JP5272143B2 - 亜鉛−ニッケル合金のめっき層により被覆された鋼製部材および鋼製部材の処理方法 - Google Patents

亜鉛−ニッケル合金のめっき層により被覆された鋼製部材および鋼製部材の処理方法 Download PDF

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Description

本発明は、亜鉛−ニッケル(Zn−Ni)合金のめっき層により被覆された鋼製部材および鋼製部材の処理方法に関し、例えば航空機や宇宙用機材に使用される高強度鋼製の部材に適用できる。
例えば航空機の構造材として用いられる高強度鋼製部材を、防食のためにカドミウム−チタン(Cd−Ti)合金のめっき層により被覆することが従来から行われている。しかし、カドミウムは環境を害するという問題がある。そこで、カドミウム−チタン合金に代えて亜鉛−ニッケル合金のめっき層を電気めっきにより形成し、また、高強度鋼のような強度の高い鋼製部材は水素脆化により割れ易いことから、電気めっき時の通電により高強度鋼内部に取り込まれた水素(H)を、めっき後に昇温して外部に放出させるベーキング等の脱水素処理を行うことが提案されている(特許文献1参照)。
特開2008−297621号公報
従来においては、めっき後に鋼製部材内部に取り込まれた水素を脱水素処理により外部に放出させ、部材内の残留水素を十分に低減すれば、めっき層の毀損等による外観上の変化がない限り、その鋼製部材は水素脆化による脆性破壊の恐れはないものと位置付けられていた。そのため、めっき後にベーキング処理された鋼製部材のロットからサンプリングした試験片に引張荷重を一定時間作用させ、破断の有無を確認する水素脆化確認試験を行うことで、そのロットの鋼製部材の水素脆性評価が行えると考えられていた。
ところが、そのような水素脆化確認試験に合格した試験片を液体中に浸漬した状態で、引張荷重を作用させて破断の有無を確認する再水素脆化確認試験を行ったところ、その引張荷重と引張保持時間が水素脆化確認試験におけるより小さく、その試験片に外観上の変化がなくても水素脆化による脆性破断を生じることが本件発明者らにより確認された。図15は再水素脆化確認試験の方法を示すもので、試験片60の切欠き部60aをカップ61に入れた水や塩水等の液体62に浸漬させる。試験片60は焼き入れされることで強度が1793MPa(260ksi)〜1931MPa(280ksi)とされ、切欠き部60aの形状は高精度に規定される。この状態で試験片60は引張保持され、破断の有無で再水素脆化の発生が判断される。この再水素脆化確認試験により試験片60に破断が生じる引張荷重と引張保持時間が、通常の水素脆性評価のための水素脆化確認試験において作用させる引張荷重と引張保持時間(引張荷重は材料強度の75%、引張保持時間は200時間)よりも低い値となった。すなわち、鋼製部材を亜鉛−ニッケル合金のめっき層により被覆した後に、その部材およびめっき層の水素量をベーキングにより十分に低減し、しかも、外観上の変化がない場合でも、その部材内の水素量が再び増大して脆化する再水素脆化現象が生じた。
上記のような再水素脆化は、めっきされた部材に外観上の変化が認められない場合でも発生することから、その発生防止が重要な課題となる。特に航空機における脚部のシリンダやフラップ作動用のトラックレールに使用される高強度鋼は、離着陸時に飛散する砂や食塩等の粒子・雨滴等との接触により当該部位から侵入する水素により再水素脆化を生じる可能性が考えられた。
本発明は、鋼製部材に亜鉛−ニッケル合金のめっき層を形成する場合における再水素脆化の発生という問題を解決することを目的とする。
本発明方法は、鋼製部材を被覆する亜鉛−ニッケル合金のめっき層を形成する工程を含む鋼製部材の処理方法であって、前記鋼製部材と前記めっき層との間、または、前記めっき層の内部に、水素吸収機能を有する金属チタンを配置する工程と、前記金属チタンの配置後に前記鋼製部材から水素を除去する脱水素処理工程とを備えることを特徴とする。本発明の鋼製部材は、本発明方法により処理されていることを特徴とする。
亜鉛−ニッケル合金のめっき層においては、もしもその周辺に電解質を含む水溶液が存在すると、ニッケル含有率の分布の不均一に起因して電位差を生じて電流が流れ、そのため、めっき後にベーキング処理された鋼製部材であっても、めっき層の表面で水素が電解チャージすることにより鋼製部材に侵入し、これにより再水素脆化を生じる場合があることを本件発明者らは究明した。
そこで本件発明者らは、金属チタンは常温域で水素吸収機能を有し、鋼や亜鉛−ニッケル合金よりも水素を吸収し易いことに着目し、亜鉛−ニッケル合金のめっき層を介して鋼製部材に侵入しようとする水素を金属チタンにより吸収することで、鋼製部材への水素の侵入防止を図る本発明をなすに至った。
本発明によれば、亜鉛−ニッケル合金のめっき層の内部、または、鋼製部材とめっき層との間に配置される金属チタンにより、めっき層を介して鋼製部材に侵入しようとする水素を吸収することで、鋼製部材の再水素脆化を防止できる。
なお、めっき層の内部、または、鋼製部材とめっき層との間における金属チタンの配置態様は特に限定されないが、一様な層として配置するよりも粒子や薄い鱗片のような状態で分散して配置するのが、めっき層の耐剥離強度を確保する上で好ましい。
前記金属チタンを前記めっき層の下地面に付着させ、しかる後に、前記めっき層を形成することで前記鋼製部材と前記めっき層との間に前記金属チタンを配置するのが好ましい。これにより、鋼製部材とめっき層との間に金属チタンを確実に配置できる。この場合、前記金属チタンをプラズマ中で溶融させ、そのプラズマを前記下地面に吹きつける溶射により、前記金属チタンを前記下地面に付着させるのが好ましい。あるいは、表面に前記金属チタンが付着した多数の粒子、または、多数の微粒子状の前記金属チタンを、前記下地面に衝突させるブラスト処理により、前記金属チタンを前記下地面に付着させるのが好ましい。これにより、めっき層の下地面に金属チタンを分散して配置でき、また、工業的に容易に実用化できる。
多数の微粒子状の前記金属チタンをめっき液内に分散させ、しかる後に、微粒子状の前記金属チタンが分散する状態の前記めっき液内で、前記めっき層を電気めっきにより形成することで、前記めっき層を形成しつつ前記めっき層の内部に前記金属チタンを配置するのが好ましい。これによって、めっき層の内部に金属チタンを分散して配置でき、また、めっき液の溶媒として水を用いることができ、工業的に容易に実用化できる。
従来のカドミウム−チタン合金のめっき層を、めっき液として水溶液を用いて電気メッキにより高強度鋼に形成することを試み、再水素脆化確認試験を行った。この場合、めっき層に金属チタンが含まれていると考えられたが、再水素脆化を防止することができなかった。そこで、そのめっき層に含まれたチタンの組成を調べたところ、水素吸収機能を有する金属チタンではなく、不活性な二酸化チタン(TiO2 )による構成が確認された。これは、電気メッキの工程中にチタン原子が酸素と結合してしまい、金属チタンを析出させることができなかったためであると考えられる。
これに対し、亜鉛−ニッケル合金のめっき層を電気めっきにより形成する際に、めっき液に予めチタニルイオン(TiO2+)を溶解させておくことで、亜鉛−ニッケル合金のめっき層の内部に水素吸収機能を有する金属チタンを析出できることを本件発明者らは見出した。そこで、チタニルイオンをめっき液に溶解させ、しかる後に、前記めっき液内で前記めっき層を電気めっきにより形成することで、前記めっき層を形成しつつ前記めっき層の内部に前記金属チタンを配置するのが好ましい。これにより、めっき層の内部に金属チタンを配置でき、また、めっき液の溶媒として水を用いることができ、工業的な実用化が容易になる。この場合、めっき層における金属チタンの含有率を1%未満にするのがよい。
本発明においては、前記金属チタンの配置前に前記鋼製部材を被覆するニッケル下地層を形成し、前記下地層の表面を前記めっき層の下地面とするのが好ましい。これにより、下地層とめっき層は金属チタンが配置されていない領域で連続し、また、めっき層は下地層を構成するニッケルを含むことから、鋼製部材とめっき層の密着性が向上し、めっき層の耐剥離強度が低下するのを防止できる。
本発明によれば、有害物質の溶出がなく、廃棄時に有害物質を除去する必要がないので取り扱いが容易な亜鉛−ニッケル合金のめっき層を備え、脱水素処理がなされた鋼製部材において、水素の吸収による再水素脆化現象が生じるのを防止でき、安全性を求められる航空機部品に用いるのに適した鋼製部材を提供できる。
本発明の第1実施形態に係る亜鉛−ニッケル合金めっき層により被覆された鋼製部材の構成説明図 本発明の第2実施形態に係る亜鉛−ニッケル合金めっき層により被覆された鋼製部材の構成説明図 本発明の第1実施形態に係り、金属チタンを溶射により供給するための構成の説明図 本発明の第1実施形態に係り、溶射を介して鋼製部材を処理する手順の説明図 本発明の第1実施形態に係り、金属チタンをブラスト処理により供給するための粒子の説明図 本発明の第1実施形態に係り、ブラスト処理を介し鋼製部材を処理する手順の説明図 本発明の第2実施形態に係り、金属チタンが分散するめっき浴を有する機構の説明図 本発明の第2実施形態に係り、金属チタンが分散するめっき浴を用いて鋼製部材を処理する手順の説明図 本発明の第2実施形態に係り、チタニルイオンが溶解するめっき浴を有する機構の説明図 本発明の第2実施形態に係り、チタニルイオンが溶解するめっき浴を用いて鋼製部材を処理する手順の説明図 本発明の第1実施形態に係る亜鉛−ニッケル合金めっき層により被覆された鋼製部材の作用説明図 本発明の第2実施形態に係る亜鉛−ニッケル合金めっき層により被覆された鋼製部材の作用説明図 従来のめっき層により被覆された鋼製部材の組成の分析結果を示す図 本発明の第2実施形態に係る亜鉛−ニッケル合金めっき層により被覆された鋼製部材の組成の分析結果を示す図 再水素脆化確認試験の説明図
図1は本発明の第1実施形態に係るめっき層2により被覆された鋼製部材1を示す。鋼製部材1は、例えば航空機部品として用いられるニッケル・クロム・モリブデン鋼のような高強度鋼であり、亜鉛−ニッケル合金の防食用めっき層2により被覆されている。鋼製部材1とめっき層2との間に水素吸収機能を有する金属チタン3が分散状態で配置されている。金属チタン3の配置前に鋼製部材1を被覆するニッケル(Ni)の下地層4がニッケルストライクめっきにより形成されており、下地層4の表面がめっき層2の下地面4aとされている。金属チタン3を下地面4aに付着させた後にめっき層2が形成されることで、鋼製部材1とめっき層2との間に金属チタン3が配置されている。めっき層2の腐食(いわゆる白錆)を防止するため、めっき層2の上面には3価クロム化成処理により3価クロム層5が形成されている。めっき層2の耐食性は、例えばASTM B117準拠の塩水噴霧試験により、1000時間以上経過してもサビ(白錆・赤錆ともに)を生じない耐食性を有するものとするのが好ましい。なお、3価クロム層5に代えて6価クロムを含有するクロメート処理層を用いても良いが、有害物質を含有しない3価クロム層5の方が好ましい。鋼製部材1は、例えば191℃で数時間〜24時間保持されることでベーキングされ、これにより金属チタン3の配置後に鋼製部材1から水素を除去する脱水素処理がなされている。
図2は本発明の第2実施形態に係るめっき層2′により被覆された鋼製部材1を示す。第1実施形態では鋼製部材1とめっき層2との間に金属チタン3が配置されているのに対し、本実施形態ではめっき層2′の内部に水素吸収機能を有する金属チタン3が分散状態で配置されている。金属チタン3は、めっき層2′を形成しつつめっき層2′の内部に配置される。他は第1実施形態と同様とされている。
図3は、第1実施形態に係るめっき層2の下地面4aに向かい金属チタン3をプラズマ溶射ガン12を用いて溶射するための機構を示す。プラズマ溶射ガン12の内部に、高電圧電源回路12aに接続される陽極12bと陰極12cが設けられ、両電極12b、12cの間の空間がプラズマ生成空間12dとされている。プラズマ生成空間12dに、配管12eを介して例えばアルゴン(Ar)にヘリウム(He)を混合した希ガス(第0属元素の混合ガス)が供給され、希ガスは両電極12b、12c間の放電によってプラズマとなり、噴出口12gからプラズマジェット13として噴出される。そのプラズマ13中に配管12fを介して粉末状の金属チタンが供給される。金属チタンはプラズマ中において溶融して微粒子3′となる。これにより、めっき層2の下地面4aに溶融した金属チタンの微粒子3′が溶射により吹き付けられる。プラズマは希ガスが励起したものであるので金属チタンはプラズマ中において酸化することはない。なお、金属チタンが酸化して二酸化チタンになると水素吸収機能を十分に発揮できないことから、プラズマジェット13の周囲から溶射対象の下地面4aに向かうシールドガス14を噴出する配管15を設け、金属チタン3の酸化を確実に防止するのが好ましい。シールドガス14としては、アルゴン等の第0属元素のガスや、これらの混合ガス(例えばアルゴンとヘリウムの混合ガス)を用いるのがよい。
図4は、プラズマ溶射ガン12を用いて鋼製部材1を処理する手順を示す。まず、図4(A)に示す鋼製部材1の表面を従来同様に酸などで洗浄することで活性化し、次に、図4(B)に示すようにニッケルストライクメッキにより下地層4を形成する。下地層4の厚さは例えば0.5〜1.0μm とされる。ニッケルストライクメッキの方法は特に限定されず従来と同様に行うことができ、例えば、めっき液として硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸を主成分とする水溶液を用いる所謂ワット浴を用いる電気メッキにより行う。次に、図4(C)に示すように、プラズマ溶射ガン12を用い、金属チタンをプラズマ13中で溶融させ、そのプラズマ13を下地面4aに吹きつける溶射により金属チタン3を下地面4aに付着させる。プラズマ13中において溶融した金属チタンの微粒子3′は、下地面4aに付着した時点で急冷されることで微細な粒子状状の金属チタン3となり、下地面4aにおいて分散して配置される。この際、金属チタンが酸化するのを防止するため、シールドガス14を下地面4aに向かい噴出するのが好ましい。次に、図4(D)に示すように、鋼製部材1を被覆する亜鉛−ニッケル合金のめっき層2を下地層4の上に形成することで、鋼製部材1とめっき層2との間に水素吸収機能を有する金属チタン3を配置する。めっき層2の形成方法は特に限定されず従来と同様に形成でき、例えば亜鉛イオンとニッケルイオンを含有するめっき浴を用いた電気めっきにより形成する。次に、図4(E)に示すように、めっき層2を3価クロム化成処理により3価クロム層5により被覆する。3価クロム層5の形成方法は特に限定されず従来と同様に形成でき、例えば市販の3価クロム化成処理剤を用いて化成皮膜を形成する。しかる後に、鋼製部材1から水素を除去する脱水素処理を行い、例えば従来同様に大気中での191℃、約24時間のベーキングにより行う。
図5は、第1実施形態に係るめっき層2の下地面4aに金属チタン3をブラスト処理により供給するための多数の粒子21を示す。本実施形態の各粒子21はアルミナ(酸化アルミニウム)、二酸化珪素、炭化珪素、あるいは窒化珪素等のセラミック製のボールとされ、その直径は例えば約0.2〜約1mmとされる。図5(A)に示すように、各粒子21は、金属チタンを収納した坩堝(図示省略)と共に真空容器22に入れられ、真空内でチタン蒸気が発生するまで金属チタンは高温に加熱される。これにより、図5(B)に示すように、各粒子21の表面に金属チタン3が蒸着される。
図6は、ブラスト処理により鋼製部材1を処理する手順を示す。まず、上記の溶射による場合と同様に、図6(A)に示す鋼製部材1の表面を酸などで洗浄することで活性化し、図6(B)に示すようにニッケルストライクメッキにより下地層4を形成する。次に、図6(C)に示すように、表面に金属チタン3が付着した多数の粒子21をブラスト処理装置23を用いて加速し、高速で下地面4aに衝突させるブラスト処理により、金属チタン3を下地面4aに付着させる。粒子21の表面の金属チタン3は鱗片状となって下地面4aに転写され、下地面4aにおいて分散して配置される。ブラスト処理装置23は、例えば高圧空気により粒子21を加速して噴出する公知の装置を用いることができる。この際、金属チタンが酸化するのを防止するため、アルゴン等の第0属元素のガスや、これらの混合ガスを、粒子を加速するガスやシールドガスとして下地面4aに向かい噴出するのが好ましい。次に、上記の溶射による場合と同様に、図4(D)に示すように、鋼製部材1を被覆する亜鉛−ニッケル合金のめっき層2を下地層4の上に形成することで、鋼製部材1とめっき層2との間に水素吸収機能を有する金属チタン3を配置し、図4(E)に示すように、めっき層2を3価クロム層5により被覆し、しかる後に脱水素処理を行う。
図7は、第2実施形態に係るめっき層2′を形成するための金属チタン3が分散するめっき浴を有する機構を示す。すなわち、めっき槽32に貯留されるめっき液31は水溶液であり、その中に陽極33及びめっき対象の下地層4で被覆された鋼製部材1が陰極として配置され、両極は電源34に接続される。本実施形態では、めっき液31に亜鉛イオンとニッケルイオンが含有され、その含有量は例えばめっき層2′でのニッケル共析率が12%〜18%となるように設定される。なお、陽極33としてめっき層2′を構成するニッケルや亜鉛を用いてもよいが、本実施形態では陽極33として例えば白金のようなめっき液31に溶解しない材料が用いられる。また、めっき液31内のイオン濃度を維持するため、めっき槽32に通じる補助槽35に亜鉛イオンの供給用亜鉛ブロック36が設置され、循環ポンプ37によりめっき液31はめっき槽32と補助槽35の間で循環され、また、ニッケルイオンの供給のためにニッケル塩等の薬剤38がめっき処理の進行に応じて補充される。これにより、めっき層2′の亜鉛−ニッケル合金の合金割合を一定に維持することが図られている。多数の微粒子状の金属チタン3をめっき液31内に投入し、その金属チタン3とめっき液31とを混合する。金属チタン3はめっき液31に溶解しないので、めっき液31内で多数の微粒子状の金属チタン3が分散する。金属チタン3の各粒子直径は例えば1μm程度〜十数μm程度が適するとされる。攪拌器39によってめっき液31を攪拌することで、多数の微粒子状の金属チタン3が凝集するのを防止するのが好ましい。
図8は、金属チタン3を混合されためっき液31を用いためっき処理を介して鋼製部材1を処理する手順を示す。まず、上記の溶射による場合と同様に、図8(A)に示す鋼製部材1の表面を酸などで洗浄することで活性化し、図8(B)に示すようにニッケルストライクメッキにより下地層4を形成する。次に、図8(C)に示すように、多数の微粒子状の金属チタン3をめっき液31内に分散させ、多数の微粒子状の金属チタン3が分散する状態のめっき液31内で、めっき層2′を電気めっきにより形成する。この際、成長しつつある亜鉛−ニッケル合金のめっき層2′内に金属チタン3が取り込まれるので、めっき層2′を形成しつつ、めっき層2′の内部に金属チタン3を配置することができる。これにより、図8(D)に示すように、めっき層2′の内部に多数の微粒子状の金属チタン3を分散して配置することができる。次に、上記の溶射による場合と同様に、図8(E)に示すように、めっき層2′を3価クロム層5により被覆し、しかる後に脱水素処理を行う。
図9は、第2実施形態に係るめっき層2′を形成するためのチタニルイオンが溶解するめっき浴を有する機構を示す。図7に示す機構との相違は、多数の微粒子状の金属チタン3をめっき液31内に投入するのに代えて、チタニルイオンをめっき液31に溶解させる点にある。本実施形態では、チタニルイオン含有薬剤を含む布状部材41をめっき液31内に浸漬するように吊り下げることで、チタニルイオンをめっき液31に溶解させている。チタニルイオン含有薬剤は特に限定されず、例えば硫酸チタニル(TiOSO4 )を用いる。めっき液31におけるチタン濃度は、例えばめっき層内にチタンが0.5重量%程度含有するに適したものとする。さらに、めっき液31はもともと水酸化ナトリウム(NaOH)が添加されているためアルカリ性となっているが、これに過酸化水素(H2 2 )を添加し、アルカリ浴により亜鉛−ニッケル合金めっき層2′を形成するものとしている。攪拌器39によってめっき液31を攪拌することで、チタニルイオンが常にめっき対象の陽極に向かう流れを形成するのが好ましい。
図10は、チタニルイオンが溶解するめっき液31を用いためっき処理を介して鋼製部材1を処理する手順を示す。まず、上記の溶射による場合と同様に、図10(A)に示す鋼製部材1の表面を酸などで洗浄することで活性化し、図10(B)に示すようにニッケルストライクメッキにより下地層4を形成する。次に、図10(C)に示すように、チタニルイオンをめっき液31に溶解させ、そのめっき液31内でめっき層2′を電気めっきにより形成する。この際、成長しつつある亜鉛−ニッケル合金のめっき層2′内で金属チタン3が析出するので、めっき層2′を形成しつつ、めっき層2′の内部に金属チタン3を配置することができる。これにより、図10(D)に示すように、めっき層2′の内部に多数の微粒子状の金属チタン3を分散して配置することができる。次に、上記の溶射による場合と同様に、図10(E)に示すように、めっき層2′を3価クロム層5により被覆し、しかる後に脱水素処理を行う。
図11は第1実施形態のめっき層2に被覆された鋼製部材1の作用を示し、図12は第1実施形態のめっき層2′に被覆された鋼製部材1の作用を示す。すなわち、長期間の使用等によって3価クロム層5の一部に綻び部3aが生じ、外面に塩水や泥水のような液体50が付着し、めっき層2、2′において金属組成の不均一に起因して電位差が生じ、その電位差により電流が流れることで綻び部3aから鋼製部材1に侵入しようとする水素51が、金属チタン3に吸収される状態を示す。これにより鋼製部材1の再水素脆化を防止できる。
図13は、従来の金属チタンを含まない亜鉛−ニッケル合金めっき層で被覆され、700時間の塩水噴霧を経た高強度鋼の試験片の組成を示す。図14は、図9、図10に示す方法で形成された亜鉛−ニッケル合金めっき層2′により被覆され、700時間の塩水噴霧を経た高強度鋼の試験片の組成を示す。各組成はGDS(グロー放電発光表面分析装置)により分析した。各図における横軸は3価クロム層5が存在している表面からの深さ(μm)であり、縦軸は各組成の割合(重量%)である。なお、図では亜鉛、ニッケル、チタン、水素、鉄(Fe)の組成を示し、水素の含有率は1500倍に、チタンの含有率は100倍にそれぞれ拡大して示しているが、他の微量しか含まれないため図面上で識別困難な組成は図示省略している。図13に示すように従来の亜鉛−ニッケル合金のめっき層により高強度鋼を被覆した場合、水素がめっき層だけでなく高強度鋼(鉄が組成の大部分を示す部分)においても検出されているのに対し、本願実施形態によればめっき層2′において水素は検出されるが、高強度鋼においては水素は実質的に検出されていないのを確認できる。すなわち、めっき層2′におけるチタンが水素を吸収することで、高強度鋼側への水素の拡散が防止されている。
本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、下地層や3価クロム層は必須ではない。また、下地面にチタンを付着させる場合、プラズマ中に金属チタンと共に他の適当な物質を併せて供給してもよいし、金属チタンが付着した粒子に代えて多数の微粒子状の金属チタンを下地面に衝突させてもよいし、溶射やブラスト処理に代えて真空中での蒸着により金属チタンを付着させてもよい。
1…鋼製部材、2、2′…めっき層、3…金属チタン、4…下地層、31…めっき液。

Claims (8)

  1. 鋼製部材を被覆する亜鉛−ニッケル合金のめっき層を形成する工程を含む鋼製部材の処理方法において、
    前記鋼製部材と前記めっき層との間、または、前記めっき層の内部に、水素吸収機能を有する金属チタンを配置する工程と、
    前記金属チタンの配置後に前記鋼製部材から水素を除去する脱水素処理工程とを備えることを特徴とする鋼製部材の処理方法。
  2. 前記金属チタンを前記めっき層の下地面に付着させ、しかる後に、前記めっき層を形成することで前記鋼製部材と前記めっき層との間に前記金属チタンを配置する請求項1に記載の鋼製部材の処理方法。
  3. 前記金属チタンをプラズマ中で溶融させ、そのプラズマを前記下地面に吹きつける溶射により、前記金属チタンを前記下地面に付着させる請求項2に記載の鋼製部材の処理方法。
  4. 表面に前記金属チタンが付着した多数の粒子、または、多数の微粒子状の前記金属チタンを、前記下地面に衝突させるブラスト処理により、前記金属チタンを前記下地面に付着させる請求項2に記載の鋼製部材の処理方法。
  5. 多数の微粒子状の前記金属チタンをめっき液内に分散させ、しかる後に、微粒子状の前記金属チタンが分散する状態の前記めっき液内で、前記めっき層を電気めっきにより形成することで、前記めっき層を形成しつつ前記めっき層の内部に前記金属チタンを配置する請求項1に記載の鋼製部材の処理方法。
  6. チタニルイオンをめっき液に溶解させ、しかる後に、前記めっき液内で前記めっき層を電気めっきにより形成することで、前記めっき層を形成しつつ前記めっき層の内部に前記金属チタンを配置する請求項1に記載の鋼製部材の処理方法。
  7. 前記金属チタンの配置前に前記鋼製部材を被覆するニッケル下地層を形成し、前記下地層の表面を前記めっき層の下地面とする請求項1〜6の中の何れかに記載の鋼製部材の処理方法。
  8. 請求項1〜7の中の何れかの方法により処理されている鋼製部材。
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