[第1実施例]
以下、本発明の第1実施例のスタータについて、図1〜図8を参照しながら説明する。図1は、エンジンが始動している状態のスタータの側面断面図である。図2は、エンジンを停止させた直後のスタータの側面断面図である。図3は、エンジンを停止させてから所定時間を経過したスタータの側面断面図である。図4は、スタータの回路を示す図である。図5は、動力伝達体の拡大図である。図6は、図5のA−A断面図である。図7は、エンジン停止後の制御フローチャートである。図8は、エンジン再始動時の制御フローチャートである。
図1〜図3に示すスタータは、自動車に搭載されたバッテリからの電力供給を受けて、エンジンを始動させるための回転駆動力を発生する始動装置である。また、本実施例のスタータが搭載される自動車は、車両が停止した状態であって、エンジンの回転数がアイドリング回転数である状態が所定時間継続した場合にエンジンを停止させるアイドリングストップ機能を備えている。このようなアイドリングストップ機能を備えた自動車は、発進する度にエンジンを再始動させなければならないので、アイドリングストップ機能を有しない一般的な自動車に比べて、スタータを駆動させる頻度が非常に多い。
スタータは、エンジンを始動させる際に回転駆動力を発生させるスタータモータ1と、このスタータモータ1からの回転駆動力をエンジン側に断続する動力伝達体2と、この動力伝達体2がエンジンに回転駆動力を伝達するように作動させるための電磁駆動機構3と、動力伝達体2がエンジンに回転駆動力を伝達させないように作動する解除機構4と、電磁駆動機構3を制御する制御手段としてのコントローラ5とから構成されている。
スタータモータ1は、直流モータを採用しており、周方向に複数設けられたスロット11内に複数相の回転子コイル12が巻装されることで構成される回転子13と、回転子13の外周に回転子13と対向して設けられ、周方向に異なった磁極が交互に形成されるように複数の永久磁石が装着された円筒状の固定子14とを有している。
図1に示すように、固定子14の軸方向一端側には、有底筒状のリアブラケット15が取り付けられており、軸方向他端側には、一部が突出し、この突出部分に開口部を有するフロントブラケット16が取り付けられている。
また、回転子13には、一体的に回転するように固定された出力軸17が設けられており、この出力軸17は、一端がフロントブラケット16の突出部分の先端に設けられたフロント軸受18によって回転自在に支持されており、他端がリアブラケット15の底部から回転子13の内周側でフロントブラケット16側に突出する保持部に設けられたリア軸受によって回転自在に支持されている。尚、フロント軸受18とリア軸受は、ブッシュベアリングによって構成されている。
出力軸17を支持しているリア軸受の外周側には、周方向に複数に分かれたコミュテータ19が設けられており、このコミュテータ19には、リアブラケット15に固定されたブラシホルダー内のブラシ111が付勢された状態で接触している。このブラシ111は、バッテリBに接続され、コミュテータ19は、回転子コイル12に接続されるので、ブラシ111とコミュテータ19を介して外部のバッテリBから回転子コイル12に電流が供給可能となっている。このため、回転子13にも周方向に複数の磁極が形成されるようになっている。
また、出力軸17のフロントブラケット16側は、フロント軸受18まで延びており、回転子13の軸方向端から所定長さにわたって外周面に第1ヘリカルスプライン112が形成されている。更に、出力軸17の先端側には、フロント側軸受18に隣り合うように環状溝が形成されており、この環状溝には環状のストッパ113がCリングによって固定されている。
次に動力伝達体2について説明する。この動力伝達体2は、出力軸17のフロントブラケット16底部側の外周に設けられた基部21及びピニオン22と、基部21とピニオン22間に設けられたローラ23等の部材からなる一方向クラッチ機構とからなる。
基部21は、第1ヘリカルスプライン112と噛み合うように設けられた第2ヘリカルスプライン24が内周に設けられた円筒状を呈しており、この第2ヘリカルスプライン24は、軸方向の回転子13側端から所定長さにわたって形成されている。このような第1ヘリカルスプライン112と第2ヘリカルスプライン24によってヘリカルスプライン係合部が構成されている。第2ヘリカルスプライン24におけるフロントブラケット16側端の外周側には、環状の溝が形成されており、この環状の溝内には、円板状の鍔部25が取り付けられている。更に基部21のフロントブラケット16底部側は、大径となっており、この大径部の内部には一方向クラッチ機構が収容可能なクラッチ収容空間が形成されている。このように構成された基部21は、出力軸17に対して、ヘリカルスプライン係合部に沿って捻られながら軸方向に移動可能となっている。
ピニオン22も基部21と同様に出力軸17を収容する穴を有し、出力軸17に沿って軸方向に移動可能となっている。このピニオン22のフロント軸受18側の軸方向端部外周には、ピニオンギヤが形成されており、回転子13側の軸方向端部は、基部21のクラッチ収容空間内に挿入されている。また、ピニオン22における基部21に挿入された部分のピニオンギヤ側には、環状の溝が設けられており、この環状の溝内に設けられる円板状の固定板26が基部21の大径部の外周に固定された固定部材27によって挟持されることでピニオン22と基部21は、出力軸17に沿って軸方向に一体的に移動する。このようにピニオン22が基部21と一体となってフロント側軸受18側に移動するとピニオンギヤは、エンジンのクランクシャフトに連結されたリングギヤ6に噛み合うようになっている。尚、ピニオン22は、出力軸17に固定されたストッパ113に当接することによって軸方向の移動が規制されるようになっている。更に、ピニオン22がストッパ113に当接したか否か、つまり、ピニオンギヤがリングギヤ6と噛み合っているか否かを検出する検出装置78が設けられており、ピニオン22がストッパ113に当接した場合には、コントローラ5に信号が出力されるようになっている。このように動力伝達体2の軸方向の移動が規制された状態では、出力軸17の回転駆動力がリングギヤ6に伝達されるようにヘリカルスプライン係合部の歯が傾斜している。
また、ピニオン22と基部21の間には、一方向クラッチ機能を持たせるためのローラ23等の様々な部品が挿入されることで一方向クラッチが構成されている。このため、出力軸17の駆動回転方向には基部21からピニオン22に回転を伝達することができるが、逆方向には回転が伝達できないようになっている。このように構成することによって、リングギヤ6の回転数がピニオン22の回転数を上回った際には、リングギヤ6の回転力が基部21に伝達されないようになっているが、一方向クラッチによってリングギヤ6の回転を伝達させないように滑りを生じさせている状態においてもある程度の摺動抵抗が働くことからピニオン22の回転につられて基部21も低回転で回転する。このため、基部21及びピニオン22は、ヘリカルスプライン係合部の作用によってリングギヤ6から離れる方向に移動し、ピニオンギヤとリングギヤ6の噛み合いが解除される。このようにヘリカルスプライン係合部と一方向クラッチによって、リングギヤ6の回転数がピニオン
22の回転数を上回った際に、ピニオンギヤとリングギヤ6の噛み合いを解除する解除機構4を構成する。
次に電磁駆動機構3について説明する。電磁駆動機構3は、ソレノイド31とレバー32によって構成されている。ソレノイド31は、スタータモータ1とほぼ平行に隣接して配置され、可動鉄心33と固定子鉄心34とソレノイドコイル35とからなる。可動鉄心33は、有底の略円筒形状に構成されており、底部と軸方向反対側に位置する開口端は、端面に向かって大径となるようなテーパ部が形成されており、可動鉄心33の中空部内には、可動鉄心33をレバー32側に戻すための付勢手段である第1コイルスプリング36が挿入されている。また、可動鉄心33における底部の軸方向外側には、レバー挿通穴37が開口したレバー挿通部38が可動鉄心33と一体的に移動できるように固定されている。このレバー挿入穴37に挿入されるレバー32は、ばね39でフロントブラケット16の内周側に付勢された状態で支点311を中心として揺動可能に設けられている。このレバー32の一端は、レバー挿入穴37に隙間を持った状態で挿入されており、他端は、動力伝達体2の基部21における大径部の回転子13側の軸方向側面に当接可能となっている。このため、レバー32が可動鉄心33の移動に伴って揺動すると、動力伝達体2にリングギヤ6側に移動させる力が作用する。尚、レバー32におけるレバー挿入穴37に挿入される部分と、基部21に当接する部分は、円弧面となるような木の葉形状に形成されている。
可動鉄心33の外周には、樹脂等の非磁性体からなるボビンに巻回されたソレノイドコイル35が配置されており、更にソレノイドコイル35は、磁性体からなる有底筒状のヨーク312の内部に収容されている。また、ヨーク312底部の軸中心位置には穴が開口しており、この穴とボビンの内周にわたって可動鉄心33が摺動自在に挿入されている。
ヨーク312底部と軸方向逆側の開口端には、固定子鉄心34が固定されている。この固定子鉄心34は、軸中心位置にソレノイドコイル35の内周に向かって突出した突出部を有し、外周部がヨーク42の開口端に形成された段差に固定されている。また、固定子鉄心34の突出部の先端には、可動鉄心33のテーパ部にほぼ合致するような先細り形状のテーパ状の突起が設けられており、更にこのテーパ状の突起の頂面には、後述する接点シャフト71が挿通される挿通穴が形成され、その外側には、可動鉄心33を戻すための第1コイルスプリング36が当接している。
次にスタータモータ1とバッテリB間を導通状態と非導通状態に切り換えるマグネットスイッチ7について説明する。マグネットスイッチ7は、電磁駆動機構3によって駆動されるようになっている。具体的には、固定子鉄心34におけるテーパ状の突起の頂面に形成された挿通孔内に固定子鉄心34に対して摺動自在に挿通された接点シャフト71を有しており、この接点シャフト71は、可動鉄心33の中空部内に挿入可能となっていると共に、外周には第1コイルスプリング36が配置されている。また、接点シャフト71における可動鉄心33側に対して反対側の端部には、大径部と小径部を有するよう段差が設けられた円形の第1バネ受け72が加締めによって固定されている。また、この第1バネ受け72の可動鉄心33側には、接点となるべく導電性の材料で構成された円板状の可動接点73が配置されている。更に、この可動接点73の内周には、第2バネ受け74が固定されており、この第2バネ受け74は、可動接点73と共に、接点シャフト71の外周に沿って軸方向に移動可能に構成されている。
第2バネ受け74と接点シャフト71の外周に環状に形成された環状突起75との間には第2コイルスプリング76が設けられており、可動接点73に何も荷重が作用していない状態では、可動接点73と第2バネ受け74が第2コイルスプリング76によって、第1バネ受け72側に付勢された状態となっているが、可動接点73に可動鉄心33側への軸方向の荷重が作用すると、接点シャフト71に対して、可動接点73と第2バネ受け74が第2コイルスプリング76の付勢力に抗して軸方向に移動するようになっている。また、第1バネ受け72と後述する接点ケース711との間には、第3コイルスプリング77が設けられており、接点シャフト71を可動鉄心33側に付勢している。
次に可動接点73が当接する固定接点が設けられたスイッチ部について説明する。スイッチ部は、ヨーク312の開口端にて固定子鉄心34と共にかしめ固定された接点ケース711と、接点ケース711に固定されたバッテリBに接続されるバッテリ側固定接点712及びスタータモータ1の回転子コイル12に接続される電動機側固定接点713とから構成されている。
また、接点ケース711は、非磁性体、かつ、絶縁材料である樹脂材料にて有底円筒形状に形成されており、略中心位置には第3コイルスプリング77の一端が挿入される円形凹状の座部が設けられており、この座部の開口縁には、第3コイルスプリング77の挿入及び曲がりを補助するためのテーパ面が形成されている。
次に図4に基づいてスタータの電気回路について説明する。バッテリBとソレノイドコイル35の間には、導通状態と非導通状態を切り換えるリレー51が設けられており、このリレー51はコントローラ5からの出力信号により作動する。また、バッテリBは、マグネットスイッチ7におけるバッテリ側固定接点712にも接続されており、可動接点73が可動することにより、バッテリ側固定接点712と電動機側固定接点713とが接続されるようになっている。また、電動機側固定接点713は、スタータモータ1の回転子コイル12と接続されているので、バッテリ側固定接点712と電動機側固定接点713とが接続されるとバッテリBから回転子コイル12に電流が供給されてスタータモータ1が駆動されるようになっている。
次にスタータの作動について説明する。まず、エンジンが作動状態にあるときには、図4におけるリレー51は非導通状態となっていることからソレノイドコイル35には電流が供給されず、可動鉄心33に吸引力が働かないため、図1に示すように可動鉄心33は、第1コイルスプリング36によって固定子鉄心34から離間する方向に付勢されている。このため、可動鉄心33に固定されたレバー挿通部38のレバー挿通穴37に挿通されたレバー32は、可動鉄心33によって一端側が押圧されて、他端側は動力伝達体2の基部21における大径部から離間しており、動力伝達体2にはリングギヤ6側に移動させようとする力は生じない。また、接点シャフト71も可動鉄心33から離間しているため、接点シャフト71は、第3コイルスプリング77によって付勢されて可動鉄心33側に最大に突出した状態を維持し、それに伴い可動接点73もバッテリ側固定接点712と電動機側固定接点713とから離間している。よって、スタータモータ1の回転子コイル12にも電流は供給されない。
ここで、エンジンを停止させる場合、エンジンを停止させるためにイグニッションスイッチをオフするか、もしくは、エンジンの回転数がアイドリング回転数である状態が所定時間継続するアイドリングストップの条件を満たす場合には、図7のステップS1のようにコントローラ5にエンジンを停止させる信号が入力され、ステップS2に進む。
ステップS2では、エンジンが完全に停止するまでの所定時間を経過したか否かを判断し、所定時間を経過したと判断された場合には、ステップS3に進み、コントローラ5からリレー51を導通状態とするための信号が出力されてバッテリBとソレノイドコイル35が導通状態となる。このため、ソレノイドコイル35の周囲にあるヨーク312,固定子鉄心34,可動鉄心33に磁束が生じ、図2に示すように可動鉄心33が第1コイルスプリング36の付勢力に打ち勝って固定子鉄心34側に吸引される。このとき、可動鉄心33が所定量ストロークをすると接点シャフト71に当接し、可動鉄心33と接点シャフト71は一体となって固定子鉄心34に向かって移動する。
また、接点シャフト71が移動すると、可動接点73も接点シャフト71と一緒に第3コイルスプリング77を縮めながらバッテリ側固定接点712と電動機側固定接点713側に当接するまで移動する。尚、可動接点73がバッテリ側固定接点712と電動機側固定接点713側に当接しても可動鉄心33と接点シャフト71は、第2コイルスプリング76を縮めながら移動し、図2に示すように可動鉄心33が固定子鉄心34に当接した時点で移動を停止する。このとき、可動接点73は、バッテリ側固定接点712と電動機側固定接点713に対して、第2コイルスプリング76を縮めた分の付勢力が作用して十分な押圧力で当接させることができる。
更に可動鉄心33が固定子鉄心34側に移動すると、可動鉄心33に固定されたレバー挿通部38のレバー挿通穴37に挿通されたレバー32に支点311を中心とした揺動力が作用する。このため、レバー32の動力伝達体2側は、基部21における大径部の側面に当接し、動力伝達体2をスタータモータ1の出力軸17に沿ってリングギヤ6側に移動させる。このとき、出力軸17の外周に設けられた第1ヘリカルスプライン112と基部21の内周に設けられた第2ヘリカルスプライン24とからなるヘリカルスプライン係合部によって動力伝達体2は捻られながらリングギヤ6に向かって移動する。
ここでリングギヤ6の歯の位置とピニオン22のピニオンギヤの位置が合致すればリングギヤ6とピニオンギヤは噛み合って、ストッパ113にピニオン22の先端が当接した状態で停止するが、両者が合致しなかった場合には、ピニオン22がリングギヤ6の側面に当接して押圧された状態で停止することになる。このとき、ピニオン22がストッパ113に当接したか否かを検出する検出装置78が設けられているため、コントローラ5には、ピニオンギヤがリングギヤ6と噛み合っている場合には、信号が出力され、ステップS4でピニオンギヤとリングギヤ6の噛み合いが判断される。ここで、ピニオンギヤがリングギヤ6と噛み合っているとする信号がコントローラ5に入力された場合には、ステップS5で直ちにリレー51をオフして、ソレノイドコイル35への通電を止めるが、ピニオンギヤがリングギヤ6と噛み合っているとする信号がコントローラ5に入力されない場合には、継続してソレノイドコイル35への通電状態を維持する。
このように、ピニオンギヤがリングギヤ6と噛み合っているとする信号が出力されなかった場合には、バッテリ側固定接点712と電動機側固定接点712とが可動接点73を介して導通状態となることからスタータモータ1の回転子コイル12に電流が通電され、回転子13及び出力軸17は回転する。このとき、出力軸17と一緒にピニオン22も回転するが、ピニオン22を含む動力伝達体2は、レバー32によってリングギヤ6側に押圧された状態となっているため、ピニオンギヤの歯とリングギヤ6の歯が合致した時点でピニオン22はストッパ113に当接するまで軸方向に移動する。この作用によって検出装置78からピニオンギヤがリングギヤ6と噛み合っているとする信号がコントローラ5に出力され、ただちにステップS5に進んでリレー51をオフし、ソレノイドコイル35への通電を止める。また、ソレノイドコイル35への通電を止めると図3に示すように可動接点73がバッテリ側固定接点712と電動機側固定接点712から離間するため、バッテリBと回転子コイル12間が非導通状態となり、スタータモータ1は回転を止める。
このとき可動鉄心33が、第1コイルスプリング36の付勢力によって固定子鉄心34と離間する方向に移動し、それに伴いレバー32が鍔部25に当接して、動力伝達体2を回転子13側に戻そうとする力が作用するが、動力伝達体2とスタータモータ1の出力軸17との間のヘリカルスプライン係合部におけるヘリカル歯の傾斜角度が動力伝達体2を移動させないような角度としてあるため、動力伝達体2は移動せず、ピニオン22のピニオンギヤとリングギヤ6は噛み合った状態と維持する。
ここで図5及び図6を用いてヘリカルスプライン係合部におけるヘリカル歯の傾斜角度θの設定方法について説明する。ピニオン22のピニオンギヤとリングギヤ6の噛み合い長さをLとし、ピニオン22とリングギヤ6間に生じるバックラッシュによって動力伝達体2が移動可能な長さをSとした場合、L>S/tanθ の条件を満たすような角度とするとよい。尚、動力伝達体2が噛み合った状態を維持するには、ヘリカル歯の傾斜角度と、スタータモータ1のコギングトルクや各摺動部の摩擦力等の移動抵抗や反力を比較して設定する必要がある。
このようにソレノイドコイル35への通電を止めてもピニオン22のピニオンギヤとリングギヤ6は噛み合った状態を維持するが、図3に示すように可動鉄心33に一体的に設けられたレバー挿入部38のレバー挿入穴37と、レバー32との間に所定のクリアランスが設けられているため、可動鉄心33は、図2の状態より第1コイルスプリング36によって若干戻されるため、それに伴って接点シャフト71も戻される。このため、可動接点73がバッテリ側固定接点712と電動機側固定接点712に対して離間してバッテリBとソレノイドコイル35が非導通状態となる。つまり、エンジンが停止している状態では、ピニオン22のピニオンギヤとリングギヤ6は噛み合った状態を維持するが、ソレノイドコイル35や回転子コイル12には電流が供給されないようになっている。
エンジンの停止状態から、再度エンジンを始動させようとしたときには、ピニオン22のピニオンギヤとリングギヤ6が噛み合っているため、直ぐに可動接点73がバッテリ側固定接点712と電動機側固定接点712と当接して、回転子コイル12に電流が供給されてスタータモータ1が回転することになる。
エンジンの停止状態からエンジンを再始動させるまでを図8のフローチャートに基づいて説明すると、エンジンが停止している状態であるステップS6において、イグニッションスイッチがオンされたか否かをステップS7で判断する。ここでイグニッションスイッチがオンされたと判断された場合には、ステップS9に進み、コントローラ5にエンジンが再始動させる信号が入力される。また、ステップS7において、イグニッションスイッチがオンされたと判断されない場合には、ステップS8に進みアイドリングストップを解除させる条件を満たしているか否かが判断される。ここでアイドリングストップを解除させる条件を満たしている場合には、ステップS9に進み、アイドリングストップを解除させる条件を満たしていない場合には、ステップS6に戻りエンジン停止状態を維持する。尚、アイドリングストップを解除させるための条件としては、ブレーキが解除され、かつ、アクセルが踏み込まれた状態や、クラッチペダルを有する車両においては、更にクラッチペダルが踏み込まれた状態が検出された場合にアイドリングストップを解除すると判断する。
ステップS9でコントローラ5にエンジンが再始動させる信号が入力されると、ステップS10に進んでリレー51をオンする。このため、直ぐに可動接点73がバッテリ側固定接点712と電動機側固定接点712と当接して、回転子コイル12に電流が供給されてスタータモータ1が回転することになる。
次にステップS11に進み、エンジンが始動したか否かが判断される。エンジンが始動したと判断した信号がコントローラ5に送られた場合には、スッテプS12に進み、リレー51がオフされ、ソレノイドコイル35及び回転子コイル12には電流が供給されない状態となる。また、ステップS11にてエンジンが始動したと判断した信号がコントローラ5に送られなかった場合には、リレー51がオンした状態を維持する。尚、ステップS11においてエンジンが始動したか否かの判断は、例えば、エンジン回転数を検出して、エンジン回転数が所定回転以上を所定時間継続した場合にエンジンが始動したと判断することが考えられる。
ここで、エンジンが始動するとリングギヤ6の回転数がスタータモータ1の回転数を上回ることがあるが、動力伝達体2に設けられた一方向クラッチによって回転が吸収されるため、出力軸17には駆動方向と逆方向の回転力は伝達されない。しかしながら、一方向クラッチによってピニオン22からの回転を吸収するにしても一方向クラッチの摺動部には摺動抵抗があるため、ピニオン22の回転につられて基部21にも摺動抵抗によって回転が伝達される。このため、基部21及びピニオン22は、ヘリカルスプライン係合部の傾斜方向によって、リングギヤ6から離間する回転子13の方向に移動するため、リングギヤ6とピニオンギヤの係合が解かれる。このようにヘリカルスプライン係合部によってピニオン22とリングギヤ6の噛み合いを解除する解除機構が構成される。
以上、第1実施例の構造及び作動について説明したが、第1実施例の作用効果を以下に示す。
第1実施例は、エンジンを始動させるためのスタータであって、電流を供給することにより出力軸が回転駆動されるスタータモータと、該スタータモータの出力軸から回転力が伝達されるピニオンを有し、エンジンの動力が伝達されるリングギヤと前記ピニオンとの噛み合いを移動することにより断続可能な動力伝達体と、通電することにより前記動力伝達体を前記ピニオンと前記リングギヤが噛み合う方向に移動させる電磁駆動機構と、前記リングギヤの回転数が前記動力伝達体の回転数を上回った際に、前記ピニオンと前記リングギヤの噛み合いを解除する方向に前記動力伝達体が移動するよう駆動力を与える解除機構と、エンジン停止後に前記ピニオンが前記リングギヤと噛み合った状態となるように前記動力伝達体を移動させるべく前記電磁駆動機構を制御する制御手段と、を有し、前記動力伝達体が移動する際に生じる移動抵抗によって、エンジン停止状態で前記ピニオンと前記リングギヤが噛み合った状態を維持するように構成したので、速やかにエンジンを始動させることができ、プランジャストッパ等の電動機を新たに設ける必要がないため、安価な装置とすることができる。更に、スタータ自体にプランジャストッパが設けられていないので車両への搭載性も向上することができる。
また、前記動力伝達体における前記スタータモータの出力軸から回転力が伝達される基部と前記ピニオンとの間には、前記基部から前記ピニオンの方向のみに回転力を伝達する一方向クラッチが設けられており、該一方向クラッチは、前記ピニオンから前記基部へも摺動抵抗によって回転が伝達されるので、リングギヤの回転数がピニオンの回転数を上回ったとしてもスタータモータの出力軸に駆動方向を逆方向の大きな力が作用することがない。
また、前記電磁駆動機構は、前記スタータモータとバッテリ間を導通状態と非導通状態に切り換えるマグネットスイッチによって駆動されるようになっているので、マグネットスイッチとは別にソレノイド等からなる電磁駆動機構を設けなくてもよい。このため、安価な装置とすることができる。
また、前記電磁駆動機構は、可動鉄心と固定鉄心とコイルから構成されており、前記可動鉄心が前記コイルへの通電により固定鉄心側に移動することによって、レバーが前記動力伝達体を前記リングギヤに向かって移動する方向に押圧し、前記コイルへ通電を止めたときには、前記可動鉄心及び前記動力伝達体は戻しばねによって戻される方向の力を受ける可動鉄心や動力伝達体の一方向の移動力を電気的に付与するだけでよく、初期状態に戻すための電気的駆動機構を新たに設ける必要がない。このため、安価な装置とすることができる。
また、前記動力伝達体は、前記スタータモータの出力軸上を摺動するように構成され、前記解除機構は、前記動力伝達体の内周と前記スタータモータの出力軸の外周に設けられたヘリカルスプライン係合部であるので、エンジン始動後にリングギヤの回転数がピニオンの回転数を上回ると自動的にリングギヤとピニオンギヤの係合が解かれるので、新たな動力源を必要としない。このため、安価な装置とすることができる。
また、第1実施例は、アイドリングストップ車両に用いられているので、速やかにエンジンの再始動ができる点で効果が大きい。
また、第1実施例は、エンジンを始動させるためのスタータであって、電流を供給することにより回転駆動されるスタータモータと、該スタータモータの回転力が伝達される出力軸上に摺動可能に設けられると共に、外周にピニオンを有し、前記出力軸上を摺動することにより、エンジンの動力が伝達されるリングギヤと前記ピニオンとの噛み合い状態を断続可能な動力伝達体と、通電することにより前記動力伝達体を前記ピニオンと前記リングギヤが噛み合う方向に摺動させるソレノイドと、夫々が噛み合うように前記出力軸の外周と前記動力伝達体の内周に設けられ、前記ピニオンが前記リングギヤの駆動力によって回転した際に前記動力伝達体が前記リングギヤから離れる方向に摺動するように傾斜したヘリカルスプライン係合部と、エンジン停止後に前記ピニオンが前記リングギヤと噛み合うように前記ソレノイドを制御するコントローラと、を有し、前記ヘリカルスプライン係合部におけるヘリカルスプラインの傾斜角度を、エンジン停止時に前記ピニオンと前記リングギヤが噛み合った状態を維持する大きさとしたので、ヘリカルスプラインの傾斜角度を、スタータモータのコギングトルクや各摺動部の摺動抵抗を考慮して設定するだけでエンジンが停止した状態でのリングギヤとピニオンギヤの噛み合い状態を維持することができる。尚、前記ヘリカルスプラインの傾斜角度θは、前記ピニオンと前記リングギヤの噛み合い長さをLとし、バックラッシュによって前記動力伝達体が移動可能な長さSとした場合、L>S/tanθの条件を満たすような角度とするとよい。
また、第1実施例は、エンジンを始動させるためのスタータであって、電流を供給することにより出力軸が回転駆動されるスタータモータと、該スタータモータの出力軸から回転力が伝達されるピニオンを有し、エンジンの動力が伝達されるリングギヤと前記ピニオンとの噛み合いを移動することにより断続可能な動力伝達体と、通電することにより前記動力伝達体を前記ピニオンと前記リングギヤが噛み合う方向に移動させる電磁駆動機構と、前記リングギヤの回転数が前記動力伝達体の回転数を上回った際に、前記ピニオンと前記リングギヤの噛み合いを解除する方向に前記動力伝達体が移動するよう駆動力を与える解除機構と、エンジンのクランクシャフトの回転が完全に停止した後に前記電磁駆動機構に電流を通電して前記動力伝達体を移動させるべく前記電磁駆動機構を制御するコントローラと、を有し、エンジン停止後は、前記動力伝達体の移動に対する反力により前記ピニオンと前記リングギヤが噛み合った状態を維持するようにしているので速やかにエンジンを始動させることができ、プランジャストッパ等の電動機を新たに設ける必要がないため、安価な装置とすることができる。更に、スタータ自体にプランジャストッパが設けられていないので車両への搭載性も向上することができる。
また、前記コントローラは、エンジンを停止させるための信号が入力されてから所定時間が経過してから前記電磁駆動機構に電流を通電するようにしたので確実にピニオンとリングギヤを噛み合わせることができる。
尚、第1実施例では、エンジンが停止した後にリレー51をオンしてピニオンギヤとリングギヤ6を噛み合い状態となるようにコントローラ5によって制御しているが、エンジンを停止させようとする信号がコントローラ5に入力されてからエンジンが実際に停止するまでの間にピニオンギヤをリングギヤ6に噛み合うようにしてもよい。エンジンは、停止するための信号がコントローラ5に入力されてから実際に停止するまで惰性で回転するが、このときリングギヤ6は、スタータモータ1を駆動しなくても低回転で回転しており、この状態で動力伝達体2をリングギヤ6方向に移動させれば、スタータモータ1を回転させなくてもピニオンギヤとリングギヤ6の噛み合わせを行うことが可能となる。このようにすれば、エンジン停止後にスタータモータ1が駆動することによる運転者の違和感を無くすことができ、更に、回転子コイル12への通電を最小限に留めることができるので電流消費も少なくすることができる。
また、エンジンを停止させる直前のエンジン回転数によってリングギヤ6の回転状態が異なるため、コントローラ5は、エンジンを停止させるための信号が入力された際のエンジン回転数を入力し、このエンジン回転数によってソレノイドコイル35に電流を通電するタイミングを可変させてもよい。このようにすることにより、確実にピニオンギヤとリングギヤ6を噛み合わせることができる。
また、第1実施例では、コントローラ5にエンジンを停止させる信号が入力されてから、エンジンが完全に停止したか否かについて、所定時間を経過したことによって判断していたが、エンジンの回転状態を検出するセンサによりエンジンのクランクシャフトの回転が完全に停止したことを確認した上でリレー51をオンしても構わない。このようにすることにより、確実にピニオンギヤとリングギヤ6を噛み合わせることができる。
また、第1実施例では、ピニオンギヤとリングギヤ6が噛み合ったことを検出する検出装置78を設けたが、実験等によりピニオンギヤとリングギヤ6が確実に噛み合うような回転子コイル12への通電時間がわかれば、検出装置78を省略することも可能である。
また、第1実施例では、スタータモータ1の出力軸17が回転子13と一体に回転するように構成されているが、回転子13の回転をギヤやプーリ等の伝達手段を介して回転子13とは別体に設けられた出力軸17に伝達するようにしてもよい。
また、第1実施例では、マグネットスイッチ7の駆動力によって動力伝達体2を移動させたが、スタータモータ1の出力軸17を回転させ、動力伝達体2の慣性力を利用してピニオン22をリングギヤ6側に移動させるように構成してもよい。このように構成すればマグネットスイッチ7を省略することも可能となる。
[第2実施例]
次に本発明の第2実施例について、図9〜図11に基づいて説明する。図9は、第2実施例のスタータの回路を示す図である。図10は、第2実施例のエンジン停止後の制御フローチャートである。図11は、第2実施例のエンジン再始動時の制御フローチャートである。尚、第1実施例と共通する部位については、同一称呼,同一の符号で表す。
第2実施例は、電磁駆動機構3のソレノイド31によってマグネットスイッチ7の可動接点73がバッテリ側固定接点712及び電動機側固定接点713と当接してバッテリBからスタータモータ1に電流が供給されるが、第1実施例とは異なり、電動機側固定接点713とスタータモータ1の間には、抵抗79が設けられている。この抵抗79は、スタータモータ1の出力トルクが、リングギヤ6を回転させるのに必要な最小負荷トルクよりも大きく、リングギヤ6を回転させるのに必要な最大負荷トルクより小さくなるような電流がスタータモータ1に供給できる大きさに設定されている。つまり、抵抗79を経由して供給された電流では、スタータモータ1がリングギヤ6を360度回転させることはできない。
また、第2実施例は、マグネットスイッチ7に加え、第2マグネットスイッチ8を有している。この第2マグネットスイッチ8は、マグネットスイッチ7と同様に、第2ソレノイド82によって駆動されるようになっており、更にこの第2ソレノイドにおける第2ソレノイドコイル83とバッテリBとの間を導通状態と非導通状態に切り換える第2リレー81を有している。このため、コントローラ5から第2リレー81に導通させるための信号が出力されると第2ソレノイドコイル83にはバッテリBから電流が供給され、マグネットスイッチ7と同様に、第2可動接点84が第2バッテリ側固定接点86と第2電動機側固定接点85と接触して、バッテリBからスタータモータ1に電流が供給される。この第2電動機側固定接点85とスタータモータ1間には、特別な抵抗を設けていないため、マグネットスイッチ7の可動接点73がバッテリ側固定接点712と電動機側固定接点713と接触したときよりも大きな電流が流れるようになっている。つまり、第2マグネットスイッチ8がオンされたときの方がマグネットスイッチ7がオンされたときよりもスタータモータ1の出力トルクが大きくなる。このため、第2マグネットスイッチ8がオンされるとリングギヤ6を回転させるのに必要な最大トルクよりも大きなトルクがスタータモータ1から出力されるのでリングギヤ6を360度以上、回転させることが可能となっている。
以上のように第2実施例は、第1実施例に対して、更に抵抗79及び第2マグネットスイッチ8を備えているが、抵抗79及び第2マグネットスイッチ8は、図1〜図3に示すようなスタータとは別の場所に設けられるため、スタータの構造自体は第1実施例とほぼ同様である。
次に図8の制御フローチャートを用いて第2実施例の作動について説明するが、スタータの構造については、第1実施例とほぼ同様であるため、図1〜図3に基づいて説明する。
まず、エンジンが作動状態にあるときには、リレー51及びリレー81は非導通状態となっていることからソレノイドコイル35及び第2ソレノイドコイル83には電流が供給されていないため、レバー32は動力伝達体2を押圧しておらず、ピニオン22はリングギヤ6から離間している。また、可動接点73もバッテリ側固定接点712と電動機側固定接点713とから離間している。よって、スタータモータ1の回転子コイル12にも電流は供給されない。
ここで、エンジンを停止させる場合、エンジンを停止させるためにイグニッションスイッチをオフするか、もしくは、エンジンの回転数がアイドリング回転数である状態が所定時間継続するアイドリングストップの条件を満たす場合には、図10のステップS111のようにコントローラ5にエンジンを停止させる信号が入力され、ステップS112に進む。
ステップS112では、エンジンが完全に停止するまでの所定時間を経過したか否かを判断し、所定時間を経過したと判断された場合には、ステップS113に進み、コントローラ5からリレー51を導通状態とするための信号が出力されてバッテリBとソレノイドコイル35が導通状態となる。ソレノイドコイル35への通電によって、第1実施例と同様に可動鉄心33の移動に伴いレバー32が揺動してピニオン22を有する動力伝達体2がリングギヤ6の方向に向かって移動する。
ここでリングギヤ6の歯の位置とピニオン22のピニオンギヤの位置が合致すればリングギヤ6とピニオンギヤは噛み合って、ストッパ113にピニオン22の先端が当接した状態で停止するが、両者が合致しなかった場合には、ピニオン22がリングギヤ6の側面に当接して押圧された状態で停止することになる。このとき、ピニオン22がストッパ113に当接したか否かを検出する検出装置78が設けられているため、コントローラ5には、ピニオンギヤがリングギヤ6と噛み合っている場合には、信号が出力され、ステップS114でピニオンギヤとリングギヤ6の噛み合いが判断される。ここで、ピニオンギヤがリングギヤ6と噛み合っているとする信号がコントローラ5に入力された場合には、ステップS115に進み、ピニオンギヤがリングギヤ6と噛み合っているとする信号がコントローラ5に入力されない場合には、継続してソレノイドコイル35への通電状態を維持する。
また、ソレノイドコイル35への通電に伴って可動接点73は、バッテリ側固定接点712と電動機側固定接点713側に当接し、スタータモータ1にバッテリBから電流が供給されるが、電動機側固定接点713とスタータモータ1との間に抵抗79が設けられているため、スタータモータ1には小電流での予備通電が行われる。
この予備通電によって、スタータモータ1の出力軸17からピニオン22に回転力が伝達され、ピニオンギヤの歯とリングギヤ6の歯が合致した時点でピニオン22はストッパ113に当接するまで軸方向に移動してピニオンギヤとリングギヤ6は噛み合う。この作用によって検出装置78からピニオンギヤがリングギヤ6と噛み合っているとする信号がコントローラ5に出力され、ステップS115に進む。
更に、予備通電によってピニオン22は回転するがスタータモータ1は小電流で通電されているため、リングギヤ6を回転させるのに必要な最大負荷トルクより若干小さなトルクで回転する。このため、エンジンの回転負荷が最も大きくなるリングギヤ6の角度付近では、スタータモータ1の出力トルクが不足して、リングギヤ6を回転させることができず、その位置でピニオン22は回転を停止する。
ステップS115では、リングギヤ6の位置が規定の位置にあるか否かを検出し、規定の位置にあるときにはステップS116に進んでリレー51をオフしてソレノイドコイル35への通電を止める。また、ステップS115でリングギヤ6の位置が規定の位置にない場合には、リレー51のオン状態を継続する。
ここでリングギヤ6の規定の位置とは、エンジンが圧縮行程でピストンが下死点から上死点に向かう間の下死点と上死点間の中間位置よりも上死点側となるような位置であり、上死点より若干手前の位置の方がよい。エンジンは、吸気バルブ及び排気バルブが閉じている圧縮工程において上死点手前がクランクシャフトに最も負荷が作用するところであり、スタータモータ1が予備通電によって停止するところが圧縮工程におけるピストンの上死点手前の位置となるようになっている。ステップS115において、リングギヤ6の位置は、特別にセンサを設ける必要はなく、エンジンにもともと装着されているエンジンのクランク角を検出するクランク角センサやカムシャフトの角度を検出するカム角センサからの情報により検出することができる。尚、複数の気筒を有するエンジンにおいては、各気筒のピストンの位置が異なるが、この場合、平均的にピストンが下死点から上死点に向かう間となっているところが最も負荷トルクが大きくなるところである。
このように第2実施例では、リングギヤ6の位置をエンジンの最も負荷の大きい位置で停止させているのでエンジンが停止した後に、クランクシャフトが回転してしまうことがほとんどなく、ソレノイドコイル35へ電流を通電しない状態であってもピニオンギヤとリングギヤ6の噛み合い状態を維持することができる。また、第1実施例のようにヘリカルスプライン係合部のヘリカル歯の傾斜角度を大きくしなくてもピニオンギヤとリングギヤ6の噛み合い状態を維持することができる。
次にエンジンの停止状態からエンジンを再始動させるまでを図11のフローチャートに基づいて説明する。エンジンが停止している状態であるステップS117において、イグニッションスイッチがオンされたか否かをステップS118で判断する。ここでイグニッションスイッチがオンされたと判断された場合には、ステップS120に進み、コントローラ5にエンジンが再始動させる信号が入力される。また、ステップS118において、イグニッションスイッチがオンされたと判断されない場合には、ステップS119に進みアイドリングストップを解除させる条件を満たしているか否かが判断される。ここでアイドリングストップを解除させる条件を満たしている場合には、ステップS120に進み、アイドリングストップを解除させる条件を満たしていない場合には、ステップS117に戻りエンジン停止状態を維持する。
ステップS120でコントローラ5にエンジンが再始動させる信号が入力されると、ステップS121に進んでリレー51をオンする。更にステップS122でピニオンギヤとリングギヤ6が噛み合っているか否かを検出装置78で検出し、噛み合っていると判断された場合には、ステップS123に進んでリレー51をオフする。また、ピニオンギヤとリングギヤ6が噛み合っていると判断されなかった場合には、リレー51のオン状態を維持する。尚、第2実施例の場合、エンジン停止時にピニオンギヤとリングギヤ6を噛み合わせているため、ステップS121〜ステップS123までのステップを省略することも可能であるが、何からの原因で万が一、ピニオンギヤとリングギヤ6の噛み合いが解除されてしまった場合、エンジンを再始動できなくなってしまうので安全性を鑑みて行っている。
ステップS123の後、ステップS124に進み、次に第2リレー81をオンする。このため、バッテリBと第2ソレノイドコイル83の間が導通状態となり、第2ソレノイドコイル83に電流が供給される。これにより、第2可動接点84が第2バッテリ側固定接点86及び第2電動機側固定接点85と接触して、バッテリBからスタータモータ1の回転子コイル12に電流が供給され、スタータモータ1の出力軸17が回転し、それに伴いピニオン22及びリングギヤ6が回転する。
次にステップS125では、エンジンが始動したか否か判断し、エンジンが始動した場合には、ステップS126に進み、第2リレー81をオフし、第2ソレノイドコイル83及び回転子コイル12への通電をやめる。尚、エンジンが始動したか否かについては、第1実施例と同様に、エンジン回転数を検出して、エンジン回転数が所定回転以上を所定時間継続した場合にエンジンが始動したと判断することが考えられる。
また、図11のフローチャートでは省略してあるが、ステップS125においてエンジンがなかなか始動しなかった場合、バッテリBの電圧が低下しないように所定時間を経過すると自動的に第2リレー81をオフし、再度、第2リレー81をオンすることを数回繰り返す。それでもエンジンが始動しなかった場合には、異常であることを示す警告を出すようになっている。また、エンジン始動時に運転者がイグニッションスイッチをオンさせることでエンジンを始動させようとした場合には、イグニッションスイッチをオフすることで第2リレー81がオフするようになっている。
以上、第2実施例の構造及び作動について説明したが、第2実施例の作用効果を以下に示す。
第2実施例は、エンジンを始動させるためのスタータであって、電流を供給することにより出力軸が回転駆動されるスタータモータと、該スタータモータの出力軸から回転力が伝達されるピニオンを有し、エンジンの動力が伝達されるリングギヤと前記ピニオンとの噛み合いを移動することにより断続可能な動力伝達体と、通電することにより前記動力伝達体を前記ピニオンと前記リングギヤが噛み合う方向に移動させる電磁駆動機構と、前記リングギヤの回転数が前記動力伝達体の回転数を上回った際に、前記ピニオンと前記リングギヤの噛み合いを解除する方向に前記動力伝達体が移動するよう駆動力を与える解除機構と、エンジン停止時に前記ピニオンが前記リングギヤと噛み合うように前記動力伝達体を移動させるべく前記電磁駆動機構を制御するコントローラと、を有し、エンジンは、前記ピニオンが前記リングギヤと噛み合った状態であって、圧縮行程でピストンが下死点から上死点に向かう間で停止するようにしたので、速やかにエンジンを始動させることができる。また、スタータ自体は、従来の装置を用いてもリングギヤが最も負荷トルクの大きな位置で停止しているのでピニオンとリングギヤの噛み合い状態を維持することができる。尚、リングギヤを負荷トルクの大きな位置で停止させるために新たなマグネットスイッチを必要とするがスタータと一体的に設ける必要がないため、車両への搭載性を向上することができる。
尚、エンジンは、下死点と上死点間の中間位置よりも上死点側で停止した方がよく、更には、上死点の手前で停止するようにした方がよい。このようにすれば、ピニオンとリングギヤの噛み合いの維持を更に確実とすることができる。
また、第2実施例は、エンジンが停止し、前記ピニオンが前記リングギヤと噛み合った状態で、エンジンを回転させるための最大負荷トルクよりも小さく、エンジンを回転させるための最小負荷トルクよりも大きいトルクで前記スタータモータを駆動させるようにしたので、容易にリングギヤを規定の位置に停止させることができる。
また、エンジンが停止後に前記スタータモータが通電状態で回転駆動を停止した状態では、前記スタータモータへの通電を停止することでリングギヤを規定の位置に停止させれば、更に容易にリングギヤを規定の位置に停止させることができる。
また、エンジンのクランク角を検出するクランク角センサを有し、前記スタータモータが通電状態で回転駆動を停止した状態のクランク角が、ピストンが下死点から上死点に向かう間となる角度となっている状態で前記スタータモータへの通電を停止するようにすれば、ピニオンとリングギヤの噛み合いの維持を更に確実とすることができる。また、エンジンのカム角を検出するカム角センサを有し、前記スタータモータが通電状態で回転駆動を停止した状態のカム角が、圧縮行程となっている状態で前記スタータモータへの通電を停止するようにしても、ピニオンとリングギヤの噛み合いの維持を更に確実とすることができる。尚、確実性を考えればクランク角センサの情報とカム角センサの情報の両方からリングギヤの位置を検出した方がよい。
尚、第2実施例では、2つのマグネットスイッチを用いたが、クランク角センサとカム角センサ等によりリングギヤの位置及びエンジンが圧縮工程であるか否かを検出することができるならば、リングギヤの回転位置をコントローラにフィードバックすることにより、1つのマグネットスイッチでも圧縮行程でピストンが上死点付近となる位置で停止させることが可能となる。また、センサからの情報を用いない場合には、PWM制御等でスタータモータへの電流を可変させることができれば1つのマグネットスイッチであっても圧縮行程でピストンが上死点付近となる位置で停止させることが可能となる。
また、第2実施例の変形例として図12に示すようにピニオン22の移動のタイミングとスタータモータ1の出力軸17が回転するタイミングを任意に設定する必要がある場合には、第2実施例の構成に加えて、第3ソレノイド87と第3マグネットスイッチ89及び第3リレー88を用いることも考えられる。このように構成すれば、細かな調整が可能となり、運転者への違和感を出来るだけ軽減させることができる。