JP5322157B2 - スピン偏極イオンビーム発生装置及びそのスピン偏極イオンビームを用いた散乱分光装置及び方法並びに試料加工装置 - Google Patents
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Description
上向きと下向きのスピンを持つイオンの個数を、それぞれn↑とn↓とすれば、偏極率は(n↑−n↓)/(n↑+n↓)で定義される。本明細書では、これに100を乗じて、パーセント表示する。なお、イオンの種類を特定した場合には、上記のn↑を、NM↑(ここで、Mはイオン名)と表記する。例えば、上向きスピンを有する偏極した一価のヘリウム陽イオンの個数を、NHe+↑と表わす。本発明においては、「偏極」はスピンによる偏極、つまり、スピン偏極を意味している。
準安定ヘリウム原子23S1の光ポンピングに関与するエネルギー準位を、図19を用いて説明する。光ポンピングによる準安定へリウム原子23S1のスピン偏極では、23S1と23Pの間の遷移を使う。この23P準位はスピン−軌道相互作用により微細構造を持ち、23S1からこれらへの遷移のことを、遷移エネルギーが大きい方から、D0線、D1線、D2線と呼んでいる。本文中で使用するD0線、D1線、D2線の記号は、特に断りのない限り、この準安定ヘリウム原子23S1の23Pへの遷移を示すこととする。
ペニングイオン化は下記反応式(1)で表わされる。
He*+He*→He++He+e− (1)
ここで、He*は準安定ヘリウム原子、He+は一価のヘリウム陽イオン、e−は電子である。この反応では、ヘリウムのスピン角運動量の成分は保存されている。
したがって、準安定ヘリウム原子(He*)が光ポンピングされてスピン偏極した場合には、発生したヘリウムイオン(He+)の電子もスピン偏極している。このようなイオンを本発明では偏極イオン又はスピン偏極イオンと呼ぶ。
このように、従来技術では、表面数原子層の元素を選別した磁気構造解析は不可能であった。
さらに、本発明のスピン偏極イオン散乱分光装置では、スピン偏極イオンを試料表面に入射し、散乱イオンのエネルギー分析を入射イオンのスピン別に計測、つまり、スピン偏極計測をすることができ、試料表面における入射イオン中性化確率のスピン依存を測定することが可能である。
2:光ファイバー増幅器
3:光ファイバーコネクタ
4,8,67:レンズ
5,10:1/2波長板
6,56:ハーフミラー
7,65:1/4波長板
9,9A,58,59,64,66:ミラー
11:凹面鏡
12,15:高周波放電管
15A:本体部
15B:フランジ部
15C:Heガス導入口
15D:Heガス排出口
15E:配線用ポート
15F:引き出し電極挿入部
13:コイル
14,87:直流電源
16:高周波電極
17:引き出し電極
17A:オリフィスプレート保持部
17B:オリフィスプレート
17Ba:円筒部
17Bb:オリフィスプレート部
17Bc:螺子部
17C:円筒部
17D:フランジ部
18:マッチングユニット
19:高周波電源
20:リペラー電極
21:コンデンサーレンズ
22:フォーカシングレンズ
23,26:ディフレクター
24:アインツェルレンズ
25:減速器
27,73:試料(O/Fe/MgO磁性体基板)
28:スピン偏極イオンビーム
30:偏極イオンビーム発生装置
31:高周波放電部
32:磁場印加部
33:ポンピング光発生部
34:第1のポンピング光(円偏光)
35:第2のポンピング光(直線偏光)
36,36A:偏極イオンビーム整形部
38:グランレーザープリズム
39:フランジ
41,81:静電アナライザ
42:二次電子増倍管
43:プリアンプ
44:マルチチャンネルスケーラー
45,82:コンピュータ
50:ポンピング光波長調整部
51:プローブ光発振部
52:透過光測定部
53:プローブ光用レーザー発振器
53A:プローブ光用レーザー発振器用電源
54,54A,54B,54C,54D,54E:プローブ光
55:ビームスプリッタ
57,68:スリット
60:プローブ用ヘリウム放電管
61:光検出器
62:ロックイン増幅器
63:減衰器
69:透過光検出器
70:スピン偏極イオン散乱分光装置
71:スピン偏極イオンビーム発生部
72:スピン偏極イオンビームライン
74,103:超高真空槽
75:計測部
76:光ポンピング照射光
77:ヘリウムガス導入口
78:高周波へリウムイオン源
79,80:差動排気ポート
81A:静電アナライザ用電源
84:円偏光制御部
84A:モーター
84B:モーター駆動部
85:試料磁化部
86:試料磁化用コイル
88:コンデンサ
89:スイッチ
90:架台
91:真空排気部
93,95,97:ポート
94:Stern-Gerlach分析器
96:RHEED
98:マニュピレータ
99:試料搬入部
100:スピン偏極イオンビームを用いた試料加工装置
101:被加工物
102:試料載置部
以下、図面に示した実施形態に基づいて、本発明を詳細に説明する。
最初に、第1の実施の形態に係るスピン偏極イオンビーム発生装置について説明する。
図1は、第1の実施の形態に係るスピン偏極イオンビーム発生装置30の構成を模式的に示す図である。スピン偏極イオンビーム発生装置30は、高周波放電管12等からなる高周波放電部31と磁場印加部32とポンピング光を発生するポンピング光発生部33とから構成されている。
ここで、光ファイバーレーザーからの放出光を直線偏光にするには、空間に放出された光を、1/2波長板5と図示しないグランレーザープリズムを使用してもよい。グランレーザープリズムは、方解石などを用いた偏光プリズムである。
スピン非対称率=(NHe+↑−NHe+↓)/{(NHe+↑+NHe+↓)×P} (2)
ここで、Pは入射するスピン偏極したヘリウムイオンの偏極率である。
したがって、(2)式から次式が求まる。
P=(NHe+↑−NHe+↓)/{(NHe+↑+NHe+↓)×スピン非対称率}}
同じ試料27での測定なので、スピン非対称率は一定として、Pの相対変化が求まる。要するに、測定量は(NHe+↑−NHe+↓)/(NHe+↑+NHe+↓)であり、これはP×(スピン非対称率)に等しいことから偏極ヘリウムイオンの偏極率に比例するので、(NHe+↑−NHe+↓)/(NHe+↑+NHe+↓)を図2に示された装置で測定することで、偏極ヘリウムイオンの偏極率の変化が求まる。このように、本手法ではヘリウムイオン偏極率はスピン非対称率の測定から評価される。試料27は磁性体が望ましい。
図3(A)に示すように、高周波放電管15は、本体部15Aとフランジ部15Bとから構成されている。本体部15Aはガラス等からなり、Z方向の左端側に配設された引き出し電極17と、Z方向の右端側に配設されたリペラー電極20と、Z方向の右端側から垂直上方(Y方向)に配設されたHeガス導入口15Cと、Z方向の左端側から垂直下方(−Y方向)に配設されたHeガス排出口15Dと、配線用ポート15Eと、引き出し電極挿入部15Fと、から構成されている。
オリフィスプレート17Bは、円筒部17Baと円筒部17Cの右端部に設けられたオリフィスプレート部17Bbとから構成されている。円筒部17Baの左側の所定箇所には螺子部17Bcが設けられている。オリフィスプレート部17Bbの中心には、直径dで長さがLの細孔(オリフィス)が設けられている。細孔は、高周波放管の本体部15Aに対向している。オリフィスプレート17Bの材料は、例えばモリブデンである。細孔の寸法は、例えば、直径が0.5mm、中心軸上の長さLは0.8mmである。細孔の直径は0.3〜1mmが好適である。細孔の直径が0.3mm以下では、生成した偏極イオンが引き出し量が小さくなる。細孔の直径が1mm以上では、高周波放電管15内部のヘリウムガスが、偏極イオンビーム整形部36に多量に流入するので好ましくない。同様の理由から、細孔の長さは0.3〜2mmが好ましい。
一方、偏極ヘリウムイオンは、リペラー電極20に正電圧、例えば引き出し電極17に対して50V〜300V程度の電圧を印加することで、偏極イオンビーム整形部36へ効果的に輸送することができ、偏極ヘリウムイオンの偏極イオンビーム整形部36への引き出し量を増大させることができる。
図6は、偏極イオンビーム整形部の構成の一部36Aを模式的に示す断面図である。図6に示す偏極イオンビーム整形部36Aにおいて、紙面水平左側がスピン偏極イオンビーム発生装置30に接続される偏極イオンの入射側であり、紙面水平右側が出射側である。図示の場合には、入射側から、コンデンサーレンズ21a,21b,21cとフォーカシングレンズ22a,22b,22cとが順に配設されている。上記各レンズ21,22は真空槽の内部に配設され、その配設された領域は真空に排気されている。なお、フランジ39は図示しない真空ポンプ39Aに接続されている。
真空ポンプ39Aにより排気されている。
次に、スピン偏極イオンビーム発生装置30によりスピン偏極ヘリウムイオンを発生させる手順について説明する。
光ポンピングの照射光の波長が、準安定ヘリウム原子23S1の23P0への遷移に対応するD0線となるように光ファイバーレーザーの波長を調整する。光ファイバーレーザー(D0線)からの出力光を、光ファイバー経由で光ファイバー増幅器2に入力する。この入力光を光ファイバー増幅器2で増幅し、光ファイバーコネクタ3から空間に放出する。また、光ファイバーレーザー内に設置されたポンピング光発生部33を用いて、この放出光が直線偏光となるように予め調整しておく。放出光を直線偏光とするために、グランレーザープリズムを用いてもよい。
一方、ハーフミラー6を通過した光が高周波ヘリウム放電管12,15を照射するようにミラー9と凹面鏡11を調整する。この直線偏光の照射方向は、コイル13で作られる磁場と垂直となるよう調整する。この直線偏光の偏光成分がコイル13で作られる磁場と平行となるように、1/2波長板10で偏光方向を調整する。
第1の実施形態に係るスピン偏極イオンビーム発生装置30に用いる光ポンピングの波長はD0線であり、その波長は1082.909nmである。一方、D0線に近接しているD1線、D2線の波長は、それぞれ、1083.025nm、1083.034nmである。D0線とD1線との周波数差は30GHzであり、D1線とD2線との周波数差は2.3GHzである(図19参照)。これから、D0線は、D1線及びD2線に近接しているので、レーザー発振器1がD0線の波長を発振するように正確に調整されていないと、He+偏極率が低下するので好ましくない。したがって、高い偏極率を有するHe+発生には、第1及び第2のポンピング光34,35を発生するレーザー発振器1の波長をD0線に正確に調整する技術が不可欠である。
図7は、スピン偏極イオンビーム発生装置30に用いるポンピング光波長調整部50の構成を示す模式図である。図7において点線で囲まれた領域が、スピン偏極イオンビーム発生装置30に付加されるポンピング光波長調整部50である。ポンピング光波長調整部50は、正確なD0線に波長が調整されるプローブ光発振部51と、透過光測定部52とから構成されている。
透過光測定部52は、減衰器63と第3のミラー64と1/4波長板65と第4のミラー66とレンズ67とスリット68と透過光検出器69とから構成されている。
プローブ光発振部51から出射するD0線を有するプローブ光54は、ビームスプリッタ55を通過し紙面の水平右方向へ出射する光54Cとなり、NDフィルタなどの減衰器63と第3のミラー64と1/4波長板65を通過して左回り又は右回りの円偏光54Dに変換される。減衰器63を通過した後のプローブ光の強度は、通常1mW程度、又はそれ以下である。この円偏光プローブ光54Dは、磁場Bの向きに平行となるようにして、高周波放電管15に入射する。したがって、円偏光プローブ光54Dの進行方向は、第1のポンピング光34の進行方向と同じである。高周波放電管15から出射するプローブ光54Eは、第4のミラー66とレンズ67とスリット68を通過した後、透過光検出器69に入射する。
I(rhcp)=I0(rhcp)exp(n−σL) (3)
I(lhcp)=I0(lhcp)exp(n+σL) (4)
ここで、rhcp、lhcpは、それぞれ右回り、左回りの各円偏光を示し、σは光吸収断面積、Lは上記プローブ光のプラズマ中の伝搬長さである。
最初に、第1のポンピング光34を高周波放電管15中のHeプラズマに入射し、その吸収をパワーメータで計測し、第1のポンピング光34の波長を走査し、D0線、D1線、D2線に対応する3つの吸収を観測することで、第1のポンピング光34の波長が大凡1083nmD0線となるように粗調整する。この際、プローブ光発振部51を停止状態にしておけば、透過光測定部52の第4のミラー66とレンズ67とスリット68と透過光検出器69とにより第1のポンピング光34の吸収を検出することができる。透過光検出器69としては、パワーメータを用いることが出来る。
次に、第2の実施形態に係るスピン偏極イオン散乱分光装置について説明する。
図8は、第2の実施の形態に係るスピン偏極イオン散乱分光装置70の構成を模式的に示す図である。図8のスピン偏極イオン散乱分光装置70は、スピン偏極イオンを発生させるスピン偏極イオンビーム発生部71と、スピン偏極イオンビーム発生部71からのスピン偏極イオンを所望のエネルギーで試料表面に入射させるスピン偏極イオンビームライン72と、試料73を保持する超高真空槽74と、超高真空槽74内に位置して、試料73に照射されて散乱したスピン偏極イオンを計測する計測部75と、からなる。後述するように、計測部75は、超高真空槽74内に配設された静電アナライザ81と、静電アナライザ用電源81Aと、静電アナライザ81の検出信号を処理するコンピュータ82等から構成されている。コンピュータ82は、超高真空槽74の外部にあり、パーソナルコンピュータ等を使用することができる。
超高真空槽74は架台90上に載置され、ターボ分子ポンプ等でなる真空排気部91を備えており、本発明のスピン偏極ビームライン72が接続されるポート93を備え、図示しない静電アナライザ81は超高真空槽74の内部に配設されている。この超高真空槽74は、後述する、準安定ヘリウム原子の偏極率を測定するためのStern-Gerlach分析器94が接続されるポート95の他にRHEED96等の分析機器が接続できるポート97をさらに備えている。超高真空槽74のStern-Gerlach分析器94に対向する位置には、図示しない準安定ヘリウム原子の発生装置が取り付けられる。超高真空槽74の上部には、試料台の位置を制御するマニュピレータ98が配設され、試料73は超高真空槽74へ試料搬入部(ロードロック)99から超高真空を破らずに挿入できる。
先ず、試料73へ偏極しないイオンビームを照射した場合には、従来のイオン散乱分光(Ion Scattering Spectroscopy、以下ISSと呼ぶ)を行うことができる。
図12は、イオン散乱分光を説明する図で、(A)は模式図、(B)はイオン散乱分光で得られる分光スペクトルを示す。
図12(A)に示すように、試料73へ1〜10keV程度の運動エネルギーを有するヘリウムイオンが入射すると、ヘリウムイオンの大部分は、基板表面との間の相互作用において中性化し、基底状態のへリウム原子となる。この相互作用において、中性化を免れた散乱イオンの強度をその運動エネルギーの関数として、静電アナライザ81等で分析することで、試料73の表面の数原子又は数分子層に存在する原子の組成分析を行うことができる。
E1=E0(M1/M1+M2)2[cosθ±(M2 2/M1 2−sin2θ)1/2]2
と表される(非特許文献11参照)。
ただし、E1、E0は、入射エネルギーと散乱エネルギー、M1とM2は入射イオンと標的原子の質量、βは散乱角である。
図13(A)に示すように、試料73に1〜10keV程度の運動エネルギーを有するスピン偏極ヘリウムイオンが試料73に入射すると、上記したようにヘリウムイオンの大部分は、基板表面との間の相互作用において中性化し、基底状態のへリウム原子となる。この相互作用で中性化を免れた散乱イオンをその運動エネルギーの関数として、静電アナライザ81等で分析することで、試料73の表面の数原子又は数分子層に存在する原子の組成分析を行うことができる。さらに、スピン偏極ヘリウムイオンのスピンの向きを変えることで、試料73表面に存在する原子のスピンに応じて、スピンが平行か反平行かによる散乱強度変化を測定することができる。
(イ)試料73を試料周囲の磁場の方向と平行にパルス磁化する。
(ロ)磁化と平行にスピン偏極したヘリウムイオンの散乱強度を、静電アナライザ81を用いて、一定時間計測する。
(ハ)磁化と反平行にスピン偏極したヘリウムイオンの散乱強度を、静電アナライザ81を用いて、(イ)と同じ時間計測する。
(ニ)時間変化の効果を除去するために、(イ)と(ロ)の計測を所定回数繰り返す。
(ホ)一連の測定後に、(イ)と(ロ)の繰り返し測定で求めた信号強度を、コンピュータ82を用いてスピンの向き別に積算して、最終的に求めるスピン偏極散乱イオン強度を得ることができる。
次に、第3の実施形態に係るスピン偏極イオンビームを用いた試料加工装置について説明する。
図14は、第3の実施形態に係るスピン偏極イオンビームを用いた試料加工装置100の構成を示す模式図である。スピン偏極イオンビームを用いた試料加工装置100は、第1の実施形態で説明した偏極イオンビーム発生装置30を用いたスピン偏極イオンビーム発生部71と、このスピン偏極イオンビーム発生部71に接続されるスピン偏極イオンビームライン72と、被加工物となる試料101を載置する試料載置部102を備えた超高真空槽103などから構成されている。
実施例1のスピン偏極イオンビーム発生装置30は、図1〜図7に示した高周波ヘリウム放電管15や偏極イオンビーム整形部36を用いた。高周波ヘリウム放電管15の本体部15Aと引き出し電極挿入部15Fとは、パイレックス(登録商標)製ガラスから成り、フランジ部15B、Heガス導入口15C、Heガス排出口15D、配線用ポート15Eはステンレスから成るフランジや管材を用いた。本体部15Aのパイレックス(登録商標)製ガラスと上記のステンレス製のフランジや管材とは、コバールを用いて接合した。
光ファイバーレーザーの波長約1083nm(D0線)出力光を、光ファイバー経由で光ファイバー増幅器2に入力した。この入力光を光ファイバー増幅器2で増幅し、光ファイバーコネクタ3から空間に放出した。光ファイバー増幅器2は、出力が3Wとなるように調整した。
また、光ファイバーレーザー内に設置された偏光器を用いて、この放出光が直線偏光となるように予め調整した。この場合、光ファイバーレーザーからの放出光をグランレーザープリズムと1/2波長板との組み合わせにより光学的に配置しても、上記放出光の偏光方向を直線偏光に調整することができた。
空間に放出された光を、1/2波長板5を用いて偏光方向を調整し、その凡そ半分の強度の光の進路をハーフミラー6を用いて変えた。この進路を変えた光を、次いで、1/4波長板7を用いて円偏光(σ光)とし、高周波ヘリウム放電管12へ照射した。この円偏光の照射方向を、コイル13で作られる磁場と平行となるように調整した。また、コイル13で作られる磁場が1ガウス程度となるように直流電源14を調整した。一方、ハーフミラー6を通過した光が放電管12を照射するようにミラー9と凹面鏡11を調整した。この直線偏光(π光)の照射方向は、コイル13で作られる磁場と垂直となるよう調整した。また、直線偏光(π光)の偏光成分がコイル13で作られる磁場と平行となるように、1/2波長板10で偏光方向を調整した。光ポンピングの照射光の波長は、準安定ヘリウム原子23S1の23P0への遷移に対応するD0線へ調整した。
まず、高周波ヘリウム放電管15において、高周波電源等16〜19を用いてヘリウムプラズマを発生させた。次いで、図1で示された光ポンピングによって、このプラズマ中の準安定ヘリウム原子23S1をスピン偏極した。偏極ヘリウムイオンは、この偏極準安定ヘリウム原子のペニングイオン化反応を利用して発生させた。
この偏極ヘリウムイオンを、リペラー電極20、引き出し電極17、レンズ21,22,24、ディフレクター23,26、減速器25を用いて0/Fe/MgO磁性体基板27まで輸送した。
先ず、MgO(001)単結晶基板に体心立方構造のFe単結晶薄膜50nm程度を室温で成長させ、これを真空中で約600℃で10分間加熱し、この基板を100ラングミュアーの酸素雰囲気に曝した後、基板を真空中で約500℃で10分間加熱し、真空中でパルス磁化した。
図15は、実施例1の結果で、ヘリウム圧力の変化に伴う偏極率の変化を示すグラフである。図15の横軸は、放電管中のへリウムガス圧(Pa)、縦軸はヘリウムイオン偏極率(%)である。高周波電源18の電力を1Wに調整して測定した。へリウム圧力が15Paの時の偏極率が、上記の予め求めておいた20Paの時の偏極率16.6%と等しいと仮定してプロットしてある。なお、図には従来のデータも比較のために示している。
スピン非対称率は、運動エネルギーが7.7eVから9.4eVの電子を測定して求めた。従来技術による光ポンピングは、図1のミラー9を傾けて直線偏光の照射光が高周波ヘリウム放電管15を照射しない状態にした上で、照射光波長をD1線に調整して行われた。
プローブ光用レーザー発振器53は、レーザーダイオード(SDL,Inc製、SDL 6072)を用いた。吸収分光用の光検出器61はフォトダイオードを用いた。フォトダイオード61の信号はロックイン増幅器62で増幅し、この出力によりレーザーダイオード用電源(SDL,Inc社製、SDL−803)にフィードバック制御を行った。ポンピング光波長調整部50を用いることにより第1及び第2のポンピング光34,35の波長制御に要する時間が約1/10以下に短縮された。
試料73の製作は、先ず、MgO(001)単結晶基板に体心立方構造Fe単結晶薄膜50nm程度を室温で成長させ、次に、これを真空中において約600℃で10分間加熱するという工程により製作した。また、測定の前に、この試料73をFe[100]容易磁化方向へパルス磁化し、測定は残留磁化のもとで行った。入射ヘリウムイオンの運動エネルギーは、1.7keV、入射角(表面法線方向とビームのなす角)を0度(垂直入射)、散乱角を145度とした。
(NHe+↑−NHe+↓)/{PHe++(NHe+↑+NHe+↓)}
と定義されるスピン非対称率が、鉄(1272から1290eV)と酸素(630〜690eV)に対して求められ、元素を選別したスピン解析が示された。
Claims (30)
- スピン偏極イオンビーム発生装置であって、
イオン発生用の高周波放電管と、レーザー発振器と、当該レーザー発振器からのレーザーを二つに分岐し、一方を円偏光の第1のポンピング光とし、他方を直線偏光の第2のポンピング光として、相互に90°の照射角度差をもって上記高周波放電管に照射するポンピング光発生部と、を備え、
上記スピン偏極イオンを引き出すための引き出し電極を、上記高周波放電管の端部に設けている、スピン偏極イオンビーム発生装置。 - 前記スピン偏極イオンビームの引き出し方向は、前記円偏光及び前記直線偏光の何れにも直交する方向である、請求項1に記載のスピン偏極イオンビーム発生装置。
- 前記高周波放電管は、引き出し電極に対向するリペラー電極を備えている、請求項1に記載のスピン偏極イオンビーム発生装置。
- 前記引き出し電極は細孔を備えている、請求項3に記載のスピン偏極イオンビーム発生装置。
- 前記ポンピング光発生部は、前記第1のポンピング光の円偏光を右回り又は左回りに制御する円偏光制御部を備えている、請求項1に記載のスピン偏極イオンビーム発生装置。
- 前記レーザー発振器は、プローブレーザーの吸収計測から求められるイオンの基となる準安定原子の偏極率が最大となるように波長が調整されてレーザー光を出力する、請求項1に記載のスピン偏極イオンビーム発生装置。
- 前記イオンはヘリウムイオンであり、第1及び第2のポンピング光の波長はD0線であり、プローブ光は左回り又は右回りの円偏光であるD0線の波長を持つ、請求項1又は6に記載のスピン偏極イオンビーム発生装置。
- 前記高周波放電管内のヘリウム圧力を15Pa以上50Pa以下とする、請求項1又は3に記載のスピン偏極イオンビーム発生装置。
- スピン偏極イオンビーム発生部と、
該スピン偏極イオンビーム発生部から発生させたスピン偏極イオンビームを試料に照射するスピン偏極イオンビームラインと、
上記試料とスピン偏極イオンビームとの相互作用により散乱するイオンのエネルギーを計測する計測部と、を備え、
上記スピン偏極イオンビーム発生部は、イオン発生用の高周波放電管と、レーザー発振器と、当該レーザー発振器からのレーザーを二つに分岐し、一方を円偏光の第1のポンピング光とし、他方を直線偏光の第2のポンピング光として、相互に90°の照射角度差をもって上記高周波放電管に照射するポンピング光発生部と、を有し、
上記スピン偏極イオンを引き出すための引き出し電極を、上記高周波放電管の端部に設けている、スピン偏極イオン散乱分光装置。 - 前記スピン偏極イオンビームの引き出し方向は、前記円偏光及び前記直線偏光の何れにも直交する方向である、請求項9に記載のスピン偏極イオン散乱分光装置。
- 前記高周波放電管は、引き出し電極に対向するリペラー電極を備えている、請求項9に記載のスピン偏極イオン散乱分光装置。
- 前記引き出し電極は細孔を備えている、請求項11に記載のスピン偏極イオン散乱分光装置。
- 前記ポンピング光発生部は、前記第1のポンピング光の円偏光を右回り又は左回りに制御する円偏光制御部を備えている、請求項9に記載のスピン偏極イオン散乱分光装置。
- 前記レーザー発振器は、プローブレーザーの吸収計測から求められるイオンの基となる準安定原子の偏極率が最大となるように波長が調整されてレーザー光を出力する、請求項9に記載のスピン偏極イオン散乱分光装置。
- 前記試料に入射するスピン偏極イオンに対する入射角が制御可能な試料台を備えている、請求項9に記載のスピン偏極イオン散乱分光装置。
- 前記スピン偏極イオンビームラインは、排気孔となる細孔部を設けたレンズを備え、該レンズが非磁性体からなる、請求項9に記載のスピン偏極イオン散乱分光装置。
- 前記イオンはヘリウムイオンであり、第1及び第2のポンピング光の波長はD0線である、請求項9又は14に記載のスピン偏極イオン散乱分光装置。
- 請求項9〜17の何れかに記載のスピン偏極イオン散乱分光装置を用いたスピン偏極イオン散乱分光法であって、
スピン偏極イオンを試料に入射し、
上記試料からの散乱イオンを計測し、
入射イオン種のスピン別に散乱イオン強度を計測し、試料に入射するスピン偏極イオンの中性化確率のスピン依存性から試料表面の磁気構造を解析する、スピン偏極イオン散乱分光法。 - 前記散乱イオン強度を、静電アナライザで検出し、前記スピン偏極イオンのスピンの向きによる散乱イオン強度の違いから試料表面の磁気構造を解明する、請求項18に記載のスピン偏極イオン散乱分光法。
- 前記散乱イオン強度の前記試料へのスピン偏極イオンの入射角度依存性を測定し、
上記散乱イオン強度の測定から試料表面からの深さ方向の原子層と元素とを選別してスピンを解析する、請求項18に記載のスピン偏極イオン散乱分光法。 - 前記スピン偏極イオンのスピンの向きを変える前後で、上記静電アナライザによる検出量から試料表面の磁気構造を解明する、請求項18に記載のスピン偏極イオン散乱分光法。
- スピン偏極イオンビーム発生部と、
該スピン偏極イオンビーム発生部から発生させたスピン偏極イオンビームを試料に照射するスピン偏極イオンビームラインと、
上記スピン偏極イオンビームラインから整形されたスピン偏極イオンビームを試料に照射する超高真空槽と、を備え、
上記スピン偏極イオンビーム発生部は、イオン発生用の高周波放電管と、レーザー発振器と、当該レーザー発振器からのレーザーを二つに分岐し、一方を円偏光の第1のポンピング光とし、他方を直線偏光の第2のポンピング光として、相互に90°の照射角度差をもって上記高周波放電管に照射するポンピング光発生部と、を有し、
上記スピン偏極イオンを引き出すための引き出し電極を、上記高周波放電管の端部に設けている、スピン偏極イオンビームを用いた試料加工装置。 - 前記スピン偏極イオンビームの引き出し方向は、前記円偏光及び前記直線偏光の何れにも直交する方向である、請求項22に記載のスピン偏極イオンビームを用いた試料加工装置。
- 前記高周波放電管は、引き出し電極に対向するリペラー電極を備えている、請求項22に記載のスピン偏極イオンビームを用いた試料加工装置。
- 前記引き出し電極は細孔を備えている、請求項22に記載のスピン偏極イオンビームを用いた試料加工装置。
- 前記ポンピング光発生部は、前記第1のポンピング光の円偏光を右回り又は左回りに制御する円偏光制御部を備えている、請求項22に記載のスピン偏極イオンビームを用いた試料加工装置。
- 前記レーザー発振器は、プローブレーザーの吸収計測から求められるイオンの基となる準安定原子の偏極率が最大となるように波長が調整されてレーザー光を出力する、請求項22に記載のスピン偏極イオンビームを用いた試料加工装置。
- 前記試料に入射するスピン偏極イオンに対する入射角が制御可能な試料台を備えている、請求項22に記載のスピン偏極イオンビームを用いた試料加工装置。
- 前記スピン偏極イオンビームラインは、排気孔となる細孔部を設けたレンズを備え、該レンズが非磁性体からなる、請求項22に記載のスピン偏極イオンビームを用いた試料加工装置。
- 前記イオンはヘリウムイオンであり、第1及び第2のポンピング光の波長はD0線である、請求項22又は26に記載のスピン偏極イオンビームを用いた試料加工装置。
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