JP5324087B2 - 化学反応促進方法及びマイクロ波化学反応装置 - Google Patents
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マイクロ波加熱は、容器を加熱することなく被処理物を直接加熱するため、迅速加熱が可能である。また、原料がマイクロ波を吸収するものであれば、無溶媒の有機合成を進行させることができ、環境に配慮した合成が可能となる。
マイクロ波発振器110は、一般に、2.45GHzの周波数を有するマイクロ波を出力する。ここで2.45GHzを用いるのは、電子レンジなどで使用されているマイクロ波発振器の定格周波数が2.45GHzであるため、市場に大量に出回っており、安価で入手可能だからである。
なお、この2.45GHzマイクロ波を用いた迅速化学反応装置に関しては、種々の改良が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
スーパーヒーティングとは、溶媒が常圧下で沸点以上に温度上昇する現象をいう。
このスーパーヒーティングを起こすことで、通常では進行しづらい反応も促進される。
このスーパーヒーティングに関する実験結果を図7に示す。同図は、23種類の溶媒に対し、図6に示すマイクロ波化学反応装置を用いてマイクロ波加熱を行なったときの到達温度[d]及び到達までの時間[e]を示す図表である。
ここで、図7中、「スーパーヒーティングの温度(実測値)から沸点を引いた温度[d]」の欄において、「沸点以下」が記載された溶媒が、スーパーヒーティングの起こらなかった溶媒である。
実験の結果、スーパーヒーティングの起こらなかった溶媒には、例えばn−ペンタンやジクロロメタンなど多くの溶媒が該当した。しかも、これらのほとんどが無極性溶媒(疎水性すなわち水に溶けずらい溶媒)であった。さらに、極性溶媒(親水性すなわち水に溶けやすい溶媒)の中にもスーパーヒーティングの起こらないものがあった。
そこで、本発明者は、スーパーヒーティングの起こらなかった溶媒についてもスーパーヒーティングを起こして化学反応を促進させる手法について検討した。
まず、マイクロ波加熱を決める要因である誘電率εと誘電正接tanδに着目した。
これらの積、すなわちε×tanδが、各溶媒がマイクロ波を吸収する割合と考えられるので、この値が高い方がマイクロ波の吸収が高いことになる。
この測定結果を図8に示す。同図に示すように、いずれの溶媒においても、5.8GHzにおける誘電率が、2.45GHzにおけるそれを上回ることはなかった。つまり、スーパーヒーティングを生起させる原因が誘電率の変化ではないことが判かった。
しかし、これら手法によってはじめてスーパーヒーティングが生起したという報告は、これまで皆無であった。
まず、本発明のマイクロ波化学反応装置の実施形態について、図1、図2を参照して説明する。
図1は、本実施形態のマイクロ波化学反応装置の構成を示すブロック図、図2は、アプリケータの構成を示す正面図である。
同図に示すように、マイクロ波化学反応装置1は、マイクロ波発振器10と、導波管20と、アプリケータ(マイクロ波照射器)30とを備えている。
マイクロ波発振器10は、2.45GHzを超過する周波数、特に5.8GHzの周波数を有するマイクロ波を出力する。
この導波管20は、マイクロ波発振器10から出力されたマイクロ波をアプリケータ30へ伝搬させる。
なお、本実施形態においては、マイクロ波発振器10が2.45GHzを超過する周波数、特に5.8GHzのマイクロ波を出力することから、導波管20の形状を小型化できる。このため、被処理物を入れる容器(アプリケータ30)の大きさを小さくしてもマイクロ波吸収率を高いまま維持することが容易である。
反応容器31は、試験管のような形状に形成された耐圧容器であって、円筒形状の胴部と、この胴部の外周の一方の縁部に連続して形成された半球状(U字型)の底部とを有している。胴部の他方は、開放となっており、ここから試料(サンプル)が流入する。
この反応容器31は、例えば耐圧ガラスで形成することができ、2MPa以上の圧力に耐えられるようになっている。このため、被処理物を沸点以上の温度に上昇させることも可能である。
この金属パイプ32の下端は、閉塞した底部をなしている。上端には、開閉可能な蓋部が接続されている。蓋部は、反応容器31に試料を流入する際には開いた状態にし、試料を加熱する際には、閉じた状態にする。
さらに、金属パイプ32は、導波管20と同様、アルミニウム合金などで形成することができる。このため、マイクロ波の漏洩を防ぐとともに、試料へのマイクロ波の照射を可能とする。
温度計35は、試料の温度を表示する。
圧力計36は、金属パイプ32の内部圧力を測定して表示する。
リリースバルブ37は、金属パイプ32の内部圧力が一定値よりも高くなった場合に、内部のガスを外部に放出して内圧を下げるための安全弁である。
なお、図2に示す構成は、開放系又は閉鎖系のいずれにも使用できるようにしたものである。
次に、本実施形態のマイクロ波化学反応装置の動作(化学反応促進方法)について、図1を参照して説明する。
アプリケータ30の反応容器31には、試料が流入されている。
マイクロ波発振器10を起動すると、2.45GHzを超過する周波数、例えば5.8GHzの周波数を有するマイクロ波が生成され出力される。このマイクロ波が、導波管20の内部を伝搬して、金属パイプ32へ送られる。金属パイプ32の内部では、反応容器31に流入された試料にマイクロ波が照射される。
これにより、2.45GHzマイクロ波加熱ではスーパーヒーティングが起こらなかった溶媒についても、スーパーヒーティングを生起させることができ、化学反応をさらに促進させることができる。
[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、発明者は、誘電率ε及び誘電正接tanδについて検討したが、スーパーヒーティングの生起要因ではなかった。
そこで、発明者は、次に、マイクロ波の浸透深さについて、検討した。
各溶媒におけるマイクロ波の浸透深さを、図3に示す。
同図においては、その値が低いほどマイクロ波が溶液深くまで潜ることなく熱に変換されていることを示す。すなわち、浸透深さが短いほどマイクロ波による加熱が進行し、一方、浸透深さが長いほど溶媒深くまで加熱することなく照射されることになる。
また、5.8GHzについては、無極性溶媒か極性溶媒かに関係なく、ほとんどの溶媒で浸透深さが非常に浅いことがわかった。このことから、5.8GHzは、多くの溶媒のスーパーヒーティングを進行させるものと考えられる。
次に、本実施形態のマイクロ波化学反応装置を用いた実験について、図4、図5を参照して説明する。
図4は、実験Iの測定結果を示す図表、図5は、実験IIの測定結果を示す図表である。
本実施形態のマイクロ波化学反応装置1(装置1)を用いて5.8GHzマイクロ波を試料に照射した場合と、図6に示すマイクロ波化学反応装置100(装置2)を用いて2.45GHzマイクロ波を試料に照射した場合のそれぞれにおいて、溶媒が到達した温度と、その温度に到達するまでの時間を測定した。また、これら温度及び到達時間にもとづいて、温度上昇率及び割合を算出した。
溶媒は、図4[a]に示すように、n−ペンタンなど23種類を用意した。
溶媒の流入量は、30mlとした。
マイクロ波の出力は、30Wとした。周波数は、装置1では5.8GHz、装置2では2.45GHzとした。
溶媒を反応容器31に入れ、攪拌を行わない開放系で、5.8GHz又は2.45GHzのマイクロ波を照射した。照射時間は、最長30分間(キシレンは、66分間)とした。
測定結果を図4に示す。
(I−21)スーパーヒーティング
同図中[d],[f]は、スーパーヒーティングの温度(実測値)から沸点を引いた差(沸点からの超過温度)を示し、それらのうち[d]は、装置2を用いた場合、[f]は、装置1を用いた場合を示す。なお、「沸点以下」は、スーパーヒーティングが起こらなかったことを示す。
また、同図中[e],[g]は、スーパーヒーティングの温度(実測値)に達するまでにかかった時間を示し、それらのうち[e]は、装置2を用いた場合、[g]は、装置1を用いた場合を示す。なお、「−」は、スーパーヒーティングが起こらなかったために測定できなかったことを示す。
(I−21)の測定結果を用いて、各溶媒ごとに、温度上昇率の割合を算出した。具体的には、次式を用いて算出した。
温度上昇率の割合=(5.8GHzによる加熱速度)÷(2.45GHzによる加熱速度) ・・・(式1)
この式1を用いて算出した温度上昇率の割合を図4[h]に示す。
(I−31)スーパーヒーティングの生起
図4の[d]と[f]とを比較してわかるように、2.45GHzでは、多くの溶媒でスーパーヒーティングが観測されなかったものの、5.8GHzでは、ほとんどの溶媒で観測された。換言すれば、2.45GHzの場合にスーパーヒーティングが生起しなかった溶媒についても、5.8GHzの場合にはスーパーヒーティングを生起させることができた。
特に、極性溶媒については、実験対象とした溶媒のすべてにおいてスーパーヒーティングが観測された。
さらに、無極性溶媒については、2.45GHzの場合にスーパーヒーティングが生起しなかった溶媒についても、5.8GHzではスーパーヒーティングが生起した。
同図[e]及び[g]を参照してわかるように、極性溶媒については、中には2.45GHzよりも5.8GHzの方が速く加熱されるものもあるが、全体的には大きな差はなかった。
これに対し、無極性溶媒については、5.8GHzの方が迅速に加熱されることがわかった。
温度上昇率については、同図[h]に示すように、ほとんどの溶媒で、2.45GHzよりも5.8GHzの方が高いことがわかった。これは、5.8GHzの方が、高い温度まで上昇できること、及び、加熱速度が速いことを意味する。
さらに、極性溶媒と無極性溶媒とを比較すると、無極性溶媒の方が値が高くなっている。このことから、無極性溶媒を5.8GHzマイクロ波で加熱した方が効果がより顕著となることがわかった。
実験IIとして、装置1及び装置2を用いた有機合成の実験を行った。ここでは、ディールス−アルダー反応(Diels−Alder反応)を利用した、3,6-diphenyl-4-n-butylpyridazineの合成をモデルとして行なった。
溶媒は、図5に示すように、ジクロロメタン、酢酸エチル、キシレンの三種類を用意した。
マイクロ波の出力は、30Wとした。周波数は、装置1では5.8GHz、装置2では2.45GHzとした。
溶媒を反応容器31に入れ、金属パイプ32に収容して、5.8GHz又は2.45GHzのマイクロ波を照射した。
また、オイルバスを用意し、加熱したオイルで反応容器を加熱した。
5.8GHzマイクロ波加熱では、キシレンや酢酸エチルで合成が進行することが確認された。
熱源を2.45GHzマイクロ波に変えると、これらの合成は進行しなかった。その理由として、2.45GHzでは、これらの溶媒が加熱されないため、反応が進行しないことが予想できる。
5.8GHzマイクロ波加熱では、酢酸エチルの沸点を超えるスーパーヒーティングが進行し、合成が進んだものと考えられる。
例えば、上述した実施形態では、マイクロ波化学反応装置について、最も基本的な構成を示したが、この構成に限定されるものではなく、例えばマイクロ波発振器に下方にラボジャッキを備えるなど種々の構成を付加することもできる。
また、上述した実施形態では、マイクロ波照射器として金属パイプや反応容器等を用いたが、これらに限るものではなく、例えば、特許文献1に示すような空胴共振器や円管をマイクロ波照射器として用いることもできる。
例えば、本発明のマイクロ波化学反応装置の想定する用途として、医薬品などの高価な物質合成が挙げられる。クリーンルームや滅菌室などの実験室への設置を考えた場合、室内の単位面積あたりの維持コストが高額であることから、装置は小さい方が望ましい。
10 マイクロ波発振器(5.8GHz)
20 導波管
30 アプリケータ(マイクロ波照射器)
31 反応容器
Claims (2)
- 被処理物にマイクロ波を照射して化学反応を促進する化学反応促進方法であって、
前記被処理物が、周波数が2.45GHzのマイクロ波を照射してもスーパーヒーティングが起こらない無極性溶媒を含み、
マイクロ波発振器が、周波数が5.8GHzであるマイクロ波を出力し、
マイクロ波照射器が、前記マイクロ波発振器から出力されたマイクロ波を前記被処理物に照射して、前記無極性溶媒に前記スーパーヒーティングを起こさせて、前記被処理物を沸点以上の温度に上昇させ、
前記5.8GHzのマイクロ波が照射されたときの前記無極性溶媒の到達温度が、この5.8GHzのマイクロ波の出力と同じ出力の2.45GHzのマイクロ波が照射されたときの当該無極性溶媒の到達温度よりも高くなる
ことを特徴とする化学反応促進方法。 - 被処理物にマイクロ波を照射して化学反応を促進するマイクロ波化学反応装置であって、
周波数が5.8GHzであるマイクロ波を出力するマイクロ波発振器と、
周波数が2.45GHzのマイクロ波を照射してもスーパーヒーティングが起こらない無極性溶媒を含む前記被処理物を入れる容器が収められたマイクロ波照射器とを備え、
このマイクロ波照射器は、前記マイクロ波発振器から出力されたマイクロ波を前記被処理物に照射して、前記無極性溶媒に前記スーパーヒーティングを起こさせて、前記被処理物を沸点以上の温度に上昇させ、前記5.8GHzのマイクロ波が照射されたときの前記無極性溶媒の到達温度を、この5.8GHzのマイクロ波の出力と同じ出力の2.45GHzのマイクロ波が照射されたときの当該無極性溶媒の到達温度よりも高くする
ことを特徴とするマイクロ波化学反応装置。
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