JP5273344B2 - 冷間加工性に優れた高強度ステンレス鋼線及びその成形品 - Google Patents

冷間加工性に優れた高強度ステンレス鋼線及びその成形品 Download PDF

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Description

本発明は、冷間加工性に優れ、しかも高強度を有するオーステナイト系ステンレス鋼線、及びこれを用いて製造され、高強度を有するオーステナイト系ステンレス鋼ねじ、ボルト及びナット等ねじ部品に代表される締結部品、並びに軸部品その他からなる成形品に関するものである。
一般にステンレス鋼製のねじ、ボルト及びナット等のねじ部品に代表される締結部品、並びに各種軸類の軸部品その他からなる成形品は、その素材であるステンレス鋼棒、ステンレス鋼線材又はステンレス鋼線からそれぞれの形状に成形加工され、製品に製造される。この成形加工においては、その素材は冷間加工性が良好であることを要する。特にねじ類等の締結部品においては、冷間鍛造や冷間圧造といった冷間加工性に優れていることが望まれる。なかでもねじ類はその素材であるステンレス鋼線から冷間圧造によるヘッダー加工を含む冷間加工工程で種々の形状に加工されるので、優れた冷間圧造性が要求される。そして優れた耐食性を具備することに加え、特に優れた冷間圧造性と非磁性との両特性が要求されるねじ類の場合には、一般にオーステナイト系ステンレス鋼線しか用いることができず、なかでも優れた冷間圧造性が要求される場合には、例えば、SUS304J3、SUS305J1及びSUSXM7等、冷間圧造性が改善されたオーステナイト系ステンレス鋼線が用いられている。
一般に、冷間圧造用ステンレス鋼線は、上記の通り優れた冷間圧造性が要求されるので、オーステナイト系、フェライト系及びマルテンサイト系いずれにおいても、熱間圧延によりステンレス鋼線材を製造し、これを冷間伸線した後に固溶化熱処理を施した状態の、所謂(伸線後固溶化)「熱処理仕上げ」の鋼線か、又は上記冷間伸線後に固溶化熱処理を施し、更に若干の加工率の伸線(スキンパス伸線)をした、所謂(伸線後固溶化)「熱処理スキンパス仕上げ」の鋼線が素材として用いられ、ねじ頭部等の冷間圧造を含む冷間加工が施される。この時、耐冷間圧造割れ性を確保するために、適切な化学成分組成の規定に加えて、上記固溶化熱処理(焼なまし効果も含む)単独、又はこれとスキンパス伸線との組合わせにより、冷間圧造加工前の鋼線の引張強さの上限値を調整することが行なわれている。この耐冷間圧造割れ性を確保するため、冷間圧造前の鋼線の引張強さの上限を制限している。実用的には、例えば600〜650MPa以下の易加工材料であることが要求され、更に実質上炭窒化物の析出がない材料であることが要求される(例えば、特許文献1の段落番号0002〜0004及び特許文献2の段落番号0021を参照)。
このように、前提条件として強度の上限値要求を満たすことにより冷間圧造性が確保されている従来の冷間圧造用ステンレス鋼線から製造された締結部品等の強度は、オーステナイト系ステンレス鋼線の場合には、成形加工のみで、加工誘起マルテンサイトの生成やその他の加工強化機構により成形体本体の局部に強度アップする領域が形成されるが、成形体本体全体としての強度は、優れた高水準の強度を具備するには至らない。例えば、ねじ部品でいえば、ねじり強度の指標としての破壊トルク値(例えば、JIS B 1055 「タッピンねじ−機械的性質」の6.2.2「ねじり強さ試験」による)は、ねじ部の強度により支配されるが、転造によるねじ部の成形加工による強度の向上は期待できない。また、フェライト系ステンレス鋼線及びマルテンサイト系ステンレス鋼線においては、成形加工による成形体本体の強度アップは一層期待できない。但し、SUS410等のマルテンサイト系ステンレス鋼においては、成形後に焼入・焼戻し処理を行なうことにより、唯一高強度を付与することができる。しかしながら、このマルテンサイト系ステンレス鋼の場合には耐食性に関し、オーステナイト系やフェライト系ステンレス鋼には及ばず、焼入れ後の不動態処理や表面研磨等を適宜行なう必要がある。特に耐酸性が低下するので、その用途が制約される等の問題があり、適宜Niめっき等の表面処理を必要とする。更に磁性を帯び易い。従って、非磁性を必須要件として要求される場合には適用できない。例え非磁性は要求されなくても、焼入・焼戻し処理を必須工程として加える必要がある。
なお、オーステナイト系及びフェライト系ステンレス鋼線では成形体本体を焼入れ強化することはできない。従って、鋼線強度の上限が規定されたオーステナイト系及びフェライト系ステンレス鋼線を使用したのでは、高強度の成形品を製造することは極めて困難である。
これに対して、特開平6−264194号公報(以下、特許文献3という)には、マルテンサイト系ステンレス鋼であるSUS410の化学成分組成を改良・開発すると共に、熱間圧延による熱延線材に適切な熱処理を施し、次いで冷間伸線により得られた鋼線に、必要に応じて通常の焼なまし(例えば、600〜800℃で1〜12分間)を施して、引張強さを950MPa以下に調整し、これを素線として、所定の成形加工後、これに施すべき適切な焼入・焼戻し処理方法を開発することにより、従来課題であった耐銹性にもすぐれた特性を備えた、高強度マルテンサイト系ステンレス鋼のドリリングタッピンねじの製造技術が開示されている。
このように特許文献3によれば、マルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性を改善して、SUS304やSUSXM7と同等以上の優れた耐食性を有するマルテンサイト系ステンレス鋼が示されている。但し、ここでの冷間加工性の合否評価に関しては、ドリリングタッピンねじのつば付き六角頭をコールドダブルヘッダーにより冷間圧造したときに、割れが発生しないか発生するかにより判定している(特許文献3の段落番号0036を参照)。そして、当該ねじのコールドダブルヘッダー加工に供すべき鋼線の引張強さが950MPa以下であれば、上記割れは発生せず、冷間加工性は良好であり、冷間加工後の成形体に適切な焼入・焼戻し処理を施すことにより、耐食性に優れた高強度マルテンサイト系ステンレス鋼からなるドリリングタッピンねじが製造される旨が記載されている。
しかしながら、特許文献3に開示された技術にはなお下記のような問題点が残されている。
1.熱間圧延された線材に対して、例えば、1段目が750℃で1時間保持の、そして2段目が650℃で1時間保持の2段焼鈍を行なうか、又は700℃で1000時間の焼鈍を行なう(特許文献3の段落番号0041参照)といった負荷の大きい熱処理が必要である。
2.素線の引張強さの上限値950MPaを超える強度の成形品を製造するためには、成形体本体に焼入・焼戻し処理を施す必要があり、工程上の負荷がかかる。
3.冷間加工性の評価基準が、つば付き六角頭をコールドダブルヘッダーによる冷間圧造をした場合の割れの発生の有無である。ねじ頭部が、つば付き六角頭よりも優れた冷間圧造性が必要とされる、一般的なリセス形状(穴型)のドライバビットの係合溝をヘッダーにより冷間圧造をした場合に、素線の引張強さの許容上限は当然上記上限値950MPa未満でなければならないと考えられるが、具体的にいくらであるかは明らかでない。
4.非磁性乃至微弱磁性の製品が要求される場合には、この要求を満たすことができない。
特開平9−49019号公報 特開2005−133109号公報 特開平6−264194号公報
冷間加工用ステンレス鋼線及びこれから製造された成形品の製造技術に関しては、上述したような各種の問題点がある。そこで、本発明は、冷間加工性に優れたステンレス鋼線及びこれから製造された成形品の実現に際し、下記課題を解決しようとするものである。
なお、本発明の明細書において、「冷間加工性」とは、冷間における塑性加工性を意味し、また、「冷間圧造性」なる用語は一般に使用されているように、冷間加工性のなかでも、例えばねじ類部品の頭部を成形する場合の特に厳しい冷間塑性加工性を要する特性として用いている。
(1)熱間圧延線材に対する焼なまし等の熱処理を不要とする。
(2)熱間圧延線材から調製された冷間伸線鋼線の冷間加工性に関して、ねじ頭部形状がつば付き六角頭を冷間圧造成形するに必要な加工性よりも一層優れた冷間圧造性を備えたステンレス鋼線とする。そのために、成形体本体に冷間加工する前のステンレス鋼線の絞りRAを、65%以上望ましくは75%以上とする。
(3)従来、実用的に冷間圧造前の鋼線の引張強さは、強度を確保するために引張強さTSを600MPa以上とし、且つ、冷間加工性を確保するために引張強さTSを650MPa以下として易加工性(冷間圧造性)を確保することが通常行なわれていた。しかし、本発明では、上記の600〜650MPaという引張強さを超え、しかも冷間圧造性を具備した高強度ステンレス鋼線とする。但し、成形体本体に加工する前の冷間伸線鋼線に対しては、一切の熱処理を施さずに成形体本体に冷間加工するものとするが、一層優れた冷間圧造性を付与しておくことを望む場合には、低温焼なましを施してもよい。
(4)冷間加工された成形体本体に対する焼入・焼戻し等の熱処理を施す必要がないステンレス鋼成形品とする。
(5)耐食性に関して、SUS304等オーステナイト系ステンレス鋼に準じた優れた耐食性を備えているものとする。
以上(1)〜(5)の全てを解決すると共に、更に、
(6)成形品が非磁性乃至微弱磁性特性を備えているものとする。
本発明は、上記課題を解決することにより、できる限りの熱処理不要化を図り、しかも高水準の冷間圧造性と同時に、従来達成されていない高強度を備えたステンレス鋼線を製造し、そしてこの鋼線から高強度で耐食性にも優れた、望ましくは実質的に非磁性の成形品を、トータルコストを安価にて製造すると共に、省エネルギーにより環境改善にも貢献しようとするものである。
本発明は、前記課題の解決に当たり、高強度で且つ高冷間圧造性を備えた材料を開発すべく鋭意試験・研究を重ねた。本発明者は、先に冷間圧造性に優れた炭素鋼線の研究において、所要の温間圧延法により相変態を利用することなく熱間圧延法では得られない微細粒フェライト組織を得ることにより、高強度且つ高絞りを備えた炭素鋼線材を調製し、これを更に適切な条件の冷間伸線又は冷間圧延により、著しく高強度化され、しかもこの際材料の絞りの低下がかなり小さく抑えられた鋼線を調製した。そして、この鋼線を用いてねじ部品の成形体に加工するに際し、優れた冷間圧造性が発揮されることを見出した(例えば、特願2005−114033号)。
本発明者は、以上のような知見を踏まえ、ステンレス鋼各種成分系の中でも、耐食性及び冷間加工性が良好で一般に非磁性であるSUS304乃至これの改良成分系であるSUSXM7等のオーステナイト系ステンレス鋼に注目した。更に、成形品の種類及び用途によっては、微弱磁性を許容できる場合も考慮して化学成分組成を決めた。
本発明者は、なかでもJIS G 4315 冷間圧造用ステンレス鋼線の中からオーステナイト系に属するSUSXM7の市販のステンレス鋼線を供試材として、これに各種水準の伸線加工率(断面減少率、%)による冷間伸線を施し、上記供試材である鋼線から伸線された鋼線までの伸線加工率(総断面減少率、本明細書において「総減面率」という。(R))、鋼線断面のビッカース硬さ(HV)、鋼線の引張強さ(TS)、及びその絞り(RA)からなる各特性値相互間の関係を検討した。この特性値間の関係の検討には、本発明者等による前記特許出願(例えば、特願2005−114033号)の検討過程における知見、即ち、平均粒径が所定値以下の微細粒鋼であって、高強度且つ高延性を有する材料を冷間加工すると、強度が著しく上昇し、しかも延性の低下は極めて小さく抑えられるという知見から得た所が大きい。
その結果、総減面率Rの増加につれて、ビッカース硬さHV及び引張強さは著しく増大し、高強度化することは明らかであるが、この際、絞りRAの低下は総減面率Rの増加の初期においては極めて小さく、従って極めて高水準の絞りRAが維持されていることが新たに判明した。そして、絞りRAが高水準に有る限り、極めて高水準の冷間圧造性、例えば、小ねじ頭部の穴型リセスのヘッダー加工において優れた圧造性が発揮されることを知見した。即ち、従来、このような極めて高水準の冷間圧造性が要求される冷間圧造用ステンレス鋼線(素線)としては、その引張強さTSは、600〜650MPa以下であることが広く要請されていたが、今回得た知見によれば、例えば、引張強さTSが1000〜1500MPa程度の高強度であって、しかも絞りRAが79〜82%という強度−延性バランスに極めて優れたステンレス鋼線が得られたこと、しかもかかる高強度鋼線であっても絞りRAがこのように高水準であれば、従来全く想定されていなかった優れた冷間圧造性が発揮されるということを知見した。
本発明は、以上のことからなされたものであり、大別して次の発明からなるものである。
第1:
C:0.08質量%以下、
Si:0.05〜1.0質量%以下、
Mn:0.20〜2.0質量%以下、
P:0.045質量%以下、
S:0.030質量%以下、
Ni:8.0〜11.0質量%、
Cr:17.0〜20.0質量%、
Cu:1.00〜4.00質量%、
そして残部がFe及び不可避不純物からなる化学成分組成を有し、
しかも、伸線後固溶化熱処理仕上げ、又は伸線後固溶化熱処理スキンパス仕上げのオーステナイト系ステンレス鋼線を素線として、当該素線に対する総減面率Rが41.7〜80%の範囲内の冷間伸線加工が施されたことを特徴とする、冷間加工性に優れた高強度オーステナイト系ステンレス鋼線。
第2:引張強さが650超え〜1500MPaの範囲内にあり、且つ絞りが65〜90%の範囲内にある機械的性質を有することを特徴とする、上記第1の冷間加工性に優れた高強度オーステナイト系ステンレス鋼線。
第3:上記第1又は第2の冷間加工性に優れた高強度ステンレス鋼線を用いて冷間加工により製造されたことを特徴とする、高強度オーステナイト系ステンレス鋼成形品。
第4:前記成形品ねじ部品であって、その断面における硬さがビッカース硬さで200以上であることを特徴とする、上記第3の高強度オーステナイト系ステンレス鋼成形品。
なお、本発明においては、「成形品」は、ねじ又はボルトをはじめとする各種の締結部品等、即ち、ねじ、ボルト、ナット、シャフト、リベット、ピン、スタッドボルト、ファスナー類、歯車、軸類、バネ、その他機械構造部品(日本鉄鋼協会発行、渡辺敏幸著 機械用構造用鋼P46、P97)などの成形品であって、高強度なものであることを意味し、高強度とは、引張強さTSで650MPa超えを有することをいう。
実施例の冷間伸線加工における総減面率Rの増加に対する鋼線の引張強さTS及び絞りRAの挙動を示すグラフである。 実施例の冷間伸線加工において総減面率Rが増加したときに得られる鋼線の引張強さTSとビッカース硬さHVとの関係を示すグラフである。
本発明の実施の形態は、基本的実施形態において、素線の冷間伸線における総減面率の限定、当該総減面率とこれに対応して具備すべき鋼線の引張強さTS及び絞りRAの各値の限定をし、引張強さTS及び絞りRAの代わりに硬さの限定による鋼線の規定をする。また、伸線に先立って行なうと一層望ましい低温焼なまし条件を規定する。次いで、当該鋼線を用いて成形品を製造し、その際の成形品の特徴的部位の形状・寸法を規定する。また、上記実施形態における材料の化学成分組成を限定する。以下、具体的な実施形態と、各種実施条件の限定理由について述べる。
(1)基本的実施形態について
本発明の基本的実施形態は、先ず、(I)材料としてオーステナイト系ステンレス鋼の化学成分組成を有し、公知技術により熱間圧延線材の伸線後固溶化熱処理仕上げ、又は伸線後固溶化熱処理スキンパス仕上げのオーステナイト系ステンレス鋼線に相当する鋼線を調製し、これに対して更に所要の冷間伸線加工を施すことにより、所望の線径であって所望の高強度を有し、且つ冷間圧造性に優れたステンレス鋼線、これは成形品の製造に供するための鋼線であって、従来存在せず、また開示もされていない、冷間圧造性に優れると同時に、オーステナイト系ステンレス鋼線でありながら従来にない高強度特性を備えた鋼線を製造するというものである。ここで得られるステンレス鋼線には、各種水準の引張強さTS及び絞りRAを備えると共に、非磁性乃至微弱磁性有するものであって、それぞれに適した冷間伸線条件(後述する)により製造する。次いで、(II)上記で得られたオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、所定の冷間加工技術により、ねじ部品その他の成形品を製造する。この際、それぞれの成形品に要求される仕様に応じて、適切な特性を備えたステンレス鋼線を用いる。
(2)本発明に係るステンレス鋼線の素線の調製について
先ず、本発明に係るステンレス鋼線を製造するのに用いる素線、即ち、公知技術により調製すべき熱間圧延線材の伸線後固溶化熱処理仕上げ、又は伸線後固溶化熱処理スキンパス仕上げのオーステナイト系ステンレス鋼線とは、典型的には、JIS G 4315 冷間圧造用ステンレス鋼線に規定されている鋼線に準じたものであればよい。同規格によれば、化学成分組成及び線径毎に引張強さTS、伸びEl及び絞りRAが規定されている。例えば、引張強さの上限値は、オーステナイト系ステンレス鋼の熱処理仕上げ鋼線の場合には上限の最大値が780MPa、そして熱処理スキンパス仕上げ鋼線の場合には上限の最大値が830MPaと規定されているが、実際には、いずれの成分系においても、600〜650MPa以下の鋼線の供給が要請されている。本発明においても、この要請されている引張強さTSのステンレス鋼線の調製は、上記所望の化学成分組成を有するビレットを熱間圧延により所望の線径の熱間圧延線材を製造し、次に冷間伸線により所望の線径に加工し、固溶化熱処理(1010〜1150℃の範囲内に適宜時間保持後、急冷する)を施して所定の機械的性質を有する「固溶化熱処理仕上げ」鋼線とするか、又は上記固溶化熱処理を施した後、更に減面率が3〜10%程度のスキンパス伸線を行なって所定の機械的性質を有する「固溶化熱処理スキンパス仕上げ」鋼線とするのである。なお、引張強さTSが600〜650MPaを超える鋼線であって、本発明の問題点を解決しうるステンレス鋼線の製造方法については、その開示も見当たらない。
(3)素線の冷間伸線について
次に、上記(2)で調製されたオーステナイト系ステンレス鋼の素線を冷間伸線することにより、冷間圧造性を損なうことなく高強度化を達成させて、本発明に係る冷間加工性に優れた高強度ステンレス鋼線を製造することができる。
ここで行なう冷間伸線には、公知の従来技術による伸線装置を使用すればよい。そして、この冷間伸線における総減面率R、即ち、素線から成形体加工用の仕上がり鋼線まで伸線して減径したときの材料横断面積の減少率(%)が以下を満たすように伸線する。なお、素線(冷間伸線前の鋼線)の引張強さTS及び絞りRA並びに硬さの水準はそれぞれ、500〜600MPa程度、78〜90%程度、そしてビッカース硬さHVで170〜190程度のものを用いる。
1)先ず、引張強さTSを650MPa超えに高強度化するために、冷間伸線における総減面率Rは、10%以上を必要とする。ここで、この冷間伸線された鋼線の絞りRAの低下量は、総減面率Rの増加につれて増加する。但し、絞りRAの低下量は極めて小さいので、冷間圧造性の低下を小さく抑えることができる。
2)そして、総減面率Rを増大させるにつれて引張強さTSは大きくなり、総減面率R=80%のとき、1500MPaまで到達する。この時点で、絞りRAは80%弱程度にまで低下する。なお、冷間伸線前の鋼線の絞りRAが78%のときには、総減面率R=80の冷間伸線により、絞りRAは65%強まで低下する。しかし、絞りRAが65%以上であれば、一定の冷間圧造性は確保されるので、本発明の課題は解決される。
3)本発明においては、鋼線の引張強さTSの下限値の一層の向上を図り、その目標値として1000MPa以上とするためには、総減面率Rを45%以上とすればよく、このときでも、絞りRAは75%以上を確保することができるので、強度−延性バランスに優れた鋼線が得られる。
4)次に、非磁性乃至微弱磁性という特性を有する本願発明に係るステンレス鋼線を製造するためには、成分系としてオーステナイト系ステンレス鋼成分の素線を用い、且つ冷間伸線における総減面率Rを60%以下に制限する必要がある。これ以上の冷間加工を加えると、加工誘起マルテンサイトの生成量の増加による磁性が顕在化するからである。
(4)成形品の製造
次に、以上により得られた優れた所定の引張強さTS及び絞りRAを備えたオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、所望の成形品に加工する。成形加工に際しては次の2通りのルートがある。
先ず、第1のルートは、鋼線に対して、一切の熱処理を施すことなく所望の成形体を冷間加工する方法であり、そして第2のルートは、鋼線に対して、所望の成形体を冷間加工するに先立って、低温焼なましを施して冷間圧造性を高めた後、そのまま、又は所要の線径まで減径するためのスキンパス伸線を施した後に、この鋼線を成形体に冷間加工する方法である。
この低温焼なましを行なうか否かの決定は、既にストックされている鋼線を使用する場合において、これを製造しようとする成形品の仕様に適した材質水準及び線径の鋼線を用いるため鋼線を調質すべきか否かの判断による。即ち、成形体加工に際して必要となる冷間圧造性の水準、成形体が備えるべき必要な強度、及び成形体の形状・寸法により必要な線径を勘案して判断する。例えば、冷間伸線により製造されている鋼線が、その強度は成形品に必要な強度から判断して若干減少させてもよく、且つその冷間圧造性は若干向上させる必要があるという場合であり、また、これらの条件がそろっており、しかも線径を所要値だけ減径する必要があるという場合にも、適切な条件で低温焼なましを行なう。ここで、低温焼なまし条件は450〜600℃の範囲内において、1〜30分間の範囲内で保持することとする。なお、この鋼線の低温焼なましは、冷間圧造ラインにおいて冷間圧造装置の入側直前に鋼線の連続加熱装置を配設して行ない、連続加熱炉から出てきた鋼線を連続的に冷間圧造する工程をとれば、生産効率上も省エネルギー的にも望ましい。
上記第2のルートを適宜採用することにより、素線より冷間伸線された本願発明に係る冷間加工性に優れた高強度ステンレス鋼線の線径種類を少なくすることができるので、ストック量を低減することができるので生産工程運用上効果があり、あるいは新たな寸法の伸線ダイス等装置の追加が不要となる。
さて、成形品の加工には、製造しようとする成形品の種類に応じて公知の従来技術によるそれぞれの冷間加工装置を使用すればよい。例えば、十字穴付き小ねじの成形加工には、先ず鋼線を所定長さに切断し、切断された鋼線を冷間圧造加工の中で最も一般的な二段打ちヘッダー(double header)により、ねじの頭部を塑性加工する。即ち、予備据込みパンチ(第1パンチ)と仕上据込みパンチ(第2パンチ)とでねじの頭部を据込み形成して仕上げると共に、ねじの転造下径寸法に成形する。次いでねじ部を転造により塑性加工する。例えば、平ダイス式転造盤等を使用する。この工程の中では、仕上据込みパンチによる頭部の十字穴リセスの成形が最も高度の耐冷間圧造性が要求される。
こうして、高強度のオーステナイト系ステンレス鋼の成形品が製造されたなら、これに焼入・焼戻しによる高強度化のための熱処理は施さない。所望の成形品の性能仕様に応じて、かかる熱処理を施さないことを前提とした引張強さTSを備えたステンレス鋼線を使用しているからである。こうして、従来技術に比較して熱処理工程の省略が可能となり、相当するコストの低減、納期短縮、環境改善にもつながる。
以上のようにして製造された本願発明に係る成形品は、強度に関しては成形体本体への冷間加工に伴う冷間加工硬化により、鋼線段階における強度水準より更に向上する部分もあるが、加工硬化が及ばない部分においても、少なくとも鋼線段階の強度水準以上を有するものとなる。この強度水準は、硬さで評価すると、最も低い領域でビッカース硬さHVで200以上となり、使用する鋼線によっては、例えば、素線からの冷間伸線加工における総減面率Rを45%以上として製造した鋼線を用いた成形品においては、最も硬さの低い領域でもビッカース硬さHVで320以上となる。そして、例えば、ねじ山部分等の硬さは一段と硬くなっている。しかも、靭性も具備されている。
こうして製造される各種の成形品の中でも、特に耐冷間圧造性や耐冷間鍛造性が要求されるねじ、タッピンねじ、ボルト、ナット、インサート、リベット等の締結部品に適している。そして、ねじ部品(JIS B 0101)の中で、ねじの頭部を冷間圧造により成形するねじに適している(請求項29、34)。ねじの中でも、特にねじの頭部にドライバビットが係合する十字穴等の穴型リセスが形成され、しかもねじの有効径が1.0mm以下といったマイクロねじに対して効果が発揮される。かかるマイクロねじの場合には、係合溝の翼部(十字穴の場合には4つの翼がある)の内壁面と頭部首下との最小厚さ(最短距離部分の肉厚、Xsha.)、又は係合溝の翼部の内壁面とねじの谷の表面との最小厚さ(最短距離部分の肉厚Xscr.)が薄くなるので、強度と同時に靭性も要求される。かかる場合には、強度−靭性バランスに優れた本願発明に係るステンレス鋼線を用いて成形されたマイクロねじが適している。そして、ねじの頭部に形成された穴型の係合溝は、マイクロねじの軸心を中心として円周を4等分(十字穴の場合)乃至5等分以上された角度で放射状に翼が形成されていれば、翼の1つ当たりにかかるトルク負荷が小さくなると同時に、強度−靭性バランスに優れているので、係合溝の変形乃至破壊によるドライバーのスピンアウトも防止されるので一層望ましい。
(5)鋼線及び成形品の化学成分組成
以上、述べたステンレス鋼線及びこれから製造された成形品の化学成分組成としては、非磁性乃至微弱磁性特性を備えた発明は、オーステナイト系ステンレス鋼であることを必要条件とする。
ここで、当該ステンレス鋼の化学成分組成とは、公知の冷間圧造用に用いられているオーステナイト系ステンレス鋼線の範囲内であればよい。例えば、前記JIS G 4315で規定されている冷間圧造用ステンレス鋼線に製造されるステンレス鋼線材の化学成分組成の範囲内であればよい。
そして、オーステナイト系ステンレス鋼成分の中でも、冷間加工硬化が小さく、冷間圧造性にも優れているものとして、次の化学成分組成:
C:0.08質量%以下、Si:0.05〜1.0質量%以下、Mn:0.20〜2.0質量%以下、P:0.045質量%以下、S:0.030質量%以下、Ni:8.0〜11.0質量%、Cr:17.0〜20.0質量%、Cu:1.00〜4.00質量%、そして残部がFe及び不可避不純物からなるものとする。この化学成分組成の限定理由は次の通りである。
Cはオーステナイト相の安定化及びαフェライト相の生成抑制のために含有させるが、多量に含有されると固溶強化によってオーステナイト相が硬質化し、加工性が低下する。そこで、Cは0.08質量%以下とする。
Siは脱酸のために0.05質量%以上含有させるが、過剰の添加は強度を高めて冷間圧造性を低下させ、また熱間加工性を低下させるので、上限を1.0質量%に限定する。そこで、Si含有量は0.05〜1.0質量%の範囲内とする。
Mnはオーステナイト相の安定化による熱間加工性の確保のために、0.20質量%以上を含有させる。しかし過剰になると冷間圧造性、熱間加工性及び耐銹性を低下させるので、上限値を2.0質量%とする。そこで、Mn含有量は0.20〜2.0質量%の範囲内とする。
P及びSは材質を劣化させる上に、耐食性をも劣化させる。そこで、P含有量は0.045質量%以下、S含有量は0.030質量%以下に制限する。
Niはオーステナイト系ステンレス鋼に必須の合金成分であり、また、加工硬化を減少させて冷間圧造性を向上させるために8.0質量%以上を含有量させる。しかし、多量に含有させるほど原料費の増加を招くので、上限値を11.0%とする。そこで、Ni含有量は8.0〜11.0質量%の範囲内とする。
Crは耐食性を確保するために17.0質量%以上、望ましくは18.0質量%以上含有させる。しかし、過剰の添加は冷間圧造性及び熱間加工性を低下させるので、上限値を20.0質量%、望ましくは19.0質量%とする。そこで、Cr含有量は17.0〜20.0質量%、望ましくは18.0〜19.0質量%の範囲内とする。
Cuは冷間伸線時及び圧造時の加工硬化を抑制し、またオーステナイト相を安定化させて加工誘起マルテンサイト組織の生成を抑制するために、1.00質量%以上含有させる。そして、Cuは耐冷間圧造性に対して極めて有効な元素であり3.0%以上添加することが一層望ましい。しかしながら、Cuはオーステナイト系ステンレス鋼にその固溶限界を超えて添加すると、オーステナイト結晶粒界にCuの偏析や析出が起こり、熱間加工性を著しく低下させるので、Cuの含有量は4.00%以下に抑えなければならない。その含有量が4.00質量%を超えると、Cu脆化により製造性が著しく劣化する。そこで、Cu含有量は1.00〜4.00質量%の範囲内とし、極めて望ましくは2.5〜3.5質量%の範囲内とする。
以下、本願発明を実施例により更に詳しく説明する。本願発明の範囲内にある実施例1〜3について説明する。
〔実施例1〕
表1に示す化学成分組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼の熱間圧延線材を冷間伸線した後、固溶化熱処理し、更にスキンパス伸線して仕上げられた市販品である、線径1.27mmの素線を用いて試験した。
Figure 0005273344
上記線径1.27mmの素線を、第1ダイスから第5ダイスにより順次冷間伸線した。第1ダイスで線径1.27mmφから1.20mmφに、第2ダイスで線径1.10mmφに、第3ダイスで線径1.05mmφに、第4ダイスで線径0.97mmφに、そして第5ダイスで線径0.67mmφに冷間伸線した。この冷間伸線の間、途中で鋼線の軟化処理は一切施すことなく0.67mmφの鋼線まで伸線した。
上記素線、及び第1ダイスから第5ダイスのそれぞれにより調製された鋼線からサンプリングして、引張強さTS、絞りRA及びビッカース硬さHVを測定し、磁性の有無を試験した。
表2に、上記試験結果を示す。なお、表2には、各伸線ダイス(第nダイス(n=1〜5))による伸線率(断面積減少率、第nダイスによる断面積減少率をRnで表記する)及び素線から当該伸線ダイスによる伸線後までの総減面率Rを併記した。このように、線径1.27mmφの固溶化熱処理スキンパス仕上げの素線に対して、第1ダイスから第4ダイスでは1回の伸線当たり断面積減少率Rnが8.9〜16.0%の範囲内の伸線加工を加え、最後の第5ダイスでは断面積減少率R5が52.3%の伸線加工を加え、総減面率R72.2%の伸線加工を施した。
Figure 0005273344
その結果、引張強さTS及びビッカース硬さHVは急激に増大し、総減面率Rが72.2%の線径0.67mmφにおいては、引張強さTSは1443MPaに達している。しかも、素線段階で高水準にあった絞りRA88%からの減少量はきわめて小さく、79.2%が維持された
次に、こうして得られた各線径の鋼線の内、線径が0.97mmφの鋼線を用いて、M1.3の十字穴付き小ねじを、頭部を冷間圧造により成形し、ねじ部を転造により成形して、成形体本体を調製した。このM1.3の十字穴付き小ねじの頭部成形は、二段打ちヘッダーにより行なった。ここで最も冷間圧造性が必要とされるねじの頭部の仕上据込みパンチによる十字穴の圧造によっても、割れが発生することなく、良好に成形された。このM1.3の十字穴付き小ねじのねじり強度(ねじり破壊トルク値)は、1.59kg・cmであった。これは、従来品の水準である0.8〜0.9kg・cmを十分クリアーしている。
また、線径が0.67mmφの鋼線を用いて、M0.8の頭部の厚さが0.2mmの穴型係合溝付き極薄頭マイクロねじを、頭部を冷間圧造により成形し、ねじ部を転造により成形して、成形体本体を調製した。このM0.8の穴型係合溝付きマイクロねじの頭部成形も、二段打ちヘッダーにより行なった。ここにおいても穴型係合溝は、圧造により割れが発生することなく良好に成形された。
〔実施例2〕
表3に示す化学成分組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼の熱間圧延線材を冷間伸線した後、固溶化熱処理し、更にスキンパス伸線して仕上げられた市販品である、線径1.56mmの素線を用いて試験した。
Figure 0005273344
上記線径1.56mmの素線を、第1ダイスから第4ダイスにより順次冷間伸線した。第1ダイスで線径1.56mmφから1.45mmφに、第2ダイスで線径1.35mmφに、第3ダイスで線径1.28mmφに、そして第4ダイスで線径1.18mmφに冷間伸線した。この冷間伸線の間、途中で鋼線の軟化処理は一切施すことなく1.18mmφの鋼線まで伸線した。
実施例1と同様、上記素線、及び第1ダイスから第4ダイスのそれぞれにより調製された鋼線からサンプリングして、引張強さTS、絞りRA及びビッカース硬さHVを測定し、磁性の有無を試験した。
表4に、上記試験結果を示す。表4には、各伸線ダイス(第nダイス(n=1〜4))による伸線率(断面積減少率、Rn)及び素線から当該伸線ダイスによる伸線後までの総減面率Rを併記した。このように、線径1.56mmφの固溶化熱処理スキンパス仕上げの素線に対して、1回の伸線当たり断面積減少率Rnが10.2〜15.0%の範囲内の伸線加工を加え、総減面率R42.8%の伸線加工を施した。
Figure 0005273344
その結果、引張強さTS及びビッカース硬さHVは、実施例1における場合と同様急激に増大し、総減面率Rが42.8%の線径1.18mmφにおいては、引張強さTSは993MPaに達している。しかも、素線段階で高水準にあった絞りRA88.9%からの減少量はきわめて小さく、80.6%が維持された。
次に、こうして得られた線径が1.18mmφの鋼線を用いて、M1.3の頭部厚さが0.2mmの穴型係合溝付き極薄デカ頭マイクロねじにおいて、最も冷間圧造性が必要とされるねじの頭部を、割れが発生することなく、良好に成形することができた。
〔総減面率と引張り強さ、およびビッカース硬さ〕
上記の通り、市販品である冷間伸線後の固溶化熱処理スキンパス仕上げで調製されたステンレス鋼の素線に対して、各種の総減面率Rによる冷間伸線を施すことにより、本願発明に係る冷間加工性に優れた高強度ステンレス鋼線の製造試験において、当該総減面率Rを徐々に増加させて約70%まで変化させていくにつれて、図1に示すように、引張強さTSは、500MPa水準から1400MPa水準まで急激に増加する。このとき、絞りRAは90%弱から80%前後にまで低下するだけであり、その低下量は極めて小さい。なお、その間、図2に示すように、ビッカース硬さHVは引張強さTSの増加につれて急激に増大する。
このように、鋼線は絞りRAが高水準に維持されているので、高強度化されても、優れた冷間加工性が具備されている。そのため、十字穴付き小ねじの頭部の冷間圧造が良好になされ、また極薄デカ頭マイクロねじのような特殊なねじの頭部の冷間圧造も良好になされた。こうして調製されたねじは、特殊な高強度化処理は施されていなくても、優れたねじり強度が備わっていることが確認された。このようなねじり強度を発揮するためのねじ頭部の係合溝の耐へたりも克服されていることも確認された。また、用途に応じて、非磁性乃至微弱磁性を備えた高強度、耐食性ステンレス鋼ねじも製造することができることも確認された。
〔実施例3、4〕
表5に示す化学成分組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼について実施例1と同様に試験した。実施例1との試験条件の主な相違点は、化学成分組成のうちCu含有量を、実施例1においては3.03%としたが、実施例3及び4においては、それぞれ2.49%及び3.51%と変化させたことである。表6にその結果を示した。同様に優れた結果が得られることが確認された。
Figure 0005273344
Figure 0005273344
以上の実施例により、この出願の発明に係る冷間加工性に優れた高強度ステンレス鋼線及びこれから調製された高強度ステンレス鋼ねじの有用性が確認された。
本発明は以上の通り構成されているので、下記の通りの有益な効果がもたらされる。まず、従来、冷間加工により成形される締結部品や軸類部品等の成形品に用いられるステンレス鋼は、大別するとオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼及び析出硬化系ステンレス鋼に分けることができるが、高強度を有する成形品を製造しようとする場合には、マルテンサイト系ステンレス鋼線を所望する成形体本体に加工した後、焼入・焼戻し処理を施すか、また析出硬化系ステンレス鋼線を所望する成形体本体に加工した後、析出硬化熱処理を施すことが必要とされていた。これに対して、本発明によれば、そのような焼入・焼戻し処理及び析出硬化熱処理のいずれをも必要とせずに、所望の高強度成形品を製造することができる。
本発明によれば、上記優位性を持つ冷間加工性に優れ、しかも高強度特性を備えた成形品を、従来市販品として製造されている冷間圧造用のオーステナイト系ステンレス鋼線を所定条件による冷間伸線をするだけで得られる鋼線を素線として、従来設備による従来技術による冷間加工により製造することができる。更に、上記オーステナイト系ステンレス鋼線の所定条件による冷間伸線において総減面率を限定することにより、上記マルテンサイト系及び析出硬化系では製造不可能な非磁性乃至微弱磁性が要求される成形品も提供することができる。
例えば、冷間圧造性に優れ、耐食性にも優れ、且つ非磁性を備えたオーステナイト系ステンレス鋼であるSUSXM7の化学成分組成を有する鋼線であって、しかも従来要求されていたが、全くその要求を満たすことができていなかった、引張強さが700〜800MPa以上である高強度鋼線を、本発明により、極めて容易に且つ安価に製造することが可能となる。従って、また当該発明により、従来存在しなかった上記高強度且つ非磁性乃至微弱磁性の特性を全て備えた薄頭のマイクロねじの製造も可能となる。
以上の通り本発明によれば、上記薄頭のマイクロねじのように従来製造することができなかったステンレス鋼成形品を製造することが可能となることに加え、従来供給が要請されていたにもかかわらず実際には供給されていなかった、引張強さが700〜800MPa以上という高強度を備え、しかも冷間加工性に優れた安価なステンレス鋼線を供給することが可能となり、更に、この高強度ステンレス鋼線を使用することにより、高強度成形品を成形後の熱処理なしで短期間に安価に製造することが可能となる。

Claims (4)

  1. C:0.08質量%以下、
    Si:0.05〜1.0質量%以下、
    Mn:0.20〜2.0質量%以下、
    P:0.045質量%以下、
    S:0.030質量%以下、
    Ni:8.0〜11.0質量%、
    Cr:17.0〜20.0質量%、
    Cu:1.00〜4.00質量%、
    そして残部がFe及び不可避不純物からなる化学成分組成を有し、
    しかも、伸線後固溶化熱処理仕上げ、又は伸線後固溶化熱処理スキンパス仕上げのオーステナイト系ステンレス鋼線を素線として、当該素線に対する総減面率Rが41.7〜80%の範囲内の冷間伸線加工が施されたことを特徴とする、冷間加工性に優れた高強度オーステナイト系ステンレス鋼線。
  2. 引張強さが650超え〜1500MPaの範囲内にあり、且つ絞りが65〜90%の範囲内にある機械的性質を有することを特徴とする、請求項1記載の冷間加工性に優れた高強度オーステナイト系ステンレス鋼線。
  3. 請求項1又は2に記載の冷間加工性に優れた高強度ステンレス鋼線を用いて冷間加工により製造されたことを特徴とする、高強度オーステナイト系ステンレス鋼成形品。
  4. 前記成形品ねじ部品であって、その断面における硬さがビッカース硬さで200以上であることを特徴とする、請求項3記載の高強度オーステナイト系ステンレス鋼成形品。
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