JP5712541B2 - 高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、Si含有量が多い場合でも、優れた化成処理性及び電着塗装後の耐食性を有する高強度鋼板およびその製造方法に関するものである。
近年、自動車の燃費向上および自動車の衝突安全性向上の観点から、車体材料の高強度化によって薄肉化を図り、車体そのものを軽量化しかつ高強度化する要望が高まっている。そのために高強度鋼板の自動車への適用が促進されている。
一般に自動車用鋼板は塗装して使用されており、その塗装の前処理として、リン酸塩処理と呼ばれる化成処理が施される。鋼板の化成処理は塗装後の耐食性を確保するための重要な処理の一つである。
鋼板の強度、延性を高めるためには、Siの添加が有効である。しかしながら、連続焼鈍の際に、SiはFeの酸化が起こらない(Fe酸化物を還元する)還元性のN2+H2ガス雰囲気で焼鈍を行った場合でも酸化し、鋼板最表層にSi酸化物(SiO2)を形成する。このSiO2が化成処理中の化成皮膜の生成反応を阻害するため、化成皮膜が生成されない微小領域(以後、スケと称することもある)が形成され、化成処理性が低下する。
高Si含有鋼板の化成処理性を改善する従来技術として、特許文献1では、20〜1500mg/mの鉄被覆層を電気めっき法を用いて鋼板上に形成する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、電気めっき設備が別途必要となり工程が増加する分コストも増大するという問題がある。
また、特許文献2では、Mn/Si比率を規定し、特許文献3ではNiを添加することによって、各々リン酸塩処理性を向上させている。しかしながら、その効果は鋼板中のSi含有量に依存するものであり、Si含有量の高い鋼板については更なる改善が必要であると考えられる。
更に、特許文献4では、焼鈍時の露点を−25〜0℃にすることで、鋼板素地表面から深さ1μm以内にSi含有酸化物からなる内部酸化層を形成し、鋼板表面長さ10μmに占めるSi含有酸化物の割合を80%以下にする方法が開示されている。しかしながら、特許文献4に記載の方法の場合、露点を制御するエリアが炉内全体を前提としたものであるため、露点の制御性が困難であり安定操業が困難である。また、不安定な露点制御のもとでの焼鈍を行った場合、鋼板に形成される内部酸化物の分布状態にバラツキが認められ、鋼板の長手方向や幅方向で化成処理性のムラ(全体または一部でスケ)が発生する懸念がある。さらに、化成処理性が向上した場合でも、化成処理皮膜の直下にSi含有酸化物が存在することから電着塗装後の耐食性が悪いという問題がある。
また、特許文献5では、酸化性雰囲気中で鋼板温度を350〜650℃に到達させて鋼板表面に酸化膜を形成させ、その後、還元性雰囲気中で再結晶温度まで加熱し冷却する方法が記載されている。しかしながらこの方法では、酸化する方法により鋼板表面に形成される酸化皮膜の厚みに差があり、十分に酸化が起こらなかったり、酸化皮膜が厚くなりすぎて、後の還元性雰囲気中での焼鈍において酸化膜の残留または剥離を生じ、表面性状が悪化する場合があった。実施例では、大気中で酸化する技術が記載されているが、大気中での酸化は酸化物が厚く生成してその後の還元が困難である、あるいは高水素濃度の還元雰囲気が必要である、等の問題がある。
さらに、特許文献6では、質量%でSiを0.1%以上、及び/または、Mnを1.0%以上含有する冷延鋼板について、鋼板温度400℃以上で鉄の酸化雰囲気下で鋼板表面に酸化膜を形成させ、その後、鉄の還元雰囲気下で前記鋼板表面の酸化膜を還元する方法が記載されている。具体的には、400℃以上で空気比0.93以上1.10以下の直火バーナーを用いて鋼板表面のFeを酸化した後、Fe酸化物を還元するN+Hガス雰囲気で焼鈍することにより、化成処理性を劣化させるSiOの最表面での酸化を抑制し、最表面にFeの酸化層を形成させる方法である。特許文献6には、直火バーナーの加熱温度が具体的に記載されていないが、Siを多く(概ね0.6%以上)含有する場合には、Feよりも酸化しやすいSiの酸化量が多くなってFeの酸化が抑制されたり、Feの酸化そのものが少なくなりすぎたりする。その結果、還元後の表面Fe還元層の形成が不十分であったり、還元後の鋼板表面にSiOが存在し、化成皮膜のスケが発生する場合がある。
特開平5−320952号公報 特開2004−323969号公報 特開平6−10096号公報 特開2003−113441号公報 特開昭55−145122号公報 特開2006−45615号公報
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、Si含有量が多い場合でも、優れた化成処理性及び電着塗装後の耐食性を有する高強度鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
従来は、めっき性を改善する目的で積極的に鋼板の内部を酸化させていた。しかし、同時に、耐食性や加工性が劣化する。そこで、本発明者らは、従来の考えにとらわれない新たな方法で課題を解決する方法を検討した。その結果、焼鈍工程の雰囲気と温度を適切に制御することで、鋼板表層部において内部酸化の形成を抑制し、優れた化成処理性と、より高い耐食性が得られることを知見した。具体的には、加熱過程では焼鈍炉内温度:600℃以上A℃以下(A:650≦A≦1000)の温度域を昇温速度:7℃/s以上とし、かつ、均熱過程では焼鈍炉内温度:820℃以上1000℃以下の温度域を雰囲気の露点:−45℃以下とし、さらに、冷却過程では750℃以上の温度域を雰囲気の露点:−45℃以下となるように制御して焼鈍、化成処理を行う。加熱過程で焼鈍炉内温度:600℃以上A℃以下(A:650≦A≦1000)の温度域を昇温速度:7℃/s以上とすることで易酸化性元素の選択的表面酸化(以後、表面濃化と呼ぶ)を極力抑制する。さらに、均熱過程で焼鈍炉内温度:820℃以上1000℃以下の温度域を雰囲気の露点:−45℃以下とし、かつ、冷却過程で750℃以上の温度域を雰囲気の露点:−45℃以下とすることで、雰囲気中の還元能力が増し、鋼板表面に表面濃化したSi、Mnなどの易酸化性元素の酸化物を還元することができる。なお、雰囲気中の酸素ポテンシャルは非常に低いため、内部酸化は殆ど起こらない。このような処理を行うことによって、雰囲気中の還元能力が増し、表面濃化したSi、Mnなどの易酸化性元素の酸化物を還元することができる。
これまで、SiおよびMnを含有する高強度鋼板の化成処理を、−45℃以下の雰囲気中での焼鈍を経て実施しようとする試みはなされていなかった。その理由として、工業的に実施できる露点雰囲気ではSiおよびMnの炉内選択酸化は防止できないという当業者常識が存在したためである。文献1(7th International Conference on Zinc and Zinc Alloy Coated Steel Sheet、 Galvatech2007、Proceedings p404)には、Si、Mnの酸化反応の熱力学データから酸素ポテンシャルを露点に換算すると、800℃、N−10%H存在下において、Siは−80℃未満、Mnは−60℃未満の露点にしなければ酸化を防止し、一旦生成した酸化物を還元できないことが示されている。従って、Si、Mnを含有する高強度鋼板を焼鈍する場合には、水素濃度を高めたとしても少なくとも−80℃未満の露点としなければ表面濃化を防止することは出来ないと考えられてきたので、−45〜−80℃の露点の焼鈍をおこなった後に化成処理を行う試みはなされなかったのである。
しかしながら、本発明者らは、敢えてその検討を行ったものである。その結果、本発明を完成するに至った。
通常、鋼板の焼鈍雰囲気の露点は―40℃より高いため、―45℃以下の露点とするためには焼鈍雰囲気中の水分を除去しなければならず、焼鈍炉全体の雰囲気を−45℃とするためには莫大な設備費と操業コストを要するが、本発明では均熱過程の焼鈍炉内温度が820℃以上1000℃以下の温度域と、冷却過程の焼鈍炉内温度が750℃以上の温度域を、雰囲気の露点を−45℃以下となるように制御することで所定の特性が得られるため、設備費や操業コストを低減できるという特徴がある。
なお、雰囲気中の酸素ポテンシャルは非常に低いため、内部酸化は殆ど起こらない。そして、このように雰囲気の露点を制御することにより、内部酸化を形成させずに表面濃化物を還元し、スケ、ムラのない化成処理性、及び、電着塗装後の耐食性に優れる高強度鋼板が得られることになる。なお、化成処理性に優れるとは、化成処理後のスケ、ムラのない外観を有することを言う。
ここで、上記露点を−45℃以下にする領域以外の露点は−45℃より高い温度で構わない。通常の露点である−40℃超〜−10℃でよい。
そして、以上の方法により得られる高強度鋼板は、鋼板表面から100μm以内の鋼板表層部において、Fe、Si、Mn、Al、P、さらには、B、Nb、Ti、Cr、Mo、Cu、Niの中から選ばれる1種以上の酸化物の形成が抑制され、その形成量は合計で片面あたり0.060g/m以下に抑制される。これにより、化成処理性に優れ、電着塗装後の耐食性が著しく向上することになる。
本発明は上記知見に基づくものであり、特徴は以下の通りである。
[1]質量%で、C:0.01〜0.18%、Si:0.4〜2.0%、Mn:1.0〜3.0%、Al:0.001〜1.0%、P:0.005〜0.060%、S≦0.01%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板に、連続焼鈍を施す際に、加熱過程では焼鈍炉内温度:600℃以上A℃以下(A:650≦A≦1000)の温度域を昇温速度:7℃/s以上とし、かつ、均熱過程では焼鈍炉内温度:820℃以上1000℃以下の温度域を雰囲気の露点:−45℃以下とし、さらに、冷却過程では750℃以上の温度域を雰囲気の露点:−45℃以下とすることを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
[2]前記[1]において、前記鋼板は、成分組成として、質量%で、さらに、B:0.001〜0.005%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%の中から選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板の製造方法。
[3]前記[1]または[2]において、前記連続焼鈍を行った後、硫酸を含む水溶液中で電解酸洗を行うことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法により製造され、鋼板表面から100μm以内の鋼板表層部に生成したFe、Si、Mn、Al、P、B、Nb、Ti、Cr、Mo、Cu、Niの中から選ばれる1種以上の酸化物が、片面あたり0.060g/m以下であることを特徴とする高強度鋼板。
なお、本発明において、高強度とは、引張強度TSが340MPa以上である。また、本発明の高強度鋼板は、冷延鋼板、熱延鋼板のいずれも含むものである。
本発明によれば、Si含有量が多い場合でも、優れた化成処理性及び電着塗装後の耐食性を有する高強度鋼板が得られる。
以下、本発明について具体的に説明する。なお、以下の説明において、鋼成分組成の各元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であり、以下、特に断らない限り単に「%」で示す。
先ず、本発明で最も重要な要件である、鋼板表面の構造を決定する焼鈍雰囲気条件について説明する。
鋼中に多量のSiおよびMnが添加された高強度鋼板において、耐食性を満足させるためには、腐食の起点となる可能性がある鋼板表層の内部酸化を極力少なくすることが求められる。
SiやMnの内部酸化を促進させることにより化成処理性を向上させることは可能ではあるが、これは逆に耐食性の劣化をもたらすことになってしまう。このため、SiやMnの内部酸化を促進させる方法以外で、良好な化成処理性を維持しつつ、内部酸化を抑制して耐食性を向上させる必要がある。検討した結果、本発明では、まず、化成処理を確保するために、焼鈍加熱過程において形成されたSi、Mnなどの表面濃化物を比較的高温の均熱過程で還元し冷却初期の酸素ポテンシャルを低下させることで酸化を防止し、鋼板表面の酸化物を減少させ、化成処理性を改善する。そして、鋼板表層部に内部酸化も殆ど形成されないため、耐食性が改善することになる。
このような効果は、連続式焼鈍設備において焼鈍を施すに際し、加熱過程では焼鈍炉内温度:600℃以上A℃以下(A:650≦A≦1000)の温度域を昇温速度:7℃/s以上とし、かつ、均熱過程では焼鈍炉内温度:820℃以上1000℃以下の温度域を雰囲気の露点:−45℃以下とし、さらに、冷却過程では750℃以上の温度域を雰囲気の露点:−45℃以下となるように制御することにより得られる。このように制御することにより、表面濃化を極力抑制し、加熱過程において抑制しきれず形成された表面濃化物を還元し、鋼板表層の酸化物を減少させる。また、焼鈍雰囲気は低酸素ポテンシャルであるため、内部酸化を殆ど形成させることなく、スケ、ムラのない優れた化成処理性とより高い耐食性が得られることになる。
加熱過程での焼鈍炉内温度の昇温速度を制御する温度域を600℃以上とした理由は以下の通りである。600℃を下回る温度域では、耐食性の劣化等が問題になる程度の表面濃化や内部酸化は、起こらない。よって、本発明の効果が発現する温度域である600℃以上とする。
また、加熱過程での焼鈍炉内温度の温度域をA℃以下(A:650≦A≦1000)とした理由は以下の通りである。まず、650℃を下回る温度域では、昇温速度を7℃/s以上に制御される時間が短く、本発明の効果が小さい。このため、Aは650以上とする。また、1000℃超えの場合、本発明の効果に何ら問題はないが、焼鈍炉内設備(ロールなど)の劣化、及びコスト増大の観点から、不利となる。したがって、1000℃以下とする。
昇温速度を7℃/s以上とした理由は以下の通りである。表面濃化の抑制効果が認められるのが昇温速度が7℃/s以上である。昇温速度の上限は特には設けないが、500℃/s以上では効果は飽和し、コスト的に不利となるため、500℃/s以下が望ましい。昇温速度を7℃/s以上とするには、ラジアントチューブおよび又はインダクションヒーターでの加熱が適用できる。
均熱過程での焼鈍炉内温度の温度域を820℃以上1000℃以下とした理由は以下の通りである。820℃を下回る温度域では、露点を−45℃以下にまで低下させ還元能力を増加させたとしても、Si、Mnなどの表面濃化物を十分に還元することができない。また、1000℃以下とした理由は、1000℃超えの場合、焼鈍炉内設備(ロールなど)の劣化、及びコスト増大の観点から、不利となる。
冷却過程での焼鈍炉内温度の温度域を750℃以上とした理由は以下の通りである。750℃以上の温度域では、鋼中成分の表面濃化が始める。この温度域で雰囲気の露点:−45℃以下に制御しない場合、鋼中成分の表面濃化が起こってしまうが、雰囲気の露点:−45℃以下に制御すれば、表面濃化を抑制できる。また、冷却帯以降では雰囲気の露点を低下させても温度が低いので、表面濃化物を還元することができない。したがって、冷却過程での焼鈍炉内温度の温度域(露点制御領域)を750℃以上とする。
次いで、本発明の対象とする高強度鋼板の鋼成分組成について説明する。
C:0.01〜0.18%
Cは、鋼組織としてマルテンサイトなどを形成させることで加工性を向上させる。そのためには0.01%以上必要である。一方、0.18%を超えると伸びが低下し材質が劣化し、さらに溶接性が劣化する。したがって、C量は0.01%以上0.18%以下とする。
Si:0.4〜2.0%
Siは鋼を強化し伸びを向上させ良好な材質を得るのに有効な元素であり、本発明の目的とする強度を得るためには0.4%以上が必要である。Siが0.4%未満では本発明の適用範囲とする強度が得られず、化成処理性についても特に問題とならない。一方、2.0%を超えると鋼の強化能や伸び向上効果が飽和してくる。さらに、化成処理性の改善が困難となってくる。したがって、Si量は0.4%以上2.0%以下とする。
Mn:1.0〜3.0%
Mnは鋼の高強度化に有効な元素である。機械特性や強度を確保するためは1.0%以上含有させることが必要である。一方、3.0%を超えると溶接性や、強度と延性のバランスの確保が困難になる。したがって、Mn量は1.0%以上3.0%以下とする。
Al:0.001〜1.0%
Alは溶鋼の脱酸を目的に添加されるが、その含有量が0.001%未満の場合、その目的が達成されない。溶鋼の脱酸の効果は0.001%以上で得られる。一方、1.0%を超えるとコストアップになる。さらに、Alの表面濃化が多くなり、化成処理性の改善が困難になってくる。したがって、Al量は0.001%以上1.0%以下とする。
P:0.005〜0.060%以下
Pは不可避的に含有される元素のひとつであり、0.005%未満にするためには、コストの増大が懸念されるため、0.005%以上とする。一方、Pが0.060%を超えて含有されると溶接性が劣化する。さらに、化成処理性の劣化が激しくなり、本発明をもってしても化成処理性を向上させることが困難となる。したがって、P量は0.005%以上0.060%以下とする。
S≦0.01%
Sは不可避的に含有される元素のひとつである。下限は規定しないが、多量に含有されると溶接性及び耐食性が劣化するため0.01%以下とする。
なお、強度と延性のバランスを制御するため、B:0.001〜0.005%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%の中から選ばれる1種以上の元素を必要に応じて添加してもよい。
これらの元素を添加する場合における適正添加量の限定理由は以下の通りである。
B:0.001〜0.005%
Bは0.001%未満では焼き入れ促進効果が得られにくい。一方、0.005%超えでは化成処理性が劣化する。よって、含有する場合、B量は0.001%以上0.005%以下とする。但し、いうまでもなく機械的特性改善上添加する必要がないと判断される場合は添加する必要はない。
Nb:0.005〜0.05%
Nbは0.005%未満では強度調整の効果が得られにくい。一方、0.05%超えではコストアップを招く。よって、含有する場合、Nb量は0.005%以上0.05%以下とする。
Ti:0.005〜0.05%
Tiは0.005%未満では強度調整の効果が得られにくい。一方、0.05%超えでは化成処理性の劣化を招く。よって、含有する場合、Ti量は0.005%以上0.05%以下とする。
Cr:0.001〜1.0%
Crは0.001%未満では焼き入れ促進効果が得られにくい。一方、1.0%超えではCrが表面濃化するため、溶接性が劣化する。よって、含有する場合、Cr量は0.001%以上1.0%以下とする。
Mo:0.05〜1.0%
Moは0.05%未満では強度調整の効果が得られにくい。一方、1.0%超えではコストアップを招く。よって、含有する場合、Mo量は0.05%以上1.0%以下とする。
Cu:0.05〜1.0%
Cuは0.05%未満では残留γ相形成促進効果が得られにくい。一方、1.0%超えではコストアップを招く。よって、含有する場合、Cu量は0.05%以上1.0%以下とする。
Ni:0.05〜1.0%
Niは0.05%未満では残留γ相形成促進効果が得られにくい。一方、1.0%超えではコストアップを招く。よって、含有する場合、Ni量は0.05%以上1.0%以下とする。
上記以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
次に、本発明の高強度鋼板の製造方法とその限定理由について説明する。
例えば、上記化学成分を有する鋼を熱間圧延した後、冷間圧延し鋼板とし、次いで、連続式焼鈍設備において焼鈍を行う。なお、焼鈍時、本発明においては、加熱過程では焼鈍炉内温度:600℃以上A℃以下(A:650≦A≦1000)の温度域を昇温速度:7℃/s以上とし、かつ、均熱過程では焼鈍炉内温度:820℃以上1000℃以下の温度域を雰囲気の露点:−45℃以下とし、さらに、冷却過程では750℃以上の温度域を雰囲気の露点:−45℃以下とする。これは本発明において、最も重要な要件である。また、上記において、熱間圧延終了後、冷間圧延を施さずに、そのまま焼鈍を行う場合もある。
なお、上記で露点を制御する領域以外の焼鈍炉内雰囲気の露点は−45℃より高くてもよい。通常の操業条件である−40℃超〜−10℃でも良い。
熱間圧延
通常、行われる条件にて行うことができる。
酸洗
熱間圧延後は酸洗処理を行うのが好ましい。酸洗工程で表面に生成した黒皮スケールを除去し、しかる後冷間圧延する。なお、酸洗条件は特に限定しない。
冷間圧延
40%以上80%以下の圧下率で行うことが好ましい。圧下率が40%未満では再結晶温度が低温化するため、機械特性が劣化しやすい。一方、圧下率が80%超えでは高強度鋼板であるため、圧延コストがアップするだけでなく、焼鈍時の表面濃化が増加するため、化成処理性が劣化する。
冷間圧延した鋼板もしくは熱間圧延した鋼板に対して、焼鈍し、次いで、化成処理を施す。
焼鈍炉では、前段の加熱帯で鋼板を所定温度まで加熱する加熱工程を行い、後段の均熱帯で所定温度に所定時間保持する均熱工程を行い、次いで、冷却工程を行う。
そして、上述したように、加熱過程では焼鈍炉内温度:600℃以上A℃以下(A:650≦A≦1000)の温度域を昇温速度:7℃/s以上とし、かつ、均熱過程では焼鈍炉内温度:820℃以上1000℃以下の温度域を雰囲気の露点:−45℃以下とし、さらに、冷却過程では750℃以上の温度域を雰囲気の露点:−45℃以下となるように制御して焼鈍、化成処理を行う。通常の露点は−40℃より高いため、炉内の水分を除湿装置や吸収剤で吸収除去することにより−45℃以下の露点とする。
なお、雰囲気中の水素ガスの体積分率が1vol%未満では還元による活性化効果が得られず化成処理性が劣化する。上限は特に規定しないが、50vol%超えではコストアップし、かつ効果が飽和する。よって、水素ガスの体積分率は1vol%以上50vol%以下が好ましい。なお、焼鈍炉内の気体成分は、水素ガス以外には窒素ガスと不可避的不純物気体からなる。本発明効果を損するものでなければ他の気体成分を含有してもよい。
820℃以上1000℃以下の温度域から冷却後、必要に応じて焼入れ、焼き戻しを行っても良い。この条件は特に限定しないが、焼き戻しは150〜400℃の温度で行うのが望ましい。150℃未満では伸びが劣化傾向にあり、400℃超えでは硬度が低下する傾向にあるためである。
本発明においては、電解酸洗を実施しなくとも良好な化成処理性は確保可能であるが、焼鈍時に不可避的に発生する微量な表面濃化物を除去し、より良好な化成処理性を確保する目的で、電解酸洗を行うことが好ましい。
電解酸洗の条件は特に限定しないが、焼鈍後に形成された不可避的に表面濃化したSiやMnの酸化物を効率的に除去するため、電流密度が1A/dm以上の交番電解とすることが望ましい。交番電解とする理由は、鋼板を陰極に保持したままでは酸洗効果が小さく、逆に鋼板を陽極に保持したままでは電解時に溶出するFeが酸洗液中に蓄積し、酸洗液中のFe濃度が増大してしまい、鋼板表面に付着すると乾き汚れ等の問題が発生してしまうためである。
さらに、電解酸洗に用いる酸洗液は特に限定しないが、硝酸やフッ化水素酸は設備に対する腐食性が強く取り扱いに注意を要するため、好ましくない。また塩酸は陰極から塩素ガスを発生する可能性があり好ましくない。このため、腐食性や環境を考慮すると硫酸の使用が好ましい。硫酸濃度は5質量%以上20質量%以下が好ましい。硫酸濃度が5質量%未満では導電率が低くなることから電解時の浴電圧が上昇し、電源負荷が大きくなってしまう場合がある。一方、20質量%超えの場合は、ドラッグアウトによる損失が大きくコスト的に問題となる。
電解液の温度は40℃以上70℃以下が好ましい。連続電解することによる発熱で浴温が上昇することから、40℃未満では酸洗効果が低下する場合がある。また、40℃未満に温度を維持することが困難な場合がある。また、電解槽のライニングの耐久性の観点から温度が70℃を超えることは好ましくない。
以上により、本発明の高強度鋼板が得られる。
そして、以下のように、鋼板表面の構造に特徴を有することになる。
鋼板表面から100μm以内の鋼板表層部では、Fe、Si、Mn、Al、P、さらには、B、Nb、Ti、Cr、Mo、Cu、Niの中から選ばれる1種以上の酸化物の形成が合計で片面あたり0.060g/m以下に抑制される。
鋼中にSi及び多量のMnが添加された高強度鋼板において、耐食性を満足させるためには、腐食の起点になる可能性がある鋼板表層の内部酸化を極力少なくすることが求められる。そこで、本発明では、化成処理性を確保するために焼鈍工程において酸素ポテンシャルを低下させることで易酸化性元素であるSiやMn等の地鉄表層部における活量を低下させる。そして、これらの元素の外部酸化を抑制し、結果的に化成処理性を改善する。さらに、鋼板表層部に形成する内部酸化も抑制され、耐食性が改善することになる。このような効果は、下地鋼板表面から100μm以内の鋼板表層部に、Fe、Si、Mn、Al、P、さらには、B、Nb、Ti、Cr、Mo、Cu、Niの中から選ばれる一種以上の酸化物の形成量を合計で0.060g/m以下に抑制することで認められる。酸化物形成量の合計(以下、内部酸化量と称す)が0.060g/m超えでは、耐食性が劣化する。また、内部酸化量を0.0001g/m未満に抑制しても、耐食性改善効果は飽和するため、内部酸化量の下限は0.0001g/mが好ましい。
以下、本発明を、実施例に基いて具体的に説明する。
表1に示す鋼組成からなる熱延鋼板を酸洗し、黒皮スケールを除去した後、冷間圧延し、厚さ1.0mmの冷延鋼板を得た。なお、一部は冷間圧延を実施せず、黒皮スケール除去後の熱延鋼板(厚さ2.0mm)ままのものも用意した。
Figure 0005712541
次いで、上記で得た冷延鋼板及び熱延鋼板を、連続式焼鈍設備に装入した。焼鈍設備では、表2に示す通り、焼鈍炉内の600℃以上の温度域の昇温速度、均熱過程における焼鈍炉内の820℃以上1000℃以下の温度域および冷却過程における焼鈍炉内の750℃以上の温度域の露点を制御して通板して焼鈍したのち、水焼入れ後に300℃×140s間の焼き戻しを行った。加熱炉ではラジアントチューブとインダクションヒーターによる加熱を行って昇温速度を7℃/sとした。引き続き、40℃、5質量%の硫酸水溶液中、表2に示す電流密度条件にて、供試材を陽極、陰極の順に3秒ずつとする交番電解で電解酸洗を行い、供試材を得た。
なお、上記露点を制御した領域以外の焼鈍炉の露点は−35℃を基本とした。また、雰囲気の気体成分は窒素ガスと水素ガスおよび不可避的不純物気体からなり、露点は雰囲気中の水分を吸収除去して制御した。雰囲気中の水素濃度は10vol%を基本とした。
得られた供試材に対してJIS Z 2241 金属材料引張試験方法に従い、TS、Elを測定した。また、得られた供試材に対して、化成処理性及び耐食性を調査した。鋼板表層直下の100μmまので鋼板表層部に存在する酸化物の量(内部酸化量)を測定した。測定方法および評価基準を下記に示す。
化成処理性
化成処理性の評価方法を以下に記載する。
化成処理液は日本パーカライジング(株)製の化成処理液(パルボンドL3080(登録商標))を用い、下記方法で化成処理を施した。
日本パーカライジング(株)製の脱脂液ファインクリーナー(登録商標)で脱脂したのち、水洗し、次に日本パーカライジング(株)製の表面調整液プレパレンZ(登録商標)で30s表面調整を行い、43℃の化成処理液(パルボンドL3080)に120s浸漬した後、水洗し、温風乾燥した。
化成処理後の供試材を走査型電子顕微鏡(SEM)で倍率500倍で無作為に5視野を観察し、化成処理皮膜のスケ面積率を画像処理により測定し、スケ面積率によって以下の評価を行った。○が合格レベルである。
○:10%以下
×:10%超
電着塗装後の耐食性
上記の方法で得られた化成処理を施した供試材より寸法70mm×150mmの試験片を切り出し、日本ペイント(株)製のPN−150G(登録商標)でカチオン電着塗装(焼付け条件:170℃×20分、膜厚25μm)を行った。その後、端部と評価しない側の面をAlテープでシールし、カッターナイフにて地鉄に達するクロスカット(クロス角度60°)を入れ、供試材とした。
次に、供試材を5質量%NaCl水溶液(55℃)中に、240時間浸漬後に取り出し、水洗、乾燥後にクロスカット部をテープ剥離し、剥離幅を測定し、以下の評価を行った。○が合格レベルである
○:剥離幅が片側2.5mm未満
×:剥離幅が片側2.5mm以上
加工性
加工性は、試料から圧延方向に対して90°方向にJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠してクロスヘッド速度10mm/min一定で引張試験を行い、引張り強度(TS/MPa)と伸び(El%)を測定し、TSが650MPa未満の場合は、TS×El≧22000のものを良好、TS×El<22000のものを不良とした。TSが650MPa以上900MPaの場合は、TS×El≧20000のものを良好、TS×El<20000のものを不良とした。TSが900MPa以上の場合は、TS×El≧18000のものを良好、TS×El<18000のものを不良とした。
鋼板表層100μmまでの領域における内部酸化量
内部酸化量は、「インパルス炉溶融−赤外線吸収法」により測定した。ただし、素材(すなわち焼鈍を施す前の高強度鋼板)に含まれる酸素量を差し引く必要があるので、本発明では、連続焼鈍後の高強度鋼板の両面の表層部を100μm以上研磨して鋼中酸素濃度を測定し、その測定値を素材に含まれる酸素量OHとし、また、連続焼鈍後の高強度鋼板の板厚方向全体での鋼中酸素濃度を測定して、その測定値を内部酸化後の酸素量OIとした。このようにして得られた高強度鋼板の内部酸化後の酸素量OIと、素材に含まれる酸素量OHとを用いて、OIとOHの差(=OI−OH)を算出し、さらに片面単位面積(すなわち1m)当たりの量に換算した値(g/m)を内部酸化量とした。
以上により得られた結果を製造条件と併せて表2に示す。
Figure 0005712541
表2から明らかなように、本発明法で製造された高強度鋼板は、Si、Mn等の易酸化性元素を多量に含有する高強度鋼板であるにもかかわらず、化成処理性、電着塗装後の耐食性、加工性に優れることがわかる。
一方、比較例では、化成処理性、電着塗装後の耐食性、加工性のいずれか一つ以上が劣る。
本発明の高強度鋼板は、化成処理性、耐食性、加工性に優れ、自動車の車体そのものを軽量化かつ高強度化するための表面処理鋼板として利用することができる。また、自動車以外にも、素材鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板として、家電、建材の分野等、広範な分野で適用できる。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.01〜0.18%、Si:0.4〜2.0%、Mn:1.0〜3.0%、Al:0.001〜1.0%、P:0.005〜0.060%、S≦0.01%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板に、連続焼鈍を施す際に、
    加熱過程では焼鈍炉内温度:600℃以上A℃以下(A:650≦A≦1000)の温度域のみを昇温速度:7℃/s以上とし、かつ、均熱過程では焼鈍炉内温度:820℃以上1000℃以下の温度域のみを雰囲気の露点:−45℃以下とし、さらに、冷却過程では750℃以上の温度域のみを雰囲気の露点:−45℃以下に制御し、上記露点を制御する温度域以外の雰囲気の露点を−40℃超〜−10℃とすることを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
  2. 前記鋼板は、成分組成として、質量%で、さらに、B:0.001〜0.005%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%の中から選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板の製造方法。
  3. 前記連続焼鈍を行った後、硫酸を含む水溶液中で電解酸洗を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の高強度鋼板の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法により製造され、鋼板表面から100μm以内の鋼板表層部に生成したFe、Si、Mn、Al、P、B、Nb、Ti、Cr、Mo、Cu、Niの中から選ばれる一種以上の酸化物が、片面あたり0.060g/m2以下であることを特徴とする高強度鋼板。
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