しかしながら、特許文献1の方法では、加熱開始直後の吸熱部の過冷却により結露が発生し、定着後の記録媒体を濡らしてしまう。また、凍結が生じることにより吸熱部における熱交換効率が低下し、熱吸収を安定して行うことができない。一方、結露や凍結が生じないようにヒートポンプの動作を徐々に上げていくことも考えられるが、ウォームアップ時間が長くなるという問題がある。さらに、熱変換装置からの熱供給に加えて二次電池からも電力を供給して加熱することも記載されているが、加熱開始直後からヒートポンプを駆動させた場合はやはり吸熱部に結露が発生するおそれがあった。
また、特許文献2の方法では、蓄熱部材及び蓄熱部材移動装置を別途設けるため、装置の大型化に繋がるとともに蓄熱部材の動作制御に複雑な機構が必要となっていた。さらに、蓄熱部材と吸熱部との間で熱の授受が行われている間、ヒートポンプは定着部の加熱効率の向上に寄与していないという欠点もあった。
本発明は、上記問題点に鑑み、定着部により加熱された記録媒体の冷却をヒートポンプの吸熱部を用いて行うとともに、吸熱部で吸収された熱を用いて定着部の加熱を行う画像形成装置において、ヒートポンプの起動時における吸熱部の結露や凍結を効果的に防止できる画像形成装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために本発明は、未定着トナー像が担持された記録媒体を加熱及び加圧する定着部と、該定着部の記録媒体搬送方向下流側に配置され前記定着部を通過した記録媒体の熱を吸収する第1吸熱部と、を備えた定着装置と、前記定着部および前記第1吸熱部を含めて構成され、前記吸熱部で吸収した熱を作動流体の循環によって定着部に移動放熱させるヒートポンプと、該ヒートポンプの駆動を制御する制御手段と、を備えた画像形成装置において、前記ヒートポンプは、記録媒体の搬送経路外に配置された第2吸熱部と、該第2吸熱部または前記第1吸熱部のいずれかに作動流体を循環させる切換弁と、を有し、前記第1吸熱部の温度を検知する吸熱部温度センサが設けられており、前記制御手段は、前記ヒートポンプの駆動開始時に前記吸熱部温度センサにより検知された前記第1吸熱部の温度に応じて前記第1吸熱部または前記第2吸熱部のいずれかを選択して作動流体を循環させるとともに、前記第2吸熱部を選択した場合は記録媒体の搬送が開始された後に作動流体の循環経路を前記第1吸熱部に切り換えることを特徴としている。
また本発明は、上記構成の画像形成装置において、前記定着部の温度を検知する定着部温度センサが設けられており、前記制御手段は、前記定着部温度センサの検知温度に基づいて作動流体の循環経路を前記第1吸熱部に切り換えることを特徴としている。
また本発明は、上記構成の画像形成装置において、前記制御手段は、前記吸熱部温度センサの検知温度に基づいて作動流体の循環経路を前記第1吸熱部に切り換えることを特徴としている。
また本発明は、上記構成の画像形成装置において、前記制御手段は、前記ヒートポンプの駆動開始時における前記吸熱部温度センサの検知温度が環境温度以下である場合は前記第2吸熱部を選択して作動流体を循環させ、前記吸熱部温度センサの検知温度が環境温度を超える場合は前記第1吸熱部を選択して作動流体を循環させることを特徴としている。
また本発明は、上記構成の画像形成装置において、前記定着部を加熱する加熱部材が設けられており、前記制御手段は、前記ヒートポンプと前記加熱部材とを併用して前記定着部の温度を制御することを特徴としている。
また本発明は、上記構成の画像形成装置において、前記定着部及び前記第1吸熱部は、記録媒体の搬送速度と略等速で回動可能な無端状ベルトと、該無端状ベルトに内接するとともに前記ヒートポンプの作動流体を循環させる流路が接続された熱交換部材と、前記無端状ベルトを介して前記熱交換部材に所定の圧力で当接して記録媒体を挿通させるニップ部を形成する加圧ローラとを含むことを特徴としている。
また本発明は、上記構成の画像形成装置において、前記熱交換部材の内部には前記ヒートポンプの作動流体が通過する循環経路が形成されており、前記循環経路内には作動流体の流れ方向に沿って多数のリブが設けられていることを特徴としている。
また本発明は、上記構成の画像形成装置において、前記リブは、前記加圧ローラの圧接方向に前記熱交換部材の内部を貫通するように形成されることを特徴としている。
また本発明は、上記構成の画像形成装置において、前記吸熱部に形成される吸熱ニップ部のニップ幅は、前記定着部に形成される定着ニップ部のニップ幅よりも大きいことを特徴としている。
また本発明は、上記構成の画像形成装置において、記録媒体の種類に応じて前記吸熱ニップ部のベルト周方向のニップ幅を変化させることを特徴としている。
また本発明は、上記構成の画像形成装置において、前記無端状ベルトを加熱する加熱部材として、前記無端状ベルトと前記熱交換部材との間に配置され前記無端状ベルトの幅方向全域に接触するヒータを設けたことを特徴としている。
また本発明は、上記構成の画像形成装置において、前記無端状ベルトが金属製または金属薄膜層を有するベルトであり、前記無端状ベルトを加熱する加熱部材として、電磁誘導により前記無端状ベルトを加熱する電磁誘導コイルを設けたことを特徴としている。
本発明の第1の構成によれば、ヒートポンプの起動時に第1吸熱部の温度が所定温度以下である場合はヒートポンプの作動流体を第2吸熱部に循環させることにより、第1吸熱部の過冷却による結露の発生を効果的に防止することができる。また、記録媒体の搬送が開始された後に循環経路が第2吸熱部から第1吸熱部へ切り換えられるため、第1吸熱部の熱を効率良く回収して定着部の加熱に利用することができる。
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の画像形成装置において、定着部の温度を検知する定着部温度センサの検知温度に基づいて作動流体の循環経路を第1吸熱部に切り換えることにより、定着部が定着可能温度まで加熱されたか否かを確実に判断し、記録媒体の搬送の開始を確実に検知して循環経路を第1吸熱部に切り換えることができる。
また、本発明の第3の構成によれば、上記第1の構成の画像形成装置において、吸熱部温度センサの検知温度に基づいて作動流体の循環経路を第1吸熱部に切り換えることにより、吸熱部が所定温度まで上昇した時点で循環経路を第1吸熱部に切り換えることができるため、第1吸熱部の過冷却による結露をより確実に防止できる。
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1乃至第3のいずれかの構成の画像形成装置において、ヒートポンプの起動時に第1循環経路または第2循環経路の選択を行う際の、第1吸熱部の検知温度の閾値を環境温度とすることで、装置の使用環境に係わらず第1吸熱部における結露の発生を効果的に防止できる。
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1乃至第4のいずれかの構成の画像形成装置において、定着部を加熱する加熱部材を設け、ヒートポンプと加熱部材とを併用して前記定着部の温度を制御することにより、ヒートポンプの起動時に加熱部材にも通電することで、定着部を定着可能温度まで速やかに昇温することができ、装置のウォームアップ時間を短縮することができる。また、厚紙等の熱容量の大きい記録媒体を使用する場合は加熱部材を補助加熱手段として使用することで、定着部の安定した温度制御が可能となる。
また、本発明の第6の構成によれば、上記第1乃至第5のいずれかの構成の画像形成装置において、定着部及び吸熱部を、記録媒体の搬送速度と略等速で回動可能な無端状ベルトと、該無端状ベルトに内接するとともにヒートポンプの作動流体を循環させる流路が接続された熱交換部材と、無端状ベルトを介して熱交換部材に所定の圧力で当接して記録媒体を挿通させるニップ部を形成する加圧ローラとを含む構成とすることにより、加熱ローラを用いた構成と比較して熱容量を低下できるため、定着可能温度に達するまでのウォームアップ時間をより短縮可能となる。また、熱交換部材を固定部材として無端状ベルトの押圧部材と兼用することで、部品点数も少なくなり、熱交換部材と流路との連結部における作動流体の漏れも簡単に且つ確実に防止することができる。
また、本発明の第7の構成によれば、上記第6の構成の画像形成装置において、熱交換部材の内部にヒートポンプの作動流体が通過する多数のリブが設けられた循環経路を形成することにより、熱交換部材と作動流体との接触面積を大きくして熱交換効率を高めることができる。
また、本発明の第8の構成によれば、上記第7の構成の画像形成装置において、加圧ローラの圧接方向に熱交換部材の内部を貫通するようにリブを形成することにより、熱交換部材を押圧部材として兼用する場合に必要な強度を確保しつつ、熱交換部材の肉厚を薄くして熱容量を小さくすることができる。
また、本発明の第9の構成によれば、上記第6乃至第8のいずれかの構成の画像形成装置において、吸熱部に形成される吸熱ニップ部のニップ幅を、定着部に形成される定着ニップ部のニップ幅よりも大きくすることにより、吸熱部での吸熱効率が高くなるため、ヒートポンプの熱交換効率を向上させることができる。
また、本発明の第10の構成によれば、上記第9の構成の画像形成装置において、記録媒体の種類に応じて吸熱ニップ部のベルト周方向のニップ幅を変化させることにより、定着部と吸熱部での熱交換効率のバランスを記録媒体の熱容量に応じて適切に調整することができる。
また、本発明の第11の構成によれば、上記第6乃至第10のいずれかの構成の画像形成装置において、無端状ベルトを加熱する加熱部材として、無端状ベルトと熱交換部材との間に配置され無端状ベルトの幅方向全域に接触するヒータを用いることにより、無端状ベルトを加熱する加熱部材の構成を簡素化、小型化することができる。
また、本発明の第12の構成によれば、上記第6乃至第10のいずれかの構成の画像形成装置において、無端状ベルトを金属製または金属薄膜層を有するベルトとし、無端状ベルトを加熱する加熱部材として電磁誘導により無端状ベルトを加熱する電磁誘導コイルを用いることにより、定着部の昇温性能を高めてウォームアップ時間をより短縮することができる。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の画像形成装置の概略断面図である。プリンタ100では、コピー動作を行う場合、装置本体内の画像形成部Pにおいて、不図示のパーソナルコンピュータ(以下、パソコンと略す)から送信された原稿画像データに基づく静電潜像が形成され、現像装置4により静電潜像にトナーが付着されてトナー像が形成される。この現像装置4へのトナーの供給はトナーコンテナ5から行われる。そして、このようなプリンタ100では、感光体ドラム1を図1において時計回りに回転させながら、感光体ドラム1に対する画像形成プロセスが実行される。
画像形成部Pには、感光体ドラム1の回転方向(時計回り)に沿って、帯電部2、露光ユニット3、現像装置4、転写ローラ6、クリーニング装置7、及び除電装置(図示せず)が配設されている。感光体ドラム1は、例えばアルミドラムに感光層が積層されたものであり、帯電部2により表面を帯電させるようになっている。そして、後述する露光ユニット3からの光ビームを受けた表面に、帯電を減衰させた静電潜像を形成する。なお、上記の感光層は、特に限定されるものではないが、例えば耐久性に優れるアモルファスシリコン(a−Si)や、帯電時のオゾンの発生が少なく高解像度の画像が得られる有機感光層(OPC)等が好ましい。
帯電部2は、感光体ドラム1の表面を均一に帯電させるものである。例えば帯電部2として、細いワイヤー等を電極として高電圧を印加することにより放電するコロナ放電装置が用いられる。なお、コロナ放電装置に代えて、帯電ローラに代表される帯電部材を感光体表面に接触させた状態で電圧を印加する接触式の帯電装置を用いても良い。露光ユニット3は、画像データに基づいて光ビーム(例えばレーザビーム)を感光体ドラム1に照射し、感光体ドラム1の表面に静電潜像を形成する。
現像装置4は、感光体ドラム1の静電潜像にトナーを付着させてトナー像を形成させるものである。なお、ここでは磁性を有するトナー成分のみから構成される一成分現像剤(以下、単にトナーともいう)が現像装置4に収容されている。転写ローラ6は、感光体ドラム1表面に形成されたトナー像を乱さずに用紙搬送路11を搬送されてくる用紙に転写する。クリーニング装置7は、感光体ドラム1の長手方向に線接触するクリーニングローラやブレード材等を備えており、トナー像が用紙に転写された後に、感光体ドラム1の表面に残った残留トナーを除去する。
そして、予めパソコン等から入力された画像データに基づいて露光ユニット3が感光体ドラム1上にレーザビーム(光線)を発することで、その画像データに基づく静電潜像を感光体ドラム1表面に形成する。その後、現像装置4が静電潜像にトナーを付着させてトナー像を形成する。
上記のようにトナー像が形成された画像形成部Pに向けて、用紙収容部10から用紙が用紙搬送路11及びレジストローラ対13を経由して所定のタイミングで搬送され、画像形成部Pにおいて転写ローラ6により感光体ドラム1表面のトナー像が用紙に転写される。そして、トナー像が転写された用紙は感光体ドラム1から分離され、定着装置8に搬送されて加熱及び加圧されることで用紙にトナー像が定着される。
定着装置8は、トナー像が転写された用紙を加熱及び加圧する定着部8aと、定着部8aの用紙搬送方向下流側に配置される吸熱部8bとで構成されている。吸熱部8bは、定着部8aで加熱された用紙から放出される熱を吸収して用紙を冷却するとともに、吸収した熱をヒートポンプ20の圧縮機33(図2参照)を介して定着部8aに供給する。定着装置8を通過した用紙は、排出ローラ対14を通過して用紙排出部15に排出される。
図2は、本発明の第1実施形態の画像形成装置に搭載される定着装置及びヒートポンプの構成を示す模式断面図であり、図3及び図4は、図2における定着部及び吸熱部の拡大図である。図2及び図3に示すように、定着部8aは、図中時計回りに回動する無端状ベルト21aと、無端状ベルト21aに所定の圧力で当接して定着ニップ部N1を形成する加圧ローラ23aと、無端状ベルト21aに内接する熱交換部材25aと、無端状ベルト21aの表面温度を検知する定着部サーミスタ60aと、を含む構成である。熱交換部材25aにはヒートポンプ20の作動流体(冷媒)を循環させるための流路30cおよび30dが連結されている。また、熱交換部材25aは定着ニップ部N1を形成するための押圧部材を兼ねている。
図2及び図4に示すように、吸熱部8bは図3に示す定着部8aとほぼ同一の構成であり、図中時計回りに回動する無端状ベルト21bと、無端状ベルト21bに所定の圧力で当接して吸熱ニップ部N2を形成する加圧ローラ23bと、無端状ベルト21bに内接する熱交換部材25bと、無端状ベルト21bの表面温度を検知する吸熱部サーミスタ60bと、を含む。熱交換部材25bにはヒートポンプ20の作動流体を循環させるための流路30aおよび30bが連結されている。また、熱交換部材25bは吸熱ニップ部N2を形成するための押圧部材を兼ねている。
ヒートポンプ20は吸熱部(蒸発器)8bで吸収された熱を定着部(凝縮器)8aに付与して加熱効率を高めるものである。図5は、ヒートポンプ20の動作を示すT−S線図(温度変化とエントロピ変化との関係を示すグラフ)である。図2及び図5を用いて、ヒートポンプ20の構成及び動作について説明する。図2に示すように、ヒートポンプ20は、蒸発器8b、圧縮機33、凝縮器8a、及び膨張弁37を備え、作動流体として冷媒を使用する蒸気圧縮冷凍サイクルのヒートポンプである。
吸熱部8bが吸収した熱量Q2は、熱交換部材25bを介して作動流体に供給される。蒸発器(吸熱部)8bは、この作動流体を蒸発させて乾き飽和蒸気Aにし、流路30bを介して圧縮機33に送る。圧縮機33は、蒸発器8bによって蒸発させられた作動流体(乾き飽和蒸気A)を凝縮器(定着部)8aにおける所望温度に対する飽和蒸気圧以上の圧力まで圧縮して過熱飽和蒸気Bにし、流路30cを介して凝縮器8aに送る。凝縮器8aに送られた過熱飽和蒸気Bは熱交換部材25aを介して無端状ベルト21aに熱量Q1を供給(放出)する。これにより作動流体は冷却され、液化して飽和液Cとなる。この飽和液Cは流路30dを介して膨張弁37に送られ、膨張弁37によって等エンタルピ膨張して湿り蒸気Dとなり、流路30aを介して蒸発器8bに送られ、上記した熱サイクルを繰り返す。
このヒートポンプ20を使用することにより、吸熱部8bで用紙Sから放出される熱を吸収して吸熱部8bよりも高温の定着部8aへ熱を供給し、無端状ベルト21aの加熱に利用することができる。これにより、電力によって加熱する加熱手段(ハロゲンヒータ等)を用いて無端状ベルト21aを加熱する場合に比べて、加熱電力を削減できる。
また、本発明に用いられるヒートポンプ20は、第1吸熱部8bと圧縮機33との間で作動流体を循環させる流路30bにバイパス流路30eを連結し、流路30bとバイパス流路30eとの連結部に切換弁29aを配置している。また、バイパス流路30eはアルミ合金、銅合金等の熱伝導率の高い材料で形成された第2吸熱部26に連結されている。第2吸熱部26を通過したバイパス流路30eは、第1吸熱部8bと膨張弁37との間で作動流体を循環させる流路30aに連結され、流路30aとバイパス流路30eとの連結部に切換弁29bを配置している。
第2吸熱部26は内部に多数のリブ27が形成されており、バイパス流路30e内を循環する作動流体はリブ27によって形成される多数の隙間を通過する。この構成により、第2吸熱部26と作動流体との接触面積が大きくなるため、第2吸熱部26と作動流体との間で効率良く熱交換が行われる。また、第2吸熱部26の表面には外気からの吸熱効率を高めるために多数の吸熱フィン28が形成されている。さらに、ファン(図示せず)を用いて吸熱効果を高めても良い。
無端状ベルト21a、21bは、最内側(熱交換部材25a、25b側)に設けられたベース層や最外側(加圧ローラ23a、23b側)に設けられた離型層を含む複数の層が積層されて成る無端状のベルトである。
ベース層としては、ニッケル等の金属をメッキ、又は圧延処理した金属層、或いはポリイミドフィルム等の合成樹脂層が用いられる。離型層としては、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等のフッ素系樹脂が用いられ、塗料の塗布やチューブを被せることによって形成されている。離型層は、PFAチューブであれば10〜50μm、フッ素樹脂塗料であれば10〜30μm程度の厚さが適当である。
また、ベース層と離型層との間に、弾性部材層として厚さ100〜1000μm程度のシリコンゴム層を設けても良い。この構成によれば、弾性部材が用紙上の未定着トナー像を包み込んで、ソフトに定着できる。その結果、画像の高画質化を図ることが可能となり、高性能な定着装置を得ることができる。
上記のような構成の無端状ベルト21aを使用することにより、加熱ローラを用いた構成と比較して低熱容量化を図ることが可能である。その結果、高い加熱効率を得ることができ、無端状ベルト21aの表面が定着可能な温度に達するまでのウォームアップ時間を、より短くすることが可能である。
また、無端状ベルト21aのベース層と離型層との間に蓄熱層を設けて熱交換部材25aから得た熱を逃がさないようにし、且つ無端状ベルト21aの表面の温度を均一に保持することもできる。その結果、さらに高い加熱効率が得られるとともに、ウォームアップ時間の短縮及び消費電力の低減効果を高めることが可能となる。
蓄熱層は、シリカやアルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物の粉末をフィラーとして配合して熱伝導率を高めたシリコンゴムや、アルミ、銅、ニッケル等の熱伝導率の高い金属で構成され、これらをチューブ状に成型したものを被覆する、或いはメッキするなどして設けられている。蓄熱層は、シリコンゴムのように弾性がある材料であれば良いが、金属で構成した場合、肉厚を厚くし過ぎるとベルトの硬度が上がり、トナーを溶融するのに必要なニップ量が得られなくなってしまう。したがって、蓄熱層の厚さは、10〜1000μm、望ましくは50〜500μmとする。
また、無端状ベルト21a、21bの幅方向の両端部には無端状ベルト21a、21bを一定の形状(ここでは円筒状)に保持するフランジ部材(図示せず)が嵌め込まれている。フランジ部材は定着装置8内に固定されており、無端状ベルト21a、21bはフランジ部材の外周面に沿って摺動する。
また、無端状ベルト21a、21bの表面に接するように定着部サーミスタ60a、吸熱部サーミスタ60b(図3、図4参照)が備えられている。この定着部サーミスタ60a及び吸熱部サーミスタ60bにより無端状ベルト21a、21bの温度を検知し、ヒートポンプ20のON/OFFを制御することによって定着温度の制御を行うとともに、切換弁29a、29bを作動させてヒートポンプ20内を循環する作動流体の循環経路の切り換えを行う。なお、制御手順の詳細については後述する。
加圧ローラ23a、23bは、ステンレス等からなる金属製のシャフトの外側に、スポンジシリコンゴム等から成る弾性層が設けられている。この加圧ローラ23a、23bが無端状ベルト21a、21bを介して熱交換部材25a、25bと所定の圧力で当接することで、用紙Sを挿通させる定着ニップ部N1及び吸熱ニップ部N2を形成する。加圧ローラ23a、23bは、駆動モータ及び駆動ギヤ(いずれも図示せず)によって、その周速が用紙の搬送速度と略同じになるように回転駆動される。また、定着ニップ部N1、吸熱ニップ部N2においてそれぞれ加圧ローラ23a、23bに当接する無端状ベルト21a、21bは加圧ローラ23a、23bに従動して用紙の搬送速度と略同じ速度で回動する。
熱交換部材25a、25bは、アルミ合金、銅合金等の熱伝導率の高い材料で形成することが好ましい。これにより、熱交換部材25a、25bの熱伝導率が良くなり、作動流体の熱が効率良く無端状ベルト21aに伝わるため、定着装置8のウォームアップ時間を短縮することができる。また、熱交換部材25a、25bの内部には加圧ローラ23a、23bの圧接方向(ここでは垂直方向)に多数のリブ27が形成されている。
図6は、熱交換部材25aの平面図である。図6に示すように、熱交換部材25aの両端部には流路30cおよび30dが連結されており、流路30cおよび30d内を循環する作動流体はリブ27によって形成される多数の隙間を通過する。この構成により、熱交換部材25aと作動流体との接触面積が大きくなるため、熱交換部材25aと作動流体との間で効率良く熱交換が行われる。
また、加圧ローラ23aの圧接方向にリブ27を形成することにより、熱交換部材25aの強度も向上するため、定着ニップ部N1を形成する押圧部材として必要な強度を確保しつつ、熱交換部材25aの肉厚を薄くして熱容量を小さくすることができる。
さらに、無端状ベルト21aのみが回転するベルト定着方式を採用することで、熱交換部材25aを固定部材とすることができる。これにより、熱交換部材25aと流路30cおよび30dとの連結部における作動流体の漏れも簡単に且つ確実に防止することができる。なお、ここでは定着部8aに配置される熱交換部材25aの構成について説明したが、吸熱部8bに配置される熱交換部材25bの構成も全く同様である。
次に、本発明の画像形成装置の制御経路について説明する。図7は、第1実施形態の画像形成装置に用いられる制御経路の一例を示すブロック図である。なお、プリンタ100を使用する上で装置各部の様々な制御がなされるため、プリンタ100全体の制御経路は複雑なものとなる。そこで、ここでは制御経路のうち、本発明の実施に必要となる部分を重点的に説明する。
制御部90は、中央演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)91、読み出し専用の記憶部であるROM(Read Only Memory)92、読み書き自在の記憶部であるRAM(Random Access Memory)93、一時的に画像データ等を記憶する一時記憶部94、カウンタ95、プリンタ100内の各装置に制御信号を送信したり操作部50からの入力信号を受信したりする複数(ここでは2つ)のI/F(インターフェイス)96を少なくとも備えている。また、制御部90は、装置本体内部の任意の場所に配置可能である。
ROM92には、プリンタ100の制御用プログラムや、制御上の必要な数値等、プリンタ100の使用中に変更されることがないようなデータ等が収められている。RAM93には、プリンタ100の制御途中で発生した必要なデータや、プリンタ100の制御に一時的に必要となるデータ等が記憶される。カウンタ95は、印刷枚数を積算してカウントする。
また、制御部90は、プリンタ100における各部分、装置に対し、CPU91からI/F96を通じて制御信号を送信する。また、各部分、装置からその状態を示す信号や入力信号がI/F96を通じてCPU91に送信される。制御部90が制御する各部分、装置としては、例えば、画像形成部P、定着装置8、ヒートポンプ20、画像入力部40、電力供給部41、操作部50等が挙げられる。
画像入力部40は、パソコン等からプリンタ100に送信される画像データを受信する受信部である。画像入力部40より入力された画像信号はデジタル信号に変換された後、一時記憶部94に送出される。
電力供給部41は、制御部90からの出力信号によりヒートポンプ20を含む装置各部に所定の電力を供給する。
操作部50には、液晶表示部や各種の状態を示すLED等が設けられており、プリンタ100の状態を示したり、画像形成状況や印刷部数を表示したりするようになっている。プリンタ100の各種設定はパソコンのプリンタドライバから行われる。
その他、操作部50には、画像形成を中止する際等に使用するストップ/クリアボタン、プリンタ100の各種設定をデフォルト状態にする際に使用するリセットボタン等が設けられている。
図8は、第1実施形態の画像形成装置における定着装置の駆動制御の一例を示すフローチャートである。図1〜図7を参照しながら、図8のステップに沿って第1実施形態の画像形成装置における定着装置の加熱手順について説明する。
パソコン等から制御部90に印字命令が入力されると(ステップS1)、CPU91は吸熱部サーミスタ60bにより第1吸熱部8bの無端状ベルト21bの表面温度T2を検知し、検知された表面温度T2が外気温T0以下であるか否かを判断する(ステップS2)。表面温度T2がT0以下である場合は、CPU91から切換弁29a、29bに制御信号を送信し、図9にハッチングで示すように、バイパス流路30eを介して第2吸熱部26と圧縮機33および膨張弁37との間で作動流体が循環する経路(以下、第2循環経路という)を使用する(ステップS3)。
一方、表面温度T2がT0以下である場合は、図10にハッチングで示すように、流路30aおよび30bを介して第1吸熱部8bと圧縮機33および膨張弁37との間で作動流体が循環する経路(以下、第1循環経路という)を使用する(ステップS4)。
次に、CPU91から電力供給部41に制御信号を送信し、ヒートポンプ20に電力を供給する(ステップS5)。そして、定着部8aの定着部サーミスタ60aにより無端状ベルト21aの表面温度T1を検知し、所定の定着可能温度Tsに到達した場合は通紙(印字)を開始する(ステップS6)。
その後、第1循環経路または第2循環経路のどちらを使用しているかを確認し(ステップS7)、第2循環経路を使用している場合は、表面温度T2がT0を超えたか否かを判断し(ステップS8)、T2>T0となった時点で切換弁29a、29bを作動させて第1循環経路に切り換える(ステップS9)。また、第1循環経路を使用している場合は切換弁29a、29bを作動させずに通紙を継続する。
そして、通紙が終了したか否かが判断され(ステップS10)、通紙が終了している場合はヒートポンプ20への通電をOFFとして(ステップS11)処理を終了する。通紙が継続している場合はステップS7に戻り、以下同様の制御を行う(ステップS7〜S10)。
上記の制御によれば、ヒートポンプ20の起動時において第1吸熱部8bの無端状ベルト21bの表面温度が外気温以下である場合は、ヒートポンプ20の作動流体が第2吸熱部26を循環する第2循環経路を使用するため、第1吸熱部8bから熱が奪われない。その結果、ウォームアップ時における第1吸熱部8bの過冷却が防止され、第1吸熱部8bでの結露の発生を効果的に抑制することができる。
また、定着部8aが定着可能温度まで昇温され、通紙が開始されて無端状ベルト21bの表面温度が外気温よりも高くなった場合は切換弁29a、29bにより第2循環経路から第1循環経路に切り換えられる。これにより、第1吸熱部8bにおいて回収された用紙Sの熱量を定着部8aにフィードバックして定着部8aの加熱に使用することができる。さらに、直前の印字動作により無端状ベルト21bが予め暖められている場合は、ヒートポンプ20の起動時から第1循環経路を使用することで第1吸熱部8bの熱を回収できる。
なお、第2循環経路の使用中は第2吸熱部26から熱が奪われ、第2吸熱部26が過冷却される。そのため、ウォームアップ時に第2吸熱部26の表面に結露が発生することがあるが、第2吸熱部26は用紙の搬送経路外に配置されており、搬送されてきた用紙Sが結露により濡れる心配はない。
ここで、定着部8aにおいて用紙Sに付与された熱量を第1吸熱部8bで完全に回収することは困難であり、熱の一部は用紙Sに残存するか、或いは用紙搬送路11や加圧ローラ23b等に移行する。第1吸熱部8bで極力多くの熱量を回収して定着部8aの加熱効率を向上させるためには、無端状ベルト21bの周方向における吸熱ニップ部N2の長さを無端状ベルト21aの周方向における定着ニップ部N1よりも大きくして、吸熱部8bでの吸熱効率を極力高くすることが好ましい。
また、用紙の熱容量は用紙の厚みや種類によって変化するため、用紙の種類毎に設定された無端状ベルト21bの周方向における吸熱ニップ部N2の長さを予めROM92(或いはRAM93)に記憶させておき、使用する用紙の種類に応じて最適な長さを選択することが好ましい。吸熱ニップ部N2の長さは、加圧ローラ23bの圧接力やゴム硬度により調整可能である。
なお、図8の制御は一例であり、これに限定されないのはもちろんである。例えば、図8の制御では表面温度T2がT0を超えた時点で第2循環経路から第1循環経路へ切り換えることとしたが、定着部8aが定着可能温度まで上昇し、通紙が開始されるタイミングと第1吸熱部8bの温度が上昇するタイミングとはほぼ同時とみなされる。そこで、通紙が開始された時点、或いは定着部8aの無端状ベルト21aの表面温度が所定の定着可能温度に上昇した時点で循環経路を第2循環経路から第1循環経路へ切り換えるようにしても良い。
図11は、本発明の第2実施形態の画像形成装置に搭載される定着装置の定着部の構成を示す模式断面図である。本実施形態の定着部8aは、無端状ベルト21aと熱交換部材25aとの間に配置されるヒータ70を備えている。なお、定着部8aの他の部分については図3に示す第1実施形態の定着部8aと同様であり、第1吸熱部8b、ヒートポンプ20、第2吸熱部26等の構成についても図2に示す第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
ヒータ70は、熱交換部材25aと無端状ベルト21aとの間に長手方向(図の紙面方向)のほぼ全域に渉って延在している。ヒータ70としては、赤外線を効率良く輻射するセラミックヒータのような面状ヒータやハロゲンヒータ等が用いられる。なお、ヒータ70以外の他の加熱手段を用いても良い。例えば、ステンレスやニッケル等の金属製の無端状ベルト21aを電磁誘導方式で加熱する電磁誘導コイルを無端状ベルトの周囲に配置する方法が挙げられる。
例えば、ヒートポンプ20の起動時にヒータ70にも通電を行うことで、定着部8aを定着可能温度まで速やかに昇温することができ、プリンタ100のウォームアップ時間を短縮することができる。また、厚紙等の熱容量の大きい用紙を通紙する場合は定着部8aでの放熱量が大きくなり、定着部8aの温度が急激に低下するためヒートポンプ20のみでは温度制御が不安定になる。このような場合は通紙開始後もヒータ70を補助加熱手段として使用すれば良い。
その他本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば上記実施形態では、図2に示した1段圧縮方式のヒートポンプ20を用いたが、圧縮機を2つ設けた2段圧縮方式や、圧縮機及び膨張弁をそれぞれ2つずつ設けた2段圧縮2段膨張方式のヒートポンプを用いることもできる。
また、本発明の定着装置は、図1に示したようなモノクロプリンタに限らず、デジタル複合機、タンデム式のカラー複写機やカラープリンタ、或いはファクシミリ等の電子写真プロセスを用いた種々の画像形成装置に適用できる。
外気温25℃の環境条件下において、図2に示した定着装置8及びヒートポンプ20を備えた、図1に示したモノクロプリンタ100の定着部8aの温度を180℃、定着ニップ部N1のニップ幅を10mm、吸熱ニップ部N2のニップ幅を15mm、通紙速度を200mm/secに設定した。この条件で、ヒートポンプの起動時は第2循環経路を使用し、無端状ベルト21bの表面温度が外気温を超えた時点で第2循環経路から第1循環経路へ切り換えた場合(本発明)と、ヒートポンプの起動時から第1循環経路のみを使用した場合(比較例)とで、無端状ベルト21b表面の結露の発生を比較した。
その結果、循環経路の切り換えを行った本発明では、無端状ベルト21bの表面に結露が発生せず、吸熱ニップ部N2を通過した用紙が濡れることはなかった。これに対し、循環経路の切り換えを行わなかった比較例では、ヒートポンプ20の起動後直ぐに無端状ベルト21bの表面に結露が発生し、吸熱ニップ部N2を通過した用紙に水滴が付着した。また、そのままヒートポンプの稼働を続けたところ、熱交換部材25bが凍結してしまい、吸熱部8bにおける熱交換性能が著しく低下した。