JP5319227B2 - 異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液 - Google Patents

異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液 Download PDF

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Description

本発明は、異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液及びその製造方法に関する。
チタン酸化物は、セラミックスや複合酸化物等の原料や光触媒材料等として、工業的に広く用いられている。このチタン酸化物には各種の形態があるが、チタン酸化物の中には、従来のアナターゼ型やルチル型のチタニアではなく、チタン酸又はその塩を含有する厚さがナノスケールのシート、すなわちチタン酸ナノシートを形成するものがある。
このチタン酸ナノシートは、層状チタン化合物をソフト化学的な処理により結晶構造の基本単位である層にまで剥離することにより得られ、分子レベルの厚み(nmレベル)に対して横方向にはその数百倍以上のサイズ(μmレベル)をもち、緻密で平滑性の高い膜を形成することができる。このため、例えば、紫外線遮蔽等のバリア膜、耐食膜、誘電体薄膜、触媒等の各種用途への応用が期待される。
チタン酸ナノシート分散液の製造方法として、チタン含有原料を高温で焼成し、塩酸水溶液と更に第4級アンモニウムイオンを反応させる、レピドクロサイト型と呼ばれるチタン酸ナノシート分散液の製造方法(非特許文献1参照)が報告されている。
この方法は、具体的には、まずCs2CO3:TiO2(モル比)=1:5.2の混合粉末を800℃で20時間焼成して、レピドクロサイト型層状チタン酸であるCs0.7Ti1.8250.1754(□は空孔)を合成し、この粉末を1モル/L程度の塩酸水溶液中で攪拌することで、層状構造を維持したまま、層間のCsイオンを全て水素イオンに入れ換えて、H0.7Ti1.8250.1754・H2Oの組成をもつ水素型物質に誘導する。次いで、これに塩基物質であるテトラブチルアンモニウムヒドロキシドを含む溶液を作用させ、層間に上記塩基物質をインターカレート、更に層剥離させることにより、チタン酸ナノシート分散液を得る方法である。
しかしながら、この方法では、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等のアミン類を水素イオン濃度と等量以上(N/Tiモル比0.37以上)添加する必要があり、得られるチタン酸ナノシート分散液中には大量のアミン類が共存しており、アミン類の混入が許容できない用途には利用できない。
また、チタンアルコキシドとアミン類との混合液に水を反応させることによりチタン酸ナノシート水分散液を得る方法(非特許文献2参照)が知られている。しかしながら、この方法で得られるチタン酸ナノシート水分散液においても、大量のアミン類(N/Tiモル比0.4以上)が共存する。
さらに、水酸化チタンとアミン類とを接触させて、チタン源/アミン類のモル比が0.1〜2であるチタン酸ノシートを製造する方法(特許文献1参照)、及びチタンアルコキシドとテトラブチルホスホニウムヒドロキシド等の第4級ホスホニウム水酸化物とを反応させて得られた、チタン酸ナノシートの有機溶媒分散液(特許文献2参照)が知られている。
これらの大量のアミン類やホスホニウム類が共存するチタン酸ナノシート分散液は、経時により着色したり、また例えば、ポリエステル系樹脂に配合した場合、樹脂の分解や着色を引き起こす等の問題が生じ、汎用性に乏しい。
佐々木高義,「新しいナノ素材:酸化物ナノシートコロイド」,色材協会誌,2003年,第76巻,第10号,p.391−396 T. Ohya, A. Nakayama, Y. Shibata, T. Ban, Y. Ohya, Y. Takahashi, Journal of Sol-Gel Science and Technology, Vol. 26, p 799-802 (2003) 特開2006−182588 特開2006−206426
本発明は、アミン類及び/又はホスホニウム類の含有量が少なく、透明性の優れた異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液、及びその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、アミン類等を含有するチタン酸ナノシートに、酸化物のときの最大価数が5以上となる異種金属元素(M)をドープさせた後、アミン類等を除去したチタン酸ナノシート分散液が前記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は次の(1)及び(2)を提供する。
(1)酸化物のときの最大価数が5以上となる異種金属元素(M)をドープして得られたチタン酸ナノシート(A)と、アミン類及び/又はホスホニウム類とを含有するチタン酸ナノシートの分散液であって、モル濃度比〔([N]+[P])/([Ti]+[M])〕(式中、[N]、[P]、[Ti]及び[M]は、それぞれ、分散液中の窒素原子、リン原子、チタン原子及び異種金属元素(M)のモル濃度を示す。)が0.02以下である異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液。
(2)下記工程(I)〜(IV)を有する異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液の製造方法。
工程(I):チタンアルコキシド及び/又はチタン塩を、酸化物のときの最大価数が5以上となる異種金属元素(M)を有する化合物と、アミン類及び/又はホスホニウム類との存在下で、加水分解することにより、アミン類及び/又はホスホニウム類と該異種金属元素(M)をドープしたチタン酸ナノシート(A)とを含有する水分散液を得る工程
工程(II):工程(I)で得られた水分散液の一部又は全部を有機溶媒に置換して、有機溶媒分散液を得る工程
工程(III):工程(II)で得られた有機溶媒分散液と分散向上剤(B)とを混合する工程
工程(IV):工程(III)で得られた分散液とカチオン交換樹脂とを接触させる工程
本発明の異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液は、アミン類及び/又はホスホニウム類の含有量が少なく、透明性、分散性が優れている。
また、本発明方法によれば、前記の優れた特性を有する異種金属元素ドープチタン酸ナノシートの分散液を効率的に製造することができる。
(異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液)
本発明の異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液の第1態様は、酸化物のときの最大価数が5以上となる異種金属元素(M)をドープして得られたチタン酸ナノシート(A)と、アミン類及び/又はホスホニウム類(以下、両者を総称して「アミン類等」ともいう)とを含有するチタン酸ナノシートの分散液であって、モル濃度比〔([N]+[P])/([Ti]+[M])〕(式中、[N]、[P]、[Ti]及び[M]は、それぞれ、分散液中の窒素原子、リン原子、チタン原子及び異種金属元素(M)のモル濃度を示す。)が0.02以下であることが特徴である。ここで、([N]+[P])は、アミン類又はホスホニウム類を併用するという意味ではなく、アミン類又はホスホニウム類のうち一方の化合物しか使用しない場合は、他方は0(ゼロ)として計算することを意味する。
本発明の異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液は、前記の異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液に更に分散向上剤(B)を含有することが好ましい。
ここで、「ドープする」とは、ドーピングともいい、例えば、物理学辞典(培風館発行)や理化学辞典(岩波書店発行)に記載された一般的な定義を意味する。より具体的には、吸蔵、担持又は挿入をも意味し、チタン酸ナノシートに異種金属元素(M)のカチオンが入る現象をいう。
ドープする異種金属元素(M)は、チタン酸ナノシート内のアミン類等とナノシート間の電気的中和を促進し、アミン類等を除去し易くする観点から、Ti4+よりも価数の大きな元素が好ましい。この観点から、周期表第5族元素及び/又は第6族元素がより好ましく、具体的には、5価元素であるバナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、6価元素である、クロ(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)がより好ましい。
ドーピングの方法としては、後述の製造方法の工程(I)に記載の方法等を採用することができる。異種金属元素(M)のドープ量は、Tiに対して、[[M]/([Ti]+[M])]×100(モル%)として、好ましくは0.01〜40モル%、より好ましくは0.05〜30モル%、更に好ましくは1.0〜20モル%である。
異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液のモル濃度比〔([N]+[P])/([Ti]+[M])〕は、汎用性の観点から、0.02以下であり、好ましくは0.018以下であり、より好ましくは0.015以下であり、更に好ましくは0.012以下であり、その下限は、生産性の観点から、0.005以上である。
なお、モル濃度比〔([N]+[P])/([Ti]+[M])〕とは、それぞれ、チタン酸ナノシート分散液中の、チタン原子と異種金属元素(M)の合計量当りのアミン類又はホスホニウム類の分子のモル濃度比を意味する。
本発明の異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液は透明性に優れているが、「透明性に優れる」とは、TiO2重量換算濃度1%の分散液の濁度が30%以下のことをいう。なお、濁度はJIS K−0101規定の方法により求めることができる。
また、該分散液中のTi量は、高周波誘導プラズマ発光分析法(ICP)や蛍光X線分析法等の常法により、アミン類等の量は、滴定法、NMR法、ガスクロマトグラフ法、液体クロマトグラフ法等の常法により求めることができる。
(チタン酸ナノシート)
本発明の異種金属元素ドープチタン酸ナノシートのベースとなるチタン酸ナノシートは、チタンを中心として6個の酸素が配位した8面体構造を基本ユニットとし、このユニットが二次元平面状に広がった分子レベルの厚み(例えば、0.3〜0.8nm)を持ったシート構造(例えば、長さ2〜10nm)を有する。このチタン酸ナノシートは、二チタン酸、三チタン酸、四チタン酸、五チタン酸、六チタン酸、レピドクロサイト型等の構造を有するチタン酸ナノシートを包含し、例えば、チタン酸との塩の形態で、アミン類やホスホニウム類等が含まれていると考えられる。
チタン酸ナノシートは、分散液中において、チタン酸ナノシートが1枚ずつばらばらに分散した状態であると推察され、チタン酸ナノシート分散液は、系によっては、チタン酸ナノシートが積層し層を成した状態や、一部凝集したものを含むと考えられる。
このようなチタン酸ナノシートは、ラマンスペクトルで波数が260〜305cm-1、440〜490cm-1及び650〜1000cm-1の領域にそれぞれピークを有する。なお、従来の代表的な酸化チタンであるアナターゼ型チタニアは、ラマンスペクトルで波数が140〜160cm-1、390〜410cm-1、510〜520cm-1及び630〜650cm-1の領域にピークを有し、ルチル型チタニアは、ラマンスペクトルで波数が230〜250cm-1、440〜460cm-1及び600〜620cm-1の領域にピークを有する。
(チタン酸ナノシート分散液)
本発明においてチタン酸ナノシート分散液の分散媒の主成分は、分散液の汎用性、保存安定性及びコストの観点から、水や水溶性の有機溶媒が好ましい。水溶性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソペンチルアルコール、第3級ブタノール等の炭素数1〜8の一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3〜10のケトン、プロピレンカーボネート等のカーボネート系有機溶媒等の有機溶媒が挙げられる。これらの中では、炭素数1〜6の一価アルコールがより好ましく、炭素数1〜3の一価アルコールが更に好ましく、メタノールが特に好ましい。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
分散液中の水含有量は、用途により異なるため特に限定されないが、乾燥の容易さ、他の有機溶媒との混合等の汎用性、及び保存安定性の観点から、〔H2O/([Ti]+[M])〕モル濃度比で20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
(異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液の製造方法)
本発明の異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液の製造方法は特に限定されないが、下記工程(I)〜(IV)を有する方法によれば、アミン類及びホスホニウム類の含有量が少なく、透明性の優れた異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液を効率的に製造することができる。
工程(I):チタンアルコキシド及び/又はチタン塩を、酸化物のときの最大価数が5以上となる異種金属元素(M)を有する化合物と、アミン類及び/又はホスホニウム類との存在下で、加水分解することにより、アミン類及び/又はホスホニウム類と該異種金属元素(M)をドープしたチタン酸ナノシート(A)とを含有する水分散液を得る工程
工程(II):工程(I)で得られた水分散液の一部又は全部を有機溶媒に置換して、有機溶媒分散液を得る工程
工程(III):工程(II)で得られた有機溶媒分散液と分散向上剤(B)とを混合する工程
工程(IV):工程(III)で得られた分散液とカチオン交換樹脂とを接触させる工程
工程(I)
工程(I)において用いられるチタン源、アミン類、ホスホニウム類、及び酸化物のときの最大価数が5以上となる異種金属元素(M)を有する化合物について、以下に説明する。
(チタン源)
本発明においては、チタン源として、チタンアルコキシド及び/又はチタン塩が用いられる。チタンアルコキシド及び/又はチタン塩としては、加水分解により水酸化チタンを生成するものが好ましい。ここで、水酸化チタンは、Ti(OH)2、Ti(OH)3、Ti(OH)4又はH4TiO4で表される組成式を有するものを包含する。
チタンアルコキシドとしては、炭素数1〜6、好ましくは炭素数2〜4のアルコキシドを有するチタンアルコキシドが好ましく、具体的には、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
これらの中では、特にチタンテトラアルコキシドが好ましく、一般的な入手のし易さ、取り扱い性の観点から、チタンテトライソプロポキシドが好ましい。
チタン塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、二塩化チタン等の塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、硝酸チタニル等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中では、一般的な入手のし易さ、取り扱い性の観点から、四塩化チタン、硫酸チタン及び硫酸チタニルがより好ましい。
チタン塩は、水と混合することにより、又は水との混合後、加熱することにより水酸化チタンを生成するが、その際、更にアルカリを共存させてもよい。水酸化チタンを生成させる際に共存させるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類水酸化物が挙げられる。更にはアンモニアや上記アミン類もアルカリとして使用することができる。これらの中では、入手のし易さ、取り扱い性の観点から、アルカリ金属水酸化物、アンモニア及びアミン類がより好ましい。アルカリの添加量は、チタン塩水溶液のpHが2以上となる量、より好ましくはpHが4以上となる量が好ましい。
チタン源は、水及び/又はチタン源と相溶性の高い溶媒に溶解しておいてもよい。かかる溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソペンチルアルコール等のアルコールが挙げられる。
なお、チタンとともに、他の元素、例えば、バナジウム、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン等を共存させ、複合化することもできる。
(アミン類)
本発明のアミン類は、チタン酸ナノシートの調製のし易さの点から、モノアミンが好ましい。アミン類としては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、及び第4級アンモニウム水酸化物からなる群から選ばれる1種以上が好ましく用いられるが、炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基を有するアミン類がより好ましい。
具体的には、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、ジメチルヘキシルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジメチルオクチルアミン等が好ましく挙げられる。また、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の置換アミン類も用いることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
これらの中では、アミン類の留去しやすさの観点から、常圧における沸点が200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、100℃以下であるものが更に好ましい。また、第2級アルキルアミン及び第3級アルキルアミンが好ましく、炭素数1〜6、特に炭素数2〜4のアルキル基を有する第2級アルキルアミン及び第3級アルキルアミンがより好ましく、ジエチルアミン、トリエチルアミン及びジ−n−プロピルアミンが特に好ましい。
アミン類は、チタン酸ナノシート生成の観点から、アミン類濃度9mmol/Lの水溶液におけるpHが9以上であるアミン類が好ましい。
(ホスホニウム類)
本発明のホスホニウム類は、チタン酸ナノシートの調製のし易さの点から、モノホスホニウムが好ましい。ホスホニウム類としては、第4級ホスホニウム水酸化物が好ましく、無機ホスホニウム化合物のリン原子と結合する4原子の水素をアルキル基、フェニル基等で置換した化合物がより好ましい。
第4級ホスホニウム水酸化物としては、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトラプロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラペンチルホスホニウムヒドロキシド、及びテトラヘキシルホスホニウムヒドロキシド等の炭素数2〜8のアルキル基を有するテトラアルキルホスホニウムヒドロキシド;テトラフェニルホスホニウムヒドロキシド、エチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ペンチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、2−ジメチルアミノエチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、メトキシメチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド等のトリフェニルホスホニウムヒドロキシドが挙げられる。
これらの中では、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトラプロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、及びテトラペンチルホスホニウムヒドロキシドから選ばれる1種以上が好ましい。
第4級ホスホニウム水酸化物は、チタン酸ナノシート生成の観点から、第4級ホスホニウム水酸化物濃度9mmol/Lの水溶液におけるpHが9以上である第4級ホスホニウム水酸化物が好ましい。
なお、アミン類及び/又はホスホニウム類は、溶媒中でチタン源からチタン酸ナノシートを調製する上で、チタン酸ナノシートの構造を決定付ける重要な化合物であるが、本発明においてはアミン類がより好ましく、特に第1級アミン、第2級アミン、及び第3級アミンがより好ましい。
(酸化物のときの最大価数が5以上となる異種金属元素(M)を有する化合物)
酸化物のときの最大価数が5以上となる異種金属元素(M)を有する化合物としては、5価元素であるバナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、6価元素である、クロ(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)の金属アルコキシド、塩化物、硝酸塩、硫酸塩等の無機塩類等が挙げられる。より具体的には、ニオブペンタエトキシド、ニオブペンタメトキシド、ニオブペンタイソプロポキシド、ニオブペンタn-ブトキシド、オキシ塩化ニオブ、五塩化ニオブ、タンタルペンタエトキシド、タンタルペンタメトキシド、タンタルペンタi-プロポキシド、タンタルペンタn-ブトキシド、五塩化タンタル、バナジウムオキシトリエトキシド、バナジウムオキシトリi−プロポキシド、オキシ硫酸バナジウム、塩化バナジウム、硝酸クロム、硫酸クロム、モリブデンペンタエトキシ、五塩化モリブデン、タングステンペンタエトキシ、タングステンペンタi−プロポキシド、五塩化モリブデン、六塩化モリブデン等が挙げられる。なお、6価元素、例えばタングステン等において、5価原料を用いて合成を行っても、合成過程中で酸化され、5価から6価に変化するものと考えられる。
(加水分解)
チタン源を加水分解する際に加える水分量は、水酸化チタンを得るために必要な量以上であればよい。通常、チタン源の質量に対して3〜50倍の質量が好ましく、5〜15倍の質量がより好ましい。加水分解の温度及び時間は、用いるチタンアルコキシド及び/又はチタン塩に応じ、適宜選択することができる。
チタン源を加水分解する方法は特に限定されないが、以下に示す第1方法及び第2方法により、チタン源を加水分解すれば、効率的に製造することができる。
(第1方法)
第1方法は、アミン類等の含水溶液と、酸化物のときの最大価数が5以上となる異種金属元素(M)を有する化合物と、チタン源とを混合する方法である。
アミン類等の含水溶液には、アミン類等の溶解を容易にするため、有機溶媒が含有されていてもよい。かかる有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソペンチルアルコール等の炭素数1〜6の一価アルコールが好ましく、炭素数1〜3の一価アルコールがより好ましい。
アミン類等の含水溶液と、前記異種金属元素(M)を有する化合物と、チタン源とを混合する場合の、チタン源とアミン類等の混合比率は、モル濃度比〔([N]+[P])/([Ti]+[M])〕が0.1〜3.5であることが好ましく、0.2〜3.5であることがより好ましく、0.5〜2.5であることが更に好ましい。チタン酸ナノシートを製造する際の、チタン源に対するアミン類等の割合を増加させることで、より低極性の有機溶媒に対しても透明な分散液を得ることができる。
なお、第4級アンモニウム水酸化物又は第4級ホスホニウム水酸化物を使用する際は、3級以下のアミン類と併用することが好ましい。特にチタン源と混合する場合の、チタン源と、第4級アンモニウム水酸化物及び/又は第4級ホスホニウム水酸化物の配合比率は、第4級アンモニウム水酸化物由来の窒素原子をN-quaternaryとし、第4級ホスホニウム水酸化物由来のリン原子をP-quaternaryとした場合、〔(N-quaternary+P-quaternary)/([Ti]+[M])〕のモル濃度比として0.2未満であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましく、残りは第3級以下のアミン類で補うことが好ましい。これは、具体的には〔アミン類/([Ti]+[M])〕のモル濃度比0.5で合成する際、〔(N-quaternary+P-quaternary)/([Ti]+[M])〕モル濃度比を0.1とした場合、残りの0.4を第3級以下のアミン類で補うということである。
また、チタン源と前記異種金属元素(M)を有する化合物の混合比率は、[[M]/([Ti]+[M])](モル濃度比)として0.0001〜0.4、より好ましくは0.0005〜0.3、更に好ましくは0.01〜0.2である。
アミン類等の含水溶液と、前記異種金属元素(M)を有する化合物と、チタン源との混合液中の金属濃度は、金属酸化物換算で0.01〜15質量%が好ましく、0.05〜10質量%がより好ましく、0.05〜5質量%が更に好ましい。
アミン類等の含水溶液と前記異種金属元素(M)を有する化合物とチタン源の混合に際し、チタン化合物の白濁を生じることがあるが、継続的に攪拌を行うことで無色透明〜薄黄色の液を得ることができる。
チタン源を混合する際の温度は、特に限定されない。2〜200℃でアミン類等含有チタン酸のナノシートが生成するが、長鎖アミンの安定性の観点から、10〜150℃がより好ましく、20〜100℃が更に好ましい。反応時間は0.1〜20時間が好ましく、1〜10時間がより好ましい。
また、チタン酸ナノシートの粒子径(横方向の長さ)を発達させるために、アミン類等とチタン源を混合した後に、更に50〜200℃で水熱合成を行ってもよい。
(第2方法)
第2方法は、アミン類等と、酸化物のときの最大価数が5以上となる異種金属元素(M)を有する化合物と、チタン源とを予め混合しておき、その後、水を混合してチタン含有水溶液を製造する方法である。アミン類等には、第1方法と同様の有機溶媒が含有されていてもよい。
アミン類等、前記異種金属元素(M)を有する化合物、及びチタン源の混合物に水を加える際、水の量はチタンが分解するのに必要な量であればよい。添加する水の量は、アミン類等、前記異種金属元素(M)を有する化合物、及びチタン源の混合物の質量に対して5〜50倍の質量が好ましく、10〜15倍の質量がより好ましい。水を添加する温度は、特に限定はされないが2〜200℃が好ましく、20〜100℃がより好ましい。また、水の滴下時間は、0.01〜5時間が好ましく、0.02〜2時間がより好ましい。更に、水の添加後、0.1〜20時間の熟成を行うことが好ましい。
工程(I)で得られるアミン類等を含有する異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液中の金属濃度は、金属酸化物換算で0.01〜15質量%が好ましく、0.05〜10質量%がより好ましく、0.05〜5質量%が更に好ましい。
(異種金属元素ドープチタン酸ナノシートの確認)
異種金属元素ドープチタン酸ナノシートの生成は、X線回折法、ラマン分光法、紫外線吸収スペクトル、透過型電子顕微鏡(TEM)観察等により確認することができる。チタン酸ナノシートを乾燥により粉末化したものは、X線回折法により層状構造を確認することができる。
異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液中には、アミン類等を含む異種金属元素ドープチタン酸シートが形成されていると推定される。これは、アルゴンイオンレーザー(波長488nm)を光源とし、レーザー出力100〜600mW、積算時間30〜300秒の条件下における透過法ラマンスペクトルの測定において、波数が260〜305cm-1、440〜490cm-1及び650〜1000cm-1の領域にそれぞれピークを有し、チタン原子及びチタン酸シートの構造が導出されたためである。
なお、アミン類等を含有する異種金属元素ドープチタン酸ナノシートの紫外線吸収スペクトルは、吸収スペクトルの立ち上がり波長(吸収端)が300〜340nmに見られる。これに対し、アナターゼ型チタニアでは、波長360〜380nmに、ルチル型チタニアでは、波長400〜420nmに吸収スペクトルの立ち上がり波長(吸収端)が見られる。
また、工程(I)で得られる異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液から分散媒を除去して、乾燥してなる粉末のX線回折により、層間隔はアミン類のカチオンサイズが大きくなるにしたがって増大することが確認されており、アミン類等は層間に存在しているものと考えられる。このことから、アミン類等を含有する異種金属元素ドープチタン酸ナノシートが、有機溶媒への分散性を良好にするものと推定される。
工程(II)
工程(II)は、工程(I)で得られた水分散液の一部又は全部を有機溶媒に置換して、有機溶媒分散液を得る工程である。
工程(I)で得られた水分散液に有機溶媒を加えて、水分散液の一部又は全部を有機溶媒に置換しながら水を除去(留去)すれば、水分の低減した無色透明〜薄黄色の異種金属元素ドープチタン酸ナノシートを含有する有機溶媒分散液を効率的に得ることができる。
水分散液と有機溶媒との混合温度等は特に限定されないが、0〜100℃が好ましく、10〜50℃がより好ましい。得られる有機溶媒分散液の水の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
用いる有機溶媒は、工程(I)における第1方法及び第2方法で用いる有機溶媒とは異なるものとすることもできる。そうすれば、工程(I)で得られる有機溶媒分散液とは異なる有機溶媒分散液を得ることができる。
ここで用いることができる有機溶媒は特に限定されないが、水又は極性を有する有機溶媒が好ましい。かかる有機溶媒としては、前記の炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3の一価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;プロピレンカーボネート等のカーボネート系有機溶媒等が挙げられる。
異種金属元素ドープチタン酸ナノシートの有機溶媒分散液中の金属濃度は、金属酸化物換算で40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%が更に好ましく、5質量%以下が特に好ましい。下限は0.05質量%以上が好ましい。
工程(III)
工程(III)は、工程(II)で得られた有機溶媒分散液と分散向上剤(B)とを混合する工程である。
(分散向上剤(B))
本発明において、分散向上剤(B)とは、チタン酸ナノシートの分散性を向上させる化合物であり、チタン酸ナノシートの凝集、沈殿、ゲル化等を抑制する作用を示す。また、分散向上剤(B)は、チタン酸ナノシート有機溶媒分散液に存在するアミン類等を該分散液から徹底的に除去する上で重要な化合物である。
例えば、アミン類等としてジエチルアミンを用い、TiO2換算濃度が質量1%であって、モル濃度比〔[N]/[Ti]〕が0.5の分散液をカチオン交換樹脂で処理しても、分散向上剤(B)共存下では沈殿が生じることはない。その結果、アミン類等の含有量の少ない(モル濃度比〔[N]/[Ti]〕が0.1以下)チタン酸ナノシートの透明で均一な分散液を得ることができる。
一方、分散向上剤(B)の非存在下では、同じチタン酸ナノシート分散液を、同様にカチオン交換樹脂で処理すると、約1質量%のTiO2換算濃度でも沈殿が生じ、これを更に乾燥させて粉末状態にしてもアミン類等を完全に除去することはできない。
分散向上剤(B)の作用機構については定かではないが、分散向上剤(B)のシラノール基、ヒドロキシル基、カルボキシル基の等の官能基がチタン酸ナノシートの表面Ti原子に相互作用(結合)することにより、チタン酸ナノシートの構造を安定化(凝集抑制)させることにより、カチオン交換樹脂で処理してアミン類等の含有量を少なくしても安定なチタン酸ナノシート分散液が得られたと推察される。
チタン酸ナノシート有機溶媒分散液と分散向上剤(B)の混合温度は、製造容易性及び分散性の観点から、通常0〜100℃が好ましく、10〜70℃がより好ましく、20〜40℃が更に好ましい。また、その混合時間は、0〜24時間が好ましく、1〜12時間がより好ましい。
本発明の分散液の生産性及び分散安定性の観点から、工程(III)終了後の分散液(中間分散液)の濃度は金属酸化物重量換算濃度で0.1〜40%が好ましく、1〜20%がより好ましい。
分散向上剤(B)は、有機化合物でも無機化合物でもよいが、得られるチタン酸ナノシート分散液の分散性向上の観点から、分散溶媒に可溶な化合物が好ましく、チタン酸ナノシート表面に相互作用(結合、配位、静電的相互作用等)する化合物が好ましい。具体的には、(a)アルコキシシラン、(b)ポリオール、(c)ヒドロキシカルボン酸、クロロシラン、ポリカルボン酸、ジケトンからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、(a)アルコキシシラン酸、(b)ポリオール、(c)ヒドロキシカルボンから選ばれる1種以上がより好ましい。
(a)アルコキシシランのSi原子1個当たりのアルコキシ基の数は2〜3が好ましく、アルコキシ基としては、炭素数1〜6、特に炭素数1〜4のものが好ましく、特にメトキシ基、エトキシ基が好ましい。
アルコキシシランの置換基は、本分散液の保存安定性の観点から、アルキル基、エポキシ基、フェニル基、メルカプト基、ビニル基、及びメタクリル基からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、本分散液の保存安定性、コスト等の観点から、アルキル基、エポキシ基、及びフェニル基からなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。
アルコキシシランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ベンジルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシシラン、ジメトキシメチル−3−(3−フェノキシプロピルチオプロピル)シラン等のシランカップリング剤が挙げられる。
その好適例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、及びジフェニルジメトキシシシランからなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。
これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
アルコキシシランの分子量は特に限定されないが、保存安定性及びコストの観点から、100〜10,000が好ましく、120〜1000がより好ましく、150〜500が更に好ましい。
チタン酸ナノシート有機溶媒分散液とアルコキシシランの混合は、チタン酸ナノシート有機溶媒分散液中のチタン源由来のTi原子に対する、アルコキシシラン中のSi原子の割合、すなわち〔[Si]/[Ti]〕がモル濃度比で、0.001〜50、好ましくは0.005〜10、より好ましくは0.01〜1、最も好ましくは0.05〜0.5の割合になるように行うことが好ましく、これが最終的な分散液中の〔[Si]/[Ti]〕の比率に反映される。
なおアルコキシシランは、加水分解により生成するSi−O基がチタン酸ナノシートの表面Ti原子に結合することが推察される一方で、その一部は、重合してポリシロキサン等のケイ素化合物を形成する可能性が考えられる。従って、本分散液には、アルコキシシランは、ポリシロキサンやシラノール化合物として含有する可能性もある。このため、本分散液のSi量はこれら全ての化合物を合計したSi量である。
(b)ポリオールは、保存安定性の観点から、1分子当たりのアルコール官能基数が2〜20であるものが好ましく、アルコール官能基数に対する炭素数の比が1〜20であるものが好ましく、1,2−ポリオール、1,3−ポリオールが好ましい。
ポリオールの分子量は特に限定されないが、本分散液の保存安定性及びコストの観点から、60〜10,000が好ましく、60〜1,500がより好ましく、炭素数は2〜50が好ましい。
ポリオールの具体例としては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、カテコール、3−ブテン−1,2−ジオール、グリセリン、グリセリルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の水溶性ポリオールが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
これらの中では、保存安定性等の観点から、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオールの他、分子量300〜1,200のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の水溶性ジオールがより好ましい。また、特に、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、分子量300〜1,000のポリエチレングリコールが更に好ましい。
ポリオールの配合量は特に限定されないが、保存安定性及び製造容易性等の観点から、〔ポリオール/[Ti]〕モル濃度比で0.1〜10が好ましく、0.3〜3がより好ましく、0.4〜2.5が更に好ましい。
(c)ヒドロキシカルボン酸とは、水酸基を有するカルボン酸である。水酸基を1個有するヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸(一塩基酸)、乳酸(一塩基酸)、マンデル酸(一塩基酸)、リンゴ酸(二塩基酸)、及びクエン酸(三塩基酸)等が挙げられる。水酸基を2個有するヒドロキシカルボン酸としては、グリセリン酸(一塩基酸)、酒石酸(二塩基酸)等が挙げられる。本分散液の分散性の観点から、水溶性のヒドロキシカルボン酸が好ましく、グリコール酸、乳酸、マンデル酸、リンゴ酸、クエン酸、グリセリン酸及び酒石酸からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、クエン酸が特に好ましい。
チタン酸ナノシート分散原液とヒドロキシカルボン酸の混合は、チタン酸ナノシート分散原液中のチタン源由来のTi原子に対する、ヒドロキシカルボン酸の割合、すなわち〔ヒドロキシカルボン酸/[Ti]〕がモル濃度比で、0.01〜10、好ましくは0.05〜1、より好ましくは0.1〜0.5の割合になるように行うことが好ましく、これが最終的な本分散液中の〔ヒドロキシカルボン酸/[Ti]〕の比率に反映される。
工程(IV)
工程(IV)は、工程(III)で得られた分散液とカチオン交換樹脂とを接触させる工程である。
アミン類等を含有するチタン酸ナノシート有機溶媒分散液に分散向上剤(B)を添加してチタン酸ナノシートの分散性を高めた上で、カチオン交換樹脂を接触させることによって、透明性に優れ、アミン類等を従来にない非常に低いレベルまで下げることができる。かかる分散液は、分散液中のモル濃度比〔([N]+[P])/([Ti]+[M])〕が0.02以下であるチタン酸ナノシート分散液である。製造工程でアミン類又はホスホニウム類の何れかを配合しない場合は、配合しない化合物由来のモル比率は当然ながら0になる。本発明では実際に、モル濃度比〔([N]+[P])/([Ti]+[M])〕が0.015以下でかつ安定な分散液を得ることができている。その下限は特に制限はないが、生産性の観点から、製造工程で該化合物を配合した場合は、0.005以上である。
最終的に得られる分散液中の異種金属元素ドープチタン酸ナノシートの濃度は、金属酸化物換算濃度として、0.1〜10%が好ましく、0.1〜5%がより好ましい。
以上の方法で得られるチタン酸ナノシート分散液は、25℃で中性ないし酸性であり、特にTiO2重量換算濃度1%の分散液の25℃におけるpHは、好ましくは1〜7.5、より好ましくは2〜7、更に好ましくは2.5〜6.5である。中性ないし酸性のチタン酸ナノシート分散液は、耐アルカリ性に劣る基材との複合化が可能となり、汎用性の点で優れている。
また、チタン酸ナノシート分散液を、ポリエステル系樹脂等に添加して無機−有機ナノ複合材料を製造する場合、アルカリ性のチタン酸ナノシート分散液を配合すると、配合組成物の保存安定性や得られる複合材料成形体の物性が低下するおそれがあるが、中性ないし酸性のチタン酸ナノシート分散液を添加すればそのような不都合が生じる可能性が低い。
本発明のカチオン交換樹脂を用いる方法は、分散液を酸性にすることに適しており、アミン量を低減でき、また、従来の酸剤(塩酸、硫酸等)添加による酸性化においては分散液の透明度が下がる傾向にあるのに対して、本発明方法は透明性を維持する上で有利である。従って、本発明のチタン酸ナノシート分散液は、分散向上剤(B)(ヒドロキシカルボン酸等)以外の酸を実質的に添加しなくても、中性ないし酸性で、かつ透明度が高く安定な分散剤とすることができる。
本発明においては、工程(IV)の後に、加熱等により分散媒を除去して濃縮する操作と、濃縮された分散媒に再び分散媒を追加する希釈する操作を繰り返すことによって、アミン類を除去する工程を加えてもよい。分散向上剤(B)を添加した後、溶媒を完全に除去させて固体にしたものを、改めて溶媒に分散させてもよい。これら操作を行うことで、アミン類を低減させることができる。カチオン交換樹脂はその前後で用いることができる。溶媒は前記の分散媒に挙げられたものを用いることができ、使用用途によって、メタノール等の有機溶剤に置換してもよく、水溶液であってもよい。
以下の実施例及び比較例において、ラマン分光法によるチタン酸ナノシート構造の確認、粉末X線回折法(XRD)によるチタン化合物の層状構造の確認、チタン等の定量分析、及びpH測定は、以下の方法によって行った。なお、「%」は質量基準である。
<ラマン分光法によるチタン酸シート構造の確認>
ラマン分光測定装置(東京インスツルメント株式会社製、Nanofinder30)を用いて、アルゴンイオンレーザー(波長633nm)を光源とし、グレーティング600grp/mm、積算時間400秒の条件で室温にて測定した。
<粉末X線回折法(XRD)によるチタン化合物の層状構造の確認>
粉末X線回折装置(理学電機株式会社製、RINT2500VPC、光源:Cu−Kα、管電圧:40kV、管電流:120mA)を用い、2θ=4〜60°の範囲を走査間隔0.01°、走査速度10°/min、発散縦制限スリット10mm、発散スリット1°、受光スリット0.3mm、散乱スリット自動の条件で室温にて測定した。また、2θ=2〜10°の範囲を走査間隔0.01°、走査速度1°/min、発散縦制限スリット10mm、発散スリット1/2°、受光スリット0.15mm、散乱スリット自動の条件で室温にて測定した。
<定量分析>
チタン酸ナノシート固体のTi、Si定量分析は、蛍光X線分析(XRF)装置(理学電機株式会社製、ZSX100E)を用いて行い、C、H、N、P定量分析は、全自動元素分析計(パーキンエルマー社製、2400II、カラム分離方式、TCD検出)を用いて行った。また、チタン酸ナノシート分散液中のTi定量分析は、分散液の乾燥固体を前記の蛍光X線装置を用いて分析することにより、行った。チタン酸ナノシート分散液中のアミン類等の定量分析は、過塩素酸滴定法により、行った。
<pH測定>
pHメータ(株式会社堀場製作所製、「D−13」、pH電極「6367」)を用いて、pH電極内部液として飽和塩化カリウム水溶液(3.33mol/L)、温度25℃の条件下でpHを測定した。なお、本分散液の分散溶媒が有機溶媒である場合、水で2倍希釈した分散液のpHを測定した。
実施例1
(1)異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液の調製
チタンテトライソプロポキシド〔Ti(OiPr)4〕(和光純薬工業株式会社製)0.36モル(102.3g)とニオブペンタエトキシド〔Nb(OEt)5〕(高純度化学株式会社製)0.04モル(12.7g)を秤量し、室温下、十分に攪拌混合した。
次にジエチルアミン(和光純薬工業株式会社製)0.16モル(11.7g)と10%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(和光純薬工業株式会社製)103.8g(テトラブチルアンモニウムヒドロキシド:0.04モル)とを蒸留水546.6gに溶解したアミン水溶液を撹拌し、これに、室温下、上記の混合アルコキシド溶液を滴下した。滴下に伴い溶液は白濁するが、撹拌を続行することで金属酸化物換算濃度4%、モル濃度比〔([N])/([Ti]+[Nb])〕0.5、pH12の透明な、アミン類を含有するNbドープチタン酸ナノシート水分散液を得た。
(2)分散液の有機溶媒への置換
上記で得られたNbドープチタン酸ナノシート水分散液300gを、エバポレーターを用いて約100gまで濃縮した。次にこの濃縮液にメタノールを500g添加し、同様にエバポレーターにて液量が90〜100g程度になるまで濃縮した。この操作を12回繰り返してNbドープチタン酸ナノシートのメタノール分散液を得た。
最終的に得られたNbドープチタン酸ナノシートのメタノール分散液は透明均一であった。得られた無色透明水分散液をテフロン(登録商標)製バットに入れ、電気乾燥機を用いて100℃、8時間乾燥を行うことにより、淡黄色粉末を得た。
得られた乾燥粉末の定量分析の結果、金属酸化物換算濃度4%、水分0.29%、モル濃度比〔([N])/([Ti]+[Nb])〕は0.26、〔H2O/([Ti]+[Nb])〕は0.32であった。金属酸化物換算濃度1%のメタノール−水混合分散液の25℃におけるpHは9.0であった。
また、XRDパターンにおいて、アナターゼ型やルチル型等の結晶性化合物のピークは見られず、面間隔1.9nmの層状構造に由来するピークのみが認められたことから、チタン酸ナノシート固体が層状構造であることが確認できた。またラマンスペクトルによりチタン酸骨格構造であることが確認された。
得られたメタノール分散液を、メタノールで希釈し、金属酸化物換算濃度2%の中間分散液を調整した。
(3)フェニルトリメトキシシランによる表面改質
上記Nbドープチタン酸ナノシートのメタノール分散液600g(金属酸化物換算濃度2%)にフェニルトリメトキシシラン(信越化学株式会社製)3.0g(0.015モル)を添加後、60℃にて3日間反応を行い、フェニルトリメトキシシランで表面改質されたNbドープチタン酸ナノシートを得た。
(4)カチオン交換樹脂による残留アミン除去
上記で得られたフェニルトリメトキシシランで表面改質されたNbドープチタン酸ナノシートのメタノール分散液をメタノールにて金属酸化物換算濃度1%に希釈して攪拌し、室温下、強酸性カチオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバーライト120B(H+型)、総交換容量4.4mg当量/g乾燥樹脂)17.8g(分散液中の残留アミン量に対して2当量)を添加、1時間撹拌後、デカンテーションによりカチオン交換樹脂を除去することにより、チタン酸ナノシートのメタノール分散液を得た。ラマンスペクトルによりチタン酸骨格構造であることが確認された。
最終的に得られたNbドープチタン酸ナノシートのメタノール分散液は透明均一であり、その定量分析の結果、金属酸化物換算濃度1%、モル濃度比〔([N])/([Ti]+[Nb])〕は0.011、金属酸化物換算濃度0.5%のメタノール−水混合分
散液の25℃におけるpHは5.7であった。
実施例2
実施例1において、ニオブペンタエトキシドの代わりにタンタルペンタエトキシドを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたチタン酸ナノシートを含む液の定量分析の結果、金属酸化物換算濃度は1%であり、モル濃度比〔[N]/([Ti]+[Ta])〕は0.013、金属酸化物換算濃度0.5%のメタノール−水混合分散液の25℃におけるpHは6.0の透明均一な分散液を得ることができた。
実施例3
実施例1において、チタンテトライソプロポキシド〔Ti(OiPr)4〕とニオブペンタエトキシド〔Nb(OEt)5〕をそれぞれ0.32モルと0.08モルにした以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたチタン酸ナノシートを含む液の定量分析の結果、金属酸化物換算濃度は1%であり、モル濃度比〔[N]/([Ti]+[Nb])〕は0.011、金属酸化物換算濃度0.5%のメタノール−水混合分散液の25℃におけるpHは5.6の透明均一な分散液を得ることができた。
比較例1
実施例1において、異種金属元素をドープしなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたチタン酸ナノシートを含む液の定量分析の結果、TiO2換算濃度は1%であり、モル濃度比〔[N]/[Ti]〕は0.019であったが、液は白濁ゲル状を呈しており、透明均一な分散液を得ることはできなかった。
比較例2
実施例1において、ニオブペンタエトキシドの代わりにアルミニウムイソプロポキシドを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたチタン酸ナノシートを含む液の定量分析の結果、TiO2換算濃度は1%であり、モル濃度比〔[N]/[Ti]〕は0.019であったが、液は白濁ゲル状を呈しており、透明均一な分散液を得ることはできなかった。
本発明の異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液は、アミン類等の含有量が少なく、分散性、透明性に優れ、流動性を有していることから、機能性膜(紫外線遮蔽等のバリア膜、耐食膜等)のコート剤、誘電体薄膜材料、触媒等のみならず、アミン類の混入が許容できない樹脂(例えば、ポリエステル系樹脂)等の添加剤としても利用することもできる。

Claims (7)

  1. 酸化物のときの最大価数が5以上となる異種金属元素(M)をドープして得られたチタン酸ナノシート(A)と、アミン類及び/又はホスホニウム類とを含有するチタン酸ナノシートの分散液であって、モル濃度比〔([N]+[P])/([Ti]+[M])〕(式中、[N]、[P]、[Ti]及び[M]は、それぞれ、分散液中の窒素原子、リン原子、チタン原子及び異種金属元素(M)のモル濃度を示す。)が0.02以下であり、異種金属元素(M)が、周期表第5族元素である異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液。
  2. 異種金属元素ドープチタン酸ナノシートにおける、異種金属元素(M)のドープ量が、〔[M]/([Ti]+[M])〕×100(モル%)として、1.0〜20モル%である、請求項1に記載の異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液。
  3. 更に分散向上剤(B)を含有する請求項1に記載の異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液。
  4. 分散向上剤(B)が、アルコキシシラン、ポリオール、及びヒドロキシカルボン酸から選ばれる1種以上である、請求項3に記載の異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液。
  5. 分散媒が有機溶媒であり、分散液中の水含有量が〔H2O/([Ti]+[M])〕モル濃度比で20以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液。
  6. 分散媒がアルコールである、請求項5に記載の異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液。
  7. 下記工程(I)〜(IV)を有する異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液の製造方法であって、下記異種金属元素(M)が、周期表第5族元素である異種金属元素ドープチタン酸ナノシート分散液の製造方法。
    工程(I):チタンアルコキシド及び/又はチタン塩を、酸化物のときの最大価数が5以上となる異種金属元素(M)を有する化合物と、アミン類及び/又はホスホニウム類との存在下で、加水分解することにより、アミン類及び/又はホスホニウム類と該異種金属元素(M)をドープしたチタン酸ナノシート(A)とを含有する水分散液を得る工程
    工程(II):工程(I)で得られた水分散液の一部又は全部を有機溶媒に置換して、有機溶媒分散液を得る工程
    工程(III):工程(II)で得られた有機溶媒分散液と分散向上剤(B)とを混合する工程
    工程(IV):工程(III)で得られた分散液とカチオン交換樹脂とを接触させる工程
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