JP5315894B2 - ハウリング防止装置、マイクロフォン、ミキサ、およびアダプタ - Google Patents
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Description
この発明は、ハウリングを防止するハウリング防止装置、マイクロフォン、ミキサ、およびアダプタに関する。
従来、講演、コンサート等の拡声システムにおいて、ハウリングを防止するための技術が種々提案されている。一般的なハウリング抑制手法は、ハウリングの発生を検出したときに、ハウリングの原因となる周波数帯域をフィルタで減衰するものである。
また、非特許文献1には、M系列ノイズの同期加算を用いたハウリングキャンセラが提案されている。非特許文献1のハウリングキャンセラは、事前に高レベルのM系列ノイズを放音して、適応型フィルタのトレーニングを行い、運用中には微弱なレベルでM系列ノイズを放音して適応フィルタを更新し続けるものである。また、非特許文献1のハウリングキャンセラは、話者がしゃべり続けたり、楽器が鳴り続けたりして外乱が大きくなると、適応フィルタの更新を阻害することになるため、マイク入力レベルが大きい場合、外乱が大きいとみなして適応フィルタの更新を停止している。
伊丹 誠、羽鳥 光俊、"音響系におけるハウリング除去に関する検討"、電子情報通信学会技術研究報告、1989年、EA89−4
伊丹 誠、羽鳥 光俊、"音響系におけるハウリング除去に関する検討"、電子情報通信学会技術研究報告、1989年、EA89−4
しかし、一般的なフィルタによる減衰手法では、ハウリングが発生した周波数帯域を抑制する手法であるため、一旦ハウリングが発生した後でなければ抑制することができない。
また、講演やコンサートでは、マイクの位置が移動することが多く、閉ループの環境は、マイクの位置等の変化で刻一刻と変化する。閉ループの環境が変化すると、非特許文献1に記載されているような適応フィルタでは、フィルタ係数の更新が追いつかず、ハウリングを抑制することができない。さらに、非特許文献1のように、マイク入力レベルが大きい場合に適応フィルタの更新を停止すると、ハウリングを抑止できなくなる可能性がある。また、事前にトレーニングを行う必要があるという問題もある。
そこで、この発明は、閉ループの環境が変化してもハウリングを防止することができるハウリング防止装置を提供することを目的とする。
この発明のハウリング防止装置は、音声信号を入力する入力部、疑似ノイズを生成するノイズ生成部、音声信号に疑似ノイズを重畳する重畳部、相関計算部、ループゲイン算出部、およびゲイン抑制部を備えている。相関計算部は、入力された音声信号と前記ノイズ生成部が生成する疑似ノイズの相関を求める。ループゲイン推定部は、前記相関計算部が算出した相関のピークのから、閉ループのゲインを推定する。ゲイン抑制部は、前記閉ループのゲインが所定のしきい値を超えた場合に、前記音声信号のゲインを抑制する。例えば、ループゲイン推定部は、疑似ノイズを重畳してから最初のピークが検出されるまでの経過時間を求め、当該最初のピークの相関の絶対値と、最初のピークから当該経過時間がさらに経過した後の相関の絶対値と、を算出する。経過時間が閉ループの遅延時間に相当するため、最初のピークの相関値と、さらに経過時間が経過した後の相関値との比から、ループゲインを推定する。推定したループゲインが1に近づくとハウリング発生の可能性が高いため、音声信号のゲインを抑制し、ハウリングを防止する。
また、上記発明において、音声信号のゲインを抑制する場合に、重畳する疑似ノイズのレベルは所定値以上を確保するように構成することも可能である。すなわち、音声信号のゲインを抑制した場合であっても、最初のピークを検出できる程度の疑似ノイズレベルを確保する。
また、本発明のハウリング防止装置は、マイクに内蔵される態様、ミキサのチャンネル毎に内蔵される態様、マイクに接続するアダプタに内蔵される態様、等、種々の装置に内蔵されていてもよい。
この発明によれば、ハウリングが発生する前に、推定したループゲインに基づいてハウリング発生を予測することができるため、マイクの位置が移動することが多く、閉ループの環境が変化する場合であっても、ハウリングを防止することができる。
図1(A)は、本実施形態の拡声装置の全体構成を示すブロック図であり、同図(B)は、本発明のハウリング防止装置を内蔵したマイクロフォン(マイクユニット)の構成を示すブロック図である。なお、本実施形態の説明においては、特に記載がない限り音声信号は全てデジタル信号とし、A/D変換、D/A変換の構成は省略する。
マイクユニット1は、マイク素子11(収音部)が収音した音声信号を入力する演算部5および疑似ノイズ重畳部7を備えている。疑似ノイズ重畳部7は、マイク素子11が収音した音声信号に疑似ノイズを重畳し、外部の増幅系統(アンプ装置2)に出力する。
マイクユニット1から出力された音声信号は、アンプ装置2で増幅され、スピーカ3から放音される。スピーカ3から放音された音声は、マイクユニット1に帰還し、閉ループが形成される。
マイクユニット1は、上記演算部5において、閉ループの遅延時間およびループゲインを推定する。マイクユニット1は、推定したループゲインが所定のしきい値以上となった場合にハウリング発生の可能性が高いとして音声信号のゲインを抑制し、ハウリングを防止するものである。
図1(B)に示すように、マイクユニット1は、マイク素子11、音声信号用ボリューム12、重畳部13、M系列発生器14、N倍オーバーサンプリング部15、HPF16、疑似ノイズ用ボリューム17、HPF18、相関計算部19、タイマ20、ループゲイン推定部21、およびゲイン制御部22を備えている。
演算部5は、M系列発生器14、HPF18、相関計算部19、タイマ20、およびループゲイン推定部21により構成される。疑似ノイズ重畳部7は、音声信号用ボリューム12、重畳部13、M系列発生器14、N倍オーバーサンプリング部15、HPF16、疑似ノイズ用ボリューム17、およびゲイン制御部22により構成される。
マイク素子11が収音した音声信号は、音声信号用ボリューム12およびHPF16に入力される。図2を参照して、疑似ノイズ重畳部7の構成、機能について説明する。各構成部の下欄には、各構成部が出力する信号の波形を示している。
疑似ノイズ重畳部7の音声信号用ボリューム12には、マイク素子11が収音した音声信号が入力される。なお、マイク素子11の下欄に示す信号の波形は一例であり、実際には種々の波形を有した信号が音声信号用ボリューム12に入力される。
音声信号用ボリューム12は、ゲイン制御部22により設定されたゲインで、マイク素子11の収音した信号を重畳部13に出力する。
M系列発生器14は、本発明のノイズ生成部に相当し、疑似ノイズとしてPN符号(M系列)のような自己相関性の高い信号を生成し、N倍オーバーサンプリング部15に出力する(同図M系列発生器14の下欄波形を参照、ただし、最下欄の波形は時間軸を表す)。なお、M系列に限らず、Gold系列など、他の乱数を用いてもよい。
N倍オーバーサンプリング部15は、疑似ノイズをオーバーサンプリングする。例えば、16倍オーバーサンプリングを行い、PN符号の各ビットの符号周期を拡大し、疑似ノイズ長を16倍とする(同図N倍オーバーサンプリング部15の下欄波形を参照、ただし、最下欄の波形は時間軸を表す)。N倍オーバーサンプリング部15は、このオーバーサンプリングした信号をHPF16に出力する。
HPF16は、N倍オーバーサンプリング部15から入力された信号の低域をカットする(同図HPF16の下欄波形を参照、ただし、最下欄の波形は時間軸を表す)。カットオフ周波数は、例えば10kHzに設定される。
なお、HPF16は本発明において必須ではない。ただし、HPF16により、疑似ノイズの高域以外の音がカットされるため、スピーカ3から放音されたとしても聴感上違和感がなくなる(ノイズが聞えにくくなる)。
なお 、N倍オーバーサンプリング部15によるオーバーサンプリングも本発明において必須ではない。ただし、オーバーサンプリングを行うことで疑似ノイズの時間的冗長性が増し、相関算出の精度を向上させることができる。実際には、必要となる精度と疑似ノイズの長さ(1周期を出力する時間)に応じてオーバーサンプリングの有無を設定すればよい。
HPF16から出力された信号は、疑似ノイズ用ボリューム17に入力される。疑似ノイズ用ボリューム17は、ゲイン制御部22により設定されたゲインで、HPF16の出力信号を重畳部13に出力する。疑似ノイズのレベルは、聴感上違和感のない微弱なレベルとすればよいが、疑似ノイズ相関のピークを検出できる程度のレベルを確保する。詳細については後述する。
重畳部13は、音声信号用ボリューム12から出力された音声信号にHPF16から出力された信号(疑似ノイズ)を重畳し、外部の増幅系統(アンプ装置2)に出力される。
次に、図3を参照して、演算部5の構成、機能について説明する。各構成部の下欄には、各構成部が出力する信号の波形を示している。M系列発生器14は、N倍オーバーサンプリング部15に出力したものと同じ疑似ノイズを相関計算部19に出力する(同図M系列発生器14の下欄波形を参照、ただし、当該波形は時間軸を表す)。また、この疑似ノイズを出力した後、出力タイミングを示す信号(タイミング信号)をタイマ20に送信する。タイマ20は、タイミング信号を受信すると、タイムカウントを開始し、ループゲイン推定部21に、カウント時間を示すタイマ信号を送信する。
マイク素子11には、疑似ノイズが含まれた音声が収音される。演算部5のHPF18には、マイク素子11が収音した音声信号が入力される。HPF18は、マイク素子11が収音した音声信号から低域をカットし、相関計算部19に出力する(同図HPF18の下欄波形を参照、ただし、当該波形は周波数軸を表す)。カットオフ周波数は、上記HPF16に対応して決定される(例えば10kHz)。
相関計算部19は、M系列発生器14から入力された疑似ノイズと、HPF18の出力信号の相関を求める。M系列の符号は非常に高い自己相関性を有しているため、HPF18の出力信号に同じM系列の疑似ノイズが含まれていると、同図の波形に示すように、定期的に急峻なピーク(所定しきい値以上のレベルを有するピーク)が現れる。相関計算部19は、このピークを算出したタイミング(受信タイミング)およびそのときの相関値をループゲイン推定部21に送信する。
ループゲイン推定部21は、ピーク算出のタイミングを受信すると、タイマ20からのタイマ信号を参照し、疑似ノイズを出力したタイミングからピークを算出したタイミングとの差を求める。このタイミング差が、閉ループの遅延時間に相当する。
さらに、ループゲイン推定部21は、閉ループの遅延時間からループゲインを推定する処理を行う。図4を用いてループゲインの推定処理について説明する。
図4(A)は、相関の時間軸特性を示した図である。同図(B)は、マイクユニットに入力される音声信号の時間軸特性を模式化したものである。
ループゲイン推定部21は、同図に示すように、疑似ノイズを出力したタイミングから最初に相関のピークを算出するタイミングまでの時間t1を求め、そのときの相関の絶対値|A|を取得する。最初の相関ピークが検出されるタイミング周辺の波形は、マイクユニット1に帰還した直接音(直接波)とみなすことができる。
そして、ループゲイン推定部21は、当該ピークからさらに時間t1が経過したときの相関の絶対値|B|を相関計算部19から取得する。なお、絶対値|B|は、最初のピークから時間t1が経過したタイミングの値に限らず、時間t1経過後で、かつその付近(例えば数十μsec前後)で最も相関の絶対値が大きいときの値としてもよい。
スピーカ〜マイクまでの空間放音系統の遅延時間は、マイクユニット〜スピーカまでの信号処理系統の遅延時間よりも大きく、かつ時間t1は、閉ループの遅延時間に相当するため、最初のピークからさらに時間t1が経過するまでの波形は壁などの反射波と判断することができる。時間t1が経過したタイミング周辺の波形は、スピーカ3から出力された疑似ノイズが一周し、マイクユニット1に再度帰還した直接波と判断することができる。よって、絶対値|A|と絶対値|B|の比(|B|/|A|)をループゲインと推定することができる。
ループゲイン推定部21が推定したループゲインは、ゲイン制御部22に出力される。ゲイン制御部22は、ループゲインが所定のしきい値thを超えた場合、ハウリング発生の可能性が高いとして、音声信号用ボリューム12のゲインを抑制するよう指示する。所定のしきい値thはどのような値であってもよいが、少なくともループゲインが1を超えると発振するため、1未満の値とする。例えば、ある程度のマージンを見て、0.1〜0.5程度とする。実際には、設置環境に応じて適宜設定する。例えば、実際に使用時より前に、ユーザがマスタボリューム(アンプ装置2のゲイン)を上げ下げする動作を行い、ハウリングが発生した時、マイクユニットの操作部(不図示)でハウリング発生を入力する動作を行う。ゲイン制御部22は、このときのループゲインを最大値thmaxとし、ある安全率αを用いてth=α×thmaxとする。
以上のようにして、演算部5は、閉ループのゲインを推定し、推定したループゲインが所定のしきい値を超えた場合に、音声信号のゲインを抑制する処理を行う。本実施形態のマイクユニットは、推定したループゲインに基づいてハウリング発生を予測することができるため、プレゼンテーションやライブ演奏のようなマイクの位置が移動することが多い場合であっても、好適にハウリングを防止することができる。なお、このときにユーザにハウリング注意の警告(ランプ点灯、マイクを振動させる等)を行ってもよい。
なお、ゲイン制御部22は、音声信号用ボリューム12のゲインを抑制するように指示するとともに、疑似ノイズ用ボリューム17のゲインも抑制するように指示する。ただし、必ず疑似ノイズ相関の最初のピークを検出できるように、所定値以上のゲインを保持するものとする。この所定値については、予め実験室等で測定した値を用いてもよいし、設置環境において実際の使用時より前にテストを行い、相関のピークを算出できる限界のゲインを求め、ある程度のマージンを見た値を設定してもよい。
なお、M系列発生器14が生成する疑似ノイズのパターンを複数用意しておき、これらのパターンを切り替えるようにしてもよい。例えば、マイク毎に疑似ノイズのパターンを切り替えることで、複数のマイクを同時に使用する場合であっても、互いの疑似ノイズが干渉することなく、高精度に相関を算出することができる。マイク毎に個別に閉ループのループゲインを推定することができるため、複数のマイクを同時に使用した場合であっても好適にハウリングを防止することができる。
特に、疑似ノイズとしてGold系列を用いる場合、符号生成回路(シフトレジスタ)のタップ位置を切り替えることにより、多種類の符号系列を生成することが可能であるため、大規模なPAシステムにも対応することができる。
なお、演算部5および疑似ノイズ重畳部7は、マイクユニットではなく、ミキサのチャンネル毎に内蔵されていてもよい。また、演算部5および疑似ノイズ重畳部7を内蔵したアダプタを構成し、アダプタの入力部(入力インタフェイス)にマイクを接続し、入力部から入力された信号を演算部5および疑似ノイズ重畳部7に供給する構成としてもよい。いずれにしてもアンプ装置等の増幅系統の前段に備えていればよい。
1−マイクユニット
2−アンプ装置
3−スピーカ
5−演算部
7−疑似ノイズ重畳部
2−アンプ装置
3−スピーカ
5−演算部
7−疑似ノイズ重畳部
Claims (5)
- 音声信号を入力する入力部と、
疑似ノイズを生成するノイズ生成部と、
前記入力部が入力した音声信号に前記疑似ノイズを重畳して外部の増幅系統に出力する重畳部と、
前記入力部が入力した音声信号と前記ノイズ生成部が生成する疑似ノイズの相関を求める相関計算部と、
前記相関計算部が算出した相関のピークから、閉ループのゲインを推定するループゲイン推定部と、
前記閉ループのゲインが所定のしきい値を超えた場合に、前記音声信号のゲインを抑制するゲイン制御部と、
を備えたハウリング防止装置。 - 前記ゲイン制御部は、前記音声信号のゲインを抑制した場合、前記疑似ノイズのレベルを所定値以上に保持する請求項1に記載のハウリング防止装置。
- 請求項1または請求項2に記載のハウリング防止装置を内蔵し、
音声を収音して前記入力部に音声信号を供給する収音部を備えたマイクロフォン。 - 請求項1または請求項2に記載のハウリング防止装置をチャンネル毎に内蔵したことを特徴とするミキサ。
- 請求項1または請求項2に記載のハウリング防止装置を内蔵したアダプタ。
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