以下に、本発明にかかるクラッチ制御装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
(第1実施形態)
図1から図6を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、車両の動力源から駆動輪に動力を伝達する動力伝達経路に設けられ、互いに摩擦係合可能な一対の係合部材と、電力を消費して一対の係合部材を駆動する駆動力を発生させ、一対の係合部材を係合させる駆動手段とを有するクラッチを制御するクラッチ制御装置に関する。図2は、本発明のクラッチ制御装置の第1実施形態が適用された車両の動力伝達経路の概略構成を示す図である。
本実施形態では、電磁カムクラッチ(クラッチ装置、図2の符号50参照)を用いたロック要素において、ロック中のロック要素の消費電力を軽減する制御がなされる。ロック要素は、クラッチ装置50を完全係合状態とすることで第1のモータジェネレータ(図2の符号6参照)の回転軸である中空シャフト(図2の符号17参照)の回転をロックする。本実施形態では、クラッチ装置50の入力トルクに応じてクラッチ装置50の電磁コイル56に流す保持電流が増減される。これにより、クラッチ装置50の完全係合状態を保持しつつ、クラッチ装置50の消費電力が低減される。
図2において、符号1は、車両(図示せず)に搭載された変速装置を示す。なお、以下の説明では、軸方向とは、どの軸線かを記載していない場合、後述する変速装置1のインプットシャフト5が回転をする際に回転の中心となる軸である中心軸線に平行な方向をいう。また、同様な場合における径方向とは、インプットシャフト5の中心軸線と直交する方向をいい、周方向とは、インプットシャフト5の中心軸線が中心となる円周方向をいう。
符号Eは、エンジン(動力源)を示す。このエンジンEとしては内燃機関、具体的にはガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンまたはLPGエンジンまたはメタノールエンジンまたは水素エンジンなどを用いることができる。この実施形態においては、便宜上、エンジンEとしてガソリンエンジンを用いた場合について説明する。エンジンEは、燃料の燃焼により図示しないクランクシャフトから動力を出力する装置であって、吸気装置、排気装置、燃料噴射装置、点火装置、冷却装置などを備えた公知のものである。
変速装置1は、インプットシャフト5、動力分割機構10、およびクラッチ装置50を有している。インプットシャフト5はクランクシャフトと同軸上に配置されている。インプットシャフト5におけるエンジンE側の端部は、エンジンEの図示しないクランクシャフトと連結されており、エンジンEの動力がインプットシャフト5に伝達される。
インプットシャフト5の径方向外側には、中空シャフト17が配置されている。中空シャフト17は、インプットシャフト5と相対回転可能に支持されている。中空シャフト17の径方向外側には、第1のモータジェネレータ6が配置されている。動力分割機構10を挟んで第1のモータジェネレータ6と軸方向に対向する位置には、第2のモータジェネレータ9が配置されている。
第1のモータジェネレータ6および第2のモータジェネレータ9は、電力の供給により駆動する電動機としての機能(力行機能)と、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機としての機能(回生機能)とを兼ね備えている。第1のモータジェネレータ6および第2のモータジェネレータ9としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。第1のモータジェネレータ6および第2のモータジェネレータ9に電力を供給する電力供給装置としては、バッテリ、キャパシタなどの蓄電装置、あるいは公知の燃料電池などを用いることができる。
第1のモータジェネレータ6は、ハウジング4に固定されたステータ61と、回転自在なロータ62とを有している。ステータ61は、固定された鉄心と、鉄心に巻かれたコイル63とを有している。ステータ61およびロータ62は、所定肉厚の電磁鋼板を、その厚さ方向に複数枚を積層して構成したものである。なお、複数の電磁鋼板は、インプットシャフト5の軸線方向に積層されている。ロータ62は、中空シャフト17の外周側に連結されており、中空シャフト17と一体に回転する。中空シャフト17には、第1のモータジェネレータ6のロータ62の回転数および回転位相(回転位置)を検出するレゾルバ41が配置されている。レゾルバ41は、中空シャフト17に固定されて中空シャフト17と一体に回転するロータと固定されたステータとを有する周知のものであり、ロータ62の回転数および回転位相を高精度に検出することができる。
第2のモータジェネレータ9は、ハウジング4に固定されたステータ91と、回転自在なロータ92とを有している。ステータ91は、鉄心と、鉄心に巻かれたコイル93とを有している。ステータ91およびロータ92は、所定肉厚の電磁鋼板を、その厚さ方向に複数枚を積層して構成したものである。なお、複数の電磁鋼板は、MGシャフト45の軸線方向に積層されている。ロータ92は、MGシャフト45の外周側に連結されており、MGシャフト45と一体に回転する。MGシャフト45には、第2のモータジェネレータ9のロータ92の回転数および回転位相を検出するレゾルバ42が配置されている。レゾルバ42は、レゾルバ41と同様の構成を有し、ロータ92の回転数および回転位相を高精度に検出することができる。
動力分割機構(言い換えれば動力合成機構)10は、第1遊星歯車機構11と第2遊星歯車機構21とを有している。第1遊星歯車機構11は、互いに同軸的に配置されたサンギア12及びリングギア14と、これらのギアの間に介在する複数のプラネタリギア13と、プラネタリギア13を回転自在に支持するプラネタリキャリア15とを有している。プラネタリキャリア15は、ハウジング4に回転不能に固定されている。すなわち、第一遊星歯車機構11のプラネタリギア13は、自転は可能であるが、サンギア12の周りの公転は規制されている。
サンギア12は、MGシャフト45の外周側に連結されており、MGシャフト45と一体に回転する。つまり、サンギア12は、MGシャフト45を介して第2のモータジェネレータ9のロータ92と接続されており、第2のモータジェネレータ9の出力がサンギア12に伝達される。
第2遊星歯車機構21は、互いに同軸的に配置されたサンギア22及びリングギア24と、これらのギアの間に介在する複数のプラネタリギア23と、プラネタリギア23を回転自在に支持するプラネタリキャリア25とを有している。プラネタリキャリア25は、インプットシャフト5と一体回転可能に連結されている。サンギア22は、中空シャフト17と一体回転可能に連結されている。つまり、サンギア22は、中空シャフト17を介して第1のモータジェネレータ6のロータ62と接続されており、ロータ62との間で動力を伝達する。言い換えると、第1のモータジェネレータ6が発電機として機能する場合には、サンギア22からロータ62に中空シャフト17を介して動力が伝達され、第1のモータジェネレータ6が電動機として機能する場合には、第1のモータジェネレータ6の出力が中空シャフト17を介してサンギア22に伝達される。
また、第1遊星歯車機構11のリングギア14と第2遊星歯車機構21のリングギア24とは連結部材26により一体回転可能に連結されている。連結部材26の外周側には、カウンタドライブギア33が形成されている。カウンタドライブギア33は、カウンタドリブンギア35と噛合っている。カウンタドリブンギア35の回転軸であるカウンタシャフト34には、カウンタドリブンギア35と同軸上にファイナルドライブピニオンギア36が設けられている。カウンタドライブギア33からカウンタドリブンギア35に伝達された動力は、ファイナルドライブピニオンギア36からデファレンシャル37を介してドライブシャフト(駆動軸)38および図示しない駆動輪に伝達される。
クラッチ装置50は、中空シャフト17の回転を規制するブレーキとして機能するものである。クラッチ装置50は、第一カム部材51、第2カム部材52、ヨーク55、電磁コイル56、および転動体57を有する。
第一カム部材51および第二カム部材52は、それぞれ円環形状をなしており、軸方向に互いに対向している。第一カム部材51は、中空シャフト17のエンジンE側の端部と連結されている。第一カム部材51は、中空シャフト17に対して一体回転可能でかつ軸方向に相対移動不能に連結されている。第二カム部材52は、第一カム部材51よりもエンジンE側に配置されている。第二カム部材52は、第一カム部材51と同軸上に配置されており、回転可能かつ第一カム部材51に対して軸方向に相対移動可能に支持されている。第二カム部材52は、図示しないばね等の付勢手段により、第一カム部材51に向けて軸方向に付勢されている。第一カム部材51と第二カム部材52との間には、複数の転動体57が保持されている。ヨーク55は、第二カム部材52よりもエンジンE側に配置されており、ハウジング4に固定されている。ヨーク55は、円環形状をなしており、第二カム部材52と軸方向に対向している。インプットシャフト5は、第一カム部材51、第二カム部材52、およびヨーク55の径方向内側をそれぞれ軸方向に貫通している。ヨーク55内には、インプットシャフト5と径方向に対向して電磁コイル56が配置されている。
図3は、クラッチ装置50の要部を示す模式図である。図3には、径方向の外側から見た転動体57の近傍が示されている。第一カム部材51および第二カム部材52には、それぞれカム面53,54が形成されている。
カム面53は、第一カム部材51における第二カム部材52と対向する面に形成されており、第二カム部材52から離間する方向に凹む溝部51aを形成している。溝部51aは、断面V字形状をなしている。
カム面54は、第二カム部材52における第一カム部材51と対向する面に形成されており、第一カム部材51から離間する方向に凹む溝部52aを形成している。溝部52aは、断面V字形状をなしている。転動体57は、溝部51aと溝部52aとにより保持されている。
図2に示すように、車両には、クラッチ装置50を係合または解放させる制御部100が設けられている。制御部100は、電磁コイル56に流す電流を制御することで電磁コイル56で発生させる電磁力を制御する。電磁コイル56は、図示しない駆動回路と接続されており、制御部100から入力された指令値に基づいて、駆動回路が、電磁コイル56に流す電流値を指令値とするように制御する。
図3には、電磁コイル56に電流が流されておらず、電磁コイル56が非励磁の状態とされているときのクラッチ装置50が示されている。電磁コイル56が非励磁の状態である場合には、第二カム部材52には、電磁力による吸引力が作用しないため、ヨーク55から軸方向に離間した状態となる。よって、第二カム部材52の回転は規制されず、第二カム部材52は回転自在の状態となる。これにより、第二カム部材52は、回転する第一カム部材51に駆動されて第一カム部材51と等しい回転速度で回転する。つまり、中空シャフト17は、クラッチ装置50により回転が規制されることなく回転することができる。この場合、第1のモータジェネレータ6の回転数を制御することにより、第2遊星歯車機構21におけるプラネタリキャリア25の回転数とリングギア24の回転数との関係を任意に制御することができる。すなわち、エンジンEの出力が伝達されるインプットシャフト5の回転数を任意の変速比で変速してリングギア24から出力することができる。言い換えると、クラッチ装置50を解放状態とした場合、変速装置1は、変速比を連続的に変更可能な無段変速機(CVT)として機能することができる。
図4は、電磁コイル56に電流が流されて、電磁コイル56が励磁状態とされているときのクラッチ装置50を示す図である。電磁コイル56に通電されて電磁コイル56が励磁状態となると、電磁コイル56の周囲に発生する磁界により、ヨーク55と第二カム部材52との間に吸引力が作用する。ここで、ヨーク55はハウジング4に固定されているため、電磁コイル56が発生させる吸引力により、第二カム部材52がヨーク55に向けて駆動される。つまり、電磁コイル56に電流が流されると、第二カム部材52に対してヨーク55に向かう駆動力F1が作用する。これにより、第二カム部材52は付勢手段の付勢力に抗してヨーク55に向けて移動し、ヨーク55と当接する。駆動力F1の大きさは、電磁コイル56に流される電流の大きさに応じて変化し、電磁コイル56に流される電流が大きい場合には、小さい場合と比較して、駆動力F1が大きな力となる。つまり、電磁コイル56は、入力される指令値に応じて電力を消費して第二カム部材52をヨーク55に向けて駆動する駆動力F1を発生させ、第二カム部材52とヨーク55とを係合させる駆動手段として機能する。
第二カム部材52およびヨーク55における軸方向に互いに対向する面(摩擦面)は、摩擦係合可能に構成されており、第二カム部材52がヨーク55と当接すると、第二カム部材52とヨーク55とは摩擦係合する。つまり、第二カム部材52とヨーク55とは互いに摩擦係合可能な一対の係合部材を構成している。第二カム部材52とヨーク55とが摩擦係合することにより、ヨーク55に対する第二カム部材52の相対回転が規制されることで、第二カム部材52の回転が規制される。
第二カム部材52の回転が規制されると、第一カム部材51は、第二カム部材52に対して相対回転する。これにより、図4に示すように、転動体57が、第一カム部材51のカム面53と、第二カム部材52のカム面54とにおける回転方向に互いに対向する部分にそれぞれ当接し、第一カム部材51の更なる回転を規制する。このため、第一カム部材51が第二カム部材52に対して相対回転することが規制され、第一カム部材51の回転が規制される。以下の説明において、第二カム部材52とヨーク55とが完全係合し、ヨーク55に対する第二カム部材52の相対回転が規制された状態をクラッチ装置50の「完全係合状態」と記述する。
第一カム部材51の回転が規制されると、中空シャフト17および第2遊星歯車機構21のサンギア22の回転も規制される。このようにサンギア22の回転が規制されることで、第2遊星歯車機構21において、プラネタリキャリア25の回転数とリングギア24の回転数との比が固定される。つまり、クラッチ装置50を完全係合状態とすることで、変速装置1において、エンジンEの出力が伝達されるインプットシャフト5の回転数とリングギア24の回転数との変速比を固定した固定段走行モードを実現することができる。
クラッチ装置50の完全係合状態において、電磁コイル56への通電が停止され、電磁コイル56が非励磁の状態とされると、第二カム部材52とヨーク55との間には、電磁力による吸引力が作用しなくなる。これにより、第二カム部材52の回転は規制されなくなり、第二カム部材52はヨーク55に対して相対回転可能となる。よって、第二カム部材52は、転動体57を介して第一カム部材51から伝達される動力により第一カム部材51と共に回転する。以下の説明において、第二カム部材52とヨーク55との間に電磁力による吸引力が作用しておらず、ヨーク55に対する第二カム部材52の相対回転が規制されていない状態をクラッチ装置50の「解放状態」と記述する。
クラッチ装置50を解放状態として変速装置1を無段変速機として機能させるか、クラッチ装置50を完全係合状態として固定段走行モードとするかは、車両の走行状態に応じて決定される。ここで、走行状態とは、例えば、車速や負荷等であり、制御部100は走行状態が予め定められた所定の走行状態である場合にクラッチ装置50を係合させる制御を行う。所定の走行状態としては、例えば、車速が高車速である場合が含まれる。
制御部100は、走行状態に基づいてクラッチ装置50を完全係合させると判定した場合、クラッチ装置50を完全係合させる係合制御を実行する。制御部100は、解放されたクラッチ装置50を完全係合させる係合時には、電磁コイル56に大きな電流を流し、クラッチ装置50が完全係合した後には、電磁コイル56に流す電流値を係合時と比較して小さな電流値とする。以下の説明において、完全係合したクラッチ装置50の完全係合状態を保持するために電磁コイル56に流す電流値を「保持電流値I」と記述する。
従来、電磁式のクラッチ装置の制御において、保持電流値を係合時の電流値と比較して小さな電流値とする制御が提案されているが、この保持電流値は、比較的大きな電流値に設定されていた。これは、クラッチ装置を完全係合状態として走行する際のあらゆるシチュエーションにおいてクラッチ装置が解放しないように保持電流値が一律に設定されるためである。しかしながら、このように保持電流値が一律に設定されてしまうと、走行状態に応じてクラッチ装置で必要とされるトルク容量に対して、実際のトルク容量が過大となり、クラッチ装置を完全係合状態に保持するための消費電力が大きなものとなってしまう虞がある。
本実施形態では、クラッチ装置50に伝達される(かかる)動力の大きさに応じて保持電流値Iが可変に設定される。クラッチ装置50にかかる動力の大きさが小さい場合には、上記かかる動力の大きさが大きい場合と比較して、保持電流値Iが低減される。これにより、クラッチ装置50を完全係合状態に保持する制御における消費電力を低減することができる。
まず、クラッチ装置50のトルク容量について説明する。クラッチ装置50のトルク容量とは、クラッチ装置50において、第二カム部材52とヨーク55とが相対回転することなく伝達可能なトルクの大きさ、言い換えると、完全係合状態で伝達可能なトルクの大きさである。本実施形態のクラッチ装置50は、ヨーク55がハウジング4に固定されており、第一カム部材51に連結された中空シャフト17の回転を規制するブレーキとして機能する。このため、このトルク容量は、ブレーキとして中空シャフト17の回転を規制して停止させておくことができる最大トルクを示す。クラッチ装置50のトルク容量Tbは、下記の式(1)で算出される。
Tb = A × Fe × Re (1)
A :増幅比
Fe:電磁吸引力
Re:摩擦面有効摩擦半径
増幅比Aは、クラッチ装置50のハードの諸元から算出されるものであり、例えば、第二カム部材52とヨーク55との摩擦面の摩擦係数μ、カム面53,54のカム角度θ等に基づいて算出される。電磁吸引力Feは、電磁コイル56が通電されることで第二カム部材52とヨーク55との間に作用する吸引力であり、ヨーク55と電磁コイル56、第二カム部材52からなる電磁アクチュエータの特性に対応した値となる。制御部100は、電磁コイル56に流される印加電流Iと電磁吸引力Feとの関係を示すマップ(以下、「印加電流設定マップ」とも記述する)を予め記憶している。摩擦面有効摩擦半径Reは、第二カム部材52とヨーク55との摩擦面の有効半径であり、第二カム部材52およびヨーク55の中心軸線を中心とする径方向の距離(半径)で表された有効径である。
制御部100は、エンジンEから伝達されてクラッチ装置50にかかるトルクの大きさからクラッチ装置50のトルク容量Tbの必要量を算出し、算出されたトルク容量Tbを実現するように、電磁コイル56の印加電流I(指令値)を設定する。
次に、クラッチ装置50にかかるトルク(エンジンEからクラッチ装置50に伝達される動力である係合部動力)の推定方法について説明する。クラッチ装置50にかかるトルクTsは、エンジンEがインプットシャフト5に付加するトルク(以下、単に「付加トルクTc」とする)と、第2遊星歯車機構21のギア比ρとに基づいて算出される。図5は、クラッチ装置50にかかるトルクTsの算出方法について説明するための図であり、第2遊星歯車機構21の共線図を示す図である。図5において、符号Sはサンギア22、符号Cはプラネタリキャリア25、符号Rはリングギア24を示す。エンジンEがインプットシャフト(C軸)5に付加する付加トルクTcと、中空シャフト(S軸)17を介してクラッチ装置50にかかるトルクTsとの関係は、第2遊星歯車機構21のギア比ρによって決まる。クラッチ装置50にかかるトルクTsは、下記[数1]により算出される。
上記式(1)と[数1]から、下記式(2)により電磁吸引力Feが算出される。
Fe = ρ × Tc/((1+ρ)×A×Re) (2)
制御部100は、式(2)により算出される電磁吸引力Feに基づいて、印加電流設定マップを参照して電磁コイル56の印加電流Iを設定する。このように、クラッチ装置50にかかるトルクの大きさに応じて印加電流Iが可変に設定されることで、完全係合状態を保持するために必要とされるトルク容量に対して実際のトルク容量が過大となることを抑制し、クラッチ装置50を完全係合状態に保持する制御における消費電力を低減することができる。
次に、図6を参照して本実施形態の動作について説明する。図6は、本実施形態の動作を示すフローチャート、図1は、本実施形態の制御が行われた場合の印加電流Iの推移を示すタイムチャートである。図1において、符号201は、クラッチ装置50にかかるトルクTsの算出値、符号202は、従来の制御で設定される保持電流、符号203は、本実施形態の制御において設定される保持電流(印加電流I)を示す。図6に示すフローチャートは、変速装置1の変速比を固定して走行する固定段走行モードへ移行すると判定された場合に、所定の間隔で繰り返し実行される。
まず、ステップS1では、制御部100により、MG1ロック係合制御が実行される。MG1ロック係合制御は、クラッチ装置50を完全係合状態とすることで、第1のモータジェネレータ6のロータ62の回転軸である中空シャフト17をロックする制御である。制御部100は、電磁コイル56に流す印加電流Iの指令値として、解放状態のクラッチ装置50を係合させるときの電流値を設定し、第二カム部材52をヨーク55に向けて駆動する。
次に、ステップS2では、制御部100により、MG1ロックの完了が確認される。制御部100は、クラッチ装置50が完全係合状態となり、中空シャフト17の回転がロックされたことを確認する。具体的には、制御部100は、レゾルバ41により検出される中空シャフト17の回転数に基づいて、中空シャフト17が回転していない(中空シャフト17の回転がロックされている)ことが検出されることにより、MG1ロックが完了したことを確認する。
次に、ステップS3では、制御部100により、電磁コイル56の印加電流Iが設定される。制御部100は、エンジンEの出力トルクである付加トルクTcをモニタリングし、式(2)から電磁吸引力Feを算出する。具体的には、制御部100は、エンジンEに供給される吸気量に基づいて、付加トルクTcを算出する。制御部100は、式(2)によって算出された電磁吸引力Feに所定の安全率αを乗じた値を電磁吸引力Feの目標値として設定する。そして、制御部100は、電磁吸引力Feの目標値(Fe×α)と、予め記憶している印加電流Iと電磁吸引力Feとの関係を示す印加電流設定マップとに基づいて、印加電流Iの指令値を設定する。駆動回路は、印加電流Iの指令値を実現するように、電磁コイル56に流す印加電流Iを制御する。
次に、ステップS4では、制御部100により、MG1ロック走行制御が実行される。制御部100は、変速装置1においてMG1ロックがなされた状態での車両の走行制御を行う。ステップS4が実行されると、本制御フローは終了される。
以上説明したように、本実施形態では、クラッチ装置50にかかるトルクTsに応じて印加電流Iが可変に設定される。図1に示すように、クラッチ装置50にかかるトルクTs(201)が減少するとき(符号201a参照)には、その減少に応じて印加電流I(203)も低下させられ(符号203a参照)、クラッチ装置50にかかるトルクTsが増加するとき(符号201b参照)には、その増加に応じて印加電流Iも上昇させられる(符号203b参照)。言い換えると、係合制御における印加電流Iの指令値は、エンジンEから第二カム部材52に伝達される係合部動力(Ts)が小さい場合は、係合部動力が大きい場合と比較して、駆動力F1が小さくなる値である。これにより、クラッチ装置50にかかるトルクTsに応じてトルク容量Tbを適切な値に制御することができる。よって、クラッチ装置50を完全係合状態に保持する制御において、クラッチ装置50の解放(すべりの発生)を抑制しつつ、印加電流Iが過大となることを抑制し、消費電力を低減することができる。
なお、本実施形態では、インプットシャフト5に動力を付加する駆動源がエンジンEである場合を例に説明したが、この駆動源はエンジンEには限定されず、公知の他の駆動源に置き換えられてもよい。
また、電力を消費して第二カム部材52およびヨーク55を駆動する駆動力を発生させる駆動手段は、電磁コイル56を用いたものには限定されず、例えば、モータや油圧を発生させる電動ポンプ等であってもよい。
(第1実施形態の第1変形例)
上記第1実施形態では、吸気量に基づいて付加トルクTcが算出されたが、これに代えて、クラッチ装置50にかかるトルクを推測できる他のパラメータに基づいて付加トルクTcが算出されてもよい。例えば、車両に対する要求パワーやエンジンEに対する要求トルク等に基づいて付加トルクTcが算出されてもよい。付加トルクTcの算出においては、将来エンジンEから出力されるトルクをより早いタイミングで推定できることが望ましい。これは、印加電流Iの指令値が変更されてから、実際に印加電流Iがその指令値に変化するまでに遅れが存在することによる。
要求駆動力が増加してエンジンEの出力トルクが増加する場合に、出力トルクの増加をより早いタイミングで印加電流Iに反映させることができれば、クラッチ装置50のトルク容量の不足が生じることを効果的に抑制することができる。車両に対する要求パワーやエンジンEに対する要求トルクに基づく付加トルクTcの算出方法によれば、吸気量に基づく付加トルクTcの算出方法と比較して、より早い段階で付加トルクTcを推測することができる。本変形例の方法によれば、要求パワーや要求トルクが変化し、走行状態が変わるのと同時に印加電流Iを変化させることができる。したがって、エンジントルクが増減するよりも早く保持電流値を増減させることができ、保持電流値の更なる低減が可能となる。また、急加速等で安全率(クラッチ装置50で必要とされるトルク容量に対する実際のトルク容量の安全率)が低くなることが予想される場合であっても適切に対応してトルク容量を確保することができる。その結果、安全率α(印加電流Iのマージン)が小さな値に設定されることができ、消費電力が低減されることができる。
なお、車両に対する要求パワーやエンジンEに対する要求トルクのように、付加トルクTcを推測できる値に対して、付加トルクTcや必要な電磁吸引力Feをマップ化して制御部100に予め記憶しておき、このマップを参照して必要な電磁吸引力Feを算出するようにしてもよい。あるいは、車両に対する要求パワーやエンジンEに対する要求トルクに対して、印加電流Iをマップ化しておき、要求パワーや要求トルクから直接印加電流Iの指令値を算出するようにしてもよい。
また、アクセル開度に基づいて付加トルクTcが算出されてもよい。要求駆動力は、一般に、アクセル開度に基づいて算出される。このため、アクセル開度に基づいて付加トルクTcが算出される場合、要求駆動力に基づいて付加トルクTcが算出される場合と比較して、出力トルクの増加をより早いタイミングで印加電流Iに反映させることができる。この場合も、アクセル開度に対して、付加トルクTcや必要な電磁吸引力Fe、あるいは印加電流Iをマップ化して制御部100に予め記憶しておくことができる。
また、走行環境に基づいて、要求駆動力の増加が予測される場合に、予め印加電流Iを増加させる制御が行われてもよい。走行環境としては、コーナ、先行車両、交差点、一時停止、料金所、信号機、見通し、道路勾配(斜度)、路面μ等の走行環境パラメータが含まれる。検出された走行環境に基づいて、要求駆動力が増加すると予測される場合に、実際に要求駆動力が増加する前に印加電流Iを増加させておくようにすれば、要求駆動力の急な増加が生じた場合であっても、遅れを生じさせることなく印加電流Iを増加させることができる。
(第1実施形態の第2変形例)
上記第1実施形態および上記第1実施形態の第1変形例では、吸気量等のパラメータの値そのものに基づいて付加トルクTcおよび印加電流Iが算出されたが、これに加えて、パラメータの変化の度合いに基づいて付加トルクTcおよび印加電流Iが算出されてもよい。
例えば、エンジンEに供給される吸気量そのものに基づいて算出される印加電流Iに対して、吸気量の増加の度合いに基づく補正がなされることができる。この場合、吸気量の増加の度合いが大きいほど、印加電流Iを大きな値とする補正がなされる。吸気量の増加の度合いが大きい場合には、これに対応して印加電流Iに対する要求値の増加の度合いも大きなものとなる。また、吸気量の増加の度合いが大きい場合には、その後にさらに要求駆動力が増加して、印加電流Iもさらに大きな値に設定されることが予測される。このような場合に、印加電流Iの指令値を予め大きな値に設定しておくことで、ブレーキトルク容量の不足が生じることを抑制することができる。
(第2実施形態)
図7を参照して第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
本実施形態の制御が、上記第1実施形態の制御と異なる点は、印加電流設定マップが更新される点である。クラッチ装置50を完全係合状態として走行するMG1ロック走行時に、第1のモータジェネレータ6のロータ62の回転が検出された(クラッチ装置50においてすべりが発生した)場合には、何らかの理由でクラッチ装置50のブレーキトルク容量が不足していると判定され、印加電流設定マップが更新される。ブレーキトルク容量が不足する原因としては、何らかの理由により電磁コイル56で発生させる磁界による吸引力が弱まっていることや、ハードの経年劣化で増幅比Aが減少していることが考えられる。
クラッチ装置50において、レゾルバ41によりロータ62の回転が検出された、すなわち、第二カム部材52とヨーク55との間の差回転(回転差)が検出された場合には、印加電流設定マップにおいて、印加電流Iの大きさが、更新前の値よりも大きな値に書き換えられる。これにより、クラッチ装置50のブレーキトルク容量が不足することが抑制される。
図7は、本実施形態の動作を示すフローチャートである。このフローチャートは、変速装置1の変速比を固定して走行する固定段走行モードへ移行すると判定され、かつ、クラッチ装置50の係合が完了してMG1ロック走行がなされている場合に、実行される。
まず、ステップS11では、制御部100によりMG1ロック走行制御がなされる。このMG1ロック走行制御は、上記第1実施形態のMG1ロック走行制御(図6のステップS4)と同様であることができる。
次に、ステップS12では、制御部100によりMG1部に差回転が生じているか否かが判定される。制御部100は、レゾルバ41により検出される第1モータジェネレータ6のロータ62の回転数が所定の閾値以上である場合に、ステップS12において肯定判定する。上記所定の閾値は、例えば、レゾルバ41の検出精度等に基づいて設定されるものであり、クラッチ装置50において差回転が生じている(クラッチ装置50が完全係合していない)と判定できる値に設定されている。ステップS12の判定の結果、MG1部で差回転が生じていると判定された場合(ステップS12−Y)にはステップS13に進み、そうでない場合(ステップS12−N)には本制御フローは終了される。
ステップS13では、制御部100により保持電流としての印加電流Iが増加される。制御部100は、新たに設定された印加電流Iで印加電流設定マップを書き換える。つまり、差回転が生じたときのクラッチ装置50にかかるトルクTsに対応する印加電流Iの値が、ステップS13が実行される前に記憶されていた値から、ステップS13で新たに設定された値に変更され、印加電流設定マップに記憶される。ステップS13が実行されると、ステップS12の判定に戻る。
本制御フローでは、MG1部に差回転が生じていると判定されている間(ステップS12−Y)は印加電流Iが増加されて印加電流設定マップが書き換えられ(ステップS13)、MG1部に差回転が生じていないと判定された場合(ステップS12−N)に制御フローが終了する。これにより、十分なブレーキトルク容量を確保できる大きさの印加電流Iで印加電流設定マップを更新することができる。なお、ステップS13で印加電流Iを増加させるときの増加量は、例えば、予め定められた一定値でもよく、可変に設定されてもよい。増加量が可変に設定される場合、増加量は、例えば、レゾルバ41で検出された差回転の大きさに応じて設定されることができる。このように印加電流Iの増加量が可変に設定される場合、十分なブレーキトルク容量を実現できる値に印加電流Iを速やかに収束させることが可能となる。
なお、印加電流設定マップは、クラッチ装置50に係るトルクTsの大きさや走行状態等に基づいて設定される電磁吸引力Feと、印加電流Iとの関係を示すマップである。このため、印加電流設定マップが更新されることで、実質的に、エンジンEからクラッチ装置50に伝達される動力(係合部動力)の大きさと印加電流I(指令値)との関係、または車両の走行状態と印加電流I(指令値)との関係を示すマップが更新されることとなる。印加電流設定マップに代えて要求パワーや要求トルクと印加電流Iとの関係を示すマップを有する際には、そのマップが更新されてもよい。