JP5272650B2 - 粉末冶金用粉末混合物およびその製造方法 - Google Patents
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しかし、このような粉末混合物は、大きさ、形状および密度の異なる複数種の粉末の混合体であるため、混合後の輸送時、ホッパーへの装入やホッパーからの排出時、さらには金型充填時などに、混合体の中で粉末が均一に分布しなくなり、偏析を生じ易いという問題がある。
このような粉末冶金用粉末混合物の偏析を防止するために、有機結合剤によって鉄基粉末表面に合金用粉末を付着させる技術(偏析防止処理)が知られているが、有機結合剤の付着力(分子間力)が大きいため粉末混合物の流動性が小さくなり、ホッパーからの排出性や成形時のキャビティーへの充填性が悪化するという問題がある。
したがって本発明の目的は、合金用粉末等の偏析が生じにくく、しかも流動性に優れ且つ成形時における金型界面との潤滑性にも優れた粉末冶金用粉末混合物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、そのような粉末冶金用粉末混合物を安定して製造することができる製造方法を提供することにある。
(a)有機結合剤により鉄基粉末表面に合金用粉末等の添加粉末を付着させる方法(偏析防止処理)を採る場合、有機結合剤と鉄基粉末表面との濡れ性が悪いため、有機結合剤が凹凸のある鉄基粉末表面の凹部に偏在する傾向があり、このため有機結合剤で被覆されない部分(地の鉄がむき出しの状態の部分)が生じ、適切な偏析防止効果が得られない。このような問題に対しては、事前に鉄基粉末表面を濡れ改善剤で処理しておくことが有効であり、これにより鉄基粉末表面を有機結合剤で均一に被覆することができる。
(c)鉄基粉末表面を有機結合剤で均一に被覆することにより、合金用粉末の偏析が防止できるだけでなく、成形時における金型界面との潤滑性も向上するため、成形圧の低減化や金型からの抜出し力の低減化を図ることができ、部品欠陥の発生も少なくすることができる。また、流動性を高めるために従来技術で用いているようなナノ粒子を添加する必要がないため、この点からも成形時の潤滑性を確保しやすい。
(d)以上により、合金用粉末等の偏析が生じにくく、しかも流動性に優れ、且つ成形時における金型界面との潤滑性にも優れた粉末冶金用粉末混合物が得られる。
[1]鉄基粉末に有機結合剤を介して合金用粉末を付着させた粉末冶金用粉末混合物において、鉄基粉末の表面に、下層側から順に、濡れ改善剤による被覆層、合金用粉末と有機結合剤とを含む被覆層、表面改質剤による被覆層を有し、前記表面改質剤が、カップリング剤、非イオン系界面活性剤、シロキサンコーティング剤の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする粉末冶金用粉末混合物。
[2]上記[1]の粉末冶金用粉末混合物において、濡れ改善剤が、カップリング剤、非イオン系界面活性剤の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする粉末冶金用粉末混合物。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの粉末冶金用粉末混合物において、非イオン系界面活性剤が、アセチレンアルコール、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンの中から選ばれる1種以上であることを特徴とする粉末冶金用粉末混合物。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの粉末冶金用粉末混合物において、シロキサンコーティング剤が、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、シロキサン変性ポリウレタン、オルガノポリシロキサン、アクリル変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの中から選ばれる1種以上であることを特徴とする粉末冶金用粉末混合物。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの粉末冶金用粉末混合物において、さらに、鉄基粉末から遊離した潤滑剤を含むことを特徴とする粉末冶金用粉末混合物。
[8]上記[7]の製造方法において、工程(C)において若しくは工程(C)の完了後に、鉄基粉末に潤滑剤を添加して混合することにより、潤滑剤を鉄基粉末から遊離した状態で含ませることを特徴とする粉末冶金用粉末混合物の製造方法。
本発明の粉末混合物を構成する鉄基粉末としては、例えば、純鉄粉、合金鋼粉、純鉄粉に合金成分を部分的に拡散付着させた部分拡散合金化鋼粉などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
濡れ改善剤層2は、通常、上記のような濡れ改善剤を含む溶液を鉄基粉末に添加して混合した後、乾燥することにより形成することができる。
粉末混合物中での濡れ改善剤の含有量は、少なすぎると均一な被覆の濡れ改善剤層2が形成できず、多すぎると圧粉密度の低下や焼結体の強度低下を招く。このため濡れ改善剤の含有量は、鉄基粉末+合金用粉末の合計質量に対して0.01〜0.2mass%(すなわち、鉄基粉末+合金用粉末の合計100質量部に対して0.01〜0.2質量部)程度が適当である。
粉末混合物中での合金用粉末の含有量は、通常、鉄基粉末+合金用粉末中での割合で0.1〜10mass%程度であり、例えば、鉄基粉末が純鉄粉の場合には、合金用粉末として、鉄基粉末+合金用粉末中での割合で銅粉を1〜3質量%、黒鉛粉を0.3〜1.0質量%程度含有するのが一般である。
有機結合剤は、合金用粉末を鉄基粉末に付着させるのに足る量添加すればよく、粉末混合物中での含有量は、通常、鉄基粉末+合金用粉末の合計質量に対して0.05〜0.8質量%程度とするのが一般である。
合金用粉末/有機結合剤層3は、合金用粉末と有機結合剤を鉄基粉末(濡れ改善剤層2を有する鉄基粉末1)に添加し、有機結合剤の融点以上の温度に加熱しつつ混合した後、冷却することにより形成することができる。
表面改質剤層4は、通常、上記のような表面改質剤を含む溶液を鉄基粉末1(濡れ改善剤層2と合金用粉末/有機結合剤層3を有する鉄基粉末1)に添加して混合した後、乾燥することにより形成することができる。
粉末混合物中での表面改質剤の含有量は、少なすぎると均一な被覆の表面改質剤層4が形成できず、多すぎると圧粉密度の低下や焼結体の強度低下を招く。このため表面改質剤の含有量は、鉄基粉末+合金用粉末の合計質量に対して0.01〜0.2mass%程度が適当である。
なお、本発明では、従来技術で用いているようなナノ粒子(例えば、金属酸化物、カーボンブラック等)の添加を排除するものではないが、本発明の粉末混合物はナノ粒子を添加しなくても高い流動性が得られ、一方において、ナノ粒子を添加すると成形時における金型界面との潤滑性が低下するので、ナノ粒子は添加しない方が好ましい。
潤滑剤は、成形時の抜出し力を低減させるために添加される。この潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マンガン、ステアリン酸リチウムなどのような金属石鹸;エチレンビスステアリン酸アミドなどのようなビスアミドを含む脂肪酸アミド;ステアリン酸モノアミド、エルカ酸アミドなどのようなモノアミドを含む脂肪酸アミド;オレイン酸、ステアリン酸などのような脂肪酸;ポリアミド、ポリエチレン、ポリアセタールなどのような熱可塑性樹脂、などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
粉末混合物中での潤滑剤の含有量は、通常、鉄基粉末+合金用粉末の合計質量に対して0.1〜2mass%程度である。
まず、鉄基粉末1に濡れ改善剤を含む溶液を添加して混合した後、適度な温度(通常、100℃程度)で乾燥させ、濡れ改善剤の溶媒や濡れ改善剤と水との反応生成物であるアルコール類(例えば、界面活性剤の場合には溶媒、カップリング剤の場合には溶媒および水との反応生成物であるアルコール類)などを蒸散させることで、濡れ改善剤層2を形成する(以上、工程A)。
次いで、この濡れ改善処理がなされた鉄基粉末(濡れ改善剤層2を有する鉄基粉末1)に副原料である合金用粉末(例えば、黒鉛粉、銅粉)を有機結合剤とともに添加し、有機結合剤の融点以上の温度に加熱しつつ撹拌混合した後、冷却して有機結合剤を固化させる(以上、工程B)。これにより、濡れ改善剤層2の上層に合金用粉末が有機結合剤を介して付着した合金用粉末/有機結合剤層3が形成される。ここで、濡れ改善剤層2の作用によって有機結合剤は鉄基粉末全体を均一に被覆するので、鉄基粉末全体を被覆する合金用粉末/有機結合剤層3が形成される。
潤滑剤を添加する場合、上記工程Cにおいて表面改質剤と同時に添加してもよいし、表面改質剤層4を形成した後(工程Cの完了後)に添加してもよい。潤滑剤を添加する場合には、ヘンシェルミキサーのような撹拌翼型ミキサー、V型ブレンダーやダブルコーンミキサーのような容器回転型ミキサーなどにより混合がなされる。
このような機械部品の製造において、本発明の粉末混合物は、合金用粉末など偏析がないため、バラツキのない均一な組成、強度を有する製品を得ることができ、また、高い流動性を有するので金型への充填性にも優れ、且つ成形時における成形性や金型からの抜出し性にも優れるので、大型で複雑な形状の部品であっても容易に製造することができる。
鉄基粉末として純鉄粉を用い、これに表1に示す合金用粉末(副原料)、有機結合剤、濡れ改善剤、表面改質剤および潤滑剤を配合し、さきに説明した製造方法に従い本発明例の粉末混合物を製造した。
また、鉄基粉末として純鉄粉を用い、これに表2に示す合金用粉末(副原料)、有機結合剤および潤滑剤を配合し、比較例の粉末混合物を製造した。この製造工程では、鉄基粉末に合金用粉末と有機結合剤を添加し、有機結合剤の融点以上の温度に加熱しつつ撹拌混合した後に、冷却して有機結合剤を固化させ、しかる後、潤滑剤を添加して混合した。
(1)充填性の評価
図3に示す充填試験機を用い、以下のようにして充填率と充填のバラツキを測定した。長さ20mm、深さ40mm、幅0.5mmのキャビティー内に供試粉を充填した。粉箱は図中の矢印方向に移動し、その移動速度は200mm/秒とした。また、キャビティー上での粉箱の保持時間は0.5秒とした。充填後の充填密度(充填質量/キャビティー体積)を充填前の見かけ密度の百分率で表したものを充填率とした(充填率100%で完全充填)。また、同じ試験を10回繰り返し、その充填率のバラツキを充填率の標準偏差で表した。
(2)圧粉特性の評価
供試粉を室温、588MPaの加圧成形で11mmφ×11mmHの円筒状の成形品とし、得られた成形品を金型から抜き出すときの抜出し力を測定するとともに、成形品の密度を測定した。
2 濡れ改善剤層
3 合金用粉末/有機結合剤層
4 表面改質剤層
30 合金用粉末
31 有機結合剤
Claims (8)
- 鉄基粉末に有機結合剤を介して合金用粉末を付着させた粉末冶金用粉末混合物において、
鉄基粉末の表面に、下層側から順に、濡れ改善剤による被覆層、合金用粉末と有機結合剤とを含む被覆層、表面改質剤による被覆層を有し、
前記表面改質剤が、カップリング剤、非イオン系界面活性剤、シロキサンコーティング剤の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする粉末冶金用粉末混合物。 - 濡れ改善剤が、カップリング剤、非イオン系界面活性剤の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の粉末冶金用粉末混合物。
- カップリング剤が、アルミネート系カップリング剤、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の粉末冶金用粉末混合物。
- 非イオン系界面活性剤が、アセチレンアルコール、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンの中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の粉末冶金用粉末混合物。
- シロキサンコーティング剤が、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、シロキサン変性ポリウレタン、オルガノポリシロキサン、アクリル変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の粉末冶金用粉末混合物。
- さらに、鉄基粉末から遊離した潤滑剤を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の粉末冶金用粉末混合物。
- 鉄基粉末に濡れ改善剤を含む溶液を添加して混合した後、乾燥させることにより、鉄基粉末の表面に濡れ改善剤による被覆層を形成する工程(A)と、
該工程(A)を経た鉄基粉末に合金用粉末と有機結合剤を添加し、有機結合剤の融点以上の温度に加熱しつつ混合した後、冷却することにより、前記濡れ改善剤による被覆層の上に、合金用粉末と有機結合剤とを含む被覆層を形成する工程(B)と、
該工程(B)を経た鉄基粉末に表面改質剤を含む溶液を添加して混合した後、乾燥させることにより、前記合金用粉末と有機結合剤とを含む被覆層の上に、表面改質剤による被覆層を形成する工程(C)を有し、
前記表面改質剤が、カップリング剤、非イオン系界面活性剤、シロキサンコーティング剤の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする粉末冶金用粉末混合物の製造方法。 - 工程(C)において若しくは工程(C)の完了後に、鉄基粉末に潤滑剤を添加して混合することにより、潤滑剤を鉄基粉末から遊離した状態で含ませることを特徴とする請求項7に記載の粉末冶金用粉末混合物の製造方法。
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