以下に本発明を実施するための好ましい種々の形態を説明する。
(1)本発明の実施形態に係る有機性排水処理装置は、有機性排水からなる原水を嫌気処理する嫌気性微生物が高濃度に集積した嫌気性汚泥床部を有する嫌気リアクタ3と、前記嫌気リアクタの後段に設けられ、前記嫌気リアクタで嫌気処理された嫌気処理水を好気処理する好気性微生物を担持するための好気性微生物担体部を有し、かつ前記嫌気処理水を前記好気性微生物担体部42に上方から散水する散水機構を有する好気リアクタ4と、前記好気リアクタから流出する処理水を一時的に貯留しておくための処理水槽6と、前記好気リアクタから前記処理水槽に前記処理水を送るための送水ラインL6と、原水を前記嫌気リアクタを経由することなく前記好気リアクタに直接供給するように前記好気リアクタに接続されたバイパスラインL3と、前記処理水槽内の水を前記好気リアクタに戻す処理水循環ポンプP2を備えた第1のリターンラインL10と、前記好気リアクタから前記処理水槽までの間に設けられ、前記好気リアクタから流出する処理水の硝化反応の進行状況を示す水質パラメータとして前記処理水のpHを測定するpHセンサ11,12と、前記処理水の硝化反応の進行を判定する基準として前記処理水のpHを6.3以下に設定する手段13と、前記pHセンサで測定したpHが6.3以下になったときに、原水の一部又は全量を前記嫌気リアクタを経由することなく前記バイパスラインを通って前記好気リアクタに直接供給させるとともに、前記処理水循環ポンプP2を駆動させて前記第1のリターンラインを介して前記処理水槽から前記好気リアクタに処理水を還流させる制御手段10と、を有する。
本実施形態によれば、原水の一部または全量を嫌気リアクタを経由することなくバイパスラインを通って好気リアクタに直接供給している。これにより好気リアクタにかかる有機物負荷を高め、硝化反応の進行を抑制し、処理水のpHの低下を防ぐことができる。
本実施形態では、設定手段は水質パラメータの閾値として処理水のpHを6.3以下に設定し、pHセンサは好気リアクタから流出する処理水のpHを測定する。そして、制御手段は、処理水の測定pHが6.3以下になったときに処理水循環ポンプを駆動させ、第1のリターンラインL10を介して処理水槽から好気リアクタの上段部に処理水を循環させる。なお、閾値をpH6.3より少し低い値に設定することができる。例えば閾値としてpH6.0以下に設定するようにしてもよいし、さらにpH5.8以下に設定するようにしてもよい。
本実施形態によれば、制御手段が行う上記の操作により、好気リアクタ内で生成した硝酸性窒素を好気リアクタの上段部に循環させ、好気リアクタ内で部分的に無酸素状態となっている部分、すなわち担体4aには好気性微生物が集積した生物膜4bが付着している(図3)が、この生物膜4bの外側部分は酸素リッチな状態にあるため、生物膜4bの表層部の微生物により酸素が消費され、生物膜4bの内部(担体4a側)は酸素欠乏状態になる。このようにして本実施形態では、ポンプで循環させる水中に含まれる硝酸性窒素を脱窒菌により脱窒させ、窒素ガスに転換することによって処理水の硝酸濃度を低下させて処理水のpHを上昇させ、アルカリ度を回復させることができる。
なお、本実施形態のpHセンサ以外の他の水質測定手段として、亜硝酸イオンを検出する亜硝酸センサ、硝酸イオンを検出する硝酸センサ、アンモニアイオンを検出するアンモニアセンサ、アルカリ度を測定するアルカリ度計などを用いることができる。
(2)上記(1)の装置において、さらに、好気リアクタから排出される余剰汚泥を貯留する汚泥貯留槽8と、汚泥貯留槽内の余剰汚泥を好気リアクタに戻す汚泥返送ポンプP3を備えた第2のリターンラインL11と、を有することが好ましい。
本実施形態では、制御手段は、測定した処理水のpHが6.3以下になったときに汚泥返送ポンプを駆動させ、第2のリターンラインを介して汚泥貯留槽から好気リアクタに余剰汚泥を還流させる。
本実施形態によれば、制御手段が行う上記の操作で還流される余剰汚泥により、好気リアクタ内が酸素リッチな状態になるため、生物膜4bの表層部の微生物により酸素が消費され、生物膜4bの内部(担体4a側)は酸素欠乏状態になる。ポンプで還流される余剰汚泥中に含まれる硝酸性窒素を脱窒菌により脱窒させ、窒素ガスに転換することによって処理水の硝酸濃度を低下させて処理水のpHを上昇させ、アルカリ度を回復させることができる。
(3)上記(1)の装置において、さらに、前記好気リアクタから排出される余剰汚泥を貯留する汚泥貯留槽と、前記汚泥貯留槽内の余剰汚泥を前記好気リアクタに戻す汚泥返送ポンプを備えた第2のリターンラインL11と、を有することが好ましい(図5)。
本実施形態では、制御手段は、pHセンサで測定したpHが6.3以下になったときに、原水の一部又は全量を嫌気リアクタを経由することなくバイパスラインを通って好気リアクタに直接供給させると同時に、処理水循環ポンプを駆動させて第1のリターンラインを介して処理水槽から好気リアクタに処理水を還流させるか、または汚泥返送ポンプを駆動させて第2のリターンラインを介して汚泥貯留槽から好気リアクタに処理水を還流させるか、または処理水循環ポンプと汚泥返送ポンプを共に駆動させて第1のリターンラインを介して処理水槽から好気リアクタに処理水を還流させるとともに第2のリターンラインを介して汚泥貯留槽から好気リアクタに処理水を還流させる。
本実施形態によれば、制御手段が行う上記の操作により、原水を嫌気リアクタを経由することなくバイパスラインを通して好気リアクタに直接供給することで好気リアクタにかかる有機物負荷を高め、硝化反応の進行を抑制するとともに、好気リアクタ内で生成した処理水および余剰汚泥に含まれる硝酸性窒素を好気リアクタの上段部に循環させ、担体4aに付着した生物膜4bの表層部の微生物により酸素が消費され、生物膜4bの内部(担体4a側)は酸素欠乏状態になる。このようにして本実施形態では、好気リアクタに原水を直接供給して有機物負荷を高めて硝化反応の進行を抑制する一方で、ポンプ循環される水中に含まれる硝酸性窒素を脱窒菌により脱窒させ、窒素ガスに転換することによって処理水の硝酸濃度を低下させて処理水のpHを上昇させ、アルカリ度を回復させることができる。
(4)上記(1)または(2)の装置において、制御手段が好気リアクタからの処理水の一部を嫌気リアクタの原水供給部よりも上部に還流させることが好ましい(図12)。
本実施形態によれば、好気リアクタからの処理水を嫌気リアクタの中段部に循環させることにより、汚泥床下部の最もメタン生成菌が集積している部分への悪影響を低減させることができ、安定した水処理性能を得ることができる。
また、本実施形態によれば、嫌気リアクタの上部に担体を配設したことにより、嫌気リアクタの上部に脱窒菌が固定化しやすい(菌が流出し難い)環境を作り、嫌気リアクタ内部での脱窒反応がより促進しやすくなる。ちなみに、嫌気リアクタの入口部分や原水槽に循環させる方式では汚泥床部の絶対嫌気性菌であるメタン生成菌に溶存酸素や硝酸性窒素が悪影響を及ぼすという問題があったが、本実施形態によればこの問題を効果的に解決することができる。
(5)上記(4)の装置において、pHセンサで測定したpHが6.3以下になったときに、制御手段が好気リアクタからの処理水の一部を嫌気リアクタの原水供給部よりも上部に還流させることが好ましい(図12)。
本実施形態によれば、処理水の測定pHが6.3以下に低下したことにより制御手段は嫌気リアクタ内での脱窒反応が低下したことを容易に把握でき、これに基づいて好気リアクタからの処理水を嫌気リアクタの原水供給部より上部に還流させるが、本実施形態では嫌気リアクタの上部に配置された担体に脱窒菌が固定化しやすい環境を形成しているため、嫌気リアクタ内での脱窒菌による脱窒反応が促進され、低下したpHをより迅速に回復させることができる。なお、閾値をpH6.3より少し低い値に設定することができる。例えば閾値としてpH6.0以下に設定するようにしてもよいし、さらにpH5.8以下に設定するようにしてもよい。
(6)上記(4)または(5)の装置において、嫌気リアクタ内の上部に微生物を付着する固定床部を有することが好ましい(図13)。とくに嫌気汚泥床部よりも上方に固定床部を設けるのが好ましい。
本実施形態によれば、嫌気リアクタ内に無酸素状態または酸素欠乏状態が形成されやすく、また嫌気リアクタ内部の有機物濃度も高いため、嫌気リアクタ内での脱窒反応が促進しやすくなり、さらに処理水の窒素濃度を低減させることができる。
また、本実施形態によれば、処理水の循環先を嫌気リアクタの中段部としたことにより、汚泥床下部の最もメタン生成菌が集積している部分への悪影響を低減させることができ、安定した水処理性能を得ることができる。
さらに、本実施形態によれば、嫌気リアクタの上部に担体を配したことにより、リアクタの上部に脱窒菌が固定化しやすい環境を作ることにより、嫌気リアクタ内部での脱窒がより促進しやすくなる。
以下、添付の図面を参照して本発明の種々の実施の形態を具体的に説明する。
(第1の実施形態)
図1に示すように、第1の実施形態の有機性排水処理装置1は、上流側から順に主ラインL1,L2,L4,L6,L7に沿って配設された原水槽2、嫌気リアクタ3、好気リアクタ4、処理水槽6、および最終処理水槽7を有し、有機性排水からなる原水を嫌気性微生物および好気性微生物を利用して嫌気処理/好気処理して処理水を生成する水処理システムである。さらに周辺装置として、嫌気リアクタ3内で発生するメタン等のバイオガスを回収するためのバイオガス回収装置5がラインL5を介して嫌気リアクタ3の上部に接続されている。
処理対象となる原水は、生活排水、都市下水、食品工場に代表される工場から排出される有機性排水などが該当する。特に、本実施形態の技術は、原水に水質の変動がしばしばあり、窒素と有機物の比率が変わりやすい原水に対して適用する水処理技術に向けられたものであり、その典型的な原水の例として生活排水や都市下水が挙げられる。
有機性排水処理装置1の配管ラインL1〜L8の適所には流量制御弁、圧力制御弁、遮断弁、逆流防止弁などの各種バルブV1,V2,V3およびポンプP1およびセンサ11が取り付けられている。これらのポンプやバルブなどの動作はプロセスコンピュータを有する制御器10によってそれぞれ制御されるようになっている。
制御器10は、装置1の全体を統括的に制御するために構築されたコンピュータシステムからなり、水質測定手段としてのpHセンサ11からの信号S1および図示しない流量計、圧力計、温度計、濃度計、濁度計、ガスセンサなど各種の測定機器やセンサからの信号が入る入力部と、多種多様のプロセスデータを記憶保存しておくメモリ部と、入力信号と必要に応じて呼び出したプロセスデータや数式に基づいて演算を実行して各種の制御量を算出する演算部と、算出した制御量に基づいて各種のポンプ及びバルブの駆動電源回路スイッチに制御信号S2を出す出力部と、を備えている。
制御器10の入力部には設定手段としての入力用キイボード13が接続されている。オペレータは、このキイボード13を用いてプロセス条件設定値などのデータD1〜D9を制御器10に随時入力して各種のプロセス条件を設定することができるようになっている。
原水槽2は、図示しない原水発生源から有機性排水を原水として受け入れ、送水ポンプP1の駆動により主ラインL1,L2とバルブV1を介して嫌気リアクタ3に原水を送り出すようになっている。
本実施形態の装置1では、ポンプP1より下流側において主ラインL1から分岐するバイパスラインL3がさらに設けられている。バイパスラインL3は、主ラインL1から分岐し、バルブV2を有し、好気リアクタ4の上部散水器41へのラインL4に連通している。制御器10は、定常時にはバルブV2を閉じた状態でバルブV1を開けて主ラインL2を介して嫌気リアクタ3に原水を供給する一方で、pH調整時にはバルブV1を閉じてバルブV2を開け、バイパスラインL3を介して好気リアクタ4の上部散水器41に原水を直接送水することができるようになっている。
嫌気リアクタ3は、上向流式嫌気汚泥床(UASB)または膨張粒状汚泥床(EGSB)などの方式で嫌気性微生物が高濃度に集積した粒状化汚泥(グラニュール)を内部に配した嫌気性汚泥床部(図示せず)を下部に有している。嫌気性汚泥床部ではメタン生成菌、酸生成菌等の働きによって、有機性排水中の高分子の汚濁有機物質をプロピオン酸、酢酸などの有機酸ならびにメタンまで分解するようになっている。嫌気リアクタ3の下部には原水供給ラインL2が接続され、嫌気リアクタ3の上部には嫌気処理水オーバーフローラインL4とバイオガス回収ラインL5がそれぞれ接続されている。オーバーフローラインL4は、嫌気リアクタ上部の堰を越えて溢れ出す嫌気処理水が通流するものであり、適所にバイパスラインL3が合流し、好気リアクタ4の上部散水器41に接続されている。一方、バイオガス回収ラインL5はバイオガス回収装置5に接続され、回収したメタンを含むバイオガスは、脱硫処理などのガス処理を行うことにより加熱炉の燃焼ガスなどに有効利用することができる。
好気リアクタ4は、上段部に散水器41、中段部に担体部42、下段部に汚泥沈殿部43をそれぞれ備えている。散水器41は、多数の細孔が等ピッチ間隔に下向きに開口する多孔管または噴霧ノズルを有している。
担体部42は、ほぼ同じ構成の脱着可能なカートリッジ方式の担体充填パックが上下2段に積み重ねられて支持体に支持されたものである。各担体は、酸素共存下で有機性排水中の有機物を分解する好気性微生物を担持している。担体部42の最下部より少し下方のところに処理水送水ラインL6が接続され、担体部42を通過してきた好気処理水がラインL6を通って処理水槽6へ送られるようになっている。
なお、好気リアクタ4内に充填する担体は表面に微生物が付着しやすいものであれば何でもよくポリプロピレン、ポリエチレンなどを主とするプラスチック系のものや、セラミック、金属などどのような素材であってもよい。形状も球状、円筒状、ひも状、ハチの巣状(ハニカム形状)などどのような形であってもよい。一般的には担体として1cm〜5cm程度の大きさで比表面積が大きいものが用いられる。
汚泥沈殿部43は、好気リアクタ4の最下部に設けられ、沈殿した余剰汚泥を排出するためのドレインラインL8が接続されている。さらにドレインラインL8は図示しない汚泥処理設備に接続されている。
処理水槽6は、好気リアクタ4からの処理水が処理水送水ラインL6を通って供給され、処理水を一時的に貯留しておくための水槽である。本実施形態では、処理水送水ラインL6の適所に水質測定手段としてのpHセンサ11を取り付け、処理水のpHを測定し、pH測定信号S1を制御器10に送るようにしている。なお、水質測定手段は、本実施形態のpHセンサのみに限定されるものではなく、他の水質測定手段として亜硝酸イオンを検出する亜硝酸センサ、硝酸イオンを検出する硝酸センサ、アンモニアイオンを検出するアンモニアセンサ、アルカリ度を測定するアルカリ度計などを用いることができる。また、水質測定手段の設置箇所も本実施形態の処理水送水ラインL6のみに限定されるものではなく、処理水槽6の内部に設置するようにしてもよいし、あるいは好気リアクタ4の処理水出口に設置するようにしてもよい。
最終処理水槽7は、処理水槽6の上部に送水ラインL7を介して接続され、送水ラインL7を通って処理水槽6内の上澄み水が導入され、導入した水を放流基準を満たすように最終処理するための処理設備である。なお、図示していないが最終処理水槽7内の処理水を処理水槽6及び/又は好気リアクタ4に戻すためのリターンラインを設けてもよい。
次に、本実施形態の作用を説明する。
先ずオペレータは、キイボード13を用いてバイパス開始pH設定値データD1およびバイパス停止pH設定値データD2を制御器10に入力する。バイパス開始pH設定値データD1はpH値として6.0に対応し、バイパス停止pH設定値データD2はpH値として6.5に対応している。これらのプロセス条件設定データは制御器10のメモリ部に保存される。なお、本実施形態では水質パラメータの閾値をpH6.0としているが、これより少し低い値や少し高い値に閾値を設定することができる。例えば閾値としてpH5.8以下に設定するようにしてもよいし、さらにpH6.3以下に設定するようにしてもよい。
オペレータによる各種のプロセス条件設定データのデータ入力作業が終了すると、制御器10から各種の制御信号が装置内の各駆動部に送られ、装置1の運転が開始される。すなわち、制御器10は、バルブV2を閉じた状態でバルブV1を開け、ポンプP1を起動して原水槽2から主ラインL2を介して嫌気リアクタ3に原水を供給する。嫌気リアクタ3内では原水中に含まれる汚濁有機物(窒素含有有機質成分)が嫌気性汚泥床部に存在する嫌気性微生物と接触し、微生物の作用により汚濁有機物が処理水とバイオガス(主成分メタン)とに分解される。生成バイオガスは嫌気リアクタ3の頂部から回収ラインL5を通ってバイオガス回収装置5に回収される。
一方、嫌気処理された嫌気処理水は、リアクタ上部の堰を越えてあふれ出し、オーバーフローラインL4を通って好気リアクタ4の上部に送られ、散水器41から下方の担体部42に向けて散水される。この散水の際に大気中の酸素が液中に溶解する。好気リアクタ4内の担体部42には微生物を付着させるための担体が充填されており、リアクタ下部の沈殿部43に達するまでは常時、担体の合間を縫って、水がしたたりおちている状態である。散水時および水が担体の合間を縫ってしたたり落ちていく間で、空気と液体との気液接触によって、液中に酸素が供給される。担体に付着している好気微生物はこの液中に溶解した酸素(以下、溶存酸素)を利用しつつ、嫌気リアクタで処理しきれなかった有機物を分解除去する。好気リアクタに流入する有機物濃度のレベルによっては、自然の空気対流レベルで十分量の酸素が供給されるが、必要に応じて換気ファンによって強制的にリアクタ内に空気を送気するよう構成される。
リアクタ容積(担体に付着している好気微生物量)に対して、リアクタに流入する有機物の負荷量が小さい場合、好気リアクタ4の中間部より下側の方では生物分解できる有機物はほぼなくなる。このような状況の場合、有機物のえさがなくなるため、好気リアクタの中間部より下側部分には独立栄養細菌である硝化菌が担体に付着・存在し、液中の窒素成分を亜硝酸や硝酸態の窒素に酸化する(硝化反応)。硝酸は、酸であるため、この反応の進行により、pHが低下する方向に進む。
ただし、窒素濃度に対して、液中に十分量の炭酸イオンが溶解している場合は、炭酸イオンによるpH緩衝効果により、pHは、概ね6.3〜6.8程度を推移し、6.0以下に低下することはない。ところで、この炭酸イオンは、嫌気リアクタ内の嫌気微生物または、好気リアクタの好気微生物が有機物を分解したときに生じる。このため、原水中の窒素濃度と原水中の有機物濃度の比により、有機物濃度が低い場合においては、液中の炭酸イオン濃度が比較的低くなるため、pHが低下しやすくなる。すなわち、好気リアクタへの有機物負荷が小さい場合、あるいは流入の窒素と有機物のバランスにおいて窒素が過多の排水の場合にpHが低下しやすくなる。
好気処理された好気処理水は、好気リアクタの下部出口から送水ラインL6を通って処理水槽6の下部に送られ、処理水槽6内において一定期間貯留された後にその上澄み水が送水ラインL7を通って最終処理水槽7に送られる。
このとき送水ラインL6を流れる処理水のpHをセンサ11で測定し、そのpH測定信号S1を制御器10に送る。制御器10は、pHセンサ11からの測定信号S1が入力されると、メモリ部からバイパス開始pH設定値データ信号D1を呼び出し、呼び出した信号D1と入力信号S1とを比較し、信号S1が信号D1を下回った場合、すなわち信号S1から算出されるpH値(例えば5.8)が信号D1に対応するpH値6.0以下となった場合に、バルブV1を閉じて(全閉遮断)バルブV2を開け(全開)、原水の全量を嫌気リアクタ3を経由することなくバイパスラインL3を介して好気リアクタ4に直接送水する。
さらに制御器10は、制御信号S2を主ラインL2のバルブV1およびバイパスラインL3のバルブV2にそれぞれ送り、2つのバルブV1,V2の開度調整をすることにより、原水の一部を嫌気リアクタ3を経由することなく好気リアクタ4に直接送水する。これらの操作により、好気リアクタ4にかかる有機物負荷が高まり、硝化反応の進行を抑制し、好気処理水のpHの低下を回復させることができる。
このようにして一旦低下した好気処理水のpHを回復させ、センサ11で測定されるpH値が徐々に低下して6.0を下回ったところで、制御器10は、メモリ部からバイパス停止pH設定値データD2を呼び出し、呼び出したバイパス停止pH設定値データD2とpH測定信号S1との比較に切り替える。そして、pH測定信号S1から算出されるpH値がバイパス停止pH設定値データD2に対応するpH値6.5を超えるタイミングで、制御器10からバルブV1,V2に停止制御信号S10を送り、バルブV2を閉じてバイパスラインL3経由の原水の直送を停止する。
なお、本実施形態では水質測定手段にpHセンサを用いたが、他の水質測定手段として、亜硝酸イオンを検出する亜硝酸センサ、硝酸イオンを検出する硝酸センサ、アンモニアイオンを検出するアンモニアセンサ、アルカリ度を測定するアルカリ度計を用いるようにしてもよい。
本実施形態の効果を説明する。
本実施形態によれば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤や脱窒源となる有機物を処理水に添加すること無しに、低下した処理水のpHを回復できるため、ランニングコストを従来の薬品添加方式に比べて低くすることができる。
本実施形態によれば、バルブの切り替え操作のみでポンプなど動力のかかる機器を利用しないため、ランニングコストをほとんど変えずに(コスト上昇させることなく)処理水pH低下の対策をとることができる。
(第2の実施形態)
次に図2を参照して第2の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
本実施形態の有機性排水処理装置1Aは、上記バイパスラインL3の代わりに循環ポンプP2を備えた第1のリターンラインL10を有している。第1のリターンラインL10は、処理水槽6から好気リアクタ4までの間に設けられ、循環ポンプP2の駆動により処理水槽6内の処理水を好気リアクタ4に戻すようにしている。すなわち、ポンプP2を起動させると、処理水槽6内の処理水がリターンラインL10を通って処理水槽6→ラインL10→好気リアクタ4→ラインL6→処理水槽6のループ回路を通って循環されるようになっている。
次に、本実施形態の作用を説明する。
先ずオペレータは、キイボード13を用いて処理水循環開始pH設定値データD3および処理水循環停止pH設定値データD4を制御器10に入力する。処理水循環開始pH設定値データD3はpH値として6.0に対応し、処理水循環停止pH設定値データD4はpH値として6.5に対応している。これらのプロセス条件設定データは制御器10のメモリ部に保存される。
オペレータによる各種のプロセス条件設定データのデータ入力作業が終了すると、制御器10から各種の制御信号が装置内の各駆動部に送られ、装置1Aの運転が開始される。すなわち、制御器10は、バルブV1を開け、ポンプP1を起動して原水槽2から主ラインL1を介して嫌気リアクタ3に原水を供給する。供給された原水は嫌気リアクタ3内で嫌気性微生物により嫌気処理される。嫌気処理された嫌気処理水は、リアクタ上部の堰を越えてあふれ出し、オーバーフローラインL4を通って好気リアクタ4の上部に送られ、散水器41から下方の担体部42に向けて散水される。
リアクタ容積(担体に付着している好気微生物量)に対して、リアクタに流入する有機物の負荷量が小さい場合、好気リアクタ4の中間部より下側の方では生物分解できる有機物はほぼなくなる。このような状況の場合、有機物のえさがなくなるため、好気リアクタ4の中間部より下側部分には独立栄養細菌である硝化菌が担体に付着・存在し、液中の窒素成分を亜硝酸や硝酸態の窒素に酸化する(硝化反応)。硝酸は、酸であるため、この反応の進行により、pHが低下する方向に進む。
好気処理された好気処理水は、好気リアクタの下部出口から送水ラインL6を通って処理水槽6の下部に送られ、処理水槽6内において一定期間貯留された後にその上澄み水が送水ラインL7を通って最終処理水槽7に送られる。
このとき送水ラインL6を流れる処理水のpHをセンサ11で測定し、そのpH測定信号S1を制御器10に送る。制御器10は、pHセンサ11からの測定信号S1が入力されると、メモリ部から処理水循環開始pH設定値データ信号D3を呼び出し、呼び出した信号D3と入力信号S1とを比較し、信号S1が信号D3を下回った場合、すなわち信号S1から算出されるpH値(例えば5.8)が信号D3に対応するpH値6.0以下となった場合に、制御信号S3をポンプ電源回路に送って循環ポンプP2を起動させ、処理水槽6内の処理水を第1のリターンラインL10を介して好気リアクタ4に戻し、これにより処理水が処理水槽6→ラインL10→好気リアクタ4→ラインL6→処理水槽6のループ回路を通って循環される。この操作により、好気リアクタ4内で生成した硝酸性窒素を好気リアクタの上段部に循環させ、好気リアクタ内で部分的に無酸素状態となっている部分に存在する脱窒菌により、処理水循環ポンプにより循環した水中に含まれる硝酸性窒素を脱窒させ、窒素ガスに転換することによって、処理水の硝酸濃度を低下させ、pH(アルカリ度)を回復させるものである。すなわち、図3に示すように、担体4aには好気性微生物が集積した生物膜4bが付着している。生物膜4bの外側部分は、酸素がリッチな状態であるが、生物膜4bの表層部の微生物により酸素が消費され、生物膜4bの内部(担体4a側)は酸素欠乏状態になる。この酸素欠乏状態になった部分に存在する脱窒菌により、硝酸性窒素を脱窒させ、処理水の硝酸濃度を低下させ、低下した処理水のpH(アルカリ度)を回復させる。
このようにして一旦低下した好気処理水のpHを回復させ、センサ11で測定されるpH値が徐々に低下して6.0を下回ったところで、制御器10は、メモリ部から処理水循環停止pH設定値データD4を呼び出し、呼び出した処理水循環停止pH設定値データD4とpH測定信号S1との比較に切り替える。そして、pH測定信号S1から算出されるpH値が処理水循環停止pH設定値データD4に対応するpH値6.5を超えるタイミングで、制御器10から循環ポンプP2に停止制御信号S3を送り、循環ポンプP2の駆動を停止させ、リターンラインL10を経由する処理水の循環を停止する。
本実施形態の効果を説明する。
本実施形態によれば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤や脱窒源となる有機物添加なしに処理水のpH低下を防ぐため、ランニングコストを薬品添加方式に比べて低減することができる。
また、本実施形態によれば、処理水のpHが低下した場合のみ処理水を循環させるため、処理水を常に循環させる常時循環方式に比べてランニングコストを大幅に低減することができる。
さらに、本実施形態によれば、脱窒反応により処理水の窒素濃度を低減させることができる。
(第3の実施形態)
図4を参照して第3の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
本実施形態の有機性排水処理装置1Bは、水質測定手段として、上記第1の実施形態の処理水送水ラインL6に設けたpHセンサの代わりに、処理水槽6内に設けた硝酸センサ12を有している。硝酸センサ12は、処理水中の亜硝酸イオンを検出するものである。
次に、本実施形態の作用を説明する。
オペレータは、キイボード13を用いてバイパス開始硝酸濃度設定値データD1およびバイパス停止硝酸濃度設定値データD2を制御器10に入力する。バイパス開始硝酸濃度設定値データD1は硝酸濃度の第1の閾値に対応し、バイパス停止硝酸濃度設定値データD2は硝酸濃度の第2の閾値に対応している。これらのプロセス条件設定データは制御器10のメモリ部に保存される。
オペレータによる各種のプロセス条件設定データのデータ入力作業が終了すると、制御器10から各種の制御信号が装置内の各駆動部に送られ、装置1Bの運転が開始される。すなわち、制御器10は、バルブV2を閉じた状態でバルブV1を開け、ポンプP1を起動して原水槽2から主ラインL2を介して嫌気リアクタ3に原水を供給する。嫌気リアクタ3内では原水中に含まれる汚濁有機物が嫌気性汚泥床部に存在する嫌気性微生物と接触し、微生物の作用により汚濁有機物が処理水とバイオガスとに分解される。
嫌気処理された嫌気処理水は、リアクタ上部の堰を越えてあふれ出し、オーバーフローラインL4を通って好気リアクタ4の上部に送られ、散水器41から下方の担体部42に向けて散水される。この散水の際に大気中の酸素が液中に溶解する。好気リアクタ4内の担体部42には微生物を付着させるための担体が充填されており、リアクタ下部の沈殿部43に達するまでは常時、担体の合間を縫って、水がしたたりおちている状態である。散水時および水が担体の合間を縫ってしたたり落ちていく間で、空気と液体との気液接触によって、液中に酸素が供給される。担体に付着している好気微生物はこの液中に溶解した酸素(以下、溶存酸素)を利用しつつ、嫌気リアクタで処理しきれなかった有機物を分解除去する。好気リアクタに流入する有機物濃度のレベルによっては、自然の空気対流レベルで十分量の酸素が供給されるが、必要に応じて換気ファンによって強制的にリアクタ内に空気を送気するよう構成される。
リアクタ容積(担体に付着している好気微生物量)に対して、リアクタに流入する有機物の負荷量が小さい場合、好気リアクタ4の中間部より下側の方では生物分解できる有機物はほぼなくなる。このような状況の場合、有機物のえさがなくなるため、好気リアクタの中間部より下側部分には独立栄養細菌である硝化菌が担体に付着・存在し、液中の窒素成分を亜硝酸や硝酸態の窒素に酸化する(硝化反応)。硝酸は、酸であるため、この反応の進行により、pHが低下する方向に進む。
好気処理された好気処理水は、好気リアクタの下部出口から送水ラインL6を通って処理水槽6の下部に送られ、処理水槽6内において一定期間貯留された後にその上澄み水が送水ラインL7を通って最終処理水槽7に送られる。
このとき処理水槽6内の処理水の硝酸イオン濃度をセンサ12で測定し、その測定信号S1を制御器10に送る。制御器10は、硝酸センサ12からの測定信号S1が入力されると、メモリ部からバイパス開始硝酸濃度設定値データ信号D1を呼び出し、呼び出した信号D1と入力信号S1とを比較し、信号S1が信号D1を上回った場合、すなわち信号S1から算出される硝酸濃度値が信号D1に対応する硝酸濃度の第1の閾値以上となった場合に、バルブV1を閉じて(全閉遮断)バルブV2を開け(全開)、原水の全量を嫌気リアクタ3を経由することなくバイパスラインL3を介して好気リアクタ4に直接送水する。
さらに制御器10は、制御信号S2を主ラインL2のバルブV1およびバイパスラインL3のバルブV2にそれぞれ送り、2つのバルブV1,V2の開度調整をすることにより、原水の一部を嫌気リアクタ3を経由することなく好気リアクタ4に直接送水する。これらの操作により、好気リアクタ4にかかる有機物負荷が高まり、硝化反応の進行を抑制し、好気処理水のpHの低下を回復させることができる。
このようにして一旦低下した好気処理水のpHを回復させ、センサ12で測定される硝酸濃度値が徐々に低下して第1の閾値以下となったところで、制御器10は、メモリ部からバイパス停止硝酸濃度設定値データD2を呼び出し、呼び出したバイパス停止硝酸濃度設定値データD2と硝酸濃度測定信号S1との比較に切り替える。そして、硝酸濃度測定信号S1から算出される硝酸濃度値がバイパス停止硝酸濃度設定値データD2に対応する硝酸濃度の第2の閾値以下となったタイミングで、制御器10からバルブV1,V2に停止制御信号S10を送り、バルブV2を閉じてバイパスラインL3経由の原水の直送を停止する。
なお、本実施形態では水質測定手段に硝酸センサを用いたが、他の水質測定手段として、亜硝酸イオンを検出する亜硝酸センサ、アンモニアイオンを検出するアンモニアセンサ、アルカリ度を測定するアルカリ度計を用いることができる。
本実施形態の効果を説明する。
本実施形態によれば、水質測定項目として処理水中の硝酸イオン濃度を測定することにより、硝化反応の進行状況をより直接的に把握することができるため、さらに高精度に処理水のpH低下を防止することができる。
本実施形態によれば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤や脱窒源となる有機物を処理水に添加すること無しに、低下した処理水のpHを回復できるため、ランニングコストを従来の薬品添加方式に比べて低くすることができる。
本実施形態によれば、バルブの切り替え操作のみでポンプなど動力のかかる機器を利用しないため、ランニングコストをほとんど変えずに(コスト上昇させることなく)処理水pH低下の対策をとることができる。
(第4の実施形態)
図5を参照して第4の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
本実施形態の有機性排水処理装置1Cは、好気リアクタ4の底部に余剰汚泥排出ラインL8により接続された汚泥貯留槽8と、汚泥貯留槽8にラインL9により接続された汚泥処理設備9と、汚泥貯留槽8内の余剰汚泥を好気リアクタ4の上部に返送する汚泥返送ポンプP3を備えた第2のリターンラインL11と、をさらに有している。
第2のリターンラインL11は、ポンプP3およびバルブV5を有し、第1のリターンラインL10の適所に合流している。すなわち、本実施形態では、処理水槽6から第1のリターンラインL10を通って好気リアクタ4に返送される処理水に、汚泥貯留槽8から第2のリターンラインL11を通って好気リアクタ4に返送される余剰汚泥が投入添加され、両者が混合した状態で好気リアクタ4の上部に返送されるようになっている。
次に、本実施形態の作用を説明する。
オペレータは、キイボード13を用いて処理水循環・汚泥返送開始pH設定値データD7および処理水循環停止pH設定値データD8を制御器10に入力する。処理水循環・汚泥返送開始pH設定値データD7はpH値として6.0に対応し、処理水循環停止pH設定値データD8はpH値として6.5に対応している。さらに、汚泥返送停止タイマーデータD9を制御器10に入力する。これらのプロセス条件設定データは制御器10のメモリ部に保存される。
本実施形態では、処理水循環停止(ポンプP2の駆動の停止)のタイミングは、処理水の測定pH値が制御器10に設定されたデータD8に対応する処理水循環・汚泥返送開始pH設定値以上となったときとしている。また、汚泥返送停止(ポンプP3の駆動の停止)のタイミングは、制御器10に設定されたデータD9に対応する汚泥返送停止タイマーで一定時間経過後のときとしている。
オペレータによる各種のプロセス条件設定データのデータ入力作業が終了すると、制御器10から各種の制御信号が装置内の各駆動部に送られ、装置1Cの運転が開始される。すなわち、制御器10は、バルブV1を開け、ポンプP1を起動して原水槽2から主ラインL1を介して嫌気リアクタ3に原水を供給する。供給された原水は嫌気リアクタ3内で嫌気性微生物により嫌気処理される。嫌気処理された嫌気処理水は、リアクタ上部の堰を越えてあふれ出し、オーバーフローラインL4を通って好気リアクタ4の上部に送られ、散水器41から下方の担体部42に向けて散水される。
リアクタ容積(担体に付着している好気微生物量)に対して、リアクタに流入する有機物の負荷量が小さい場合、好気リアクタ4の中間部より下側の方では生物分解できる有機物はほぼなくなる。このような状況の場合、有機物のえさがなくなるため、好気リアクタ4の中間部より下側部分には独立栄養細菌である硝化菌が担体に付着・存在し、液中の窒素成分を亜硝酸や硝酸態の窒素に酸化する(硝化反応)。硝酸は、酸であるため、この反応の進行により、pHが低下する方向に進む。なお、余剰汚泥は、好気リアクタ底部の汚泥沈殿部43に沈降し、沈殿量が所定量を超えるか又は定期的にバルブV3を開けて好気リアクタ4から汚泥貯留槽8に排出する。
好気処理された好気処理水は、好気リアクタの下部出口から送水ラインL6を通って処理水槽6の下部に送られ、処理水槽6内において一定期間貯留される。
このとき送水ラインL6を流れる処理水のpHをセンサ11で測定し、そのpH測定信号S1を制御器10に送る。制御器10は、pHセンサ11からの測定信号S1が入力されると、メモリ部から処理水循環・汚泥返送開始pH設定値データD7を呼び出し、呼び出したデータ信号D7と入力信号S1とを比較し、信号S1が信号D7を下回った場合、すなわち信号S1から算出されるpH値(例えば5.8)が信号D7に対応するpH値6.0以下となった場合に、制御信号S3をポンプ電源回路に送ってポンプP2を起動させるとともに、制御信号S4をポンプ電源回路に送ってポンプP3を起動させる。これにより、処理水槽6内の処理水を第1のリターンラインL10を介して好気リアクタ4に戻し、処理水を処理水槽6→ラインL10→好気リアクタ4→ラインL6→処理水槽6のループ回路を通って循環させる一方で、汚泥貯留槽8内の余剰汚泥を第2のリターンラインL11から第1のリターンラインL10の処理水に合流させ、処理水と余剰汚泥とが混合した混合流体を好気リアクタ4に返送する。
これらの操作により、好気リアクタ4内で生成した硝酸性窒素を好気リアクタの上段部に循環させ、好気リアクタ内で部分的に無酸素状態となっている部分に存在する脱窒菌により、処理水循環ポンプにより循環した水中に含まれる硝酸性窒素を脱窒させ、窒素ガスに転換することによって、処理水の硝酸濃度を低下させ、pH(アルカリ度)を回復させるものである。すなわち、図3に示すように、担体4aには好気性微生物が集積した生物膜4bが付着している。生物膜4bの外側部分は、酸素がリッチな状態であるが、生物膜4bの表層部の微生物により酸素が消費され、生物膜4bの内部(担体4a側)は酸素欠乏状態になる。この酸素欠乏状態になった部分に存在する脱窒菌により、硝酸性窒素を脱窒させ、処理水の硝酸濃度を低下させ、低下した処理水のpH(アルカリ度)を回復させる。
このようにして一旦低下した好気処理水のpHを回復させ、センサ11で測定されるpH値が徐々に低下して6.0を下回ったところで、制御器10は、メモリ部から処理水循環停止pH設定値データD8を呼び出し、呼び出した処理水循環停止pH設定値データD8とpH測定信号S1との比較に切り替える。そして、pH測定信号S1から算出されるpH値が処理水循環停止pH設定値データD8に対応するpH値6.5を超えるタイミングで、制御器10から循環ポンプP2に停止制御信号S3を送り、循環ポンプP2の駆動を停止させ、第1のリターンラインL10を経由する処理水の循環を停止する。一方、汚泥返送停止(ポンプP3の駆動の停止)のタイミングは、制御器10に設定されたデータD9に対応する汚泥返送停止タイマーで一定時間経過後のときとしている。
本実施形態では制御器10が運転・停止のオンオフ制御する例について説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、pHセンサ11の計測値に応じて処理水のpH値が閾値より低い場合に循環流量が多くなるよう処理水循環ポンプの流量調整を行うものであってもよい。
また、処理水循環と汚泥返送の開始は同時でなくともよく、所定時間処理水を循環し、処理水循環のみでpHが回復するか否かを判定したのちに、汚泥返送を開始するものであってもよい。
また、汚泥返送に関しては、実施例のように汚泥貯留槽を有する構成でなくとも、汚泥沈殿部から直接汚泥を引き抜いて、好気リアクタの上部に循環するものであってもよい。
また、汚泥の循環先は好気リアクタの最上部でなくとも、好気リアクタのどの部分であってもよい。
さらに、汚泥の停止タイミングはタイマー方式に限らず、他の方式と同様にpHの上限で判定するものであってもよい。pH計測値で汚泥返送の運転・停止を行う場合は、あまり汚泥を返送しすぎると、好気リアクタでの好気部分が少なくなりすぎることによる処理水悪化が懸念されるため、所定量以上の汚泥返送がないように最大循環量のリミッタを設けるのが望ましい。
本実施形態の効果を説明する。
本実施形態によれば、汚泥返送ポンプP3により余剰汚泥を循環させることにより、好気リアクタ4内の総微生物量が増加する。このため、上記第2の実施形態の方式よりも好気微生物量が多くなることに伴い、好気リアクタ4内に無酸素状態となる部分が多くなる。これにより、脱窒菌による硝酸態窒素の脱窒が促進することとなり、上記第2の実施形態の方式よりもpH低下からの回復が速くなる。
(第5の実施形態)
図6を参照して第5の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
本実施形態の有機性排水処理装置1Dは、上記第1の実施形態のポンプP1を有するバイパスラインL3と、上記第4の実施形態のポンプP2,P3を有する第1及び第2のリターンラインL10,L11との両方を備えた装置である。
本実施形態の作用を概略説明する。
pH測定値が制御器に設定された汚泥返送ポンプ運転開始設定値以下となった場合に、汚泥貯留槽内の汚泥返送ポンプを運転させることにより、好気汚泥を好気リアクタの上段部に循環させる。また、処理水槽内の処理水循環ポンプP2を駆動することにより、処理水を好気リアクタの上段部に循環させる。同時に、バイパス配管中のバルブと原水供給バルブの開閉操作(開度調整)により、原水の一部または全量を嫌気リアクタをバイパスし、好気リアクタに直接投入するよう作動する。
処理水循環停止のタイミングは、pH測定値が制御器に設定された処理水循環停止設定値以上となった場合、汚泥返送停止のタイミングはコントローラに設定されたタイマーで一定時間経過後に停止、バイパス停止のタイミングは、pHがコントローラに設定された処理水循環停止設定値以上となった場合に停止するよう構成される。
本実施形態の効果を説明する。
本実施形態によれば、原水の一部を嫌気リアクタをバイパスし、好気リアクタに直接投入することにより、嫌気処理による有機物除去を行わないで、好気リアクタに直接流入する原水量が増えるため、好気リアクタに流入する有機物量がバイパスしない場合に比べ、増加する。これに伴い、好気リアクタ内に存在する脱窒菌が利用できる有機物が増えるため、上記第1〜第4の実施形態の方式に比べて脱窒が促進しやすく、低下したpHの回復が進みやすい。なお、脱窒菌による脱窒が生じる条件は、無酸素状態(溶存酸素がなく、硝酸が存在する状態であること、ならびに脱窒菌が利用できる有機物が存在すること、である。
(第6の実施形態)
図7を参照して第5の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
本実施形態の有機性排水処理装置1Eでは、好気リアクタ4の内部に流路が狭くなる部分ができるように、好気リアクタ4内の担体部42に向かい合った傾斜板44を取り付けている。
本実施形態の作用を概略説明する。
担体部42において担体内部を上方から流下してきた水は対向する傾斜板44の内側に集められる。この傾斜板44の流路が狭くなっている部分においては、水が一部溜まることになる。
本実施形態の効果を説明する。
本実施形態によれば、流路が狭くなっている部分においては、水がたまるため、気液の接触面が小さくなる。このことにより、液溜まり部分は無酸素状態となりやすく、実施例2〜4で示した構成における脱窒菌の脱窒促進に寄与するため、低下したpHの回復がより進みやすい。
(第7の実施形態)
図8と図9を参照して第7の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
本実施形態の有機性排水処理装置1Fでは、好気リアクタ4の内部に流路が狭くなる部分ができるように、向かい合った傾斜板44を設けるとともに、その下部に水を再分配する再分配装置45を取り付けている。
担体部42において担体内部を上部から流下してきた水は対向する傾斜板44の内部に集められる。この傾斜板44の流路が狭くなっている部分においては、水が一部溜まることになる。この溜まった水は再分配装置45により、再度、分散され、再分配装置45の下段に配置された集水管47から担体に水が送られ、担体に付着した好気微生物の働きにより、汚濁物質を分解する。
本実施形態の効果を説明する。
本実施形態によれば、流路が狭くなっている部分においては、水がたまるため、気液の接触面が小さくなる。このことにより、液溜まり部分は無酸素状態となりやすく、実施例2〜4で示した構成における脱窒菌の脱窒促進に寄与するため、低下したpHの回復がより進みやすい。
また、本実施形態によれば、水を再分配することにより、上記第6の実施形態と比べて、水溜まり部の下部のスペースを有効に利用することができる。
さらに、本実施形態によれば、再分配装置45の越流部46から水が越流・落下する際に気液の接触面が大きくなることにより、気相部の酸素が液中に溶解し、再分配装置の下部で再度酸素供給できるため、下段部の好気微生物の活性が増加し、汚濁物質の処理性能が向上する。
(第8の実施形態)
図10と図11を参照して第8の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
本実施形態の有機性排水処理装置1Gでは、好気リアクタ4内に複数の受け皿48を取り付け、その受け皿48の上部の越流堰部分から水を再分配するようにしている。
本実施形態の効果を説明する。
本実施形態によれば、受け皿48から水が越流・落下する際に気液の接触面が大きくなることにより、気相部の酸素が液中に溶解し、再分配装置の下部で再度酸素供給できるため、下段部の好気微生物の活性が増加し、汚濁物質の処理性能が向上する。
(第9の実施形態)
図12を参照して第9の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
本実施形態の有機性排水処理装置1Iは、上向流式の嫌気リアクタ3、散水型好気リアクタ4、および処理水循環ポンプP2を有する第3のリターンラインL12を備えている。処理水循環ポンプP2を有する第3のリターンラインL12は、嫌気リアクタ3の中段部に接続されている。また、リターンラインL12には、一方向にしか水が流れないように逆止弁V6が取り付けられている。
本実施形態の作用と効果を説明する。
嫌気リアクタ3の中段部に硝酸性窒素ならびに溶存酸素を含む処理水を循環させる。これら、硝酸性窒素ならびに溶存酸素は拡散反応によりリアクタの上部・下部に拡散する。嫌気リアクタ3の下部側に拡散した溶存酸素は、高濃度に微生物が集積した汚泥床上部でほとんど消費されるため、汚泥床の下部(原水供給配管近く)の嫌気微生物に悪影響を及ぼすことはほとんどない。硝酸性窒素も汚泥床の上部で脱窒機能を有する通性嫌気性細菌により、脱窒され消費され、汚泥床下部の絶対嫌気性微生物であるメタン生成菌にはほとんど影響を及ぼさない。
一方で、嫌気リアクタ3の上部側に拡散した溶存酸素は担体に付着した微生物にほとんど消費される。硝酸性窒素も担体に付着した脱窒機能を有する通性嫌気性細菌により、脱窒され消費され、汚泥床下部の絶対嫌気性微生物であるメタン生成菌にはほとんど影響を及ぼさない。このようにすることにより、処理水の硝酸が窒素ガスに還元処理されるため、最終処理水のpHの著しい低下を防止することができる。
(第10の実施形態)
図13を参照して第10の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
本実施形態の有機性排水処理装置1Jでは、図13に示すような上向流式の嫌気リアクタ3を有し、排水を下部から流し、上部から処理水を得る上向流式の嫌気リアクタであり、嫌気リアクタの下部に汚泥床31を形成し、リアクタ上部には嫌気微生物を付着させるための担体を充填させた担体部32を形成している。
本実施形態の作用と効果を説明する。
嫌気リアクタの中段部に硝酸性窒素ならびに溶存酸素を含む処理水を循環させる。これら、硝酸性窒素ならびに溶存酸素は拡散反応によりリアクタの上部・下部に拡散する。
リアクタの下部側に拡散した溶存酸素は、高濃度に微生物が集積した汚泥床上部でほとんど消費されるため、汚泥床の下部(原水供給配管近く)の嫌気微生物に悪影響を及ぼすことはほとんどない。硝酸性窒素も汚泥床の上部で脱窒機能を有する通性嫌気性細菌により、脱窒され消費され、汚泥床下部の絶対嫌気性微生物であるメタン生成菌にはほとんど影響を及ぼさない。
一方で、リアクタの上部側に拡散した溶存酸素は担体に付着した微生物にほとんど消費される。硝酸性窒素も担体に付着した脱窒機能を有する通性嫌気性細菌により、脱窒され消費され、汚泥床下部の絶対嫌気性微生物であるメタン生成菌にはほとんど影響を及ぼさない。このようにすることにより、処理水の硝酸が窒素ガスに還元処理されるため、最終処理水のpHの著しい低下を防止することができる。
嫌気リアクタの入口部分や原水槽に循環する方式である場合、汚泥床部の絶対嫌気性菌であるメタン生成菌に溶存酸素や硝酸性窒素が悪影響を及ぼすという問題があったが、循環先をリアクタの中段部としたことにより、汚泥床下部の最もメタン生成菌が集積している部分への悪影響を低減させることができ、安定した水処理性能を得ることができる。
嫌気リアクタの上部に担体を配したことにより、リアクタの上部に脱窒菌が固定化しやすい環境を作ることにより、嫌気リアクタ内部での脱窒がより促進しやすい。
上述した他の実施形態と同様にpHが低下したのみ循環する方式であってもよい。この場合、他の実施形態よりもポンプの動力費を低減させることができる。