以下、本発明の駆動力配分装置の制御装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
<第一実施形態>
(駆動力配分装置の制御装置の構成)
第一実施形態の駆動力配分装置の制御装置について図1,2を参照して説明する。図1は、駆動力配分装置10の制御装置を搭載した車両1の概略構成を示す図である。図2は、ECU20を示すブロック図である。
本実施形態において、駆動力配分装置10の制御装置(ECU20)を搭載する車両1は、前輪駆動ベースの4輪駆動車である。この4輪駆動車は、加速走行時においてエンジン2の駆動力が常時伝達されている駆動輪を前輪9fとするものである。つまり、前輪駆動ベースの4輪駆動車において、前輪9fが主駆動輪であり、後輪9rが副駆動輪である。また、車両1は、所定の配分割合で駆動力を前輪9fと後輪9rに配分する駆動力配分装置10と、駆動力配分装置10の作動を制御するECU20(本発明の「制御装置」に相当する)とを備えている。
車両1は、図1に示すように、車両1の前方側(図1の左側)にエンジン2を搭載している。エンジン2は、駆動力を発生し、本発明の「駆動源」に相当する。エンジン2の出力軸は、トランスミッション3を介してフロントディファレンシャル4に連結されている。これにより、エンジン2が出力する駆動力は、トランスミッション3において変速され、フロントディファレンシャル4に伝達される。
フロントディファレンシャル4は、一対の前輪駆動軸5を介して左右の前輪9fと連結され、駆動する左右の前輪9fの差動を吸収しつつ駆動力を伝達する差動装置である。この一対の前輪駆動軸5は、等速ジョイントなどを含むドライブシャフトである。また、フロントディファレンシャル4には、図示しないトランスファー機構を介してプロペラシャフト6の前端部が連結されている。
プロペラシャフト6の後端部には、後述する駆動力配分装置10の一端部が連結されている。また、駆動力配分装置10の他端部には、図示しないトランスファー機構を介してリアディファレンシャル7が連結されている。これにより、エンジン2が出力する駆動力は、フロントディファレンシャル4およびプロペラシャフト6などを介してリアディファレンシャル7に伝達される。
リアディファレンシャル7は、一対の後輪駆動軸8を介して左右の後輪9rと連結され、駆動する左右の後輪9rの差動を吸収しつつ駆動力を伝達する差動装置である。この一対の後輪駆動軸8は、等速ジョイントなどを含むドライブシャフトである。前輪9fおよび後輪9rは、4輪駆動車の駆動輪であって、前輪駆動軸5または後輪駆動軸8から車重を受けて、路面に対してそれぞれ荷重を加えている。
駆動力配分装置10は、いわゆる電子制御カップリングであり、ECU20によりその差動を制御されている。つまり、駆動力配分装置10は、ECU20の制御により、走行状態に応じた配分割合で駆動力を、主駆動輪である前輪9fと副駆動輪である後輪9rに分配する装置である。
より詳細には、この駆動力配分装置10は、プロペラシャフト6とリアディファレンシャル7との間に介在するように配置されている。駆動力配分装置10は、プロペラシャフト6側およびリアディファレンシャル7側のそれぞれにクラッチプレートを有する電磁クラッチを備えている。この電磁クラッチは、電磁コイルに供給される電流量に応じて、クラッチプレート間の摩擦係合力を変化させる。これにより、駆動力配分装置10は、電磁クラッチの摩擦係合力に基づく駆動力を入力側のプロペラシャフト6から出力側のリアディファレンシャル7へと伝達する。そして、ECU20は、駆動力配分装置10の電磁クラッチに対する電流供給を制御することにより、駆動力配分装置10が所定の配分割合により駆動力を配分するように制御している。
また、左右の前輪9fおよび後輪9rには、それぞれ車輪速センサ11f,11rが設けられている。前輪9f用の車輪速センサ11fおよび後輪用9rの車輪速センサ11rは、各駆動輪の回転速度を検出し、ECU20に回転速度に応じた信号を出力している。さらに、車両1は、車両1の前後方向の加速度を測定する加速度センサ12が設けられている。加速度センサ12は、車両1における荷重移動に伴い変化する加速度を測定し、ECU20に加速度に応じた信号を出力している。
ECU20は、マイクロコンピュータを主体として構成される電子制御装置であり、図2に示すように、走行状態判定部21と、制御部22と、振動検出部23、斜度測定部24と、補正部25を有している。また、上述したように、ECU20は、車輪速センサ11f,11rにより前輪9f、後輪9rの回転速度と、加速度センサ12により車両1の前後方向の加速度とを入力している。さらに、ECU20は、車両速度やシフト位置、エンジン2の回転数などを車両情報として入力している。その他、ECU20は、車両重量などの車両情報を予め記憶している。
走行状態判定部21は、車両情報に基づいて車両1の走行状態を判定する走行状態判定手段である。例えば、走行状態判定部21は、車両速度やシフト位置、アクセル操作やスロットルバルブの開度、ブレーキ制動状態などの車両情報に基づいて走行状態を判定する。これにより、車両1は、停車している停止状態や発進加速状態、一定速走行状態、加速状態、減速状態からなる走行状態の何れかに属するかを判定される。また、発進加速状態とは、車両1が停止状態から発進して加速している間の状態をいう。
制御部22は、駆動力配分装置10が走行状態に応じた配分割合で駆動力を配分するように駆動力配分装置10の作動を制御する制御手段である。制御部22による駆動力の配分割合は、走行状態判定部21により判定された車両1の走行状態に応じて設定されるものである。例えば、車両1が発進加速状態にある場合には、副駆動輪である後輪9rに主駆動輪である前輪9fと同程度の駆動力を配分するように制御する。また、制御部22は、例えば、車両1が一定速走行状態にある場合には加速状態と比較して後輪9rへの配分を少なくし、車両1が減速状態にある場合には後輪9rへの配分をゼロに設定するような制御を行う。
振動検出部23は、車両1における駆動系の振動を検出する振動検出手段である。本実施形態において、振動検出部23は、駆動輪における車輪速の差分から駆動輪のスリップを検知する。そして、振動検出部23は、副駆動輪である後輪9rにスリップが生じた場合に、駆動系の振動が生じたものとして検出する。よって、振動検出部23は、車輪速センサ11f,11rからECU20に入力される前輪9fおよび後輪9rの車輪速を取得している。駆動輪のスリップによる「駆動系の振動」の詳細については、後述する。
斜度測定部24は、所定時刻における車両1の斜度を測定する斜度測定手段である。車両1の斜度は、水平面に対して車両1が傾いている角度である。本実施形態において、斜度測定部24は、加速度センサ12からECU20に入力される車両1の前後方向の加速度を取得している。そして、車両1が平坦路で停止状態にある場合に測定される加速度と比較し、その変化量に基づいて車両1の斜度を測定している。
補正部25は、斜度測定部24により測定された車両1の斜度に基づいて制御部22の配分割合を補正する補正手段である。本実施形態において、ECU20は、振動検出部23により駆動系の振動が検出された場合に、防振制御を実行する。この防振制御は、駆動系の振動を低減するように副駆動輪である後輪9rに配分される駆動力を低減するように配分割合を補正する。つまり、補正部25は、車両1の斜度に基づいて算出された補正量により制御部22の配分割合を補正し、車両1の荷重移動を加味した防振制御を可能としている。
また、本実施形態において、補正部25は、車両1の走行状態が停止状態と判定された場合における加速度から斜度測定部24が測定した車両1の斜度を取得している。駆動系の振動は、特に、車両1の発進時に多く発生することが想定される。そして、車両1の停止状態において車両1には斜度に応じた荷重移動が生じている。つまり、駆動力による進行方向(前後方向)の加速度が比較的小さい車両1の発進時においては、停止状態における車両1の斜度に基づいて駆動力の配分割合を補正することが好適である。そこで、車両1の発進加速時に駆動系の振動が発生した場合には、補正部25は、停止状態において検出していた加速度から算出された車両1の斜度を取得し、駆動力の配分割合を補正するものとしている。
さらに、補正部25は、車両1の斜度が予め設定されている閾値を超えている場合に、斜度に基づく補正における補正量をゼロに設定している。つまり、補正部25は、車両1の斜度がある程度より大きい場合に、配分割合を補正しないものとしている。よって、ECU20は、車両1の斜度が閾値以下の場合に限り、防振制御を実行することになる。これは、例えば、急勾配における発進時など、大きな加速発進が必要と判断された場合に、防振制御よりも発進性を優先させるためのものである。この防振制御を含む「駆動力の配分制御」の詳細については、後述する。
(駆動系の振動)
ここで、駆動系の振動について説明する。車両1が停止状態にある場合に、運転者のアクセル操作に伴いエンジン2の回転数が上昇し、車両1が発進加速状態となる。ここで、濡れた路面や凍結路面など摩擦係数の低い低μ路において車両1が発進加速状態となった場合に、何れかの駆動輪にスリップが生じることがある。そうすると、前輪9fに連結された前輪駆動軸5と、後輪9rに連結された後輪駆動軸8との間で回転速度差が生じる。これらの前輪駆動軸5および後輪駆動軸8は、車両1の駆動系において連結されていることから、回転速度の大きい駆動軸側から回転速度の小さい駆動軸側に駆動力が伝達され、この駆動力が駆動系に蓄積されることになる。この蓄積された駆動力が解放された時に、駆動系における駆動軸5,8やプロペラシャフト6などに振動が発生する。
上述した例では、駆動系の振動は、車両1の発進加速状態において発生するものとした。また、駆動系の振動は、車両が急加速している場合や旋回している場合にも発生することがある。ここで、車両1のエンジン2が車両前方側に搭載されていることから、後輪9rは、前輪9fよりもエンジン2からの駆動力の伝達距離が長い構成となっている。そのため、駆動系における後輪9rに駆動力を伝達する系は、全体として前輪9fに駆動力を伝達する系と比較して剛性が低くなる。よって、車両1の発進加速状態においては、スリップの有無に係わらず、前輪9fの車輪速に対して後輪9rの車輪速が僅かに小さくなり、駆動系に応力が発生する。
つまり、駆動系において前輪9fの駆動力伝達系と、後輪9rの駆動力伝達系との剛性の相違から、車両1の発進加速状態では、駆動系に応力が蓄積される状態となっている。このような状況において、車両が急加速している状態または旋回している状態で路面の摩擦係数が低下し、駆動輪にスリップが生じると、駆動系の応力が発散し、発進加速状態の場合と同様に駆動系の振動が発生することになる。また、制御装置が副駆動輪に所定の配分割合で駆動力を配分しているのは、これらのような車両1の走行状態においては、4輪駆動にすることで発進性や加速性を確保するためである。
また、上述した駆動系の振動は、何れの走行状態において生じたとしても駆動輪のスリップに起因するものである。よって、前輪9fと後輪9rの回転速度に基づいて、駆動系の振動を検出することできる。そこで、本実施形態の振動検出部23は、車輪速センサ11f,11rにより測定される前輪9fおよび後輪9fの車輪速に基づいて、駆動系の振動を検出している。例えば、前輪9fおよび後輪9fの回転速度差や回転数差、回転加速度の差分などの値と、閾値とを比較することにより駆動系の振動が生じているかを判定してもよい。その他に、駆動輪の回転数と車両速度とに基づいて、駆動系の振動を検出するものとしてもよい。
(駆動力の配分制御)
以下、防振制御を含む駆動力の配分制御について、図3〜5を参照して説明する。図3は、駆動力の配分制御を示すフローチャートである。図4は、防振制御を示すフローチャートである。図5は、副駆動輪(後輪9r)に配分される駆動力と車両1の斜度との関係を示すグラフである。
まず、駆動力配分装置10の制御装置(ECU20)は、車両情報を取得する(S10)。この車両情報は、前輪9fの回転速度および後輪9rの回転速度、車両1の前後方向の加速度、車両速度などが含まれている。次に、走行状態判定部21は、車両情報に基づいて車両1の走行状態を判定する(S20)。これにより、車両1は、停止状態や発進加速状態、一定速走行状態、加速状態、減速状態からなる走行状態の何れかに属するかを判定される。
車両1が停止状態にある場合(S30:Yes)は、制御装置の斜度測定部24は、S10で取得した車両情報のうち車両1の前後方向の加速度から車両1の斜度φを測定する(S40)。S40において算出される車両1の斜度φは、車両1が平坦路で停止状態にある場合に測定された加速度と、車両情報に含まれる現在に測定された加速度とを比較して、その変化量に基づいて算出される。そして、車両1が停止状態にある場合(S30:Yes)は、駆動系の振動が発生していないものとし、処理を終了する。
一方、車両1が停止状態ではない場合(S30:No)は、車両1が停止状態から発進加速状態に移行し、駆動輪に駆動力が伝達されている状態となる。そこで、制御部22は、車両の走行状態に応じて駆動力の配分割合を設定する(S50)。S50において設定される配分割合は、現在の走行状態に対して、駆動力配分装置10が主駆動輪および副駆動輪に配分するべき割合として設定される。
次に、車両1の駆動系に振動が発生している場合に、補正部25は、その振動を低減するための防振制御を実行する(S60)。S60の防振制御により、駆動力の配分割合が適宜補正されることになる。そして、ECU20は、補正された駆動力の配分割合に応じた電流を駆動力配分装置10の電磁コイルに供給し、駆動力配分装置10の作動を制御し(S70)、処理を終了する。これにより、駆動力配分装置10は、所定の配分割合により主駆動輪および副駆動輪に駆動力を配分する。また、ECU20は、図3に示す処理を所定間隔で繰り返すことにより駆動力の配分制御を実行している。
ここで、S60の防振制御について詳述する。補正部25による防振制御は、図4に示すように、まず、振動検出部23は、車両1における駆動系の振動を検出する(S61)。駆動系の振動の検出については、上述したように、駆動輪のスリップによる前輪9fおよび後輪9fの車輪速(回転速度)に基づいて、検出することが可能である。つまり、S61の振動判定では、S10において取得した車両情報に基づいて駆動系の振動の有無を判定する。
車両1の駆動系の振動がある場合(S62:Yes)は、防振制御が必要であるので、次ステップである車両1の斜度φの取得(S63)に進む。これに対して、車両1の駆動系の振動がない場合(S62:No)は、防振制御が不要であるので、配分割合を補正することなく防振制御を終了する。
S63では、S40で測定した車両1の斜度φを取得する。つまり、車両1の斜度φは、車両1が発進加速状態に移行する直前の停止状態における加速度に基づいて測定されたものである。ここで、例えば、車両1が発進直後の発進加速状態にある場合には、車両1の加速に伴う荷重移動により加速度が変動するため、直前の停止状態の間に測定した斜度φを取得した方が好適である。つまり、本実施形態では、駆動系の振動が検出された場合に、防振制御において使用される車両1の斜度φは、車両1が停止状態にある時を所定時刻とし、この所定時刻において測定された斜度φとしている。
続いて、車両1の斜度φが予め設定されている閾値Th1を超えているか判定する(S64)。車両1の斜度φが閾値Th1を超えている場合(S64:Yes)は、車両1が平坦路で停車状態にある場合に測定される加速度に対して大きく変化していることになる。つまり、車両1は、閾値Th1を超える急勾配の坂路において駆動系の振動が発生していることになる。
このような急勾配の坂路にあるような車両状態においては、駆動系の振動を低減するために副駆動輪の駆動力を低減させる防振制御よりも、発進性を優先させて車両1全体としての駆動力を確保することが有効である。よって、本実施形態では、車両1の斜度φが閾値Th1を超えている場合(S64:Yes)は、斜度φに基づく補正における補正量をゼロに設定する。つまり、配分割合を補正することなく防振制御を終了する。これにより、駆動力配分装置10の制御装置は、S50で設定された配分割合で駆動力を主駆動輪および副駆動輪に配分するように駆動力配分装置10の作動を制御することになる。
一方、車両1の斜度φが閾値Th1以下の場合(S64:No)は、防振制御を実行するべき車両状態にあることから、次ステップである配分割合の補正(S65)に進む。S65では、S63において取得された車両1の斜度φに基づいてS50で設定された配分割合を補正する。本実施形態において、配分割合の補正量は、図5に示すように、車両1の斜度から算出することができる。ここで、縦軸のTaは、S50で設定される配分割合によって配分される副駆動輪の駆動力である。また、縦軸のTbは、防振制御により副駆動輪の駆動力が最も低減された場合の最小の駆動力である。
例えば、車両1の斜度φの場合、図5に示すように、副駆動輪に配分される駆動力は、駆動力T1となる。よって、補正量は、V1=Ta−T1として算出することができる。一方、車両1の斜度が閾値Th1を超える場合には、補正量はゼロに設定される。そして、駆動力の配分割合を補正量V1に基づいて補正し防振制御を終了する。このようにして、S60の防振制御では、副駆動輪である後輪9rに配分される駆動力を低減するように配分割合を適正に補正することにより、駆動系の振動の低減を図っている。
(制御装置の効果)
以上説明した駆動力配分装置10の制御装置によれば、制御装置(ECU20)は、駆動系の振動が検出された場合に、副駆動輪に配分される駆動力を低減するように、車両1の斜度に基づいて、駆動力の配分割合を補正する。このような構成により、駆動力配分装置10の制御装置は、坂路により車両1が傾斜しているような車両状態に適応し、適正に駆動力の配分割合を設定することができる。これにより、車両1の加速性や発進性を損なうことなく、駆動系の振動を低減することができる。
また、補正部25は、配分割合を補正する際に、副駆動輪に配分される駆動力を低減するように補正している。本実施形態のように車両1が前輪駆動ベースである場合に、登坂における停止状態では、車両1の後方に荷重が移動することにより副駆動輪のトラクションが平坦路にある場合と比較して増加している状態にある。
そのため、登坂における防振制御においては、平坦路における防振制御と比較して、副駆動輪(後輪)の駆動力の低減量は小さくしても十分に駆動系の振動を低減することができる。よって、前輪駆動ベースの車両1では、車両1の傾斜角度による荷重移動を考慮し、副駆動輪である後輪の駆動力を低減させるように配分割合を車両1の斜度に基づいて補正することが有効である。従って、本実施形態のような構成とすることによって、より確実に配分割合の適切な補正が可能となる。
斜度測定部24は、車両1の前後方向の加速度に基づいて車両1の斜度を測定している。車両1の斜度は路面の勾配により変化し、これに伴い車両1に荷重移動が生じることになる。車両1の前後方向の荷重移動が生じると、車両1の前後方向の加速度が変化する。よって、車両情報に含まれる車両1の前後方向の加速度を測定し、この加速度に基づいて、車両の斜度を測定している。これにより、停車状態における車両1の前後方向の斜度を簡易に測定することができる。
ここで、従来の駆動力配分装置の制御において、例えば、車両の発進加速状態に駆動系の振動が発生した場合に、副駆動輪に配分する駆動力を一定値に低下させることにより、駆動系の振動の低減を図るものがあった。しかし、このような構成では、車両1が平坦路にある場合を想定している場合に、路面が登坂であると必要以上に副駆動輪への駆動力を低下させてしまうことがある。これにより、車両の発進性が損なわれるということがあった。
これに対して、斜度測定部24は、車両1が停止状態にある場合に、車両1の加速度から車両1の斜度、即ち水平面に対して車両1が傾いている角度を測定している。そして、補正部25は、この停車状態における斜度に基づいて制御部22の配分割合を補正している。これにより、車両1の発進加速状態に、車両1の斜度に適応した配分割合で駆動力を配分することができる。よって、従来の駆動力配分装置10の制御と比較して、坂路における車両1の発進性を向上させることができるとともに、駆動系の振動を低減することができる。
ここで、前輪駆動ベースの車両が登坂路面において発進する場合に、発進性を向上させるためには、4輪駆動の状態にすることが望ましい。そこで、発進加速状態において、主駆動輪である前輪と、副駆動輪である後輪とに配分する駆動力を均等に近づけるように制御することがある。これは、登坂の傾斜角度が大きくなるほど必要となるが、この時、車両1の荷重は、傾斜角度が大きくなるにつれて後輪側に移動することになる。即ち、荷重比が後輪側へ偏るので、副駆動輪である後輪に配分する駆動力を低減し過ぎると、発進性が損なわれることになる。
そこで、補正部25は、上述したように、車両1の斜度φが予め設定されている閾値Th1を超えている場合に、車両1の斜度に基づく補正における補正量をゼロに設定する。これにより、ECU20は、制御部22で設定された配分割合で駆動力を主駆動輪および副駆動輪に配分するように駆動力配分装置10の作動を制御することになる。つまり、防振制御よりも、車両1の加速性または発進性の確保を優先するように閾値Th1により設定している。これにより、駆動力配分装置10の制御装置(ECU20)において、過剰な防振制御により発進性が損なわれることを防止することができる。
<第一実施形態の変形態様>
第一実施形態において、斜度測定部24は、加速度センサ12が検出した車両1の前後方向の加速度に基づいて車両1の斜度を測定するものとした。これに対して、斜度測定部24は、例えば、勾配計の測定値に基づいて斜度を測定するものとしてもよい。つまり、斜度測定部24は、何れかの方法により車両1の傾斜角度を測定し、その測定値に基づいて斜度を測定するものであればよい。このような構成においても第一実施形態と同様の効果を奏するものである。
<第二実施形態>
第二実施形態の駆動力配分装置の制御装置について図6〜図8を参照して説明する。図6は、第二実施形態のECU120を示すブロック図である。図7は、駆動力の配分制御を示すフローチャートである。図8は、防振制御を示すフローチャートである。ここで、第二実施形態の構成は、第一実施形態の制御装置が坂路で停止状態にある車両1の斜度を発進加速状態の防振制御に利用したのに対して、平坦路で発進加速状態にある車両1の発進加速度を防振制御に利用している点が相違する。その他の構成については、第一実施形態と実質的に同一であるため、詳細な説明を省略する。
(駆動力配分装置の制御装置の構成)
ECU120は、図6に示すように、補正部125を有している。補正部125は、車両1の発進加速度に基づいて制御部22の配分割合を補正する補正手段である。本実施形態の制御装置(ECU120)は、平坦路において、車両1の走行状態が発進加速状態にある場合に発生した駆動系の振動を低減するための防振制御を実行することを目的としている。また、補正部125は、走行状態判定部21により車両1が停止状態から発進して加速している間の発進加速状態と判定された場合に、当該発進加速状態において検出された車両1の発進加速度を取得する。つまり、補正部125は、車両1の発進加速度に基づいて算出された補正量により制御部22の配分割合を補正し、車両1の荷重移動を加味した防振制御を可能としている。
また、本実施形態において、補正部125は、車両1の走行状態が発進加速状態と判定された場合における加速度から補正量を算出している。駆動系の振動は、車両1の発進後において路面状況の変化などにより路面の摩擦係数が低下した時に発生することが想定される。そして、車両1の発進加速状態において車両1には発進加速度に応じた荷重移動が生じている。つまり、駆動力による進行方向の加速度が車両1にある程度加えられている走行状態においては、発進加速度に基づいて駆動力の配分割合を補正することが好適である。そこで、車両1の発進加速状態に駆動系の振動が発生した場合には、補正部125は、上記構成により補正量を算出し、防振制御を実行するものとしている。
さらに、補正部125は、車両1の発進加速度が予め設定されている閾値を超えている場合に、発進加速度に基づく補正における補正量をゼロに設定している。つまり、補正部125は、車両1の発進加速度がある程度より大きい場合に、配分割合を補正しないものとしている。よって、ECU120は、車両1の発進加速度が閾値以下の場合に限り、防振制御を実行することになる。これは、例えば、運転者の操作により大きな加速発進が必要と判断された場合に、防振制御よりも加速性を優先させるためのものである。そこで、補正部125は、発進加速度の大きさに代えて、アクセル操作やスロットルバルブの開度の信号に基づいて補正量をゼロに設定する構成としてもよい。
(駆動力の配分制御)
駆動力配分装置10の制御装置(ECU120)による駆動力の配分制御について、図7,図8を参照して説明する。なお、駆動力の配分制御において、S10,S20は、第一実施形態と同一であるため説明を省略する。制御装置は、S10で取得した車両情報のうち車両1の前後方向の加速度から車両1の発進加速度αを算出する(S140)。S140において算出される車両1の発進加速度αは、車両1が平坦路で停止状態にある場合に測定された車両1の前後方向の加速度と、現在に測定された加速度とを比較して、その変化量に基づいて算出される。また、車両の斜度による影響を考慮し、車両速度と発進加速状態において測定された加速度とに基づいて算出するものとしてもよい。そして、制御部22は、車両の走行状態に応じて駆動力の配分割合を設定する(S50)。
次に、車両1の駆動系に振動が発生している場合に、補正部125は、その振動を低減するための防振制御を実行する(S160)。S160の防振制御により、駆動力の配分割合が適宜補正されることになる。そして、ECU120は、補正された駆動力の配分割合に応じた電流を駆動力配分装置10の電磁コイルに供給し、駆動力配分装置10の作動を制御する(S70)。これにより、駆動力配分装置10は、所定の配分割合により主駆動輪および副駆動輪に駆動力を配分する。また、ECU120は、図7に示す処理を所定間隔で繰り返すことにより駆動力の配分制御を実行している。
ここで、S160の防振制御について詳述する。なお、S61,S62は、第一実施形態と同一であるため説明を省略する。防振制御は、図8に示すように、S62により駆動系に振動が発生しているものと判定(S62:Yes)されると、まず、S140で算出した車両1の発進加速度αを取得する(S163)。続いて、車両1の発進加速度αが予め設定されている閾値Th2を超えているか判定する(S164)。車両1の発進加速度αが閾値Th2を超えている場合(S164:Yes)は、車両1が平坦路で停車状態にある場合に測定される加速度に対して大きく変化していることになる。つまり、車両1は、閾値Th2を超える加速度が加えられた状態において駆動系の振動が発生していることになる。
このような急加速している車両状態においては、駆動系の振動を低減するために副駆動輪の駆動力を低減させる防振制御よりも、加速性を優先させて車両1全体としての駆動力を確保することが有効である。よって、本実施形態では、車両1の発進加速度αが閾値Th2を超えている場合(S164:Yes)は、発進加速度αに基づく補正における補正量をゼロに設定する。つまり、配分割合を補正することなく防振制御を終了する。これにより、駆動力配分装置10の制御装置は、S50で設定された配分割合で駆動力を主駆動輪および副駆動輪に配分するように駆動力配分装置10の作動を制御することになる。
一方、車両1の発進加速度αが閾値Th2以下の場合(S164:No)は、防振制御を実行するべき車両状態にあることから、次ステップである配分割合の補正(S165)に進む。S165では、S163において取得された車両1の発進加速度αに基づいてS50で設定された配分割合を補正する。本実施形態において、配分割合の補正量は、第一実施形態と同様に算出することができる。そして、駆動力の配分割合を補正量に基づいて補正し防振制御を終了する。このようにして、S160の防振制御では、副駆動輪である後輪9rに配分される駆動力を低減するように配分割合を適正に補正することにより、駆動系の振動の低減を図っている。
(制御装置の効果)
以上説明した駆動力配分装置10の制御装置によれば、第一実施形態と同様の効果を奏する。そして、本実施形態の駆動力配分装置10の制御装置における制御装置(ECU120)は、駆動系の振動が検出された場合に、副駆動輪に配分される駆動力を低減するように、車両1の発進加速度に基づいて、駆動力の配分割合を補正する。このような構成により、駆動力配分装置10の制御装置は、平坦路において発進する車両1の車両状態に適応し、適正に駆動力の配分割合を設定することができる。これにより、車両1の加速性や発進性を損なうことなく、駆動系の振動を低減することができる。
また、補正部125は、車両1の発進加速状態の場合に、車両1の発進加速度に基づいて配分割合を補正する構成となっている。ここで、従来の駆動力配分装置の制御装置において、例えば、車両が発進加速状態の場合に、副駆動輪に配分する駆動力を徐々に増大させて加速性を向上させることがある。このような場合に、路面状況の変化などにより路面の摩擦係数が低下し、副駆動輪にスリップなどが生じると駆動系の振動が発生するおそれがある。そのため、駆動力配分装置10の制御装置は、車両の発進加速状態においても駆動系の振動が検出された場合には、制御装置により副駆動輪に配分する駆動力を低減させるように防振制御することがある。
ここで、本実施形態のように車両1が前輪駆動ベースである場合に、発進加速により車両1の後方に荷重が移動することになる。これにより、車両1は、副駆動輪のトラクションが停止状態にある場合と比較して増加している状態にある。そのため、発進加速状態における防振制御においては、発進加速度を加味することにより、副駆動輪(後輪)の駆動力の低減量を比較的小さくしても十分に駆動系の振動を低減することができる。これにより、車両1の発進加速状態に適応し、副駆動輪に適切な駆動力を配分することができる。よって、従来の駆動力配分装置の制御装置と比較して、発進加速状態における加速性を向上させることができるとともに、駆動系の振動を低減することができる。
<第三実施形態>
第三実施形態の駆動力配分装置の制御装置について図9〜図12を参照して説明する。図9は、第三実施形態のECU220を示すブロック図である。図10は、荷重比の変化量Δの概念を示す図である。(a)は平坦路における荷重比であり、(b)は登坂における荷重比である。図11は、駆動力の配分制御を示すフローチャートである。図12は、防振制御を示すフローチャートである。ここで、第三実施形態の構成は、第一実施形態の制御装置に対して、車両1の荷重比の変化量を防振制御に利用している点が相違する。その他の構成については、第一実施形態と実質的に同一であるため、詳細な説明を省略する。
(駆動力配分装置の制御装置の構成)
ECU220は、図9に示すように、補正部225と、荷重検出部226をさらに有している。荷重検出部226は、基準荷重比に対する、所定時刻における車両1の荷重比の変化量を検出する荷重検出手段である。ここで、車両1の荷重比とは、図10(a)に示すように、前輪9fが路面に対して加える荷重Lf1と、後輪9rが路面に対して加える荷重Lr1の割合(Lf1:Lr1)のことである。
この荷重比は、車両1が平坦路において停止状態または一定速走行状態にある場合に対して、路面の勾配や走行状態の変化に伴う車両1の荷重移動により変動するものである。例えば、図10(b)に示すように、所定時刻において車両1が坂路において停止状態にある場合に、前輪9fが路面に対して加える荷重Lf2と、後輪9rが路面に対して加える荷重Lr2により、荷重比の割合(Lf2:Lr2)が変動する。同様に、それぞれの駆動輪に伝達する駆動力を増加させて、車両1が加速状態にある場合などにおいてもこの荷重比の割合は変動する。
そこで、荷重検出部226は、車両1が平坦路で停止状態にある場合の荷重比を基準荷重比としている。そして、この基準荷重比と、所定時刻における荷重比とを比較し、その変化量を検出している。つまり、荷重検出部226は、路面や走行状態などの車両状態による影響を車両1の荷重比の変化量として検出するものである。ここで、所定時刻とは、基準荷重比の検出時に対して、車両1の荷重比を検出したある瞬間を指している。よって、例えば、駆動力配分装置10の制御を必要としている時刻、走行状態が変化する前後の時刻が含まれる。
上述したように、車両1の荷重比は、車両1に荷重移動が生じることにより変化するものである。そして、車両1の前後方向の荷重移動が生じると、車両1の前後方向の加速度が変化する。よって、車両1の荷重比は、車両1の前後方向の加速度を測定し、例えば、車両速度や車両重量などの車両情報と、この加速度に基づいて検出することが可能である。そこで、本実施形態において、荷重検出部226は、加速度センサ12からECU220に入力される車両1の前後方向の加速度を取得している。そして、車両1の前後方向の加速度の変化に基づいて、車両1の荷重比の変化量を検出している。
補正部225は、荷重検出部226により検出された荷重比の変化量に基づいて制御部22の配分割合を補正する補正手段である。本実施形態において、ECU220は、振動検出部23により駆動系の振動が検出された場合に、防振制御を実行する。この防振制御は、駆動系の振動を低減するように副駆動輪である後輪9rに配分される駆動力を低減するように配分割合を補正する。つまり、補正部225は、荷重比の変化量に基づいて算出された補正量により制御部22の配分割合を補正し、車両1の荷重移動を加味した防振制御を可能としている。
さらに、補正部225は、車両1の荷重比の変化量が予め設定されている閾値を超えている場合に、荷重比の変化量に基づく補正における補正量をゼロに設定している。つまり、補正部225は、車両1の荷重比の変化量がある程度より大きい場合に、配分割合を補正しないものとしている。よって、ECU220は、車両1の荷重比の変化量が閾値以下の場合に限り、防振制御を実行することになる。
これは、例えば、急勾配における発進時や、運転者の操作により大きな加速発進が必要と判断された場合に、防振制御よりも発進性を優先させるためのものである。そこで、補正部225は、荷重比の変化量の大きさに代えて、アクセル操作やスロットルバルブの開度の信号に基づいて補正量をゼロに設定する構成としてもよい。
(駆動力の配分制御)
駆動力配分装置10の制御装置(ECU220)による駆動力の配分制御について、図11,図12を参照して説明する。なお、駆動力の配分制御において、S10,S20は、第一実施形態と同一であるため説明を省略する。制御装置の荷重検出部226は、車両1の基準荷重比に対する、現在の車両1の荷重比の変化量Δを検出する(S240)。そして、制御部22は、車両の走行状態に応じて駆動力の配分割合を設定する(S50)。
この車両1の荷重比は、車両1に荷重移動が生じることにより変化するものである。そして、車両1の前後方向の荷重移動が生じると、車両1の前後方向の加速度が変化する。よって、本実施形態において、車両1の荷重比は、S10において取得した車両情報に含まれる車両1の前後方向の加速度と、車両速度や車両重量に基づいて検出している。つまり、S240の荷重比の変化量Δの検出では、車両1の前後方向の加速度の変化に基づいて、車両1の荷重比の変化量Δを検出している。
次に、車両1の駆動系に振動が発生している場合に、その振動を低減するための防振制御を実行する(S260)。S260の防振制御により、駆動力の配分割合が適宜補正されることになる。そして、ECU220は、補正された駆動力の配分割合に応じた電流を駆動力配分装置10の電磁コイルに供給し、駆動力配分装置10の作動を制御する(S70)。これにより、駆動力配分装置10は、所定の配分割合により主駆動輪および副駆動輪に駆動力を配分する。また、ECU220は、図11に示す処理を所定間隔で繰り返すことにより駆動力の配分制御を実行している。
ここで、S260の防振制御について詳述する。なお、S61,S62は、第一実施形態と同一であるため説明を省略する。防振制御は、図12に示すように、S62により駆動系に振動が発生しているものと判定(S62:Yes)されると、まず、S240で算出した車両1の荷重比の変化量Δを取得する(S263)。続いて、車両1の荷重比の変化量Δが予め設定されている閾値Th3を超えているか判定する(S264)。車両1の荷重比の変化量Δが閾値Th3を超えている場合(S264:Yes)は、車両1の荷重比が基準荷重比に対して大きく変化していることになる。つまり、車両1は、急勾配の坂路にある場合や急加減速の状態にある場合などが想定され、閾値Th3を超える加速度が加えられた状態において駆動系の振動が発生していることになる。
このような急勾配または急加減速が想定される車両状態においては、駆動系の振動を低減するために副駆動輪の駆動力を低減させる防振制御よりも、加速性または発進性を優先させて車両1全体としての駆動力を確保することが有効である。よって、本実施形態では、車両1の荷重比の変化量Δが閾値Th3を超えている場合(S264:Yes)は、荷重比の変化量Δに基づく補正における補正量をゼロに設定する。つまり、配分割合を補正することなく防振制御を終了する。これにより、駆動力配分装置10の制御装置は、S50で設定された配分割合で駆動力を主駆動輪および副駆動輪に配分するように駆動力配分装置10の作動を制御することになる。
一方、荷重比の変化量Δが閾値Th3以下の場合(S264:No)は、防振制御を実行する車両状態にあることから、次ステップである配分割合の補正(S265)に進む。S265では、S240において検出された荷重比の変化量Δに基づいてS50で設定された配分割合を補正する。本実施形態において、配分割合の補正量は、第一実施形態と同様に算出することができる。そして、駆動力の配分割合を補正し防振制御を終了する。このようにして、S260の防振制御では、副駆動輪である後輪9rに配分される駆動力を低減するように配分割合を適正に補正することにより、駆動系の振動の低減を図っている。
(制御装置の効果)
以上説明した駆動力配分装置10の制御装置によれば、第一実施形態および第二実施形態と同様の効果を奏する。そして、本実施形態の駆動力配分装置10の制御装置における制御装置(ECU220)は、駆動系の振動が検出された場合に、副駆動輪に配分される駆動力を低減するように、車両1の荷重比の変化量に基づいて、駆動力の配分割合を補正する。このような構成により、駆動力配分装置10の制御装置は、車両1の斜度や発進加速に適応し、適正に駆動力の配分割合を設定することができる。これにより、車両1の加速性や発進性を損なうことなく、駆動系の振動を低減することができる。
また、荷重検出部226は、車両1の前後方向の加速度に基づいて車両1の荷重比の変化量を算出している。車両1の荷重比は、車両1に荷重移動が生じることにより変化する。車両1の前後方向の荷重移動が生じると、車両1の前後方向の加速度が変化する。よって、制御装置は、車両情報に含まれる車両1の前後方向の加速度を測定し、この加速度と、車両速度や車両重量などに基づいて、車両の荷重比を検出している。これにより、車両1の前後方向における荷重比の変化量を簡易に検出することができる。
<第三実施形態の変形態様>
第三実施形態において、補正部225は、荷重検出部226が検出した車両1の荷重比の変化量に基づいて制御部22の駆動力の配分割合を補正するものとした。これに対して、荷重検出部226は、第一実施形態および第二実施形態と同様に、車両1の斜度および発進加速状態における車両1の発進加速度を検出するものとしてもよい。つまり、荷重検出部226は、車両1の前後方向の加速度に基づいて荷重比の変化量を検出することになる。また、荷重検出部226は、車両1の斜度を測定することにより車両1の停止状態における荷重比の変化量を検出することになる。
これにより、荷重検出部226は、車両速度などを含む車両情報と、車両1の発進加速度または斜度に基づいて、荷重比の変化量を検出している。そして、補正部225は、この荷重比の変化量に基づいて、駆動力の配分割合を補正する。このような構成により、多様な車両状態に適応し、より高精度に駆動力の配分割合を補正できる。従って、車両1の発進性や加速性などを含む走行性を損なうことなく、駆動系の振動を低減することができる。また、車両1の斜度は、駆動系の振動が検出された時刻、例えば、車両1が発進加速状態にある時刻の加速度に基づいて測定されたものとしてもよい。
<第四実施形態>
第四実施形態の駆動力配分装置の制御装置について図13〜図15を参照して説明する。図13は、第四実施形態のECU320を示すブロック図である。図14は、駆動力の配分制御を示すフローチャートである。図15は、防振制御を示すフローチャートである。ここで、第四実施形態の構成は、第三実施形態の制御装置に対して、車両1の左右方向の加速度を防振制御に利用している点が相違する。その他の構成については、第三実施形態と実質的に同一であるため、詳細な説明を省略する。
(駆動力配分装置の制御装置の構成)
車両1は、車両1の前後方向の加速度および左右方向の加速度を測定する加速度センサ312が設けられている。加速度センサ312は、車両1における前後方向および左右方向への荷重移動に伴い変化する加速度を測定し、ECU320に加速度に応じた信号を出力している。
ECU320は、図13に示すように、補正部325と、摩擦係数検出部327をさらに有している。ECU320は、第三実施形態と同様に、車輪速センサ11f,11rにより前輪9f、後輪9rの回転速度と、加速度センサ312により車両1の前後方向および左右方向の加速度とを入力している。
摩擦係数検出部327は、路面の摩擦係数を検出する摩擦係数検出手段である。本実施形態において、摩擦係数検出部327は、ECU320に予め記録されている車両重量を含む車両情報と、車両1の前後方向および左右方向の加速度に基づいて、路面の摩擦係数を検出している。ここで、車両1の走行において、駆動輪に加えることのできる最大駆動力は、駆動輪が路面に加えている荷重と路面の摩擦係数に基づいて割り出すことができる。つまり、路面が低μ路である場合には最大駆動力は比較的小さくなり、路面が高μ路である場合には最大駆動力は比較的大きくなる。
エンジンなどの駆動源により出力されて駆動輪に伝達される駆動力が、この最大駆動力を超えなければ、駆動輪への配分割合を適切に設定することでスリップが生じることを防止できる。また、何れかの駆動輪に生じたスリップにより、駆動系に振動が生じたとしても、最大駆動力から配分割合を適正に補正をすることにより、加速性または発進性を損なうことなく防振制御を行うことができる。そこで、補正部325では、摩擦係数検出部327により検出された路面の摩擦係数に基づいて配分割合を補正する。この補正については、例えば、路面の摩擦係数に応じて、図5に示される副駆動輪の駆動力を全体として上下に変動させることにより、補正量を設定している。
さらに、補正部325は、路面μが予め設定されている閾値を超えている場合に、荷重比の変化量に基づく補正における補正量をゼロに設定している。つまり、補正部325は、車両1の荷重比の変化量がある程度より大きい場合に、配分割合を補正しないものとしている。よって、ECU320は、車両1の荷重比の変化量が閾値以下の場合に限り、防振制御を実行することになる。
これは、例えば、濡れた路面や凍結路面など極端に路面の摩擦係数が低い場合に、防振制御よりも走行性を優先させるためのものである。そこで、補正部325は、路面の摩擦係数の他に、アクセル操作やスロットルバルブの開度、ABS制御の信号に基づいて補正量をゼロに設定する構成としてもよい。
(駆動力の配分制御)
駆動力配分装置10の制御装置(ECU320)による駆動力の配分制御について、図14,図15を参照して説明する。なお、駆動力の配分制御において、S10,S20,S240は、第三施形態と同一であるため説明を省略する。
制御装置の摩擦係数検出部327は、車両重量を含む車両情報と、車両1の前後方向および左右方向の加速度に基づいて、路面の摩擦係数μを検出する(S340)。そして、制御部22は、車両の走行状態に応じて駆動力の配分割合を設定する(S50)。
次に、補正部325は、車両1の駆動系に振動が発生している場合に、その振動を低減するための防振制御を実行する(S360)。S360の防振制御により、駆動力の配分割合が適宜補正されることになる。そして、ECU320は、補正された駆動力の配分割合に応じた電流を駆動力配分装置10の電磁コイルに供給し、駆動力配分装置10の作動を制御する(S70)。これにより、駆動力配分装置10は、所定の配分割合により主駆動輪および副駆動輪に駆動力を配分する。また、ECU320は、図14に示す処理を所定間隔で繰り返すことにより駆動力の配分制御を実行している。
ここで、S360の防振制御について詳述する。なお、S61,S62,S263,S264は、第三実施形態と同一であるため説明を省略する。防振制御は、図15に示すように、S62により駆動系に振動が発生しているものと判定(S62:Yes)され、荷重比の変化量Δが閾値Th3以下の場合(S264:No)は、まず、S340で検出した路面の摩擦係数μを取得する(S363)。続いて、路面の摩擦係数μが予め設定されている閾値Th4を超えているか判定する(S364)。路面の摩擦係数μが閾値Th4を超えている場合(S364:Yes)は、車両1がスリップしやすい状態にあることが想定され、閾値Th4を超えるような低μ路において駆動系の振動が発生していることになる。
このような低μ路において、車両1が安定した発進が必要とされる車両状態においては、駆動系の振動を低減するために副駆動輪の駆動力を低減させる防振制御よりも、走行性を優先させて車両1全体としての駆動力を確保することが有効である。よって、本実施形態では、路面の摩擦係数μが閾値Th4を超えている場合(S364:Yes)は、荷重比の変化量Δと、路面の摩擦係数μとに基づく補正における補正量をゼロに設定する。つまり、配分割合を補正することなく防振制御を終了する。これにより、駆動力配分装置10の制御装置は、S50で設定された配分割合で駆動力を主駆動輪および副駆動輪に配分するように駆動力配分装置10の作動を制御することになる。
一方、路面の摩擦係数μが閾値Th4以下の場合(S364:No)は、防振制御を実行する車両状態にあることから、次ステップである配分割合の補正(S365)に進む。S365では、S240において検出された荷重比の変化量Δと、S340において検出された路面の摩擦係数μと、に基づいてS50で設定された配分割合を補正する。本実施形態において、配分割合の補正量は、第一実施形態と同様に算出することができる。そして、駆動力の配分割合を補正し防振制御を終了する。このようにして、S360の防振制御では、副駆動輪である後輪9rに配分される駆動力を低減するように配分割合を適正に補正することにより、駆動系の振動の低減を図っている。
(制御装置の効果)
以上説明した駆動力配分装置10の制御装置によれば、第一〜第三実施形態と同様の効果を奏する。そして、本実施形態の駆動力配分装置10の制御装置における制御装置(ECU320)は、駆動系の振動が検出された場合に、副駆動輪に配分される駆動力を低減するように、車両1の荷重比の変化量と、路面の摩擦係数と、に基づいて、駆動力の配分割合を補正する。このような構成により、駆動力配分装置10の制御装置は、車両1の斜度や発進加速度、および、低μ路などに適応し、適正に駆動力の配分割合を設定することができる。これにより、車両1の加速性や発進性を損なうことなく、駆動系の振動を低減することができる。
また、本実施形態における駆動力配分装置10の制御装置は、現在の路面の摩擦係数に対応した最大駆動力から配分割合を補正している。このような構成により、最大駆動力を割り出すことによって、より高精度に駆動力の配分割合を補正することが可能となる。そのため、例えば、何れかの駆動輪に生じたスリップにより駆動系に振動が生じたとしても、配分可能な駆動力による走行性を確保しつつ防振制御を行うことができる。さらに、発進加速状態において、車両1が旋回している場合には、遠心力により外側の駆動輪に荷重移動することになる。つまり、本実施形態のような構成にすることで、車両1の左右方向の斜度および旋回状態に適応し、副駆動輪に適切な駆動力を配分することができる。
<第一〜第四実施形態の変形態様>
第一〜第四実施形態において、駆動力配分装置10の制御装置(ECU20,120,220,320)を搭載する車両1は、前輪駆動ベースの4輪駆動車であるものとした。これに対して、車両1は、後輪駆動ベースの4輪駆動車としてもよい。後輪駆動ベースの4輪駆動車は、加速走行時においてエンジン2の駆動力が常時伝達されている駆動輪を後輪9rとするものである。つまり、後輪駆動ベースの4輪駆動車において、前輪9fが副駆動輪であり、後輪9rが主駆動輪である。
第一実施形態において、車両1の副駆動輪(後輪9r)のトラクションが増加する車両状態として、車両1が登坂路面にある場合を例示した。第二実施形態においては、同様の車両状態として、車両1が加速状態にある場合を例示した。これに対して、後輪駆動ベースの車両の副駆動輪(前輪)のトラクションが増加する車両状態は、車両が下り勾配の路面にある場合または減速状態にある場合などが考えられるそこで、このような車両状態において、同様に荷重比の変化量に基づいて駆動力の配分割合を補正することにより、後輪駆動ベースの車両であっても減速性または発進性を損なうことなく防振制御を行うことができる。よって、このような車両においても第一〜第四実施形態の構成を適用することで、同様の効果を奏する。
また、駆動力配分装置10を搭載した4輪駆動車では、車両の制動性を向上させるために、副駆動輪に適正な駆動力を配分可能な状態にすることが好適である。そこで、例えば、後輪駆動ベースの車両が下り勾配の路面にある場合では、副駆動輪(前輪)に所定の駆動力が配分されるように駆動力配分装置10の作動を制御する。これにより、車両をより安定的に制御することができる。上述したように、駆動力配分装置10の制御装置によれば、車両の加速性などを含む走行性を損なうことなく、駆動系の振動を低減する防振制御を行うことができる。