JP5258649B2 - 無段変速機 - Google Patents

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Description

本発明は、無段変速機に関する。
特許文献1には、金属リングを複数積層して構成された金属リング集合体と、この金属リング集合体に支持された複数の金属ブロックを有して構成された無段変速機用ベルトが開示されている。この無段変速機用ベルトでは、複数の金属リングのうち最内層の金属リングと金属ブロックとの摩擦係数(μs)と、複数の金属リングの相互間の摩擦係数(μss)との摩擦係数比(ξ)が所定の範囲に設定されている。
特許第3319995号公報
しかしながら、特許文献1に記載の無段変速機用ベルトでは、金属ブロックから最内層の金属リングに作用する摩擦力の向きと、最内層の金属リングに積層された第2層の金属リングから最内層の金属リングに作用する摩擦力の向きとが逆であることが条件とされている。従って、上述の摩擦力の向きと摩擦力の向きとが同じになる条件では、この無段変速機用ベルトの技術を適用することができない。
また、この無段変速機用ベルトでは、摩擦係数(μs)と摩擦係数(μss)についてのみ設定値を得られるだけであって、無段変速機用ベルトの諸元(例えば、金属リングの数など)についての設定値を得ることはできない。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、上記各課題を解決できると共に、動力伝達ベルトの耐久性及び伝達効率を向上させることができる無段変速機を提供することを目的とする。
前記課題を解決するために、請求項1に記載の無段変速機は、駆動プーリ及び従動プーリと、前記駆動プーリ及び前記従動プーリの間に巻き掛けられ、前記駆動プーリから前記従動プーリへ動力を伝達する動力伝達ベルトと、を備え、前記動力伝達ベルトは、それぞれ無端帯状に形成されたリングが複数積層されて構成された積層リングと、前記積層リングの長手方向に配列されると共に、前記積層リングにおける最内層リングから荷重を受けて前記駆動プーリ及び前記従動プーリにそれぞれ押し付けられる複数のエレメントと、を有し、前記動力伝達ベルトにおける前記駆動プーリ及び前記従動プーリのいずれか一方のプーリへの巻付き部において、前記エレメントから前記最内層リングに作用する摩擦力の向きと、前記最内層リングに積層された第2層リングから前記最内層リングに作用する摩擦力の向きとが同じになるように、前記最内層リングと前記エレメント同士の接触部とが前記プーリの径方向に近接して配置されると共に、前記動力伝達ベルトによって前記駆動プーリから前記従動プーリへ動力が伝達されているときに、前記巻付き部において前記最内層リングに常に張力が作用するように、前記積層リングの層数、前記最内層リングと前記各エレメント間の摩擦係数、前記複数のリングの相互間の摩擦係数、及び、前記巻付き部の中心角が設定されている無段変速機であって、前記積層リングの層数をn、前記最内層リングと前記各エレメント間の摩擦係数をμb、前記複数のリングの相互間の摩擦係数をμh、前記巻付き部の中心角をα2とした場合に、下記式(1)及び式(2)を同時に満たすように、前記積層リングの層数n、前記最内層リングと前記各エレメント間の摩擦係数μb、前記複数のリングの相互間の摩擦係数μh、前記巻付き部の中心角α2が設定されている

・・・式(1)

・・・式(2)
この無段変速機では、駆動プーリ及び従動プーリの間に動力伝達ベルトが巻き掛けられており、駆動プーリが回転されると、この駆動プーリの動力が動力伝達ベルトによって従動プーリに伝達され、この従動プーリが回転される。
この駆動プーリから従動プーリへ動力を伝達する動力伝達ベルトは、それぞれ無端帯状に形成されたリングが複数積層されて構成された積層リングと、積層リングの長手方向に配列されると共に、積層リングにおける最内層リングによって駆動プーリ及び従動プーリにそれぞれ押し付けられる複数のエレメントとを有している。
ところで、この種の動力伝達ベルトでは、最内層リングがエレメント同士の接触部に対してプーリ(駆動プーリ又は従動プーリ)の径方向へオフセットされる場合がある。
つまり、最内層リングがエレメント同士の接触部に対するプーリの径方向外側に位置される場合には、オフセット量はプラスとされる。一方、最内層リングがエレメント同士の接触部に対するプーリの径方向内側に位置される場合には、オフセット量はマイナスとされる。
そして、この種の動力伝達ベルトでは、オフセット量の絶対値が0に近づくほど、エレメントと積層リングとの間の速度差(相対すべり量)が小さくなり、動力伝達ベルトの動力伝達時の損失が小さくなる。
ここで、例えば、オフセット量が十分プラスとされていた場合、動力伝達ベルトの駆動プーリ及び従動プーリのいずれか一方のプーリへの巻付き部においては、エレメントから最内層リングに作用する摩擦力F1の向きと、最内層リングに積層された第2層リングから最内層リングに作用する摩擦力F2の向きが逆となる。このため、駆動プーリから従動プーリへ動力伝達ベルトによって動力が伝達されているときには、上記巻付き部において最内層リングに作用する張力が常に正となるので、動力伝達ベルトの耐久性を確保することができる。
なお、駆動プーリ及び従動プーリは、ギア比に応じて有効径が変化するが、この場合の巻付き部とは、駆動プーリ及び従動プーリのうち小径となっているプーリに巻き付けられた部分のことである。このことは以下の説明においても同じである。
しかしながら、上述のように、オフセット量が十分プラスとされた場合には、エレメントと積層リングとの間の速度差(相対すべり)が発生し、動力伝達ベルトにおける動力伝達時の損失が大きくなる。
一方、オフセット量がマイナスの場合、オフセット量がプラスの場合に対して、エレメントと積層リングとの間の速度差の向きが反転する。このため、エレメントから最内層リングに作用する摩擦力F1の向きも反転する。従って、上記巻付き部においては、エレメントから最内層リングに作用する摩擦力F1の向きと、最内層リングに積層された第2層リングから最内層リングに作用する摩擦力F2の向きが同じとなる。また、オフセット量が0に近いプラスの場合も、各部の公差や弾性変形のため、オフセット量がマイナスの場合と同様な挙動が発生する。
しかしながら、動力伝達ベルトの伝達効率向上のために、オフセット量を0に近づけると、例えば、上記巻付き部の巻き付き終わりの位置(プーリの出口)において最内層リングに作用する張力が負となる場合がある。この場合には、動力伝達ベルトにおける駆動プーリ及び従動プーリの間の弦部において最内層リングにたるみが生じて、動力伝達ベルトの耐久性が低下する。
そこで、この無段変速機では、上記事実を考慮し、動力伝達ベルトのプーリへの巻付き部において、エレメントから最内層リングに作用する摩擦力F1の向きと、最内層リングに積層された第2層リングから最内層リングに作用する摩擦力F2の向きとが同じになるように、最内層リングとエレメント同士の接触部とがプーリの径方向に近接して配置されている。
そして、この構成において、駆動プーリから従動プーリへ動力伝達ベルトによって動力が伝達されているときに、上記巻付き部において最内層リングに常に張力が作用するように(最内層リングに作用する張力が常に正になるように)、積層リングの層数、最内層リングと各エレメント間の摩擦係数、複数のリングの相互間の摩擦係数、及び、巻付き部の中心角が設定されている。
従って、最内層リングに作用する張力が負となることを防止して、最内層リングにたるみが生じることを抑制できるので、動力伝達ベルトの耐久性を向上させることができる。また、オフセット量を0に近づけることができるので、これにより、動力伝達ベルトの伝達効率を向上させることができる。
このように、この無段変速機によれば、エレメントから最内層リングに作用する摩擦力F1の向きと、最内層リングに積層された第2層リングから最内層リングに作用する摩擦力F2の向きが同じになる条件に対して適用でき、しかも、最内層リングと各エレメント間の摩擦係数、複数のリングの相互間の摩擦係数の他に、無段変速機用ベルトの諸元(積層リングの層数、巻付き部の中心角)を設定できる。さらに、動力伝達ベルトの耐久性及び伝達効率を向上させることができる。
また、この無段変速機において、積層リング全体の平均張力をT、各層の張力をTi(θ)(iは第i層の意、θは巻付き部のプーリへの巻き付き始めの位置(入口)からの角度位置)とすれば、オイラー理論による摩擦力、張力変化分dTiの釣り合いの関係から、最内層リング(第1層リング)の張力T1(θ)は、以下の微分方程式(A)を満たす。
・・・(A)
ここで、各層のリングには張力が均等に作用するという境界条件の下で、この式(A)を解くと、最内層リングの張力T1(θ)は、以下の式(B)で表される。
T1(θ)=
・・・(B)
そして、この式(B)において、θ=0(巻付き部の巻き付き始めの位置;プーリの入口)、θ=α2(巻付き部の巻き付き終わりの位置:プーリの出口)であるときに、最内層リングの張力T1(θ)が正となる条件とすれば、以下の式(1)、(2)が導かれる。
・・・式(1)
・・・式(2)
従って、この式(1)、(2)を満たせば、駆動プーリから従動プーリへ動力伝達ベルトによって動力が伝達されているときに、動力伝達ベルトのプーリへの巻付き部において、最内層リングに常に張力が作用する(最内層リングに作用する張力が常に正になる)。
以上詳述したように、本発明によれば、エレメントから最内層リングに作用する摩擦力F1の向きと、最内層リングに積層された第2層リングから最内層リングに作用する摩擦力F2の向きが同じになる条件に対して適用でき、しかも、最内層リングと各エレメント間の摩擦係数、複数のリングの相互間の摩擦係数の他に、無段変速機用ベルトの諸元(積層リングの層数、巻付き部の中心角)を設定できる。さらに、動力伝達ベルトの耐久性及び伝達効率を向上させることができる。
本発明の一実施形態に係る無段変速機の全体構成を示す側面図である。 図1に示される動力伝達用ベルトの要部拡大斜視図である。 図1に示される巻付き部の微小角度領域における力の作用状態を示す模式図である。 プーリ内の位置と最内層リングに作用する張力との関係(本発明の実施例)を示す図である。 最内層リングと各エレメント間の摩擦係数μbと積層リングの層数nとの計算例を示す図である。 最内層リングと各エレメント間の摩擦係数μbと複数のリングの相互間の摩擦係数μhとの計算例を示す図である。 エレメント同士の接触部に対する最内層リングのオフセット量がプラスになる場合(参考例)を説明する図である。 エレメント同士の接触部に対する最内層リングのオフセット量がマイナスになる場合(参考例)を説明する図である。 エレメント同士の接触部に対する最内層リングのオフセット量とエレメント及び積層リング間の速度差との関係(参考例)を示す図である。 プーリ内の位置と最内層リングに作用する張力との関係(参考例)を示す図である。 プーリ内の位置と最内層リングに作用する張力との関係(参考例)を示す図である。
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る無段変速機10は、駆動プーリ12と、従動プーリ14と、動力伝達ベルト16とを備えている。駆動プーリ12及び従動プーリ14は、回転軸18,20にそれぞれ一体回動可能に設けられており、動力伝達ベルト16は、駆動プーリ12及び従動プーリ14の間に巻き掛けられている。
そして、この無段変速機10では、駆動プーリ12が回転されると、この駆動プーリ12の動力が動力伝達ベルト16によって従動プーリ14に伝達され、従動プーリ14が回転される。
動力伝達ベルト16は、図2に示されるように、一対の積層リング22と、複数のエレメント24とを有して構成されている。積層リング22は、それぞれ無端帯状に形成されたリングが複数積層されて構成されており、複数のエレメント24は、積層リング22の長手方向に配列されている。
各エレメント24には、一対の溝部26が形成されており、各溝部26に積層リング22が係合されることにより、各エレメント24は、積層リング22に支持されている。また、各エレメント24は、溝部26を構成するショルダー部28が積層リング22における最内層リング22Aから荷重を受けることにより、上述の駆動プーリ12及び従動プーリ14にそれぞれ押し付けられるようになっている。
ところで、この種の動力伝達ベルト16では、最内層リング22Aがエレメント24同士の接触部に対してプーリ(駆動プーリ12又は従動プーリ14)の径方向へオフセットされる場合がある。
つまり、図7Aに示されるように、最内層リング22Aがエレメント24同士の接触部25に対するプーリの径方向外側(D1側)に位置される場合には、オフセット量はプラスとされる。一方、図7Bに示されるように、最内層リング22Aがエレメント24同士の接触部25に対するプーリの径方向内側(D2側)に位置される場合には、オフセット量はマイナスとされる。なお、図7A,図7Bにおいて、r1は、プーリの回転中心から最内層リング22Aまでの半径を示し、r2は、プーリの回転中心からエレメント24同士の接触部25までの半径を示している。
そして、この種の動力伝達ベルト16では、オフセット量の絶対値が0に近づくほど、エレメント24と積層リング22との間の速度差(相対すべり量)が小さくなり、動力伝達ベルト16の動力伝達時の損失が小さくなる(図8参照)。
ここで、例えば、オフセット量が十分プラスとされていた場合、図1に示される動力伝達ベルト16のプーリ(駆動プーリ12又は従動プーリ14)への巻付き部30においては、エレメント24から最内層リング22Aに作用する摩擦力F1の向きと、最内層リング22Aに積層された第2層リングから最内層リング22Aに作用する摩擦力F2の向きが逆となる。このため、駆動プーリ12から従動プーリ14へ動力伝達ベルト16によって動力が伝達されているときには、上記巻付き部30において最内層リング22Aに作用する張力が常に正となるので(図9参照)、動力伝達ベルト16の耐久性を確保することができる。
なお、図9において示される入口とは、動力伝達ベルト16のプーリへの巻付き部30における巻き付け始めの位置であり、出口とは、動力伝達ベルト16のプーリへの巻付き部30における巻き付け終わりの位置である。また、駆動プーリ12及び従動プーリ14は、ギア比に応じて有効径が変化するが、この場合の巻付き部30とは、駆動プーリ12及び従動プーリ14のうち小径となっているプーリに巻き付けられた部分のことである。これらのことは以下の説明においても同じである。
しかしながら、上述のように、オフセット量が十分プラスとされた場合には、エレメント24と積層リング22との間の速度差(相対すべり)が発生し、動力伝達ベルト16における動力伝達時の損失が大きくなる。
一方、オフセット量がマイナスの場合、オフセット量がプラスの場合に対して、エレメント24と積層リング22との間の速度差の向きが反転する。このため、エレメント24から最内層リング22Aに作用する摩擦力F1の向きも反転する。従って、上記巻付き部30においては、エレメント24から最内層リング22Aに作用する摩擦力F1の向きと、最内層リング22Aに積層された第2層リングから最内層リング22Aに作用する摩擦力F2の向きが同じとなる。また、オフセット量が0に近いプラスの場合も、各部の公差や弾性変形のため、オフセット量がマイナスの場合と同様な挙動が発生する。
しかしながら、動力伝達ベルト16の伝達効率向上のために、オフセット量を0に近づけると、プーリの出口において最内層リング22Aに作用する張力が負となる場合がある(図10参照)。この場合には、動力伝達ベルト16における駆動プーリ12及び従動プーリ14の間の弦部において最内層リング22Aにたるみが生じて、動力伝達ベルト16の耐久性及び伝達効率が低下する。
そこで、この無段変速機10では、上記事実を考慮し、動力伝達ベルト16のプーリへの巻付き部30において、エレメント24から最内層リング22Aに作用する摩擦力F1の向きと、最内層リング22Aに積層された第2層リングから最内層リング22Aに作用する摩擦力F2の向きとが同じになるように、最内層リング22Aとエレメント24同士の接触部とがプーリ(駆動プーリ12又は従動プーリ14)の径方向に近接して配置されている。
そして、この構成において、駆動プーリ12から従動プーリ14へ動力伝達ベルト16によって動力が伝達されているときに、上記巻付き部30において最内層リング22Aに常に張力が作用するように(最内層リング22Aに作用する張力が常に正になるように)、積層リング22の層数n、最内層リング22Aと各エレメント24間の摩擦係数μb、積層リング22を構成する複数のリングの相互間の摩擦係数μh、及び、巻付き部30の中心角α2が設定されている。
以下、これらの設定について説明する。すなわち、巻付き部30の微小角度領域dθにおいては、図3に示される如く力が作用している。なお、ここでは、一例として、積層リング22が4層である場合を考慮している。
エレメント24から第3層リング22Cには、法線力N1〜N4がそれぞれ作用している。また、エレメント24から最内層リング22Aには摩擦力F1が作用し、第2層リング22Bから最内層リング22Aには摩擦力F2が作用し、第3層リング22Cから第2層リング22Bには摩擦力F3が作用し、第4層リング22Dから第3層リング22Cには摩擦力F4が作用している。
そして、積層リング22全体の平均張力をT、各層の張力をTi(θ)(iは第i層の意、θは巻付き部30のプーリの入口からの角度位置)とすれば、オイラー理論による摩擦力、張力変化分dTiの釣り合いの関係から、最内層リング22A(第1層リング)の張力T1(θ)は、以下の微分方程式(A)を満たす。
・・・(A)
ここで、各層のリングには張力が均等に作用するという境界条件の下で、この式(A)を解くと、最内層リング22Aの張力T1(θ)は、以下の式(B)で表される。
T1(θ)=
・・・(B)
そして、この式(B)において、θ=0(プーリの入口)、θ=α2(プーリの出口)であるときに、最内層リング22Aの張力T1(θ)が正となる条件とすれば、以下の式(1)、(2)が導かれる。
・・・式(1)
・・・式(2)
従って、この式(1)、(2)を満たせば、駆動プーリ12から従動プーリ14へ動力伝達ベルト16によって動力が伝達されているときに、動力伝達ベルト16のプーリへの巻付き部30において、最内層リング22Aに常に張力が作用する(最内層リング22Aに作用する張力が常に正になる)(図4参照)。
そして、この無段変速機10では、上記式(1)及び式(2)を同時に満たすように、積層リング22の層数n、最内層リング22Aと各エレメント24間の摩擦係数μb、積層リング22を構成する複数のリングの相互間の摩擦係数μh、巻付き部30の中心角α2が設定されている。
なお、巻付き部30の中心角α2は、動力伝達ベルト16の周長L1と、駆動プーリ12及び従動プーリ14の軸間距離L2が決まれば、ギア比(変速比)γによって一意に決まるものである。例えば、動力伝達ベルト16の周長L1が既知である場合に、最終減速ギア比において、巻付き部30の中心角α2が所望の角度になるように、駆動プーリ12及び従動プーリ14の軸間距離L2が設定される。あるいは、動力伝達ベルト16の周長L1が既知である場合に、最終減速ギア比において、駆動プーリ12及び従動プーリ14の軸間距離L2が最適に設定されることで、巻付き部30の中心角α2が所望の角度に設定される。
次に、本発明の一実施形態の作用及び効果について説明する。
以上説明したように、この無段変速機10では、動力伝達ベルト16のプーリへの巻付き部30において、エレメント24から最内層リング22Aに作用する摩擦力F1の向きと、最内層リング22Aに積層された第2層リングから最内層リング22Aに作用する摩擦力F2の向きとが同じになるように、最内層リング22Aとエレメント24同士の接触部とがプーリ(駆動プーリ12又は従動プーリ14)の径方向に近接して配置されている。
そして、この構成において、駆動プーリ12から従動プーリ14へ動力伝達ベルト16によって動力が伝達されているときに、上記巻付き部30において最内層リング22Aに常に張力が作用するように(最内層リング22Aに作用する張力が常に正になるように)、積層リング22の層数n、最内層リング22Aと各エレメント24間の摩擦係数μb、積層リング22を構成する複数のリングの相互間の摩擦係数μh、及び、巻付き部30の中心角α2が設定されている。
従って、最内層リング22Aに作用する張力が負となることを防止して、最内層リング22Aにたるみが生じることを抑制できるので、動力伝達ベルト16の耐久性を向上させることができる。また、オフセット量を0に近づけることができるので、これにより、動力伝達ベルト16の伝達効率を向上させることができる。
このように、この無段変速機10によれば、エレメント24から最内層リング22Aに作用する摩擦力F1の向きと、最内層リング22Aに積層された第2層リングから最内層リング22Aに作用する摩擦力F2の向きが同じになる条件に対して適用でき、しかも、最内層リング22Aと各エレメント24間の摩擦係数μb、積層リング22を構成する複数のリングの相互間の摩擦係数μhの他に、無段変速機10用ベルトの諸元(積層リング22の層数n、巻付き部30の中心角α2)を設定できる。さらに、動力伝達ベルト16の耐久性及び伝達効率を向上させることができる。
次に、リングの層数を変えたときの好適範囲の計算例について説明する。
図5に示される例では、巻付き部30の中心角がα2=154deg、複数のリングの相互間の摩擦係数がμh=0.09に設定されている。また、グラフG1は、T1(α2)=0を示しており、グラフG2は、T1(0)=0を示している。また、範囲Xは、巻付き部30において最内層リング22Aに作用する張力が常に正となる好適範囲である。一方、範囲Yは、プーリの入口において最内層リング22Aに作用する張力が負となる範囲であり、範囲Zは、プーリの出口において最内層リング22Aに作用する張力が負となる範囲である。
この例では、積層リング22の層数nが小さくなると、好適範囲Xが広がり、同じ摩擦係数μhに対して、好適な摩擦係数μbの範囲が大きくなる。摩擦係数μbがマイナスになるのは、エレメント24から最内層リング22Aに作用する摩擦力F1の向きが逆になることを意味する。このため、層数nが特に小さいときには、逆向きの摩擦力に適応できる摩擦係数μbの範囲が存在し、その範囲は層数nが小さいほど大きくなる。
より具体的には、摩擦係数μbの符合はエレメント24と最内層リング22Aの相対的なすべりの向きにより決まり、摩擦係数μbの絶対値としては通常0.1近傍となる。このことから、例えば、積層リング22の層数をn=4とすれば、上述のすべりの向きによらず(摩擦係数μb=±0.1において)常に好適とすることができる。なお、一般的な動力伝達ベルト16では、積層リング22の層数がn=9程度であるので、例えば、積層リング22の幅を9/4倍とすれば、強度的な条件は変わらない。
以上の関係は、計算の一例であり、対象とする計算条件、計算諸元に合わせて好適条件は設定される。
例えば、図6には、摩擦係数μb、μhを変えたときの好適範囲の計算例が示されている。この例では、巻付き部30の中心角がα2=154deg、積層リング22の層数がn=9に設定されている。
この例では、上述の図5の計算例と同じく、摩擦係数μbがマイナスになるのは、摩擦力の向きが逆になることを意味する。このため、摩擦係数μhが小さい領域で、逆向きの摩擦力に適応できる摩擦係数μbの範囲が存在し、その範囲は摩擦係数μhが小さいほど大きくなる。
なお、この計算例においては、エレメント24から最内層リング22Aに作用する摩擦力F1の向きと、最内層リング22Aに積層された第2層リングから最内層リング22Aに作用する摩擦力F2の向きとが同じになる範囲が本発明の範囲である。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施することが可能であることは勿論である。
10 無段変速機
12 駆動プーリ
14 従動プーリ
16 動力伝達ベルト
22 積層リング
22A 最内層リング
24 エレメント
30 巻付き部

Claims (1)

  1. 駆動プーリ及び従動プーリと、
    前記駆動プーリ及び前記従動プーリの間に巻き掛けられ、前記駆動プーリから前記従動プーリへ動力を伝達する動力伝達ベルトと、
    を備え、
    前記動力伝達ベルトは、
    それぞれ無端帯状に形成されたリングが複数積層されて構成された積層リングと、
    前記積層リングの長手方向に配列されると共に、前記積層リングにおける最内層リングから荷重を受けて前記駆動プーリ及び前記従動プーリにそれぞれ押し付けられる複数のエレメントと、
    を有し、
    前記動力伝達ベルトにおける前記駆動プーリ及び前記従動プーリのいずれか一方のプーリへの巻付き部において、前記エレメントから前記最内層リングに作用する摩擦力の向きと、前記最内層リングに積層された第2層リングから前記最内層リングに作用する摩擦力の向きとが同じになるように、前記最内層リングと前記エレメント同士の接触部とが前記プーリの径方向に近接して配置されると共に、
    前記動力伝達ベルトによって前記駆動プーリから前記従動プーリへ動力が伝達されているときに、前記巻付き部において前記最内層リングに常に張力が作用するように、前記積層リングの層数、前記最内層リングと前記各エレメント間の摩擦係数、前記複数のリングの相互間の摩擦係数、及び、前記巻付き部の中心角が設定されている、
    無段変速機であって、
    前記積層リングの層数をn、
    前記最内層リングと前記各エレメント間の摩擦係数をμb、
    前記複数のリングの相互間の摩擦係数をμh、
    前記巻付き部の中心角をα2とした場合に、
    下記式(1)及び式(2)を同時に満たすように、前記積層リングの層数n、前記最内層リングと前記各エレメント間の摩擦係数μb、前記複数のリングの相互間の摩擦係数μh、前記巻付き部の中心角α2が設定されている、
    無段変速機。

    ・・・式(1)


    ・・・式(2)
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