以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
図1に火花点火式内燃機関の側面断面図を示す。
図1を参照すると、1はクランクケース、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は燃焼室5の頂面中央部に配置された点火プラグ、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートをそれぞれ示す。吸気ポート8は吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、各吸気枝管11にはそれぞれ対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置される。なお、燃料噴射弁13は各吸気枝管11に取付ける代りに各燃焼室5内に配置してもよい。
サージタンク12は吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結され、吸気ダクト14内にはアクチュエータ16によって駆動されるスロットル弁17と例えば熱線を用いたエアフロメータ18とが配置される。一方、排気ポート10は排気マニホルド19を介して例えば三元触媒を内蔵した触媒コンバータ20に連結され、排気マニホルド19内には空燃比センサ21が配置される。
一方、図1に示される実施形態ではクランクケース1とシリンダブロック2との連結部にクランクケース1とシリンダブロック2のシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aが設けられており、さらに実際の圧縮作用の開始時期を変更可能な実圧縮作用開始時期変更機構Bが設けられている。なお、図1に示される実施形態ではこの実圧縮作用開始時期変更機構Bは吸気弁7の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構からなる。
図1に示されるようにクランクケース1とシリンダブロック2にはクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置関係を検出するための相対位置センサ22が取付けられており、この相対位置センサ22からはクランクケース1とシリンダブロック2との間隔の変化を示す出力信号が出力される。また、可変バルブタイミング機構Bには吸気弁7の閉弁時期を示す出力信号を発生するバルブタイミングセンサ23が取付けられており、スロットル弁駆動用のアクチュエータ16にはスロットル弁開度を示す出力信号を発生するスロットル開度センサ24が取付けられている。なお、本実施形態では、現在の機械圧縮比を検出するための機械圧縮比検出装置として相対位置センサ22が用いられるが、機械圧縮比検出装置としては相対位置センサ22以外の検出装置を使用することも可能である。
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35及び出力ポート36を具備する。エアフロメータ18、空燃比センサ21、相対位置センサ22、バルブタイミングセンサ23及びスロットル開度センサ24の出力信号はそれぞれ対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。さらに入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して点火プラグ6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用アクチュエータ16、可変圧縮比機構A及び可変バルブタイミング機構Bに接続される。
図2は図1に示す可変圧縮比機構Aの分解斜視図を示しており、図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図を示している。図2を参照すると、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されており、各突出部50内にはそれぞれ断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁面上には互いに間隔を隔ててそれぞれ対応する突出部50の間に嵌合せしめられる複数個の突出部52が形成されており、これらの各突出部52内にもそれぞれ断面円形のカム挿入孔53が形成されている。
図2に示されるように一対のカムシャフト54、55が設けられており、各カムシャフト54、55上には一つおきに各カム挿入孔53内に回転可能に挿入される円形カム58が固定されている。これらの円形カム58は各カムシャフト54、55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム58の両側には図3に示すように各カムシャフト54、55の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸57が延びており、この偏心軸57上に別の円形カム56が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示されるようにこれら円形カム56は各円形カム58の両側に配置されており、これら円形カム56は対応する各カム挿入孔51内に回転可能に挿入されている。また、図2に示されるようにカムシャフト55にはカムシャフト55の回転角度を表す出力信号を発生するカム回転角度センサ25が取付けられている。
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト54、55上に固定された円形カム58を図3(A)において矢印で示される如く互いに反対方向に回転させると偏心軸57が互いに離れる方向に移動するために円形カム56がカム挿入孔51内において円形カム58とは反対方向に回転し、図3(B)に示されるように偏心軸57の位置が高い位置から中間高さ位置となる。次いで更に円形カム58を矢印で示される方向に回転させると図3(C)に示されるように偏心軸57は最も低い位置となる。
なお、図3(A)、図3(B)、図3(C)にはそれぞれの状態における円形カム58の中心aと偏心軸57の中心bと円形カム56の中心cとの位置関係が示されている。
図3(A)から図3(C)とを比較するとわかるようにクランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離によって定まり、円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース1から離れる。すなわち、可変圧縮比機構Aは回転するカムを用いたクランク機構によりクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置を変化させていることになる。シリンダブロック2がクランクケース1から離れるとピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大し、したがって各カムシャフト54、55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
図2に示されるように各カムシャフト54、55をそれぞれ反対方向に回転させるために駆動モータ59の回転軸にはそれぞれ螺旋方向が逆向きの一対のウォーム61、62が取付けられており、これらウォーム61、62と噛合するウォームホイール63、64がそれぞれ各カムシャフト54、55の端部に固定されている。この実施形態では駆動モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。
一方、図4は図1において吸気弁7を駆動するためのカムシャフト70の端部に取付けられた可変バルブタイミング機構Bを示している。図4を参照すると、この可変バルブタイミング機構Bは機関のクランク軸によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転せしめられるタイミングプーリ71と、タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気弁駆動用カムシャフト70と一緒に回転しかつ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを具備しており、各ベーン75の両側にはそれぞれ進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
各油圧室76、77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76、77にそれぞれ連結された油圧ポート79、80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83、84と、各ポート79、80、82、83、84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を進角すべきときは図4においてスプール弁85が右方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転せしめられる。
これに対し、吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を遅角すべきときは図4においてスプール弁85が左方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転せしめられる。
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転せしめられているときにスプール弁85が図4に示される中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。したがって可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を所望の量だけ進角させることができ、遅角させることができることになる。
図5において実線は可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も進角されているときを示しており、破線は吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も遅角されているときを示している。したがって吸気弁7の開弁期間は図5において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができ、したがって吸気弁7の閉弁時期も図5において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
図1及び図4に示される可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
次に図6を参照しつつ本願において使用されている用語の意味について説明する。なお、図6の(A)、(B)、(C)には説明のために燃焼室容積が50mlでピストンの行程容積が500mlであるエンジンが示されており、これら図6の(A)、(B)、(C)において燃焼室容積とはピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室の容積を表している。
図6(A)は機械圧縮比について説明している。機械圧縮比は圧縮行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であってこの機械圧縮比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(A)に示される例ではこの機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
図6(B)は実圧縮比について説明している。この実圧縮比は実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの実圧縮比は(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。すなわち、図6(B)に示されるように圧縮行程においてピストンが上昇を開始しても吸気弁が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。したがって実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の如く表される。図6(B)に示される例では実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
図6(C)は膨張比について説明している。膨張比は膨張行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの膨張比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(C)に示される例ではこの膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
次に図7及び図8を参照しつつ本発明において用いられている超膨張比サイクルについて説明する。なお、図7は理論熱効率と膨張比との関係を示しており、図8は本発明において負荷に応じ使い分けられている通常のサイクルと超高膨張比サイクルとの比較を示している。
図8(A)は吸気弁が下死点近傍で閉弁し、ほぼ吸気下死点付近からピストンによる圧縮作用が開始される場合の通常のサイクルを示している。この図8(A)に示す例でも図6の(A)、(B)、(C)に示す例と同様に燃焼室容積が50mlとされ、ピストンの行程容積が500mlとされている。図8(A)からわかるように通常のサイクルでは機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11であり、実圧縮比もほぼ11であり、膨張比も(50ml+500ml)/50ml=11となる。すなわち、通常の内燃機関では機械圧縮比と実圧縮比と膨張比とがほぼ等しくなる。
図7における実線は実圧縮比と膨張比とがほぼ等しい場合の、すなわち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が大きくなるほど、すなわち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。したがって通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比は最大でも12程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできない。
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比とを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果理論熱効率は膨張比が支配し、理論熱効率に対して実圧縮比はほとんど影響を与えないことが見出されたのである。すなわち、実圧縮比を高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギーが必要となり、斯くして実圧縮比を高めても理論熱効率はほとんど高くならない。
これに対し、膨張比を大きくすると膨張行程時にピストンに対し押下げ力が作用する期間が長くなり、斯くしてピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。したがって膨張比は大きくすれば大きくするほど理論熱効率が高くなる。図7の破線ε=10は実圧縮比を10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。このように実圧縮比εを低い値に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、図7の実線で示す如く実圧縮比も膨張比と共に増大せしめられる場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
このように実圧縮比が低い値に維持されているとノッキングが発生することがなく、したがって実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大幅に高めることができる。図8(B)は可変圧縮比機構A及び可変バルブタイミング機構Bを用いて、実圧縮比を低い値に維持しつつ膨張比を高めるようにした場合の一例を示している。
図8(B)を参照すると、この例では可変圧縮比機構Aにより燃焼室容積が50mlから20mlまで減少せしめられる。一方、可変バルブタイミング機構Bによって実際のピストン行程容積が500mlから200mlになるまで吸気弁の閉弁時期が遅らされる。その結果、この例では実圧縮比は(20ml+200ml)/20ml=11となり、膨張比は(20ml+500ml)/20ml=26となる。図8(A)に示される通常のサイクルでは前述したように実圧縮比がほぼ11で膨張比が11であり、この場合に比べると図8(B)に示される場合には膨張比のみが26まで高められていることがわかる。これが超高膨張比サイクルと称される所以である。
一般的に言って内燃機関では機関負荷が低いほど熱効率が悪くなり、したがって機関運転時における熱効率を向上させるためには、すなわち燃費を向上させるには機関負荷が低いときの熱効率を向上させることが必要となる。一方、図8(B)に示される超高膨張比サイクルでは圧縮行程時の実際のピストン行程容積が小さくされるために燃焼室5内に吸入しうる吸入空気量は少なくなり、したがってこの超高膨張比サイクルは機関負荷が比較的低いときにしか採用できないことになる。したがって本発明では機関負荷が比較的低いときには図8(B)に示す超高膨張比サイクルとし、機関高負荷運転時には図8(A)に示す通常のサイクルとするようにしている。
なお、上述したように図8(B)に示す超高膨張比サイクルでは膨張比が26とされる。この膨張比は高いほど好ましいが図7からわかるように実用上使用可能な下限実圧縮比ε=5に対しても20以上であればかなり高い理論熱効率を得ることができる。したがって本発明では膨張比が20以上となるように可変圧縮比機構Aが形成されている。
ところで、上述したような構成の火花点火式内燃機関では、可変圧縮比機構Aにより機械圧縮比を変更することができ、可変バルブタイミング機構Bにより吸気弁閉弁時期を変更することができ、更にスロットル弁17の開度(スロットル開度)を変化させることにより吸入空気量を変更することができる。したがって、本実施形態の火花点火式内燃機関では、図9に示したような三次元的空間において内燃機関を制御することができる。
ここで、図9は、燃焼室5内に供給される吸入空気量と、機械圧縮比と、吸気弁閉弁時期とによって表される三次元的空間を示している。なお、図9において要求吸入空気量は原点0から離れるにしたがって増大し、機械圧縮比は原点0から離れるにしたがって増大する。また、図9において吸気弁閉弁時期は吸気下死点後(ABDC)のクランク角で表されており、したがって吸気弁閉弁時期は原点0から離れるにしたがって遅角される。
一方、図9においてQ1、Q2、Q3、Q4、Q5はそれぞれ同一吸入空気量平面を表している。また、θmaxはスロットル弁17が全開となっているスロットル全開面を表しており、図9からわかるようにこのスロットル全開面θmaxは上に凸の湾曲面からなる。このスロットル全開面θmaxの下方の領域では下方にいくほどスロットル開度が小さくなる。
この様子を図10に示す。図10の曲面θ1、θ2はそれぞれスロットル開度がθ1、θ2となっているときを示す同一スロットル開度曲面であり、図10からわかるように各スロットル開度曲面θ1、θ2は上に凸の湾曲面からなる。また、スロットル開度θmax、θ2、θ1の関係はθmax>θ2>θ1となっており、スロットル開度が小さいほど、同一機械圧縮比及び同一吸気弁閉弁時期における吸入空気量が少なくなる。このように、同一スロットル開度であっても吸入空気量が変化するのは、燃焼室5内に供給される吸入空気量がスロットル開度のみならず吸気弁閉弁時期によっても変化するためである。
一方、図9においてハッチングで示される領域は各同一吸入空気量平面Q1、Q2、Q3、Q4、Q5内における燃焼異常領域を示している。また、図11は図9の上からみたところを示しており、図12(A)は図9における左側面S1を矢印方向からみたところを示しており、図12(B)は図9における右側面S2を矢印方向からみたところを示しており、これら図11及び図12(A)、(B)においてもハッチングで示される領域は燃焼異常領域を示している。
図9、図11、図12(A)、(B)から燃焼異常領域は3次元的に広がっており、さらにこの燃焼異常領域は高負荷側の領域X1と低負荷側の領域X2との2つの領域からなることがわかる。なお、図9、図11、図12(A)、(B)からわかるように高負荷側燃焼異常領域X1は吸入空気量が多く、吸気弁閉弁時期が進角側で且つ機械圧縮比が高い側に形成され、低負荷側燃焼異常領域X2は吸入空気量が少なく、吸気弁閉弁時期が遅角側で且つ機械圧縮比が低い側に形成される。
ところで、実圧縮比はスロットル開度とは無関係であって、すなわち吸入空気量とは無関係であって、機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期のみによって定まる。したがって、図11において左上側ほど、すなわち機械圧縮比が高く且つ吸気弁閉弁時期が進角されるほど実圧縮比は高く、逆に図11において右下ほど、すなわち機械圧縮比が低く且つ吸気弁閉弁時期が遅角されるほど実圧縮比は低いものとなる。
ここで、燃費を向上するために実圧縮比を高くするとノッキングが発生し、ノッキングの発生を阻止するために点火時期を遅角させると燃焼が不安定となってトルク変動を生ずる。高負荷燃焼異常領域X1はこのようにして所定の限界トルク変動以上のトルク変動を生ずる運転領域であり、したがって機関運転時には機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及び吸入空気量の組合せを示す動作点(以下、「三次元的動作点」という)がこのようなトルク変動を生ずる運転領域内に入らないようにする必要がある。なお、実圧縮比が同一であっても吸入空気量が少なければノッキングやトルク変動は発生しにくくなることから、図9からわかるように高負荷燃焼異常領域X1は吸入空気量が少なくなるほど機械圧縮比の高い側に及び吸気弁閉弁時期の進角側に小さくなっている。
一方、吸入空気量が少なく実圧縮比が低くなると燃焼しづらくなり、スロットル開度が小さくなって圧縮端圧力が低くなると燃焼が悪化してトルク変動を生ずる。低負荷側燃焼異常領域X2はこのようにして所定の限界トルク変動以上のトルク変動を生ずる運転領域であり、したがって機関運転時にはこの運転領域にも三次元的動作点が入らないようにする必要がある。
ところで、本実施形態では、触媒コンバータ20内の三元触媒によって排気ガス中の未燃HC、CO及びNOXを同時に低減しうるように燃焼室5内における平均空燃比が空燃比センサ21の出力信号に基づいて理論空燃比にフィードバック制御されている。したがって、本実施形態では、出力トルクは、燃焼噴射弁13から噴射される燃料噴射量及び燃焼室5内に供給される吸入空気量に比例する。このため、本実施形態では、スロットルペダル40に踏込み量に応じた要求機関負荷に対応するように要求吸入空気量になるように燃焼室5内に供給される吸入空気量を制御しているといえる。
ここで、スロットルペダル40の踏込み量に対する内燃機関のレスポンスを高めるためには、実際の機関負荷をスロットルペダル40の踏込み量に対応する要求機関負荷に迅速に変化させることが必要になる。換言すると、実際の吸入空気量をスロットルペダル40の踏込み量に対応する(すなわち、要求機関負荷に対応する)要求吸入空気量に迅速に変化させることが必要になる。
これに対して、可変バルブタイミング機構Bのアクチュエータ(作動油供給制御弁78)やスロットル弁17のアクチュエータ16の作動速度(応答速度)は比較的速いのに対して、可変圧縮比機構Aのアクチュエータ(駆動モータ59等)の作動速度(応答速度)は比較的遅い。換言すると、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度の変更速度は比較的速いのに対して、機械圧縮比の変更速度は比較的遅い。したがって、要求吸入空気量が変化したときに、実際の吸入空気量を要求吸入空気量にまで変化させるのに吸気弁閉弁時期及びスロットル開度のみを変更すればよい場合には、実際の吸入空気量を要求吸入空気量まで迅速に変化させることができる。しかしながら、実際の吸入空気量を要求吸入空気量まで変化させるのに吸気弁閉弁時期及びスロットル開度に加えて機械圧縮比を変更することが必要な場合には、実際の吸入空気量を要求吸入空気量まで迅速に変化させることができない。このことについて、図13〜図16を参照して説明する。
ここで、図13は、図9と同様な図であり、図14は同一吸入空気量平面Q3を、図15は同一吸入空気量平面Q4をそれぞれ示している。さらに、図16は同一機械圧縮比平面ε1を示している。図14中の黒丸は同一吸入空気量平面Q3上に位置する、機械圧縮比と吸気弁閉弁時期との組合せを示す動作点(以下、「二次元的動作点」という)を示しており、白丸は同一吸入空気量平面Q3とは異なる同一吸入空気量平面上に位置する二次元的動作点を示している。同様に、図15中の黒丸は同一吸入空気量平面Q4上に位置する二次元的動作点を示しており、一方、白丸は同一吸入空気量平面Q4とは異なる同一吸入空気量平面上に位置する二次元的動作点を示している。
なお、二次元的動作点と三次元的動作点との違いについて簡単に説明すると、二次元的動作点が或る吸入空気量平面状における機械圧縮比と吸気弁閉弁時期との組合せを示す動作点を示しているのに対して、三次元的動作点は図9に示したような三次元的空間の中での機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及び吸入空気量の組合せを示す動作点を示している。以下の説明では、二次元的動作点及び三次元的動作点のいずれの意味をも含み得る場合には単に「動作点」と称する。
図13〜図16を参照して現在の吸入空気量がQ3となっているときに、要求吸入空気量がQ4に変化した場合を考える。現在の吸入空気量がQ3となっていることから、現在の動作点は同一吸入空気量平面Q3上に位置し、特に図13に示した例では現在の動作点が点a1(機械圧縮比がε1)となっている場合を示している。したがって、動作点a1は図14に示した同一吸入空気量平面Q3上に位置すると共に、図16に示した同一機械圧縮比平面ε1上に位置する。
このように現在の動作点が点a1であるときに要求吸入空気量がQ3からQ4に変化した場合、変化後の要求吸入空気量Q4を満たすべく動作点を同一吸入空気量平面Q4上まで移動させる必要がある。
ここで、上述したように、可変圧縮比機構Aのアクチュエータの動作速度は、可変バルブタイミング機構Bのアクチュエータ及びスロットル弁17のアクチュエータ16の動作速度に比べて遅い。このため、要求吸入吸気量が変化した場合には可変圧縮比機構Aによらずに可変バルブタイミング機構B及びスロットル弁17を動作させることによって、すなわち吸気弁閉弁時期及びスロットル開度を変更することによって、動作点を同一吸入空気量平面Q4上の動作点へ変更することが必要となる。
ここで、現在の動作点a1からスロットルの開度のみを最大速度で大きくすることによって吸入空気量をQ4まで増大させた場合、変更後の動作点は図13において動作点a1の鉛直上方に位置する動作点b1となる。ところが、この動作点b1は図15及び図16からわかるように高負荷側燃焼異常領域X1内に位置するため、動作点b1においては燃焼室5内での混合気の燃焼を適切に行うことができない。
一方、現在の動作点a1からスロットル開度を最大速度で大きくすることに加えて、吸気弁閉弁時期を最大速度で遅角させた場合、変更後の動作点は図13において動作点a1の鉛直上方よりも遅角側に位置する動作点b1’となる。ところが、この動作点b1’も図15及び図16からわかるように高負荷側燃焼異常領域X1内に位置するため、動作点b1’においては燃焼室5内での混合気の燃焼を適切に行うことができない。
したがって、動作点がa1にある状態から、吸入空気量をQ4に変化させる場合には、スロットル開度を最大速度で変化させると動作点が高負荷側燃焼異常領域X1内に侵入してしまうことになる。このため、この場合、動作点が高負荷側燃焼異常領域X1内に侵入しないようにするためには、スロットル開度を最大速度よりも遅い速度で変更することが必要になり、要求吸入空気量が変化してから実際の吸入空気量が変化後の要求吸入空気量になるまでに時間がかかってしまい、実際の吸入空気量を要求吸入空気量まで迅速に変化させることができない。
これに対して、吸入空気量がQ3であるときの動作点が上記点a1よりも吸気弁閉弁時期が遅角側となっている動作点a2にある場合を考える。この場合も、動作点a2における吸入空気量はQ3であり、機械圧縮比はε1である。したがって、動作点a2は図14に示した同一吸入空気量平面Q3上に位置すると共に、図16に示した同一機械圧縮比平面ε1上に位置する。
このように現在の動作点がa2である状態で要求吸入空気量がQ3からQ4に変化した場合、現在の動作点a2からスロットル開度を最大速度で大きくすると共に、吸気弁閉弁時期を最大速度で遅角させると、変更後の動作点は図15及び図16に示した動作点b2となる。図15及び図16からわかるようにこの動作点b2は高負荷側燃焼異常領域X1の外に位置するため、動作点b2においては燃焼室5内での混合気の燃焼を適切に行うことができる。
このように要求吸入空気量が変化したときにスロットル開度及び吸気弁閉弁時期を最大速度で変化させて実際の吸入空気量を迅速に要求吸入空気量まで変化させることができるか否かは、要求吸入空気量が変化する前における動作点の位置に応じて異なるといえる。逆に言うと、要求吸入空気量が変化する前の動作点の位置を適切にしておけば、要求吸入空気量が変化したときにスロットル開度及び吸気弁閉弁時期を最大速度で変化させて実際の吸入空気量を迅速に要求吸入空気量まで変化させることができるようになるといえる。
そこで、本発明の実施形態では、各吸入空気量に対して二次元的動作点が移動可能な許可領域を設定し、実際の吸入空気量が要求吸入空気量となっているときには二次元的動作点がこの要求吸入空気量に対して設定される許可領域内を移動するように可変圧縮比機構A、可変バルブタイミング機構B及びスロットル弁17を制御するようにしている。
図17〜図20を参照して、許可領域YQxについて説明する。図17は同一機械圧縮比平面ε1を示す、図16と同様な図であり、図18、図19及び図20はそれぞれ同一吸入空気量平面Q3、Q2及びQ4を示している。
ここで、図17を参照して、現在の吸入空気量がQ3であって機械圧縮比がε1である場合について考える。この場合、図17からわかるように、吸気弁閉弁時期を最進角時期(図17に示したでは30°ABDC)から最遅角時期(図17に示した例では130°ABDC)までの如何なる時期に設定しても動作点は高負荷側燃焼異常領域X1及び低負荷側燃焼異常領域X2のいずれにも侵入しないため、動作点が取り得る範囲は図17の一点鎖線Z上の点である。
一方、現在の吸入空気量がQ3であって機械圧縮比がε1である場合、要求吸入空気量が増大したときに、吸気弁閉弁時期を最大速度で変化させれば、三次元的動作点が高負荷側燃焼異常領域X1に侵入することなくスロットル開度を最大速度でほぼ全開まで大きくすることができる吸気弁閉弁時期は時期VT1よりも遅角側である。
すなわち、吸入空気量がQ3、機械圧縮比がε1であり且つ吸気弁閉弁時期がVT1である状態から、要求吸入空気量の増大に伴ってスロットル開度を最大速度で大きくし且つ吸気弁閉弁時期を最大速度で遅角させると、動作点は図17に示した実線M1上を通って変化し、最終的にスロットル全開面θmaxと高負荷側燃焼異常領域X1との交点m1に到達する。
このため、吸入空気量がQ3、機械圧縮比がε1であって且つ吸気弁閉弁時期がVT1よりも進角側である状態から、要求吸入空気量の増大に伴ってスロットル開度を最大速度で大きくすると、吸気弁閉弁時期を最大速度で遅角させたとしても、最終的に動作点はスロットル全開面θmaxと高負荷側燃焼異常領域X1との交点m1よりも進角側に到達し、よって高負荷側燃焼異常領域X1に侵入してしまう。一方、吸入空気量がQ3、機械圧縮比がε1であって且つ吸気弁閉弁時期がVT1よりも遅角側である状態から、要求吸入空気量の増大に伴ってスロットル開度を最大速度で大きくすると、吸気弁閉弁時期を最大速度で遅角させれば、最終的に動作点はスロットル全開面θmaxと高負荷側燃焼異常領域X1との交点m1よりも遅角側に到達し、よって高負荷側燃焼異常領域X1には侵入しない。
逆に、現在の吸入空気量がQ3であって機械圧縮比がε1である場合、要求吸入空気量が減少したときに、吸気弁閉弁時期を最大速度で変化させれば、三次元的動作点が低負荷側燃焼異常涼気X2に侵入することなくスロットル開度を最大速度でほぼ全閉まで小さくすることができる吸気弁閉弁時期は時期VT2よりも進角側である。
すなわち、吸入空気量がQ3、機械圧縮比がε1であり且つ吸気弁閉弁時期がVT2である状態から、要求吸入空気量の減少に伴ってスロットル開度を最大速度で小さくし且つ吸気弁閉弁時期を最大速度で進角させると、動作点は図17に示した実線M2上を通って変化し、最終的に同一吸入空気量平面Q1と低負荷側燃焼異常領域X2との交点m2に到達する。
このため、吸入空気量がQ3、機械圧縮比がε1であって且つ吸気弁閉弁時期がVT2よりも遅角側である状態から、要求吸入空気量の減少に伴ってスロットル開度を最大速度で小さくすると、吸気弁閉弁時期を最大速度で進角させても、最終的に動作点は同一吸入空気量平面Q1と低負荷側燃焼異常領域X2との交点m2よりも遅角側に到達し、よって低負荷側燃焼異常領域X2に侵入してしまう。一方、吸入空気量がQ3、機械圧縮比がε1であって且つ吸気弁閉弁時期がVT2よりも進角側である状態から、要求吸入空気量の減少に伴ってスロットル開度を最大速度で小さくすると、吸気弁閉弁時期を最大速度で進角させれば、最終的に動作点は同一吸入空気量平面Q1と低負荷側燃焼異常領域X2との交点m2よりも進角側に到達し、よって低負荷側燃焼異常領域X2には侵入しない。
したがって、現在の吸入空気量がQ3であって機械圧縮比がε1であるときには、吸気弁閉弁時期をVT1からVT2の間に設定しておけば、要求吸入空気量が急激に増大又は減少した場合であっても、スロットル開度をほぼ全開(全開を含む)まで又はほぼ全閉(全閉を含む)まで最大速度で変更することができ、よって実際の吸入空気量を迅速に要求吸入空気量まで変化させることができる。以下では、このような吸気弁閉弁時期VT1とVT2との間の領域を許容範囲と称する。
なお、図17において、実線M1及び実線M2が直線的ではなく、湾曲しているのは、可変バルブタイミング機構Bのアクチュエータの初期の動作速度がスロットル弁17のアクチュエータ16の初期の動作速度よりも遅いためである。すなわち、スロットル弁17のアクチュエータ16はその動作に油圧を利用しておらず電動で駆動されるため、スロットル開度はその変化初期から最大速度で変化させることが可能である。これに対して、可変バルブタイミング機構Bのアクチェエータは図4に示したようにその動作に油圧を利用しており、このため吸気弁閉弁時期はその変化初期には最大速度で変化させることができない。このため、スロットル開度及び吸気弁閉弁時期を最大速度で変化させようとした場合には、図17に実線M1、M2で示したように、最初にスロットル開度のみ(すなわち、吸入空気量のみ)が変化し、その後、スロットル開度と吸気弁閉弁時期が変化するようになる。
ここで、図17に示した例では、吸入空気量がQ3であって機械圧縮比がε1であるときの許容範囲VT1〜VT2について説明したが、斯かる許容範囲は機械圧縮比をε1以外の機械圧縮比としたときにも存在する。このような各機械圧縮比毎の許容範囲をまとめると図18に示したような許可領域YQ3となる。
したがって、この吸入空気量Q3に対して設定された許可領域YQ3は、三次元的動作点が許可領域YQ3内にある状態から、スロットル開度を最大速度でほぼ全開又はほぼ全閉まで変更しても(すなわち、スロットル弁17のアクチュエータ16を最大速度で限界まで駆動させても)、吸気弁閉弁時期を最大速度で変更すれば(すなわち、可変バルブタイミング機構Bを最大速度で駆動させれば)、スロットル開度をほぼ全開又はほぼ全閉まで変更する間に三次元的動作点が高負荷側燃焼異常領域X1及び低負荷側燃焼異常領域X2に侵入しないような領域であるといえる。
したがって、上述したように、吸入空気量がQ3であるときには、二次元的動作点が図18の許可領域YQ3内に位置するように或いは許可領域YQ3内で移動するように可変圧縮比機構A、可変バルブタイミング機構B及びスロットル弁17を制御することにより、現在の吸入空気量Q3から要求吸入空気量がQ3以外の如何なる吸入空気量へ変化した場合であっても、実際の吸入空気量を迅速に要求吸入空気量にすることができる。
また、同様なことは吸入空気量がQ3以外であるときにもいえる。例えば、図19を参照して、吸入空気量がQ2である場合について考える。ここで、図19に示した許可領域YQ2は、上記許可領域Q3と同様な領域であって、三次元的動作点が許可領域YQ2内にある状態からスロットル開度を最大速度でほぼ全開又はほぼ全閉まで変更しても、吸気弁閉弁時期を最大速度で変更すれば、スロットル開度をほぼ全開又はほぼ全閉まで変更する間に三次元的動作点が高負荷側燃焼異常領域X1及び低負荷側燃焼異常領域X2に侵入しないような領域である。
したがって、吸入空気量がQ2であるときには、機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期の組合せを示す二次元的動作点を図19の許可領域YQ2内に位置するように可変圧縮比機構A、可変バルブタイミング機構B及びスロットル弁17を制御することにより、現在の吸入空気量がQ2である状態から要求吸入空気量がQ2以外の如何なる吸入空気量へ変化した場合であっても、実際の吸入空気量を迅速に要求吸入空気量にすることができる。
同様に、図20を参照して、吸入空気量がQ4にある場合について考える。ここで、図20に示した許可領域YQ4は、上記許可領域Q3と同様な領域であって、三次元的動作点が許可領域YQ4内にある状態からスロットル開度を最大速度で変更しても、吸気弁閉弁時期を最大速度で変化させれば、スロットル開度をほぼ全開又はほぼ全閉まで変更する間に三次元的動作点が高負荷側燃焼異常領域X1及び低負荷側燃焼異常領域X2に侵入しないような領域である。
したがって、吸入空気量がQ4であるときには、機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期の組合せを示す二次元的動作点を図20の許可領域YQ4内に位置するように可変圧縮比機構A、可変バルブタイミング機構B及びスロットル弁17を制御することにより、現在の吸入空気量がQ4である状態から要求吸入空気量がQ4以外の如何なる吸入空気量へ変化した場合であっても、実際の吸入空気量を迅速に要求吸入空気量にすることができる。
したがって、本発明の実施形態では、各吸入空気量毎に上述したように二次元的動作点が移動可能な許可領域を設定し、吸入空気量が或る吸入空気量となっているときには二次元的動作点が上記或る吸入空気量に対して設定される許可領域内に位置するように可変圧縮比機構A、可変バルブタイミング機構B及びスロットル弁17を制御するようにしている。このように可変圧縮比機構A、可変バルブタイミング機構B及びスロットル弁17を制御することにより、現在の吸入空気量が如何なる吸入空気量であっても、要求吸入空気量が変化した際に実際の吸入空気量を変化後の要求吸入空気量に迅速に到達させることができるようになる。
次に、図18〜図20を参照して、本発明の火花点火式内燃機関における機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度の制御目標について説明する。
ところで、図8を参照して説明したように、機関負荷が高いとき、すなわち吸入空気量が多いときには、超高膨張比サイクルを採用することができないため機械圧縮比を低くし且つ吸気弁閉弁時期を進角させることが必要であるが、機関負荷が低くなるにつれて、すなわち吸入空気量が少なくなるにつれて機械圧縮比を高くし且つ吸気弁閉弁時期を遅角させていくことにより燃費を向上させることができる。
このように燃費を最良にすることができる動作点(以下、「燃費最良動作点」という)は各吸入空気量毎に存在し、例えば図18に示した吸入空気量がQ3である場合の燃費最良動作点は点cQ3である。
なお、一般的には機械圧縮比が高いほど且つ吸気弁閉弁時期が遅角側であるほど燃費が高くなる傾向にあるが、例えば燃焼室5内に流入する吸気ガスの乱れの大きさ等によって燃費が変化するため、必ずしもその吸入空気量平面において燃焼異常領域X1、X2に侵入しない範囲で最も機械圧縮比が高く且つ最も吸気弁閉弁時期が遅角側の動作点が燃費最良動作点になるとは限らない。このため、図18では燃費最良動作点cQ3は吸入空気量平面Q3において燃焼異常領域X1、X2に侵入しない範囲で最も機械圧縮比が高く且つ最も吸気弁閉弁時期が遅角側の動作点以外の点とされている。
しかしながら、図18からわかるように吸入空気量Q3におけるこの燃費最良動作点cQ3は許可領域YQ3内に位置していない。このため、吸入空気量がQ3であるときに機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期の組合せを示す動作点を点cQ3に設定してしまうと、要求吸入空気量が変化したときに実際の吸入空気量を変化後の要求吸入空気量まで迅速に変化さることができない場合が生じてしまう。
そこで、本発明の実施形態では、吸入空気量Q3における許可領域YQ3内で最も燃費の良い動作点(例えば、図18中の動作点dQ3。以下、「準燃費最良動作点」という)を実験により又は計算により予め算出し、吸入空気量がQ3であるときには二次元的動作点がこの準燃費最良動作点dQ3となるように機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度を制御するようにしている。
このような準燃費最良動作点は、各吸入空気量毎に存在する。例えば、吸入空気量Q2における準燃費最良動作点は図19に示した点dQ2であり、吸入空気量Q4における準燃費最良動作点は図20に示した点dQ4である。そこで、本発明の実施形態では、各吸入空気量毎に準燃費最良動作点を実験により又は計算により予め算出し、要求吸入空気量が或る吸入空気量となった場合には動作点がその吸入空気量における準燃費最良動作点となるように機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度を制御することとしている。
なお、このような準燃費最良動作点を結ぶと、図21に示したような一本の線となる。以下では、この線を基準動作線Wと称する。図21に示した例では、基準動作線Wは同一吸入空気量平面Q3よりも吸入空気量が多い側ではスロットル全開面θmax上を延びており、同一吸入空気量平面Q3よりも吸入空気量が少ない側では図12(B)に示した右側面S2上を延びている。内燃機関の通常運転時には機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度はこの基準動作線W上の動作点となるように制御されることになる。
また、内燃機関の運転状態によっては、燃費を最小にすること以外が優先される場合が存在する。例えば、内燃機関の冷間始動時には機関本体や触媒コンバータ20に内蔵された三元触媒を昇温することが優先され、また機関減速運転時或いは燃料噴射弁13からの燃料噴射を停止させる燃料カット制御時にはエンジンブレーキが大きくなることが優先される。このように燃費を最小にすること以外が優先される場合には、各吸入空気量において、二次元的動作点は上記準燃費最良動作点以外の所定の動作点とされることが必要となる。そこで、機関運転状態毎に(例えば、冷間始動時、機関減速運転時等)、各吸入空気量における最適な動作点を算出し、機関運転状態に応じて各吸入空気量においてこの最適な動作点となるように機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度を制御するようにしてもよい。
次に、図22〜図24を参照して、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度の具体的な制御方法について説明する。図22は、図9と同様な三次元的空間を示す図であり、図23及び図24はそれぞれ同一吸入空気量平面Q4及びQ2を示している。特に、以下では、現在の吸入空気量がQ4であって現在の動作点が吸入空気量Q4における準燃費最良動作点にある場合(図22及び図23中の点e1)に、要求吸入空気量がQ2に変化した場合について説明する。
このように要求吸入空気量がQ4からQ2に低下せしめられると、動作点は同一吸入空気量平面Q2上の準燃費最良動作点dQ2(以下、「目標動作点」という)に向かって移動せしめられる。このとき、上述したように可変圧縮比機構Aのアクチュエータの動作速度が遅いことから、まず、スロットル弁17及び可変バルブタイミング機構Bのアクチュエータが駆動せしめられる。図22に示した例では、動作点e1からスロットル開度が最大速度で小さくせしめられると共に、吸気弁閉弁時期が最大速度で遅角せしめられる。
なお、図22に示した例では、現在の動作点e1における吸入空気量に対して目標動作点dQ2における吸入空気量が小さいことからスロットル開度が最大速度で小さくされているが、現在の動作点における吸入空気量に対して目標動作点における吸入空気量が大きい場合にはスロットル開度は最大速度で大きくされる。また、図22に示した例では、現在の動作点e1における吸気弁閉弁時期に対して目標動作点dQ2における吸気弁閉弁時期が遅角側にあり、且つスロットル開度を最大速度で小さくしても吸気弁閉弁時期の変化のさせ方にかかわらず吸入空気量が要求吸入空気量に達するまで動作点が燃焼異常領域X1、X2内に侵入しないことから、吸気弁閉弁時期が最大速度で遅角されている。しかしながら、現在の動作点における吸気弁閉弁時期に対して目標動作点における吸気弁閉弁時期が進角側にある場合や、スロットル開度を最大速度で小さくすると吸気弁閉弁時期の変化のさせ方によっては吸入空気量が要求吸入空気量に達するまでに動作点が燃焼異常領域X1、X2内に侵入するような場合には、吸気弁閉弁時期を最大速度で進角させるようにしてもよい。
このように動作点e1からスロットル開度を最大速度で小さくし且つ吸気弁閉弁時期を最大速度で遅角させると、吸入空気量が減少し、或る程度の時間経過後に吸入空気量が要求吸入空気量Q2となる。このとき、図22及び図24に示した例では動作点は点e2となっている。
このように実際の吸入空気量を要求吸入空気量に一致させた後は、動作点は同一吸入空気量平面Q2上で目標動作点dQ2に向けて移動せしめられる。このとき、動作点は、許可領域YQ2内に維持される範囲内で最大の速度で移動せしめられる。すなわち、図22及び図24に示した例では、動作点が許可領域YQ2から出てしまうことのない範囲内で、機械圧縮比が最大速度で大きくされ且つ吸気弁閉弁時期を最大速度で遅角せしめられる。
例えば、図24に示した例では、動作点e2から機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期を最大速度で移動させると、動作点は矢印Tに示した方向に移動することになる。しかしながら、動作点がe3に到達した後もそのまま動作点を矢印Tの方向に移動させると、動作点が許可領域YQ2外へ出てしまう。そこで、本実施形態では、動作点がe3に到達した後には吸気弁閉弁時期の変更速度を最大速度よりも遅い速度にすることで動作点が許可領域YQ2内に維持されるようにしている。
このように動作点を許可領域YQ2内で移動させた結果、現在の動作点の吸気弁閉弁時期はやがて目標動作点dQ2における吸気弁閉弁時期にまで達し(動作点e4)、その後は目標動作点dQ2に向けて吸気弁閉弁時期が固定された状態で機械圧縮比が大きくせしめられ、最終的に目標動作点dQ2に到達することになる。
なお、上記実施形態では、動作点を点e1から点e2へ移動させる間に機械圧縮比を変更していないが、この間に機械圧縮比を目標動作点の機械圧縮比に向けて変更するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、要求吸入空気量の変化に伴ってスロットル開度及び吸気弁閉弁時期を最大速度で変更した後の動作点e2は同一吸入空気量平面Q2上の許可領域YQ2内に位置する。しかしながら、要求吸入空気量の変化に伴ってスロットル開度及び吸気弁閉弁時期を最大速度で変更した後の動作点は必ずしも変更後の吸入空気量における許可領域内に位置するとは限らない。このように動作点が変更後の吸入空気量における許可領域内に位置しない場合には、動作点は変更後の吸入空気量における目標動作点に向けて移動せしめられる前にまず許可領域内に入るように移動せしめられ、その後、許可領域内に入ってから変更後の吸入空気量における目標動作点に向けて移動せしめられる。