JP5287069B2 - リチウムイオン二次電池 - Google Patents

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Description

本発明はリチウムイオン二次電池に関する。より詳細には、本発明は、リチウムイオンの耐久性を向上させるための改良に関する。
近年、大気汚染や地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギー密度を発揮することが求められている。従って、全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダを用いて正極活物質等を集電体の表面に塗布した正極と、バインダを用いて負極活物質等を集電体の表面に塗布した負極とが、電解質を含む電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。
従来、リチウムイオン二次電池の負極を構成する負極活物質としては、充放電サイクルの寿命やコスト面で有利な炭素・黒鉛系材料が用いられてきた。炭素・黒鉛系材料を負極活物質として用いると、リチウムイオンの黒鉛結晶中への吸蔵・放出により充放電反応が進行する。かようなメカニズム上の制約により、炭素・黒鉛系材料を負極活物質として用いた場合には、最大リチウム導入化合物であるLiCから得られる理論容量372mAh/g以上の充放電容量が得られないという欠点がある。このため、炭素・黒鉛系材料を負極活物質として採用し、車両用途の実用化レベルを満足する容量、エネルギー密度を得るのは困難であると予想される。
これに対し、リチウムイオン二次電池において、リチウムと合金化しうる材料を負極活物質として用いる技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。かような電池は、従来の炭素・黒鉛系負極材料と比較して高いエネルギー密度を達成可能であり、車両用電池の候補として期待されている。かような材料として、例えばケイ素(Si)は、充放電において下記反応式(1)に示すように1モルあたり4.4モルのリチウムイオンを吸蔵放出しうる。このため、Li22Siにおいては2000mAh/g程度と極めて大きい理論容量を有する。
ここで、上記特許文献1に記載の技術では、負極材料としてケイ素、スズまたはこれらの合金を採用している。そして、電解液として、Mg(PF、Mg(BFなどの2族元素のフッ素含有塩を含むものを用いている。特許文献1に記載の技術では、かような構成とすることで、負極における副反応の抑制を図っている。
ところで、ケイ素単体の導電性は高くないことから、ケイ素を負極活物質として用いる場合には、ホウ素(B)やアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)といったドーピング元素を少量、ケイ素単体にドーピングして、負極活物質として用いることが提案されている。かような構成とすることにより、負極活物質としてのケイ素が半導体となり、導電性を示すようになる。その結果、負極活物質として有効に機能することが可能となるのである。
しかしながら、ケイ素のようにリチウムと合金化しうる材料から構成された負極活物質は、充放電時における膨張収縮が大きい。例えば、リチウムイオンを吸蔵した場合の体積膨張は、黒鉛では約1.2倍であるのに対し、ケイ素材料では約4倍にも達する。このように負極活物質が大きく膨張すると、電解質層に存在する電解液が膨張した活物質中に浸透してしまう。その結果、電解質層において電解液が不足し、電池容量が低下するという問題がある。また、活物質の割れや微粉化、集電体からの剥離等により、十分なサイクル特性が得られないという問題もある。
特開2004−296315号公報
本発明の目的は、リチウムイオン二次電池において、ケイ素材料を負極活物質として用いた場合の充放電時における活物質の膨張収縮に起因する種々の問題の発生を抑制しうる手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の負極活物質の膨張収縮に起因する種々の問題を解決すべく、鋭意研究を行なった。その結果、驚くべきことに、所定の元素がドープされてなるケイ素を負極活物質として用い、さらに、リチウムと合金化しうる金属元素の陽イオンを含む電解液を電解質に含ませ、膨張収縮による負極活物質の劣化が有効に抑制され、電池容量の低下が防止されうることが判明した。本発明者らは、かような知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明者らが完成させた本発明のリチウムイオン二次電池は、集電体の表面に正極活物質を含む正極活物質層が形成されてなる正極と、電解質を含む電解質層と、集電体の表面に負極活物質を含む負極活物質層が形成されてなる負極とが、正極活物質層と負極活物質層とが向き合うようにこの順に積層されてなる少なくとも1つの単電池層を有する電池要素を含む。そして、当該電解質が、リチウムと合金化しうる金属元素の陽イオンが有機溶媒に溶解した電解液を含む。さらに、負極活物質が、周期律表における13族または15族の元素からなる群から選択される1種または2種以上のドーピング元素がドープされてなるケイ素を含む。
本発明によれば、リチウムイオン二次電池において、ケイ素材料を負極活物質として用いた場合の充放電時における活物質の膨張収縮に起因する種々の問題の発生を抑制しうる手段が提供されうる。
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明を適用した好適な実施形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
ここでは、代表的な実施形態として本発明の電池が積層型(扁平型)のリチウムイオン二次電池である場合を例に挙げて説明するが、本発明の技術的範囲が下記の形態のみに制限されることはない。
図1は、本発明のリチウムイオン二次電池の代表的な実施形態である、双極型でない積層型のリチウムイオン二次電池(以下、単に「リチウムイオン電池」とも称する)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
図1に示すように、本実施形態のリチウムイオン電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の電池要素(発電要素)17が、電池外装材であるラミネートフィルム22の内部に封止された構造を有する。詳しくは、高分子−金属複合ラミネートフィルムを電池外装材として用いて、その周辺部の全部を熱融着にて接合することにより、電池要素17を収納し密封した構成を有している。
電池要素17は、正極集電体11の両面(電池要素の最下層用および最上層用は片面のみ)に正極活物質層12が形成された正極と、電解質層13と、負極集電体14の両面に負極活物質層15が形成された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層12とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層13を介して対向するようにして、正極、電解質層13、負極がこの順に積層されている。
これにより、隣接する正極、電解質層13および負極は、1つの単電池層16を構成する。従って、本実施形態のリチウムイオン電池10は、単電池層16が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。また、単電池層16の外周には、隣接する正極集電体11と負極集電体14との間を絶縁するためのシール部(絶縁層)(図示せず;図2の符号43を参照)が設けられていてもよい。電池要素17の両最外層に位置する最外層正極集電体11aには、いずれも片面のみに正極活物質層12が形成されている。なお、図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、電池要素17の両最外層に最外層負極集電体が位置するようにし、該最外層負極集電体の片面のみに負極活物質層が形成されているようにしてもよい。
正極集電体11および負極集電体14には、各電極(正極および負極)と導通される正極タブ18および負極タブ19がそれぞれ取り付けられ、ラミネートフィルム22の端部に挟まれるようにラミネートフィルム22の外部に導出される構造を有している。正極タブ18および負極タブ19は、必要に応じて正極端子リード20および負極端子リード21を介して、各電極の正極集電体11および負極集電体14に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい(図1にはこの形態を示す)。ただし、正極集電体11が延長されて正極タブ18とされ、ラミネートフィルム22から導出されていてもよい。同様に、負極集電体14が延長されて負極タブ19とされ、同様に電池外装材22から導出される構造としてもよい。
図2は、本発明のリチウムイオン二次電池の他の代表的な実施形態である、双極型の積層型リチウムイオン二次電池(以下、単に「双極型リチウムイオン電池」とも称する)の全体構造を模式的に表した概略断面図である。
図2に示すように、双極型リチウムイオン電池30は、実際に充放電反応が進行する略矩形の電池要素37が、電池外装材であるラミネートフィルム42の内部に封止された構造を有する。双極型リチウムイオン電池30の電池要素37は、複数の双極型電極34で電解質層35を挟み、隣り合う双極型電極34の正極活物質層32と負極活物質層33とが対向するようになっている。ここで、双極型電極34は、集電体31の一方の面に正極活物質層32を設け、他方の面に負極活物質層33を設けた構造を有している。すなわち、双極型リチウムイオン電池30は、集電体31の一方の面に正極活物質層32を有し、他方の面に負極活物質層33を有する双極型電極34を、電解質層35を介して複数枚積層した構造の電池要素37を具備する。
隣接する正極活物質層32、電解質層35および負極活物質層33は、一つの単電池層36を構成する。従って、双極型リチウムイオン電池30は、単電池層36が積層されてなる構成を有するともいえる。また、電解質層35からの電解液の漏れによる液絡を防止するために、単電池層36の周辺部にはシール部(絶縁層)43が配置されている。シール部43を設けることで隣接する集電体31間を絶縁し、隣接する電極(正極活物質層32および負極活物質層33)間の接触による短絡を防止することもできる。
なお、電池要素37の最外層に位置する最外層正極34aおよび最外層負極34bは、双極型電極構造でなくてもよく、最外層集電体(正極側最外層集電体31aおよび負極側最外層集電体31b)に必要な片面のみの正極活物質層32または負極活物質層33を配置した構造としてもよい。具体的には、電池要素37の最外層に位置する正極側最外層集電体31aには、片面のみに正極活物質層32が形成されているようにしてもよい。同様に、電池要素37の最外層に位置する負極側最外層集電体31bには、片面のみに負極活物質層33が形成されているようにしてもよい。また、図2に示す形態の双極型リチウムイオン電池30では、正極側最外層集電体31aおよび負極側最外層集電体31bにそれぞれ正極タブ38および負極タブ39が、正極端子リード40および負極端子リード41を介して接合されている。ただし、正極側最外層集電体31aが延長されて正極タブ38とされ、電池外装材であるラミネートフィルム42から導出されていてもよい。同様に、負極側最外層集電体31bが延長されて負極タブ39とされ、ラミネートフィルムから導出される構造としてもよい。
なお、双極型電極34(電極34a、34bを含む)の積層数は、所望の電圧に応じて調節されうる。また、双極型リチウムイオン二次電池30では、電池の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保できれば、双極型電極34の積層数を少なくしてもよい。双極型リチウムイオン電池30でも、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、電池要素37部分をラミネートフィルム42などの電池外装材(外装パッケージ)に減圧封入し、正極タブ38および負極タブ39を電池外装材42の外部に取り出した構造とするのがよい。この双極型リチウムイオン電池30の基本構成は、複数積層された単電池層36が電気的に直列に接続された構成ともいえる。
リチウムイオン電池10と双極型リチウムイオン電池30の各構成要件および製造方法に関しては、双方の電池内の電気的な接続形態(電極構造)が異なることを除いては、基本的には同様である。よって、上記したリチウムイオン電池10の各構成要件を中心に、以下説明する。ただし、双極型リチウムイオン電池30の各構成要件および製造方法に関しても、同様の構成要件および製造方法を適宜利用して構成ないし製造することができることは言うまでもない。
以下、本発明のリチウムイオン電池を構成する部材について簡単に説明するが、下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態も同様に採用されうる。
[集電体]
集電体(11、14、31)は導電性材料から構成され、その両面に活物質層が形成されて電池の電極となり、最終的には電池を構成する。集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。
集電体を構成する材料に特に制限はない。例えば、金属や導電性高分子が採用されうる。具体的には、例えば、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、銅などの金属材料が挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス鋼、銅が好ましい。
[正極活物質層]
活物質層(12、15、32、33)は活物質を含み、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。
正極活物質層(12、32)は、正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、LiMn、LiCoO、LiNiO、Li(Ni−Co−Mn)Oおよびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
正極活物質層に含まれる正極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜20μmであり、より好ましくは1〜5μmである。ただし、この範囲を外れる形態が採用されても、勿論よい。なお、本明細書において、「粒子径」とは、活物質粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
正極活物質層の厚さについては特に制限はなく、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、正極活物質層の厚さは、2〜100μm程度である。
[負極活物質層]
負極活物質層(15、33)は、負極活物質を含む。本発明における特徴の1つは、負極活物質層(15、33)に含まれる負極活物質として、周期律表における13族または15族の元素からなる群から選択される1種または2種以上のドーピング元素がドープされてなるケイ素(Si)が用いられる点である。
上述したように、ケイ素(Si)を負極活物質として用いることで、従来一般的に用いられている炭素・黒鉛系負極材料と比較して、高いエネルギー密度を達成可能であるという利点がある。
負極活物質としてのケイ素(Si)にドープされうる元素は、周期律表における13族または15族の元素である。具体的には、周期律表における13族の元素としては、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)が挙げられる。また、周期律表における15族の元素としては、窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)が挙げられる。なかでも、電池特性に優れた電池を提供するという観点からは、B、Al、Ga、In、N、P、As、Sb、またはBiが好ましく、より好ましくはB、Al、Ga、またはInであり、特に好ましくはBまたはAlである。これらのドーピング元素は1種のみが単独でドープされてもよいし、2種以上が組み合わせてドープされてもよい。
ケイ素(Si)へのドーピング元素のドープ量について特に制限はないが、負極活物質層における導電性の向上という観点からは、好ましくは1×10−20atom/cm以上であり、より好ましくは1×10−18atom/cm以上、特に好ましくは1×10−15atom/cm以上である。
なお、場合によっては、上述したドープされたケイ素(Si)に加えて、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、金属材料、リチウム−チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:LiTi12)等のリチウム−移金属複合酸化物、およびその他の従来公知の負極活物質の1種または2種以上を併用してもよい。
負極活物質層の形状について、特に制限はない。一例としては、上述したドープされたケイ素(Si)からなる薄膜の形態が挙げられる。本来、ケイ素(Si)の導電性は低いものの、上記所定のドーピング元素をケイ素(Si)にドープして負極活物質として用いることで、ケイ素(Si)が半導体の性質を示すようになる。すなわち、ケイ素(Si)の低い導電性が改善され、負極活物質として有効に機能することが可能となる。従って、負極活物質としてのドープされたケイ素のみからなる薄膜がそのまま負極活物質層として用いられることも可能なのである。かような形態において、負極活物質層の積層方向の厚さは特に制限されない。ただし、電池特性に優れた電池を提供するという観点からは、好ましくは100nm〜100μmであり、より好ましくは1〜100μmであり、さらに好ましくは1〜10μmである。なお、かような薄膜の形成方法については、後述する製造方法の欄において詳述する。
あるいは、負極活物質層は、従来一般的な活物質層と同様の形状であってもよい。すなわち、負極活物質層は、ドープされたケイ素(Si)からなる粒子状の負極活物質(および必要に応じてその他の負極活物質)と、後述するバインダや導電助剤等の添加剤とが混合されてなる合剤層の形状であってもよい。かような形態において、粒子状活物質であるドープされたケイ素(Si)からなる負極活物質粒子のサイズについて特に制限はない。ただし、一例を挙げると、電池特性に優れた電池を提供するという観点からは、粒子状の負極活物質の平均粒子径は、好ましくは1nm〜100μmであり、より好ましくは1nm〜10μmであり、さらに好ましくは1〜500nmである。
正極活物質層および負極活物質層に含まれうる添加剤としては、例えば、バインダ、導電助剤、電解質塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等が挙げられる。
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、合成ゴム系バインダ、エポキシ樹脂等が挙げられる。
導電助剤とは、正極活物質層または負極活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、気相成長炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
電解質塩(リチウム塩)としては、Li(CSON)、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO等が挙げられる。
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
正極活物質層および負極活物質層中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)やイオン伝導性を考慮して調整されうる。
[電解質層]
電解質層(13、35)は、正極活物質層と負極活物質層との間の空間的な隔壁(スペーサ)として機能する。また、これと併せて、充放電時における正負極間でのリチウムイオンの移動媒体である電解質を保持する機能をも有する。
本発明におけるもう1つの特徴は、電解質層を構成する電解質が、リチウムと合金化しうる金属元素の陽イオンが有機溶媒に溶解した電解液を含む点にある。電解質層を構成する電解質がかような電解液を含む場合の電解質の形態としては、液体電解質またはゲル電解質が挙げられる。
液体電解質とは、可塑剤としての有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した溶液である。すなわち、液体電解質はそのまま本発明における電解液となる。本発明において、電解質層を構成する電解質が液体電解質である場合には、可塑剤としての有機溶媒に、上記リチウム塩に加えて、リチウムと合金化しうる金属元素の陽イオンが溶解してなる形態となる。一方、ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。以下、これらの形態の電解質を構成する構成成分について、詳細に説明する。
液体電解質において、可塑剤として機能する有機溶媒について特に制限はなく、リチウムイオン二次電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。一例としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、γ−ブチロラクトン(GBL)、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,3−ジオキソランまたはその誘導体、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジエチルエーテル、1,3−プロパンスルトン、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、テトラヒドロフランまたはその誘導体、および1,2−ジエトキシエタンが挙げられる。ここで、1,3−ジオキソランの誘導体としては、例えば、2−メチル−1,3−ジオキソランなどが挙げられる。また、テトラヒドロフランの誘導体としては、例えば、2−メチルテトラヒドロフラン、2−フルオロテトラヒドロフランなどが挙げられる。なかでも、EC、DEC、PC、DMC、MECが好ましく、EC、DECがより好ましい。これらの有機溶媒は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。これらの有機溶媒を用いて液体電解質を構成することで、電池性能に優れた電池が提供されうる。
液体電解質において、有機溶媒に添加されるリチウム塩の種類は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiN(CFSO、LiBF、LiN(CFCFSO、LiCl、LiBr、LiI、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlClなどが挙げられる。なかでも、LiPF、LiClO、LiN(CFSO、LiBF、LiN(CFCFSOが好ましく、LiPF、LiClO、LiN(CFSOがより好ましい。これらのリチウム塩は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。有機溶媒へのリチウム塩の添加量についても特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例としては、液体電解質(=電解液)中のリチウムイオン濃度を1モル/L程度とすればよい。
上述したように、本発明において、上述した有機溶媒には、リチウムと合金化しうる金属元素の陽イオンが溶解している。ここで用いられうるリチウムと合金化しうる金属元素としては、例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、鉛(Pb)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)、バナジウム(V)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、金(Au)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、ガリウム(Ga)、タリウム(Tl)、ビスマス(Bi)、テルル(Te)が挙げられる。なかでも、本発明の作用効果をより一層発揮させうるという観点からは、Mg、Al、Sn、Zn、Ag、Pb、Ge、In、Vが好ましく、より好ましくはMg、Al、Sn、Zn、Ag、Pbであり、特に好ましくはMg、Al、Sn、Znである。これらの陽イオンが有機溶媒に溶解して液体電解質を構成する際の対イオン(陰イオン)について特に制限はない。ただし、好ましい形態としては、当該陽イオンの対イオンとして、上述したリチウム塩を構成する陰イオンが有機溶媒に溶解している形態が挙げられる。換言すれば、好ましい形態においては、液体電解質が、リチウムと合金化しうる金属元素の陽イオンの対イオンとして、Cl、Br、I、BF 、PF 、CFSO 、ClO 、CFCO 、AsF 、SbF 、AlCl 、N(CFSO 、またはN(CFCFSO が溶解したものである。なかでも、電池の容量特性をより一層向上させるという観点からは、フッ素を含有する陰イオンが、対イオンとして電解液中に含まれていないことが好ましく、より好ましくはPF 、ClO 、AlCl のみが対イオンとして電解液中に含まれ、特に好ましくはClO のみが対イオンとして電解液中に含まれる。なお、当該対イオンとしては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。かような形態とすることにより、従来電解液に求められていたリチウムイオンの伝導性に対する影響を最小限に抑えつつ、本発明の作用効果を十分に発揮させることが可能となる。有機溶媒への当該陽イオンの添加量についても、本発明の作用効果を発揮しうる限り、特に制限はない。一例を挙げると、液体電解質(=電解液)中の当該陽イオンの濃度は、好ましくは0.01〜2モル/Lであり、より好ましくは0.01〜0.5モル/Lであり、さらに好ましくは0.01〜0.2モル/Lである。当該陽イオンの濃度がかような範囲内の値であると、負極活物質として用いられるケイ素(Si)の劣化が効果的に抑制され、本発明の電池のサイクル耐久性が向上しうる。
一方、ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、電解液が注入されてなる構成を有する。当該電解液としては、上述した液体電解質が用いられる。従って、ここでは重複する説明を省略する。
マトリックスポリマーとして用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸エステル、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF−HFP)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらのポリマーには、リチウム塩が良好に溶解しうる。なかでも、PEO、PPOもしくはこれらの共重合体、またはPVdF−HFPがマトリックスポリマーとして用いられることが好ましい。
なお、ゲル電解質における電解液(マトリックスポリマー以外の成分)の含有割合は、特に制限されない。イオン伝導度などの観点から、数質量%〜98質量%程度であればよいが、好ましくは80質量%以上である。また、ゲル電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、マトリックスポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
なお、電解質層が液体電解質やゲル電解質から構成される本発明においては、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜が挙げられる。
[シール部]
シール部43は、双極型二次電池に特有の部材であり、電解質層35の漏れを防止する目的で単電池層36の周縁部に配置されている。このほかにも、電池内で隣り合う集電体同士が接触したり、積層電極の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起こったりするのを防止することもできる。図1に示す形態において、シール部43は、集電体31と電解質層35とで挟持されるように、単電池層35の周縁部に配置されている。シール部43の構成材料としては、例えば、PE、PPなどのポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ゴム、ポリイミドなどが挙げられる。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、製膜性、経済性などの観点からは、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
[正極および負極タブ]
電池(10、30)においては、電池外部に電流を取り出す目的で、集電体に電気的に接続されたタブ(正極タブ(18、38)および負極タブ(19、39))が外装材であるラミネートフィルム(22、42)の外部に取り出されている。
タブを構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用のタブとして従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。タブの構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極タブと負極タブとでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。また、双極型リチウムイオン電池30においては、最外層集電体(31a、31b)を延長することによりタブとしてもよいし、図2に示すように別途準備したタブを最外層集電体に接続してもよい。
[正極および負極リード]
図2に示す双極型リチウムイオン電池30においては、正極リード40および負極リード41をそれぞれ介して、集電体はタブと電気的に接続されている。ただし、上述したように最外層集電体(31a、31b)を延長してタブとする場合には、正極および負極リードは用いなくてもよい。
正極および負極リードの材料は、公知のリチウムイオン電池で用いられるリードを用いることができる。なお、電池外装材から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
[外装材]
外装材としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができる。そのほか、図1や図2に示すようなラミネートフィルム22を外装材として用いて、電池要素(17、37)をパックしてもよい。ラミネートフィルム22は、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンがこの順に積層されてなる3層構造として構成されうる。
[リチウムイオン二次電池の外観構成]
図3は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の代表的な実施形態である積層型の扁平電池の外観を表した斜視図である。
図3に示すように、積層型の扁平なリチウムイオン二次電池50は、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ58および負極タブ59が引き出されている。電池要素57は、電池外装材であるラミネートフィルム52によって包まれ、その周囲は熱融着されており、電池要素57は、正極タブ58および負極タブ59を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、電池要素57は、先に説明した図1や図2に示す電池(10、30)の電池要素(17、37)に相当する。すなわち、電池要素57は、正極(12、32)、電解質層(13、35)および負極(15、33)で構成される単電池層(16、36)が複数積層されたものである。
なお、本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、図1や図2に示すような積層型の扁平な形状のものに制限されない。巻回型のリチウムイオン二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよい。上記円筒型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限はない。
また、図3に示すタブ(58、59)の取り出しに関しても、特に制限はない。例えば、正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出すようにしてもよい。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
(製造方法)
本発明のリチウムイオン電池の製造方法について特に制限はない。所定のドーピング元素がドープされたケイ素(Si)を負極活物質として用い、リチウムと合金化しうる金属元素の陽イオンが有機溶媒に溶解した電解液を電解質として用いればよい。その他の具体的な形態については、従来公知の知見が適宜参照されうる。
なお、負極活物質層の形状が、上述したドープされたケイ素(Si)からなる薄膜である場合、負極は、負極活物質としてのドープされたケイ素(Si)を気相成膜プロセスにより集電体に蒸着させることにより形成されうる。かような気相成膜プロセスの具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の手法が適宜採用されうる。一例としては、真空蒸着法、スパッタリング法(例えば、RFスパッタリング法)、化学気相蒸着(CVD)法などが例示されうる。かような手法によれば、簡便な手法により均一な厚さを有する負極活物質層が形成されうる。
[組電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、複数個接続されて、組電池を構成しうる。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。また、本発明のリチウムイオン二次電池を用いることで、サイクル耐久性に優れ長期信頼性の高い組電池が提供されうる。なお、本発明の組電池では、本発明の非双極型リチウムイオン二次電池と双極型リチウムイオン二次電池とを用いて、これらを直列に、並列に、または直列と並列とに、複数個組み合わせて、組電池を構成することもできる。
図4は、本発明に係る組電池の代表的な実施形態の外観図である。図4Aは組電池の平面図であり、図4Bは組電池の正面図であり、図4Cは組電池の側面図である。
図4に示すように、本発明に係る組電池300においては、まず、本発明のリチウムイオン二次電池が複数、直列または並列に接続されて装脱着可能な小型の組電池250を形成している。そして、この装脱着可能な小型の組電池250をさらに複数、直列または並列に接続して、組電池300が構成されている。かような構成とすることで、高エネルギー密度、高出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池300が得られる。装脱着可能な小型の組電池250は、バスバーのような電気的な接続手段を用いて相互に接続され、接続治具310を用いて複数段積層される。何個の非双極型または双極型のリチウムイオン二次電池を接続して組電池250を作製するかや、何段の組電池250を積層して組電池300を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
[車両]
本発明のリチウムイオン二次電池や組電池は、車両の駆動用電源として用いられうる。本発明の二次電池または組電池は、例えば、自動車ならばハイブリット車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いられうる。これにより、高寿命で信頼性の高い自動車が提供されうる。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両であれば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
図5は、本発明の組電池300を搭載した電気自動車400の概念図である。図5に示すように、組電池300を電気自動車400に搭載するには、電気自動車400の車体中央部の座席下に搭載する。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができるからである。なお、組電池300を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームに搭載してもよい。以上のような組電池300を用いた電気自動車400は優れた耐久性を有し、長期間使用しても十分な出力を発揮しうる。
以上、本発明の好適な実施形態について示したが、本発明は、以上の実施形態に限られず、当業者によって種々の変更、省略、および追加が可能である。
以下、本発明による効果を、実施例および比較例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されない。
<実施例1−1>
(負極の作製)
負極集電体として、円形のニッケル箔(厚さ20μm、直径16mm)を準備した。この負極集電体の一方の面に、ホウ素ドープされたケイ素をターゲットとするRFスパッタリング法によりP型ケイ素(p−Si)からなる負極活物質層(厚さ100nm)を形成して、負極を作製した。スパッタリングは、真空度3.0×10−3Paの条件下にて、集電体を加熱することなく行なった。二次イオン質量分析により、負極活物質層のホウ素量は、1×10−18atom/cm程度であることが示された。
(電解液の調製)
有機溶媒であるエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との等体積混合液に、電解質塩であるLiPFおよび添加剤であるMg(ClOを添加して、電解液を調製した。この際、電解液におけるLiPFの濃度を1モル/Lとし、Li/Mgモル比が10となるように添加剤の添加量を調整した。
(電池の作製)
別途準備したポリオレフィン製セパレータ(厚さ20μm)に、上記で調製した電解液を浸漬させて、電解質層を作製した。そして、上記で作製した負極と、別途準備した円形の金属リチウム箔からなる正極(厚さ250μm、直径16mm、ステンレスディスクに貼り付けたもの)とで、負極活物質層が正極側を向くように、上記で作製した電解質層を挟持した。このようにして得られた積層体を、電池缶(SUS304製)の内部に配し、密封して、リチウムイオン二次電池を完成させた。
<実施例1−2>
添加剤としてMg(PFを用いたこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、リチウムイオン二次電池を作製した。
<実施例1−3>
添加剤としてZn(ClOを用い、Li/Znモル比が10となるように添加剤の添加量を調整したこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、リチウムイオン二次電池を作製した。
<実施例1−4>
添加剤としてAl(ClOを用い、Li/Alモル比が10となるように添加剤の添加量を調整したこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、リチウムイオン二次電池を作製した。
<実施例1−5>
添加剤としてSn(ClOを用い、Li/Snモル比が10となるように添加剤の添加量を調整したこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、リチウムイオン二次電池を作製した。
<比較例1−1>
電解液に添加剤を添加しなかったこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、リチウムイオン二次電池を作製した。
<比較例1−2>
添加剤としてCa(ClOを用い、Li/Caモル比が10となるように添加剤の添加量を調整したこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、リチウムイオン二次電池を作製した。なお、Ca(カルシウム)はリチウムと合金化しない金属元素である。
<充放電サイクル試験(1)>
上記の実施例1−1〜1−5、並びに比較例1−1および1−2で作製したリチウムイオン二次電池について、充放電サイクル試験(1)を行なった。
具体的には、充電は、1Cレートの定電流定電圧条件で電池電圧が0.01Vに達するまで行ない、放電は、1Cレートの定電流条件で電池電圧が2Vに達するまで行なった。この充放電サイクルを90サイクル繰り返し、その後の放電容量を測定した。その結果を下記の表1に示す。なお、比較例1−2については、50サイクル終了時に放電容量が100mAh/gを下回ったため、その後の充放電を行なわなかった。
表1に示す結果から、ドープされたケイ素を負極活物質として用い、液体電解質としてリチウムと合金化しうる元素のイオンが有機溶媒に溶解したものを用いることで、90サイクル後の放電容量が高い値に維持されうることが示される。すなわち、本発明によれば、リチウムイオン二次電池において、サイクル耐久性を効果的に向上させうる手段が提供されうる。
<実施例2>
P型ケイ素(p−Si)からなる負極活物質層の厚さを1000nmとしたこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、リチウムイオン二次電池を作製した。
<比較例2>
電解液に添加剤を添加しなかったこと以外は、上述した実施例2と同様の手法により、リチウムイオン二次電池を作製した。
<充放電サイクル試験(2)>
上記の実施例2および比較例2で作製したリチウムイオン二次電池について、上記充放電サイクル試験(1)と同様の手法により、充放電サイクル試験(2)を行なった。ただし、試験(2)では充放電サイクルを50サイクル繰り返し、5サイクル後および50サイクル後の放電容量を測定した。その結果を下記の表2に示す。
一般に、ケイ素(Si)を負極活物質として用いた場合、充放電時の膨張収縮に起因する活物質の劣化は、活物質のサイズが大きく(厚く)なるほど顕著に発現する。試験(2)では、活物質層の厚さを実施例1と比較して10倍に設定し、膨張収縮に起因する劣化がより発現し易い条件で充放電サイクル試験を行なった。
その結果、表2に示す結果から、活物質の劣化がより起こり易い(活物質層が厚い)条件下においても、本発明の構成とすることにより、5サイクル後および50サイクル後の放電容量が高い値に制御されうることが示される。
<各種分析>
上述した充放電サイクル試験(1)終了後の実施例1−1および比較例1−1の負極活物質層について、各種の分析を行なった。
(SEM観察)
負極活物質層の表面状態を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。具体的には、株式会社キーエンス製のSEM(VE−7800)を用い、電子線の加速電圧を2kVとして、負極活物質層の表面を観察した。
上記分析の結果を図6に示す。図6(a)は、比較例1−1で作製した電池の負極活物質層の表面状態を観察した写真である。図6(b)は、実施例1−1で作製した電池の負極活物質層の表面状態を観察した写真である。図6(a)および図6(b)のそれぞれについて、上の写真は倍率500倍で撮影したものであり、下の写真は倍率3300倍で撮影したものである。
図6(a)に示す結果から、比較例1−1の負極活物質層であるp−Si薄膜の表面は細かくひび割れており、充放電時の膨張収縮に起因する活物質の劣化が顕著に発現していることがわかる。これに対し、実施例1−1の負極活物質層であるp−Si薄膜の表面は、充放電サイクル試験後にもかかわらず、平滑な状態を維持していた。このことが、90サイクル後にも比較例と比較して高い放電容量を維持できた原因であると考えられる。
(TEM観察)
負極活物質層の表面近傍の断面状態を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した。なお、当該観察は、充放電サイクル試験を行なう前の負極活物質層についても、予め同様に行なっておいた。具体的には、まず、各負極活物質層(p−Si薄膜)の上部に、カーボンおよび白金をそれぞれ10nmの厚さにスパッタリングにより製膜し、その後樹脂により被覆して、保護層を形成した。次いで、得られた積層体を収束イオンビーム加工装置(セイコーインスツル株式会社製、SMI19200)を用い、加速電圧を30kVとして超薄膜化して、測定試料を作製した。得られた測定試料について、FEI社製のTEM(Tecnai G2 F20)を用い、加速電圧を200kVとして、負極活物質層の表面近傍の断面状態を観察した。
上記分析の結果を図7に示す。図7(a)は、充放電サイクル試験を行なう前の負極活物質層の断面状態を観察した写真である。図7(b)は、比較例1−1で作製した電池の充放電サイクル試験後の負極活物質層の断面状態を観察した写真である。図7(c)は、実施例1−1で作製した電池の充放電サイクル試験後の負極活物質層の断面状態を観察した写真である。
図7(a)に示す結果から、充放電サイクル試験前において、負極活物質層であるp−Si薄膜は一様で平坦な連続体として形成されていたことがわかる。そして、図7(b)と図7(a)との比較から、比較例1−1では、充放電サイクルによって、集電体と活物質層との界面に空孔が存在することとなり、p−Si薄膜からなる負極活物質層が激しく乱れた状態となっていることがわかる。これに対し、実施例1−1では、充放電サイクル後であっても、集電体と活物質層との界面における空孔の発生はわずかなものであり、活物質層の表面も比較的平坦な状態が維持されていることがわかる。
(AES分析)
負極活物質層の表面からの深さ方向における元素分布を、オージェ電子分光分析法(AES法)により評価した。具体的には、電界放射型オージェ電子分光分析装置(PHI社製、Model−680)を用いて、充放電サイクル試験終了後の負極活物質層の表面からの深さ方向の元素分布を評価した。この際、電子線の加速電圧は10kVとし、イオン銃の加速電圧は3kVとし、スパッタリングレートは19nm/minとして、分析を行なった。
上記分析の結果を図8に示す。図8(a)は、比較例1−1で作製した電池の充放電サイクル試験後の負極活物質層についての評価結果である。図8(b)は、実施例1−1で作製した電池の充放電サイクル試験後の負極活物質層についての評価結果である。
図8(a)に示す結果から、比較例1−1では、充放電サイクル後の負極活物質層を構成するp−Si薄膜におけるケイ素の割合が、深くなるにつれて低下していることがわかる。このことは、上述したTEM観察の結果とも整合しており、充放電による劣化によって、ケイ素が失われてしまうことを示している。これに対し、図8(b)に示す結果から、実施例1−1では、充放電サイクル後であっても深さ方向におけるケイ素の割合に大きな変化は見られなかった。このことは、実施例1−1では負極活物質層(p−Si薄膜)の充放電による劣化が比較的少なかったことを示している。
(XPS分析)
上記表1に示すように、Mg(ClOを添加剤として用いた場合(実施例1−1)には、Mg(PFを添加剤として用いた場合(実施例1−2)と比較して、90サイクル後の放電容量がより高い値に維持された。その原因を探索するために、充放電サイクル試験終了後の実施例1−1および実施例1−2で作製した電池について、負極活物質層の表面における各元素の結合状態を、X線光電子分光分析法(XPS法)により評価した。具体的には、複合型表面分析装置(PHI社製、ESCA−5600)を用いて、充放電サイクル試験後の負極活物質層表面における各元素の結合状態を評価した。この際、X線源としてはモノクロ化Al−Kαを用い、光電子の取り出し角度は45度とし、測定深さは4nmとした。
上記のXPS法による分析結果のうち、マグネシウムの1s電子(Mg1s)の状態分析結果を図9に示す。図9に示す結果によると、実施例1−2(添加剤=Mg(PF)に対応するグラフは、実施例1−1(添加剤=Mg(ClO)に対応するグラフと比較して、高エネルギー側にシフトしている。このことは、実施例1−2で作製した電池の負極活物質層(p−Si薄膜)の表面では、MgがFなどの電子吸引性の高い元素とより多く結合していることを示す。これにより、表1に示すような放電容量の点での違いがもたらされたのではないかと考えられる。従って、リチウムと合金化しうる金属元素の陽イオンの対イオンとしてフッ素を含有しない陰イオン(例えば、ClO イオン)を採用すると、サイクル耐久性の改善に有効であると考えられる。
本発明のリチウムイオン二次電池の代表的な実施形態である、双極型でない積層型のリチウムイオン二次電池の全体構造を模式的に表した断面概略図である。 本発明のリチウムイオン二次電池の他の代表的な実施形態である、双極型の積層型リチウムイオン二次電池の全体構造を模式的に表した概略断面図である。 本発明に係るリチウムイオン二次電池の代表的な実施形態である積層型の扁平電池の外観を表した斜視図である。 本発明に係る組電池の代表的な実施形態の外観図である。図4Aは組電池の平面図であり、図4Bは組電池の正面図であり、図4Cは組電池の側面図である。 本発明の組電池300を搭載した電気自動車400の概念図である。 実施例におけるSEM観察の分析結果を示す写真である。図6(a)は、比較例1−1で作製した電池の負極活物質層の表面状態を観察した写真である。図6(b)は、実施例1−1で作製した電池の負極活物質層の表面状態を観察した写真である。 実施例におけるTEM観察の分析結果を示す写真である。図7(a)は、充放電サイクル試験を行なう前の負極活物質層の断面状態を観察した写真である。図7(b)は、比較例1−1で作製した電池の充放電サイクル試験後の負極活物質層の断面状態を観察した写真である。図7(c)は、実施例1−1で作製した電池の充放電サイクル試験後の負極活物質層の断面状態を観察した写真である。 実施例におけるAES分析の結果を示すグラフである。図8(a)は、比較例1−1で作製した電池の充放電サイクル試験後の負極活物質層についての評価結果である。図8(b)は、実施例1−1で作製した電池の充放電サイクル試験後の負極活物質層についての評価結果である。 実施例におけるXPS法による分析結果のうち、マグネシウムの1s電子(Mg1s)の状態分析結果を示すグラフである。
符号の説明
10 リチウムイオン二次電池、
11 正極集電体、
11a 最外層正極集電体、
12、32 正極活物質層、
13、35 電解質層、
14 負極集電体、
15、33 負極活物質層、
16、36 単電池層、
17、37、57 電池要素、
18、38、58 正極タブ、
19、39、59 負極タブ、
20、40 正極端子リード、
21、41 負極端子リード、
22、42、52 ラミネートフィルム、
30 双極型リチウムイオン二次電池、
31 集電体、
31a 正極側最外層集電体、
31b 負極側最外層集電体、
34 双極型電極、
34a、34b 最外層に位置する電極、
43 シール部(絶縁層)、
50 リチウムイオン二次電池、
250 小型の組電池、
300 組電池、
310 接続治具、
400 電気自動車。

Claims (9)

  1. 集電体の表面に正極活物質を含む正極活物質層が形成されてなる正極と、電解質を含む電解質層と、集電体の表面に負極活物質を含む負極活物質層が形成されてなる負極とが、前記正極活物質層と前記負極活物質層とが向き合うようにこの順に積層されてなる少なくとも1つの単電池層を有する電池要素を含むリチウムイオン二次電池であって、
    前記電解質が、リチウムと合金化しうる金属元素の陽イオンが有機溶媒に溶解した電解液を含み、
    前記負極活物質が、周期律表における13族または15族の元素からなる群から選択される1種または2種以上のドーピング元素がドープされてなるケイ素を含む、リチウムイオン二次電池。
  2. 前記リチウムと合金化しうる金属元素の陽イオンが、マグネシウム、アルミニウム、スズ、亜鉛、銀、鉛、ゲルマニウム、インジウム、およびバナジウムからなる群から選択される1種または2種以上の元素の陽イオンである、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
  3. 前記ドーピング元素が、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、窒素、リン、ヒ素、アンチモン、およびビスマスからなる群から選択される1種または2種以上の元素である、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
  4. 前記負極は、前記負極活物質が気相成膜プロセスにより集電体の表面に蒸着されることにより形成されたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
  5. 前記活物質層の積層方向の厚さが100nm〜100μmである、請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
  6. 前記負極活物質が、1nm〜100μmの平均粒子径を有する粒子状活物質であり、前記負極活物質層が、前記粒子状活物質、バインダおよび導電助剤を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
  7. 前記電解液が、フッ素を含有する陰イオンを含まない、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
  8. 前記電解液が、前記リチウムと合金化しうる金属元素の陽イオンの対イオンとして、Cl、Br、I、BF 、PF 、CFSO 、ClO 、CFCO 、AsF 、SbF 、AlCl 、N(CFSO 、およびN(CFCFSO からなる群から選択される1種または2種以上の陰イオンが溶解したものである、請求項1〜のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
  9. 前記有機溶媒が、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソランまたはその誘導体、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジエチルエーテル、1,3−プロパンスルトン、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、テトラヒドロフランまたはその誘導体、および1,2−ジエトキシエタンからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1〜のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
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