以下、図面を参照して本発明の第1乃至第7の実施形態について説明する。
図1は第1乃至第7の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置と称する)の構成を示す図である。
このMRI装置は、被検体としての患者Pを載せる寝台部と、静磁場を発生させる静磁場発生部と、静磁場に位置情報を付加するための傾斜磁場発生部と、高周波信号を送受信する送受信部と、システム全体のコントロールおよび画像再構成を担う制御・演算部と、被検体Pの心時相を表す信号としてのECG信号を計測する心電計測部と、患者Pに息止めを指令するための息止め指令部とを備えている。
静磁場発生部は、例えば超電導方式の磁石1と、この磁石1に電流を供給する静磁場電源2とを含み、被検体Pが遊挿される円筒状の開口部(診断用空間)の軸方向(Z軸方向)に静磁場H0を発生させる。なお、この磁石部にはシムコイル14が設けられている。このシムコイル14には、後述するホスト計算機の制御下で、シムコイル電源15から静磁場均一化のための電流が供給される。寝台部は、被検体Pを載せた天板を磁石1の開口部に退避可能に挿入できる。
傾斜磁場発生部は、傾斜磁場コイルユニット3を含む。この傾斜磁場コイルユニット3は、互いに直交するX、YおよびZ軸方向の傾斜磁場を発生させるための3組のコイル3x、コイル3y,コイル3zを備える。傾斜磁場発生部はまた、コイル3x〜3zに電流を供給する傾斜磁場電源4を含む。傾斜磁場電源4は、後述するシーケンサ5の制御のもと、傾斜磁場を発生させるためのパルス電流をコイル3x〜3zに供給する。
傾斜磁場電源4からコイル3x〜3zに供給されるパルス電流を調整することにより、物理軸であるX,Y,Z方向の各軸の傾斜磁場を合成して、互いに直交するスライス方向傾斜磁場Gs、位相エンコード方向傾斜磁場Ge、および読出し方向(周波数エンコード方向)傾斜磁場Grの各論理軸方向を任意に設定することができる。スライス方向、位相エンコード方向および読出し方向の各傾斜磁場は、静磁場H0に重畳される。
送受信部は、磁石1内の撮影空間にて被検体Pの近傍に配設されるRFコイル7と、このコイル7に接続された送信器8Tおよび受信器8Rとを含む。送信器8Tおよび受信器8Rは、後述するシーケンサ5の制御の下で動作する。送信器8Tは、核磁気共鳴(NMR)を起こさせるためのラーモア周波数のRFパルスをRFコイル7に供給する。受信器8Rは、RFコイル7が受信したエコー信号(高周波信号)を取り込み、これに前置増幅、中間周波変換、位相検波、低周波増幅、フィルタリングなどの各種の信号処理を施した後、A/D変換してエコー信号に応じたデジタル量のエコーデータ(原データ)を生成する。
制御・演算部は、シーケンサ(シーケンスコントローラとも呼ばれる)5、ホスト計算機6、演算ユニット10、記憶ユニット11、表示器12、入力器13および音声発生器16を含む。このうち、ホスト計算機6は、記憶したソフトウエア手順により、シーケンサ5にパルスシーケンス情報を指令するとともに、装置全体の動作を統括する機能を有する。
ホスト計算機6は、位置決め用スキャンなどの準備作業に引き続いて、イメージングスキャンを実施する。イメージングスキャンは、画像再構成に必要なエコーデータの組を収集するスキャンであり、ここでは2次元スキャンに設定されている。イメージングスキャンは、ECG信号に依るECGゲート法を併用して行うことができる。なお、このECGゲート法は場合によっては併用しなくてもよい。
パルスシーケンスとしては、3次元(3D)スキャンまたは2次元(2D)スキャンである。そのパルス列の形態としては、SE(spin echo)法、FSE(fast spin echo)法、高速SE法にハーフフーリエ法を組み合わせたFASE(fast asymmetric spin echo)法、EPI(echo planar imaging)法などが用いられる。
シーケンサ5は、CPUおよびメモリを備えており、ホスト計算機6から送られてきたパルスシーケンス情報を記憶し、この情報にしたがって傾斜磁場電源4、送信器8Tおよび受信器8Rのそれぞれの動作を制御するとともに、受信器8Rが出力したエコーデータを一旦入力し、これを演算ユニット10に転送する。パルスシーケンス情報は、一連のパルスシーケンスにしたがって傾斜磁場電源4、送信器8Tおよび受信器8Rを動作させるために必要な全ての情報であり、例えばコイル3x〜3zに印加するパルス電流の強度、印加時間、印加タイミングなどに関する情報を含む。
演算ユニット10は、受信器8Rが出力したエコーデータをシーケンサ5を介して入力する。演算ユニット10は、その内部メモリ上のフーリエ空間(k空間または周波数空間とも呼ばれる)にエコーデータを配置し、このエコーデータを各組毎に2次元または3次元のフーリエ変換に付して実空間の画像データに再構成する。また演算ユニットは、必要に応じて、画像に関するデータの合成処理や差分演算処理などを行うことができる。
合成処理には、2次元の複数フレームの画像データを対応する画素毎に加算する加算処理、3次元データに対して視線方向の最大値または最小値を選択する最大値投影(MIP)処理または最小値投影処理などが含まれる。また、合成処理の別の例として、フーリエ空間上で複数フレームの軸の整合をとってエコーデータのまま1フレームのエコーデータに合成するようにしてもよい。なお、加算処理には、単純加算処理、加算平均処理、重み付け加算処理などが含まれる。
記憶ユニット11は、再構成された画像データのみならず、上述の合成処理や差分処理が施された画像データを保管することができる。表示器12は、ホスト計算機6の制御の下に画像を表示する。入力器13を介して、術者が希望する撮影条件、パルスシーケンス、画像合成や差分演算に関する情報をホスト計算機6に入力できる。
息止め指令部の一要素として音声発生器16を備える。この音声発生器16は、ホスト計算機6から指令の下に、息止め開始および息止め終了のメッセージを音声として発することができる。
心電計測部は、被検体の体表に付着させてECG信号を電気信号として検出するECGセンサ17と、このセンサ信号にデジタル化処理を含む各種の処理を施してホスト計算機6およびシーケンサ5に出力するECGユニット18とを含む。心電計測部による計測信号は、イメージングスキャンを実行するときにシーケンサ5により用いられる。これにより、ECGゲート法(心電同期法)による同期タイミングを適切に設定でき、この同期タイミングに基づくECGゲート法のイメージングスキャンを行ってデータ収集できるようになっている。
次に以上のように構成されたMRI装置の動作について詳細に説明する。
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態について説明する。
図2は第1の実施形態におけるパルスシーケンスを示す図である。図2に示される波形は上から順番に、同期波形としてのECG(electrocardiograph)、撮像対象に印加する高周波パルス(RF)、スライス方向の傾斜磁場波形(Gss)、リードアウト方向の傾斜磁場波形(Gro)、位相エンコード方向の傾斜磁場波形(Gpe)、高周波パルス印加時の搬送波の中心周波数からのずれ(△f)を示す。期間P1は、血液や脳脊髄液をラベリングするためのタグ(標識)用シーケンス部分であり、期間P2は、画像化のための本体のパルスシーケンス部分である。この例では、高速スピンエコー法を採用しているが、たとえばコヒーレント型のグラディエントエコー法(TrueSSFP法,TrueFISP,balancedFFE法)などの任意の画像化方法が利用可能である。
図2と図24とを比較して分かるように、第1の実施形態におけるパルスシーケンスは、特許文献1に開示されたパルスシーケンスをベースとしている。すなわち、期間P1におけるラベリングと期間P2におけるエコー収集とからなる撮像サイクルを、ラベリングパルスLPによる励起を行ってからエコー収集のためのパルスシーケンスを開始するまでの時間TIの大きさを変更しながら複数回繰り返す。そして第1の実施形態におけるパルスシーケンスが図24に示されたパルスシーケンスと異なるのは、基準時相からラベリングパルスLPによる励起を行うまでの時間TDtagを、撮像サイクル毎に時間TIの大きさに相反して変化させている点にある。なおここでは、ECGにR波が生じる時相を基準時相としている。
図3は条件設定のためのホスト計算機6の処理のフローチャートを示す図である。
ステップSa1においてホスト計算機6は、複数回の撮像サイクルのそれぞれに関して例えば術者により指定される時間TInの値を入力するか、あるいは例えば術者により指定される撮像サイクルの回数、最初の撮像サイクルにおける時間TI1の値、ならびに時間TIの変化量ΔTIを入力して、2つ目以降の撮像サイクルのそれぞれに関する時間TInを予め定められた数式に基づいて算出する。この数式としては例えば、次のような式が適用できる。
TIn=TI1−(n−1)・ΔTI
ステップSa2においてホスト計算機6は、基準時相からエコー収集のためのパルスシーケンスを開始するまでの時間TDseqとして例えば術者により指定される値を入力する。
ステップSa1およびステップSa2において各種の値は、デフォルト値、あるいは複数のデフォルト値のうちの術者により選択された値とするなどのように、その入力の形態は任意であって良い。また各種の値を入力する順序は、任意であって良い。
ステップSa3においてホスト計算機6は、複数回の撮像サイクルのそれぞれに関する時間TDtagnを次の式により算出する。
TDtagn=TDseq−TIn
なお、装置の制御の都合上、TDtagnは0または正の値でなければならないことが一般的であるため、必要に応じて、TDseqの入力時にTDseqがTInの最大値と同等かそれ以上になるように、入力の制限を行ってもよい。
ステップSa4においてホスト計算機6は、図2に示したパルスシーケンスに従ってスキャンを実行する。そしてこの時にホスト計算機6は、n番目の撮像サイクルにおいては、時間TDtagnおよび時間TInをそれぞれ適用するようにシーケンサ5に指示する。この指示に基づいてシーケンサ5は、時間TDtagおよび時間TIをそれぞれ変化させながら、撮像サイクルを繰り返し実行する。図2の例では、1番目の撮像サイクルにおける時間TI1に対して2番目の撮像サイクルにおける時間TI2は小さくなっているが、これとは相反的に1番目の撮像サイクルにおける時間TDtag1に対して2番目の撮像サイクルにおける時間TDtag2は大きくなっている。
撮像サイクル毎に収集されるエコーデータに基づいてそれぞれ再構成される複数の画像を連続的に表示することにより、血液や脳脊髄液の動態観察を行うのに有用な情報を提示することができる。すなわち、期間P1におけるラベリングパルスLPで励起された部分のうちで動きがある部分に関しては時間TIの間に流速に応じて移動するため、画像上タグしていない領域が低信号化される。この部分を各画像上で追跡することにより、血液や脳脊髄液の動きが観察できる。
ところで第1の実施形態では、時間TDtagを時間TIに対して反比例させているため、時間TDseqは各撮像サイクルで同一である。このため、時間TIを変化させて血液や脳脊髄液の動態を描出しながらも、基準時相からエコー収集のためのパルスシーケンスを開始するまでの時間TDseqは各撮像サイクルで均一である。このため、各撮像サイクルは高精度にECGに同期するため、拍動に伴う周期的な変動の影響が抑制され、撮像毎の画像の変動やアーチファクトが抑制できる。
本体のパルスシーケンスとしてCPMGパルス系列を使用した高速スピンエコー法などを使用した場合、流速による位相変化量の異なる複数のエコー成分の合成として画像が構成されているため、位相の干渉作用により、流速に応じた画像値の変化が激しい。このため、第1の実施例により時間TDseqが各撮像サイクルで均一であることによる画質変動の減少は、他のパルスシーケンスより顕著であり、特に効果的である。
なお、1画像を再構成するために複数のショットが必要なパルスシーケンスを採用することも可能である。この場合には、1画像を再構成するために必要なショット数分のエコー収集を時間TIを変更せずに繰り返し、さらにこのような処理を時間TIを変更しながら繰り返す手順をとれば良い。
また、図4に示すように、ラベリングパルスLPの前に、スライス非選択(RF印加時にスライス傾斜磁場が0である)の状態でIRパルス(180度パルス)Aを付加しても良い。これにより、ラベリングされた部分の縦磁化がほぼ初期状態となり、血液や脳脊髄液の動きを高信号として画像化することができる。すなわち、図2に示すパルスシーケンスにより得られる画像をネガポジ反転した画像を得ることができる。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について説明する。
図5は第2の実施形態におけるパルスシーケンスを示す図である。図5に示される波形は上から順番に、同期波形としての脳脊髄液拍動波形、撮像対象に印加する高周波パルス(RF)、スライス方向の傾斜磁場波形(Gss)、リードアウト方向の傾斜磁場波形(Gro)、位相エンコード方向の傾斜磁場波形(Gpe)、高周波パルス印加時の搬送波の中心周波数からのずれ(△f)を示す。期間P1は、血液や脳脊髄液をラベリングするためのタグ(標識)用シーケンス部分であり、期間P2は、画像化のための本体のパルスシーケンス部分である。この例では、高速スピンエコー法を採用しているが、たとえばコヒーレント型のグラディエントエコー法(TrueSSFP法,TrueFISP,balancedFFE法)などの任意の画像化方法が利用可能である。
図5と図24とを比較して分かるように、第2の実施形態におけるパルスシーケンスは、特許文献1に開示されたパルスシーケンスと同様な期間P1,P2を有し、さらに期間P1に先立って期間P11を有している。期間P11は、期間P1の開始のトリガを検出するための期間である。そしてこの期間P11にてトリガが検出された時相を基準時相として、期間P1におけるラベリングと期間P2におけるエコー収集とからなる撮像サイクルを複数回繰り返す。
図6は図5中の期間P11におけるトリガ検出用のパルスシーケンスを示す図である。図6に示される波形は上から順番に、撮像対象に印加する高周波パルス(RF)、スライス方向の傾斜磁場波形(Gss)、リードアウト方向の傾斜磁場波形(Gro)、位相エンコード方向の傾斜磁場波形(Gpe)、フローエンコードのための傾斜磁場パルス(Gvenc)、エコー信号波形(Echo)を示す。期間P21は、円柱状の領域を励起するための2次元RFパルスである。この2次元RFパルスによる励起は、「Hardy, C. J., and Cline, H. E., 1989. Broadband nuclear magnetic resonance pulses with two-dimensional spatial selectivity. J.Appl.Phys 66:1513-1516.」により知られている。
流速の時間分解能を上げるため、スライス方向、位相エンコード方向の2次元励起法により撮像領域を限定して一回の時間TRで、限定されたボリュームの脳脊髄液や血液などの流速を測定することができる。励起後、エコー収集までの間にフローエンコードのための傾斜磁場パルスGvencを印加することにより、エコー信号には期間中の平均流速に比例した位相変化が生じる。なお、時間TRは、例えば10〜200ms程度である。
上記のトリガ検出用のパルスシーケンスにより、例えば図7に示す波形Wのようなエコー信号が得られる。そしてホスト計算機6によってエコー信号を1次元フーリエ変換(1DFT)することにより、図7に示すようにリードアウト方向の絶対値および位相のプロファイルPR1,PR2が得られる。
さて、第2の実施形態における撮像を開始する前には、トリガ検出用のパルスシーケンスにおいて励起する領域(以下、励起領域と称する)と、位相変化の観測対象の領域(以下、観測対象領域と称する)とを、例えば術者の指示に応じて設定しておく。
図9は励起領域および観測対象領域の設定例を示す図である。この例では、位置決め用画像上に励起領域を表す矩形枠21と、リードアウト方向に直交する2本の直線22,23を術者に指定させる。そしてホスト計算機6は、投影形状が矩形枠21のようになる円柱状(棒状)の領域を励起領域として設定し、直線22,23のリードアウト方向の中間位置r0と直線22,23の間隔Δrとして観察対象領域を設定する。
図10は励起領域および観測対象領域の別の設定例を示す図である。この例では、リードアウト方向が図9の例におけるリードアウト方向と異なっているために、矩形枠24および直線25,26の向きが異なっているが、投影形状が矩形枠24のようになる円柱状(棒状)の領域を励起領域として設定し、直線25,26のリードアウト方向の中間の位置r0と直線25,26の間隔Δrとにより観察対象領域を設定することについては何ら変わらない。なお、位置r0に代えて2つの直線のそれぞれのリードアウト方向の位置を観察対象領域の情報として用いても良い。
なお図9および図10における位置決め用画像は、頭部のサジタル断面画像である。この場合にトリガ検出用のパルスシーケンスにおいては、頭部の脳脊髄液の流速変化をNMR信号で直接連続的に求め、トリガを検出することになる。この場合には、図9および図10に示すように、流速が速く、かつ変動が大きい、中脳水道(cerebral aqueduct)の部分が含まれるように励起領域を設定し、脳脊髄液の流れる方向にフローエンコードの方向を合わせることが望ましい。そして図9は、中脳水道の部分にリードアウト方向を沿わせた例であり、図10は中脳水道の部分にスライス方向または位相エンコード方向を沿わせた例である。図10の例の方が、観察したい脳脊髄液の部分をトリガ検出用のパルスシーケンスで励起する範囲が狭いので、トリガ検出後に実行される本撮像への影響が小さいという特長がある。
ホスト計算機6は、位相のプロファイルPR2における観察対象領域内での平均的な位相変化θ(ro, i)を測定する。ただし、iは時間TRの繰り返し回数のインデックスを表す。上述したようにして観測対象領域を設定しておくことで、対象のボクセルが小さくでき、パーシャルボリューム効果がより少なくなり、流速の変化をより忠実に反映した位相変化を測定できる。
時間TR毎に測定される位相変化θ(ro, i)を時間順にプロットすると、例えば図8に示すように脳脊髄液の拍動の様子が表れる。かくして、測定される位相変化θ(ro, i)が予め定められた状態と合致した時点を基準時相と定めれば、この基準時相は脳脊髄液の拍動に高精度に同期する。図8の例では、位相変化θ(ro, i)が閾値を超える時相を基準時相と定める例を示している。基準時相を定めるためには、例えば図8に示すような波形を時間微分して変曲点を検出する方法などの他の方法も採用可能である。ただし、撮像開始後は位相変化θ(ro, i)は一部のデータしか収集できないので、撮像開始前にトリガ検出用シーケンスを連続的に実行し、平均的な基準時相(トリガ)の間隔、あるいは安定して基準時相(トリガ)を検出できる閾値などを決めておくことも場合によっては必要である。
そしてホスト計算機6は図5に示すように、期間P11において上述のようにして定めた基準時相に同期して、期間P1および期間P2におけるパルスシーケンス、すなわち本撮影を繰り返し行うようにシーケンサ5を制御する。なお、図5の例では、基準時相に至ったことをトリガとして、即座に期間P1におけるパルスシーケンスを開始している。
このように第2の実施形態によれば、脳脊髄液の拍動を観測して、この観測結果に基づいて基準時相を定めるので、ECGを同期波形として用いるのに比べて高精度に脳脊髄液の拍動に同期させてエコーの収集を行うことができる。この結果、拍動に伴う周期的な変動の影響が抑制され、撮像毎の画像の変動やアーチファクトが抑制できる。
なお、この第2の実施形態におけるトリガ検出用のパルスシーケンスを、第1の実施形態や第3の実施形態などにおける撮像のためのシーケンスなどに適用することも可能である。
トリガ検出のための処理の一部(例えば1次元フーリエ変換など)は、演算ユニット10にて行うようにしても良い。
脳脊髄液の局所的な流速の変化をトリガ検出の対象とした例を示したが、脳脊髄液は拍動により脳実質が動くことも知られている。高強度のフローエンコード用傾斜磁場パルス(Gvenc)を印加して、脳実質の部分の微小な動きをトリガ検出の対象にすることも可能である。また、血流の変化をトリガ検出の対象にすることも可能である。
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について説明する。
図11は第3の実施形態におけるパルスシーケンスを示す図である。図11に示される波形は上から順番に、同期波形としてのECG(electrocardiograph)、撮像対象に印加する高周波パルス(RF)、スライス方向の傾斜磁場波形(Gss)、リードアウト方向の傾斜磁場波形(Gro)、位相エンコード方向の傾斜磁場波形(Gpe)、高周波パルス印加時の搬送波の中心周波数からのずれ(△f)を示す。期間P1は、血液や脳脊髄液をラベリングするためのタグ(標識)用シーケンス部分であり、期間P2は、画像化のための本体のパルスシーケンス部分である。この例では、高速スピンエコー法を採用しているが、たとえばコヒーレント型のグラディエントエコー法(TrueSSFP法,TrueFISP,balancedFFE法)などの任意の画像化方法が利用可能である。
図11と図24とを比較して分かるように、第3の実施形態におけるパルスシーケンスは、特許文献1に開示されたパルスシーケンスをベースとしている。すなわち、期間P1におけるラベリングと期間P2におけるエコー収集とからなる撮像サイクルを複数回繰り返す。そして第3の実施形態におけるパルスシーケンスが図24に示されたパルスシーケンスと異なるのは、各サイクルで時間TDtagおよび時間TIを一定としている点にある。なお、各サイクルで時間TDtagおよび時間TIを一定とするシーケンスについては、特許文献1にも示されているが、特許文献1においてはラベリングする領域を各サイクル毎に異ならせているのに対して、第3の実施形態ではラベリングする領域も各サイクルで同一としている。このようなパルスシーケンスは、シーケンサ5の制御によって実現することができる。
撮像サイクル毎に収集されるエコーデータに基づいてそれぞれ再構成される複数の画像を連続的に表示することにより、個々の撮像中の観測対象の動きの変動による画像変化のみを観測することができる。必要により、各画像上でラベリング部分が到達している距離により、連続表示する順序を入れ替えて表示してもよい。
さらに、毎回の流速の変動の影響を低減させるためには、例えば図12に示すように、撮像した複数の画像IM1,IM2…,IMmを平均処理して平均画像IMaveを作成し、表示しても良い。あるいは、例えば図13に示すように、画像IM1,IM2…,IMmの分散に比例した分散画像IMvarを作成し、表示してもよい。さらには、平均画像IMaveと分散画像IMvarとを色を異ならせて重ねて表示してもよい。
さらに、上記のような複数回の画像収集を必要により時間TIやラベリングする領域を変化させながら行い、画像平均処理という、この一連の処理を複数の異なる時間TIや位置の異なるラベリング領域について行い、得られた複数の異なる平均処理後の画像を連続的に表示してもよい。この場合は、個々の撮像で顕著だった毎回の流速の変動の影響を大きく低減することができ、時間TIやラベリング領域の位置の違いによる画像変化をより鮮明に表示することができる。
上記のような各種の画像の表示は、例えばホスト計算機6の制御の下に表示器12にて行われる。また各種の画像処理は、ホスト計算機6または演算ユニット10にて行う。
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について説明する。
図14は第4の実施形態におけるパルスシーケンスを示す図である。図14に示される波形は上から順番に、同期波形としてのECG(electrocardiograph)、撮像対象に印加する高周波パルス(RF)、スライス方向の傾斜磁場波形(Gss)、リードアウト方向の傾斜磁場波形(Gro)、位相エンコード方向の傾斜磁場波形(Gpe)、高周波パルス印加時の搬送波の中心周波数からのずれ(△f)を示す。期間P31は、血液や脳脊髄液をラベリングするためのタグ(標識)用シーケンス部分であり、期間P2は、画像化のための本体のパルスシーケンス部分である。この例では、高速スピンエコー法を採用しているが、たとえばコヒーレント型のグラディエントエコー法(TrueSSFP法,TrueFISP,balancedFFE法)などの任意の画像化方法が利用可能である。
第4の実施形態におけるパルスシーケンスは、期間P31におけるラベリングと期間P2におけるエコー収集とからなる撮像サイクルを複数回繰り返す。期間P2におけるエコー収集のためのパルスシーケンスは、図24に示されたものと同様である。
期間31においては、ECGにR波が生じる基準時相から時間TDtagが経過した時点から、連続的に3つのラベリングパルスLP1,LP2,LP3を印加する。これらのラベリングパルスLP1,LP2,LP3を印加する際には、ラベリングされる領域をそれぞれ異ならせるために、傾斜磁場波形を例えば図14に示すように異ならせる。さらに、ラベリングパルスLP1を印加するのに先立って、ラベリングパルスLP0を印加する。この際には、傾斜磁場を発生せずに、ラベリング領域を非選択とする。このようなパルスシーケンスは、シーケンサ5の制御によって実現することができる。
ラベリングパルスLP1,LP2,LP3のいずれかで励起される領域では、ラベリングパルスLP0によっても180度反転励起される。ラベリングパルスLP0とラベリングパルスLP1,LP2,LP3との時間差は脳脊髄液のようなラベリング対象のT1値に対して十分に短いため、ラベリングパルスLP1,LP2,LP3により励起される領域では360度のフリップ角の励起をされたのと同様となり、縦磁化はほぼ初期状態となる。一方、ラベリングパルスLP1,LP2,LP3のいずれでも励起されない領域では、ラベリングパルスLP0によってしか励起されないため、180度の励起を受け、縦磁化が反転する。
かくして第4の実施形態における上記のパルスシーケンスによれば、互いに異なる3つの領域に関してラベリングすることができる。そして期間P2において収集されるエコーから再構成される画像においては、上記の3つの領域でラベリングされた部分だけが高信号になる。つまり第4の実施形態により撮像される画像によれば、1枚の画像上で広い範囲についての脳脊髄液や血液の動態が把握でき、効率的な検査ができる。
また、独立した3つの領域に関してラベリングすることができるために、互いに異なる部位に関する脳脊髄液や血液の動態を把握するのに有効な画像が得られる。
なお、ラベリング領域は、2つまたは4つ以上とすることもできる。
以下に、複数のラベリング領域の設定の具体例を説明する。
臨床的に関心の高い部位として、モンロー溝(Monro foramen)、中脳水道および橋槽(pontine cistern)、あるいは大後頭孔(foramen magnum)などが知られている。これらの部位は、脳脊髄液が流れる部分が健常者でも狭くなっており、流速が比較的早い部位である。症例によりこれらの部位が健常者より狭窄したり、脳脊髄液の流れに変化が現れたりする。そこで例えば図15に示すように、モンロー溝を含む領域R1、中脳水道および橋槽を含む領域R2および大後頭孔を含む領域R3をそれぞれラベリング領域とすることができる。このように脳脊髄液や血液の循環経路に関する臨床的な知識を利用して、3つのラベリング領域を適切に設定することにより、臨床的な観察目的にあった非常に有用な画像を得ることが可能である。
臨床的に関心の高い部位として別に、大脳外側窩(fossa lateralis cerebri)が知られている。大脳外側窩(Fossa lateralis cerebri)における脳脊髄液の動態を把握することを目的とした場合、例えば図16に示すように、正中部矢状断像(サジタル像)でほぼ冠状断像(コロナル像)に近い断面で、全交連(anterior commisure)あるいは視交叉(optic chiasm)付近を通るような断面S1を設定することが望ましい。図17はこのような断面S1について撮像された2次元(2D)画像を示す図である。そして図17に示すように、2次元画像上にて、ラベリング領域R11,R12を設定し、上記のパルスシーケンスにより撮像を行えば、例えば図18に示すような画像が得られる。撮像中の動きが十分に小さい部分は、撮像時のラベリング領域R11,R12自体が高信号化される。脳脊髄液の動きにより、領域R13,R14,R15,R16,R17に関して脳脊髄液が高信号化される。これは、大脳外側窩を脳脊髄液が左右方向に行ったり来たりして移動していること(「to and fro motion」と称される動き)を示している。一方、領域R17,R18は、通常は高信号化が観測されることは稀である。この高信号部分の範囲や左右差、何らかの治療前後の変化などを比較することにより、診断上必要な情報を収集することができるので、ラベリング領域R11,R12のように複数のラベリング領域が設定できることが有用である。
(第5の実施形態)
以下、第5の実施形態について説明する。
ホスト計算機6は、ラベリングを行った上で撮像した例えば図19に示すような画像を位置決め用画像として表示器12に表示させ、この画像上で術者による断面の指定を受け付ける。なお図19では、領域21をラベリング領域としており、領域R22が高信号で描出されている。なお、位置決め用画像を撮像するためのパルスシーケンスは、上記の各実施形態に示されるものや特許文献1に示されるものなどを任意に適用できる。
かくして術者は、例えば図20に示すように、脳脊髄液の流速の早い部分が含まれるような撮像断面S11を決めることが可能となる。
図21は撮像断面S11に関して撮像した2次元画像である。このような画像に例えば図21に示すようにモンロー溝を含んだラベリング領域R23をラベリングした上での撮像を行えば、例えば図22に示すような画像が得られる。斜線により表した領域R24がラベリング後にラベリング領域R23から脳脊髄液が移動し、高信号化している部分である。すなわちこの図22に示す画像は、図4に示すように、ラベリングパルスの前に非選択IRパルスを印加するパルスシーケンスにより撮像されている。
これにより、脳脊髄液フローの情報が把握できている状態で設定ができるので、通常の位置決め画像で撮像断面設定するよりも容易に脳脊髄液フローが早い部分や診断上関心のある位置、方向に撮像断面設定ができる。
(第6の実施形態)
以下、第6の実施形態について説明する。
図23はホスト計算機6の第6の実施形態における特徴的な処理の手順を示すフローチャートである。
ホスト計算機6は、検査の事前準備として、ラベリング領域の指定を受ける。この時にラベリング領域の指定は、脳脊髄液や血液の循環経路に関する臨床的な知識を活かして、診断目的、そのほかの撮像条件に応じて適切に行われることが望ましい。
ラベリング領域が指定されたならば、ホスト計算機6はステップSb1において、指定されたラベリング領域に関するラベリング位置情報を作成する。ラベリング位置情報には例えば、オフセット、ローテーション情報、ラベリング領域の幅、RFパルスの種類・持続時間などの情報を含む。ステップSb2においてホスト計算機6は、上記の作成したラベリング位置情報をラベリング位置保存部に保存する。
ラベリング位置保存部としては、記憶ユニット11、第6の実施形態のMRI装置に病院内ネットワークを介して接続された院内サーバにより管理される記憶媒体、あるいは第6の実施形態のMRI装置にインターネットなどを介して接続されたウェブサーバにより管理された記憶媒体などの任意の記憶媒体を利用できる。
実際の検査時には、ステップSc1においてホスト計算機6は、ラベリング位置保持部からラベリング位置情報を読み出す。そしてステップSc2においてホスト計算機6は、ラベリング位置情報に基づいてラベリング領域を設定する。
かくして、実際の検査時におけるラベリング領域の設定は、脳脊髄液や血液の循環経路に関する臨床的な知識を持たない装置操作者でも、容易かつ適切に行えるようになり、装置操作者の熟練度による画質のばらつきが低減できる。
なお、ラベリング位置保存部に、予めいくつかのラベリング領域についてのラベリング位置情報を保存しておき、このラベリング位置情報を選択的に読み出してラベリング領域の設定に用いるようにしても良い。このようにすれば、検査の事前準備としてのラベリング領域の指定を行う必要がなく、さらに操作が簡易となる。
なお、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。