同時に導入した場合のコロニー数は、Y3F+mSall4+mSall1導入群で34個、Y4F+mSall4+mSall1導入群で79個であった。
感染後40日目においては、Y3F+Mockを導入した場合のコロニー数は8個、Y4F+Mockを導入した場合のコロニー数は57個であったのに対して、Y3F又はY4Fと同時にmSall4を導入した場合にはY3F+mSall4導入群で62個、Y4F+mSall4導入群で167個のコロニーが認められた。Y3F又はY4FにmSall1を導入した場合には、Y3F+mSall1導入群で14個、Y4F+mSall1導入群で103個のコロニーが認められた。さらにY3F又はY4FにmSall4とmSall1とを同時に導入した場合のコロニー数はY3F+mSall4+mSall1導入群で98個、Y4F+mSall4+mSall1導入群で193個であった。以上の結果から、Y3FにmSall4を導入することにより、又はmSall4とmSall1とを同時に導入することによって20ないし100倍の効率でヒトiPS細胞を誘導できることが示された。また、Y4FにmSall4を導入することにより、又はmSall4とmSall1とを同時に導入することによって2ないし4倍の効率でヒトiPS細胞を誘導できることも示された。
例23:マウスSall4及び/又はマウスSall1のiPS細胞誘導促進効果(2)
既報の方法(Cell,131,pp.861−872,2007)に従い、レンチウイルスを用いてマウスエコトロピック受容体Slc7aを発現させたヒト成人皮膚由来線維芽細胞(HDFa−Slc7a1)にヒト由来の4遺伝子(T4F:Oct3/4、Sox2、Nanog、及びLin28)又は3遺伝子(T3F:Oct3/4、Sox2、及びNanog)とともに、マウスSall4(mSall4)又はマウスSall1(mSall1)あるいはその両方をレトロウイルスを用いて導入した。
導入後6日目に一旦HDFa−Slc7a1を回収し、その後5x10個に調整したHDFa−Slc7a1を1.5x10個のマイトマイシンCで処理したSTO細胞の上に播種した。さらに7日間培養した後、リコンビナントヒト4ng/ml bFGF(和光純薬)を含んだ霊長類ES細胞培養用培地(リプロセル)で培養した。感染後32日目及び40日目にES細胞様コロニー数をカウントした結果を図35に示す。感染後32日目においては、T3F+Mock及びT4F+Mockを導入した場合のコロニー数は0個であったのに対して、T3F又はT4Fと同時にmSall4を導入した場合にはT3F+mSall4導入群で2個のコロニーが認められた。T4F+mSall4導入群ではヒトES細胞様コロニーは確認できなかった。
T3F又はT4Fと同時にmSall1を導入した場合にはT3F+mSall1導入群で3個、T4F+mSall1導入群では6個のコロニーが認められた。さらにT3F又はT4FとともにmSall4とmSall1とを同時に導入した場合には、T3F+mSall4+mSall1導入群で3個のコロニーが認められた。T4F+mSall4+mSall1導入群ではヒトES様コロニーは確認できなかった。感染後40日目においては、T3F+Mock及びT4F+Mockを導入した場合のコロニー数は0個であったのに対して、T3F又はT4Fと同時にmSall4を導入した場合にはT3F+mSall4導入群で6個のコロニーが認められ、T4F+mSall4導入群で2個のコロニーが認められた。
T3F又はT4Fと同時にmSall1を導入した場合にはT3F+mSall1導入群で13個、T4F+mSall1導入群で22個のコロニーが認められた。さらにT3F又はT4FにmSall4とmSall1とを同時に導入した場合には、T3F+mSall4+mSall1導入群で17個のコロニーが認められ、T4F+mSall4+mSall1導入群では11個のコロニーが認められた。T3F及びT4Fの導入によるiPS細胞樹立においては、mSall4を追加することでiPS細胞コロニー形成における促進効果が認められ、mSall1のほうがより効率的にヒトiPS細胞コロニーの形成を誘導した。さらにmSall1とmSall4の両方をT3F又はT4Fとともに導入することによってヒトiPS細胞のコロニー形成をより促進できることが分かった。
例24:ヒトSall4のiPS細胞誘導促進効果
Cell,131,pp.861−872,2007に記載の方法に従い、レンチウイルスを用いてマウスエコトロピック受容体Slc7aを発現させたヒト成人皮膚由来線維芽細胞(HDFa−Slc7a1)を用意し、翌日、ヒト由来の4遺伝子(Y4F:Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc−Myc)又は3遺伝子(Y3F:Oct3/4、Sox2、Klf4)とヒトSall4(hSall4)とをレトロウイルスを用いて導入した。導入後6日目に一旦HDFを回収し、その後5x10個に調整したHDFを1.5x10個のマイトマイシンCで処理したSTO細胞の上に播種した。翌日以降は4ng/mlリコンビナントヒトbFGF(和光純薬)を含んだ霊長類ES細胞培養用培地(リプロセル)で培養した。感染後32日目及び40日目にES細胞様コロニー数をカウントした結果を図36に示す。
感染後32日目においては、Y3F+Mockを導入した場合のコロニー数は1個、Y4F+Mockを導入した場合のコロニー数は34個であったのに対して、Y3F又はY4Fと同時にhSall4を導入した場合にはY3F+hSall4導入群で8個、Y4F+hSall4導入群で52個のコロニーが認められた。感染後40日目においては、Y3F+Mockを導入した場合のコロニー数は5個、Y4F+Mockを導入した場合のコロニー数は52個であったのに対して、Y3F及びY4Fと同時にhSall4を導入した場合にはY3F+hSall4導入群で32個、Y4F+hSall4導入群で137個のコロニーが認められた。この結果、Y3FにhSall4を同時に導入することにより6ないし8倍の効率でヒトiPS細胞コロニーを得ることができ、Y4Fと同時にhSall4を導入することによって1.5ないし2.5倍の効率でヒトiPS細胞コロニーを得ることができることが示された。
例25:L−Mycの効果
(A)4遺伝子(Oct3/4、Klf4、Sox2、及びL−Myc)導入による核初期化の検討
(1)ヒトiPS細胞誘導に対する効果
マウスエコトロピックウイルスレセプターSlc7a1遺伝子を発現させた成人皮膚由来線維芽細胞(aHDF−Slc7a1)を既報の方法(Cell,131,pp.861−872,2007)に従って作製した。このaHDF−Slc7a1を3x10個/60mmディッシュの割合で蒔き、その翌日、上記刊行物に記載された方法に従ってヒト由来の4遺伝子(Oct3/4、Klf4、及びSox2の3遺伝子にL−Myc1(以下、単に「L−Myc」と称する)、c−Myc、又はN−Myc遺伝子を加えた合計4遺伝子)をレトロウイルスで導入した。ウイルス感染から6日後に細胞を回収し、MSTO細胞上への蒔き直しを行った(5x10個/100mmディッシュ)。その翌日から霊長類ES細胞培養用培地(リプロセル)に4ng/mlのリコンビナントヒトbFGF(和光純薬)を加えた培地で培養を行った。
レトロウイルス感染後、37日目に出現したヒトiPS細胞コロニー数をカウントした。4回の実験結果をまとめて表13及び図37に示す(図37は表13をグラフ化したものであり、グラフ上の数値はトータルコロニー数に対するiPS細胞コロニー数の割合を示す)。L−Mycを用いることにより、iPS細胞コロニーの誘導効率がc−Mycに比べて6倍も高くなり、トータルコロニー数に対するiPS細胞コロニー数の割合についてもc−Mycの場合に比べてL−Mycを用いた場合のほうが約2倍増加していた。N−Mycを用いた場合にもc−Mycの場合に比べてiPS細胞コロニー数の増加が認められた。マウス線維芽細胞(MEF)由来のiPS細胞誘導においては、c−Mycを用いた場合とL−Mycを用いた場合との間に差が無いことが報告されているが(Nature Biotech.,26,pp.101−106,2008)、ヒト細胞を用いる場合には、c−MycよりもL−Mycを用いたほうがiPS細胞の誘導効率が顕著に向上することが明らかとなった。
(2)in vitro分化誘導
Oct3/4、Klf4、Sox2、及びL−Mycの4遺伝子導入により樹立されたヒトiPS細胞(32R2,32R6)をlow−binding dishに播き、既報の方法(Cell,131,pp.861−872,2007)に従って胚様体(embryoid body:EB)を形成させた(100mmディッシュ)。2週間培養後、内胚葉系細胞の分化マーカーであるα−フェトプロテイン(R&Dシステムズ)、中胚葉系細胞の分化マーカーであるα−平滑筋アクチン(和光純薬)、及び外胚葉系の分化マーカーであるβIII−チューブリン(ケミコン)の各抗体を用いた染色を行った。結果を図38に示す。上記染色により各マーカーの発現が確認され、得られたヒトiPS細胞は三胚葉系への分化能を有することが確認された。
(3)奇形腫形成能
Oct3/4、Klf4、Sox2、及びL−Mycの4遺伝子導入により樹立されたヒトiPS細胞(32R6)を、リコンビナントヒトbFGF(4ng/ml)及びRhoキナーゼ阻害剤Y−27632(10μM)を含有する霊長類ES細胞培養用培地(ReproCELL)中で培養した。1時間後、collagen IVで処理して細胞を採取後、遠心して細胞を回収し、Y−27632(10μM)を含有するDMEM/F12中に浮遊させた。コンフルエントになった細胞(100mmディッシュ)の1/4量をSCIDマウスの精巣内に注射した。2〜3ヶ月後、腫瘍を切り刻んで4%ホルムアルデヒドを含有するPBS(−)で固定した。パラフィン包埋組織をスライスし、ヘマトキシリン・エオジンで染色した。この結果を図39に示す。組織学的に腫瘍は複数の種類の細胞から構成されており、神経組織、腸管様組織、軟骨組織、毛髪組織、脂肪細胞、及び色素組織が認められたことから、iPS細胞の多能性が証明された。
(4)キメラマウスの腫瘍形成に対する影響
Nanog遺伝子座にEGFPとピューロマイシン耐性遺伝子を組み込んで作製したNanogレポーターを有するマウス(Nature,448,pp.313−317,2007)よりMEFを単離した(MEF−Ng)。同様にFbx15遺伝子座にβ−geo遺伝子を組み込んで作製したFbx15レポーターを有するマウス(Cell,126,pp.663−676,2006)よりMEFを単離した(MEF−Fbx)。これらのMEFに4遺伝子(Oct3/4、Klf4、Sox2、及びL−Myc)をレトロウイルスを用いて導入し、MEF−Ngについてはピューロマイシンで選択し、MEF−FbxについてはG418で選択することによりiPS細胞を樹立した(それぞれNanog−iPS及びFbx−iPSと称する)。これらのiPS細胞をC57BL/6マウスの胚盤胞に移植することによりキメラマウスを作出した。キメラマウス及びF1マウスにおける腫瘍形成を検討した結果、現時点でそれぞれ以下の日数生存しており、また生存しているいずれのマウスにおいても腫瘍の発生は認められなかった。
キメラマウスFbx−iPS:19/19匹 349日生存中
キメラマウスNanog−iPS:15/16匹 363日生存中
F1 Nanog−iPS:1/1匹 255日生存中
F1 Nanog−iPS:3/3匹 181日生存中
F1 Nanog−iPS:1/1匹 132日生存中
キメラマウスNanog−iPS:30/30匹 63日生存中
キメラマウスNanog−iPS:12/14匹 62日生存中
Oct3/4、Klf4、Sox2、及びc−Mycの4遺伝子により初期化を行ったiPS細胞を用いた場合には、生後100日以内に37匹中6匹のキメラマウスが腫瘍が原因で死亡したが(Nature Biotech.,26,pp.101−106,2008)、c−Mycに代えてL−Mycを用いることにより生存日数に顕著な改善が認められ、かつ腫瘍発生が劇的に減少することが明らかとなった。
(B)3遺伝子(Oct3/4,Klf4,L−Myc)導入による核初期化の検討
(1)iPS細胞コロニー形成の有無
既報の方法(Nature Biotech.,26,pp.101−106,2008)に従い3遺伝子(Oct3/4、Klf4、及びL−Myc)導入によるiPSの樹立を試みた。上記(A)(1)ないし(4)に記載したMEF−Ngをゼラチンコートした6ウェル培養プレートに1.3x10個/ウェルの割合で蒔き、24時間後にマウス由来の3遺伝子(Oct3/4、Klf4、及びL−Myc)をレトロウイルスを用いて導入した。ウイルス感染から4日後に細胞を回収し、MSTO細胞上への蒔き直しを行った(1.5x10個/6ウェルプレート)。翌日から細胞をLIFを加えたES細胞培養用培地(DMEM(ナカライタスク)に15%牛胎仔血清、2mM L−グルタミン(インビトロジェン)、100μM非必須アミノ酸(インビトロジェン)、100μM 2−メルカプトエタノール(インビトロジェン)、50U/mLペニシリン(インビトロジェン)と50mg/mLストレプトマイシン(インビトロジェン)を加えたもの)を用いて培養した。ウイルス感染から46日目にGFP陽性コロニーをピックアップした(iPS−MEF−Ng−443−3クローン)。ピックアップした16個の細胞の写真を図40に示す。いずれの細胞もGFP陽性を示すiPS細胞コロニーであった。
これらのGFP陽性コロニー由来のクローンついて、遺伝子発現を検討するためにRT−PCR及びGenomic−PCRを行った。結果を図41に示す。いずれのクローンもES細胞のマーカー遺伝子であるNanog、Rex1、及びECAT1を発現していた。また、全てのiPS細胞コロニーにおいて導入した3種の遺伝子(Oct3/4、Klf4、及びL−Myc)がゲノム中に組み込まれていた。一方、mRNAの発現が検出されないクローンもあったが、これはサイレンシングを受けているためと考えられる。
(2)in vitro分化誘導
前記(1)で樹立した4つのクローン(iPS−MEF−Ng−443−3−3、iPS−MEF−Ng−443−3−6、iPS−MEF−Ng−443−3−12、及びiPS−MEF−Ng−443−3−13)をlow−binding dishに播き(2x10個/6ウェルプレート)、胚様体(embryoid body:EB)を形成させた。ES細胞培養用培地で2週間培養後、内胚葉系細胞の分化マーカーであるα−フェトプロテイン(R&Dシステムズ),中胚葉系細胞の分化マーカーであるα−平滑筋誘導に(ダコ),外胚葉系の分化マーカーであるβIII−チューブリン(ケミコン)の各抗体を用いた染色を行った。結果を図42に示す。染色によりこれらのマーカーの発現が確認され、得られたマウスiPS細胞は三胚葉系への分化能を有することが確認された。
(3)奇形腫形成能
前記(1)で樹立した4つのクローン(iPS−MEF−Ng−443−3−3、iPS−MEF−Ng−443−3−6、iPS−MEF−Ng−443−3−12、及びiPS−MEF−Ng−443−3−13)をそれぞれヌードマウスの皮下に注射した。4週間後に全例で奇形腫の形成が確認された。組織学的に腫瘍は複数の種類の細胞から構成されており、神経組織、腸管様組織、筋肉組織、表皮組織、及び軟骨組織が認められたことから(図43)、iPS細胞の多能性が証明された。
例26:ヒトiPS細胞誘導におけるL−Myc及びLin28の効果
マウスエコトロピックウイルスレセプターSlc7a1遺伝子を発現させた成人皮膚由来線維芽細胞(aHDF−Slc7a1)を既報の方法(Cell,131,pp.861−872,2007)に記載の方法に従い作製した。このaHDF−Slc7a1を3x10個/60mmディッシュの割合で蒔き、その翌日、上記刊行物に記載された方法に従ってヒト由来の以下の3遺伝子、4遺伝子、又は5遺伝子をレトロウイルスで導入した。
・Sox2、Oct3/4、及びKlf4
・Sox2、Oct3/4、Klf4、及びc−Myc
・Sox2、Oct3/4、Klf4、及びL−Myc
・Sox2、Oct3/4、Klf4、及びLin28
・Sox2、Oct3/4、Klf4、c−Myc、及びLin28
・Sox2、Oct3/4、Klf4、L−Myc、及びLin28
ウイルス感染から6日後に細胞を回収しMSTO細胞上への蒔き直しを行った(5x10個/100mmディッシュ)。その翌日から霊長類ES細胞培養用培地(リプロセル)に4ng/mlのリコンビナントヒトbFGF(和光純薬)を加えた培地で培養を行った。レトロウイルス感染後、37日目に出現した全コロニー(Total colonies)及びヒトiPS細胞コロニー数(hiPS colonies)をカウントした。結果を表14及び図44に示す(図44は表14をグラフ化したものである)。
Sox2、Oct3/4、Klf4、及びL−Mycの4遺伝子にLin28を加えることにより、iPS細胞コロニー数が顕著に増加した。このiPS細胞コロニー数は、Sox2、Oct3/4、Klf4、及びc−Mycの4遺伝子にLin28を加えた場合よりも顕著に多かった。また、Lin28はc−Mycの作用に対して相乗効果を示したが、L−Mycの作用に対してはさらに強い相乗効果を示した(表14)。トータルコロニー数に対するiPS細胞コロニーの割合についてもSox2、Oct3/4、Klf4、L−Myc、及びLin28の5遺伝子を用いた場合は極めて高い割合(84.7%)を与えた。以上の結果から、ヒトiPS細胞の誘導効率を改善するためには、Sox2、Oct3/4、Klf4、L−Myc、及びLin28の5遺伝子の組み合わせが極めて有効であることが明らかとなった。
例27:ヒトiPS細胞誘導におけるMycキメラ遺伝子及び変異遺伝子の効果
図45に示す各種Mycキメラ遺伝子(Ms−cL−Myc、Ms−Lc−Myc、Ms−cLc−Myc、Ms−LcL−Myc、Ms−ccL−Myc、Ms−cLL−Myc、Ms−LLc−Myc、Ms−Lcc−Myc)、及びMyc点変異遺伝子(c−MycW135E、c−MycV394D、c−MycL420P、L−MycW96E、L−MycV325D、L−MycL351P)を以下のとおり構築した。まず、マウスc−Myc(Ms−c−Myc)及びL−Myc(Ms−L−Myc)をそれぞれpENTR−D−TOPO(Invitrogen)に組み込み、pENTR−D−TOPO−Ms−c−Myc及びpENTR−D−TOPO−Ms−L−Mycを作製した。次に、マウスc−Myc(NCBI Acc.No.NM_010849)及びL−Myc(NCBI Acc.No.NM_008506)の配列情報に基づいて、図45に示した点変異を導入するためのプライマーを作製し、これを用いてpENTR−D−TOPO−Ms−c−Myc及びpENTR−D−TOPO−Ms−L−Mycを鋳型としてPCRを行った。各変異についてシークエンスで確認後、LR反応にてレトロウイルスベクターのpMXsにサブクローニングした。図45に示したキメラMycについては、各フラグメントをPCRにて増幅し、それぞれの組み合わせに応じて混合したものを鋳型としてPCRを行い、先と同様にレトロウイルスベクターのpMXsにサブクローニングした。
得られた各レトロウイルスベクターと例25で用いたSox2、Oct3/4、及びKlf4の各レトロウイルスベクターとを例25と同様にして成人皮膚由来線維芽細胞(aHDF−Slc7a1)に導入し、レトロウイルス感染後、31日目に出現した全コロニー(Total colonies)及びヒトiPS細胞コロニー(hiPS colonies)の数をカウントした。結果を図46及び表15に示す(図46は表15をグラフ化したものである)。
c−Myc及びL−Mycは、いずれもヒトとマウスにおいてアミノ酸レベルで100%近い同一性を有している。図46及び表15に示されるように、マウス遺伝子(Ms−c−Myc及びMs−L−Myc)を用いた場合にもヒト遺伝子(c−Myc及びL−Myc)と同様にヒトiPS細胞コロニーが生じたことから、マウスのc−Myc及びL−Mycはヒトのc−Myc及びL−Mycと実質的に同一の機能を持つことが確認された。
各種のMycキメラ遺伝子及び点変異遺伝子での結果を野生型と比較した結果、Ms−cL−Myc及びMs−cLc−Mycを用いた場合に、野生型L−Myc(L−Myc)と比べてiPS細胞コロニー数が増加しており、特にMs−cL−Mycを用いた場合に最も良好な結果が得られた。また、点変異遺伝子での結果から、c−Myc及びL−Myc共にC末端の1つのアミノ酸(c−MycL420P及びL−MycL351P)が非常に重要なことも明らかとなった。以上の結果から、ヒトiPS細胞樹立におけるMycの重要な機能領域は、c−MycのN末端側1/3の部分、L−Mycの中央部分、及びc/L−MycのC末端部分であることが示唆された。
本発明により安全な人工多能性幹細胞の製造方法及び効率的な人工多能性幹細胞の製造方法が提供される。
[配列表]

Claims (5)

  1. 体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法であって、Nanogを含有しない下記の種の遺伝子:
    (1)Oct3/4
    (2)Sox1、Sox2、Sox3、Sox15、Sox17及びSox18から選択される遺伝子
    (3)Klf1、Klf2、Klf4及びKlf5から選択される遺伝子
    (4)L−Myc、並びに
    (5)Lin28
    を体細胞に導入する工程を含む方法。
  2. 前記5種の遺伝子が、Oct3/4、Sox2、Klf4、L−Myc、及びLin28である、請求項に記載の方法。
  3. 体細胞がヒトを含む哺乳類動物の体細胞である請求項1ないしのいずれか1項に記載の方法。
  4. 体細胞がヒトの体細胞である請求項1ないしのいずれか1項に記載の方法。
  5. 下記の工程(1)及び(2):
    (1)請求項1ないしのいずれか1項に記載の方法により人工多能性幹細胞を得る工程、及び
    (2)上記工程(1)で得られた人工多能性幹細胞分化誘導する工程、
    を含む、体細胞の製造方法
JP2009508036A 2007-10-31 2008-10-31 核初期化方法 Active JP5349294B6 (ja)

Applications Claiming Priority (7)

Application Number Priority Date Filing Date Title
US110807P 2007-10-31 2007-10-31
US61/001,108 2007-10-31
US99628907P 2007-11-09 2007-11-09
US60/996,289 2007-11-09
US12/213,035 US8278104B2 (en) 2005-12-13 2008-06-13 Induced pluripotent stem cells produced with Oct3/4, Klf4 and Sox2
US12/213,035 2008-06-13
PCT/JP2008/070365 WO2009057831A1 (ja) 2007-10-31 2008-10-31 核初期化方法

Publications (3)

Publication Number Publication Date
JPWO2009057831A1 JPWO2009057831A1 (ja) 2011-03-17
JP5349294B2 JP5349294B2 (ja) 2013-11-20
JP5349294B6 true JP5349294B6 (ja) 2014-01-15

Family

ID=

Similar Documents

Publication Publication Date Title
US20220048963A1 (en) Nuclear reprogramming factor and induced pluripotent stem cells
CA2660123C (en) Nuclear reprogramming method
US8278104B2 (en) Induced pluripotent stem cells produced with Oct3/4, Klf4 and Sox2
US8129187B2 (en) Somatic cell reprogramming by retroviral vectors encoding Oct3/4. Klf4, c-Myc and Sox2
US20120076762A1 (en) Induced pluripotent stem cell generation using two factors and p53 inactivation
JP5467223B2 (ja) 誘導多能性幹細胞およびその製造方法
JP5553178B2 (ja) 効率的な人工多能性幹細胞の樹立方法
JP5626619B2 (ja) 効率的な核初期化方法
EP2342333A1 (en) Method for producing induced pluripotent stem cells
US20130065814A1 (en) Inductive production of pluripotent stem cells using synthetic transcription factors
JP5349294B6 (ja) 核初期化方法
ES2843833T3 (es) Método de reprogramación nuclear