JP5301116B2 - 多段噴射機構を有するディーゼルエンジン用燃料添加剤及び燃料組成物 - Google Patents

多段噴射機構を有するディーゼルエンジン用燃料添加剤及び燃料組成物 Download PDF

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Description

本発明は、燃費の向上のための、多段噴射機構を有するディーゼルエンジン用燃料添加剤および燃料組成物に関する。
近年、ディーゼルエンジンの進歩は著しく、従来のディーゼル車のイメージであった「汚い・うるさい・遅い」といったものを、全く感じさせない性能を有し、本来の高効率=低燃費の特性が見直され各国で普及率が増加してきている。これには主に、低回転から効率よく過給できるターボチャージャーおよび、コモンレール式ディーゼルエンジンのように非常に高圧で燃料を噴射可能であり、圧縮燃焼行程中に数回に分けて燃料を噴射することができる多段噴射機構に負うところが大きい。
ディーゼルエンジンの多段噴射機構は、インジェクターを精密に制御して燃料を噴射することができるため、従来のディーゼルエンジンではなしえなかった、噴射圧力や噴射のタイミングの自由な設定が可能であり、より理想的な燃焼を実現できる。
噴射圧力の制御に関しては、燃料を非常に高圧に蓄えて噴射することができるため、燃料は均質で細かな粒子状に拡散し、酸素とより結合し易い、即ちより燃えやすい形状とすることができる。
また、噴射のタイミングを自由に制御することにより、従来では不可能であった1燃焼サイクル中に複数回の噴射が可能となる。現在は1燃焼サイクル中に5〜6回の噴射を行なう多段噴射機構が実用化されており、一般的に各噴射は、最も燃料の噴射量が多いメイン噴射、メイン噴射より前に行なうパイロット噴射、パイロット噴射後かつメイン噴射直前に行なうプレ噴射、メイン噴射の直後に行なうアフター噴射、1サイクルの最後に行なうポスト噴射と呼ばれている。そして、メイン噴射以外の複数回の燃料噴射にはそれぞれに効果がある。
まず、パイロット噴射、プレ噴射はメイン噴射に先駆けて少量の燃料を噴射するもので、大気汚染物質であるPM(粒子状物質)の低減と騒音の抑制に効果がある。これはパイロット噴射、プレ噴射による燃焼によりシリンダー内のガス温度を上昇させてメイン噴射燃料の着火遅れを短縮することで、メイン燃焼初期の急激な予混合燃焼を回避できるからである。
アフター噴射は、メイン噴射のみの場合と比較してPMの抑制に効果がある。これはメイン噴射によりPMが発生したところへ微量の燃料を噴射し、再び拡散燃焼を発生させ、残ったPMを完全に燃焼させることによる。
さらにメイン噴射から大きく離れたポスト噴射は、排気ガスの温度を上昇させたり排気中の炭化水素(HC)を増加させたりすることが可能で、酸化触媒・脱NOx触媒やDPF(Diesel Particulate Filter)などの後処理装置の制御に利用される。
以上のように、多段噴射機構によって燃料を高圧に蓄圧し、メイン噴射及びその前後に数回に分けて燃料を噴射することで、ディーゼルエンジン特有の燃焼音(ディーゼルノック)の減少、PM・NOx・HC等の有害排気ガスの低減が達成されている。
また、ディーゼルエンジンにおける多段噴射機構以外の環境対策としては、排気ガスの一部を再び吸気に還流する排気ガス再循環(EGR)が多く行なわれている。EGRによれば吸気中の酸素濃度が低下するため燃焼温度の上昇を抑え、排気中のNOxを低減することが可能となる。但し、EGRを行う場合にはディーゼルの利点を損なわないよう、充填効率と吸気温度を下げる為に、排気ガス温度を下げる冷却機構を備えているが、排気ガス中に含まれるNOxやSOxなどを含む酸性水分が結露してEGR本体にさびが発生するという問題が生じているため、耐酸材料の開発も必要とされている。
また、ディーゼルエンジン用の燃料自体の改質によりディーゼルエンジンの利点である効率の高さを維持しつつ、排気ガスをクリーンにすることも考えられており、例えば、低硫黄軽油を主体とするバイオ燃料が添加された燃料も使われている。また、現在CO2発生量がニュートラルなバイオ燃料(100%)やジメチルエーテル(DME)、硫黄分を全く含まない天然ガスから作られるGTL(Gas To Liquid)等の研究が行なわれている。
このように、ディーゼルエンジンにおける環境への負荷を軽減するための研究開発は様々行なわれており、上記の技術は組み合わせて利用されることもある。
しかしながら、多段噴射機構を有するディーゼルエンジンにおいては、燃料を複数回に分けて噴射することにより新たな課題が生じている。
従来のディーゼルエンジンの場合には、1燃焼サイクル中に1回の燃料噴射が行なわれて燃焼が起こるため、噴射された燃料は全て燃焼に寄与することになる。一方、多段噴射機構を有するディーゼルエンジンの場合、シリンダー内に直接燃料を噴射するための直噴用ノズルは、噴射角を自由に変更する事が出来ず広範囲に燃料を拡散させる構造を有しているため、メイン噴射の前に行なわれるパイロット噴射によって噴射された燃料の一部はシリンダー壁面に到達し、付着してしまう。これは、パイロット噴射時はピストンがシリンダーの上死点付近に無く、噴射された燃料がすぐに燃焼しないためである。このシリンダー壁面に付着した燃料は、燃焼しない為燃費が悪化してしまうという問題がある。さらに、シリンダー壁に付着した燃料はシリンダー壁面に付着しているエンジンオイルを希釈し潤滑性を損なうため、ピストンとシリンダーとの摩擦抵抗が上昇して燃焼効率が低下したり、ピストンリングやシリンダー壁が潤滑性不足によって摩耗したりするおそれがある。
この問題を解決する為に、パイロット噴射時の燃料噴射量をコントロールし、或いはパイロット噴射自体を数回に分けて一回の噴射量を更に少量にするなどの技術が提案されているが、燃料の噴霧状態は、ターボチャージャーによる過給圧の変化に伴うシリンダー内の空気密度の変動や、夏季冬季における燃料の成分調整によって、または気温の変動などによっても変化する。さらに、燃料として上述したバイオ燃料を添加した燃料を用いた場合にはその変化はさらに大きくなる。従って、常に噴霧状態を最適な状態に保つようにコントロールする事は困難であり、燃料噴射の制御変更だけでは、燃料がシリンダー壁に付着する等の燃料の無駄を削減する事が出来ない。また、パイロット噴射だけでなく、メイン噴射の後に行なわれるポスト噴射により噴射された燃料も、同様にシリンダー壁のエンジンオイルを希釈する問題が生じている。
また、経年の使用により燃料噴射ノズルに詰まりが生じると、燃焼効率低下の要因となるため、ノズルの詰まりを取り除く清浄剤を定期的に燃料に添加する必要がある。しかし、多段噴射機構を有するディーゼルエンジンにおいては、パイロット噴射により清浄剤を含んだ燃料がシリンダー壁面に付着して表面の潤滑油を洗い流してしまうため、シリンダー壁面の油膜が薄くなりピストンリングとシリンダー壁の摩耗が発生してしまう。そのため、潤滑油を洗い流さない範囲で清浄剤を使用せねばならず、使用できる量や濃度が限られてしまい、噴射ノズルの詰りやデポジットの除去効果が十分に得られないといった問題も生じる。
このように、従来のディーゼルエンジンでは、燃料の全てが燃焼に寄与するため、燃料がシリンダー壁面に付着した場合を考慮する必要が無かったのに対し、多段噴射機構を有するディーゼルエンジンの場合には、シリンダー壁面に付着した燃料が潤滑油膜を希釈してしまうという新たな問題が生じることになる。従って、潤滑油が希釈されたことによるフリクション上昇や磨耗を防ぐためには継続的に潤滑作用のある添加剤を加え、燃費の改善を行なうことが望ましい。
そこで、本願発明は、高圧燃料噴射機構を備えた多段噴射機構を有するディーゼルエンジンにおいて、燃焼を安定させて燃費を改善するとともに、燃料の種類や周囲の温度によって変化する燃料の性状(動粘度・比重・空気密度)にかかわらず、パイロット噴射された燃料が潤滑油を希釈することによるフリクションや磨耗の増加を防止し、摩擦による燃費の悪化を改善(燃費向上)させることが可能なディーゼルエンジン用燃料組成物(添加剤)を提供することを目的とする。また、燃焼で生成されるNOxが原因である、EGR装置のさびの発生を防止するディーゼルエンジン用燃料添加剤を提供することを目的とする。また、ノズルの詰まりを取り除く清浄剤を使用することにより、シリンダー壁の潤滑油の一部が洗い流されてシリンダー壁面とピストンとの潤滑性が低下してしまっても、燃料と共に噴射された燃料組成物(添加剤)がシリンダー壁面に付着することで潤滑を維持し摩擦を防ぐ効果を有するディーゼルエンジン用燃料組成物(添加剤)を提供することを目的とする。
本願発明の高圧燃料噴射機構を備えた多段噴射機構を有するディーゼルエンジン用燃料添加剤は、直鎖脂肪酸と脂肪アミンとを含む第1の混合物、および、直鎖脂肪酸と、該直鎖脂肪酸と脂肪アミンとの塩を含む第2の混合物、のいずれかからなり、前記第1および第2の混合物においては、前記直鎖脂肪酸と前記脂肪アミンの重量比をX、Y(但し、X+Y=1)、前記直鎖脂肪酸の中和価をA、前記脂肪アミンのアミン価をBとした場合に、250>X×A−Y×B>75なる条件を満たすように混合されていることを特徴とする。
本願発明によれば、燃焼を安定させる成分および潤滑作用を有する成分を含む本燃料組成物(添加剤)を多段噴射機構を有するディーゼルエンジンに用いる燃料(ディーゼルエンジン用ベース燃料)に対して添加することで、燃焼を安定させて燃費の改善を行うとともに、メイン噴射の前に行われるパイロット噴射により拡散した本燃料組成物(添加剤)がシリンダー壁に付着することにより、パイロット噴射により噴射されてシリンダー壁面に付着した燃料が潤滑油を希釈することによる潤滑性の低下を補うことができ、シリンダーとピストンとの摩擦、摩耗を防いで燃費の低下を防ぐことができる。
また、直鎖脂肪酸のみの潤滑成分ではさびの発生を抑えることはできないが、本発明に係る条件を満たして調製される、直鎖脂肪酸と脂肪アミンとからなる燃料組成物によれば、エンジン内部やエンジン直後のEGR装置のさびの発生を防止できると共に本燃料組成物(添加剤)に含まれる成分により燃焼を安定させるため、潤滑油成分のみによる弊害を防ぎつつ更に燃費の改善効果が得られる。
本発明に係る実施形態は、多段噴射機構を有するディーゼルエンジン用のベース燃料(軽油等)に添加する燃料組成物であって、燃焼を安定させる効果により、多段噴射機構を有するディーゼルエンジンの燃費を改善するとともに、本燃料組成物がパイロット噴射によって噴射されてシリンダー壁面に付着することにより、シリンダーとピストンリングとの摩擦増加を防ぐ効果が得られ、燃費の悪化を防ぐことを可能とするものである。
以下、本実施形態を説明する。本実施形態に係る燃料組成物は、直鎖脂肪酸(一般式:R−COOH)と脂肪アミン(一般式:R−NH(一級アミン)またはR−NH−R4(二級アミン)またはR−NH−R−NH(ジアミン))からなる混合物である(Rは炭化水素基を示し、構成する炭化水素基を一つに定めるものではない)。また、この混合物は上記直鎖脂肪酸および脂肪アミンを反応物とする塩を混合したものでもよい。
そして、本実施形態の燃料組成物および添加剤は、直鎖脂肪酸の中和価をA、脂肪アミンのアミン価をB、各々の重量混合比をそれぞれX、Y(但し、X+Y=1)とした場合に、
250>X×A−Y×B>75 (i)
なる条件を満たすように混合する必要があり、好ましくは、
210>X×A−Y×B>100 (ii)、
なる条件を満たすように混合する。
上記の(i)式の条件のうち、上限の250を超えるような混合比で直鎖脂肪酸と脂肪アミンを混合した場合には、本燃料組成物(添加剤)は潤滑性が得られなくなるという問題が生じる。また、下限の75を下回ると、抗乳化性能が悪化する。乳化した燃料組成物はフィルターなどの目詰まりの原因となるため、好ましくない。そして、(ii)式の条件を満たして調製することにより、より潤滑性や抗乳化性能に優れた燃料組成物が得られる。
また、直鎖脂肪酸および脂肪アミンの別の混合条件は、直鎖脂肪酸の炭化水素基の炭素数をC1、脂肪アミンの炭素数をC2とすると、その炭素数の比(C1/C2)が1〜3となるように混合し、より好ましくはC1/C2が2以上になるようにする。炭素数比が1に満たない場合には抗乳化性能が低下してしまい、潤滑油としての性能が十分でない。
ここで、直鎖脂肪酸の炭化水素基Rの炭素数C1は、鎖式(脂肪)部分が単一の場合、即ち直鎖脂肪酸が単一分子で構成される場合には、C1=R(直鎖脂肪酸の全体の炭素数−1)とし、異なる分子により構成される混合物の場合には、各直鎖脂肪酸のRの加重平均値とする。脂肪アミンの炭素数C2は、一級アミンにおいては、単一分子で構成されている場合にはその分子の炭素数とし、混合物の場合には、各々の一級アミン分子の炭素数(と混合比)の加重平均とする。二級アミンにおいては、単一分子の場合には、C2=(R+R)÷2とし、混合物の場合には、分子毎のC2の値の加重平均値をC2とする。ジアミンにおいては、単一分子の場合にはR=3のプロピレンジアミンを使用するものとし、Rにより化合物が決定されるため、C2=Rとし、混合物の場合は、分子毎のRの炭素数の加重平均値とする。なお、上記R〜Rは各炭化水素基を示すとともに、含まれる炭素数についても表すものとする。
また、直鎖脂肪酸と脂肪アミンの塩を含む場合には、各々が塩でない状態における炭素数、即ち元の直鎖脂肪酸および脂肪アミンであった場合における炭素数を適用する。
なお、直鎖脂肪酸には炭素数が4から50であるものを用い、より好ましくは、炭素数が10から20の直鎖脂肪酸であり、さらにより好ましくは炭素数が16から20の直鎖脂肪酸を用いる。
上記の(i)、(ii)式および炭素数比の条件を満たしたうえで、直鎖脂肪酸が90重量%以上、脂肪アミンが10重量%以下の混合比となるように混合するのがより好ましい。
以上の条件を満たす直鎖脂肪酸として好ましいものは、C18(R1=17)のオレイン酸を主体とし、残部にリノール酸及び炭素数が18のその他の直鎖脂肪酸(以下C18直鎖脂肪酸とする。)を含有する混合物が挙げられる。この混合物の組成は、オレイン酸が直鎖脂肪酸全体の85%以上、リノール酸やその他のC18直鎖脂肪酸は全体の8.5%以下とするのが好ましい。これは、リノール酸がオレイン酸の量を上回ると熱安定性(酸化安定性)が低下するためであり、リノール酸の混合比率がオレイン酸の10%以下になるように混合するか、その様な混合比の混合物を使用するのが好ましい。熱安定性が低いとスラッジが発生しやすかったり、インジェクターのつまりの原因となるデポジットが発生しやすかったりする問題が生じる。
脂肪アミンとして好ましいものは、炭素数が8以上12以下の一級アミンが好ましい。炭素数が12を超える一級アミンは防錆性能の面で優れている反面、抗乳化性能(水分離性能)が悪化してしまう欠点を有するため好ましくない。また、炭素数が8に満たない場合は燃料配管などのゴムシール材を劣化させるために好ましくない。また、この脂肪アミンの炭化水素基は、直鎖状の飽和炭化水素基であることが好ましい。
脂肪アミンとして用いることができる具体例としては、n−デシルアミン、オクチルアミン、オレイルアミン、ラウリルアミンなどが挙げられるが、上記の抗乳化性能の点からは、より好ましくはn−デシルアミンまたはオクチルアミンを用いる。
以上のような条件により生成される本実施形態のディーゼルエンジン用燃料組成物は、燃料に後から添加剤として加えてもよいし、予めベース燃料に混合してディーゼルエンジン用燃料として用いてもよい。
また、本燃料組成物および添加剤のディーゼルエンジン用ベース燃料に対する添加率は、ディーゼルエンジン用燃料に対して濃度が50〜300 ppm (w/w)となるように添加し、より好ましくは、100ppm〜300ppm (w/w)となるように添加する。ディーゼルエンジン用燃料に対する添加率が50ppmを下回る場合には、燃焼安定の効果がほとんど得られず、また、ディーゼルエンジンのシリンダーとピストンリングとの摩擦低減及び摩耗防止効果も低下してしまう。また、300ppmより添加率が多いと熱安定性が低下する問題が生じる。
また、本発明のディーゼルエンジン燃料組成物および燃料添加剤は、セタン価向上剤、酸化防止剤、金属不活性剤、防錆剤、消泡剤、防乳化剤、水分離剤、清浄剤、流動点降下剤等を必要量添加したものでもよい。
上述の実施形態に示した条件に沿って、ディーゼルエンジン用燃料組成物(添加剤)を実際に生成して、性能評価のため試験を行なった結果を説明する。なお、本発明は以下の実施例には限定されない。
実施例のディーゼルエンジン用燃料組成物(添加剤)および比較例は以下の表1に示す条件で生成した。
Figure 0005301116

上記の実施例A〜Gの組成は、直鎖脂肪酸が90重量%以上、脂肪アミンが10重量%以下となるように調製した。また、実施例Eは直鎖脂肪酸と、直鎖脂肪酸と脂肪アミンとの塩からなる混合物としての実施例であり、直鎖脂肪酸にはオレイン酸、直鎖脂肪酸と脂肪アミンとの塩にはオレイン酸カプリルアミンソルトを使用して調製したものである。実施例Fは、(i)式の範囲内であるが(ii)式の上限値を超えた条件で調製した燃料組成物であり、実施例Gは、(i)式の範囲内であるが(ii)式の下限値に満たない条件で調製した燃料組成物である。
また、比較例1はディーゼルエンジン用ベース燃料のみ、比較例2は直鎖脂肪酸単独である。また、(i)式に示した中和価とアミン価とにより求められる混合条件の範囲(250〜75)を外れている場合の例として、比較例3および4について試験を行なった。
次に、上記実施例および比較例について行なった試験について説明する。
まず、(1)燃費測定試験、(2)潤滑性能評価試験、(3)水分離性能試験、(4)さび止め性能試験では、各実施例の燃料組成物をディーゼルエンジン用ベース燃料に対して添加して調製した、(燃料組成物を含有している)燃料を試料として用いた。各実施例の燃料組成物(添加剤)の燃料に対する添加率は、実施例Cについてはディーゼルエンジン用ベース燃料に対して200ppm(w/w)の割合で添加し、その他は特に示さない限り燃料に対して150ppm(w/w)の割合で添加して調製した。また、(5)熱安定性試験については各実施例の燃料組成物自体について試験を行なった。また、比較例についても同様の試験を行い、実施例と同様に燃料に対して150ppm(w/w)添加して調製した試料について試験を行なった。
(1)燃費測定試験
燃費測定は、二種類の測定方法で行なった。一つ目は、実施例A〜Gと比較例1〜4について、上述のようにそれぞれベース燃料に添加して調製した試料を、排気量2.0L、ターボチャージャー付きの多段噴射機構を有するコモンレール式ディーゼルエンジン車に給油して、実施例Aと比較例1は、シャーシーダイナモを用いて10・15モードで走行させて燃費を測定し、その他の実施例および比較例は平坦なコースにて10・15モードで走行させて燃費を測定した。
二つ目は、一つ目と同様に実施例A〜Gと比較例1〜4を含む各試料を、上記と同じディーゼルエンジン車に給油して、同じく平坦なコースにて、勾配8度において車両に掛かる負荷と同じ負荷をかけ、96 km/hの一定速度で走行させた場合の燃費測定を行なった。
(2)潤滑性能評価試験
潤滑性能評価は、FALEX試験機を用いて摩擦係数を測定して行った。摩擦係数測定は、試料のうち実施例A、D、Eおよび比較例2〜4を燃料に添加して調製したものと比較例1をそれぞれエンジンオイルに10%ずつ加えて調製した試料について行なった。
(3)水分離性能試験
水分離性能は、JIS−K−2520に規格された抗乳化性試験方法で評価した。試験方法は、試料40mlおよび水40mlを試験管にとり、規定の試験温度に保ち、規定周期・規定ストロークで規定時間上下に振って乳化させる。そして、生じた乳化液が水層と油層とに分離する時間(秒)および分離状態を測定し、分離に要する時間(秒)、油層、水層、乳化層の各層の体積(ml)、および油層・水槽の濁り具合により評価した。
(4)さび止め性能試験
さび止め性能は、JIS−K−2510に規格される潤滑油のさび止め性能試験方法(ただし、試験温度60℃を35℃に変更した。ディーゼルエンジン用ベース燃料である軽油が気化しやすいためである。)により評価した。試験方法は、各試料300mlと純水30mlとの混液中に鋼性丸棒の試験片を浸し、35℃の混液中で試験片を毎分1000rpmで回転させながら規定時間浸漬し、試験片に現れるさびの有無を調べた。
(5)熱安定性試験
熱安定性試験は、250℃に加熱したアルミ鋼鈑上に各実施例の燃料組成物自体を直接滴下し、アルミ板にステインが生じるか否かで評価した。酸素を含む高温時においてステインの発生の有無を調べることにより、インジェクターの詰りの原因となりうるデポジットが生成されるか否かを判断するための試験である。
(6)実車走行における平均燃費
(1)に示した燃費測定とは別に、重量12t、排気量9.83Lのターボ付きコモンレール式ディーゼルエンジン車a、bの2台について、ベース燃料と本実施例Aをベース燃料に添加した燃料を給油して、一般道を走行した場合における平均燃費を測定した。
以下、上記(1)から(6)の各試験結果を示す。各試料は特に示さない限り、燃料に対して各実施例(Cを除く)の添加剤を150ppm添加したディーゼルエンジン用燃料である。
(1)燃費測定試験結果
燃費測定試験結果について、10・15モードにおける燃費測定結果と、一定速度・一定負荷の燃費測定結果を表2に示す。
Figure 0005301116

(2)潤滑性試験結果
FALEX試験機による試験の結果を表3に示す。
Figure 0005301116

(3)水分離試験性能試験結果
水分離性能評価として抗乳化性能試験結果を表4に示す。なお、体積の欄は、試料と水との攪拌後の油層、水層、乳化層の各層の体積を順番に示している。
Figure 0005301116

(4)さび止め性能試験結果
さび止め性能試験結果について、表5に示す。
Figure 0005301116

(5)熱安定性試験結果
熱安定性試験の結果を表6に示す。ステインが全く生じなく変化がなかったものを◎、僅かにステインの色が残るものを○、ステインの色が薄くても輪郭がわかるものを△、ステインの色が褐色なものを×とした。
Figure 0005301116

(6)実車走行における平均燃費測定
車両a、bの2台の実車走行の平均燃費を表7に示す。それぞれ、比較例1の通常の燃料を使用して走行した結果得られた平均燃費と、実施例Aを添加した燃料を使用して、表中に示す距離を走行した結果得られた平均燃費である。
Figure 0005301116

次に試験結果について説明する。
まず、10・15モードおよび一定速度・一定負荷の2種類の燃費測定結果より、実施例A、B、D、Eについては燃料のみの比較例1に比較して燃費が向上したことがわかった。また、実施例Cは燃費の向上が少なかったが、これは脂肪アミンの種類によっては燃費改善効果が少ないものもあるためだと考えられ、炭素数比C1/C2の条件を満たしているほうが燃費向上効果については好ましいと言える。また、(ii)式の条件を満たしていない実施例FおよびGは他の実施例と比較して燃料のみの比較例1からの燃費の向上が少なかった。
また、実車における平均燃費の結果からも、通常の燃料で走行した場合に比べ、本実施例Aを燃料に添加して走行した場合のほうが、燃費が向上していることがわかる。
また、潤滑性試験結果より、潤滑性/耐摩耗性は、測定を行なった実施例A、DおよびEに関しては、燃料のみの比較例1と比較して潤滑性が向上した。また、(i)式の上限値を超える条件で混合された比較例4は、潤滑性が低い。
以上より、本発明に係る条件を満たすように直鎖脂肪酸と脂肪アミンを混合して得られる燃料組成物を用いることで、多段噴射機構を有するディーゼルエンジンの燃費を向上させることができ、さらに潤滑性も燃料のみの比較例1に比べて高いことから、シリンダー壁に付着した本燃料組成物により、潤滑剤の希釈を補って摩擦抵抗の上昇を抑える効果が得られると言える。
水分離・抗乳化性能試験結果より、A、D、Eが良好であった。一方、炭素数が12以上である実施例B、C、F、Gについては抗乳化性能が若干低かった。
さび止め性能試験結果より、ディーゼルエンジン用燃料のみの比較例1、脂肪アミンを加えない直鎖脂肪酸のみの比較例2および比較例4にはさびが生じたが、脂肪アミンを含む実施例A〜Gに関してさびは全く発生しなかった。従って、本実施例の燃料組成物は防錆効果を有し、ポスト噴射で噴射された燃料中に含まれる本燃料組成物が、エンジン内部やエンジン直後に備わるEGRクーラーのさびの発生を抑制する効果が得られると言える。
熱安定性試験結果より、脂肪酸のバランスが異なるAとDでは、Aが良好であり、オレイン酸とリノール酸の混合率は実施例Aのほうがより好ましいといえる。
また、比較例については、(i)式の下限値を下回っており本発明に係る条件を満たしていない比較例3は、抗乳化性能試験において完全に乳化してしまうという結果になった。また、燃費の改善も低い。比較例4は、(i)式の上限値を超えており本発明に係る条件を満たしておらず、燃費の改善が低かった。さらに、さびの発生を防ぐことができないという問題もある。
以上の結果より、本発明に係る条件を満たすように直鎖脂肪酸および脂肪アミンを混合して得られる燃料組成物を用いることで、多段噴射機構を有するディーゼルエンジン車であっても、燃料による潤滑剤の希釈を防いで摩擦上昇を抑えると共に、燃焼を安定させて燃費を向上させることが可能であると言える。また、燃料のみまたは直鎖脂肪酸単独では防ぐことができないさびの発生も抑制することが可能となる。

Claims (4)

  1. 高圧燃料噴射機構を備えた多段噴射機構を有するディーゼルエンジン用燃料に用いる添加剤であって、
    前記添加剤は、
    直鎖脂肪酸と脂肪アミンとを含む第1の混合物、
    および直鎖脂肪酸と、該直鎖脂肪酸と脂肪アミンとの塩を含む第2の混合物、のいずれかからなり、前記第1の混合物と前記第2の混合物において、前記直鎖脂肪酸はオレイン酸、または、リノール酸の含有量がオレイン酸の10%以下であるオレイン酸とリノール酸とを含む混合物であり、前記脂肪アミンはオクチルアミンであり、前記直鎖脂肪酸が90重量%以上、前記脂肪アミンが10重量%以下の混合比で混合され、
    前記第1および第2の混合物は、
    前記直鎖脂肪酸と前記脂肪アミンの重量比をX、Y(但し、X+Y=1)、前記直鎖脂肪酸の中和価をA、前記脂肪アミンのアミン価をBとした場合に、
    250>X×A−Y×B>75
    なる条件を満たすことを特徴とする多段噴射機構を有するディーゼルエンジン用燃料添加剤。
  2. 前記第1および第2の混合物において、
    前記直鎖脂肪酸は、一般式R−COOH(Rは炭化水素基を示し、構成する炭化水素基を一つに定めるものではない)で表され、
    前記直鎖脂肪酸の炭化水素基Rの炭素数をC1、前記脂肪アミンであるオクチルアミンの炭素数をC2とすると、
    1<C1/C2<3
    なる条件をみたすことを特徴とする請求項1に記載の多段噴射機構を有するディーゼルエンジン用燃料添加剤。
    但し、前記直鎖脂肪酸の炭素数はC1=Rとし、前記直鎖脂肪酸が、異なる分子の混合物である場合の炭素数C1は、分子毎の炭素数Rの加重平均とする。ここで、Rは各炭化水素基に含まれる炭素数を表すものとする。
  3. 前記第1の混合物および前記第2の混合物は、前記直鎖脂肪酸と前記オクチルアミンの重量比をX、Y(但し、X+Y=1)、前記直鎖脂肪酸の中和価をA、前記オクチルアミンのアミン価をBとした場合に、
    210>X×A−Y×B>100
    なる条件を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の多段噴射機構を有するディーゼルエンジン用燃料添加剤。
  4. 請求項1から3のいずれかに記載の多段噴射機構を有するディーゼルエンジン用燃料添加剤を、ディーゼルエンジン用燃料に対して50ppm〜300ppm添加したことを特徴とするディーゼルエンジン用燃料組成物。
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