JP5266836B2 - 疲労き裂伝播抵抗性、且つ延性に優れた鋼材の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、疲労き裂伝播抵抗性に優れた鋼材およびその製造方法に関し、特に延性に優れ、き裂伝播異方性が小さく、船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、タンクなど構造安全性が強く求められる溶接構造物に好適なものに関する。
船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、タンクなどの構造物に使用される鋼材は、強度、靭性などの機械的性質や溶接性に優れていることに加えて、常時稼動における繰返し荷重や風、地震等による震動に対して構造物の構造安全性を担保しなければならない。
繰返し荷重に対しては疲労特性に優れていることが要求され、特に部材の破断といった終局的な破壊を防止するためには、鋼材の有する疲労き裂の伝播抵抗性を向上することが効果的と考えられている。
一般的な溶接構造物の場合、溶接止端部は応力集中部になりやすく、溶接による引張残留応力も作用するため疲労き裂の発生源となることが多く、その防止策として、止端部をなめ付け溶接したり、ショットピーニングにより圧縮残留応力を導入することが知られている。
しかしながら、溶接構造物には多数の溶接止端部があり、またコスト的にも負担が大きいため、これらの方法は工業的規模での実施には不適当で、溶接構造物の耐疲労特性は使用される鋼材自体の疲労き裂伝播特性の向上により図られることが多い。
これら鋼構造物においては鋼板に対して様々な方向、例えば、圧延方向に対して様々な方向から自由に溶接施工される場合が多く、それゆえ疲労き裂発生・伝播の方向も様々であるため、鋼板の疲労き裂伝播抵抗性能も鋼中における方向を問わずに高い性能をもつことが望ましい。
特許文献1はタンカー用鋼板に関し、その組織をフェライトの第一相ならびにベイナイトおよび/またはパーライトの第二相の混合組織からなり、前記フェライトの平均粒径が20μm以下とすることで湿潤硫化水素環境で耐疲労き裂進展特性に優れることが記載されている。
特許文献2には組織を硬質部の素地とこの素地に分散した軟質部とからなり、この2部分の硬度差がビッカース硬度で150以上であることを特徴とする疲労き裂進展抑制効果を有する鋼板が記載されている。
特許文献3には断面の鋼組織がフェライトとベイナイトであって、フェライト相は面積率で38%以上52%以下で、そのフェライト相部分の硬さが80HV0.02〜150HV0.02であり、かつフェライト相とベイナイト相の境界が断面内任意の場所に引いた直線上において50〜300カ所/mmの密度で存在することを特徴とする、疲労き裂進展抵抗性に優れた引張り強さが55kgf/mm以上のフェライト・ベイナイト二相鋼が記載されている。
特許文献4には疲労き裂進展方向の第二相間の界面から次の第二相への界面との間隔が25μm以下であり、板厚方向の断面組織が面積率で60〜90%のフェライト母相と第二相からなり、第二相の硬さ:Hv(SP)とフェライトの硬さ:Hv(F)がある式で示される値を満足し、かつ第二相のアスペクト比:1(長軸長さ)/d(短軸長さ)が1/d>3.42であることを特徴とする疲労き裂伝播特性の優れた鋼材が記載されている。
特許2785643号公報 特許2962134号公報 特許3489243号公報 特許3434434号公報
しかしながら、特許文献1〜4記載の発明に係る鋼板は、いずれも硬化相としてベイナイトあるいはマルテンサイトなどを導入するため、全伸びの劣化が懸念される。船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、タンクなどの構造物に使用される鋼材では、規格において全伸び値が規定されることが多く、疲労き裂伝播抵抗性を向上させるにも、全伸びが規格値を満たすことが前提となる。例えば、橋梁用に用いるJISSM490Y鋼では、JIS1A引張試験片において15%以上の全伸びが必要である。ところが、従来の技術では、疲労き裂伝播抵抗性と全伸びの両者を制御できる製造指針は得られていない。
そこで、本発明は、疲労き裂伝播抵抗性に優れ、且つ延性に優れた鋼材の製造方法を提供することを目的としたものである。
本発明者は、圧延・加速冷却と引き続くAc以下の再加熱によって製造され、フェライトと硬質第二相からなる二相組織を有する鋼材を対象に、疲労き裂伝播ならびに全伸びにおよぼす製造条件の影響を、詳細に検討し、優れた疲労き裂伝播抵抗性を確保するための冷却開始温度と冷却停止温度、さらに、優れた全伸びを確保するための再加熱条件を新たに見出した。
本発明は、得られた知見に更に検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明は
1.質量%で、C:0.04〜0.20%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.5〜1.8%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、残部がFe及び不可避不純物からなる鋼を、1000℃以上、1250℃以下に加熱し、Ar点以上で累積圧下率50%以上、仕上げ圧延温度Ar点以上で圧延後空冷し、Ar未満〜Ar−80℃の温度域より550℃以下300℃以上まで、10℃/s以上で加速冷却し、引き続き加速冷却停止温度から1℃/s以上の昇温速度で550℃以上Ac以下まで加熱して放冷することを特徴とする、疲労き裂伝播抵抗性且つ延性に優れた鋼材の製造方法。
2.更に、鋼成分として、質量%で、Cu:0.4%以下、Ni:0.8%以下、Cr:0.4%以下、Mo:0.4%以下、Nb:0.05%以下、V:0.10%以下、Ti:0.03%以下、B:0.003%以下の一種または二種以上を含有することを特徴とする1記載の疲労き裂伝播抵抗性且つ延性に優れた鋼材の製造方法。
本発明によれば、高い疲労き裂伝播抵抗性を有し、且つ延性に優れた鋼材の製造方法が得られ、例え、応力集中部や溶接部等から疲労き裂が経年的に発生したとしても、その後の伝播を遅らせて、鋼構造物の安全性を高めることが可能であり、産業上極めて有用である。
本発明の成分組成、製造条件の規定について詳細に説明する。
[成分組成]説明において%は質量%とする。

Cは強度を確保するため0.04%以上添加する。0.20%を超えて添加すると溶接性が阻害されるため、0.04〜0.20%、好ましくは0.06〜0.18%を添加する。
Si
Siは脱酸と強度を確保するため0.05%以上添加する。0.50%を超えて添加すると溶接性、靭性が劣化するため、0.05〜0.50%、好ましくは0.10〜0.40%とする。
Mn
Mnは焼入れ性の増加により、強度、靭性を確保させるため、0.5%以上添加する。1.8%を超えると溶接性を劣化させるため、0.5〜1.8%、好ましくは0.8〜1.6%を添加する。

Pは不純物で、靭性を劣化させるため、その含有量は少ないほど良く、製造コスト上、0.05%以下、好ましくは0.03%以下とする。

Sは不純物で、靭性を劣化させるため、その含有量は少ないほど良く、製造コスト上、0.02%以下、好ましくは0.01%以下とする。
以上が本発明に係る鋼の基本成分組成であるが、更に強度、靭性、溶接性を向上させたり、耐候性を付与する場合、Cu,Ni、Cr,Mo、Nb,V,Ti,Bの一種または二種以上を添加する。
Cu
Cuは固溶により強度を上昇させ、また耐候性を向上させるので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.4%を超えると溶接性が損なわれ、鋼材製造時に疵が生じやすくなるので0.4%以下とし、好ましくは、0.3%以下とする。
Ni
Niは低温靭性や耐候性を向上させ、またCuを添加した場合の熱間脆性を改善するので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.8%を超えると溶接性が損なわれ、鋼材コストが上昇するので0.8%以下とし、好ましくは、0.6%以下とする。
Cr
Crは強度を上昇させ、また耐候性を向上させるので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.4%を超えると溶接性と靭性が損なわれるので0.4%以下とし、好ましくは、0.3%以下とする。
Mo
Moは強度を上昇させるので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.4%を超えると溶接性と靭性が損なわれるので0.4%以下とし、好ましくは、0.2%以下とする。
Nb
Nbは圧延時のオーステナイト再結晶を抑制し細粒化を図ると同時に、加速冷却後の空冷時に析出し強度を上昇させるので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.05%を超えると靭性が損なわれるので0.05%以下とし、好ましくは0.03%以下とする。

Vは、加速冷却後の空冷時に析出し強度を上昇させるので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.10%を超えると溶接性と靭性が損なわれるので0.10%以下、好ましくは0.03%以下とする。
Ti
Tiは、強度を上昇させ、溶接部靭性を向上させるので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.03%を超えると鋼材コストが上昇するので0.03%%以下、好ましくは0.02%以下とする。

Bは焼入れ性を高め、強度を上昇させるので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.003%を超えると溶接性が低下するので、0.003%以下、好ましくは0.002%以下とする。
[製造条件]
本発明に係る鋼材は上記に記載の成分の鋼を、1000℃以上、1250℃以下に加熱し、Ar点以上で累積圧下率50%以上の圧延を行いAr点以上で圧延を終了した後、Ar未満〜Ar−80℃の温度域より650℃以下450℃以上まで、10℃/s以上で加速冷却することにより得られる。
1.加熱温度
加熱温度は圧延温度を確保するため1000℃以上とする。1250℃を超えると鋼の結晶粒が粗大化するので上限を1250℃以下とする。
2.圧延条件
圧延終了温度はAr点を下回る場合、二相域圧延となり、パーライトが圧延方向に伸張することで疲労き裂伝播速度に異方性が生じるため、Ar点以上とする。また、Ar点以上の累積圧下率が50%を下回る場合、オーステナイト粒の微細化を通じたフェライト粒の微細化や組織微細化が達成されない。なお、上記圧延は異方性を生じさせないためにオーステナイト再結晶域で行うことが望ましい。
3.加速冷却条件
加速冷却開始温度は、初析フェライトを析出させて疲労き裂伝播特性と延性を向上させるためにAr点未満とする。また、パーライト変態を抑え、加速冷却によりバンド状ベイナイトを形成させるため、加速冷却開始温度の下限をAr点−80℃とする。
加速冷却停止温度は、未変態オーステナイトをベイナイト変態させるため、550℃以下、300℃以上とする。加速冷却停止温度が550℃を超える場合、パーライトが生成する。また、加速冷却停止温度が300℃を下回る場合、冷却後の残留応力が大きくなる。
冷却速度は、冷却中に疲労き裂伝播特性を劣化させるフェライトの粗大化やこれを通じた組織の粗大化を防ぐために10℃/s以上とする。
なお、上記温度は鋼材の表面温度とし、冷却速度は鋼材の厚さ方向の平均冷却速度とする。また、Ar点はAr(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Mo(但し、元素記号は鋼材中の各元素の質量%での含有量を表す。)等で求めることができる。
4.再加熱条件
550℃以下、300℃以上の冷却停止温度では第二相がベイナイトとなるため、全伸びが劣化する。再加熱は、全伸びを回復させる目的で、550℃以上Ac以下に加熱して行う。
550℃未満の場合、全伸びの回復が小さいため、再加熱温度の下限を550℃とする。一方、疲労き裂伝播抵抗性は加速冷却ままが最も優れており、再加熱温度が高くなるほど劣化する傾向にある。
Ac以下であればΔK=15MPa√mで疲労き裂伝播速度1.75x10−8m/cycle以下、ΔK=25MPa√mで疲労き裂伝播速度8.5x10−8m/cycle以下を確保できるが、Ac温度超えると、島状マルテンサイトが生成されることで疲労き裂伝播抵抗性が低下する。
従って、再加熱温度の上限をAc温度とする。昇温速度は、1℃/sを下回る場合、炭化物、窒化物、あるいは炭窒化物が粗大化、ひいては結晶粒組織の粗大化を招くため、1℃/s以上とする。
上述した成分組成と製造条件の組合わせにより、フェライトとバンド状ベイナイトの二相組織を備えた鋼板が得られ、疲労き裂伝播抵抗性と延性に優れた特性を備える。
表1に示す成分組成の鋼片を使い、表2に示す製造条件にて板厚12〜20mmの鋼板を作成し、得られた鋼板の機械的性質を調査した。
組織観察は任意の箇所から採取した試料を研磨したサンプルを用いて、3%ナイタール腐食液によりエッチングしたL面の板厚/4位置にて実施した。
疲労き裂伝播特性は全厚のCT試験片にて、板幅方向にき裂が進展する時の疲労き裂伝播試験にて調査した。試験条件は応力比0.1、周波数20Hz,室温大気中にて実施した。
ΔK=15MPa√mで疲労き裂伝播速度1.75×10−8m/cycle以下、ΔK=25MPa√mで疲労き裂伝播速度8.5×10−8m/cycle以下を満足する場合、本発明例とした。
引張強度は板幅方向に採取したJISZ2201 1A号の全厚試験片を用いた引張試験により求めた。実施例において、TSが490MPa以上、伸びが15%以上を本発明例とした。
靭性はシャルピー衝撃試験により破面遷移温度vTrs(℃)を求めた。シャルピー衝撃試験片(JISZ2202)は板厚/2より、圧延方向に平行に採取した。実施例において、vTrsが−20℃以下を本発明例とした。
引張、シャルピー、疲労き裂伝播試験結果を表2に併せて示す。成分、製造方法を本発明規定範囲内とした板番No.1〜No.8の鋼板は、いずれにおいても優れた耐疲労き裂伝播抵抗を示し、かつ、強度、延性、靭性にも優れていることが確認される。
一方、C、Si、Mnが本発明範囲を超えるNo.9の鋼板は高成分のため、強度が高く、延性、靭性が低い。Ar点以上の圧下率が本発明規定値:50%を下回るNo.10の鋼板は、オーステナイトの再結晶が十分でなく、冷却後に粗い組織となっている。このため、特に靭性が劣化している。
圧延終了温度がAr点を下回る(二相域圧延)No.11の鋼板は、組織中に展伸したフェライトが認められ、延性、靭性が劣化している。加速冷却開始温度がAr点を上回るNo.12の鋼板はベイナイト単相組織であるため、疲労き裂伝播抵抗が劣る。
加速冷却時の冷却速度が本規定値を下回るNo.13の鋼板は、組織の粗大化によって靭性が劣化している。加速冷却時の停止温度が本規定値を超えるNo.14の鋼板は、第二相がパーライトとなっており、疲労き裂伝播抵抗に劣る。
再加熱温度が本規定値を下回るNo.15の鋼板は、優れた疲労き裂伝播抵抗を有するものの、延性が劣化している。再加熱時の昇温速度が本規定値を下回るNo.16の鋼板は、組織の粗大化により靭性が劣化している。
Figure 0005266836
Figure 0005266836

Claims (2)

  1. 質量%で、C:0.04〜0.20%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.5〜1.8%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、残部がFe及び不可避不純物からなる鋼を、1000℃以上、1250℃以下に加熱し、Ar点以上で累積圧下率50%以上、仕上げ圧延温度Ar点以上で圧延後空冷し、Ar未満〜Ar−80℃の温度域より550℃以下300℃以上まで、10℃/s以上で加速冷却し、引き続き加速冷却停止温度から1℃/s以上の昇温速度で550℃以上Ac以下まで加熱して放冷することを特徴とする、疲労き裂伝播抵抗性且つ延性に優れた鋼材の製造方法。
  2. 更に、鋼成分として、質量%で、Cu:0.4%以下、Ni:0.8%以下、Cr:0.4%以下、Mo:0.4%以下、Nb:0.05%以下、V:0.10%以下、Ti:0.03%以下、B:0.003%以下の一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の疲労き裂伝播抵抗性且つ延性に優れた鋼材の製造方法。
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