以下、本発明に係る加熱調理器を、誘導加熱による加熱口を左右手前に二口と中央奥側に一口設けた、ビルトイン型(組込み型)IHクッキングヒータに適用した場合を例に説明する。なお、以下に示す図面の形態によって本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において、理解を容易にするために方向を表す用語(例えば「上」、「下」、「右」、「左」、「前」、「後」など)を適宜用いるが、これは説明のためのものであって、これらの用語は本願発明を限定するものではない。
実施の形態.
[加熱調理器の構成]
図1は、実施の形態に係る加熱調理器の上面図である。
加熱調理器100は、本体1と、本体1の上面に配置される天板2とを有し、天板2の上に載置される鍋やフライパン等の被加熱物を、本体1の内部に設けられた誘導加熱手段により加熱する。本実施の形態では、天板2の左側手前、右側手前、及び中央側奥に、それぞれ加熱口6が設けられている。なお、以降の説明では、被加熱物のことを「鍋」と称する場合がある。
天板2は、耐熱性が高く赤外線が透過する例えば高結晶化ガラス等の材料で構成されている。天板2には、内部構造を外から見えにくくするための塗装13(図2参照)が施されている。また、天板2の加熱口6に対応する部分には、鍋を載置する箇所を示す例えば円形の表示が印刷等によって設けられており、使用者は鍋を載置すべき場所が分かるようになっている。
本体1の上面手前側には、加熱条件や加熱指示の入力操作を受け付ける操作部3が、各加熱口6に対応して配置されている。使用者が天板2上に被加熱物である鍋やフライパンを載置し、各加熱口6に対応した操作部3に設けられた操作キーに操作入力を行うと、操作入力にしたがって誘導加熱手段により被加熱物が加熱される。加熱の進行状況や調理モードなどの設定に関する情報は、天板2の上面に各加熱口6に対応して配置された液晶等を有する表示部4に表示され、加熱中の火力は火力表示部5に表示される。
天板2の略中央手前側には、高温表示部10が設けられている。高温表示部10は、天板2が高温状態であることをユーザー報知する高温表示部10が設けられている。高温表示部10は、例えば、赤色又はオレンジ色の光を発する発光部と、天板2が高温状態であることを示す文字及びこの文字を光らせる光源とを備え、天板2が高温状態であるときには発光部と文字とが光るように構成されている。本実施の形態では、3つの加熱口6にそれぞれ対応した3つの高温表示部10が設けられているが、いずれかの加熱口6が高温であるときに報知する1つの高温表示部10が設けられた構成としてもよい。
本体1内において加熱口6の下側には、加熱手段である加熱コイル14が設けられている。なお、図1では、加熱コイル14の大まかな配置を破線にて図示している。加熱コイル14に高周波電流を流すことで天板2上に載置された鍋に渦電流が発生し、この発生する渦電流と鍋自身の抵抗により鍋底自身が発熱するので、鍋底を直接加熱する加熱効率のよい調理を実現できる。なお、加熱調理器100の加熱口6の加熱手段として電気ヒータ等の他の加熱手段を設けてもよい。
天板2において加熱口6の内側には、平面視略円形の透過窓部7が設けられている。透過窓部7は、赤外線が透過しやすいような処理が施された領域である。例えば、天板2には内部構造を外から見えにくくするための塗装13が施されているが(図2参照)、透過窓部7には、塗料の塗布量を減らす、あるいは塗料を塗布しない等の処理が施されている。このようにすることで、本体1内に設けられた後述する赤外線センサ12(図2参照)に、透過窓部7を介して赤外線が受光されやすくなる。
天板2の下面(裏面)には、天板2の温度を検出するサーミスタ等の接触式温度センサ17が設けられている。接触式温度センサ17は、加熱口6の内側に設けられ、天板2の下面(裏面)に接触するように配置されている。本実施の形態では、一つの加熱口6に対して複数(2個)の接触式温度センサ17が設けられている。2つの接触式温度センサ17は、加熱コイル14の中心部を基準に約180度ずらした位置にそれぞれ設けられている。接触式温度センサ17は、天板2の下面に密着するように設けられており、天板2の下面の温度に応じた信号を出力する。なお、加熱口6に対応して設ける接触式温度センサ17の数は限定されず、1個あるいは複数個とすることができる。
本体1の後方には、本体1内を冷却するための風を取り込む吸気口9a、9b(以下、吸気口9と総称する場合がある)と、本体1内の空気を排気する排気口8が設けている。本体1内に設けられた図示しない送風手段が動作すると、外部の空気が冷却風として吸気口9から本体1内に流入し、当該冷却風が本体内部の図示しない基板、素子、誘導加熱手段である加熱コイル14、天板2の下面等を冷却する。本体1の内部を冷却した後の冷却風は、排気口8から外部へと排出される。
図2は、実施の形態に係る加熱調理器の主要部の構成と機能を説明するブロック図である。図2では、一つの加熱口6に対応する構成のみ図示しており、また、被加熱物としての鍋200も併せて図示している。
天板2に設けられた加熱口6の下部には、加熱コイル14が配置されている。本実施の形態では、加熱コイル14は、略環状の内側加熱コイル14aと、その外側に設けられた略環状の外側加熱コイル14bとを備えた二重環形状である。内側加熱コイル14aと外側加熱コイル14bとの間には略環状の空間(間隙)が設けられており、この間隙を、間隙15と称する。加熱コイル14は、加熱コイル14を収容する加熱コイル支持部16により、天板2の下面との間に所定距離をおいて保持されている。
内側加熱コイル14aと外側加熱コイル14bとの間隙15内であって、加熱コイル14の上面よりも下方には、赤外線を検出すると検出した赤外線量に応じた出力を行う赤外線センサ12が設けられている。赤外線センサ12からの出力は、本体1に具備された赤外線温度検知部24に入力される。赤外線温度検知部24は、赤外線センサ12からの出力値を温度換算する赤外線温度検知手段である。より具体的には、記憶部21には、赤外線センサ12の出力量と、その出力量及び所定の放射率に基づいて算出された温度データとが対応付けられた温度換算表が、予め記憶されており、赤外線温度検知部24は、赤外線センサ12からの出力を受けるとこの温度換算表を参照して、温度を算出する。なお、温度換算表に用いる放射率εの一例として、ε=1.0と設定する。また、本実施の形態では、赤外線センサ12が検出した赤外線量に基づいて赤外線温度検知部24が検知する温度を、赤外線温度と称する。
赤外線センサ12は、例えばサーモパイルセンサのような赤外線領域に対して広い波長に感度を有するものを用いる。赤外線センサ12の具体的構成は特に限定されないが、例えば、凸形状の集光レンズ、サーモパイルチップ、及び自己温度検出サーミスタがパッケージ化された集光レンズ型のサーモパイルセンサや、リフレクター、サーモパイルチップ、及び自己温度検出サーミスタがパッケージ化された内蔵ミラー集光型のサーモパイルセンサ等を用いることができる。なお、赤外線センサ12の集光面には、天板2における透過率の高い波長帯域に透過特性を有するバンドパスフィルターを設けることができる。そのようにすることで、天板2を透過した赤外線を赤外線センサ12が効率よく検出することができる。
赤外線センサ12は、加熱コイル14の近傍を流れる冷却風が直接当たらないように、周囲をセンサケース18で覆われている。赤外線センサ12の周囲の雰囲気温度が一様となるように、赤外線センサ12はセンサケース18に空間距離を保ちながら保持されている。センサケース18は、加熱コイル支持部16にタッピングネジなどで止められる、あるいは加熱コイル支持部16と一部が一体で形成されるなどしており、天板2と赤外線センサ12との間の距離が一定に保たれている。
本実施の形態では、鍋底から放射され天板2を透過する赤外線を検出するため、赤外線センサ12の上面部の透過窓部7には塗装13がないことが望ましい。しかしながら、透過窓部7に塗装を施さないと、天板2の上面から内部の加熱コイル14や配線などが見えてしまう場合があり、意匠上望ましくない。このため、透過窓部7に塗装13を施さない場合には、加熱コイル14を保持する加熱コイル支持部16やセンサケース18に、天板2の方向に向かって筒や板を設けるようにすればよく、このようにすることで加熱コイル14や配線などを外部から見えにくくすることができる。また、透過窓部7の全面を塗装13で覆うのではなく、透過窓部7に対して塗装13をドット状やストライプ状に施して塗装されていない開口部の割合を管理するようにしてもよく、このようにすることで意匠性と機能性とを担保することが可能となる。
接触式温度センサ17は、内側加熱コイル14aと外側加熱コイル14bとの環状の間隙15に設けられている。接触式温度センサ17の出力信号は、本体1に具備された天板温度検知部25に入力される。天板温度検知部25は、接触式温度センサ17からの信号に基づいて、天板2の温度を検知する。本実施の形態では、接触式温度センサ17と天板温度検知部25とにより、本発明の天板温度検知手段を構成している。なお、本実施の形態では、接触式温度センサ17からの出力に基づいて天板温度検知部25が検知する温度を、天板温度と称する。また、天板2の温度をより正確に時間の遅れが少なく検出可能な手段であれば、サーミスタ等の接触式温度センサ17に限らず任意のものを天板温度検知手段として採用することができる。
なお、本実施の形態では、接触式温度センサ17を内側加熱コイル14aと外側加熱コイル14bとの間隙15に設ける構成としたが、接触式温度センサ17の配置はこれに限定されない。例えば、接触式温度センサ17を、外側加熱コイル14bの外周近傍に配置してもよいし、加熱コイル14の中心に配置してもよい。また、接触式温度センサ17の数は2個に限定されることはなく、1個又は2個以上であってもよい。
接触式温度センサ17の出力は、後述するように赤外線センサ12により検出された赤外線量に基づいて鍋200の温度を算出する際に用いられる。このため、より精度よく鍋200の温度を検出するために、接触式温度センサ17は、赤外線センサ12の近傍に設置されるのが望ましい。
なお、天板2のどのような位置に鍋200が載置されるかは不定であり、また鍋200の形状も不定であるため、より広い範囲の温度を検出し、かつ低コストで実現することを優先させて、接触式温度センサ17と赤外線センサ12とを離して配置しても構わない。
また、接触式温度センサ17の設置数が少ない場合には、天板2に載置される鍋の位置や形状の違いによって、検出温度にばらつきが生じうる。このため、複数設けられた接触式温度センサ17の検出値の平均値や、複数の接触式温度センサ17のうち最も高い温度を出力したものの検出値を、後述する鍋200の温度検出に用いるようにしてもよい。このようにすることで、接触式温度センサ17の設置数が少ない場合でも、ばらつきに強い温度検出が可能となる。なお、本実施の形態では、1つの加熱口6に対して設けられた複数の接触式温度センサ17の検出値の平均値を、加熱口6に対応した天板2の温度として用いるものとする。
本体1に設けられている記憶部21には、操作部3にて設定した情報や、赤外線温度検知部24、天板温度検知部25からの出力が入力されて記憶される。
演算部22は、例えばマイコン等で構成され、天板2に載置される鍋200の温度検出に係る演算処理(隙間距離判定処理、被加熱物温度検知処理、及び放射率推定処理)を実行する。演算部22の演算結果は、制御部23に入力される。演算部22は、本発明の隙間距離判定手段、被加熱物温度検知手段、及び放射率推定手段に相当する。
制御部23は、操作部3の設定内容と、演算部22が検知する鍋200の温度情報とに基づいて、高周波インバータ26を制御し、加熱コイル14に流れる高周波電流を制御する。このようにすることで、被加熱物である鍋200の加熱制御を行う。
図3は、実施の形態に係る加熱調理器の左側の加熱コイルに対応して設けられた操作部及び火力表示部を説明する図である。加熱調理器100の左側、右側、及び中央に設けられた加熱コイル14にそれぞれ対応する操作部3及び火力表示部5は、すべて同様の構成であるので、ここでは、左側の加熱コイル14に対応して設けられた操作部3及び火力表示部5を例に説明する。
操作部3は、被加熱物を加熱する火力を設定するための火力設定キー31と、調理メニューを設定するためのメニューキー32とを備える。
火力設定キー31は、「弱火」キー、「中火」キー、「強火」キー、及び「3kW」キーで構成されており、使用者は、これらのキーを用いて4段階の火力のいずれかを設定することができるようになっている。火力に応じて個別にキーを設けることで、使用者は、必要な火力の設定を一回の操作で入力できるようになっている。
メニューキー32は、「揚げ物」キー、「予熱」キー、「煮込み」キー、及び「タイマー」キーを備える。これらのキーが押下されると、各メニューに対して予め設定され記憶部21に記憶された制御シーケンスにしたがって、制御部23が加熱制御を行う。
火力表示部5は、加熱コイル14によって加熱中の火力を複数段階で表示するものであり、火力に応じて表示態様が切り替わる。火力表示部5の表示により、加熱コイル14が加熱動作中であることを使用者に示すことが可能である。火力表示部5は、例えば複数のLEDを有し、これらLEDの点灯状態(点灯、消灯、点滅等)を切り替える、あるいは点灯色を切り替えることにより、火力を表現する。このようにすることで、使用者が直感的に分かりやすい報知を行うことができる。
なお、図3には図示しないが、液晶画面等で構成された表示部4(図1参照)には、例えば「予熱中」や「適温到達」等の火力や経過状況、設定されているメニューの内容等に関する情報が表示される。
このような構成の加熱調理器100において、例えば揚げ物調理を行う場合には、使用者は鍋内に揚げ物を行うための油を入れ、鍋を天板2の加熱口6に載置する。使用者が、操作部3のメニューキー32に設けられた「揚げ物」キーに入力して加熱開始を指示すると、制御部23は、操作部3からの信号と鍋の推定温度とに基づいて加熱コイル14に流れる高周波電流を流し、これによって鍋が加熱される。
[被加熱物の温度検知処理]
(概要)
演算部22は、鍋の加熱中には、赤外線センサ12が検出した赤外線エネルギーに基づいて鍋の温度を検出するのであるが、赤外線センサ12は、鍋底から放射される赤外線エネルギーと、天板2が熱伝達により加熱されることによって天板2の下面から放射される赤外線エネルギーとを検出することとなる。そこで、演算部22は、赤外線センサ12が検出した赤外線エネルギーから、天板2から放射される赤外線エネルギーを取り除いた上で、鍋の温度を推定する。
本実施の形態の鍋の温度の推定処理においては、赤外線温度検知部24の検出温度から天板2の影響分を差し引いて鍋の温度を推定するにあたり、鍋の底面と天板2の表面との間の隙間距離を判定する隙間距離判定処理、及び鍋の底面の放射率を推定する放射率推定処理を行う。以下、それぞれの処理の概要を説明する。
(隙間距離判定処理)
隙間距離判定処理とは、鍋の底面と天板2の表面との間の隙間距離を判定する処理である。ここで、隙間距離とは、鍋の底面と天板2の表面との間の隙間の距離をいい、鍋の底面が天板2の表面から浮いている高さをいう。鍋の底面が反っている場合や、天板2と鍋との間に物が挟まっているような場合等には、鍋底面と天板2との間に隙間(空気層)ができ、その隙間の高さが隙間距離である。
図4は、天板と鍋底との間の隙間距離と、天板温度検知部の出力の単位時間当たりの上昇値(出力上昇値)との関係を示す図である。図4では、天板2が平温状態であるときと、天板2が高温状態であるときのグラフをそれぞれ示している。図4に示すように、隙間距離が大きいほど、天板温度検知部25の出力上昇値が小さくなる傾向がある。
例えばステンレスの鍋の熱伝導率は16W/(m・K)、天板2の熱伝導率は1.5W/(m・K)であるのに対して、空気の熱伝達率は0.024W/(m・K)と非常に小さい値である。このため、鍋底と天板2との隙間距離が0.5mmでも生じると、接触式温度センサ17により検知される天板2の温度上昇量は小さくなる。このため、図4に示すように、鍋底と天板2との間の隙間距離が大きければ大きいほど、天板2へ到達する赤外線エネルギーが減り、接触式温度センサ17により検知される温度上昇値が小さくなる。
したがって、鍋底と天板2の表面との隙間距離を、接触式温度センサ17により検知される温度上昇率によって判定することができる。
隙間距離を判定する隙間距離判定処理においては、詳細な判定方法については後述するが、加熱初期に、天板2の温度が判定用目標温度に至るまで加熱コイル14による加熱を行い、そのときの天板2の温度上昇率に基づいて隙間距離を判定する。隙間距離の判定に用いる接触式温度センサ17の出力は、複数の接触式温度センサ17の出力値の平均値としてもよいし、複数の接触式温度センサ17の出力値のうち最も高い温度を示す値を用いてもよいし、複数の接触式温度センサ17の出力値のうち高温を検出する上位2つの出力値を平均した値を用いてもよい。このように複数の接触式温度センサ17の出力値を用いることで、温度検出のばらつきを抑制することが可能となる。
また、隙間距離の判定を加熱初期に行うこととしたのは、揚げ物調理で用いられる鍋内の油の特性を考慮したものである。すなわち、揚げ物調理で油を用いる場合、油の粘性は高く、火力投入後もほぼ対流することなくほぼ一定に温度上昇する。油温が上がるにつれて粘性は小さくなり対流し始めるとともに熱が拡散していくが、所定時間、例えば50秒程度の加熱であれば、油量の大小にかかわらず鍋底部分はほぼ一定の上がり方となる。
このように、鍋底と天板2との空隙の高さである隙間距離を、加熱初期における接触式温度センサ17の温度上昇値を用いて推定することができる。
また、図4に示すように、隙間距離が同じ状態で比較すると、天板2の温度が高温である場合には、平温である場合よりも天板温度検知部25の出力上昇値が小さくなる傾向があり、天板温度検知部25の温度上昇値は初期状態の天板2の温度の影響を受けることが分かる。
そこで、本実施の形態では、隙間距離判定処理において隙間距離を検出するにあたり、天板2の温度を考慮する。
図5は、天板の上に鍋が載置されたときの時間の経過に伴う天板温度の変化を示す図であり、天板2の上に鍋が載置されたとき(0秒)から60秒が経過するまでの変化を示している。図5は、高温化した天板2の上で加熱調理が行われる場合の天板2の温度の変化を説明するものである。図5に示すグラフは上から順に、高温の天板2の上に天板2よりも高温の鍋が載置されたとき(符号41)、高温の天板2の上に天板2と同程度の温度の鍋が載置されたとき(符号42)、高温の天板2の上に天板2よりも低温の鍋が載置されたとき(符号43)のグラフである。
天板2が高温状態にあるときには、それ以前に天板2の上で鍋が加熱されていたということであるが、天板2の上に載置される鍋の温度によって、鍋が載置された後の天板2の温度の変化が異なる。
符号41に示すように、高温の天板2の上に天板2より高温の鍋が載置されると、天板温度は時間の経過とともに上昇していく。また、符号42に示すように、高温の天板2の上に天板2と同程度の温度の鍋が載置されたときには、概ね横ばい状態であるが、時間の経過とともに天板温度が低下していく。また、符号43に示すように、高温の天板2の上に天板2より低温の鍋が載置されると、天板温度は、符号42に示すグラフよりも大きく低下していく。
このように、天板温度検知部25により検出される天板2の温度は、天板2の上に載置される鍋の温度の影響を受ける。
そこで、本実施の形態では、隙間距離判定処理において天板温度検知部25の温度上昇値に基づいて隙間距離を検出するにあたり、天板2と鍋との温度差を考慮する。具体的には、鍋が天板2よりも高温の場合にはH−Hフラグ(天板Hot−鍋Hotフラグ)を付与するとともに、鍋が天板2よりも低温の場合にはH−Cフラグ(天板Hot−鍋Coldフラグ)を付与してこれらを他とは区別し、その情報を隙間距離の判定に取り入れる。
(放射率推定処理)
鍋の温度と天板2の温度条件とにより赤外線センサ12が検知する赤外線エネルギー量の比率が変化してくることは上述の通りであるが、鍋底の放射率εも赤外線センサ12が検知する赤外線量の変動要因である。特に本実施の形態のような加熱調理器には、様々な放射率εの鍋が載置されうるため、放射率εは例えば0.1〜0.9まで様々な条件が想定される。このため、鍋の温度を精度よく推定するためには、天板2上に載置されている鍋の底面の放射率εとして精度のよい値を用いることが望まれる。
そこで、本実施の形態では、赤外線温度検知部24により検知される加熱開始から所定時間経過後までの温度上昇値に基づいて鍋底の放射率εを推定する放射率推定処理を行う。
本実施の形態の放射率推定処理では、鍋底の放射率は、加熱開始から所定時間経過後の赤外線温度検知部24により検知される温度上昇値により判断される。赤外線温度検知部24の所定時間での温度上昇値を比較すると、放射率が高い鍋底においては温度上昇値が大きくなり、放射率が低い鍋底は温度上昇値が小さくなるため、このことを利用して鍋底の放射率を判定する。
また本実施の形態では、上述の隙間距離判定処理が終了した後に、赤外線温度検知部24により検出される温度上昇値に基づいて、鍋の放射率を推定する。隙間距離判定が終了した後から赤外線温度検知部24を用いた鍋の放射率の判定を開始することで、既知となった隙間距離を利用して、赤外線温度検知部24により検知される情報を補正して、温度上昇値の検出精度を向上させることができる。すなわち、天板2からの赤外線の放射割合は、隙間距離が無い(小さい)場合には大きく、隙間距離が大きい場合には小さいということを利用し、これらの情報を、赤外線温度検知部24の検知結果に反映させる。なお、隙間距離判定処理が終了する前から赤外線温度検知部24による測定を開始し、その測定結果に、鍋の隙間距離判定の結果をフィードバックしてもよい。
[加熱調理器の動作]
(動作概要)
本実施の形態の加熱調理器100における加熱制御と被加熱物の温度を検知する被加熱物温度検知処理について、揚げ物調理を例に説明する。図6は、実施の形態に係る加熱調理器の揚げ物機能の動作フローチャートである。
天板2の加熱口6には、油を入れられた被加熱物である鍋が載置されているものとする。操作部3のメニューキー32にて「揚げ物」が選択されると、図6のフローチャートの処理がスタートする。
(S1)
制御部23は、操作部3へのユーザーの入力に基づいて鍋の予熱の目標温度である予熱目標温度を設定する。予熱目標温度は、ユーザーが例えば「180℃」のように操作部3に直接入力してもよいし、例えば「てんぷら」、「とんかつ」、「から揚げ」等の料理メニューをユーザーが操作部3に入力し、入力された料理メニューに応じて予め設定された予熱目標温度を制御部23が選択してもよい。
(S2)
前述の隙間距離判定処理を含む予熱第一工程を実行する。隙間距離の判定が終了すると、次のステップに進む。
(S3)
鍋の温度が予熱目標温度となるように温度を調整する予熱第二工程を実行する。鍋の温度は、前述の隙間距離判定処理及び放射率推定処理の結果に基づいて検出される。検出した鍋の温度が予熱目標温度に達すると、予熱第二工程を終了して次のステップに進む。
(S4)
制御部23は、予熱が終了したことを、表示部4を用いて報知する。表示部4による報知に代えて、あるいはこれに加えて、ブザーやスピーカ等の音声報知部(図示なし)を用いて、予熱が終了したことを報知してもよい。
(S5)
制御部23は、加熱コイル14に投入する電力を制御して鍋の温度を予熱目標温度に保温する。なお、この保温工程においては、ステップS3における被加熱物温度検知処理と同様にして鍋の温度を推定し、鍋の温度を予熱目標温度に保つ。ユーザーは、この保温工程において、鍋内に食材を投入して揚げ物調理を行うことができる。
(S6)
制御部23は、保温開始から所定時間が経過するまでは、保温工程を継続する。この所定時間は、ユーザーが加熱を停止し忘れた場合でも自動的に加熱を停止するために予め設定された時間である。
(S7)
制御部23は、保温開始から所定時間が経過すると、加熱コイル14への電力供給を停止して加熱を停止する。なお、所定時間が経過する前に操作部3に加熱停止の操作指示が入力された場合には、制御部23は、その操作指示に従って加熱を停止する。
(予熱第一工程及び予熱第二工程の概要)
次に、本実施の形態に係る加熱調理器の予熱第一工程及び予熱第二工程の概要を説明する。
図7は、実施の形態に係る加熱調理器の予熱工程の加熱電力と天板温度の推移の一例を示す図である。図7に示すように、予熱第一工程においては、操作部3に加熱開始の指示が入力されたときであって加熱開始前の天板2の温度(初期天板温度TH_0s)に基づいて、「ホットスタートA」、「ホットスタートB」、「ホットスタートC」及び「コールドスタート」のいずれかに場合分けする。そして、加熱コイル14に電力を投入して加熱を行ったときの天板温度の温度上昇率(ΔTH_2/Time_B)に基づいて、隙間距離を判定する。ここで、隙間距離判定のために鍋を加熱することを、隙間距離判定用加熱(以下、判定用加熱)と称する。判定用加熱の処理は、「ホットスタートA」、「ホットスタートB」、「ホットスタートC」及び「コールドスタート」のいずれに該当するかによって異なる。図7では、ホットスタートAの場合の天板温度の推移の一例を示している。
さらに、本実施の形態では、「ホットスタートA」、「ホットスタートB」及び「ホットスタートC」の場合には、判定用加熱の前に、加熱を行わない待機時間を設け、この待機時間中の天板温度の変化(ΔTH_1)を、隙間距離の判定に用いる。
そして、隙間距離判定処理を実行する予熱第一工程が終了すると、予熱第二工程に移行する。予熱第二工程では、予熱第一工程で判定した隙間距離に基づいて鍋の温度を検知する被加熱物温度検知処理を実行し、鍋の温度が予熱目標温度となるように加熱コイル14に電力を投入して温度調整用加熱を実行する。図7に示されるように、鍋を加熱することによって天板2の温度も上昇する。そして、鍋の温度が予熱目標温度に到達すると、予熱第二工程を終了する。
次に、予熱第一工程及び予熱第二工程について具体的に説明する。
(予熱第一工程)
図8は、実施の形態に係る予熱第一工程の前半部分の動作を説明するフローチャートである。
図8のフロー開始時には、加熱コイル14に電力は投入されておらず、加熱が行われていない状態であるものとする。
予熱開始指示を受けると(S10)、演算部22は、天板温度検知部25からの出力に基づいて天板2の初期天板温度TH_0sを検出する(S11)。すなわち、加熱を開始する前の天板2の温度が、初期天板温度TH_0sとして検出される。
演算部22は、初期天板温度TH_0sと、予め設定された高温初期閾値(例えば140℃)、中温初期閾値(例えば80℃)、及び低温初期閾値(例えば40℃)とを比較する(S12〜S14)。初期天板温度TH_0sが高温初期閾値以上の温度であればホットスタートCの処理を実行し(S15)、初期天板温度TH_0sが中温初期閾値以上で高温初期閾値未満であればホットスタートBの処理を実行し(S16)、初期天板温度TH_0sが低温初期閾値以上で中温初期閾値未満であればホットスタートAの処理を実行し(S17)、初期天板温度TH_0sが低温初期閾値未満であれば通常(コールドスタート)の予熱処理を実行する(S18)。
次に、予熱第一工程の後半部分である隙間距離判定処理について、「ホットスタートA」、「ホットスタートB」、「ホットスタートC」及び「コールドスタート」のそれぞれを説明する。
(ホットスタートA)
図9は、実施の形態に係る加熱調理器の予熱第一工程の隙間距離判定処理を説明するフローチャートであり、ホットスタートAの動作を示している。
演算部22は、タイムカウンタAのカウントアップを開始する(S101)。このとき、加熱コイル14は電力OFFの状態であり(S102)、演算部22は、電力OFFのままタイムカウンタAが60秒をカウントするまで待機する。待機時間の60秒が経過すると(S103;Yes)、そのときの天板2の温度TH_60sを測定して記憶部21に記憶する(S104)。次に、演算部22は、待機時間60秒後の天板2の温度TH_60sと初期天板温度TH_0sとの差分である温度差ΔTH_1を算出する(S105)。
演算部22は、温度差ΔTH_1が予め設定された閾値Ut℃以上である場合、すなわち、待機時間60秒の間に天板2の温度がUt℃以上上昇した場合には(S106;Yes)、天板2よりも鍋の方が高温であるものと判断し、H−Hフラグを設定する(S107)。
また、演算部22は、温度差ΔTH_1が予め設定された閾値−Dt℃以下である場合、すなわち、待機時間60秒の間に天板2の温度がDt℃以上低下した場合には(S108;Yes)、天板2よりも鍋の方が低温であるものと判断し、H−Cフラグを設定する(S109)。
ここで、H−Hフラグ及びH−Cフラグについて説明する。
図10は、実施の形態に係る加熱調理器の、H−Hフラグ及びH−Cフラグを設定する条件を説明する表である。H−Hフラグ及びH−Cフラグは、初期天板温度TH_0sと待機時間が60秒経過したときの温度TH_60sとの温度差(ΔTH_1)に基づいて設定される。本実施の形態では、ホットスタートA、B、Cのいずれであるかに応じて、各フラグを設定するための温度差の閾値が異ならせている。ホットスタートAの場合には、閾値Ut℃=8℃であり、初期天板温度TH_0sに対して温度TH_60sが8℃以上上昇している場合にH−Hフラグが設定され、また、閾値−Dt℃=−5℃であり、初期天板温度TH_0sに対して温度TH_60sが−5℃以上低下している場合にH−Cフラグが設定される。
H−Hフラグ又はH−Cフラグが設定されるということは、鍋と天板2との間の熱伝達が良好である、すなわち天板2と鍋底とが近く隙間距離が比較的小さいといえる。
なお、図9において、待機時間60秒の間に天板2の温度がUt℃以上上昇せず(S106;No)、かつDt℃以上低下していない場合(S108;No)には、H−Hフラグ及びH−Cフラグは設定されない。
このように、ステップS101〜S109においては、加熱を停止したまま待機したときの天板温度の変化に基づいて、天板温度と鍋温度の高低関係を判定している。なお、待機時間において加熱を完全に停止するのではなく、後述する判定用加熱よりも低火力で加熱を行いながら天板温度と鍋温度の高低関係を判定してもよい。
図9の説明を続ける。
次に、演算部22は、タイムカウンタBのカウントアップを開始し(S110)、制御部23は、加熱コイル14に一定電力(本実施の形態では750W)を投入し(S111)、天板2の判定用目標温度を100℃として判定用加熱を行う。演算部22は、天板温度検知部25が検知する現在の天板2の温度TH_curが判定用目標温度(100℃)以上になると(S112;Yes)、ステップS113に進む。
ここで、ステップS111において加熱コイル14に投入する電力は750Wに限定されないが、投入する電力が大きすぎると判定用加熱の間に鍋の温度が過度に上昇するおそれがある。このため、本実施の形態では、加熱コイル14の最大電力に対し中程度以下の電力としている。また、ステップS112での判定に用いる天板2の判定用目標温度は100℃に限定されないが、揚げ物調理の予熱目標温度として設定されうる最低温度(例えば160℃)よりも低い温度とする。この判定用目標温度が高い方が、判定用加熱における温度上昇幅を大きくすることができるので、判定用加熱における温度上昇率に基づいて判定される隙間距離の判定精度を向上させることができるが、判定用目標温度が高すぎると隙間距離の判定に時間がかかるほか、隙間距離が大きい場合には鍋が過度に高温化するおそれもあるので、本実施の形態では100℃としている。
次に、演算部22は、天板2の温度TH_curが判定用目標温度(100℃)以上になったときのタイムカウンタBの値であるTime_Bを記憶部21に記憶し(S113)、判定用目標温度(100℃)と待機時間60秒後の温度TH_60sとの差分である温度差ΔTH_2を算出する(S114)。この温度差ΔTH_2は、加熱コイル14に750Wの電力を投入して判定用加熱を始めてから、天板2の温度が判定用目標温度(100℃)に到達するまでの、天板2の温度上昇量である。
次に、演算部22は、温度差ΔTH_2をTime_Bで除算し、すなわち加熱コイル14による加熱を開始してから判定用目標温度(100℃)に至るまでの天板2の温度上昇量を、判定用目標温度(100℃)に至るまでに要した時間で除算し、天板2の温度上昇率を算出する(S115)。次に、演算部22は、算出した天板2の温度上昇率、並びにH−Hフラグ及びH−Cフラグの有無と、図11に例示する隙間距離設定テーブルとを対比して、隙間距離を判定する(S116)。
ここで、図11は、実施の形態に係る加熱調理器のホットスタート用の隙間距離設定テーブルである。図11に示す隙間距離設定テーブルは、天板2の温度上昇率と、隙間距離とを対応付けたテーブルである。本実施の形態では、隙間距離を、G1〜G8の8段階に分けている(G1からG8に向かって順次隙間距離が大きくなる)。また、図11では、H−Hフラグ及びH−Cフラグが設定されていない場合(フラグ無し)、H−Hフラグが設定されている場合、H−Cフラグが設定されている場合のそれぞれについて、隙間距離が設定されている。この隙間距離設定テーブルは、実験等によって得た値のテーブルであり、予め記憶部21に記憶されているものである。
演算部22は、図11を参照して隙間距離を判定すると、その隙間距離を記憶部21に記憶させ、隙間距離判定処理を終了する。
一方、図9のステップS112にて天板2の温度TH_curが判定用目標温度(100℃)に到達せず(S112;No)、タイムカウンタBの値が400秒(第一制限時間)を経過した場合には(S117;Yes)、演算部22は、隙間距離をレベルG7であると判定し(S118)、図9の隙間距離判定処理を終了する。すなわち、加熱コイル14に750Wの電力を投入して判定用加熱を行い、400秒(第一制限時間)を経過しても天板2の温度が判定用目標温度(100℃)に到達しないということは、隙間距離が大きいため鍋から天板2へ伝わる熱が小さいと判断し、隙間距離を相対的に高レベルの値であるG7と判定している。このように、隙間距離判定処理において加熱コイル14に電力を投入する判定用加熱の時間に上限値を設けておくことで、隙間距離が大きい場合であっても隙間距離判定処理の途中に鍋が過度に加熱されるのを抑制することができる。
次に、本実施の形態の加熱調理器が図9に示した動作を実行した場合の作用について、隙間距離が相対的に大きい場合と小さい場合とを比較して説明する。
図12は、実施の形態に係る加熱調理器の、ホットスタートAの場合の予熱第一工程の作用を、隙間距離が大きい場合と小さい場合とを比較して示す図である。図12では、接触式温度センサ17の検出値に基づいて天板温度検知部25が検知する天板2の温度、鍋内の油の温度、及び加熱コイル14に投入する電力の関係を示している。
図12に示すように、隙間距離が大きい場合には、加熱コイル14に750Wの電力を投入してから天板2の温度が判定用目標温度(100℃)に到達するまでの時間Time_Bが、隙間距離が小さい場合のTime_Bよりも長い。また、隙間距離が大きい場合には、天板2の温度が判定用目標温度(100℃)に達するまで加熱され、この加熱時間は隙間距離が小さい場合よりも長く、鍋内の油の温度は上昇していく。このため、天板2の温度が100℃に到達したときの鍋内の油の温度を比較すると、隙間距離が大きい場合には、隙間距離が小さい場合よりも高温となる。
次に、図9に示したフローチャートによって実現されるホットスタートAの場合の予熱第一工程の作用を、天板2の温度及び加熱コイル14への投入電力に着目して説明する。
図13は、実施の形態に係る加熱調理器のホットスタートAの場合の予熱第一工程の作用の一例を説明するタイムチャートである。図13では、ホットスタートAの場合において、H−Hフラグが設定される場合の、天板温度と加熱コイル14への投入電力の変化を示している。
初期天板温度TH_0sは、低温初期閾値(40℃)以上中温初期閾値(80℃)未満である。予熱工程開始時(0s)から60秒間の待機時間は、加熱コイル14への電力供給が停止されて鍋の加熱が行われず、天板2に載置された鍋からの熱伝達によって天板2の温度は徐々に上昇する。待機時間60秒が経過したときの温度TH_60sの、初期天板温度TH_0sに対する温度上昇量が、H−Hフラグ閾値(8℃)以上であるため(図9のステップS106;Yes)、H−Hフラグが設定される。
次に、加熱コイル14に750Wの電力が投入されて判定用加熱が開始されると、鍋が加熱され、これに伴って鍋からの熱伝達によって天板温度が上昇し、天板温度は判定用目標温度(100℃)に到達する(図9のステップS112;Yes)。そうすると、判定用加熱開始(60s)から、天板温度が判定用目標温度(100℃)に到達するまでの時間(Time_B)と、判定用加熱開始から天板温度が判定用目標温度(100℃)に到達するまでの温度上昇量(ΔTH_2)とに基づいて、天板2の温度上昇率が算出される。続けて、この温度上昇率及びH−Hフラグから、図11を参照して隙間距離が判定される。
図14は、実施の形態に係る加熱調理器のホットスタートAの場合の予熱第一工程の作用の一例を説明するタイムチャートである。図14では、ホットスタートAにおいて、H−Cフラグが設定される場合の、天板温度と加熱コイル14への投入電力の変化を示している。
予熱工程開始時(0s)から60秒間の待機時間は、加熱コイル14への電力供給が停止されて鍋の加熱が行われず、天板2に載置された低温の鍋からの熱伝達によって天板2の温度は徐々に低下する。待機時間60秒が経過したときの温度TH_60sの、初期天板温度TH_0sに対する温度低下量が、H−Cフラグ閾値(−5℃)を以上であるため(図9のステップS108;Yes)、H−Cフラグが設定される。
次に、加熱コイル14に750Wの電力が投入されて判定用加熱が開始されると、鍋が加熱され、これに伴って鍋からの熱伝達によって天板温度が上昇し、天板温度は判定用目標温度(100℃)に到達する(図9のステップS112;Yes)。そうすると、判定用加熱開始(60s)から、天板温度が判定用目標温度(100℃)に到達するまでの時間(Time_B)と、判定用加熱開始から天板温度が判定用目標温度(100℃)に到達するまでの温度上昇量(ΔTH_2)とに基づいて、天板2の温度上昇率が算出される。続けて、この温度上昇率及びH−Cフラグから、図11を参照して隙間距離が判定される。
図15は、実施の形態に係る加熱調理器のホットスタートAの場合の予熱第一工程の作用の一例を説明するタイムチャートである。図15では、ホットスタートAにおいて、待機時間中に天板温度がほとんど変化しない場合の、天板温度と加熱コイル14への投入電力の変化を示している。
予熱工程開始時(0s)から60秒間の待機時間は、加熱コイル14への電力供給が停止されて鍋の加熱が行われず、また、天板温度はいくらか低下するものの変化はほぼ横ばい状態である。待機時間60秒が経過したときの温度TH_60sの、初期天板温度TH_0sに対する温度上昇量及び温度低下量は、H−Hフラグ閾値及びH−Cフラグ閾値以上になっていないため(図9のステップS106;No、S108;No)、H−Hフラグ及びH−Cフラグは設定されない。
次に、加熱コイル14に750Wの電力が投入されて判定用加熱が開始されると、鍋が加熱され、これに伴って鍋からの熱伝達によって天板温度が上昇し、天板温度は判定用目標温度(100℃)に到達する(図9のステップS112;Yes)。そうすると、判定用加熱開始(60s)から、天板温度が判定用目標温度(100℃)に到達するまでの時間(Time_B)と、判定用加熱開始から天板温度が判定用目標温度(100℃)に到達するまでの温度上昇量(ΔTH_2)とに基づいて、天板2の温度上昇率が算出される。続けて、この温度上昇率から、図11を参照して隙間距離が判定される。
図13、図14に示すようにH−Hフラグ又はH−Cフラグが設定されるということは、鍋から天板2への熱伝達が良好であることを示しており、したがって隙間距離が比較的短いといえる。図13の場合と図14の場合とで異なるのは、天板2の上に載置される鍋の温度である。図11に示すように、本実施の形態では、同じ温度上昇率であれば、天板2より高温の鍋が載置された場合(H−Hフラグあり)の方が、天板2より低温の鍋が載置された場合(H−Cフラグあり)よりも、隙間距離が大きいと判定するようにしている(温度上昇率が0.1未満の場合を例外的に除く)。このように、高温の鍋を加熱する場合には隙間距離を大きめに判定することで、後述する図29の補正係数設定テーブル及び式(1)を用いて検出する鍋の温度が高めに検出されるようにし、隙間距離の判定に誤差が生じた場合であっても鍋の過度な高温化を抑制することができる。また言い替えると、同じ温度上昇率であれば、天板2より低温の鍋が載置された場合(H−Cフラグあり)には、天板2より高温の鍋が載置された場合(H−Hフラグあり)よりも、隙間距離が小さいと判定するようにしている(温度上昇率が0.1未満の場合を例外的に除く)。低温の鍋が載置されている場合には、同じ隙間距離であっても天板2の温度上昇に要する時間が相対的に長くなるので、このようにすることでより精度よく隙間距離を判定することができる。
一方、図15に示すようにH−Hフラグ及びH−Cフラグが設定されないということは、隙間距離は小さいが鍋と天板温度がほぼ同じである、又は隙間距離が大きいために鍋から天板2への熱伝達が少ないといえる。この場合、待機時間中の天板温度変化からは、隙間距離を推測することができないが、判定用加熱中における天板2の温度上昇率に基づき、隙間距離が近いほど温度上昇率が高くなることを利用して、隙間距離を判定するようにしている。
このように、天板2に載置される鍋と天板2との温度の高低状態にかかわらず、隙間距離をより正確に判定することができる。
(ホットスタートB)
図16は、実施の形態に係る加熱調理器の予熱第一工程の隙間距離判定処理を説明するフローチャートであり、ホットスタートBの動作を示している。
図16のステップS201〜ステップS205は、図9のステップS101〜ステップS105と同様である。
演算部22は、温度差ΔTH_1が予め設定された閾値Ut℃以上である場合、すなわち、待機時間60秒の間に天板2の温度がUt℃以上上昇した場合には(S206;Yes)、天板2よりも鍋の方が高温であるものと判断し、H−Hフラグを設定する(S207)。
また、演算部22は、温度差ΔTH_1が予め設定された閾値−Dt℃以下である場合、すなわち、待機時間60秒の間に天板2の温度がDt℃以上低下した場合には(S208;Yes)、天板2よりも鍋の方が低温であるものと判断し、H−Cフラグを設定する(S209)。
ここで本実施の形態では、図10に示すように、ホットスタートBの場合の閾値Utと閾値−Dtは、ホットスタートAの場合の閾値Utと閾値−Dtとは異なる値が設定されている。ホットスタートBの場合には、閾値Ut℃=4℃であり、初期天板温度TH_0sに対して温度TH_60sが4℃以上上昇している場合にH−Hフラグが設定される。ホットスタートBは、ホットスタートAに比べて初期の天板2の温度が高いため、天板2の上に同じ高温度の鍋を載置した場合の鍋と天板2との温度差が相対的に小さくなるので、この閾値Utも相対的に小さい値としている。また、ホットスタートBの場合の閾値−Dt℃=−10℃であり、初期天板温度TH_0sに対して温度TH_60sが10℃以上低下している場合にH−Cフラグが設定される。ホットスタートBは、ホットスタートAに比べて初期の天板2の温度が高いため、天板2の上に同じ低温度の鍋を載置した場合の鍋と天板との温度差も相対的に大きくなるので、この閾値−Dt(絶対値)も相対的に大きい値としている。
なお、図16において、待機時間60秒の間に天板2の温度がUt℃以上上昇せず(S206;No)、かつDt℃以上低下していない場合(S208;No)には、H−Hフラグ及びH−Cフラグは設定されない。
図16の説明を続ける。
次に、演算部22は、タイムカウンタBのカウントアップを開始し(S210)、制御部23は、加熱コイル14に750Wを投入し(S211)、天板2の判定用目標温度を[初期天板温度TH_0s+20℃]として判定用加熱を行う。演算部22は、天板温度検知部25が検知する現在の天板2の温度TH_curが、判定用目標温度(TH_0s+20℃)以上になると(S212;Yes)、ステップS213に進む。
次に、演算部22は、天板2の温度TH_curが、判定用目標温度(TH_0s+20℃)以上になったときのタイムカウンタBの値であるTime_Bを記憶部21に記憶し(S213)、判定用目標温度(TH_0s+20℃)と、待機時間60秒後の天板2の温度TH_60sとの差分である温度差ΔTH_3を算出する(S214)。この温度差ΔTH_3は、加熱コイル14に750Wを投入し始めてから天板温度が判定用目標温度(TH_0s+20℃)に至るまでの、天板2の温度上昇量である。
次に、演算部22は、温度差ΔTH_3をTime_Bで除算し、すなわち判定用加熱を開始してから判定用目標温度(TH_0s+20℃)に至るまでの天板2の温度上昇量を、判定用目標温度(TH_0s+20℃)に至るまでに要した時間で除算し、天板2の温度上昇率を算出する(S215)。次に、演算部22は、算出した天板2の温度上昇率、並びにH−Hフラグ及びH−Cフラグの有無と、図10に例示する隙間距離設定テーブルとを対比して、隙間距離を判定する(S216)。演算部22は、判定した隙間距離を、記憶部21に記憶させ、隙間距離判定処理を終了する。
一方、図16のステップS212にて天板2の温度TH_curが判定用目標温度(TH_0s+20℃)に到達せず(S212;No)、タイムカウンタBの値が200秒(第二制限時間)を経過した場合には(S217;Yes)、演算部22は、隙間距離をレベルG7であると判定し(S218)、図16の隙間距離判定処理を終了する。すなわち、加熱コイル14に750Wの電力を投入して加熱を行い、200秒(第二制限時間)を経過しても天板2の温度上昇量が20℃に到達しないということは、隙間距離が大きいため鍋から天板2へ伝わる熱が小さいと判断し、隙間距離を相対的に高レベルの値であるG7と判定している。このように、隙間距離判定処理において加熱コイル14に電力を投入する時間に上限値を設けておくことで、隙間距離が大きい場合であっても隙間距離判定処理の途中に過度に鍋が加熱されるのを抑制することができる。
図17は、実施の形態に係る加熱調理器のホットスタートBの場合の予熱第一工程の作用の一例を説明するタイムチャートである。図17では、ホットスタートBの場合において、H−Cフラグが設定される場合の、天板温度と加熱コイル14への投入電力の変化を示している。
初期天板温度TH_0sは、中温初期閾値(80℃)以上高温初期閾値(140℃)未満である。予熱工程開始時(0s)から60秒間の待機時間は、加熱コイル14への電力供給が停止されて鍋の加熱が行われず、天板2に載置された鍋からの熱伝達によって天板温度は徐々に低下する。待機時間60秒が経過したときの温度TH_60sの、初期天板温度TH_0sに対する温度低下量が、H−Cフラグ閾値(−10℃)を以上であるため、H−Cフラグが設定される。
次に、加熱コイル14に750Wの電力投入が開始されると、鍋が加熱され、これに伴って鍋からの熱伝達によって天板温度が上昇し、天板温度が判定用目標温度(TH_0s+20℃)に到達する(すなわち、天板温度の上昇量が20℃以上になる。図16のステップS212;Yes)。そうすると、判定用加熱開始(60s)から天板温度が判定用目標温度(TH_0s+20℃)に到達するまでの時間(Time_B)と、判定用加熱開始から天板温度が判定用目標温度(TH_0s+20℃)に到達するまでの温度上昇量とに基づいて天板2の温度上昇率が算出される。続けて、この温度上昇率及びH−Cフラグから、図11を参照して隙間距離が判定される。
このようにホットスタートBの場合には、判定用加熱時間における天板温度の判定用目標温度を、初期天板温度TH_0sに対する温度上昇量(本実施の形態では20℃)で設定しているので、H−Cフラグが設定されている場合(すなわち天板2よりも低温の鍋が載置されている場合)には、判定用加熱において、予熱工程開始時(0s)から60秒間に低下した天板2の温度の分も含めて天板2の温度を上昇させることになるので、隙間距離判定処理における加熱時間を確保することができる。したがって、温度上昇率の検出精度が高まり、温度上昇率に基づいて判定される隙間距離の判定精度も高めることができる。
なお、図示しないが、H−Hフラグが設定される場合には、図15と同様に予熱工程開始時(0s)から60秒間に天板2の温度が上昇する。したがって、判定用加熱時間における温度上昇量は、H−Cフラグが設定されている場合よりも小さくなる。このため、H−Hフラグが設定されていて鍋が高温になりやすい条件においては、隙間距離判定処理での加熱量が低くなって鍋が過度に加熱されるのを抑制することができるので、より安全性を高めることができる。
(ホットスタートC)
図18、図19は、実施の形態に係る加熱調理器の予熱第一工程の隙間距離判定処理を説明するフローチャートであり、ホットスタートCの動作を示している。
演算部22は、タイムカウンタAのカウントアップを開始する(S301)。このとき、加熱コイル14は電力OFFの状態であり(S302)、演算部22は電力OFFのままタイムカウンタAが60秒をカウントするまで待機し、60秒が経過すると(S303;Yes)、そのときの天板2の温度TH_60sを測定して記憶部21に記憶する(S304)。次に、演算部22は、待機時間60秒後の天板2の温度TH_60sと初期天板温度TH_0sとの差分である温度差ΔTH_1を算出する(S305)。
演算部22は、初期天板温度TH_0sに対する天板2の温度TH_curの低下量が10℃未満であれば、電力OFF状態を継続し(S321)、天板2の温度TH_curが初期天板温度TH_0sよりも10℃以上低下すると(S305;Yes)、ステップS306に進む。次に、演算部22は、待機時間60秒後の天板2の温度TH_60sと初期天板温度TH_0sとの差分である温度差ΔTH_1を算出する(S306)。
演算部22は、温度差ΔTH_1が予め設定された閾値−Dt℃以下である場合、すなわち、加熱コイル14への電力供給が停止されていた待機時間60秒の間に天板2の温度がDt℃以上低下した場合には(S307;Yes)、天板2よりも鍋の方が低温であるものと判断し、H−Cフラグを設定する(S308)。
ここで本実施の形態では、ホットスタートCの場合の閾値−Dtは、図10に示すように、ホットスタートA、Bの場合の閾値とは異なる値が設定されている。ホットスタートCの場合の閾値Dt℃=−20℃であり、初期天板温度TH_0sに対して温度TH_60sが20℃以上低下している場合にH−Cフラグが設定される。ホットスタートCは、ホットスタートA、Bに比べて初期の天板2の温度が高いため、天板2の上に同じ低温度の鍋を載置した場合の鍋との温度差も相対的に大きくなるので、この閾値−Dt(絶対値)も相対的に大きい値としている。
なお、図18において、待機時間60秒の間に天板2の温度がDt℃以上低下していない場合(S307;No)には、H−Cフラグは設定されない。
次に、演算部22は、初期天板温度TH_0sから10℃低下したと判定されたとき(つまり、ステップS305でYesと判定されたとき)の天板温度を、待機終了温度TH_Xsとして記憶部21に記憶させる(S309)。続けて、演算部22は、タイムカウンタBのカウントアップを開始し(S310)、制御部23は、加熱コイル14に750Wを投入し(S311)、天板2の判定用目標温度を[初期天板温度TH_0s+10℃]として判定用加熱を行う。演算部22は、天板温度検知部25が検知する現在の天板2の温度TH_curが、初期天板温度TH_0sに対して10℃以上上昇すると(S312;Yes)、ステップS313に進む。
ここで、ホットスタートBについて示した図16のステップS212では、隙間距離判定処理における天板2の判定用目標温度を、初期天板温度TH_0sに対して20℃上昇としたのに対し、ホットスタートCのステップS312では、隙間距離判定処理における天板2の判定用目標温度を、初期天板温度TH_0sに対して10℃上昇としており、ホットスタートBよりも上昇量を小さくしている。このようにしているのは、ホットスタートBよりも初期の天板2の温度が高温(本実施の形態では140℃以上)であるホットスタートCにおいて、判定用目標温度を高温にすると、鍋の温度と隙間距離によっては(例えば鍋が高温で隙間距離が小さい場合)、鍋が過度に高温化するおそれがあるためである。
次に、演算部22は、天板2の温度TH_curが、初期天板温度TH_0sよりも10℃以上上昇したと判定したときのタイムカウンタBの値であるTime_Bを記憶部21に記憶し(S313)、判定用目標温度(初期天板温度TH_0s+10℃)と、待機終了温度TH_Xsとの差分である温度差ΔTH_4を算出する(S314)。この温度差ΔTH_4は、加熱コイル14に750Wを投入し始めてから天板2が判定用目標温度(初期天板温度TH_0s+10℃)に到達するまでの、天板2の温度上昇量である。
次に、演算部22は、温度差ΔTH_4をTime_Bで除算し、すなわち加熱コイル14による加熱を開始してから判定用目標温度(初期天板温度TH_0s+10℃)に至るまでの天板2の温度上昇量を、判定用目標温度(初期天板温度TH_0s+10℃)に至るまでに要した時間で除算し、天板2の温度上昇率を算出する(S315)。次に、演算部22は、算出した天板2の温度上昇率、及びH−Cフラグの有無と、図10に例示する隙間距離設定テーブルとを対比して、隙間距離を判定する(S316)。演算部22は、判定した隙間距離を、記憶部21に記憶させ、隙間距離判定処理を終了する。
一方、図18のステップS312にて天板2の温度TH_curが判定用目標温度(初期天板温度TH_0s+10℃)に到達せず(S312;No)、タイムカウンタBの値が150秒を経過した場合には(S317;Yes)、演算部22は、H−Cフラグが設定されていれば(S318;Yes)、隙間距離をG3と判定し、H−Cフラグが設定されていなければ(S318;No)、隙間距離をG7と判定して、図18の隙間距離判定処理を終了する。すなわち、加熱コイル14に750Wの電力を投入して加熱を行い、所定時間(150秒)を経過しても天板2の温度上昇量が10℃を以上にならない場合には、H−Cフラグが設定されているときには鍋が低温であるために天板2の温度上昇に時間を要していると判断し、隙間距離を相対的に低レベルの値であるG3と判定している。また、H−Cフラグが設定されていないときには隙間距離が大きいため鍋から天板2へ伝わる熱が小さいと判断し、隙間距離を相対的に高レベルの値であるG7と判定している。このように、隙間距離判定処理において加熱コイル14に電力を投入する時間に上限値を設けておくことで、隙間距離が大きい場合であっても隙間距離判定処理の途中に過度に鍋が加熱されるのを抑制することができる。
また、ステップS305にて天板2の温度TH_curが初期天板温度TH_0s−10℃まで低下せず(S305;No)、タイムカウンタAの値が200秒を経過した場合には(S322;Yes)、図19に進む。図19に示す処理は、加熱停止状態で200秒経過しても天板2の温度の低下量が10℃未満である場合に実行される処理である。
図19において、演算部22は、予熱工程開始時から200秒後の天板2の温度TH_curを、温度TH_200sとして記憶部21に記憶させ(S323)、タイムカウンタCのカウントアップを開始し(S324)、加熱コイル14に750Wを投入し(S325)、天板2の判定用目標温度を[温度TH_200s+10℃]として隙間距離判定処理における加熱を行う。演算部22は、天板温度検知部25が検知する現在の天板2の温度TH_curが、温度TH_200sに対して10℃以上上昇すると(S326;Yes)、ステップS327に進む。
次に、演算部22は、天板2の温度TH_curが、温度TH_200sよりも10℃上昇したときのタイムカウンタCの値であるTime_Cを記憶部21に記憶し(S327)、判定用目標温度(温度TH_200s+10℃)と、温度TH_200sとの差分である温度差ΔTH_5を算出する(S328)。この温度差ΔTH_5は、加熱コイル14に750Wを投入し始めてから天板2が判定用目標温度(温度TH_200s+10℃)に到達するまでの、天板2の温度上昇量である。
次に、演算部22は、温度差ΔTH_5をTime_Cで除算し、すなわち加熱コイル14による判定用加熱を開始してから判定用目標温度(温度TH_200s+10℃)に至るまでの天板2の温度上昇量を、判定用目標温度(温度TH_200s+10℃)に至るまでに要した時間で除算し、天板2の温度上昇率を算出する(S329)。次に、演算部22は、算出した天板2の温度上昇率と、図10に例示する隙間距離設定テーブルとを対比して、隙間距離を判定する(S330)。演算部22は、判定した隙間距離を、記憶部21に記憶させ、隙間距離判定処理を終了する。
一方、図19のステップS326にて天板2の温度TH_curが判定用目標温度(温度TH_200s+10℃)に到達せず(S326;No)、タイムカウンタCの値が100秒を経過した場合には(S331;Yes)、演算部22は、隙間距離をG7と判定して、図19の隙間距離判定処理を終了する(S332)。すなわち、加熱コイル14に750Wの電力を投入して加熱を行い、所定時間(100秒)を経過しても天板2の温度上昇量が10℃以上にならない場合には、隙間距離が大きいため鍋から天板2へ伝わる熱が小さいと判断し、隙間距離を相対的に高レベルの値であるG7と判定している。このように、隙間距離判定処理において加熱コイル14に電力を投入する時間(判定用加熱の時間)に上限値を設けておくことで、隙間距離が大きい場合であっても隙間距離判定処理の途中に過度に鍋が加熱されるのを抑制することができる。
なお、ホットスタートCの場合は、前述のホットスタートA、Bの場合とは異なり、H−Hフラグの設定は行っていない。これは、鍋が天板2よりも高温である場合には、待機時間中に天板2の温度がさほど低下せず、待機時間が延長されて図19の処理を実行するからである。
次に、図18、図19に示したフローチャートによって実現されるホットスタートCの場合の予熱第一工程の作用を、天板2の温度及び加熱コイル14への投入電力に着目して説明する。
図20は、実施の形態に係る加熱調理器のホットスタートCの場合の予熱第一工程の作用の一例を説明するタイムチャートである。図20では、ホットスタートCにおいてH−Cフラグが設定される場合の、天板温度と加熱コイル14への投入電力の変化を示している。
初期天板温度TH_0sは、高温初期閾値(140℃)以上である。予熱工程開始時(0s)から60秒間は、加熱コイル14への電力供給が停止されて鍋の加熱が行われず、天板2に載置された鍋からの熱伝達によって天板2の温度は徐々に低下する。待機時間60秒が経過したときの天板2の温度TH_curが、初期天板温度TH_0sよりも10℃以上低下しているので(図18のS305;Yes)、天板2の温度低下量がΔTH_1として記憶される。また、天板2の温度の低下量がH−Cフラグ閾値(−20℃)以上であるため(図18のS307;Yes)、H−Cフラグが設定される。
次に、加熱コイル14に750Wの電力投入が開始されると、鍋が加熱され、これに伴って鍋に接している天板2も鍋からの熱伝達によって温度が上昇し、天板温度は、初期天板温度TH_0sよりも10℃以上上昇する(図18のS312;Yes)。そうすると、加熱コイル14への電力投入開始(60s)から天板2が判定用目標温度(初期天板温度TH_0s+10℃)に達するまでの時間(Ys−Xs=Time_B。ただし、Ysは天板2が判定用目標温度に到達した時刻、Xsは待機終了時刻である60s)と、加熱コイル14への電力投入開始(60s)から判定用目標温度(初期天板温度TH_0s+10℃)に至るまでの温度上昇量(ΔTH_4)とに基づいて、天板2の温度上昇率が算出される。続けて、この温度上昇率及びH−Cフラグから、図11を参照して隙間距離が判定される。
図21は、実施の形態に係る加熱調理器の予熱第一工程の作用の他の例を説明するタイムチャートである。図21において図20と異なるのは、加熱コイル14に電力を投入してから150秒が経過しても、天板2の温度が判定用目標温度(初期天板温度TH_0s+10℃)に到達しない点である。図20との相違点を中心に説明する。
予熱工程開始時(0s)から60秒が経過した時点で天板2の温度はH−Cフラグ閾値よりも低い温度となっているが、加熱コイル14に750Wの電力を投入して150秒が経過しても(210s)、天板2の温度は初期天板温度TH_0sに対する上昇量が10℃未満である(図18のS312;No、かつS317;Yes)。
このため、H−Cフラグが設定されているので隙間距離は演算部22によってG3であると判定され(S318;Yes)、隙間距離判定処理を終了する。
図21に示すような作用が生じた場合には、待機時間に天板2の温度が10℃以上低下していることから、鍋が天板2よりも低温であり、かつ隙間距離が比較的小さいということが分かる。そして、加熱コイル14に750Wを投入しても天板2の温度上昇率が図20に示したものよりも低いことから、鍋内の調理物も図20に示したものよりも低温であることが分かる。
この場合、天板2の温度上昇率を算出し、図11に基づいて隙間距離を判定することも考えられるが、鍋の温度がごく低温であるために隙間距離判定処理の加熱中における天板2の温度上昇量がごく少なかった場合には、温度上昇率も小さくなり、相対的に隙間距離が大きいと判定されうる。しかし実際には、待機時間中における天板2の温度低下度合いから、隙間距離が比較的小さいと判定されるので、判定結果が矛盾してしまう。また、隙間距離判定処理の加熱にタイムアウト制限を設けず、天板2が判定用目標温度(初期天板温度TH_0s+10℃)以上となるまで加熱して温度上昇率を算出して図11から隙間距離を判定することもできるが、そうすると隙間距離判定処理に要する時間が増えてしまう。そこで、本実施の形態では、隙間距離を比較的小さい固定の値(G3)としている。このようにすることで、鍋がごく低温の場合でも、隙間距離が大きいと誤判定するのを抑制することができ、また隙間距離判定処理の加熱時間の長時間化を抑制することができる。
図22は、実施の形態に係る加熱調理器の予熱第一工程の作用の一例を説明するタイムチャートである。図20、図21と異なるのは、H−Cフラグが設定されない点である。図20、図21との相違点を中心に説明する。
予熱工程開始時(0s)から60秒が経過した時点で、天板2の温度はTH_0sよりも低下しているものの、その低下量はH−Cフラグ閾値以上には至っていないため(図18のステップS307;No)、H−Cフラグは設定されない。
加熱コイル14に750Wの電力投入が開始され、鍋が加熱されると、これに伴い、鍋に接している天板2も鍋からの熱伝達によって温度が上昇し、天板2の温度が、初期天板温度TH_0sよりも10℃以上上昇する(図18のS312;Yes)。そうすると、加熱コイル14への電力投入開始(60s)から天板2が判定用目標温度(初期天板温度TH_0s+10℃)に達するまでの時間(Ys−60s=Time_B)と、加熱コイル14への電力投入開始(60s)から判定用目標温度(初期天板温度TH_0s+10℃)に至るまでの温度上昇量(ΔTH_4)に基づいて、天板2の温度上昇率が算出される。続けて、この温度上昇率から、図11を参照して隙間距離が判定される。
図22の場合が図20の場合と異なるのは、H−Cフラグが設定されていない点である。図11を参照して分かるように、温度上昇率が比較的大きい範囲である0.25以上においては、H−Cフラグがある場合(図20)には、H−Cフラグが無い場合(図22)よりも、隙間距離が小さく判定される。このようにしているのは、待機時間中における天板2の温度低下量が比較的大きい場合には、隙間距離が比較的小さく熱伝達が進み易い状態であると推測されるからである。
一方、温度上昇率が比較的小さい範囲である0.25未満においては、H−Cフラグがある場合(図20)であっても、H−Cフラグが無い場合(図22)と隙間距離の判定に差がなく、天板温度上昇率に基づいてのみ隙間距離が判定される。このようにしているのは、隙間距離が比較的大きい場合には、加熱によって鍋の過度な温度上昇が懸念されるため、隙間距離を過小評価しないようにしてより安全側に傾いた隙間距離を判定しているからである。
図23は、実施の形態に係る加熱調理器の予熱第一工程の作用の一例を説明するタイムチャートである。図23が図20〜図22と異なるのは、待機時間が経過(60s)しても、天板2の初期天板温度TH_0sからの低下量が10℃に達していない点である。図20〜図22との相違点を中心に説明する。
待機時間60秒が経過した時点で、天板2の温度は初期天板温度TH_0sよりも低下しているもののその低下量は10℃に到達しておらず(図18のステップS305;No)、待機時間が延長される。そして、延長された待機時間中に天板2の温度が初期天板温度TH_0sから10℃以上低下すると(図18のステップS305;Yes)、待機時間が終了する。しかし、60秒の時点での温度TH_60sと初期天板温度TH_0sとの差は、H−Cフラグ閾値未満であるので、H−Cフラグは設定されない(図18のステップS307;No)。
続けて、加熱コイル14に750Wの電力投入が開始されて鍋が加熱されると、これに伴い、鍋に接している天板2も鍋からの熱伝達によって温度が上昇し、天板2の温度が、判定用目標温度(初期天板温度TH_0s+10℃)以上となる(図18のS312;Yes)。そうすると、加熱コイル14への電力投入開始(Xs)から天板2が判定用目標温度(初期天板温度TH_0s+10℃)に達するまでの時間(Ys−Xs=Time_B)と、加熱コイル14への電力投入開始(Xs)から判定用目標温度(初期天板温度TH_0s+10℃))に至るまでの温度上昇量(ΔTH_4)に基づいて、天板2の温度上昇率が算出される。続けて、この温度上昇率及びH−Cフラグから、図11を参照して隙間距離が判定される。
図23の場合には、60秒の待機時間における天板2の温度低下量が比較的小さいため、待機時間を延長して天板2の温度が下がるのを待っている。このように天板2の温度低下を待っているのは、天板2が高温の状態のまま隙間距離判定処理のための加熱を行うと、それ以上温度上昇しにくいために天板2の温度上昇率の算出精度が低くなる可能性があり、ひいては隙間距離の判定精度の低下に繋がりうるためである。このため、天板2の温度低下を待ってから隙間距離判定処理のための加熱を行うようにしている。このようにすることで、天板2及び鍋が高温の状態で予熱開始が指示された場合でも、隙間距離の判定精度を確保することができる。
図24は、実施の形態に係る加熱調理器の予熱第一工程の作用の一例を説明するタイムチャートである。図23と異なるのは、待機時間が200秒まで延長されても、天板2の初期天板温度TH_0sからの低下量が10℃に達していない点である。図23との相違点を中心に説明する。
予熱工程開始時(0s)から60秒が経過した時点で、天板2の温度は初期天板温度TH_0sよりも低下しているもののその低下量は10℃に到達しておらず(図18のステップS305;No)、待機時間が延長される。そして、待機時間が延長されて予熱工程開始時(0s)から200秒が経過しても、なお天板2の温度の低下量が10℃に到達していない(図18のステップS322;Yes)が、200秒の時点で待機時間を終了する。
続けて、加熱コイル14に750Wの電力投入が開始される。そうすると、鍋が加熱され、これに伴い、鍋に接している天板2も鍋からの熱伝達によって温度が上昇し、天板2の温度が、電力投入開始時(200s)の温度TH_200sよりも10℃以上上昇する(図19のS326;Yes)。とそうすると、加熱コイル14への電力投入開始(200s)から天板2が判定用目標温度(温度TH_200s+10℃)に達するまでの時間(Xs−200s)と、温度差ΔTH_5(10℃)に基づいて、天板2の温度上昇率が算出される。続けて、この温度上昇率から、図11を参照して隙間距離が判定される。
図24の場合には、延長された待機時間の200秒を経過しても天板2の温度の低下量が10℃に到達しないので、200秒の時点で待機を終了している。天板2の温度が下がりにくいということは、鍋の温度が高温であってその鍋から天板2への熱伝達が良好であると判断できるので、隙間距離が比較的小さいと推測される。待機時間の延長時間にタイムアウト制限(200秒)を設けることで、予熱第一工程が長時間化しすぎないようにしている。
図25は、実施の形態に係る加熱調理器の予熱第一工程の作用の一例を説明するタイムチャートである。図24と異なるのは、加熱コイル14に電力を投入してから100秒が経過しても、天板2の温度が、判定用目標温度(温度TH_200s+10℃)に到達しない点である。図24との相違点を中心に説明する。
加熱コイル14に750Wの電力を投入して100秒が経過しても(300s)、天板2の温度は電力投入開始時の温度TH_200sに対する上昇量が10℃未満である(図19のステップS326;No、ステップS331;Yes)。
この場合は、隙間距離は、想定される隙間距離のうち相対的に大きな値であるG7と演算部22によって判定される。
図25のような作用が生じた場合には、待機時間を延長しても天板2の温度が低下しにくく、かつ、加熱コイル14に電力を投入しても天板2の温度が上昇しにくいことから、天板2と鍋との間の熱伝達が進みにくい状態、すなわち隙間距離が大きいと推測される。このため、本実施の形態では、隙間距離を、比較的大きな値であるG7と判定している。
例えば、天板2の温度上昇率を算出し、図11に基づいて隙間距離を判定することも考えられるが、そうした場合、鍋の温度上昇量が少ないために温度上昇率の判定精度が悪くなる可能性がある。温度上昇率に基づいて判定された隙間距離が、実際よりも小さい値に誤判定されると、隙間距離に基づいて検出される鍋の温度にも誤りが生じ、鍋を加熱したときに鍋の温度が過度に上昇する可能性がある。そこで、本実施の形態では、隙間距離を比較的大きい固定の値(G7)とすることで、より安全側に傾いた隙間距離の判定を行っている。
以上説明したように、初期天板温度TH_0sが初期閾値(40℃)以上の場合には、初期天板温度TH_0sに応じて定められた判定用目標温度に到達するように一定火力で判定用加熱を行い、その結果に基づいて隙間距離を判定する。
ここで、ホットスタートAについて示した図9のステップS112では、判定用目標温度を100℃(絶対値)としたのに対し、ホットスタートBのステップS212では、隙間距離判定処理における天板2の判定用目標温度を、初期天板温度TH_0sに対する上昇量とした。このようにしているのは、ホットスタートAよりも初期の天板2の温度が高温(本実施の形態では80℃以上140℃未満)であるホットスタートBにおいて、判定用目標温度を絶対値とすると、鍋の温度と隙間距離によっては(例えば鍋が高温で隙間距離が小さい場合)、天板2が判定用目標温度に到達するまでの時間が短すぎて隙間距離の判定が精度よく行えない可能性があるためである。
一方、天板2が比較的低温の状態(本実施の形態では40℃以上80℃未満)から予熱を開始するホットスタートAにおいては、判定用目標温度を100℃とすることで隙間距離判定処理における加熱時間を確保し、隙間距離の判定を精度よく行えるようにしている。
また、本実施の形態において初期天板温度が最も高温の条件であるホットスタートCにおいても、同様の理由により、図18のステップS312における天板2の判定用目標温度を、初期天板温度TH_0sに対する上昇量としている。
さらにホットスタートCの場合には、待機時間(延長された待機時間を含む)を経過しても天板2の温度低下量が10℃未満の場合に実行される図19のステップS326において、天板2の判定用目標温度を、初期天板温度TH_0sではなく待機時間後の温度TH_200sに対する上昇量としている。待機時間中における天板温度の低下量が少ないということは、隙間距離が大きいか又は鍋の温度が高温であるということである。待機時間後の温度TH_200sに対する温度上昇量とすることで、待機時間中に10℃未満ながら天板2の温度が低下している場合には、その低下分も含めて隙間距離判定処理において天板温度を上昇させることになるので、加熱時間を確保することができ、温度上昇率の検出精度を高めることができる。また、隙間距離が大きい場合や天板2に温度が高温の場合には、隙間距離判定処理における加熱時間が相対的に短くなるので、鍋及び調理物の過度な高温化が抑制され、加熱調理器の安全性を高めることができる。
また、判定用加熱の制限時間は、ホットスタートA、B、Cの順に短くなるように設定している。これは、初期天板温度が相対的に高温の場合に長時間加熱すると、鍋の温度が過度に高温化する可能性が高まるからである。初期天板温度が高温の場合には、低温の場合よりも判定用加熱の制限時間を短くすることで、より安全性を高めることができる。なお、本実施の形態にかかわらず、初期天板温度が異なる場合であっても判定用加熱の制限時間を同じ時間としてもよい。
(コールドスタート)
天板2の温度が比較的低温(本実施の形態では低温初期閾値である40℃未満)のとき(コールドスタート)の、隙間距離判定処理を説明する。
コールドスタートの場合には、ホットスタートA〜Cのように待機時間を設けず、予熱開始指示が入力されると加熱コイル14への一定電力の投入が開始される。
加熱開始から所定時間(例えば50秒)が経過すると、演算部22は、加熱コイル14に電力投入を開始する前の天板2の初期天板温度TH_0sと、50秒の時点での天板2の温度TH_50sとの温度差ΔTH_6を、図26に示すコールドスタート用の隙間距離設定テーブルと対比して、隙間距離を判定する。図26に示すコールドスタート用の隙間距離設定テーブルは、加熱コイル14への電力投入開始時と電力投入開始から所定時間(50秒)後の温度差ΔTH_6と隙間距離のレベルとを対応付けたテーブルである。隙間距離レベルテーブルは、実験等によって得た値のテーブルであり、予め記憶部21に記憶されているものである。本実施の形態では、鍋の浮き量(隙間距離)を、レベルG1〜G8までの8段階に分けている。
(予熱第二工程)
次に、前述した予熱第一工程に引き続いて行われる予熱第二工程について説明する。
図27は、実施の形態に係る加熱調理器の予熱第二工程を説明するフローチャートである。
図27に示すように、制御部23は、加熱コイル14に1.5kWの電力を投入する(S401)。次に、演算部22は、このときの赤外線温度検知部24が検出した温度(赤外線センサ温度)を、IR_H0として記憶部21に記憶させ、タイマーカウンタをスタートさせる(S402)。
所定の放射率検出時間(実施の形態では30秒)が経過すると(S403;Yes)、演算部22は、このときの赤外線センサ温度を、IR_H30として記憶部21に記憶させる(S404)。
演算部22は、IR_H30とIR_H0との差分値である差ΔT_IRを算出する(S405)。
次に、演算部22は、ステップS405で算出したIR_H30とIR_H30との差分値ΔIR(すなわち、加熱開始から30秒までの間の上昇値)と、予熱第一工程で判定した隙間距離とを、図28に示す放射率設定テーブルと照合して鍋の放射率を推定する放射率推定処理を行う(S406)。鍋の隙間距離に応じて天板2からの赤外線の影響が異なるため、放射率を推定する際の閾値は、図28に示すように、鍋の隙間距離レベルに応じて異なる値を用いている。例えば、隙間距離がレベルG1である場合には、ステップS405で算出したΔT_IRと、レベルG1に対応するΔIRの閾値(40℃)とを対比することにより、鍋の放射率を推定する。なお、図28に示すテーブルは、実験等によって得た値のテーブルであり、予め記憶部21に記憶されているものである。
次に、演算部22は、予熱第一工程で判定した隙間距離と、ステップS406で判定した鍋底の放射率とに基づいて、図29の補正係数テーブルを参照して、補正係数α、βを決定する(S407)。図29に示す補正係数テーブルは、隙間距離(G1〜G8)と放射率との組み合わせと、補正係数α(第一補正係数)と補正係数β(第二補正係数)とを組み合わせたテーブルであり、予め記憶部21に記憶されている。
次に、演算部22は、ステップS407で決定した補正係数α、βを用いて、天板2の上に載置されている鍋の温度を、次の式(1)を用いて推定する(S408)。
鍋の温度推定値Tn=α×IR−β×TH ・・・(1)
ただし、式(1)の符号は以下の通りである。
IR:赤外線温度検知部24の出力値
TH:天板温度検知部25の出力値
α:第一補正係数
β:第二補正係数
式(1)に示すように、本実施の形態では、赤外線温度検知部24の出力値に補正係数α(第一補正係数)を掛け合わせてこれを赤外線温度補正値とし、また、天板温度検知部25の出力値に補正係数β(第二補正係数)を掛け合わせてこれを天板温度補正値としている。そして、赤外線温度補正値から天板温度補正値を差し引くことで、鍋の温度推定値Tnを得ている。
従来、赤外線センサ12が検出する鍋から放射され天板2を透過する赤外線エネルギーと、天板2から放射される赤外線エネルギーから天板温度検知部25により得られた天板2から放射される赤外線エネルギーを差し引く場合のエネルギー計算は、ステファン・ボルツマンの式に導かれるように出力温度に対して4乗の計算と放射率の掛け合わせが必要であった。
しかしながら、マイコンなどの演算部22による4乗の計算は負荷が大きくなるため、本実施の形態では、実験結果から求めた上記簡略的な式(1)を採用している。
図28に示すように、同じ放射率の場合、隙間距離が大きい場合には小さい場合よりも補正係数β(第二補正係数)が小さい値となっている。これは、鍋底と天板2との空隙が大きいほど、温度が安定した際の鍋底と天板2との温度差が大きく、天板2から放射される赤外線の割合が小さいことを示している。したがって、隙間距離が大きいほど、天板温度検知部25の出力値に掛ける補正係数βを小さくすることで、鍋の温度推定値Tnを算出するにあたって天板2の影響分を差し引く量を減らしている。なお、隙間距離が大きい場合には小さい場合よりも補正係数βを小さくすることに代えて、補正係数αを大きくしても同様の効果を得ることができる。
また、図28に示すように、同じ隙間距離レベルであるときには、放射率が低い場合には高い場合よりも補正係数α(第一補正係数)は大きい値となっている。これは、放射率が低いほど鍋底から放射される赤外線エネルギーが小さくなり、天板2を透過する赤外線量が小さく、増幅補正する必要があるためである。また、同様の理由により、同じ隙間距離レベルであるときには、放射率が低い場合には高い場合よりも補正係数β(第二補正係数)は小さい値となっている。このようにすることで、鍋の温度推定値Tnを算出するにあたって天板2の影響分を差し引く量を減らしている。
以上のように、判定した隙間距離と放射率とに基づいて決定した補正係数αを赤外線温度検知部24の出力値に掛け合わせるとともに、補正係数βを天板温度検知部25の出力値に掛け合わせる演算をすることで、鍋底の温度を推定することができる。
なお、図示しないが、演算部22は、ステップS407で決定した補正係数α、βと前述の式(1)を用いて鍋の温度推定値Tnを算出する処理を、これ以降も所定周期で行う。
次に、演算部22は、ステップS408で算出した鍋底の温度推定値Tnが、設定温度(例えば180℃)に到達したか否かを判定する(S409)。そして、演算部22は、鍋底の温度推定値Tnが設定温度に到達した場合は(S409;Yes)、予熱工程を終了する。
一方、鍋底の温度推定値Tnが設定温度に到達していない場合は(S409;No)、演算部22は、鍋の温度推定値Tnが、設定温度(180℃)よりも50℃低い130℃に到達しているか判定して(S410)、到達した段階で火力を1.25kWに低下させる(S411)。次に、演算部22は、鍋の温度推定値Tnが、設定温度(180℃)よりも30℃低い150℃に到達しているか判定して(S412)、到達した段階で火力を1.0kWに低下させる(S413)。次に、演算部22は、鍋の温度推定値Tnが、設定温度(180℃)よりも10℃低い値で170℃に到達しているか判定して(S414)、到達した段階で火力を0.8kWに低下させる(S415)。演算部22は、鍋の温度推定値Tnが設定温度(180℃)に到達すると(S416;Yes)、予熱第二工程を終了する。図27で例示した具体的な数値は一例であるが、このように所定周期で温度推定値Tnが設定温度に近づくにつれて火力を徐々に低下させる(S410〜S416)と、いわゆるオーバーシュートの発生を抑制して鍋内の調理物を予熱目標温度まで昇温させることができる。
以上のように本実施の形態では、天板2の表面と鍋底との隙間距離が大きくなるほど加熱手段が鍋を加熱したときの天板2の温度の上昇率が小さくなることを利用して、隙間距離を判定するようにした。そして、天板2の温度上昇率を算出するために加熱手段が加熱を行う際において、加熱開始前の天板温度が初期閾値以上である場合には、加熱開始前の天板温度に応じて設定された目判定用標温度に天板温度が到達するように一定電力で加熱を行うようにした。このため、初期天板温度が相対的に低い場合には、判定用目標温度に至るまでの温度上昇幅が大きくなるように判定用目標温度を定めることで、温度上昇率の算出精度を向上させることができ、また、初期天板温度が相対的に高い場合には、判定用目標温度に至るまでの温度上昇幅が小さくなるように判定用目標温度を定めることで、温度上昇率を測定するための加熱中に鍋内の調理物が高温化するのを抑制することができる。したがって、隙間距離の検出精度の向上と鍋内の調理物の高温化の抑制のバランスを取りつつ、隙間距離を検出することができる。
例えば、天板2の温度上昇率を算出するために、一定時間一定電力で加熱を行ったとすると、加熱開始前の天板温度が高温状態の場合には、一定時間内における温度上昇の傾きが相対的に小さくなる。このため、加熱開始前の天板温度が高温状態の場合には、温度上昇率の誤判定が相対的に生じやすくなり、温度上昇率に基づく隙間距離の判定にも誤りが生じやすくなる。一方、温度上昇の傾きを大きくするために例えば加熱時間を増やしたとすると、温度上昇率を測定するための加熱中に鍋内の油等の調理物が高温化するおそれがある。
しかしながら、上述のように本実施の形態では、加熱開始前の天板温度が初期閾値以上であれば、加熱開始前の天板温度に応じて判定用目標温度を定め、天板温度がその判定用目標温度に到達するように一定火力で加熱するようにした。このため、加熱開始前の天板温度が初期閾値以上の場合において、加熱開始前の天板温度が低い場合には温度上昇幅が大きくなるように判定用目標温度を定めることで、温度上昇率の算出精度を向上させることができ、また、加熱開始前の天板温度が高い場合には温度上昇幅が小さくなるように判定用目標温度を定めることで、温度上昇率を測定するための加熱中に鍋内の調理物が高温化するのを抑制することができる。このように本実施の形態によれば、例えば天板2上で加熱調理を行って天板2が熱い状態で続けて加熱調理を行う場合であっても、隙間距離の検出精度の向上と、鍋内の調理物の高温化の抑制のバランスのとれた加熱調理器を得ることができる。
また、本実施の形態では、天板2の温度上昇率を測定するための加熱中において、予め定められた制限時間(第一制限時間、第二制限時間、及び第三制限時間)が経過しても判定用目標温度に到達しない場合には、隙間距離が大きいもの判定して温度上昇率を測定するための加熱を終了するようにした。このため、隙間距離が大きい場合に、鍋内の調理物が過度に高温化するのを抑制できるので、安全性を高めることができる。
また、本実施の形態では、天板2の温度上昇率を測定するための加熱を開始する前に、加熱を行わない待機時間を設けた。そして、待機時間中における天板温度の変化に基づいて、天板2と天板2に載置された鍋との温度の高低を判定し、鍋が天板温度よりも高温である場合には、温度上昇率に基づいて算出される隙間距離が、鍋が天板温度よりも低温である場合と比べて大きくなるように隙間距離を補正するようにした。例えば載置された鍋が高温であって隙間距離が大きい場合には、実際には隙間距離が大きいにもかかわらず天板2の温度上昇率が比較的小さいために隙間距離が小さいと判定されるおそれがあり、そうなると、隙間距離に基づいて検出される鍋の温度は、実際よりも低い値であると検出され、結果的に鍋内の調理物が過度に高温化する可能性がある。しかし、本実施の形態では、同じ温度上昇量であれば、鍋の温度が天板温度よりも高温である場合には、低温である場合よりも隙間距離が大きいと判定するようにしたので、隙間距離を過小評価する誤判定を抑制し、精度よく加熱制御を行うことができる。また、鍋の過度な高温化を抑制できるので、加熱調理器の安全性を高めることができる。
また、本実施の形態では、天板2の上に鍋が載置された状態において、鍋底と天板2との隙間距離を判定し、隙間距離を加味して鍋の放射率を推定するようにした。そして、鍋底と天板2との間の隙間距離と鍋の放射率とに基づいて補正係数α、βを選択し、その補正係数α、βで赤外線温度検知部24の出力値と天板温度検知部25の出力値とをそれぞれ補正し、補正後の赤外線温度検知部24の温度から補正後の天板温度検知部25の温度を差し引くことで、鍋底の温度を検知する。このため、天板2の上に載置されている鍋が浮いたり反ったりしている場合でも、精度よく鍋底の温度を検知することができる。このように検知された精度のよい温度情報に基づいて加熱コイル14への高周波電力の通電を制御することができるので、無駄な加熱や加熱不足を抑制することのできる加熱調理器を得ることができる。
なお、各図で例示した温度や時間等の具体的数値は一例であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で任意の値を採用することができる。また、上記実施の形態では、加熱開始前の天板温度が初期閾値(40℃)以上である場合について、初期天板温度に基づいてホットスタートA、B、Cの3種類に分類して動作を分けたが、2分類あるいは4分類以上に分類してもよいし、初期天板温度が初期閾値以上であればそれ以上分類しなくてもよい。
また、上記説明では、揚げ物調理を行う場合を例に説明したが、揚げ物以外の被加熱物の温度を設定温度に保つ加熱制御を行う調理メニューを実行する場合にも、同様の処理を実行することができる。また、調理メニューを設定せず火力のみを設定して加熱を行う場合にも、上述の隙間距離判定処理、放射率判定処理、及び被加熱物温度検知処理を行うことができる。