JP5326425B2 - 高強度冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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自動車車体の軽量化と強化とを同時に満足させるには、部品素材を高強度化することが効果的であると言われており、最近では、自動車部品に対して高強度鋼板が積極的に使用されている。
しかしながらSi等の添加された鋼板は、通常の製造工程で実施される還元焼鈍の雰囲気で、易酸化性元素であるSiが優先的に酸化されて鋼板表面に濃化し、表面にSi含有酸化物層が形成される。そして、この様に表面に酸化物層の形成された鋼板にりん酸塩処理を行った場合、均一かつ微細にりん酸亜鉛の結晶を形成させることができず、部分的にりん酸塩結晶が欠損した表面状態となる。更に、この様なりん酸塩処理不良の鋼板表面に電着塗装等の塗装を施したとしても、密着性の良好な塗膜が得られなかったり、塗装後の耐食性が劣化することになる。
上記を受けて、これまでにも、この様な課題を解決すべく様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1では、20〜1500mg/m2 の鉄被覆層を電気めっき法で鋼板上に形成する方法が開示されている。
しかし、特許文献1の方法では、電気めっき設備が別途必要となって工程が増加する分コストも増大するという問題がある。
しかしながら、その効果は鋼板中のSi含有量に依存するものであり、Si含有量の高い鋼板については更なる改善が必要であると考えられる。
[1]Si:0.8mass%以上、2.0mass%以下を含有し、鋼板表面から板厚方向1μmまでの板厚断面領域において、Si含有酸化物が5%以下であることを特徴とする高強度冷延鋼板。
[2]Si:0.8mass%以上、2.0mass%以下を含有する冷間圧延後の鋼板に対して
N2-H2雰囲気中で、露点:-26℃以下、焼鈍温度:750℃〜900℃で焼鈍を行い、次いで、硫酸とクエン酸を含む溶液中で電解酸洗を行うことを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[3]前記[2]において、前記電解酸洗が、陰極電解を行い、さらに、陽極電解を行うことを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%はすべて、mass%である。また、高強度冷延鋼板とは、590MPa以上の引張強度を有する冷延鋼板である。
本発明の鋼板は表面から板厚方向1μmまでの板厚断面領域において、Siを含有する酸化物が5%以下となっているため、りん酸塩処理を行った場合、均一かつ微細にりん酸亜鉛の結晶を形成させることができる。そして、十分にりん酸塩結晶が形成した状態となるため、電着塗装等の塗装を施した場合、密着性の良好な塗膜が得られることになる。
そして、上記の高強度冷延鋼板は、以下のように製造される。
歪取りや組織調整を目的として行われる焼鈍の条件を規定することで、まず、鋼中のSiを表面に拡散させ表面にSi含有酸化物を生成させる。次いで電解酸洗にて、表面のSi含有酸化物を除去する。具体的には、N2-H2雰囲気中で、露点:-26℃以下、焼鈍温度:750℃〜900℃で焼鈍を行う。これにより、鋼中のSiが表面に拡散して表面にSi含有酸化物が生成し、Siの内部酸化が抑えられる。そして、焼鈍によって表面に生成したSi含有酸化物を、硫酸水溶液にクエン酸を添加した電解質溶液中での電解酸洗で溶解除去し、所定の高強度冷延鋼板を得る。
まず、本発明における鋼の化学成分の限定理由について説明する。
本発明においてSiは加工性を低下させずに強度を上げる元素であり、強度と加工性のバランスを向上させるために添加する。590Mpa以上の引っ張り強度を得るために0.8mass%以上の添加が必要である。一方、過度に添加すると脆化が顕著となることから上限は2.0mass%とする。
C量は0.01〜0.20mass%であることが好ましく、0.04〜0.15mass%であればさらに好ましい。C量が下限値未満であると、固溶、析出、細粒化、変態等による強化の効果がほとんど見られず、C量が上限値超であると、固溶、析出、細粒化、変態等による強化の効果は飽和し、コストがかかるためである。
Mn量は1.0〜2.5mass%であることが好ましく、1.5〜2.3mass%であればさらに好ましい。Mn量が下限値未満であると、固溶、析出、細粒化、変態等による強化の効果がほとんど見られず、Mn量が上限値超であると、固溶、析出、細粒化、変態等による強化の効果は飽和し、コストがかかるためである。
P量は、0.03mass%以下が好ましく、0.02mass%以下がさらに好ましい。上限値超になると耐食性が劣化傾向となるためである。
S量は、0.005mass%以下が好ましく、0.002mass%以下がさらに好ましい。上限値超になると耐食性が劣化傾向となるためである。
また、上記に加え、必要に応じて、さらにTi、Nb、V、Mo、Cu、Niの1種または2種以上を含有することもできる。
本発明の高強度冷延鋼板は、前述の化学成分範囲に調整された鋼を溶製しスラブとし、次いで、熱間圧延後、(酸洗)、冷間圧延を行い、次いで、焼鈍し冷却することにより得られる。
ここで、鋼の溶製方法は特に限定せず、電気炉を用いても、転炉を用いても良い。また、溶製後の鋼の鋳造方法は、連続鋳造法により鋳片としても良いし、造塊法により鋼塊としても良い。
連続鋳造後にスラブを熱間圧延するにあたって、加熱炉でスラブを再加熱した後に圧延してもよいし、またはスラブを加熱することなく直送圧延することもできる。また、鋼塊を造塊した後に分塊圧延してから、熱間圧延に供しても良い。
熱間圧延は常法に従って実施可能であり、例えば、スラブの加熱温度は1100〜1300℃、仕上圧延温度はAr3点以上、仕上圧延後の冷却速度は10〜200℃/sとすればよい。ここで、熱間圧延工程において内部酸化層の形成を防止する為に、巻き取り温度は650℃以下とすることが好ましく、630℃以下にすることがさらに好ましい。冷間圧延率については、通常の操業範囲内の50〜85%で行うことができる。
そして、本発明においては、高濃度のSiを含有する鋼板の製造過程において、内部酸化層の形成を抑え、鋼板表面にSi含有酸化物層を形成させることが重要である。そこで、通常、熱間圧延または冷間圧延した後に歪取りや組織調整を目的として行われる焼鈍の条件を、本発明では、内部酸化層の形成を抑える条件で行い、そして、焼鈍後、表面のSi含有酸化物除去の目的で電解酸洗を行うことで所定の鋼板が得られることを見いだした。
以下、本発明において重要な焼鈍および電解酸洗について詳細を説明する。
冷間圧延後の焼鈍工程の条件は、内部酸化層の形成を抑えるために重要であり、N2-H2雰囲気中で、露点:-26℃以下、焼鈍温度:750℃〜900℃とする。このような条件で焼鈍する場合、Feに対しては還元性であるがSiに対しては酸化性の雰囲気であることから、鋼中のSiが表面に拡散して表面にSi含有酸化物を生成する。一方で、-26℃よりも高い露点の雰囲気で焼鈍を行うと、表層のみならず内部酸化層が形成され電着塗装後の耐食性劣化の原因となる。
焼鈍によって表面に形成されたSi含有酸化物は焼鈍後に除去すればよく、電解酸洗によって除去することができる。
この際に単純な硫酸水溶液中での電解酸洗処理では表層に形成されたSi含有酸化物を完全に除去することが難しいため、硫酸水溶液にクエン酸を添加する。硫酸濃度は5mass%以上、20mass%以下が好ましく、より望ましくは10mass%以上、15mass%以下である。硫酸濃度が下限未満では導電率が低くなることから電解時の浴電圧が上昇し、電源への負荷が大きくなる。硫酸濃度が上限超では、ドラグアウトによる損失が大きくコスト的に問題となる。
また、溶液中に添加するクエン酸の形態は特に規定するものではないが、クエン酸Naもしくはクエン酸アンモニウムが好ましく、添加量は、クエン酸アニオンとして5g/L以上20g/L以下が好ましく、より好ましくは8g/L以上15g/L以下である。クエン酸アニオン濃度が下限を下回るとSi含有酸化物の除去が不十分になり、上限を越えると効果が飽和するために経済性の観点から好ましくない。
電解質溶液の温度は40℃以上70℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上60℃以下である。連続電解することによる発熱で浴温が上昇することから、40℃未満に温度を維持することは困難である。また、電解槽のライニングの耐久性の観点から温度が70℃を超えることは問題である。
また、電解の方法は特に規定するものではないが、鋼板表面のSi含有酸化物を除去するためには、単純な陽極電解ではSi含有酸化物を完全に除去することは困難である。一旦陰極電解で水素発生させて表面を活性化させてから極性を反転して陽極電解することにより表面のSi含有酸化物を完全に除去することが可能となる。
また、鋼板表面から板厚方向1μmまでの板厚断面領域におけるSi含有酸化物の存在割合は、以下の方法にて確認することができる。
鋼板表面と直行する方向の断面を電子顕微鏡にて50000倍以上の倍率で、鋼板表面長さ10μm、表面及び表面から板厚方向1μmの領域において、Si含有酸化物の占める面積をマッピング処理により確認する。Si含有酸化物は、表層に層状に形成されているか、析出物の形態で存在するため、そのような通常の鋼板成分と異なる部分の成分を測定し、Si含有酸化物の部分の面積を測定すればよい。
表1に示す成分からなるスラブを1200℃にて加熱した後、仕上げ温度を870℃として、熱間圧延を行い、巻き取り温度600℃で巻き取った。次いで、酸洗を行いスケールを除去し、圧延率70%で冷間圧延を行った後に、表1および以下に示す条件で脱脂、焼鈍及び電解酸洗を行なった。なお、上記により得られ冷間圧延の板厚は1.2mmである。
脱脂:
60℃の5%水酸化ナトリウム水溶液に30秒間浸漬後、水洗し、乾燥した。
電解酸洗:
50℃の水溶液(表1に示す硫酸濃度、クエン酸濃度)中で、陰極電解を行い、次いで、陽極電解を行った。なお、電流密度及び処理電解時間は表1に示す通りである。
また、比較のため、電流を流さない酸洗のみの場合も行った。次いで、水洗し、乾燥した。
<Si含有酸化物>
鋼板表面と直行する方向の断面を電子顕微鏡にて50000倍以上の倍率で、鋼板表面長さ10μm、表面及び表面から板厚方向1μmの領域において、Si含有酸化物の占める面積をマッピング処理により確認する。Si含有酸化物は、表層に層状に形成されているか、析出物の形態で存在するため、そのような通常の鋼板成分と異なる部分の成分を測定し、Si含有酸化物の部分の面積を測定すればよい。Si含有酸化物の量を下記に分類した。
◎:検出限界(1%)未満
○:1%以上5%以下
△:5%超、10%未満
×:10%超
<化成処理性評価>
上記の方法で得られた冷延鋼板サンプルから、150×70mmの試験片を切り出し、日本パーカライジング製のPB-L3080で化成処理を行った後に、10×10mmの試験片を切り出し、供試材とした。
走査型電子顕微鏡を用いて加速電圧15kV、倍率1000倍のSE像観察を行い、各検体につき任意の5視野で観察し、リン酸塩処理のスケの有無で判定した。5視野の中に、1箇所でもスケのあるものは×とし、5視野の中に全くスケのないものを○とした。
<電着塗装後の耐食性>
(試験片作成手順)
上記の方法で得られた冷延鋼板サンプルから、150×70mmの試験片を切り出し、日本パーカライジング製のPB-L3080で化成処理を行った後に、日本ペイント製のPN-150Gでカチオン電着塗装(焼付条件:170℃×20分、膜厚25μm)を行った。その後、端部と評価しない側の面を、Alテープでシールし、カッターナイフにて地鉄に達するクロスカット(クロス角度60°)を入れ、供試材とした。
5%NaCl水溶液(55℃)中に、240時間浸漬後に取り出し、水洗、乾燥後にクロスカット部をテープ剥離し、剥離幅を測定し、片側2.5mm未満であれば○、2.5mm以上であれば×と判定した。
Claims (2)
- C:0.01 mass%以上0.20 mass%以下、Si:0.8mass%以上2.0mass%以下、Mn:1.0 mass%以上2.5 mass%以下、P:0.03mass%以下、S:0.005mass%以下を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなる冷間圧延後の鋼板に対して、N2-H2雰囲気中で、露点:-26℃以下、焼鈍温度:750℃〜900℃で焼鈍を行い、次いで、硫酸とクエン酸を含む溶液中で電解酸洗を行うことを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
- 前記電解酸洗が、陰極電解を行い、さらに、陽極電解を行うことを特徴とする請求項1に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
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