JP5317328B2 - ナスの下漬液からのアントシアニン系色素の精製方法 - Google Patents
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その回収に有効な手段が見いだせない理由は以下の如くに推察される。
従来、アントシアニン系色素を分離する技術としては、多孔質樹脂に通して、アントシアニン系色素を分離する技術が知られており、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載される技術がある。
特許文献1には、赤キャベツや赤シソなどの塩漬を製造する工程で発生する下漬液を、多孔質樹脂に接触させてアントシアニン系色素を吸着し、次にそのアントシアニン系色素を吸着した多孔質樹脂をアルコール水溶液に接触させてアルコール水溶液にアントシアニン系色素を溶出させるという手法でアントシアニン系色素を分離させようとする手段が記載されている。
また特許文献2には、赤キャベツに含まれるアントシアニン系色素を無機酸又は有機酸によりpH1.5〜3.0に保って植物特有の色を安定させてから多孔質重合体樹脂で赤キャベツ色素を製造する方法が記載されている。この方法は、多孔質重合体樹脂に赤キャベツ色素を吸着させてから次に赤キャベツ色素の多孔質重合体樹脂からの分離をエタノールなどの親水性有機溶媒で溶出させて行うというものである。
その原因は、変色し易いナスの漬け物には、ミョウバン等の金属成分を添加してキレート結合によって安定化させているが、そのキレート化されたナスニンは上記多孔質樹脂に吸着してしまい、多孔質樹脂による色素の分離が困難になってしまうからである。
また、上記の如くエタノールを用いてナスのアントシアニン系色素を回収しようとしてもアントシアニン系色素の回収効率が30%程度と低すぎるので工業化することが困難となる。
しかしこの方法では、ナスに含まれるアントシアニン系色素を得ようとした場合には、主成分のナスニンがアルカリ性水溶液によって変質を起こし、pH値が高くなるに応じて青紫から全く異なる黄色に変ってしまうという難点がある。
この結果、前記多孔質樹脂に一旦吸着させたナスニンを主成分とするアントシアニン系色素は多孔質樹脂からカルボン酸液で効率良く分離されて極めて高い回収率が得られるものとなった。
その際に、本来化学的に不安定であるアントシアニン色素のナスニンはアルミミョウバンとカルボン酸液に結合して安定化されて、変質を起こすことなく回収することが可能となった。
ナスの漬物で使用されているミョウバンは、硫酸塩とアルミイオンの複塩であるアルミミョウバンである。
本発明は、そのような成分を含むナスの下漬液からアントシアニン系色素を分離して得る方法であり、この方法を、図1に示す工程で説明する。
先ず、ナスの下漬液の抽出工程では、アントシアニン系色素を含むナスの漬物の加工工程で発生した食塩とアルミミョウバンを含む下漬液を抽出する。
次に、無機成分等の分離除去工程では、該抽出液を多孔質樹脂に通液して該多孔質樹脂にアントシアニン系色素を吸着させ、その他の無機成分等を分離除去する。
そして次に、アントシアニン系色素の分離工程では、該多孔質樹脂にカルボン酸液を通液して吸着したアントシアニン系色素を多孔質樹脂から分離する。
こうしてアントシアニン系色素含有液が得られる。
ナスの下漬液にはナスの実やその皮の小片などの不純物が混入しているので、そのような固形物は濾過して事前に除去しておく。
そしてその濾過して得られたナスの下漬液を原料にし、その原料をスチレン−ジビニルベンゼン系の多孔質樹脂に通液する。
使用する多孔質樹脂は、前記スチレン−ジビニルベンゼン系のほかにアクリル酸系又はメタクリル系の多孔質重合体も前記スチレン−ジビニルベンゼン系の多孔質樹脂と同様な機能を有するので使用が可能である。
このようにナスニンが吸着している多孔質樹脂に、濃度5Mの酢酸液を通液して多孔質樹脂を洗浄する。
するとナスニンなどのアントシアニン系色素が酢酸液と結合して多孔質樹脂から分離され、酢酸液との混合液が多孔質樹脂から外へ排出される。
このように多孔質樹脂から分離され回収された混合液には酢酸と、ナスニンなどのアントシアニン系色素と、僅かの食塩と、アルミミョウバンと、アスコルビン酸などが混入している。
この混合液を凍結乾燥させて酢酸を揮発させると、主としてナスニンを含み少量のクロロゲン酸などを含んだ粉末が得られる。
その酢酸液の濃度は1M〜10Mであれば使用できるが、最適な濃度は5M前後である。
5M前後の濃度の酢酸液の酸性値では、ナスニンは鮮やかな紫の発色が得られる。
これよりも濃度が薄まると青紫色から濃度が1Mではピンク色まで変色する。しかし濃度が1M〜10Mの範囲ではナスニンが変色はしても「変質まではしない」ので、濃度を10Mにすると鮮やかな赤紫色が回復される。
上記ナスニンの「変質まではしない」との語句は、本発明ではナスニンの化学構造が不可逆的変化にまでは至らないことを意味する。
したがって、ナスニンが変質まではしない範囲で、濃度の調節で色を選択的に発色させれば、赤紫、紫、青紫、ピンク色などの色の着色剤として各種食品に使用することが可能となる。
食品においてはクエン酸は有益な物質として知られており、この面からもピンク色の着色剤として各種食品に使用することが可能となる。
なお、ポリフェノール類であるアントシアニン系色素は抗酸化性を持ち、人体に有害な活性酸素を消去させる作用があり、そのアントシアニン系色素の中でもナスニンは特に強い抗酸化性を持つ物質である。
このため、本発明で得られたナスニンなどのアントシアニン系色素は老化防止、生活習慣病の抑制などに役立つ健康食品に利用することが可能となる。
その実験について以下説明する。
本実験では、装置として、図1に示すように、内径が20mmで、長さが300mmのカラム2(多孔質樹脂の容量が約70ml)と、ビーカー3と、多孔質樹脂4とを用いた。
前記カラム2内に充填した前記多孔質樹脂4はスチレン−ジビニルベンゼン系の多孔質樹脂4であり、ナスニンなどのアントシアニン系色素が吸着する機能を備えた三菱化学株式会社の商品名HP−20を使用した。
この装置の構造は、台にナスの下漬液8を入れたタンク1を載せ、そのタンク1の口とカラム支持棒7に垂直に支持されたカラム2の上端開口部を先端がタンク1の底に達し、送液するポンプ6を備えた合成樹脂管で繋いだ。前記カラム2の底部には開閉させるコック5を備えた排出管が接続され、そのコック5を開いて通液しその液の排出ができるようにした。その排出管の下端をビーカー3に差し込んで実験装置ができる。
この通液で前記多孔質樹脂4にナスニンなどのアントシアニン系色素が多孔質樹脂に吸着し、白かった多孔質樹脂の上部ほど濃い青紫色に変った。
ビーカー3に排出された液体は着色が見られなかったので、前記多孔質樹脂4にアントシアニン系色素の全部が補足されたものと判断される。ビーカー3に排出された混合液9には食塩、アルミミョウバン、アスコルビン酸及びその他のナス由来の成分である物質が混入していた。
その後、カラム2内のアントシアニン系色素の純度を高めるため、蒸留水200mlを通液してカラム2内に残った無機物などを洗浄し排出させた。
この時点で、カラム2に通液し、洗浄して排出させた物質の量を測定したら、通液前の下漬液8に較べると、塩分の約96%、アルミニウムの99%が計量され、塩分とアルミミョウバンは殆ど排出されていたことが確認できた。
この通液で前記多孔質樹脂4からナスニンなどのアントシアニン系色素が分離され多孔質樹脂は薄いピンク色になり、ビーカー3には紫色の液体が排出された。この液体の色からナスニンが分離されたことが確認できる。
この紫色の溶出液は、真空凍結乾燥機で乾燥させて0.29gの青紫色のナスニンを主成分とする粉末を得た。
この結果、本実施例では87%のナスニンの回収が確認された。
この実験では、上記実験と同様に下漬液を前記多孔質樹脂に通液した後、前記多孔質樹脂に80%のエタノール溶液を70ml通液して、前記多孔質樹脂からナスニンを溶出させて排出させた。そしてこの溶出液を真空凍結乾燥機で乾燥させて、0.23gの紫色の粉末を得た。
またこれに続けて、前記多孔質樹脂に99.5%のエタノール溶液を100ml通液して、別のビーカーに前記多孔質樹脂からナスニンを溶出させて排出させた。そしてこの溶出液を真空凍結乾燥機で乾燥させて0.06gのピンク色の粉末を得た。
これら色素の純度を見るため、この比較実験の真空凍結乾燥で得られた粉末中のナスニンを、ナス皮から抽出し精製したナスニン標準品を用いて、HPLC法により定量を行った。
その結果、上記0.23gの粉末と0.06gの粉末の両方合わせて、31%のナスニンが回収されたことが確認された。
この比較実験の結果から、エタノール溶液を用いた場合にはナスニンは31%と低い回収となったが、これに較べると本発明では87%と極めて高い回収率でナスニンが得られることが確認できた。
このように、下漬液の多孔質樹脂への通液で、先ずアルミニウムと結合したナスニンが食塩などの無機物質と分離される。
なお、下漬液中のナスニンと結合していない殆どのアルミミョウバンは他の無機物質などと同様に多孔質樹脂に対して結合せずに排出される。
なお、回収された液中には、主としてナスニンが含まれるが、そのほかにカルボン酸と、微量なアルミミョウバンと、クロロゲン酸などのナス由来のポリフェノールとが含まれる。
以上の理由で、ナスニンを変質させずに下漬液からアントシアニン系色素を効率良く回収することが可能となると考えられる。
この回収効率については、酢酸を使用して87%という極めて高い回収率でナスニンを下漬液から回収できることが、上記実験によって確認されている。
2 カラム
3 ビーカー
4 多孔質樹脂
5 コック
6 ポンプ
7 カラム支持棒
8 下漬液
9 洗浄した後に流出した液
Claims (4)
- アントシアニン系色素を含むナスの漬物の加工工程で発生した食塩とアルミミョウバンを含む下漬液を抽出する工程と、
該抽出液を多孔質樹脂に通液して該多孔質樹脂にアントシアニン系色素を吸着させ、その他の無機成分等を分離除去する工程と、
該多孔質樹脂にカルボン酸液を通液して吸着したアントシアニン系色素を多孔質樹脂から分離する工程と、
から成ることを特徴とするナスの下漬液からのアントシアニン系色素の精製方法。 - 多孔質樹脂がスチレン−ジビニルベンゼン系、アクリル酸系又はメタクリル系の多孔質重合体のうち少なくともいずれか一つであることを特徴とする請求項1に記載のナスの下漬液からのアントシアニン系色素の精製方法。
- カルボン酸液が酢酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸からなる群の少なくともいずれか一つであることを特徴とする請求項1又は2に記載のナスの下漬液からのアントシアニン系色素の精製方法。
- カルボン酸液が酢酸であり、該酢酸液の濃度が1M〜10Mであることを特徴とする請求項3に記載のナスの下漬液からのアントシアニン系色素の精製方法。
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